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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】共重合半芳香族ポリアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/30 20060101AFI20220310BHJP
【FI】
C08G69/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018077243
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2019183039
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 尚実
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035319(JP,A)
【文献】特開昭63-130631(JP,A)
【文献】特開2010-248403(JP,A)
【文献】特開2002-105312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分として、第1の芳香族ジカルボン酸(A1)を含むとともに、前記第1の芳香族ジカルボン酸(A1)以外の第2の芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸とを有する群から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸(A2)とを含み、ジアミン成分として脂肪族ジアミン(B1)を含む共重合半芳香族ポリアミドの製造方法であって、
工程(i):脂肪族ジアミン(B1)の融点以上、210℃以下の温度において、
芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末に、[芳香族ジカルボン酸(A1)のカルボキシル基量]/[脂肪族ジアミン(B1)のアミノ基量]が0.97~1.10となる量の脂肪族ジアミン(B1)を、芳香族ジカルボン酸(A1)が平均粒子径1mm以下の粉末の状態を保つように添加して、ナイロン塩粉末を作製する工程、
工程(ii):作製したナイロン塩粉末を重合反応率が60%以上になるまで重合する工程、工程(iii):重合反応率が60%以上になるまで重合したナイロン塩粉末に、ジカルボン酸(A2)を、ジカルボン酸成分の20モル%以下の量となるように添加して、重合する工程、
工程(iv):さらに、ジアミン成分を添加して、重合する工程、
を含むことを特徴とする共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項2】
工程(i)における脂肪族ジアミン(B1)の添加中に、モノカルボン酸(C)を芳香族ジカルボン酸(A1)粉末に添加し、
芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末に添加する脂肪族ジアミン(B1)の量を、[芳香族ジカルボン酸(A1)とモノカルボン酸(C)の合計カルボキシル基量]/[脂肪族ジアミン(B1)のアミノ基量]が0.97~1.10となる量とすることを特徴とする請求項1記載の共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項3】
芳香族ジカルボン酸(A1)としてテレフタル酸を用いることを特徴とする請求項1または2記載の共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項4】
脂肪族ジアミン(B1)として1,10-デカンジアミンを用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合半芳香族ポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半芳香族ポリアミドのホモポリマーは、結晶性、耐熱性が高く、機械的特性に優れていることから、電気・電子部品用成形体、自動車用成形体として広く用いられているが、結晶性が高いゆえに、フィルム化や繊維化などの加工をおこなうことが難しい。
【0003】
半芳香族ポリアミドの製造方法として、特許文献1には、ジカルボン酸粉末を予めジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この加熱温度を維持しながら、ジカルボン酸の粉末の状態を保つようにジアミンをジカルボン酸粉末に添加してナイロン塩粉末を得たのち、ナイロン塩粉末を重合する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/070457号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数のジカルボン酸成分を用いて、上記製造方法により、半芳香族ポリアミドの共重合体を製造する場合、ナイロン塩は、重合中に粉体状態を維持することができず塊化して、重合が困難となることがあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、ナイロン塩粉末を使用したポリアミドの製造方法において、安定的に共重合半芳香族ポリアミドを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、1種類の芳香族ジカルボン酸を含むナイロン塩粉末を、重合反応率が60%以上になるまで重合したのち、他の種類のジカルボン酸を添加して重合することにより、安定的に共重合半芳香族ポリアミドが製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ジカルボン酸成分として、第1の芳香族ジカルボン酸(A1)を含むとともに、前記第1の芳香族ジカルボン酸(A1)以外の第2の芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸とを有する群から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸(A2)とを含み、ジアミン成分として脂肪族ジアミン(B1)を含む共重合半芳香族ポリアミドの製造方法であって、
工程(i):脂肪族ジアミン(B1)の融点以上、210℃以下の温度において、
芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末に、[芳香族ジカルボン酸(A1)のカルボキシル基量]/[脂肪族ジアミン(B1)のアミノ基量]が0.97~1.10となる量の脂肪族ジアミン(B1)を、芳香族ジカルボン酸(A1)が平均粒子径1mm以下の粉末の状態を保つように添加して、ナイロン塩粉末を作製する工程、
工程(ii):作製したナイロン塩粉末を重合反応率が60%以上になるまで重合する工程、
工程(iii):重合反応率が60%以上になるまで重合したナイロン塩粉末に、ジカルボン酸(A2)を、ジカルボン酸成分の20モル%以下の量となるように添加して、重合する工程、
工程(iv):さらに、ジアミン成分を添加して、重合する工程、
を含むことを特徴とする共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
(2)工程(i)における脂肪族ジアミン(B1)の添加中に、モノカルボン酸(C)を芳香族ジカルボン酸(A1)粉末に添加し、
芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末に添加する脂肪族ジアミン(B1)の量を、[芳香族ジカルボン酸(A1)とモノカルボン酸(C)の合計カルボキシル基量]/[脂肪族ジアミン(B1)のアミノ基量]が0.97~1.10となる量とすることを特徴とする(1)記載の共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
(3)芳香族ジカルボン酸(A1)としてテレフタル酸を用いることを特徴とする(1)または(2)記載の共重合半芳香族ポリアミドの製造方法。
(4)脂肪族ジアミン(B1)として1,10-デカンジアミンを用いることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の共重合半芳香族ポリアミドの製造方法
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、共重合半芳香族ポリアミドを安定的に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法で製造される共重合半芳香族ポリアミドは、ジカルボン酸成分として、第1の芳香族ジカルボン酸(A1)を含むとともに、前記第1の芳香族ジカルボン酸(A1)以外の第2の芳香族ジカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸とを有する群から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸(A2)とを含み、ジアミン成分として脂肪族ジアミン(B1)を含むものである。
本発明の製造方法は、脂肪族ジアミン(B1)の融点以上、芳香族ジカルボン酸(A1)の融点以下の温度において、芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末に、脂肪族ジアミン(B1)を、芳香族ジカルボン酸(A1)が粉末の状態を保つように添加して、ナイロン塩粉末を作製する工程(i)と、
作製したナイロン塩粉末を重合反応率が60%以上になるまで重合する工程(ii)と、
重合反応率が60%以上になるまで重合したナイロン塩粉末に、ジカルボン酸(A2)を、ジカルボン酸成分の20モル%以下の量となるように添加して、重合する工程(iii)と、
さらに、ジアミン成分を添加して、重合する工程(iv)とを含む。
【0011】
<工程(i)>
工程(i)において使用する第1の芳香族ジカルボン酸成分(A1)としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が挙げられ、中でも、テレフタル酸を使用することが好ましい。芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を使用することにより、共重合半芳香族ポリアミドは、耐熱性が向上する。
【0012】
工程(i)において使用する脂肪族ジアミン(B1)としては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン等が挙げられ、中でも、汎用性が高く、共重合半芳香族ポリアミドの耐熱性が向上することから、1,10-デカンジアミンを使用することが好ましい。脂肪族ジアミン(B1)は、2種以上の脂肪族ジアミンを併用してもよい。
【0013】
工程(i)においては、脂肪族ジアミン(B1)の融点以上、芳香族ジカルボン酸(A1)の融点以下の温度において、芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末に、脂肪族ジアミン(B1)を、芳香族ジカルボン酸(A1)が粉末の状態を保つように添加する。芳香族ジカルボン酸(A1)の粒子は、平均粒子径が1mm以下である状態に保たれることが好ましい。
上記温度範囲において、半芳香族ジカルボン酸(A1)は固体の状態であるが、脂肪族ジアミン(B1)は溶融して液体となるため、半芳香族ジカルボン酸(A1)と脂肪族ジアミン(B1)は、容易に反応することができる。
【0014】
原料である芳香族ジカルボン酸(A1)粉末は、脂肪族ジアミン(B1)を添加する前に予め加熱しておくことが必要であり、加熱温度は、脂肪族ジアミン(B1)の融点以上、芳香族ジカルボン酸(A1)の融点以下とすることが必要であり、(脂肪族ジアミン(B1)の融点+10℃)以上、(芳香族ジカルボン酸(A1)の融点-5℃)以下とすることが好ましく、100~210℃であることがより好ましく、120~200℃であることがさらに好ましい。
加熱温度が脂肪族ジアミン(B1)の融点未満であると、芳香族ジカルボン酸(A1)粉末および脂肪族ジアミン(B1)のいずれもが固体の状態となり、ナイロン塩の生成反応がほとんど進行しないという問題がある。
一方、加熱温度が芳香族ジカルボン酸(A1)の融点を超えると、反応系全体が液状になり、ナイロン塩の生成にともない全体が塊状化するという問題があり、加熱温度が210℃を超えると、ナイロン塩の生成反応の際に、アミド生成反応が起こって水分が発生し、その結果、発生した水に起因して、得られたナイロン塩が一部溶融して融着したり、反応系が高圧となったりする場合がある。
【0015】
なお、原料である芳香族ジカルボン酸(A1)粉末を予め加熱する際の加熱温度と、ナイロン塩の生成における反応温度は、同じ温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。
【0016】
脂肪族ジアミン(B1)は、芳香族ジカルボン酸(A1)に、固体で添加してもよいし、加熱溶融して液体としてから添加してもよく、得られるナイロン塩粉末の平均粒子径をより小さくする観点から、加熱溶融して液体としてから添加することが好ましい。
【0017】
脂肪族ジアミン(B1)を固体で添加する場合、脂肪族ジアミン(B1)を反応容器とは異なる別の容器に準備しておき、脂肪族ジアミン(B1)の添加速度を調整しながら、別の容器から反応容器に供給すればよい。脂肪族ジアミン(B1)を別の容器から反応容器に送粉する装置は、大気中の空気を混入させずに送粉できるものが好ましい。そのような装置としては、例えば、ダブルダンパー機構を備えた送粉装置が挙げられる。また、脂肪族ジアミン(B1)を固体で添加する場合、脂肪族ジアミン(B1)が投入された別の容器の圧力を、反応容器の圧力よりも高くすることで、反応容器から別の容器へ脂肪族ジアミン(B1)が逆流することを防止することができる。
【0018】
一方、脂肪族ジアミン(B1)を液体で添加する場合、反応容器とは異なる別の容器で脂肪族ジアミン(B1)を加熱溶融し液体としてから、反応容器に送液し、液体状の脂肪族ジアミン(B1)を芳香族ジカルボン酸(A1)粉末にスプレー状に噴霧することが好ましい。脂肪族ジアミン(B1)を反応容器に送液する装置は、大気中の空気を混入させずに送液できる装置が好ましい。また、液体状の脂肪族ジアミン(B1)を添加する際には、送液装置の出口を、反応させる芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末の相に予め入れておくことが好ましい。そのようにすることで、効率的にナイロン塩粉末を作製することができる。
【0019】
脂肪族ジアミン(B1)を添加する方法は、反応中において芳香族ジカルボン酸(A1)が粉末状態を維持しうるものであれば、特に限定されない。なかでも、得られたナイロン塩が塊状となることを抑制し、効率よく生成反応をおこなう観点から、芳香族ジカルボン酸(A1)に脂肪族ジアミン(B1)を、連続して添加する方法や、分割して添加する方法、例えば、添加される脂肪族ジアミン(B1)全量のうちの、1~10質量%の量ずつを間欠的に添加する方法が好ましい。また、脂肪族ジアミン(B1)を間欠的に添加した後に、さらに連続して添加する方法など、上記の方法を組み合わせた方法でもよい。
【0020】
脂肪族ジアミン(B1)の添加速度は、芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末状態を安定して維持する観点から、0.07~6.7質量%/分であることが好ましく、0.1~3.4質量%/分であることがより好ましい。なお、ここで、「質量%/分」とは、最終的に添加される脂肪族ジアミン(B1)全量に対する、1分間に添加される脂肪族ジアミン(B1)の割合である。
【0021】
脂肪族ジアミン(B1)の添加時間は、得られるナイロン塩粉末の粒径をより小さくする観点から、0.25~24時間であることが好ましく、0.6~10時間であることがより好ましい。
【0022】
ナイロン塩の生成反応をおこなう際の反応時間は、芳香族ジカルボン酸(A1)の粉末状態を安定して維持する観点から、脂肪族ジアミン(B1)の添加が終了してから、0~6時間であることが好ましく、0.25~3時間であることがより好ましい。
【0023】
工程(i)において、芳香族ジカルボン酸(A1)粉末と脂肪族ジアミン(B1)とを反応させるに際し、両者の全供給量のモル比は、芳香族ジカルボン酸(A1)粉末/脂肪族ジアミン(B1)が45/55~55/45であることが好ましく、47.5/52.5~52.5/47.5であることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸(A1)粉末と脂肪族ジアミン(B1)とのモル比を上記の範囲に制御することで、高分子量の共重合半芳香族ポリアミドを得ることが可能なナイロン塩粉末とすることができる。
【0024】
添加する脂肪族ジアミン(B1)の量は、アミノ基量として、芳香族ジカルボン酸(A1)と後述するモノカルボン酸(C)の合計カルボキシル基量に対してやや少なくすることが好ましく、詳しくは、仕込み計算での合計カルボキシル基量/アミノ基量が1.01~1.10であることが好ましい。
上記比が0.97以上、1.01未満であると、工程(ii)において高重合度化し、工程(iii)において解重合反応が起こりにくく、反応時間が遅くなる可能性がある。
上記比が0.97未満であると、脂肪族ジアミン(B1)は、添加量が多すぎるため、トリアミンを生成しやすく、ゲル状物を生成する可能性がある。またカルボキシル基量が過小であるため、後工程において、解重合反応が激しくなり、共重合半芳香族ポリアミドの分子量が低下することがある。
上記比が1.10を超えると、脂肪族ジアミン(B1)の添加量が少なすぎるため、重合度が上がらず、ジアミン成分を追加して添加することが必要になる。
【0025】
工程(i)において、脂肪族ジアミン(B1)の添加中に、モノカルボン酸(C)を芳香族ジカルボン酸(A1)粉末に添加してもよい。
モノカルボン酸(C)としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられ、中でも、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、アルキル安息香酸類、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。
モノカルボン酸(C)は、2種以上のモノカルボン酸を併用してもよい。
【0026】
モノカルボン酸成分(C)の添加量は、共重合半芳香族ポリアミドを構成する全モノマーに対して、0.5モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましい。添加量が0.5モル%未満であると、製造される共重合半芳香族ポリアミドは、ゲル状物が多く生成され、溶融加工が困難となる場合がある。
【0027】
<工程(ii)>
工程(ii)においては、工程(i)で作製したナイロン塩粉末を、重合反応率が60%以上になるまで重合する。このナイロン塩粉末の重合は、最終的に生成する共重合半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相でおこない、重合温度180~270℃、反応時間0.5~10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。重合反応率が60%未満であるナイロン塩粉末は、カルボキシル基やアミノ基が多く残存しており、工程(iii)において、ジカルボン酸(A2)を添加した際に、粉末が塊化し、攪拌トルクが大きく上昇することがある。
【0028】
<工程(iii)>
工程(iii)においては、工程(ii)で得られた、重合反応率が60%以上になるまで重合したナイロン塩粉末に、ジカルボン酸(A2)を添加して、重合する。この重合も、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度でおこなう。工程(iii)において、ジカルボン酸(A2)は、芳香族ジカルボン酸(A1)と置換反応を起こし、ポリマー中にランダムに共重合される。この反応に伴い、攪拌トルクは上昇するが、上昇は緩やかであり、また終息するため、大きな問題にはならない。工程(iii)は、工程(ii)から連続して行ってもよい。
【0029】
工程(iii)において使用するジカルボン酸(A2)としては、工程(i)において使用した第1の芳香族ジカルボン酸(A1)以外の第2の芳香族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸(A2)として、2種以上のジカルボン酸を併用してもよい。
ジカルボン酸(A2)の添加量は、ジカルボン酸成分の20モル%以下であることが必要であり、共重合半芳香族ポリアミドの耐熱性を維持する点から、10モル%以下であることがより好ましい。また、ジカルボン酸(A2)の添加量が20モル%を超えると、共重合されたポリマーは、融点が大きく低下し、工程(iii)の反応温度以下になる可能性があり、溶融して塊化することがある。
【0030】
<工程(iv)>
上記工程(iii)において、ジカルボン酸(A2)を添加することによって、ジカルボン酸成分のモル量がジアミン成分のモル量より多くなるため、工程(iv)においては、ジアミン成分を添加してモルバランスを調整し、追加重合を行う。添加するジアミンは、工程(i)で使用した脂肪族ジアミン(B1)などの脂肪族ジアミンであることが好ましいが、その他のジアミンであってもよい。その他のジアミンとして、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。しかし、脂環式ジアミンや芳香族ジアミンは、含有量が、共重合半芳香族ポリアミド原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下であることが好ましいことから、ジアミンとして添加しないことがより好ましい。
ジアミンの添加量は、工程(iii)で添加したジカルボン酸(A2)の添加モル量と、工程(i)において不足した脂肪族ジアミン(B1)モル量を足した量であることが好ましい。
【0031】
上記工程によって、共重合半芳香族ポリアミドを構成する成分である芳香族ジカルボン酸(A1)と、ジカルボン酸(A2)と、脂肪族ジアミン(B1)とを反応させることができるが、本発明においては、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸や11-アミノウンデカン酸等のω-アミノカルボン酸を、適宜反応させてもよい。
【0032】
工程(i)~工程(iv)の反応装置は、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)~工程(iv)は、同じ反応装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。また、内容物を加熱する方法としては、特に限定されないが、水、蒸気、熱媒油等の媒体や電気ヒーターで反応容器を加熱する方法、内容物を攪拌することにより発生する攪拌熱等の、内容物の運動に伴う摩擦熱を利用する方法が挙げられる。また、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0033】
共重合半芳香族ポリアミドの製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられ、重合触媒の添加量は、通常、原料モノマーの総モル数に対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
【0034】
本発明の方法によって製造される共重合半芳香族ポリアミドやそれを含有する樹脂組成物は、射出成形することにより、成形体とすることができる。射出成形に用いる射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された共重合半芳香族ポリアミドやその樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、共重合半芳香族ポリアミドの融点以上とすることが必要であり、(融点+100℃)未満とすることが好ましい。なお、共重合半芳香族ポリアミドを射出成形に用いる場合は、共重合半芳香族ポリアミドは十分に乾燥していることが好ましい。射出成形に用いる共重合半芳香族ポリアミドの水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【0035】
また、共重合半芳香族ポリアミドは、Tダイ押出、インフレーション成形等の公知の製膜方法により、フィルムやシートに成形することができる。共重合半芳香族ポリアミドを成形してなるフィルムやシートは、例えば、スピーカー振動板、フィルムコンデンサの用途に用いることができる。
【0036】
また、共重合半芳香族ポリアミドは、溶融紡糸法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法等の公知の紡糸方法により、各種繊維に成形することができる。共重合半芳香族ポリアミドを成形してなる繊維は、例えば、エアーバッグ基布、耐熱フィルター、ラジエータホース用補強用繊維、ブラシ用ブリッスル、釣糸、タイヤコード、人工芝、絨毯、魚網、ロープ、フィルター用繊維、座席シート用繊維の用途に用いることができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
1.測定方法
共重合半芳香族ポリアミドの物性測定は以下の方法によりおこなった。
(1)重合反応率
工程(i)においてナイロン塩粉末の作製に使用した脂肪族ジアミン(B1)の量から、これがすべて反応した場合に生じる水の量(理論反応水量)を計算して求めた。一方、工程(ii)においてナイロン塩粉末を重合した際に発生する反応水を、冷却管を通して回収し、その質量(回収反応水量)を求めた。理論反応水量に対する回収反応水量から、重合反応率を算出した。
理論反応水量=使用した脂肪族ジアミン(B1)のモル数×2×18
重合反応率(%)=回収反応水量/理論反応水量×100
【0039】
(2)メルトフローレート(MFR)
JIS規格K-7210に準拠して、荷重1.2kgf/cm、温度340℃の条件下、測定した。
【0040】
(3)平均粒子径
マルバーン社製マスターサイザー3000を用い、乾式測定にて50%粒子径を求め、これを平均粒子径とした。
【0041】
2.原材料
用いた原材料を以下に示す。
(1)ジカルボン酸
芳香族ジカルボン酸
・TPA:テレフタル酸(分子量:166、融点:300℃以上)
・IPA:イソフタル酸(分子量:166、融点:300℃以上)
脂肪族ジカルボン酸
・SEA:セバシン酸(分子量:202、融点:133~137℃)
・AZA:アゼライン酸(分子量:188、融点:98℃)
(2)脂肪族ジアミン
・DDA:1,10-デカンジアミン(分子量:172、融点:62℃)
・DDDA:1,12-ドデカンジアミン(分子量:200、融点:67~69℃)
(3)モノカルボン酸
・STA:ステアリン酸(分子量:284、融点:70℃)
・BA:安息香酸(分子量:122、融点:122℃)
【0042】
実施例1
工程(i)
芳香族ジカルボン酸(A1)として粉末状のTPA1.27kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム無水物2.4gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、脂肪族ジアミン(B1)として120℃に加温したDDA1.31kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し、モノカルボン酸(C)としてSTA0.094kgを、脂肪族ジアミンの添加開始から1.5時間後と2時間後に半量ずつ添加し、ナイロン塩粉末を得た。仕込み原料における比(TPAとSTAの合計カルボキシル基量/DDAのアミノ基量)は、1.03であった。反応中、反応熱による温度上昇を制御し、温度を173℃で保持した。
工程(ii)
工程(i)で得られたナイロン塩粉末を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、重合反応率が92%の半芳香族ポリアミドを得た。重合の前半で攪拌トルクの小さな上昇が発生したが、終息した。
工程(iii)
得られた重合反応率92%の半芳香族ポリアミドに、ジカルボン酸(A2)としてIPA0.145kgを5分毎に3分割して添加し、250℃で3時間共重合を行い、共重合半芳香族ポリアミドの低分子量ポリマーを得た。
工程(iv)
得られた共重合半芳香族ポリアミドの低分子量ポリマーに、DDA0.193kgを3分割して投入し、250℃で5時間高重合度化を行い、共重合半芳香族ポリアミドを得た。
上記工程(i)で使用した芳香族ジカルボン酸(A1)、脂肪族ジアミン(B1)、モノカルボン酸(C)、工程(iii)で使用したジカルボン酸(A2)、工程(iv)で使用した脂肪族ジアミン(B1)のモル比(A1:B1:C:A2:B1)は、88.1:87.1:3.8:10:12.9であった。
また、ジカルボン酸成分における、工程(iii)で使用したジカルボン酸(A2)の割合は、10.2モル%であった。
【0043】
実施例2~9
原料のモル部、製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして共重合半芳香族ポリアミドを得た。
【0044】
比較例1
ジカルボン酸(A2)のSEA0.18kgを粉末状のTPA1.27kgに加えたものに、DDA1.55kgを添加した以外は、実施例1の工程(i)と同様の操作をおこなったところ、DDAの添加にともない、攪拌トルクが大きく上昇し、ナイロン塩粉末が塊化し、攪拌が不良となり、ナイロン塩の粉末を作製することが困難となった。
【0045】
比較例2
液注装置を用いて、DDA1.55kgとあわせてSEA0.18kgをTPAに添加した以外は、実施例1の工程(i)と同様の操作をおこない、ナイロン塩粉末を得た。仕込み原料における比(TPAとSEAとSTAの合計カルボキシル基量/DDAのアミノ基量)は、1.03であった。
得られたナイロン塩粉末を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで加熱したところ、攪拌トルクが大きく上昇し、重合反応生成物が塊化し、攪拌が不良となり、重合を継続することが困難となった。
【0046】
比較例3、4
比較例3では、工程(iii)において、重合反応率が58%であるナイロン塩粉末にジカルボン酸(A2)添加したところ、また比較例4では、工程(iii)において、ジカルボン酸成分の20モル%を超えるジカルボン酸(A2)添加したところ、いずれも塊化し、重合することができなかった。
【0047】
実施例1~9、比較例1~4における共重合半芳香族ポリアミドの製造条件、得られた樹脂特性を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1~9の製造方法では、実施例7において反応中に一部が塊化しものの、共重合半芳香族ポリアミドを安定的に製造することができた。比較例1~4では、反応中に塊化し、重合の継続が困難であり、共重合半芳香族ポリアミドを得ることができなかった。