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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】水素含有腹膜透析液の製造装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/28 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
A61M1/28 100
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020548020
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2019027050
(87)【国際公開番号】W WO2020059258
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018176942
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591201686
【氏名又は名称】株式会社日本トリム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 孝士
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161605(JP,A)
【文献】特開2017-158611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腹腔へ注入する透析液が収容された透析液バッグと、
前記透析液バッグと前記患者との間に設けられ、前記透析液に水素を溶解させる水素溶解装置とを備え、
前記水素溶解装置は、前記透析液バッグに接続され、前記透析液バッグから前記患者に供給される前記透析液の液量を測定する液量測定手段と、
前記液量測定手段に接続され、前記透析液に対する水素供給量を決定する水素供給量決定手段と、
前記水素供給量決定手段に接続され、前記透析液の液量に対応した水素供給量の目標値のデータを記憶する記憶手段と、
前記水素供給量決定手段に接続され、前記透析液に水素を供給する水素供給手段と
を備え、
前記水素供給量決定手段は、前記液量測定手段により測定された前記透析液の液量の値と、前記記憶手段に記憶された前記透析液の液量に対応した水素供給量の目標値とに基づいて、前記水素供給量を決定し、
前記水素供給手段は、前記水素供給量決定手段により決定された前記水素供給量に基づいて、前記水素を前記透析液に供給し、
前記液量測定手段は、前記透析液バッグに接続された重量測定手段と、前記重量測定手段に接続された液量算出手段とにより構成され、
前記重量測定手段は、前記透析液が収容された前記透析液バッグの重量をリアルタイムに測定し、
液量算出手段は、前記重量測定手段により測定された前記透析液バッグの重量の変化に基づいて、前記透析液バッグから前記患者に供給される前記透析液の液量を算出し、
前記水素供給量決定手段は、前記液量算出手段により算出された前記透析液の液量の値と、前記記憶手段に記憶された前記透析液の液量に対応した水素供給量の目標値とに基づいて、前記水素供給量を決定する
ことを特徴とする水素含有腹膜透析液の製造装置。
【請求項2】
前記液量算出手段は、前記透析液バッグから前記患者に供給される前記透析液の単位時間あたりの通液量を算出することを特徴とする請求項に記載の水素含有腹膜透析液の製造装置。
【請求項3】
前記重量測定手段が電子天秤であることを特徴とする請求項または請求項に記載の水素含有腹膜透析液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有腹膜透析液を製造するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腎機能が低下し、水分量の調節と尿素などの老廃物を含む体内有害物質の除去を行うための尿の排泄ができない腎不全患者のための有効な治療法の一つに、腹膜透析が知られている。
【0003】
この腹膜透析は、患者の腹腔の内部に透析液を注入することによって、患者の腹膜の毛細血管内に存在する老廃物や水分を除去する方法であり、体液(血液)よりも浸透圧の高い腹膜透析液を注入し、腹膜を介した体液と腹膜透析液との間の浸透圧の差を利用して、患者から老廃物や水分を除去する。
【0004】
また、近年、腹膜透析において透析患者に酸化ストレスが発生することが知られている。これは、透析時に発生する活性酸素が原因であると考えられており、この活性酸素を消去して酸化ストレスの軽減を図ることが提案されている。
【0005】
例えば、容器に封入された透析液に、水素分子を含有させることにより、高濃度の水素が溶存する透析液を製造する方法が提案されている。より具体的には、透析液が封入され、水素分子透過性を有する容器(透析液バッグ)に、当該容器の外側から水素分子を接触させる(容器を水素含有水に浸漬させる、または容器を水素ガスに接触させる)ことにより、容器を開封することなく、透析液に水素分子を含有させる方法が開示されている。そして、このような方法により、容器の開封に起因する透析液の品質低下という問題が回避できると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4486157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の腹膜透析液の製造方法においては、水素含有水に、透析液が封入された容器を浸漬した後、水素含有水から容器を取り出して透析を行う必要があるため、利便性が低下するという問題があった。
【0008】
また、水素含有水に、透析液が封入された容器を浸漬するため、容器の外表面に水素含有水が付着してしまう。その結果、透析液が封入された容器の外表面に雑菌等が繁殖し、腹膜透析を行う際に、透析液が汚染されるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、利便性と衛生面に優れる水素含有腹膜透析液の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の水素含有腹膜透析液の製造装置は、患者の腹腔へ注入する透析液が収容された透析液バッグと、透析液バッグと患者との間に設けられ、透析液に水素を溶解させる水素溶解装置とを備え、水素溶解装置は、透析液バッグに接続され、透析液バッグから患者に供給される透析液の液量を測定する液量測定手段と、液量測定手段に接続され、透析液に対する水素供給量を決定する水素供給量決定手段と、水素供給量決定手段に接続され、透析液の液量に対応した水素供給量の目標値のデータを記憶する記憶手段と、水素供給量決定手段に接続され、透析液に水素を供給する水素供給手段とを備え、水素供給量決定手段は、液量測定手段により測定された透析液の液量の値と、記憶手段に記憶された透析液の液量に対応した水素供給量の目標値とに基づいて、水素供給量を決定し、水素供給手段は、水素供給量決定手段により決定された水素供給量に基づいて、水素を透析液に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腹膜透析を行いながら所望の溶存水素濃度を有する腹膜透析液を得ることが可能になるため、腹膜透析の利便性を向上させることができる。また、衛生面に優れる水素含有腹膜透析液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る水素含有腹膜透析液の製造装置の構成を示す概念図である。
図2】本発明の実施形態に係る腹膜透析装置の構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る水素含有腹膜透析液の製造装置における水素溶解装置による溶存水素濃度の調整方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明の変形例に係る水素含有腹膜透析液の製造装置の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る水素含有腹膜透析液の製造装置の構成を示す概念図である。
【0014】
この水素含有腹膜透析液の製造装置1は、透析液27が収容された透析液バッグ4と、透析液バッグ4に接続されるとともに、透析液バッグ4より透析液27が供給される腹膜透析装置40と、透析液バッグ4と腹膜透析装置40との間に設けられ、透析液27に水素を溶解させる水素溶解装置6とを備えている。
【0015】
水素溶解装置6は、透析液バッグ4から腹膜透析装置40に供給される透析液27の液量(単位時間あたりの通液量)に対応した水素供給量を決定して、水素を透析液27に供給することにより、透析液27中の溶存水素濃度を所望の濃度に保つ構成としている。
【0016】
より具体的には、図1に示すように、本実施形態における水素溶解装置6は、透析液バッグ4に接続され、透析液バッグ4から腹膜透析装置40に供給される透析液27の液量を測定する液量測定手段10と、液量測定手段10に接続され、透析液27に対する水素供給量を決定する水素供給量決定手段11とを備えている。また、水素溶解装置6は、水素供給量決定手段11に接続され、透析液27の液量に対応した水素供給量の目標値のデータを記憶する記憶手段14と、水素供給量決定手段11に接続され、腹膜透析装置40に供給される透析液27に水素を供給する水素供給手段8とを備えている。
【0017】
液量測定手段10は、図1に示すように、透析液バッグ4に接続された重量測定手段12と、重量測定手段12及び水素供給量決定手段11に接続された液量算出手段13により構成されている。
【0018】
水素供給手段8としては、透析液27に対して、水素を供給できるものであれば、特に限定されない。例えば、水の電気分解を行う水素発生装置、水と反応して水素を発生する水素化マグネシウムなどの水素発生剤、及び水素ガスボンベ等を使用することができる。
【0019】
重量測定手段12は、透析液27が収容された透析液バッグ4の重量を測定するためのものであり、例えば、ロードセルに張り付けた歪ゲージの抵抗変化をアンプで増幅することにより、荷重(液量)を測定するロードセル式の電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名:シングルポイント型ロードセルLCB03)を使用することができる。
【0020】
そして、このような重量測定手段12を設けることにより、従来の液量センサーとは異なり、厳格な液質管理が要求される透析液27に接触することなく、液量を測定することができるため、透析液27を汚染することなく、液量を測定することができる。
【0021】
また、重量測定手段12として、電子天秤12を使用することにより、測定した透析液バッグ4の重量に関する信号を外部(即ち、液量算出手段13)に送信することが可能になる。
【0022】
液量算出手段13は、透析液バッグ4の重量変化に基づいて、透析液バッグ4から腹膜透析装置40に供給される透析液27の液量を算出するためのものである。
【0023】
腹膜透析装置40は、図2に示すように、透析装置本体41と、製造された透析液27が導入され、当該透析液27を透析装置本体41に供給する供給管42と、透析装置本体41及び患者50の腹腔に接続され、患者50に対して透析液27を供給する透析カテーテル43とを備えている。また、腹膜透析装置40は、使用されなかった透析液27を廃棄するための廃液処理タンク44と、透析装置本体41と廃液処理タンク44とを接続する接続管45とを備えている。
【0024】
そして、供給管42を介して、透析液27が透析装置本体41に供給され、透析装置本体41により、透析カテーテル43を介して、患者50の腹腔に透析液27を注入する注液処理、及び腹腔から透析液27を排出する排液処理が行われる。
【0025】
次に、水素溶解装置6による溶存水素濃度の調整方法について説明する。図3は、本実施形態に係る水素溶解装置による溶存水素濃度の調整方法を説明するためのフローチャートである。
【0026】
まず、液量測定手段10が、透析液バッグ4から腹膜透析装置40に供給される透析液27の液量を測定する。
【0027】
より具体的には、まず、腹膜透析中において、重量測定手段12により、透析液27が収容された透析液バッグ4の重量がリアルタイムに測定され(ステップS1)、重量測定手段12によりリアルタイムに測定された透析液バッグ4の重量のデータが、液量算出手段13に送信される(ステップS2)。
【0028】
次に、液量算出手段13は、入力された透析液バッグ4の重量変化に基づいて、透析液バッグ4から腹膜透析装置40に供給される透析液27の液量(単位時間あたりの通液量)を算出する(ステップS3)。
【0029】
より具体的には、透析液27の供給時間をT、透析液バッグ4の質量変化(即ち、透析液バッグ4から腹膜透析装置40に供給される透析液27の質量)をM、透析液27の密度をDとした場合に、液量算出手段13は、透析液27の通液量Wを下記の式(1)により算出する。
【0030】
[数1]
W=M/TD (1)
【0031】
次に、液量算出手段13により算出された透析液27の液量のデータが、水素供給量決定手段11に送信される(ステップS4)。
【0032】
次に、水素供給量決定手段11が、記憶手段14に記憶された、透析液27の液量に対応した水素供給量の目標値に関するデータを読み出す(ステップS5)。
【0033】
次に、水素供給量決定手段11は、液量測定手段10により測定された透析液27の液量の値と、記憶手段14に記憶された透析液27の液量に対応した水素供給量の目標値とに基づいて、水素供給量を決定する(ステップS6)。
【0034】
次に、水素供給量決定手段11は、水素供給手段8へ、決定した水素供給量に関する信号を送信する(ステップS7)。
【0035】
次に、水素供給手段8は、水素供給量決定手段11により決定された水素供給量に基づいて、水素を透析液27に供給する(ステップS8)。
【0036】
より具体的には、例えば、透析液27が供給される供給管(不図示)と、当該供給管が収容されるとともに、内部に水素が供給される筐体(不図示)とを備える水素供給手段8を使用する。そして、供給管の内側に透析液27が供給された状態で、筐体の内部であって供給管の外側に水素を供給することにより、透析液27に水素を供給することができる。
【0037】
そして、図1に示すように、水素が供給された透析液27が、腹膜透析装置40へ供給されるとともに、供給された透析液27が腹膜透析装置40から患者50へ供給され、患者50の血液の浄化が行われる。
【0038】
以上のように、本実施形態においては、水素供給量決定手段11が、液量測定手段10により測定された透析液27の液量の値と、記憶手段14に記憶された透析液27の液量に対応した水素供給量の目標値とに基づいて、水素供給量を決定する構成としている。また、水素供給手段8は、水素供給量決定手段11により決定された水素供給量に基づいて、水素を透析液27に供給する構成としている。
【0039】
従って、腹膜透析を行いながら所望の溶存水素濃度を有する透析液27を得ることが可能になるため、腹膜透析の利便性を向上させることができる。また、衛生面に優れた透析液27を得ることができる。
【0040】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
【0041】
上記実施形態においては、腹膜透析装置40から患者50へ透析液27を供給する構成としたが、図4に示すように、腹膜透析装置40を使用せず、透析液バッグ4を患者50に設けられた管(カテーテル)に接続し、透析液バッグ4に収容された透析液27を、直接、患者50の腹腔へ注入する構成としてもよい。このような構成においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
なお、この場合、液量算出手段13は、重量測定手段12により測定された透析液バッグ4の重量の変化に基づいて、透析液バッグ4から患者50に供給される透析液27の液量を算出(即ち、透析液バッグ4から患者50に供給される透析液27の単位時間あたりの通液量を算出)することになる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明は、水素含有腹膜透析液の製造装置に、特に、有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 水素含有腹膜透析液の製造装置
4 透析液バッグ
6 水素溶解装置
8 水素供給手段
10 液量測定手段
11 水素供給量決定手段
12 重量測定手段
13 液量算出手段
14 記憶手段
27 透析液
40 腹膜透析装置
50 患者
図1
図2
図3
図4