IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オークマ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-検出ロータの偏心量算出装置 図1
  • 特許-検出ロータの偏心量算出装置 図2
  • 特許-検出ロータの偏心量算出装置 図3
  • 特許-検出ロータの偏心量算出装置 図4
  • 特許-検出ロータの偏心量算出装置 図5
  • 特許-検出ロータの偏心量算出装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】検出ロータの偏心量算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/12 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
G01D5/12 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018151888
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020027027
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 伸二
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-57761(JP,A)
【文献】特開平7-253375(JP,A)
【文献】国際公開第2013/156363(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/40
G01B 7/30-7/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その周面に複数の歯が設けられた検出ロータと、前記検出ロータとともに回転する回転軸部と、前記検出ロータの回転角度を検出するセンサ部と、を有する回転位置検出器の製造過程において、前記検出ロータの前記回転軸部に対する偏心量を算出する検出ロータの偏心量算出装置であって、
前記検出ロータの周面までの距離に応じた信号を出力する検出部が、90度間隔で4つ設けられた中心検出センサと、
前記中心検出センサを、前記検出ロータに対して相対的に回転させる回転テーブルと、
前記中心検出センサからの出力信号に基づいて前記検出ロータの前記回転軸部に対する偏心量を演算する演算器と、
を備え、
前記中心検出センサは、180度対向配置された二つのX方向検出部と、前記X方向検出部に対して90度位相をずらして配置された二つのY方向検出部と、を有し、前記二つのX方向検出部の出力信号の差分値をX方向変位として、前記二つのY方向検出部の出力信号の差分値をY方向変位として、出力し
前記演算器は、前記検出ロータの歯数の約数かつ5以上の自然数をnとした場合、前記回転テーブルを[360/n]°ずつ回転させて、[360/n]°の角度ごとに読み出した前記X方向変位および前記Y方向変位の少なくとも一方に基づいて、前記検出ロータの偏心量を算出する、
ことを特徴とする検出ロータの偏心量算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検出ロータの偏心量算出装置であって、
前記演算器は、k回目に読み出されたX方向変位およびY方向変位をX、Yとした場合、回転に伴い正弦波状に変動する偏心量D(θ)=A×sin(θ+α)の振幅Aおよび位相αを、式1-4、および、式5-8の少なくとも一方に基づいて算出する、ことを特徴とする検出ロータの偏心量算出装置。
【数1】
【請求項3】
請求項2に記載の検出ロータの偏心量算出装置であって、
前記演算器は、回転角度θにおけるX方向偏心量DX(θ)およびY方向偏心量DY(θ)を式9-10に基づいて算出する、ことを特徴とする検出ロータの偏心量算出装置。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、回転軸部の端面に固定された検出ロータの歯(凹凸)を元に回転位置を検出する回転位置検出器の製造過程において、検出ロータの回転軸部に対する偏心量を算出する偏心量算出装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
回転位置検出器の製造過程において、検出ロータを回転軸部に対して芯出しする芯出し装置としては、特許文献1,2が公知である。特許文献1では、内周部に複数の歯を備えるとともに磁性体からなるロータ変位検出用コアの歯に、ロータとの距離に比例した信号を出力する検出巻線を1以上巻回して、中心検出センサを構成している。そして、特許文献1では、中心検出センサを検出ロータに対して相対回転させた際に、この検出巻線から得られる出力信号に基づいて回転中心に対する検出ロータの位置を変更する。また、特許文献2には、ドラムを介して、検出ロータを回転軸部に押し付け、ドラムに圧電素子を使用した衝撃付与機構を接触させた状態で、衝撃付与機構を駆動することで、間接的に検出ロータを動かす技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-83357号公報
【文献】特開2017-32487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2は、専ら、検出ロータを動かす技術が開示されており、偏心量の算出については、十分な説明がされていない。また、特許文献1の技術によれば、各巻線からは、検出ロータとの距離に比例した信号が出力される。この出力信号は、中心検出センサの検出ロータに対する相対回転に伴い、変動する。そして、この出力信号には、通常、検出ロータの偏心に起因する変動成分と、検出ロータの真円度誤差に起因する変動成分と、検出ロータの凹凸(歯)に起因する変動成分と、が含まれている。特許文献1では、検出ロータの真円度誤差に起因する変動成分および検出ロータの凹凸(歯)に起因する変動成分について十分に検討されていなかった。その結果、特許文献1では、検出ロータの偏心量を正確に算出できない。
【0005】
そこで、本明細書では、検出ロータの偏心量をより正確に算出できる検出ロータの偏心量算出装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の偏心量算出装置は、その周面に複数の歯が設けられた検出ロータと、前記検出ロータとともに回転する回転軸部と、前記検出ロータの回転角度を検出するセンサ部と、を有する回転位置検出器の製造過程において、前記検出ロータの前記回転軸部に対する偏心量を算出する検出ロータの偏心量算出装置であって、前記検出ロータの周面までの距離に応じた信号を出力する検出部が、90度間隔で4つ設けられた中心検出センサと、前記中心検出センサを、前記検出ロータに対して相対的に回転させる回転テーブルと、前記中心検出センサからの出力信号に基づいて前記検出ロータの前記回転軸部に対する偏心量を演算する演算器と、を備え、前記中心検出センサは、180度対向配置された二つのX方向検出部と、前記X方向検出部に対して90度位相をずらして配置された二つのY方向検出部と、を有し、前記二つのX方向検出部の出力信号の差分値をX方向変位として、前記二つのY方向検出部の出力信号の差分値をY方向変位として、出力し、前記演算器は、前記検出ロータの歯数の約数かつ5以上の自然数をnとした場合、前記回転テーブルを[360/n]°ずつ回転させて、[360/n]°の角度ごとに読み出した前記X方向変位および前記Y方向変位の少なくとも一方に基づいて、前記検出ロータの偏心量を算出する、ことを特徴とする。
【0007】
二つの検出部の出力信号の差分値であるX方向変位およびY方向変位には、偏心に起因する変動成分Eだけでなく、検出ロータの真円誤差に起因する変動成分e1と、検出ロータの周面に設けられた歯(凹凸)に起因する変動成分e2も含まれる。[360/n]°の角度ごとに読み出されたX方向変位およびY方向変位に含まれる変動成分e2の値は、同じになるため、変動成分e1を単なるオフセットとして取り扱うことができる。また、[360/n]°の角度ごとに読み出されたn個のX方向変位およびY方向変位に含まれる変動成分e1は、対称性を持つため、所定の演算を行なうことで相殺することができる。結果として、得られたX方向変位およびY方向変位の少なくとも一方から偏心に起因する変動成分Eだけを取り出すことが可能となり、検出ロータの偏心量をより正確に算出できる。
【0008】
この場合、前記演算器は、k回目に読み出されたX方向変位およびY方向変位をX、Yとした場合、回転に伴い正弦波状に変動する偏心量D(θ)=A×sin(θ+α)の振幅Aおよび位相αを、式1-4、および、式5-8の少なくとも一方に基づいて算出してもよい。
【数1】
【0009】
式1,2または式5,6の演算を行なうことで、X方向変位またはY方向変位に含まれる変動成分e1,e2を相殺できる。そして、変動成分e1,e2が相殺されたXSS,XCSまたはYSS,YCSに基づいて偏心量の振幅Aおよび位相αを求めることで、検出ロータの偏心量をより正確に算出できる。
【0010】
この場合、前記演算器は、回転角度θにおけるX方向偏心量DX(θ)およびY方向偏心量DY(θ)を式9-10に基づいて算出してもよい。
【数2】
【0011】
X方向変位から求めた振幅A=RXおよび位相α=PXと、Y方向変位から求めた振幅A=RYおよび位相α=PYの双方を用いて、X方向変位およびY方向変位を算出することで、誤差を平均化でき、検出ロータの偏心量をより正確に算出できる。
【発明の効果】
【0012】
本明細書に開示の偏心量算出装置によれば、検出ロータの偏心量をより正確に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】偏心量算出装置を組み込んだロータ芯出し装置の概略構成図である。
図2図1のA-A線での概略断面図である。
図3】偏心量算出装置の概略ブロック図である。
図4】X方向変位に含まれる変動成分を示す図である。
図5】真円誤差に起因する変動成分e1(θ)を図4から抜き出した図である。
図6】凹凸に起因する変動成分e2(θ)を図4から抜き出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
偏心量算出装置が組み込まれた検出ロータ芯出し装置の概略構成図を図1に示す。また、図2は、図1のA-A線での概略断面図である。また、図3は、偏心量算出装置の概略ブロック図である。検出ロータ芯出し装置は、回転位置検出器の製造過程において、回転軸部W3に対する検出ロータW1の芯出しを行なう。回転位置検出器は、検出対象とともに回転する回転軸部W3と、当該回転軸部W3の軸方向端面に固定される検出ロータW1と、回転軸部W3に圧入された軸受W4,W5と、軸受W4,W5の外輪に接着剤で固定されたハウジングW2と、ハウジングW2に固定されたセンサ部(図示せず)と、を有している。本例の回転位置検出器は、リラクタンス型レゾルバ式である。そのため、検出ロータW1は、磁性体からなり、外周面に複数の歯(凹凸)が形成されている。また、センサ部は、いわゆる、レゾルバステータであり、内周部に複数の歯が形成されたコアと、当該コアに巻回された巻線と、を有している。
【0015】
製造過程では、検出ロータW1は、接着剤を介して回転軸部W3の上に置かれる。この接着剤は、例えば、粘性の高いエラストマー変性アクリレート系の接着剤であり、塗布してしばらくの間は、流動性を維持している。そして、この接着剤が硬化するまでは、検出ロータW1と回転軸部W3との間の摩擦抵抗が極めて低くなっており、検出ロータW1は、回転軸部W3に対して面方向に動くことができる。検出ロータW1の芯出しを行なう際、回転軸部W3は、固定軸8を介してベース7にネジ止め等で固定される。換言すれば、回転軸部W3および検出ロータW1は、回転不能な状態で検出ロータ芯出し装置にセットされる。
【0016】
ハウジングW2には、センサ部に替えて、芯出し中心検出センサ30がネジ等で固定されている。芯出し中心検出センサ30は、回転位置検出器のレゾルバステータ(センサ部)とほぼ同様の構成であり、内周部に複数の歯が形成されたコアと、当該コアに巻回された巻線と、を有している。なお、回転位置検出器のレゾルバステータ(センサ部)を、芯出し中心検出センサ30として用いてもよい。
【0017】
ハウジングW2は、回転テーブル2に支持されている。回転テーブル2は、固定軸8(ひいては回転軸部W3)を中心として回転するテーブルである。この回転テーブル2が回転することで、ハウジングW2に固定された芯出し中心検出センサ30の検出ロータW1に対する位相(回転角度)が変化する。
【0018】
検出ロータW1の上方には、軸方向に進退(昇降)可能なエアーシリンダ51が設けられている。このエアーシリンダ51は、支柱28を介してベース7に固定される。また、エアーシリンダ51と検出ロータW1との間には、ドラム50が介在しており、エアーシリンダ51は、ドラム50を介して検出ロータW1を図示しないエアーの圧力により軸方向に加圧する。エアーシリンダ51とドラム50の接触面は、グリースを塗った鏡面加工面で接しており、摩擦力が十分に小さくなっている。そのため、ドラム50は、エアーシリンダ51に対して径方向に移動できるようになっている。その一方で、ドラム50の下面には、摩擦係数が大きな薄いゴム等が張り付けられており、ドラム50は、検出ロータW1の軸方向端面と摩擦係合されている。そのため、ドラム50が衝撃を受けて移動すると、検出ロータW1は、当該ドラム50と一緒に移動する。
【0019】
ドラム50の周囲には、4つのソレノイドアクチュエータ31,32,33,34が90度間隔で配置されている。各ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34は、径方向に進出してドラム50に衝突することで、ドラム50とともに検出ロータW1を径方向に移動させる衝撃力付与機構として機能する。また、各ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34は、後述する前進後退シリンダ61,62,63,64、支柱41,42,43,44を介して、ベース7に取り付けられており、検出ロータW1に対して回転不能である。
【0020】
ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34は、その可動部が径方向に進出(ドラム50に近づく方向に移動)した状態と、後退(ドラム50から離れる方向に移動)した待機状態と、をとることができる。4つのソレノイドアクチュエータ31,32,33,34は、待機状態において、ドラム50との間に十分な隙間を開けた状態で配置される。この隙間は、検出ロータW1と芯出し中心検出センサ30との隙間以上となるように設定され、例えば2mm程度である。ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34のストロークは、この間隙以上、例えば7mm程度である。したがって、ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34は、ドラム50から完全に離間した待機位置から、ドラム50に衝突する位置まで進退可能といえる。
【0021】
ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34のソレノイドには、可変電源73および絶縁アンプ74を介して電圧が印加される。電圧が印加されると、磁界中のコイル(ソレノイド)に電流が流れ、駆動トルクが発生する。このトルクにより、ソレノイドアクチュエータの駆動部が、径方向に進出(ドラム50に近づく方向に移動)する。この駆動部は、前記隙間の区間は加速した後にドラム50に衝突することで、ドラム50を動かす。ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34を径方向に後退(ドラム50から離れる方向に移動)させる際には、ソレノイドへの電圧印加を解除する。これにより、駆動部は、ソレノイドアクチュエータに設置されたバネにより、元の位置に戻る。
【0022】
上述したとおり、ドラム50は、エアーシリンダ51に対して水平方向に滑ることができる一方で、検出ロータW1と摩擦係合されている。したがって、ドラム50に衝撃力が付与されると、当該ドラム50は、検出ロータW1を引きずりながら水平方向に移動する。
【0023】
なお、当該芯出し装置から、回転位置検出器を着脱する際には、各ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34とドラム50との間により大きな間隙(例えば数十cm)が必要となる。そこで、回転位置検出器の着脱用のスペースを確保するために、本例では、ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34は、前進後退シリンダ61,62,63,64に載置されている。各前進後退シリンダ61,62,63,64は、回転テーブル2ではなく、固定部材であるベース7に支柱41,42,43,44を介してネジ等で固定されている。各前進後退シリンダ61,62,63,64は、回転位置検出器を着脱する際には、径方向に後退して、ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34全体を、ドラム50から大きく離れさせる。その一方、芯出し処理を行う際には、各前進後退シリンダ61,62,63,64は、径方向に進出して、ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34全体を、ドラム50に近接させる。
【0024】
こうした検出ロータ芯出し装置には、検出ロータの偏心量を算出する偏心量算出装置が組み込まれている。偏心量算出装置は、図3に示す通り、芯出し中心検出センサ30と、芯出し中心検出センサ30を検出ロータW1に対して相対回転させる回転テーブル2と、芯出し中心検出センサ30の検出値に基づいて偏心量を算出する演算器72と、を備えている。
【0025】
本例において、芯出し中心検出センサ30は、回転位置検出器のレゾルバステータと同様の構成である。したがって、芯出し中心検出センサ30は、例えば、検出ロータW1の径方向端面までの距離に応じた信号を出力する検出部が、90度間隔で4つ設けられている。各検出部は、磁性体からなるステータコアの極歯に巻線を巻回することで構成される。以下では、4つの検出部のうち、180度対向する2つの検出部を「X方向検出部」と呼び、X方向検出部と90度位相がずれた2つの検出部を「Y方向検出部」と呼ぶ。芯出し中心検出センサ30は、二つのX方向検出部の差分信号を、X方向変位として出力し、二つのY方向検出部の差分信号をY方向変位として出力する。また、以下では、回転テーブル2(ひいては、芯出し中心検出センサ30)の回転角度を「θ」とし、2つのX方向検出部とソレノイドアクチュエータ31,32の位相が一致する角度をθ=0°とする。また、回転角度θにおけるX方向変位をX(θ)、Y方向変位をY(θ)と表記する。
【0026】
演算器72には、この芯出し中心検出センサ30の出力信号、すなわち、X方向変位とY方向変位と、が入力される。演算器72は、このX方向変位およびY方向変位に基づいて、検出ロータW1の偏心量を算出する。また、演算器72は、算出された偏心量に基づいて、可変電源73および絶縁アンプ74を制御したり、回転テーブル2の回転駆動を制御したりもする。いわば、演算器72は、検出ロータ芯出し装置の制御部としても機能する。
【0027】
この演算器72による偏心量の算出について説明する前に、X方向変位およびY方向変位について図4図5を参照して説明する。図4は、X方向変位X(θ)に含まれる変動成分を示す図である。図4において、横軸は、回転角度θである。
【0028】
一般に、X方向変位X(θ)は、回転角度θの変化に伴い変動する。このX方向変位X(θ)には、検出ロータW1の偏心に起因する変動成分E(θ)と、検出ロータW1の真円度誤差に起因する変動成分e1(θ)と、検出ロータW1の凹凸(歯)に起因する変動成分e2(θ)と、が含まれている。図4において、二点鎖線は、偏心に起因する変動成分E(θ)を、一点鎖線は、真円誤差に起因する変動成分e1(θ)を、破線は、凹凸に起因する変動成分e2(θ)を、それぞれ示している。また、図5は、真円誤差に起因する変動成分e1(θ)を、図6は、凹凸に起因する変動成分e2(θ)を抜き出したグラフである。
【0029】
X方向変位(θ)は、これら三つの変動成分の合計であり、X(θ)=E(θ)+e1(θ)+e2(θ)である。図4において、実線は、X方向変位(θ)を示している。なお、Y方向変位Y(θ)は、X方向変位(θ)に対して90度位相がずれた信号、すなわち、X(θ)=Y(θ+90°)となる。
【0030】
具体的に各変動成分について説明する。検出ロータW1が真円でない場合、検出ロータW1が偏心していなくても、回転角度θによって、X方向検出部から検出ロータW1の外周面までの距離が変化し、X方向変位X(θ)が変動する。変動成分e1(θ)は、この真円誤差に起因して生じる変動成分である。変動成分e1(θ)は、真円誤差と同じ周期で正弦波状に変動する成分である。真円誤差は、主に、2周期、3周期であることが多い。図4では、真円誤差が3周期であり、120度周期で変動する変動成分e1(θ)を例示している。
【0031】
また、検出ロータW1の外周面には、複数の凹凸(歯)が形成されている。この凹凸があることで、検出ロータW1が偏心していなくても、回転角度によって、X方向検出部から検出ロータW1の外周面までの距離が変化し、X方向変位X(θ)が変化する。変動成分e2(θ)は、この検出ロータW1の凹凸に起因して生じる変動成分である。変動成分e2(θ)は、検出ロータW1の歯数と同じ周期で正弦波状に変動する。図4では、検出ロータW1の歯数が5であり、変動成分e2(θ)は、360°/5=72°周期で変動している場合を示している。
【0032】
ここで、芯出し中心検出センサ30の変位情報は、本来ならば、検出ロータW1の凹凸成分(e2(θ))を打消すような極歯と巻線の構造とし、芯出し中心検出センサと検出ロータの間隙のXY方向の差分のみを検出したい。しかし、極歯の形状誤差等により検出ロータの凹凸成分、すなわち、変動成分e2(θ)が僅かに残る。
【0033】
偏心に起因する変動成分E(θ)は、360°周期で正弦波状に変動する成分である。そのため、変動成分E(θ)は、E(θ)=A×sin(θ+α)+Bと表すことができる。この変動成分E(θ)の振動の中心からの距離、すなわち、D(θ)=A×sin(θ+α)が、演算器72で算出すべき偏心量(すなわち芯出しするために検出ロータを移動させる量)となる。したがって、偏心量D(θ)は、偏心に起因する変動成分E(θ)の振幅Aおよび位相差αが求まれば、算出できる。演算器72は、X方向変位X(θ)またはY方向変位Y(θ)またはその両方から、真円誤差に起因する変動成分e1(θ)および凹凸に起因する変動成分e2(θ)を除去して、偏心に起因する変動成分E(θ)の振幅Aおよび位相差αを求め、偏心量D(θ)を算出する。
【0034】
次に、演算器72による偏心量D(θ)の具体的な算出手順について説明する。偏心量D(θ)の算出に先立って、演算器72は、回転テーブル2を、[360/n]°ずつ回転させるように指令する。ここで、数値nは、検出ロータの歯数の約数、かつ、5以上の自然数である。この数値nは、ユーザが、選択して、演算器72に入力してもよい。また、別の形態として、演算器72が、検出ロータの歯数から、数値nを自動的に特定するようにしてもよい。例えば、後述するように、数値nは、小さいほうが演算処理を少なく出来る。そこで、演算器72は、検出ロータの歯数の約数、かつ、5以上の自然数のうち、最も小さい数値をnとして特定してもよい。したがって、例えば、検出ロータW1の歯数が35(約数1,5,7,35)の場合、n=5とすればよい。また、歯数が28(約数1,2,4,7,14,28)の場合、n=7とすればよい。
【0035】
いずれにしても、演算器72は、回転テーブル2を、[360/n]°ずつ回転させ、X方向変位X(θ)およびY方向変位Y(θ)をn回取得する。例えば、検出ロータW1の歯数が5であり、n=5の場合、演算器72は、回転テーブルを72°ずつ回転させ、X方向変位X(θ)およびY方向変位Y(θ)を5回取得する。なお、以下では、k回目(k=1,2,・・・,n)、すなわち、回転角度θ=k×(360/n)°において取得されたX方向変位X(θ)およびY方向変位Y(θ)を、それぞれ、X、Yと表記する。
【0036】
n個のX方向変位XおよびY方向変位Yが取得できれば、演算器72は、式1-8に基づいて、偏心に起因する変動成分E(θ)の振幅Aおよび位相αを算出する。なお、式4,8において、Atan2(x,y)とは、x軸と、原点(0,0)および座標(x,y)を通る線と、の間の角度を意味している。
【数3】
【0037】
ここで、式1,2の演算により、真円誤差に起因する変動成分e1(θ)と凹凸に起因する変動成分e2(θ)は、相殺される。すなわち、Xに含まれる変動成分E(θ)を、Ekとした場合、式1の値は、Σ(Ek×sin(360/n)×k)と等価となる。また、式2の値は、Σ(Ek×cos(360/n)×k)と等価となる。同様に、式3,4の演算でも、真円誤差に起因する変動成分e1(θ)と凹凸に起因する変動成分e2(θ)は、相殺される。
【0038】
演算器72は、変動成分e1(θ)および変動成分e2(θ)の影響が除去されたXSS,XCSを、式3,4に代入することで、X方向変位X(θ)に含まれる変動成分Eの振幅Aおよび位相差αを算出する。同様に、変動成分e1(θ)および変動成分e2(θ)の影響が除去されたYSS,YCSを、式7,8に代入することで、Y方向変位Y(θ)に含まれる変動成分Eの振幅Aおよび位相差αが求まる。
【0039】
なお、Y方向変位Y(θ)に含まれる変動成分E(θ)は、X方向変位(θ)に含まれる変動成分E(θ)に対して90度位相がずれた信号であり、両成分の振幅は同じである。そのため、X方向変位X(θ)に含まれる変動成分E(θ)の振幅Aを示す式3の値と、Y方向変位Y(θ)に含まれる変動成分E(θ)の振幅Aを示す式7の値は、理論上は、同じになる。また、X方向変位X(θ)に含まれる変動成分E(θ)と、Y方向変位(θ)に含まれる変動成分E(θ)は、90度位相がずれているため、それぞれの位相差PX,PYは、理論上、90度ずれており、PX=(PY-90°)が成立する。
【0040】
偏心量D(θ)は、X方向変位Xから算出した振幅A=2・RXおよび位相差α=PXの組み合わせ、あるいは、Y方向変位Yから算出した振幅A=2・RYおよび位相差α=PYの組み合わせから求めることができる。本例では、X方向変位およびY方向変位に含まれる測定誤差等を相殺するために、これら4つの数値RX,PX,RY,PY全てを用いて、偏心量DX(θ)、DY(θ)を算出する。具体的には、角度θにおけるX方向の偏心量DX(θ)を以下の式9で、Y方向の偏心量DY(θ)を式10で求めている。
【数4】
【0041】
ただし、理論上は、RY=RXであり、PY=PX+90°である。そのため、RXとPX、および、RYとPYの少なくとも一方の組だけを算出し、当該一方の組から偏心量DX(θ),DY(θ)を算出してもよい。例えば、RX,PYを算出することなく、以下の式11,12でDX(θ)、DY(θ)を算出してもよい。
DX(θ)=(RX*sin(RY+θ)) 式11
DY(θ)=DX(θ+90°) 式12
【0042】
実際の制御では、演算器72は、回転角度θ=0におけるX方向偏心量DX(0)とY方向偏心量DY(0)を求める。演算器72は、偏心量DX(θ),DY(θ)が算出できれば、絶縁アンプ74を介して、ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34に指令を送り、ドラム50をソレノイドアクチュエータ31,32,33,34の可動部で叩くことにより間接的に検出ロータをX方向へDX(0)、Y方向へDY(0)だけ動かす。
【0043】
ドラム50を叩いた後は、回転テーブル2のθ=0の位置に回転させたうえで、再度、芯出し中心検出センサ30を用いて、検出ロータW1までの距離を計測する。計測の結果、検出ロータW1の移動量が偏心量DX(θ),DY(θ)に達していない場合、あるいは、超過した場合には、再び、ソレノイドアクチュエータ31,32,33,34に指令を送り、ドラム50をソレノイドアクチュエータ31,32,33,34の可動部で叩く。一方、検出ロータW1が、上述の偏心量DX(θ),DY(θ)だけ移動していれば、処理は終了となる。
【0044】
ここで、本例では、X方向変位X(θ)およびY方向変位Y(θ)を、[360/n]°の回転角度ごとに、n回取得する。そして、本例では、数値nを、検出ロータW1の歯数の約数、かつ、5以上の自然数としている。かかる構成とする理由について図4図6を参照して説明する。既述したとおり、図4図6は、歯数5の検出ロータW1を測定した際のX方向変位X(θ)、および、X方向変位X(θ)に含まれる変動成分E(θ),e1(θ),e2(θ)を示している。また、図4における点X~Xは、それぞれ、72°ごとに取得されたX方向変位Xの値を示しており、図5図6における点e1~e1、点e2~e2は、X方向変位Xに含まれる変動成分e1(θ),e2(θ)の値を示している。
【0045】
図6に示す通り、変動成分e2(θ)は、検出ロータW1の歯と同じ周期で変動するため、この歯数の約数で等間隔となる角度ごとに読み出されるX方向変位Xに含まれる変動成分e2の値は、全て同じとなる。したがって、この場合、変動成分e2は、単なるオフセットとして扱うことができ、振幅Aおよび位相αの算出において、検出ロータW1の外周端に形成された凹凸の影響を無視できる。
【0046】
また、X方向変位X(θ)には、変動成分e2(θ)だけでなく、検出ロータW1の真円誤差に起因する変動成分e1(θ)も含まれる。この変動成分e1(θ)は、検出ロータW1によって異なるが、多くの場合、2周期成分および3周期成分のみを含むことが多い。このような2周期成分および3周期成分は、360°を5以上の自然数で割った角度ごとにサンプリングすると対称性を持つ。例えば、図4の例では、e1=-1×E1であり、e1=-1×e1となり、e1は、(e1-e1)/2、かつ、(e1-e1)/2となっている。このように変動成分e1は、対称性を持っているため、式1,2または式5,6の演算を行なうことで、変動成分e1を相殺することができる。このような相殺は、nを5以上に設定した場合にのみ可能である。そこで、本例では、nを5以上としている。
【0047】
以上の説明から明らかなとおり、本例の偏心量算出装置によれば、偏心量算出の過程で、検出ロータW1の真円度誤差および検出ロータW1の凹凸(歯)の影響を相殺できる。その結果、検出ロータの偏心量をより正確に算出できる。
【0048】
なお、上述の説明では、回転テーブル2は、芯出し中心検出センサ30を、検出ロータW1に対して相対的に回転させることができるのであれば他の構成でもよい。例えば、芯出し中心検出センサ30を回転不能とし、回転位置検出器(検出ロータW1)およびソレノイドアクチュエータ31,32,33,34を回転させる回転テーブルを設けてもよい。
【符号の説明】
【0049】
W1 検出ロータ、W2 ハウジング、W3 回転軸部、W4,W5 軸受、2 回転テーブル、7 ベース、8 固定軸、28 支柱、30 芯出し中心検出センサ、31,32,33,34 ソレノイドアクチュエータ、41,42,43,44 支柱、51 エアーシリンダー、61,62,63,64 前進後退シリンダ、50 ドラム、72 演算器、73 可変電源、74 絶縁アンプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6