(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】移動式加工ヘッドを有する製織機のタックイン装置の制御てこ機構
(51)【国際特許分類】
D03D 47/48 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
D03D47/48
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017230209
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】102016000122838
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517257777
【氏名又は名称】イテマ エッセ.ピー.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パンツェッティ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】パリス トマス
(72)【発明者】
【氏名】アルギージ フランチェスコ
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183442(JP,A)
【文献】特開2015-094348(JP,A)
【文献】特開2007-002670(JP,A)
【文献】特開昭54-156862(JP,A)
【文献】実開昭49-144962(JP,U)
【文献】特開2006-233411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
織機の移動式ヘッド(T)タックイン装置の制御てこ機構であって、前記織機及び前記織機のスレイ(S)の固定点(2)に接続する関節式リンク機構(5、L1、L2)を備え
、
前記関節式リンク機構は、第1の関節式四辺形(Q1)を備え、該第1の関節式四辺形(Q1)の端部ヒンジ(1、2)は、前記織機に固定され、該第1の関節式四辺形(Q1)は、前記織機のスレイ(S)から交互の運動を受け取り、該交互の運動を、好適に調節されて、前記端部ヒンジのうちの一方(2)にヒンジ接続されている末端レバー(L2)に伝達し、
該末端レバー(L2)は、前記タックイン装置の前記移動式ヘッド(T)を一体的に保持する、タックイン装置の制御てこ機構。
【請求項2】
前記
第1の関節式四辺形(Q1)は、前記スレイ(S)と、前方伝達コネクティングロッド(L1)と、前記末端レバー(L2)とを備える、請求項1に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項3】
前記前方伝達コネクティングロッド(L1)は、2つの可動ヒンジ(3、4)によって、それぞれ前記スレイ(S)及び前記末端レバー(L2)にヒンジ接続されている、請求項
2に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項4】
前記前方伝達コネクティングロッド(L1)は、
前記末端レバー(L2)より短い長さを有し、前記可動ヒンジ(3)によってフォーク支持体(5)にヒンジ接続され、該フォーク支持体(5)は、前記スレイ(S)と一体のガイドレールに沿って調整可能な位置に固定することができる、請求項
3に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項5】
前記末端レバー(L2)は、前記スレイ(S)
の固定ヒンジ(1)と、前記スレイ(S)と一体の前記可動ヒンジ(3)との間
の距離と等しいか又はそれよりも大きい長さを有する、請求項
4に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項6】
前記前方伝達コネクティングロッド(L1)と前記末端レバー(L2)は
、筬(P)の筬打ちの際
、相互に垂直である、請求項
5に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項7】
前記末端レバー(L2)
の固定ヒンジ(2)は、前
記末端レバー(L2)を前記前方伝達コネクティングロッド(L1)に接続する前記可動ヒンジ(4)の上方に配置される、請求項
5に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項8】
前記タックイン装置の前記移動式ヘッド(T)と一体化された切断装置
の動作のために、前記タックイン装置
の固定式本体(C)と一体化された電気サーボ制御装置(M)を更に備える、請求項1~
7のいずれか1項に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項9】
前記第1の関節式四辺形(Q1)から運動を受け取り、前記タックイン装置の前記移動式ヘッド(T)と一体化された前記切断装置の前記動作を制御する、第2の関節式四辺形を更に備える、請求項
8のいずれか1項に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【請求項10】
前記末端レバー(L2)が枢動する
固定ヒンジ
(2)または前記前方伝達コネクティングロッド(L1)が枢動する
可動ヒンジ(3,4)は、複列軸受を含む、請求項
2~7のいずれか1項に記載のタックイン装置の制御てこ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製織機のタックイン装置の制御てこ機構に関し、特に、加工ヘッドが、各緯糸挿入サイクル中、経糸の方向において交互に可動であるタックイン装置の制御てこ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
耳(selvedge:織り端)形成のための装置、すなわち、当該分野において「タックイン装置」と呼ばれている装置は、機械式、電気式、空気式の装置、又はそれらの組合せからなり、無杼織機において、製織中の布地の側縁部に沿って偽耳(有杼織機において形成される真耳に対してこのように定義される)を形成し、緯糸の挿入及び切断作業の後に布地から側方に飛び出している緯糸端部をしっかりと固定するのに用いられる。
【0003】
この作業は、タックイン装置の加工ヘッドであって、種々の可能な機械式、電気式、空気式、又は複合式の動作モードにより、杼口が閉鎖して緯糸に対して筬打ちされた直後に、最後に挿入された緯糸の緯糸自由端部を把持して、すぐに杼口内に再挿入し、したがって、杼口の閉鎖と次の緯糸に対する筬打ちとの双方に先んじるため、緯糸端部自体は、上記後続の緯糸に沿った経糸間の位置に永久保持されるようになっており、したがって、緯糸端部の自由フリンジに代わって耳の形成を可能にし、後続の布地加工及び操作中に布地の縁部の安定性及び強度の点でかなりの利点を伴う、加工ヘッドによって達成される。
【0004】
タックイン装置は、より多くの場合、固定式加工ヘッドを装備し、筬と並んで機械加工される布地の両側に位置決めされる。低減された幅の1つ以上の布地が、織機の全幅において同時に製織されることが多いため、固定式加工ヘッドを備えるタックイン装置を織機の杼口内に位置決めすることを可能にするために、筬を短縮するか又は2つ以上の部分に分割することが当然必要である。そうでないと、筬の動作中に筬とタックイン装置との間に機械的干渉が生じる。
【0005】
移動式加工ヘッドを備えるタックイン装置(以下、簡潔に「移動式ヘッドタックイン装置」とも呼ぶ)は、移動式ヘッドが経糸の方向に交互の運動を与えられ、筬打ちステップ中の上記加工ヘッドの後方移動と、直後のステップにおける上記加工ヘッドの後続の素早い前方移動とを可能にすることによって、この問題を解決する。したがって、筬全体、すなわち、布地のサイズ及び織機において同時に加工される数に関わらず、織機の全幅にわたって延在する筬によって、これらのタックイン装置を動作させることが可能である。
【0006】
様々な構造及び駆動システムを有する固定式ヘッドタックイン装置が、例えば、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に開示されている。
【0007】
また、特許取得されていないようであるが、SULTEX AG社製の移動式ヘッドタックイン装置が当該分野においてよく知られている。この装置では、直線摺動ガイド上を可動であるタックイン装置の加工ヘッドの動作を、織機の主動作(及び特にスレイの動作)から、関節式四辺形及びカムを含むリンク機構によって引き出していた。上記カムは、タックイン装置の移動式ヘッドの所望の運動法則をもたらすのに好適であった。
【0008】
また、上述の特許に開示されているタックイン装置の移動式ヘッドは、従来から既知の構成に従うと、緯糸切断装置と一体化され、緯糸の杼口への挿入後の選択された時点において緯糸の切断を行うために、長手方向の交互の運動においてタックイン装置のヘッドに追従するようになっていた。上記切断装置の制御は、タックイン装置の移動式ヘッドの制御とは独立しており、通常、空気式又は電気式の装置によって行われていた。
【0009】
最後に、特許文献4は、移動式タックイン装置が筬に一体的に固定され、それにより筬と同期して動く、耳を形成する方法を開示している。この解決策は、単純かつ小型の構造を有するが、緯糸端部を掴み、杼口に再挿入するのに有用な領域において、タックイン装置に与えられる耐久時間が短すぎることから、主要な不都合点を有する。したがって、この動作は、正しく行うことができず、耳形成は不規則になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許出願公開第0286443号
【文献】米国特許第4905740号
【文献】米国特許出願公開第2006/0207676号
【文献】欧州特許第2176455号
【発明の概要】
【0011】
上記に簡潔に記載したSultex社製の移動式ヘッドタックイン装置によって開示される技術的解決策は、依然として最良の織物結果をもたらすものであり、すなわち、優良品質の耳の形成を可能にするが、本発明が克服することを意図するいくつかの機械的欠点を有する。
【0012】
上記に示されているタックイン装置の移動式ヘッドの制御の第1の限界点は、タックイン装置の移動式ヘッドがその上を摺動する直線ガイドにある。これらのガイドは、実際、摩耗が非常に早期に現れるのを防ぐとともに、装置の信頼性を低減させるクリアランスの形成を回避するために、通常、決まった性能及び十分な寿命をもたらすための潤滑システム又は少なくとも定期的な給脂作業が必要である、繊細な部品である。
【0013】
第2の限界点は、カムシステム自体に見ることができ、カムフォロアの適切な潤滑又は少なくとも定期的な給脂を提供する必要性に関する。さらに、このようなカムフォロアは、この種の用途における重大な信頼性の問題を課す。
【0014】
最後に、第3の欠点は、緯糸カッターを別個に制御する必須の構成に関する。実際、空気式切断装置は、取扱いを複雑にする応答の遅延の問題を有する。完全に満足のいく機能を有する電気型のサーボ制御装置は、依然として高コストであり、ハードウェア及びソフトウェアの実装の観点からの要求が多い。
【0015】
したがって、本発明の第1の目的は、移動式ヘッドの交互の並進運動を得るために円筒形ガイドの使用を必要としない、新たに考案された制御装置を備える移動式ヘッドタックイン装置を提供することである。
【0016】
本発明の第2の目的は、移動式ヘッドの交互の運動を引き起こすために、あらゆるカムシステムの使用を含むシステムを排除することである。
【0017】
最後に、本発明の更なる追加の目的は、緯糸切断動作を、空気式又は電気式のアクチュエーターを用いることなく行い、より単純でよりコスト効果的な構造を達成することができるタックイン装置を提供することである。
【0018】
これらの目的の全ては、本発明に従って、請求項1に記載の特徴を有する、織機の移動式ヘッドタックイン装置の制御てこ機構によって達成される。移動式ヘッドタックイン装置のこの制御てこ機構の他の好ましい特徴は、従属請求項に規定される。
【0019】
本発明に係るタックイン装置の制御てこ機構の更なる特徴及び利点は、いずれの場合も、単に非限定的な例として与えられ、添付図面に示されている、本制御てこ機構の好ましい一実施形態の以下の詳細な記載からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】織機の右側から見た本発明のてこ機構の概略斜視図である。
【
図2】織機の左側から見た
図1のてこ機構の概略斜視図である。
【
図3】織機の右側から見た本発明のてこ機構及びこのてこ機構が運動を受け取る織機のスレイの概略正面図であり、このとき、スレイ(及びスレイに取り付けられている筬)が緯糸の筬打ち位置にあり、したがって、タックイン装置の移動式ヘッドが完全な前進位置にある。
【
図4】スレイ及びタックイン装置の移動式ヘッドが完全な後退位置にあり、この移動式ヘッドを新たに導入された緯糸と位置合わせするときの
図3と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の記載において、「前方」及び「前進」という用語は、筬の筬打ち動作に対応する、織機における布地の前進方向を指すように常に意図される。「後ろ」及び「後方」という用語は、当然その反対方向を指す。織機の右側及び左側は、織工が通常占める位置、すなわち、織機の製織中の布地が出てくる側に面する位置を基準とする。
【0022】
第1の実施形態において、本発明に係るタックイン装置の制御てこ機構は、上記で強調した第1の目的及び第2の目的を達成するために、第1の関節式四辺形Q1を備え、その端部ヒンジ1及び2(
図5)は、織機と一体であり、第1の関節式四辺形Q1は、織機のスレイSから交互の運動を受け取る。実際、同スレイSは、関節式四辺形Q1の第1のレバーを形成し、この第1のレバーは、短い前方伝達コネクティングロッドL1と、長い末端レバーL2とを含み、末端レバーL2は、タックイン装置の本体Cと一体の端部ヒンジ2にヒンジ接続されている。したがって、関節式四辺形Q1は、織機に対して固定された上記2つのヒンジ1、2と、コネクティングロッドL1をそれぞれ、スレイSにフォーク支持体5を介して接続する及び末端レバーL2に接続する、2つの可動ヒンジ3、4とを備える。フォーク支持体5は、それ自体既知の方法で、スレイSと一体のガイドレール上を摺動し、ガイドレールに沿った任意の所望の位置に固定することができる。
【0023】
本発明の主な特徴によれば、タックイン装置の移動式ヘッドTは、レバーL2のおおよそ中央位置において、レバーL2と一体化されている。したがって、第1の関節式四辺形Q1は、スレイSから運動を受け取る機能を有し、コネクティングロッドL1を通してヒンジ2におけるレバーL2の回転を引き起こし、その結果、移動式ヘッドTの交互の運動を引き起こす。したがって、タックイン装置のこのような運動は、中心をヒンジ2に有する円弧に沿って行われる。
【0024】
スペース上の理由により、レバーL2は、織機の上部に向かって延在し、それにより、1つが織機に対して固定され、もう1つがスレイSと一体であるそれぞれのガイドレール上にタックイン装置を位置決めすることを、より簡単かつ迅速にしている。しかしながら、この構成は必須ではない。すなわち、織機に存在するスペースによっては、末端レバーL2を他の方向に展開することもできる。上述したように、レバーL2は、かなりの長さを有する。好ましくは、この長さは、スレイSによって形成されるレバーの長さ、及び正確には、スレイのヒンジ1とヒンジ3との間の部分の長さと等しいか又はそれよりも大きい。この理由により、タックイン装置の移動式ヘッドTの運動が、既知のガイド付きの移動式ヘッドタックイン装置に典型的な直線運動の十分な近似をなすほど広い円弧に沿って行われる。したがって、上述のてこ機構は、このような既知の装置の円筒形ガイドに取って代わり、明らかな簡略化と保守介入の劇的な減少とを伴う。
【0025】
てこ機構のヒンジ2、3、及び4の全ては、好ましくは、複列軸受(double bearings)を備え、これにより、タックイン装置を織機に位置決めする際のレバー機構の容易なセンタリングと、また、織機の動作中に移動式ヘッドTを保持するレバーL2のクリアランスのない運動とを可能にする。
【0026】
上記に示した構成によって、タックイン装置の移動式ヘッドTのストロークは、これらの2つの装置のそれぞれの回転中心からの異なる距離に応じて、スレイの頂部に固定された筬Pのストロークの長さよりもはるかに短い長さを有する。コネクティングロッドL1の長さ、末端レバーL2の長さ及び形状、並びにタックイン装置の移動式ヘッドの末端レバーL2における位置を入念に設計することにより、筬とのあらゆる干渉を回避するのに十分な、筬打ち中の移動式ヘッドTの前方移動(
図3及び
図6)を得ることが可能になり、一方で、スレイSの後方移動中には、移動式ヘッドTは、筬Pのはるかに限定的な走行を行い(
図4及び
図5)、それにより、耳の形成に有用な領域、すなわち、緯糸の挿入点においてより長い時間留まる。さらに、レバーL1及びL2の構成は、これらのレバー、又はより正確にはそれぞれの回転中心を接続する部分が、筬Pを緯糸に筬打ちする際に互いに対しておおよそ垂直になり、それにより、筬Pの後方移動の開始時に、移動式ヘッドTが最大速度になり、その後、タックインを効果的に行うことができる領域に近付くときに減速するようになっている。
【0027】
関節式四辺形Q1の動作によって、スレイSの運動が、好適に調節されて、及び正確には、低減された移動長さと、低減された平均速度と、上記領域に対する移動式ヘッドTの接近及び移動時間よりも長い、タックイン加工領域における相対停留時間とを伴って、移動式ヘッドTに伝達される。
【0028】
本発明の制御レバー機構の第1の実施形態において、上述したように、緯糸の切断は、タックイン装置の本体Cと一体化された電気サーボ制御装置Mによって行われる。電気サーボ制御装置Mは、レバー6を動作させて、タックイン装置の移動式ヘッドTに隣接する切断装置を制御する。
【0029】
図には示されていないが、本発明の制御レバー機構の第2の実施形態において、電気サーボ制御装置Mが存在せず、切断装置の動作は、それに代わり、第1の関節式四辺形のレバーL2からの運動を受け取る第2の関節式四辺形によって動作される。これは、同一出願人による欧州特許出願公開第3073003号に開示されているものと同様であり、その内容は、引用することにより本明細書の一部をなす。このようにして、本発明の第3の目的も達成することができる。
【0030】
しかし、本発明は、上述した特定の構成に限定されるものとみなされるべきでなく、本発明の例示的な実施態様を示しているにすぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ規定される本発明の範囲自体から逸脱することなく、当業者の能力の及ぶ範囲内にある全ての異なる変形形態が可能であることが理解される。