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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】観察装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220309BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20220309BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12Q1/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020506048
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010195
(87)【国際公開番号】W WO2019176044
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】越後 仁
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/136382(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178294(WO,A1)
【文献】特開2010-210506(JP,A)
【文献】特開2009-106272(JP,A)
【文献】特開2009-106273(JP,A)
【文献】特開2005-218379(JP,A)
【文献】小松啓,光学顕微鏡の基礎と応用(2),応用物理,1991年,Vol. 60,pp. 924-928
【文献】PERA, Franz,THREE-DIMENSIONAL IMAGE ANALYSIS OF CELLS IN REFLEXION CONTRAST-I. METHODS FOR DETERMINATION OF SURFACE, VOLUME AND ANGLE OF DECLIVITY OF HUMAN ERYTHROCYTES,Micron and Microscopica Acta,1984年,Vol. 15,pp. 7-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
G01N 21/00-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養中の細胞を撮影することにより、細胞表面の勾配に応じて陰影が変化する画像を取得する画像取得部と、
該画像取得部により取得された画像を処理して、画像の陰影から前記細胞表面の各位置における高さ寸法を算出する細胞高算出部と、
該細胞高算出部により算出された前記細胞表面の高さ寸法と位置情報とを対応づけて記憶する記憶部とを備え
前記高さ寸法は、前記細胞のない領域を基準とした相対高さ寸法である観察装置。
【請求項2】
前記画像取得部により取得された画像を処理して前記細胞の存在する細胞領域を抽出する細胞領域抽出部を備え、
前記細胞高算出部が、前記細胞領域抽出部により抽出された前記細胞領域の各位置における前記細胞表面の高さ寸法を算出する請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記記憶部に対応づけて記憶されている前記高さ寸法と前記位置情報とを対応づけて表示する表示部を備える請求項2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記表示部が、任意に設定された選択基準に基づいて選択された前記細胞領域を表示する請求項3に記載の観察装置。
【請求項5】
前記表示部が、前記細胞領域抽出部により抽出された前記細胞領域を前記高さ寸法に応じて色分けして表示する請求項3に記載の観察装置。
【請求項6】
前記細胞高算出部が算出した前記高さ寸法に基づいて前記細胞をクラス分類する分類部を備え、
前記表示部が、前記分類部によりクラス分類された分類と前記記憶部に記憶されている前記位置情報とを対応づけて表示する請求項3に記載の観察装置。
【請求項7】
前記細胞高算出部が、前記細胞に対して照明される照明の方向に平行な陰影の変化から前記細胞表面の高さ寸法を算出する請求項1に記載の観察装置。
【請求項8】
前記細胞高算出部が、前記画像取得部により取得された画像を処理して、該画像の陰影から前記細胞表面の連続する前記高さ寸法を算出する請求項7に記載の観察装置。
【請求項9】
前記細胞高算出部が、前記勾配を示す陰影である輝度の変化を取得し、前記輝度の変化を積分し、前記勾配の大きさと向きを推定することによって、前記相対高さ寸法を算出する、請求項1に記載の観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ES細胞およびiPS細胞などの万能細胞の制作過程では、遺伝子の導入や発現に失敗して、万能細胞の特性を持たない細胞が多数発生する。再生医療等に応用するには、万能細胞の特性を持たない細胞を取り除き、万能細胞のみを抽出する必要がある。
例えば、iPS細胞になっているか否かを見極めるには、多能性を持つ細胞が発現しているOct3/4、Nanog、TRA-1-60、TRA-1-81等の未分化マーカと呼ばれるタンパク質を、qPCR法あるいは免疫染色法により検査する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-100141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの方法はコストおよび時間がかかるため、細胞の選別は、培養作業者が、位相差顕微鏡下において、複数回分裂した細胞の集まりであるコロニーの形状を観察し、作業者の経験、培養条件およびコロニー同士を比較するなどして、iPS細胞になっていそうなコロニーを選別することを感覚的に行っており手間がかかっていた。
特に、コロニーが小さい場合には形状の差異も小さく、iPS細胞であるか否かの見極めが困難であった。
【0005】
本発明は、培養容器内に存在している特定の細胞を効率的に抽出することができる観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、培養中の細胞を撮影することにより、細胞表面の勾配に応じて陰影が変化する画像を取得する画像取得部と、該画像取得部により取得された画像を処理して、画像の陰影から前記細胞表面の各位置における高さ寸法を算出する細胞高算出部と、該細胞高算出部により算出された前記細胞表面の高さ寸法と位置情報とを対応づけて記憶する記憶部とを備え、前記高さ寸法は、前記細胞のない領域を基準とした相対高さ寸法である観察装置である。
【0007】
本態様によれば、画像取得部により画像が取得されると、取得された画像が細胞高算出部により処理されて細胞表面の各位置における高さ寸法が算出される。そして、算出された細胞表面の高さ寸法は位置情報と対応づけて記憶部に記憶される。
【0008】
細胞はその培養過程における分裂等により数が変化して細胞の集合体であるコロニーの面積が変化するとともに、高さ寸法も変化し、同種の細胞は同等の高さ寸法を有することになる。本態様によれば、高さ寸法と位置情報とを対応づけて記憶することにより、観察者がいずれかの位置の細胞が観察したい細胞であることを特定できれば、記憶されている同等の高さ寸法の位置に存在する細胞を選択することにより、観察したい細胞のみを効率的に観察することができる。
【0009】
上記態様においては、前記画像取得部により取得された画像を処理して前記細胞の存在する細胞領域を抽出する細胞領域抽出部を備え、前記細胞高算出部が、前記細胞領域抽出部により抽出された前記細胞領域の各位置における前記細胞表面の高さ寸法を算出してもよい。
この構成により、細胞領域抽出部により抽出された細胞領域の各位置について細胞表面の高さ寸法が算出され、細胞の存在しない領域についての高さ寸法の算出を省略することができる。これにより、培養容器内に存在している特定の細胞をさらに効率的に観察することができる。
【0010】
また、上記態様においては、前記記憶部に対応づけて記憶されている前記高さ寸法と前記位置情報とを対応づけて表示する表示部を備えていてもよい。
この構成により、表示部に表示された高さ寸法によって観察したい細胞を簡易に選択して観察することができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記表示部が、前記細胞領域抽出部により抽出された前記細胞領域を前記高さ寸法に応じて色分けして表示してもよい。
この構成により、同程度の高さ寸法を有する細胞領域を色により簡易に特定することができ、同程度の高さ寸法を有する細胞を簡易に選択して効率的に観察することができる。
【0012】
また、上記態様においては、前記細胞高算出部が算出した前記高さ寸法に基づいて前記細胞をクラス分類する分類部を備え、前記表示部が、前記分類部によりクラス分類された分類と前記記憶部に記憶されている前記位置情報とを対応づけて表示してもよい。
上記態様においては、前記細胞高算出部が、前記細胞に対して照明される照明の方向平行な陰影の変化から前記細胞表面の高さ寸法を算出してもよい。
また、上記態様においては、前記細胞高算出部が、前記画像取得部により取得された画像を処理して、該画像の陰影から前記細胞表面の連続する前記高さ寸法を算出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、培養容器内に存在している特定の細胞を効率的に抽出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る観察装置を示すブロック図である。
図2図1の観察装置により取得された画像の一例を示す図である。
図3図2の画像から抽出された細胞領域を示す図である。
図4図2の画像から抽出された一の細胞領域の画像上に輝度の変化を検出する直線を表示した図である。
図5図4の直線に沿う図4の画像の輝度の変化を示す図である。
図6図5の輝度の変化から算出された図4の直線に沿う細胞表面の高さ寸法の変化を示す図である。
図7】画像を取得する画像取得部を示す全体構成図である。
図8図7の画像取得部における照明光学系の一部を示す斜視図である。
図9A図8の照明光学系におけるライン光源の一例を示す側面図である。
図9B図9Aのライン光源を光軸方向に見た正面図である。
図10図8の照明光学系におけるライン光源の他の例を示す図である。
図11図7の画像取得部の対物光学系群を示す図である。
図12図11の対物光学系群における対物光学系の配列を示す図である。
図13図11の対物光学系群における開口絞りの配列を示す図である。
図14図11の対物光学系群の像面におけるラインセンサの配置を示す図である。
図15図8の照明光学系におけるライン光源、シリンドリカルレンズおよびプリズムの配置を示す図である。
図16】偏斜照明の作用を説明する図である。
図17図16の偏斜照明によって照明された試料の画像の一例を示す図である。
図18A】試料の一例を示す図である。
図18B図7の画像取得部によって取得された図18Aの試料の2次元画像を示す図である。
図18C図18Bの画像を反転処理およびつなぎ合わせ処理することにより得られた画像を示す図である。
図19図7の画像取得部の他の態様におけるライン光源の配置を示す図である。
図20図1の観察装置により細胞表面の高さ寸法と位置情報とを対応づけて表示する表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る観察装置200について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置200は、図1に示されるように、細胞の画像を取得する画像取得部100と、取得された画像を処理することにより細胞領域を抽出する細胞領域抽出部110と、抽出された各細胞領域における細胞表面の各位置の高さ寸法を算出する細胞高算出部120と、算出された高さ寸法と位置情報とを対応づけて記憶する情報記憶部(記憶部)130とを備えている。細胞領域抽出部110および細胞高算出部120はプロセッサにより構成され、情報記憶部130はメモリあるいは記憶媒体等により構成されている。
【0016】
画像取得部100は、培養中の細胞を撮影することにより、細胞表面の勾配に応じて陰影が変化する画像を取得するものであり、詳細については後述する。
細胞領域抽出部110は、画像取得部100により取得された図2に示されるような画像G内におけるエッジ検出や輪郭追跡により、図3に示されるように、細胞Xと細胞以外との境界を抽出し、その境界が閉じているものを細胞XあるいはコロニーYとして認識し、その大きさから細胞XとコロニーYとを区別する。
【0017】
細胞高算出部120は、画像取得部100により取得された画像を処理して、画像の陰影から細胞表面の各位置における高さ寸法を算出する。
画像取得部100により取得された画像は、細胞表面の勾配に応じて陰影が変化するので、勾配が大きければ輝度の変化量も大きくなり、同じ勾配が連続すれば一定の輝度が連続する。
【0018】
例えば、図4に示される画像Hにおいて、照明方向と平行な所定の直線に沿う輝度の変化を図5に示す。そして、この輝度の変化を用いて得られる勾配を積分することにより、図6に示されるように、上記直線に沿う細胞表面の形状を算出することができる。コロニーYのない領域の輝度を基準として、勾配の大きさと向きを推定することにより、上記直線に沿う細胞表面の各位置の相対的な高さ寸法を算出することができる。
【0019】
細胞高算出部120により算出された、細胞XあるいはコロニーYの各位置における高さ寸法は、位置情報と対応付けて情報記憶部130に記憶される。
さらに、コロニーYの1つの直線上における高さ寸法のみならず、コロニーYの複数位置における直線上の高さ寸法を算出し情報記憶部130に記憶させてもよく、コロニーYの立体的な情報として情報記憶部130に記憶させてもよい。
【0020】
ここで、画像取得部100について説明する。
画像取得部100は、図7に示されるように、試料(細胞)Aを収容した容器(培養容器)1を支持するステージ2と、該ステージ2に支持された試料Aに照明光を照射する照明部3と、試料Aを透過した照明光をラインセンサ13によって検出して試料Aの画像Gを取得する撮像部4と、試料Aに対する撮像部4の焦点の位置を調整するフォーカス調整機構5と、撮像部4をラインセンサ13の長手方向に直交する走査方向に移動させる走査機構6とを備えている。照明部3、撮像部4、フォーカス調整機構5、走査機構6およびラインセンサ13はステージ2によって上面を閉塞された筐体101内に密封状態に収容されている。
【0021】
以下の説明において、撮像部4の光軸(対物光学系11の光軸)に沿う方向をZ方向、走査機構6による撮像部4の走査方向をX方向、ラインセンサ13の長手方向をY方向とするXYZ直交座標系を用いる。画像取得部100は、図7に示されるように、Z方向が鉛直方向となり、X方向およびY方向が水平方向となる姿勢に配置される。
【0022】
容器1は、細胞培養用のフラスコまたはディッシュのような、全体的に光学的に透明な樹脂から形成された容器であり、互いに対向する上板1aおよび底板1bを有している。試料Aは、例えば、培地B中で培養される細胞である。上板1aの内側の面は、照明光をフレネル反射する反射面となっている。
ステージ2は、水平に配置された平板状の載置台2aを備え、載置台2a上に容器1が載置される。載置台2aは、照明光を透過させるように光学的に透明な材質、例えばガラスからなる。
【0023】
照明部3は、ステージ2の下方に配置され斜め上方に向けてライン状の照明光を射出する照明光学系7を備え、上板(反射部材)1aおいて照明光が斜め下方に反射されることにより、斜め上方から照明光を試料Aに照射する。
【0024】
具体的には、照明光学系7は、図8に示されるように、撮像部4の側方に配置され照明光を撮像部4に向かってX方向に発するライン光源8と、該ライン光源8から発せられた照明光を平行光束に変換するシリンドリカルレンズ(レンズ)9と、シリンドリカルレンズ9から射出された照明光を上方へ偏向するプリズム(偏向素子)10とを備えている。
【0025】
ライン光源8は、光を射出する射出面を有する光源本体81と、該光源本体81の射出面上に設けられた照明マスク82とを備えている。照明マスク82は、Z方向に延びる短辺と、Y方向に延び短辺よりも長い長辺とを有する長方形の開口部82aを有する。射出面から発せられた光が開口部82aのみを透過することによって、Y方向に長手方向を有するライン状の横断面(照明光の光軸に交差する断面)を有する照明光が生成される。
【0026】
図9A図9Bおよび図10は、ライン光源8の具体的な構成の一例を示している。
図9Aおよび図9Bのライン光源8において、光源本体81は、Y方向に一列に配列したLEDからなるLED列81aと、LED列81aから発せられた光を拡散する拡散板81bとを備えている。照明マスク82は、拡散板81bの射出側の面上に設けられている。
【0027】
図10のライン光源8において、光源本体81は、光拡散性光ファイバ81cと、該光ファイバ81cに光を供給する、LEDまたはLSD(Superluminescent diode)のような光源81dとを備えている。光拡散性光ファイバ81cを用いることにより、LED列81aを用いた場合に比べて、照明光の光強度の均質性を高めることができる。
【0028】
シリンドリカルレンズ9は、Y方向に延びZ方向のみに湾曲する曲面をライン光源8とは反対側に有する。したがって、シリンドリカルレンズ9は、Z方向に屈折力を有し、Y方向に屈折力を有しない。また、照明マスク82は、シリンドリカルレンズ9の焦点面または該焦点面の近傍に位置している。これにより、照明マスク82の開口部82aから射出された発散光束の照明光は、シリンドリカルレンズ9によってZ方向のみ曲げられて、Z方向に一定の寸法を有する光束(XZ平面において平行光束)に変換される。
【0029】
プリズム10は、シリンドリカルレンズ9の光軸に対して45°の角度をなして傾斜し、シリンドリカルレンズ9を透過した照明光を上方へ偏向する偏向面10aを有する。偏向面10aにおいて偏向された照明光は、載置台2aおよび容器1の底板1bを透過し、上板1aにおいて反射されて試料Aを上方から照明し、試料Aおよび底板1bを透過した照明光が撮像部4に入射する。
【0030】
撮像部4は、一列に配列された複数の対物光学系11を有する対物光学系群12と、該対物光学系群12によって結ばれた試料Aの光学像を撮影するラインセンサ13とを備えている。
各対物光学系11は、図11に示されるように、物体側(試料A側)から順に、第1レンズ群G1、開口絞りAS、および第2レンズ群G2を備えている。複数の対物光学系11は、図12に示されるように、光軸をZ方向に平行に延ばしてY方向に配列され、同一面上に光学像を結ぶ。したがって、像面には、Y方向に一列に並ぶ複数の光学像Iが形成される(図14参照。)。開口絞りASも、図13に示されるように、Y方向に一列に配列する。
【0031】
ラインセンサ13は、長手方向に配列された複数の受光素子を有し、ライン状の1次元画像を取得する。ラインセンサ13は、図14に示されるように、複数の対物光学系11の像面上にY方向に配置されている。ラインセンサ13は、像面に光学像Iを結んだ照明光を検出することによって、試料Aのライン状の1次元画像を取得する。
【0032】
隣接する対物光学系11の間には隙間dが生じる。Y方向において試料Aの像に切れ目が無い画像を得るために、対物光学系群12は以下の2つの条件を満たす。
第1の条件は、各対物光学系11において、図11に示されるように、入射瞳位置が最も試料A側に位置する第1レンズ群G1よりも像側に位置することである。これは、開口絞りASを第1レンズ群G1の像側焦点よりも物体側に配置することによって実現している。第1の条件を満たすことにより、焦点面から第1レンズ群G1に近付くにつれて軸外主光線が対物光学系11の光軸に近付くので、走査方向に垂直な方向(Y方向)の実視野Fが第1レンズ群G1の直径φよりも大きくなる。したがって、隣接する2つの対物光学系11の視野がY方向に互いに重なり合い、視野の欠けがない試料Aの光学像が像面に形成される。
【0033】
第2の条件は、図11に示されるように、各対物光学系11の物体面から像面への投影横倍率の絶対値が1倍以下であることである。第2の条件を満たすことにより、像面には、複数の対物光学系11によって結ばれた複数の光学像IがY方向に互いに重なり合うことなく配列する。したがって、ラインセンサ13は、複数の対物光学系11による複数の光学像Iを互いに空間的に分離して、撮像することができる。投影横倍率が1倍よりも大きい場合、Y方向に隣接する2つの光学像Iが像面において互いに重なり合ってしまう。
【0034】
第2の条件を満たす場合であっても、実視野Fよりも外側を通る光が隣接する光学像に重なることを確実に防止するために、像面の近傍に照明光の透過範囲を規制する視野絞りFSを設けることが好ましい。
【0035】
対物光学系群12の一例を以下に示す。
入射瞳の位置(第1レンズ群G1の最も物体側の面から入射瞳までの距離)20.1mm
投影横倍率 -0.756倍
実視野F 2.66mm
第1レンズ群G1のレンズ直径φ 2.1mm
第1レンズ群G1のY方向のレンズ間隔d 2.3mm
視野の重なり幅D 0.36mm(=2.66/2-(2.3-2.66/2))
【0036】
ここで、照明部3は、撮像部4の光軸に対して斜め方向から試料Aに照明光を照射する偏斜照明を行うように構成されている。具体的には、図15に示されるように、照明マスク82は、上述したようにシリンドリカルレンズ9の焦点面またはその近傍に位置し、かつ、照明マスク82の短辺の中心はシリンドリカルレンズ9の光軸に対して距離Δだけ下側に偏心している。これにより、プリズム10からは、XZ平面内においてZ方向に対して傾斜する方向に照明光が射出される。そして、略水平な上板1aにおいて反射された照明光は、XZ平面内においてZ方向に対して斜めに試料面(対物光学系11の焦点面)に入射し、試料Aを透過した照明光は斜めに対物光学系11に入射する。
【0037】
シリンドリカルレンズ9によって平行光束に変換された照明光は、照明マスク82が短辺方向に幅を有しているので、角度分布を有する。このような照明光が対物光学系11に斜めに入射すると、図13において二点鎖線で示されるように、光軸側に位置する一部のみが開口絞りASを通過して像面に到達し、光軸に対して外側に位置する他の部分は開口絞りASの外縁によって遮られる。
【0038】
図16は、試料Aとして高い屈折率を有する細胞を観察する際の偏斜照明の作用を説明する図である。図16において対物光学系11を左から右へ移動させるものとする。照明光の入射角度が対物光学系11の取り込み角と同等である場合、試料Aが存在しない領域を透過した光線a,eおよび試料Aの表面に略垂直に入射した光線cは、ほとんど屈折されることなく、入射瞳の辺縁の近傍を通過し、像面に到達する。このような光線a,c,eは、像面において中くらいの明るさの光学像を結ぶ。
【0039】
図16において試料Aの左端を透過した光線bは、外側に屈折され、入射瞳の外側に達し、開口絞りASによってケラレる。このような光線cは、像面において暗い光学像を結ぶ。図16において試料Aの右端を透過した光線dは、内側に屈折され、入射瞳の辺縁よりも内側を通過する。このような光線dは、像面においてより明るい光学像を結ぶ。上記の結果、図17に示されるように、一方の側が明るく、他方の側に影が付き立体的に見える高コントラストの試料Aの画像が取得される。
【0040】
対物光学系11に斜めに入射した照明光のうち、一部が開口絞りASを通過し、他の部分が開口絞りASにおいて遮られるような角度分布の照明光を有するために、対物光学系11に入射する際の照明光の光軸に対する入射角度は、下記の条件式(1)および(2)を満たすことが好ましい。
θmin > 0.5NA (1)
θmax < 1.5NA (2)
θminは、対物光学系11の光軸に対する照明光の入射角度の最小値(最も光軸側に位置する光線の入射角度)、θmaxは、対物光学系11の光軸に対する照明光の入射角度の最大値(光軸に対して最も径方向外側に位置する光線の入射角度)、NAは対物光学系11の開口数である。
【0041】
上記画像取得部100による観察において条件式(1)および(2)を満たすときにコントラストの高い試料Aの画像が取得されることが実験的に確認されている。条件式(1)および(2)を満たすためには、シリンドリカルレンズ9の焦点距離Flと照明マスク82の開口部82aの短辺の長さLが、下記の条件式(3)を満たすことが好ましい。
L > (θmax-θmin)Fl (3)
【0042】
さらに、プリズム10の偏向角(対物光学系11の光軸に対する偏向面10aの傾斜角度)が45°である場合、シリンドリカルレンズ9の光軸に対する照明マスク82の短辺の中心位置のシフト量(偏心距離)Δは、下記の条件式(4)を満たすことが好ましい。
Δ=NA/Fl (4)
プリズムの偏向角が45°でない場合には、偏向角の45°からのずれ量に応じてΔが補正される。具体的には、偏向角が45°よりも大きい場合には、Δをより大きくし、偏向角が45°よりも小さい場合には、Δをより小さくする。
【0043】
条件式(1)~(4)を満たすことによって、試料Aが細胞のような位相物体であっても高いコントラストの付いた画像Gを取得することができる。条件式(1)~(4)を満たさない場合には、試料Aのコントラストが低下する。
【0044】
フォーカス調整機構5は、例えば図示しない直動アクチュエータによって、照明光学系7および撮像部4を一体的にZ方向に移動させる。これにより、静止したステージ2に対する照明光学系7および撮像部4のZ方向の位置を変更し、試料Aに対する対物光学系群12の焦点合わせを行うことができる。
【0045】
走査機構6は、例えばフォーカス調整機構5を支持する直動アクチュエータによって、フォーカス調整機構5と一体的に撮像部4および照明光学系7をX方向に移動させる。
なお、走査機構6は、撮像部4および照明光学系7ではなく、ステージ2をX方向に移動させる方式で構成されていてもよく、撮像部4および照明光学系7と、ステージ2との両方をX方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0046】
次に、画像取得部100の作用について、容器1内で培養中の細胞である試料Aを観察する場合を例に挙げて説明する。
ライン光源8からX方向に発せられたライン状の照明光は、シリンドリカルレンズ9によって平行光束に変換され、プリズム10によって上方に偏向され、光軸に対して斜め上方に射出される。照明光は、載置台2aおよび容器1の底板1bを透過し、上板1aにおいて斜め下方に向けて反射され、試料A、底板1bおよび載置台2aを透過し、複数の対物光学系11によって集光される。各対物光学系11の内部を斜めに進む照明光は、開口絞りASにおいて部分的にケラレ、一部のみが開口絞りASを通過することにより、陰影の付いた試料Aの光学像を像面に結ぶ。
【0047】
像面に形成された試料Aの光学像は、像面に配置されたラインセンサ13によって撮像されて試料Aの一次元画像が取得される。撮像部4は、走査機構6の作動によってX方向に移動しながら、ラインセンサ13による1次元画像の取得を繰り返す。これにより、底板1b上に分布する試料Aの2次元画像が取得される。
【0048】
ここで、各対物光学系11によって像面に結ばれる像は倒立像になる。したがって、例えば、図18Aに示される試料Aの2次元画像を取得した場合、図18Bに示されるように、各対物光学系11に対応する部分画像Pにおいて像が倒立する。この像の倒立を補正するために、図18Cに示されるように、各部分画像Pを走査方向に垂直な方向に反転する処理が行われる。
【0049】
対物光学系11の投影横倍率の絶対値が1よりも大きい場合、各部分画像Pの縁部の視野は、隣接する部分画像Pの縁部の視野と重複する。この場合には、図18Cに示されるように、縁部を互いに重なり合わせて部分画像Pをつなぎ合わせる処理が行われる。各対物光学系11の投影横倍率が1倍である場合、このようなつなぎ合わせ処理は不要となる。
【0050】
このように、ラインセンサ13を試料Aに対して走査して試料Aの2次元画像を取得するライン走査型の画像取得部100において、偏斜照明を用いることによって、細胞のような無色透明の位相物体であっても高いコントラストの付いた画像Gを取得することができるという利点がある。また、容器1の上板1aを反射部材として利用し、照明部3、撮像部4、フォーカス調整機構5および走査機構6の全てをステージ2の下方に集約することによって、コンパクトな装置を実現することができるという利点がある。
【0051】
さらに、照明部3、撮像部4、フォーカス調整機構5および走査機構6の全てをステージ2の下方の筐体内に密封状態に収容しているので、高温多湿のインキュベータ内に収容することができ、インキュベータ内で試料Aの培養を行いながら、経時的に画像Gを取得することができる。
【0052】
また、対物光学系群12の近傍に配置されたプリズム10によって、上板1aの低い容器1にも対応することができる。
すなわち、上板1aの位置が低い容器1を使用する場合、上述した条件式(1)~(4)を満たすためには、照明部3からの照明光の射出位置を、対物光学系群12の光軸に近付ける必要がある。しかし、対物光学系群12のレンズや枠等が邪魔となり、対物光学系群12の近傍にライン光源8を配置することは難しい。
【0053】
そこで、図15に示されるように、プリズム10を、載置台2aと対物光学系群12との間に挿入して、対物光学系群12の上部、かつ、光軸からわずかに径方向にずれた位置に配置し、ライン光源8を対物光学系群12から水平方向に離れた位置に配置する。これにより、対物光学系群12の光軸の近傍から斜め上方に向けて照明光を射出することができる。
【0054】
上板1aの位置が高い容器1を使用する場合、偏斜照明によってコントラストの付いた試料Aの光学像を得るためには、対物光学系群12の光軸から離れた位置から照明光が斜め上方に射出される。したがって、図19に示されるように、プリズム10を省略して、ライン光源8から斜め上方に向けて照明光が射出される位置に、ライン光源8を配置してもよい。
【0055】
さらに、上板1aの高さが同一である容器1しか使用しない場合には、試料面、反射部材の反射面(上板1a)および照明光学系7の相対位置関係が変化しないので、試料Aへの照明光の照射角度は一定となる。したがって、この場合には、図19に示されるように、プリズム10とシリンドリカルレンズ9を省略してもよい。
【0056】
照明光を反射するための反射部材として容器1の上板1aを利用することとしたが、これに代えて、容器1の上方に設けた反射部材によって照明光を反射する方式で構成してもよい。
【0057】
このように構成された本実施形態に係る観察装置200の作用について以下に説明する。
画像取得部100により、容器1における培養面の画像Gが取得されると、取得された画像Gが細胞領域抽出部110に送られる。
【0058】
細胞領域抽出部110は、送られて来た画像Gにおいてエッジ検出等により複数の細胞領域を抽出する。
そして、抽出された各細胞領域について、細胞高算出部120により細胞表面の高さ寸法が算出され、算出された高さ寸法と当該高さ寸法を有する細胞表面の位置情報とが対応づけられて情報記憶部130に記憶される。
【0059】
したがって、観察者が、画像Gを観察して、画像G内の一の細胞領域において特定の細胞Xの存在を確認した場合には、当該細胞Xにおける高さ寸法と同等の高さ寸法が対応づけられている位置の細胞Xを観察することにより、確認された特定の細胞Xと同等の性質を有する細胞Xについて選択的に観察することができる。
【0060】
すなわち、画像G内の全ての箇所を逐次観察する場合と比較して、観察したい特定の細胞Xと同等の性質を有する細胞Xを選んで観察することができ、時間と手間をかけずに、特定の細胞Xを選別することができる。また、細胞高さによって特定の細胞Xを選別するので、コロニーYの大きさが小さい場合であっても、細胞Xを精度よく選別することができるという利点がある。
【0061】
なお、本実施形態においては、細胞高さと位置情報とを対応づけて情報記憶部130に記憶することに止めているが、本実施形態においては、情報記憶部130に記憶された細胞高さと位置情報とを対応づけて表示する表示部を備えていてもよい。
例えば、図20に示されるように、表示部が、画像取得部100から送られて来た画像Gを表示するとともに、画像Gに重畳して、抽出された細胞領域を最大の高さ寸法に応じて色分けして表示することにしてもよい。
【0062】
また、コロニーYか否かを識別する場合に、コロニーYの面積、形状、テクスチャなどから複数のパラメータによって識別することが好ましい。これにより、目的に即したコロニーYのみを観察対象とすることができる。
【0063】
また、細胞Xの種類あるいは培養の目的に応じて選択基準を変えてもよい。これにより、目的に即したコロニーYを選択することができる。この場合には、選択基準のテーブルを備えていれば、選択基準の切替を容易に行うことができる。また、選択基準は観察者が適宜設定できることにしてもよい。
【0064】
さらに、観察者がいずれかの画像(全体画像)Gにおいて、いずれかのコロニーYを指定したときに、指定されたコロニーYの時間変化を示す動画を表示することにしてもよい。すなわち、画像取得部100によって、時間間隔をあけて複数枚の全体画像Gを取得しておき、いずれかの全体画像GにおいてコロニーYが指定された場合に、コロニーYが指定された全体画像Gを基準として過去および未来の複数の全体画像Gにおける対応するコロニーYを抽出し、古い画像Gから順に所定時間間隔で切り替えて表示すればよい。
【0065】
指定したコロニーYを動画表示する場合に、コロニーYの中心位置を算出し、各画像Gにおいて抽出されたコロニーYの中心位置を動画の中心する範囲で全体画像Gから部分画像Hを切り出すことにしてもよい。動画再生中にコロニーYの移動によるブレが少なくなり、コロニーYの時間変化を視認しやすくすることができる。
【0066】
また、コロニーYの動画表示を行う場合には、図7に示されるように、指定されたコロニーYを含む部分画像Hを表示した全体画像Gと動画とを同時に表示することが好ましい。
また、画像取得の時間間隔は任意に変更できることにしてもよい。培養初期や大きく動き回る細胞Xの撮影時等の形態変化の大きい場合には、時間間隔を小さくすることにより、誤差を減らすことができる。
【0067】
また、細胞Xの高さ寸法と位置情報とを対応づけて情報記憶部130に記憶する際に、高さ寸法の近似する細胞領域をグルーピングして記憶することにしてもよい。この場合に、統計手法の1つであるクラスター分析あるいは予め定められた境界値に基づいて、増殖速度の近似する測定領域をグルーピングしてもよい。
【0068】
また、照明部3は複数の照明を備え、任意に切り替えられることにしてもよい。容器1の壁で照明がケラレる場合に照明を切り替えて画像取得範囲を広げることができる。また、複数方向からの情報を合わせることにより、精度の高い測定が可能となる。
また、ラインセンサ13の幅は容器1の短辺以上であることが好ましい。これにより1回の操作によって培養面全面の画像Gを取得することができる。
【0069】
また、本実施形態においては、表示部が、画像Gに重畳した色分けによって位置情報に対応づけて高さ寸法を表示することとしたが、これに代えて、位置情報と高さ寸法とを数値によって対応づけて表示することにしてもよい。さらに表示部は、図6のような推定断面を合わせて表示してもよい。
本実施形態においては、観察装置200として、ライン状に撮影することによって細胞表面の勾配に応じて陰影が変化する画像Gを取得するものを例示したが、細胞表面の勾配に応じて陰影が変化する画像Gが取得可能であればよく、スクエア状に撮影するものを採用してもよい。
【0070】
以上のような構成により、焦点位置を変更した複数枚の画像Gを取得し解析することによって細胞Xの高さ寸法を算出する手間が無く、所望の焦点位置の1枚の画像Gに基づいて細胞Xの高さを算出することが可能である。これにより、容器1内に存在しているiPS細胞のような特定の細胞を効率的に抽出することができる。
【0071】
また、本実施形態においては、細胞高算出部120によって算出された高さ寸法に基づいて細胞Xをクラス分類する分類部を備えていてもよい。これにより、表示部において、分類部によりクラス分類された分類と情報記憶部130に記憶されている位置情報とが対応づけて表示されるようになっている。
【0072】
また、細胞高算出部120は、細胞Xに対して照明される照明の方向平行な陰影の変化から細胞表面の高さ寸法を算出してもよい。また、画像取得部100により取得された画像Gを処理して、画像Gの陰影から細胞表面の連続する高さ寸法を算出してもよい。
【符号の説明】
【0073】
100 画像取得部
110 細胞領域抽出部
120 細胞高算出部
130 情報記憶部(記憶部)
200 観察装置
A 試料(細胞)
G,H 画像
X 細胞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19
図20