(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】関節の健康状態評価のための装着型技術
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20220309BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20220309BHJP
A61B 5/0537 20210101ALI20220309BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/00 101R
A61B5/0537
(21)【出願番号】P 2017561251
(86)(22)【出願日】2016-05-27
(86)【国際出願番号】 US2016034874
(87)【国際公開番号】W WO2016191753
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2019-05-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-15
(32)【優先日】2015-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504466834
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】イナン,オメル,ティー.
(72)【発明者】
【氏名】サフカ,マイケル,エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ハスラー,ジェニファー,オー.
(72)【発明者】
【氏名】トレイン,ハカン
(72)【発明者】
【氏名】ミラード-スタフォード,ミンディ,エル.
(72)【発明者】
【氏名】ケーグラー,ゲザ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルセク,シナン
(72)【発明者】
【氏名】テーグ,ケイトリン
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】樋口 宗彦
【審判官】▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-502278(JP,A)
【文献】再公表特許第2011/096419(JP,A1)
【文献】特開2012-183294(JP,A)
【文献】特表2009-542294(JP,A)
【文献】特表2012-516719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0158167(US,A1)
【文献】国際公開第2010/007383(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/075767(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節の健康状態を評価するシステムであって、
動作中に関節からの音響放射を表す少なくとも1つの信号を送信可能な装着型の音響センサ、および、線形加速度
および角速度
からなる群から選択される、動作中の前記関節の非音響特性を表す少なくとも1つの信号を送信可能な
、前記関節の近位に配置するための装着型センサを含む第1の検知アセンブリと、
前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を送信可能な装着型センサを含む第2の検知アセンブリと、
前記第1および前記第2の検知アセンブリからの前記信号を処理することによって、関節の健康状態の評価を行う少なくとも1つのプロセッサを含む健康状態評価部と、を備え、
前記健康状態評価部は、
前記非音響特性に基づいて前記関節の近傍で生じている活動の種類を検出し、
前記活動の種類に基づいて活動中に前記関節からの前記音響放射を処理し、
前記健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、電子負荷およびアルゴリズムを用いて、前記生体インピーダンス測定を自動的かつ定期的に較正する、システム。
【請求項2】
前記第2の検知アセンブリは、前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を送信可能な前記センサへの電子インタフェースをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、周波数成分に基づいて信号を分離するフィルタバンクを用いて、前記関節からの音響放射を処理する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
活動の種類は、無負荷膝屈伸運動、立ち座り運動、歩行、および階段昇降からなる群から選択される、請求項
1に記載のシステム。
【請求項5】
前記健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理し、生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号は関節腫脹を示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理し、生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号は前記関節の近位における血流特性を示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理し、生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号は前記関節の近位における血液量を示す、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記第2の検知アセンブリは、電流源、ならびに増幅段および位相敏感検波段で前記関節にわたる電位差を測定可能なプロセッサをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記電流源は、電極を含む、請求項
8に記載のシステム。
【請求項10】
前記電流源は、前記電極を介して、電流を前記関節に伝送可能である、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
前記電流源は、前記関節に損傷を与えない、安全閾値を下回る電流を伝送する、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記電流源は、細胞内液および細胞外液の両方を介して伝播できるような周波数で電流を伝送する、請求項
10に記載のシステム。
【請求項13】
前記電極は、電極と皮膚との間の接触面インピーダンスの影響を低減する四極構成を含む、請求項
10に記載のシステム。
【請求項14】
前記血流特性は、静的成分および動的成分を含む、請求項
6に記載のシステム。
【請求項15】
前記血流特性の前記静的成分は、比較的緩やかに変化する液量に関する、請求項
14に記載のシステム。
【請求項16】
前記血流特性の前記動的成分は、比較的急速に変化する血流速度に関する、請求項
14に記載のシステム。
【請求項17】
前記音響センサは、前記関節の近傍の機械的振動によって生じる音波を取り込む接触マイクを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記システムの一部は、前記関節の近位における装着型のものである、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
関節の健康状態を評価するシステムであって、
前記関節の近位に配置するための装着型センサを含み、動作中に前記関節の少なくとも1つの非音響特性を測定する、関節の生理機能を検知する第1の検知アセンブリと、
関節の構造を検知する第2の検知アセンブリであって、
電流源を有する、第1の装着型生体インピーダンスセンサと、
受電器を有する、前記関節の近位に配置するための第2の装着型生体インピーダンスセンサとを有し、
前記関節にわたる電圧降下に少なくとも一部分は基づいた前記関節の生体インピーダンスを測定する第2の検知アセンブリと、
前記第1および前記第2の検知アセンブリからの特性を解釈することによって、関節の健康状態の評価を行う健康状態評価部と、を備え
、
前記健康状態評価部は、
非音響特性の少なくともいずれかに基づいて前記関節の近傍で生じている活動の種類を検出する、システム。
【請求項20】
前記システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに備えた、請求項
19に記載のシステム。
【請求項21】
前記第1の検知アセンブリは、動作中に前記関節からの音響放射を測定する装着型音響センサをさらに含
み、
前記健康状態評価部は、さらに前記活動の種類に基づいて活動中に前記関節からの前記音響放射を処理する、請求項
19に記載のシステム。
【請求項22】
動作中の前記関節の非音響特性は、線形加速度および角速度からなる群から選択される、請求項
19に記載のシステム。
【請求項23】
前記第2の検知アセンブリは、増幅段および位相敏感検波段で前記関節にわたる電位差を測定するプロセッサをさらに含み、
前記電位差は前記関節の近傍の組織および血液の生体インピーダンスを反映している、請求項
19に記載のシステム。
【請求項24】
前記システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに備え、
動作中の前記関節の少なくとも1つの非音響特性は、線形加速度および角速度からなる群から選択され、
前記第1の検知アセンブリは、動作中に前記関節からの音響放射を測定する音響センサをさらに含み、
前記健康状態評価部は、さらに前記活動の種類に基づいて活動中に前記関節からの前記音響放射を処理し、
前記健康状態評価部は、前記第2の検知アセンブリからの測定された生体インピーダンスを自動的かつ定期的に較正する、請求項
19に記載のシステム。
【請求項25】
前記音響センサは、前記関節の近位に配置するための装着型音響センサを含む、請求項
24に記載のシステム。
【請求項26】
前記音響センサは、前記関節の遠位に配置するためのセンサを含む、請求項
24に記載のシステム。
【請求項27】
前記装着型音響センサは、圧電フィルムを含み、前記関節からの音響放射に関連付けられた皮膚の表面振動を測定可能である、請求項
25に記載のシステム。
【請求項28】
前記関節の遠位の前記音響センサは、前記関節からの空気中の音響放射を測定可能なマイクを含む、請求項
26に記載のシステム。
【請求項29】
前記健康状態評価部は、
電子負荷およびアルゴリズムを用いて、前記生体インピーダンス測定を自動的かつ定期的に較正するプロセッサ、
関節角度に関して前記関節からの音響放射を表す少なくとも1つの信号を処理するプロセッサ、
周波数成分に基づいて信号を分離するフィルタバンクを用いて、前記関節からの音響放射を処理するプロセッサ、
前記関節の近傍で生じている活動の種類を検出し、前記活動の種類に基づいて前記活動中に前記関節からの音響放射を処理するプロセッサ、
前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理して、関節腫脹の指標を提供するプロセッサ、
前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理して、前記関節の近位における血流の指標を提供するプロセッサ、および、
前記関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理して、前記関節の近位における血液量の指標を提供するプロセッサ
からなる群から選択される健康状態評価部のプロセッサを含む、請求項
19に記載のシステム。
【請求項30】
前記健康状態評価部のプロセッサは
、前記活動の種類に基づいて前記活動中に前記関節からの音響放射を処理し、
活動の種類は、無負荷膝屈伸運動、立ち座り運動、歩行、および階段昇降からなる群から選択される、請求項
29に記載のシステム。
【請求項31】
前記システムは、ユーザの関節の健康状態を評価するものであり、
前記健康状態評価部は、前記第1および前記第2の検知アセンブリからの特性を解釈することによって、前記関節における負傷の程度を定量化し、
前記第2の検知アセンブリおよび健康状態評価部は、関節腫脹、前記関節の近位における血流、および前記関節の近位における血液量の1以上を判定可能である、請求項
19に記載のシステム。
【請求項32】
前記システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに備えた、請求項
31に記載のシステム。
【請求項33】
前記システムの前記ユーザの介護者に関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに備えた、請求項
31に記載のシステム。
【請求項34】
前記システムは、ユーザの関節の健康状態を評価するものであり、
前記第1の検知アセンブリは、第1の検知モダリティアセンブリを含み、
前記第1の検知モダリティアセンブリは、音響アセンブリを含み、
前記音響アセンブリは、
動作中に前記関節からの音響放射を表す少なくとも1つの信号を送信可能な近位の装着型関節音響センサと、
動作中に前記関節からの空気中の音響放射を表す少なくとも1つの信号を送信可能な遠位の関節音響センサと、
動作中に前記関節の少なくとも1つの非音響特性を測定する、前記関節の近位に配置するための前記装着型センサであって、線形加速度および角速度からなる群から選択される関節動作の少なくとも1つの非音響特性を表す少なくとも1つの信号を送信可能である前記装着型センサと、を含み、
前記第2の検知アセンブリは、第2の検知モダリティアセンブリを含み、
前記第2の検知モダリティアセンブリは、前記関節の生体インピーダンスを測定する前記第1および第2の装着型生体インピーダンスセンサを含む生体インピーダンスアセンブリを含み、
前記健康状態評価部は、さらに前記活動の種類に基づいて活動中に前記関節からの前記音響放射を処理し、
前記生体インピーダンスアセンブリおよび健康状態評価部は、関節腫脹、血流、および血液量からなる群から選択される関節の構造に関する特性を判定可能である、請求項
19に記載のシステム。
【請求項35】
前記生体インピーダンスアセンブリは、増幅段および位相敏感検波段で前記関節にわたる電位差を測定可能なプロセッサをさらに含む、請求項
34に記載のシステム。
【請求項36】
前記第1の装着型生体インピーダンスセンサは、少なくとも2つの電極を有する、請求項
34に記載のシステム。
【請求項37】
前記第1の装着型生体インピーダンスセンサは、前記関節に損傷を与えない、安全閾値を下回る電流を伝送する、請求項
36に記載のシステム。
【請求項38】
前記第1の装着型生体インピーダンスセンサは、細胞内液および細胞外液の両方を介して伝播できるような周波数で電流を伝送する、請求項
36に記載のシステム。
【請求項39】
前記第1の装着型生体インピーダンスセンサは、電流注入のための2つの電極を有し、
前記第2の装着型生体インピーダンスセンサは、電圧測定のための2つの電極を有し、
前記第1および第2の装着型生体インピーダンスセンサの電極は、電極と皮膚との間の接触面インピーダンスの影響を低減する四極構成を含む、請求項
35に記載のシステム。
【請求項40】
前記血流特性は、静的成分および動的成分を含む、請求項
34に記載のシステム。
【請求項41】
前記血流特性の前記静的成分は、比較的緩やかに変化する液量に関する、請求項
40に記載のシステム。
【請求項42】
前記血流特性の前記動的成分は、比較的急速に変化する血流速度に関する、請求項
40に記載のシステム。
【請求項43】
関節の健康状態を評価するシステムであって、
関節の生理機能を検知する第1の検知アセンブリであって、
動作中に前記関節からの音響放射を測定する音響センサと、
線形加速度および角速度からなる群から選択される関節動作の少なくとも1つの非音響特性を測定するセンサと、
を含む第1の検知アセンブリと、
前記関節の生体インピーダンスを測定することによって、関節の構造を検知する第2の検知アセンブリであって、
電流注入のための2つの電極を有する第1の生体インピーダンスセンサと、
電圧測定のための2つの電極を有する第2の生体インピーダンスセンサと、
増幅段および位相敏感検波段で前記関節にわたる電位差を測定するプロセッサと、
を含む第2の検知アセンブリと、
少なくとも1つの非音響特性に基づいて前記関節の近傍で生じている活動の種類を検出し、
前記活動の種類に基づいて前記活動中に前記関節からの音響放射を処理し、
前記活動の種類の検出および前記音響放射の処理を含む、前記第1および前記第2の検知アセンブリからの特性の解釈によって、関節の健康状態の評価を行う
健康状態評価部と、
前記システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリと、を備え、
前記音響センサの少なくとも1つは、前記関節からの音響放射に関連付けられた皮膚の表面振動を測定可能な、前記関節の近位に配置するための装着型音響センサを含み、
前記音響センサの少なくとも1つは、前記関節の遠位に、前記関節からの空気中の音響放射を測定可能なマイクを含み、
前記第1および第2の生体インピーダンスセンサの4つの電極は、四極構成であり、
動作中に前記関節の少なくとも1つの非音響特性を測定する少なくとも1つのセンサ、および前記第2の生体インピーダンスセンサの前記電極は、それぞれ前記関節の近位に配置される装着型センサを含む、システム。
【請求項44】
前記装着型センサの少なくとも一部は、表面銀/塩化銀(Ag/AgCl)ゲル電極を含む、請求項
43に記載のシステム。
【請求項45】
前記装着型センサの少なくとも一部は、容量式乾燥電極を含む、請求項
43に記載のシステム。
【請求項46】
前記装着型センサの少なくとも一部は、テキスタイル電極を含む、請求項
43に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康システムおよび方法に関し、より具体的には、ユーザの関節の健康状態を評価して、その結果をユーザおよび/または介護者に通知する装着型システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2015年5月27日付で出願した米国仮特許出願第62/166,889号に基づく優先権を主張するものであり、参照によりその全内容を本明細書に援用する。
【0003】
膝は、動作中に関節に多方向の力が加わる運動活動だけではなく、通常の日常生活においても大きな負荷を受ける。その結果、膝は、最も頻繁に負傷する身体部分の1つであるというだけではなく、運動選手、軍人、および他の高度な活動に係る人々が部分的にかつ/または完全に参加できなくなる時間の観点から、多くの深刻な負傷にも関わる。
【0004】
膝の負傷は、活動的な人々に限定されたものではなく、心血管の健康不良、関節を適切に安定させることができないような周囲の筋肉の衰弱、および訓練不足や準備運動不足のために、普段運動をしない人々がそのような負傷を抱える危険性は、より高いものとなる場合がある。
【0005】
人々におけるこの頻度が、手術および/またはしっかりとしたリハビリテーションをしばしば必要とする大規模な治療の必要性と組み合わされた結果、米国では毎年およそ1040万人の人間がこのような問題を抱えることになっている。この場合、これらの負傷は、医療制度だけでなく、歩行動作および他の日常活動を行う際の膝の重要性を考慮して、患者の日常生活にも及ぼす影響がかなり大きい。
【0006】
関節の不調は多くの人々に見受けられ、身体活動を制限し、生活の質を低下させる可能性がある。多くの関節疾患に共通する症状は、腫脹、血流の増加、および運動能力の低下である。臨床において、関節の健康状態は、臨床医の定性的観察に基づいて評価される。標準的な検査では、医師または患者に対して、例えば、関節の腫脹、動作範囲、または構造的完全性に関する定量的フィードバックが全く行われない。画像診断に基づく検査方法は、関節の健康状態の定量的な指標を提供するが、高価で時間がかかるため、あまり一般的ではない。
【0007】
家庭における場合や装着型技術を用いた場合等の臨床場面以外においても、詳細で定量的な関節の健康状態評価を提供するための実行可能な解決策は存在しない。関節の健康状態をモニタリングする装着型補助技術は、装置が邪魔にならず正確であれば、負傷したリハビリテーション中の患者が、自宅の快適な状態で理学療法を受けて自らの進歩を評価したり、運動選手や兵士の監視されていないリハビリプログラム中に客観的な臨床データを収集したりするのに有用であり得る。
【0008】
したがって、医療制度へのこのような負担を軽減し、日常活動中の患者のモニタリングを容易にするために、研究者は、邪魔にならずに健康情報を取得する装着型装置の使用を検討してきた。筋骨格系および生体力学系の不調や負傷に関して、これらのシステムは、客観的かつ定量的なデータを収集する新規の方法を提供する。
【0009】
音響は、基本的な物理的構造および位置決め、関節接合表面、および軟組織特性に関する情報を取り込む邪魔にならない方法、すなわち、実用可能な装着型プラットフォームを提供可能である。膝関節の構造体と関節接合要素との間の摩擦は、様々な種類の振動を引き起こす。これらの振動(すなわち、音響エネルギー)は、液体に満たされた組織と空気との間の大きなインピーダンスミスマッチが生じる皮膚表面へと移動する。このため、音響エネルギーの大部分は、皮膚に振動信号として現れ、大部分のエネルギーは反射して組織内へと戻る。
【0010】
しかしながら、空気中に伝播する少量のエネルギーが存在し、可聴の関節音が得られることになる。この分野の初期の研究では、「空気中」マイクを用いた空中信号が研究されていたこともあるが、大部分の研究では、関節音振動を測定する「接触」マイク(例えば、加速度計、圧電デバイス、聴診器)を振動センサとして広く用いていた。
【0011】
研究者らは、関節の健康状態に臨床的に関連するバイオマーカとして関節音響放射、すなわち関節音図信号(VAG)の効果に注目しており、特に、大部分の研究では、主に変形性関節症および軟骨欠損症のような軟骨ベースの状態に関係する場合の「健常な」膝関節と「健常ではない」膝関節とを区別するための診断技術が開発されてきている。
【0012】
コンデンサマイクを用いて低周波信号(<100Hz)で捕捉された膝からの音響放射を測定し、広帯域圧電センサを用いて超音波帯域(>20kHz)の放射を記録する研究が行われている。この研究では、健常な膝と変形性関節症に罹患している膝との間の相違を観察し、変形性関節症の膝が健常な膝と比較してより頻繁で、より高いピークを有し、より長い持続時間の音響放射を生成することを見出した。加速度計を用いて変形性関節症の被験者を評価し、蓋大腿関節に関して3つの異なる状態に分類した。このような結果を達成するために、VAG信号の調整および分類のための様々な信号処理技術を開発するための有意な研究がなされてきた。アルゴリズムは、線形予測と自己回帰モデル、統計的パラメータ調査、フーリエおよび時間-周波数解析、ウェーブレット分解、およびニューラルネットワーク、ならびに、動的重み付けによる分類の組み合わせ等の他の分類方法を利用している。
【0013】
局所関節の健康状態評価のために研究されている別の最近の技術は、電気生体インピーダンス(EBI)である。EBIは、膝の変形性関節症、下肢筋肉負傷に関する浮腫(腫脹)、ならびに膝関節全置換術およびリハビリを必要とする浮腫を評価するための可能な手段として実施されている。
【0014】
EBI測定のために、ある大きさの組織(例えば、膝関節を包み込んでいる組織)に小さな電流を注入して、結果として生じる組織全体の電圧降下を測定する。電圧の注入電流に対する比から、この組織の電気インピーダンスが得られ、媒体の構造組成に基づいて変化し得る(例えば、浮腫の増大がある場合、流体は筋肉、脂肪、または骨より抵抗が少ないため、組織インピーダンスが低下する)。
【0015】
また、EBIは、心拍出量あるいは四肢の局所血流速度(または血液量パルス)の推定等の、血流および血液量の定量化手段として、心血管生理学研究で用いられている。構造評価のためのEBI測定では、典型的に、組織インピーダンスの静的成分(数時間から数日間にわたる変化)を検査するが、心血管評価の測定は動的成分(ミリ秒にわたる変化)を検査する。
【0016】
さらに、静的EBI測定は、1~数十オームのオーダーの大きさの変化を伴うが、四肢からの動的心血管の測定の場合は、数十ミリオームのオーダーまで小さくなり得る。したがって、EBI測定のためのアナログフロントエンド回路の性能は、静的測定および動的測定の両方をターゲットとする場合、かなり困難になる。
【0017】
それにも関わらず、高周波実装のための電流源の改良、EBI用の相補型金属酸化物半導体(CMOS)電流ドライバの出力インピーダンスおよび正確さの向上、誤差補正アルゴリズムの開発、およびテキスタイル電極接触面に関する解決策の調査を含む進歩が、過去数年間にわたってEBI回路およびシステム設計においてみられている。文献では、四肢インピーダンスのこのような動的測定を、インピーダンスプレチスモグラフィ(IPG)と称する。
【0018】
静的EBIを用いて浮腫を定量化することに加えて、IPGを用いて関節負傷後の局所血流パターンを定量化することは、関節リハビリテーションの進展に有意な見通しを与え得る。局所血流の増加は、炎症および瘢痕組織の形成に関連して、関節の負傷後に生じている可能性があり、局所血流の減少は、状態の改善を示している可能性がある。このような血流パターンの変化は、構造(浮腫)または動作範囲の変化に先行すると考えられ、関節の健康状態を変化させる初期のバイオマーカを潜在的に提供することができる。
【0019】
局所血流以外にも、IPG測定によって、心拍変動(HRV)による全身心血管生理機能および自律神経系(ANS)のバランスを評価し、その結果、痛みに応じて増加を示すヒト交感神経興奮の指標を提示することになるウィンドウを提供できる。
【0020】
しかしながら、既存の生体インピーダンス技術では、浮腫測定値および血流を捕捉するために必要な分解能を提供することができず、小型電池で数時間使用することが可能であるような十分に低い電力消費で動作することもできない。
【0021】
従来のモニタリングおよび評価技術における上記の問題に対する解決策を見出すことによって、関節の健康状態が改善しているか悪化しているかを示す特定のシグネチャを引き出す、日常生活の正常な活動および規定のリハビリテーション活動中に関節音および生体インピーダンスの24時間モニタリングを行うシステムおよび方法を提供することは有益である。
【0022】
本発明の主要な目的は、装着型での関節音および生体インピーダンス検知を初めて可能にする、装着型装置に容易に組み込むことができる小型センサを用いたシステムおよび方法を提供することである。
【発明の概要】
【0023】
本発明の例示としての実施形態において、本発明は、2つの検知モダリティを正確にモニタリングし、関節動作に関して解釈することによって、関節不調の症状の観察を通じて、関節における負傷の程度を定量化する。例えば、マルチモーダル検知は、関節音響放射等の1つの種類の関節特性についての家庭でのモニタリング検知レジームを含むことができ、マルチモーダル検知は、関節音響放射システムの接触型および非接触型(空気中の)測定を組み込む。他の種類の関節特性は、関節浮腫および血流評価を含む。これらの関節特性は、ベクトル生体インピーダンス測定によって調べることができる。
【0024】
他の例において、マルチモーダル検知は、1つより多い種類の関節特性、例えば関節音響放射および関節生体インピーダンスの両方の測定についての家庭でのモニタリング検知レジームを含んでいてもよい。
【0025】
マルチモーダル検知が関節音響放射等の1つの種類の関節特性に関する本発明の例示としての実施形態において、本発明は、無負荷屈伸中の健常な大学生の運動選手の関節音を得るために3種類のセンサを用いる、筋骨格系負傷後の装着型関節リハビリテーション評価のシステムおよび方法を含んでいてもよい。センサは、マイクを含み、1つより多い種類のマイクを含んでいてもよい。例示としての実施形態において、1つ以上のマイクの種類は、エレクトレットマイク、微小電気機械システム(MEMS)マイク、および圧電フィルムマイクからなる群から選択される。
【0026】
無負荷屈伸中の健常な大学生の運動選手の関節音を調べ、各マイク測定の堅牢性を、(i)信号品質および(ii)同日内の一貫性を介して評価した。空気中マイクは、接触マイクよりも信号の品質が高いことが分かった(エレクトレットおよびMEMSの信号対干渉ノイズ電力比はそれぞれ11.7dBおよび12.4dBであるのに対して、圧電の場合は8.4dBであった)。また、空気中マイクは、皮膚上と皮膚から5cm離れた場所とで同様の音響シグネチャを測定した(振幅は、皮膚から5cm離れた場所の方が、最大4.5倍小さかった)。また、繰り返し動作中の主たる音響イベントは、一貫した関節角度で生じたことも分かった(級内相関係数(ICC)(1, 1)=0.94およびICC(1, k)=0.99)。さらに、この角度位置は、わずかな個体で非対称性が観察されたものの、左右の脚で同様であることも分かった。
【0027】
一実施形態において、装着型装置内の接触マイクの現実的な実装で、接触面ノイズを低減しなくてはならない場合には、装着型関節音検知のために空気中マイクが用いられる。空中信号は、一貫して測定可能であり、健常な左右の膝はしばしば音響放射において同様のパターンを生成する。
【0028】
生体インピーダンス測定が検査される本発明の例示としての実施形態において、長期的な膝関節の健康状態評価のための組み込みシステム概念を利用する堅牢なベクトル生体インピーダンス測定システムが用いられる。当該システムおよび方法は、装着型の身体への実装を実現可能にするフットプリントおよび消費電力の範囲内で、高分解能の静的(数時間から数日間にわたる緩やかな変化)および動的(ミリ秒のオーダーの急速な変化)の生体抵抗測定および生体リアクタンス測定を実現するための個別(discrete)の構成要素に基づくカスタム設計のアナログフロントエンドを含んでいてもよい。
【0029】
一実施形態において、64×48mm2の面積を占め、±5Vを供給すると0.66Wを消費するフロントエンドは、345Ωのダイナミックレンジおよび0.018mΩrms(抵抗)および0.055mΩrms(リアクタンス)のノイズフロアを0.1~20Hzの帯域幅の範囲内で実現する。マイクロコントローラは、リアルタイムの較正において、臨床または実験環境の外で経験し得る環境変動(例えば温度)に起因する測定の誤差を最小限に抑え、マイクロエスディー(SD)カードへのデータ記録を可能にする。取得された信号は、筋骨格系(浮腫)および心血管の(局所血液量パルス)特性を膝関節から抽出するカスタマイズされた生理学的駆動アルゴリズムを用いて処理される。
【0030】
最近に膝の片側を負傷した2人の被験者について、7つの対照と比較して、統計学的に有意な差(p<0.01)が、負傷側と反対側との間の静的膝インピーダンス測定値に見出された。具体的には、負傷した膝のインピーダンスが低く、浮腫の増大および細胞膜の損傷が生じているという生理学的予測を支持している。また、寒冷昇圧試験を用いて動的インピーダンスの感度が測定され、下流側末梢血管抵抗の増加に関連して拍動抵抗が20mΩ減少し、抵抗の時間微分が0.2Ω/秒減少した。
【0031】
本発明の例示としての別の実施形態において、マルチモーダル検知は、1つより多い種類の関節特性、例えば関節音響放射および関節生体インピーダンスの両方に関し、1つより多い検知モダリティが関節動作に関して解釈される。本発明は、生体インピーダンスの高分解能検知、関節からの音響信号を取り込むマイクおよびそのフロントエンド電子機器、関節動作を識別する速度センサ(線形および回転)、ならびに信号を解釈するプロセッサユニットのためのカスタム設計のアナログ電子機器および電極を含んでいてもよい。これらの構成要素は、動作によるアーチファクトが信号に及ぼす悪影響を最小化するために必要なハードウェアを包括する装着型フォームファクタにパッケージ化される。
【0032】
本発明は、生体インピーダンス測定を用いて、関節の腫脹の量および血流速度をモニタリングする。緩やかに変化する液量および急速に変化する血流速度の変化を測定するために、生体インピーダンスハードウェアは、抵抗およびリアクタンスの成分を有する関節生体インピーダンスの静的成分および動的成分の両方を出力する。血流速度のわずかな変化を検出するために、生体インピーダンスハードウェアは、ノイズ性能が向上したカスタム設計のアナログフロントエンドである。
【0033】
生体インピーダンス測定は、電極と皮膚との間の接触面インピーダンスの影響を低減する四極構成の電極を介して関節部位に電流を供給し、増幅段および位相敏感検波段で関節にわたる電位差を測定することによって行われる。静的成分および動的成分は、その後、出力にあたりフィルタ段で分離される。注入された電流大きさは、測定部位に損傷を与えないよう安全閾値を下回り、その周波数は、細胞内液および細胞外液の両方を介して伝播できる程度のものである。
【0034】
動作中、関節は組織を通って伝搬する音波を出射する。関節の液体内容に応じて、波形の様々なパラメータ(例えば、rmsパワー、周波数成分)が変化する。本発明は、音響放射を記録し、音響波形パラメータの変化から関節健康関連特性を抽出する測定を組み込んでいる。接触マイクは、機械的振動によって生じる音波を取り込むために用いられる。ノイズ性能を向上させてシステムの正確さを向上させるために、皮膚とマイク間との接触面から発生するノイズの影響を受けにくい空気中マイクを、補足的に用いる。一般に、マイクは、関節の周りに配置されるが、正確な数および位置は対象とする関節によって異なる。カスタム設計のアナログフロントエンド回路を用いて、音響信号の増幅およびフィルタ処理を行い、ノイズ性能をさらに向上させる。
【0035】
関節はその性質上、動的な構造であるため、システムは活動状況に応じた関節の健康状態評価を行う。関節動作をそのパラメータ(すなわち、動作範囲、周波数)で自律的に分類するために、本発明は、対象とする関節の動作部位に配置される速度センサを用いる。活動分類は、最小のユーザ介入で動作している間にシステムのエネルギー効率を向上するために用いられ、当該システムは、臨床医によって事前に定義される特定の活動をユーザが行う場合にのみスリープモードから起動する。
【0036】
身体に装着されるように設計され、監視されていない状態で用いられる場合、システムは、動作によるアーチファクトが測定された信号に及ぼす影響を最小化する小型のパッケージ化要素(例えば、皮膚とセンサとの間の接触面における薄型接触圧力センサ)を有する。
【0037】
中央プロセッサユニットは、すべての検知データを処理して、関節の健康状態に関連する特性を抽出する。処理は、多目的デバイス(例えば、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルアナログアレイ)またはカスタム設計(例えば、特定用途向け集積回路、ディスクリート回路)を用いて、デジタル、アナログ、またはミックスドシグナルドメインで行われる。本発明は、プロセッサが出力する関節の健康状態をユーザおよび/または介護者に通知する。
【0038】
例示としての別の実施形態において、本発明は、本発明の例示としての装着型システムのユーザが生体インピーダンス測定の実施可能位置(姿勢)にいるか否かを決定するシステムおよび方法を含む。生体インピーダンス測定は、動作によるアーチファクト、被験者の位置、電磁気障害、および皮膚と電極との間の接触面における電圧変動によって大きく影響されるため、被験者が所定の位置で静止しており、かつ電磁気障害および皮膚と電極との間の接触面に関する変動(例えば、電極が皮膚から外れる)が存在しない状態で測定が行われるという一貫性を提供する革新的な解決策が必要とされる。本発明は、ユーザが生体インピーダンス測定の実施可能位置にいるか否かを決定するのにともに用いられる動的抵抗(インピーダンスプレチスモグラフィ)信号とともに慣性計測装置を提示することによって、解決策を提供できる。
【0039】
例示としての別の実施形態において、本発明は、関節の生理機能に関する特性を検知する第1の検知アセンブリと、関節の構造に関する特性を検知する第2の検知アセンブリと、第1および第2の検知アセンブリからの特性を解釈することによって、関節の健康状態の評価を行う健康状態評価部と、を含む関節の健康状態を評価するシステムである。
【0040】
当該システムは、システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに含んでいてもよい。
【0041】
第1の検知アセンブリは、動作中に関節からの音響放射を測定する装着型音響センサを含んでいてもよい。第1の検知アセンブリは、関節動作の少なくとも1つの非音響特性を測定する装着型センサを含む。関節動作の非音響特性は、線形加速度および角速度からなる群から選択してもよい。
【0042】
第1の検知アセンブリは、関節動作の線形加速度および角速度を測定する装着型センサを含んでいてもよい。
【0043】
第2の検知アセンブリは、関節の生体インピーダンスを測定する装着型センサを含んでいてもよい。関節の生体インピーダンスを測定する装着型センサは、関節の近傍の組織および血液の近位EBIを測定するように構成された少なくとも4つの表面電極を含んでいてもよい。
【0044】
例示としての別の実施形態において、本発明は、関節の健康状態を評価するシステムであって、関節の生理機能に関する特性を検知する第1の検知アセンブリであって、動作中に関節からの音響放射を測定する音響センサと、線形加速度および角速度からなる群から選択される関節動作の少なくとも1つの非音響特性を測定するセンサと、を含む第1の検知アセンブリと、関節の生体インピーダンスを測定するセンサを含む、関節の構造に関する特性を検知する第2の検知アセンブリと、第1および第2の検知アセンブリからの特性を解釈することによって、関節の健康状態の評価を行う健康状態評価部と、システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリと、を含むシステムである。
【0045】
音響センサの少なくとも一部は、関節の近位に配置するための装着型音響センサを含んでいてもよい。音響センサの少なくとも一部は、関節の遠位に配置するためのセンサを含んでいてもよい。
【0046】
関節動作の少なくとも1つの非音響特性を測定するセンサおよび関節の生体インピーダンスを測定するセンサは、関節の近位に配置するための装着型センサを含んでいてもよい。
【0047】
関節の生体インピーダンスを測定する装着型センサは、関節の近位の組織および血液のEBIを測定するように構成された少なくとも4つの表面電極を含んでいてもよい。
【0048】
装着型音響センサは、圧電フィルムを含み、関節からの音響放射に関連付けられた皮膚の表面振動を測定可能であってもよい。
【0049】
関節の遠位の音響センサは、関節からの空気中の音響放射を測定可能なマイクを含んでいてもよい。
【0050】
音響センサの少なくとも一部は、関節からの音響放射に関連付けられた皮膚の表面振動を測定可能な、関節の近位に配置するための装着型音響センサを含んでいてもよく、関節動作の少なくとも1つの非音響特性を測定するセンサおよび関節の生体インピーダンスを測定するセンサは、関節の近位に配置するための装着型センサを含んでいてもよく、音響センサの少なくとも一部は、関節の遠位に、関節からの空気中の音響放射を測定可能なマイクを含んでいてもよい。
【0051】
装着型センサの少なくとも一部は、表面銀/塩化銀(Ag/AgCl)ゲル電極を含んでいてもよい。
【0052】
装着型センサの少なくとも一部は、容量式乾燥電極を含んでいてもよい。
【0053】
装着型センサの少なくとも一部は、テキスタイル電極を含んでいてもよい。
【0054】
例示としての別の実施形態において、本発明は、関節の健康状態を評価するシステムであって、関節の生理機能に関する特性を検知する第1の検知アセンブリであって、動作中に関節からの音響放射を表す少なくとも1つの信号を送信可能な音響センサと、線形加速度および角速度からなる群から選択される関節動作の少なくとも1つの非音響特性を表す少なくとも1つの信号を送信可能なセンサと、を含む第1の検知アセンブリと、関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を送信可能なセンサを含む、関節の構造に関する特性を検知する第2の検知アセンブリと、第1および第2の検知アセンブリからの信号を処理することによって、関節の健康状態の評価を行う少なくとも1つのプロセッサを含む健康状態評価部と、健康状態評価部からシステムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリと、を含むシステムである。
【0055】
第2の検知アセンブリは、関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を送信可能なセンサへの電子インタフェースをさらに含んでいてもよい。
【0056】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、電子負荷およびアルゴリズムを用いて、生体インピーダンス測定を自動的かつ定期的に較正してもよい。
【0057】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、関節角度に関して関節からの音響放射を表す少なくとも1つの信号を処理してもよい。
【0058】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、周波数成分に基づいて信号を分離するフィルタバンクを用いて、関節からの音響放射を処理してもよい。
【0059】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、関節の近傍で生じている活動の種類を検出し、活動の種類に基づいて活動中に関節からの音響放射を処理してもよい。活動の種類は、無負荷膝屈伸運動、立ち座り運動、歩行、および階段昇降からなる群から選択されてもよい。
【0060】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理してもよく、当該処理によって関節腫脹の指標が提供される。
【0061】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理してもよく、当該処理によって関節の近位における血流の指標が提供される。
【0062】
健康状態評価部のプロセッサの少なくとも1つは、関節の生体インピーダンスを表す少なくとも1つの信号を処理してもよく、当該処理によって関節の近位における血液量の指標が提供される。
【0063】
例示としての別の実施形態において、本発明は、ユーザの関節の健康状態を評価する装着型システムであって、関節の生理機能に関する特性を検知する第1の検知モダリティアセンブリと、関節の構造に関する特性を検知する第2の検知モダリティアセンブリと、第1および第2の検知モダリティアセンブリからの特性を解釈することによって、関節における負傷の程度を定量化する健康状態評価部を含むシステムである。
【0064】
当該システムは、システムのユーザに関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに含んでいてもよい。システムは、システムのユーザの介護者に関節の健康状態の指標を提供可能な出力アセンブリをさらに含んでいてもよい。
【0065】
第1の検知モダリティアセンブリは、音響アセンブリを含んでいてもよい。
【0066】
第2の検知モダリティアセンブリは、生体インピーダンスアセンブリを含んでいてもよい。
【0067】
音響アセンブリおよび健康状態評価部は、関節の近位および関節の遠位における音響放射を判定可能であってもよい。
【0068】
生体インピーダンスアセンブリおよび健康状態評価部は、関節腫脹を判定可能であってもよい。
【0069】
生体インピーダンスアセンブリおよび健康状態評価部は、関節の近位における血流を判定可能であってもよい。
【0070】
生体インピーダンスアセンブリおよび健康状態評価部は、関節の近位における血液量を判定可能であってもよい。
【0071】
例示としての別の実施形態において、本発明は、ユーザの関節の健康状態を評価するシステムであって、音響アセンブリを含む、関節の生理機能に関する特性を検知する第1の検知モダリティアセンブリであって、動作中に関節からの音響放射を表す少なくとも1つの信号を送信可能な近位の装着型関節音響センサと、動作中に関節からの空気中の音響放射を表す少なくとも1つの信号を送信可能な遠位の関節音響センサと、線形加速度および角速度からなる群から選択される関節動作の少なくとも1つの非音響特性を表す少なくとも1つの信号を送信可能な近位の装着型関節センサと、を含む第1の検知モダリティアセンブリと、生体インピーダンスアセンブリを含む、関節の構造に関する特性を検知する第2の検知モダリティアセンブリと、第1および第2の検知アセンブリからの特性を処理することによって、関節の健康状態の評価を行う健康状態評価部と、を含むシステムである。
【0072】
生体インピーダンスアセンブリおよび健康状態評価部は、関節腫脹、血流、および血液量からなる群から選択される関節の構造に関する特性を判定可能であってもよい。
【0073】
生体インピーダンスアセンブリは、電流源および受電器、ならびに増幅段および位相敏感検波段で関節にわたる電位差を測定可能なプロセッサを含んでいてもよい。
【0074】
電流源は、電極を含む。
【0075】
電流源は、電極を介して、電流を関節に伝送可能であってもよい。
【0076】
電流源は、関節に損傷を与えない、安全閾値を下回る電流を伝送してもよい。
【0077】
電流源は、細胞内液および細胞外液の両方を介して伝播できるような周波数で電流を伝送してもよい。
【0078】
電極は、電極と皮膚との間の接触面インピーダンスの影響を低減する四極構成を含んでいてもよい。
【0079】
血流特性は、静的成分および動的成分を含んでいてもよい。
【0080】
血流特性の静的成分は、比較的緩やかに変化する液量に関していてもよい。
【0081】
血流特性の動的成分は、比較的急速に変化する血流速度に関していてもよい。
【0082】
近位の装着型関節音響センサは、関節の近傍の機械的振動によって生じる音波を取り込む接触マイクを含んでいてもよい。
【0083】
本発明の上記ならびにその他の目的、特徴、および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】
図1は、本発明の例示としての実施形態に係る、リハビリテーション中の関節の健康状態を定量化する膝関節音響放射検知および解釈のブロック図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、本発明の例示としての実施形態に係る、センサ配置および測定のブロック図を示す。
【
図3】
図3(a)~
図3(d)は、本発明の例示としての実施形態に係る、膝蓋骨の外側に配置されたエレクトレットマイクで採取された記録の関節音処理(
図3a~
図3c)およびその結果(
図3d)を示す。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、本発明の例示としての実施形態に係る、屈伸運動(
図4(a))および立ち座り運動(
図4(b))の3回の繰り返し中にエレクトレット、MEMS、および圧電フィルムマイクで同時に検知した関節音を示す。
【
図5】
図5は、本発明の例示としての実施形態に係る、屈伸運動中に皮膚上および皮膚から5cm離れた場所において測定された関節音を示す。
【
図6】
図6(a)は、本発明の例示としての実施形態に係る、生体インピーダンス測定システムのブロック図である。
図6(b)は、本発明の例示としての実施形態に係る、ユーザが測定を行うのに正しい位置にいる(脚を伸ばして支えられた状態で座っている)時の時間間隔を識別するアルゴリズムである。
【
図7】
図7(a)は、本発明の例示としての実施形態に係る、様々な活動中に被験者から測定された静的および動的抵抗信号(r(t)およびΔr(t))を示す。
図7(b)は、*(
図7(a)参照)で拡大した動的抵抗信号のセグメントである。
図7(c)は、被験者が異なる位置にある場合のアンサンブル平均化動的抵抗信号を示す。
図7(d)は、許容または拒絶された測定時間間隔に対して棒グラフで示されたΔr(t)から抽出された4つの特性の平均および標準偏差を示す。
【
図8】
図8は、本発明の例示としての実施形態に係る、局所関節の健康状態評価のための生体インピーダンス測定システムのブロック図である。
【
図9】
図9は、本発明の例示としての実施形態に係る、所関節の健康状態評価のための生体インピーダンス測定システムの別のブロック図である。
【
図10】
図10は、本発明の例示としての実施形態に係る、生体インピーダンス信号の動的成分(すなわち、IPG)から心血管パラメータを自動的に抽出する生理学的駆動アルゴリズム設計である。
【
図11】
図11(a)~
図11(d)は、回路検証を示す。
図11(a)は、アナログフロントエンド用に作製したプリント回路基板(PCB)の写真である。
図11(b)は、抵抗およびリアクタンス測定の較正が高い比例性および一貫性で実施されたことを示す(ポイントは、異なる日に行った複数の測定を示す)。
図11(c)は、動的インピーダンス測定(すなわち、IPG)のノイズスペクトル密度を示す。0.8~20Hzで積分した全ノイズは、抵抗の場合は18μΩ
rmsであり、リアクタンスの動的成分の場合は55μΩ
rmsであり、既存の文献で以前に報告されたいかなる設計よりも低かった。
図11(d)は、本発明の例示としての実施形態に係る、革新的なマイクロコントローラ対応の自動較正方法を用いた較正の改善を示す。
【
図12】
図12(a)~
図12(e)は、本発明の例示としての実施形態に係る、ヒト被験者の測定を示す。
図12(a)は、膝IPGを取得するための電極配置である。
図12(b)は、静的インピーダンス測定である。
図12(c)は、前処理と特性抽出との中間段からの波形例である。
図12(d)は、ECGベース対IPGベースのアンサンブル平均を用いて抽出した特性比較である。
図12(e)は、生理機能の変化に応じたシステムの評価である(2分間の寒冷昇圧試験後の血管収縮)。
【
図13】
図13は、本発明の例示としての実施形態に係る、対照被験者(円形マーカ)対急性の膝負傷後(四角形マーカ)の左右の脚の間の抵抗対リアクタンスの差の大きさのグラフである。この程度の実現可能性に関する研究であっても、集団間の明確な分離によって明らかであるように、またベンチトップ型生体インピーダンス測定回路に関した既存の文献における先行研究と合致するように、集団間の統計的に有意な差が既に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明の様々な実施形態の原理および特徴の理解を容易にするために、様々な例示としての実施形態を以下で説明する。本発明の例示としての実施形態が詳細に説明されているが、他の実施形態も想定されることが理解されよう。したがって、本発明の範囲は、以下の記載で説明されるか図面で示される構成要素の構造および配置の詳細に限定されるものではない。本発明は、他の実施形態が可能であり、様々な様式で実行または実施することができる。また、例示としての実施形態の説明において、説明を明確にするために、特定の専門用語を用いることがある。
【0086】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられるところの、単数形「a」、「an」、および「the」は、特に明記されない限り、複数形をも含む。例えば、ある構成要素に言及した場合、その構成要素が複数ある構成をも含むことが意図される。冠詞「a」を付した構成要素を含む構成に言及した場合、当該特に指定された構成要素に加えて他の構成要素をも含むことが意図される。
【0087】
また、例示としての実施形態の説明において、説明を明確にするために、専門用語を用いることがある。各用語は、当業者に理解される最も広い範囲の意味が想定でき、同様に動作して同様の目的を達成するすべての技術的同等物を含むことが意図される。
【0088】
範囲は、「約」、「およそ」、または「実質的に」ある特定の値から、かつ/または「約」、「およそ」、または「実質的に」別の特定の値までと記載することがある。範囲がこのように記載された場合、他の例示としての実施形態も、当該ある特定の値から、かつ/または当該別の特定の値までを含む。
【0089】
同様に、本明細書に用いられるところの、何かを「実質的に含まない」または「実質的に純粋な」等の特徴は、何かを「少なくとも実質的に含まない」または「少なくとも実質的に純粋な」、および何かを「まったく含まない」または「完全に純粋な」の両方を含むことができる。
【0090】
「備える」、「含有する」または「含む」は、少なくとも特に指定された化合物、要素、粒子、または方法ステップが、構成、物品、または方法に存在することを意味するが、他の化合物、物質、粒子、または方法ステップが特に指定されたものと同一の機能を有している場合であっても、そのような他の化合物、物質、粒子、または方法ステップの存在を阻むものではない。
【0091】
1つ以上の方法ステップに言及した場合、別の方法ステップまたはこれら明確に特定されたステップ間に介在する方法ステップが存在することを阻むものではないと理解されよう。同様に、構成内の1つ以上の構成要素に言及した場合、これら明確に特定されたもの以外のさらなる構成要素の存在を阻むものではないことが理解されよう。
【0092】
本発明の種々の構成要素を形成するものとして記載される物質は、あくまで説明にすぎず、本発明を限定するものではない。本明細書に記載の物質と同一または同様の機能を実現し得る数多くの適切な物質が、本発明の範囲に包括されることが意図される。本明細書に記載されないそのような他の物質は、例えば、本発明の展開後に開発される物質に限定されないが、これらを含む。
【0093】
[関節の健康状態を装着型で評価するための膝からの音響放射を検知する方法]
マルチモーダル検知が関節音響放射等の1つの種類の関節特性に関する本発明の例示としての実施形態において、本発明は、装着型での関節音響検知を初めて可能にする装着型装置に容易に組み込むことができる小型センサを用いた、筋骨格系負傷後の装着型関節リハビリテーション評価のシステムおよび方法を含んでいてもよい(
図1)。
【0094】
[マイク選択]
本発明において用いるセンサの種類を調べるにあたり、(i)音響放射を検知する能力、および(ii)装着型システムへの統合の実用性を考慮する。関節音がどのように組織を伝播して空気中に伝わるかの分析は、接触マイクが関節音を取得するのに最も適したセンサであることを示唆しており、従来のシステムを考察することによって、ほとんどの研究で接触マイクが臨床上/実験上の適用において成功裏に用いられたことが分かった。接触マイクは、元の減衰していない信号を検知し、背景ノイズに敏感でないため、理論的には、最高品質の音響信号を取得できる。
【0095】
しかしながら、動作中や監視されていない家庭での活動中に、センサと皮膚との間の接触面は消失しやすく、接触面に何らかの問題が生じると信号に有害であるため重大な懸念となる。極端な場合、センサが皮膚との接触を失うと、システムは関節音を完全に記録することができなくなる。
【0096】
堅牢性を向上させるために、空気中マイクを用いて相補型検知機能を提供することができる。空気中マイクによって得られた信号は、接触マイクによるものと本質的に異なる。空気中マイクは、減衰した、より高い周波数の信号である空中音のみを検出することになる。さらに、接触マイクのようにセンサと皮膚との間の接触面による制限は受けないが、空気中マイクは、背景ノイズの影響をより受けやすい。これらの理由から、本発明は、接触マイクおよび空気中マイクの両方の検知モダリティを用いて、装着型装置において関節からの音響放射をより堅牢に取り込む。
【0097】
接触マイクとしては、従来膝に装着されてきた覆いや他の装置に相応しいフォームファクタを有すると考えられるため、圧電フィルム(SDT、メジャメントスペシャリティーズ、米国バージニア州ハンプトン)を選択した。また、圧電フィルムは、小型で低コストの加速度計と比較して広い帯域幅を有し、高周波音響信号の検出を可能にする。
【0098】
2種類の空気中マイクを選択して、圧電フィルムが膝関節からの音響放射を取得する際の補助を行う。第1の種類のマイクは、市販のエレクトレットマイク(三研マイクロホン株式会社、日本)である。第2の種類のマイクは、MEMSマイク、具体的にはカスタムPCBに実装されたMP33AB01(STMicroelectronics社、スイス、ジュネーヴ)である。
【0099】
エレクトレットマイクおよびMEMSマイクは同様の方法で音を感知する。しかしながら、市販のエレクトレットマイクは、MEMSマイクに比べてはるかに高価(最大100倍)である。MEMSの低いコストおよび検知機能によって、装着型装置における実装のためのより現実的な解決策が提供される。しかしながら、エレクトレットマイクは、取得された音の品質に関して業界の標準に位置づけられるため、エレクトレットマイクおよびMEMSマイクの両方を実験中に用いた。空気中マイクからの記録は、現在のところより高品質の記録を提供するため、主に着目されてきた。
【0100】
[マイクの比較方法]
膝関節音響放射を検出する際のMEMSマイクとエレクトレットマイクの類似性を、膝蓋骨の外側の同一の位置で同時に取得された信号の正規化されたヒストグラム間の情報半径(information radius)を計算することによって定量化した。上記のヒストグラムを構成するために、マイクから取得された信号を、振幅が範囲[0,1]に限定されるようにまず正規化した。ヒストグラムを、1000個のビンを用いてこの正規化された信号から形成した。
【0101】
次に、各センサの品質を、信号対干渉ノイズ電力比(SNIR)を計算することによって評価した。各マイクのSNIRを、膝関節によって放出された「クリック」(すなわち、音響放射)のピークパワーと、クリック付近の接触面ノイズのピークパワーとの比を求めることによって計算した。この計算のために、空気中マイクの場合は膝蓋骨の内側に位置するマイクからの音響放射を用い、接触マイクの場合は膝蓋骨の遠位側に位置するマイクからの音響放射を用いた。
【0102】
最後に、皮膚上および皮膚から離れた場所において測定された信号を比較するための概念実証実験を行った。被験者は、膝蓋骨の外側に位置する2つのエレクトレットマイクを1つは皮膚上にもう1つは皮膚から5cm離れた場所に位置するように用いて、座った状態かつ無負荷の膝屈伸を3サイクル行った。そして得られたシグナルを比較した。
【0103】
[インタフェース回路]
MEMSマイク用のアナログフロントエンドは、信号が飽和せず、その後のアナログ-デジタル変換器の全ダイナミックレンジを利用可能に増幅されるように選択した33dBゲインおよびハイパス15Hzのカットオフ周波数の非反転増幅を含んでいた。この段の後に、カットオフ周波数が21kHzである2次ローパスフィルタで処理を行った。膝関節の音は15Hz~21kHzの周波数の範囲内にあるので、この帯域幅を選択した。
【0104】
圧電フィルムマイクアナログ用のフロントエンドは、ゲイン45dBおよび100Hzハイパスカットの増幅段を含んでいた。この段の後に、10kHzのカットオフ周波数を有する4次ローパスフィルタで処理を行った。接触面および動作によるアーチファクトノイズを減衰させるように、100Hzハイパスカットを選択した。
【0105】
[ヒト被験者研究および測定プロトコル]
膝負傷の既往歴のない13人の男性被験者がこの研究に参加し、ジョージア工科大学治験審査委員会(Institutional Review Board:IRB)と米国陸軍被験者保護局(Army Human Research Protection Office:AHRPO)によって承認された文書によるインフォームド・コンセントを行った。被験者集団は、身体活動レベル(大学生運動選手)、年齢(19~21歳)、体重(84.1~135.3kg)、および身長(174~195cm)の範囲で適度に均質であった。本手法では、年齢や膝関節の健康状態による変動とは別に測定値のばらつきを評価することが意図されていた。
【0106】
身体組成、身長および体重の予備測定に引き続いて、エレクトレットマイクおよびMEMSマイクの両方を、膝蓋大腿関節を標的として被験者の膝蓋骨の外側および内側に配置し、2つの圧電フィルムセンサを皮膚上に膝蓋骨のちょうど近位および遠位となるように配置した。各センサは、キネシオテックステープを用いて取り付けた。テープに加えて、薄いシリコーン片(厚さ5mm)を圧電フィルムの上に置いて、テープがフィルムに擦れる際の接触面ノイズを低減した。最後に、内蔵のセンサ融合出力と共に、3軸加速度計、ジャイロスコープ、および磁力計を備える2つのワイヤレス慣性計測装置(IMU)(MTW-38A70G20、Xsens社、オランダ、エンスヘーデ)を、大腿および脛の外側に配置した。
【0107】
図2は、センサ配置および測定ブロック図を示す。
図2(a)において、ヒト被験者検査中に8つのセンサを使用した。2つのIMUを、大腿および脛の外側に配置した。圧電フィルムセンサを、膝蓋骨の直接の近位および遠位に配置した。空気中マイク(MEMSおよびエレクトレット)を、膝蓋骨の外側および内側に取り付けた。
図2(b)は、ヒト被験者研究に用いられるデータ収集ハードウェアのブロック図である。
【0108】
これらのセンサを装着している間、各被験者は、(i)座った状態かつ無負荷の膝屈伸および(ii)立ち座りという2つの運動を完了した。各運動で、被験者は動作を5回繰り返し、マイクとIMUの出力は静かな部屋で記録した(
図2(b))。圧電マイクおよびMEMSマイクからの信号を、カスタム回路に通した後、Biopacデータ取得ハードウェア(Biopac Systems Inc、米国カリフォルニア州ゴリータ)を用いて50kHz(16ビット/サンプル)で収集した。エレクトレットマイクからの信号は、Zoom H6レコーダー(株式会社ズーム、日本東京)を用いて44.1kHz(16ビット/サンプル)でサンプリングした。
【0109】
IMU信号を、Biopacシステムと同期させたデバイス固有ソフトウェアスイート(MTMaanager、Xsens社、オランダ、エンスヘーデ)を用いて50Hz(16ビット/サンプル)で取得した。Zoomレコーダーを介してSDカード(SanDisk社、米国カリフォルニア州ミルピタス)に保存されたエレクトレットマイク信号とは別に、すべての信号をラップトップに記録した。次いで、データをMATLAB(The Mathworks社、マサチューセッツ州ネイティック)を用いて処理した。
【0110】
[関節音処理]
信号処理は、(i)膝関節角度の計算および関節角度を用いた関節音の文脈付け、(ii)有意な高周波音響放射、すなわちクリックの特定、および(iii)関節角度に対する主たるクリックの発生の一貫性を定量化する統計解析を含む。
【0111】
まず、Xsensによる3軸加速度計、ジャイロスコープ、磁力計のセンサ融合出力、すなわち回転行列(すなわち、方向余弦行列)および蝶番関節の運動学的制約を利用する方法を用いて、膝関節角度を計算し、角度データを得た。この方法によって、関節の各部分(すなわち、大腿および脛)の任意のセンサ配置および方向付けが可能になり、精密な較正技術および測定が必要なくなる。しかしながら、この方法は、皮膚および動作によるアーチファクトの結果としての真の蝶番関節からの逸脱のために、潜在的に誤差の影響を受けやすい。それにも関わらず、繰り返し動作のサイクルが相互に分析されたので、この誤差は各サイクルで共通しており、結果には現れなかった。
【0112】
最後に、各被験者の動作範囲内の位置に関して被験者を相互に比較することができるように、信号を0°と90°との間で正規化した。
【0113】
図3(a)~
図3(d)は、膝蓋骨の外側に配置されたエレクトレットマイクで採取された記録の関節音処理(
図3a~
図3c)およびその結果(
図3d)を示す。
図3(a)は、3つの明確な高振幅、短時間、音響放射を示す3000サンプル(60ms)の関節音記録ウィンドウの例である。元の信号には、最大7kHzまでの広帯域信号として存在する周囲ノイズ、およびベースライン動作として現れる接触面ノイズが含まれている。これらの成分は、元の信号のスペクトログラムではっきりと可視化されている。大部分のノイズを除去するために、信号を7kHz~16kHzの帯域通過フィルタで処理し、その結果、フィルタ処理された信号x[n]が得られる。
【0114】
この信号の包絡線が求められ、A[n]が得られる。移動平均に基づく閾値処理技術を用いて、A[n]の有意なピークが見出され、これは元の信号のクリックにおおよそ対応する。これらは、後に、元の信号で検出されたクリックの真の位置に一致するように(つまり、元の信号において、クリックが正または負の最大振幅を達成する位置に対応するように)調整される。
図3(b)は、クリック検出アルゴリズムの最終結果を示しており、屈伸の3サイクルの特定されたクリックを示している。
図3(c)は、人為的なオフセットを有する3つの伸展サイクルを示す。これらは、各サイクルの主たる音響イベントが同様の角度位置で生じることを定性的に示す。
図3(d)は、13人の被験者が左右の脚を5回繰り返して屈伸する際のクリック位置の一貫性の最終結果を示す。被験者にわたって、クリック位置の標準偏差は小さく、サイクルごとの一貫した角度位置の観察を支持している。さらに、クリックの平均位置は、ほとんどの被験者にとって左右の脚の間で一貫していた。
【0115】
上記したように、かつより詳細には、膝関節角度を計算すると、各サイクルのフェーズ(屈曲または伸展)が判定された(
図3(b))。まず、信号の変曲点が見つかった。各フェーズの開始と終了は、変曲点の対を見つけることによって特定された。次に、これらの点を用いてマイク信号をセグメント化し、角運動の種類によってデータを文脈付けした。
【0116】
次に、有意な音響放射が特定された。空気中マイクで検出された最も明確な音響信号は、高振幅短時間のクリックである(
図3(a))。信号の周波数成分(すなわち、短時間フーリエ変換、STFT)を観察することによって、これらのクリックが20kHzという高い周波数で広帯域であることが分かった。このフィルタ処理されていない信号は、2つの主たるノイズ源を含んでいた。周囲ノイズは最大7kHzの周波数範囲にあり、接触面ノイズは1.5kHzまでの成分でベースライン動作として現れた。識別段の第1の工程は、クリックがより顕著になり、接触面および/または周辺ノイズがほとんどキャンセルされるように信号を前処理するためのものである。この場合、空気中マイク信号を7kHz~16kHzにわたる帯域通過フィルタで処理した。
図3(a)から分かるように、フィルタ処理された信号(x[n])は、元のベースライン動作がなく、クリックは信号内の他のアーチファクトと比べてより明確であった。
【0117】
本前処理工程が完了した後、修正包絡線検出アルゴリズムを実行した。100サンプル(すなわち、2ms)のウィンドウサイズと90%の重なりを有する信号(X[n,m])の1024ビンスペクトログラムを計算した。信号の振幅を、以下のように周波数ビンにわたるスペクトログラムの対数振幅を合計することによって計算した。
【数1】
【0118】
1000サンプルのウィンドウサイズを用いてA[n]の移動平均および標準偏差(μ[n]およびσ[n])を計算した。A[n]は、以下のように閾値化された。
【数2】
【0119】
式中、T[n]は閾値化された振幅信号であり、αは検査によって3.3として選択された一定の制御係数である。
【0120】
次に、T[n]のピークを標準ピーク検出技術によって検出した。同一のクリックから得られたピーク(すなわち、相互に150サンプル内のピークとして特定された初期クリックの共鳴)は除去され、生のクリック位置ベクトルp=[p
r1,p
r2,…,p
rL]が得られた。生のクリック位置p
rを、各クリック位置が、クリックがその最大振幅、正または負を達成した元のフィルタ処理された信号上の点に対応するように調整した。これらの検出されたクリックの一例を
図3(b)に示す。
【0121】
クリックの特定後、これらの音響放射の一貫性を分析した。
図3(c)は、繰り返し動作中の一貫した音響放射を視覚化したものである。特定の運動(すなわち、屈曲または伸展)のサイクルごとに、最大の振幅を有する3つのクリックと、それらに対応する角度位置とを判定した。サイクルにわたるクリックの各組み合わせ(すなわち、各サイクルからの3つのクリックのうちの1つの選択)を見つけた。角度位置の最小標準偏差を有する組み合わせは、最も一貫して発生する主たる音響イベントをもたらした。これらの位置の平均および標準偏差を計算した。
【0122】
これらの平均位置に基づいて、データを分析するために3つの方法が用いられた。最初の2つの方法について、ICCを用いて試験-再試験の信頼度を推定した。データを、「動作」と「繰り返し」とに分類した。52個の「動作」があり、それぞれが各ヒト被験者と運動との組み合わせに対応している(例えば、被験者1の伸展データは、1つの「動作」を示す)。「繰り返し」は、選択された組み合わせからの5つのクリック位置(1サイクルにつき1つ)を含む。このデータセットを、試験-再試験データセットと称する。
【0123】
このデータセットに基づいて、一方向ランダム信号(すなわち、ICC(1, 1))および平均測定(すなわちICC(1, k))モデルを用いて2つのICC値を計算し、単一サイクルにおける測定値および5つのサイクルにおける測定値の平均の信頼度を示した。さらに、これら2つのICC値の95%信頼区間(CI)を判定した。データを分析する最後の方法は、左脚および右脚の平均クリック位置の間に有意差があるかどうかを評価するために用いられる対応のあるt検定であった。
【0124】
[結果と考察]
[マイクの比較]
マイク選択の選択を評価する際には、多くの異なるパラメータを考慮した。まず、エレクトレットマイクおよびMEMSマイクで測定された信号の類似性を比較した。これらのマイクの品質は、SNIRの観点からその検出能力の品質を評価することによって判定した。さらに、空気中マイクの接触面問題を調べる際に、センサと膝との距離が取得した信号に及ぼす影響を調べた。最後に、接触マイクの品質について調査した。
【0125】
図4は、屈伸運動(
図4(a))および立ち座り運動(
図4(b))の3回の繰り返し中にエレクトレットマイク、MEMSマイク、および圧電フィルムマイクで同時に検知した関節音を示す。
図4(a)および
図4(b)の両方で、上の図は関節角度(θ[n])を示している。中央のグラフと下のグラフは、様々なマイクからの時間および周波数領域の信号を示す。エレクトレットマイクおよびMEMSマイクの音響シグネチャは同様の特性を示している。
【0126】
図4(a)および
図4(b)に示すように、20kHzという高い周波数を測定するエレクトレットマイクおよびMEMSマイクは、屈伸運動および立ち座り運動をそれぞれ行う被験者から取得された関節音の検出において同様に機能した。これは、2つのマイクによって取り込まれた信号の正規化ヒストグラム間の情報半径を計算することによって確認され、0.0025の値が得られた。この値は、これら2つの種類マイクの類似度が高いことを示している。というのも、情報半径は、分布が同一の場合は0、分布が最も異なる場合は2となるからである。これは、より費用対効果の高いMEMSマイクが、より高価なエレクトレットマイクの代替として利用可能であることを示している。これは、展開可能なシステムを設計する際に重要な結果である。
【0127】
予測されるように、空気中マイクによって記録された信号は、所望の関節音に加えてノイズおよび接触面成分を含んでいた。周囲の背景干渉、およびセンサを適切な位置に保持するために用いられたアスレチック用テープの擦れによる接触面ノイズの両方が、マイクによって検知された。SNIRは、エレクトレットマイクで11.7dB、MEMSマイクで12.4dBであった。最初の実験でのノイズの問題を最小限に抑えるため、静かな部屋で測定した。特に、会話や歩行動作による音等の多くの背景ノイズが関節音とともに帯域内に存在するという事実を考慮すると、展開可能な装着型システムの実装について、さらに検討することができる。
【0128】
図5は、屈伸運動中に皮膚上および皮膚から5cm離れた場所において測定された関節音を示す。皮膚から離れた場所におけるマイクは、振幅が減少した信号を取り込んだが、皮膚上および皮膚から離れた場所における測定は、音響シグネチャにおいて有意な類似性を示した。各信号の主たる音響イベントは、同様の位置で生じた。
【0129】
空気中マイクは、空気中の関節音を検出するために皮膚表面に直接配置する必要がないことが実験によって示された。
図5に示すように、皮膚上に配置されたエレクトレットマイクから得られた音と、皮膚から5cm離れた場所に配置されたエレクトレットマイクから得られた音とは、形態学およびタイミングの両方において類似した音響信号を取り込んだ(振幅は、皮膚から5cm離れた場所の方が最大4.5倍小さかった)。これは、皮膚との直接接触が一定ではない可能性がある装着型装置において空気中マイクが関節音を記録できることを示唆しているため、重要な観察である。しかしながら、取り込まれた信号を解析する際、特に解析が信号の振幅に依存する場合には、この距離を考慮することは重要となるだろう。
【0130】
したがって、特に長期的な解析に用いる場合には、マイクと皮膚との間の距離を固定したままにすることが必要となり得る。さらに、マイクを皮膚から離すと、ノイズの可能性が増加する。マイクが皮膚に当たったり擦れたりする可能性が大きくなり得るからである。さらに、マイクと皮膚との間の距離を変更することによって、これらの音を検知する際のマイクの感度も変更される。
【0131】
圧電フィルムは、
図4に示す取得信号のスペクトログラムからわかるように、およそ3kHzまでの信号を測定した。圧電フィルムには背景ノイズを検出しないという利点があるが、センサが皮膚と擦れたりテーピング用テープが皮膚およびセンサの両方に擦れたりするために、SNIRで8.4dBというかなり大きな接触面ノイズが生じる。この接触面ノイズは、1.5kHzまでの周波数成分を有し、したがって帯域内であった。
【0132】
初期の試験的なデータ収集中、圧電フィルムは、キネシオテックステープのみを用いて皮膚に取り付けた。しかしながら、この方法は、接触面ノイズに非常に影響されやすいことが判明した。テープは伸縮可能ではあるが、膝が屈伸するのに応じてフィルムを変形させ、その結果、低周波および低振幅シグネチャが不明瞭になった。また、当該テープは、試験的なデータの収集には許容可能であるが、長期間のモニタリングには適してないことが判明した。この問題を緩和するために、圧電フィルムの上にシリコーン片を配置した。シリコーンは皮膚および皮下組織と同様の柔軟な機械的性質を有するため、受け取った関節の音は減衰しておらず、シリコーン表面はテープを貼付するのに適した表面を提供した。この方法では接触面ノイズを完全に除去できず、センサが皮膚に沿って動くことがいくらかあったが、記録されたノイズの低減に非常に有用であった。
【0133】
したがって、生成された音響エネルギーの大部分を表す振動信号を取り込むために圧電フィルムまたは他の接触マイクが望ましいが、その実施は実用上の問題を提示する。圧電フィルムは接触面ノイズの影響を大きく受けた。接触マイクと比較して、空気中マイクは接触面ノイズによって損なわれる信号帯域幅の部分が少なかった。また、接触マイクは、空気中マイクほど明確には、より高い周波数の振動を拾わなかった。これらの理由から、装着型関節音測定に空気中マイクを用いることが好ましいと考えられる。
【0134】
[関節音の一貫性]
図3(d)は、膝屈伸を5回繰り返している13人の座った状態の被験者の左右の脚の平均角クリック位置の結果をまとめたものである。このデータから、(i)一回の試験測定で有意な音響イベントが繰り返され、(ii)左右の脚が同様の音を発する、という2つの重要な知見が得られた。
【0135】
第1に、試験-再試験データセットについて2つのICC値が見出された。0.92~0.97の95%CIを有する0.94のICC(1, 1)値および0.98~0.99の95%CIを有する0.99のICC(1, k)値が計算された。ICC値は0.7よりも大きいので、これらの値は、活動サイクルごとの主たる音響放射が、単一および平均測定信頼度の両方についてモニタリングの単一の試行内で一致していることを示した。可聴関節音が広範囲に調査されていないことを考えると、これは重要な発見であり、空中信号が健康な蝶番関節での繰り返しの動作で安定したパターンを放射することを示している。
【0136】
第2に、各運動の足の差は、健康な被験者の膝が同様の関節音を発することを示唆した。左右の脚の間の差は、p<0.05レベルで有意ではなかった。集団としては、左右の脚の間に有意差はなかったが、左右の肢の間のクリック位置の差が比較的少ない集団もあれば、左右の間の差が顕著である集団もあり、臨床上関連する「シグネチャ特性」を定義できる可能性を示唆している。このようなクリック位置の変動は、有用な膝関節の健康状態バイオマーカを表すことができる。
【0137】
これらの結果は有望であるが、テストされたシステムおよび分析にはいくらかの制限がある。第1に、IMUに関して、センサの位置決め、ドリフト、および動作によるアーチファクトはすべて、真の関節角度とは異なる屈曲角度計算に寄与し得る。特に、長期的なデータを測定するシステムでのそれらの適用を考慮する場合、このような誤差を最小化する本明細書およびその他の技術を用いる必要がある。例えば、センサの位置決めをより厳密にし、関節の運動学的制約を関節角度の計算に直接利用してドリフトの影響を低減することによって、誤差を最小限に抑えることができる。
【0138】
第2に、音響放出に対する潤滑(例えば、負傷後の境界潤滑の減少)および異なる構造部位(例えば、損傷した靭帯等)の効果は、まだ十分に研究されていない。これらの変数は、繰り返しのサイクルのクリック位置の一貫性を計算し、脚間の差を測定するときに、「誤差」を招く可能性がある。したがって、これらの分離した1回限りの測定は、同一の被験者に対する経時的な長期的分析と比較して有効ではないと判明する可能性もある。
【0139】
測定の一貫性に関するこれらの定量的所見は、リハビリテーション中のこのようなシグネチャの変化だけでなく、負傷に関する関節音シグネチャの変化の重要性を理解する基礎を形成する。さらに、長期的な研究は負傷からの回復の理解に重要であるが、装着型プラットフォームにおける頑強な実装に向けた作業とその焦点によって、日毎および同日内の関節音の変化を研究する機会が提供される。
【0140】
[結論]
マルチモーダル検知が負荷ありおよび負荷無しの活動中の膝関節音響放射に関する本発明の例示としての実施形態において、主たる音響イベントが、健康な被験者の繰り返し動作中に同一の関節角度で生じることが定量的に示された。また、これらの位置は、ほとんどの被験者にとって左右の脚で類似していた。左右の膝の音響放射に関する非対称性が、負傷の危険因子または他の訓練に関連する変数に関するかどうかは明らかにされていない。重要なことに、これらの知見は、比較的安価な装着型フォームファクタで実装可能な検知技術で、空気中マイクからの関節音測定が繰り返し実行可能であることを示している。圧電フィルムに関する広範な分析は行われていないが、装着型装置に対するその適用は、パッケージ化技術が記録信号に大きな影響を及ぼすことを示す予備的知見に基づいて有望である。
【0141】
本発明は、空気中マイクおよび接触マイクの両方の背景ノイズおよび接触面ノイズを緩和することをさらに含む。特に、家庭での長期間のモニタリング中に高品質の信号測定を可能にするために、これらのセンサを装着型の覆いまたはスリーブにパッケージ化することが検討されている。さらに、既存のアルゴリズムが調整され、臨床的に関連する音響シグネチャを検出するための新規の処理技術が開発されている。
【0142】
療法士や臨床医が音、腫脹、構造安定性、および動作範囲を見るという前提で、本発明は、関節の健康状態バイオマーカを邪魔にならずに正確に定量化する方法を検討する。特に、どの音響シグネチャがこれらのバイオマーカを包括しているかを判定する。また、特定の疾患および負傷(例えば、変形性関節症、前十字靱帯裂、半月板裂等)に関するこれらのバイオマーカの調査が考慮される。最後に、負傷した被験者に関する長期的な研究により、急性の負傷後のリハビリテーション中に貴重な関節の健康状態情報を提供する特定の音響放射特性(例えば、一貫した角度位置)の特定および検証が可能になる。
【0143】
[ベクトル生体インピーダンス測定に基づく膝関節浮腫および血流の長期評価のための堅牢なシステム]
本発明の例示としての別の実施形態において、浮腫および血流パラメータを含む関節特性が検査され、生体インピーダンス技術を用いた、筋骨格負傷後の装着型関節リハビリテーション評価のシステムおよび方法が装着型装置に容易に組み込まれた。
【0144】
本発明の実施形態において、局所関節の生理学的評価のための装着型生体インピーダンス測定システムの領域における技術的ギャップに対処するシステムおよび方法が開示される。
【0145】
[位置識別アルゴリズム]
生体インピーダンス測定は、動作によるアーチファクト、被験者の位置(姿勢)、電磁気障害、および皮膚と電極との間の接触面における電圧変動にあまりにも大きな影響を受ける。したがって、一貫性のために、被験者が所定の位置で静止しており、かつ電磁気障害および皮膚と電極との間の接触面に関する変動(例えば、電極が皮膚から外れる)が存在しない状態で測定が行われなくてはならない。これらの条件はユーザの誘導の元で満たすことができるが、そのような誘導は、装着型装置の設定においては実現できない。
【0146】
上記のように、IMUは、ユーザが静止しており測定実施可能位置にいるか否かを決定するのに用いることができる。しかしながら、IMUは、電磁気障害または皮膚と電極との間の接触面に関する変動を検出するのには有効でない。しかしながら、これらの種類の影響は、これら、ならびにユーザ位置および動作によるアーチファクトの影響を強く受ける動的抵抗信号を用いて検出することができる。
【0147】
動的抵抗(インピーダンスプレチスモグラフィ)信号とともにIMUを用いて、ユーザが生体インピーダンス測定の実施可能位置にいるか否かを決定することもできる。IMUは、被験者の四肢位置(例えば、膝角度)および被験者が実行している活動(例えば、歩いている、走っている、じっと座っている等)についての情報を提供するのにも用いることができる。動的抵抗信号は、被験者の四肢位置および実行中の活動の検出を補助するのに用いることができる。また、電極のいずれかが誤って配置されているかどうか、電極のいずれかが皮膚に接触しなくなったかどうかを推測するのに用いることもできる。電極の位置の変化が生じた場合、動的抵抗信号から抽出された特性によって検出することができる。生体インピーダンス測定は、筋収縮にも影響される。動的抵抗信号は、四肢の筋肉が弛緩しているか収縮しているかを推測するためにも用いることができる。
【0148】
動的抵抗信号を、ユーザが生体インピーダンス測定の実施可能位置にいるか否かを決定できる例示としてのアルゴリズムを設計するのに用いた。IMUは、このようなアルゴリズムを補助するのにも用いることができる。例示としての本実施形態において、動的抵抗信号のみを用いた。この場合、実施可能位置は、被験者が静止していて、脚を完全に伸ばして下から支えられた状態で座っているときの位置であった。他のすべての位置または活動(脚を曲げて座っている、立っている、いかなる種類の動作)は、測定を拒絶するものとして示された。静的インピーダンス測定は、解釈する必要があり、決定プロセスで用いると特定範囲の値のデータを取得する傾向が生じるため、決定プロセスにおいては用いられない。
【0149】
図6(a)は、本発明の例示としての実施形態に係る、生体インピーダンス測定システムのブロック図である。E1~E4は、身体と接触する電極を表す。信号i(t)およびq(t)は、膝インピーダンスの静的成分(数時間から数日間のオーダーの緩やかな変化)に関し、信号Δi(t)およびΔq(t)は、膝インピーダンスの動的成分に関する。A(t)は、膝関節を通過する電流(i
body(t))の振幅をモニタリングするために用いられる。
【0150】
位置識別アルゴリズムは、
図6(b)にまとめた通りであり、ユーザが測定を行うのに正しい位置にいる(脚を伸ばして支えられた状態で座っている)時の時間間隔を識別するのに用いられる。許容可能な時間間隔は、動的電圧信号Δi[n]からの特性を抽出し、これらの特性を用いて決定を行うことによって識別される。バイナリ決定ルールを予め学習する。静的電圧測定値i[n]およびq[n]を用いて膝抵抗(R
measured)および膝リアクタンス(X
measured)を得るために、許容された時間間隔が用いられる。A[n]は、注入電流振幅の変動の影響をキャンセルするために用いられる。
【0151】
信号Δi[n]は線形フィルタ処理(0.3Hz~20Hz)され、呼吸アーチファクトおよび高周波ノイズが除去される。次いで、フィルタ処理された信号は、ウィンドウサイズ10秒および工程サイズ1秒(ヒューリスティックに決定される)でウィンドウ処理され、フィルタ処理された信号のM個のフレームが生成される。各フレームの信号は、A[n]を用いて振幅補正され、較正され、フレーム内の動的抵抗信号が得られる。
【0152】
各フレームから抽出された特性(素性)は、特性行列F=[f1 f2 … fM]Tに配置される。行列中、各列は特性に対応し、各行はフレームに対応する。これらの特性用いて、フレームが許容されるか否か(許容はラベル1に分類され、または拒絶は0に分類される)が決定され、バイナリラベルのベクトルd=[d1 d2 … dM]Tが生成される。動的抵抗信号の標準偏差が50mΩを超えるフレームには、動きが含まれている可能性が高いため、0とラベル付けする。
【0153】
静的電圧測定値i[n]およびq[n]も、同一のスキームを用いてウィンドウ処理され、A[n]を用いて振幅補正され、較正され、M個のフレームの夫々に抵抗およびリアクタンス信号が得られる。各フレームの抵抗およびリアクタンス信号の平均をとって、平均抵抗ベクトルおよび平均リアクタンスベクトルr=[r
1 r
2 … r
M]
Tおよびx=[x
1 x
2 ... x
M]
Tをそれぞれ得る。これらM個の抵抗測定値およびリアクタンス測定値は、ベクトルdにおけるラベルに応じて、許容または拒絶される。許容された抵抗測定値およびリアクタンス測定値は、許容された抵抗
および許容されたリアクタンス
ベクトルにそれぞれ配置される。
および
の平均をとって、最終的な測定抵抗(R
measured)およびリアクタンス(X
measured)を得る。
【0154】
上記のバイナリ決定ルールは、新規のデータ(テストセット)に適用される前に、個別に学習する。この学習のために、被験者が既知のラベルを有する活動を既知の時間(すなわち、(1)立っている(ラベル0)、(2)脚を曲げて座っている(ラベル0)、(3)脚を交差させて座っている(ラベル0)、(4)脚を伸ばして支えられた状態で座っている(ラベル1)、および(5)歩行(ラベル0)を各1分間)行う際に、Δi[n]を記録する。
【0155】
図6(b)に示すように、特性抽出がΔi[n]に対して行われ、特性ベクトルF
trainingおよび対応する既知のラベルd
trainingが生成される。特性サブセット選択は、遺伝的探索アルゴリズムを有するサポートベクターマシン(SVM)分類器を用いて分類器サブセット評価を介して特性F
trainingに対して行われる。選択された特性のサブセットおよびd
trainingを用いて、SVM(コストパラメータ1.0)を学習させ、用いるバイナリ決定ルールを得る。なお、F
trainingおよびd
trainingは、動的抵抗信号の標準偏差が50mΩを超えるフレーム(動作によるアーチファクトの存在するフレーム)を含まない。特性サブセット選択およびSVM学習はWekaを用いて行い、他のすべてのタスクは、MATLABで実行した。
【0156】
各フレームから抽出された特性は、3つのカテゴリで説明される。第1のカテゴリの特性は、音響信号の特性抽出技術から得られる一般的な特性である。10秒フレームはさらに、350msステップサイズのサイズ700msのサブフレームに分割される。時間軸およびFFTに関する特性(30個の特性)が各700msのサブフレームから抽出される。これらは短期間の特性である。平均値、中央値および標準偏差などの中期の統計値とも呼ばれる統計値(8個の統計値)は、700msのサブフレーム全体にわたって特性ごとに計算され、1フレームあたり合計240個の特性になる。
【0157】
第2のカテゴリの特性は、各フレームにわたる動的抵抗波形のアンサンブル平均の周波数成分に基づいている(4つの特性)。フレームにわたる波形のアンサンブル平均は、アルゴリズムを用いて計算される。最後のカテゴリの特性は、各フレームのアンサンブル平均動的抵抗信号から抽出された時間特性である(23個の特性)。
【0158】
図7(a)は、様々な活動中に被験者から測定された静的および動的抵抗信号(r(t)およびΔr(t))を示す。時間間隔は、被験者が測定を行うのに正しい位置にいる(脚を伸ばして支えられた状態で座っている)時に記された。被験者が正しい位置にいる時に得られた測定値は許容され、他のすべての測定値は拒絶されることになる。位置識別アルゴリズムは、このデータについて試験される。
図7(b)は、*(
図7(a)参照)で拡大した動的抵抗信号のセグメントである。血流による信号の拍動成分がはっきりと分かる。この信号の特性は位置識別に用いられる。
【0159】
図7(c)は、被験者が異なる位置にある場合のアンサンブル平均化動的抵抗信号を示す。各アンサンブル平均を40秒の時間間隔で測定した。被験者が異なる位置にある場合のアンサンブル平均波形の差がはっきりと分かる。
図7(d)は、許容または拒絶された測定時間間隔に対して棒グラフで示されたΔr(t)から抽出された4つの特性の平均および標準偏差を示す。第1のグラフは、信号のSNRに関する(-log
10ρ)の棒グラフを示す。第2のグラフは、信号のアンサンブル平均のピークツーピーク振幅に対するものである。第3のグラフは、アンサンブル平均信号の0~3Hz帯域パワーである。最後のグラフは、被験者が正しい位置にいる場合の1回の学習フェーズ中に取得されたテンプレートアンサンブル平均波形とアンサンブル平均波形との間のユークリッド距離のグラフである。
【0160】
被験者が様々な活動をしている間に測定された静的抵抗信号および動的抵抗信号を
図7(a)に示す。被験者が測定を行うのに正しい位置にいる(脚を伸ばして支えられた状態で座っている)時の時間間隔を赤で示し、他のすべての場合(被験者が立っている、脚を90°曲げて座っている、脚を交差させて座っている、歩いている)は黒で示す。この測定は12分間行った。この図から、動的および静的抵抗の両方が、動作によるアーチファクト(Tのラベルが付された移行動作、歩行)によって大きく影響され、1~数十オームのオーダーの変化が生じていることが分かる。
【0161】
被験者が正しい位置にいる場合の動的抵抗波形の一部を
図7(b)に示す。被験者は静止しているが、この波形はミリ秒にわたって定期的に変化し、当該変動は数十ミリオームのオーダーであった。信号の静的成分は、このような周期的な変動を有していない。その周期的な変動はフィルタ処理で除去されているからである。
【0162】
被験者が異なる位置にある(立っている、脚を90°曲げて座っている、正しい位置にいる)場合の3つの80秒の時間間隔のアンサンブル平均化動的抵抗波形を
図7(c)に示す。この図から、アンサンブル平均化Δr(t)波形のピークツーピーク振幅等の、正しい位置の時間間隔を他から類別するのに有効となり得る特性が分かる。また、正しい位置の波形は、立っている位置および座っている位置の波形のいずれよりも滑らかに見える(したがってノイズが少ない)ことが分かる。これは、アンサンブル平均化Δr(t)波形のSNR、周波数ドメイン、および形状に関する特性が潜在的に有効な特性であることを示唆している。
【0163】
図7(d)は、
図7(a)に示す12分間の測定で被験者が正しい位置にいる場合(許容された測定ウィンドウ)や正しくない位置にいる場合(拒絶された測定ウィンドウ)の10秒間の時間ウィンドウから抽出された4つの特性の平均および標準偏差を示す。第1の特性(左端の棒グラフに示される)は、10秒のフレーム内の平均未満の偶数と奇数の間の相互相関係数のマイナス対数(-log
10ρ)である。この特性は、アンサンブル平均波形のSNRに反比例する。第2および第3の特性(左から2番目および3番目の棒グラフ)は、各10秒フレーム内のアンサンブル平均化Δr(t)波形のピークツーピーク振幅および0~8Hzバンドパワーである。表示される最後の特性(右端の棒グラフ)は、被験者が正しい位置にいる場合における学習フェーズ中に取得されたテンプレートアンサンブル平均化Δr(t)波形とアンサンブル平均化Δr(t)波形との間のユークリッド距離である。
【0164】
図7(c)から予測されるように、これらの4つの特性は、効果的なクラス分離性を示す。各クラスおよび各特性で実行されたリリーフォース検定およびコルモゴロフ-スミルノフ検定は、分布が正規分布であることを示した(p<0.01)。2標本t検定(不等および未知のクラス分散を仮定)は、各特性において有意なクラス分離能を示した(p<0.01)。
【0165】
学習データは、上記の方法を用いたバイナリ分類ルールの学習に用いられた。動きのあるフレーム(Δr(t)の標準偏差>50mΩ)が含まれていない試験データで評価された分類器の混同行列を、表1に示す。
【表1】
【0166】
ベースラインの誤分類率(最も確率の高いクラスが常に選択されるときのものであり、この場合はすべてのフレームが拒絶(0)となるときのものである)は34.3%であった。学習した分類器の誤分類率は16%であり、精度(precision)は94%であった。したがって、許容となるべき有意な量のフレームがアルゴリズムによって拒絶となるが、許容とされたフレームのほとんどが実際に許容となるものであり、これは測定の一貫性にとって最も重要なものである。有意な量の検出漏れ(偽陰性)は重要ではない。なぜなら、システムは1日に5~10回の測定(10秒の持続時間)をとることを目的としているに過ぎず、いくつかの測定漏れは重要ではないからである。静的な膝のインピーダンスは、数時間から数日間にわたる生理機能に関する変動を有するため、頻繁ではない測定であっても、膝関節の健康状態をモニタリングするのに十分である。
【0167】
実際に許容可能なフレームのみをバイナリ決定ルールに用いた時の12分間の試験について、測定された抵抗値(r
actualまたは
および
)は60.9±0.6Ωであり、測定されたリアクタンスは-13.5±0.7Ωであった。動きのないすべてのフレームが許容された場合のインピーダンス測定値は、60.5±4.8Ωおよび-13.1±1.5Ωであった。インピーダンス測定値の標準偏差がより高いのは、測定位置が一貫してなかったためである。
【0168】
学習を行ったバイナリ決定ルールを用いた場合、抵抗およびリアクタンスのインピーダンス測定はそれぞれ60.8±1.5Ωおよび-13.54±1.0Ωであった。これらの値は、より一貫性があり(標準偏差がより低い)、動きのないすべてのフレームを受け入れた場合と比較して絶対誤差がより低くなっている。それは、被験者の位置がより一貫性のあるものとなるからである。
【0169】
これらの結果は、被験者が特定の位置にあるときに生体インピーダンス測定を行うことを自動的に決定して、ユーザによる誘導の必要性をなくすアルゴリズムをどのように用いることができるかを示している。このような1回の学習を必要とするアルゴリズムは、生体インピーダンスハードウェアと無線通信するスマートフォンに実装することができ、これによって、膝インピーダンスをモニタリングする「Smart Brace」を生成する一歩となる。
【0170】
[生体インピーダンスシステムおよび方法]
生体インピーダンス信号を測定し、筋骨格(組織抵抗およびリアクタンス)パラメータならびに心血管(心拍数、局所血液量、および血流速度)パラメータの両方を抽出するシステムを示す(
図8)。
【0171】
図8は、例示としての実施形態に係る、局所関節の健康状態評価のための生体インピーダンス測定システムのブロック図である。上記の高性能回路およびシステムに基づく装着型装置を用いて、急性筋骨格負傷からの回復の間に、筋骨格パラメータと心血管パラメータとの革新的な組み合わせが膝関節から縦断的に得られる。
【0172】
これらの生理機能パラメータを用いて、負傷後の回復期に浮腫および血流の両方を定量化する。本発明は、とりわけ、(i)組織インピーダンス(静的)および局所血行力学(動的)の両方に対するカスタム生体インピーダンス測定アナログフロントエンドを、ある消費電力およびサイズが与えられた場合に同様のシステムと比較して最高分解能と組み合わせること、ならびに/または、(ii)自己較正手順を用いて温度などの環境要因によるドリフトおよび不正確さを最小限に抑えること、ならびに/または、(iii)カスタマイズされた生理学的に駆動されるIPGベースの心拍検出アルゴリズムを作成して、膝から血行力学パラメータを抽出するための参照生体信号記録(例えば、心電図、ECG)の必要性を軽減することによって、生体インピーダンス測定システムの最先端技術を進歩させる。
【0173】
負傷後の期間における浮腫および血流を定量化する目的には、身体からの正確な生体インピーダンス測定値をエネルギー効率の良い方法で得るためのスモールフォームファクタのシステムが必要となる。この目標を達成するために、アナログ(すなわち、低電力)およびデジタル(すなわち、プログラム可能性)の両方の領域の利点を享受するシステムを設計する、デジタル支援のアナログアプローチが実行された。本システムは、この手法を用いて、(i)生体インピーダンス測定、(ii)較正、ならびに(iii)前処理および特性抽出を実行する。
【0174】
身体から生体インピーダンス測定を実行する最初の機能は、個別の構成要素で設計されたカスタム設計のアナログフロントエンドによって実現される。低電力TI MSP430シリーズマイクロコントローラ(Texas Instruments社、米国テキサス州ダラス)をマイクロエスディー(SD)カードとともにデータロガーとして用い、その後にコンピュータで信号を処理できるようにする。さらに、マイクロコントローラは、システムの第2の機能、すなわち環境変化(例えば、温度)に起因する測定誤差を低減することを目的とする較正を実行するための実装に用いられる。MATLABソフトウェア(Mathworks社、マサチューセッツ州ネイティック)を用いて特性抽出を行い、マイクロSDに記録された較正データから生理学的に適切な情報を抽出する。
【0175】
[アナログフロントエンド]
抵抗性体液(例えば、血液、細胞内液)および容量性細胞壁を含む局所関節身体領域のEBIは、一次までにおいて、単一のRCネットワークとしてモデル化することができる。RCネットワークは、全流体容積に関する静的成分と、時間に依存する流体容積変化(例えば、心拍に応じた周期的な血流)に関する動的成分とを有する。アナログフロントエンドは、単一周波数の生体インピーダンス解析を実行して、RCネットワークの静的および動的コンポーネントの両方を抽出するように設計されている(
図9に示すフロントエンドのブロック図)。
【0176】
図9において、E1~E4は、インピーダンス測定に用いられる身体上の4つの電極を表す。i(t)およびq(t)は静的(数時間から数日間のオーダーの緩やかな変化)な生体インピーダンス成分を示し、Δi(t)およびΔq(t)は動的(ミリ秒のオーダーの急速な変化)な生体インピーダンス成分を示し、A(t)は、安全性を確保し、マイクロコントローラ(μC)に搭載された測定データのリアルタイム較正を可能にするために、リアルタイムでモニタリングされる身体への検知された電流伝送を示す。
【0177】
回路は、f0=50kHzの正弦波電流で身体を励起する。この周波数は、細胞外および細胞内の両方の流体経路に電流が流れることを可能にするため、単一周波数の生体インピーダンス解析システムで広く用いられている。この設計には、50kHzで800mVppの正弦波信号を生成するダイオード安定化ウィーンブリッジ発振器が組み込まれている。発振器の電圧出力は、高出力インピーダンス、高帯域幅の電圧制御電流源(VCCS)によって電流に変換される。VCCSは、身体負荷ZBody、および小さい純粋な抵抗の負荷Rsense=100Ωの直列組み合わせに電流を伝送する。
【0178】
理想的でない皮膚と電極との間の接触面が測定に与える影響をキャンセルするために、
図9のE1~E4によって形成された四極電極構造を介して電流が関節に注入される。E1とE4は電流注入用電極であり、E2とE3は電圧測定用電極である。Z
BodyとR
senseとにわたる電圧測定は、2つの独立した計装アンプ(IA)段、すなわちIA
BodyとIA
senseの2つの段で行われる。
【0179】
IA
Bodyの出力における信号、すなわちv
Body(t)は、位相敏感検波回路を介してZ
Bodyの抵抗成分およびリアクタンス成分の両方に対応する電圧測定値を抽出するために用いられる。7.2kHzのカットオフ周波数を有する差動ハイパスフィルタ(HPF)は、周囲の筋肉からの筋電図(EMG)の漏れ込みを低減する。IA
senseの出力における信号、すなわちv
sense(t)を用いて、(i)比較器を用いた位相敏感検波回路を駆動するクロックを生成し、かつ(ii)ダイオードおよびRCネットワークによって形成され、その出力が
図9の電流モニタリング信号A(t)である包絡線検出器を介し、身体に伝送される電流、すなわち電流I
PPの大きさをモニタリングする。同相および直交位相敏感検波のクロックは、v
sense(t)、および全域通過フィルタを用いて得られたv
sense(t)を90°位相シフトしたものからそれぞれ生成される。両方のクロックは、v
Body(t)と-v
Body(t)との間でアナログスイッチを切り替えるために用いられる。
【0180】
各位相敏感検波器からの信号は、フィルタ処理され、最終的な出力信号が得られる。非常に緩やかに変化する静的な同相信号および直交信号、すなわちi(t)およびq(t)について、位相敏感検波器の出力は、カットオフ周波数f-3dB=2Hzを有するローパスフィルタ(LPF)でフィルタ処理される。小振幅かつより急速に変化する動的な同相信号および直交信号、すなわちΔi(t)およびΔq(t)を抽出するために、位相敏感検波器からの信号は、帯域幅が0.1Hz~20Hzでゲインが51V/Vであるバンドパスフィルタ(BPF)によってフィルタ処理される。
【0181】
発振器からの正弦波電圧信号は、中帯域ゲインであるところのAMBを設定するVCCSおよびIA body段で増幅される。AMBを判定する際、ノイズおよびダイナミックレンジの両方が考慮される。ノイズ性能を向上させるには、AMBが十分に高い必要がある。一方、回路の線形演算を満足する大きなダイナミックレンジを得るためには、AMBを任意に大きくすることはできない。
【0182】
Rbody=80Ωである典型的な膝インピーダンス値の場合、IPPを安全閾値を十分に下回る約2mAに設定することにより、高い信号対ノイズ比(SNR)信号を得ることができる。しかしながら、被験者が異なるとZBodyも異なることに留意すべきである。したがって、VCCSは、ノイズ性能を損なうことなく線形動作を保証するように調整可能な可変ゲイン段として設計されている。例えば、小さなインピーダンス負荷から高いSNR信号を得るためには、IPPを増加させればよい。一方、より大きなインピーダンス負荷から測定を行う場合、回路を線形領域に保持するためには、IPPを低減させればよい。IPPの最大可能値と最小可能値は、それぞれ3.3mAppと0.6mAppである。IAbodyのゲイン、すなわちAIA,bodyは、ダイナミックレンジの制約に基づいて決定される。AIA,bodyを10.67V/Vに設定すると、膝からの典型的な最大生体インピーダンス値を超える最大300Ωのダイナミックレンジが得られる。IA senseのゲインは、比較器の出力においてクロックを生成するのに十分高いAIA,sense=3.47V/Vに設定される。
【0183】
アナログフロントエンドからの測定値は、自動較正手順に従って抵抗値とリアクタンス値に変換される。測定期間中、測定値に対する環境変化の影響を補償するために、較正が自動的に繰り返される。
【0184】
[較正]
生体インピーダンス測定システムの場合と同様に、静的および動的電圧信号、すなわちi(t)、q(t)、Δi(t)、Δq(t)を静的および動的インピーダンス信号、すなわち静的抵抗r(t)、静的リアクタンスx(t)、動的抵抗Δr(t)、および動的リアクタンスΔx(t)にマッピングするには、較正手順が必要である。理想的な同期復調スキームでは、i(t)およびq(t)はそれぞれr(t)およびx(t)に比例する。ここで、測定されるインピーダンスはr(t)+jx(t)である。したがって、理想的には、測定された信号をインピーダンス値にマッピングするためには、1回の回路の較正で十分である。しかしながら、環境パラメータ(例えば、温度、湿度)の変化および回路の非理想性は、測定の経過に伴って測定の一貫性に悪影響を与える。励磁電流IPPの変化によって生じる測定誤差を補正し、ひいては装着型システムの堅牢性を高めるために、インピーダンス測定値は、cf=2mA/IPP(振幅補正)の補正係数でスケーリングすることができる。ここで、IPPはA(t)でモニタリングされる。また、温度変動は、インピーダンス測定の大きさおよび位相の両方に影響を及ぼす、位相敏感検波回路スイッチのクロックでの位相遅延をも生じさせる。これらの変動をさらに排除するために、較正は、低電力TI MSP430シリーズマイクロコントローラを用いて間欠的に行うことができる(リアルタイムの較正)。
【0185】
リアルタイムの較正がマイクロコントローラに潜在的に及ぼす可能性のある計算負担を軽減するために、(i)位相補正および(ii)最小二乗線形回帰からなる計算効率のよい2工程の較正手順が行われる。
【0186】
第1の較正工程は、位相誤差を補正することである。位相敏感検波回路における復調器スイッチの理想的でないスイッチング時間、すなわちt
sw>0は、測定ベクトル[i(t) q(t)]
Tをφラジアンだけ回転させる結果となる。ここで、φ=2πt
swf
0である。したがって、位相誤差は、時計回りにφラジアンだけベクトルを回転させることによって補正され、次の補正された測定ベクトルが得られる。
【数3】
【0187】
式中、
および
は、r(t)およびx(t)にそれぞれ比例している。
【0188】
第2の工程は、補正された測定ベクトルを次のインピーダンスベクトルにマッピングすることを目的とする。
【数4】
【0189】
式中、m
Rおよびc
Rは、
とr(t)の間の線形回帰の係数である。m
Xおよびc
Xは、直交チャネルの回帰係数である。
【0190】
式4の較正係数、すなわちm
R、c
R、m
X、c
X、φを求めるには、既知の値の試験負荷に対して一連の静的同相および直交測定が必要である。インピーダンスがR
1=23.8Ω、C
1=47nF、R
2=98.2Ω、R
3=56.4Ω、C
3=94nF、R
4=75.4Ω、C
4=68nFの場合の、インピーダンスダイナミックレンジにわたる4つの連続したRC試験負荷が選択される。負荷は、マイクロコントローラによって制御されるマルチプレクサによってアナログフロントエンドに連続的に接続される。位相補正工程は、純粋に抵抗性のR
2からの測定値を用いてφ= arctan q
2 / i
2を計算することによって実行される。次いで、線形回帰が4つの試験負荷のすべてからの測定値を用いて実行され、残りの較正係数が計算される。動的係数のマッピングを実行するために、同一の係数が用いられる。
【数5】
【0191】
式中、係数1/Gを導入して動的チャネル出力ゲインを割る。式4のオフセットベクトル[cR cX]Tは、動的チャネル出力段においてフィルタ処理で除去される。
【0192】
次いで、マッピングされた信号を用いて、膝関節から筋骨格および心臓血管の特性を抽出する。
【0193】
[前処理アルゴリズムおよび特性抽出アルゴリズム]
前処理および特性抽出は、静的および動的信号に対して別々に行われる。静的信号から組織抵抗およびリアクタンスの筋骨格特性を抽出し、動的信号から心拍数、局所拍動血液量、および流速の心血管特性を抽出する。
【0194】
静的信号i[n]およびq[n]の前処理は、式4を用いたインピーダンス信号r[n]およびx[n]への変換を含む。次に、静的信号および電流モニタリング信号A[n]を60秒のウィンドウで平均して、ravg、xavg、およびAavgをそれぞれ得る。RmeasuredおよびXmeasuredの最終の関節抵抗およびリアクタンス測定値は、Aavgを用いてravgとxavgの較正の箇所で説明した振幅補正を実行することによって得られる。
【0195】
動的信号に行われる信号処理は、
図10に示すように、較正/フィルタ処理およびアンサンブル平均化を含む。
図10は、生体インピーダンス信号の動的成分(すなわち、IPG)から心血管パラメータを自動的に抽出するための生理学的に駆動されるアルゴリズム設計である。第1に、ノイズを低減し、心拍を検出するために、信号は前処理される。次に、心拍セグメンテーションを用いてアンサンブル平均ができるようにして、信号品質をさらに改善する。最後に、これらのアンサンブル平均化されたベクトルIPGトレースから血液量パルスおよび血流の特性が抽出される。
【0196】
動的信号Δi[n]およびΔq[n]は、まず、式5を用いた較正を通じてインピーダンス信号に変換される。次に、動的インピーダンス信号は、A
avgを用いて振幅補正され、その後、帯域幅0.1Hz~20HzのFIR(有限インパルス応答)フィルタによって帯域通過フィルタ処理を行い、
および
を得る。この工程によって、アンサンブル平均化前にインピーダンス信号の較正/フィルタ処理が完了した。
【0197】
膝からの心拍は、Δi[n]を用いて検出される。この信号は、4次で21タップのSavitzky-Golayフィルタを用いて最初に平滑化され、その後、整合フィルタリング手法を用いてフィルタ処理される。整合フィルタインパルス応答(カーネル)は、クリーンで滑らかな動的同相生体インピーダンス信号であり、前もって膝から取得したものでもある。このカーネルは使用のために保存され、適応性がない。次いで、平滑化のために用いられたのと同じ種類のSavitzky-Golayフィルタを用いて、整合フィルタリング処理された信号が微分され、信号d/dt×im[n]が形成される。
【0198】
信号d/dt×im[n]は、心拍を検出するためにピーク検出アルゴリズムに供給される。波形のピークは、ウィンドウごとに検索される。ウィンドウ内にピークが見つかると、以前の心拍間隔を用いてウィンドウサイズが更新される。次いで、ウィンドウは次の場所に移動する。心拍が正確に検出されるように、ウィンドウは、ピークが所定のウィンドウの中間点の付近となるように再配置される。見つかったピーク時刻はベクトルτ'kに格納される。1分間に検出されるピークの数は、bpmで示される心拍数(HR)となる。
【0199】
信号Δi[n]は、ピーク時刻τ'kを用いてセグメント化される。Δi[n]のセグメント(Δik[n])は行列ΔIの各行に格納される。各セグメントΔik[n]とカーネルとの相互相関が計算される。この相互相関の最大値を用いてピーク時刻τ'kを補正し、各Δik[n]がカーネルに沿うようにする。補正されたピーク時刻は、ベクトルτkに格納される。
【0200】
ピーク時刻τ
kは、
および
をセグメント化するために用いられる。セグメント
および
は行列
および
の行にそれぞれ格納される。
のアンサンブル平均は、サンプルごとの次式におけるセグメント
を平均化することによって計算される。
【数6】
【0201】
アンサンブル平均
(Δx
EA[n])は、同様に計算される。アンサンブル平均化信号Δr
EA[n]およびΔx
EA[n]は、特性抽出のために用いられる。これらの波形のピークツーピーク振幅Δr
ppおよびΔx
ppは、負傷した膝および健康な膝の差異を示す可能性があるため、抽出される。
【0202】
信号Δr
EA[n]は、前に述べたものと同じSavitzky-Golayフィルタを用いて微分され、d/dt×Δr
EA[n]を得る。波形上では、B点、C点、X点が識別される。点Bと点Cとの間の振幅差(d/dt×Δr
MAX、Ω/s単位)、BとXとの間のタイミング差(噴射時間T
ET、s単位)を用いて局所拍動血液量ΔV
blood(ml単位)を計算した。
【数7】
【0203】
式中、ρは血液の抵抗率であり、135Ωcmとし、L(cm)は電圧電極間の距離であり、R
measured(Ω)は関節の測定抵抗である。局所血流速度
(ml/分)は、方程式
=ΔV
bloodHRを用いて計算される。上記のように、心血管特性HR、ΔV
blood、および
は、負傷評価に用いられる。
【0204】
[結果と考察]
[回路検証]
設計されたアナログフロントエンドを、64mm×48mmのPCB上に作製した(
図11(a))。回路が他の励起周波数(7.5kHz~100kHz)および電流振幅(0.6mA
pp~3.3mA
pp)に対しても同様に調整できるようにオンボード電位差計を用いた。
【0205】
較正手順を確認するために、測定値ikおよびqkを、3024Aオシロスコープ(Keysight社、米国カリフォルニア州サンタローザ)を用いて、前述の4つの較正負荷から取得した。較正パラメータは、MATLABを用いて計算した。静的測定値i(t)およびq(t)は、同じ負荷から1日に10回取得した。
【0206】
式4から、取得された電圧測定値を、計算された較正パラメータを用いてインピーダンス測定値に変換した。負荷の抵抗値(R)およびリアクタンス(X)の測定値と実際値とを
図11(b)に示す。実際の負荷インピーダンスは、Agilent 34410A 6 1/2桁マルチメータを用いて測定した。RとXの測定値を別々にラインに当てはめた(
図11(b)の赤線)。カスタム設計のアナログフロントエンドによって行われたインピーダンス測定は、0Ω<R<100Ωと0Ω<-X<70Ω(RとXの両方についてR
2≒1)の範囲で線形であり一貫していた。
【0207】
相対誤差を測定するために、較正インピーダンスとは異なるが同じインピーダンス範囲内の4つのインピーダンスを用いた。測定されたインピーダンスを、マルチメータを用いて測定されたインピーダンスと比較した。平均相対測定誤差は、Rが3.9%、Xが5.9%、|Z|が1.4%、∠Zは1.8%であった。
【0208】
電位差計を負荷である回路に接続して、フロントエンドのダイナミックレンジを検査した。電位差計にわたるIA測定が飽和する抵抗をダイナミックレンジと定義し、345Ωと測定した。測定されたダイナミックレンジは、Rの場合は40Ω~80Ω、Xの場合は-20Ω~-10Ωの間で変化する予想される膝インピーダンスの値を網羅していた。
【0209】
測定された動的インピーダンスのノイズフロアを計算するために、SR785信号アナライザ(Stanford Research Systems社、米国カリフォルニア州サニーベール)を用いて、アナログフロントエンド全体に0Ωの負荷をかけてΔi(t)およびΔqのノイズスペクトル密度を得た。Δi(t)とΔq(t)のクロススペクトルも得た。電圧ノイズスペクトル密度を、式4および式5を用いて、Δr(t)およびΔx(t)のノイズスペクトル密度にマッピングした。結果として得られたノイズスペクトル密度を
図11(c)に示す。ノイズフロアは、0.1~20Hzの帯域幅に対して計算された。得られたノイズフロアは、Δr(t)で0.018mΩ
rms、Δx(t)で0.055mΩ
rmsであった。
【0210】
フロントエンドの消費電流は、9Vの2個の電池から調節された±5Vの供給を受けた場合、132mAと測定され、消費電力は0.66Wになった。マイクロコントローラの消費電力は、SDカードにデータを書き込むときは150mW、クロック周波数を25MHzに設定してサンプリングするときは33mWと測定された。このため、システムの総消費電力は0.81Wであった。
【0211】
システム性能を評価するために、電子的およびシステム仕様を多数の生体インピーダンス測定システムと比較した(表2参照)。これらのシステムに用いられるアーキテクチャは、(i)コンピュータ支援設計、(ii)特定用途向け集積回路(ASIC)、(iii)フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)設計、および(iv)ディスクリート設計に分類することができる。[1-3]のようなコンピュータ支援システムは、装着型に分類できない。[4-9]のようなASICシステムは、小型で低消費電力であるため有利であるが、製造コストが高く、プログラム性の面で制限がある。[10,11]のようなFPGAベースのシステムは、高い電流レベルを必要とするため、装着型で連続的なモニタリングアプリケーションを実現することが困難である。[12-16]のようなディスクリート設計は、既存のアプローチの代わりに安価でプログラム可能な代替物を提供することができ、ヒト被験者のテストで素早く試作して評価することができ、本明細書に記載の設計と組み合わせた場合、十分小型で低消費電力の装着型の関節健康状態モニタリングシステムが実現可能である。
【表2】
【0212】
表2は、アーキテクチャによって分類されたEBI回路およびシステムの電気およびシステム仕様の比較である。参考文献は次のとおりである。
[1] B. Sanchez, J. Schoukens, R. Bragos, and G. Vandersteen, "Novel Estimation of the Electrical Bioimpedance Using the Local Polynomial Method. Application to In Vivo Real-Time Myocardium Tissue Impedance Characterization During the Cardiac Cycle," Biomedical Engineering, IEEE Transactions on, vol. 58, pp. 3376-3385, 2011.
[2] B. Sanchez, E. Louarroudi, E. Jorge, J. Cinca, R. Bragos, and R. Pintelon, "A new measuring and identification approach for time-varying bioimpedance using multisine electrical impedance spectroscopy," Physiological Measurement, vol. 34, p. 339, 2013.
[3] A. Hartov, R. A. Mazzarese, F. R. Reiss, T. E. Kerner, K. S. Osterman, D. B. Williams, and K. D. Paulsen, "A multichannel continuously selectable multifrequency electrical impedance spectroscopy measurement system," Biomedical Engineering, IEEE Transactions on, vol. 47, pp. 49-58, 2000.
[4] J. Ramos, J. L. Ausin, A. M. Lorido, F. Redondo, and J. F. Duque-Carrillo, "A wireless, compact, and scalable bioimpedance measurement system for energy-efficient multichannel body sensor solutions," Journal of Physics: Conference Series, vol. 434, p. 012016, 2013.
[5] L. Yan, J. Bae, S. Lee, T. Roh, K. Song, and H.-J. Yoo, "A 3.9 mW 25-Electrode Reconfigured Sensor for Wearable Cardiac Monitoring System," Solid-State Circuits, IEEE Journal of, vol. 46, pp. 353-364, 2011.
[6] S. Lee, S. Polito, C. Agell, S. Mitra, R. F. Yazicioglu, J. Riistama, J. Habetha, and J. Penders, "A Low-power and Compact-sized Wearable Bio-impedance Monitor with Wireless Connectivity," Journal of Physics: Conference Series, vol. 434, p. 012013, 2013.
[7] A. Yufera, A. Rueda, J. M. Munoz, R. Doldan, G. Leger, and E. O. Rodriguez-Villegas, "A tissue impedance measurement chip for myocardial ischemia detection," Circuits and Systems I: Regular Papers, IEEE Transactions on, vol. 52, pp. 2620-2628, 2005.
[8] P. Kassanos, L. Constantinou, I. F. Triantis, and A. Demosthenous, "An Integrated Analog Readout for Multi-Frequency Bioimpedance Measurements," Sensors Journal, IEEE, vol. 14, pp. 2792-2800, 2014.
[9] N. Van Helleputte, M. Konijnenburg, J. Pettine, J. Dong-Woo, K. Hyejung, A. Morgado, R. Van Wegberg, T. Torfs, R. Mohan, A. Breeschoten, H. de Groot, C. Van Hoof, and R. F. Yazicioglu, "A 345uW Multi-Sensor Biomedical SoC With Bio-Impedance, 3-Channel ECG, Motion Artifact Reduction, and Integrated DSP," Solid-State Circuits, IEEE Journal of, vol. 50, pp. 230-244, 2015.
[10] S. Kaufmann, A. Malhotra, G. Ardelt, and M. Ryschka, "A high accuracy broadband measurement system for time resolved complex bioimpedance measurements," Physiological Measurement, vol. 35, p. 1163, 2014.
[11] S. Sun, L. Xu, Z. Cao, H. Zhou, and W. Yang, "A high-speed electrical impedance measurement circuit based on information-filtering demodulation," Measurement Science and Technology, vol. 25, p. 075010, 2014.
[12] C. Margo, J. Katrib, M. Nadi, and A. Rouane, "A four-electrode low frequency impedance spectroscopy measurement system using the AD5933 measurement chip," Physiological Measurement, vol. 34, p. 391, 2013.
[13] F. Seoane, J. Ferreira, J. J. Sanchez, and R. Bragos, "An analog front-end enables electrical impedance spectroscopy system on-chip for biomedical applications," Physiological Measurement, vol. 29, p. S267, 2008.
[14] L.-Y. Shyu, C.-Y. Chiang, C.-P. Liu, and W.-C. Hu, "Portable impedance cardiography system for real-time noninvasive cardiac output measurement," Journal of Medical and Biological Engineering, vol. 20, pp. 193-202, 2000.
[15] Y. Yang, J. Wang, G. Yu, F. Niu, and P. He, "Design and preliminary evaluation of a portable device for the measurement of bioimpedance spectroscopy," Physiological Measurement, vol. 27, p. 1293, 2006.
[16] T. Schlebusch, Ro, x, thlingsho, x, L. fer, K. Saim, Ko, x, M. ny, and S. Leonhardt, "On the Road to a Textile Integrated Bioimpedance Early Warning System for Lung Edema," in Body Sensor Networks (BSN), 2010 International Conference on, 2010, pp. 302-307.
【0213】
表2から分かるように、本発明は、示された全ての同様の従来のシステムよりもインピーダンス測定における高分解能を有する。これにより、本発明は、膝からの血流関連のインピーダンス変化を検知することができる。この高い測定分解能は、省スペースでエネルギー効率の良い方法で実現される。さらに、表2の他のシステムと比較して、本発明は、環境変化に起因する測定誤差を最小限に抑えるためにリアルタイム較正が可能な唯一のもの(着用可能な装置に配備可能なもの)である。
【0214】
[生理学的測定結果および考察]
ヒト被験者に対する試験は、膝負傷の既往歴のない7人の対照被験者および最近に膝の片側を負傷した(ACLまたは半月板裂傷)2人の負傷被験者からなる9人の被験者に対して行った。この研究は、ジョージア工科大学IRBおよびAHRPOによって承認された。回路は、
図12(a)に示すように配置されたAg/AgClゲル電極を介して身体に接続した。近位の電流電極は、四頭筋腱の屈曲部の3インチ上に、膝の内側に向かって配置した。遠位の電流電極は、膝窩の屈曲部の3インチ下に、膝の外側に向かって置かれた。電圧電極を電流電極に隣接して配置した。アンサンブル平均化アルゴリズムを評価するために、対照群からのECG信号を、BioNomadix(Biopac Systems Inc社、米国カリフォルニア州ゴリータ)ワイヤレスECG取得モジュールを用いて取得した。
【0215】
取得したすべての信号は、Biopacデータ取得ハードウェアに記録され、MATLABで処理された。ヒト被験者の研究では、1回の較正の後に振幅補正を行った。
【0216】
試験プロトコルの間、各被験者は真直ぐに座って背中を壁に当て、足を前方に伸ばしていた。被験者が静止した状態で、90秒の信号i(t)、q(t)、Δi(t)、Δq(t)、A(t)およびECG(対照群)を両方の膝から別々に取得した。20秒と80秒の間のデータは、測定サイクルの開始時および終了時に(身体の初期位置決めから)動作によるアーチファクトを除外するために処理された。拍動血液量計算のために、各膝上の電圧電極間の距離を測定した。
【0217】
各被験者から得られた各膝の静的インピーダンスを
図12(b)にプロットし、抵抗およびリアクタンスに関する左膝と右膝との間の差を
図13に示す。ほぼ全ての対照被験者の左膝のインピーダンスと右膝の膝インピーダンスとは、Rで相互に12Ω以内であり、X軸で相互に3.2Ω以内であった。抵抗およびリアクタンスに関する左膝と右膝との間の差は、対照群で統計学的有意差はなかった。しかし、被験者2名という実現可能性調査のサンプルサイズが小さい場合でさえ、対照群と比較して、負傷側の膝と反対側の膝とのインピーダンスに有意差(p<0.01)があった。両被験者の負傷側は、抵抗Rが平均13.7Ωだけ低くなっており、負のリアクタンス-Xが平均5.25Ωだけ低くなっていた。これらの結果は、生理学的予測(浮腫の増大による抵抗の減少、損傷した細胞膜に関する負のリアクタンスの減少)と一致する。
【0218】
記載された前処理および特性抽出アルゴリズムを用いて、対照群についての心血管特性HR、ΔV
bloodおよび
を計算した。アンサンブル平均化アルゴリズムの中間段と最終段で得られた信号を
図12(c)に示す。心拍を正確に検出することにより、動的(IPG)インピーダンス信号を正確にセグメント化することができた。したがって、アンサンブル平均後に高いSNR波形が得られ、B点、C点、X点が明確に検出された。
【0219】
これらの特性はまた、比較のためにECG補助アンサンブル平均化アルゴリズムを用いて計算された。ECGの有無に関わらず算出された心血管特性は、統計的に有意差が認められないという点で一貫していたことが観察された(
図12(d))。さらに、反対側と比較して、負傷側の心血管特性に有意差は観察されなかった。
【0220】
対照被験者の1人に対して、別の実験を行って、一方の膝から測定した動的インピーダンス信号に対する血管収縮の影響を調べた。具体的には、この方法は、寒冷昇圧試験に類似しており、被験者の裸足を氷水に沈め、IPG信号を膝(水没していない)で測定し、下流の末梢血管抵抗(PVR)を増加させた。この実験の目的は、この研究で開発されたシステムが修正された下流のPVRに関する膝関節血流の微小な変化を検出できる感度を評価することであった。
【0221】
被験者の皮膚温度を浸水する前に裸足で測定すると、30℃であった。被験者が座って、試験した脚を伸ばして支持体上に置いた状態でインピーダンス信号を膝から60秒間取得した。足の皮膚温度が17℃に下がるまで、同じ側の足を氷水に浸した。足を冷水から取り出し、以前と同じ位置でインピーダンス信号を膝から60秒間再び記録した。
【0222】
上記のアルゴリズムを用いてアンサンブル平均化された抵抗信号(Δr
EA(t))、およびSavitzky-Golayフィルタを用いて得られたその微分(d/dt×Δr
EA(t))のプロットを
図12(e)に示す。下流の血管収縮に関するこのIPG信号の微小変化は、振幅の有意な低下(抵抗については20mΩの減少、抵抗の時間微分については0.2Ω/sの減少)として両方の波形で観察することができる。したがって、このシステムは、生理学的予測と一致して、PVRの増加に伴う局所血液量パルスおよび血流の両方の減少を検出するのに十分に敏感であった。
【0223】
[結論]
本発明は、組み込みシステム概念に基づいて膝関節からの高分解能EBI測定のためのディスクリート設計を組み込んでいる。高性能アナログフロントエンド電子機器およびマイクロコントローラを用いたデジタルプログラマビリティを組み合わせて用いることにより、装着型デバイスに適したプラットフォーム上の高品質の静的(数時間から数日間のオーダーの緩やかな変化)なインピーダンス測定、および動的(ミリ秒のオーダーの急速な変化)なインピーダンス測定を実現可能にする。
【0224】
全体的なシステムは、回路の設計、測定された信号から特性を検出するためのカスタマイズされた生理学的に駆動されるアルゴリズム、ならびに浮腫および変更された血流に起因する局所生体インピーダンスの小さな変化を両方とも検出する能力を評価するためのヒト被験者実験を含む、エンドツーエンドでの設計および実証が行われた。本発明は、電子機器を膝関節周囲の装着型のスリーブに包括し、急性膝関節負傷からの回復中にデータを連続的に収集するための機械的パッケージ化を含む。ここに提示された工学的基礎に基づく本装着型システムは、初めて膝関節の構造的および血行力学的特性の両方を長期的に高分解能で定量的に評価し、関節回復生理をよりよく理解することを容易にし、回復プロセスを加速するための閉ループ系個人向けの治療法を設計する。
【0225】
上記記載において、多くの特徴および利点を、構造および機能の詳細とともに示した。本発明をいくつかの形態で開示したが、特許請求の範囲に記載の本発明の精神および範囲ならびにその均等物から逸脱することなしに、特に形状、寸法、および部品配置において、多くの変形、追加、および削除が可能であることが当業者には明白であろう。したがって、本明細書の教示によって示唆され得る他の変形例および実施形態が、添付の特許請求の範囲の広がりおよび範囲に包括されるものとして特に確保される。