(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】マイクロ波加熱装置および加熱方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/70 20060101AFI20220310BHJP
【FI】
H05B6/70 E
(21)【出願番号】P 2020549899
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2018037894
(87)【国際公開番号】W WO2020075261
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】南光 正平
(72)【発明者】
【氏名】西村 永
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-112384(JP,A)
【文献】特開昭57-088693(JP,A)
【文献】実開昭53-115445(JP,U)
【文献】国際公開第2014/050828(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143024(WO,A1)
【文献】米国特許第3413433(US,A)
【文献】米国特許第3466415(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を伝送するための導波管を備えたマイクロ波加熱装置であって、
マイクロ波の伝送方向に沿って開口部を有するように前記導波管が構成され、
前記マイクロ波加熱装置は、
前記導波管の開口部に隣接して、前記導波管の外部に設けられた加熱手段と、
当該加熱手段に載置され、前記導波管の開口部を通り、前記加熱手段から前記導波管の内部にわたって少なくとも設けられた熱伝導性の絶縁体と
を備えたマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ波加熱装置において、
前記伝送方向に直交する前記導波管の幅方向に互いに対向して2つの前記開口部を有するように前記導波管が構成され、
前記導波管の各々の開口部にそれぞれ対向して、2つの前記加熱手段が前記導波管を挟み込むように設けられ、
前記熱伝導性の絶縁体は、前記導波管の2つの開口部を貫通して、一方の加熱手段から他方の加熱手段にわたって設けられた
マイクロ波加熱装置。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロ波加熱装置において、
前記導波管を折り返して構成し、
折り返しにより形成された2本の導波管において、前記幅方向に互いに対向して各々の前記開口部をそれぞれに有し、
折り返しにより形成された2本の導波管の各々の開口部にそれぞれ対向して、3つの前記加熱手段が各々の導波管を挟み込むように設けられ、
前記熱伝導性の絶縁体は、前記導波管の各々の開口部を貫通して、3つの加熱手段の全てにわたって設けられた
マイクロ波加熱装置。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ波加熱装置において、
前記導波管の折り返し回数をn(ただし、nは2以上の自然数)とすると、
折り返しにより形成された(n+1)本の導波管において、前記幅方向に互いに対向して各々の前記開口部をそれぞれに有し、
折り返しにより形成された(n+1)本の導波管の各々の開口部にそれぞれ対向して、(n+2)個の前記加熱手段が各々の(n+1)本の導波管を挟み込むように設けられ、
前記熱伝導性の絶縁体は、前記導波管の各々の開口部を貫通して、(n+2)個の加熱手段の全てにわたって設けられた
マイクロ波加熱装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロ波加熱装置において、
前記マイクロ波の反射波が形成されるように前記導波管が構成され、
前記マイクロ波加熱装置は、
前記マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的あるいは電気的に動かす定在波移動手段
を備えたマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロ波加熱装置において、
前記マイクロ波の反射波が形成されないように前記導波管を構成することにより、前記マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力する
マイクロ波加熱装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のマイクロ波加熱装置において、
前記熱伝導性の絶縁体の上方に、前記加熱手段に対向して前記導波管の外部に設けられ、当該熱伝導性の絶縁体を覆う金属カバーを備えるとともに、
当該金属カバーの下面から垂下して設けられた金属棒を2次元状に複数本備えた
マイクロ波加熱装置。
【請求項8】
マイクロ波を伝送するための導波管を備え、
マイクロ波の伝送方向に沿って開口部を有するように前記導波管が構成され、
前記導波管の開口部に隣接して、前記導波管の外部に設けられた加熱手段と、
当該加熱手段に載置され、前記導波管の開口部を通り、前記加熱手段から前記導波管の内部にわたって少なくとも設けられた熱伝導性の絶縁体と
を備えたマイクロ波加熱装置を用いて被加熱物を加熱する加熱方法であって、
前記被加熱物を前記熱伝導性の絶縁体に載置して、前記加熱手段による前記熱伝導性の絶縁体への熱伝導によって、前記熱伝導性の絶縁体が前記被加熱物を加熱する第1加熱工程と、
当該第1加熱工程の後に前記マイクロ波によって前記被加熱物を加熱する第2加熱工程と
を備えた加熱方法。
【請求項9】
請求項8に記載の加熱方法において、
前記マイクロ波の反射波が形成されるように前記導波管が構成され、
前記第2加熱工程では、前記マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的あるいは電気的に動かしながら前記マイクロ波によって前記被加熱物を加熱する
加熱方法。
【請求項10】
請求項8に記載の加熱方法において、
前記マイクロ波の反射波が形成されないように前記導波管を構成することにより、前記マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力しながら、前記第2加熱工程では前記マイクロ波によって前記被加熱物を加熱する
加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を伝送するための導波管を備えたマイクロ波加熱装置および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムやガラス板や焼結体などのシート状(板状)の被加熱物を加熱する場合には、下記のような構造の装置を用いて行う。すなわち、導波管の長手方向(すなわちマイクロ波の伝送方向)に沿ってスロット(開口部)を有するように導波管が構成され、シート状の被加熱物をスロットに通すことで、マイクロ波による高い電界を作用させて効率よく加熱して乾燥させる(例えば、特許文献1参照)。なお、焼結体として、例えば窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(酸化アルミニウム(Al2O3))などがある。また、被加熱物としては、紙や木材などであってもよく、紙や木材などの乾燥に使われている。
【0003】
また、特許文献1:特開平10-112385号公報では、
図1や
図5に示すように、導波管を複数回に折り返して構成する。折り返しにより形成された各々の導波管(特許文献1では直線部20a)において、導波管(直線部20a)の長手方向(伝送方向)に直交する短手方向(すなわち導波管の幅方向)に互いに対向して各々のスロットをそれぞれに有する。そして、シート状の被加熱物をスロットに通して加熱しながら走行させることで、長尺状の被加熱物を効率よく加熱して乾燥させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の構造の装置を用いて、温度勾配が大きい被加熱物を加熱すると、割れてしまうという問題点がある。例えば、被加熱物として、アルミナやガラス板などのような温度勾配が大きい物質をマイクロ波のみで加熱すると、温度勾配が大きいことによる熱応力によって割れてしまうという現象が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、加熱による被加熱物の損傷が生じることなく高温で被加熱物を加熱することができるマイクロ波加熱装置および加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意研究した結果、次のような知見を得た。
すなわち、上述したアルミナやガラス板においては、臨界温度を超えると誘電損失が急激に増え、マイクロ波が集中的に吸収され異常過熱する現象(「ランナウェイ現象」とも呼ばれる)が起こる。あまりマイクロ波を吸収しない物質でも、その現象を用いることで、被加熱物を臨界温度近くまで加熱して、その後にマイクロ波を作用させて被加熱物を急激に加熱することができる。つまり、マイクロ波による加熱よりも前に、ヒータ(加熱部)で被加熱物を予備的に加熱(「プレヒート」とも呼ばれる)すれば、加熱による被加熱物の損傷が生じることなく高温で被加熱物を加熱することができる。
【0008】
そこで、導波管の内部に、焼結体に発熱体を埋め込んだヒータ(例えばセラミックスヒータ)を備えて、当該ヒータで被加熱物を臨界温度近くまで加熱して、その後にマイクロ波を作用させて被加熱物を急激に加熱すれば、上記の問題を解決することができる。しかし、焼結体に発熱体を埋め込んだヒータを導波管の内部に設けると、発熱体は金属で形成されているので、導波管を伝送するマイクロ波が乱れるという別の問題点が生じる。そこで、ヒータを導波管の外部に設け、ヒータに載置され、導波管のスロット(開口部)を通り、ヒータから導波管の内部にわたって少なくとも設けられた熱伝導性の絶縁体を備えれば、加熱による損傷が生じることなく高温で加熱することができ、かつマイクロ波の乱れを防止することができるという知見を得た。
【0009】
このような知見に基づく本発明は、次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係るマイクロ波加熱装置は、マイクロ波を伝送するための導波管を備えたマイクロ波加熱装置であって、マイクロ波の伝送方向に沿って開口部を有するように前記導波管が構成され、前記マイクロ波加熱装置は、前記導波管の開口部に隣接して、前記導波管の外部に設けられた加熱手段と、当該加熱手段に載置され、前記導波管の開口部を通り、前記加熱手段から前記導波管の内部にわたって少なくとも設けられた熱伝導性の絶縁体とを備えたものである。
【0010】
本発明に係るマイクロ波加熱装置によれば、マイクロ波の伝送方向(導波管の長手方向)に沿って開口部を有するように導波管が構成されている。導波管の開口部に隣接して、導波管の外部に加熱手段が設けられている。熱伝導性の絶縁体は加熱手段に載置され、導波管の開口部を通り、加熱手段から導波管の内部にわたって少なくとも設けられている。被加熱物を熱伝導性の絶縁体に載置して、加熱手段による熱伝導性の絶縁体への熱伝導によって、熱伝導性の絶縁体が被加熱物を加熱した後に、マイクロ波によって被加熱物を加熱することにより、加熱による被加熱物の損傷が生じることなく高温で被加熱物を加熱することができる。さらに、たとえ加熱手段が発熱体で構成されたとしても、加熱手段が導波管の外部に設けられているので、導波管を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【0011】
ここで、本明細書における「熱伝導性の絶縁体」とは、100[W/(m・K)]~2000[W/(m・K)]の範囲の熱伝導率が高い絶縁体を示す。したがって、熱伝導性の絶縁体としては、熱伝導率が1000[W/(m・K)]~2000[W/(m・K)]のダイヤモンドや、熱伝導率が150[W/(m・K)]~285[W/(m・K)]の窒化アルミニウムなどが用いられる。一方、熱伝導率が高い導電体(例えばカーボンナノチューブ)や金属を、導波管の内部に通すと、上述したように導波管を伝送するマイクロ波が乱れるので、熱伝導率が高い絶縁体を用いる。一方、アルミナの熱伝導率は32[W/(m・K)]であって、ガラスの熱伝導率は2[W/(m・K)]~3[W/(m・K)]であって、上述の範囲よりも低いので、熱伝導性の絶縁体としてアルミナやガラスを用いない。
【0012】
本発明に係るマイクロ波加熱装置における導波管の開口部は1つであってもよいし、2つであってもよい。導波管の開口部が1つである場合には、熱伝導性の絶縁体は、導波管の開口部を通り、加熱手段から導波管の内部にわたって設けられている。したがって、導波管の開口部が1つである場合には、長尺状でない比較的に小さなサイズ(例えば導波管の幅に収まるサイズ)の被加熱物を加熱するのに適している。また、導波管の開口部が1つである場合には、装置の構造が簡易になるという効果をも奏する。
【0013】
導波管の開口部が2つである場合には、下記のような構成となる(
図2を参照)。
すなわち、伝送方向に直交する導波管の幅方向(導波管の短手方向)に互いに対向して2つの開口部を有するように導波管が構成されている。導波管の各々の開口部にそれぞれ対向して、2つの加熱手段が導波管を挟み込むように設けられている。そして、熱伝導性の絶縁体は、導波管の2つの開口部を貫通して、一方の加熱手段から他方の加熱手段にわたって設けられている。この構成の場合には、導波管の開口部が1つである場合よりも大きなサイズ(例えば、導波管の幅,または導波管の幅を含んだ2つの加熱手段にわたる長さと同等のサイズ)の被加熱物を加熱するのに適している。また、加熱手段による加熱およびマイクロ波による加熱の度に、導波管の幅,または導波管の幅を含んだ2つの加熱手段にわたる長さの移動量で被加熱物をステップ送りで走行させれば、長尺状の被加熱物を加熱することができる。
【0014】
導波管の開口部が2つである場合において、導波管を折り返せば下記のような構成となる(
図9を参照)。
すなわち、導波管を折り返して構成し、折り返しにより形成された2本の導波管において、幅方向に互いに対向して各々の開口部をそれぞれに有する。折り返しにより形成された2本の導波管の各々の開口部にそれぞれ対向して、3つの加熱手段が各々の導波管を挟み込むように設けられている。そして、熱伝導性の絶縁体は、導波管の各々の開口部を貫通して、3つの加熱手段の全てにわたって設けられている。この構成の場合には、導波管を折り返さない場合よりも大きなサイズ(例えば、2本の導波管の幅,または2本の導波管の幅を含んだ3つの加熱手段にわたる長さと同等のサイズ)の被加熱物を加熱するのに適している。また、加熱手段による加熱およびマイクロ波による加熱の度に、2本の導波管の幅,または2本の導波管の幅を含んだ3つの加熱手段にわたる長さの移動量で被加熱物をステップ送りで走行させれば、長尺状の被加熱物を加熱することができる。
【0015】
上述の構成は、導波管の折り返し回数が1回の場合での構成であった。導波管の折り返し回数を複数回に展開させれば、特許文献1:特開平10-112385号公報の構造に複数個の加熱手段を加えた下記のような構成となる(
図10を参照)。
すなわち、導波管の折り返し回数をn(ただし、nは2以上の自然数)とすると、折り返しにより形成された(n+1)本の導波管において、幅方向に互いに対向して各々の開口部をそれぞれに有する。折り返しにより形成された(n+1)本の導波管の各々の開口部にそれぞれ対向して、(n+2)個の加熱手段が各々の(n+1)本の導波管を挟み込むように設けられている。そして、熱伝導性の絶縁体は、導波管の各々の開口部を貫通して、(n+2)個の加熱手段の全てにわたって設けられている。この構成の場合には、導波管の折り返し回数が1回の場合よりも大きなサイズ(例えば、(n+1)本の導波管の幅,または(n+1)本の導波管の幅を含んだ(n+2)個の加熱手段にわたる長さと同等のサイズ)の被加熱物を加熱するのに適している。また、ステップ送りで被加熱物を走行させなくとも、(n+1)本の導波管の幅,または(n+1)本の導波管の幅を含んだ(n+2)個の加熱手段にわたる長さと同等のサイズを有した長尺状の被加熱物を加熱することができる。
【0016】
加熱ムラを低減させるために、本発明に係るマイクロ波加熱装置において、下記のように構成するのが好ましい。
【0017】
一例(前者の一例)は、マイクロ波の反射波が形成されるように導波管が構成され、マイクロ波加熱装置は、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的あるいは電気的に動かす定在波移動手段を備えることである。定在波では、各点が同じ位相・周期で振動する。全く振動せず振幅が“0”になる点は「節」と呼ばれ、振幅が最大になり変位が最も揺れ動く点は「腹」と呼ばれる。したがって、定在波を動かさなければ、節・腹の位置は固定であって、加熱ムラが生じる。そこで、定在波を機械的あるいは電気的に動かす定在波移動手段を備えることで、節・腹の位置を可変にして加熱ムラを低減させることができる。
【0018】
前者の一例とは別の一例(後者の一例)は、マイクロ波の反射波が形成されないように導波管を構成することにより、マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力することである。進行波の場合には、マイクロ波の伝送方向に進行するので、マイクロ波の振幅が時間的に変化する。したがって、進行波を出力することにより加熱ムラを低減させることができる。
【0019】
本発明に係るマイクロ波加熱装置において、熱伝導性の絶縁体の上方に、加熱手段に対向して導波管の外部に設けられ、当該熱伝導性の絶縁体を覆う金属カバーを備えるとともに、当該金属カバーの下面から垂下して設けられた金属棒を2次元状に複数本備えるのが好ましい。導波管にマイクロ波を伝送すると、導波管の開口部からマイクロ波が漏れてしまう。そこで、このような金属カバーおよび複数本の金属棒を備えることによって、マイクロ波の漏れを防止することができる。
【0020】
また、本発明に係る加熱方法は、マイクロ波を伝送するための導波管を備え、マイクロ波の伝送方向に沿って開口部を有するように前記導波管が構成され、前記導波管の開口部に隣接して、前記導波管の外部に設けられた加熱手段と、当該加熱手段に載置され、前記導波管の開口部を通り、前記加熱手段から前記導波管の内部にわたって少なくとも設けられた熱伝導性の絶縁体とを備えたマイクロ波加熱装置を用いて被加熱物を加熱する加熱方法であって、前記被加熱物を前記熱伝導性の絶縁体に載置して、前記加熱手段による前記熱伝導性の絶縁体への熱伝導によって、前記熱伝導性の絶縁体が前記被加熱物を加熱する第1加熱工程と、当該第1加熱工程の後に前記マイクロ波によって前記被加熱物を加熱する第2加熱工程とを備えたものである。
【0021】
また、本発明に係る加熱方法によれば、本発明に係るマイクロ波加熱装置を用いて被加熱物を加熱する際に、第1加熱工程および第2加熱工程を実施する。第1加熱工程では、被加熱物を熱伝導性の絶縁体に載置して、加熱手段による熱伝導性の絶縁体への熱伝導によって、熱伝導性の絶縁体が被加熱物を加熱する。第2加熱工程では、第1加熱工程の後にマイクロ波によって被加熱物を加熱する。つまり、第1加熱工程での加熱はプレヒートであって、プレヒート後(第1加熱工程の後)にマイクロ波によって被加熱物を加熱することにより、加熱による被加熱物の損傷が生じることなく高温で被加熱物を加熱することができる。本発明に係るマイクロ波加熱装置でも述べたように、たとえ加熱手段が発熱体で構成されたとしても、加熱手段が導波管の外部に設けられているので、導波管を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【0022】
本発明に係るマイクロ波加熱装置でも述べたように、本発明に係る加熱方法において、マイクロ波の反射波が形成されるように導波管が構成され、第2加熱工程では、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的あるいは電気的に動かしながらマイクロ波によって被加熱物を加熱するのが好ましい。第2加熱工程では、定在波を機械的あるいは電気的に動かしながらマイクロ波によって被加熱物を加熱することで、節・腹の位置を可変にして加熱ムラを低減させることができる。
【0023】
本発明に係るマイクロ波加熱装置でも述べたように、本発明に係る加熱方法において、マイクロ波の反射波が形成されないように導波管を構成することにより、マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力しながら、第2加熱工程ではマイクロ波によって被加熱物を加熱するのが好ましい。進行波を出力しながら、第2加熱工程ではマイクロ波によって被加熱物を加熱することで、マイクロ波の振幅が時間的に変化し、加熱ムラを低減させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るマイクロ波加熱装置によれば、マイクロ波の伝送方向(導波管の長手方向)に沿って開口部を有するように導波管が構成され、導波管の開口部に隣接して、導波管の外部に加熱手段が設けられ、熱伝導性の絶縁体は加熱手段に載置され、導波管の開口部を通り、加熱手段から導波管の内部にわたって少なくとも設けられている。被加熱物を熱伝導性の絶縁体に載置して、加熱手段による熱伝導性の絶縁体への熱伝導によって、熱伝導性の絶縁体が被加熱物を加熱した後に、マイクロ波によって被加熱物を加熱することにより、加熱による被加熱物の損傷が生じることなく高温で被加熱物を加熱することができる。さらに、たとえ加熱手段が発熱体で構成されたとしても、加熱手段が導波管の外部に設けられているので、導波管を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
また、本発明に係る加熱方法によれば、本発明に係るマイクロ波加熱装置を用いて被加熱物を加熱する際に、第1加熱工程および第2加熱工程を実施する。第1加熱工程では、被加熱物を熱伝導性の絶縁体に載置して、加熱手段による熱伝導性の絶縁体への熱伝導によって、熱伝導性の絶縁体が被加熱物を加熱する。第2加熱工程では、第1加熱工程の後にマイクロ波によって被加熱物を加熱する。このように加熱することにより、加熱による被加熱物の損傷が生じることなく高温で被加熱物を加熱することができる。本発明に係るマイクロ波加熱装置でも述べたように、たとえ加熱手段が発熱体で構成されたとしても、加熱手段が導波管の外部に設けられているので、導波管を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】各実施例に係るマイクロ波加熱装置の概略図である。
【
図2】実施例1に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略平面図である。
【
図4】(a),(b)は、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的に動かす場合の概略図である。
【
図5】マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を電気的に動かす場合の概略図である。
【
図6】マイクロ波の反射波が形成されないように導波管を構成する場合の概略図である。
【
図7】実施例1に係る加熱方法のフローチャートである。
【
図8】導波管加熱炉での被加熱物の加熱に関する概略図である。
【
図9】(a),(b)は、実施例2に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略底面図である。
【
図10】実施例3に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略底面図である。
【
図11】変形例に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略断面図である。
【実施例1】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施例1を説明する。
図1は、各実施例に係るマイクロ波加熱装置の概略図であり、
図2は、実施例1に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略平面図であり、
図3は、
図2の導波管加熱炉の概略断面図である。
図1は各実施例とも共通の構成である。
【0027】
マイクロ波加熱装置1は、
図1に示すように、発振器10と導波管20と導波管加熱炉30とを備えている。発振器10は、例えば2.45GHzのマイクロ波を発振する。発振器10として、例えばマグネトロン(magnetron)や半導体発振器などを使用する。
【0028】
後述する実施例2,3も含めて、本実施例1では、
図3に示すように導波管20(
図3では図示省略)や、導波管加熱炉30の導波管31は直方体である。
図1および
図2に示すように、導波管20は導波管31に接続されている。なお、導波管20と導波管31とを一体的に形成してもよい。発振器10(
図1を参照)から発振したマイクロ波を導波管20,31内で伝送する。
【0029】
導波管加熱炉30は、
図2および
図3に示すように、導波管31とヒータ32と絶縁体シート33と金属カバー34と複数本の金属棒35と筐体36とを備えている。ヒータ32は、本発明における加熱手段に相当し、絶縁体シート33は、本発明における熱伝導性の絶縁体に相当する。
【0030】
導波管31は、
図2に示すようにマイクロ波の伝送方向(導波管31の長手方向)に沿って2つの開口部31Aを有するように構成されている。2つの開口部31Aは、伝送方向に直交する導波管31の幅方向(導波管31の短手方向)に互いに対向して設けられている。
【0031】
後述する実施例2,3も含めて、本実施例1では、ヒータ32は焼結体に発熱体を埋め込んだヒータ(例えばセラミックスヒータ)からなる。本実施例1では、ヒータ32は2つのヒータ32
1,32
2からなる。
図3に示すように、導波管31の開口部31Aに隣接して、導波管31の外部にヒータ32
1が設けられている。ヒータ32
1と同様に、導波管31の開口部31Aに隣接して、導波管31の外部にヒータ32
2が設けられている。また、導波管31の各々の開口部31Aにそれぞれ対向して、2つのヒータ32
1,32
2が導波管31を挟み込むように設けられている。
【0032】
絶縁体シート33は熱伝導性の絶縁体で形成されている。「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、「熱伝導性の絶縁体」とは、100[W/(m・K)]~2000[W/(m・K)]の範囲の熱伝導率が高い絶縁体を示す。後述する実施例2,3も含めて、本実施例1では、熱伝導率が1000[W/(m・K)]~2000[W/(m・K)]のダイヤモンド、または熱伝導率が150[W/(m・K)]~285[W/(m・K)]の窒化アルミニウムで絶縁体シート33を形成する。
【0033】
絶縁体シート33は2つのヒータ321,322に載置されている。より具体的には、絶縁体シート33は、導波管31の2つの開口部31Aを貫通して、一方のヒータ321から他方のヒータ322にわたって設けられている。
【0034】
絶縁体シート33の上方に、ヒータ32
1に対向して導波管31の外部に金属カバー34が設けられており、金属カバー34は絶縁体シート33を覆い、複数本の金属棒35は、金属カバー34から垂下して2次元状に設けられている。同様に、絶縁体シート33の上方に、ヒータ32
2に対向して導波管31の外部に金属カバー34が設けられており、金属カバー34は絶縁体シート33を覆い、複数本の金属棒35は、金属カバー34から垂下して2次元状に設けられている。後述するマイクロ波の漏れを防止するために、
図2に示すように金属棒35を千鳥状に設けるのが好ましい。金属カバー34は、絶縁体シート33の面に平行で、金属棒35を設けた金属板と、絶縁体シート33の幅方向に互いに対向して設けられた2つの囲い部材とで構成されている。金属棒35と同様に、各々の囲い部材は金属板から垂下して設けられている。
【0035】
筐体36は導体で形成されている。筐体36は、導波管31,ヒータ32,絶縁体シート33,金属カバー34および金属棒35を収容している。
【0036】
次に、加熱ムラを低減させるための構成について、
図4~
図6を参照して説明する。
図4は、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的に動かす場合の概略図であり、
図5は、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を電気的に動かす場合の概略図であり、
図6は、マイクロ波の反射波が形成されないように導波管を構成する場合の概略図である。
【0037】
図4に示すように、例えば反射板37によってマイクロ波の反射波が形成されるように導波管31が構成される場合には、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を反射板37によって機械的に動かす。「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、定在波を動かさなければ、節・腹の位置は固定であって、加熱ムラが生じる。
【0038】
そこで、定在波を機械的に動かす場合において、定在波を自動で動かすときには、
図4(a)に示すようにモータ11を駆動して、反射板37を伝送方向に動かす。定在波を機械的に動かす場合において、
図4(b)に示すように定在波を手動で動かしてもよい。例えば反射板37にロッド38を取り付け、ロッド38を押し引きすることにより反射板37を伝送方向に動かす。
図4(a)の場合にはモータ11が本発明における定在波移動手段に相当し、
図4(b)の場合にはロッド38が本発明における定在波移動手段に相当する。
【0039】
図4では定在波を機械的に動かす場合に関する概略図であったが、
図5のように定在波を電気的に動かしてもよい。発振器10として、例えば半導体発振器を用いて、位相を可変にすることで、定在波を伝送方向に動かす。
図5の場合には発振器10が本発明における定在波移動手段に相当する。
【0040】
図4および
図5では定在波を動かす場合に関する概略図であったが、
図6のようにマイクロ波の反射波が形成されないように導波管31を構成してもよい。例えば、導波管31の一端に、水などを充填した吸収体39を設けることにより、マイクロ波の反射波が形成されなくなる。したがって、
図6の吸収体39を設けることにより、マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力する。進行波の場合には、マイクロ波の伝送方向に進行するので、マイクロ波の振幅が時間的に変化する。
【0041】
次に、マイクロ波加熱装置1(
図1を参照)を用いた加熱方法について、
図7~
図8を参照して説明する。
図7は、実施例1に係る加熱方法のフローチャートであり、
図8は、導波管加熱炉での被加熱物の加熱に関する概略図である。なお、
図8では、金属カバー34(
図2および
図3を参照),金属棒35(
図2および
図3を参照)および筐体36(
図2および
図3を参照)の図示を省略する。また、
図8では、長尺状のシートを被加熱物Wとする。
【0042】
(ステップS1)被加熱物の載置
被加熱物Wを絶縁体シート33に載置する。
【0043】
(ステップS2)プレヒート
被加熱物Wを絶縁体シート33に載置した状態で、ヒータ32による絶縁体シート33への熱伝導によって、絶縁体シート33が被加熱物Wを加熱する。被加熱物Wが、温度勾配が大きい物質(例えばアルミナやガラス板)の場合には、被加熱物Wを臨界温度近くまで加熱する。被加熱物Wが、アルミナやガラス板以外の温度勾配が小さい物質の場合には、被加熱物Wを必ずしも臨界温度近くまで加熱する必要はない。上述したように、次のステップS3(マイクロ波加熱)よりも前に、ステップS2においてヒータ32で被加熱物Wを予備的に加熱しているので、ステップS2での加熱を「プレヒート」と呼ぶ。ステップS2は、本発明における第1加熱工程に相当する。
【0044】
(ステップS3)マイクロ波加熱
ステップS2(プレヒート)後にマイクロ波によって被加熱物Wを加熱する。被加熱物Wが長尺状でなく、導波管31の幅に収まるサイズの場合には、ステップS2~S5を繰り返し行わず、ステップS2,S3を1回のみ行う。したがって、被加熱物Wが導波管31の幅に収まるサイズの場合には、ステップS3の時点でヒータ32による加熱を停止してもよい。ただし、被加熱物Wが長尺状の場合には、ステップS2~S5を繰り返し行うので、一連の被加熱物Wの加熱が終了するまで、ヒータ32による加熱を引き続き行うのが好ましい。
【0045】
ステップS3では加熱ムラが生じる。そこで、
図4から
図6のいずれかの構成を採用して、加熱ムラを低減させるのが好ましい。ステップS3は、本発明における第2加熱工程に相当する。
【0046】
(ステップS4)未加熱箇所が存在?
被加熱物Wが長尺状の場合には、1回のステップS2,S3のみでは、導波管31内の箇所しか加熱されない。そこで、加熱されていない箇所が存在するか否かを判断する。加熱されていない箇所が存在する場合には、次のステップS5に進む。加熱されていない箇所が存在しない場合には、一連の被加熱物Wの加熱が終了したと判断する。
【0047】
(ステップS5)被加熱物の走行
ステップS4で加熱されていない箇所が存在すると判断した場合には、導波管31の幅,または導波管31の幅を含んだ2つのヒータ321,322にわたる長さの移動量で被加熱物Wをステップ送りで走行させる。そして、ステップS2に戻り、ステップS2~S5を繰り返し行う。
【0048】
本実施例1に係るマイクロ波加熱装置1によれば、マイクロ波の伝送方向(導波管31の長手方向)に沿って開口部31Aを有するように導波管31が構成されている。導波管31の開口部31Aに隣接して、導波管31の外部にヒータ32が設けられている。絶縁体シート33はヒータ32に載置され、導波管31の開口部31Aを通り、ヒータ32から導波管31の内部にわたって少なくとも設けられている。被加熱物Wを絶縁体シート33に載置して、ヒータ32による絶縁体シート33への熱伝導によって、絶縁体シート33が被加熱物Wを加熱した後に、マイクロ波によって被加熱物Wを加熱することにより、加熱による被加熱物Wの損傷が生じることなく高温で被加熱物Wを加熱することができる。さらに、たとえヒータ32が発熱体で構成されたとしても、ヒータ32が導波管31の外部に設けられているので、導波管31を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【0049】
絶縁体シート33は熱伝導性の絶縁体で形成されている。後述する実施例2,3も含めて、本実施例1では、熱伝導率が1000[W/(m・K)]~2000[W/(m・K)]のダイヤモンド、または熱伝導率が150[W/(m・K)]~285[W/(m・K)]の窒化アルミニウムで絶縁体シート33を形成している。「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、熱伝導率が高い導電体(例えばカーボンナノチューブ)や金属を、導波管31内部に通すと、上述したように導波管31を伝送するマイクロ波が乱れるので、熱伝導率が高い絶縁体として、後述する実施例2,3も含めて、本実施例1のように絶縁体シート33を用いる。一方、アルミナの熱伝導率は32[W/(m・K)]であって、ガラスの熱伝導率は2[W/(m・K)]~3[W/(m・K)]であって、熱伝導率が100[W/(m・K)]~2000[W/(m・K)]の範囲よりも低いので、熱伝導性の絶縁体としてアルミナやガラスを用いない。
【0050】
本実施例1では、導波管31の開口部31Aが2つである。具体的には、伝送方向に直交する導波管31の幅方向(導波管31の短手方向)に互いに対向して2つの開口部31Aを有するように導波管31が構成されている。導波管31の各々の開口部31Aにそれぞれ対向して、2つのヒータ321,322が導波管31を挟み込むように設けられている。そして、絶縁体シート33は、導波管31の2つの開口部31Aを貫通して、一方のヒータ321から他方のヒータ322にわたって設けられている。本実施例1の構成の場合には、導波管31の開口部31Aが1つである場合よりも大きなサイズ(例えば、導波管31の幅,または導波管31の幅を含んだ2つのヒータ321,322にわたる長さと同等のサイズ)の被加熱物Wを加熱するのに適している。また、ヒータ32による加熱(ステップS2)およびマイクロ波による加熱(ステップS3)度に、導波管31の幅,または導波管31の幅を含んだ2つのヒータ321,322にわたる長さの移動量で被加熱物Wをステップ送りで走行させれば、長尺状の被加熱物Wを加熱することができる。
【0051】
加熱ムラを低減させるために、
図4から
図6のいずれかの構成を採用するのが好ましい。
【0052】
図4や
図5に示すように、マイクロ波の反射波が形成されるように導波管31が構成されている。
図4では、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的に動かす定在波移動手段として、
図4(a)の場合にはモータ11を備え、
図4(b)の場合にはロッド38を備えている。「課題を解決するための手段」の欄でも述べたように、定在波では、各点が同じ位相・周期で振動する。全く振動せず振幅が“0”になる点は「節」と呼ばれ、振幅が最大になり変位が最も揺れ動く点は「腹」と呼ばれる。したがって、定在波を動かさなければ、節・腹の位置は固定であって、加熱ムラが生じる。そこで、定在波を機械的に動かすことで、節・腹の位置を可変にして加熱ムラを低減させることができる。
図4(a)の場合には、モータ11を駆動して反射板37を伝送方向に動かすことで、定在波を自動で動かす。
図4(b)の場合には、ロッド38を押し引きすることにより反射板37を伝送方向に動かすことで、定在波を手動で動かす。
【0053】
図5では、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を電気的に動かす定在波移動手段として、半導体発振器からなる発振器10を備えている。定在波を電気的に動かすことで、定在波を機械的に動かす場合と同様に節・腹の位置を可変にして加熱ムラを低減させることができる。
図5の場合には半導体発振器からなる発振器10を用いて、位相を可変にすることで、定在波を伝送方向に動かして、定在波を電気的に動かす。
【0054】
図4や
図5と相違して、
図6では、マイクロ波の反射波が形成されないように導波管31を構成することにより、マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力する。上述したように、例えば、導波管31の一端に、水などを充填した吸収体39を設けることにより、マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力している。進行波の場合には、マイクロ波の伝送方向に進行するので、マイクロ波の振幅が時間的に変化する。したがって、進行波を出力することにより加熱ムラを低減させることができる。
【0055】
また、絶縁体シート33の上方に、ヒータ32に対向して導波管31の外部に設けられ、絶縁体シート33を覆う金属カバー34を備えるとともに、金属カバー34の下面から垂下して設けられた金属棒35を2次元状に複数本備えるのが好ましい。導波管31にマイクロ波を伝送すると、導波管31の開口部31Aからマイクロ波が漏れてしまう。そこで、このような金属カバー34および複数本の金属棒35を備えることによって、マイクロ波の漏れを防止することができる。
【0056】
本実施例1のように導波管31の幅方向に互いに対向して2つの開口部31Aを有し、導波管31の各々の開口部31Aにそれぞれ対向して、2つのヒータ32
1,32
2が導波管31を挟み込むように設けられている場合には、
図3のように構成する。具体的には、ヒータ32
1に対向して導波管31の外部に金属カバー34を備えるとともに、金属カバー34の下面から垂下して設けられた金属棒35を2次元状に複数本備えている。同様に、ヒータ32
2に対向して導波管31の外部に金属カバー34を備えるとともに、金属カバー34の下面から垂下して設けられた金属棒35を2次元状に複数本備えている。
【0057】
本実施例1に係る加熱方法によれば、マイクロ波加熱装置1を用いて被加熱物Wを加熱する際に、本発明における第1加熱工程に相当するプレヒート(ステップS2)および本発明における第2加熱工程に相当するマイクロ波加熱(ステップS3)を実施する。プレヒート(ステップS2)では、被加熱物Wを絶縁体シート33に載置して、ヒータ32による絶縁体シート33への熱伝導によって、絶縁体シート33が被加熱物Wを加熱する。マイクロ波加熱(ステップS3)では、プレヒート(ステップS2)の後にマイクロ波によって被加熱物Wを加熱する。プレヒート(ステップS2)の後にマイクロ波によって被加熱物Wを加熱することにより、加熱による被加熱物Wの損傷が生じることなく高温で被加熱物Wを加熱することができる。本実施例1に係るマイクロ波加熱装置1の作用・効果でも述べたように、たとえヒータ32が発熱体で構成されたとしても、ヒータ32が導波管31の外部に設けられているので、導波管31を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【0058】
本実施例1に係るマイクロ波加熱装置1の
図4や
図5でも述べたように、本実施例1に係る加熱方法において、マイクロ波の反射波が形成されるように導波管31が構成され、マイクロ波加熱(ステップS3)では、マイクロ波の入射波および反射波により形成された定在波を機械的あるいは電気的に動かしながらマイクロ波によって被加熱物Wを加熱するのが好ましい。マイクロ波加熱(ステップS3)では、定在波を機械的あるいは電気的に動かしながらマイクロ波によって被加熱物を加熱することで、節・腹の位置を可変にして加熱ムラを低減させることができる。
【0059】
本実施例1に係るマイクロ波加熱装置1の
図6でも述べたように、本実施例1に係る加熱方法において、マイクロ波の反射波が形成されないように導波管31を構成することにより、マイクロ波の入射波のみで形成された進行波を出力しながら、マイクロ波加熱(ステップS3)ではマイクロ波によって被加熱物Wを加熱するのが好ましい。進行波を出力しながら、マイクロ波加熱(ステップS3)ではマイクロ波によって被加熱物Wを加熱することで、マイクロ波の振幅が時間的に変化し、加熱ムラを低減させることができる。
【実施例2】
【0060】
次に、図面を参照して本発明の実施例2を説明する。
図9は、実施例2に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略底面図である。なお、
図9では、筐体36(
図2および
図3を参照)の図示を省略する。また、
図9は底面図であるので、ヒータや絶縁体シート33よりも上方に位置する金属カバー34(
図2および
図3を参照)および金属棒35(
図2および
図3を参照)は
図9に現れないことに留意されたい。
【0061】
上述した実施例1では、
図2に示すように導波管31の開口部31Aが2つであって、導波管31を折り返さずに構成しており、
図3に示すようにヒータ32は2つのヒータ32
1,32
2から構成されていた。これに対して、本実施例2では、
図9の底面図に示すように、導波管31を折り返して構成し、折り返しにより形成された2本の導波管31において、幅方向に互いに対向して各々の開口部31Aをそれぞれに有している。
【0062】
また、上述した実施例1では、導波管31を折り返さなかったので、マイクロ波の伝送方向が導波管31の長手方向でもあって、伝送方向に直交する導波管31の幅方向が導波管31の短手方向でもあった。これに対して、後述する実施例3も含めて、本実施例2では、導波管31を折り返すことにより、必ずしもマイクロ波の伝送方向が、折り返しにより形成された全ての導波管31の長手方向であるとは限らず、必ずしも導波管31の幅方向が、折り返しにより形成された全ての導波管31の短手方向であるとは限らない。よって、後述する実施例3も含めて、本実施例2では、方向に関しては、単に「マイクロ波の伝送方向」または「伝送方向」,「導波管31の幅方向」または「幅方向」と文言を統一して、以下を説明する。
【0063】
導波管31を折り返す場合には、
図9(a)のようなコーナー導波管を用いて導波管31を折り返してもよいし、
図9(b)のようなベンド導波管を用いて導波管31を折り返してもよい。コーナー導波管を用いて導波管31を折り返した場合には、
図9(a)に示すように導波管31を直角に折り返す。ベンド導波管を用いて導波管31を折り返した場合には、
図9(b)に示すように導波管31を曲げて折り返す。
【0064】
折り返しにより形成された2本の導波管31の各々の開口部31Aにそれぞれ対向して、3つのヒータ321,322,323が各々の導波管31を挟み込むように設けられている。そして、絶縁体シート33は、導波管31の各々の開口部31Aを貫通して、3つの321,322,323の全てにわたって設けられている。
【0065】
その他の構成(マイクロ波の漏れ防止の構成や加熱ムラを低減させるための構成)については、上述した実施例1と同じであるので、説明を省略する。ただし、マイクロ波の漏れを防止するために、ヒータ32
1,32
2,32
3にそれぞれ対向して導波管31の外部に3つの金属カバー34(
図2および
図3を参照)を備えるとともに、各々の金属カバー34の下面から垂下して設けられた金属棒35(
図2および
図3を参照)を2次元状に複数本備えるのが好ましい。さらに、本実施例2に係る加熱方法についても、上述した実施例1に係る加熱方法(
図7のフローチャートを参照)と同じであるので、説明を省略する。
【0066】
本実施例2に係るマイクロ波加熱装置1によれば、上述した実施例1と同様に、マイクロ波の伝送方向に沿って開口部31Aを有するように導波管31が構成され、導波管31の開口部31Aに隣接して、導波管31の外部にヒータ(本実施例2では3つのヒータ321,322,323)が設けられ、絶縁体シート33はヒータ(3つのヒータ321,322,323)に載置され、導波管31の開口部31Aを通り、ヒータ(3つのヒータ321,322,323)から導波管31の内部にわたって少なくとも設けられている。被加熱物Wを絶縁体シート33に載置して、ヒータ(3つのヒータ321,322,323)による絶縁体シート33への熱伝導によって、絶縁体シート33が被加熱物Wを加熱した後に、マイクロ波によって被加熱物Wを加熱することにより、加熱による被加熱物Wの損傷が生じることなく高温で被加熱物Wを加熱することができる。さらに、たとえヒータ(3つのヒータ321,322,323)が発熱体で構成されたとしても、ヒータ(3つのヒータ321,322,323)が導波管31の外部に設けられているので、導波管31を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【0067】
本実施例2の構成の場合には、上述した実施例1のように導波管31を折り返さない場合よりも大きなサイズ(例えば、2本の導波管31の幅,または2本の導波管31の幅を含んだ3つのヒータ32
1,32
2,32
3にわたる長さと同等のサイズ)の被加熱物Wを加熱するのに適している。また、ヒータによる加熱(
図7のフローチャートのステップS2)およびマイクロ波による加熱(
図7のフローチャートのステップS3)度に、2本の導波管31の幅,または2本の導波管31の幅を含んだ3つのヒータ32
1,32
2,32
3にわたる長さの移動量で被加熱物Wをステップ送りで走行させれば、長尺状の被加熱物Wを加熱することができる。
【0068】
その他の構成(マイクロ波の漏れ防止の構成や加熱ムラを低減させるための構成)の作用・効果については、上述した実施例1の作用・効果と同じであるので、説明を省略する。また、本実施例2に係る加熱方法の作用・効果についても、上述した実施例1に係る加熱方法の作用・効果と同じであるので、説明を省略する。
【実施例3】
【0069】
次に、図面を参照して本発明の実施例3を説明する。
図10は、実施例3に係るマイクロ波加熱装置の導波管加熱炉の概略底面図である。なお、上述した実施例2の
図9と同様に、
図10では、筐体36(
図2および
図3を参照)の図示を省略する。また、
図9と同様に
図10は底面図であるので、ヒータや絶縁体シート33よりも上方に位置する金属カバー34(
図2および
図3を参照)および金属棒35(
図2および
図3を参照)は
図10に現れないことに留意されたい。
【0070】
上述した実施例1では、
図2に示すように導波管31の開口部31Aが2つであって、導波管31を折り返さずに構成しており、
図3に示すようにヒータ32は2つのヒータ32
1,32
2から構成されていた。また、上述した実施例2では、
図9に示すように導波管31の折り返し回数が1回で、3つのヒータ32
1,32
2,32
3を備えていた。これらに対して、本実施例3では、
図10の底面図に示すように、導波管31の折り返し回数を複数回に展開させて、特許文献1:特開平10-112385号公報の構造に複数個のヒータ32
1,32
2,32
3,…,32
n,32
(n+1),32
(n+2)を加えた構成となる。
【0071】
具体的には、導波管31の折り返し回数をn(ただし、nは2以上の自然数)とすると、折り返しにより形成された(n+1)本の導波管31において、幅方向に互いに対向して各々の開口部31Aをそれぞれに有している。
【0072】
上述した実施例2と同様に、導波管31を折り返す場合には、
図9(a)のようなコーナー導波管を用いて導波管31を折り返してもよいし、
図9(b)のようなベンド導波管を用いて導波管31を折り返してもよい。
図10では、
図9(a)と同じようにコーナー導波管を用いて導波管31を折り返すことにより、導波管31を直角に折り返す。導波管31の折り返し回数を複数にしているので、コーナー導波管およびベンド導波管を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
折り返しにより形成された(n+1)本の導波管31の各々の開口部31Aにそれぞれ対向して、(n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2)が各々の(n+1)本の導波管31を挟み込むように設けられている。そして、絶縁体シート33は、導波管31の各々の開口部31Aを貫通して、(n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2)の全てにわたって設けられている。
【0074】
その他の構成(マイクロ波の漏れ防止の構成や加熱ムラを低減させるための構成)については、上述した実施例1と同じであるので、説明を省略する。ただし、マイクロ波の漏れを防止するために、ヒータ32
1,32
2,32
3,…,32
n,32
(n+1),32
(n+2)にそれぞれ対向して導波管31の外部に(n+2)個の金属カバー34(
図2および
図3を参照)を備えるとともに、各々の金属カバー34の下面から垂下して設けられた金属棒35(
図2および
図3を参照)を2次元状に複数本備えるのが好ましい。さらに、本実施例3に係る加熱方法についても、上述した実施例1に係る加熱方法(
図7のフローチャートを参照)と同じであるので、説明を省略する。
【0075】
本実施例3に係るマイクロ波加熱装置1によれば、上述した実施例1と同様に、マイクロ波の伝送方向に沿って開口部31Aを有するように導波管31が構成され、導波管31の開口部31Aに隣接して、導波管31の外部にヒータ(本実施例3では(n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2))が設けられ、絶縁体シート33はヒータ((n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2))に載置され、導波管31の開口部31Aを通り、ヒータ((n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2))から導波管31の内部にわたって少なくとも設けられている。被加熱物Wを絶縁体シート33に載置して、ヒータ((n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2))による絶縁体シート33への熱伝導によって、絶縁体シート33が被加熱物Wを加熱した後に、マイクロ波によって被加熱物Wを加熱することにより、加熱による被加熱物Wの損傷が生じることなく高温で被加熱物Wを加熱することができる。さらに、たとえヒータ((n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2))が発熱体で構成されたとしても、ヒータ((n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2))が導波管31の外部に設けられているので、導波管31を伝送するマイクロ波の乱れを防止することができる。
【0076】
本実施例3の構成の場合には、上述した実施例2のように導波管31の折り返し回数が1回の場合よりも大きなサイズ(例えば、(n+1)本の導波管31の幅,または(n+1)本の導波管31の幅を含んだ(n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2)にわたる長さと同等のサイズ)の被加熱物Wを加熱するのに適している。また、ステップ送りで被加熱物Wを走行させなくとも、(n+1)本の導波管31の幅,または(n+1)本の導波管31の幅を含んだ(n+2)個のヒータ321,322,323,…,32n,32(n+1),32(n+2)にわたる長さと同等のサイズを有した長尺状の被加熱物Wを加熱することができる。
【0077】
その他の構成(マイクロ波の漏れ防止の構成や加熱ムラを低減させるための構成)の作用・効果については、上述した実施例1の作用・効果と同じであるので、説明を省略する。また、本実施例3に係る加熱方法の作用・効果についても、上述した実施例1に係る加熱方法の作用・効果と同じであるので、説明を省略する。
【0078】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0079】
(1)上述した各実施例では、マイクロ波加熱として、シート状の被加熱物の乾燥に適用したが、マイクロ波加熱を利用した処理であれば、特に限定されない。例えば、マイクロ波の波長に応じて特定の物質のみを内部から急速に選択加熱する処理や、生体組織にマイクロ波を照射すると、発熱によってタンパク質などが変性して凝固する処理や、窒化アルミニウムやアルミナなどの粉末や金属粉末を成型して焼結する処理などに適用してもよい。
【0080】
(2)上述した各実施例では、周波数が2.45GHzのマイクロ波を用いたが、一般的にマイクロ波の周波数は、300MHz~300GHzの範囲で、マイクロ波加熱に用いられるマイクロ波の周波数は、300MHz~3GHzの範囲である。よって、上記の範囲(300MHz~3GHzの範囲)であれば、周波数については特に限定されない。例えば、915MHzのマイクロ波を用いてもよい。
【0081】
(3)上述した各実施例では、マイクロ波加熱装置として、発振器10(
図1を参照)や導波管20(
図1を参照)や導波管加熱炉30(
図1を参照)などを含んだ構成であったが、導波管加熱炉単体をマイクロ波加熱装置として用いてもよい。
【0082】
(4)上述した各実施例では、
図2および
図3などに示すように、導波管31の開口部31Aが2つであったが、
図11に示すように、導波管31の開口部31Aが1つであってもよい。導波管31の開口部31Aが1つである場合には、絶縁体シート33は、導波管31の開口部31Aを通り、ヒータ32から導波管31の内部にわたって設けられている。したがって、導波管31の開口部31Aが1つである場合には、長尺状でない比較的に小さなサイズ(例えば導波管31の幅に収まるサイズ)の被加熱物を加熱するのに適している。また、導波管31の開口部31Aが1つである場合には、装置の構造が簡易になるという効果をも奏する。
【0083】
(5)上述した各実施例では、マイクロ波の漏れを防止するために、金属カバーおよび金属棒を備えたが、開口部のサイズが小さいことに起因してマイクロ波の漏れが無視できる程度に少ない場合、あるいは導体で形成された筐体36(
図2および
図3を参照)が導波管やヒータや絶縁体シートなどを収容することにより筐体36の外部にマイクロ波の漏れがない場合には、必ずしも金属カバーおよび金属棒を備える必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明は、シート状の被加熱物の乾燥や、粉末を成型して焼結する処理などに適している。
【符号の説明】
【0085】
1 … マイクロ波加熱装置
10 … 発振器
11 … モータ
20,31 … 導波管
30 … 導波管加熱炉
31A … 開口部
32 … ヒータ
33 … 絶縁体シート
34 … 金属カバー
35 … 金属棒
38 … ロッド
W … 被加熱物