(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】鋳造用のスライディングゲート
(51)【国際特許分類】
B22D 41/24 20060101AFI20220309BHJP
B22D 41/32 20060101ALI20220309BHJP
B22D 41/34 20060101ALI20220309BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
B22D41/24
B22D41/32
B22D41/34
B22D11/10 340A
(21)【出願番号】P 2020504366
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2017015332
(87)【国際公開番号】W WO2019027109
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-01-28
(31)【優先権主張番号】10-2017-0098128
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ,ヨン ジュ
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-110540(JP,A)
【文献】特開2012-121049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 33/00-47/02
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のプレートを備える鋳造用のスライディングゲートであって、
前記プレートは、溶鋼の移動経路として用いられる開口が形成される内胴体と、前記内胴体の外側に配置される外胴体と、を備え、
前記溶鋼と直接的に接触する前記内胴体は、カーボンファイバーとカーバイドと
から構成され、
前記外胴体は、Al
2O
3-ZrO
3-SiO
2-C系の耐火物
から構成され、
前記カーボンファイバーと前記カーバイドとを合計した全100重量%に対して、前記カーボンファイバーは、40~50重量%含み、前記カーバイドは、50~60重量%含み、
前記カーボンファイバーは、前記内胴体内において前記内胴体の長さ方向、幅方向及び高さ方向のうちの少なくともいずれか1つの方向に延びるように配列され、
前記カーバイドは、前記カーボンファイバーの間に配列されて前記カーボンファイバーを結合することを特徴とする鋳造用のスライディングゲート。
【請求項2】
前記内胴体は、取り外し自在に前記外胴体に嵌合し、前記内胴体は、自重により前記外胴体に固定されることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用のスライディングゲート。
【請求項3】
複数枚のプレートを備える鋳造用のスライディングゲートであって、前記プレートは、溶鋼の移動経路として用いられる開口が形成される内胴体と、前記内胴体の外側に配置される外胴体と、を備え、前記外胴体は、Al
2O
3-ZrO
3-SiO
2-C系の耐火物
から構成され、
前記内胴体は、前記開口が形成される第1の胴体と、前記第1の胴体の外側に配置される第2の胴体と、を備
え、
前記外胴体にひび割れが外周部に伝搬されることを防止するように、少なくとも前記第2の胴体は、カーボンファイバーとカーバイドと
から構成され、
前記カーボンファイバーと前記カーバイドとを合計した全100重量%に対して、前記カーボンファイバーは、40~50重量%含み、前記カーバイドは、50~60重量%含み、
前記カーボンファイバーは、前記内胴体内において前記内胴体の長さ方向、幅方向及び高さ方向のうちの少なくともいずれか1つの方向に延びるように配列され、前記カーバイドは、前記カーボンファイバーの間に配列されて前記カーボンファイバーを結合することを特徴とする鋳造用のスライディングゲート。
【請求項4】
前記第1の胴体は、前記第2の胴体に嵌合し、
前記第2の胴体は、前記外胴体に嵌合することを特徴とする請求項3に記載の鋳造用のスライディングゲート。
【請求項5】
前記内胴体と前記外胴体は、取り外し自在に結合され、
前記内胴体と前記外胴体との間に空間を形成することを特徴とする請求項2又は4に記載の鋳造用のスライディングゲート。
【請求項6】
前記カーボンファイバーは、0.5~1.5cmの長さに形成し、前記カーボンファイバーは、前記内胴体に分散されることを特徴とする請求項
1又は3に記載の鋳造用のスライディングゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用のスライディングゲートに係り、より詳しくは、熱衝撃による損傷を抑えることのできる鋳造用のスライディングゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋳片は、鋳型に収容された溶鋼が冷却帯を経て冷却されながら製造される。例えば、連続鋳造工程は、所定の内部形状を有する鋳型に溶鋼を注入し、鋳型内において半凝固された鋳片を連続して鋳型の下側に引き抜いてスラブ、ブルーム、ビレット、ビームブランクなどの多種多様な形状の半製品を製造する工程である。
このような連続鋳造工程は、タンディッシュと、鋳型、及び鋳片を冷却し且つ押下する2次冷却帯を備える連続鋳造装置を用いて行われ得る。ここで、タンディッシュに収容された溶鋼は、タンディッシュの下部に配備されるノズル組立て体を介して鋳型に供給され得る。ノズル組立て体は、タンディッシュの下部に配備されて溶鋼を排出する上ノズルと、上ノズルの下部に配備される浸漬ノズルと、からなってもよい。このとき、鋳型に供給される溶鋼量は、ストッパーやスライディングゲートにより調節可能である。
【0003】
中でも、スライディングゲートとしては、主として上プレート、中プレート及び下プレートから構成される3板式のものが使用可能である。このようなスライディングゲートは、それぞれのプレートに開口が形成されており、中プレートを上プレートと下プレートとの間において往復動させることにより、中プレートの開口と上、下プレートの開口との間の重なり合いの度合いを調節することができる。換言すれば、上プレートと下プレートにそれぞれ形成される開口が中プレートに形成される開口により開かれる面積を調節することにより、鋳型に供給される溶鋼の量を制御することができる。
【0004】
ところが、それぞれのプレートに形成される開口の周りは高温の溶鋼に直接触れるため、熱衝撃によりひび割れ(crack)が生じ易い。このため、溶鋼がひび割れに沿って外部に流出されて操業を中断しなければならないという不都合や、ひび割れを介して外気が流れ込むことにより溶鋼内の介在物が増えて鋳片の品位を低下させるという不都合がある。
また、プレートは一体形に形成され、開口の周りにおいて形成されるひび割れは、プレートの外周部に沿って伝搬されてプレートの全体にわたって形成される。このため、たとえプレートの一部においてひび割れが生じたとしても、プレートの全体にわたってひび割れが生じる虞があるため、新たなプレートに取り替えなければならない。普通、鋳造を約3~4回行ってからプレートを取り替えるが、ひび割れが生じる場合には、使用回数によらずに取り替えなければならないため、生産性及びコストダウンの側面からみて好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】大韓民国公開特許第2004-0110892号公報
【文献】日本国公開特許第2003-181626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱衝撃による損傷を抑えて寿命を向上させることのできる鋳造用のスライディングゲートを提供することにある。
本発明の他の目的は、プレートの少なくとも一部を取り替えることのできる鋳造用のスライディングゲートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態に係る鋳造用のスライディングゲートは、複数枚のプレートを備える鋳造用のスライディングゲートであって、前記プレートの少なくとも一部は、カーボンファイバーとカーバイドとを含むことを特徴とする。
【0008】
前記プレートは、溶鋼の移動経路として用いられる開口を備え、少なくとも前記開口の周りは、カーボンファイバーとカーバイドとを含むことが好ましい。
前記プレートは、前記開口が形成される内胴体と、前記内胴体の外側に配置される外胴体と、を備え、前記内胴体の少なくとも一部は、カーボンファイバーとカーバイドとを含むことがよい。
【0009】
前記内胴体は、取り外し自在に前記外胴体に嵌合し、前記内胴体は、自重により前記外胴体に固定されることがよい。
前記外胴体は、Al2O3-ZrO3-SiO2-C系の耐火物を含むことができる。
前記内胴体は、前記開口が形成される第1の胴体と、前記第1の胴体の外側に配置される第2の胴体と、を備え、少なくとも前記第2の胴体は、カーボンファイバーとカーバイドとを含むことが好ましい。
【0010】
前記第1の胴体は、前記第2の胴体に嵌合し、前記第2の胴体は、前記外胴体に嵌合することがよい。
前記カーボンファイバーと前記カーバイドとを合計した全100重量%に対して、前記カーボンファイバーは、40~50重量%含み、前記カーバイドは、50~60重量%含むことが好ましい。
【0011】
前記カーボンファイバーは、前記内胴体内において前記内胴体の長さ方向、幅方向及び高さ方向のうちの少なくともいずれか1つの方向に延びるように配列することができる。
前記カーボンファイバーは、0.5~1.5cmの長さに形成し、前記カーボンファイバーは、前記内胴体に分散されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鋳造用のスライディングゲートは、プレートを、損なわれた部分だけを取り替えできるように形成して、プレートの寿命を向上させ、プレートの全体を取り替えることにより生じるコストを節減することができる。すなわち、熱衝撃により損なわれやすい開口の周りを熱衝撃に強いカーボンファイバーとカーバイドとを含む構造体を用いて形成することができる。このとき、構造体は、耐火物に取り替え自在に連結されて開口の周りにおいて生じるひび割れが外周部に伝搬されることを防止することができ、構造体にひび割れが生じた場合、構造体のみを選択的に取り替えることができる。したがって、ひび割れが生じたとき、プレートの全体を取り替えることなく、ひび割れが生じた部分だけを選択的に取り替えることができるので、プレートの取り替えにかかるコストを節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の技術による鋳造機を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るスライディングゲートの分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るスライディングゲートを構成するプレートのうちのいずれか1枚のプレートの分解斜視図(a)、及び断面図(b)を示す。
【
図4】プレートの変形例を示す断面図であり、(a)は114aと114bの組み合わせ、(b)は114cと114dの組み合わせを示す。
【
図5】既存の耐火物と本発明の実施の形態に係る構造体の熱衝撃後の曲げ強度を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態に係る構造体におけるひび割れの伝搬状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態についてより詳しく説明する。しかしながら、本発明は以下に開示される実施の形態に何ら限定されるものではなく、異なる様々な形態に具体化され、単にこれらの実施の形態は本発明の開示を完全たるものにし、通常の知識を有する者に発明の範囲を完全に知らせるために提供されるものである。本発明を説明するに当たって、同じ構成要素に対しては同じ参照符号を付し、図面は、本発明の実施の形態を正確に説明するために大きさが部分的に誇張されてもよく、図中、同じ符号は、同じ構成要素を指し示す。本発明の実施の形態を説明するために図面は誇張されてもよく、図中、同じ符号は、同じ構成要素を指し示す。
【0015】
図1は、従来の技術による鋳造機を概略的に示す図である。
まず、
図1に基づいて、鋳造機の構成について説明する。
鋳造機は、溶鋼が収容されるタンディッシュ10と、タンディッシュ10の下部に配備されてタンディッシュ10から供給される溶鋼を1次的に冷却させて鋳片を鋳造する鋳型20と、を備える。なお、図示していないが、鋳型20の下部に配備されて鋳型20から引き抜かれた鋳片を冷却させ且つ押下する2次冷却帯(図示せず)を備える。
【0016】
タンディッシュ10の下部には、溶鋼を鋳型に供給するノズル組立て体が配備されてもよい。ノズル組立て体は、タンディッシュ10の下部に連結される上ノズル30と、上ノズル30の下部に連結される浸漬ノズル50と、を備えていてもよい。浸漬ノズル50は、上側が上ノズル30の下部に連結されて鋳型20側に延びるように配備され、その下側は鋳型20内の溶鋼に浸漬される。浸漬ノズル50は、内部に溶鋼の移動経路として用いられる内孔部52が形成されてもよく、下部には、溶鋼を鋳型20に吐き出す吐出し口54が形成されてもよい。また、浸漬ノズル50は、内孔部(図示せず)に耐熱性及び耐蝕性に優れたコーティング層(図示せず)が形成されてもよく、外側にスラグライン部(図示せず)が形成されてもよい。なお、上ノズル30と浸漬ノズル50との連結部位には、鋳型に供給される溶鋼の量を調節するためのスライディングゲート40が配備されてもよい。
【0017】
スライディングゲート40は、上プレート42と、上プレート42の下部に配備される下プレート46及び上プレート42と下プレート46との間に配備される中プレート44を備えていてもよい。このとき、中プレート44は、上プレート42と下プレート46との間において可動となるように配置されてもよい。
上プレート42と、中プレート44及び下プレート46には、溶鋼の移動経路として用いられる第1の開口42a、第2の開口44a及び第3の開口46aがそれぞれ形成されてもよい。第1の開口42aと第3の開口46aは、上ノズル30に形成された流路32と連通される位置、すなわち、流路32の下部に配置されてもよい。なお、中プレート44は、上プレート42と下プレート46との間において移動しながら、第2の開口44aを第1の開口42a及び第3の開口46aと重ね合わせたり、第1の開口42a及び第3の開口46aから回避させたりすることができる。このため、第1の開口42a、第2の開口44a及び第3の開口46aを連通させて流通路を形成することにより溶鋼を排出したり、第1の開口42aと第3の開口46aとの間を遮断して溶鋼が排出されることを防止したりすることができる。
【0018】
スライディングゲート40の流通路が開かれると、溶鋼は流通路に沿って移動して浸漬ノズル50を経て鋳型20に注入可能である。このとき、第1の開口42a、第2の開口44a及び第3の開口46aの周りは溶鋼と直接触れることになる。鋳造中にそれぞれの開口42a、44a、46aの周りは高温の溶鋼と継続的に触れ続け、その結果、熱衝撃によりひび割れが生じてしまう。そして、開口42a、44a、46aの周りに生じたひび割れは、鋳造が行われることに伴って外側に伝搬されてプレートの全体にわたって形成される虞がある。この場合、ひび割れを介して外気が溶鋼に流れ込んで溶鋼が酸化され、溶鋼中の介在物が多量生成されて鋳片の品位を低下させる。極端な場合には、プレートが破損されて溶鋼が流出するという大事故が生じる虞がある。したがって、開口の周りにひび割れが生じると、このような問題が起こることを防止するために、新たなプレートに取り替えている。ところが、たとえひび割れがプレートの局所部位に形成されたとしても、プレートの全体を取り替えなければならないため、プレートを取り替えるのに多大なコストがかかり、ひび割れの生じたプレートを処理するのにもコストがかかるという問題がある。
【0019】
この理由から、本発明においては、プレートの少なくとも一部に熱衝撃に強いカーボンファイバーとカーバイドとを使用し、溶鋼への触れ(溶鋼との接触)による熱衝撃を緩和させてひび割れの発生を抑えることができる。なお、プレートの少なくとも一部を取り外し自在に形成して、プレートを取り替えるのにかかるコストを節減することができる。
【0020】
図2は、本発明の実施の形態に係るスライディングゲートの分解斜視図であり、
図3は、本発明の実施の形態に係るスライディングゲートを構成するプレートのうちのいずれか1枚のプレートの分解斜視図(a)、及び断面図(b)であり、
図4は、プレートの変形例を示す断面図である。
本発明は、複数枚のプレートを備える鋳造用のスライディングゲートに関するものであり、プレートの少なくとも一部は、カーボンファイバーとカーバイドとを含んで構成される。
【0021】
図2及び
図3に示したとおり、本発明の実施の形態に係るスライディングゲート100は、上プレート110、下プレート130及び中プレート120を備えていてもよい。これらのプレート110、120、130のうちの少なくともいずれか1枚は、開口116、126、136が形成される内胴体114、124、134と、内胴体114、124、134の外側に配備される外胴体112、122、132と、を備えていてもよく、内胴体114、124、134には、少なくとも一部にカーボンファイバー及びカーバイドとを含有していてもよい。なお、内胴体114、124、134は、外胴体112、122、132に取り外し自在に結合されてもよい。ここでは、プレート110、120、130が取り外し自在であると説明するが、プレートの全体がカーボンファイバー及びカーバイドとを含むように形成されてもよく、開口の周りにおいてのみ選択的にカーボンファイバー及びカーバイドを含むように形成されてもよい。
【0022】
上プレート110、下プレート130及び中プレート120がいずれも取り外し自在に形成可能であるので、上プレート110、下プレート130及び中プレート120の代わりにプレート110と符号を振り直してもよい。なお、各構成要素について説明するとき、図面符号としては、上プレート110に対応する図面符号を記載する。
プレート110は、開口116が形成される内胴体114と、内胴体114の外側において内胴体114を取り囲むように配置される外胴体112と、を備えていてもよい。
【0023】
内胴体114は、少なくとも一部がカーボンファイバー及びカーバイドを含んでいてもよい。このとき、カーボンファイバー及びカーバイドの全100重量%に対して、カーボンファイバーは、40~50重量%、カーバイドは、50~60重量%含まれてもよい。ここで、カーボンファイバーは、熱衝撃を吸収してひび割れの伝搬を抑えるのに用いられ、カーバイドは、カーボンファイバーの間においてカーボンファイバーを結合する役割を果たす。したがって、カーボンファイバーが提示された範囲よりも少ない場合には、熱衝撃によるひび割れの発生を抑え難く、提示された範囲よりも多い場合には、内胴体114を所望の形状に成形し難いという不都合がある。なお、カーバイドが提示された範囲よりも少ない場合には、カーボンファイバー間の結合力が弱くなり、カーボンファイバーの間に多くの空隙が生じて内胴体114の強度が低下する虞があり、提示された範囲よりも多い場合には、カーボンファイバーの含量が相対的に減ってひび割れの発生を抑え難く、しかも、ひび割れの伝搬を抑え難いという不都合がある。
【0024】
カーボンファイバーは、方向性を有するので、内胴体114に生じる熱衝撃をカーボンファイバーの長さ方向に分散又は分岐することができる。なお、カーボンファイバーは、靭性(toughness)を有するので、熱衝撃により壊れにくく、熱衝撃を吸収し得るという特性を有する。カーボンファイバーは、内胴体114に生じる熱衝撃を吸収し且つ分散させて、熱衝撃が外胴体112に伝わることを抑制もしくは防止することができる。
カーボンファイバーは、内胴体114の長さ方向、幅方向及び高さ方向のうちの少なくとも1つの方向に延びるように配列されてもよい。あるいは、カーボンファイバーは、約0.5~1.5cmの長さに切断されて、内胴体114の全体にわたって均一に散在されてもよい。
内胴体114は、中心部に溶鋼の移動経路として用いられる開口116が形成されてもよい。内胴体114は、概ねリング状に形成されてもよい。
外胴体112は、通常、プレート110を製造するのに用いられる耐火物を備えていてもよい。外胴体112は、Al2O3-ZrO3-SiO2-C系の耐火物を備えるように形成されてもよい。
【0025】
外胴体112には、内胴体114を嵌め込むための嵌込み口128が形成されてもよい。嵌込み口128は、外胴体112を上下方向に貫くように形成されてもよい。
内胴体114は、取り外し自在に外胴体112に嵌め込まれてもよい。このとき、内胴体114は、溶鋼と直接触れる部分であって、ひび割れが生じ易いので、取り替えやすいように外胴体112に嵌め込まれてもよい。
内胴体114は、自重により外胴体112に固定されるように嵌め合い方式により結合されてもよい。
【0026】
図3に示したとおり、内胴体114の外周面と外胴体112の内周面には、係合自在に段差115、119がそれぞれ形成されてもよい。内胴体114と外胴体112は、別途の接着により連結されることなく、内胴体114が外胴体112の内部に嵌まり込んで自重により固定されてもよい。したがって、外胴体112に形成される段差119は、内胴体114を支持可能な形状に形成されてもよい。段差115、119は、
図3に示したとおり、階段状に形成されてもよいが、内胴体114の外周面に凹状の曲面を形成し、外胴体112の内周面には凸状の曲面を形成して、内胴体114が外胴体112に安定的に嵌まり込むようにしてもよい。
【0027】
そして、内胴体114が外胴体112に嵌まり込んだとき、内胴体114と外胴体112との間に空間Sを形成してもよい。これは、実際に操業中の約1,000~1,500℃の温度での内胴体114や外胴体112が熱膨張して、内胴体114や外胴体112にひび割れが形成されたり破損されたりする虞があるためである。このようにして形成される空間Sは、操業中に内胴体114と外胴体112の熱膨張により埋められる。
また、操業後に温度が下がると、内胴体114や外胴体112が縮まって空間Sが形成され、これにより、外胴体112から内胴体114を手軽に取り外すことができる。
【0028】
一方、内胴体114は、一体形に形成されてもよいが、
図4に示したとおり、取り外し自在に形成されてもよい。内胴体114は、開口116が形成される第1の胴体114a、114cと、第1の胴体114a、114cの外側に配備される第2の胴体114b、114dと、を備えていてもよい。このとき、第1の胴体114a、114cと第2の胴体114b、114dは、上述したように、取り外し自在に、嵌め合い方式により組み合わせられてもよい。
【0029】
図4の(a)に示したとおり、溶鋼に直接触れる第1の胴体114aは、カーボンファイバーとカーバイドとを含むように形成されてもよい。第1の胴体114aと外胴体112との間に配備される第2の胴体114bもまた、第1の胴体114aと同じ材質から形成されてもよい。このように、第1の胴体114aと第2の胴体114bを、カーボンファイバーとカーバイドとを含むように形成すれば、第1の胴体114aと第2の胴体114bとの連結個所においてひび割れの伝搬を遮断又は低減することができるので、ひび割れが外胴体112に伝搬されることを効率よく防止することができる。
【0030】
図4の(b)に示したとおり、第1の胴体114cは、外胴体112と同じ材質から形成され、第2の胴体114dは、カーボンファイバーとカーバイドとを含むように形成されてもよい。このように、第2の胴体114dを、カーボンファイバーとカーバイドとを含んで形成されれば、たとえ第1の胴体114cにおいてひび割れが生じたとしても、第2の胴体114dによりひび割れの伝搬を遮断又は緩和することができるので、第1の胴体114cにおいて生じるひび割れが外胴体112に伝搬されることを遮断又は低減することができる。なお、ひび割れが生じ易い第1の胴体114cのみを選択的に取り替えればよいので、取り替え面積を狭めてコストを節減することができるというメリットもある。
このような構成を通して、溶鋼による熱衝撃を緩和してひび割れが生じることを抑え、ひび割れが外胴体112に伝搬されることを抑制もしくは防止することができる。なお、ひび割れが生じ易い領域のみを部分的に取り替えできるように形成して、取り替えコスト及び廃棄物の処理コストを節減することができる。
【0031】
以下では、本発明の実施の形態に係るスライディングゲートの耐熱衝撃特性を調べるための試験結果について説明する。
図5は、既存の耐火物と本発明の実施の形態に係る構造体の熱衝撃後の曲げ強度を測定した結果を示すグラフであり、
図6は、本発明の実施の形態に係る構造体におけるひび割れの伝搬状態を示す図である。
【0032】
<試片の製造>
試験のために5種類の試片を製造した。このとき、試片は、同じ形状及び大きさを有するように製造し、直方体状に形成した。
試片1は、一般に、スライディングゲートのプレートとして用いられるAl2O3-ZrO3-SiO2-C系の耐火物を用いて製造した。
試片2は、全100重量%に対して、40重量%のカーボンファイバーと60重量%のカーバイドとを含むように製造した。試片2は、容器にカーボンファイバーを容器の長さ方向、例えば、試片2の長さ方向に延びるように配列し、液状のシリコンを注入した後、粉末状態のカーボン粉末を投入する含浸方式で製造した。この過程で、シリコンとカーボンとが反応して、カーバイド(SiC)が生成可能である。ここでは、カーボンファイバーを試片の長さ方向に延びるように配列する例について説明するが、カーボンファイバーは、試片の幅方向に延びるように配列してもよく、試片の厚さ又は高さ方向に延びるように配列してもよい。あるいは、カーボンファイバーは、試片内において様々な方向に配列されるようにしてもよい。
【0033】
試片3は、カーボンファイバー100重量%を用いて製造した。試片3は、容器にカーボンファイバーを容器の長さ方向に配列した後、加圧して製造した。
試片4は、試片1と同じ方法で製造した後、熱処理して製造した。
試片5は、全100重量%に対して、40重量%のカーボンファイバーと60重量%のカーバイドとを含むように製造した。このとき、試片5は、0.5~1.5cmの長さに切断されたカーボンファイバーを用いたことを除き、試片1と同じ方法で製造した。試片5には、カーボンファイバーが均一に散在されてもよく、特定の方向に配列されるわけではない。
【0034】
<常温強度の測定>
約25℃の温度下で、3点折り曲げ強度試験法を用いて、試片1~5の常温強度を測定した。その結果を下記の表1に示した。
【0035】
<熱衝撃後の強度の測定>
加熱炉に試片1~5を入れ、1450℃まで加熱し、加熱炉から試片1~5を取り出して20~25℃の冷却水に入れ、約3分間保持した。このような過程をそれぞれ3回、5回及び10回繰り返し行った後、3点折り曲げ強度試験法を用いて強度を測定した。その結果は、
図5と下記の表1の通りである。
【表1】
【0036】
表1に示したとおり、Al2O3-ZrO3-SiO2-C系の耐火物を用いて製造された試片1の場合、カーボンファイバーを含有する試片2~5に比べて、常温強度が著しく低いことが分かる。なお、試片1は、熱衝撃特性に非常に劣るため、熱衝撃試験を1回行った後には、ほとんど使用できないほどに損なわれていた。
これに対し、カーボンファイバーを含有する試片2~5の場合には、熱衝撃試験を10回行った後にも、試片1に比べて高い強度を有することが分かった。
【0037】
図5及び表1を基にすると、試片2、試片3及び試片4の場合、熱衝撃試験後の強度は、そのほとんどが落ち込んだが、試片1に比べて高い強度を示した。特に、試片5の場合には、熱衝撃試験後にむしろ強度が高くなった。これは、熱衝撃試験の際に与えられる熱によりシリコンとカーボンファイバーとが反応しながら、カーバイドに焼結されたためであると考察される。すなわち、試片5の場合、カーボンファイバーを短く切断して使用したため、カーボンファイバーの表面積が増加してカーバイドとの接触面積が増加し、これにより、カーボンファイバーとカーバイドとの結合力が増加したためであると考察される。
そして、試片2、試片3及び試片4のうち、試片2の強度の落ち込み率が最も小さかった。ところが、カーボンファイバーのみを用いて製造された試片3の場合には、試片4に比べて強度の落ち込み率は小さかったものの、強度の落ち込み率の変化が不規則的であるため、プレートに向いていないと認められる。
【0038】
また、試片2~5に対して熱衝撃試験を行ってから強度を測定する前の試片の表面の状態を観察した。その結果、試片は初期の形状のほとんどを保持しており、表面にはひび割れが生じていないことを確認することができた。
このような結果から、カーボンファイバーとカーバイドを用いてプレートの内胴体を製造すれば、熱衝撃によりひび割れが生じることを抑制もしくは防止することができることを確認することができた。
【0039】
これは、カーボンファイバーが方向性を有し、且つ、靭性を有していることから、熱衝撃が生じると、熱衝撃をカーボンファイバーの長さ方向に伝えながら吸収することができるためである。
図6に示したとおり、特定の部分に熱衝撃が生じると、熱衝撃がカーボンファイバーに沿って分散され、熱衝撃の進行方向に沿って次第に低減され得る。したがって、熱衝撃が内胴体から外胴体へと伝わることを抑制もしくは防止することができる。
さらに、たとえ内胴体においてひび割れが生じたとしても、上述した原理により、外胴体まで伝搬されずに内胴体においてほとんど消滅され得る。したがって、内胴体の取り替え期間を長くすることができて、プレートの取り替えに伴う操業の中断による生産性の低下を抑え、プレートの取り替えにより生じるコストを節減することができる。なお、鋳造中に熱衝撃によるひび割れの発生を抑えて、溶鋼に外気が流れ込むことを防止して、鋳片の品位の低下を抑制若しくは防止することができる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施の形態について図示し且つ説明したが、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲において請求する本発明の要旨を逸脱することなく、当該本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、これから種々の変形及び均等な他の実施の形態が可能であるということが理解できるはずである。よって、本発明の技術的な保護範囲は、下記の特許請求の範囲により定められるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る鋳造用のスライディングゲートは、プレートを、損なわれた部分のみを取り替えできるように形成して、プレートの寿命を向上させ、プレートの全体を取り替えることにより生じ得るコストを節減することができる。
【符号の説明】
【0042】
10:タンディッシュ
20:鋳型
30:上ノズル
32:流路
40,100:スライディングゲート
42,110:上プレート
42a:第1の開口
44、120:中プレート
44a:第2の開口
46、130:下プレート
46a:第3の開口
50:浸漬ノズル
52:内孔部
54:吐出し口
112、122、132:外胴体
114、124、134:内胴体
114a、114c:第1の胴体
114b、114d:第2の胴体
115、119:段差
116、126、136:開口
128:嵌込み口
S:空間