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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】波動歯車減速機ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020195205
(22)【出願日】2020-11-25
(62)【分割の表示】P 2016125730の分割
【原出願日】2016-06-24
(65)【公開番号】P2021042859
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】岡村 暉久夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-250607(JP,A)
【文献】特開平9-217798(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203294(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28- 1/48,48/00-48/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる回転軸を有するモータに対し、前記回転軸に回転可能に接続される波動歯車減速機ユニットであって、
前記軸線方向に延びる筒状のケーシングと、
前記ケーシング内に該ケーシングに対して相対回転可能に配置され、内周側に内歯を有する環状の内歯歯車と、
前記内歯歯車の径方向内方に配置されるとともに前記軸線方向の一方側が前記ケーシングに固定され、且つ、外周側に前記内歯と噛み合う外歯を有する、可撓性の環状の外歯歯車と、
前記外歯歯車の径方向内方に配置され、前記回転軸とともに回転することによって、前記外歯歯車を径方向に変形させる楕円状のカムと、
前記外歯歯車の内方において、前記カムと一体で形成または前記カムに固定され、前記モータの前記回転軸に接続される接続部と、
前記ケーシングに接続されるとともに、前記接続部の外周側を回転可能に支持する支持部と、
を備え、
前記支持部は、
軸受を介して前記接続部を支持する筒部と、
前記筒部における前記軸線方向の一方側から該軸線方向に直交する方向に延びる鍔部と、
を有し、
前記筒部および前記鍔部は、板状部材により形成され、
前記鍔部の外周側には、前記軸線方向の一方側に屈曲した屈曲部が形成され、
前記鍔部の内周側が、前記屈曲部側に比べて軸線方向の一方側に位置するように湾曲しており、
前記支持部が、前記接続部を、前記軸線方向に付勢可能である、波動歯車減速機ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の波動歯車減速機ユニットにおいて、
前記カムは、前記外歯歯車に対して、前記軸線方向の他方側端部に配置され、
前記接続部は、前記カムから前記軸線方向の一方側に向かって延び、且つ、前記軸線方向に直交する方向から見て、前記軸線方向の一方側端部が、前記支持部における前記軸線方向の内方に位置する、波動歯車減速機ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の波動歯車減速機ユニットにおいて、
前記支持部は、前記外歯歯車よりも前記軸線方向の一方側で、前記ケーシングに固定される、波動歯車減速機ユニット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の波動歯車減速機ユニットにおいて、
前記接続部の外周面上に配置された軸受をさらに備え、
前記支持部は、前記軸受を前記ケーシングに対して支持する、波動歯車減速機ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の波動歯車減速機ユニットにおいて、
前記軸受は、前記軸線方向に並んで複数、配置されている、波動歯車減速機ユニット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の波動歯車減速機ユニットにおいて、
前記カム及び前記接続部は、単一の部品である、波動歯車減速機ユニット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の波動歯車減速機ユニットにおいて、
前記鍔部は、内周側が外周側に比べて前記軸線方向の一方側に位置するように湾曲している、波動歯車減速機ユニット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の波動歯車減速機ユニットと、
前記モータと、
を前記軸線方向に接続することにより構成される動力ユニットであって、
前記モータは、
軸線方向に延びる筒状のモータケーシングと、
前記モータケーシング内に位置する前記回転軸と、
を備え、
前記モータケーシング、前記支持部、および前記ケーシングが、ボルトにより固定され、
前記回転軸に、前記接続部が固定される、動力ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車減速機ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動機の回転軸の回転を減速して出力する減速機として、様々な構成の減速機が知られている。例えば特許文献1には、波動歯車機構を利用した減速機が開示されている。この波動歯車減速機は、楕円状のウェーブジェネレータと、該ウェーブジェネレータの外周に位置する軸受を介して接触するとともに、外周にスプライン状の歯を有し且つ円形に形成された可撓性のフレクスプラインと、該フレクスプラインの歯数よりも多いスプライン状の歯をリング状に有し且つ前記フレクスプラインの外周に噛み合って嵌合するサーキュラスプラインとを有する。
【0003】
上述の波動歯車減速機構では、例えば、前記ウェーブジェネレータに入力軸を接続し、前記サーキュラスプラインを固定し、前記フレクスプラインを出力軸に連結した場合、前記ウェーブジェネレータが時計方向に1回転すると、前記フレクスプラインが反時計方向に、前記サーキュラスプラインとの歯数差分だけ回転する。一方、前記フレクスプラインを固定し、前記サーキュラスプラインを出力軸に連結した場合には、前記サーキュラスプラインが、前記フレクスプラインとの歯数差分だけ回転する。
【0004】
このように、上述の波動歯車減速機では、前記ウェーブジェネレータに入力された回転を、前記サーキュラスプラインと前記フレクスプラインとの歯数差によって減速して、前記フレクスプラインまたは前記サーキュラスプラインから出力する。
【0005】
前記特許文献1の図1には、波動歯車減速機が、駆動モータの回転軸に対して接続された構成が開示されている。図1の構成では、装置全体の重量が重くなるとともに、回転軸に波動歯車減速機を接続するカップリング部によって、装置全体の大きさが大きくなり且つ長さが長くなる。そのため、前記特許文献1に開示されている構成では、減速機と駆動モータとを一体化することにより、装置全体のコンパクト化を図っている。具体的には、前記特許文献1に開示されている構成では、駆動モータの回転子と、減速機のウェーブジェネレータとが一体で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開昭60-166261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の特許文献1に開示されるように、減速機と駆動モータとを一体化する場合、専用の減速機及び駆動モータを個別に設計する必要がある。そのため、用途に合わせて、様々な種類の減速機及び駆動モータを設計する必要があり、汎用性という点で問題がある。
【0008】
一方、上述の特許文献1の図1に示すように、別体の駆動モータと減速機とを組み合わせる場合には、減速機の汎用性は確保できるものの、上述の特許文献1に記載されているように減速機及び駆動モータを組み合わせることによって得られる装置が大型化する。
【0009】
さらに、別体の減速機と駆動モータとを組み合わせる場合には、該減速機と駆動モータとの接続を精度良く行う必要があるため、組み立て作業性があまりよくない。具体的には、別体の駆動モータ及び減速機を組み合わせる場合、減速機のサーキュスプライン(内歯歯車)に対してフレクスプライン(外歯歯車)及びカムが所定の位置に位置付けられるように、該カムに駆動モータの回転軸を精度良く接続する必要がある。駆動モータと減速機とを接続する際には、寸法精度が要求されるため、作業性があまりよくない。
【0010】
本発明の目的は、波動歯車減速機ユニットにおいて、駆動モータに対する取り付けが容易で且つコンパクトな構成を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る波動歯車減速機ユニットは、軸線方向に延びる回転軸を有するモータに対し、前記回転軸に回転可能に接続される波動歯車減速機ユニットである。この波動歯車減速機ユニットは、前記軸線方向に延びる筒状のケーシングと、前記ケーシング内に該ケーシングに対して相対回転可能に配置され、内周側に内歯を有する環状の内歯歯車と、前記内歯歯車の径方向内方に配置されるとともに前記軸線方向の一方側が前記ケーシングに固定され、且つ、外周側に前記内歯と噛み合う外歯を有する、可撓性の環状の外歯歯車と、前記外歯歯車の径方向内方に配置され、前記回転軸とともに回転することによって、前記外歯歯車を径方向に変形させる楕円状のカムと、前記外歯歯車の内方において、前記カムと一体で形成または前記カムに固定され、前記モータの前記回転軸に接続される接続部と、前記ケーシングに接続されるとともに、前記接続部の外周側を回転可能に支持する支持部と、を備える。前記支持部は、軸受を介して前記接続部を支持する筒部と、前記筒部における前記軸線方向の一方側から該軸線方向に直交する方向に延びる鍔部と、を有する。前記筒部および前記鍔部は、板状部材により形成される。前記鍔部の外周側には、前記軸線方向の一方側に屈曲した屈曲部が形成される。前記鍔部の内周側が、前記屈曲部側に比べて軸線方向の一方側に位置するように湾曲している。前記支持部が、前記接続部を、前記軸線方向に付勢可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態に係る波動歯車減速機ユニットによれば、モータに対する取り付けが容易で且つコンパクトな構成を有する波動歯車減速機ユニットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る波動歯車減速機ユニットを含む動力ユニットの概略構成を示す断面図である。
図2図2は、モータユニットの概略構成を示す断面図である。
図3図3は、モータユニットを厚み方向から見た場合において、モータユニットにおけるロータマグネットとコイルコア部との位置関係を模式的に示す図である。
図4図4は、波動歯車減速機ユニットの概略構成を示す断面図である。
図5図5は、外歯歯車、内歯歯車及びカムを、軸線方向の他方側から見た図である。
図6図6は、その他の実施形態に係る波動歯車減速機ユニットの概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0015】
なお、以下の説明では、電動機の回転軸と平行な方向を「軸線方向」または「高さ方向」、回転軸に直交する方向を「径方向」、回転軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は略平行な方向も含むものとする。また、上記の「直交する方向」は略直交する方向も含むものとする。
【0016】
(全体構成)
図1に、本発明の実施形態に係る波動歯車減速機ユニット2を含む動力ユニット1の概略構成を示す。動力ユニット1は、波動歯車減速機ユニット2と、モータユニット3(モータ)とを備える。動力ユニット1は、モータユニット3の後述する回転軸52の回転を、波動歯車減速機ユニット2によって減速して、出力する。動力ユニット1は、例えば、ロボットの関節や電動車いす等の車輪を駆動させる動力源として利用可能である。
【0017】
波動歯車減速機ユニット2及びモータユニット3は、それぞれ、円柱状である。動力ユニット1は、波動歯車減速機ユニット2とモータユニット3とをそれらの高さ方向(図1における上下方向)に重ねた状態で、それらの外周側が複数のボルト4によって接続されている。動力ユニット1は、全体として円柱状である。
【0018】
(モータユニット)
モータユニット3は、アキシャルギャップ型のブラシレスモータである。モータユニット3は、図1及び図2に示すように、高さ方向よりも径方向(図1及び図2における左右方向)の寸法が大きい扁平状である。
【0019】
図2に示すように、モータユニット3は、モータケーシング51と、回転軸52と、ロータヨーク53,54と、ロータマグネット55と、コイルコア部57とを備える。
【0020】
モータケーシング51は、軸線Xが延びる方向(以下、軸線方向という)に延びる有底円筒状に形成されている。この軸線Xは、後述する回転軸52の軸線Xと一致する。モータケーシング51の内方には、回転軸52、ロータヨーク53,54、ロータマグネット55及びコイルコア部57が収容されている。
【0021】
モータケーシング51の外周側には、モータユニット3を波動歯車減速機ユニット2と接続するためのボルト4が挿入されるボルト穴51aが複数形成されている。図1に示すように、モータケーシング51は、開口部分が波動歯車減速機ユニット2側に位置するように、波動歯車減速機ユニット2に取り付けられる。
【0022】
図2に示すように、回転軸52は、前記軸線方向に延びる円筒状である。回転軸52は、モータケーシング51と同心に配置されている。回転軸52は、軸線方向の他方の端部が、モータケーシング51の開口側に位置するように、モータケーシング51内に配置されている。回転軸52には、回転軸52と波動歯車減速機ユニット2の後述する回転体12の接続部12bとを固定するためのボルト5(図1参照)が挿入される貫通孔52aが、周方向に複数、設けられている。
【0023】
ロータヨーク53,54は、それぞれ、円環状の板状部材である。ロータヨーク53,54は、回転軸52における前記軸線方向の両端部に固定されている。すなわち、ロータヨーク53,54は、回転軸52における前記軸線方向の両端部から、それぞれ、径方向外方に延びるように、回転軸52に固定されている。これにより、ロータヨーク53,54は、モータケーシング51内に平行に配置されている。なお、ロータヨーク53,54は、回転軸52の貫通孔52aを挿通するボルト5(図1参照)によって、回転軸52に対して固定されている。
【0024】
ロータマグネット55は、円環状であり、ロータヨーク53におけるロータヨーク54側の面に、固定されている(図2参照)。図示しないが、ロータマグネット55は、周方向に交互に異なる磁極を有する。
【0025】
コイルコア部57は、例えば、前記軸線方向に延びる円柱状に形成されている。コイルコア部57は、図3に模式的に示すように、モータユニット3を高さ方向から見て、モータケーシング51内に周方向に複数(本実施形態の例では6個)、配置されている。コイルコア部57は、それぞれ、円環状板58によって前記軸線方向に挟まれている。円環状板58の外周面は、前記モータケーシング51の内周面に固定されている。すなわち、コイルコア部57及び円環状板58は、モータの固定子に相当する。コイルコア部57は、特に図示しないが、側面上に巻かれたコイルを有する。
【0026】
ロータマグネット55とコイルコア部57との間には、回転軸52の軸線方向に隙間が形成されている。以上のような構成を有するアキシャルギャップ型のモータユニット3は、同じ出力性能を有するラジアルギャップ型のモータに比べて、高さ方向(軸線方向)にコンパクトに構成されている。
【0027】
(波動歯車減速機ユニット)
図1及び図4に示すように、波動歯車減速機ユニット2は、高さ方向(図1及び図4における上下方向)よりも径方向(図1及び図4における左右方向)の寸法が大きい扁平状に形成されている。波動歯車減速機ユニット2は、モータユニット3の回転軸52とともに回転するカム12aによって、外歯歯車14に波動を与えることにより、該外歯歯車14または内歯歯車15に、カム12aの回転を伝達する。
【0028】
具体的には、波動歯車減速機ユニット2は、ケーシング11と、回転体12と、軸受13と、外歯歯車14と、内歯歯車15と、クロスローラー軸受16と、支持軸受17,18と、支持部19とを備える。
【0029】
ケーシング11は、軸線Xが延びる方向(以下、軸線方向という)に延びる円筒状である。この軸線Xは、波動歯車減速機ユニット2がモータユニット3に取り付けられた状態で、モータユニット3の回転軸52の軸線Xと一致する。よって、前記軸線方向は、モータユニット3の回転軸52の軸線方向と一致する。
【0030】
ケーシング11には、ケーシング11を前記軸線方向に貫通するネジ穴11aが、周方向に複数、設けられている。ネジ穴11aには、モータユニット3と波動歯車減速機ユニット2とを接続するためのボルト4(図1参照)が挿入される。なお、ネジ穴11aは、後述するようにケーシング11に対して前記軸線方向の一方側(モータユニット3側)に配置される外歯歯車14及び後述する支持部19に形成された貫通孔14d,19dと繋がって、ボルト4の挿入穴を構成する。
【0031】
回転体12は、ケーシング11の内方に配置されている。回転体12は、モータユニット3の回転軸52と接続されていて、回転軸52と一体で回転する。
【0032】
詳しくは、回転体12は、楕円に形成された平板状のカム12aと、接続部12bとを有する。カム12aは、前記軸線方向から見て楕円状に形成されている。接続部12bは、カム12aの厚み方向の一方側(モータユニット3側)に、該厚み方向に延びる円筒状に形成されている。回転体12は、カム12aの厚み方向が前記軸線方向と一致し、接続部12bが前記軸線方向に延びるように、ケーシング11の内方に配置されている。
【0033】
本実施形態では、カム12aと接続部12bとは、単一の部品である。このようにカム12aと接続部12bとを一体で形成することにより、波動歯車減速機ユニット1の部品点数を減らすことができ、波動歯車減速機ユニット1の組み立て作業性を向上することができる。
【0034】
回転体12には、接続部12b及びカム12aを前記軸線方向に貫通する貫通孔12cが形成されている。カム12aには、貫通孔12cの開口部分に凹部12dが形成されている。
【0035】
接続部12bは、前記軸線方向に直交する方向から見て、前記軸線方向の一方の端部(一方側端部)が、後述する支持部19における前記軸線方向の内方に位置する。これにより、接続部12bが、支持部19よりも前記軸線方向の一方に突出することを防止できる。したがって、前記軸線方向において、波動歯車減速機ユニット1の小型化を図ることができる。
【0036】
接続部12bは、カム12aとは反対側の端部に複数のボルト穴12eを有する。複数のボルト穴12eには、モータユニット3における回転軸52の貫通孔52aを挿通するボルト5が締結される。図1に示すように、接続部12bとモータユニット3の回転軸52とをボルト5によって接続することにより、回転体12は、モータユニット3の回転軸52と一体で回転する。したがって、カム12aは、前記軸線方向から見て、軸線Xを中心に回転する。
【0037】
図4に示すように、接続部12bの外周面上には、支持軸受17,18が前記軸線方向に並んで配置されている。接続部12bは、これらの支持軸受17,18を介して、ケーシング11に固定された支持部19により、前記軸線方向及びケーシング11の径方向に支持されている。つまり、支持部19は、ケーシング11に接続されるとともに、接続部12bの外周側を回転可能に支持している。これにより、回転体12をケーシング11に対して位置決めすることができる。また、上述のように、接続部12bの外周面上に、支持軸受17,18を前記軸線方向に並べて配置することにより、回転体12をより確実に且つ安定した状態で回転可能に支持することができる。
【0038】
ケーシング11の内方には、回転体12のカム12aを囲むように、フランジ付きの円筒状に形成された外歯歯車14及び円環状に形成された内歯歯車15が配置されている。すなわち、カム12aの径方向外方には、外歯歯車14が位置し、外歯歯車14の径方向外方には内歯歯車15が配置されている。図5に、波動歯車減速機ユニット1を前記軸線方向の他方側から見た場合において、外歯歯車14、内歯歯車15及びカム12aの位置関係を示す。なお、図5では、ケーシング11の記載を省略している。
【0039】
前記軸線方向から見て、カム12aと外歯歯車14との間には、軸受13が配置されている。軸受13は、カム12aと外歯歯車14との間に配置され、カム12aの回転に応じてカム12aの径方向に移動可能である。これにより、楕円状のカム12aが回転した際に、カム12aの長軸方向の端部が軸受13を介して外歯歯車14の内周側を径方向外方に向かって押圧する。
【0040】
外歯歯車14は、図4に示すように、可撓性を有する薄板によって、フランジ付きの円筒状に形成されている。具体的には、外歯歯車14は、カム12aを径方向外方から覆う円筒部14aと、円筒部14aにおける前記軸線方向の一方側に、径方向外方に向かって延びるフランジ部14bとを有する。
【0041】
円筒部14aは、外周面に、複数の外歯31(図5参照)が周方向に一定のピッチで形成されている。外歯31は、円筒部14aの外周面に、前記軸線方向に延びるように形成されている。円筒部14aは、その内周面がカム12aの外周に配置された軸受13に接触している。これにより、楕円状のカム12aが回転することにより、カム12aの長軸方向の端部が、軸受13を介して、円筒部14aに径方向に変形を生じさせる。このように、楕円状のカム12aが回転することにより、外歯歯車14の円筒部14aに対して径方向に波動を与えることができる。
【0042】
フランジ部14bは、図4に示すように、前記軸線方向から見て円環状に形成されている。フランジ部14bは、外周側がケーシング11における前記軸線方向の一方側に固定されている。フランジ部14bの外周側には、外歯歯車14の他の部分に比べて厚い厚肉部14cが形成されている。この厚肉部14cには、厚み方向に貫通する貫通孔14dが周方向に複数形成されている。貫通孔14dは、外歯歯車14をケーシング11における前記軸線方向の一方側に配置した状態で、ケーシング11のネジ穴11aに対応する位置に設けられる。
【0043】
なお、円筒部14aから径方向外方に突出するフランジ部14bの長さは、上述のように円筒部14aがカム12aの回転によって押圧された場合に容易に変形可能な長さを有する。
【0044】
内歯歯車15は、図5に示すように、円環状の部材であり、内周面に、複数の内歯32が周方向に一定のピッチで形成されている。内歯32は、内歯歯車15の内周面に、前記軸線方向に延びるように形成されている。内歯歯車15は、カム12a、軸受13及び外歯歯車14の円筒部14aを、径方向外方から囲むように配置されている。内歯歯車15は、外歯歯車14がカム12aの長軸方向の端部によって径方向に押圧されて変形した場合に内歯歯車15の内歯32が外歯歯車14の外歯31に対して噛み合うように、外歯歯車14に対し、周方向の一部に所定の隙間を有する。
【0045】
なお、図4に示すように、内歯歯車15には、前記軸線方向の一方側に、接続リング20が固定されている。この接続リング20は、クロスローラー軸受16を介してケーシング11の内面によって回転可能に支持されている。なお、接続リング20は、内歯歯車15に対して複数のボルト6によって固定されている。クロスローラー軸受16の構成は、一般的なクロスローラー軸受の構成と同様なので、詳しい説明を省略する。
【0046】
図5に示すように、内歯歯車15の内歯32の数は、外歯歯車14の外歯31の数よりも多い。このように外歯31の歯数と内歯32の歯数とが異なるため、カム12aの回転によって、外歯歯車14を径方向に変形させて外歯歯車14の外歯31を内歯歯車15の内歯32に順に噛み合わせることにより、内歯歯車15の回転速度を、カム12aの回転速度に対して減速させすることができる。
【0047】
支持部19は、図4に示すように、板状部材によって、フランジ付きの円筒状に形成されている。支持部19は、ケーシング11、外歯歯車14及び内歯歯車15を、前記軸線方向の一方側から覆うように、波動歯車減速機ユニット2における前記軸線方向の一方側の端部に配置されている。すなわち、支持部19は、外歯歯車14よりも前記軸線方向の一方側で、ケーシング11に固定されている。
【0048】
これにより、支持部19によって、カム12aを、ケーシング11に対して位置決めすることができる。また、支持部19を外歯歯車14よりも前記軸線方向の一方側で、ケーシング11に接続することにより、カム12aから前記軸線方向の一方側に延びる接続部12bを、支持部19によって、前記軸線方向の一方側から支持することが可能になる。これにより、カム12aをより確実に支持することができる。
【0049】
支持部19は、前記軸線方向に延びる円筒部19a(筒部)と、円筒部19aにおける前記軸線方向の一方側に設けられた鍔部19bとを有する。
【0050】
円筒部19aは、支持軸受17,18を介して、回転体12における接続部12bの外周側を支持している。詳しくは、円筒部19aは、接続部12bの外周面上に取り付けられた支持軸受17,18に対し、接続部12bの径方向外方側に位置付けられている。すなわち、円筒部19aは、貫通孔19eを有し、この貫通孔19e内に、接続部12b及び支持軸受17,18が配置される。
【0051】
なお、円筒部19aは、支持軸受17,18間に配置された抜け止め部材21によって、支持軸受17,18に対して前記軸線方向に抜け落ちることを防止されている。
【0052】
鍔部19bは、円筒部19aにおける前記軸線方向の一方側から径方向外方に延びて、外周側で、ケーシング11に固定されている。鍔部19bは、前記軸線方向の一方側から見て、ケーシング11、外歯歯車14及び内歯歯車15を、前記軸線方向の一方側から覆う円環状に形成されている。
【0053】
鍔部19bの外周側には、前記軸線方向の一方側に屈曲した屈曲部19cが形成されている。この屈曲部19cは、外歯歯車14に対して支持部19を前記軸線方向の一方側に配置した場合に、外歯歯車14におけるフランジ部14bの外周側に設けられた厚肉部14cに組み合わせられる。これにより、支持部19を外歯歯車14及びケーシング11に対して位置決めすることができる。
【0054】
鍔部19bにおいて、屈曲部19cよりも外周側には、厚み方向に貫通する貫通孔19dが、周方向に複数形成されている。貫通孔19dは、ケーシング11における前記軸線方向の一方側に外歯歯車14及び支持部19を配置した状態で、ケーシング11のネジ穴11a及び外歯歯車14の貫通孔14dと繋がるように、ネジ穴11a及び貫通孔14dと対応する位置に形成されている。
【0055】
鍔部19bは、内周側が、屈曲部19c側に比べて前記軸線方向の一方側に位置するように湾曲している。これにより、支持部19の円筒部19aによって、支持軸受17,18を介して回転体12の接続部12bを前記軸線方向の他方側に付勢することができる。よって、支持部19によって、回転体12を前記軸線方向により確実に支持することができる。しかも、鍔部19bを上述のような構成にすることで、支持部19の剛性を向上することができる。
【0056】
以上の構成により、カム12aを有する回転体12を、ケーシング11に支持された支持部19によって回転可能に支持することができる。よって、回転体12を、ケーシング11内で前記軸線方向及び径方向に位置決めすることができる。これにより、波動歯車減速機ユニット2をモータユニット3に取り付ける際に、回転軸52によってカム12aの位置決めを行う必要がない。
【0057】
しかも、回転体12はカム12aから前記軸線方向の一方に向かって延びる接続部12bを有するため、モータユニット3の回転軸52を接続部12bに対して容易に接続することができる。
【0058】
以上の点から、波動歯車減速機ユニット2をモータユニット3に対して容易に取り付けることができる。
【0059】
また、カム12aを、ケーシング11に対して前記軸線方向の他方側(他方側端部)に配置するとともに、接続部12bを、カム12aから前記軸線方向の一方側に向かって延びるように設けて、接続部12bをケーシング11に対して前記軸線方向の一方側に配置された支持部19によって支持することにより、前記軸線方向において、カム12aの一方側に形成される空間内に、接続部12b及び支持部19を配置することができる。すなわち、接続部12b及び支持部19は、外歯歯車14の円筒部14aの内方に配置される。これにより、接続部12b及び支持部19は、外歯歯車14における前記軸線方向の外方に大きく突出しない。よって、波動歯車減速機ユニット2のコンパクト化を図れる。
【0060】
したがって、本実施形態の構成により、モータユニット3との組み立て作業が容易で且つコンパクトな構成を有する波動歯車減速機ユニット1が得られる。
【0061】
本発明の一実施形態に係る波動歯車減速機ユニット2は、軸線方向に延びる回転軸52を有するモータユニット3(モータ)に対し、回転軸52に回転可能に接続される波動歯車減速機ユニットである。この波動歯車減速機ユニット2は、前記軸線方向に延びる筒状のケーシング11と、ケーシング11内に該ケーシング11に対して相対回転可能に配置され、内周側に内歯32を有する環状の内歯歯車15と、内歯歯車15の径方向内方に配置されるとともに前記軸線方向の一方側がケーシング11に固定され、且つ、外周側に内歯32と噛み合う外歯31を有する、可撓性の環状の外歯歯車14と、外歯歯車14の径方向内方に配置され、回転軸52とともに回転することによって、外歯歯車14を径方向に変形させる楕円状のカム12aと、外歯歯車14の内方において、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定され、モータユニット3の回転軸52に接続される接続部12bと、ケーシング11に接続されるとともに、接続部12bの外周側を回転可能に支持する支持部19とを備える。
【0062】
可撓性を有する環状の外歯歯車14の内方に位置する楕円状のカム12aが、モータユニット3の回転軸52とともに回転することにより、外歯歯車14を径方向に変形させる(外歯歯車14に内周側から波動を与える)ことができる。これにより、外歯歯車14の外歯31の一部が内歯歯車15の内歯32に対して噛み合うため、カム12aの回転を、内歯歯車15または外歯歯車14に伝達することができる。
【0063】
上述のような構成を有する波動歯車減速機において、モータユニット3の回転軸52に接続される接続部12bを、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定し、且つ、ケーシング11に接続された支持部19によって回転可能に支持することにより、ユニット化することができる。
【0064】
すなわち、カム12aに上述のような接続部12bを設けることにより、カム12aとモータユニット3の回転軸52とを容易に接続することができる。また、カム12aは、支持部19及び接続部12bによって位置決めされるため、従来のようにモータの回転軸によってカムの位置決めを行う必要がなくなる。これにより、波動歯車減速機をユニット化して、モータユニット3に対して容易に取り付けることができる。
【0065】
しかも、接続部12bは、外歯歯車14の内方において、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定され、モータユニット3の回転軸52に接続されるため、外歯歯車14における前記軸線方向の外方に大きく突出しない。よって、モータユニット3との接続構造をコンパクトな構成にすることができるため、コンパクトな構成を有する波動歯車減速機ユニット2が得られる。
【0066】
以上より、上述の構成によって、モータユニット3に対する取り付けが容易で且つコンパクトな構成を有する波動歯車減速機ユニット2が得られる。
【0067】
カム12aは、外歯歯車14に対して、前記軸線方向の他方側端部に配置されている。接続部12bは、前記カムから前記軸線方向の一方側に向かって延び、且つ、前記軸線方向に直交する方向から見て、前記軸線方向の一方側端部が、支持部19における前記軸線方向の内方に位置する。
【0068】
上述のように接続部12bを設けることにより、回転軸52の軸線方向に直交する方向から見て、接続部12bが、支持部19よりも前記軸線方向の一方に突出することを防止できる。これにより、前記軸線方向において、波動歯車減速機ユニット2の小型化を図れる。
【0069】
支持部19は、外歯歯車14よりも前記軸線方向の一方側で、ケーシング11に固定される。
【0070】
これにより、カム12aを、ケーシング11に対して位置決めすることができる。すなわち、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定された接続部12bを、ケーシング11に固定された支持部19によって支持することにより、カム12aをケーシング11に対して位置決めすることができる。
【0071】
また、支持部19を外歯歯車14よりも前記軸線方向の一方側で、ケーシング11に接続することにより、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定された接続部12bを、支持部19によって、前記軸線方向の一方側から支持することが可能になる。これにより、カム12aをより確実に支持することができる。
【0072】
波動歯車減速機ユニット2は、接続部12bの外周面上に配置された支持軸受17,18(軸受)をさらに備える。支持部19は、支持軸受17,18をケーシング11に対して支持する。
【0073】
これにより、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定された接続部12bを、ケーシング11に対して回転可能に支持することができる。
【0074】
支持部19は、接続部12b及び支持軸受17,18を配置可能な貫通孔19eを有する円筒部19a(筒部)と、円筒部19aにおける前記軸線方向の一方側から該軸線方向に直交する方向に延びる鍔部19bと、を有する。鍔部19bの外周側がケーシング11に固定される。円筒部19aが支持軸受17,18を介して接続部12bを支持する。
【0075】
これにより、支持部19によって、カム12aと一体で形成またはカム12bに固定された接続部12bを、回転可能な状態でより確実に支持することができる。
【0076】
支持軸受17,18は、前記軸線方向に並んで複数、配置されている。これにより、カム12aと一体で形成またはカム12aに固定された接続部12bを、支持部19によって、より確実に回転可能に支持することができる。
【0077】
カム12a及び接続部12bは、単一の部品である。これにより、波動歯車減速ユニット2の部品点数を減らすことができ、該波動歯車減速機ユニット2の組立作業性の向上を図れる。
【0078】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0079】
前記実施形態では、回転体12の接続部12bを支持する支持部19が、モータユニット3と波動歯車減速機ユニット2とを接続するボルト4によって、ケーシング11に固定されている。しかしながら、図6に示すように、支持部119における鍔部119bの外周端部に凸部119dを設けて、該凸部119dをケーシング11の外周側に固定してもよい。これにより、波動歯車減速機ユニットにおいて、支持部119が脱離することを抑制できる。
【0080】
前記実施形態では、回転体12においてカム12aと接続部12bとが一体形成されている。しかしながら、接続部は、カムとは別体であり、該カムに固定されていてもよい。
【0081】
前記実施形態では、回転体12は、円筒状に形成されている。しかしながら、回転体は、円柱状であってもよい。
【0082】
前記実施形態では、支持部19は、円筒部19aと、鍔部19bとを有する。しかしながら、回転体12の接続部12bの外周側を支持可能な構成であれば、支持部19はどのような構成であってもよい。
【0083】
前記実施形態では、波動歯車減速機ユニット2が取り付けられるモータユニット3は、アキシャルギャップ型のモータである。しかしながら、波動歯車減速機ユニット2が取り付けられるモータユニットは、ラジアルギャップ型のモータなど、他の構成を有するモータであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、モータユニットに接続される波動歯車減速機ユニットに利用可能である。
【符号の説明】
【0085】
2 波動歯車減速機ユニット
3 モータユニット(モータ)
11 ケーシング
12 回転体
12a カム
12b 接続部
13 軸受
14 外歯歯車
14a 円筒部
14b フランジ部
15 内歯歯車
17、18 支持軸受(軸受)
19 支持部
19a 円筒部(筒部)
19b 鍔部
31 外歯
32 内歯
X 軸線

図1
図2
図3
図4
図5
図6