(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ペロブスカイトフィルムを製造する蒸着装置、その使用方法およびペロブスカイト太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 51/44 20060101AFI20220310BHJP
H01L 51/48 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 184
H01L31/04 186
(21)【出願番号】P 2020535494
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 CN2018122633
(87)【国際公開番号】W WO2019141045
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】201810046196.6
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518086505
【氏名又は名称】杭州繊納光電科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】HANGZHOU MICROQUANTA SEMICONDUCTOR CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】姚 冀衆
(72)【発明者】
【氏名】顔 歩一
(72)【発明者】
【氏名】盛 睿
(72)【発明者】
【氏名】顧 楠楠
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-515313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106917064(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104505462(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106282922(CN,A)
【文献】特表2017-526176(JP,A)
【文献】米国特許第6103638(US,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0095580(KR,A)
【文献】Giulia Longo et al.,"Perovskite solar cells prepared by flash evaporation",Chemical Communications,2015年,Vol.51,pp.7376-7378
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
H01L 51/42-51/48
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
H01L 21/20-21/208
C23C 14/00-14/58
B01J 19/00-19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封チャンバーを含む、ペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置であって、
前記密封チャンバー内に少なくとも1セットのセミクローズド反応器装置が設けられており、
前記セミクローズド反応器装置は、下加熱昇華装置および上加熱ステーションを含み、
前記下加熱昇華装置の頂部に開口が上向きの容器が設けられ、
前記容器内に反応物前駆体が収容されており、
前記容器の真上に、容器の開口をカバーする基板ホルダが設けられ、
前記容器の側面に基板ホルダ支持プラットホームが設けられ、
前記基板ホルダは、基板ホルダ支持プラットホームに設けられ、
前記基板ホルダの下底面に堆積対象となる基板が設けられ、
前記基板は、容器の真上に位置し、その堆積予定面が容器における反応物前駆体に対向させており、
前記上加熱ステーションは、基板を加熱するために基板ホルダに設けられ、
前記反応物前駆体が基板の表面に蒸着され、
密封チャンバー内の気圧を制御し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置の加熱温度を制御する、ことを特徴とするペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置。
【請求項2】
前記容器の開口面積が、基板の面積よりも大きい、ことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置。
【請求項3】
前記基板ホルダは、基板を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動することを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置。
【請求項4】
前記容器における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、それらの厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである、ことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置。
【請求項5】
前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10
-5Pa~10
5Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が20~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が20~400℃であり、反応時間が10~120minである、ことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置。
【請求項6】
上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が、真空ポンプおよび真空バルブにより制御される、ことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置。
【請求項7】
請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置の使用方法であって、
容器に反応物前駆体材料を添加し、基板の堆積予定面を下向きに基板ホルダの内底面に設け、基板ホルダを基板ホルダ支持プラットホーム上に置いた後、設けられたセミクローズド反応器装置を密封チャンバー内に置く第1ステップと、
密封チャンバー内のガス排気し、密封チャンバー内の気圧を制御し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置に対してそれぞれ給電し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置の加熱温度を制御し、反応物前駆体を基板の表面に蒸着させる第2ステップと、
連続して10~120min反応させた後、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置への給電を停止させて加熱を停止し、密封チャンバーを大気圧に回復させ、反応物前駆体が堆積された基板を取り出す第3ステップと、を含む、ことを特徴とする使用方法。
【請求項8】
第1ステップでは、前記容器における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、それらの厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである、ことを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置の使用方法。
【請求項9】
第2ステップでは、前記基板ホルダは、基板を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する、ことを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置の使用方法。
【請求項10】
第2ステップでは、上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が真空ポンプおよび真空バルブにより制御される、ことを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置の使用方法。
【請求項11】
第2ステップでは、前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10
-5Pa~10
5Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が20~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が20~400℃である、ことを特徴とする請求項7に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置の使用方法。
【請求項12】
ペロブスカイト層を含み、
前記ペロブスカイト層の製造過程で、請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置が用いられる、ことを特徴とするペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記ペロブスカイト太陽電池は、第1導電電極、第1輸送層、ペロブスカイトフィルム層、第2輸送層および第2導電電極を含み、
その製造方法は、
第1導電電極において第1輸送層を製造するS1と、
スピンコーティング、ナイフコーティング、スリット連続コーティング、スプレーコーティング、印刷または真空蒸着のうちのいずれか1種の加工方法で、第1輸送層が堆積された基板において1種または複数種の金属ハロゲン化物BX
2フィルムを堆積するS2と、
次に、金属ハロゲン化物BX
2フィルムが堆積された基板を堆積対象となる基板として請求項1に記載のペロブスカイトフィルムを製造する
蒸着装置における基板ホルダに固定し、前記容器に1種または複数種の反応物AXを添加し、それぞれを均一に平らに敷き、前記基板の堆積予定面を下向きに容器における反応物AXに対向させ、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置を同時に加熱し、密封チャンバー内の気圧を制御し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置の加熱温を制御し、反応物AXが金属ハロゲン化物BX
2を含有する基板の表面に蒸着されてペロブスカイトフィルム層を生成するS3と、
反応が終了した後、堆積された基板を取り出すS4と、
ペロブスカイトフィルム層において第2輸送層を堆積するS5と、
第2導電電極を堆積するS6と、を含み、
ただし、前記金属ハロゲン化物BX
2におけるBは、2価の金属陽イオンであり、鉛、スズ、タングステン、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、アンチモン、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、水銀、タリウム、ビスマス、ポロニウムのうちの1種の陽イオンであってもよく、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、チオシアン酸、シアン、オキシシアンのうちのいずれか1種の陰イオンであり、前記金属ハロゲン化物BX
2フィルムの厚みが80~300nmであり、
上述した反応物AXにおけるAは、セシウム、ルビジウム、カリウム、アミン、アミジンまたはアルカリのうちのいずれか1種の陽イオンであり、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、チオシアン酸、シアン、オキシシアンのうちのいずれか1種の陰イオンである、ことを特徴とする請求項12に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項14】
前記容器における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、各種の反応物前駆体の厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmであり、前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10
-5Pa~10
5Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が100~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が100~400℃であり、製造されたペロブスカイトフィルム層の厚みが100~600nmである、ことを特徴とする請求項13に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項15】
前記基板ホルダは、基板を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する、ことを特徴とする請求項13に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【請求項16】
上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が、真空ポンプおよび真空バルブにより制御される、ことを特徴とする請求項13に記載のペロブスカイト太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト太陽電池の技術分野に属し、特に、ペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置、使用方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、半導体の光起効果を利用して太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換デバイスである。発展に伴い、太陽光発電は、水力発電や風力発電以外の最も重要な再生可能エネルギーとなっている。現在、商業化に用いられている半導体には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、テルル化カドミウム、銅インジウムガリウムセレンなどがあるが、多くはエネルギー消費が大きく、コストが高い。
【0003】
近年来、有機金属ハロゲン化物を光吸収層とするペロブスカイト太陽電池は、広く注目されている。
図1に示すように、ペロブスカイトは、ABX
3型の截半立方体構造である。このような材料により製造されるフィルム太陽電池は、プロセスがシンプルであり、生産コストが低く、安定的で、変換率が高い。2009年から今まで、光電変換効率が3.8%から22%以上に向上されており、商業化される結晶シリコン太陽電池よりも高く、コスト面で非常に優位である。
【0004】
従来の各種ペロブスカイト太陽電池フィルムの成形プロセスは、溶液法及び気相法に分けられている。しかしながら、溶液法としては、操作しやすいが、フィルムの均一性および再現性が悪く、電池の効率に影響を及ぼしている。気相法としては、デュアルソース共蒸着法、気相溶液補助法、化学気相成長法(CVD)などの方法があり、そのうち、気相溶液補助法は、均一で、結晶粒のサイズが大きく、表面粗さが小さいペロブスカイトフィルムを製造することができるが、フィルムの再現性、および成膜の品質を向上する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は、ペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置、使用方法および使用を提供することにある。これにより、均一で安定した反応環境を提供し、製造過程でフィルムの結晶体の成長を制御し、成膜の品質、均一性および再現性を向上させ、大規模生産ラインに埋め込まれて連続的に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、密封チャンバーを含む、ペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置を提供する。前記密封チャンバー内に少なくとも1セットのセミクローズド反応器装置が設けられている。前記セミクローズド反応器装置は、下加熱昇華装置および上加熱ステーションを含む。前記下加熱昇華装置の頂部に開口が上向きの容器が設けられ、前記容器内に反応物前駆体が収容されている。前記容器の真上に、容器の開口をカバーする基板ホルダが設けられている。前記容器の側面に基板ホルダ支持プラットホームが設けられ、前記基板ホルダが基板ホルダ支持プラットホームに設けられている。前記基板ホルダの下底面に堆積対象となる基板が設けられている。前記基板は、容器の真上に位置し、その堆積予定面が容器における反応物前駆体に対向している。前記上加熱ステーションは、基板を加熱するために基板ホルダに設けられている。前記反応物前駆体が基板の表面に蒸着されている。密封チャンバー内の気圧を制御し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置の加熱温度を制御する。
【0007】
さらには、前記容器の開口面積が、基板の面積よりも大きい。
【0008】
さらには、前記基板ホルダは、基板を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する。
【0009】
さらには、前記容器における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、それらの厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである。
【0010】
さらには、前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が20~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が20~400℃であり、反応時間が10~120minである。
【0011】
さらには、前記密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が、真空ポンプおよび真空バルブにより制御される。
【0012】
本発明によれば、上述したペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置の使用方法を提供し、以下のステップを含む。
【0013】
第1ステップ:容器に反応物前駆体材料を添加し、基板の堆積予定面を下向きに基板ホルダの内底面に設け、基板ホルダを基板ホルダ支持プラットホーム上に置いた後、設けられたセミクローズド反応器装置を密封チャンバー内に置く。
【0014】
第2ステップ:密封チャンバー内のガスを排気し、密封チャンバー内の気圧を制御し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置に対してそれぞれ給電し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置の加熱温度を制御し、反応物前駆体を基板の表面に蒸着させる。
【0015】
第3ステップ:連続して10~120min反応させた後、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置への給電を停止させて加熱を停止し、密封チャンバーを大気圧に回復させ、反応物前駆体が堆積された基板を取り出す。
【0016】
さらには、第1ステップでは、前記容器における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、それらの厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである。
【0017】
さらには、第2ステップでは、前記基板ホルダは、基板を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する。
【0018】
さらには、第2ステップでは、上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が真空ポンプおよび真空バルブにより制御される。
【0019】
さらには、第2ステップでは、前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が20~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が20~400℃である。
【0020】
本発明によれば、ペロブスカイト太陽電池をさらに提供する。前記ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト層を含み、前記ペロブスカイト層の製造過程で、上述したペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置が用いられる。
【0021】
本発明によれば、上述したペロブスカイト太陽電池の製造方法をさらに提供する。前記ペロブスカイト太陽電池は、第1導電電極、第1輸送層、ペロブスカイトフィルム層、第2輸送層および第2導電電極を含み、その製造方法は、以下のステップを含む。
【0022】
S1:第1導電電極において第1輸送層を製造する。
【0023】
S2スピンコーティング、ナイフコーティング、スリット連続コーティング、スプレーコーティング、印刷または真空蒸着のうちのいずれか1種の加工方法で、第1輸送層が堆積された基板において1種または複数種の金属ハロゲン化物BX2フィルムを堆積する。
【0024】
S3:次に、金属ハロゲン化物BX2フィルムが堆積された基板を堆積対象となる基板として上述したペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置における基板ホルダに固定し、前記容器に1種または複数種の反応物AXを添加し、それぞれを均一に平らに敷き、前記基板の堆積予定面を下向きに容器における反応物AXに対向させ、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置を同時に加熱し、密封チャンバー内の気圧を制御し、上加熱ステーションおよび下加熱昇華装置の加熱温を制御し、反応物AXが金属ハロゲン化物BX2を含有する基板の表面に蒸着されてペロブスカイトフィルム層を生成する。
【0025】
S4:反応が終了した後、堆積された基板を取り出す。
【0026】
S5:製造されたペロブスカイトフィルム層において第2輸送層を堆積する。
【0027】
S6:第2導電電極を堆積する。
【0028】
ただし、前記金属ハロゲン化物BX2におけるBは、2価の金属陽イオンであり、鉛、スズ、タングステン、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、アンチモン、オスミウム、イリジウム、プラチナ、金、水銀、タリウム、ビスマス、ポロニウムのうちの1種の陽イオンであってもよく、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、チオシアン酸、シアン、オキシシアンのうちのいずれか1種の陰イオンであり、前記金属ハロゲン化物BX2フィルムの厚みが80~300nmである。
【0029】
上述した反応物AXにおけるAは、セシウム、ルビジウム、カリウム、アミン、アミジンまたはアルカリのうちのいずれか1種の陽イオンであり、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、チオシアン酸、シアン、オキシシアンのうちのいずれか1種の陰イオンである。
【0030】
さらには、前記容器における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、各種の反応物前駆体の厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmであり、前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が100~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が100~400℃であり、製造されたペロブスカイトフィルム層の厚みが100~600nmである。
【0031】
さらには、前記基板ホルダは、基板を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する。
【0032】
さらには、上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が、真空ポンプおよび真空バルブにより制御される。
【発明の効果】
【0033】
従来技術に比較して、本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置、使用方法および使用は、均一で安定した反応環境を提供し、ペロブスカイトフィルムの製造過程でフィルムの結晶体を制御するとともに、成膜の品質、均一性および再現性を向上させ、大規模生産ラインに埋め込まれて連続して製造することができる。
【0034】
従来技術に比較して、本発明は、同時に以下の特徴をさらに有する。
【0035】
1.成形しようとするペロブスカイトフィルムの品質を精確に制御し、ペロブスカイトフィルムの均一性を向上させることができる。
【0036】
2.金属ハロゲン化物をハロゲン化物の蒸気と十分に反応させて、ペロブスカイトの結晶に対する制御可能性を向上させることができる。
【0037】
3.連続的な生産を実現可能な態様を提供することができる。
【0038】
4.堆積速度および材料の利用率を向上させることができる。
【0039】
5.真空で堆積してペロブスカイト材料の分解または変質を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】従来技術におけるペロブスカイトフィルムの分子構造の模式図である。
【
図2】本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置の好ましい実施例の平面模式図である。
【
図3】
図2におけるセミクローズド装置の好ましい例の平面模式図である。
【
図4】
図3における基板ホルダの好ましい例の模式図である。
【
図5】本発明に係るペロブスカイト太陽電池の製造過程におけるペロブスカイトフィルムの製造フロチャートである。
【
図6】本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置により製造されたペロブスカイトフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置により製造されたペロブスカイト太陽電池のJVグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明が解決しようとする技術的課題、技術方案および有益な効果をより明確にするために、図面および実施例を結び付けて本発明についてさらに詳細に説明をする。ここで記載される具体的な実施例は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明を限定するためのものではないと理解すべきである。
【0042】
図2、
図3および
図4に示すように、本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置は、少なくとも1セットのセミクローズド反応器装置2が設けられた密封チャンバー1を含む。
【0043】
前記セミクローズド反応器装置2は、下加熱昇華装置3および上加熱ステーション4を含み。前記下加熱昇華装置3の頂部に開口が上向きの容器5が設けられ、前記容器5内に反応物前駆体が収容されている。前記容器5の真上に基板ホルダ6が設けられている。前記基板ホルダ6は、容器5の開口をカバーする。前記容器5の側面に基板ホルダ支持プラットホーム7が設けられ、前記基板ホルダ6が基板ホルダ支持プラットホーム7に設けられている。前記基板ホルダ6の下底面に堆積対象となる基板8が設けられている。前記基板8は、容器5の真上に位置し、その堆積予定面が容器5における反応物前駆体に対向している。前記上加熱ステーション4は、基板8を加熱するために基板ホルダ6に設けられている。前記反応物前駆体は、基板8の表面に蒸着される。密封チャンバー1内の気圧を制御し、上加熱ステーション4および下加熱昇華装置3の加熱温度を制御する。前記上加熱ステーション4は、基板ホルダ6の頂部に設けられている。前記下加熱昇華装置3内には、容器5内の反応物前駆体を加熱するための反応物加熱装置が設けられ、前記上加熱ステーション4には基板8を加熱するための基板加熱装置が設けられている。
【0044】
前記容器5の開口面積が基板8の面積よりも大きい。前記容器5における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、それらの厚みの差が0.1~1.0mm未満である。前記基板8の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである。
【0045】
前記密封チャンバー内の反応気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、前記上加熱ステーションの加熱温度範囲が20~400℃であり、前記下加熱昇華装置の加熱温度範囲が20~400℃であり、反応時間が10~120minである。
【0046】
本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置は、伝動装置9をさらに含む。前記伝動装置9は、基板ホルダ支持プラットホーム7を駆動して基板ホルダ6が水平方向または鉛直方向において往復移動する。
【0047】
本発明に係る密封チャンバー1は、小型チャンバーまたは大型連続生産設備である。密封チャンバー1内の気圧が真空ポンプおよび真空バルブにより制御される。
【0048】
本発明は、上述したペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置の使用方法をさらに開示し、以下のステップを含む。
【0049】
第1ステップ:容器5に反応物前駆体材料を添加し、基板8の堆積予定面を下向きに基板ホルダ6の内底面に設け、基板ホルダ6を基板ホルダ支持プラットホーム7上に置いた後、設けられたセミクローズド反応器装置2を密封チャンバー1内に置く。
【0050】
第2ステップ:密封チャンバー1内のガスを排気し、密封チャンバー1内の気圧を制御し、上加熱ステーション4および下加熱昇華装置3に対してそれぞれ給電し、上加熱ステーション4および下加熱昇華装置3の加熱温度を制御し、反応物前駆体を基板8の表面に蒸着させる。
【0051】
第3ステップ:連続して10~120min反応させた後、上加熱ステーション4および下加熱昇華装置3への給電を停止させて加熱を停止し、密封チャンバー1を大気圧に回復させ、反応物前駆体が堆積された基板8を取り出す。
【0052】
第1ステップでは、前記容器5における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、それらの厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板8の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである。
【0053】
第2ステップでは、前記密封チャンバー1内の反応気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、前記上加熱ステーション4の加熱温度範囲が20~400℃であり、前記下加熱昇華装置3の加熱温度範囲が20~400℃である。
【0054】
第2ステップでは、前記基板ホルダ6は、基板8を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する。
【0055】
第2ステップでは、上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、密封チャンバー内の気圧が真空ポンプおよび真空バルブにより制御される。
【0056】
本発明は、ペロブスカイト太陽電池をさらに開示する。前記ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト層を含み、前記ペロブスカイト層の製造過程で、上述したペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置が用いられる。
【0057】
図5に示すように、本発明は、ペロブスカイト太陽電池の製造方法をさらに開示する。前記ペロブスカイト太陽電池は、第1導電電極、第1輸送層、ペロブスカイトフィルム層、第2輸送層および第2導電電極を含み、その製造方法は、以下のステップを含む。
【0058】
S1:第1導電電極において第1輸送層を製造する。
【0059】
S2:スピンコーティング、ナイフコーティング、スリット連続コーティング、スプレーコーティング、印刷または真空蒸着のうちのいずれか1種の加工方法で、第1輸送層が堆積された基板において1種または複数種の金属ハロゲン化物BX2フィルムを堆積する。
【0060】
S3:次に、金属ハロゲン化物BX2フィルムが堆積された基板8を堆積対象となる基板として上述したペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置における基板ホルダ6に固定し、前記容器5に1種または複数種の反応物AXを添加し、それぞれを均一に平らに敷き、前記基板8の堆積予定面を下向きに容器5における反応物AXに対向させ、上加熱ステーション4および下加熱昇華装置3を同時に加熱し、密封チャンバー1内の気圧を制御し、上加熱ステーション4および下加熱昇華装置3の加熱温を制御し、反応物AXが金属ハロゲン化物BX2を含有する基板8の表面に蒸着されてペロブスカイトフィルム層を生成する。
【0061】
S4:反応が終了した後、堆積された基板8を取り出す。
【0062】
S5:基板8のペロブスカイトフィルム層において第2輸送層を堆積する。
【0063】
S6:第2導電電極を堆積する。
【0064】
ただし、前記金属ハロゲン化物BX2におけるBは、2価の金属陽イオンであり、鉛(Pb2+)、スズ(Sn2+)、タングステン(W2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)、ガリウム(Ga2+)、ゲルマニウム(Ge2+)、ヒ素(As2+)、セレン(Se2+)、ロジウム(Rh2+)、パラジウム(Pd2+)、銀(Ag2+)、カドミウム(Cd2+)、インジウム(In2+)、アンチモン(Sb2+)、オスミウム(Os2+)、イリジウム(Ir2+)、プラチナ(Pt2+)、金(Au2+)、水銀(Hg2+)、タリウム(Tl2+)、ビスマス(Bi2+)、ポロニウム(Po2+)のうちの1種の陽イオンであり、Xは、塩素(Cl-)、臭素(Br-)、ヨウ素(I-)、チオシアン酸(NCS-)、シアン(CN-)、オキシシアン(NCO-)のうちのいずれか1種の陰イオンであってもよい。前記金属ハロゲン化物BX2フィルムの厚みが80~300nmである。
【0065】
ただし、上述した反応物AXにおけるAは、セシウム(Cs+)、ルビジウム(Rb+)、カリウム(K+)、アミン、アミジンまたはアルカリのうちの1種であり、Xは、塩素(Cl-)、臭素(Br-)、ヨウ素(I-)、チオシアン酸(NCS-)、シアン(CN-)、オキシシアン(NCO-)のうちのいずれか1種の陰イオンである。
【0066】
前記容器5における反応物前駆体の厚みが2~10mmであり、各種の反応物前駆体の厚みの差が0.1~1.0mm未満であり、前記基板8の堆積予定面と反応物前駆体の頂面との高度差が5~40mmである。前記密封チャンバー1内の反応気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、前記上加熱ステーション4の加熱温度範囲が100~400℃であり、前記下加熱昇華装置3の加熱温度範囲が100~400℃であり、製造されたペロブスカイトフィルム層の厚みが100~600nmである。
【0067】
前記基板ホルダ6は、基板8を水平方向または鉛直方向において往復移動可能に駆動する。
【0068】
上述した密封チャンバーは、小型チャンバーまたは大型連続生産設備であり、前記密封チャンバー1内の気圧が、真空ポンプおよび真空バルブにより制御される。
【0069】
以下、具体的な実施例を結び付けて、本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置を用いてペロブスカイト太陽電池を製造する方法について説明をする。
【0070】
実施例1
ペロブスカイト太陽電池の製造方法は、以下のステップを含む。
【0071】
(1)順に洗浄剤、脱イオン水、アセトン、イソプロパノールを用いて、それぞれ超音波で10×10cmのITOガラス板を30min洗浄し、N2で乾かした後、UV O-zoneで10min処理した。
【0072】
(2)PEDOTを製造した:PSSフィルムを正孔輸送層とした。
【0073】
(3)金属ハロゲン化物フィルムの前駆溶液を調製した:461mgのPbI2(1mmol)を1mLのDMF溶液に溶解させ、60℃で2h加熱しながら撹拌し、溶解させた後、使用に備える。
【0074】
(4)調製された前駆溶液を用いて、スリットコーティングによってドープされたPbI2フィルムを製造した。
【0075】
(5)金属ハロゲン化物フィルムが堆積された基板8を基板ホルダ6に固定し、堆積予定面を下向きにした。伝動装置を用いて反応チャンバーの上蓋をMAIに敷き詰められた蒸発容器に搬送し、基板ホルダ支持プラットホーム7に架けた。真空ポンプで減圧して気圧を制御し、一定の値に達した後に真空バルブにフィードバックして閉鎖させた。密封チャンバー1内の気圧範囲が10-5Pa~105Paであり、下加熱昇華装置3を100℃~200℃に制御し、上加熱ステーション4の加熱温度を100℃~200℃に制御した。MAIガス分子をPbI2と反応させてペロブスカイトフィルムを生成し、反応時間が10~120minである。
【0076】
(8)電子輸送層PCBMを堆積した。
【0077】
(9)金属導電層Ag電極を蒸着してペロブスカイト太陽電池を製造した。
【0078】
図6は、本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置により製造されたペロブスカイトフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。同図から分かるように、この方法で製造されたペロブスカイトは、平坦で、緻密で、結晶体粒子のサイズが均一である。
【0079】
図7は、本発明に係るペロブスカイトフィルムを製造する浸漬式装置により製造されたペロブスカイト太陽電池のJVグラフである。電池効率が16.08%(PCE)に達する。
【産業上の利用可能性】
【0080】
上述した内容は、本発明の最適な実施例に過ぎず、本発明を限定するためのものではない。本発明の構想および原則以内に行われたあらゆる修正、均等置換及び改良は、いずれも本発明の保護範囲に属すべきである。