(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220309BHJP
H02P 6/26 20160101ALI20220309BHJP
H02P 8/12 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P6/26
H02P8/12
(21)【出願番号】P 2018174821
(22)【出願日】2018-09-19
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】田中 克征
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-229683(JP,A)
【文献】特開2015-144506(JP,A)
【文献】特開平11-299283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 6/26
H02P 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子のスイッチング動作により、モータの
第1端子と第2端子との間に印可される直流電圧を第1スイッチング動作と第2スイッチング動作で切り替え、前記モータを駆動制御する駆動回路部と、
前記モータに流れる電流を検出し、電流信号を生成する電流検出部と、
前記電流信号を用いて、前記モータに流れる電流が所定の電流設定値を超えるタイミングに基づいて
、前記第1スイッチング動作から前記第2スイッチング動作に切り変え、前記切り変えたタイミングから予め定められた時間が経過すると前記第2スイッチング動作から前記第1スイッチング動作に切り変える制御を行う制御部と、
前記第2スイッチング動作に切り変える第1タイミングからの第1マスク時間と、前記第1スイッチング動作に切り変える第2タイミングを含む第2マスク時間とを設定するマスク処理部と、を備え、
前記マスク処理部は、前記電圧、及び前記所定の電流設定値の少なくとも
一方に応じて、前記第2マスク時間の終了時間を前記第1マスク時間と前記第2マスク時間が連続しない範囲に変更し、前記第1マスク時間、及び前記第2マスク時間では、前記電流信号を無効にして、前記制御部が前記第1スイッチング動作を前記第2スイッチング動作に切り替える制御を無効にする、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記駆動回路部は、
前記電圧を印加する高電位側のラインと、低電位側のラインとの間に、
第1高電圧側スイッチング素子及び第1低電圧側スイッチング素子が第1ノードを介して直列接続された第1直列回路と、第2高電圧側スイッチング素子及び第2低電圧側スイッチング素子が第2ノードを介して直列接続された第2直列回路と、が並列接続され、前記第1ノードに前記モータの一端が接続され、前記第2ノードに前記モータの他端が接続された電力変換回路部を有し、
前記第1スイッチング動作では、前記第1高電圧側スイッチング素子及び前記第2低電圧側スイッチング素子が接続にされ、且つ前記第1低電圧側スイッチング素子及び前記第2高電圧側スイッチング素子が非接続にされ、
前記第2スイッチング動作では、前記第1高電圧側スイッチング素子及び前記第2低電圧側スイッチング素子が非接続にされ、且つ前記第1低電圧側スイッチング素子及び前記第2高電圧側スイッチング素子が接続にされる、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記モータに流れる電流が前記所定の電流設定値を超えると前記第1スイッチング動作から前記第2スイッチング動作に切り替え、前記第2スイッチング動作に切り替えた時点から所定時間後に前記第1スイッチング動作に切り替える、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記駆動回路部は、
前記制御部の制御に従い、前記第1高電圧側スイッチング素子、前記第1低電圧側スイッチング素子、前記第2高電圧側スイッチング素子、及び第前記2低電圧側スイッチング素子の接続及び非接続を駆動制御する駆動制御回路部を更に有する、請求
項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記マスク処理部は、
前記電流が前記所定の電流設定値を超えた時点から固定長の第1マスク時間において前記電流信号を無効にする
第1マスク処理部を、有する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のスイッチング素子の各素子のオン、オフ動作繰り返し、モータの端子に印加される直流電圧をスイッチング(切り替え)することによりモータを制御する方法が知られている。このような制御では、複数のスイッチング素子のオン、オフ動作の繰り返しの際に発生するノイズに対し、前記ノイズがモータに悪影響を与えないように、ノイズが発生するタイミングを含む所定期間は、モータの制御を無効にする固定長のマスク時間が設定される。
【0003】
前記ノイズがモータに与える影響の程度は、モータの設定電流などにより変わるが、マスク時間が固定長であると、モータの設定電流の変更があった場合に、モータの制御が不安定となる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スイッチングの際に発生するモータに対するノイズの影響を抑制可能なモータ駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、モータ駆動装置は、駆動回路部と、制御部と、マスク処理部とを備える。駆動回路部は、複数のスイッチング素子のスイッチング動作により、モータに印可される電圧を第1スイッチング動作と第2スイッチング動作で切り替え、モータを駆動制御する。制御部は、モータに流れる電流が所定の電流設定値を超えるタイミングに基づいて、駆動回路部の制御を行う。マスク処理部は、駆動回路部の制御によるスイッチング動作において所定のマスク時間を設定し、電源電圧、及び所定の電流設定値の少なくとも一方に基づき、所定のマスク時間を変更可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態のモータ駆動装置の構成を示すブロック図。
【
図2】充電(チャージ)電流を流す場合の第1スイッチング動作を説明するための図。
【
図3】回生(ディケイ)電流を流す場合の第2スイッチング動作を説明するための図。
【
図4】電流設定値が高い場合の出力電流値の継時変化を示す図。
【
図5】電流設定値が低い場合の出力電流値の継時変化を示す図。
【
図6】マスク時間設定部におけるマスク時間テーブルの一例を示す図。
【
図7】マスク時間設定部のマスク時間テーブルを用いた場合の効果を説明するための図。
【
図8】第2実施形態のモータ駆動装置の構成を示すブロック図。
【
図9】マスク時間設定部におけるマスク時間テーブルの別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のモータ駆動装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、モータ駆動装置1は、モータ10を駆動する装置であり、駆動回路部20、電流検出部30、及び、制御プロセッサ40を備えている。
【0010】
駆動回路部20は、電力変換回路部22、及び、駆動制御回路部24を有する。制御プロセッサ40は、制御部50と、マスク処理部60とを有し、駆動回路部20を制御する。マスク処理部60は、マスク部62、マスク時間設定部64、出力電流設定部66、及び、電源電圧レベル検知部68を有する。
【0011】
図1中には、更に、外部信号、アナログ電圧信号、電源電圧VMが図示されている。外部信号は、モータ10の回転方向、オン、及びオフの少なくともいずれかの制御情報を含む信号であり、アナログ電圧信号は、電流設定値(後述する
図6)の情報を含む信号である。電源電圧VMは、駆動回路部20に印加される高電位側の電位である。
【0012】
モータ10は、例えば、DCモータ或いはステッピングモータとして使用される。モータ10には、駆動回路部20の出力端子である端子Ter1、Ter2を介して駆動電流が供給される。
【0013】
駆動回路部20は、モータ10の端子Ter1、Ter2間に印加される高電位側と低電位側の直流電圧を切り替え、モータ10を駆動する。駆動回路部20の詳細は後述する。
【0014】
電流検出部30は、モータ10に流れる電流を、駆動回路部20を介して検出し、電流の情報を含む電流信号を制御プロセッサ40に出力する。例えば、電流検出部30は、駆動制御回路部24のノードN4と接地電圧(グランド)GNDとの間に配置される抵抗(図示せず)に流れる電流を測定し、AD変換して、電流の情報を含む電流信号を制御プロセッサ40の制御部50に出力する。接地電圧は、通常、0ボルトである。
【0015】
制御プロセッサ40は、電流検出部30で取得した電流信号に基づき、駆動回路部20を介してモータ10を制御する。すなわち、制御部50は、外部信号に従い、駆動回路部20を介してモータ10を制御する。より具体的には、制御部50は、モータ10に流れる電流が所定の電流設定値を超えるタイミングに基づき、端子Ter1、Ter2に印加する直流電圧を高電位(VM)側と低電位(GND)側とで切り替えるように駆動回路部20を制御する。
【0016】
また、マスク処理部60は、駆動回路部20に対する制御部50による所定制御をマスク時間中においては無効にする。なお、制御部50及びマスク処理部60の構成の詳細については後述する。すなわち、マスク時間は、スイッチング動作で発生するノイズを無効にするための時間である。
【0017】
ここで、駆動回路部20の構成について、以下詳細に説明する。
駆動回路部20の電力変換回路部22は、4つのスイッチング素子M1~M4をHブリッジ接続して構成されており、出力端子Ter1、Ter2は、モータ10の巻線に接続されている。スイッチング素子SM1~M4には、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET,バイポーラトランジスタ等を使用する。
【0018】
より具体的には第1高電圧側スイッチング素子M1及び第1低電圧側スイッチング素子M2が第1ノードN1を介して直列接続された第1直列回路と、第2高電圧側スイッチング素子M3及び第2低電圧側スイッチング素子M4が第2ノードN2を介して直列接続された第2直列回路と、が並列接続され、第1ノードN1は出力端子Ter1を介してモータ10の一端に接続される。第2ノードN2は、出力端子Ter2を介してモータ10の他端に接続される。第1高電圧側スイッチング素子M1及び第2高電圧側スイッチング素子M3のそれぞれの一端は第3ノードN3を介して電源電圧VMの高電位側のラインに接続され、第1低電圧側スイッチング素子M2及び第2低電圧側スイッチング素子M4のそれぞれの一端は第4ノードN4を介して低電位側のラインであるグランドに接続される。
【0019】
駆動制御回路部24は、制御プロセッサ40の制御部50からの制御信号によって、第1高電圧側スイッチング素子M1、第1低電圧側スイッチング素子M2、第2高電圧側スイッチング素子M3、及び第2低電圧側スイッチング素子M4の各ゲートのオン、オフを制御することにより、充電電流、回生電流を繰り返し、モータを駆動制御する。
【0020】
図2は、充電(チャージ)電流を流す場合の第1スイッチング動作の一例を説明するための図である。モータ10は、ノードN1,N2間に接続される。第1スイッチング動作では、第1高電圧側スイッチング素子M1及び第2低電圧側スイッチング素子M4が接続され、これらのスイッチング素子M1、M4を介して高電圧側から低電圧側へ充電電流が流れる。この時第1低電圧側スイッチング素子M2及び第2高電圧側スイッチング素子M3は非接続にされる。このように、第1スイッチング動作では、ノードN1の電圧がノードN2よりも高くなる。すなわち端子Ter1(
図1)の電圧が端子Ter2(
図1)の電圧よりも高くなる。
【0021】
図3は、回生(ディケイ)電流を流す場合の第2スイッチング動作の一例を説明するための図である。第2スイッチング動作では、第1低電圧側スイッチング素子M2及び第2高電圧側スイッチング素子M3が接続にされ、これらのスイッチング素子M2、M3を介して低電圧側から高電圧側へ回生電流が流れる。この時、第1高電圧側スイッチング素子M1及び第2低電圧側スイッチング素子M4は非接続にされる。これらから分かるように、第2スイッチング動作では、ノードN2の電圧がノードN1よりも高くなる。すなわち端子Ter2(
図1)の電圧が端子Ter1(
図1)の電圧よりも高くなる。
【0022】
図2及び
図3を用いて説明したように、各スイッチング素子M1~M4のオン、オフを繰り返すことによりモータの端子Ter1、Ter2に印加する電圧が制御され、モータの充電・回生を繰り返される。このように、第1スイッチング動作と第2スイッチング動作を切り替えることを、Hブリッジの切り替えと呼ぶ場合もある。
【0023】
図4は、電流設定値が高い場合の出力電流値の継時変化を示す図であり、
図4に基づき制御部50の制御例を詳細に説明する。ここで、横軸は時間を示し、縦軸はモータ10への出力電流、すなわち、電流検出部30により検出された電流の値を示す。
図4中の第1ノイズは、充電電流を回生電流に切り替える際に生じるスパイク状のノイズを示し、第2ノイズは、回生電流を充電電流に切り替える際に生じるスパイク状のノイズを示している。すなわち、第1ノイズは、例えば駆動回路部20を第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える際に生じるスパイク状のノイズを示し、第2ノイズは、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替える際に生じるスパイク状のノイズを示している。第1ノイズ、及び第2ノイズの特性は、駆動回路部20を介してモータ10に供給される電源電圧VMと、モータ10に流れる電流の電流設定値とにより変化する。特に回生電流を充電流に切り替える際に生じる第2ノイズの特性変化がより顕著となる。
【0024】
下段は、マスク時間の発生タイミングを示している。第1マスク時間、及び第2マスク時間では、第1スイッチング動作(充電)を第2スイッチング動作(回生)に切り替える制御は無効にされる。すなわち、第1マスク時間、及び第2マスク時間は、Hブリッジを切り替える際に生じるスパイク状の第1ノイズ、及び第2ノイズが電流検出部30を介し、制御部50に伝達して誤動作しないように設けている。
【0025】
制御部50は、第1マスク時間、及び第2マスク時間を除く時間範囲において、電流検出部30により検出された電流測定値が電流設定値を超えたタイミングT1で、第1スイッチング動作(充電)を第2スイッチング動作(回生)に切り替える。ここで、T1correctは、出力電流が電流設定値を実際に超えた時点を示している。例えば
図4では、電流測定値は、T1correctで電流設定値を超えているが、第2マスク時間とその後に連続する第1マスク時間により制御部50の第1スイッチング動作を第2スイッチング動作に切り替える制御が無効にされる。このため、T1correctからT1までの時間は、第1スイッチング動作が継続し、充電電流の増加が継続する。このT1correctからT1までの時間に流れる充電電流は、突き抜け電流と呼ばれる。
【0026】
一方、T2は第2マスク時間が開始されるタイミングである。T2は、タイミングT1から所定の時間後に設定される。第2マスク時間は、第2スイッチング動作(回生)から第1スイッチング動作(充電)に切り替えるタイミングに基づき設定される。すなわち、第2マスク時間は、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替えるタイミングの前後に設定される。例えば、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替えるタイミングは、電流測定値が電流設定値を超えたタイミングT1から所定の時間後に設定される。
【0027】
図4では、第2マスク時間と第1マスク時間とが連続しているので、制御部50は、第2マスク時間、及び第1マスク時間を経過したときに、出力電流が電流設定値に到達するタイミングT1に至っていれば、第1スイッチング動作を第2スイッチング動作に切り替える。もし、第2マスク時間と第1マスク時間とが離れていれば、制御部50は、第2マスク時間の後に、出力電流が電流設定値に到達するタイミングT1に至ったときに、第1スイッチング動作を第2スイッチング動作に切り替える。例えば、第2マスク時間と第1マスク時間の間に、出力電流が電流設定値に到達するタイミングT1に至ると、第1スイッチング動作を第2スイッチング動作に切り替える。なお、本実施形態において、第2マスク時間の長さは、
図6を参照して後述するように、電源電圧VM、及び電流設定値に基づき設定される。
【0028】
また、制御部50は、充電電流を回生電流に切り替えた時点から所定の時間が経過すると、第2スイッチング動作(回生)から第1スイッチング動作(充電)に切り替るように駆動回路部20を制御する。この場合、制御部50は、第2マスク時間の間でも、回生側電流を充電電流に切り替えるように駆動回路部20を制御する。すなわち、制御部50は、電流検出部30により検出された電流が所定の電流設定値を超えてから、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替えた時点から所定の時間が更に経過すると、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替えるように駆動回路部20を制御する。
【0029】
このように、制御部50は、第1及び第2マスク時間を除く時間範囲において、モータ10に流れる電流が所定の電流設定値を超えると、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替え、第2スイッチング動作に切り替えた時点から所定時間の経過後に、第1及び第2マスク時間に関わらず、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替える制御を行う。なお、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替える時間は、タイミングT1によらず予め設定された固定タイミングでもよい。この場合、第2マスク時間の開始時間T2もタイミングT1によらず予め固定の開始時間として設定される。
【0030】
図1を参照にしつつ
図4乃至
図6に基づき、マスク処理部60の処理について、以下詳細に説明する。
図4に示すように、電流の切り替え時に第1ノイズ及び第2ノイズが生じる。この第1ノイズは、電流が電流設定値を超えてから発生しているので、すでに電流設定値を超えている
。しかし、第1マスク時間がないと第1スイッチング動作から第2スイッチング動作への切り替え制御が継続してしまい、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替えるタイミングがずれてしまう。また、第2ノイズは、電流が電流設定値未満のときに発生しているが、その大きさによれば、電流設定値を超える場合がある。
このため、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作に切り替えても、再び第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替えてしまう。このように、第1および第2マスク時間が無い場合、第1ノイズ及び第2ノイズのいずれかが電流設定値を超えると、制御部50は、充電電流を回生電流に切り替える制御を行ってしまう。このため、上述のように、マスク処理部60は、第1ノイズ及び第2ノイズが生じる時間に対応させてマスク時間を設定し、第1マスク時間、及び第2マスク時間では、制御部50が第1スイッチング動作(充電)を第2スイッチング動作(回生)に切り替える制御は無効にされる。
【0031】
より具体的には、マスク処理部60のマスク部62は、電流検出部30が検出した電流が所定値を超えても、固定長の第1マスク時間において、電流検出部30が出力する電流信号を無効にする。これにより、制御部50は、第1マスク時間において、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える処理を行うことができないので、第1ノイズの影響による誤制御を回避できる。なお、本実施形態に係るマスク部62が第1マスク処理部に対応する。
【0032】
マスク部62は、第2マスク時間においても、電流検出部30が出力する電流信号を無効にする。従って、制御部50は、第2マスク時間においても、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える処理を行うことができない。
図4のように、第2マスク時間に続いて連続して第1マスク時間に入ると、第1および第2マスク時間の期間中、制御部50は、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える処理を行うことができない。これでは、上述の通り、電流が電流設定値を超えても、充電電流から回生電流に切り替わらず、突き抜け電流が生じてしまう。
【0033】
これに対し、本実施形態では、
図6を参照して説明するように、第2マスク時間を可変にすることによって、第1マスク時間が第2マスク時間に連続しないように、第2マスク時間が設定される。即ち、第2マスク時間と第1マスク時間との間を離間させ、第2マスク時間の経過後、電流が電流設定値を超えた時点(T1)で、マスクが適用されないようにする。これにより、電流が電流設定値を超えた時点(T1)で、制御部50は、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える処理を行うことができ、突き抜け電流を抑制することができる。
【0034】
図5は、電流設定値が低い場合の出力電流値の継時変化を示す図である。ここで、横軸は時間を示し、縦軸はモータ10への出力電流、すなわち、電流検出部30により検出された電流の測定値を示す。第1マスク時間と第2マスク時間は、
図4と同等の長さである。上述と同様に、第1および第2マスク時間は連続しており、T1correctの時点は第2マスク時間の範囲であるため、制御部50が第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える処理は、無効にされている。このため、充電電流が流れ続ける突き抜け電流が生じ、電流設定値誤差がより大きくなってしまう。
【0035】
図5のように、電流設定値が低い場合にも、本実施形態では、第2マスク時間を可変にすることによって、第1マスク時間が第2マスク時間に連続しないように、第2マスク時間が設定される。これにより、第2マスク時間と第1マスク時間との間を離間させ、第2マスク時間の経過後、電流が電流設定値を超えた時点(T1)で、制御部50は、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える処理を行う。これにより、突き抜け電流を抑制することができる。
【0036】
ここで、電流設定値誤差は、駆動回路部20におけるスイッチング動作の切り替え時の電流値を電流設定値で除算した値である。
図4では、スイッチング動作の切り替え時T1の電流値は、1.01アンペアであり、電流設定値は、1アンペアであるので、電流設定値誤差は、1パーセントである。一方、
図5のように低い電流設定値の場合も同様に、第2マスク時間を経過した後にタイミングT1が発生する。つまり、電流設定値に対して第1マスク時間と第2マスク時間が誤差要因となる。例えば電流設定値を0.1Aとし、第1マスク時間と第2マスク時間による電流突き抜けが0.01Aの場合は10%の誤差になる。このように、電流設定値が低くなる程、電流設定値誤差が大きくなる。このことから、マスク時間を適正に設定することは重要であり、特に電流設定値が低くなる程、マスク時間の設定をより正確にする必要がある。
【0037】
図6は、マスク時間設定部64におけるマスク時間テーブルの一例を示す図である。横軸は電源電圧レベル検知部68の入力信号である電源電圧VMを示し、縦軸は出力電流設定部66の入力信号であるアナログ電圧信号に基づき定められる電流設定値(
図4、
図5)を示す。このように、電源電圧VMと電流設定値とに基づき、第2マスク時間は定まる。例えば、電源電圧VMが15Vであり、アナログ電圧信号に基づき定められる電流設定値の情報が1Aである場合、第2マスク時間は0.75usとなる。電流設定値が同一の場合、電源電圧VMが大きくなるほど、第2ノイズのピーク幅が大きくなる。このため、電流設定値が同一の場合、電源電圧VMが大きくなるほど第2マスク時間を長くしている。また、電源電圧VMが同一の場合、やはり電流設定値が大きくなるほど、第2ノイズのピーク幅が大きくなる。このため、電源電圧VMが同一の場合、電源電圧VMが大きくなるほど第2マスク時間を長くしている。このように、電源電圧VM、及び電流設定値の情報に基づき、第2マスク時間を設定することにより、第2ノイズのピーク幅に対応する第2マスク時間を設定可能となる。
【0038】
図6に示すように、マスク処理部60のマスク時間設定部64は、第2マスク時間テーブルに基づき、第2マスク時間を設定する。このように、マスク時間設定部64は、駆動回路部20を介してモータ10に電流を供給する電源電圧VM、及びモータ10に流れる電流の電流設定値の内の少なくとも一方に基づき、第2マスク時間を設定する。モータに流れる電流の電流設定値は出力電流設定部66によりマスク時間設定部64に設定され、電源電圧VMは電源電圧レベル検知部68によりマスク時間設定部64に設定される。このように、出力電流設定部66は、外部から供給されるアナログ電圧信号に基づき、電流設定値をマスク時間設定部64に設定する。また、電源電圧レベル検知部68は、外部から供給される電源電圧VMをマスク時間設定部64に設定す
る。これにより、制御部50は、第2マスク時間において、第2スイッチング動作から第1スイッチング動作の際に第2ノイズが生じても、第2ノイズの影響による誤制御を回避させることができる。
【0039】
また、マスク時間設定部64は、プログラム可能な回路で構成されており、電源電圧及び電流の設定値に基づく第2マスク時間を変更することが可能である。これにより、用途に応じて第2マスク時間を柔軟に調整することができる。なお、マスク時間設定部64は、出力電流設定部66又は電源電圧レベル検知部68の設定値に対して、第2マスク時間をリニアに可変させて設定してもよい。これにより、全電流領域に於ける電流設定値誤差の低減が可能となる。
【0040】
図7は、マスク時間設定部のマスク時間テーブルを用いた場合の効果を定性的に説明するための図である。横軸は、電流設定値を示し、縦軸は電流設定値誤差を示している。L10は、誤差が0の理想的な場合を示している。これに対し、L20は、比較例として第2マスク時間を固定値にした場合、L30は、第2マスク時間を可変長にした本実施形態の場合の電流設定値誤差を示している。この
図7に示すように、電源電圧及び電流の設定値に基づき、第2マスク時間を変更することにより、第2マスク時間と第1マスク時間が連続することなく、電流が電流設定値を超えた時点で、第1スイッチング動作から第2スイッチング動作へ切り替わる。すなわち、電流設定値誤差が小さくなり、改善されることが分かる。特に電流設定値が低くなるほど、電流設定値誤差が改善される。
【0041】
例えば
図5のT1correctの時点(電流が電流設定値を超える時点)は、第2マスク時間をより短くすることによりに含まれなくなる。これにより、モータ10を流れる電流が電流設定値を超えたタイミングで、充電電流から回生電流に切り替えることができ、突き抜け電流を抑制可能となる。このため、電流設定値誤差が改善される。このように、マスク時間設定部64が、出力電流設定部66による電流設定値と、電源電圧レベル検知部68による電源電圧VMに基づき、モータ10の動作に起因するノイズに対して適切なマスク時間を設定可能となり、電流設定値誤差を改善することができる。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、電源電圧VM及びモータ10に流れる電流の電流設定値に基づき、回生電流から充電電流に切り替える制御を行う際の第2マスク時間を変更することした。これにより、電源電圧VM及び電流設定値などを変更した際に生じる第2ノイズの特性変化にも対応可能となり、第2ノイズの発生時間に応じた範囲に第2マスク時間を設定できる。このため、第2ノイズの発生時間に応じて第2マスク時間を短縮でき、モータ10を流れる電流が電流設定値を超えるタイミングが第2マスク時間内に入ることを回避でき、突き抜け電流が抑制され、電流設定値誤差を改善することができる。
【0043】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態のモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。第2実施形態に係るマスク時間設定部74が、第1マスク時間も設定することで、第1実施形態に係るマスク時間設定部64と相違する。以下に第1実施形態と相違する点に関して説明する。その他の構成は、第1実施形態に係るモータ駆動装置1と同等であるので、同等の構成には同一の番号を付して説明を省略する。
【0044】
図9は、マスク時間設定部74におけるマスク時間テーブルの別の例を示す図である。横軸は電源電圧レベル検知部68の入力信号である電源電圧VMを示し、縦軸は出力電流設定部66の入力信号であるアナログ電圧信号に基づき定められる電流設定値(
図4、
図5)を示す。例えば、電源電圧VMが15Vであり、アナログ電圧信号に基づき定められる電流設定値の情報が1Aである場合、第1マスク時間は0.7usとなる。
【0045】
このように、第2実施形態に係るマスク時間設定部74は、第1マスク時間を設定する第1マスク時間テーブルも有することで、第1実施形態に係るマスク時間設定部64と相違する。すなわち、
図9に示すように、マスク時間設定部74は、第1マスク時間テーブルに基づき、第1マスク時間も変更する。このように、マスク時間設定部74は、電流検出部30が検出した電流が所定の電流設定値を超えた時点からの可変長の第1マスク時間と、電流が所定の電流設定値を超えた時点に基づく可変長の第2マスク時間と、において制御部50が第1スイッチング動作から第2スイッチング動作に切り替える制御信号を無効にする。なお、本実施形態に係るマスク時間設定部74が第3マスク処理部に対応する。
【0046】
より具体的には、モータに流れる電流の電流設定値は出力電流設定部66によりマスク時間設定部74に設定され、電源電圧VMは電源電圧レベル検知部68によりマスク時間設定部74に設定される。これにより、マスク時間設定部74は、第1マスク時間を設定する第1マスク時間テーブルを用いて、駆動回路部20を介してモータ10に電流を供給する電源電圧VM、及びモータ10に流れる電流の電流設定値の内の少なくとも一方に基づき、第1マスク時間を設定する。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、電源電圧VM及びモータ10に流れる電流の電流設定値に基づき、充電電流から回生電流に切り替える際の第1マスク時間を変更可能とした。これにより、第1ノイズの発生時間に応じた範囲に第1マスク時間を設定可能となり、制御動作がより安定する。
【0048】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0049】
1:モータ駆動装置、10:モータ、20:駆動回路部、22:電力変換回路部、24:駆動制御回路部、30:電流検出部、50:制御部、60:マスク処理部、62:マスク部、64、74:マスク時間設定部、66:出力電流設定部、68:電源電圧レベル検知部、T1、T2:端子、M1~M4:スイッチング素子、VM:電源電圧