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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220309BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20220309BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220309BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220309BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 B
C21D9/46 501A
C22C38/60
H01F1/147 175
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020536062
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2018016038
(87)【国際公開番号】W WO2019132361
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】10-2017-0179926
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ギュ-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ-ギョム
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャン-スゥ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジン-ウク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ゾン-テ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101311(JP,A)
【文献】特開2000-160304(JP,A)
【文献】特開2000-129356(JP,A)
【文献】特開2014-062305(JP,A)
【文献】国際公開第98/046801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、Mn:0.001~0.08%、P:0.001~0.1%、Cu:0.00~0.09%、S:0.0005~0.05%、Se:0.0005~0.05%、B:0.000~0.01%、及びMo:0.0~0.2%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなり、
SおよびSeをその合計量で0.005~0.05重量%含むことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
B:0.0011~0.01重量%を含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Al:0.0001~0.01重量%及びN:0.0005~0.005重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
Cr:0.001~0.1重量%、Sn:0.005~0.2重量%、及びSb:0.005~0.2重量%のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.001~0.1重量%、Mn:0.001~0.08%、P:0.001~0.1%、Cu:0.00~0.09%、S:0.0005~0.05%、Se:0.0005~0.05%、B:0.000~0.01%、及びMo:0.0~0.2%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなり、S及びSeをその合計量で0.005~0.05重量%含むスラブを製造する段階と、
前記スラブを加熱する段階と、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、
1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階とを含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延板を製造する段階以後、前記熱延板はエッジクラック最大深さが20mm以下であることを特徴とする請求項5に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記1次再結晶焼鈍が完了した冷延板は、(Fe、Mn、Cu)Sおよび(Fe、Mn、Cu)Seのうちの1種以上の析出物を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記1次再結晶焼鈍する段階は、50℃~70℃の露点温度および水素および窒素混合雰囲気で行われることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。具体的に、S、Se系析出物を用いて2次再結晶高温焼鈍時にGoss方位への集積度が非常に高い結晶粒を安定的に成長させて生産性および磁性に優れた方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。さらに具体的に、合金成分内、Mn、S、Se、Cu、B、Mo成分を制御して、生産性および磁性に優れた方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、2次再結晶と呼ばれる異常粒成長現象を用いてGoss集合組織({110}<001>集合組織)を鋼板全体に形成させて圧延方向の磁気的特性に優れ、変圧機などの優れた一方向の磁気的特性が要求される電子機器の鉄芯として使用される軟磁性材料である。
【0003】
一般に、磁気的特性は磁束密度と鉄損で表現でき、高い磁束密度は結晶粒の方位を{110}<001>方位に正確に配列することによって得られる。磁束密度の高い電磁鋼板は、電気機器の鉄芯材料の大きさを小さくすることができるだけでなく、ヒステリシス損失が低まって、電気機器の小型化と同時に高効率化を得ることができる。鉄損は、鋼板に任意の交流磁場を加えた時、熱エネルギーとして消費される電力損失であって、鋼板の磁束密度と板厚、鋼板中の不純物量、比抵抗そして2次再結晶粒大きさなどによって大きく変化し、磁束密度と比抵抗が高いほど、そして板厚さと鋼板中の不純物量が低いほど鉄損が低まって電気機器の効率が増加する。
【0004】
方向性電磁鋼板の2次再結晶は、通常の結晶粒成長と異なり、正常的な結晶粒成長が析出物、介在物や、あるいは固溶されるか粒界に偏析される元素によって正常に成長する結晶粒界の移動が抑制された時に発生するようになる。また、Goss方位に対する集積度が高い結晶粒を成長させるためには製鋼での成分制御、熱間圧延でのスラブ再加熱および熱間圧延工程因子制御、熱延板焼鈍熱処理、1次再結晶焼鈍、2次再結晶焼鈍などの複雑な工程が要求され、これら工程も非常に精密且つ厳格に管理されなければならない。このように結晶粒成長を抑制する析出物や介在物などを特別に結晶粒成長抑制剤(inhibitor)と呼び、Goss方位の2次再結晶による方向性電磁鋼板製造技術に対する研究は強力な結晶粒成長抑制剤を使用してGoss方位に対する集積度が高い2次再結晶を形成して優れた磁気特性を確保するのに主力を注いできた。
【0005】
初期に開発された方向性電磁鋼板は、MnSが結晶粒成長抑制剤として使用され、2回冷間圧延法で製造された。これによって、2次再結晶は安定的に形成されたが、磁束密度がそれほど高くない水準であり、鉄損も高いほうであった。
その後、AlN、MnS析出物を複合で用いて、1回強冷間圧延して方向性電磁鋼板を製造する方法が提案された。最近は、MnSを使用せず1回強冷間圧延後、脱炭を実施した後にアンモニアガスを用いた別途の窒化工程によって鋼板の内部に窒素を供給して強力な結晶粒成長抑制効果を発揮するAl系窒化物によって2次再結晶を起こす方向性電磁鋼板製造方法が提案された。
【0006】
今まで主にAlN、MnS[Se]などの析出物を結晶粒成長抑制剤として用いて2次再結晶を起こす製造方法を使用している。このような製造方法は、2次再結晶を安定的に起こすことができる長所はあるが、強力な結晶粒成長抑制効果を発揮するためには析出物を非常に微細で均一に鋼板に分布させなければならない。このように微細な析出物を均一に分布させるためには熱間圧延前にスラブを高温で長時間加熱して鋼中に存在していた粗大な析出物を固溶させた後、非常に早く熱間圧延を実施して析出が起こらない状態で熱間圧延を終えなければならない。このためには、大単位のスラブ加熱設備を必要とし、析出を最大限抑制するために熱間圧延と巻取り工程を非常に厳格に管理し熱間圧延以後の熱延板焼鈍工程で固溶された析出物が微細に析出されるように管理しなければならない制約が伴う。また、高温でスラブを加熱するようになれば、融点の低いFeSiOが形成されることによってスラブウォッシング(washing)現象が発生して実収率が低下する。
【0007】
また、析出物を用いず、鋼板内に不純物含量を最少化して結晶方位による結晶粒界の粒界移動度の差を極大化することによって2次再結晶を形成させる方向性電磁鋼板製造方法が提案された。この技術では、Al含量を低減し、B、V、Nb、Se、S、P、Nの含量を微量に制御することを提案したが、少量のAlが析出物や介在物を形成してこそ2次再結晶を形成して磁性を確保することができることが明らかになっている。
その他にもTiN、VN、NbN、BNなどのような多様な析出物を結晶粒成長抑制剤として活用しようと試みられたが、熱的不安定と過度に高い析出物分解温度によって安定した2次再結晶を形成するのには失敗した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。具体的に、S、Se系析出物を用いて2次再結晶高温焼鈍時にGoss方位への集積度が非常に高い結晶粒を安定的に成長させて、生産性および磁性に優れた方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。さらに具体的に、合金成分内、Mn、S、Se、Cu、B、Mo成分を制御して、生産性および磁性に優れた方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、Mn:0.001~0.08%、P:0.001~0.1%、Cu:0.001~0.1%、S:0.0005~0.05%、Se:0.0005~0.05%、B:0.0001~0.01%、及びMo:0.01~0.2%を含み、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる。SおよびSeをその合計量で0.005~0.05重量%含む。
【0010】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、B:0.0011~0.01重量%を含むことができる。
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、Al:0.0001~0.01重量%及びN:0.0005~0.005重量%をさらに含んでもよい。
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、Cr:0.001~0.1重量%、Sn:0.005~0.2重量%、及びSb:0.005~0.2重量%のうちの1種以上をさらに含んでもよい。
【0011】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.001~0.1重量%、Mn:0.001~0.08%、P:0.001~0.1%、Cu:0.001~0.1%、S:0.0005~0.05%、Se:0.0005~0.05%、B:0.0001~0.01%およびMo:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなり、SおよびSeをその合計量で0.005~0.05重量%含むスラブを製造する段階と、スラブを加熱する段階と、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階とを含む。
【0012】
熱延板を製造する段階以後、前記熱延板は、エッジクラック最大深さが20mm以下であってもよい。
1次再結晶焼鈍が完了した冷延板は、(Fe、Mn、Cu)Sおよび(Fe、Mn、Cu)Seのうちの1種以上の析出物を含むことができる。
1次再結晶焼鈍する段階は、50℃~70℃の露点温度および水素および窒素混合雰囲気で行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、合金成分内、Mn、S、Se、Cu、B、Mo成分を制御し、析出物制御が容易なS、Se系析出物を用いて2次再結晶高温焼鈍時にGoss方位への集積度が非常に高い結晶粒を安定的に成長させて、磁性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】発明材5の製造過程で2次再結晶直前のTEM析出物写真である。
図2】析出物の成分分析グラフである。
図3】析出物をFe、Mn、Cu、S、Se成分別にマッピングした結果である。
図4】析出物をFe、Mn、Cu、S、Se成分別にマッピングした結果である。
図5】析出物をFe、Mn、Cu、S、Se成分別にマッピングした結果である。
図6】析出物をFe、Mn、Cu、S、Se成分別にマッピングした結果である。
図7】析出物をFe、Mn、Cu、S、Se成分別にマッピングした結果である。
図8】析出物に対する格子回折パターンを撮った写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層及び/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で、第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
【0016】
ここで使用される専門用語は、単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は、特定特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われてもよい。対照的に、ある部分が他の部分の“真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0017】
異なって定義してはいないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一な意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0018】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0019】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.5%、C:0.005%以下(0%を除外する)、Mn:0.001~0.08%、P:0.001~0.1%、Cu:0.001~0.1%、S:0.0005~0.05%、Se:0.0005~0.05%、B:0.0001~0.01%およびMo:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物を含む。
【0020】
以下、方向性電磁鋼板の成分限定の理由を説明する。
【0021】
Si:2.0~4.5重量%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板素材の比抵抗を増加させて鉄心損失(core loss)、即ち、鉄損を低める役割を果たす。Si含量が過度に少なければ、比抵抗が減少して、渦電流損が増加し、鉄損が劣化することがある。また、1次再結晶焼鈍時、フェライトとオーステナイト間相変態が発生するようになって、1次再結晶集合組織が激しく毀損されることがある。また、2次再結晶焼鈍時、フェライトとオーステナイト間相変態が発生するようになって、2次再結晶が不安定になるだけでなくGoss集合組織が激しく毀損されることがある。Si含量が過度に多ければ、1次再結晶焼鈍での脱炭時、SiOおよびFeSiO酸化層が過度で緻密に形成されて脱炭挙動を遅延させることがある。また、鋼の脆性が増加し、靭性が減少して、圧延過程中、板破断発生率が深化されることがある。したがって、Siは、2.0~4.5重量%含むことができる。さらに具体的に、2.5~4.0重量%含むことができる。
【0022】
C:0.005重量%以下
炭素(C)はオーステナイト安定化元素であって、連鋳過程に発生する粗大な柱状晶組織を微細化する効果と共に、Sのスラブ中心偏析を抑制する。また、冷間圧延中に鋼板の加工硬化を促進して、鋼板内に{110}<001>方位の2次再結晶核生成を促進したりもする。しかし、最終製品に残存するようになる場合、磁気的時効効果によって形成される炭化物を製品板内に析出させて磁気的特性を悪化させる元素であるため、適正な含量に制御されなければならない。本発明の一実施形態では、製造過程で1次再結晶焼鈍時、脱炭過程を経るようになり、脱炭焼鈍後製造された最終電磁鋼板内のC含量は0.005重量%以下であってもよい。より具体的には、0.003重量%以下であってもよい。
【0023】
スラブ内で、Cは0.001~0.1重量%含まれてもよい。スラブ内にCを過度に少なく含むようになれば、オーステナイト間相変態が十分に起こらなくてスラブおよび熱間圧延微細組織の不均一化を引き起こすようになる。これによって、冷間圧延性まで害するようになる。Cを過度に多く含むようになれば、脱炭工程で十分な脱炭を得ることができない。これによって、引き起こされる相変態現象によって2次再結晶集合組織が激しく毀損されるようになる。また、熱延板のエッジクラックが発生することがある。さらに具体的に、スラブ内でCは0.01~0.1重量%含まれてもよい。
【0024】
Mn:0.001~0.08重量%
マンガン(Mn)は、Siと同様に、比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果がある。既存には、鋼中でSと反応してMnS析出物を形成し結晶粒成長を抑制する役割が知られていた。しかし、単独のMnSが形成される場合には、析出物が非常に大きく析出されて結晶粒成長抑制剤として十分な役割を果たすことができなかった。そのような理由で、所望の抑制力を確保するために多くのMnS析出物形成元素を添加し、それによってスラブを高温で加熱する問題が発生した。本発明の一実施形態では、Fe、MnおよびCuを含む硫化物(Sulfide)あるいはセレン化物(Selenide)を析出物として形成するため、Mn含量を多量添加する必要がない。むしろMnの含量を多量添加する場合、MnSあるいはMnSe析出物が粗大に析出されて結晶成長抑制力が落ちるようになる。Mnを過度に少なく含む場合、FeSとFeSe析出物の形成が促進され、このような析出物は、結晶成長抑制力は大きいが、熱間圧延時に界面で液状に相変化しながらエッジクラックを増加させるようになって、熱延生産性が落ちる問題が発生することがある。したがって、Mnは0.001~0.08重量%含むことができる。さらに具体的に、0.005~0.08重量%含むことができる。
【0025】
P:0.001~0.1重量%
リン(P)は、結晶粒界に偏析して結晶粒成長を抑制する効果があり、1次再結晶時{111}<112>方位結晶粒の再結晶を促進して、Goss方位結晶粒の2次再結晶形成に有利な微細組織を形成する。Pを過度に少なく含む場合、前述の効果が適切に発揮されないことがある。Pを過度に多く含む場合、冷間圧延時板破断発生が増加して冷間圧延実収率が落ちることがある。したがって、Pは0.001~0.1重量%含むことができる。さらに具体的に、0.005~0.05重量%含むことができる。
【0026】
Cu:0.001~0.1重量%
銅(Cu)は、Mnと同様に、SおよびSeと反応してCuSあるいはCuSe析出物を形成して結晶成長を抑制する。単独で存在する場合よりはMnと共に複合して析出物を形成しやすく、析出物の大きさを減少させる効果がある。したがって、(Fe、Mn、Cu)S析出物と(Fe、Mn、Cu)Se析出物を形成するためには、必須の合金元素として析出物を微細にして結晶粒成長を抑制する効果が非常に大きく、MnSとFeSより高温でも比較的に安定的に存在するため、結晶成長抑制力が高い温度まで維持され2次再結晶が安定的に形成される。Cuの添加量が過度に少ない場合、前述の効果が十分に発現されないことがある。Cuが過度に多量添加される場合、粗大なCuSあるいはCuSe析出物を形成するため、結晶成長抑制効果が落ちるようになる。したがって、Cuは0.001~0.1重量%含むことができる。さらに具体的に、0.005~0.09重量%含むことができる。
【0027】
S:0.0005~0.05重量%
硫黄(S)は、結晶粒界に単独で偏析するか、鋼中のFe、Mn、Cuなどと反応してFeS、MnS、CuSを形成することによって結晶粒成長抑制効果を有する元素と知られている。既存には、MnS単独で使用するか、CuSと共に使用する方法あるいはFeS析出物を結晶粒成長抑制剤として使用したが、本発明の一実施形態ではこのような合金元素が複合的に反応して析出された(Fe、Mn、Cu)S複合析出物を結晶粒成長抑制剤として使用する。このような(Fe、Mn、Cu)S複合析出物を形成するためには、MnおよびCu含量が過度でないように適正に添加されることと、同時にSが十分に添加されることが重要である。Sが過度に少なく添加される場合、(Fe、Mn、Cu)S析出物が十分に形成されず、所望の結晶成長抑制力を確保しにくい。Sが過度に多く添加される場合、熱延板のエッジクラックが発生することがある。したがって、Sは0.0005~0.05重量%含むことができる。さらに具体的に、0.001~0.03重量%含むことができる。
【0028】
Se:0.0005~0.05重量%
セレン(Se)は、Sと同様に結晶粒界に偏析するか、MnSeのような析出物を形成して、結晶粒界の移動を抑制する。本発明の一実施形態では、このような性質を用いてFe、MnおよびCuと反応して(Fe、Mn、Cu)Se複合析出物を形成することによって1次再結晶粒の成長を強力に抑制して安定した2次再結晶を形成するのに重要な合金元素である。本発明の一実施形態では、Sだけでなく、Seも共に複合添加して(Fe、Mn、Cu)Sだけでなく(Fe、Mn、Cu)Se析出物も共に形成することによって、強力な結晶粒成長抑制力を確保することができる。特に、SeはSより原子量が重いため、(Fe、Mn、Cu)Se析出物が(Fe、Mn、Cu)S析出物よりはるかに安定しており、2次再結晶が安定的に形成される。Seが過度に少なく添加される場合、(Fe、Mn、Cu)Se析出物が十分に形成されず、所望の結晶成長抑制力を確保しにくい。Seが過度に多く添加される場合、熱延板のエッジクラックが発生することがある。したがって、Seは0.0005~0.05重量%含むことができる。さらに具体的に、0.001~0.03重量%含むことができる。
【0029】
本発明の一実施形態で、SおよびSeは、その合計量で0.005~0.05重量%含まれる。SおよびSe合計量が過度に少ない場合、(Fe、Mn、Cu)Se析出物および(Fe、Mn、Cu)S析出物が適切に形成されず、結晶粒成長抑制力を確保しにくいため、2次再結晶が適切に形成されない。SおよびSe合計量が過度に多い場合、熱延板のエッジクラックが発生することがある。さらに具体的に、SおよびSeはその合計量で0.01~0.05重量%含まれてもよい。
【0030】
B:0.0001~0.01重量%
ホウ素(B)は、鋼中のNと反応してBN析出物を形成して結晶粒成長を抑制したりもするが、結晶粒界に偏析して結晶粒界の結合力を強化させることによって、欠陥や、クラックの粒界伝播を抑制して熱延中エッジクラック発生を低減することに効果的な元素である。本発明のようにSとSeを複合で添加する場合に予想されるエッジクラック発生の可能性を最少化するために、Bの含量を適切に添加することが重要である。Bを過度に少なく含む場合、前述の効果が十分に発現されないことがある。Bが過度に多量添加される場合、金属間化合物形成による高温脆性を増加させることがある。したがって、Bは0.0001~0.01重量%含むことができる。さらに具体的に、0.0005~0.01重量%含むことができる。さらに具体的に、Bは0.0011~0.01重量%含むことができる。さらに具体的に、Bは0.0015~0.01重量%含むことができる。
【0031】
Mo:0.01~0.2重量%
モリブデン(Mo)は、高温粒界酸化を抑制する合金元素であって、スラブ連鋳および熱延工程で高温クラックおよびエッジクラックを低減することに効果がある。同時に、熱延過程で{110}<001>方位のGoss集合組織を増加させて磁束密度を高める効果がある。Moを過度に少なく含む場合、SおよびSeの添加によるエッジクラックが発生するか、2次再結晶が適切に形成されないことがある。Moを過度に多く含む場合、磁性が劣化する。したがって、Moは0.01~0.2重量%含むことができる。さらに具体的に、0.02~0.2重量%含むことができる。
【0032】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、Al:0.0001~0.01重量%およびN:0.0005~0.005重量%さらに含んでもよい。
アルミニウム(Al)は鋼中の窒素と結合してAlN析出物を形成するので、本発明の一実施形態ではAl含量を積極抑制してAl系窒化物や酸化物の形成を避ける。Alが過度に多く含まれれば、AlNおよびAl形成が促進されて、これを除去するための純化焼鈍時間が増加するようになり、まだ除去されていないAlN析出物とAlのような介在物が最終製品に残留して保磁力を増加させ、最終的に鉄損が増加する可能性がある。但し、Al含量を完全に排除することが最も理想的であるが、製鋼能力を考慮してやむをえず入ることを考慮する時、Al含量は0.0001~0.01重量%含まれてもよい。
【0033】
窒素(N)は、AlおよびSiと反応してAlNとSi析出物を形成する元素である。同時に、Bと反応してBNを形成したりもする。本発明の一実施形態では結晶粒成長抑制剤としてAlNを用いないため、製鋼段階でAl添加をしないので、Nを特別に任意的に添加しない。結晶粒界結合力を増加させるためにBを添加し、Nと反応して形成されるBN析出物が結晶成長を抑制する効果も期待することができる。そのような理由で、Nの上限は最大0.005重量%に制限して、BN析出による結晶成長抑制およびB自体の結晶粒界結合力強化効果を確保する。同時に、Nを最少で添加するのが好ましいが、製鋼段階でNを0.0005重量%未満に管理するには製鋼工程の脱窒負荷が大きく増加するため、Nは0.0005~0.005重量%で含まれてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、Cr:0.001~0.1重量%、Sn:0.005~0.2重量%、及びSb:0.005~0.2重量%のうちの1種以上をさらに含んでもよい。
クロム(Cr)は、他の合金元素より酸素との親和力の高い合金元素であって、脱炭過程で酸素と反応して鋼板表面にCrを形成する元素である。このような酸化層は鋼中の炭素が表面に拡散する通路役割を果たして脱炭がより容易なようにし、表面酸化層が焼鈍分離剤であるMgOと反応してベースコーティングを形成する時、鋼板の密着性を高める効果がある。このようなCrを過度に少なく添加するようになれば、添加効果がない。Crを過度に多く添加すれば、鋼中の炭素と反応してクロム炭化物を形成し、むしろ脱炭性能が落ちることがある。したがって、クロムをさらに添加する場合、0.001~0.1重量%添加することができる。
【0035】
錫(Sn)およびアンチモン(Sb)は、Pと共に代表的な結晶粒界偏析元素であって、熱延過程で{110}<001>Goss方位の核生成を促進して磁束密度を増加させる効果がある。このようなSn、Sbを過度に多く添加する場合、結晶粒界過偏析によって冷間圧延板破断発生及び脱炭を遅延させて不均一な1次再結晶微細組織を形成するようになって磁性を低下させるようになる。同時に、Sn、Sbを過度に少なく添加する場合、Goss方位再結晶粒形成に効果が弱くなることがある。したがって、Sn及びSbはそれぞれ0.005~0.2重量%さらに添加されてもよい。
【0036】
不純物元素
前記の元素以外にも、Ti、Mn、Caなどのやむをえず混入される不純物が含まれてもよい。これらは、酸素または窒素と反応して、微細な酸化物及び窒化物を形成して磁性に有害な影響を及ぼすので、これら含量をそれぞれ0.003重量%以下に制限する。
【0037】
本発明の一実施形態で、合金成分内、Mn、S、Se、Cu、B、Mo成分を制御して、生産性および磁性をさらに向上させることができる。具体的に、方向性電磁鋼板の1.7Tesla、50Hz条件で、鉄損は0.95W/kg以下であってもよい。方向性電磁鋼板の1000A/mの磁場下で誘導される磁束密度(B10)1.9T以上であってもよい。さらに具体的に、1.91~1.95Tであってもよい。
【0038】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを製造する段階と、スラブを加熱する段階と、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階とを含む。
以下、各段階別に詳しく説明する。
【0039】
まず、スラブを製造する。
製鋼段階ではSi、C、Mn、S、Se、Cu、B、Moを適正含量に制御し、必要によって、Goss集合組織形成に有利な合金元素を添加しても問題ない。製鋼段階で成分が調整された溶鋼は、連続鋳造によってスラブに製造される。
スラブの各組成については前述の方向性電磁鋼板で詳しく説明したので、重複する説明を省略する。前述の式1~式3もスラブの合金成分内で同様に満足できる。
【0040】
次に、スラブを加熱する。スラブの加熱は、1050~1300℃の温度で行うことができる。
【0041】
その次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延によって厚さ1.5~4.0mmの熱延板を製造することができる。前述のように、本発明の一実施形態で、Mn、S、Se、Cu、B、Moの含量を制御して、熱延板のエッジクラックを低減することができる。具体的に、熱延板に形成されたエッジクラックは、最大深さが20mm以下であり得る。エッジクラックの最大深さは熱延板全長にかけて形成されたエッジクラックのうち、最も深く形成されたものを意味する。エッジクラックの深さとは、鋼板の圧延垂直方向(TD方向)端部から鋼板中心に測定したエッジクラックの長さを意味する。本発明の一実施形態で、エッジクラックが低減されることにより、鋼板の実収率が上昇する。
熱間圧延された熱延板は、必要によって熱延板焼鈍を実施するか、熱延板焼鈍を実施せず冷間圧延を行うことができる。熱延板焼鈍を実施する場合、熱延組織を均一にするために900℃以上の温度で加熱し維持した後、冷却することができる。
【0042】
その次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延はリバース(Reverse)圧延機あるいはタンデム(Tandem)圧延機を用いて1回の冷間圧延あるいは中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延法にして最終製品厚さの冷延板が製造されるように実施する。冷間圧延中に鋼板の温度を100℃以上で維持する温間圧延を実施することは、磁性を向上させるのに有利である。
【0043】
その次に、冷間圧延された冷延板を1次再結晶焼鈍する。1次再結晶焼鈍段階でゴス結晶粒の核が生成される1次再結晶が起こる。1次再結晶焼鈍過程で、鋼板の脱炭がなされ得る。脱炭のために50℃~70℃の露点温度並びに水素及び窒素混合雰囲気で行うことができる。1次再結晶焼鈍温度は、750℃以上になり得る。焼鈍温度が低ければ、脱炭時間が長くかかることがある。焼鈍温度が高ければ、1次再結晶粒が粗大に成長して、結晶成長駆動力が落ち安定した2次再結晶が形成されない。そして、焼鈍時間は、本発明の効果を発揮するのに大きな問題にならないが、30秒以上処理することができる。本発明の一実施形態では脱炭のみが行われ、浸窒は行われなくてもよい。即ち、1次再結晶焼鈍で50℃~70℃の露点温度並びに水素及び窒素混合雰囲気中のみで行われ得る。1次再結晶焼鈍によって1次再結晶の平均粒径は5μm以上になり得る。
【0044】
このように、1次再結晶焼鈍された冷延板はS、Se系析出物を含んで、2次再結晶焼鈍時、結晶粒成長抑制剤として使用される。具体的に、S、Se系析出物は(Fe、Mn、Cu)S及び(Fe、Mn、Cu)Seのうちの1種以上の析出物を含むことができる。(Fe、Mn、Cu)Sとは、SとFe、MnおよびCuが結合した複合析出物を意味する。
【0045】
次に、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する。この過程で、{110}面が圧延面に平行であり、<001>方向が圧延方向に平行なGoss{110}<001>集合組織が形成される。この時、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板に焼鈍分離剤を塗布した後、2次再結晶焼鈍することができる。この時、焼鈍分離剤は特に制限せず、MgOを主成分として含む焼鈍分離剤を使用することができる。
【0046】
2次再結晶焼鈍は、適正な昇温率で昇温して{110}<001>Goss方位の2次再結晶を起こし、以後不純物除去過程である純化焼鈍を経た後、冷却する。その過程で、焼鈍雰囲気ガスは通常の場合のように、昇温過程では水素と窒素の混合ガスを使用して熱処理し、純化焼鈍では100%水素ガスを使用して長時間維持して不純物を除去する。本発明の一実施形態のように、AlN析出物を主な結晶粒成長抑制剤として用いず、(Fe、Mn、Cu)Sおよび(Fe、Mn、Cu)Se析出物を結晶粒成長抑制剤として用いる場合には、2次再結晶形成温度がAlN析出物を使用した場合より高くないため、950℃以上の温度のみで昇温して維持する高温焼鈍を実施しても磁性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は本発明の好ましい一実施形態に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0047】
重量%で、C:0.055%、Si:3.2%、P:0.03%、Cu:0.05%、Sn:0.04%、B:0.005%、Mo:0.1%、Cr:0.05%、N:0.003%を基本組成にしてMn、SおよびSeの含量を下記表1のように添加し、残部Feおよびその他の不可避不純物を含有するスラブを準備した。次いで、スラブを1250℃で加熱した後、熱間圧延して2.3mm厚さの熱延板を製造した。熱延板は、1085℃の温度で加熱した後、950℃で120秒間維持して熱延板焼鈍した。その後、焼鈍された熱延板を酸洗いした後0.30mm厚さで冷間圧延し、冷間圧延された鋼板は露点60℃、水素と窒素の混合ガス雰囲気中で830℃の温度で180秒間維持して脱炭と共に1次再結晶焼鈍した。この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布した後、2次再結晶焼鈍し、2次再結晶焼鈍は1200℃までは25v%窒素+75v%水素の混合ガス雰囲気で行い、1200℃到達後には100v%水素ガス雰囲気で20時間維持後に炉冷した。それぞれの成分による方向性電磁鋼板の磁気的特性は表1の通りである。
【0048】
Single sheet測定法を用いて1.7Tesla、50Hz条件で鉄損を測定し、800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)を測定した。 各鉄損値は、条件別平均を示したものである。
【0049】
発明材5の製造過程で2次再結晶直前のTEM析出物写真を図1に示す。図1での析出物の成分分析グラフを図2に示す。図2に示すように、Fe、Mn、Cuの合金元素がSおよびSeと反応したことが分かる。より詳しい分析のために、Fe、Mn、Cu、S、Se成分別にマッピングした結果を図3図7に示す。図面に示すように、全ての析出物にFe、Mn、Cu合金元素とSおよびSeが同時に観察され、添加された全ての合金成分が単独のSulfideあるいはSelenideを形成するのではなく、(Fe、Mn、Cu)S析出物あるいは(Fe、Mn、Cu)Se析出物として存在することが確認された。図8はこの析出物に対する格子回折パターンを撮った写真であって、MnSのようなCubicの結晶構造を有することが把握された。このような分析を総合してみる時、添加されたMnおよびCu合金元素は独立的なMnS、CuSあるいはMnSe、CuSeを形成するのではなく、Fe、Mn、Cuを全て含有する(Fe、Mn、Cu)S析出物または(Fe、Mn、Cu)Se析出物が形成されたことが確認される。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から確認できるように、SとSeを適正量含む場合、磁束密度と鉄損が全て優れた。同時に、熱延板のエッジクラック発生が20mm以下で良好であった。しかし、S及びSeの総含量が0.05重量%を超過する比較材5と6の場合にはエッジクラックが20mmを超過し、磁性も劣位になる傾向を示した。Mnの含量が0.08重量%を超過する場合には(Fe、Mn、Cu)Sおよび(Fe、Mn、Cu)Se析出よりは粗大なMnSとMnSe析出によって結晶粒成長抑制効果が落ちて、安定した2次再結晶が起こらず磁性が劣位であるのを確認することができる。
【実施例2】
【0052】
重量%で、C:0.050%、Si:3.2%、P:0.02%、Mn:0.05%、Sn:0.04%、B:0.003%、Mo:0.05%、Cr:0.04%、N:0.003%、S:0.020%、Se:0.025%を基本組成にしてCuの含量を下記表2のように添加し、残部Feおよびその他の不可避不純物を含有するスラブを準備した。
【0053】
次いで、スラブを1230℃で加熱した後、熱間圧延して2.0mm厚さの熱延板を製造した。熱延板は、1000℃の温度で加熱した後、120秒間維持して熱延板焼鈍した。その後、焼鈍された熱延板を酸洗いした後、0.23mm厚さで冷間圧延し、冷間圧延された鋼板は露点60℃、水素と窒素の混合ガス雰囲気中で820℃の温度で180秒間維持して脱炭と共に1次再結晶焼鈍した。この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布した後、2次再結晶焼鈍し、2次再結晶焼鈍は1150℃までは50v%窒素+50v%水素の混合ガス雰囲気で行い、1150℃到達後には100v%水素ガス雰囲気で20時間維持後に炉冷した。それぞれの成分による方向性電磁鋼板の磁気的特性は、下記表2の通りである。
【0054】
【表2】
【0055】
表2から確認できるように、Cu含量が過度に少なく添加された比較材8の場合には磁性が劣位であることが分かり、このような原因は結局Cuが少なく添加されることによって(Fe、Mn、Cu)S及び(Fe、Mn、Cu)Se析出物が微細に析出されない原因と判断される。逆に、Cu含量が過量添加された比較材9の場合には、(Fe、Mn、Cu)S及び(Fe、Mn、Cu)Se析出物よりは、Cuが大部分であるCuS及びCuSe析出物が主に粗大に形成されながら、磁性が劣位になったのを確認することができる。
【実施例3】
【0056】
重量%で、C:0.06%、Si:3.3%、Mn:0.05%、S:0.015%、Se:0.035%、P:0.02%、Cu:0.03%、Sn:0.06%、Cr:0.08%、N:0.004%を基本組成にして、BとMoの含量を下記表3のように添加し、残部Feおよびその他の不可避不純物を含有するスラブを準備した。次いで、スラブを1280℃で加熱した後、熱間圧延して2.0mm厚さの熱延板を製造した。この時、熱延板の両側面で観察されるエッジクラックの中で最大深さを測定した後、焼鈍するに適切な大きさに切断した。熱延板は、1100℃の温度で加熱した後、120秒間維持して熱延板焼鈍した。その後、焼鈍された熱延板を酸洗いした後、0.23mm厚さで冷間圧延し、冷間圧延された鋼板は露点60℃、水素と窒素の混合ガス雰囲気中で850℃の温度で180秒間維持して、脱炭と共に1次再結晶焼鈍した。この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布した後、2次再結晶焼鈍し、2次再結晶焼鈍は1200℃までは25v%窒素+75v%水素の混合ガス雰囲気で行い、1200℃到達後には100v%水素ガス雰囲気で15時間維持後、炉冷した。それぞれの成分による方向性電磁鋼板の磁気的特性は、下記表3の通りである。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示されているように、BまたはMoを適正量含んでいない比較材10~14は、熱延板エッジクラック発生深さが最大28mmであって、エッジクラックによる熱延板エッジ切捨量が増加して生産性が落ちる。特に、B含量が過量で添加された比較材14は、粗大なBN析出物を形成してGoss方位結晶粒の2次再結晶形成の阻害になって磁気特性が劣位になる。Moの場合にも過量で添加された比較材12は磁性が劣位と示され、これは熱延中にせん断集合組織が過度に発達することによってGoss方位の2次再結晶が不安定になったことが確認される。
【0059】
本発明は前記実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施できるということを理解することができるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8