IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッタ株式会社の特許一覧

特許7037388感温性粘着剤、感温性粘着シートおよび感温性粘着テープ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】感温性粘着剤、感温性粘着シートおよび感温性粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20220309BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20220309BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J7/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018029735
(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2019143065
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【弁理士】
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【弁理士】
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】山口 聡士
(72)【発明者】
【氏名】河原 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】南地 実
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024795(JP,A)
【文献】特開2017-206595(JP,A)
【文献】特開2010-254803(JP,A)
【文献】国際公開第1992/013901(WO,A1)
【文献】特開2002-361617(JP,A)
【文献】特開2009-120743(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152006(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂(A)とカルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)とを含有し、
ベース樹脂(A)が、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)を0.1~30質量%の割合で含み、炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)を70~99.9質量%の割合で含むモノマー混合物の共重合体であり、
カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)が、炭素数14~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B1)を30~70質量%の割合で含み、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B2)を30~70質量%の割合で含むモノマー成分を構成単位とする重合体であり、
ベース樹脂(A)100質量部に対して、カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)が1~30質量部の割合で含まれ、
カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)の融点以上の温度で、ポリイミド系被着体に対する粘着力が低下する感温性粘着剤。
【請求項2】
前記カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)が、3000~30000の重量平均分子量を有する請求項1に記載の感温性粘着剤。
【請求項3】
架橋剤をさらに含む請求項1または2に記載の感温性粘着剤。
【請求項4】
前記ポリイミド系被着体に対して、23℃において2N/25mm以上の粘着強度を有し、前記側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で0.05N/25mm以下の粘着強度を有する請求項1~のいずれか1項に記載の感温性粘着剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層が、基材の少なくとも一方の面に形成された、感温性粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温性粘着剤、感温性粘着シートおよび感温性粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に示す感温性を有する感温性樹脂が知られている。このような樹脂を含む感温性粘着剤が、例えば、特許文献1に開示されている。感温性粘着剤には、感温性樹脂の融点以下の温度で固定力を発揮し、感温性樹脂の融点以上の温度で粘着力が著しく低下して剥離することができるウォームオフタイプの粘着剤が存在する。
【0003】
従来のウォームオフタイプの粘着剤は、ステンレス鋼板やガラスなどの無機系被着体、あるいはポリアミド系被着体、ポリオキシメチレン系被着体、ポリエチレンテレフタレート系被着体、ポリメチルメタクリレート系被着体、ポリカーボネート系被着体などの有機系被着体に対しては、感温性樹脂の融点以上の温度で粘着力が著しく低下し、容易に剥離することができる。しかし、有機系被着体の中でもポリイミド系被着体に対しては、感温性樹脂の融点以上の温度でであっても、粘着力が低下しない。その結果、ポリイミド系被着体に対して、従来のウォームオフタイプの粘着剤を用いると、粘着剤の剥離が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平6-510548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポリイミド系被着体に対して室温下で強固に接着できるとともに、感温性樹脂の融点以上の温度で粘着力が低下し、容易に剥離することができる感温性粘着剤、ならびにこのような感温性粘着剤を含む感温性粘着シートおよび感温性粘着テープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)ベース樹脂(A)とカルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)とを含有し、ベース樹脂(A)が、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)および炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)を含むモノマー混合物の共重合体であり、カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)が、炭素数14~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B1)を含むモノマー成分を構成単位とする重合体であり、カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)の融点以上の温度で、ポリイミド系被着体に対する粘着力が低下する感温性粘着剤。
(2)カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)のモノマー成分が、(メタ)アクリル酸エステル(B1)を30~70質量%の割合で含み、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B2)を30~70質量%の割合でさらに含む上記(1)に記載の感温性粘着剤。
(3)カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)が、3000~30000の重量平均分子量を有する上記(1)または(2)に記載の感温性粘着剤。
(4)架橋剤をさらに含む上記(1)~(3)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(5)ポリイミド系被着体に対して、23℃において2N/25mm以上の粘着強度を有し、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度で0.05N/25mm以下の粘着強度を有する上記(1)~(4)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
(7)上記(1)~(5)のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層が、基材の少なくとも一方の面に形成された、感温性粘着テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリイミド系被着体に対して室温下で強固に接着できるとともに、感温性樹脂の融点以上の温度で粘着力が低下し、容易に剥離することができる。すなわち、室温下のように感温性樹脂の融点未満の温度では、ベース樹脂(A)の粘着性およびカルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)の凝集力によって強固な粘着性が発揮される。一方、感温性樹脂の融点以上の温度では、ポリイミド系被着体と感温性樹脂との接触角の変化によって表面自由エネルギーが変化する。そのため、ポリイミド系被着体と感温性樹脂との界面相互作用が小さくなり剥離性が向上し、かつベース樹脂表面に分散している溶融した感温性樹脂に応力が集中することで容易に界面剥離する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤について詳細に説明する。一実施形態に係る感温性粘着剤は、ベース樹脂(A)とカルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)とを含有し、カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)(感温性樹脂に相当)の融点以上の温度で粘着力が低下する。本明細書において「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0009】
ベース樹脂(A)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)および炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)を含むモノマー混合物の共重合体である。ベース樹脂(A)としてこのような特定の共重合体を使用することによって、粘着性および剥離性がポリイミド系被着体に対して特異的に発揮される。
【0010】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)としては、例えば、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、カルボキシル基含有不飽和エステルなどが挙げられる。
【0011】
不飽和モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。不飽和ジカルボン酸としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。カルボキシル基含有不飽和エステルとしては、例えば、アクリル酸β-カルボキシエチルなどが挙げられる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)の中でも、ポリイミド系被着体に対してより粘着性が向上し、剥離する際にはより剥離しやすくなる点で、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸β-カルボキシエチルが好ましい。カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)は、モノマー混合物中に、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは1~20質量%の割合で含まれる。
【0012】
炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸tert-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸イソヘプチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)の中でも、ポリイミド系被着体に対してより粘着性が向上し、剥離する際にはより剥離しやすくなる点で、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチルが好ましい。炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)は、モノマー混合物中に、好ましくは70~99.9質量%、より好ましくは80~99質量%の割合で含まれる。
【0013】
モノマー混合物には、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(A1)および炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)と共重合可能な他のモノマーが含まれていてもよい。このような他のモノマーとしては、例えば、ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマー、エポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマー、イソシアナト基を有するエチレン性不飽和モノマー、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、炭素数8以上の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、オキシエチレン基を有する(メタ)アクリル酸エステル、オキシプロピレン基を有する(メタ)アクリル酸エステル、分子内にフッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0014】
ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシヘキシル、2-ヒドロキシエチルアクリルアミドなどが挙げられる。エポキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。イソシアナト基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチルなどが挙げられる。オキシエチレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシトリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどが挙げられる。オキシプロピレン基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。分子内にフッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルなどが挙げられる。炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどが挙げられる。炭素数8以上の環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどが挙げられる。
【0015】
ベース樹脂(A)を得るためのモノマー混合物の重合方法としては特に限定されず、例えば溶液重合法、塊状重合法、縣濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。例えば、溶液重合法を採用する場合、モノマー混合物と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤を添加して、撹拌しながら50~100℃程度で1~24時間程度反応させればよい。
【0016】
このようなベース樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。ベース樹脂(A)は、好ましくは10万~200万、より好ましくは20万~100万の重量平均分子量を有する。
【0017】
カルボキシル基非含有側鎖結晶性ポリマー(B)(以下、単に「側鎖結晶性ポリマー(B)」と記載する場合がある)は、分子内にカルボキシル基を有さないポリマーである。側鎖結晶性ポリマー(B)は、炭素数14~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B1)を含むモノマー成分を構成単位とする。炭素数14~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸トリアコシルなどが挙げられる。このような(メタ)アクリル酸エステル(A)の中でも、炭素数18~22の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。炭素数14~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B1)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
側鎖結晶性ポリマー(B)を構成しているモノマー成分は、(メタ)アクリル酸エステル(B1)を含んでいれば、特に限定されない。但し、側鎖結晶性ポリマー(B)が分子内にカルボキシル基を有さないようにするために、例えば(メタ)アクリル酸などのような上述のカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーは、モノマー成分として採用されない。モノマー成分には、(メタ)アクリル酸エステル(B1)以外に、例えば炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B2)などが含まれていてもよい。
【0019】
炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0020】
側鎖結晶性ポリマー(B)を構成しているモノマー成分中に、炭素数14~30の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B1)は、好ましくは30~70質量%、より好ましくは40~60質量%の割合で含まれる。炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(B2)は、好ましくは30~70質量%、より好ましくは40~60質量%の割合で含まれる。
【0021】
側鎖結晶性ポリマー(B)を得るためのモノマー成分の重合方法としては特に限定されず、例えば溶液重合法、塊状重合法、縣濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。例えば、溶液重合法を採用する場合、モノマー成分と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤を添加して、撹拌しながら50~100℃程度で1~6時間程度反応させればよい。
【0022】
このような側鎖結晶性ポリマー(B)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。側鎖結晶性ポリマー(B)は、好ましくは3000~30000、より好ましくは6000~15000の重量平均分子量を有する。
【0023】
側鎖結晶性ポリマー(B)は、融点(Tm)以上の温度で粘着力が低下する。すなわち、側鎖結晶性ポリマー(B)は、融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度では相転位して流動性を示す。側鎖結晶性ポリマーの融点は特に限定されない。側鎖結晶性ポリマーは、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下の融点を有する。本明細書において「融点」とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていたポリマーの特定部分が無秩序状態になる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)によって、10℃/分の条件で測定して得られる。
【0024】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤は、ベース樹脂(A)と側鎖結晶性ポリマー(B)とを任意の割合で含み、好ましくはベース樹脂(A)100質量部に対して、側鎖結晶性ポリマー(B)が1~30質量部、より好ましくは3~20質量部の割合で含まれる。本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤は、ベース樹脂(A)と側鎖結晶性ポリマー(B)とを混合して撹拌することによって得られる。
【0025】
さらに、本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤には、凝集力を向上させるために、架橋剤が含まれていてもよい。架橋剤としては特に限定されず、例えば、アジリジン系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、金属アルコキシド系化合物、イソシアネート系化合物などが挙げられる。中でも、金属キレート系化合物が好適である。金属キレート系化合物を用いることで、高温域での剥離エネルギーの散逸が抑制され、剥離時の抵抗を抑制しやすい。
【0026】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤は、必要に応じて、可塑剤、タッキファイヤー、フィラー、酸化防止剤などが添加されていてもよい。例えば、タッキファイヤーとしては、特殊ロジンエステル系、テルペンフェノール系、石油樹脂系、高水酸基価ロジンエステル系、水素添加ロジンエステル系などが挙げられる。さらに、ポリイミド系被着体との密着性をより向上させるために、アクリル系、ゴム系などの一般的な感圧性粘着剤を添加してもよい。
【0027】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤は、好ましくは、ポリイミド系被着体に対して、23℃において2N/25mm以上の粘着強度を有し、側鎖結晶性ポリマー(B)の融点以上の温度で0.05N/25mm以下の粘着強度を有する。本明細書において、粘着強度はJIS Z0237に準拠して300mm/分で測定され、ポリイミド系被着体に対する値である。感温性粘着剤がこのような範囲の粘着強度を有していると、室温(側鎖結晶性ポリマー(B)の融点未満の温度)で、より強固にポリイミド系被着体を被着することができ、側鎖結晶性ポリマー(B)の融点以上の温度で、ポリイミド系被着体から粘着剤をより容易に剥離することができる。感温性粘着剤は、より好ましくは、23℃において5N/25mm以上の粘着強度を有し、側鎖結晶性ポリマー(B)の融点以上の温度で0.05N/25mm以下の粘着強度を有する。
【0028】
感温性粘着剤を剥離する場合には、JISで規定される速度よりも高速(例えば、3000mm/分程度)で剥離されることも多い。一般的に高速で剥離する場合には、剥離強度が高くなる傾向にある。しかし、JISで規定される300mm/分での剥離強度が0.05N/25mm以下と十分に低い場合には、高速で剥離したとしても剥離強度が上昇しにくい。したがって、一実施形態に係る感温性粘着剤は剥離する速度に関係なく、ポリイミド系被着体にダメージを与えずに剥離することができる。
【0029】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤の使用方法は特に限定されず、例えば、感温性粘着剤を、対象とするポリイミド系被着体に塗布して用いてもよく、感温性粘着剤をシート状に成形して基材レステープのように用いてもよい。
【0030】
あるいは、本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤を含む粘着剤層が、基材の少なくとも一方の面に形成された感温性粘着テープの形態で使用してもよい。基材は、好ましくはフィルム状であり、フィルム状にはシート状も包含される。基材の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトンなどの合成樹脂が挙げられる。
【0031】
基材は単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材は、通常5~500μm程度の厚みを有する。さらに、基材には、粘着剤層に対する密着性を高める目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0032】
基材の少なくとも一方の表面に、感温性粘着剤を含む粘着剤層を形成する方法は特に限定されない。例えば、感温性粘着剤に必要に応じて溶剤を加えた塗布液を、コーターなどによって基材の片面または両面に塗布して乾燥する方法などが挙げられる。コーターとしては、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。粘着剤層の厚みは特に限定されない。粘着剤層は、好ましくは1~500μm程度、より好ましくは5~60μm程度の厚みを有している。
【0033】
基材の一方の表面のみに感温性粘着剤を含む粘着剤層が形成された感温性粘着テープは、他方の表面に、例えば感圧接着剤の層が形成されていてもよく、感温性粘着剤と感圧接着剤とを含む層が形成されていてもよい。感圧接着剤としては、例えば、天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン-ブタジエンラテックスベース接着剤、ブロック共重合体型の熱可塑性ゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレン、アクリル接着剤、ビニルエーテル系共重合体などが挙げられる。感圧接着剤は市販品を使用してもよい。
【0034】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤によれば、ポリイミド系被着体に対して、感温性樹脂の融点以上の温度で粘着力が著しく低下し、容易に剥離することができる。すなわち、粘着性および剥離性がポリイミド系被着体に対して特異的に発揮される。したがって、本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤を用いることにより、ポリイミド系被着体を室温で固定してポリイミド系被着体に加工を施すことができる。加工後、感温性粘着剤に含まれる側鎖結晶性ポリマー(B)の融点以上の温度まで昇温させることによって、ポリイミド系被着体から感温性粘着剤を容易に剥離することができる。本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤を用いた感温性粘着シートおよび感温性粘着テープも同様である。
【0035】
本開示の一実施形態に係る感温性粘着剤、感温性粘着シートおよび感温性粘着テープは、例えば、キャリアテープやマスキングテープ、あるいはダイシングの際の固定や転写プロセスの際の固定などに使用される。
【実施例
【0036】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(合成例A1:ベース樹脂の合成)
表1に示すように、92質量%のアクリル酸n-ブチルと8質量%のアクリル酸とを混合し、モノマー混合物を得た。このモノマー混合物100質量部に対して、重合開始剤としてパーブチルND(日油(株)製)を0.5質量部、および溶媒として酢酸メチルを230質量部の割合で添加し、55℃で4時間重合させた。その後、80℃まで昇温し、モノマー混合物100質量部に対して、重合開始剤としてパーヘキシルPV(日油(株)製)を0.5質量部の割合で添加した。添加後2時間重合させ、共重合体(ベース樹脂)を得た。得られたベース樹脂は、約40万の重量平均分子量(Mw)を有していた。
【0038】
(合成例A2~A6:ベース樹脂の合成)
表1に記載のモノマー成分を表1に記載の割合で用いた以外は、合成例A1と同様の手順で共重合体(ベース樹脂)を得た。各ベース樹脂のMwを表1に示す。
【0039】
(比較合成例A1~A3:ベース樹脂の合成)
表1に記載のモノマー成分を表1に記載の割合で用いた以外は、合成例A1と同様の手順で共重合体(ベース樹脂)を得た。各ベース樹脂のMwを表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
(合成例B1:側鎖結晶性ポリマーの合成)
表2に示すように、45質量%のアクリル酸ベヘニル(日油(株)製)と55質量%のアクリル酸メチルとを混合し、モノマー混合物を得た。このモノマー混合物100質量部に対して、重合開始剤としてパーヘキシルPV(日油(株)製)を1質量部とドデシルメルカプタン(東京化成工業(株)製)を6質量部、および溶媒としてトルエンを100質量部の割合で添加し、80℃で3時間重合させ、共重合体(側鎖結晶性ポリマー)を得た。得られた側鎖結晶性ポリマーは、約8000の重量平均分子量(Mw)を有し、約50℃の融点(Tm)を有していた。
【0042】
(合成例B2およびB3:側鎖結晶性ポリマーの合成)
表2に記載のモノマー成分を表2に記載の割合で用いた以外は、合成例B1と同様の手順で共重合体(側鎖結晶性ポリマー)を得た。各側鎖結晶性ポリマーのMwおよびTmを表2に示す。
【0043】
(比較合成例B1およびB2:側鎖結晶性ポリマーの合成)
表2に記載のモノマー成分を表2に記載の割合で用いた以外は、合成例B1と同様の手順で共重合体(側鎖結晶性ポリマー)を得た。各側鎖結晶性ポリマーのMwおよびTmを表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
(実施例1)
合成例A1で得られたベース樹脂100質量部に対して、合成例B1で得られた側鎖結晶性ポリマーを5質量部の割合で混合し、感温性粘着剤を得た。得られた感温性粘着剤を、濃度が30質量%となるように酢酸エチルに溶解させて、感温性粘着剤溶液を調製した。得られた溶液に、架橋剤として金属キレート架橋剤(アルミニウムトリスアセチルアセトナート、川研ファインケミカル(株)製)を、ベース樹脂100質量部に対して1質量部の割合で添加し、感温性粘着剤組成物を得た。得られた感温性粘着剤組成物を、基材(100μmの厚みを有するPETフィルム)の片面に塗布することによって粘着剤層を形成した。粘着剤層は30μmの厚みを有していた。このようにして感温性粘着テープを得た。
【0046】
得られた感温性粘着テープの粘着強度を、JIS Z0237に準拠して測定した。具体的には、感温性粘着テープを25mm幅の短冊状に打ち抜き、2kgのローラーを用いてポリイミドで形成された被着体に貼り付けた。23℃で20分間静置して固定し、ロードセルを用いて300mm/分の速度で感温性粘着テープを180°剥離して、粘着剤/被着体界面でのり残りなく剥離したサンプルの23℃における接着強度を測定した。得られた接着強度を下記の基準で評価し、AまたはBの場合に十分な固定性を有していると評価した。結果を表3に示す。
<評価基準>
A:接着強度が5N/25mm以上の場合。
B:接着強度が2N/25mm以上5N/25mm未満の場合。
C:接着強度が2N/25mm未満の場合。
【0047】
次いで、23℃で20分間静置して固定するまでは、上述と同様の手順で行った。その後、60℃で20分間静置し、ロードセルを用いて300mm/分の速度で感温性粘着テープを180°剥離して、60℃における接着強度を測定した。得られた接着強度を下記の基準で評価し、AまたはBの場合に十分な剥離性を有していると評価した。結果を表3に示す。
<評価基準>
A:接着強度が0.05N/25mm以下の場合。
B:接着強度が0.05N/25mmを超え0.1N/25mm以下の場合。
C:接着強度が0.1N/25mmを超える場合。
【0048】
(実施例2~8)
表3に示すベース樹脂および側鎖結晶性ポリマーを表3に示す割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着剤を得た。得られた感温性粘着剤をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着剤組成物を得た。得られた感温性粘着剤組成物をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着テープを得た。感温性粘着テープの粘着剤層は30μmの厚みを有していた。実施例2~8で得られた感温性粘着テープそれぞれについて、実施例1と同様の手順で23℃および60℃における接着強度を測定した。結果を表3に示す。
【0049】
(比較例1~6)
表3に示すベース樹脂および側鎖結晶性ポリマーを表3に示す割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着剤を得た。得られた感温性粘着剤をそれぞれ用い、濃度が30質量%となるように酢酸エチルに溶解させ、金属キレート架橋剤(アルミニウムトリスアセチルアセトナート、川研ファインケミカル(株)製)を、ベース樹脂100質量部に対して比較例1~3では1質量部を、比較例4~6では2質量部の割合で添加し、感温性粘着剤組成物を得た。得られた感温性粘着剤組成物をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着テープを得た。感温性粘着テープの粘着剤層は30μmの厚みを有していた。比較例1~6で得られた感温性粘着テープそれぞれについて、実施例1と同様の手順で23℃および60℃における接着強度を測定した。結果を表3に示す。
【0050】
(比較例7および8)
表3に示すベース樹脂および側鎖結晶性ポリマーを表3に示す割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着剤を得た。得られた感温性粘着剤をそれぞれ用い、濃度が30質量%となるように酢酸エチルに溶解させ、イソシアネート系架橋剤(コロネートL45、東ソー(株)製)を、ベース樹脂100質量部に対して1質量部の割合で添加し、感温性粘着剤組成物を得た。得られた感温性粘着剤組成物をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順で感温性粘着テープを得た。感温性粘着テープの粘着剤層は30μmの厚みを有していた。比較例1~8で得られた感温性粘着テープそれぞれについて、実施例1と同様の手順で23℃および60℃における接着強度を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、実施例1~8で得られた感温性粘着剤(感温性粘着テープ)は、ポリイミドで形成された被着体に対して、23℃(室温)において十分な固定性を有し、60℃(側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度)で十分な剥離性を有していることがわかる。したがって、実施例1~8で得られた感温性粘着剤(感温性粘着テープ)は、室温において、ポリイミド系被着体を十分に固定することができ、側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度において、ポリイミド系被着体から容易に剥離することができる。
【0053】
一方、比較例1では側鎖結晶性ポリマーを使用しておらず、比較例2、3、6および8では、分子内にカルボキシル基を含む側鎖結晶性ポリマーを使用し、比較例4~8では、炭素数4~7の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(A2)を含まないモノマー混合物の共重合体をベース樹脂として使用している。そのため、比較例1~8で得られた感温性粘着剤(感温性粘着テープ)は、ポリイミドで形成された被着体に対して、固定性および剥離性の少なくとも一方に劣ることがわかる。