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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】エンジンのオイル粘度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/08 20060101AFI20220310BHJP
   F01M 11/10 20060101ALI20220310BHJP
   F01M 1/16 20060101ALI20220310BHJP
   F02N 15/00 20060101ALI20220310BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
G01N11/08
F01M11/10 B
F01M1/16 C
F02N15/00 E
F02N11/08 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018047465
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019158696
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】西尾 貴史
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 寿史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真憲
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0122571(US,A1)
【文献】特開平10-89090(JP,A)
【文献】特開2009-127580(JP,A)
【文献】特開平5-10866(JP,A)
【文献】特開2004-285977(JP,A)
【文献】特開2009-97472(JP,A)
【文献】特開2010-236575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
F01M 11/10
F02D 45/00
F01M 1/16
F02N 15/00
F02N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室を有して、該圧力室へ供給されるオイル供給量に応じてオイルの吐出量が変更されるよう設定された可変容量式のオイルポンプと、
前記圧力室へ供給するオイル供給量を調整する圧力調整弁と、
前記圧力調整弁を、エンジンの運転状態に応じて制御する油圧制御手段と、
オイルの粘度を油圧に基づいて検出する粘度検出手段と、
を備え、
前記油圧制御手段は、前記粘度検出手段によってオイルの粘度を検出するとき、前記圧力室へ供給されるオイル供給量がエンジンの運転状態に応じて設定される所定量よりも減量されるように前記圧力調整弁を制御する、
ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記油圧制御手段は、前記粘度検出手段によってオイルの粘度を検出するとき、前記圧力室へ供給されるオイル供給量が0となるように前記圧力調整弁を制御する、ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記粘度検出手段は、エンジン回転数が所定回転数よりも低い低回転時であることを条件にオイルの粘度を検出する、ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記粘度検出手段は、アイドル運転時であることを条件にオイルの粘度を検出する、ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記油圧制御手段は、前記粘度検出手段によりオイルの粘度を検出する前に、あらかじめエンジンの運転状態に応じた目標油圧となるように前記圧力調整弁をフィードバック制御して実際の油圧を該目標油圧に収束させた後に、前記圧力室へ供給されるオイル供給量がエンジンの運転状態に応じて設定される所定量よりも減量されるように前記圧力調整弁を制御する、ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記粘度検出手段によって使用されているオイルの粘度が基準粘度に比して高粘度であることが検出されたときに、エンジンの始動を保障できない旨の報知を行う報知手段を備えている、ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
イグニッションスイッチがオン操作されたときにエンジンを駆動するスタータモータと、
アイドルストップからのエンジンの自動再始動時にエンジンを駆動するISGと、
上記スタータモータとISGとの駆動を選択的に切換える始動制御手段と、
をさらに備え、
前記始動制御手段は、前記粘度検出手段によって使用されているオイルの粘度が基準粘度に比して高粘度であることが検出されたときに、アイドルストップからのエンジンの自動再始動時であっても前記スタータモータによるエンジンの始動を行わせる、
ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、
前記オイルポンプは、前記圧力室へ供給されるオイル供給量が低減するほどオイル吐出量が多くなるように設定されて、該オイル供給量が0になったときにオイル吐出量が最大とされる、ことを特徴とするエンジンのオイル粘度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのオイル粘度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンにおける各種部位の潤滑や冷却等のために、エンジンにより駆動されるオイルポンプが設けられる。オイルポンプは、エンジンの運転状態に応じて適切な油圧を供給するように、可変容量型とされるのが一般的である。
【0003】
一方、エンジンに使用されるオイルの粘度は、潤滑等の性能に大きな影響を及ぼすことから、使用されているオイルの粘度を検出することも行われている。特許文献1には、オイルポンプの回転数が設定回転数に達するまでの積算時間に基づいてオイルの粘度を検出するものが開示されている。
【0004】
オイルの粘度検出を行うことは、例えば極冷間時においてエンジンを確実に始動させるという点でも重要となる。例えば、温暖時用のオイル(例えば10W-30)が使用されている状態で、極冷間時でエンジン始動を行うと、オイルの粘度が高すぎてエンジン始動を行えないという状況にもなりかねない。特に、アイドルストップによるエンジン停止状態からエンジンを自動再始動させる際に、始動を滑らかに行えるという観点から、ISG(スタータモータと発電機とを兼用した機器)によってエンジン始動(のためのエンジン駆動)を行うことも多くなっている。しかしながら、ISGは、低回転域での駆動トルクが小さいことから、オイルの粘度が高すぎると、エンジン始動が行えないという事態を生じやすいものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-267866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、オイルの粘度を、オイルポンプから吐出されるオイルの油圧に基づいて検出することが行われている。すなわち、同じ条件であれば、オイルの粘度が大きいほど油圧が大きくなる。
【0007】
前述した容量可変式のオイルポンプにあっては、その圧力室に供給されるオイル量に応じて、オイルの吐出量が変更可能となっている。そして、圧力室へ供給されるオイル量は、例えばリニアソレノイド式の調整弁によって調整される。そして、オイルポンプから吐出された後の実際の油圧が、エンジンの運転状態(例えばエンジン回転数とエンジン負荷)とによって決定される目標油圧となるように、上記圧力室に供給されるオイル量をフィードバック制御することも行われている。
【0008】
上記調整弁は、ばらつきを有するものである。すなわち、調整弁の駆動状態(例えば駆動デューティ比)が同じであっても、オイルポンプの圧力室に供給されるオイル量にばらつきを生じることになる。したがって、調整弁の駆動状態をある所定の一定状態として、このときの油圧に応じてオイルの粘度を検出するようにしても、調整弁のばらつきによる誤差によって、オイルの粘度を精度よく検出することが不可能となる。そして、調整弁のばらつきは、調整弁から圧力室へのオイル供給量が大きいほど大きくなる。
【0009】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、油圧に基づくオイル粘度の検出を、精度よく行えるようにしたエンジンのオイル粘度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、請求項1に記載のように、
圧力室を有して、該圧力室へ供給されるオイル供給量に応じてオイルの吐出量が変更されるよう設定された可変容量式のオイルポンプと、
前記圧力室へ供給するオイル供給量を調整する圧力調整弁と、
前記圧力調整弁を、エンジンの運転状態に応じて制御する油圧制御手段と、
オイルの粘度を油圧に基づいて検出する粘度検出手段と、
を備え、
前記油圧制御手段は、前記粘度検出手段によってオイルの粘度を検出するとき、前記圧力室へ供給されるオイル供給量がエンジンの運転状態に応じて設定される所定量よりも減量されるように前記圧力調整弁を制御する、
ようにしてある。
【0011】
上記解決手法によれば、圧力調整弁は、圧力室へのオイル供給量が多い状態であるほどそのばらつきが多くなる。したがって、オイルの粘度検出の際には、圧力調整弁のばらつきが低減させる方向に圧力調整弁を制御することによって、油圧に基づくオイルの粘度検出を精度よく行うことができる。
【0012】
前記油圧制御手段は、前記粘度検出手段によってオイルの粘度を検出するとき、前記圧力室へ供給されるオイル供給量が0となるように前記圧力調整弁を制御する、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、圧力調整弁のばらつきを無視できる状態でオイルの粘度を検出するので、オイルの粘度を極めて精度よく検出することができる。
【0013】
前記粘度検出手段は、エンジン回転数が所定回転数よりも低い低回転時であることを条件にオイルの粘度を検出する、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、エンジンの低回転時では、オイル粘度の相違に応じた油圧差が大きく現れるので、オイル粘度を精度よく検出する上で好ましいものとなる。
【0014】
前記粘度検出手段は、アイドル運転時であることを条件にオイルの粘度を検出する、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、請求項3に対応した効果を十分に発揮させる上で好ましいものとなる。また、アイドル運転時というエンジン回転が安定した状態での油圧に応じてオイル粘度を検出するので、オイル粘度を精度よく検出する上で極めて好ましいものとなる。
【0015】
前記油圧制御手段は、前記粘度検出手段によりオイルの粘度を検出する前に、あらかじめエンジンの運転状態に応じた目標油圧となるように前記圧力調整弁をフィードバック制御して実際の油圧を該目標油圧に収束させた後に、前記圧力室へ供給されるオイル供給量がエンジンの運転状態に応じて設定される所定量よりも減量されるように前記圧力調整弁を制御する、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、あらかじめ油圧を安定させた状態とした後に、油圧に応じてオイル粘度の検出を行うので、オイル粘度を精度よく検出する上で極めて好ましいものとなる。
【0016】
前記粘度検出手段によって使用されているオイルの粘度が基準粘度に比して高粘度であることが検出されたときに、エンジンの始動を保障できない旨の報知を行う報知手段を備えている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、実際にエンジンが始動できなくなってしまう事態を未然に防止する上で好ましいものとなる。また、推奨粘度のオイルに早期に交換することを促す上でも好ましいものとなる。
【0017】
イグニッションスイッチがオン操作されたときにエンジンを駆動するスタータモータと、
アイドルストップからのエンジンの自動再始動時にエンジンを駆動するISGと、
上記スタータモータとISGとの駆動を選択的に切換える始動制御手段と、
をさらに備え、
前記始動制御手段は、前記粘度検出手段によって使用されているオイルの粘度が基準粘度に比して高粘度であることが検出されたときに、アイドルストップからのエンジンの自動再始動時であっても前記スタータモータによるエンジンの始動を行わせる、
ようにしてある(請求項7対応)。この場合、アイドルストップからのエンジン自動再始動時には、ISGによるエンジン始動を行うことにより、滑らかにかつ低騒音でもってエンジン始動を行うことができる。また、オイルが高粘度であってエンジンの始動性に問題を生じるときは、アイドルストップからのエンジン自動再始動時であっても、スタータモータによるエンジン始動を行うことにより、確実にエンジンを始動させることができる。
【0018】
前記オイルポンプは、前記圧力室へ供給されるオイル供給量が低減するほどオイル吐出量が多くなるように設定されて、該オイル供給量が0になったときにオイル吐出量が最大とされる、ようにしてある(請求項8対応)。この場合、オイル粘度検出時に、圧力調整弁から圧力室へのオイル供給量が低減されるときでも、オイルポンプからは十分にオイルを吐出させるようにして、オイル切れや油圧不足を生じさせることなくオイル粘度を検出させる上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、油圧に基づくオイル粘度の検出を、精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の制御系統例を示す図。
図2】可変容量式のオイルポンプの一例を示す断面図。
図3】粘度の違いによる検出油圧の相違を示す図。
図4】本発明の制御例を示すタイムチャート。
図5】オイルの粘度を推定する手法を示すフローチャート。
図6】エンジン始動のための駆動手段の使い分け例を示すフローチャート。
図7図6の変形例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、1は、エンジンであり、エンジン1の駆動力は、変速機2(実施形態では自動変速機)、出力軸3を介して駆動輪(図示略)に伝達される。
【0022】
エンジン1には、スタータモータ4、ISG5、オイルポンプ6が補器類として装備されている。スタータモータ4は、常時はエンジン1のクランク軸と遮断されて、イグニッションスイッチがオンされることにより、クランク軸に結合されてエンジン1を駆動する。スタータモータ4は、エンジン1を始動させる際の駆動トルクが大きいという利点を有する反面。その作動に際して、クランク軸に対する結合と結合解除を行うことから、騒音と駆動の滑らかさという点で劣ることになる。
【0023】
ISG5は、歯車あるいはベルト、チェーン等を介して、クランク軸と常時連動されている。ISG5は、アイドルストップからのエンジン1の自動再始動時に作動される(スタータモータとして機能)。また、車両の減速時には、発電機として機能される(回生によるエネルギ回収)。ISG5は、低回転域での駆動トルクが小さいものの、スタータモータとして機能させる際の騒音が小さくまた作動も滑らかであるという利点を有する。
【0024】
オイルポンプ6は、容量可変式とされて、エンジン1(のクランク軸)によって駆動される。以下、オイルポンプ6について、図2を参照しつつ説明する。
【0025】
まず、オイルポンプ6は、ハウジング61と、駆動軸62と、ポンプ要素と、カムリング66と、スプリング67と、リング部材68とを有している。
【0026】
ハウジング61は、一端側が開口するように形成され、且つ内部が断面円形状の空間からなるポンプ収容室を有するポンプボディと該ポンプボディの上記一端側の開口を閉塞するカバー部材とから構成される。駆動軸62は、ハウジング61に回転自在に支持され、ポンプ収容室のほぼ中心部を貫通し、且つクランク軸によって回転駆動される。ポンプ要素は、ポンプ収容室内に回転自在に収容されて中心部が駆動軸62に結合されたロータ63及び該ロータ63の外周部に放射状に切欠いて形成された複数のスリット内にそれぞれ出没自在に収容されたべーン64から構成される。カムリング66は、ポンプ要素の外周側にロータ63の回転中心に対して偏心可能に配置され、ロータ63及び相隣接するベーン64と共に複数の作動油室であるポンプ室65を画成する。
【0027】
スプリング67は、ポンプボディ内に収容され、ロータ63の回転中心に対するカムリング66の偏心量が増大する側へ、カムリング66を常時付勢する付勢部材である。リング部材68は、ロータ63の内周側の両側部に摺動自在に配置され、ロータ63よりも小径の一対のリング状部材である。
【0028】
また、ハウジング61は、内部のポンプ室65にオイルを供給する吸入口61aと、ポンプ室65からオイルを吐出する吐出口61bとを有している。ハウジング61の内部には、該ハウジング61の内周面とカムリング66の外周面とによって画成された圧力室69が形成されている。
【0029】
このように、オイルポンプ6は、圧力室69にオイルを導入することにより、カムリング66が支点61cに対して揺動して、ロータ63がカムリング66に対して相対的に偏心し、該オイルポンプ6の吐出容量が変化するように構成されている。
【0030】
オイルポンプ6の吸入口61aは、吸い込み側油路80を介して、図示を略すオイルパンに接続されている。オイルポンプ6の吐出口61bは、吐出側油路81に接続されている。
【0031】
オイルポンプ6により汲み上げられたオイルは、吐出側油路81を経て、それぞれ図示を略すオイルフィルタで濾過されると共に、オイルクーラで冷却された後、エンジン1のシリンダブロック内のメインギャラリ等に導入される。
【0032】
圧力室69に対して供給されるオイル量は、リニアソレノイドバルブからなる圧力調整弁7によって調整される。圧力調整弁7が接続された油路81aは、吐出側油路81から分岐されたものとなっている。
【0033】
再び図1において、図中、Uは、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)である。このコントローラUには、各種センサS1~S3からの信号が入力される。センサS1は、エンジン回転数を検出する回転数センサである。センサS2は、エンジン負荷(例えばアクセル開度または燃料噴射量)を検出するエンジン負荷センサである。センサS3は、オイルポンプ6からオイルが吐出される吐出側油路81の油圧を検出する油圧センサである。なお、油圧センサS3は、吐出側油路81のうち、適宜の部位(例えばエンジン1のメインギャラリの入口部位あるいは出口部位等)での油圧を検出するものとなっている。
【0034】
次に、オイルの粘度と油圧とエンジン回転数との関係について、図3を参照しつつ説明する。まず、粘度の相違するオイルとして、相対的に高粘度となる0W-20のオイルと、それよりも低粘度となる0W-16のオイルとを用いた。オイルポンプ6の吐出量を最大とした状態で、エンジン回転数を変化させつつ、両オイルについての実際の油圧と、両オイルの油圧差が、図3にまとめて示される。なお、オイルポンプ6の吐出量を最大としたのは、圧力調整弁7からオイルポンプ6の圧力室69へのオイル供給量が0の状態で、圧力調整弁7のばらつきによる誤差が生じない状態とするためである。
【0035】
図3から理解されるように、オイルの粘度差に基づく油圧の差は、エンジン回転数が低いほど顕著になる。つまり、エンジン回転数が低い状態で油圧を検出するのが、油圧に基づいてオイルの粘度を精度よく検出する上で好適となる。
【0036】
コントローラUは、極冷間時において好適なオイルを基準オイルとする基準油圧を記憶している。すなわち、基準オイルを使用して、オイルポンプ6の吐出量を最大とし、かつエンジン1の低回転(例えばアイドル回転数)で運転した際に得られる実際の油圧が、基準油圧として記憶される。そして、上記と同一条件のときの実際の油圧を基準油圧と比較することにより、実際に使用されているオイルが、基準オイルよりも高粘度であるのか(あるいは低粘度であるの)を、粘度差を含めて判定することが可能となる。
【0037】
図4は、コントローラUによるオイルの粘度検出の手法を示すタイムチャートである。この図4において、実油圧として、基準オイルとなる0W-20のオイルにおける実油圧(実線)と、それよりも高粘度となる5W-30の比較オイルにおける実油圧(破線)とが示される。また、「オイルポンプ駆動DUTY」は、実際には圧力調整弁7の駆動デューティ比である(駆動デューティ比が小さいほど、圧力室69へのオイル供給量が低減されて、オイルポンプ6からのオイル吐出量が増大される)
t1時点の前において、エンジン1の始動が行われて、t1時点で、アイドル回転数に安定したときとなる。t1時点よりも前の段階では、比較オイルを使用した場合の方が、基準オイルを使用した場合に比して、実油圧が大きくなる。
【0038】
アイドル回転数となったt1~t2時点の間において、油圧が目標油圧となるように圧力調整弁7がフィードバック制御される。これにより、基準オイルでも比較オイルでも、実際の油圧は同じとなる。
【0039】
t2時点よりも少し前の段階で、油圧フィードバック制御によって油圧が安定した状態となる。この油圧が安定した状態で、t3時点までの間、圧力調整弁7への駆動デューティ比を0にして、オイルポンプ6の圧力室69に供給されるオイル量を0にする(オイルポンプ6からのオイル吐出量が最大とされる)。この状態で、油圧センサS3により検出される油圧を基準油圧と比較して、実際に使用されているオイルの粘度が検出される。
【0040】
t3時点までにオイルの粘度検出が完了されて、t3時点以降は、油圧のフィードバック制御が再開される。
【0041】
次に、コントローラUによる制御内容について、図5以下のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0042】
まず、図5は、実際に使用されているオイルの粘度を検出する処理となる。まず、Q1において各種センサS1~S3からの信号が入力された後、Q2において、エンジン1の運転状態に応じた目標油圧が設定される(例えばエンジン回転数とエンジン負荷とをパラメータとして目標油圧を決定)。
【0043】
Q3では、アイドル運転時であるか否かが判別される。このQ3の判別でNOのときは、Q4において、センサS3で検出される実際の油圧が目標油圧となるように、圧力調整弁7がフィードバック制御される。
【0044】
Q3の判別でYESのときは、Q5において、粘度推定完了フラグが0であるか否かが判別される。この粘度推定完了フラグは、0のときが粘度推定が完了していないことを示す。なお、粘度推定完了フラグは、例えば、イグニッションスイッチをオフとしてエンジン1を停止させた際に、0にリセットされる。このQ5の判別でNOのとき(粘度推定が完了しているとき)は、Q4に以降される。
【0045】
Q5の判別でYESのときは、粘度推定が完了していないことから、新たに粘度推定が行われる。すなわち、Q6において、実際の油圧が目標油圧となるように圧力調整弁7がフィードバック制御される(図4のt1~t2の間の制御に対応)。この後、Q7において、実際の油圧が目標油圧に収束したか否かが判別される。このQ7の判別でNOのときは、Q6に戻る。
【0046】
Q7の判別でYESのときは、Q8において、CCVつまり圧力調整弁7の駆動デューティ比を0にして、オイルポンプ6の吐出量を最大とする(図4のt2~t3の間の制御に相当)。この後、Q9において、実際の油圧を基準油圧と比較して、現在使用されているオイルの粘度が検出(推定)されると共に、検出結果が記憶される。この後、Q10において、粘度推定が完了していることを示すべく、粘度推定完了フラグが1にセットされる。
【0047】
図6は、図5の処理によって推定されたオイルの粘度に応じて、エンジン始動を行う場合の制御例が示される。なお、図6の処理は、図5の処理に対して、並列処理または割込み処理によって行われる。
【0048】
まず、Q21においてデータ入力された後、Q22において、イグニッションスイッチをオンすることによるエンジン1の始動時であるか否かが判別される。このQ21の判別でYESのときは、Q23において、図5の処理によって推定されたオイルの粘度が高粘度であるか否か(基準オイルの粘度よりも所定以上高粘度であるか否か)が判別される。
【0049】
Q23の判別でYESのときは、Q24において、エンジン1を確実に始動させるべく、スタータモータ4を駆動することによるエンジン始動が行われる。Q23の判別でNOのときは、ISG5をスタータモータとして機能させることによるエンジン始動が行われる(滑らかかつ低騒音での始動)。
【0050】
前記Q22の判別でNOのときは、Q26において、アイドルストップによるエンジン停止時からの自動再始動時であるか否かが判別される。Q26の判別でYESのときは、Q27において、図5のQ9における記憶内容が、高粘度のオイルであるか否かが判別される。このQ27の判別でYESのときは、Q28において、スタータモータ4を作動させることによるエンジン1の始動が行われる。
【0051】
上記Q27の判別でNOのときは、Q29において、ISG5を作動させる(スタータモータとして機能させる)ことによるエンジン1の始動が行われる。Q29の後、Q30において、ISG5を利用したエンジン1の始動が失敗したか否かが判別される。このQ30の判別でYESのときは、Q28に以降される。また、Q30の判別でNOのときは、エンジン1の始動が行われたときなので、そのままリターンされる。
【0052】
前記Q26の判別でNOのときは、Q31において、スタータモータ4およびIEG5がそれぞれ、駆動停止状態とされる。
【0053】
上述したように、上記実施形態では、アイドルストップからのエンジン自動再始動は、滑らかかつ低騒音で行うために、基本的にISG5によるエンジン始動とされる。ただし、高粘度のオイルが使用されているときは、適宜スタータモータ4をも利用してエンジン始動を行うようにしてある。
【0054】
図7は、本発明の第2の実施形態を示すもので、図6の変形例となっている.本実施形態では、スタータモータ4を有しないものとなっており、エンジン1の始動は、常にISG5で行うものとなっている。
【0055】
本実施形態では、Q41においてデータ入力された後、Q42において、エンジン1の始動時であるか否かが判別される(イグニッションスイッチによる始動またはアイドルストップからの自動再始動であるか否かの判別)。このQ42の判別でNOのときは、Q43において、ISG5が停止される(スタータモータとしての機能停止で、発電機としての機能は適宜実行される)。
【0056】
上記Q42の判別でYESのときは、Q4において、図5のQ9で推定、記憶されている内容が、高粘度のオイルであるか否かが判別される。このQ44の判別でYESのときは、推奨オイルではないため、エンジン1の始動を保障できない旨の報知が行われる(表示画面での文字表示および/またはスピーカからの音声での報知)。この後、Q46において、ISG5が、エンジン1を始動させるために駆動される。上記Q44の判別でNOのときは、Q45を経ることなく、Q46に移行される。
【0057】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。エンジン1の始動を、スタータモータ4によってのみ行うものであってもよい。検出(推定)されたオイルの粘度は、エンジン1の始動制御のために利用したが、この他、適宜の用途に利用することができる(例えば目標油圧の補正、自動変速機2の変速タイミングの補正等)。オイルの粘度検出は、アイドル運転時に限らず、エンジン回転数があらかじめ設定された所定回転数(例えば1500rpm)よりも低回転時であるときに行うこともできる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、オイルの粘度検出として好適である。
【符号の説明】
【0059】
1:エンジン
4:スタータモータ
5:ISG
6:オイルポンプ
7:圧力調整弁
69:圧力室
81:吐出側油路
81a:分岐油路
U:コントローラ
S1:エンジン回転数センサ
S2:エンジン負荷センサ
S3:油圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7