(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】車両の走行制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/12 20200101AFI20220309BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20220309BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20220309BHJP
B60W 50/10 20120101ALI20220309BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
B60W30/12
B60W40/06
B60W40/105
B60W50/10
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2018157533
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2019-03-28
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 哉
【合議体】
【審判長】金澤 俊郎
【審判官】星名 真幸
【審判官】鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-131838(JP,A)
【文献】特開2017-52300(JP,A)
【文献】特開2002-32125(JP,A)
【文献】特開2011-108016(JP,A)
【文献】特開2015-141101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W10/00-10/30
B60W30/00-60/00
G08G1/00-1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動運転モードと、ドライバによるステアリングの保舵を前提として運転支援制御を行う第1の運転支援モードと、ドライバによるステアリングの保舵を必要とすることなく運転支援制御を行う第2の運転支援モードとを備える車両の走行制御システムであって、
前記第2の運転支援モードでの走行中に走行環境の悪化のレベルを評価し、前記走行環境の悪化のレベルに基づいて前記第2の運転支援モードを継続可能な自動運転可能車速を算出する自動運転可能車速算出部と、
前記第2の運転支援モードにおける
セット車速と前記自動運転可能車速とを比較し、前記第2の運転支援モードによる運転支援制御を継続可能か否かを判断する運転支援モード継続判断部と、
前記運転支援モード継続判断部で前記第2の運転支援モードによる運転支援制御
を前記セット車速で継続することが不可と判断されたとき、前記第2の運転支援モード
を前記セット車速よりも車速を下げて継続させるか、又は前記第1の運転支援モード
に遷移して前記セット車速を維持するかをドライバに選択させる運転支援モード選択部と、
前記運転支援モード選択部で前記第1の運転支援モードへの遷移が選択されたとき、前記第1の運転支援モードで前記第2の運転支援モードの
前記セット車速を維持可能とする一方、前記運転支援モード選択部で前記第2の運転支援モードの継続が選択されたとき、前記第2の運転支援モードの
前記セット車速を前記自動運転可能車速まで低減することにより前記第2の運転支援モードによる運転支援制御を継続可能とする運転支援モード継続部と
を備えることを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項2】
前記自動運転可能車速算出部は、前記走行環境の悪化のレベル
を車両制御状態の変化から評価することを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御システム。
【請求項3】
前記運転支援モード選択部は、ドライバがステアリングを保舵したことを検出したとき、前記第1の運転支援モードが選択されたと判断して、前記第2の運転支援モードから前記第1の運転支援モードに遷移させることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御システム。
【請求項4】
前記運転支援モード継続
判断部は、前記自動運転可能車速が予め定められた下限車速を下回ったとき、前記手動運転モード若しくは車両を安全な場所に自動的に停止させる自動停車モードに遷移させることを特徴とする請求項1に記載の車両の走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバによるステアリングの保舵を前提とする運転支援モードと、ドライバによるステアリングの保舵を必要としない運転支援モードとを備える車両の走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、ドライバの負担を軽減して快適且つ安全な走行を実現するため、ドライバによるステアリングの保舵を前提とせずに車両の自動運転を行うシステムが開発され、一部は実用化されている。この自動運転の機能を実現するためには、周囲環境の確実なセンシングと道路環境の安定性が必要であり、周囲環境や道路環境が悪化した場合には、自動運転の機能を制限若しくは自動運転からドライバのステアリング保舵を必要する運転支援モードに遷移させる必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2017-128180号公報)には、自動運転の継続が困難と判断される機能のみをドライバの操作に引き継ぎ、それ以外の自動運転の機能のみを継続する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、自動運転を継続可能か否かは、走行環境の悪化から一義的に判断している。しかしながら、走行環境が悪化しても、条件によっては自動運転を継続可能な場合があり、このような場合、一義的に自動運転の機能を制限若しくはドライバの保舵を必要とする運転支援モードに切り換えると、ドライバが短時間で運転姿勢を整えなければならず、ドライバの負担が増えるばかりでなく、自動運転の利便性を損なうことになる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、走行環境の悪化のレベルを評価してドライバによるステアリングの保舵を前提としない運転支援モードを可能な限り継続させることのできる車両の走行制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による車両の走行制御システムは、手動運転モードと、ドライバによるステアリングの保舵を前提として運転支援制御を行う第1の運転支援モードと、ドライバによるステアリングの保舵を必要とすることなく運転支援制御を行う第2の運転支援モードとを備える車両の走行制御システムであって、前記第2の運転支援モードでの走行中に走行環境の悪化のレベルを評価し、前記走行環境の悪化のレベルに基づいて前記第2の運転支援モードを継続可能な自動運転可能車速を算出する自動運転可能車速算出部と、前記第2の運転支援モードにおけるセット車速と前記自動運転可能車速とを比較し、前記第2の運転支援モードによる運転支援制御を継続可能か否かを判断する運転支援モード継続判断部と、前記運転支援モード継続判断部で前記第2の運転支援モードによる運転支援制御を前記セット車速で継続することが不可と判断されたとき、前記第2の運転支援モードを前記セット車速よりも車速を下げて継続させるか、又は前記第1の運転支援モードに遷移して前記セット車速を維持するかをドライバに選択させる運転支援モード選択部と、前記運転支援モード選択部で前記第1の運転支援モードへの遷移が選択されたとき、前記第1の運転支援モードで前記第2の運転支援モードの前記セット車速を維持可能とする一方、前記運転支援モード選択部で前記第2の運転支援モードの継続が選択されたとき、前記第2の運転支援モードの前記セット車速を前記自動運転可能車速まで低減することにより前記第2の運転支援モードによる運転支援制御を継続可能とする運転支援モード継続部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、走行環境の悪化のレベルを評価してドライバによるステアリングの保舵を前提としない運転支援モードを可能な限り継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】運転支援モード遷移処理のメインルーチンを示すフローチャート
【
図4】横風時自動運転安定車速算出処理のサブルーチンを示すフローチャート
【
図5】雨天時自動運転安定車速算出処理のサブルーチンを示すフローチャート
【
図6】降雪時自動運転安定車速算出処理のサブルーチンを示すフローチャート
【
図7】路面自動運転安定車速算出処理のサブルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、自動車等の車両の走行制御システムであり、車両の自律的な自動運転を含む走行制御を実行する。この走行制御システム1は、走行制御装置100を中心として、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30、エンジン制御装置40、変速機制御装置50、ブレーキ制御装置60、操舵制御装置70、警報制御装置80を備えて構成され、各装置が通信バス150を介してネットワーク接続されている。
【0012】
外部環境認識装置10は、車載のカメラユニット11、ミリ波レーダやレーザレーダ等のレーダ装置12等の環境認識用の各種デバイスや、自車両が走行する外界環境の気象条件の1つとして外気温を検出する外気温センサ13等の各種センサを備えている。外部環境認識装置10は、カメラユニット11やレーダ装置12等で検出した自車両周囲の物体の検出情報、外気温センサ13で検出した外気温等の環境情報に加え、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、測位装置20で測位した自車両の位置情報、地図情報処理装置30からの地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0013】
例えば、カメラユニット11として、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラを搭載する場合、このステレオカメラで撮像した左右一対の画像をステレオ処理することにより、外部環境を3次元的に認識することができる。ステレオカメラとしてのカメラユニット11は、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期の2台のカラーカメラが所定の基線長で車幅方向左右に配置されて構成されている。
【0014】
ステレオカメラとしてのカメラユニット11で撮像された左右一対の画像は、マッチング処理によって左右画像間の対応位置の画素ずれ量(視差)が求められ、画素ずれ量を輝度データ等に変換した距離画像が生成される。この距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両の車幅方向すなわち左右方向をX軸、車高方向をY軸、車長方向すなわち距離方向をZ軸とする実空間上の点に座標変換され、自車両が走行する道路の白線(車線)、障害物、自車両の前方を走行する車両等が3次元的に認識される。
【0015】
車線としての道路白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行って探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出し、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域を白線候補点として抽出する。
【0016】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出し、このモデルにより、白線を認識する。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0017】
測位装置20は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星等の複数の航法衛星からの信号に基づく測位を主として、自車両の車両位置を検出する。また、衛星からの信号(電波)の捕捉状態化や電波の反射によるマルチパスの影響等で測位精度が悪化した場合には、ジャイロセンサ22や車速センサ23等の車載センサを用いた自律航法による測位を併用して自車両の車両位置を検出する。
【0018】
複数の航法衛星による測位では、航法衛星から送信される軌道及び時刻等に関する情報を含む信号を受信機21を介して受信し、受信した信号に基づいて自車両の自己位置を、経度、緯度、高度、及び時間情報を含む絶対位置として測位する。また、自律航法による測位では、ジャイロセンサ22によって検出した自車両の進行方位と車速センサ23から出力される車速パルス等から算出した自車両の移動距離とに基づいて、相対的な位置変化分としての自車位置を測位する。
【0019】
尚、測位装置20は、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって交通情報を取得する通信ユニットを一体的に備えるようにしても良い。
【0020】
地図情報処理装置30は、地図データベースDBを備え、測位装置20で測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定して出力する。地図データベースDBは、自動運転を含む運転支援制御等の車両制御用に作成された高精度地図を保有するデータベースであり、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の大容量記憶媒体に格納されている。
【0021】
詳細には、高精度地図は、道路形状や道路間の接続関係等の静的な情報と、インフラ通信によって収集される交通情報等の動的な情報とを複数の階層で保持する多次元マップ(ダイナミックマップ)として構成されている。道路データとしては、道路白線の種別、走行レーンの数、走行レーンの幅、走行レーンの幅方向の中心位置を示す点列データ、走行レーンの曲率、走行レーンの進行方位角、制限速度等が含まれている。データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0022】
更に、地図情報処理装置30は、地図データベースDBの保守管理を行い、地図データベースDBのノード、リンク、データ点を検定して常に最新の状態に維持すると共に、データベース上にデータが存在しない領域についても新規データを作成・追加し、より詳細なデータベースを構築する。地図データベースDBのデータ更新及び新規データの追加は、測位装置20によって測位された位置データと、地図データベースDBに記憶されているデータとの照合によって行われる。
【0023】
尚、地図情報処理装置30からの情報は、主として走行制御装置100に送信されるが、必要に応じて他の制御装置にも送信される。
【0024】
エンジン制御装置40は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び通信バス150を介して送信される各種制御情報に基づいて、エンジン(図示せず)の運転状態を制御する。エンジン制御装置40は、例えば、吸入空気量、スロットル開度、エンジン水温、吸気温度、空燃比、クランク角、アクセル開度、その他の車両情報に基づき、燃料噴射制御、点火時期制御、電子制御スロットル弁の開度制御等を主要とするエンジン制御を実行する。
【0025】
変速機制御装置50は、変速位置や車速等を検出するセンサ類からの信号や通信バス150を介して送信される各種制御情報に基づいて、自動変速機(図示せず)に供給する油圧を制御し、予め設定された変速特性に従って自動変速機を制御する。
【0026】
ブレーキ制御装置60は、例えば、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)をドライバのブレーキ操作とは独立して制御する。また、ブレーキ制御装置60は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ・システムや横すべり防止制御等を行う。
【0027】
操舵制御装置70は、例えば、車速、ドライバの操舵トルク、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリングモータ(図示せず)による操舵トルクを制御する。この操舵トルクの制御は、実操舵角を目標操舵角に一致させるための目標操舵トルクを実現する電動パワーステアリングモータの電流制御として実行され、ドライバのステアリング操作によるオーバーライドがない場合、例えばPID制御によって電動パワーステアリングモータの駆動電流が制御される。
【0028】
警報制御装置80は、車両の各種装置に異常が生じた場合やドライバに注意を喚起するための警報、及びドライバに提示する各種情報の出力を制御する装置である。例えば、モニタ、ディスプレイ、アラームランプ等の視覚的な出力と、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力との少なくとも一方を用いて、警告・情報提示を行う。警報制御装置80は、自動運転を含む運転支援制御を実行中、その制御状態をドライバに提示し、また、ドライバの操作によって自動運転含む運転支援制御が休止された場合には、そのときの運転状態をドライバに報知する。
【0029】
次に、走行制御システム1の中心となる走行制御装置100について説明する。走行制御装置100は、ドライバがステアリングを保持して操舵する手動運転モードに対して、図示しないスイッチやパネル等を操作して運転支援の走行モードにセットしたとき、エンジン制御装置40、変速機制御装置50、ブレーキ制御装置60、及び操舵制御装置70を介して、自動運転を含む運転支援モードの制御を実行する。本実施の形態においては、走行制御装置100に設定される運転モードとして、手動運転モードと、第1の運転支援モードと、第2の運転支援モードと、自車両を路側帯等の安全な場所に自動的に停止させる自動停車モードとが設定されている。
【0030】
ここで、手動運転モードは、ドライバによるステアリング操作、アクセル操作、及び、ブレーキ操作等の運転操作に従って、自車両を走行させる運転モードである。この手動運転モードに対して、第1の運転支援モード及び第2の運転支援モードは、外部環境認識装置10等において自車進行路上の前方に先行車が認識されている場合には、例えば、先行車の走行軌跡等に基づいて目標経路を設定し、自車両を、車線を逸脱することなく先行車に対して自動追従(自動走行)させることが可能となっている。また、第1,第2の運転支援モードでは、先行車を認識しない場合には、例えば、目的地までの自車経路を設定し、セット車速を目標車速として自車両を自車経路に沿って自動走行させることが可能となっている。
【0031】
第1,第2の運転支援モードは、走行環境のセンシング情報及び認識情報に基づいて自車両を自動走行させる自動運転の運転モードであるという点では基本的に共通しているが、第1の運転支援モードは、ドライバによるステアリングの保舵(把持)を前提として運転支援制御を実行する運転モードであり、第2の運転支援モードはドライバによるステアリングの保舵を必要とすることなく運転支援制御を実行する運転モードである。第2の運転支援モードによる運転支援が継続不能となった場合には、条件に応じて、第1の運転支援モード、手動運転モード、又は自動停車モードに遷移する。
【0032】
尚、ドライバがステアリングを保舵(把持)しているか否かは、ドライバがステアリングを保舵(把持)しているときオンするハンドルタッチセンサ(図示せず)等からの信号に基づいて検出する。
【0033】
走行制御装置100は、ドライバのステアリング保舵を必要としない第2の運転支援モードで走行中、走行環境の変化を監視し、走行環境の悪化による第2の運転支援モードの継続可否を判断する。詳細には、走行制御装置100は、第2の運転支援モードで走行中、走行環境の悪化のレベルを定量化して評価し、その評価結果に基づいて第2の運転支援モードを継続可能な車速(自動運転可能車速)Vd1を算出する。自動運転可能車速Vd1は、走行環境の悪化に対して車速を低下させることにより、自動運転における安全余裕を確保して自動運転を維持可能な車速として算出される。
【0034】
走行制御装置100は、第2の運転支援モードのセット車速Vatが自動運転可能車速Vd1を超えているか否かを調べる。セット車速Vatが自動運転可能車速Vd1以下(Vat≦Vd1)の場合、走行制御装置100は、第2の運転支援モードを継続する。一方、セット車速Vatが自動運転可能車速Vd1を超えている(Vat>Vd1)場合には、走行制御装置100は、セット車速Vatを自動運転可能車速Vd1まで下げることにより、第2の運転支援モードを継続可能とする。
【0035】
すなわち、第2の運転支援モードで走行中、自動運転可能車速Vd1が走行速度よりも低くなった場合、走行速度を自動運転可能車速Vd1まで下げて新たなセット車速Vatとする(Vat←Vd1)ことにより、自動運転のレベルを維持する際の安全余裕を確保し、第2の運転支援モードでの自動運転による安全な走行を可能とする。
【0036】
この場合、走行制御装置100は、自動的に車速を自動運転可能車速Vd1まで下げて第2の運転支援モードを継続するようにしても良く、或いは、第2の運転支援モードを継続するか否かをドライバに選択させるようにしても良い。以下では、第2の運転支援モードを継続するか否かをドライバが選択する例について説明する。
【0037】
走行制御装置100は、走行環境の悪化によって自動運転可能車速Vd1が第2の運転支援モードにおけるセット車速Vatを下回った場合(Vd1<Vat)、ドライバの選択に従い、第2の運転支援モードを継続、或いは第2の運転支援モードから第1の運転支援モードに遷移させる。第2の運転支援モードから第1の運転支援モードに遷移する場合には、ドライバ自身が走行環境の変化を判断することでセット車速Vatを維持することが可能である。
【0038】
このため、走行制御装置100は、運転支援モードに係る機能部として、自動運転可能車速算出部101、運転支援モード継続判断部102、運転支援モード選択部103、運転支援モード継続部104を備えている。走行制御装置100は、これらの機能部により、ドライバのステアリング保舵を必要としない第2の運転支援モードで走行中、走行環境が悪化した場合にも第2の運転支援モードでの自動運転を継続することを可能とする。
【0039】
詳細には、自動運転可能車速算出部101は、走行環境として、天候状態、路面状態、車両制御状態の変化を監視し、各状態に応じて相互に変化するパラメータを評価して自動運転可能車速Vd1を算出する。天候状態としては、横風、雨、降雪の影響を評価し、路面状態としては、路面摩擦係数の大小による影響を評価する。また、車両制御状態としては、目標経路に対する車両の横位置制御性、車両の前後位置を制御するための視程距離、操舵制御性等を評価する。
【0040】
自動運転可能車速算出部101は、天候状態、路面状態、車両制御状態に応じてシーンを分類し、各シーン毎に安定して自動運転可能な車速を算出する。本実施の形態においては、後述するように、横風、雨(霧、雪を含む)、降雪、路面状態の各シーン毎に、自動運転安定車速Vd1_w,Vd1_r,Vd1_s,Vd1_μを算出する。そして、算出したシーン毎の自動運転安定車速Vd1_w,Vd1_r,Vd1_s,Vd1_μの中で最も低い車速を、最終的な自動運転可能車速Vd1として採用する。
【0041】
運転支援モード継続判断部102は、第2の運転支援モードにおけるセット車速Vatと自動運転可能車速Vd1とを比較し、Vat≦Vd1の場合、第2の運転支援モードを継続可能と判断し、Vat>Vd1の場合、第2の運転支援モードは継続不可と判断する。運転支援モード継続判断部102は、第2の運転支援モードの継続不可と判断した場合、運転支援モード選択部103を介して、ドライバのステアリング保舵を必要としない第2の運転支援モードを車速を下げて継続させるか、又はドライバのステアリング保舵を必要とする第1の運転支援モードに遷移するかをドライバに選択させる。
【0042】
また、運転支援モード継続判断部102は、自動運転可能車速Vd1が自動車専用道等で定められている最低車速、若しくは事前に定めた下限車速Vd2を下回るか否かを調べる。Vd1<Vd2の場合、運転支援モード継続判断部102は、第1の運転支援モードに遷移しても運転支援制御の継続は困難と判断する。この場合には、ドライバに手動運転を要求するか、若しくは自動停車モードに遷移させ、安全な場所に車両を自動的に移動させて停止する。
【0043】
運転支援モード選択部103は、運転支援モード継続判断部102で第2の運転支援モードの継続が不可と判断されたとき、現在の状態では第2の運転支援モードの自動運転レベルを継続できない旨をドライバに報知して、第2の運転支援モードの継続と第1の運転支援モードへの遷移の何れかを選択可能とする。
【0044】
運転支援モードの選択は、セット車速Vatを自動運転可能車速Vd1まで下げて第2の運転支援モードでの自動運転を継続するか、ドライバのステアリング保舵を必要としない第2の運転支援モードからドライバの保舵を必要とする第1の運転支援モードに自動運転レベルを下げるかをドライバに選択させる選択要求となる。この選択要求を受けてドライバがステアリングを保舵したことを検出した場合、第1の運転支援モードが選択されたものと判断し、自動的に第2の運転支援モードから第1の運転支援モードに遷移させる。
【0045】
運転支援モード継続部104は、運転支援モード選択部103による選択結果に応じて、第2の運転支援モードを継続、或いは第2の運転支援モードから第1の運転支援モードに遷移させる。第2の運転支援モードの継続が選択された合、運転支援モード継続部104は、第2の運転支援モードのセット車速Vatを自動運転可能車速Vd1まで低減することにより、第2の運転支援モードでの自動運転による走行を可能とする。
【0046】
以上の第2の運転支援モードの継続或いは遷移について、
図2を用いて説明する。
図2において、縦軸は車速を示し、横軸は走行環境の変化を示す走行環境レベルを示している。ここでの走行環境レベルは、自動運転可能車速Vd1との関係において、第2の運転支援モードを継続可能な走行環境を車速相当値で表現した指標であり、
図2中の向かって左側から右側にいくほど、走行環境のレベルが良好な状態から悪化状態に変化することを示している。
【0047】
図2のA領域で示すように、自車両が第2の運転支援モードで走行中、環境レベルがVat>Vd1となる環境レベルKL1の状態よりも悪化すると、自動運転可能車速Vd1は、例えば、図中のB領域に示すように、セット車速Vatに対して環境レベルの悪化に応じて略直線的に低下していき、車速を低下させなければ第2の運転支援モードを継続することは困難となる。
【0048】
この状態では、ドライバがステアリングを保舵した場合、第1の運転支援モードに遷移し、ドライバがステアリングを保舵しない場合には、車速を低減してVat≦Vd1とすることにより、第2の運転支援モードを継続することが可能となる。第2の運転支援モードを継続した場合に更に走行環境が悪化し、自動運転可能車速Vd1が予め定められた下限車速Vd2を下回る環境レベルKV2より悪化した領域Cになると、第2の運転支援モードから自動停車モードに遷移し、自車両を路側帯等に自動的に停止させて安全を確保する。
【0049】
次に、走行制御装置100における運転支援モードの遷移処理について、
図3~
図7のフローチャートを用いて説明する。
図3は運転支援モード遷移処理のメインルーチンを示すフローチャート、
図4~
図7は、横風時、降雨時、降雪時、路面における各シーン毎の自動運転可能車速算出処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【0050】
先ず、
図3の運転支援モード遷移処理のメインルーチンについて説明する。このメインルーチンでは、走行制御装置100は、先ず、ステップS1A,S1B,S1C,S1Dにおいて、それぞれ、
図4,
図5,
図6,
図7のサブルーチンを並列処理する。各サブルーチンは、それぞれ、横風のシーン、雨(霧、雪を含む)のシーン、降雪のシーン、低摩擦路のシーンを想定したものであり、横風のシーンに対する
横風時自動運転安定車速Vd1_w、雨(霧、雪を含む)のシ-ンに対する雨天時自動運転安定車速Vd1_r、降雪のシーンに対する降雪時自動運転安定車速Vd1_s、低摩擦路のシーンに対する路面自動運転安定車速Vd1_μを算出する。
[横風時自動運転安定車速Vd1_w]
ステップS1Aにおける横風時自動運転安定車速Vd1_wは、目標経路に対して自車両の横位置を許容範囲内に維持する操舵性能を確保できる車速として算出される。詳細には、
図4の最初のステップS101において、一定時間の横位置の分散が設定値以上(例えば、±10cm以上)か否かを調べる。
【0051】
ステップS101で横位置の分散が設定値未満で安定している場合には、ステップS102へ進み、更に、横偏差の積分値が一定値の状態が連続して張り付いた状態であるか否かを調べることにより、道路カント等による外乱の影響を判断する。その結果、ステップS101,S102において、横位置の分散が設定値未満、且つ横偏差の積分値が一定値の状態が連続していない場合には、外乱に対する第2の運転支援モードの自動走行が可と判断する。この場合には、横風時自動運転安定車速Vd1_wは、例えば、Vd1_w=Vd1としてメインルーチンに戻る。
【0052】
一方、ステップS101で横位置の分散が設定値以上、或いはステップS102において横偏差の積分値が一定値の状態が連続している場合には、ステップS103で走行中の道路のカーブが通常の自動走行の対象となる曲率のカーブよりも小さい曲率の急なカーブであるか否かを調べる。ステップS103で急カーブの場合、横風や道路カント等の外乱の影響を正確に評価できないため本処理を抜け、急カーブでない場合、ステップS104へ進む。
【0053】
ステップS104では、横風、道路のカント、カーブの曲率に対して、車線追従制御における操舵性能を確保可能な車速を、例えば横位置の分散値と積分値に基づくマップ参照によって算出する。このときの車速は横風時自動運転安定車速Vd1_wとして保存され、メインルーチンで参照される。
[雨天時自動運転安定車速Vd1_r]
ステップS1Bにおける雨天時自動運転安定車速Vd1_rは、目標経路への追従走行の操舵及び前後位置制御に必要な視程距離を確保できる車速として算出される。すなわち、
図5のサブルーチンにおいて、先ずステップS201で車載のカメラユニット11或いは地図情報処理装置30からの地図情報による車線の検知範囲が操舵制御可能な車線検知距離未満か否かを調べ、ステップS202で地図情報を使用できない場合にカメラユニット11の白線検知距離が操舵制御可能な検知距離未満か否かを調べる。また、ステップS203において、現在の視程距離が前方の車両等に対する前後位置をブレーキ制御等を介して制御可能な視程距離未満か否かを調べる。
【0054】
その結果、白線の検知範囲或いは地図データによる車線の検知範囲が操舵制御可能な検知距離以上であり、前後位置制御可能な視程距離が確保されている場合には、第2の運転支援モードの自動走行が可と判断してメインルーチンに戻る。この場合においても、雨天時自動運転安定車速Vd1_rは、例えば、Vd1_r=Vd1として保存され、メインルーチンで参照される。
【0055】
一方、ステップS201,S202,S203において、白線の検知範囲或いは地図データによる車線の検知範囲が操舵制御可能な検知距離未満、或いは前後位置制御可能な視程距離未満の場合には、ステップS204へ進み、車線(白線)の検知距離や視程距離にに対して自動運転の操舵性能を確保可能な車速をマップ参照等によって算出する。この場合の車速は、雨天時自動運転安定車速Vd1_rとして保存され、メインルーチンで参照される。
[降雪時自動運転安定車速Vd1_s]
ステップS1Cにおける降雪時自動運転安定車速Vd1_sは、車載のカメラユニット11を用いることなく操舵制御に必要な視程距離を確保できる車速として算出される。詳細には、
図6のサブルーチンのステップS301,S302において、測位装置20及び地図情報処理装置30によるローカライゼーションの信頼度が自動運転の操舵制御可能な位置信頼度未満か否か、前後位置制御可能な視程距離未満か否かを調べる。
【0056】
ステップS301においてローカライゼーションの信頼度が自動運転の操舵制御可能な位置信頼度以上、且つステップS302において前後位置制御可能な視程距離以上の場合には、第2の運転支援モードの自動走行が可と判断して、メインルーチンに戻る。この場合においても、降雪時自動運転安定車速Vd1_sは、例えばVd1_s=Vd1とする。
【0057】
一方、ステップS301においてローカライゼーションの信頼度が自動運転の操舵制御可能な位置信頼度未満、或いはステップS302において前後位置制御可能な視程距離未満の場合には、ステップS303へ進む。ステップS303では、ローカライゼーション信頼度或いは視程距離に基づいて、降雪時自動運転安定車速Vd1_sを算出し、メインルーチンに戻る。
[路面自動運転安定車速Vd1_μ]
ステップS1Dにおける路面自動運転安定車速Vd1_μは、滑りやすい路面においても目標とするヨーレートを得るための操舵ヨーゲインを維持して操舵性能を確保することのできる車速として算出される。
【0058】
詳細には、
図7のサブルーチンの最初のステップS401において、操舵角に対するヨーレートゲインが一定値以下か否かを調べる。すなわち、現在の路面に対する走行状態が操舵角に対してヨーレートの変化が小さく、進行方向に対して適正なヨー角を得られていない状態か否かを調べる。
【0059】
ステップS401において操舵角に対するヨーレートゲインが一定値以下の場合、ステップS401からステップS404へ進み、滑りやすい路面に対応した路面自動運転安定車速Vd1_μを算出する。ヨーレートゲインが一定値以下の場合の路面自動運転安定車速Vd1_μは、操舵角に対して適正なヨー角を得ることのできる車速として算出され、例えば、ヨーレートゲインの低減率が小さくなるほど車速が低くなるようにマップを設定し、このマップを参照して路面自動運転安定車速Vd1_μが算出される。
【0060】
一方、ステップS401において操舵角に対するヨーレートゲインが一定値を超えている場合には、ステップS401からステップS402へ進み、減速制御中にABS作動があるか否かを調べる。減速制御中のABS作動がある場合、ステップS404で路面自動運転安定車速Vd1を算出する。操舵角に対するヨーレートゲインが一定値を超えていても減速制御中にABS作動がある場合の路面自動運転安定車速Vd1_μは、ABSが作動することなく所定の減速度を得られる車速として算出され、例えば、ABS作動頻度に基づいて算出される。
【0061】
更に、ステップS402において、減速制御中にABS作動がない場合には、ステップS402からステップS403へ進み、路面摩擦係数(路面μ)の情報を推定若しくは検出によって取得できるか否かを調べる。ステップS403で路面μの情報を取得できない場合はメインルーチンに戻り、路面μの情報を取得できる場合、ステップS404へ進んで路面自動運転安定車速Vd1_μを算出する。この場合の路面自動運転安定車速Vd1_μは、取得した路面μに基づいて算出される。
【0062】
次に、メインルーチンに戻ると、ステップS1A~S1Dでシーン毎の自動運転安定車速Vd1_w,Vd1_r,Vd1_s,Vd1_μを算出した後は、ステップS2へ進む。ステップS2において、走行制御装置100は、横風時自動運転安定車速Vd1_w,雨天時自動運転安定車速Vd1_r,降雪時自動運転安定車速Vd1_s,路面自動運転安定車速Vd1_μのうち、最も低い値の車速を自動運転可能車速Vd1とする(Vd1←min(Vd1_w,Vd1_r,Vd1_s,Vd1_μ))。そして、ステップS3で自動運転可能車速Vd1と第2の運転支援モードのセット車速Vatとを比較し、自動運転可能車速Vd1がセット車速Vatを下回っているか否かを調べる。
【0063】
ステップS3において、Vd1≧Vatの場合、現在の第2の運転支援モードによる自動運転に対して特に支障はないため、本処理を抜けて第2の運転支援モードでの自動運転を継続する。一方、ステップS3においてVd1<Vatの場合には、現在の状態では第2の運転支援モードの継続は困難であるため、ステップS4へ進む。
【0064】
ステップS4では、走行制御装置100は、ドライバに対して第2の運転支援モードを継続するか第1の運転支援モードに遷移させるかの選択要求を行う。そして、ステップS5で、ドライバがステアリングを保舵して第1の運転支援モードを選択したか否かを調べる。
【0065】
ドライバが第1の運転支援モードへの遷移を選択してステアリングを保舵した場合、走行制御装置100は、ステップS6で第2の運転支援モードから第1の運転支援モードへ自動運転のレベルを下げて遷移させる。第1の運転支援モードに遷移させた場合には、走行環境の悪化にドライバが対処することにより、第2の運転支援モードのセット車速Vatを維持することが可能となる。
【0066】
一方、ドライバが第2の運転支援モードの継続を選択した場合には、走行制御装置100は、ステップS7で、第2の運転支援モードの車速を自動運転可能車速Vd1まで下げることにより、走行環境の悪化に対して第2の運転支援モードでの自動運転のレベルを維持する際の安全余裕を増加させ、第2の運転支援モードを継続させる。
【0067】
更に、走行制御装置100は、ステップS8において、第2の運転支援モードでの走行中に走行環境がより悪化して自動運転可能車速Vd1が下限車速Vd2を下回ったか否かを調べる。そして、Vd1≧Vd2の場合には、そのまま第2の運転支援モードを継続し、Vd1<Vd2になった場合、ステップS9で自動停車モードに遷移させ、自車両を路側帯等に自動的に停止させて安全を確保する。
【0068】
このように本実施の形態においては、ドライバのステアリング保舵を必要としない第2の運転支援モードの自動運転で走行中に走行環境の悪化のレベルを評価し、走行環境が悪化した場合は、車速の低減によって第2の運転支援モードを継続することを可能とする。これにより、走行環境の悪化に対応して一義的に自動運転の機能を制限若しくはドライバの保舵を必要とする運転支援モードに切り換えてドライバの負担が増加することを回避することができ、ドライバによるステアリングの保舵を前提としない運転支援モードを継続させて自動運転の利便性を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 走行制御システム
10 外部環境認識装置
20 測位装置
30 地図情報処理装置
40 エンジン制御装置
50 変速機制御装置
60 ブレーキ制御装置
70 操舵制御装置
80 警報制御装置
100 走行制御装置
101 自動運転可能車速算出部
102 運転支援モード継続判断部
103 運転支援モード選択部
104 運転支援モード継続部