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特許7037497三重結合を含有する光学活性なカルボン酸、カルボキシレート塩及びカルボン酸誘導体を製造する方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】三重結合を含有する光学活性なカルボン酸、カルボキシレート塩及びカルボン酸誘導体を製造する方法。
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/00 20060101AFI20220309BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20220309BHJP
   C12P 7/62 20220101ALI20220309BHJP
   C12P 9/00 20060101ALI20220309BHJP
   C12N 9/20 20060101ALN20220309BHJP
【FI】
C12P1/00 A
C12P7/40
C12P7/62
C12P9/00
C12N9/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018549822
(86)(22)【出願日】2017-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2017056689
(87)【国際公開番号】W WO2017162667
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】P1600204
(32)【優先日】2016-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(73)【特許権者】
【識別番号】594129552
【氏名又は名称】キノイン・ジヨージセル・エーシユ・ベジエーセテイ・テルメーケク・ジヤーラ・ゼー・エル・テー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】イレーン・ホルトバージ
(72)【発明者】
【氏名】イシュトバーン・ラースローフィ
(72)【発明者】
【氏名】ジュジャンナ・カルドス
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ・モルナール
(72)【発明者】
【氏名】ラースロー・タカーチ
(72)【発明者】
【氏名】タマーシュ・バーン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-084094(JP,A)
【文献】特開2001-031625(JP,A)
【文献】IOSUB, V. et al.,Enantioselective Synthesis of α-Quaternary Amino Acid Derivatives by Sequential Enzymatic Desymmetrization and Curtius Rearrangement of α,α-Disubstituted Malonate Diesters,Journal of Organic Chemistry,2010年,Vol.75, No.5,P.1612-1619
【文献】WAKITA H; YOSHIWARA H; KITANO Y; ET AL,PREPARATIVE RESOLUTION OF 2-METHYL-4-HEXYNIC ACID FOR THE SYNTHESIS OF OPTICALLY ACTIVE M-PHENYLENE PGI"2 DERIVATIVES AND DETERMINATION OF THEIR ABSOLUTE CONFIGURATION,TETRAHEDRON ASYMMETRY,英国,PERGAMON PRESS LTD,2000年07月28日,VOL:11, NR:14,PAGE(S):2981 - 2989,http://dx.doi.org/10.1016/S0957-4166(00)00251-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00
C12P 7/40
CAplus/REGISTRY/CASREACT/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Iのキラルなカルボン酸の製造方法であって、
【化1】
ここで、式中
R=H又はメチル基であり、
下記一般式II
【化2】
のラセミ体カルボン酸エステル、
ここで、式中
R’=Me、Et、Pr、i-Pr、Bu、及び
Rは上記で定義した通りである、を、加水分解酵素を用いて酵素的に加水分解し、一般式Iのキラルなカルボン酸を得る、上記方法。
【請求項2】
加水分解酵素として、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)シュードモナス・フルオレッセンス、カンジダ・アンタークティカA、カンジダ・アンタークティカB、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、リゾプス・アルリツス(Rhizopus arrhizus)、リゾムコール・ミエヘイ、(Rhizomucor miehei)、シュードモナス・セパシア・リパーゼ、又はブタ膵臓リパーゼ、子牛膵臓リパーゼ等のリパーゼ酵素を適用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リパーゼ酵素として、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)酵素を適用する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
加水分解を溶媒の存在下で実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
溶媒は、エーテル類、炭化水素系溶媒及び芳香族系溶媒の群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶媒は、ジイソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、n-ヘキサン、トルエン、又はこれらの混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶媒としてメチルtert-ブチルエーテルを適用する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
加水分解酵素の量及び活性に依拠して、反応時間が2~48時間である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応を20~40℃で実施する請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
下記一般式Iのキラルなカルボン酸
【化3】
ここで、式中
R=H又はメチル基である
の塩の製造方法であって、
一般式Iのキラルなカルボン酸を請求項1に記載の方法により調製し、そして、後続する工程において、一般式Iのキラルなカルボン酸を金属イオン、プロトン化アンモニア又はアミンとの塩に変換する方法。
【請求項11】
キラルなエステルまたはキラルな化合物の製造方法であって、
一般式Iのキラルなカルボン酸を請求項1に記載の方法により調製し、そして、後続する工程(a)において、一般式Iのキラルなカルボン酸を、下記一般式(III)のキラルなエステルに変換し、
【化4】
ここで、式中
R’及びRは請求項1において定義した通りであり、
そして、所望により、後続する工程(b)において、工程(a)で得られた一般式(III)のキラルなエステルを、下記一般式(IV)のキラルな化合物に変換し、
【化5】
ここで、YはMe又はEtであり、Rは請求項1において定義した通りである、
上記方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により調製した一般式Iのキラルなカルボン酸と比較して増加したエナンチオマー純度を有する一般式(I)のキラルなカルボン酸の製造方法であって、
請求項11に記載の方法の工程(a)で得られた一般式(III)のキラルなエステルを、請求項1に記載の方法により酵素的に加水分解し、増加したエナンチオマー純度を有する一般式(I)のキラルなカルボン酸を得、そして、所望により、当該請求項11に記載の方法の工程(a)のエステル化方法および請求項1に記載の加水分解方法を繰り返し、さらに増加したエナンチオマー純度を有する一般式(I)のキラルなカルボン酸を得る、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は下記一般式(I)
【化1】
式中、
R=H又はメチル基
Z=OH,OM,OR’又はP(O)(OY)基、ここで、
M =金属イオン、プロトン化アンモニア又はアミン、
R’=Me,Et,Pr,i-Pr,Bu,及び
Y =Me又はEtである、
の三重結合を含有する光学活性なカルボン酸、塩、エステル、リン酸塩を製造する方法である。
【0002】
このプロセスの間、ラセミ体カルボン酸エステルは、酵素加水分解によって光学活性カルボン酸に変換される。この光学活性カルボン酸から、光学活性エステルを製造する。次いで、光学活性エステルを光学活性リン酸塩に変換する。光学活性リン酸塩は、光学活性変性プロスタグランジン、プロスタサイクリン及びカルバサイクリン((例えば、ベラプロスト、イロプロスト、3-オキサ-イロプロスト、イカプロスト(Icaprost)、シカプロスト、イソシカプロスト(Isocicaprost))ジフルオロ-プロスタサイクリンの側鎖の構築に利用し得る。
【0003】
光学活性カルボン酸はまた、CruentarenAの合成におけるビルディングブロックとして使用することができ、マクロライドは抗真菌及び細胞増殖抑制効果を発現する。
【0004】
現在の技術水準によれば、本発明に係る光学活性カルボン酸及びカルボン酸誘導体は、以下の例で実証する様に、高価な及び/又は毒性のある試薬を要する冗長なキラル合成によって製造している。
【0005】
1. キラルアミンとの塩形成を経由するラセミ酸から(H.Wakita、H.Yoshiwara、Y. Kitano、H.Tishrahedron:Asymmetry、2000、11(14)、2981-2989、JP2001031625)。
【0006】
【化2】
【0007】
日本の研究者らは2-メチル-4-ヘキシン酸を解決した。
公知の方法の欠点は、コスト高なキラルアミンの使用と立体選択性の低さである。N-ベンジルアミン誘導体を適用すると、その収率(50%ラセミ生成物についての計算)は18.4及び29.8%であり、エナンチオマー過剰もまた非常に低く、20.8及び13.6%であった。
99.9%エナンチオマー純度を示す(R)-配置の酸は、キニーネで形成した塩を10回、再結晶した後に得られた。
99.6%エナンチオマー純度を示す(S)-配置の酸は、シンコニジンで形成した塩を9回、再結晶した後に得られた。
【0008】
2.キラルアミンを有するジアステレオマーアミドの形成によるラセミ酸から。(W.Skuballa、E.Schillinger、C.S.Sturzebecher、H.Vorbruggen、J.Med.Chem.、1986,29,315-317)。
【0009】
2-メチル-4-ヘプチン酸を三塩化リンで処理して酸塩化物に変換し、酸塩化物からジアステレオマーアミドを(-)-フェニルグリシノールで製造し、ジアステレオマーをクロマトグラフィー法で分離し、酸性ジオキサン中で加水分解した。光学活性の酸の絶対配置は、三重結合を飽和した後に得られたメチルヘプタン酸を絶対配置が既知の2-メチル-アルカン酸と比較することにより、決定した。
【0010】
【化3】
【0011】
ジアゾメタンで処理した光学活性酸はメチルエステルを与え、次いでジエチルメチルホスホネートで光学活性ホスホネートに変換した。
この方法の欠点は、環境に有害な三塩化リンの使用である。
【0012】
3.米国特許出願公開US2014/02755266A1においても、2-メチル-4-ヘプチン酸エナンチオマーの製造のためにフェニルグリシノールエナンチオマーを使用していた。
【0013】
4.三重結合形成を経由するキラルな2-メチル-カルボン酸の変換(E.J.Corey、Ch。J.Helal;Tetrahedron Letters、1997、38(43)、7511-7514)。
【0014】
【化4】
【0015】
この方法によれば、キラル3-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオン酸メチルエステルを2段階で変換し、87%の収率でヨード誘導体に、これを更に変換して60%の収率で所望の三重結合含有誘導体、2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステルを与える。
【0016】
5.キラル鉄錯体の使用による不斉合成(G.J.Bodwell、S.G.Davies;Tetrahedron:Asymmetry、1991,2(10)、1075-1082。)
【0017】
【化5】
【0018】
キラル補助物質を、先ずメチル-基で、次いでペント-2-インイル-基でアルキル化し、補助物質を硝酸セリウムアンモニウムによる酸化で除去した。キラル酸をエチルエステルに変換した。
この方法の欠点は、高価で有毒な鉄錯体を使用する点である。
【0019】
6.キラルなオキサゾリジン誘導体を用いる不斉合成
三重結合含有キラル酸誘導体を製造するために、キラルオキサゾリジンを最初に適用したのは、J.Westerman及び彼の共同研究者である(M.Harre、J.Trabandt、J.Westermann;Liebigs Ann.Chem.1989、1081-1083)。
【0020】
【化6】
【0021】
4-メチル-5-フェニル-オキサゾリジノンをヨード-ブチン誘導体と反応させ、次いでキラル補助基をチタンエチラートで煮沸することによって開裂させた。得られたエチルエステルからホスホネートを製造した。
この方法の欠点は、比較的低い収率(62%)及び低い光学純度(de=80%)である。
【0022】
7.Vermeeren及び彼の共同研究者は、光学活性2-メチル-4-ヘプチン酸エチルエステル(R=Et)(M.Lerm、HJ。Gais、K.Cheng、C.Vermeeren、J.Am.Chem.Soc.、2003,125(32)、9653-9667)、及び、光学活性2-メチル-4-ヘキシン酸エチルエステル(R=Me)を製造した。(GJ Kramp、M.Kim、HJ。Gais、C.Vermeeren;J Am.Chem.Soc.、2005,127(50)、17910-17920)。その著者らはキラル補助物質としてベンジル置換オキサゾリジンを使用した。
【0023】
【化7】
【0024】
この方法を使用すると、収率及びエナンチオマー純度が顕著に増加したが、然し、この方法の欠点は、スケールアップの困難性、極端な反応条件及びチタンエチレートの使用が困難な点にある。
【0025】
上記の方法により、クルエンタレンAの合成のための2-メチル-4-ヘキシン酸エチルエステルを製造した(A.Furstner、M.Bindl、L.Jan;Angew。Chem.Int.Ed.2007、46(48)、9275-9278;M.Bindl、L.Jan、J.Hermann、R.Muller、A.Furstner、Eur.J.、2009,15(45)、12310-12319)。
【0026】
8.国際特許出願WO2012174407A1においても、光学活性2-メチル-4-ヘキシン酸エチルエステルの製造のためにベンジルオキサゾリジンが適用され、及び、米国特許出願US20140275266A1では、光学活性2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステルの製造のために、同様に、国際特許出願WO2014015246A1、WO20104015247A1、WO2015009991A2には、光学活性2-メチル-4-ヘキシン酸、光学活性2-メチル-4-ヘプチン酸及びそれらのエステルの製造のために適用されている。
【0027】
9.国際特許出願WO2015179427A1に開示されているように、プソイドエフェドリンエナンチオマーは又、光学活性2-メチル-4-ヘキシン酸及びその誘導体の製造のためのキラル補助物質としても使用することができる。
【0028】
本出願の方法によれば、本発明者らは、ラセミ体カルボン酸エステルの酵素加水分解により、キラルなカルボン酸、カルボン酸塩及びカルボン酸誘導体を製造した。
【0029】
酵素的加水分解は、室温下、略中性のpHで穏やかな反応条件下で進行する。反応条件が穏やかであるために、この工程は化学的に敏感なカルボン酸エステルの場合にも適用することが出来、エネルギー要求が低いため、この工程は環境に優しい。
【0030】
本発明の方法により製造された光学活性ホスホネートは、光学活性修飾プロスタグランジン、プロスタサイクリン及び/又はカルバサイクリン誘導体の合成に利用しても良い。
【0031】
上記によれば、本発明の主題は、下記一般式Iのキラルなカルボン酸、カルボキシレート塩及びカルボン酸誘導体の製造方法であり、
【化8】
ここで、式中
R=H又はメチル基
Z=OH、OM、OR’又はP(O)(OY)基であり、ここで
M=金属イオン、プロトン化アンモニア又はアミン
R’=Me、Et、Pr、i-Pr、Bu、及び
Y=Me又はEt、であり、
下記一般式II
【化9】
のラセミ体カルボン酸エステル、
ここで、Z=OR’かつR’の意味は上記で定義した通りである、を、酵素的に加水分解し、
所望により、一般式I、ここで、ZはOR’基を意味する、の化合物を製造するために、得られた一般式Iの化合物、ここで、ZはOH基を表す、をエステル化し、
所望により、一般式I、ここで、ZはP(O)(OY)2 基を表す、の化合物を製造するために、得られたエステルをアシル化し、更に、
所望により、得られた一般式Iの化合物を、その塩に変換するか、又はその塩から遊離するという経路における上記方法である。
【0032】
加水分解の過程において、溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、n-ヘキサン、トルエンなどのエーテル類、炭化水素系及び芳香族溶媒を適用しても良い。本発明の好ましい態様によれば、メチルtert-ブチルエーテルが加水分解のための溶媒として適用される。
【0033】
酵素の量及び活性に依存するが、反応時間は2~48時間である。反応温度は20-40℃である。
【0034】
酵素的触媒は、変換するのが高度に立体選択的であるか、又は中間体が鋭敏であるために穏やかな反応条件を必要とする、有機化学のほぼ全分野に存在する。最も広範に使用されている酵素は、安価で商業的に手軽に入手が出来る加水分解酵素であり、その中でもエステラーゼであり、リパーゼの例としては、AZリパーゼ(Candida rugosa)、AKリパーゼ(Pseudomonas fluorescens)、CAL-A(Candida AntarcticaA)、CAL-B(Candida AntarcticaB)、PSリパーゼ(Burkholderia cepacia)、リゾプスアルルヒズス(Rhizopus arrhizus)リパーゼ、リゾムコルミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ、シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepacia)リパーゼ、ブタ膵臓リパーゼ(PPL)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)リパーゼ、シュードモナス・フルオレセンスリパーゼ(PF)、アスペルギルス・ニガーリパーゼ(AN)、子牛膵リパーゼ(PPL)、immobead 150イモビライザー(CA)上のカンジダ・アンタークティカリパーゼBを挙げられる。 (Uwe Theo Bornscheuer、Romas Joseph Kazlauskas:Hydrolases in Organic Synthesis:Regio-and Stereoselective Biotransformation、2nd Edition 2005,John Wiley and Sons、ISBN:978-3-527-31029-6)。
【0035】
市販の酵素製造物の中の例えば、以下のような多くのものを適用出来る。
・L1754 シグマ
カンジダ・ルゴサ由来のリパーゼ
タイプVII、≧700単位/mg固体
同義語:トリアシルグリセロールアシルヒドロラーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ
・カンジダ・ルゴサ由来のImmobead 150上に固定化したリパーゼ、
・カンジダ・アンタルクチカ由来のリパーゼ(≧1.0単位/mg、凍結乾燥、粉末、褐色、0.3単位/mg)
・リゾムコール・ミエヘイ由来のリパーゼ
≧20,000単位/g
同義語:Palatase(登録商標)20,000L
・62309 シグマ
シュードモナス・セパシア由来のリパーゼ
粉末、明褐色、≧30単位/mg
同義語:PSリパーゼ、トリアシルグリセロールアシルヒドロラーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ
・743941アルドリッチ
リパーゼA、カンジダ・アンタークティカ、CLEA
≧1500単位/mL以上
同義語:リパーゼA、カンジダ・アンタークティカ
・シュードモナスフルオレッセンス由来のリパーゼ
粉末、薄褐色、≧160単位/mg
・immobead上に固定化されたリパーゼBカンジダ・アンタークティカ
【0036】
リパーゼは、エステル結合を形成又は加水分解し、エステル結合を含む化合物を相互に変換するのに適している、すなわちトランスエステル化に適している。これらは常に触媒として反応に参加する。
【0037】
本発明の観点から、リパーゼの最も重要な特性は、特にキラル中心がカルボニル炭素に隣接して位置する場合、それらは光学活性カルボン酸誘導体の異性体と非常に異なる速度で反応することである。この特性により、これらは光学活性化合物の分割に使用することができる。
上記の能力を次の図に示す。
【化10】
【0038】
エステル形成とアシル化は、当業者に知られている方法により実行出来る。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によれば、式(1)及び(1’)のホスホン酸エステルは、それ以前の文献には記載されていない方法により製造することが出来る。
【化11】
【0040】
この工程の反応段階を下の図に示す。
【化12】
【0041】
この工程の新規性は、最初に加水分解工程を酵素的に実施することであり、かつ、これによりラセミ体の出発物質は所望の異性体がかなり富化された生成物を与える、すなわち動力学的分割を実施することである。この生成物の光学的純度は、加水分解及びエステル化工程を繰り返すことにより更に増加し得る。カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)リパーゼを使用すると、最初の加水分解後に、ラセミ体メチル2-メチルヘキサ-4-イノエート(2)は、70%エナンチオマー純度の酸(3)を与える。エステル化及び加水分解を繰り返した後、エナンチオマー純度は90~95%に上昇し、さらにエステル化及び加水分解した後、(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸(3)は97~99%エナンチオマー純度で得られる。
【0042】
以下に個々の段階における好ましい反応条件を記載する。
加水分解:ラセミ出発物質(2)をメチルtert-ブチルエーテルに溶解する。この溶液に水を、次いでリパーゼ酵素を添加し、その反応混合物を20~40℃で反応が終了するまで撹拌する。酵素の量や活性にも依存するが、反応時間は2~48時間である。反応中のpHは4~7の間に維持する。反応終了時に、生成物をメチルtert-ブチルエーテルで抽出する。生成物溶液を塩化ナトリウム飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、次に蒸発することにより生成物(3)を得る。収率は38~50%である。
【0043】
出発物質として、メチルエステルの代わりに、エチル、プロピル、イソプロピル及びブチルエステルを適用しても良い。発明者らは、反応には、主にカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)リパーゼ酵素を適用した。溶媒としては、メチルtert-ブチルエーテルの代わりにn-ヘキサン、トルエン及びジイソプロピルエーテルを用いても良い。加水分解を繰り返す過程で、収量が増加し、第2回目の加水分解の収率は70~80%、第3回目の加水分解の収率は80~90%である。
【0044】
エステル化:エステル化は様々な方法で行うことができるが、ここでは2つの方法を例として記述する。
a)酸(3)をメタノールに溶解し、少量の濃塩酸をこれに添加し、その混合物を反応終了まで20~30℃で撹拌する。蒸発により濃縮した後、反応混合物を塩溶液に注ぎ入れ、生成物(4)をトルエン又はメチルtert-ブチルエーテルで抽出し、塩溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、蒸発させる。収率:70~80%。
b)酸(3)をジメチルホルムアミドに溶解し、炭酸カリウムの存在下、25~35℃でヨウ化メチルでエステル化する。反応終了時に、生成物(4)をメチルtert-ブチルエーテル:n-ヘキサン混合物で抽出する。抽出物を塩溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、蒸発させる。収率:90~97%。
【0045】
アシル化:ブチルリチウムの溶液に、最初にジメチルメチルホスホネート(DMMP)のトルエン溶液を-75~(-85)℃で滴加し、得られた溶液にトルエンに溶解したエステル(4)を-75-(-85)℃で滴加する。アシル化反応の終了時に、反応混合物を酸溶液に注ぎ入れ、生成物(1)をトルエン又は酢酸エチルで抽出する。抽出物を塩溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、蒸発させる。収率:90~95%。
生成物(1’)は正確に同じ方法で製造する。
【0046】
生成物の光学純度は、キラルカラムを適用するキラル高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって測定した。
【0047】
(S)-ジメトキシホスホリル-3-メチル-ヘプト-5-イン-2-オン
装置: フォトダイオードアレイ検出器を備えたアイソクラティックHPLCシステム、電子データ処理システム及び自動サンプル管理システム
カラム: Chiralpak AD-H、250×4.6mm、5μm
移動相: ヘキサン:エタノール= 9:1
検出波長: 290nm
流速: 1.0ml/分
注入量: 10μl
カラム温度: 25℃
サンプル温度: 25℃
操作時間: 30分
サンプル溶解: 溶離液
【0048】
(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸:
カラム: Zorbax RX SIL 250×4.6mm5μm
溶離液: ヘキサン:イソプロパノール=88:12
流速: 1.0ml/分
カラム温度: 30℃
検出: 220nm
注入量: 10μl
操作時間: 25分
試料溶解: TBME
【0049】
誘導体化溶液の製造:
1.100mgのCDIをアセトニトリル1mlに溶解する。
2.150mgの(R)-FEaをACN1mlに溶解する。
CDI=1,1’-カルボニル-ジイミダゾール、(R)-FEa=(R)-1-フェニルエチルアミン
【0050】
実施例において本発明の方法の詳細を実証するが、本発明を実施例に限定する訳ではない。
【実施例
【0051】
1)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸の製造
【化13】
ラセミ体2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル841gをメチルtert-ブチルエーテル8.4Lに溶解させ、脱塩水(demi(neralized)water)30L及びカンジダ・ルゴサリパーゼ(活性:1200単位/mg)126gを添加した。反応混合物を約25℃~30℃で45%変換にほぼ達っするまで攪拌し、この間1M NaHCO溶液を添加してpHを約6に調整した。反応終了時に1M NaHCO溶液を加え、相を分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテルで2回洗浄し、次いで1M NaHSO溶液を加え、混合物をメチルtert-ブチルエーテルで抽出した。合一した水相をNaCl飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥材料を濾別し、生成物を含む濾液を蒸発させた。
収量:366.06g(48.4%)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸、エナンチオマー純度:70.2%。
【0052】
2)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステルの製造
【化14】
(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸(エナンチオマー純度70.2%)347gをジメチルホルムアミド2Lに溶解し、水を含まない炭酸カリウム536g及びヨウ化メチル457mlを添加した。エステル化を進行している間、反応混合物を25~35℃で撹拌し、次いで、水及び1M NaHSO溶液を添加することにより破壊する。水相をメチルtert-ブチルエーテル:n-ヘキサン混合物で抽出し、合一した有機相を塩飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。乾燥材料を濾別し、濾液を蒸発させる。
収量:369.93g(96.0%)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル、エナンチオマー純度:70.2%。
【0053】
3)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸の製造
(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル(エナンチオマー純度:70.2%)369.9gをメチルtert-ブチルエーテル3.7Lに溶解させ、脱塩水13.2L及びカンジダ・ルゴサリパーゼ(活性:1200単位/mg)55gを添加した。反応混合物を約25℃~30℃で、略80%変換に達っするまで攪拌し、この間1M NaHCO溶液を添加してpHを約6に調整した。反応終了時に1M NaHCO溶液を加え、相を分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテルで2回洗浄し、次いで1M NaHSO溶液を加え、混合物をメチルtert-ブチルエーテルで抽出した。合一した水相をNaCl飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥材料を濾別し、生成物を含む濾液を蒸発させた。
収率:255.80g(76.8%)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸(エナンチオマー純度:93.0%)
【0054】
4)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステルの製造
(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸(エナンチオマー純度93.0%)252gをジメチルホルムアミド1.47Lに溶解し、水を含まない炭酸カリウム390g及びヨウ化メチル332mlを添加した。エステル化を進行している間、反応混合物を25~35℃で撹拌し、次いで、水及び1M NaHSO溶液を添加することにより破壊する。水相をメチルtert-ブチルエーテル:n-ヘキサン混合物で抽出し、合一した有機相を塩飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。乾燥材料を濾別し、濾液を蒸発させる。
収量:272.28g(97.1%)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル、エナンチオマー純度:93.0%。
【0055】
5) (S)-2-メチル-4-ヘキシン酸の製造
(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル(エナンチオマー純度:93.0%)272.3gをメチルtert-ブチルエーテル2.7Lに溶解させ、脱塩水9.7L及びカンジダ・ルゴサリパーゼ(活性:1200単位/mg)41gを添加した。反応混合物を約25℃~30℃で、略90%変換に達っするまで攪拌し、この間1M NaHCO溶液を添加してpHを約6に調整した。反応終了時に1M NaHCO溶液を加え、相を分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテルで2回洗浄し、次いで1M NaHSO溶液を加え、混合物をメチルtert-ブチルエーテルで抽出した。合一した水相をNaCl飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥材料を濾別し、生成物を含む濾液を蒸発させた。
収率:209.16g(85.4%)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸(エナンチオマー純度:97.6%)
【0056】
6)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステルの製造
(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸(エナンチオマー純度97.6%)200gをジメチルホルムアミド1.2Lに溶解し、水を含まない炭酸カリウム309g及びヨウ化メチル264mlを添加した。エステル化を進行している間、反応混合物を25~35℃で撹拌し、次いで、水及び1M NaHSO溶液を添加することにより破壊する。水相をメチルtert-ブチルエーテル:n-ヘキサン混合物で抽出し、合一した有機相を塩飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。乾燥材料を濾別し、濾液を蒸発させる。収量:200.32g(90.2%)(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル、エナンチオマー純度:97.6%。
【0057】
7)(S)-ジメトキシホスホリル-3-メチル-ヘプト-5-イン-2-オンの製造
【化15】
蒸留トルエン1.3Lに窒素雰囲気下、1.6Mブチルリチウム溶液666mlを加え、混合物を-80±5℃に冷却する。この温度を保ちながら、蒸留トルエン495ml中のメチルホスホン酸ジメチル123mlの溶液を添加する。15分間攪拌した後、蒸留トルエン405ml中の(S)-2-メチル-4-ヘキシン酸メチルエステル(エナンチオマー純度97.6%)82gの溶液を-80±5℃で添加する。反応混合物をこの温度でさらに30分間撹拌する。アシル化反応の進行後、混合物を酸溶液に注ぎ入れる。相を分離し、水相を酢酸エチルで抽出し、合一した有機相を飽和塩溶液で洗浄し、蒸発させる。
粗生成物を、n-ヘキサン:酢酸エチルの勾配混合物を使用する重力クロマトグラフィーにより精製する。
収量:127.45g(94.0%)(S)-ジメトキシホスホリル-3-メチル-ヘプト-5-イン-2-オン、エナンチオマー純度:97.8%。
【0058】
8)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸の製造
【化16】
ラセミ体2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステル4.270gをメチルtert-ブチルエーテル43mLに溶解させ、脱塩水152mL及びカンジダ・ルゴサリパーゼ(活性:1300単位/mg)0.534gを添加した。反応混合物を約25℃~30℃で略45%変換に達っするまで攪拌し、この間1M NaHCO溶液を添加してpHを約6に調整した。反応終了時に1M NaHCO溶液を加え、相を分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテルで2回洗浄し、次いで1M NaHSO溶液を加え、混合物をメチルtert-ブチルエーテルで抽出した。合一した水相をNaCl飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥材料を濾別し、生成物を含む濾液を蒸発させた。収率:1.499g(38.6%)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸,エナンチオマー純度:68.6%)
【0059】
9)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステルの製造
【化17】
(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸(エナンチオマー純度68.6%)1.460gをジメチルホルムアミド8mLに溶解し、水を含まない炭酸カリウム2.030g及びヨウ化メチル1.7mlを添加した。エステル化を進行している間、反応混合物を25~35℃で撹拌し、次いで、水及び1M NaHSO溶液を添加することにより破壊する。水相をメチルtert-ブチルエーテル:n-ヘキサン混合物で抽出し、合一した有機相を飽和塩溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。乾燥材料を濾別し、濾液を蒸発させる。
収量:1.366g(85.1%)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステル、エナンチオマー純度:68.6%。
【0060】
10)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸の製造
(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステル(エナンチオマー純度:68.6%)1.366gをメチルtert-ブチルエーテル 14mLに溶解させ、脱塩水(demi water)49mL及びカンジダ・ルゴサリパーゼ(活性:1300単位/mg)0.171gを添加した。反応混合物を約25℃~30℃で略45%変換に達っするまで攪拌し、この間1M NaHCO溶液を添加してpHを約6に調整した。反応終了時に1M NaHCO溶液を加え、相を分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテルで2回洗浄し、次いで1M NaHSO溶液を加え、混合物をメチルtert-ブチルエーテルで抽出した。合一した水相をNaCl飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥材料を濾別し、生成物を含む濾液を蒸発させた。
収率:0.646g(52.0%)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸(エナンチオマー純度:91.0%)
【0061】
11)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステルの製造
(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸(エナンチオマー純度91.0%)0.592gをジメチルホルムアミド3.0mLに溶解し、水を含まない炭酸カリウム0.820g及びヨウ化メチル0.70mlを添加した。エステル化を進行している間、反応混合物を25~35℃で撹拌し、次いで、水及び1M NaHSO溶液を添加することにより破壊する。水相をメチルtert-ブチルエーテル:n-ヘキサン混合物で抽出し、合一した有機相を飽和塩溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥する。乾燥材料を濾別し、濾液を蒸発させる。
収量:0.569g(87.4%)(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステル、エナンチオマー純度:91.0%。
【0062】
12)(S)- ジメトキシホスホリル-3-メチル-オクト-5-イン-2-オンの製造
【化18】
蒸留トルエン17mlに窒素雰囲気下、1.6Mブチルリチウム溶液8.1mlを添加し、その混合物を-80±5℃に冷却する。この温度を保ちながら、蒸留トルエン3.3ml中のメチルホスホン酸ジメチル1.5mlの溶液を添加する。15分間攪拌した後、蒸留トルエン3.0ml中の(S)-2-メチル-4-ヘプチン酸メチルエステル(エナンチオマー純度91.0%)0.549gの溶液を-80±5℃で添加する。反応混合物をこの温度でさらに30分間撹拌する。アシル化反応の進行後、混合物を酸溶液に注ぐ。相を分離し、水相を酢酸エチルで抽出し、合一した有機相を飽和塩溶液で洗浄し、蒸発させる。
粗生成物を、n-ヘキサン:酢酸エチルの勾配混合物を使用する重力クロマトグラフィーで精製した。
収量:0.782g(89.2%)(S)-ジメトキシホスホリル-3-メチル-オクト-5-イン-2-オン、エナンチオマー純度:96.7%。