(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-08
(45)【発行日】2022-03-16
(54)【発明の名称】エネルギー変換素子およびこれを用いた温度調節装置
(51)【国際特許分類】
F25B 21/00 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
F25B21/00 A
(21)【出願番号】P 2021097168
(22)【出願日】2021-06-10
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2021006491
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】719001749
【氏名又は名称】香取 健二
(72)【発明者】
【氏名】香取 健二
【審査官】西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169806(JP,A)
【文献】特開2020-174516(JP,A)
【文献】特許第2569059(JP,B2)
【文献】特開2008-249175(JP,A)
【文献】特公昭63-26312(JP,B2)
【文献】特許第5060602(JP,B2)
【文献】特許第5656180(JP,B1)
【文献】特許第4557874(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転あるいは往復運動をする磁気作業物質と、前記磁気作業物質に磁場を印加するための永久磁石を含む磁場印加部との間に液体をまたは微粒子が分散された液体をまたは磁性流体を充填し、永久磁石による磁場印加により発熱した熱量を磁場印加部に熱伝導することで高温側の熱の出力を磁場印加部を通して行うエネルギー変換素子において、一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した2種の温度領域を有する磁気作業物質を運転中同一印加磁場中に配したことを特徴とするエネルギー変換素子。
【請求項2】
回転あるいは往復運動をする磁気作業物質と、前記磁気作業物質に磁場を印加するための永久磁石を含む磁場印加部との間に液体をまたは微粒子が分散された液体をまたは磁性流体を充填し、永久磁石による磁場印加により発熱した熱量を磁場印加部に熱伝導することで高温側の熱の出力を磁場印加部を通して行うエネルギー変換素子において、同一円盤内あるいは円筒内あるいは円錐内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有する磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子。
【請求項3】
回転する円筒を構成する材料に強磁性体を用いて、磁気作業物質を発熱させるために印加する磁石による磁気回路の一部とすることを特徴とする請求項2記載のエネルギー変換素子。
【請求項4】
回転あるいは往復運動をする磁気作業物質と、前記磁気作業物質に磁場を印加するための永久磁石を含む磁場印加部との間に液体をまたは微粒子が分散された液体をまたは磁性流体を充填し、永久磁石による磁場印加により発熱した熱量を磁場印加部に熱伝導することで高温側の熱の出力を磁場印加部を通して行うエネルギー変換素子において、断熱材により構成された円盤あるいは円筒あるいは円錐状の基盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有する磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子。
【請求項5】
〈請求項1-4〉記載の複数のエネルギー変換素子をそれぞれ、低温部分と別個体の高温部分を直接あるいは伝熱性材料により熱的に接続し熱的直列接続とし、かつ素子の積層接合部分にも熱交換器を設置することで、生成する温度差幅を増加させかつ複数の温度域の出力が可能であることを特徴とするエネルギー変換素子集合体。
【請求項6】
〈請求項5〉記載のエネルギー変換素子集合体による複数の温度出力を用いることを特徴とする複数温度管理温度調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運動エネルギーから温度差エネルギーへ変換するエネルギー変換素子構造及び構成材料及びこれを用いた温度調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室温よりも低い低温を生み出す手法として、気体の冷媒を圧縮しこれを蒸発させる際に低温を生じさせる蒸気圧縮冷凍機が知られており冷蔵庫、エアコン等に広く普及している。また冷媒を気化させる手法として、吸収力の高い液体に別の冷媒を吸収させる際に生じる低圧を用いる吸収式冷凍機も知られている。
さらに、電気エネルギーから直接的に温度差エネルギーを生じさせるペルチェ素子も開発され実用化されている。
また、磁場を印加すると発熱し、磁場を除去すると吸熱する磁気作業物質を用いた磁気冷凍機が研究開発されている。これまで研究開発されてきた磁気冷凍方式とは、磁性体の磁気熱量効果を熱交換流体によって伝搬し、所定の冷凍サイクルを駆動することによって冷凍温度幅や冷凍能力を得る方法である。これは一般的にAMR(Active Magnetic Regenerator)冷凍法と呼ばれ、室温付近での磁気冷凍において有効な手法であると認識されている(特許5060602参照)。
【0003】
本発明者は特願2020-041197において、回転する磁気作業物質を用いて運動エネルギーから温度差エネルギーへ変換する素子を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5060602
【文献】特願2020-041197
【非特許文献】
【0005】
【文献】フロンレスを実現する磁気冷凍技術ー東芝、東芝レビュー62巻9号(2007年9月),https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2007/09/62_09pdf/rd01.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記冷却手法はいずれも電気エネルギー、運動エネルギー等を温度差のエネルギーに変換し低温部分と高温部分を生じさせる手法である。電気エネルギーから温度差エネルギーへの変換に関してはペルチェ素子によりシンプルに変換可能であるが、運動エネルギーから温度差のエネルギーに関しては複雑な構造が必要とされる。すなわち騒音振動を伴うガスの圧縮、気化、あるいは磁気冷凍においては磁場の印加と同期して冷媒の移動を行うAMR装置が必要となっていた。AMR装置においては磁場の印加に同期した冷媒調整等騒音振動を伴う複雑な機構が必要とされる。
【0007】
本発明者が開発した手法(特願2020-041197)は運動エネルギーから温度差エネルギーへ変換する手法において、磁気冷凍AMR等のような弁の開閉を含む複雑な動作を伴うことなく直接にエネルギー変換を行い、素子に運動エネルギーを入力することで騒音振動を伴うことなく直接的に温度差エネルギーを出力させる。この手法をより発展させることが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述目的を達成するために、第1の開示は、回転あるいは往復運動をする磁気作業物質と、前記磁気作業物質に磁場を印加するための永久磁石を含む磁場印加部との間に液体をまたは微粒子が分散された液体をまたは磁性流体を充填し、永久磁石による磁場印加により発熱した熱量を磁場印加部に熱伝導することで高温側の熱の出力を磁場印加部を通して行うエネルギー変換素子において、運転中一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した2種の温度領域を有する磁気作業物質を運転中同一印加磁場中に配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造である。
【0009】
第2の開示は、回転あるいは往復運動をする磁気作業物質と、前記磁気作業物質に磁場を印加するための永久磁石を含む磁場印加部との間に液体をまたは微粒子が分散された液体をまたは磁性流体を充填し、永久磁石による磁場印加により発熱した熱量を磁場印加部に熱伝導することで高温側の熱の出力を磁場印加部を通して行うエネルギー変換素子において、同一円盤内あるいは円筒内あるいは円錐内に運転中一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有する磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造である。
【0010】
第3の開示は、第2の開示のエネルギー変換素子において、回転する円筒を構成する材料に強磁性体を用いて、磁気作業物質を発熱させるために印加する磁石による磁気回路の一部とすることを特徴とするエネルギー変換素子の構造である。
【0011】
第4の開示は、回転あるいは往復運動をする磁気作業物質と、前記磁気作業物質に磁場を印加するための永久磁石を含む磁場印加部との間に液体をまたは微粒子が分散された液体をまたは磁性流体を充填し、永久磁石による磁場印加により発熱した熱量を磁場印加部に熱伝導することで高温側の熱の出力を磁場印加部を通して行うエネルギー変換素子において、表面が断熱材により構成された円盤あるいは円筒あるいは円錐状の基盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有する磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造である。
【0012】
第5の開示は、第1-4の開示の複数のエネルギー変換素子をそれぞれ、低温部分と別個体の高温部分を直接あるいは伝熱性材料により熱的に接続し直列接続とし、かつ素子の積層接合部分にも熱交換器を設置することで、加熱、冷却の温度幅を増加させかつ複数の温度域の出力が可能であることを特徴とするエネルギー変換素子集合体の構造である。
【0013】
第6の開示は前記エネルギー変換素子集合体の複数の温度域出力を冷却部あるいは加熱部に用いて、複数の温度域の温度調節を同時に行うことを特徴とする温度調節装置の構成である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、騒音振動を伴うことなく複雑な弁の開閉無しに単純に運動エネルギーを温度差エネルギーへ変換する手法において、さらに簡便に動作温度を拡大できる。また前記エネルギー変換素子を用いてより簡便に複数の温度域を提供可能な加熱あるいは冷却装置を得ることができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果またはそれらとは異質な効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の第1の同一印加磁場中に低熱伝導率材料を中間として磁気作業物質を両面に配した構造とする例の実施形態に係るエネルギー変換素子の構成を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と伝熱リングを介して熱的に接続される。
【
図2】本開示の第1の同一印加磁場中に低熱伝導率材料を中間として磁気作業物質を両面に配した構造とし、さらに素子低温部分と別個体の高温部分を熱的に接続し直列接続とすることで、加熱、冷却の温度幅を増加させる例の実施形態に係るエネルギー変換素子の構成を示す断面図である。
【
図3】本開示の第1の同一印加磁場中に低熱伝導率材料を中間として磁気作業物質を両面に配し、かつ温度差出力端子を同一磁気作業物質上に複数対設置した例の実施形態に係るエネルギー変換素子の構成を示す集熱版をはずした上面図である。温度差出力端子は伝熱リングに熱的に接続される。
【
図4】本開示の第2の同一円盤内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と伝熱リングを介して熱的に接続される。
【
図5】本開示の第2の同一円盤内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配し、さらに素子低温部分と別個体の高温部分を熱的に接続し直列接続とすることで、加熱、冷却の温度幅を増加させる例の実施形態に係るエネルギー変換素子の構成を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と伝熱リングを介して熱的に接続される。
【
図6】本開示の第2の素子構造において円盤状の磁気作業物質を分割し、リング状とした複数の磁気作業物質を断熱材を挟んで配置した円盤の上面図である。
【
図7】本開示の第2の同一円盤内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と磁気ヨークを介して熱的に接続される。
【
図8】本開示の第2の同一円盤内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造を示す上面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と磁気ヨークを介して熱的に接続される。
【
図9】本開示の第4の断熱材により構成された円盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の断面図である。
【
図10】本開示の第4の断熱材により構成された円盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の上面図である
【
図11】本開示の第4,5の断熱材により構成された円盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配した素子をさらに積層化して、かつ素子の積層接合部分にも熱交換器を設置した積層素子の断面図である。
【
図12】本開示の第4の断熱材により構成された円盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の断面図である
【
図13】本開示の第4の断熱材により構成された円盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の上面図である
【
図14】本開示の第1-5の低温出力端子での磁石配置の例の断面図である。
【
図15】回転する円盤状磁気作業物質を用いた場合のエネルギー変換素子の構成を示す断面図である。
【
図16】本開示の第1の同一印加磁場中に低熱伝導率材料を中間として磁気作業物質を両面に配した構造とする例の実施形態に係るエネルギー変換素子の構成を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と伝熱リングを介して熱的に接続される。
【
図17】本開示の第1の同一印加磁場中に低熱伝導率材料を中間として磁気作業物質を両面に配した構造とする例の実施形態に係るエネルギー変換素子の構成を示す上面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と伝熱リングを介して熱的に接続される。
【
図18】本開示の第2の同一円盤内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と伝熱リングを介して熱的に接続される。
【
図19】本開示の第2の同一円盤内に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の構造を示す断面図である。一方の磁気作業物質の低温部がもう一方の磁気作業物質の高温部と磁気ヨークを介して熱的に接続される。
【
図20】本開示の第4の断熱材により構成された円盤の両面に一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように直列接続した複数の異なる温度領域を有するリング状磁気作業物質を配したことを特徴とするエネルギー変換素子の断面図である。
【
図21】本開示の第3の回転する円筒を構成する材料に強磁性体を用いて、磁気作業物質を発熱させるために印加する磁石による磁気回路の一部とすることを特徴とするエネルギー変換素子の断面図である。破線より左は最上段及び最下段に低温出力を、破線より右は最上段及び最下段に高温出力を設置した場合のそれぞれ断面である。
【
図22】本開示の第3の回転する円筒を構成する材料に強磁性体を用いて、磁気作業物質を発熱させるために印加する磁石による磁気回路の一部とすることを特徴とするエネルギー変換素子の上面永久磁石部分の断面図である。
【
図23】本開示の第3,5の回転する円筒を構成する材料に強磁性体を用いて、磁気作業物質を発熱させるために印加する磁石による磁気回路の一部とすることを特徴とするエネルギー変換素子積層集合体の断面図である。破線より左は最上段及び最下段に低温出力を、破線より右は最上段及び最下段に高温出力を設置した場合のそれぞれ断面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
1 第1の実施形態
2 第2の実施形態
3 第3の実施形態
4 第4の実施形態
5 第5の実施形態
6 第6の実施形態
【0017】
<1 第1の実施形態>
「磁気作業物質」
従来磁気冷凍技術として研究開発されているAMR装置においては、粒子状の磁気作業物質を用いてこの間隙に冷媒を往復させているが、本開示においては回転する軸に取り付けられた円盤状あるいは円筒状あるいは円錐状の磁気作業物質を用いる。回転軸により回転する磁気作業物質を挟み込むようにして、磁気作業物質を発熱させる強力な磁場を有する高温出力端子と、磁場を印加しないかあるいは磁気作業物質を発熱させない弱い磁場を有する低温出力端子を設置する。
磁気作業物質にはGd(ガドリニウム)系合金、Mn(マンガン)系合金、La(ランタン)系合金、ホウ素化合物等を用いることができる。
回転する磁気作業物質において磁場を通過する部分は温度差を生み出す原動力になるが、磁気作業物質を発熱させる磁場を通過しない部分においては熱拡散により温度差減少の原因となる。ここで、磁気作業物質を発熱させる磁場を通過しない部分の感温磁性体を断熱材に置き換えることにより温度差発現に関与しない熱拡散を減少させることができる(
図15)。
【0018】
「高温出力端子」
回転軸に取り付けられ、回転する磁気作業物質を挟み込む形で磁気作業物質を発熱させるのに必要な永久磁石を含む磁場印加部を設置して磁場を印加する。磁気作業物質と磁場印加部との間に液体または微粒子が分散された液体を導入する(
図16)。前記液体または微粒子が分散された液体には磁性流体を使用することができる。磁気作業物質が回転しても磁性流体は磁場に引き寄せられ磁場印加部に留まる。ここで磁場印加により磁気作業物質の磁化方向が揃うため磁気作業物質が発熱する。この発熱は液体または微粒子が分散された液体を通して磁場印加部へ熱伝導され、磁場印加部自体が高温出力端子となり、磁場印加部から高温熱量を取り出すことができる(
図15)。
【0019】
「低温出力端子」
強力な磁場から出た磁気作業物質は磁化の方向がランダムになることから冷却される。この際の低温状態を外部に熱伝達するため、低温出力端子を設置する。低温出力端子は磁場を印加しないか、あるいは磁気作業物質を発熱させない弱い磁場を磁気作業物質を挟むギャップ間に有する。磁気作業物質と低温出力端子は液体または微粒子が分散された液体により熱伝導される(
図16)。回転軸に取り付けられ、回転する円盤状の磁気作業物質を挟み込む形で0.03T程度の弱い磁場となるように永久磁石を設置する。磁気作業物質と弱い磁石との間に磁性流体を導入する。磁気作業物質が回転しても磁性流体は磁場に引き寄せられ磁石部分に留まる。磁性流体に用いられるマグネタイト磁性紛は0.03T程度であっても強力に磁石に吸い寄せられ、磁気作業物質が回転しても磁石部分にとどまる。一方0.03T程度の磁場では磁気作業物質の磁化方向は十分には揃わず、磁気作業物質に十分な発熱は生じることなく低温状態が保持される。この低温度は磁性流体を通して磁石へ伝導され、磁石部分自体が低温出力端子となり、磁石部分を通して他の物質を冷却することができる。
高温出力端子と低温出力端子にそれぞれ充填された磁性流体はそれぞれの磁石により引き付けられお互いに交じり合うことなくそれぞれ高温状態と低温状態を維持できる(
図15)。
高温出力端子と低温出力端子の間に低熱伝導材を設置することで、より積極的にそれぞれの磁性流体が交わることを防止しても良い。
これまで磁気作業物質の回転の例を示したが、高温出力端子と低温出力端子の間の往復運動としてもよい。
【0020】
低温出力端子での磁性流体の保持をより強固にするため、低温出力端子内部により強力な永久磁石を設置しても良い(
図14)。この場合、磁性流体には強力な磁場が印加できるように配置するが、磁気作業物質には発熱させる磁場を印加しない配置とする必要がある。
【0021】
「複数対熱出力端子」
温度差出力端子を同一磁気作業物質上に複数ペア設置することができる(
図3,8,10,13,17,22)。温度差出力端子を同一磁気作業物質上に複数ペア設置することにより、より少ない回転数で、磁気作業物質は高磁場、低磁場を繰り返すことになり、磁気作業物質一回転あたりの発生する温度差熱量が増加することになる。
低温出力端子、および高温出力端子は、それぞれ磁気作業物質の形状に沿った扇形、円弧、円筒状にしても良い。
【0022】
「同一磁場内2種温度領域磁気作業物質」
温度差の拡大を図るためには、前記素子を積層化する。広範囲な温度差を得るためには積層の段数を増加する必要がある。しかし各磁気作業物質に対して磁場印加装置が必要になるため、温度差を拡大する場合には必要な磁場印加装置も多くなる。
ここで低熱伝導率材料を中間として磁気作業物質を両面に配した構造とする円盤を同一磁場内に配置し、さらにこれに磁場を印加する高温、低温各熱出力端子において、N極、S極両端子の間に低熱伝導率材料を配置することにより、同一磁場中において独立した温度の磁気作業物質を配置することができる。これにより単一の印加磁場において2段の積層に相当する温度差を生じさせることが可能となる(
図1,16)。
磁気作業物質はこれまで図15に示す様に円盤状であり、磁場印加装置の中を回転するように配置していたが、今回は図1に示す様に断熱性円盤状基盤を磁場印加装置の中を回転するように配置し、その上下両面に円盤状磁気作業物質を配置する。上下の磁気作業物質は断熱材により熱的には分断され、それぞれ上下の熱出力部分と磁性流体により熱的に接合される。
ここでは各磁気作業物質で生じた温度差を直列接続とするために、伝熱リングを外周に設置する。伝熱リングは図3に示す様に最外周に設置され、高温出力部分、低温出力部分と伝熱材あるいは断熱材とで接合される。図1において右側は高温出力部分、左側は低温出力部分であるが、それぞれ断熱材11を挟んで上下で温度を分割している。断熱材円盤上下に磁気作業物質を配して、それそれ上下の熱出力部分と熱接続して、上下で独立した温度域で動作可能となる。右側上段の高温出力部分は伝熱性材料10を介して外周の伝熱リング16に熱接続している。また伝熱リング16は左側の低温出力部分とも伝熱性材料10を介して熱接続しており、結果的に右側上段の高温出力部分と左側下段の低温出力部分が熱接続される。このことで左側上段の低温出力端子が最低温となり、右側上段の高温出力部分と左側下段の低温出力部分が同温度、右側下段の高温出力端子が最高温となる。一方の磁気作業物質の低温部分ともう一方の磁気作業物質の高温部分が伝熱リングを介して同温度となることで、一組の印加磁場に対して、得られる温度差は約2倍とすることができる。特願2020-041197においてもエネルギー変換素子の直列接続により温度差を拡大する例が示されているが、特願2020-041197では同一円盤、同一磁場中においては低温、高温状態を繰り返す1種の温度域の磁気作業物質が設置される。本発明においては同一磁場、同一円盤において低温、高温状態を繰り返す2種の温度域の磁気作業物質が設置され、温度差の拡大を可能としたことが特徴である。
温度差出力端子を同一磁気作業物質ペアに対して複数ペア設置することができる(
図3,17)。温度差出力端子を同一磁気作業物質ペアに複数ペア設置することにより、より少ない回転数で、磁気作業物質は高磁場、低磁場を繰り返すことになり、磁気作業物質一回転あたりの発生する温度差熱量が増加することになる。
ここでそれぞれの磁場中には異なる2種の温度領域を有する磁気作業物質が存在する。この各温度差出力端子を前記伝熱リングに熱的に接続することで、温度差出力端子を複数ペア用いた場合でも温度差の拡大が可能となる。図3の場合には上面図のためそれぞれ上段の高温出力端子及び上段の低温出力端子が示されているが、ここでは上段の高温出力端子7は伝熱材料10を介して伝熱リング16に接続され、上段の低温出力端子8は断熱材11を介して伝熱リング16に接続している。このため、伝熱リング16は上段の高温出力端子7と同程度の温度となる。図3では示されないが、伝熱リング16は下段の低温出力端子8と伝熱材料10を介して熱接続される。
磁気作業物質と印加する磁石の間には引力が発生する。円盤の強度を増強するために円盤を金属製として、その表面を断熱材としても良い。
ここでは円盤状の例を示したが、円盤状の代わりに円錐状、円筒状としても良い。
【0023】
<2 第2の実施形態>
前記1では円盤型断熱材の両面に磁気作業物質を配することで、動作温度の拡大を狙ったが、円盤の面内で磁気作業物質をリング状とし、分割することで同一円盤上で動作温度を拡大することができる(
図4,18)。円盤状の磁気作業物質を分割し、断熱材11を挟んだリング状とする(
図6)。
図4において磁気ヨークにも断熱材11を配して、同一円盤面内で独立温度作動が可能とする。さらに伝熱リングを介して一方の磁気作業物質の低温状態ともう一方の磁気作業物質の高温状態とを熱的に接続することにより、同一円盤面内で作動温度を拡張することが出来る。
図4において、左側は低温出力、右側は強磁場による高温出力部分であるが、それぞれ磁気ヨーク中に断熱材11を介して熱的に3分割し、さらにこれらに熱接続する磁気作業物質も断熱材11を介して熱的に3分割し3種類の温度で独立に動作可能としている。
伝熱リングは前記第1の実施形態で示した様に、各熱出力部を熱的に接合する補助リングであるが、第2の実施形態においては最外周では無く図10内周に示す様に高温出力部分、低温出力部分の磁気ヨーク断熱材上下に設置する。
ここで最外周右側の高温出力部分は伝熱材10を通して外周伝熱リング16と熱接続している。外周伝熱リング16は同時に左側低温出力部分の中間部分にも伝熱材10を通して熱接続しており、外周の高温出力と中間部分の低温出力が結果的に熱接続される。さらに右側中間部分の高温出力部分は伝熱材10を通して内周伝熱リング16と熱接続しており、同様にして左側内周の低温出力部分に熱接続される。結果的に外周、中間、内周の3領域が熱的に直列接続され、外周が最高温、内周が最低温となる。一枚の円盤上で動作温度を拡大するとこが出来る。
ここでは3分割の例を示したが、必要に応じて分割数を調整することができる。内周側の磁気作業物質リングが外周側に比較して相対速度が遅くなるが、リング幅を調整することにより、発生する熱量を均一化することができる。
ここでは円盤状の例を示したが、円盤状の代わりに円錐状、円筒状としても良い。
【0024】
前記温度拡張例においては異なる磁気作業物質の熱的な接合において、伝熱リングを用いる手法を述べた。伝熱リングを用いないでも同一磁気ヨーク内で印加磁場の大小を調節することにより、磁気作業物質の熱的な接合が可能である(
図7,19)。ここでは同一磁気ヨーク内で、印加磁石を設置する箇所と設置しない箇所を配する。
さらに磁気ヨーク内に断熱材を配して、磁気ヨーク内で独立した温度での稼働ができるようにする。印加磁石を設置する箇所では磁気作業物質の発熱が生じ、高温出力となるが、印加磁石を設置しない箇所では磁気作業物質の発熱が生じないため、低温出力となる。これら印加磁石を設置する箇所と設置しない箇所を交互に配し、かつ磁気ヨークに断熱材を適切に配置することにより、一方の磁気作業物質の低温状態ともう一方の磁気作業物質の高温状態とを熱的に接続することができる。
図7においては内周の磁気作業物質の左側低温出力が中間の磁気作業物質の高温出力と磁気ヨークを通して熱接続され、さらに中間の磁気作業物質の右側低温出力が外周の磁気作業物質の高温出力と磁気ヨークを通して熱接続される。
これにより内周の磁気作業物質が最高温となり、外周の磁気作業物質が最低温となる。内周に高温出力端子7を、外周に低温出力端子8を設置する。この様にして同一円盤内で3段の温度差拡大が可能になる。強力な磁場により引き寄せられた磁性流体は磁気作業物質が回転しても高温出力側に留まり、液体の拡散による熱拡散を防止する。
【0025】
<3 第3の実施形態>
前記第2の実施形態においては円盤状の例を示した。磁気作業物質と磁場印加用磁石の間には引力が働くので、円盤の強度を確保する必要がある。ここではより機械的強度が確保出来る円筒型の例を示す。円筒状の断熱材の周囲にリング状の磁気作業物質を設置しこの周囲から永久磁石により磁場を印加することで磁気作業物質を発熱させる(
図21,22)。円筒の外周、磁気作業物質が接する部分は断熱材として発熱した磁気作業物質の熱を保持するため断熱材とする。一方効率良く磁場を印加するためにヨークを設置する必要があり、このヨークを回転する円筒内に設置することが出来る。円筒内断熱材の内側に強磁性体、望ましくは鉄系材料を設置することにより回転する円筒が同時に磁気回路の一部となり、磁気抵抗を減少させる。円筒周辺には磁場印加装置を含んだ高温出力端子と低温出力端子を交互に配置する。高温出力端子の印加磁場に
おいては、高温出力端子間で同一のN-S方向にはしないで、低温出力端子を介して隣の高温出力端子との間で磁場の極性を変えることにより、回転する円筒内に設置する磁気ヨークを含め効率的な磁気回路を構築出来る。
図21,22では円筒回転面内での磁気回路形成を示したが、円筒内に4段以上の温度域を有する磁気作業物質を設置した場合には円筒垂直方向で複数の高温出力端子となるため、円筒垂直方向の磁気回路も形成することが出来る。この際も円筒内部の磁気ヨークが磁気回路の一部となる。
【0026】
図21、22において同一円筒上に3分割された磁気作業物質とそれぞれ対応する2対の熱出力部分を配する。図21上段右側では強力な印加磁石3によって磁気作業物質1が高温状態となり、この熱は磁性流体2によって永久磁石3及び磁気ヨーク4に伝導される。上段右側の磁気ヨーク4は伝熱材10によって中間層の磁気作業物質1の磁場を印加していない冷間状態に熱接続される。一方中間層の磁気作業物質1の左側磁場を印加した高温状態は同様にして、下段の左側磁気作業物質1の磁場を印加しない低温状態に熱接続される。このようにして上段から中間層、下段と直列に熱接続され、下段の磁気作業物質が最高温、上段の磁気作業物質が最低温となる。
【0027】
図21,22では円筒状の磁気作業物質を示したが、磁気作業物質と熱出力端子間の熱伝導を増加させるため、より表面積が大きい、円錐型あるいは山型としても良い。
【0028】
<4 第4の実施形態>
前記1,2を組み合わせることでさらなる動作温度拡大を図ることができる。断熱材からなる円盤の両側にリング状の磁気作業物質を複数配置して、これら磁気作業物質を熱的に直列に接続することで、動作温度をより拡張することができる(
図9)。この場合でも円盤面内の磁気作業物質の熱的な接続においては前記同様の手法がある。伝熱リングを用いて同一磁気ヨーク内では同一の印加磁場を配置する手法(
図9,10)と、同一磁気ヨーク内で磁場の強弱により高温出力端子と低温出力端子を配置して磁気作業物質を熱的に直列に接続する手法(図
12,13)を選択することができる。
これらの手法は要求される冷却装置等の温度差、熱量、重量、体積等の必要な特性に応じて最適な手法を選択することが出来る。
この際、各素子内に用いる磁気作業物質は同一である必要は無い。最適動作温度の異なる磁気作業物質を各素子内の動作温度に従い配置し、より温度差の拡大を図ることができる。
磁気作業物質と印加する磁石の間には引力が発生する。円盤の強度を増強するために円盤を金属製として、その表面を断熱材としても良い。
ここでは円盤状の例を示したが、円盤状の代わりに円錐状、円筒状としても良い。
【0029】
<5 第5の実施形態>
「積層」
前記エネルギー変換素子を直列に接続することで温度差を拡大することができる。別個体の素子の低温出力端子と高温出力端子とを熱伝導性良く接続することにより前記低温出力端子と高温出力端子は同じ温度となる。このため接続されなかった側の出力端子間では温度差がさらに拡大する(
図2,5,11,23)。ここでは2段接続の例を示したが、所望の温度差を得るために必要に応じて同様に積層数を増すことができる。この際、積層された各素子に用いる磁気作業物質は同一である必要は無い。最適動作温度の異なる磁気作業物質を各素子の動作温度に従い配置し、より温度差の拡大を図ることができる。
【0030】
「複数温度域出力」
素子を積層する際、接合部分にも熱交換器を設置することができる(
図11,23)。これにより複数の温度の出力が可能となる。各温度域の熱交換器へ導入する熱媒体の量を調整することにより、各温度領域における出力熱量を独立に調整することができる。
【0031】
<6 第6の実施形態>
前記同一磁場内、同一円盤内でそれぞれ温度差的に直列接続され、さらにこれら素子を直列接続として動作温度差を広げるとエアコン、冷蔵庫等の用途にも用いることが出来る。回転運動エネルギーを直接温度差エネルギーへ変換可能であり、変換エネルギーロスも少ないため、エネルギーロスが少ない必要がある電気自動車の冷房、暖房に用いることが出来る。さらに前記5で述べたように積層素子の結合部分から容易に複数の温度領域の熱出力が可能であるため、冷却と加熱、冷凍と冷蔵等の複数熱出力温度調節装置も容易に可能となる。低騒音であるため、ホテル室内冷凍冷蔵庫等にも利用できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
本実施例について以下の順序で説明する。
i 同一磁場中複合素子
ii 同一円盤複合素子
iii 同一円筒複合素子
iv 断熱円盤両面複合素子
v 複数熱交換器設置積層素子
vi 複数温度管理温度調節装置
【0034】
〈i 同一磁場中複合素子での実施例〉
実施例1
径5mm、長さ50mmのステンレス製軸を用意した。
円盤状ポリカーボネート厚さ1.5mm、直径40mmの上下周辺部分20mmの部分に磁気作業物質Gd(ガドリニウム)厚さ0.8mmを接着した。この円盤の中心を前記ステンレス製軸に固定した。軸回転により磁気作業物質も回転する。
磁気作業物質に磁場を印加するため、円盤状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石にはNdFeB系マグネットを用いてギャップ間隔は5.5mmとした。ギャップ間の磁束は0.9Tとした。ヨークの上下で独立した温度が保たれるために、ヨークの中間には断熱材を設置した。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体を充填し、高温出力端子とした(
図1)。
【0035】
高温出力端子の円周反対側に低温出力端子を設置するため、円盤状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石にはSr-Ferrite系マグネットを用いてギャップ間隔は5.5mmとした。ギャップ間の磁束は0.03Tとした。ヨークの上下で独立した温度が保たれるために、ヨークの中間には断熱材を設置した。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体にを充填し、低温出力端子とした(図1)。
【0036】
上下各磁気作業物質で生じた温度差を直列接続とするために、伝熱リングを外周に設置した。一方の磁気作業物質の低温部分ともう一方の磁気作業物質の高温部分が伝熱リングを介して熱的に接続され近い温度となる。
【0037】
室温及び素子初期温度を23.0℃とし、軸を5rpmで回転させ、5分後にエネルギー変換素子の両端の高温出力端子、低温出力端子の温度を測定した。ここで両端の高温出力端子、低温出力端子の温度はそれぞれ24.8℃、21.2℃であった。一対の印加磁場で2段相当の温度差が得られる。
【0038】
比較例1
径5mm、長さ50mmのステンレス製軸を用意した。
円盤状磁気作業物質Gd(ガドリニウム)厚さ1.5mm、直径40mmの中央部分、直径20mmの部分をGd(ガドリニウム)からポリカーボネートに置き換えた円盤の中心を前記ステンレス製軸に固定した。軸回転により円盤状磁気作業物質も回転する。Gd(ガドリニウム)の熱伝導率は約10.6W/mK(300K)であるのに対して、ポリカーボネートの熱伝導率は約0.19W/mK(300K)と大幅に低い。磁場を通過しない部分の熱伝導が低下した(
図15)。
【0039】
磁気作業物質に磁場を印加するため、円盤状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石にはNdFeB系マグネットを用いてギャップ間隔は4.0mmとした。ギャップ間の磁束は0.9Tとした。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体を充填し、高温出力端子とした
【0040】
高温出力端子の円周反対側に低温出力端子を設置するため、円盤状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石にはSr-Ferrite系マグネットを用いてギャップ間隔は4.0mmとした。ギャップ間の磁束は0.03Tとした。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体にを充填し、低温出力端子とした(図15)。
【0041】
室温及び素子構成材料はすべて初期は23.0℃とした。軸の回転により軸に固定された円盤状の磁気作業物質を回転させた。回転数は5rpmとした。磁気作業物質の回転によっても磁性流体はそれぞれ高温出力端子、低温出力端子によって固定され移動しないことを確認した。軸の回転を始めて3分後に温度を測定したところ高温出力端子では24.0℃、低温出力端子では22.0℃と観察された。
【0042】
前記は熱伝導に磁性流体を用いる例を示したが、磁気作業物質からの熱出力端子への熱伝導を熱伝導率が高い液体により行うことも可能である。
【0043】
〈ii 同一円盤複合素子〉
実施例2
径5mm、長さ50mmのステンレス製軸を用意した。
厚さ1.5mmのリング状磁気作業物質Gd(ガドリニウム)と厚さ1.0mmのリング状断熱材を組み合わせ、円盤とした(
図6)。磁気作業物質はそれぞれ独立した温度域で動作する。この円盤の中心を前記ステンレス製軸に固定した。軸回転により磁気作業物質も回転する。
磁気作業物質に磁場を印加するため、円盤状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの複数の永久磁石を設置した。永久磁石にはNdFeB系マグネットを用いてギャップ間隔は4.0mmとした。ギャップ間の磁束は0.9Tとした。ヨークの中で複数の独立した温度が保たれるために、ヨーク内には断熱材を設置した。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体を充填し、高温出力端子とした(
図4)。高温出力端子は同一円盤上に等間隔で3箇所設置した。
【0044】
高温出力端子の円周反対側に低温出力端子を設置するため、円盤を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石には複数のSr-Ferrite系マグネットを用いてギャップ間隔は4.0mmとした。ギャップ間の磁束は0.03Tとした。ヨークの中で独立した温度が保たれるために、ヨークの中間には断熱材を設置した。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体にを充填し、低温出力端子とした(
図4)。低温出力端子は高温出力端子と同様に同一円盤上に3箇所設置し、複数入出力端子とした。
【0045】
円盤内各磁気作業物質で生じた温度差を直列接続とするために、伝熱リングを円盤上下に設置した。一方の磁気作業物質の低温部分ともう一方の磁気作業物質の高温部分が伝熱リングを介して熱的に接続され近い温度となる。一つの接続リングは3箇所の高温出力端子と3箇所の低温出力端子を熱的に接続している。
【0046】
室温及び素子初期温度を23.0℃とし、軸を5rpmで回転させ、5分後にエネルギー変換素子の両端の高温出力端子、低温出力端子の温度を測定した。ここで両端の高温出力端子、低温出力端子の温度はそれぞれ25.7℃、20.3℃であった。一個の素子で3段相当に近い温度差が得られる。
【0047】
前記は熱伝導に磁性流体を用いる例を示したが、磁気作業物質からの熱出力端子への熱伝導を熱伝導率が高い液体により行うことも可能である(
図18)。
【0048】
実施例3
実施例2と同様の磁気作業物質と断熱材複合円盤を用意し、実施例2と同様の軸に固定した。
磁気作業物質に磁場を印加するため、リング状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの複数の永久磁石を設置した。磁気ヨークと磁気作業物質の間にはNeFeB系永久磁石を設置する箇所と設置しない箇所を交互に配し、それぞれ高温出力端子、低温出力端子とした。空隙には断熱性樹脂を導入した。低温出力端子とリング状磁気作業物質の間は液体による熱伝導とした。高温出力端子とリング状磁気作業物質の間には磁性流体を導入し、熱伝導体とした。磁気作業物質が回転しても磁性流体はNeFeB系永久磁石に留まり、拡散されることは無い。
【0049】
磁気ヨーク内に配置された断熱材により一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように磁気ヨークを通して熱的な直列接続とした。低温出力端子と高温出力端子は同一円盤上に3箇所設置し、複数入出力端子とした(
図7,8)。
【0050】
室温及び素子初期温度を23.0℃とし、軸を5rpmで回転させ、5分後にエネルギー変換素子の両端の高温出力端子、低温出力端子の温度を測定した。ここで両端の高温出力端子、低温出力端子の温度はそれぞれ25.5℃、20.5℃であった。
【0051】
前記は熱伝導に磁性流体を用いる例を示したが、磁気作業物質からの熱出力端子への熱伝導を熱伝導率が高い液体により行うことも可能である(
図19)。
【0052】
〈iii 同一円筒複合素子〉
実施例4
径5mm、長さ50mmのステンレス製軸を用意した。高さ8mm直径20mmの円筒型ポリカーボネートを軸の周りに配置し、さらにその周りにリング状鉄系磁気ヨーク材料を設置、さらにその周囲にリング状ポリカーボネート、磁気作業物質Gd(ガドリニウム)の順で設置した。この円筒をポリカーボネートの円盤を介して3段重ねとしてステンレス製軸に固定した。軸が回転すると円筒も回転する
(図21,22)。
【0053】
リング状磁気作業物質に磁場を印加するため、リング状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの複数の永久磁石を設置した。磁気ヨークと磁気作業物質の間にはNeFeB系永久磁石を設置し高温出力端子とした。永久磁石を箇所と設置しない箇所を交互に配し、それぞれ高温出力端子、低温出力端子とした。空隙には断熱性樹脂を導入した。高温出力端子と磁気作業物質の間には磁性流体を導入した。磁性流体は、磁気作業物質を含む円筒が回転した場合でも磁場の力により高温出力端子ー磁気作業物質間に留まり、磁場印加により発生した熱を高温出力端子に伝導する。低温出力端子とリング状磁気作業物質の間は液体による熱伝導とした。
円筒内部には鉄系磁気ヨークを導入している。円筒を通して、さらに外周に設置した磁気ヨーク材を通して磁気極性の異なる高温出力端子と共に磁気回路が形成される。円筒内部に鉄系磁気ヨークを導入しない場合に比較して、0.9Tの磁場を印加するための永久磁石は円筒内部に鉄系磁気ヨークを導入した場合、20%少ない重量のNeFeB系永久磁石の導入量で済むことが判明した。
【0054】
実施例3と同様にして断熱材と伝熱性材料を君合わせることにより一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように上下で熱的な直列接続とした。
図21の中段の高温出力端子は下段の低温出力端子と伝熱材を通して熱的に接続されており、中段の低温出力端子は上段の高温出力端子と熱的に接続されている。この様にして、同一円筒上で熱的に直列接続とすることが出来る。
【0055】
室温及び素子初期温度を23.0℃とし、軸を5rpmで回転させ、5分後にエネルギー変換素子の両端の高温出力端子、低温出力端子の温度を測定した。ここで両端の高温出力端子、低温出力端子の温度はそれぞれ25.5℃、20.5℃であった。
【0056】
〈iv 断熱円盤両面複合素子〉
実施例5
径5mm、長さ50mmのステンレス製軸を用意した。
円盤状ポリカーボネート厚さ1.5mm、上下の部分にリング状磁気作業物質Gd(ガドリニウム)厚さ0.8mmを独立に上下3リングづつ計6リング接着した。この円盤の中心を前記ステンレス製軸に固定した。軸回転により磁気作業物質も回転する。
磁気作業物質に磁場を印加するため、円盤状磁気作業物質を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石にはNdFeB系マグネットを用いてギャップ間隔は5.5mmとした。ギャップ間の磁束は0.9Tとした。ヨークの上下で独立した温度が保たれるために、ヨーク内には断熱材を設置した。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体を充填し、高温出力端子とした(
図9,10)。高温出力端子は同一円盤上に等間隔で3箇所設置した。
【0057】
高温出力端子の円周反対側に低温出力端子を設置するため、円盤を挟み込むようにヨーク付きの永久磁石を設置した。永久磁石には複数のSr-Ferrite系マグネットを用いてギャップ間隔は5.5mmとした。ギャップ間の磁束は0.03Tとした。ヨークの中で独立した温度が保たれるために、ヨーク内には断熱材を設置した。磁気作業物質と永久磁石の間にマグネタイト磁性紛からなる磁性流体にを充填し、低温出力端子とした(
図9,10)。低温出力端子は高温出力端子と同様に同一円盤上に3箇所設置し、複数入出力端子とした。
【0058】
円盤内各磁気作業物質で生じた温度差を直列接続とするために、伝熱リングを円盤上下に設置した。一方の磁気作業物質の低温部分ともう一方の磁気作業物質の高温部分が伝熱リングを介して熱的に接続され近い温度となる。一つの接続リングは上下それぞれ3箇所の高温出力端子と上下それぞれ3箇所の低温出力端子を熱的に接続している。上下各磁気作業物質で生じた温度差を直列接続とするために、伝熱リングを外周に設置した。一方の磁気作業物質の低温部分ともう一方の磁気作業物質の高温部分が伝熱リングを介して熱的に接続され近い温度となる。
【0059】
室温及び素子初期温度を23.0℃とし、軸を5rpmで回転させ、5分後にエネルギー変換素子の両端の高温出力端子、低温出力端子の温度を測定した。ここで両端の高温出力端子、低温出力端子の温度はそれぞれ27.8℃、18.2℃であった。一個の素子で6段相当に近い温度差が得られる。
【0060】
ここでは円盤面内に伝熱リングを設置するタイプを示したが、実施例3と同様に同一ヨーク内に高温出力端子と低温出力端子を設置し、磁気ヨークを通して一方の磁気作業物質の低温状態の温度がもう一方の磁気作業物質の高温状態と熱的に接続されるように熱的な直列接続とするタイプも可能である(
図12,13)。
またここでは熱伝導に磁性流体を用いる例を示したが、磁気作業物質からの熱出力端子への熱伝導を熱伝導率が高い液体により行うことも可能である(
図19,20)。
【0061】
〈v 複数熱交換器設置積層素子〉
実施例6
これまで示したエネルギー変換素子は、一つの素子の高温部分ともう一つの素子の低温部分を熱的に接続し、直列接続とすることで生成する温度差を拡大することが出来る。この積層素子の低温部分及び高温部分に熱交換器を設置することにより、容易に中間の温度を熱出力することが出来る(
図11,23)。
【0062】
実施例5で示した断熱円盤両面複合素子を積層として温度差域を拡大した。この際、熱交換器を低温出力部、高温出力部のみでは無く、接合部分にも設置した。これにより複数の熱出力が得られる(
図11)。
【0063】
ここでは磁気作業物質としてGd(ガドリウム)を用いる例を示したが、必要とされる温度域によって他の磁気作業物質を採用することが出来、積層の中で、素子の中でも磁気作業物質の組成を変化させ、その温度に適した磁気作業物質を用いることが出来る。
【0064】
〈vi 複数温度管理温度調節装置〉
実施例7
前記複数熱交換器設置積層素子を用いて、複数の温度出力を有する温度調節装置が得られる。
図11に示すエネルギー変換素子集合体を用いて、高温出力端子に接続された熱交換器を冷却水により23℃に設定した。軸を5rpmで回転させ、10分後にエネルギー変換素子積層集合体の低温出力端子の温度を測定した。ここで中間の熱交換器からの熱出力は13.6℃であり、低温出力端子に接続された熱交換器からの熱出力は4.4℃であった。一つの積層素子のみで複数の温度で冷却可能な装置が得られた。ここでは冷却装置の例を示したが、複数の温度出力が可能な加熱装置、あるいは冷却と同時に加熱も可能な装置も構築出来る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
運動エネルギーを直接的に温度差エネルギーへ変換できるため、さらに気体の圧縮、弁の開閉等複雑な構造が不要であるために高信頼性、低騒音、低振動で加熱冷却システムが構築可能である。高温出力端子から熱交換器により冷媒等を通して放熱用ラジエターへ接続し、また低温出力端子から熱交換器により冷媒等を通して必要とされる冷却システムへ接続できる。同様にして加熱システム構築も可能である。複数の温度による出力も可能であるため、冷却と加熱、複数の温度域による冷却あるいは加熱装置も構築出来る。このため運動エネルギーを発生する自動車等各種輸送機器、水車、風車等自然エネルギー変換装置から直接的に高温、低温を発生させる冷蔵庫、エアコン等各種加熱あるいは冷却システムにより高性能に応用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 磁気作業物質
2 磁性流体
3 NdFeB系永久磁石
4 鉄系磁気ヨーク材料
5 Srフェライト系永久磁石
6 磁気作業物質設置用ハブ
7 高温出力端子
8 低温出力端子
9 回転軸
10 伝熱性材料
11 断熱性材料
12 積層状態高温出力端子
13 積層状態低温出力端子
14 高温側集熱板
15 低温側集熱板
16 伝熱リング
17 伝熱性液体
18 熱交換器
【要約】
【課題】騒音、振動が発生しない単純な構造を有する、運動エネルギーから温度差エネルギーへのエネルギー変換素子を提供する。生成温度差幅を拡大。エネルギー変換積層素子を用いて複数温度管理温度調節装置を構築する。
【解決手段】回転する円盤状、リング状の磁気作業物質と、これに磁場を印加する部分とを磁性流体を用いて熱的に接合し、磁場により発熱した熱量を永久磁石部分に誘導する。さらに冷間状態部分も流体により低温出力端子に熱的に接続する。これにより円盤状、リング状磁気作業物質の回転により高温部分と低温部分を取り出すことができる。素子内部で磁気作業物質を熱的に直列接続することにより高温と低温の温度差を拡大。エネルギー変換素子積層部分にも熱交換器を設置することで複数温度領域での熱出力可能。低騒音低振動で複数温度域温度調節装置を構築できる。
【選択図】
図23