(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/24 20060101AFI20220309BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
A61M5/24 500
A61M5/32 500
(21)【出願番号】P 2018527152
(86)(22)【出願日】2016-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2016078271
(87)【国際公開番号】W WO2017089281
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-07
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・シャーダー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ヘルマー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンフリート・フートマッハー
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-502448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0243753(US,A1)
【文献】特表2014-506159(JP,A)
【文献】国際公開第2015/078868(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/078866(WO,A1)
【文献】米国特許第05098400(US,A)
【文献】特表2015-513439(JP,A)
【文献】特表2013-539701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/24
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達デバイス(10)であって:
注射針ホルダ(39)を固定できるカートリッジホルダ(14)であって、注射針ホルダ(39)は、近位端(42)および遠位端(43)を有する注射針(17)を保持し、近位端(42)は、注射針ホルダ(39)に取外し可能に連結される内側注射針キャップ(40)により保護され、カートリッジホルダ(14)は、ハウジング(11)に取り付けられ、かつ薬剤のカートリッジ(15)を受け入れるように構成される、カートリッジホルダと;
ハウジング(11)に取外し可能に連結されるキャップ組立体(12)と;
該キャップ組立体(12)がカートリッジホルダ(14)から引き離されたとき、内側注射針キャップ(40)を注射針ホルダ(39)から外すように構成された把持機構(86)であって、該把持機構は、少なくとも1つの把持部材を含み、少なくとも1つの把持部材は、後退位置から、把持部材が内側注射針キャップに係合する係合位置に向かって可動であるように構成され、また、キャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、把持
部材(87)が内側注射針キャップ(40)に対して軸方向に動いて、少なくとも1つの把持部材が後退位置から係合位置に向かって動くように構成さ
れ、把持機構(86)は、自由端(89)をそれぞれが有する複数のばねアーム(87)を含み、該ばねアーム(87)は、キャップ組立体(12)がカートリッジホルダ(14)から引き離されたとき、自由端(89)が、内側注射針キャップ(40)上に折れ曲がり、かつ締め付けるように構成され、後退位置では、各ばねアーム(87)の自由端(89)は、カートリッジホルダ(14)上に載っており、係合位置では、各ばねアーム(87)の自由端(89)は、内側注射針キャップ(40)を締め付ける、把持機構と
を含む
前記薬剤送達デバイス。
【請求項2】
キャップ組立体(12)は、該キャップ組立体(12)がカートリッジホルダ(14)から引き離されたとき、内側注射針キャップ(40)を、ハウジング(11)の長手方向軸(X)に沿って軸方向に注射針ホルダ(39)から引き離すように構成される、請求項1に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの把持部材(87)は、後退位置から係合位置に向かってキャップ組立体(12)に対して可動である、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項4】
ばねアーム(87)は互いに向かって付勢される、請求項
1~3のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項5】
キャップ組立体は、内側キャップ(70)と、該内側キャップ(70)に連結された外側キャップ(69)とを含み、ばねアーム(87)は、自由端(89)とは反対の第1の端部(88)を有し、各第1の端部(88)は、内側キャップ(70)に固定される、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項6】
外側針キャップ(41)は、内側針キャップ(40)の上に位置し、またキャップ組立体は停止部材(81)を含み、該停止部材(81)は、キャップ組立体(12)がカートリッジホルダ(14)から引き離されたとき、外側針キャップ(41)の遠位セクション(56)に係合して、内側針キャップ(40)を注射針ホルダ(39)から取り外す前に、外側針キャップ(41)を内側針キャップ(40)から取り外すように構成される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項7】
各ばねアーム(87)の第1の端部(88)は、停止部材(81)に固定される、請求項
6に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項8】
互いに向き合っている1対のばねアーム(87)を含む、請求項
1~
7のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項9】
把持機構(86)は、内側注射針キャップ(40)を保持するように構成された留め具(86)であって、キャップ組立体(12)がカートリッジホルダ(14)から引き離されたとき、内側注射針キャップ(40)を注射針ホルダ(39)から取り外すように構成された留め具を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項10】
注射針(17)が固定される注射針ホルダ(39)を含み、注射針(17)は、近位端(42)および遠位端(43)を有し、近位端(42)は、注射針ホルダ(39)に取外し可能に連結された内側注射針キャップ(40)により保護される、請求項1~
9のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項11】
薬剤のカートリッジ(15)を含み、該カートリッジ(15)は、カートリッジホルダ(14)内に受け入れられる、請求項1~
10のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)において、注射針(17)から内側注射針キャップ(40)を取り外す方法であって、該薬剤送達デバイスは、把持機構を含み、該把持機構は、少なくとも1つの把持部材を含み、少なくとも1つの把持部材は、後退位置から、把持部材が内側注射針キャップに係合する係合位置に向かって可動であるように構成され、また、把持
部材が内側注射針キャップ(40)に対して軸方向に動いて、少なくとも1つの把持部材が後退位置から係合位置に向かって動くように構成され、該方法は、薬剤送達デバイス(10)のキャップ組立体(12)を所定の距離だけ近位方向に動き、キャップ組立体(12)および内側注射針キャップ(40)をデバイス(10)から取り外す工程を含む前記方法。
【請求項13】
外側針キャップ(41)は、内側針キャップ(40)の上に位置し、キャップ組立体(12)を所定の距離だけ動くことにより、外側針キャップ(41)が内側注射針キャップ(40)から外れるようにする、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に薬剤を送達するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動注射器などの薬剤注射デバイスは、注射によって薬剤を送達するように設計された薬剤送達デバイスの一般的なタイプである。このタイプのデバイスは、使いやすく設計されており、患者が自己投与するように、または正式な医学的訓練を受けていない人により投与されるように意図されている。
【0003】
状況によっては、薬剤注射デバイスは、年配者または身体に障害のある人など、身体能力の損なわれた患者によって使用されるが、患者によるデバイスの操作は困難である可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
少なくともいくつかの実施形態では、本発明は、上記で述べた問題の少なくともいくつかを克服する、または改善しようとするものである。特に本発明は、容易に使用できる薬剤送達のためのデバイスを提供することを目指している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様は、患者に薬剤を送達するためのデバイスに関する。
【0006】
本発明のさらなる態様によれば、薬剤送達デバイスが提供され、薬剤送達デバイスは:
注射針ホルダを固定できるカートリッジホルダであって、注射針ホルダは、近位端および遠位端を有する注射針を保持し、近位端は、注射針ホルダに取外し可能に連結される内側注射針キャップにより保護され、カートリッジホルダは、ハウジング内に取り付けられ、かつ薬剤のカートリッジを受け入れるように構成される、カートリッジホルダと;
ハウジングに取外し可能に連結されるキャップ組立体と;
キャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、内側注射針キャップを注射針ホルダから外すように構成された把持機構と
を含む。これは、ユーザが薬剤注射手順に対して実施する必要のある工程量を低減できるので有利である。従来の薬剤送達デバイスでは、デバイスの注射する準備を完了させるために、ユーザがキャップ組立体および内側針キャップを別々に外して針を露出させる必要がある。年配者または身体に障害のある人などの虚弱な患者は、内側針キャップが小サイズであるため、内側針キャップを外すことは、キャップ組立体を外すことよりも難しいと気付く可能性のあることを理解されたい。本発明によれば、キャップ組立体および内側針キャップは共に、単一の操作で同時に取り外され、それにより、薬剤送達デバイスが使いやすくなる。
【0007】
キャップ組立体は、キャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、内側注射針キャップを、ハウジングの長手方向軸に沿って軸方向に注射針ホルダから引き離すように構成することができる。これは、内側注射針キャップを、注射針ホルダから確実に容易に取り外せるようにするので有利である。
【0008】
把持機構は、少なくとも1つの把持部材を含むことができ、把持部材は、後退位置から、把持部材が内側注射針キャップに係合する係合位置に向かって可動であり、把持部材は、キャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、後退位置から係合位置に向かって動くことができる。一実施形態では、前記少なくとも1つの把持部材は、後退位置から係合位置に向かって、キャップ組立体に対して可動である。
【0009】
把持機構は、内側注射針キャップを保持し、かつキャップ組立体がカートリッジホルダから引き離される間、内側注射針キャップを注射針ホルダから取り外すように構成された留め具を含むことができる。これは、注射する前に、内側注射針キャップを信頼できる方法で確実にハウジングから取り外すことができるので有利である。
【0010】
把持機構は、自由端をそれぞれが有する複数のばねアームを含むことができ、またばねアームは、キャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、自由端が、内側注射針キャップ上に折れ曲がり、かつ締め付けるように構成することができる。これは、簡単な構成の薬剤送達デバイスを提供できるので有利である。
【0011】
後退位置では、各ばねアームの自由端は、カートリッジホルダ上に載ることができ、また係合位置では、各ばねアームの自由端は、内側注射針キャップを締め付けることができる。
【0012】
ばねアームを、互いに向かって付勢することができる。
【0013】
キャップ組立体は、内側キャップと、内側キャップに連結された外側キャップとを含むことができ、ばねアームは、自由端とは反対側の第1の端部を有することができ、また各第1の端部は、内側キャップに固定することができる。
【0014】
外側針キャップは、内側針キャップの上に位置することができ、またキャップ組立体は停止部材を含むことができ、停止部材は、キャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、外側針キャップの遠位セクションに係合して、内側針キャップを注射針ホルダから取り外す前に、外側針キャップを内側針キャップから取り外すように構成される。内側針キャップおよび外側針キャップは共に、単一の操作で注射針ホルダから取り外され、それにより、ユーザが薬剤注射手順に対して実施する必要のある工程量が低減される。
【0015】
各ばねアームの第1の端部は、停止部材に固定することができる。
【0016】
薬剤送達デバイスは、互いに向き合っている1対のばねアームを含むことができる。
【0017】
薬剤送達デバイスは、注射針が固定される注射針ホルダを含むことができ、注射針は、近位端および遠位端を有し、近位端は、注射針ホルダに取外し可能に連結された内側注射針キャップにより保護される。
【0018】
薬剤送達デバイスは、薬剤のカートリッジを含むことができ、カートリッジは、カートリッジホルダ内に受け入れられる。
【0019】
本発明のさらなる態様によれば、薬剤送達デバイスにおいて、注射針を保持する注射針ホルダから内側注射針キャップを取り外す方法が提供され、注射針は、近位端および遠位端を有し、近位端は、内側注射針キャップにより保護されており、薬剤送達デバイスは:
注射針ホルダを固定できるカートリッジホルダであって、ハウジングに取り付けられ、かつ薬剤のカートリッジを受け入れるように構成されたカートリッジホルダと;
ハウジングに取外し可能に連結されたキャップ組立体と;
把持機構とを含み;
ここで、方法は、キャップ組立体をカートリッジホルダから引き離して、把持機構に、内側注射針キャップを注射針ホルダから外させる工程を含む。
【0020】
外側針キャップは、内側針キャップの上に位置することができ、また方法は、キャップ組立体をカートリッジホルダから引き離して、外側針キャップを、内側注射針キャップから引き離すようにさせる工程を含むことができる。
【0021】
本発明のさらなる態様によれば、薬剤送達デバイスにおいて、注射針から内側注射針キャップを取り外す方法が提供され、方法は、薬剤送達デバイスのキャップ組立体を所定の距離だけ近位方向に動き、キャップ組立体および内側注射針キャップをデバイスから取り外す工程を含む。
【0022】
外側針キャップは、内側針キャップの上に位置することができ、またキャップ組立体を所定の距離だけ動くことにより、外側針キャップを内側注射針キャップから外れるようにする。
【0023】
本明細書で相互に交換可能に使用される「薬物」または「薬剤」という用語は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味する。
【0024】
「薬剤送達デバイス」という用語は、ヒトまたはヒト以外(獣医学的用途も本開示により明確に企図される)の体に薬物を直ちに投薬するように設計された任意のタイプのデバイス、システム、または装置を包含するものと理解されたい。「直ちに投薬する」ことにより、薬物送達デバイスからの薬物の放出と、ヒトまたはヒト以外の体への投与との間に、ユーザによる何らかの必要な中間的薬物操作がないことを意味する。限定することなく、薬物送達デバイスの典型的な例は、注射デバイス、吸入器、および胃管供給システムに見出すことができる。再度限定することなく、例示的な注射デバイスは、たとえば、シリンジ、自動注射器、注射ペンデバイス、および脊髄注射システムを含むことができる。
【0025】
本発明の例示的な実施形態が、添付図面を参照して述べられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】本発明の実施形態による薬剤送達デバイスの概略的な側面図である。
【
図1B】本発明の実施形態による薬剤送達デバイスの概略的な側面図である。
【
図2】針が収納位置にある
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の横断面図である。
【
図3】針が使用位置にある
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の横断面図である。
【
図4】針が使用位置にあり、シールドアームが、内側キャップにより非アクティブ位置で保持された状態にある
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の横断面図である。
【
図5】針が使用位置にあり、内側針キャップが針から取り外され、かつシールドアームが針安全位置にある、
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の横断面図である。
【
図6A】非アクティブ位置にあるシールドアームを詳細に示す
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の斜視図である。
【
図7A】針安全位置にあるシールドアームを詳細に示す
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態は、薬剤送達デバイスのキャップ組立体がカートリッジホルダから引き離されたとき、内側針キャップを、薬剤送達デバイスの注射針ホルダから取り外すための機構を提供する。このような機構を提供することは、キャップ組立体および内側針キャップを共に、単一の操作で同時に外すことを可能にし、それにより、薬剤送達デバイスが使いやすくなる。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態によれば、本明細書では、単に「デバイス10」と呼ぶ例示的な薬物送達デバイス10が、
図1Aおよび
図1Bで示される。
【0029】
本明細書における「近位の」および「遠位の」という用語は、それぞれ、患者に比較的近いこと、および患者から比較的離れていることを指している。
【0030】
本明細書に記載の薬物送達デバイスは、薬剤を患者に注射するように構成することができる。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内に行うものとすることができる。このようなデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの介護者により操作することができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、使用する前に、封止されたアンプルに穿孔する必要のあるカートリッジベースのシステムを含むことができる。これらの様々なデバイスを用いて送達される薬剤の量は、約0.5mlから約2mlの範囲とすることができる。さらに、別のデバイスは、「多くの」量の薬剤(通常、約2mlから約10ml)を送達するために、一定の時間期間(たとえば、約5、15、30、60、または120分)にわたり、患者の皮膚に接着するように構成された大量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができる。
【0031】
特定の薬剤と組み合わせて、本記載のデバイスはまた、必要な仕様内で動作するようにカスタマイズすることもできる。たとえば、デバイスは、一定の時間期間内に薬剤を注射するようにカスタマイズすることができる(たとえば、自動注射器の場合、約3秒から約20秒、またLVDの場合、約10分から約60分など)。他の仕様は、低レベルもしくは最小レベルの不快さ、または人的要因、貯蔵寿命、使用期限、生体適合性、環境的配慮などに関連するいくつかの条件を含むことができる。このような変化は、たとえば、粘度が約3cPから約50cPの範囲の薬物など、様々な因子に起因して生ずる可能性がある。結果として、薬物送達デバイスは、サイズが約25から約31ゲージの範囲の中空の針を含むことが多い。普通のサイズは、27および29ゲージである。
【0032】
本明細書に記載の送達デバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化された機能を含むことができる。たとえば、針の挿入、薬剤の注射、および針の後退のうちの1つまたはそれ以上のものを自動化することができる。1つまたはそれ以上の自動化工程に対するエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源により提供することができる。エネルギー源は、たとえば、機械的、空気的、化学的、または電気的エネルギーを含むことができる。たとえば、機械的なエネルギー源は、ばね、てこ、エラストマー、またはエネルギーを蓄積もしくは解放するための他の機械的な機構を含むことができる。1つまたはそれ以上のエネルギー源は、単一のデバイスへと組み合わせることができる。デバイスは、エネルギーをデバイスの1つもしくはそれ以上の構成要素の動きへと変換する歯車、弁、あるいは他の機構をさらに含むことができる。
【0033】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化された機能は、それぞれ、起動機構により起動することができる。このような起動機構は、ボタン、レバー、針スリーブ、または他の起動構成要素の1つまたはそれ以上のものを含むことができる。自動化された機能の起動は、1つの工程、またはマルチ工程のプロセスとすることができる。すなわち、ユーザは、自動化された機能を行うために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動する必要があり得る。たとえば、1つの工程のプロセスでは、ユーザは、薬剤を注入させるために、患者の体に対して針スリーブを押し下げることができる。他のデバイスは、自動化された機能のマルチ工程の起動を必要とすることができる。たとえば、ユーザは、注射させるために、ボタンを押し下げ、かつニードルシールドを後退させることが必要になり得る。
【0034】
さらに1つの自動化された機能の起動は、1つまたはそれ以上の後続する自動化された機能を起動させ、それにより、起動シーケンスを形成することができる。たとえば、第1の自動化された機能を起動することは、針の挿入、薬剤注射、および針の後退のうちの少なくとも2つを起動することができる。いくつかのデバイスはまた、1つまたはそれ以上の起動された機能を行わせるために、特定シーケンスの工程が必要になり得る。他のデバイスは、一連の独立した工程で動作することができる。
【0035】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含むことができる。たとえば、送達デバイスは、薬剤を自動的に注射するように構成された機械的なエネルギー源(通常、自動注射器で見られる)と、用量設定機構(通常、ペン注射器で見られる)とを含むこともできる。
【0036】
デバイス10は、上記で述べたように、たとえば、液体薬剤などの薬剤を、患者の体に注射するように構成される。デバイス10は、通常、注射する予定の薬剤を含む貯蔵器(たとえば、シリンジ)と、送達プロセスの1つまたはそれ以上の工程を容易にするために必要な構成要素とを含む本体またはハウジング11を含む。デバイス10はまた、ハウジング11に取外し可能に取り付けることのできるキャップ組立体12を含むことができる。通常、ユーザは、デバイス10を動作させる前に、ハウジング11からキャップ組立体12を取り外す必要がある。
【0037】
デバイス10は、液体の薬剤で充填済みのカートリッジ15と、カートリッジ15から薬剤を患者の体に注射するための注射針17を含むペンニードルまたはニードルアセンブリ16(
図2で見ることができる)とを含む。ハウジング11は、カートリッジ15の内容物を、それを通して見ることのできる窓11aを含む。
図2で示すように、デバイス10はまた、キャップ組立体12をニードルアセンブリ16に連結するための連結機構18と、デバイス10が使用されるとき、針17への通路を閉じるためのシールド要素19とを含む。
【0038】
図示のように、ハウジング11は、実質的に円筒形であり、かつ長手方向軸Xに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、近位領域20および遠位領域21を有する。「近位の」という用語は、注射部位に比較的近い位置を指し、また「遠位の」という用語は、注射部位から比較的離れた位置を指す。
【0039】
デバイス10はまた、スリーブ13がハウジング11に対して動くことができるようにハウジング11に連結された針スリーブ13を含むことができる。スリーブ13は、ハウジング11内に後退可能に取り付けられる。たとえば、スリーブ13は、長手方向軸Xに平行な長手方向に動くことができる。具体的には、遠位方向へのスリーブ13の動きにより、針17は、ハウジング11の近位領域20から延びることができる。
【0040】
針17の挿入は、いくつかの機構により行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定されて位置することができ、最初は、延ばされた針スリーブ13内に位置することができる。患者の体に対してスリーブ13の近位端を当て、かつハウジング11を近位方向に動かすことによるスリーブ13の遠位方向の動きは、針17の近位端を露出させることになる。このような相対運動により、針17の近位端は患者の体内へと延びることができる。このような挿入は、スリーブ13に対するハウジング11の患者の手動運動により、針17が手動で挿入されるので、「手動」挿入と呼ばれる。
【0041】
挿入の別の形態は、「自動化された」ものであり、それにより、針17はハウジング11に対して動く。このような挿入は、スリーブ13の動きにより、またはたとえば、ボタン22など、別の形態の起動によりトリガすることができる。
図1Aおよび
図1Bで示すように、ボタン22は、ハウジング11の遠位端に位置する。しかし、他の実施形態では、ボタン22は、ハウジング11の側部に位置することもできる。
【0042】
他の手動または自動化機能は、薬物注射もしくは針後退、またはその両方を含むことができる。注射は、薬剤をカートリッジから針17を通るように強制するために、栓もしくはピストン23を、カートリッジ内の遠位位置から、カートリッジ内のより近位位置へと動かすプロセスである。いくつかの実施形態では、駆動ばね(図示せず)が、デバイス10が起動される前に圧縮される。駆動ばねの遠位端は、ハウジング11の遠位領域21内に固定することができ、また駆動ばねの近位端は、ピストン23の遠位面に、圧縮力を加えるように構成することができる。起動された後、駆動ばねに蓄積されたエネルギーの少なくとも一部を、ピストン23の遠位面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン23に対して作用して、それを近位方向に動かすことができる。このような近位の動きは、カートリッジ内の液体薬剤を圧縮するように作用し、液体薬剤を針17から外に出すように強制する。
【0043】
注射した後、針17は、スリーブ13またはハウジング11内に後退することができる。後退は、ユーザが、デバイス10を患者の体から外して、スリーブ13が近位方向に動いたときに生ずることができる。これは、針17がハウジング11に対して固定されて位置する状態のときに生ずる。スリーブ13の近位端が、針17の近位端を過ぎて動き、かつ針17が覆われた後、スリーブ13はロックされる。このようなロックは、ハウジング11に対するスリーブ13のどんな遠位の動きもロックすることを含むことができる。
【0044】
針の後退の別の形態は、針17がハウジング11に対して動いた場合に行うことができる。このような動きは、ハウジング11内のカートリッジが、ハウジング11に対して遠位方向に動いた場合に生ずる可能性がある。この遠位の動きは、近位領域20に位置する後退ばね(図示せず)を用いることによって達成することができる。圧縮された後退ばねは、起動されたとき、カートリッジに十分な力を供給して、それを遠位方向に動くことができる。十分に後退した後、針17とハウジング11の間のいずれの相対運動も、ロッキング機構を用いてロックすることができる。加えて、ボタン22、またはデバイス10の他の構成要素が、必要に応じてロックすることができる。
【0045】
図2で示すように、カートリッジホルダ14は、ハウジング11にしっかりと取り付けられる。カートリッジホルダ14は、カートリッジ15を受け入れるための空洞部25を画成する壁24を含む。カートリッジホルダ14は、主部分26および近位部分27を含む。主部分26は、実質的に円筒形であり、かつ長手方向軸Xに沿って、実質的に一定の直径を有する。近位部分27は、実質的に円筒形であり、かつ主部分26の直径未満の直径を有する。近位部分27は、外側のねじ山28を含む。リブ29が、近位部分27の端部30で壁24から内側方向に突出し、かつ近位部分27の円周全体に延びている。リブ29は、注射中に、針17が通って位置する開口部31を画成する。封止カッタ32が、リブ29に固定される。封止カッタ32は、リブ29から突出しており、かつ開口部31の周りに分布する1対の切刃の形態のものである。
【0046】
カートリッジ15は、患者の体に注射する予定の液体薬剤を収納する管状の容器33の形態をしている。容器33は、カートリッジホルダ14の空洞部25内にしっかりと嵌合される。容器33は、カートリッジホルダ14の開口部31に面しており、かつセプタム35により封止されるアパーチャ34を含む。
【0047】
スリーブ13は、概して管状の形を有し、かつハウジング11とカートリッジホルダ14の間で長手方向軸Xに沿って延びる。スリーブ13は、スリーブ13がハウジング11の近位領域20から突出する展開位置と、スリーブ13がハウジング11内に後退した後退位置との間で、長手方向軸Xに沿って摺動可能である。円周方向の刻み目36が、スリーブ13の近位端38において、スリーブ13の内面上に設けられる。ハウジング11に対するスリーブ13の回転は、スプラインが付けられた構成(図示せず)により阻止される。
【0048】
ニードルアセンブリ16は、注射針17と、針17が固定される注射針ホルダ39と、内側のニードルシールドもしくは内側針キャップ40と、外側のニードルシールドもしくは外側針キャップ41とを含む。
【0049】
注射針17は、近位端42と、遠位端43と、近位端42および遠位端43を共に接続する中間セクション44とを含む中空の針17の形態をしている。針17は、収納位置(
図2)から使用位置(
図3から
図5)に向かって可動である。収納位置では、針17の遠位端43は、カートリッジ15から離間されており、したがって、薬剤を送達することはできない。使用位置では、針17の遠位端43は、カートリッジ15の中に挿入され、したがって、薬剤は、カートリッジ15から流れて、針17を通り患者の体へと注射することができる。
【0050】
針ホルダ39は、針支持部分45と、針支持部分45から延びるフランジ46とを含む。針支持部分45は、針17の中間セクション44に固定され、かつ針17を、長手方向軸Xに対して実質的に平行な位置に支持する。針17は、フランジ46が針17の遠位端43を囲むように、針ホルダ39内に位置する。フランジ46は、内面および外面を有する。フランジ46の内面は、カートリッジホルダ14の近位部分27の外側ねじ山28とかみ合うように構成された内側ねじ山49を有する。フランジ46は、長手方向軸Xに対して横断方向にフランジ46内で延びる封止フィルムまたは封止膜50を含む。封止膜50は、針17が収納位置にあるとき、針17の遠位端43をフランジ46内に封止する。以下でより詳細に説明されるように、封止膜50は、針17が使用位置に向かって動いたとき、カートリッジホルダ14の切刃32により切られて、針17の遠位端43を露出するように構成される。
【0051】
内側針キャップ40は、デバイス10が使用状態にない場合、針17の近位端42を保護するために、針17の近位端42を囲む。内側針キャップ40は、管状のものである。内側針キャップ40の直径は、内側針キャップ40の内面が、針ホルダ39の針支持部分45にしっかりと当接して、内側針キャップ40をその上にしっかりと配置するようなものである。内側針キャップ40がこのように配置されると、針17は、内側針キャップ40内に完全に封入される。
【0052】
外側針キャップ41は、内側針キャップ40および針ホルダ39の上に位置する。外側針キャップ41は、遠位セクション56および近位セクション57を有する管状のものである。遠位セクション56は、針ホルダ39のフランジ46の外面の上に位置する。遠位セクション56の直径は、遠位セクション56の内面が、針ホルダ39のフランジ46の外側面にしっかりと当接して、外側針キャップ41をその上にしっかりと配置するようなものである。近位セクション57の直径は、遠位セクション56の直径よりも小さい。近位セクション57の直径は、近位セクション57の内面が、内側針キャップ40の外面に軽く当接するようなものである。外側肩部62が、遠位セクション56上に設けられ、かつ遠位セクション56の円周全体周りで延びる。
【0053】
連結機構18は、外側針キャップ41の近位セクション57にしっかりと固定され、かつハウジング11の長手方向軸Xに沿って延びるスピンドル63を含む。スピンドル63は、第1のスピンドルセクション64および第2のスピンドルセクション65を含む。第1のスピンドルセクション64の直径は、肩部66が、第1のスピンドルセクション64と第2のスピンドルセクション65との間の接続部に形成されるように、第2のスピンドルセクション65の直径よりも大きい。第1のスピンドルセクション64は中空であり、外側針キャップ41の近位セクション57を受け入れる。第1のスピンドルセクション64は、外側針キャップ41の近位セクション57にしっかりと取り付けられる。第1のスピンドルセクション64は、第1のねじピッチを有する第1の外側ねじ山67を有する。第2のスピンドルセクション65は、第2のねじピッチを有する第2の外側ねじ山68を有する。第1のねじピッチは、第2のねじピッチよりも小さい。たとえば、第1のねじピッチと第2のねじピッチとの間の比は、0.5と0.9の間からなる。
【0054】
キャップ組立体12は、外側キャップ69および内側キャップ70を含む。外側キャップ69は、外側円筒部分72および内側円筒部分73が延びる外側キャップ面71を含む。外側円筒部分72は、ハウジング11の直径に実質的に等しい直径を有する。内側円筒部分73は、長手方向軸Xに沿って、外側円筒部分72内で延びる。内側円筒部分73は、外側キャップ面71とは反対方向にある内側円筒部分73の端部75において、内側に、かつ円周方向に延びる第1の停止部材74を含む。第1の停止部材74は、第2のスピンドルセクション65の第2の外側ねじ山68とかみ合う第3のねじ山76を含む。内側キャップ70は、実質的に円筒形であり、長手方向軸Xに沿って延びる。内側キャップ70は、後退可能なスリーブ13内で延びる。内側キャップ70は、遠位端77、近位端78、および遠位端77と近位端78の間で延びている中間領域79を有する。内側キャップ70は、内側キャップ70の近位端78において円周方向に延びる第2の停止部材80と、内側キャップ70の遠位端77において円周方向に延びる第3の停止部材81とを含む。第2の停止部材80は、外側キャップ69の内部円筒部分73の第1の停止部材74に係合するように構成される。第3の停止部材81は、外側針キャップ41の遠位セクション56の外側肩部62に係合するように構成される。突起部82は、内側キャップ70の中間領域79から円周方向に、かつ内側に延びる。突起部82は、第1のスピンドルセクション64の第1の外側ねじ山67とかみ合う第4のねじ山83を含む。円周方向の凹部84が、中間領域79の外側面上に設けられ、スリーブ13の円周方向の刻み目36を受け入れるように構成され、したがって、内側キャップ70は、取外し可能にスリーブ13に固定される。
【0055】
留め具86の形態の把持機構が、内側キャップ70の遠位端77に設けられる。留め具86は、内側キャップ70の第3の停止部材81に固定された第1の端部88と、第1の端部88とは反対の第2の端部または自由端89とをそれぞれが有する1対のばねアーム87を含む。ばねアーム87は、互いに向き合っている。ばねアーム87は、互いに向かって付勢される。ばねアーム87は、各ばねアーム87の第2の端部89がカートリッジホルダ14の壁24上に載置される後退すなわち休止位置と、各ばねアームの自由端89が内側針キャップ40を締め付ける係合位置との間で可動である。ばねアーム87は、キャップ組立体12がカートリッジホルダ14から引き離されたとき、後退位置から係合位置に動く。ばねアーム87は、内側針キャップ40を針ホルダ39から取り外すために、内側キャップ70をスリーブ13から引き離したとき、第2の端部89が内側針キャップ40上に折れ曲がり、かつそれを締め付ける、もしくは把持するように構成される。
【0056】
シールド要素19は、スリーブ13の内壁上に分布する。シールド要素19は、
図6Aから
図7Bでより詳細に示されている。シールド要素19は、スリーブ13の近位端38からから突出する第1、第2、第3、および第4のシールドアーム19の形態をしている。シールドアーム19は、針17の近位端42が露出される非アクティブ位置と、針17の近位端42への通路が閉じられる針安全位置との間で可動である。内側キャップ70がスリーブ13に取り付けられたとき、シールドアーム19は、内側キャップ70の外側面上に載置され、したがって、シールドアーム19は、内側キャップ70により非アクティブ位置で保持される。内側キャップ70は、それにより、シールドアーム19が針安全位置に向かって動くのを阻止する。シールドアーム19は、針安全位置に向かって付勢されており、したがって、内側キャップ70をスリーブ13から引き離すことにより、シールドアーム19を針安全位置に向かって動かす。
【0057】
本発明による薬剤注射デバイス10の動作が次に述べられる。
【0058】
最初に、
図2で示されるように、カートリッジ15が、カートリッジホルダ14に受け入れられ、またキャップ組立体12がハウジング11に取り付けられる。針17は、収納位置にある、すなわち、針17の遠位端43が、カートリッジ15から離間されている。針17の遠位端43は、封止膜50により、針ホルダ39のフランジ46内に封止され、また針17の近位端42は、内側針キャップ40内に封入される。内側針キャップ40および針ホルダ39は、外側針キャップ41内に位置する。ばねアーム87の第2の端部89は、カートリッジホルダ14の壁24上に載置される。スリーブ13の刻み目36は、内側キャップ70の凹部84に位置し、したがって、内側キャップ70は、スリーブ13に取り付けられる。シールドアーム19は、内側キャップ70の外側面上に載置され、したがって、シールドアーム19は、内側キャップ70によって非アクティブ位置で保持される。
【0059】
使用する場合、
図3の矢印Aで示されるように、外側キャップ69は、カートリッジホルダ14から引き離される。外側キャップ69の第1の停止部材74の第3のねじ山76は、第2のスピンドルセクション65の第2のねじ山68とかみ合っているので、外側キャップ69は、スピンドル63を駆動して、矢印Bで示されるように、ハウジング11の長手方向軸X周りの回転運動を生ずる。第1のスピンドルセクション64の第1のねじ山67は、内側キャップ70の突起部82の第4のねじ山83とかみ合っており、かつ内側キャップ70は、スリーブ13に対して固定されているので、スピンドル63は、同時に矢印Cで示されるように、カートリッジホルダ14の方向へのスリーブ13に対する並進運動を行うように駆動される。ニードルアセンブリ16は、スピンドル63に取り付けられているので、ニードルアセンブリ16は、スピンドル63と共にカートリッジホルダ14の方向へと動き、したがって、針17は、収納位置から使用位置に向かって動く。針17が、使用位置に向けて動く間に、カートリッジホルダ14上の切刃32が、封止膜50を切り、したがって、針17の遠位端43が露出される。針17が、使用位置に向かってさらに動く間に、針17の遠位端43は、カートリッジ15のセプタム35を穿孔し、また針ホルダ39のフランジ46が、カートリッジホルダ14の近位部分27上にねじ込まれる。針ホルダ39は、次いで、カートリッジホルダ14に固定されて、針17は使用位置で保持されるようになる。
【0060】
次いで、
図4の矢印Dで示すように、外側キャップ69は、カートリッジホルダ14からさらに遠くに引き離され、したがって、スリーブ13の刻み目36が、内側キャップ70の凹部84から外される。こうすることにより、外側キャップ69の第1の停止部材74を、内側キャップ70の第2の停止部材80に係合させ、その結果、外側キャップ69が、内側キャップ70をスリーブ13から引き離すようにする。同時に、内側キャップ70の遠位端77における第3の停止部材81は、外側針キャップ41の外部肩部62に係合し、外側針キャップ41を針ホルダ39から引き離すようにする。それと同時に、ばねアーム87は、後退位置から係合位置に向かって動く、すなわち、ばねアーム87の第2の端部89は、カートリッジホルダ14に沿って摺動し、針ホルダ39の上を通過して、内側針キャップ40上に折れ曲がり、かつ締め付ける。
【0061】
次に、
図5で示すように、外側キャップ69は、カートリッジホルダ14からさらに遠くに引き離されて、内側キャップ70がスリーブ13から完全に分離され、かつハウジング11から外されるようにする。同時に、内側針キャップ40は、長手方向軸Xに沿って軸方向に針ホルダ39から引き離される。シールドアーム19は、もはや内側キャップ70により非アクティブ位置で保持されておらず、したがって針安全位置へと折れ曲がり、針17の近位端42への通路を閉じる。その時点で、デバイス10は、注射を行う準備が完了する。
【0062】
注射を行うために、スリーブ13をさらにハウジング11の中へと後退させて、針17の近位端42が、シールドアーム19を通ってデバイス10の外側に突出するようにする。次いで、薬剤が、よく知られた方法で患者に注射される。注射の後、スリーブ13は、再度、展開位置へと延びて、デバイス10を安全に処分するために、シールドアーム19が針17の近位端42を覆うようにする。
【0063】
上記で述べた実施形態では、連結機構が、内側キャップおよび外側キャップ上の対応するねじ山とかみ合うように構成されたねじ山を有するスピンドルを含むものとして述べられている。しかし、本発明は、この特定タイプの連結機構に限定されるようには意図されておらず、たとえば、スピンドルを外側キャップおよび内側キャップに連結するために、はすば歯車を含む連結機構など、他のタイプの連結機構も本発明の範囲に含まれるように意図されている。
【0064】
用語「薬物」または「薬剤」は、本明細書において同意語として使用され、1つまたはそれ以上の医薬品有効成分または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物と、場合により、薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤を示す。医薬品有効成分(「API」)とは、最も広範な言い方で、ヒトまたは動物に生物学的影響を及ぼす化学構造のことである。薬理学では、薬物または薬剤が、疾患の処置、治療、予防、または診断に使用され、またはそれとは別に、身体的または精神的健康を向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限られた継続期間、または慢性疾患では定期的に、使用される。
【0065】
以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つのAPI、またはその組み合わせを含むことができる。APIの例としては、分子量が500Da以下である低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが含まれ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込まれる。1つまたはそれ以上の薬物の混合物もまた企図される。
【0066】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物または薬剤をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。それだけには限らないが、薬物送達デバイスは、注射デバイス(たとえばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、潅流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば鼻用または肺用)、埋め込み型デバイス(たとえば、薬物またはAPIコーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここで説明される薬物は、たとえば24以上のゲージ数を有する、たとえば皮下針である針を含む注射デバイスでは特に有用であり得る。
【0067】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含まれる。薬物容器は、たとえば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つもしくはそれ以上の薬物の保存(たとえば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の固体もしくは可撓性の容器とすることができる。たとえば、場合によって、チャンバは、少なくとも1日(たとえば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を収納するように設計される。場合によって、チャンバは、約1ヶ月から約2年の間薬物を保存するように設計される。保存は、室温(たとえば約20℃)または冷蔵温度(たとえば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。場合によって、薬物容器は、投与予定の医薬製剤の2つまたはそれ以上の成分(たとえばAPIおよび希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成される。たとえば、2つのチャンバは、これらが(たとえば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成される。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成される。
【0068】
本明細書において説明される薬物送達デバイス内に含まれる薬物または薬剤は、数多くの異なるタイプの医学的障害の処置および/または予防に使用される。障害の例としては、たとえば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症が含まれる。障害の別の例としては、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチがある。APIおよび薬物の例としては、たとえば、それだけには限らないが、ハンドブックのRote Liste 2014、主グループ12(抗糖尿病薬物)または主グループ86(腫瘍薬物)、およびMerck Index、第15版などに記載されているものがある。
【0069】
1型もしくは2型の糖尿病、または1型もしくは2型の糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物、またはそれらの任意の混合物が含まれる。本明細書において使用される用語「類似体」および「誘導体」は、元の物質と構造的に十分に類似しており、それによって同様の機能または活性(たとえば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。特に、用語「類似体」は、天然のペプチドの構造、たとえばヒトのインスリンの構造から、天然のペプチド中に見出される少なくとも1つのアミノ酸残基を欠失させるおよび/もしくは交換することによって、ならびに/または少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換されるアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基、または他の天然の残基もしくは完全に合成によるアミノ酸残基とすることができる。インスリン類似体は「インスリン受容体リガンド」とも呼ばれる。特に、用語「誘導体」は、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば、脂肪酸)が1つまたはそれ以上のアミノ酸に結合している、天然のペプチドの構造、たとえばヒトのインスリンの構造から式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然のペプチド中に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失され、かつ/もしくはコード不可能なアミノ酸を含む他のアミノ酸によって置換されていてもよく、または、コード不可能なアミノ酸を含むアミノ酸が、天然のペプチドに付加されていてもよい。
【0070】
インスリン類似体の例としては、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置換されているヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンがある。
【0071】
インスリン誘導体の例としては、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、Levemir(登録商標))、B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ω-カルボキシヘプタデカノイル-γ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、Tresiba(登録商標))、B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンがある。
【0072】
GLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストの例としては、たとえば、リキシセナチド(Lyxumia(登録商標)、エキセナチド(エキセンディン-4、Dyetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Victoza(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(Syncria(登録商標))、デュラグルチド(Trulicity(登録商標))、rエキセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン(Eligen)、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenがある。
【0073】
オリゴヌクレオチドの例としては、たとえば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセンナトリウム(Kynamro(登録商標))がある。
【0074】
DPP4阻害剤の例としては、ビルダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンがある。
【0075】
ホルモンの例としては、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストが含まれる。
【0076】
多糖類の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、ハイランG-F20(Synvisc(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0077】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例には、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが含まれる。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(たとえばネズミ)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。たとえば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、これはFc受容体との結合を支持せず、たとえば、突然変異した、または欠失したFc受容体結合領域を有する。用語の抗体はまた、四価二重特異性タンデム免疫グロブリン(TBTI)および/または交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗体結合分子を含む。
【0078】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、単一特異性抗体フラグメント、または二重特異性、三重特異性、四重特異性および多重特異性抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの多重特異性抗体フラグメント、一価抗体フラグメント、または二価、三価、四価および多価抗体などの多価抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例が当技術分野で知られている。
【0079】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0080】
抗体の例としては、アンチPCSK-9mAb(たとえばアリロクマブ)、アンチIL-6mAb(たとえばサリルマブ)、およびアンチIL-4mAb(たとえばデュピルマブ)がある。
【0081】
本明細書において説明される任意のAPIの薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける薬物または薬剤の使用に企図される。薬学的に許容される塩は、たとえば酸付加塩および塩基性塩である。
【0082】
当業者であれば、本明細書で述べられたAPI、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の変更(追加および/除外)は、本発明の完全な範囲および趣旨から逸脱することなく行うことができ、本発明は、このような変更およびその任意のかつすべての均等な形態を包含することが理解されよう。