(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】スフェロイド形成促進剤の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/22 20060101AFI20220310BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20220310BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20220310BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K14/435
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2018050768
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】中村 優子
(72)【発明者】
【氏名】野口 誠
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-062129(JP,A)
【文献】特開平02-174800(JP,A)
【文献】特開2008-069118(JP,A)
【文献】国際公開第2003/042236(WO,A1)
【文献】特表2010-538299(JP,A)
【文献】特表2004-505615(JP,A)
【文献】日本分子生物学会年会プログラム,2016年,39巻,1P-0310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 5/00- 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜質の体表皮を有す
るゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギス
の表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来
の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の
、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての
精製方法であって、
ケイ酸アルミニウムまたは天然アロフェンの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着さ
せて分離し、
次に、タンパク質の吸着された粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法。
【請求項2】
粘膜質の体表皮を有す
るゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギス
の表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来
の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の
、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての
精製方法であって、
ケイ酸アルミニウムまたは天然アロフェンの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着さ
せて分離し、
次に、タンパク質の吸着された粉末に対し、緩衝液または界面活性剤を添加した緩衝液により一回以上洗浄
し、
その後、粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法。
【請求項3】
粘膜質の体表皮を有す
るゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギス
の表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来
の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の
、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての
精製方法であって、
酸化アルミニウム
またはハイドロタルサイ
トの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着させ
て分離し、
次に、タンパク質の吸着された粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法。
【請求項4】
粘膜質の体表皮を有す
るゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギス
の表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来の
、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の
、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての
精製方法であって、
酸化アルミニウム
またはハイドロタルサイ
トの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着させ
て分離し、
次に、タンパク質の吸着された粉末に対し、緩衝液または界面活性剤を添加した緩衝液により一回以上洗浄
し、
その後、粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフェロイド形成促進作用のあるタンパク質の濃縮方法および精製方法に関し、特に、魚等から得られる当該タンパク質の臭気成分その他の夾雑物を除去して濃縮する方法および精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者は、先に、ノロゲンゲを始めとし、特定の魚種の皮下組織等にスフェロイドの形成を促進するタンパク質が存在することを発見し、これを契機とし、スフェロイド形成促進剤に関する発明をなした(特許文献1)。
この促進剤は、簡便かつ低廉に得ることができ、かつ、動物細胞の培地中に添加するだけでスフェロイドが形成されることから、iPS細胞を始めとした多能性幹細胞の三次元培養、その他の再生医療に重要な役割を果たすことが期待される。
【0003】
しかしながら、特許文献1で得られる促進剤は、特有の魚臭を有しており、臭気成分その他の夾雑物を除去し、より利用しやすく精製度を高めることが求められていた。
また、特許文献1で得られる促進剤は、凍結して提供した場合に融解の際に夾雑物の存在により沈殿が生じやすく、その防止のために緩慢凍結剤や緩衝剤を添加する必要があるものの、それ自体が培養系に影響を及ぼすこともあり、この点からも夾雑物の除去が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、スフェロイド形成促進剤の濃縮方法および精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の方法は、粘膜質の体表皮を有するゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギスの表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての精製方法であって、ケイ酸アルミニウムまたは天然アロフェンの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着させて分離し、次に、タンパク質の吸着された粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法である。
【0007】
請求項1にかかる発明によれば、原料から臭気成分その他の夾雑物を分離し、目的物であるスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を粉末側に担持ないし吸着させることができ、変性や失活することなく、スフェロイド形成促進剤としてタンパク質を分離精製することができる。また、濾過その他の工程で水分も適宜飛ばすことができ、効率的な濃縮を実現可能とする。
【0008】
なお、体液由来のタンパク質原料は、ゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギスの場合にあっては表皮から筋肉組織までの部位を、イカ若しくはタコの胴部または肝臓の場合にあっては当該部位を、それぞれ圧搾もしくは遠心分離して得られる原料、または、当該部位をそれぞれ凍結融解によるドリップとして得られる原料をいい、いずれも、適宜メンブランフィルターによる濾過工程やエーテル処理等による脱脂工程を経たものであってもよい。滅菌処理をおこなってもよい。得られるタンパク質原料には水分(液体)が含まれ、この意味で、タンパク質原料とはタンパク質原料液と表現してもよい。
また、原料とは、濃縮のターゲットとする、スフェロイド形成促進作用ないし活性を有するタンパク質、の他にニオイ成分その他の夾雑物が含まれていることを表現するものである。
濃縮とは、ここでは分離と表現することもできる。なお、粉末は水に溶解せず分散する
だけであるので、所定時間の撹拌後に濾過等により粉末部分を分離すれば、夾雑物が除去され、かつ、原料に比して水分も除去された(すなわち濃縮された)タンパク質が得られることとなる。
なお、請求項において混和とは、混ぜて攪拌することも当然に含まれるものとする。
酸性アミノ酸としては、グルタミン酸やアスパラギン酸を挙げることができる。溶解させる酸性水溶液としては、塩酸溶液を挙げることができる。なお、タンパク質を溶出させた後は、そのまま保存したり、pHを調整しタンパク質を沈殿分離したりするなどして、適宜、スフェロイドを形成させる使用環境に合わせた性状(溶液状、ゲル状、粉末状)に調整すればよい。
【0009】
請求項2に記載の方法は、粘膜質の体表皮を有するゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギスの表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての精製方法であって、ケイ酸アルミニウムまたは天然アロフェンの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着させて分離し、次に、タンパク質の吸着された粉末に対し、緩衝液または界面活性剤を添加した緩衝液により一回以上洗浄し、その後、粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法である。
【0010】
請求項2にかかる発明によれば、いわゆる洗い込みにより、粉末側に付着している夾雑物を除去し、スフェロイド形成促進剤の純度を上げることができる。
【0011】
緩衝液および界面活性剤は、タンパク質が液側に溶出しないのであれば特に限定されず、また、粉末側に付着ないし残存している夾雑物を粉末から解離できるのであれば種々のものを採用できる。たとえば、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液を挙げることができる。トリス緩衝液のpHの例としては8を挙げることができ、他の緩衝液も、pH=7~9程度のもの、たとえば、HEPES(ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸)、MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)などを挙げることができる。界面活性剤としてはTween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)を挙げることができるが、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質の活性を損なわないのであれば特に限定されない。すなわち、タンパク質と粉末との結合力は比較的強固であるので、臭気除去の効率性を目安として緩衝液および界面活性剤を適宜選択すればよい。
【0012】
請求項3に記載の方法は、粘膜質の体表皮を有するゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギスの表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての精製方法であって、酸化アルミニウムまたはハイドロタルサイトの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着させて分離し、次に、タンパク質の吸着された粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法である。
【0013】
請求項3にかかる発明によれば、原料から臭気成分その他の夾雑物を分離し、目的物であるスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を粉末側に担持させることができ、変性や失活することなく、スフェロイド形成促進剤としてタンパク質を分離精製することができる。また、濾過その他の工程で水分も適宜飛ばすことができ、効率的な濃縮を実現可能とする。
【0014】
請求項4に記載の方法は、粘膜質の体表皮を有するゲンゲ、カレイ、エイ、若しくは、ニギスの表皮から筋肉組織までの部位より採取された体液由来の、または、頭足類のうちイカ若しくはタコの胴部にある体液由来または肝臓から採取された体液由来の、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質原料の、スフェロイド形成促進剤としての精製方法であって、酸化アルミニウムまたはハイドロタルサイトの粉末と前記タンパク質原料とを混和して、液体側に夾雑物を存置させるとともに粉末側にスフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を吸着させて分離し、次に、タンパク質の吸着された粉末に対し、緩衝液または界面活性剤を添加した緩衝液により一回以上洗浄し、その後、粉末と、酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液と、を混和し、水溶液側にタンパク質を溶出させることを特徴とするスフェロイド形成促進剤の精製方法である。
【0015】
請求項4にかかる発明によれば、いわゆる洗い込みにより、粉末側に付着している夾雑物を除去し、スフェロイド形成促進剤の純度を上げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、臭気成分その他の夾雑物を分離し、精製度の高まったスフェロイド形成促進剤を提供することができる。また、臭気成分その他の夾雑物を分離し、高濃度のスフェロイド形成促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】精製されたスフェロイド形成促進剤の活性確認試験をおこなった写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。以降では、原料(すなわち精製前のスフェロイド形成促進剤)のうち、スフェロイド形成促進活性を有するタンパク質を目的タンパク質と称し、それ以外を夾雑物と称することとする。
【実施例1】
【0020】
<吸着による濃縮>
原料は、山陰沖で採取したノロゲンゲの魚皮と筋肉の間の間隙物質(粘液部分)をピペットで採取したものを、0.22μmのメンブランフィルターで濾過滅菌して用いた。以降ではこれを原料液と称することとする。
【0021】
次に、目的タンパク質または夾雑物の吸着を目的として、水に溶けない次の候補物質を検討することとした。
【0022】
候補物質:
a.ケイ酸アルミニウム(ナカライテスク(株)製:品名または型番=017-32)
b.活性炭(和光純薬工業(株)製:品名または型番=037-02115)
c.シリカゲル60(ナカライテスク(株)製:品名または型番=307-31)
d.酸化アルミニウム(メルク(株)製:品名または型番=1090.05)
e.珪藻土(ナカライテスク(株)製:品名または型番=045-00875)
f.ガラスウール(島久薬品(株)製:品名または型番=GSR290)
g.アンバーライト(オルガノ(株)製:品名または型番=IRC748)
h.キチン(和光純薬工業(株)製:品名または型番=034-13635)
i.DEAEセルロース(和光純薬工業(株)製:品名または型番=049-23615)
j.アルミニウム(和光純薬工業(株)製:品名または型番=014-01785)
k.ケイ素(和光純薬工業(株)製:品名または型番=191-05582)
l.水酸化アルミニウム(和光純薬工業(株)製:品名または型番=014-01925)
m.水酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製:品名または型番=KISUMA 5Q-S)
n.ハイドロタルサイト1(協和化学工業(株)製:品名または型番=DHT-4H:分子式=Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O)
o.ハイドロタルサイト2(協和化学工業(株)製:品名または型番=DHT-6:分子式=Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O)
p.天然アロフェン1(北溟工業(有)製:品名または型番=ミソイル:大山ミソ土由来)
q.天然アロフェン2(品名または型番=鹿沼土由来アロフェン:鹿沼土由来)
r.精製アロフェン(品川化成(株)製:品名または型番=セカードP1)
s.雲母焼成品(ナーク研究所(株)製:品名または型番=N-1)
t.ガラス発泡体((株)鳥取再資源化研究所製:品名または型番=PW-350)
u.モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製:品名または型番=クニピアF)
【0023】
候補物質で粉末状でないものは粉末にし、原料液100重量部に対していずれも10重量部添加し、4℃で24時間振とうしながら混和した。
【0024】
続いて、遠心分離により、候補物質と溶液とを分離した。総てについて溶液側に臭気成分が残っていたことから、候補物質側に目的タンパク質が吸着されているか否かを溶液側にスフェロイド形成促進活性あるかにより判定した。すなわち、溶液をヒト肝がん細胞HepG2の播種時に、培養液である10%FBS/DMEMに対して5%容量添加し、培養72時間後の細胞がスフェロイド化している際には溶液側に、スフェロイド化していない場合には候補物質側に、活性物質があると判定した。
【0025】
【0026】
以上の結果から、目的タンパク質の吸着剤として以下が好適であることがわかった。
ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、珪藻土、ハイドロタルサイト、アロフェン、モンモリロナイト
【0027】
なお、動物細胞を培養する場合、目的タンパク質を粉末状の吸着剤に担持(吸着)させたままで使用し、粉末形状を足がかりとして、三次元培養が誘発ないし促進される態様もあり得る。
以上から、上記の吸着剤(粉末状)とタンパク質原料(原料液)とを混和・撹拌すれば、吸着剤側に目的タンパク質が吸着し、水溶液側に夾雑物が残るので、目的タンパク質が分離濃縮されたこととなり、結果、スフェロイド形成促進剤の濃縮技術が構築できたということができる。
【0028】
なお、以下でも説明するように、目的タンパク質を担持した吸着剤を、緩衝液または界面活性剤を添加した緩衝液で洗浄することにより、わずかに残っている臭気成分その他の夾雑物を除去し、精製度をより高めるようにしても良い。
【実施例2】
【0029】
<吸着剤からの目的タンパク質の分離精製(溶出)>
次に、目的タンパク質の吸着剤からの分離を検討することとした。ここでは、目的タンパク質をケイ酸アルミニウムに吸着させた試料を用いて、分離精製条件を検討した。
【0030】
溶出液候補を以下のようにして予備試験をおこなった。
・予備試験1:緩衝液(リン酸、クエン酸、または、グリシン)+金属キレート剤(EDTAまたはEGTA)による溶出検討
・予備試験2:緩衝液(リン酸、クエン酸、または、グリシン)+金属キレート剤(EDTAまたはEGTA)+塩(KCl)による溶出検討
・予備試験3:緩衝液(リン酸、クエン酸、または、グリシン)+塩(KCl)の濃度勾配による溶出検討
・予備試験4:糖(グルコースまたはスクロース)による溶出検討
・予備試験5:緩衝液(トリス)+塩(NaCl)+界面活性剤(PEG)+アミノ酸(グルタミン酸)+塩酸(HCl)による溶出検討。なお、グルタミン酸は酸性アミノ酸であって酸性でないと溶解しないため塩酸を添加してある。
【0031】
以上の予備試験において、試料を各液に浸して室温で1時間振とうし、遠心分離により分離した液についてタンパク質の溶出量の確認をおこなうとともに、タンパク質の溶出がみとめられたものについては、滅菌後にスフェロイド形成がされるかの細胞培養試験をおこなった。その結果、予備試験1~4では、タンパク質の溶出が認められず、予備試験5のみにタンパク質の溶出および溶出タンパク質の活性が確認できた。
【0032】
続いて予備試験5に基づき必須の構成の検討を同様におこなったところ、緩衝液+グルタミン酸+HClの組み合わせであれば溶出および活性の維持があることがわかった。
【0033】
続いてアミノ酸について検討した。
・予備試験5-1:緩衝液(トリス)+酸性アミノ酸塩(グルタミン酸ナトリウム)
・予備試験5-2.緩衝液(トリス)+塩基性アミノ酸(アルギニンまたはヒスチジン)
・予備試験5-3.緩衝液(トリス)+グリシン(最も単純な形を持つアミノ酸として検討)
【0034】
以上の予備試験の結果、いずれについてもタンパク質の溶出が認められなかった。
すなわち、ケイ酸アルミニウムに吸着させた試料から目的タンパク質を溶出させるには、グルタミン酸が溶ける程度のpHに調整した緩衝液を用いればよいことが確認できた。
また、酸性アミノ酸として別途アスパラギン酸を用いた場合でも溶出および活性が確認できた。
緩衝液は特に限定されないが、トリスのほかHEPES、MOPSなどを挙げることができる。
【0035】
なお、スフェロイド形成促進活性を確認した試験条件をしめす。
被抽出試料は、ケイ酸アルミニウム粉末に吸着させたものを用いた。この試料0.1gに対して溶出液1mlを添加し、室温で一時間振とう処理した。溶出液の組成は1M塩酸に、グルタミン酸0.5Mを溶解し、更に、トリス(和光純薬工業社製:品名または型番=207-06275)を最終濃度が0.1Mになるように添加したものである。
次に、遠心分離によりケイ酸アルミニウムから溶出液を分離し、これを培養皿表面にコーティングして、肝臓ガン細胞HepG2細胞を72時間培養した。なお、分離前の溶出液をコーティングしたものと、原料液をコーティングして培養したものとの比較もおこなった。
【0036】
培養結果を
図1に示す。写真から明らかなように、精製液は原料液と同様にスフェロイド形態に培養されることを確認した。
【0037】
溶出液によるコーティングのほかに、例えば、限外ろ過や透析などで溶出液のpHを中性域に調整したものを細胞培養液に添加してもよい(これを精製液と称する)。精製液を用いた培養試験の例としては、細胞培養液DMEM-10%FBS10mlに精製液0.5ml~1mlを添加し、肝臓ガン細胞HepG2細胞を72時間培養する例を挙げることができる。
【0038】
以上は、ケイ酸アルミニウムの場合である。次に、実施例1で目的タンパク質を吸着した他の吸着剤についても同様に溶出試験をおこなった。溶出液の組成および溶出方法は、上記したものにならった。結果を表3に示す。
【0039】
【0040】
以上の検討結果から、吸着剤としてケイ酸アルミニウムまたは天然アロフェンの粉末と原料液とを混和することで、粉末側に目的タンパク質を選択的に吸着させることができ、また、この粉末をさらに、グルタミン酸やアスパラギン酸などの酸性アミノ酸を溶解させた酸性水溶液に晒して水溶液側に目的タンパク質を溶出させることができる。すなわち目的タンパク質すなわちスフェロイド形成促進剤の精製技術が構築できたということができる。
【0041】
なお、吸着後には、緩衝液または界面活性剤を添加した緩衝液で洗浄することにより、わずかに残っている臭気成分その他の夾雑物を除去し、精製度をより高めるようにしても良い。実際、この工程を経ることにより吸着剤が無臭となることを確認した。
緩衝液の例としては、HEPES、MOPSなどを挙げることができる。
また、界面活性剤としてはTween20、Tween80などを挙げることができる。
【0042】
以上は、ノロゲンゲを用いた例であるが、カレイ、エイ、ニギスを用いた場合も、イカ若しくはタコの胴部を用いた場合も、同様に精製可能である。
【0043】
一般的にタンパク質の精製は、分子量、荷電、親和性などのタンパク質の各種性質を利用して夾雑物を除去していくのであるが、容易に精製できるタンパク質は稀であり、仮に精製できるとしても実際には特殊な技術や設備を要し複雑に精製法を組み合わる必要があり、価格の上昇を招来しやすい。
本発明は、以上説明したように、簡便に、吸着剤への吸着→洗浄→吸着剤からの分離(溶出)を行うことができ、かつ、強酸性雰囲気下に晒されても、スフェロイド形成促進活性を損なわず、極めて実用的な精製方法であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
溶出液に目的タンパク質を溶出させた後は、そのまま保存していてもよく、適宜、スフェロイドを形成させる使用環境に合わせて安定化処理や精製処理をおこなうようにして、適用範囲を広げるようにし、利便性をたかめてもよい。