(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の診断方法及びその診断装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/46 20060101AFI20220310BHJP
G01N 29/14 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
G01N29/46
G01N29/14
(21)【出願番号】P 2018036978
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017062003
(32)【優先日】2017-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017154823
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017193891
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399043196
【氏名又は名称】株式会社アミック
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【氏名又は名称】柿本 恭成
(72)【発明者】
【氏名】長岡 康之
(72)【発明者】
【氏名】三輪 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】和高 修三
(72)【発明者】
【氏名】高鍋 雅則
(72)【発明者】
【氏名】加賀 敏明
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-099060(JP,A)
【文献】特開2004-361321(JP,A)
【文献】特開平09-251010(JP,A)
【文献】特開2014-228324(JP,A)
【文献】特開2016-024069(JP,A)
【文献】特開2002-131291(JP,A)
【文献】特開2001-311724(JP,A)
【文献】特開2002-040003(JP,A)
【文献】特開2004-028907(JP,A)
【文献】特開2005-308486(JP,A)
【文献】特開平07-270384(JP,A)
【文献】特開2010-164403(JP,A)
【文献】特開2007-333498(JP,A)
【文献】特開平09-080034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0123665(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断方法において、
前記導体棒の周囲のコンクリート表面に第1センサを配置すると共に、前記導体棒における前記コンクリート表面から露出している露出部に第2センサとコイルとを配置し、
前記コイルにパルス電流を流して前記コイルよりパルス磁場を発生させ、前記パルス磁場を前記導体棒に作用させて弾性波を発生させる弾性波発生処理と、
前記弾性波を前記第1センサで受信して第1受信信号を生成すると共に、前記弾性波を前記第2センサで受信して第2受信信号を生成する受信処理と、
前記第1受信信号をフィルタ処理して第1時間軸波形、前記第2受信信号をフィルタ処理して第2時間軸波形、前記第1受信信号をフーリエ変換して第1周波数スペクトル、及び、前記第2受信信号をフーリエ変換して第2周波数スペクトル、をそれぞれ求めてデータ処理結果を出力するデータ処理と、
前記データ処理結果に基づき、複数の評価指標を求める評価指標処理と、
前記複数の評価指標に対して、閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与する評価ポイント付与処理と、
を有
し、
前記評価指標処理では、
前記第1時間軸波形の波形エネルギーと前記第2時間軸波形の波形エネルギーとの波形エネルギー比の第1評価指標と、
前記第1時間軸波形及び前記第2時間軸波形におけるそれぞれの最大振幅に対して所定の振幅に減衰するまでのそれぞれの波形継続時間の第2評価指標と、
前記第1周波数スペクトル及び前記第2周波数スペクトルにおけるそれぞれのスペクトルの重心周波数の第3評価指標と、
前記スペクトルの標準偏差の第4評価指標と、
前記スペクトルのピーク数の第5評価指標と、
施工不良のスペクトルと複数の標準施工の平均スペクトルとの相関係数の第6評価指標と、
の一つ以上を求めることを特徴とするコンクリート構造物の診断方法。
【請求項2】
前記第1評価指標は、
前記コンクリート構造物の施工不良によって前記第1時間軸波形の波形エネルギーが小さくなり、前記第2時間軸波形の波形エネルギーが大きくなる事象を比により表現するものであり、
前記第2評価指標は、
前記施工不良によって前記導体棒の固定が緩くなり、前記第1時間軸波形及び前記第2時間軸波形の収束時間が長くなる事象を表現するものであり、
前記第3評価指標は、
前記施工不良によって前記第1周波数スペクトル及び前記第2周波数スペクトルが低周波側へシフトする事象を表現するものであり、
前記第4評価指標は、
前記施工不良によって出現する前記第1周波数スペクトル及び前記第2周波数スペクトルの集中の度合いを表現するものであり、
前記第5評価指標は、
前記導体棒が複雑な構造をしている場合の前記施工不良によって出現する複数の周波数スペクトルを表現するものであり、
前記第6評価指標は、
前記施工不良によって出現する前記第1周波数スペクトル及び/又は前記第2周波数スペクトルと複数の標準施工によるスペクトルを平均化したFFT波形との相関係数を表現するものである、
ことを特徴とする請求項
1記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項3】
前記評価ポイント付与処理では、
前記第1評価指標、前記第2評価指標、前記第3評価指標、前記第4評価指標、前記第5評価指標及び前記第6評価指標の一つ以上に対して、前記閾値を基準に前記評価ポイントをそれぞれ付与することを特徴とする、請求項
1に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項4】
前記導体棒は、あと施工アンカーボルトを含む導電部材であることを特徴とする、請求項
1に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項5】
前記評価指標処理では、
さらに、施工不良の時間軸波形と複数の標準施工の平均時間軸波形との相互相関関数の第7評価指
標を求めることを特徴とする、請求項
1に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項6】
前記第7評価指標は、相互相関関数を構成する二つの関数の大きさにより正規化されていることを特徴とする、請求項
5に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項7】
前記第7評価指標は、前記施工不良の程度が大きいほど時間軸波形の形状に差異が出て相互相関関数が小さくなる事象を表現するものであることを特徴とする、請求項
5または
6に記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項8】
前記評価ポイント付与処理では、
前記第2評価指標、前記第7評価指標、前記第3評価指標、前記第4評価指標、前記第5評価指標及び前記第6評価指標の一つ以上に対して、前記閾値を基準に前記評価ポイントをそれぞれ付与することを特徴とする、請求項
5から7の何れかに記載のコンクリート構造物の診断方法。
【請求項9】
コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断装置において、
前記導体棒の周囲のコンクリート表面に配置された第1センサと、
前記導体棒における前記コンクリート表面から露出している露出部に配置された第2センサ及びコイルと、
前記コイルにパルス電流を流して前記コイルよりパルス磁場を発生させ、前記パルス磁場を前記導体棒に作用させて弾性波を発生させる弾性波発生手段と、
前記弾性波を前記第1センサで受信して第1受信信号を生成すると共に、前記弾性波を前記第2センサで受信して第2受信信号を生成する波形受信部と、
前記第1受信信号をフィルタ処理して第1時間軸波形及び前記第2受信信号をフィルタ処理して第2時間軸波形を求める時間軸波形処理部と、
前記第1受信信号をフーリエ変換して第1周波数スペクトル及び前記第2受信信号をフーリエ変換して第2周波数スペクトルを求める周波数スペクトル処理部と、
前記時間軸波形処理部の処理結果に基づき、波形エネルギー比の第1評価指標及び波形継続時間の第2評価指標を求める波形評価指標部と、
前記周波数スペクトル処理部の処理結果に基づき、スペクトルの重心周波数の第3評価指標、前記スペクトルの標準偏差の第4評価指標及び前記スペクトルのピーク数の第5評価指標を求めるスペクトル評価指標部と、
前記第1評価指標、前記第2評価指標、前記第3評価指標、前記第4評価指標、前記第5評価指標及び施工不良のスペクトルと複数の標準施工の平均スペクトルとの相関係数の第6評価指標と、の一つ以上に対して、閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与する評価ポイント付与部と、
を備えることを特徴とするコンクリート構造物の診断装置。
【請求項10】
前記導体棒は、あと施工アンカーボルトを含む導電部材であることを特徴とする請求項
9に記載のコンクリート構造物の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートに導体棒(例えば、アンカーボルト等)が部分的に埋め込まれたコンクリート構造物の診断方法及びその診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁パルス法を用いて、コンクリートに部分的に埋め込まれた導体棒の固着部における劣化等の不具合や欠陥を発見する非破壊検査技術が知られている。電磁パルス法とは、弾性波(音響)を利用した検査手法の一種であり、コイルにパルス大電流を印加することにより発生する「磁気的な力」を利用し、非接触で検査対象物の導体棒自身から弾性波を発生させ、その弾性波を受信・解析することで、対象物の状態を把握する非破壊検査技術である。
【0003】
特許文献1、2等には、電磁パルス法を用いて、コンクリートに部分的に埋め込まれた導体棒(例えば、あと施工アンカーボルト)の固着部における劣化等の不具合や欠陥を診断するコンクリート構造物の診断方法が記載されている。あと施工アンカーボルトとは、コンクリートに下穴を開け、アンカーボルトを部分的に埋め込んで固定したものである。
【0004】
特許文献1、2等に記載された診断方法では、コンクリートに部分的に埋め込まれたあと施工アンカーボルトを診断対象とし、そのアンカーボルトにおけるコンクリート表面から露出している露出部の周囲に、コイルを配置すると共に、そのアンカーボルトの周辺のコンクリート表面にセンサを配置する。そして、電源ユニットから出力されるパルス電流をコイルに流し、このコイルよりパルス磁場を発生させる。発生したパルス磁場は、アンカーボルトに作用し、弾性波が発生する。その弾性波は、コンクリート内部を通過し、コンクリート表面に設定したセンサで受信し、この受信結果を解析処理装置で解析することで、アンカーボルトの固着部における劣化等の不具合や欠陥の施工不良を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-228324号公報
【文献】特開2015-99060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のコンクリート構造物の診断方法では、アンカーボルトの施工不良を評価する方法が充分に確立されていないので、解析処理装置で解析された解析結果を表示画面等に表示し、主として、検査員が見た目で、アンカーボルトの施工不良を判別している。そのため、検査員の経験等により、施工不良の判別精度にばらつきが生じるばかりか、その判別処理が煩雑で、不利不便であった。
【0007】
そこで、本発明は、コンクリート構造物における施工不良の評価を確立することにより、簡単且つ的確に且つ定量的に評価することができるコンクリート構造物の診断方法及びその診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のコンクリート構造物の診断方法は、コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断方法において、前記導体棒の周囲のコンクリート表面に第1センサを配置すると共に、前記導体棒における前記コンクリート表面から露出している露出部に第2センサとコイルとを配置し、以下の処理を有している。
【0009】
即ち、本発明の診断方法では、前記コイルにパルス電流を流して前記コイルよりパルス磁場を発生させ、前記パルス磁場を前記導体棒に作用させて弾性波を発生させる弾性波発生処理と、前記弾性波を前記第1センサで受信して第1受信信号を生成すると共に、前記弾性波を前記第2センサで受信して第2受信信号を生成する受信処理と、前記第1受信信号をフィルタ処理して第1時間軸波形、前記第2受信信号をフィルタ処理して第2時間軸波形、前記第1受信信号をフーリエ変換して第1周波数スペクトル及び前記第2受信信号をフーリエ変換して第2周波数スペクトル、をそれぞれ求めてデータ処理結果を出力するデータ処理と、前記データ処理結果に基づき、導体棒のコンクリートへの施工不良を判定する判定処理、即ち複数の評価指標を求める評価指標処理及び前記複数の評価指標に対して閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与する評価ポイント付与処理と、を有することを特徴とする。
【0010】
例えば、前記評価指標処理では、前記第1時間軸波形の波形エネルギーと前記第2時間軸波形の波形エネルギーとの波形エネルギー比の第1評価指標と、前記第1時間軸波形及び前記第2時間軸波形におけるそれぞれの波頭部の最大振幅に対して10%未満に減衰するまでのそれぞれの波形継続時間の第2評価指標と、前記第1周波数スペクトル及び前記第2周波数スペクトルにおけるそれぞれのスペクトルの重心周波数の第3評価指標と、前記スペクトルの標準偏差の第4評価指標と、前記スペクトルのピーク数の第5評価指標と、施工不良のスペクトルと複数の標準施工の平均スペクトルとの相関係数の第6評価指標と、の一つ以上を求める。
【0012】
本発明の請求項9に記載のコンクリート構造物の診断装置は、コンクリートに導体棒が部分的に埋め込まれて構成されたコンクリート構造物の診断装置において、前記導体棒の周囲のコンクリート表面に配置された第1センサと、前記導体棒における前記コンクリート表面から露出している露出部に配置された第2センサ及びコイルと、前記コイルにパルス電流を流して前記コイルよりパルス磁場を発生させ、前記パルス磁場を前記導体棒に作用させて弾性波を発生させる弾性波発生手段と、前記弾性波を前記第1センサで受信して第1受信信号を生成すると共に前記弾性波を前記第2センサで受信して第2受信信号を生成する波形受信部と、を備えている。例えば、前記導体棒は、あと施工アンカーボルトを含む導電部材である。
【0013】
更に、本発明の診断装置では、前記第1受信信号をフィルタ処理して第1時間軸波形、及び前記第2受信信号をフィルタ処理して第2時間軸波形を求める時間軸波形処理部と、前記第1受信信号をフーリエ変換して第1周波数スペクトル及び前記第2受信信号をフーリエ変換して第2周波数スペクトルを求める周波数スペクトル処理部と、前記時間軸波形処理部の処理結果に基づき、波形エネルギー比の第1評価指標及び波形継続時間の第2評価指標を求める波形評価指標部と、前記周波数スペクトル処理部の処理結果に基づき、スペクトルの重心周波数の第3評価指標、前記スペクトルの標準偏差の第4評価指標及び前記スペクトルのピーク数の第5評価指標を求めるスペクトル評価指標部と、前記第1評価指標、前記第2評価指標、前記第3評価指標、前記第4評価指標、前記第5評価指標及び施工不良のスペクトルと複数の標準施工の平均スペクトルとの相関係数の第6評価指標と、の一つ以上に対して、閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与する評価ポイント付与部と、を備えることを特徴とする。
例えば、前記導体棒は、あと施工アンカーボルトを含む導電部材である。
【0020】
本発明の請求項5に記載のコンクリート構造物の診断方法は、請求項1に記載のコンクリート構造物の診断方法において、前記評価指標処理では、さらに施工不良の時間軸波形と複数の標準施工の平均時間軸波形との相互相関関数の第7評価指標を求めることを特徴とする。
【0021】
さらに好ましくは、第7評価指標は、相互相関関数を構成する二つの関数の大きさにより正規化されている。
【0022】
ここで、第2評価指標は、施工不良によって導体棒の固定が緩くなり、時間軸波形の収束時間が長くなる事象を表現するものであり、第3評価指標は、施工不良によって周波数スペクトルが低周波側へシフトする事象を表現するものであり、第4評価指標は、施工不良によって出現する周波数スペクトルの集中の度合いを表現するものであり、第5評価指標は、導体棒が複雑な構造をしている場合の施工不良によって出現する複数の周波数スペクトルを表現するものであり、第6評価指標は、施工不良によって出現する周波数スペクトルと複数の標準施工によるスペクトルを平均化したFFT波形との相関係数を表現するものであり、第7評価指標は、施工不良の程度が大きいほど時間軸波形の形状に差異が出て相互相関関数が小さくなる事象を表現するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1に記載のコンクリート構造物の診断方法及び請求項9に記載の診断装置によれば、コンクリート表面で受信した第1センサの第1受信信号と、コンクリート表面から露出している導体棒の露出部で受信した第2センサの第2受信信号と、から複数の評価指標をポイント化し、コンクリート構造物の施工不良を評価するようにしたので、コンクリート構造物の施工不良を簡単且つ的確に評価することができる。
また、本発明の請求項5に記載のコンクリート構造物の診断方法によれば、センサにより検出した弾性波の時間軸波形に基づいて、コンクリート構造物の施工不良を評価するようにしたので、位相ずれがあっても、位相ずれの影響を大きく受けるようなことなく、相関を計算することができ、コンクリート構造物の施工不良をより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施例1におけるコンクリート建造物の診断装置を示す概略の構成図である。
【
図2】
図1中の情報処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図5】コンクリート構造物として作製した試験体を示す平面図である。
【
図6】
図5の試験体に埋め込んだ接着系樹脂カプセル式のアンカーボルトを示す拡大側面図である。
【
図7】コンクリート構造物として作製した他の試験体を示す平面図である。
【
図8】
図7の試験体に埋め込んだ金属系スリーブ拡張式のアンカーボルトを示す拡大側面図である。
【
図9】本発明の実施例1におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
【
図10】
図2中の波形エネルギー比の説明図である。
【
図11】
図2中の波形エネルギー比の説明図である。
【
図13】
図2中のスペクトルの重心周波数の説明図である。
【
図14】
図2中のスペクトルの標準偏差の説明図である。
【
図15】
図2中のスペクトルのピーク数の説明図である。
【
図16】
図2中の波形エネルギー比における評価ポイントの付け方を説明する図である。
【
図17】
図2中の波形継続時間における評価ポイントの付け方を説明する図である。
【
図18】閾値と評価ポイントのまとめを示す図である。
【
図19】施工不良例の評価ポイントグラフを示す図である。
【
図20】本発明の実施例2におけるコンクリート建造物の診断装置を示す機能ブロック図である。
【
図21】実施例2におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
【
図22】評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときのFFT波形を示す図である。
【
図23】評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときのFFT波形の平均を示す図である。
【
図24】新たな評価対象を標準施工としたときのFFT波形と、標準施工のFFT波形の平均(x)とのFFT波形の比較を示す図である。
【
図25】評価対象を施工不良としたときのFFT波形と、標準施工のFFT波形の平均(x)とのFFT波形の比較を示す図である。
【
図26】実施例2の閾値と評価ポイントのまとめを示す図である。
【
図27】実施例2の施工不良例の評価ポイントグラフを示す図である。
【
図28】本発明の実施例3におけるコンクリート建造物の診断装置を示す概略の構成図である。
【
図29】
図28中の情報処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図32】本発明の実施例3におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
【
図33】閾値と評価ポイントのまとめを示す図である。
【
図34】本発明の実施例4における
図29と同様の情報処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図35】
図34中の評価分析装置の第一の構成例を示す概略図である。
【
図36】
図35の評価分析装置で使用される教師信号の一例を示す概略図である。
【
図37】
図35の評価分析装置における識別結果を示す概略図である。
【
図38】
図35の評価分析装置における学習の際に入力層に入力される既知の標準施工時の入力データを示すグラフである。
【
図39】
図35の評価分析装置における学習の際に入力層に入力される既知の奥充填施工時の入力データを示すグラフである。
【
図40】
図35の評価分析装置における学習の際に入力層に入力される既知の手前充填施工時の入力データを示すグラフである。
【
図41】
図35の評価分析装置における識別の際に入力層に入力される未知の標準施工時の入力データを示すグラフである。
【
図42】
図35の評価分析装置における識別の際に入力層に入力される未知の奥充填施工時の入力データを示すグラフである。
【
図43】
図35の評価分析装置における識別の際に入力層に入力される未知の手前充填施工時の入力データを示すグラフである。
【
図44】
図34中の評価分析装置の変形例を示す概略図である。
【
図45】
図44の評価分析装置で使用される教師信号の一例を示す概略図である。
【
図46】
図44の評価分析装置における識別結果を示す概略図である。
【
図47】実施例5における
図29と同様の情報処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図48】実施例5におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
【
図49】評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときの時間軸波形を示す図である。
【
図50】評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときの時間軸波形の平均を示す図である。
【
図51】新たな評価対象を標準施工としたときの、(A)は時間軸波形、(B)は
図50の平均時間軸波形との相互相関関数、(C)は正規化相互相関関数を示す図である。
【
図52】新たな評価対象を施工不良としたときの、(A)は時間軸波形、(B)は
図50の平均時間軸波形との相互相関関数、(C)は正規化相互相関関数を示す図である。
【
図53】実施例5の閾値と評価ポイントのまとめを示す図である。
【
図54】実施例5の施工不良例の評価ポイントグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0029】
(コンクリート建造物の診断装置)
【0030】
図1(a)、(b)は、本発明の実施例1におけるコンクリート建造物の診断装置を示
す概略の構成図であり、同図(a)は診断装置全体の構成図、及び同図(b)は同図(a)中の波形受信部(例えば、アナログ/デジタル変換装置、以下「AD変換装置」という。)の構成図であり、
図2は、
図1中の情報処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【0031】
図1(a)に示すように、コンクリート建造物の診断装置は、コンクリート1に部分的に埋め込まれた導体棒(例えば、あと施工アンカーボルト)10を診断対象とし、そのあと施工アンカーボルト10の埋め込まれた固着部における劣化等の不具合や欠陥を診断する装置である。あと施工アンカーボルト10とは、コンクリート1に下穴を開け、そのアンカーボルト10を部分的に埋め込んで固定するものである。アンカーボルト10の周囲のコンクリート1の表面上には、弾性波を検出するための複数の第1センサ(例えば、AE(Acoustic Emission)センサ)21-1~21-4が配置され、例えば、樹脂接着工具(グルーガン)等で固定されている。
【0032】
複数のセンサ21-1~21-4は、アンカーボルト10を中心にした円周上に、例えば、90°間隔で4個、コンクリート表面上に固定されている。アンカーボルト10において、コンクリート表面から露出している露出部の上端には、弾性波を検出するための第2センサ(例えば、小型のAEセンサ)22が配置され、グルーガン等で固定されている。
更に、アンカーボルト10の露出部の周囲には、パルス磁場を発生させるためのコイル(例えば、リングコイル)23が配置されている。コイル23の上端は、例えば、アンカーボルト10の上端と一致するように設置されている。
【0033】
コイル23には、ケーブルを介してパルス電流発生用のコイルユニット24が接続されている。更に、コイルユニット24には、ケーブルを介して電源電力供給用の電磁パルス電源25が接続されている。コイルユニット24及び電磁パルス電源25は、コイル23にパルス電流を流してこのコイル23からパルス磁場を発生させ、このパルス磁場をアンカーボルト10に作用させて弾性波を発生させる弾性波発生手段を構成している。
【0034】
複数のセンサ21-1~21-4,22には、ケーブルを介して、波形受信部としてのAD変換装置26が接続されている。AD変換装置26は、センサ21-1~21-4で受信したアナログの弾性波信号を増幅した後にデジタル信号からなる第1受信信号S26aに変換すると共に、センサ22で受信したアナログの弾性波信号を増幅した後にデジタル信号からなる第2受信信号S26bに変換する装置である。
【0035】
図1(b)に示すように、AD変換装置26は、例えば、アナログの弾性波信号を、サンプリング周波数100MHz、データ長10msにてデジタル信号に変換している。このAD変換装置26には、信号線を介して情報処理装置30が接続されている。情報処理装置30は、入力される受信信号S26a,S26bを演算して、アンカーボルト10の固着部における劣化等の不具合や欠陥を評価するための装置であり、例えば、パーソナルコンピュータ(パソコン)等で構成されている。
【0036】
図3(a)、(b)及び
図4(a)、(b)は、
図1の弾性波の測定条件を示す図である。
【0037】
図1中のあと施工アンカーボルト10は、コンクリート1に下穴を開け、この下穴にアンカーボルト10を部分的に埋め込んで固定するものであり、用途によって多くの種類(例えば、接着系アンカーボルト、金属系アンカーボルト、その他のアンカーボルト類)がある。接着系アンカーボルトは、母材に予め開けた下穴に充填したカプセル方式又は注入方式の接着剤が化学反応により硬化し、定着部を物理的に固着するものであり、これには接着系樹脂カプセル定着、無機チューブ定着、樹脂注入式定着等の固着方式がある。金属系アンカーボルトは、金属拡張アンカーボルト(例えば、金属系スリーブ拡張式等)とその他の金属系アンカーボルトとに分かれる。金属系スリーブ拡張式のアンカーボルトは、母材に予め開けた下穴の中で、その拡張部であるスリーブが開き、下穴の内壁に機械的に固着するものである。
【0038】
図3(a)、(b)には、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aを用いた測定条件の例が示され、同図(a)はアンカーボルト周辺の斜視図、及び、同図(b)はアンカーボルトの拡大側面図である。
【0039】
図3(a)に示すように、コンクリート用センサ21-1~21-4は、例えば、重さ70gのAEセンサである。アンカーボルト10Aの露出部用センサ22は、例えば、重さ8gの小型AEセンサである。アンカーボルト10Aとセンサ21-1~21-4との間は、例えば、100mmである。5個のセンサ21-1~21-4,22は、例えば、グルーガンで固定されており、同時に測定する。センサ21-1~21-4の測定は同時に限らず、1個ずつ順次に測定してもよい。
【0040】
図3(b)に示すように、コンクリート1には、下穴2が開けられている。下穴2は、例えば、口径φが19mm、深さが130mmであり、この中に接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aが挿入され、下穴2に挿入されたカプセルから流出した樹脂3により固着される。アンカーボルト10Aは、例えば、直径Mが16mm、長さが230mmのクロムモリブデン鋼(SNB7)で作られている。アンカーボルト10Aは、例えば、下穴2内に挿入される長さ130mmの固着部11と、コンクリート表面から露出する長さ100mmの露出部12と、により構成されている。
【0041】
図4(a)、(b)には、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを用いた測定条件の例が示され、同図(a)はアンカーボルト周辺の斜視図、及び、同図(b)はアンカーボルトの拡大側面図である。
【0042】
図4(a)に示すように、コンクリート用センサ21-1~21-4は、
図3(a)と同様に、例えば、重さ70gのAEセンサである。アンカーボルト10Bの露出部15の上端には、静磁場印加用のマグネット(磁石)27を介して、センサ22が配置されている。マグネット27は、コイル23に発生するパルス磁場を補強するために、アンカーボルト10Bの軸方向にバイアスの静磁場を印加するためのものである。
図3(a)と同様に、センサ22は、例えば、重さ8gの小型AEセンサである。アンカーボルト10Bとセンサ21-1~21-4との間は、例えば、100mmである。5個のセンサ21-1~21-4,22及びマグネット27は、例えば、グルーガンで固定されている。5個のセンサ21-1~21-4,22は、同時に測定する。センサ21-1~21-4の測定は同時に限らず、1個ずつ順次に測定してもよい。
【0043】
図4(b)に示すように、コンクリート1には、下穴2が開けられている。下穴2は、例えば、口径φが35mm、深さが155mmであり、この中に金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bが打ち込まれて固着される。アンカーボルト10Bは、例えば、直径Mが24mm、長さが230mmのステンレス鋼(SUS材)で作られている。そのため、磁場補強用のマグネット27が使用される。アンカーボルト10Bは、例えば、下穴2内に打ち込まれる長さ140mmの金属系スリーブ13と、このスリーブ13内に挿着される長さ155mmの固着部14と、コンクリート表面から露出する長さ75mmの露出部15と、により構成されている。スリーブ13の頭部の深さは、例えば、打ち込み前が20mm、打ち込み後の深さが0.7mm~2.8mmになっている。
【0044】
図2は、
図1中の情報処理装置30の構成例を示す機能ブロック図である。
この情報処理装置30は、AD変換装置26から出力される第1受信信号S26a及び第2受信信号S26bに対してデータ処理を行う時間軸波形処理部40及び周波数スペクトル処理部50と、その時間軸波形処理部40の出力側に接続された波形評価指標部60と、その周波数スペクトル処理部50の出力側に接続されたスペクトル評価指標部70と、その波形評価指標部60及びスペクトル評価指標部70の出力側に接続された評価ポイント付与部80と、を備えている。
【0045】
時間軸波形処理部40は、AD変換装置26から出力される第1受信信号S26a及び第2受信信号S26bを入力し、その第1受信信号S26aをフィルタ処理して第1時間軸波形S44aの信号を求めると共に、その第2受信信号S26bをフィルタ処理して第2時間軸波形S44bの信号を求めるものである。時間軸波形処理部40は、例えば、受信信号S26a,S26bの低周波成分のみを通過させる2MHzのローパスフィルタ(以下「LPF」という。)41と、このLPF41の出力信号をテキストファイル(例えば、CSV(Comma Separated Values)ファイル)に変換するファイル変換部42と、このファイル変換後の信号に対して処理を簡略化するための間引きを行う間引き部43と、この間引き後の信号の高周波成分のみを通過させる2.5kHzのハイパスフィルタ(以下「HPF」という。)44と、を有している。HPF44では、例えば、サンプリング周波数1MHz、データ長10msの第1時間軸波形S44a及び第2時間軸波形S44bの信号を出力する機能を有している。
【0046】
周波数スペクトル処理部50は、AD変換装置26から出力される第1受信信号S26a及び第2受信信号S26bを入力し、その受信信号S26aをフーリエ変換(例えば、高速フーリエ変換、以下「FFT」という。)して第1周波数スペクトルを求めると共に、その受信信号S26bをFFTして第2周波数スペクトルを求めるFFT部51と、このFFT部51から出力される第1、第2周波数スペクトルをテキストファイル(例えば、CSVファイル)に変換するファイル変換部52と、を有している。テキストファイルに変換された第1周波数スペクトルS52a及び第2周波数スペクトルS52bは、例えば、周波数範囲が0~50kHz、周波数分解能が200Hz、及び、FFTポイント数が250である。
【0047】
波形評価指標部60は、HPF44から出力される第1、第2時間軸波形S44a,S44bの信号に基づき、波形エネルギー比SRの第1評価指標EI1、及び波形継続時間TCの第2評価指標EI2を求めるものである。スペクトル評価指標部70は、ファイル変換後の第1、第2周波数スペクトルS52a,S52bの信号に基づき、スペクトルの重心周波数SCの第3評価指標EI3、そのスペクトルの標準偏差SDの第4評価指標EI4、及びそのスペクトルのピーク数SPの第5評価指標EI5を求めるものである。
【0048】
ここで、第1評価指標EI1となる波形エネルギー比SRは、コンクリート表面の波形エネルギーとアンカーボルト露出部の波形エネルギーとの比であり、施工不良によってコンクリート表面の波形エネルギーが小さくなり、アンカーボルト露出部の波形エネルギーが大きくなる事象を比により表現している。第2評価指標EI2となる波形継続時間TCは、時間軸波形で波頭部の最大振幅に対して例えば10%未満に減衰するまでの時間であり、施工不良によってアンカーボルト10A,10Bの拘束が緩くなり、時間軸波形の収束時間が長くなる事象を表現している。第3評価指標EI3となるスペクトルの重心周波数SCは、特定の周波数スペクトルの重心周波数であり、施工不良によって周波数スペクトルが低周波側へシフトする事象を表現している。第4評価指標EI4となるスペクトルの標準偏差SDは、特定の周波数スペクトルのピークの尖り方であり、施工不良によって出現する周波数スペクトルの集中の度合いを表現している。更に、第5評価指標EI5となるスペクトルのピーク数SPは、周波数スペクトルのピーク数であり、特に複雑な構造をした機械式アンカーボルト(例えば、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10B)の施工不良によって出現する複数の周波数スペクトルのピーク数を表現している。
【0049】
波形評価指標部60及びスペクトル評価指標部70の出力側に接続された評価ポイント付与部80は、入力される第1、第2、第3、第4、第5評価指標EI1~EI5の一つ以上に対し、閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与してその評価ポイントの合計等を表示するものである。
【0050】
(コンクリート建造物の診断方法)
【0051】
図5は、コンクリート構造物として作製した試験体5Aを示す平面図である。
試験体5Aとして、トンネルの天井板を固定する接着系のあと施工アンカーボルトを想定し、直方体のコンクリート1A(例えば、横1800mm、縦900mm)に、複数本(例えば、18本)の接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aを、施工条件を異ならせて上向きに埋め込んだ。コンクリート1Aの平面において、施工条件の異なる3種類(No1,No2,No3)のアンカーボルト10Aを縦方向に配置し、横方向に6本のアンカーボルト10Aをそれぞれ配置した。各アンカーボルト10Aの配置間隔は、例えば、250mmである。横方向に配置された各6本のアンカーボルト10Aは、上方視において、270°側から90°方向に1~6の符号が付されている。
【0052】
3種類(No1,No2,No3)のアンカーボルト10Aのうち、種類No1は標準施工のもの、種類No2は下穴2Aが深いために先端カプセルが残っているもの、種類No3は予想定着長が40mmであって樹脂量が少ないものである。
【0053】
図6(a)~(c)は、
図5の試験体1Aに埋め込んだ接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aを示す拡大側面図である。
【0054】
図6(a)に示す種類No1のアンカーボルト10Aは、標準施工のものであって、
図3(b)と同様に、例えば、クロムモリブデン鋼(SNB7)で作られ、直径Mが16mm、長さが230mmである。アンカーボルト10Aは、コンクリート1Aに開けられた下穴2A(例えば、口径19mm、深さ130mm)内に、樹脂カプセル4の樹脂3で定着されている。
【0055】
図6(b)に示す種類No2のアンカーボルト10Aは、
図6(a)のものと同一寸法であるが、下穴2Aが深い(例えば、口径19mm、深さが180mm)ので、先端に樹脂カプセル4が残り、施工不良状態になっている。
【0056】
又、
図6(c)に示す種類No3のアンカーボルト10A及び下穴2Aは、
図6(a)のものと同一寸法であるが、樹脂カプセル4が下穴2A奥側のひび割れに浸入して樹脂量が減少する不良を模擬するために、樹脂カプセル4を意図的に切断して施工したので、樹脂3が減少し、例えば、奥側90mmに空気溜まり6が生じ、予想定着長が40mmになっている。空気溜まり6の箇所は、例えば、ポリエチレンスリーブ及び発泡ウレタンシートを巻きつけて、樹脂3が浸入しないようにして、施工不良状態を再現している。
【0057】
図7は、コンクリート構造物として作製した他の試験体5Bを示す平面図である。
他の試験体5Bとして、トンネルのジェットファンを固定する金属系のあと施工アンカーボルトを想定し、
図5の直方体のコンクリート1Aと同一寸法の直方体のコンクリート1Bに、複数本(例えば、18本)の金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを、施工条件を異ならせて下向きに埋め込んだ。コンクリート1Bの平面において、施工条件の異なる3種類(No4,No5,No6)のアンカーボルト10Bを縦方向に配置し、横方向に6本のアンカーボルト10Bをそれぞれ配置した。各アンカーボルト10Bの配置間隔は、
図5と同一である。横方向に配置された各6本のアンカーボルト10Bは、
図5と同様に、270°側から90°方向に1~6の符号が付されている。なお、1~3番のアンカーボルト10Bは、引き抜き試験実施済であり、それぞれの施工で、4~6番の3本のアンカーボルト10Bを診断する。
【0058】
3種類(No4,No5,No6)のアンカーボルト10Bのうち、種類No4は標準施工のもの(例えば、下穴2Bの口径φが35mm、深さが155mm)、種類No5は下穴2Bの口径φが拡大しているもの(例えば、38mm)、種類No6は下穴2Bが深い(例えば、170mm)ために打ち込み不良になっているものである。
【0059】
図8(a)~(c)は、
図7の試験体5Bに埋め込んだ金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを示す拡大側面図である。
図8(a)に示す種類No4のアンカーボルト10Bは、標準施工のものであって、
図4(b)と同様に、例えば、ステンレス材(SUS材)で作られ、直径Mが24mm、長さが230mmである。アンカーボルト10Bは、直方体のコンクリート1Bに開けられた下穴2B(例えば、口径35mm、深さ155mm)内に、拡張した金属スリーブ13で定着されている。例えば、金属スリーブ13の上端は、打ち込み前は、露出部上端から55mmの位置にあり、打ち込み後は、コンクリート1Bの表面から、0.7mm~2.8mmの深さになっている。
【0060】
図8(b)に示す種類No5のアンカーボルト10Bは、
図8(a)のものと同一寸法であるが、下穴2Bの口径φが拡大しているので(例えば、38mm)、打ち込み後の金属スリーブ13の上端が、コンクリート1Bの表面から例えば6.6mm~8.7mmの深さになっている。
【0061】
又、
図8(c)に示す種類No6のアンカーボルト10Bは、
図8(a)のものと同一寸法であるが、下穴2Bの深さが大きいので(例えば、口径φは
図8(a)と同一の35mmであるが、深さが170mmと大きい)、打ち込み不良状態になっている。
【0062】
このような
図5及び
図7の試験体5A,5Bを用いた本実施例1の診断方法を以下説明する。
【0063】
図9は、本発明の実施例1におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
このコンクリート建造物の診断方法では、以下の弾性波発生処理ST1、受信処理ST2、データ処理ST3、評価指標処理ST4、及び、評価ポイント付与処理ST5が順に行われる。
【0064】
(I) 弾性波発生処理ST1
予め、
図5及び
図7の試験体5A,5Bと
図1~
図4の診断装置とを用意し、電磁パルス電源25をオン状態にして処理を開始する。電磁パルス電源25から電源電力が出力されてコイルユニット24へ供給される。コイルユニット24からパルス電流が出力され、このパルス電流が、アンカーボルト露出部12,15に配置されたコイル23に流れる。すると、コイル23からパルス磁場が発生し、アンカーボルト10(即ち、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10A)が振動して弾性波が発生する。金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bの場合には、マグネット27から静磁場が発生しているので、この静磁場をバイアスとしてコイル23からパルス磁場が発生し、アンカーボルト10Bが振動して弾性波が発生する。発生した弾性波は、コンクリート1A,1Bの内部を通過し、アンカーボルト10A,10Bの周囲のコンクリート表面へと伝播していく。
【0065】
(II) 受信処理ST2
コンクリート表面に伝播した弾性波は、コンクリート表面に配置された複数のセンサ21-1~21-4により受信される。同時に、アンカーボルト露出部12,15に配置されたセンサ22により、そのアンカーボルト露出部12,15から発生した弾性波が受信される。複数のセンサ21-1~21-4により受信されたアナログの受信信号と、センサ22により受信されたアナログの受信信号と、がAD変換装置26へ送られる。AD変換装置26では、例えば、複数のセンサ21-1~21-4から供給されるアナログの受信信号を、サンプリング周波数100MHz、データ長10msにて、デジタル信号に変換し、第1受信信号S26aを情報処理装置30へ出力すると共に、センサ22から供給されるアナログの受信信号をデジタル信号に変換し、第2受信信号S26bを情報処理装置30へ出力する。
【0066】
(III) データ処理ST3
情報処理装置30内の時間軸波形処理部40及び周波数スペクトル処理部50において、時間軸波形処理部40による時間軸波形処理ST3aと、周波数スペクトル処理部50による周波数スペクトル処理ST3bと、からなるデータ処理ST3が行われる。
【0067】
即ち、時間軸波形処理部40において、入力された第1受信信号S26a及び第2受信信号S26bは、2MHzのLPF41によって高周波成分が除去され、ファイル変換部42によってCSVファイルに変換される。変換されたCSVファイルは、間引き部43によってデータが間引かれ、2.5kHzのHPF44によって低周波成分が除去され、サンプリング周波数1MHz、データ長10msの第1時間軸波形S44a及び第2時間軸波形S44bの信号が生成され、波形評価指標部60へ出力される。
【0068】
更に、周波数スペクトル処理部50において、入力された第1受信信号S26a及び第2受信信号S26bは、FFT部51によって高速フーリエ変換が行われ、周波数スペクトルの信号が生成される。生成された周波数スペクトルの信号は、ファイル変換部52によってCSVファイルに変換され、周波数範囲0~50kHz、周波数分解能200Hz、及びFFTポイント数250の第1周波数スペクトルS52a及び第2周波数スペクトルS52bの信号が生成され、スペクトル評価指標部70へ出力される。
【0069】
(IV) 評価指標処理ST4
波形評価指標部60及びスペクトル評価指標部70では、以下のようにして評価指標処理ST4を行い、第1時間軸波形の波形エネルギーと第2時間軸波形の波形エネルギーとの波形エネルギー比SRの第1評価指標EI1と、第1時間軸波形及び第2時間軸波形におけるそれぞれの波頭部の最大振幅に対して例えば10%未満に減衰するまでのそれぞれの波形継続時間TCの第2評価指標EI2と、第1周波数スペクトル及び第2周波数スペクトルにおけるそれぞれのスペクトルの重心周波数SCの第3評価指標EI3と、スペクトルの標準偏差SDの第4評価指標EI4と、スペクトルのピーク数SPの第5評価指標EI5と、を求める。第1時間軸波形及び第2時間軸波形におけるそれぞれの波形継続時間TCの第2評価指標EI2は、例として波頭部の最大振幅としたが、第1時間軸波形及び/又は第2時間軸波形における波形中の最大振幅としてもよい。又、減衰するまでの波形継続時間TCは、10%未満に限らず所定の振幅に設定してもよい。
【0070】
図10(a)、(b)及び
図11(a)、(b)は、
図2中の波形エネルギー比SRの説明図である。
図10(a)はコンクリート表面の波形エネルギーを示す波形図、及び、
図10(b)はアンカーボルト露出部12,15の波形エネルギーを示す波形図である。
図10(a)、(b)の横軸は時間(ms)、縦軸は電圧(V)である。
図11(a)は標準施工の場合の波形エネルギーの大小関係を示す模式図、及び、
図11(b)は施工不良の場合の波形エネルギーの大小関係を示す模式図である。
【0071】
波形エネルギーは、サンプリングする各点における振幅値の2乗和で表され、式(1)により算出できる。
【数1】
但し、E;エネルギー(V2)
yi;サンプリングする各点における振幅(V)
n;サンプリング数
【0072】
波形エネルギー比SRは、式(2)に示すように、コンクリート表面の波形エネルギーとアンカーボルト露出部12,15の波形エネルギーとの比である。つまり、コンクリート表面4方向の波形エネルギーの値をそれぞれアンカーボルト露出部12,15の波形エネルギーの値で割り算する。
【数2】
【0073】
図11(a)、(b)に示すように、波形エネルギー比SRは、波形エネルギー単独より変化が大きいため、施工不良を判別し易くなる。波形エネルギー比SRは、施工不良におけるコンクリート表面の波形エネルギーとアンカーボルト露出部12,15の波形エネルギーとの比による指標なので、標準施工との比較が容易となり、場合によっては標準施工との比較が必要ではなくなる可能性がある。
【0074】
図12は、
図2中の波形継続時間TCの説明図であり、横軸は時間、縦軸は電圧である。
波形継続時間TCは、時間軸波形で振動初期到達時間t1から波頭部の最大振幅(MAX)に対して例えば10%未満に減衰するまでの時間t2である。そのため、施工不良によってアンカーボルト10A,10Bの拘束が緩くなり、時間軸波形の収束時間が長くなることが分かる。
【0075】
図13は、
図2中のスペクトルの重心周波数SCの説明図であり、横軸は周波数f(kHz)、縦軸はスペクトル強度である。抽出レベルELが最大ピークPmaxの30%の場合が示されている。
【0076】
図14(a)、(b)は、
図2中のスペクトルの標準偏差SDの説明図であり、横軸は周波数、縦軸はスペクトル強度である。小さなピークや裾野部分の広がりの影響を低減するために、指標の計算範囲を最大±2.5kHzとしている。
図14(a)では、最大ピークPmaxの30%ラインのカット幅F30が5kHz以上の場合(F30≧5kHz)の計算範囲が示されている。
図14(b)では、最大ピークPmaxの30%ラインのカット幅F30が5kHzよりも小さい場合(F30<5kHz)の計算範囲が示されている。
【0077】
図15は、
図2中のスペクトルのピーク数SPの説明図であり、横軸は周波数f、縦軸はスペクトル強度H(f)である。
【0078】
図13~
図15に示すように、スペクトルの重心周波数SC、スペクトルの標準偏差SD、及びスペクトルのピーク数SPを以下の(a)~(d)のようにして求める。
【0079】
(a)
図13に示すように、スペクトルの最大ピークに対してある割合(例えば、抽出レベルELが最大ピークの30%)以上の強度があるスペクトルを抽出する。
(b) (a)の中から最も周波数の低いスペクトルSfminを抽出する。
(c) (b)で抽出した最も周波数の低いスペクトルSfminについて、
図14(a)に示すように、F30≧5kHzの場合は、極大値±2.5kHzの範囲で、スペクトルの重心SCを式(3)で計算すると共に、スペクトルの標準偏差SDを式(4)で計算する。F30<5kHzの場合は、F30の範囲で、スペクトルの重心SCを式(3)で計算すると共に、スペクトルの標準偏差SDを式(4)で計算する。
(d)
図15に示すように、(a)で抽出したスペクトルのピーク数SPをカウントする。つまり、
図15に示すグラフの傾きが正から負に変わる点をカウントする。
【数3】
【数4】
【0080】
(V) 評価ポイント付与処理ST5
評価ポイント付与部80では、5つの評価指標EI1~EI5のうちの一つ以上に対して、閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与する評価ポイント付与処理ST5を行う。評価ポイント付与処理ST5では、以下の(i),(ii)のようにして、複数の評価指標EI1~EI5のそれぞれに対して、閾値を基準に評価ポイントをそれぞれ付与する。
【0081】
(i) 評価指標毎に不良(NG)評価する閾値を設定する。この際、標準施工のデータがばらついてもできるだけ不良(NG)評価しないように余裕を持って設定する。
(ii) それぞれの評価指標EI1~EI5において、閾値を基準に評価ポイントを付与する。
【0082】
図16は、
図2中の波形エネルギー比SR(=コンクリート表面/アンカーボルト露出部)における評価ポイントの付け方を説明する図である。
各センサ21-1~21-4毎に求める波形エネルギー比SRの閾値は0.5以下(SR≦0.5)である。波形エネルギー比SRは、コンクリート表面のセンサ21-1~21-4とアンカーボルト露出部12,15のセンサ22との2箇所の測定データを使って算出しているため、4個のセンサ21-1~21-4について各2点としている。従って、評価ポイントは、合計8点になる。
【0083】
図17は、
図2中の波形継続時間TCにおける評価ポイントの付け方を説明する図である。
各センサ21-1~21-4毎に求める波形継続時間TCの閾値は8(ms)以上(TC≧8(ms))、更に、センサ22で求める波形継続時間TCの閾値は3(ms)以上(TC≧3(ms))である。アンカーボルト10A,10Bの評価ポイントは、コンクリート表面のセンサ21-1~21-4の合計と同じになるように4点としたので、評価ポイントの合計は8点になる。
【0084】
その他のスペクトルの重心SC、スペクトルの標準偏差SD、及びスペクトルのピーク数SPにおける評価ポイントは、波形継続時間TCと同じ配点になる。
【0085】
図18は、閾値と評価ポイントのまとめを示す図である。
この
図18には、スペクトルの重心SC、スペクトルの標準偏差SD、及びスペクトルのピーク数SPの閾値が示されている。評価ポイント付与処理ST5の処理結果の例が、
図19に示されている。
【0086】
図19は、施工不良例の評価ポイントグラフ(標準施工を除く)を示す図である。
図19の横軸は、施工不良の種類(1)~(3)とアンカーボルト10A,10Bの違いA~Oを示し、縦軸は評価ポイントの合計を示す。
【0087】
施工不良の種類(1)~(3)とアンカーボルト10A,10Bの違いA~Oは、以下の通りである。
【0088】
種類(1)は、
図7及び
図8に示すNo5の金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bである。このNo5のアンカーボルト10Bでは、下穴径拡大により支圧力不足になっている。そのうち、アンカーボルト10Bの違いAは、No5の4番(No5_4)のアンカーボルト10Bであり、ポイントは34である。同様に、違いBは、No5の5番(No5_5)のものであってポイントは30、違いCは、No5の6番(No5_6)のものであってポイントは30である。
ここで、施工した金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bの短期許容荷重の計算結果は、72.4kN(キロニュートン)であった。アンカーボルトの10Bの引き抜き耐力として、上記No5が8.1~12.0kNであった。No5の引き抜き耐力は、短期許容荷重の計算結果(72.4kN)と比較すると、引き抜き耐力が著しく低い不良であることが判明した。
【0089】
種類(2)は、
図5及び
図6に示すNo2の接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aである。このNo2のアンカーボルト10Aでは、下穴が深いために、先端カプセルが残り、接着剤充填不足になっている。そのうち、アンカーボルト10Aの違いDは、No2の1番(No2_1)のアンカーボルト10Aであり、ポイントは25である。同様に、違いE,F,G,H,Iは、それぞれNo2_2,No2_3,No2_4,No2_5,No2_6のアンカーボルト10Aであり、ポイントは、それぞれ24,27,28,24,25である。ここで、施工した接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aの短期許容荷重の計算結果は、36.9kNであった。アンカーボルト10Aを実際に引き抜いた時の耐力は、No2が51.6~80.8kN、No3が0.7~3.0kNであった。No3の引き抜き耐力は、短期許容荷重の計算結果(36.9kN)と比較すると、引き抜き耐力が著しく低い不良であることが判明した。また、
図6(a)に示す標準施工をしたNo1の引き抜き耐力は、148.0~152.3kNであり、No1に比べるとNo2も60%以下しか耐力がないことが判明した。
【0090】
種類(3)は、
図5及び
図6に示すNo3の接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aである。このNo3のアンカーボルト10Aでは、樹脂減少のため、接着剤充填不足になっている。そのうち、アンカーボルト10Aの違いJは、No3の1番(No3_1)のアンカーボルト10Aであり、ポイントは18である。同様に、違いK,L,M,N,Oは、それぞれNo3_2,No3_3,No3_4,No3_5,No3_6のアンカーボルト10Aであり、ポイントは、それぞれ14,17,20,18,17である。
【0091】
この
図19に示すように、評価ポイント付与処理ST5の処理結果として、評価ポイントの合計をグラフや数値等で表示すれば、アンカーボルト10A,10Bの施工不良を簡単且つ的確且つ定量的に評価することができる。
【0092】
即ち、
図9の診断処理では、センサ21-1~21-4,22で受信した受信信号S26a,S26bから、データ処理ST3によって時間軸波形S44a,S44b及び周波数スペクトルS52a,S52bを求める。そして、評価指標処理ST4により、波形エネルギー比SR、波形継続時間TC、スペクトルの重心周波数SC、標準偏差SD、及びピーク数SPを求め、これらに評価ポイント付与処理ST5によって評価ポイントを付与し、この評価ポイントの合計から、アンカーボルト10A,10Bの施工不良を評価した。上記した引き抜き耐力と比較すると、特に、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10BのNo5と、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10AのNo3とにおいて、引き抜き耐力が著しく低い施行不良であった。
従って、
図19に示すポイントグラフで、例えば評価ポイント10を引き抜き耐力が著しく低い不良を検出するための評価境界に設定すると、それ以上では引き抜き耐力が標準施工の60%以下になる施工不良を検出することが可能となる。この結果、引き抜き耐力の著しく低かった不良は、確実に検出できたことになる。
【0093】
(実施例1の効果)
本実施例1のコンクリート構造物の診断方法及びその診断装置によれば、コンクリート表面で受信したセンサ21-1~21-4の受信信号と、コンクリート表面から露出しているアンカーボルト露出部12,15で受信したセンサ22の受信信号と、から複数の評価指標EI1~EI4をポイント化し、アンカーボルト10A,10Bの施工不良を評価するようにしたので、アンカーボルト10A,10Bの施工不良を簡単且つ的確且つ定量的に評価することができる。
【0094】
(変形例)
本発明は、上記実施例1に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(a)~(d)のようなものがある。
【0095】
(a)
図2の情報処理装置30において、時間軸波形処理部40及び周波数スペクトル処理部50は、他の構成や処理内容に変更しても良い。
(b) 5つの評価指標EI1~EI5は、その一部をポイント化してアンカーボルト10A,10Bの施工不良を評価しても良い。
(c)
図18の閾値は、適宜変更しても良く、閾値を標準施工品の値に近づければ、施工不良の程度が軽微なアンカーボルトまで、つまり安全を考慮して厳格に検出することができ、閾値を標準施工品の値から離せば、施工不良の程度が軽微なアンカーボルトを検出することなく、施工不良の程度が著しいアンカーボルトだけを検出することができる。
(d) 評価対象の導体棒は、アンカーボルト10A,10Bに限らす、鉄筋等の他の導電部材であっても良く、本発明を適用できる。
【実施例2】
【0096】
(コンクリート建造物の診断装置の変形例)
次に、コンクリート建造物の診断装置の実施例2について説明する。
図20は、実施例2に係るコンクリート建造物の診断装置を示す機能ブロック図である。
図20の情報処理装置32が、
図2の情報処理装置30と異なるのは、スペクトル評価指標部にさらにスペクトルの相関係数CF(E16)を評価する指標部が追加された点である。他の構成は、情報処理装置の診断装置30と同じであるので、他の構成の説明は省略する。
【0097】
図21は、本発明の実施例2におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
図21のコンクリート建造物32の診断方法を示すフローチャートが、
図9に示す実施例1の診断方法に係るフローチャートと異なるのは、評価指標処理にさらに第6評価指数のスペクトの相関係数CF(E16)を追加した点である。他のフローは、
図9と同じである。
【0098】
実施例2の診断方法における周波数スペクトルの相関係数CF(E16)について説明する。
(1)最初に標準施工をN回行った時に取得した周波数スペクトルの平均値を求める。
周波数スペクトルは、時間軸波形処理のデータを、高速フーリエ変換したFFT波形である。
図22は、評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときのFFT波形を示す図であり、
図23は、評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときのFFT波形の平均を示す図である。
図22及び
図23の縦軸は振幅、横軸は周波数(kHz)である。周波数スペクトルの平均値は、各周波数において振幅の平均値を計算して得ることができる。
【0099】
(2)次に、評価対象を標準施工とは異なる施工、例えば施工不良として、標準施工のFFT波形の平均(x)と、評価対象スペクトル振幅(y)の相関係数(CF)を、下記数式(5)又は数式(6)で計算する。
【0100】
【0101】
ここで、(n)は、周波数に関するデータ数である。
【0102】
実施例2の相関係数について、実施例1の接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10A及び金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを測定した結果を説明する。
図24は、新たな評価対象を標準施工したときのFFT波形と、標準施工のFFT波形の平均(x)とのFFT波形の比較を示す図である。
標準施工のFFT波形の平均(x)は、No.1、No.13、No.25の三つの評価対象から得たものである。新たな評価対象は、No.1_4(コンクリート表面0°)であった。
図24に示すように、相関係数は、0.94であり、新たな評価対象のFFT波形と標準施工のFFT波形の平均(x)とは、高い相関を示すことが分かる。
【0103】
図25は、新たな評価対象を施工不良として、この施工不良のFFT波形と、評価対象をNo.1、No.13、No.25とした標準施工のFFT波形の平均(x)との比較を示す図である。施工不良の新たな評価対象は、No.4_4(コンクリート表面0°)であった。
図25に示すように、相関係数は、0.42であり、新たな評価対象である施工不良のFFT波形と標準施工のFFT波形の平均(x)とは、低い相関を示すことが分かる。
【0104】
図26は実施例2の閾値と評価ポイントのまとめを示す図であり、
図27は実施例2の施工不良例の評価ポイントグラフを示す図である。
図26に示すように、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aにおいて、コンクリート(4方向)の閾値は0.78以下、ポイントは各1点である。また、アンカーボルト10Aの閾値は0.89以下、ポイントは4点である。
【0105】
さらに、
図26に示すように、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bにおいて、コンクリート(4方向)の閾値は0.66以下、ポイントは各1点である。アンカーボルト10Bの閾値は0.77以下、ポイントは4点である。
【0106】
図27に示すように、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bの評価対象A、B、Cにおいて、ポイントは、それぞれ42、38、38であった。
【0107】
図27に示すように、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aの評価対象D、E、F、G、H、Iにおいて、ポイントは、それぞれ33、32、35、36、32、33であった。
【0108】
また、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aの評価対象J、K、L、M、N、において、ポイントは、それぞれ26、22、25、28、26、25であった。
【0109】
実施例2において、
図27の第6評価指標として相関係数をさらに追加した施工不良ポイントから、
図19に示す第1~第5評価指標による施工不良ポイントよりも増加しているので、相関係数を追加することにより、より容易に施工不良を診断することが可能であることが判明した。
【実施例3】
【0110】
次に、コンクリート建造物の診断装置の実施例3について説明する。
図28は、本発明の実施例3におけるコンクリート建造物の診断装置を示す概略の構成図であり、同図(a)は診断装置全体の構成図、及び同図(b)は同図(a)中の波形受信部(例えば、アナログ/デジタル変換装置、以下「AD変換装置」という。)の構成図であり、
図29は、
図28中の情報処理装置30の構成例を示す機能ブロック図である。
【0111】
実施例3におけるコンクリート建造物の診断装置は、
図1及び
図20に示した実施例2における診断装置が第1センサ21-1~21-4及び第2センサ22を備えているのに対して、ただ一つのサンセのみで構成されている。すなわち、実施例2に記載の第1のセンサ21のみを備えるか又は第2のセンサ22のみを備えるようにした点が異なる。
図28に示すように、実施例3のコンクリート建造物の診断装置においては、第1センサ21-1~21-4が省略されており、第2センサ(即ち導体棒センサ)22のみが配置されている点で異なる構成であり、他の構成は同じであるので、その説明を省略する。この場合、第1センサ21-1~21-4がないので、第1受信信号S26aもない。第2センサ22の代わりに第1センサを用いる場合には、第1センサの数は4個に限らず、少なくとも1個以上であればよい。
【0112】
図29は実施例3に係るコンクリート建造物の診断装置を示す機能ブロック図である。
図29の情報処理装置32は、上述した第1受信信号S26a、そして第1時間軸波形S44aがないことから、第1受信信号に伴う処理、即ち波形評価指標部60における波形エネルギー比SR(E11)を求める処理が省略されていると共に、第1受信信号S26aから派生する第1周波数スペクトルS52aの信号がない点でのみ、
図20の情報処理装置32とは異なる構成であり、他の構成は、
図20の情報処理装置32と同じであるので、その説明を省略する。
【0113】
これに伴って、
図30に示すように、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aを用いた測定条件の例は、
図3の場合と比較して、第1センサ21-1~21-4が省略され、第2センサ(導体棒センサ)22のみが使用される。
【0114】
また、
図31に示すように、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを用いた測定条件の例は、
図4の場合と比較して、同様に第1センサ21-1~21-4が省略されており、第2センサ(導体棒センサ)のみが使用される。
【0115】
図32は、本発明の実施例3におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
図32のコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートが、
図21に示す実施例2のフローチャートと異なるのは、評価指標処理において、第1評価指数の波形エネルギー比SR(E11)を省略し、第2~第6評価指標とした点である。他のフローは、
図21と同じである。
【0116】
図33は実施例3の閾値と評価ポイントのまとめを示す図である。
図33に示すように、例えばスペクトルの相関係数CFでは、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aにおいて、アンカーボルトの閾値は0.89以下、ポイントは4点であり、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bにおいて、アンカーボルトの閾値は0.77以下、ポイントは4点である。第2~第6評価指標により得られる施工不良の評価ポイントグラフは、
図27と同様の結果が得られた。
これにより、第1センサ21-1~21-4が省略されて、第2センサ22により、ボルト頭部のみにおける弾性波を検出することによっても、あと施工アンカーボルトの施工不良を評価できることが判明した。
つまり、実施例3のコンクリート構造物の診断方法によれば、一つのセンサを、導体棒の周囲のコンクリート表面に配置するか又は導体棒の露出部に配置することも可能であり、その場合は、第1評価指標を生成することはできないが、他の評価指標、即ち第2から第6の評価指標に対して、閾値を基準に施工不良評価用の評価ポイントをそれぞれ付与することができる。
【実施例4】
【0117】
次に、コンクリート建造物の診断装置の実施例4について説明する。
本発明の実施例4におけるコンクリート建造物の診断装置は、
図28に示す実施例3におけるコンクリート建造物の診断装置とほぼ同様の構成である。
図34は実施例4に係るコンクリート建造物の診断装置に用いる情報処理装置34の構成を示す機能ブロック図であり、
図35は
図34中の情報処理装置の第一の構成例を示す概略図である。
図34の情報処理装置34は、
図29に示す実施例3に係る情報処理装置32における波形評価指標部60,スペクトル評価指標部70及び評価ポイント付与部80の代わりに、判定処理部90を備えている。ここで、時間軸波形処理部40及び周波数スペクトル処理部50は、
図29の情報処理装置32の場合と同様の構成である。
【0118】
判定処理部90は、例えば
図35に示すように、データ処理結果を入力信号とする入力層91,中間層92及び出力層93を備えたニューラルネットワークから構成されており、例えばコンピュータ上で動作するニューラルネットワーク用のプログラムにより動作する。中間層92は、入力層91と出力層93との間に挿入され、入力層91から判別用の教師信号が入力される。出力層93は、出力信号を出力する。このようなニューラルネットワーク用のプログラムを作成するソフトウェアとして、数値解析ソフトウェアであるMATLAB(米国MathWorks社製)を使用した。
【0119】
判定処理部90においては、以下のステップ1及びステップ2の演算が行われる。
(ステップ1)
入力層91は、周波数スペクトル処理部50からの周波数スペクトルS52bが入力される。入力層91は、各入力信号に対応する250個の入力ユニット91aを有しており、各入力ユニットに、それぞれ個々の入力信号が入力される。
【0120】
判定処理部90は、入力層91の各入力ユニット91aに入力された入力信号x1,x2, ……,xk,……,x250から下記数式(7)からなる演算を行なって、中間値hi(iは、1からn)までの整数を求める。ここで、nは例えば250より少ない整数とすることができる。
【0121】
【0122】
ここで、kは、1から250までの整数、iは、1からnまでの整数である。
また、w1
kiは、重み係数である。この重み係数は、後述するニューラルネットワークの機械学習の結果、つまり学習結果によって決定される。
【0123】
中間層92は、各中間値に対応するn個の中間ユニット92aを有しており、各中間ユニット92aには、それぞれ上述した個々の中間値hiが入力される。
判定処理部90は、中間層92の各中間ユニット92aに入力された中間値hiから、下記数式(8)の演算を行なって、出力信号ym(mは、1又は2)を求める。
また、w2
kmは、重み係数であり、同様に後述するニューラルネットワークの機械学習によって設定される。出力信号は、m=1又は2であるから、具体的には、出力信号は、y1,y2であり、[y1 y2]と表記する。
【0124】
【0125】
図36は
図35の評価分析装置で使用される教師信号の一例を示す概略図であり、
図37は
図35の評価分析装置における識別結果を示す概略図である。
図36に示すように、出力信号[y
1 y
2]は、ニューラルネットワークの機械学習の際に、教師信号として、標準施工の場合には[1
0]、施工不良の場合には[0
1]と設定される。
【0126】
(ステップ2)
このようなニューラルネットワークの機械学習の結果、未知のあと施工アンカーボルトによる導体棒センサ22の受信信号に基づく周波数スペクトルS52bが入力層91に入力されると、判定処理部90は、中間信号そして出力信号を二段階で演算することにより、
図37に示すように、出力信号[y
1 y
2]を出力する。即ち、出力信号としては、標準施工の場合には [1
0]、施工不良の場合には[0
1]を出力する。このようなニューラルネットワークの学習結果に基づく出力は、判断とも呼ばれている。
従って、判定処理部90の出力層93からの出力信号[y
1 y
2]をチェックすることにより、あと施工アンカーボルトの施工状況が、標準施工であるか、接着剤奥充填又は手前充填による施工不良であるかが容易に判断され、標準施工又は施工不良であるかが容易に識別できる。
【0127】
ここで、上述したステップ1において、二つの重み係数w
1
ki,w
2
kmは、具体的には以下のようにしてニューラルネットワークの学習により設定される。
図38は
図35の評価分析装置における学習の際に入力層に入力される既知の標準施工時の入力データを示すグラフであり、
図39は
図35の評価分析装置における学習の際に入力層に入力される既知の奥充填施工時の入力データを示すグラフであり、
図40は
図35の評価分析装置における学習の際に入力層に入力される既知の手前充填施工時の入力データを示すグラフである。これらの学習に用いられる既知のデータは、教師データとも呼ばれている。
即ち、学習のための既知のデータとして、例えば
図38(A)及び(B)に示す標準施工のアンカーボルトにおける周波数スペクトルを入力層91に入力すると共に、教師信号として、出力信号がy
1=1,y
2=0、つまり[1
0]が得られるように、判定処理部90は、重み係数w
1
ki,w
2
kmを演算し、決定する。
【0128】
同様に、例えば
図39(A)及び(B)に示す施工不良(接着剤奥充填)のアンカーボルトにおける周波数スペクトル、そして
図40(A)及び(B)に示す施工不良(接着剤手前充填)のアンカーボルトにおける周波数スペクトルを入力層91に入力すると共に、教師信号として、出力信号y
1=0,y
2=1、つまり[0
1]が得られるように、判定処理部90は、重み係数 w
1
ki,w
2
kmを演算し、決定する。この際、標準施工、接着剤奥充填及び接着剤手前充填の施工不良の2パターンの施工全てを同時に満たすような重み係数w
1
ki,w
2
kmの組み合わせを一つだけ決定する。
ここで、入力される既知のデータ数が多いほど、決定される重み係数 w
1
ki,w
2
kmの精度が高まる。
【0129】
このようなニューラルネットワークの機械学習により、判定処理部90は、標準施工又は施工不良における周波数スペクトルの形状の差異を学習することになる。
具体的には、接着剤の奥充填による施工不良の場合には、前述した周波数スペクトルのピーク周波数が低くなる、ピークが尖る、また接着剤の手前充填による施工不良の場合には、ピークが二つ以上になる、ピーク周波数が低くなる、ピークが尖る等を学習することになる。
そして、判定処理部90は、このような学習結果に基づいて、未知、つまり未学習のデータが入力されたとき、学習結果で得た二段階の重み係数w1
ki,w2
kmによる演算を行なって、出力層93から施工状態に応じて出力信号y1及びy2[y1 y2]を出力することになる。
【0130】
次に、ステップ2の具体例を説明する。
図41は
図35の評価分析装置における識別の際に入力層に入力される未知の標準施工時の入力データを示すグラフであり、
図42は
図35の評価分析装置における識別の際に入力層に入力される未知の奥充填施工時の入力データを示すグラフであり、
図43は
図35の評価分析装置における識別の際に入力層に入力される未知の手前充填施工時の入力データを示すグラフである。
即ち、評価のための未知のデータとして、例えば
図41(A)及び(B)に示す標準施工のアンカーボルトにおける周波数スペクトルと、
図42(A)及び(B)と
図43(A)及び(B)に示す施工不良のアンカーボルトにおける周波数スペクトルと、を入力層91に入力する。
これにより、判定処理部90は、各周波数スペクトル毎に、前述した数式(7)及び数式(8)の演算を、学習結果で得た二段階の重み係数 w
1
ki,w
2
kmによる演算を行なって、出力信号[y
1 y
2]を出力する。
この場合、
図41(A)及び(B)の異なる施工の周波数スペクトルでは、出力信号[1 0]が得られ、標準施工であることが分かる。
また、
図42(A)及び(B)と
図43(A)及び(B)の異なる施工の周波数スペクトルでは、出力信号[0 1]が得られ、施工不良であることが分かる。
このようにして、未知のデータに関して、判定処理部90の出力層93から出力される出力信号[y
1 y
2]は、すべてのデータに対してあと施工アンカーボルトの施工状況について、正しい施工評価を行なうことが確認された。
【0131】
(変形例)
図44は、
図34に示した判定処理部90の変形例を示している。
図44において、判定処理部90は、出力層93が三つの出力信号[y
1 y
2 y
3]を出力する点でのみ、
図34に示した判定処理部90とは異なる構成になっている。出力信号を三つとすることにより、判定処理部90により、標準施工、接着剤奥充填による施工不良と接着剤手前充填による施工不良の3つの施工状態を識別することができる。この場合、判定処理部90は、中間層92の各中間ユニット92aに入力された中間値h
iから、下記数式(9)の演算を行なって、出力信号y
mを求める(mは、1から3の整数)。
【0132】
【0133】
図45は
図44の評価分析装置で使用される教師信号の一例を示す概略図であり、
図46は
図44の評価分析装置における識別結果を示す概略図である。
図45に示すように、出力信号としては、ニューラルネットワークの機械学習の際に、教師信号として、標準施工の場合にはy
1が1、y
2が0
、 y
3が0、つまり[1 0
0]と設定される。
また、接着剤奥充填による施工不良の場合には、教師信号として、y
1が0、y
2が1
、y
3が0、つまり[0 1
0]と設定される。
さらに、接着剤手前充填による施工不良の場合には、教師信号として、y
1が0、y
2が0
、y
3が1、つまり[0 0
1]と設定される。
ここで、判定処理部90は、各周波数スペクトル毎に、前述した数式(7)及び数式(9)の演算を行い、教師信号に応じた出力信号[y
1 y
2 y
3]が出力されるように、二段階の重み係数w
1
ki,w
2
kmを決定する。
このようなニューラルネットワークの機械学習の結果、未知のあと施工アンカーボルトによる導体棒センサ22の受信信号に基づく周波数スペクトルS52bが入力層91に入力されると、判定処理部90は、中間信号そして出力信号を二段階で演算することにより、
図44に示すように、出力信号y
1,y
2,y
3つまり[y
1 y
2 y
3]を出力する。
【0134】
即ち、
図46に示すように、未知のあと施工アンカーボルトが標準施工の場合には、出力信号は[1 0
0]となる。
未知のあと施工アンカーボルトが接着剤奥充填による施工不良の場合には、出力信号は[0 1
0]となる。
さらに、未知のあと施工アンカーボルトが手前充填による施工不良の場合には、出力信号は[0 0
1]となる。
従って、判定処理部90の出力層93からの出力信号[y
1 y
2 y
3]をチェックすることにより、あと施工アンカーボルトの施工状況、即ち標準施工であるか、接着剤奥充填による施工不良又は接着剤手前充填の施工不良であるかが容易に判別され得る。
【0135】
この場合も、前述した二つの重み係数w
1
ki,w
2
kmは、具体的には以下のようにしてニューラルネットワークの学習により設定される。
即ち、学習のための既知のデータとして、例えば
図41(A)及び(B)に示す標準施工のアンカーボルトにおける周波数スペクトルを入力層91に入力すると共に、教師信号として、出力信号 [1 0
0]が得られるように、判定処理部90は、重み係数w
1
ki,w
2
kmを演算し、決定する。
同様に、例えば
図42(A)及び(B)に示す施工不良(接着剤奥充填)のアンカーボルトにおける周波数スペクトルを入力層91に入力すると共に、教師信号として、出力信号[0 1
0]が得られるように、判定処理部90は、重み係数w
1
ki,w
2
kmを演算し、決定する。
さらに、例えば
図43(A)及び(B)に示す施工不良(接着剤手前充填)のアンカーボルトにおける周波数スペクトルを入力層91に入力すると共に、教師信号として、出力信号[0 0
1]が得られるように、判定処理部90は、重み係数w
1
ki,w
2
kmを演算し、決定する。この際、標準施工、接着剤奥充填による施工不良及び接着剤手前充填による施工不良の3パターンの施工全てを同時に満たすような重み係数w
1
ki,w
2
kmの組み合わせを一つだけ決定する。
これにより、判定処理部90は、これらの既知のデータつまり教師データ及び教師信号に基づいて、重み係数w
1
ki,w
2
kmを演算し、決定することができる。
ここで、入力される既知のデータ数が多いほど、決定される重み係数w
1
ki,w
2
kmの精度が高まる。
【0136】
このようにして求められた重み係数w
1
ki,w
2
kmを前述した数式(7)及び数式(9)に代入することにより、未知のあと施工アンカーボルトの施工不良を評価することができる。
即ち、評価のための未知のデータとして、例えば
図41(A)及び(B)に示す標準施工のアンカーボルトにおける周波数スペクトルと、
図42(A)及び(B)に示す接着剤奥充填による施工不良のアンカーボルトにおける周波数スペクトル、そして
図43(A)及び(B)に示す接着剤手前充填による施工不良のアンカーボルトにおける周波数スペクトルと、を入力層91に入力する。
これにより、判定処理部90は、各周波数スペクトル毎に、前述した数式(7)及び数式(9)の演算を行なって、それぞれ出力信号[y
1 y
2 y
3]を出力する。
【0137】
この場合、
図41(A)及び(B)の周波数スペクトルでは、出力信号[1 0
0]であり、この値から、標準施工であることが分かる。
また、
図42(A)及び(B)の周波数スペクトルでは、出力信号[0 1
0]であり、この値から、接着剤奥充填による施工不良であることが分かる。
さらに、
図43(A)及び(B)の周波数スペクトルでは、出力信号[0 0
1]であり、この値から、接着剤手前充填による施工不良であることが分かる。
以上のようにして、未知のデータに関して、判定処理部90の出力層93から出力される出力信号[y
1 y
2 y
3]は、全てのデータに対してあと施工アンカーボルトの施工状況について、正しい施工評価を行なうことが確認された。
【0138】
このようにして、実施例4による診断装置によれば、実施例3の場合と同様に、あと施工アンカーボルトのボルト頭部に配置した一つのセンサ(導体棒センサ)のみにより、施工評価を行なうことができるので、コストが低減されると共に、信号処理の負担が軽減され、より短時間で施工評価を行なうことが可能になる。実施例4では、施工状況が三つ、即ち標準施工、接着剤奥充填による施工不良及び接着剤手前充填の施工不良であるかを判別したが、施工不良の数に応じて、中間層、出力層の総数は適宜に選定すればよい。
【0139】
また、実施例4では、周波数スペクトルを加工することなく、さらには閾値を設定する必要なく、施工評価を行なうことができると共に、接着剤奥充填又は接着剤手前充填のような施工不良の種類をも識別することが可能である。
【0140】
さらに、実施例2及び3においては、相関係数を利用することにより、周波数スペクトルの形状に関して相似形のものも同じスペクトルとして判断することになるが、実施例4においてはニューラルネットワークの機械学習によって、周波数スペクトルの大きさも含めて施工評価を行なうので、より高精度な施工評価が可能となる。
なお、実施例2~実施例4の周波数スペクトル、例えば
図38~43に示した教師データや未知の施工によるデータは、周波数が50kHz迄の範囲の周波数スペクトルとしたが、教師データの特徴がよく抽出できるような所定の周波数範囲とすればよい。例えば、周波数を20kHz迄の範囲としてもよい。
【0141】
上述した実施例4においては、周波数スペクトルS52bに基づいて、判定処理部90が数式(7)~数式(9)の演算結果により、あと施工アンカーボルトの施工評価を行なうようになっているが、これに限らず、時間軸波形S44bに基づいて、判定処理部90があと施工アンカーボルトの施工評価を行なうことも可能である。
この場合も、同様にして、教師データに応じて教師信号が出力されるように重み係数をニューラルネットワークの機械学習により決定することにより、判定処理部90によるあと施工アンカーボルトの施工評価が精度よく行なわれ得る。
なお、実施例1~4においては、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aや金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを例として示したが、他のアンカーボルトにも適用できることはいうまでもない。
【実施例5】
【0142】
次に、コンクリート建造物の診断装置の実施例5について説明する。
図47は実施例5に係るコンクリート建造物の診断装置を示す機能ブロック図である。
図47の情報処理装置36が
図29の情報処理装置30と異なるのは、波形評価指標部60に、さらに時間軸波形の相互相関関数XF(E17)を評価する指標部を追加した点である。他の構成は、情報処理装置30と同じであるので、他の構成の説明は省略する。
【0143】
図48は、本発明の実施例5におけるコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートである。
図48のコンクリート建造物の診断方法を示すフローチャートが、
図32に示す実施例3のフローチャートと異なるのは、評価指標処理ST4において、第2~第6評価指標に加えて、第7評価指標の時間軸波形の相互相関関数XF(E17)を追加した点である。他のフローは、
図32と同じである。
【0144】
実施例5の診断方法における時間軸波形の相互相関関数XF(E17)について説明する。
(1)最初に標準施工をN回行った時に取得した時間軸波形の平均値を求める。
時間軸波形は、時間軸波形処理のデータである。
図49は、評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときの時間軸波形を示し、
図50は、評価対象の標準施工を1~N個まで測定したときの時間軸波形の平均を示す。
図49及び
図50の縦軸は振幅、横軸は時間(msec)である。時間軸波形の平均値は、各時間軸波形における同時刻の振幅の平均値を計算して得ることができる。
【0145】
(2)次に、評価対象を標準施工とは異なる施工、例えば施工不良として、標準施工の時間軸波形の平均(f(i))と、評価対象時間軸波形(g(i))の相互相関関数(R)及び正規化相互相関関数(Rnorm)を、それぞれ下記数式(10)及び数式(11)で計算する。相互相関関数(R)及び正規化相互相関関数(Rnorm)は、所謂離散系であり、デジタルの演算で計算することができる。
【0146】
【数10】
ただし、nは時間軸波形における10
-6秒毎のiのデータ数、iは1からnの整数であり、時間軸波形における所定間隔毎のポイントを順次に数字で示している。τはiに対するずれであり、位相を示す変数である。
【0147】
【数11】
ただし、nは時間軸波形における10
-6秒毎のiのデータ数、iは1からnの整数、τはiに対するずれ、fバー,gバーは、それぞれf(i),g(i)の平均値である。
ここで、数式(11)は、数式(10)に対して、関数f(i)及びg(i-τ)の大きさで正規化した相互相関関数(Rnorm)を求めるものである。正規化した相互相関関数(Rnorm)は、0~1の値となる。
【0148】
実施例5の相互相関関数について、
図51(B)は、新たな評価対象を標準施工として、
図51(A)に示す新たな標準施工の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均(f)との間の数式(10)による相互相関関数Rを示す。
図51(A)の横軸は、時間(msec)である。iは点数でその間隔は、1×10
-6秒であり、図示の場合には、1×10
-6秒から10000×10
-6秒までを示している。
図51(B)の横軸は、τに関するデータ点数を示しており、-10000点から+10000点までを示している。
例えば
図51及び後述する
図52の(A)においては、nは時刻10msecに対応する。これに対して、τは、iに対するずれを表し、例えば10
-6秒毎の値(
図51及び後述する
図52の(B),(C)における横軸)である。
図51(B)に示す相互相関関数Rの絶対値の最高値は、5.40であり、新たな評価対象である標準施工の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均とは高い相互相関を示すことが分かる。
また、
図51(C)は、新たな評価対象を標準施工として、
図51(A)に示す標準施工の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均(f)との間の数式(11)による正規化相互相関関数Rnormを示しており、その絶対値の最高値は、0.84であり、新たな評価対象である標準施工の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均とは高い相関を示すことが分かる。
【0149】
これに対して、
図52(B)は、新たな評価対象を施工不良として、
図52(A)に示す新たな施工不良の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均(f)との間の数式(10)による相互相関関数Rを示しており、その絶対値の最高値は、0.68であり、新たな評価対象である施工不良の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均とは低い相互相関を示すことが分かる。
また、
図52(C)は、新たな評価対象を施工不良として、
図52(A)に示す施工不良の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均(f)との間の数式(11)による正規化相互相関関数Rnを示しており、その絶対値の最高値は、0.22であり、新たな評価対象である施工不良の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の平均とは低い相互相関を示すことが分かる。
【0150】
この場合、正規化相互相関関数Rnormは、0と1の間の値をとることから、相互相関関数の高低が容易に把握され得る。
また、相互相関の評価対象となる施工不良の場合の時間軸波形と標準施工の時間軸波形の振幅の差が大きいと、相互相関関数Rが大きくなってしまい、時間軸波形が似ていると誤判断され得る可能性があるが、正規化相互相関関数Rnormの場合には、評価対象となる施工不良の場合の時間軸波形の振幅レベルの影響を受けることがなく、より正確な相関関数が得られ、施工不良の判定がより正確に行なわれ得ることとなる。
【0151】
図53は実施例5の閾値と評価ポイントのまとめを示し、
図54は実施例5の施工不良例の評価ポイントグラフを示す。
図53に示すように、例えば時間軸波形の相互相関関数XFでは、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aにおいて、アンカーボルトの閾値は0.98以下、ポイントは4点であり、金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bにおいて、アンカーボルトの閾値は0.83以下、ポイントは4点である。
図54に示す第2~第7評価指標により得られる施工不良の評価ポイントグラフは、
図27と同様の結果が得られた。
これにより、実施例1~3における周波数スペクトルのFFT波形によるスペクトル評価ではなく、時間軸波形による波形評価によっても、あと施工アンカーボルトの施工不良を評価できることが判明した。
さらに、標準施工の時間軸波形の平均(f(i))と、評価対象時間軸波形(g(i))との相互相関関数を計算する際に、評価対象の時間軸波形の差分時刻iをτだけずらしながら計算するので、位相ずれがあったとしても、この位相ずれに大きく影響されるようなことなく、相関を確認することができ、コンクリート構造物の施工不良をより正確に評価することが可能である。
なお、実施例5においても、接着系樹脂カプセル式のアンカーボルト10Aや金属系スリーブ拡張式のアンカーボルト10Bを例として示したが、他のアンカーボルトにも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0152】
1,1A,1B:コンクリート
2,2A,2B:下穴
3:樹脂
4:樹脂カプセル
5A,5B:試験体
6:空気溜まり
10,10A,10B:アンカーボルト
11,14:固着部
12,15:露出部
13:金属系スリーブ
21-1~21-4:第1センサ
22:第2センサ(導体棒センサ)
23:リング
24:コイルユニット
25:電磁パルス電源
27:マグネット
30、32、34、36:情報処理装置
40:時間軸波形処理部
50:周波数スペクトル処理部
60:波形評価指標部
70:スペクトル評価指標部
80:評価ポイント付与部
90:判定評価部
ST1:弾性波発生処理
ST2:受信処理
ST3:データ処理
ST3a:時間軸波形処理
ST3b:周波数スペクトル処理
ST4:評価指標処理
ST5:評価ポイント付与処理