IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アブ ダビ ポリマーズ カンパニー リミテッド(ボルジュ)エルエルシーの特許一覧 ▶ ボレアリス エージーの特許一覧

<>
  • 特許-HDPE 図1
  • 特許-HDPE 図2
  • 特許-HDPE 図3
  • 特許-HDPE 図4
  • 特許-HDPE 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】HDPE
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20220309BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20220309BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C08F10/02
C08L23/06
C08L23/08
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018528245
(86)(22)【出願日】2016-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2016079413
(87)【国際公開番号】W WO2017093390
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-19
(31)【優先権主張番号】15197662.8
(32)【優先日】2015-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515097410
【氏名又は名称】アブ ダビ ポリマーズ カンパニー リミテッド(ボルジュ)エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】511114678
【氏名又は名称】ボレアリス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ヨイ
(72)【発明者】
【氏名】ブリャク,アンドレイ
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/078924(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02017302(EP,A1)
【文献】国際公開第2014/180989(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00 - 10/14
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5~2.0g/10分のMFR、6以上のMw/Mn、5.6~6.4のMz/Mw、950kg/m以上の密度を有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲である。)である、多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項2】
0.5~2.0g/10分のMFR 、6以上のMw/Mn、5.6~6.4のMz/Mw、950kg/m 以上の密度を有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦50000の範囲である。)である、多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項3】
前記多峰性ポリエチレンポリマーが、以下の関係:
Mz/Mw>0.29(Mw/Mn)+0.8
を満たす、請求項1又は2に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項4】
低分子量ホモポリマー成分と高分子量コポリマー成分とを有する請求項1~3のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマーであって、該ポリマーが、58時間以上の全周ノッチクリープ試験法(FNCT)を有する、前記多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項5】
58時間以上の全周ノッチクリープ試験法(FNCT)を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項6】
二峰性である、請求項1~5のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項7】
100Pa超のG’値(0.05rad/s,190℃)を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項8】
130Pa超のG’値(0.05rad/s,190℃)を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項9】
160Pa超のG’値(0.05rad/s,190℃)を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項10】
560kDa以上のMzを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項11】
600kDa以上のMzを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項12】
630kDa以上のMzを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項13】
0.5~1.3g/10分のMFRを有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項14】
60時間以上の環境応力亀裂耐性(全周ノッチクリープ試験法(FNCT))を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項15】
低分子量(LMW)ホモポリマー成分と高分子量(HMW)エチレンコポリマー成分とを有する請求項1~14のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項16】
前記HMWエチレンコポリマー成分が、1種以上のC3-12αオレフィンを含む、請求項15に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項17】
前記HMWエチレンコポリマー成分が、ブタ-1-エン、ヘキサ-1-エン及びオクタ-1-エンから成る群から選択される1種以上のC3-12αオレフィンを含む、請求項15に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項18】
40~60重量%のHMW成分(B)と60~40重量%のLMW成分(A)とを有する、請求項15~17のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項19】
48~55重量%のHMW成分(B)と52~45重量%のLMW成分(A)とを有する、請求項18に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項20】
0.1~1モル%のコモノマーを有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項21】
該ポリマーが、1-ブテンコモノマーとのコポリマーである、請求項1~20のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項22】
1.0~20g/10分のMFRを有する、請求項1~21のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項23】
2.0~20g/10分のMFRを有する、請求項1~22のいずれか1項に記載の多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項24】
35~65%の低分子量ホモポリマー成分(A)と65~35%の高分子量コポリマー成分(B)とを有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
該ポリマーが、0.5g/10分~2.0g/10分のMFR、950kg/m以上の密度、6以上のMw/Mn、58時間以上の全周ノッチクリープ試験法(FNCT)を有し、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、少なくとも200≦時間(秒)≦30000の範囲である。)である、多峰性ポリエチレンポリマー。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリマーを含む、射出成形品又は圧縮成形品。
【請求項26】
キャップ又はクロージャーである、請求項25に記載の射出成形品又は圧縮成形品。
【請求項27】
射出成形品又は圧縮成形品の製造において請求項1~24のいずれか1項に記載のポリマーを使用する方法。
【請求項28】
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリエチレンの製造方法であって、
エチレン及び任意には1種以上のC3-10αオレフィンコモノマーを重合して、低分子量成分(A)を形成する工程と、次いで
成分(A)の存在下で、エチレン及び任意には1種以上のC3-10αオレフィンコモノマーを重合して、高分子量成分(B)を形成する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品又は圧縮成形品のための、特にキャップ及びクロージャーの製造のためのポリエチレンポリマーに関する。本発明はまた、該ポリマーの製造方法、該ポリマーを含む射出成形品又は圧縮成形品、及びキャップ又はクロージャーのような射出成形品又は圧縮成形品の製造のための該ポリマーの使用に関する。本発明のポリエチレンは、物品のアスペクト(低いドーミング)によって実証される、良好な応力亀裂耐性及び低いクリープ歪みに関して有利な特徴を有する成形品の形成を可能にする特定の一組の特性を有する多峰性(マルチモーダル)高密度ポリエチレンである。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、比較的複雑な形状及びある範囲のサイズを有する物品を含む広範な物品の造に使用し得る。射出成形は、例えば、炭酸飲料又は非炭酸飲料を収容するボトルのような食品及び飲料用途向け或いは化粧品及び医薬品用の容器のような非食品用途向けのキャップ及びクロージャーとして使用される物品の製造に適している。
【0003】
射出成形は、ポリマーを溶融させた後、注入によって金型に充填する成形プロセスである。初期注入時に、高圧が使用され、ポリマーメルトが圧縮される。こうして、金型に注入されると、ポリマーメルトは最初に膨張又は「緩和」して金型を充填する。しかし、金型はポリマーメルトよりも温度が低く、そのためポリマーメルトが冷却する際に収縮が起こり易い。この影響を補償するため背圧が加えられる。しかる後、ポリマーメルトはさらに冷却され、変形を起こさずに成形品を金型から取り外すことができるようになる。
【0004】
射出成形品の重要な特性は、その応力亀裂耐性である。本発明の射出成形品が脆性破壊を示すべきではなく、したがって高い応力亀裂耐性を有するべきであることが理解されるであろう。しかし、応力亀裂耐性の増加は一般に引張弾性率等の引張強度の低下を伴う。したがって、密度が低いとESCRは高くなるが引張強度は低下する。射出成形品は、好ましくは剛性であることも理解されるであろう。
【0005】
ESCRの向上に伴う引張弾性率の減少は、HDPEで特に顕著である。本発明者らは、特にキャップ及びクロージャー市場用に開発され、向上した応力亀裂耐性及び剛性(すなわち、高密度)を有する新しいHDPEを探求した。ただし、課題に追加するために、これらの改良点は、ポリマーの加工性又は形成された物品の外観を犠牲にするものであってはならない。加工性は、顧客のニーズを満すために維持又は改善さえしなければならない。射出成形品は迅速に製造され、加工性が低下すると、サイクル時間を増加させ、それによりプロセス効率を低下させるおそれがある。
【0006】
本発明者らは、HDPEが、射出成形に適したメルトフローレイトで所定のクリープ歪みの関係を有していると、高い応力亀裂耐性と加工性との好ましい組合せが達成できることを見出した。特に、本発明では、FNCTを低下させずに改善された(つまり、低減した)クリープ歪みをもたらす調整された分子量を有する多峰性HDPEポリマーについて記載する。本発明のFNCTは、同等の市販ポリマーグレードの選択肢よりも明らかに改善されている。さらに、本ポリマーを用いて製造されたキャップ又はクロージャーは、特にドーミングの程度が低いという点で、優れたアスペクトを有する。
【0007】
クリープは、機械的応力の影響下で固体材料が永久に変形する傾向であり、ポリマー製造業者には望ましくない。したがって、本発明の低クリープポリマーは有利である。
【0008】
キャップの特定の用途は、加圧ボトル用のクロージャーを形成することである。ボトルの内容物が加圧される場合、例えば炭酸飲料を収容するボトルと共に使用される場合、キャップは連続的な内圧に付される。これは、長期保存後のキャップの変形(当技術分野で「ドーミング」として知られる。)を招くおそれがある。本質的に、キャップは上方に変形してキャップの上面にドーム形状又は凸形を形成する。
【0009】
ドーミングの発生は必然的にキャップの壁部の厚さの変動をもたらし、弱さを招くおそれがある。ドーム形表面の厚さの減少は、キャップに対する応力が高まり、応力亀裂による破損の可能性が高まることを意味する。これは、圧力の喪失或いは最終的にはキャップの破裂さえ生じかねない。
【0010】
過度のドーミングは、製品の美的魅力を低下させるおそれもある。
【0011】
本発明は、特に低いクリープ歪みを有するポリマーの使用に依拠する。低いクリープ歪みはドーミングを減らし、さらに好ましいキャップをもたらす。これは、本発明によって、高い密度及びFNCTにて達成される。
【0012】
本発明は、広い分子量分布の広い多峰性ポリエチレンであって、理想的には慎重に選択されたMz値とMn値とMw値の関係を有する多峰性ポリエチレンの使用に依拠する。本発明のポリマーは、好ましくは高分子量テールを有する。
【0013】
国際公開第2014/180989号には、特定のMz、Mw及びMn間の関係を有するポリマー組成物が記載されており、これは、エンジェルヘアの問題を軽減することが判明している。エンジェルヘアの問題は、ポリマー中の高分子量鎖の存在によって悪化すると示唆されている。国際公開第2014/180989に記載されたポリマー組成物は、高分子量テールがあまり明確でなく、それによってキャップ上に形成される「ハイチップ」を低くすることができる。
【0014】
本発明は、国際公開第2014/180989号に記載されたポリマー組成物の代替物を提供する。理論に束縛されることは望まないが、本発明の多峰性ポリマー組成物はMw、Mz及びMnの相補的な組合せを提供すると考えられる。特に、本発明のポリマー組成物は、国際公開第2014/180989に記載されているものよりも若干高い分子量テール(x軸)を有するが、依然として容認できるクリープ歪と応力亀裂耐性と加工性とのバランスを維持している。
【0015】
特に、今回、Mw、Mn及びMzの特定の数値内で操作することによって、良好な加工性と低いクリープ歪みを維持しながら、ブレンドのESCRを増大させることができることが判明した。
【0016】
本発明の組成物は、ESCRと加工性と低クリープ歪みとのバランスが改善されているだけでなく、予期しないことに、ボトルのクロージャーに成形したときに低減したドーミングを呈する。
【0017】
欧州特許出願公開第1940942号では、HDPE組成物は主にブロー成形用途向けに記載されている。この組成物は、単峰性(ユニモーダル)HDPEと高Mw単峰性ポリマーとのブレンドを含んでいて、二峰性(バイモーダル)組成物を形成する。ただし、このポリマーは請求項1の関係を満たさない。
【0018】
欧州特許出願公開第1655336号及び同第1655338号には、射出成形キャップ及びクロージャーに適したポリマー組成物が記載されており、SHIとMFR2との特定の関係を有すると記載されている。
【0019】
欧州特許出願公開第1753791号(国際公開第2005/103100号)には、最低の5~50重量%のポリエチレン鎖の分岐度及び最高の5~50重量%のポリエチレン鎖の分岐度によって定義されるポリエチレンが記載されている。
【0020】
国際公開第2008/137722号には、高い剛性と高いESCRを有する二峰性ポリエチレンが記載されている。
【0021】
本発明者らは、本発明のポリマーを、同等の密度の広範な市販射出成形グレードと比較したところ、請求項1に記載の関係が、市販の多峰性ポリマーには見出すことのできないものであるとともに、上記で強調した有利な特性をもたらすものであることを見出した。
【発明の概要】
【0022】
一態様では、本発明は、2.0g/10分以下のMFR、6以上のMw/Mn、950kg/m以上の密度を有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲、好ましくは50000である。)である、多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0023】
一態様では、本発明は、2.0g/10分以下のMFR、6以上のMw/Mn、950kg/m以上の密度、58時間以上のFNCTを有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲、好ましくは50000である。)である、多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、2.0g/10分以下のMFR、6以上のMw/Mn、950kg/m以上の密度を有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲、好ましくは50000である。)であり、かつ該多峰性ポリエチレンが、以下の関係:
Mz/Mw>0.29(Mw/Mn)+0.8
を満たす、多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0025】
好ましくは、本多峰性ポリエチレンポリマーは、低分子量ホモポリマー成分又はコポリマー成分と、例えばC3-12αオレフィンコモノマーとの、高分子量コポリマー成分とを含む。さらに好ましくは、本多峰性ポリエチレンポリマーは、低分子量ホモポリマー成分と、例えばC3-12αオレフィンコモノマーとの、高分子量コポリマー成分とを含む。
【0026】
従って、本発明は、低分子量ホモポリマー成分と、例えばC3-12αオレフィンコモノマーとの、高分子量コポリマー成分とを含む多峰性ポリエチレンポリマーであって、該ポリマーが、2.0g/10分以下のMFR、950kg/m以上の密度、6以上のMw/Mn、58時間以上のFNCTを有し、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲、好ましくは50000である。)である、多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、0.5~2.0g/10分のMFR、950kg/m以上の密度、6以上のMw/Mn、58時間以上のFNCTを有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲、好ましくは50000である。)である、多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0028】
本発明のポリマーは高い分子量分布Mw/Mnを有する。この分子分布構造は、良好なアスペクト(例えば、キャップに成形して、差圧に暴露されたときのドーミングの程度が低いこと)を有する成形品、特にキャップ及びクロージャを生じる。
【0029】
別の態様では、本発明は、上記で定義したポリマーを含むキャップ又はクロージャのような射出成形品又は圧縮成形品を提供する。かかるキャップ又はクロージャーの重量は1~10gとし得る。
【0030】
別の態様では、本発明は、キャップ又はクロージャのような射出成形品又は圧縮物品の製造における、上記で定義したポリマーの使用を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、上記で定義したポリエチレンの製造方法であって、
エチレン及び任意には1種以上のC3-12αオレフィンコモノマーを重合して、低分子量成分(A)を形成する工程と、次いで
成分(A)の存在下で、エチレン及び任意には1種以上のC3-12αオレフィンコモノマーを重合して、高分子量成分(B)を形成する工程と
を含む方法を提供する。本発明はさらに、上記方法の生成物を圧縮又は射出成形して物品を形成することを含む。好ましくは、本方法で製造される多峰性ポリエチレンポリマーは、低分子量ホモポリマー成分と、例えばC3-12αオレフィンコモノマーとの、高分子量コポリマー成分とを含む。
【0032】
定義
「Mz」という用語は、ポリマーのZ平均分子量をいう。Mzは、分子が分子サイズに従って分布する熱力学的平衡を確立することによって測定される。Mzは、他の平均よりも、試料中に存在する最大の分子に影響を受けやすく、従って本発明で報告する値は、はっきりとした高分子量テールを有するポリマーを表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
今回、本発明の高密度ポリエチレンポリマーが、非常に良好な機械的特性(例えばFNCTに関して)と、優れた加工性(例えば、クリープ歪み及びG’弾性率値に関して)及びアスペクト(例えば低いドーミングに関して)とを併せもつ、圧縮又は特に射出成形用、特にキャップ及びクロージャ用途向けの改善された材料を与えることが判明した。ドーミングは、容器の内と外で圧力差が存在するときはいつも、潜在的な問題である。
【0034】
本発明のポリマーは、多峰性高密度エチレンポリマーであり、エチレンホモポリマー又はエチレンコポリマーであってもよい。エチレンコポリマーとは、重量を基準にしてその大部分がエチレンモノマー単位に由来するポリマーを意味する。コモノマーの寄与は、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。理想的には、本発明のポリマー中に存在するコモノマーの量は非常に低レベルであり、例えば0.1~2モル%、例として0.1~1モル%などである。本発明のポリマーは好ましくはコポリマーである。
【0035】
他の1種以上の共重合性モノマーは、好ましくはC3-12、特にC3-10αオレフィンコモノマーであり、特に1種又は複数種のエチレン性不飽和コモノマー、特にプロペン、ブタ-1-エン、ヘキサ-1-エン、オクタ-1-エン及び4-メチル-ペンタ-1-エンのようなC3-10αオレフィンである。1-ヘキセン及び1-ブテンの使用が特に好ましい。理想的には1種類のみのコモノマーが存在する。
【0036】
本発明のポリマーがコポリマーであるときは、エチレンと1種以上のコモノマーとを含むのが好ましい。理想的には、そのコモノマーは1-ブテンである。
【0037】
本発明のポリマーは多峰性であり、2種以上の成分を含む。本発明のポリマーは、好ましくは、
(A)相対的に低分子量の第1のエチレンホモ-又はコ-ポリマー成分と、
(B)相対的に高分子量の第2のエチレンホモ-又はコ-ポリマー成分と
を含む。
【0038】
高分子量成分が、低分子量成分よりも5000Da以上、例えば10000Da以上大きいMwを有するのが一般に好ましい。
【0039】
本発明のHDPEは多峰性である。通常、複数の画分で異なる(重量平均)分子量及び分子量分布を生じる異なる重合条件下で製造された2以上のポリエチレン画分を含むポリエチレン組成物は、「多峰性」と呼ばれる。したがって、こうした意味で、本発明の組成物は、多峰性ポリエチレンである。「多」という接頭辞は、組成物を構成する異なるポリマー画分の数に関する。例えば、2つの画分のみからなる組成物は「二峰性」と呼ばれる。本発明のポリマー組成物は好ましくは二峰性であり、換言すると、それらは、1つの低分子量成分と1つの高分子量成分とを含む。
【0040】
このような多峰性ポリエチレンの分子量分布曲線の形態、つまりその分子量の関数としてのポリマー重量分率のグラフの外観は、2以上の最大値を示すか、或いは個々の画分の曲線に比べて少なくとも幅が明瞭に拡がっている。
【0041】
例えば、複数の反応器を直列に連結し、各反応器で異なる条件を用いる連続多段階プロセスでポリマーを製造すると、異なる反応器で製造されたポリマー画分は、各々独自の分子量分布及び重量平均分子量を有する。このようなポリマーの分子量分布曲線を記録し、これらの画分の個々の曲線を重ね合わせると、得られるポリマー生成物全体の分子量分布曲線となり、通常は2以上の異なる最大をもつ曲線が得られる。
【0042】
本発明のポリマー組成物は、200≦時間(s)≦30000の間隔、好ましくは200≦時間(s)≦50000の時間間隔で、以下の関係を満たすことが要件とされる。
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間はクリープ試験の開始時から秒単位で測定される。「ln」という用語は、[log」の通常の意味をもつ。この関係は、この範囲外の他のt値(例えば最大100000秒の時間)でも満され得ることが理解されよう。
【0043】
したがって、クリープ歪みは、200~30000秒のような狭い時間スケールで測定してもよいし、或いは200~50000秒のような広い時間スケールで測定してもよい。したがって、別の態様では、本発明は、2.0g/10分以下のMFR、6以上のMw/Mn、950kg/m以上の密度を有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、200≦時間(秒)≦30000の範囲である。)である、多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0044】
クリープ歪みの測定方法は、以下の試験方法の項目で説明する。試料への荷重は理論的には瞬間的に加えるべきであることが理解されよう。実際には、これは不可能であり、荷重は一般に10秒以下の期間で加えられる。試料に荷重をかけるのにかかる時間のわずかな差異は、短期のクリープ挙動に影響を及ぼす潜在的可能性がある。クリープデータの信頼性を担保し、荷重付与履歴の影響を排除するため、最初の100秒間(最大負荷時間の10倍)のデータは報告しない。明らかなように、クリープ歪みは60℃及び6MPaで測定される。
【0045】
この式は、図1(60℃及び6MPaで測定)に示すように、クリープ歪み対時間曲線において直線を規定する。直線の下にある本発明のポリマーは、試験した他の多峰性ポリマーよりも低いクリープ、つまり良好なクリープ耐性を示す。クリープ特性は、単峰性材料のものに類似しているが、本発明の多峰性ポリマーは、単峰性グレードには存在しない優れたFNCTも併せもつ。
【0046】
本発明のポリマーは、2g/10分以下、好ましくは1.3g/10分以下、好ましくは1.0g/10分以下、例えば0.9g/10分以下のMFRを有する。本ポリマーは好ましくは0.01g/10分の最低小MFR、例えば0.05g/10分超、好ましくは0.10g/10分以上、理想的には0.3g/10分以上、特に0.5g/10分以上の最小MFRを有する。したがって、MFRの特に好適な値は0.50~2.0g/10分、例えば0.5~1.3g/10分である。特に、MFRの好適な値は0.6~2.0g/10分、例えば0.6~1.3g/10分である。
【0047】
本発明のポリマーは、好ましくは20~100g/10分、例えば25~90g/10分、さらに好ましくは30~80g/10分、最も好ましくは30~60g/10分のMFR21を有する。
【0048】
本発明のポリマーは、好ましくは0.5~20g/10分、例えば0.8~15g/10分、好ましくは1.0~10g/10分のMFRを有する。
【0049】
ポリマーの密度は、好ましくは950kg/m以上である。したがって、本発明のポリマーは高密度ポリエチレンHDPEである。さらに好ましくは、ポリマーは954kg/m以上の密度を有する。
【0050】
さらに、ポリマーの密度は好ましくは970kg/m以下、さらに好ましくは965kg/m以下である。理想的な密度範囲は950~960kg/mである。
【0051】
ポリマーは、好ましくは、50時間以上、例えば58時間以上、さらに好ましくは60時間以上、さらに好ましくは62時間以上のFNCTとして測定される環境応力亀裂耐性を有する。FNCTはできるだけ高いのが理想的であるが、典型的な上限は200時間、例えば150時間とすることができる。ポリマーがこのような高いESCR値を示すとともに、0.5~2.0g/10分のMFR、好ましくは0.6~1.5g/10分のMFRを示すことが特に好ましい。本発明のポリマーは、より大きな加工性を有しつつ、既存の多峰性ブレンドよりも優れたESCRを示す。
【0052】
本発明のポリマーの分子量及び分子分布が重要であることは理解されよう。ポリエチレンポリマーは、好ましくは、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比である分子量分布Mw/Mnが6以上、例えば10以上、さらに好ましくは12以上、さらに一段と好ましくは14以上である。
【0053】
ポリマーのMw/Mnは30以下であるのが好ましく、25以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
ポリマーの重量平均分子量Mwは、好ましくは50kD以上、さらに好ましくは80kD以上、最も好ましくは100kD以上である。さらに、組成物のMwは、好ましくは300kD以下、さらに好ましくは275kD以下である。
【0055】
Mz/Mw比は好ましくは8.0以下、さらに好ましくは7.0以下、特に6.5以下、例えば6.4以下である。Mz/Mw比は、好ましくは3.0以上、さらに好ましくは3.5以上である。5.6~6.4の範囲が特に好ましい。Mzの実際の値は、好ましくは500kD~800kDの範囲、例えば600kD~750kD、例えば620kD~750kDなどである。特に好ましいのは、630kD~800kDの範囲内のMz値である。
【0056】
好ましい一実施形態では、ポリマー組成物のMFRは1.30g/10分未満であり、Mzは560kD超、好ましくは600kD超、特に630kD超である。
【0057】
また、本発明の組成物は、100Pa超、好ましくは130Pa超、特に150Pa超の弾性率G’(0.056rad/s、190℃)を有するのが好ましい。G’は、ポリマーの加工性の尺度である。
【0058】
国際公開第2014/180989号には、Mw/Mn値とMz/Mw値が以下の関係を満たすポリマー組成物が記載されている。
Mz/Mw≦0.29(Mw/Mn)+0.8 (XX)
【0059】
一実施形態では、本発明のポリマー組成物は、上記の関係式(XX)を満たさない。すなわち、本発明のポリマー組成物は以下の関係式を満たす。
Mz/Mw>0.29(Mw/Mn)+0.8 (XX’)
【0060】
上述の通り、本発明のポリマーは、少なくとも低分子量成分(A)と高分子量成分(B)とを含む。本組成物における画分(A)と画分(B)との重量比は、30:70~70:30、さらに好ましくは35:65~65:35、最も好ましくは40:60~60:40の範囲である。いくつかの実施形態では、この比は、45~55重量%の画分(A)と55~45重量%の画分(B)、例えば45~52重量%の画分(A)と55~48重量%の画分(B)とし得る。ただし、HMW成分が同じ割合で存在する場合又は過半を占める場合、例えば50~54重量%のHMW成分(B)と50~46重量%の画分(A)の場合に、最良の結果が得られることが判明した。
【0061】
画分(A)及び(B)は共にエチレンコポリマー又はエチレンホモポリマーであってもよいが、好ましくは少なくとも一方の画分はエチレンコポリマーである。好ましくは、ポリマーは、エチレンホモポリマー及びエチレンコポリマー成分を含む。
【0062】
成分の1つがエチレンホモポリマーである場合、これは、好ましくは重量平均分子量(Mw)の低い成分、すなわち画分(A)である。したがって、理想的なポリマーは、低分子量ホモポリマー成分(A)と、高分子量成分(B)、理想的にはエチレンブテン高分子量成分との組合せである。
【0063】
低分子量画分(A)は、好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは50g/10分以上、最も好ましくは100g/10分以上のMFRを有する。
【0064】
さらに、画分(A)は、好ましくは1000g/10分以下、好ましくは800g/10分以下、最も好ましくは600g/10分以下のMFRを有する。
【0065】
画分(A)の重量平均分子量Mwは、好ましくは10kD以上、さらに好ましくは20kD以上である。画分(A)のMwは、好ましくは90kD以下、さらに好ましくは80kD以下、最も好ましくは70kD以下である。
【0066】
好ましくは、画分(A)は、965kg/m以上の密度を有するエチレンホモポリマー又はコポリマーである。
【0067】
最も好ましくは、画分(A)はエチレンホモポリマーである。画分(A)がコポリマーである場合、そのコモノマーは好ましくは1-ブテンである。画分(A)がコポリマーである場合、そのコモノマー含有量は、好ましくは非常に低く、例えば0.2モル%未満、好ましくは0.1モル%未満、特に0.05モル%未満である。したがって、さらに好ましい選択肢は、画分(A)を、ホモポリマー、又は0.2モル%未満、好ましくは0.1モル%未満、特に0.05モル%未満のようにコモノマー含有量の非常に低いコポリマーとすることである。高Mw画分(B)は、好ましくはコポリマーである。
【0068】
高分子量画分(B)は、好ましくは60kD以上、さらに好ましくは100kD以上のMwを有する。また、画分(B)は、好ましくは500kD以下、さらに好ましくは400kD以下のMwを有する。
【0069】
好ましくは、画分(B)は、965kg/m未満の密度を有するエチレンホモポリマー又はコポリマーである。
【0070】
最も好ましくは、画分(B)はコポリマーである。好ましいエチレンコポリマーはコモノマーとしてα-オレフィン(例えばC3-12α-オレフィン)を用いる。好適なα-オレフィンの例としては、ブタ-1-エン、ヘキサ-1-エン及びオクタ-1-エンが挙げられる。ブタ-1-エンが特に好ましいコモノマーである。
【0071】
本発明の組成物の画分(A)及び/又は(B)の特徴が本明細書に示されている場合、画分が別々に製造される場合又は多段階プロセスの第1段階で製造される場合のように、それらの値がそれぞれの画分で直接測定できる場合には、それらの値は一般に有効である。ただし、組成物は、例えば画分(A)及び(B)が後の段階で製造される多段階プロセスでも製造することができ、そうするのが好ましい。そのような場合、多段階プロセスの第2段階(又はさらに後の段階)で製造される複数の画分の特性は、多段階プロセスにおいてそれぞれの画分が生成される段階に関して、同一の重合条件(例えば、同一の温度、反応物質/希釈剤の分圧、懸濁媒質、反応時間など)を適用するとともに、以前に生成されたポリマーが存在しない触媒を使用することによって、単一段階で別々に製造された複数のポリマーから推測することができる。或いは、多段階プロセスの高次段階で製造された画分の特性を、例えばB. Hagstrom, Conference on Polymer Processing (The Polymer Processing Society), Extended Abstracts and Final Programme, Gothenburg, August 19 to 21, 1997, 4:13の記載に従って、計算することもできる。
【0072】
したがって、多段階プロセス生成物について直接測定することはできないが、このような多段階プロセスの高次段階で生成される画分の特性は、上述の方法のいずれか又は両方を適用することによって決定することができる。当業者は、適切な方法を選択できるであろう。
【0073】
別の態様では、本発明は、
35~65%の低分子量ホモポリマー成分(A)と65~35%の高分子量コポリマー成分(B)とを有する多峰性ポリエチレンポリマーであって、該ポリマーが、0.5g/10分~2.0g/10分のMFR、950kg/m以上の密度、6以上のMw/Mn、58時間以上のFNCTを有し、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、少なくとも200≦時間(秒)≦30000の範囲である。)である多峰性ポリエチレンポリマーを提供する。
【0074】
上述の多峰性(例えば二峰性)ポリエチレンは、それらの分子量分布における最大中心が異なる2種以上のポリエチレン(例えば単峰性ポリエチレン)の機械的ブレンディングによって製造することができる。ブレンディングに必要とされる単峰性ポリエチレンは、市販品であってもよいし、或いは当業者に公知の従来法を用いて調製したものであってもよい。ブレンド及び/又は最終ポリマー組成物に使用されるポリエチレンの各々は、低分子量成分、高分子量成分及び組成物についてそれぞれ本明細書で既に説明した特性を有し得る。
【0075】
本発明の方法は、好ましくは、
エチレン及び任意には1種以上のC3-10αオレフィンコモノマーを重合して、低分子量成分(A)を形成する工程と、次いで
成分(A)の存在下で、エチレン及び任意には1種以上のC3-10αオレフィンコモノマーを重合して、高分子量成分(B)を形成する工程と
を含む。
【0076】
1以上の成分が気相反応で製造されると好ましい。
【0077】
さらに好ましくは、ポリエチレン組成物の画分(A)及び画分(B)の一方、好ましくは画分(A)は、スラリー反応、好ましくはループ反応器中で製造され、画分(A)及び画分(B)の一方、好ましくは画分(B)は気相反応で製造される。
【0078】
好ましくは、多峰性ポリエチレン組成物は、例えば、各々の部位がそれ自体の触媒部位前駆体から得られる2以上の異なる触媒部位を有する触媒系又は混合物の使用、或いは異なる段階又はゾーンでプロセス条件が異なる(例えば、温度、圧力、重合媒体、水素分圧などが異なる)2段階以上の(すなわち多段階)重合プロセスの使用など、多峰性(例えば二峰性)ポリマー生成物を生成する条件を用いる重合によって製造することができる。
【0079】
好ましくは、多峰性(例えば二峰性)組成物は、多段階エチレン重合によって、例えば一連の反応器を使用し、任意成分のコモノマーを好ましくは高分子量/最大分子量成分の製造に使用される反応器のみに添加するか或いは各段階で使用するコモノマーの種類を変えることにより、製造される。多段階プロセスは、各ポリマー画分又は2以上のポリマー画分を別々の反応段階で、通常は各段階で異なる反応条件を用いて、重合触媒を含む前段階の反応生成物の存在下で、製造することによって、2以上の画分を含むポリマーを製造する重合プロセスであると定義される。各段階で使用される重合反応は、例えばループ反応器、気相反応器、バッチ反応器等の慣用の反応器を用いた、例えば気相、スラリー相、液相重合等の従来のエチレン単独重合又は共重合反応を伴う。(例えば、国際公開第97/44371号及び同第96/18662号参照)。
【0080】
多段階プロセスで製造されたポリマー組成物は「インサイチュ(in-situ)」ブレンドとも呼ばれる。
【0081】
したがって、ポリエチレン組成物の画分(A)及び(B)は、多段階プロセスの異なる段階で製造するのが好ましい。
【0082】
好ましくは、多段階プロセスは1以上の気相段階を含み、該気相段階で好ましくは画分(B)が製造される。
【0083】
さらに好ましくは、画分(B)は、前段階で製造された画分(A)の存在下で、後の段階で製造される。
【0084】
直列に連結された2以上の反応器を含む多段階プロセスにおいて、多峰性ポリエチレンのような、多峰性、特に二峰性のオレフィンポリマーを製造することは従前公知である。こうした先行技術の例として、欧州特許第517868号が挙げられるが、その開示内容全体は、そこに記載されたすべての好ましい実施形態を含めて、援用によって、本発明に係るポリエチレン組成物の製造のための好ましい多段階プロセスとして、本明細書の内容の一部をなす。
【0085】
好ましくは、本発明に係る組成物を製造するための多段階プロセスの主重合段階は、欧州特許出願公開第517868号に記載されているもの、すなわち、画分(A)及び(B)の製造を、画分(A)のスラリー重合/画分(B)の気相重合の組合せとして行うものである。スラリー重合は、好ましくは、いわゆるループ反応で実施される。さらに好ましくは、スラリー重合段階は気相段階の前に行われる。
【0086】
任意に及び有利には、主重合段階に先だって、全組成物の20重量%以下、好ましくは1~10重量%、さらに好ましくは1~5重量%が製造される予備重合を行ってもよい。このプレポリマーは、好ましくはエチレンホモポリマー(高密度PE)である。予備重合では、好ましくは、すべての触媒をループ反応器に仕込み、予備重合をスラリー重合として行う。かかる予備重合によって、後続の反応器で生成される微粒子が減り、最終的により均質な生成物が得られる。
【0087】
重合触媒は、チーグラー・ナッタ(ZN)、メタロセン、非メタロセン、Cr触媒等のような遷移金属の配位触媒を含む。触媒は、シリカ、Al含有担体及び二塩化マグネシウム系担体を始めとする従来の担体で担持されていてもよい。好ましくは、触媒はZN触媒であり、さらに好ましくは触媒はシリカ担持ZN触媒である。
【0088】
チーグラー・ナッタ触媒は、さらに好ましくは、第4族(新IUPAC方式による族番号)金属化合物、好ましくはチタンと、二塩化マグネシウム及びアルミニウムを含む。
【0089】
触媒は市販品であってもよいし、或いは文献に記載の通り又は類似の方法で製造してもよい。本発明で使用し得る好ましい触媒の調製に関しては、Borealisの国際公開第2004/055068号及び同第2004/055069号、欧州特許出願公開第0688794号及び同第0810235号を参照することができる。これらの文献の開示内容全体、特にそこに記載された触媒並びに触媒の製造方法の全般的な実施形態及びすべての好ましい実施形態に関して、援用によって本明細書の内容の一部をなす。特に好ましいチーグラー・ナッタ触媒は欧州特許出願公開第0810235号に記載されている。
【0090】
得られる最終生成物は、2以上の反応器からのポリマーの均質混合物からなり、これらのポリマーの異なる分子量分布曲線が一緒になって1つのブロードな最大又は2以上の最大を有する分子量分布曲線を形成する。すなわち、最終生成物は二峰性又は多峰性ポリマー混合物である。
【0091】
本発明に係る組成物のベース樹脂、すなわち全ポリマー成分の全体は、画分(A)及び(B)からなる二峰性ポリエチレン混合物であるのが好ましく、任意には、上述の少量の予備重合画分をさらに含む。この二峰性ポリマー混合物は、上述のように直列に連結された2以上の重合反応器内での異なる重合条件下での重合によって製造されたものであることも好ましい。そうして得られる反応条件に関する柔軟性のために、重合はループ反応器/気相反応器の組合せで行うのが最も好ましい。
【0092】
好ましくは、好ましい2段階方法における重合条件は、一つの段階、好ましくは第1段階で、高含有量の連鎖移動剤(水素ガス)によって、コモノマーを全く含まない比較的低分子量のポリマーを製造し、別の段階、好ましくは第2段階で、コモノマーを含有する高分子量ポリマーを製造する。ただし、これらの段階の順序は逆転してもよい。
【0093】
ループ反応器とそれに続く気相反応器での重合の好ましい実施形態では、ループ反応器での重合温度は、好ましくは85~115℃、さらに好ましくは90~105℃、最も好ましくは92~100℃であり、気相反応器の温度は好ましくは70~105℃、さらに好ましくは75~100℃、最も好ましくは82~97℃である。
【0094】
連鎖移動剤、好ましくは水素を必要に応じて反応器に添加するが、好ましくは、この反応器でLMW画分を製造する場合にはエチレン1キロモル当たり100~800モルのH2を反応器に添加し、この反応器でHMW画分を製造する場合にはエチレン1キロモル当たり50~500モルのH2を気相反応器に添加する。
【0095】
本発明の組成物の製造においては、好ましくはコンパウンディング工程が適用され、反応器からベース樹脂粉末として通例得られるベース樹脂の組成物つまりブレンドを、当技術分野で公知のように、押出機で押出し、次いでペレット化してポリマーペレットとする。
【0096】
ポリエチレン組成物は、顔料、核剤、帯電防止剤、充填剤、酸化防止剤のような少量の添加剤を、一般に10重量%以下、好ましくは5重量%以下の量で含んでいてもよい。
【0097】
任意には、コンパウンディング工程の際に、組成物に添加剤又は他のポリマー成分を上述の量で添加することができる。好ましくは、反応器から得られる本発明の組成物は、当技術分野で公知のように、押出機において添加剤と共にコンパウンディングされる。
【0098】
本発明のポリエチレンポリマーは、他のポリマー成分、例えば本発明の他のポリマー、他のHDPE、又はLLDPE又はLDPEのような他のポリマーと組合せてもよい。ただし、キャップ及びクロージャーのような本発明の物品は、本発明のポリマーが好ましくは75重量%以上、例えば90重量%以上、例えば95重量%以上をなす。一実施形態では、物品は本発明のポリマーから本質的になる。「から本質的になる」という用語は、本発明のポリマーが存在する唯一の「非添加剤」ポリオレフィンであることを意味する。ただし、かかるポリマーは、通常のポリマー添加剤であってポリオレフィンに担持されることがあるもの(当技術分野で周知のいわゆるマスターバッチ)を含んでいてもよいことが理解されるであろう。から本質的になるという用語は、このような担持添加剤の存在を除外するものではない。
【0099】
用途
さらに、本発明は、上述のポリエチレン組成物を含む射出成形品又は圧縮成形品、好ましくはキャップ又はクロージャー、及び射出成形品又は圧縮成形品、好ましくはキャップ又はクロージャーの製造のための該ポリエチレン組成物の使用に関する。好ましくは、射出成形品が製造される。
【0100】
上述の組成物の射出成形は、従来の射出成形装置を用いて行うことができる。典型的な射出成形プロセスは190~275℃の温度で実施し得る。
【0101】
さらに、本発明は、上述のポリエチレンポリマーを含む圧縮成形品、好ましくはキャップ又はクロージャー製品、並びに圧縮成形品、好ましくはキャップ又はクロージャーの製造のための該ポリエチレンポリマーの使用に関する。
【0102】
好ましくは、本発明の組成物は、キャップ又はクロージャー製品の製造に使用される。
【0103】
上述の通り、本発明のキャップ及びクロージャーは、それらのESCRが高いだけでなく、ドーミングを低減するので、有利である。
【0104】
本発明のキャップ及びクロージャーは、従来のサイズのものでよく、ボトル等のために設計される。これらは、ボトルに応じて外径約2~8cm(キャップの中実上面を横切って測定される)であり、ネジが設けられる。キャップの高さは0.8~3cmである。
【0105】
キャップ及びクロージャーには、当技術分野で周知の通り、開封帯(tear strip)を備えていてもよく、キャップは第1の開口部で開封帯から切り離される。キャップにはライナーを設けてもよい。
【0106】
本発明のポリマー組成物から成形されたキャップは、加圧容器(つまり大気圧を超える圧力に加圧された容器)用のキャップとして使用すると、低い又は無視できるレベルのドーミングしか呈さない。
【0107】
別の態様では、本発明は、35~65%の低分子量ホモポリマー成分(A)と65~35%の高分子量コポリマー成分(B)とを有する多峰性ポリエチレンポリマーを含むキャップ又はクロージャーであって、
該ポリマーが、2.0g/10分以下のMFR、950kg/m以上の密度、6以上のMw/Mn、58時間以上のFNCTを有し、
クリープ歪み≦0.0055ln(時間)+0.014
(ただし、クリープ歪みはISO899-1:2003に従って測定され、時間は秒単位で測定され、少なくとも200≦時間(秒)≦30000の範囲である。)である、キャップ又はクロージャーを提供する。
【0108】
別の態様では、本発明は、上記で定義したキャップ又はクロージャーであって、キャップに内圧を与える飲料を収容した飲料容器に螺着されたキャップ又はクロージャーを提供する。したがって、好ましくは、本発明は、炭酸飲料を含む飲料容器に螺着された本発明のキャップに関する。飲料容器自体は、例えばPETを用いて従来通り製造し得る。
【0109】
試験方法の項目に記載したドーミング試験に関して、本発明のポリマー組成物を含む、該組成物から本質的になる或いは該組成物からなるキャップは、1mm以下、好ましくは0.7mm未満、特に0.5mm未満のhdomed-horiginal値を呈する。或いは、hdomed/horiginal値が、1.0~1.1、好ましくは1.0~1.07、特に1.0~1.05、特に1.0~1.03の範囲であってもよい。最も好ましくは、ドーミングは0.5mm未満とすべきである。
【0110】
飲料ボトル用の典型的なスクリューキャップは、ボトル開封時に破断される開封帯を含めて、16~17mmの高さである。最も好ましい非ドーム型キャップは、炭酸飲料のように内圧を発生する製品を包装する場合に、0.5mm未満のドーミングしか呈さない。
【0111】
上述のいかなるパラメータも、以下に詳細を示す試験に従って測定されることが理解されよう。いずれのパラメーターにおいても狭い実施形態又は広い実施形態が開示される場合、それらの実施形態は、他のパラメータの狭い実施形態及び広い実施形態に関連して開示される。
【0112】
以下の非限定的な実施例及び図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0113】
図1図1は、各例について時間の関数としてのクリープ歪みを示す。
図2図2は、G’の関数としてのFNCT及びクリープ歪みを示す。
図3図3は、ドーミングの有無を示すボトルキャップの近接写真を示す。
図4図4は、加圧前後のドーミングの程度の測定を示す。
図5図5は、ドーミング試験に付されるキャップの寸法を示す。
【実施例
【0114】
試験方法:
メルトフローレイト
メルトフローレイト(MFR)はISO1133に従って測定し、g/10分単位で示す。MFRはポリマーの溶融粘度の指標である。MFRは、PEについては190℃で測定される。メルトフローレイトを測定する際の荷重は通常は下付き文字で示され、例えばMFRは2.16kgの荷重(条件D)で測定され、MFRは5kgの荷重(条件T)で測定され、MFR21は21.6kgの荷重(条件G)で測定される。
【0115】
FRR(フローレイト比)の量は、分子量分布の指標であり、異なる荷重下でのフローレイトの比を示す。従って、FRR21/2はMFR21/MFRの値を示す。
【0116】
密度
ポリマーの密度は、ISO1183/1872-2Bに従って測定した。
【0117】
本発明に関して、ブレンドの密度は、以下の式に従って成分の密度から計算することができる。
【数1】
【0118】
NMR分光法による微細構造の定量
定量的核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて、ポリマーのコモノマー含有量を定量した。
【0119】
定量的13C{H}NMRスペクトルは、H及び13Cについてそれぞれ500.13及び125.76MHzで操作したBruker Advance III 500 NMR分光計を用いて、溶融状態で記録した。すべてのスペクトルは、13C至適化7mmマジックアングルスピニング(MAS)プローブヘッドを使用して、すべての気体圧について窒素ガスを用いて150℃で記録した。外径7mmのジルコニアMASローターに約200mgの物質を詰め込み、4kHzで回転させた。3sの短いリサイクルディレイの過渡NOE{pollard04,klimke06}及びRS-HEPTデカップリングスキーム{fillip05,griffin07}を利用して標準単パルス励起を用いた。スペクトル当たり合計1024(1k)の過渡応答が得られた。この設定は、低コモノマー含有量に対するその高い感度のために選択した。
【0120】
定量的13C{H}NMRスペクトルを処理・統合し、カスタムスペクトル分析自動化プログラムを用いて定量的特性を決定した。すべてのケミカルシフトは、30.00ppmのバルクメチレンシグナル(δ+)を内部標準としたものである{randall89}。
【0121】
1-ブテンの取込みに対応する特性シグナルを観察し(randall89)、ポリマーに存在する他のすべてのモノマーに関する含有量をすべて計算した。
【0122】
孤立した1-ブテンの取込み、つまりEEBEEコモノマー配列から得られる特徴的シグナルが観察された。孤立した1-ブテンの取込みは、コモノマー当たりの報告部位の数を表す*B2部位に割り当てられた39.84ppmのシグナルの積分を用いて定量化した。
B=I*B2
【0123】
その他のコモノマー配列つまり連続コモノマー取込みの指標となる他のシグナルが観察されなかった場合、全1-ブテンコモノマー含有量は孤立1-ブテン配列の量のみに基づいて計算した。
total=B
【0124】
エチレンの相対含有量は、30.00ppmのバルクメチレン(δ+)シグナルの積分を用いて定量した。
E=(1/2)×Iδ+
【0125】
全エチレンコモノマー含有量は、バルクメチレンシグナルに基づいて、観察された他のコモノマー配列又は末端基に存在するエチレン単位を算入して、計算した。
total=E+(5/2)×B
【0126】
ポリマーにおける1-ブテンの全モル分率は以下の通り計算した。
fB=Btotal/(Etotal+Btotal
【0127】
モル%単位での1-ブテンの全コモノマー取込みは、モル分率から常法に従って計算した。
B[mol%]=100×fB
【0128】
重量%単位での1-ブテンの全コモノマー取込みは、モル分率から常法に従って計算した。
B[wt%]=100×(fB×56.11)/((fB×56.11)+(fH×84.16)+((1-(fB+fH))×28.05))
【0129】
これらの手順の詳細は、Klimke et al. Macromol. Chem. Phys. 2006;207:382、Pollard et al. Macromolecules 2004;37:813、Filip et al. J. Mag. Resn. 2005,176,239、Griffin et al. Mag. Res. in Chem. 2007 45,S1,S198及びJ. Randall Rev. Macromol. Chem. Phys. 1989,C29,201に記載されている。
【0130】
分子量
平均分子量、分子量分布(Mn、Mw、Mz、MWD)
平均分子量(Mz、Mw及びMn)、分子量分布(MWD)、並びに多分散性指数PDI=Mw/Mn(ただし、Mnは数平均分子量であり、Mwは重量平均分子量である)で表されるその幅広さは、以下の式を用いて、ISO16014-1:2003、ISO16014-2:2003、ISO16014-4:2003及びASTM D6474-12に従ってゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求めた。
【数2】
【0131】
赤外線(IR)検出器(PolymerChar社製(スペイン、バレンシア)のIR4又はIR5)又はAgilent Technologies社製の示差屈折計(RI)のいずれかを備え、3×Agilent-PLgel Olexis及び1×Agilent-PLgel Olexis Guardカラムを備えた高温GPC装置を用いた。溶媒及び移動相として、250mg/Lの2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチル-フェノールで安定化した1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を使用した。このクロマトグラフィー系は、1mL/分の一定流速で160℃で操作した。1回の分析につき、200μLの試料溶液を注入した。データ収集は、Agilent Cirrusソフトウェアバージョン3.3又はPolymerChar GPC-IR制御ソフトウェアのいずれかを用いて行った。
【0132】
カラムセットは、0.5kg/mol~11500kg/molの範囲の19個の狭MWDポリスチレン(PS)標準を用いたユニバーサル較正(ISO16014-2:2003による)を用いて較正した。PS標準は室温で数時間かけて溶解させた。ポリスチレンピーク分子量のポリオレフィン分子量への変換は、Mark Houwink式と以下のMark Houwink定数を用いて達成される。
PS=19×10-3mL/g,αPS=0.655
PE=39×10-3mL/g,αPE=0.725
PP=19×10-3mL/g,αPP=0.725
較正データをフィットさせるため、三次多項式フィッティングを用いた。
【0133】
すべての試料は、0.5~1mg/mlの濃度範囲で調製し、連続穏やかに振盪しながらPPについては2.5時間、PEについては160℃で3時間溶解した。
【0134】
環境応力亀裂耐性
環境応力亀裂耐性(ESCR)は、1mmのノッチ深さ及び6mm×6mm×90mmの試験片寸法で、ISO/DIS16770による全周ノッチクリープ試験法(FNCT)に従って50℃で測定し得る。使用した溶媒は、脱イオン水中2重量%のArcopal N110であった。圧縮成形サンプルを使用したが(ISO1872-2)、圧縮成形時の冷却速度:15K/分であった。破壊までの時間(t)を、5~7MPaの4通りの異なる応力レベル(σ)で測定した。log(t)対log(σ)のプロットを、直線及びlog(t)=Alog(σ)+Bの式にフィットさせた。6MPaの応力でのFNCT値は、この式を用いた線形補間に基づいて計算される。
【0135】
クリープ歪み
標準試料(ISO多目的試験片)を使用して時間及び温度依存性の変形挙動レベルを研究するために、60℃及び6MPaでISO899-1:2003によるクリープ試験を行った。試験片は試験温度で15分間プレコンディショニングした。それぞれの応力レベルは、スクリュー駆動機械によって5~10秒以内に到達され、10秒間一定に保った。サンプルに荷重をかけるのに要する時間のわずかな差異が、短期クリープ挙動に影響する可能性がある。クリープデータが信頼できることを担保するため、負荷時間の少なくとも10倍の時間(本例では100秒)に至るまでのデータについては報告しない。
【0136】
歪みは、写真のゲージ断面マーク(初期ゲージ長さ50mm)の変位のオンライン評価によってカメラで測定した。歪み及びクリープ弾性率は、各試験条件毎に時間の関数として評価した。
【0137】
動的剪断測定(周波数掃引測定)
動的剪断測定によるポリマーメルトの特性解析は、ISO6721-1及び6721-10に準拠する。測定は、25mm平行平板ジオメトリーを備えるAnton Paar MCR501応力制御回転レオメーターで行った。測定は、窒素雰囲気を用い、歪みを線形粘弾性領域内に設定して、圧縮成形した平板で行った。振動剪断試験は、ギャップを1.3mmに設定し、0.01~600rad/sの周波数範囲を適用して、190℃で行った。
【0138】
動的剪断実験では、プローブは、正弦波変化する剪断歪み又は剪断応力(それぞれ歪み及び応力制御モード)での均一な変形に付される。制御歪み実験では、プローブは以下の式で表される正弦波歪みを受ける。
γ(t)=γsin(ωt) (1)
【0139】
適用される歪みが線形粘弾性領域内にある場合、得られる正弦波応力応答は以下の通り表される。
σ(t)=σsin(ωt+δ) (2)
式中、σ及びγはそれぞれ応力振幅及び歪み振幅であり、
ωは角周波数であり、
δは位相シフト(加えられた歪みと応力応答との間の損失角)であり、
tは時間である。
【0140】
動的試験結果は典型的にはいくつかの異なるレオロジー関数によって表され、剪断貯蔵弾性率G’、剪断損失弾性率G”、複素剪断弾性率G、複素剪断粘度η、動的剪断粘度η’、複素剪断粘度の異相成分η”及び損失正接tandは以下の通り表すことができる。
【数3】
【0141】
参考文献
[1]Rheological characterization of polyethylene fractions” Heino, E.L., Lehtinen, A., Tanner J., Seppala, J., Neste Oy, Porvoo, Finland, Theor. Appl. Rheol., Proc. Int. Congr. Rheol, 11th (1992), 1, 360-362
[2]The influence of molecular structure on some rheological properties of polyethylene”, Heino, E.L., Borealis Polymers Oy, Porvoo, Finland, Annual Transactions of the Nordic Rheology Society, 1995.
[3]Definition of terms relating to the non-ultimate mechanical properties of polymers, Pure & Appl. Chem., Vol.70, No.3, pp.701-754, 1998.
【0142】
ドーミング試験
図5に示す寸法を有するスクリューキャップを、適切な金型を用いたポリマー組成物の射出成形によって製造する。射出成形後のキャップの底面での外径は30.45mm±0.15mmであり、キャップの高さは16mm±0.3mmである。キャップは、ねじが完全に係合するまで手動トルクを使用して相補的ねじに螺着される。次いで、キャップを10barの加圧空気で0.1時間内部加圧する。圧力を解放し、キャップを取り外す。キャリパー(装置精度10μm以上/再現性30μm)を使用してキャップの底面から上面の最高点までのキャップの高さ(hdomed)を測定する。ドーミングの程度は、高さの差(hdomed-horiginal)として計算できる。horiginalの値は、加圧前のキャップの高さに対応する。
【0143】
実験
触媒調製
錯体の調製:
87kgのトルエンを反応器に加えた。次いで、ヘプタン中45.5kgのBomag Aも反応器に加えた。次に、161kgの99.8%2-エチル-1-ヘキサノールを24~40kg/hの流量で反応器に導入した。BOMAG-Aと2-エチル-1-ヘキサノールとのモル比は1:1.83であった。
【0144】
固体触媒成分の調製:
窒素中600℃で活性化した275kgのシリカ(Crossfield社製ES747JR、平均粒径20mm)を触媒調製用反応器に仕込んだ。次いで、555リットルのペンタンで希釈した411kgの20%EADC(2.0mmol/gシリカ)を周囲温度で1時間反応器に加えた。次いで、処理シリカを1時間撹拌しながら、温度を35℃に上げた。シリカを50℃で8.5時間乾燥させた。次いで、上述の通り調製した錯体655kg(2mmolMg/gシリカ)を23℃で10分間添加した。86kgのペンタンを22℃で10分間反応器に加えた。スラリーを50℃で8時間攪拌した。最後に、52kgのTiClを45℃で0.5時間添加した。スラリーを40℃で5時間攪拌した。次いで、触媒を窒素パージして乾燥させた。
【0145】
本発明の多峰性エチレンポリマーの製造
50dmの容積を有し、温度70℃及び圧力61barで作動する第1のループ反応器に、47kg/hのプロパン(C3)、2kg/hのエチレン(C2)及び5g/hの水素(H2)を導入して予備重合工程を行った。さらに、15g/hの固体重合触媒成分(製造方法は以下に記載)を、アルミニウム/チタン比が11モル/モルとなるように、トリエチルアルミニウム助触媒と共に反応器に導入した。この予備重合反応器におけるポリマー生成速度は約2kg/hであった。
【0146】
予備重合反応器からスラリーを間欠的に抜き取って、350dmの容積を有し、温度95℃及び圧力58barで作動する第2のループ反応器に送り、LMW成分を製造した。さらに、130kg/hのプロパン、エチレン及び水素を第2のループ反応器に供給したが、例えば実施例1のエチレン濃度及び水素/エチレンモル比を表1に示す。第2のループ反応器で生成したポリマー画分の生産分割、密度及びメルトフローレイトを表1に示す。この第2のループ反応器におけるポリマー生成速度は約38kg/hであった。
【0147】
第2のループ反応器から沈降レッグを用いてスラリーを間欠的に抜き取り、温度50℃及び圧力3barで作動するフラッシュ容器に導き、そこで炭化水素をポリマーから実質的に除去した。フラッシュ容器からポリマーを気相反応器に導いた。気相反応器を温度85℃及び圧力20barで作動してHMW成分を生成した。追加のエチレン、1-ブテンコモノマー、不活性ガスとしての窒素及び水素を供給し、エチレン濃度、1-ブテン/エチレンモル比及び水素/エチレンモル比並びに気相反応器から抜き取った実施例1のポリマーの生産分割、メルトフローレイト及び密度を表1に示す。この気相反応器におけるポリマー生成速度は約46kg/hであった。
【0148】
得られたポリマー粉末を炭化水素から乾燥し、市販の酸化防止剤及びステアリン酸カルシウムと通常の量で混合した。次いで、この混合物を、逆回転二軸スクリュー押出機CIM90P(日本製鋼所製)を用いて、窒素雰囲気下で通常通り押出してペレットとした。コンパウンディングした組成物(Inv.C1)の特性を表2に示す。各ゾーンの温度プロファイルは90/120/190/250℃であった。
【0149】
【表1】
【0150】
本発明のポリマーを、幾つかの市販グレード(それらのグレード名によって特定する。)と比較する。
【0151】
【表2】
【0152】
6MPa圧力下での60℃での時間の関数としてのクリープ歪みの値を図1に示す。生データを以下の表3に示す。実施例1は、前記クリープ歪み関係を満たさない比較例1及び比較例2の二峰性ブレンドよりも低いクリープ歪みを示す。単峰性ブレンド(SABIC M40060S)は、実施例1よりも依然として低いクリープ歪みを示したが、この単峰性ブレンドのESCR(FNCT)は、上記の表から分かる通り、本発明のポリエチレンブレンドよりも格段に低かった。
【0153】
スクリューキャップの射出成形:
本発明のポリマーをキャップに成形した。スクリューキャップ(タイプ:PE PCO1881ショートネック)の射出成形は、エンゲル速度180、溶融温度約225℃、射出速度:相対圧力180mm/s、絶対圧力173cm/s、射出時間0.35秒、背圧1barで行った。金型はホットランナシステムを備えており、金型温度は10℃であった。キャップを、方法の説明の項目に記載されているドーミング試験に付した。請求項1のポリマーによるキャップは、0.5mm未満のドーミングを示す。
【0154】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5