(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】口腔内溶解性固形物
(51)【国際特許分類】
A23G 3/36 20060101AFI20220310BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20220310BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20220310BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220310BHJP
A61K 9/24 20060101ALI20220310BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20220310BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220310BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
A23G3/36
A23G3/34 101
A23L33/12
A23L33/10
A61K9/24
A61K31/194
A61K47/12
A61P1/02
(21)【出願番号】P 2016156526
(22)【出願日】2016-08-09
【審査請求日】2019-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大前 覚
(72)【発明者】
【氏名】富澤 まこと
(72)【発明者】
【氏名】林 熙達
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愛子
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-103905(JP,A)
【文献】特開平03-187345(JP,A)
【文献】特開2013-176385(JP,A)
【文献】特開2012-249594(JP,A)
【文献】特開2004-196674(JP,A)
【文献】特開2002-220332(JP,A)
【文献】特表2008-507480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/24
A61K 47/12
A61K 31/194
A61P 1/02
A23G 3/34
A23G 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸味料を含有し、酸性を呈する層(a)と、クエン酸、乳酸、リン酸及びリン酸水素のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択されるpH調整剤を含有し、アルカリ性を呈する層(b)の少なくとも2層からなる口腔内溶解性固形物であって、酸味料の配合量が口腔内溶解性固形物の総重量に対して、0.15~1.0質量%である口腔内溶解性固形物
(ただし、カルシウム塩を含む場合を除く)。
【請求項2】
酸味料が、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸及びその塩からなる群より選択される、請求項1に記載の固形物。
【請求項3】
固形物20gを水100mLに溶解したときのpHが、5.0~8.0である、請求項1又は2に記載の固形物。
【請求項4】
固形物が、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ又はタブレットである、請求項1~3のいずれかに記載の固形物。
【請求項5】
固形物が厚さ2~20mm、直径5~30mmの略円柱形であり、表面に少なくとも1以上の突起を有する、請求項1~4のいずれかに記載の固形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味料を含有し、酸性を呈する層と、pH調整剤を含有し、アルカリ性を呈する層の少なくとも2層からなる口腔内溶解性固形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者等において、唾液の分泌低下による口腔乾燥者が増加している。口腔乾燥者は、口腔乾燥感や唾液のネバネバ感等の口腔の不快感、舌や口腔粘膜の疼痛、義歯の不適合や疼痛、義歯性潰瘍、アフタ性口内炎、粘膜潰瘍、咀嚼障害、嚥下障害、味覚障害などの症状を引き起こす恐れがある。
【0003】
口腔乾燥者は、唾液の分泌を促し口腔を潤すためにキャンディ(飴)を舐めることが多い。しかしながら、唾液の分泌量が少ないため、唾液によるpHの緩衝作用が起こりにくいため、キャンディ自体に含まれる酸味料によって口腔内のpHが低下し、う蝕が発生するという問題があった。
【0004】
う蝕やプラーク(歯垢)を防止するために、キャンディやチューインガム等の食品を用いて口腔内のpHを調節する試みが報告されている。例えば、う蝕防止に有用な口腔用組成物として、ヒスチジン等と炭酸カルシウムとを含むことを特徴とする、唾液のpH低下を防止する口腔用組成物が報告されている(例えば、特許文献1参照)。かかる組成物は、チューインガムやキャンディ等の形態で提供され、風味に影響を与えない少量のpH緩衝剤の添加でpHを5.5以上に維持する緩衝能力をもち、う蝕防止効果が期待される。また酸を中和させる有効成分として、リン酸アンモニウム及び/又は炭酸水素ナトリウム等を含む、プラーク中和作用のある飴が報告されている(例えば、特許文献2参照)。食物やコーヒー等を摂取した後に、かかる飴を摂取することで、歯のプラークの酸の中和を促進し、プラークの存在下での虫歯の形成を予防又は抑制することが期待される。さらに咀嚼機能の改善等と共に、う蝕予防効果も有する歯科用訓練用ガムが報告されている(例えば、特許文献3参照)。かかるガムは、クエン酸等の唾液分泌促進剤と、炭酸水素ナトリウム等の唾液緩衝能向上剤とを含むことを特徴とし、訓練用ガムを嗜好品感覚で噛むことによって、咀嚼機能の改善等と共に、唾液分泌機能向上による口腔内洗浄作用と口腔内pH緩衝作用によりう蝕予防効果が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-301742号公報
【文献】特表平9-511912号公報
【文献】特開2002-220332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塩基性の緩衝成分等を添加することにより、口腔内のpHの低下を防止し、う蝕予防効果が期待できる。しかしながら、そのようなキャンディやトローチ等の口腔内溶解性固形物は、酸味がなく、風味の面で物足りないばかりか、酸味による唾液の分泌促進が期待できない。したがって、本発明は、酸味による良好な風味と、唾液分泌促進能を有し、且つ口腔内のpHを、う蝕の危険性の低い5.0以上に保つことができる口腔内溶解性固形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、口腔内溶解性固形物を、酸味料を含有し、酸性を呈する層と、pH調整剤を含有し、アルカリ性を呈する層との少なくとも2層から構成することにより、口腔内で酸味による良好な風味と、唾液の分泌促進作用とを有し、且つ口腔内のpHを、う蝕の危険性の低い5.0以上に保つことができることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下のとおりである。
【0008】
[1] 酸味料を含有し、酸性を呈する層(a)と、pH調整剤を含有し、アルカリ性を呈する層(b)の少なくとも2層からなる口腔内溶解性固形物。
[2] 酸味料が、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸及びその塩からなる群より選択される、[1]に記載の固形物。
[3] pH調整剤が、炭酸、炭酸水素、クエン酸、乳酸、リン酸及びリン酸水素のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される、[1]又は[2]に記載の固形物。
[4] 固形物20gを水100mLに溶解したときのpHが、5.0~8.0である、[1]~[3]のいずれかに記載の固形物。
[5] 固形物が、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ又はタブレットである、[1]~[4]のいずれかに記載の固形物。
[6] 固形物が厚さ2~20mm、直径5~30mmの略円柱形であり、表面に少なくとも1以上の突起を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の固形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔内溶解性固形物は、酸味料を含有し、酸性を呈する層(a)と、pH調整剤を含有し、アルカリ性を呈する層(b)との少なくとも2層から構成される。この固形物を口腔に含むと、口腔内で層(a)の酸味料により良好な風味を感じ、唾液の分泌が促進されると同時に、層(b)のpH調整剤により口腔内のpHの低下が妨げられ、う蝕の危険性が低い5.0以上に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】試験例2において、実施例及び比較例のキャンディを舐めた際の、被験者(Y)の唾液分泌増加率を示したグラフである。
【
図1B】試験例2において、実施例及び比較例のキャンディを舐めた際の、被験者(Z)の唾液分泌増加率を示したグラフである。
【
図2】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、片面にそれぞれ3の半球状の突起が設けられたドーナツ形のキャンディの正面図(a)、平面図(b)、右側面図(c)及びA線断面図(d)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。背面図は正面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図3】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、片面にそれぞれ4の半球状の突起が設けられたドーナツ形のキャンディの正面図(a)、平面図(b)、右側面図(c)及びA線断面図(d)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。背面図は正面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図4】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、片面にそれぞれ5の半球状の突起が設けられたドーナツ形のキャンディの正面図(a)、A線断面図(b)、平面図(c)、右側面図(d)及び背面図(e)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図5】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、片面にそれぞれ6の半球状の突起が設けられたドーナツ形のキャンディの正面図(a)、平面図(b)、右側面図(c)及びA線断面図(d)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。背面図は正面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図6】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、ドーナツホールを有する4弁の花形のキャンディの正面図(a)、平面図(b)、右側面図(c)及びA線断面図(d)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。背面図は正面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図7】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、ドーナツホールを有する5弁の花形のキャンディの正面図(a)、A線断面図(b)、平面図(c)、右側面図(d)及び背面図(e)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図8】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、ドーナツホールを有する6弁の花形のキャンディの正面図(a)、平面図(b)、右側面図(c)及びA線断面図(d)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。背面図は正面図と同一にあらわれるため、省略する。
【
図9】本発明の口腔内溶解性固形物の一態様である、ドーナツ形のキャンディの正面図(a)、平面図(b)、右側面図(c)及びA線断面図(d)を示す。なお、底面図は平面図と同一にあらわれるため、省略する。左側面図は右側面図と同一にあらわれるため、省略する。背面図は正面図と同一にあらわれるため、省略する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、口腔内溶解性固形物に関する。本発明の実施態様において、口腔内溶解性固形物とは、口腔内で主に唾液により溶解する固形物を意味し、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等の公知の菓子類の形態であってもよく、トローチ、フィルム、口腔内速崩錠等の公知の医薬製剤の形態であってもよい。口腔乾燥者への適用の観点から、菓子類の形態が好ましく、ハードキャンディの形態がより好ましい。
【0012】
本発明の実施態様において、層(a)における酸味料とは、ヒトの口腔内で酸っぱさの刺激を与えて、唾液の分泌を促進することができ、且つ食品又は医薬品の添加物として利用可能な無機酸、有機酸及びその塩類であれば特に限定されない。酸味料の例としては、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸(氷酢酸)、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、アスコルビン酸及びその塩が挙げられ、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸及びその塩が好ましく、クエン酸又はリン酸がより好ましい。固形物に良好な風味を与えられる点より、クエン酸が特に好ましい。酸味料は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸味料の配合量は、酸味料の種類、pH調整剤の種類や配合量に応じ、層(a)が酸性(pH5.0未満)を呈するように適宜設定すればよいが、固形物の総重量に対して、0.05~2.0質量%であり、0.1~1.0質量%が好ましく、0.15~0.5質量%がより好ましい。
【0013】
本発明の実施態様において、層(b)におけるpH調整剤とは、本発明の口腔内溶解性組成物の存在下で、ヒトの口腔内のpHを5.0以上に保持する緩衝能を有する、食品又は医薬品の添加物として利用可能な塩基性の無機酸及び有機酸の塩類であれば特に限定されない。pH調整剤の例としては、炭酸、炭酸水素、クエン酸、乳酸、リン酸及びリン酸水素のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられ、リン酸水素2ナトリウム2水和物、リン酸水素2ナトリウム12水和物、クエン酸3ナトリウム2水和物、乳酸ナトリウムが好ましい。固形物に良好な風味と溶解性を与えられる点より、リン酸水素2ナトリウム2水和物がより好ましい。pH調整剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。pH調整剤の配合量は、酸味料の種類や配合量、pH調整剤の種類に応じ、層(b)が塩基性(pH8.0超)を呈するように適宜設定すればよいが、固形物の総重量に対して、0.1~10.0質量%であり、0.2~5.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましい。
【0014】
本発明の好ましい実施態様において、酸味料及びpH調整剤の配合量は、本発明の口腔内溶解性固形物20gを水100mLに溶解したときのpHが、5.0~8.0となるように設定される。
【0015】
本発明の好ましい実施態様において、酸味料を含有し、酸性を呈する層(a)を構成する酸味料以外の成分及びpH調整剤を含有し、塩基性を呈する層(b)を構成するpH調整剤以外の成分は、口腔内溶解性固形物の形態に応じて適宜選択される。例えば、口腔内溶解性固形物がハードキャンディである場合、層(a)及び層(b)の基剤は、ハードキャンディの基剤として通常使用されているもの、例えば、砂糖、水飴、又は糖アルコール類(マルチトール、還元パラチノース、キシリトール、還元水飴など)が挙げられる。その他、基剤には、本発明の目的を損なわない範囲で、香料、甘味料、着色料、乳化剤、食用油脂、ビタミン類等を、適宜、添加することができる。
【0016】
また、例えば、口腔内溶解性固形物がタブレットである場合、層(a)及び層(b)の基剤は、タブレットの基剤として通常使用されているものであれば特に限定されないが、砂糖、ブドウ糖、ソルビトール、乳糖等の糖類、澱粉、メチルセルロース、結晶セルロースなどの多糖類、無水ケイ酸等のケイ酸類が挙げられる。その他、基剤には、本発明の目的を損なわない範囲で、香料、甘味料、着色料、結合剤、ビタミン類等を、適宜、添加することができる。
【0017】
本発明の実施態様において、口腔内溶解性固形物は、酸味料を含有し、酸性を呈する層(a)と、pH調整剤を含有し、アルカリ性を呈する層(b)との少なくとも2層から構成される。層(a)と層(b)との2層から構成されることが好ましい。口腔内溶解性固形物は、口腔に含んだ際、唾液と接触し、各層より酸味料とpH調整剤がそれぞれ放出されるよう、各層が固形物の表面に存在するように構成されればよい。
【0018】
本発明の実施態様において、口腔内溶解性固形物の形状に特に限定はなく、口腔内での溶解に適した形状と大きさであればよい。そのような形状としては、直径5~25mmの略球形;最大厚さ2~20mm、直径5~30mmの略円柱形;最大厚さ2~20mm、直径5~30mm、内径2~10mmの略ドーナツ形;一辺が5~20mm長の略立方体;最大厚さ2~15mm、長径5~25mm、短径2~25mmの略直方体;又は花、植物、動物、乗り物等をモチーフにした立体形状等、公知の菓子類又は医薬製剤で用いられている任意の形状であってよい。本発明の好ましい実施態様において、口腔内溶解性固形物は、固形物が最大厚さ5~15mm、直径15~25mmの略円柱形であり、表面に少なくとも1以上の突起を有するものであってよい。そのような固形物の例を
図2~9に示す。例えば、
図5では、片面に6、表裏併せて12の半球状の突起を有する。突起により、口腔内が刺激され、更なる唾液の分泌を促すことができる。固形物1個あたりに存在する突起の数に特に限定はないが、例えば1以上であり、2~12であるのが好ましい。また、口腔内溶解性固形物は、最大厚さ5~15mm、直径15~25mm、内径(又はドーナツホールの直径)2~10mmの略ドーナツ形であり、表面に少なくとも1以上の突起を有するものであってよい。口腔内溶解性固形物を誤嚥し、固形物を喉に詰まらせたとしても、ドーナツホールにより気道を確保でき、窒息を回避することができる。
【0019】
本発明の口腔内溶解性固形物の製造方法は、特に制限がない。すなわち本発明の口腔内溶解性固形物は、公知の製造方法に従い、製造することができる。例えば、口腔内溶解性固形物がハードキャンディである場合、砂糖、水飴等により調製した基剤に酸味料を加えた酸性の飴原料と、同様の基剤にpH調整剤を加えた塩基性の飴原料とを約1:1の重量比で貼り合せ、ローピングし、成型器にて所望の形状に切断、冷却することにより得ることができる。あるいは塩基性の飴原料を型に流し込み、冷却後、同量の酸性の飴原料を流し込み、冷却することによっても、二層からなるハードキャンディである、本発明の口腔内溶解性固形物を製造することができる。さらに、例えば、口腔内溶解性固形物がタブレットである場合、砂糖、結合剤等により調製した基剤に酸味料を加え造粒した酸性顆粒と、同様の基剤にpH調整剤を加え造粒した塩基性顆粒とを、公知の多層錠の成形方法に従い、順次圧縮打錠することにより、二層タブレットとして得ることができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例、比較例等を用いて本発明について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
(a)酸性の飴原料の調製
還元パラチノース41.878g、還元水飴57.013g及び水30gを鍋入れて加熱溶解した後、撹拌しながら175℃になるまで加熱した。これをトレーに移して空冷し基剤とした。
酸味料としてクエン酸(無水)0.700g、甘味料としてアスパルテーム0.020g、アセスルファムK0.014g及びスクラロース0.005gを予め混合し、上記で得られた基剤をオーブンで加熱溶解したものに加えた。さらに香料0.370gを加え、混練し、酸性の飴原料を得た。
(b)塩基性の飴原料の調製
還元パラチノース41.241g、還元水飴56.850g及び水30gを鍋に入れて加熱溶解した後、撹拌しながら175℃になるまで加熱した。これをトレーに移して空冷し基剤とした。
pH調整剤としてリン酸水素2ナトリウム2水和物1.500g、甘味料としてアスパルテーム0.020g、アセスルファムK0.014g及びスクラロース0.005gを予め混合し、上記で得られた基剤をオーブンで加熱溶解したものに加えた。さらに香料0.370gを加え、混練し、塩基性の飴原料を得た。
(c)ハードキャンディの調製
(a)及び(b)で得られた各飴原料を1:1(重量比)で貼り合せ、適切な太さになるまでローピングした。次いで、貼り合せた飴原料を成型器に投入してスタンピングした後、型より取り出し、最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0022】
[実施例2]
各成分の配合を下記表1に記載した配合とした以外は、実施例1と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0023】
[実施例3]
各成分の配合を下記表1に記載した配合とした以外は、実施例1と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0024】
[実施例4]
酸味料としてクエン酸(無水物)と酒石酸の混合物を用い、pH調整剤としてリン酸水素2ナトリウム12水和物を用い、且つ各成分の配合を下記表1に記載した配合とした以外は、実施例1と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0025】
[実施例5]
pH調整剤としてクエン酸ナトリウム2水和物を用い、且つ各成分の配合を下記表1に記載した配合とした以外は、実施例1と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0026】
【0027】
[比較例1]
還元パラチノース42.127g、還元水飴57.464g及び水30gを鍋に入れて加熱溶解した後、撹拌しながら175℃になるまで加熱した。これをトレーに移して空冷し基剤とした。
甘味料としてアスパルテーム0.020g、アセスルファムK0.014g及びスクラロース0.005gを予め混合し、上記で得られた基剤をオーブンで加熱溶解したものに加えた。さらに香料0.370gを加え、混練し、飴原料を得た。得られた飴原料を適切な太さになるまでローピングした。次いで、飴原料を成型器に投入してスタンピングした後、型より取り出し、最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形のハードキャンディ(約3.8g)25個を得た。
【0028】
[比較例2]
還元パラチノース65.980g、還元水飴31.600g及び水30gを鍋に入れて加熱溶解した後、撹拌しながら175℃になるまで加熱した。これをトレーに移して空冷し基剤とした。 酸味料としてクエン酸(無水物)2.100g、甘味料としてアセスルファムK0.050g及びスクラロース0.020gを予め混合し、上記で得られた基剤をオーブンで加熱溶解したものに加えた。さらに香料0.250gを加え、混練し、飴原料を得た。得られた飴原料を適切な太さになるまでローピングした。次いで、飴原料を成型器に投入してスタンピングした後、型より取り出し、最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形のハードキャンディ(約3.8g)25個を得た。
【0029】
[比較例3]
甘味料としてさらにアスパルテームを用い、且つ各成分の配合を下記表2に記載した配合とした以外は、比較例2と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形のハードキャンディ(約3.8g)25個を得た。
【0030】
[比較例4]
還元パラチノース41.211g、還元水飴56.910g及び水30gを鍋に入れて加熱溶解した後、撹拌しながら175℃になるまで加熱した。これをトレーに移して空冷し基剤とした。 pH調整剤としてリン酸水素2ナトリウム2水和物1.470g、甘味料としてアスパルテーム0.020g、アセスルファムK0.014g及びスクラロース0.005gを予め混合し、上記で得られた基剤をオーブンで加熱溶解したものに加えた。さらに香料0.370gを加え、混練し、飴原料を得た。得られた飴原料を適切な太さになるまでローピングした。次いで、飴原料を成型器に投入してスタンピングした後、型より取り出し、最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形のハードキャンディ(約3.8g)25個を得た。
【0031】
[比較例5]
還元パラチノース41.100g、還元水飴56.291g及び水30gを鍋に入れて加熱溶解した後、撹拌しながら175℃になるまで加熱した。これをトレーに移して空冷し基剤とした。
酸味料としてクエン酸(無水)0.700g、pH調整剤としてリン酸水素2ナトリウム2水和物1.500g、甘味料としてアスパルテーム0.020g、アセスルファムK0.014g及びスクラロース0.005gを予め混合し、上記で得られた基剤をオーブンを用いて加熱溶解したものに加えた。さらに香料0.370gを加え、混練し、飴原料を得た。得られた飴原料を適切な太さになるまでローピングした。次いで、飴原料を成型器に投入してスタンピングした後、型より取り出し、最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形のハードキャンディ(約3.8g)25個を得た。
【0032】
【0033】
[比較例6]
各成分の配合を下記表3に記載した配合とした以外は、実施例1と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0034】
[比較例7]
各成分の配合を下記表3に記載した配合とした以外は、実施例1と同様の方法で最大厚さ12mm、直径20mmの略円柱形の二層からなるハードキャンディ(約3.8g)50個を得た。
【0035】
【0036】
[試験例1:官能評価]
上記実施例1~5、及び比較例1~7で得られた各ハードキャンディの風味について、3人の検査員(X、Y及びZ)により評価した。また、上記実施例1~5、及び比較例1~7で得られた各ハードキャンディ20gを水100mLに溶解したときのpHを測定した。各結果を表4及び5に示す。
なお、評価は、口に含んで風味(酸味と塩味)を官能的に評価する方法により実施した。評価基準は以下のとおりである:
酸味:酸味を感じる(○);酸味をやや感じる(△);酸味を感じない(×);
塩味:塩味を感じない(○);塩味をやや感じる(△);塩味を強く感じる(×)。
【0037】
【0038】
【0039】
上記実施例1~5で得られた各ハードキャンディは、いずれも良好な風味を有していた。またpHも5.5超と、う蝕の危険性の低い範囲であった。一方、比較例2、3で得られた各ハードキャンディは、酸味料を含むがpH調整剤を含まないものであり、いずれも良好な風味を有していたが、pHも3.1以下と極めて低く、う蝕が発生する危険性があった。また比較例1、4で得られた各ハードキャンディは、酸味料を含まないものであり、いずれの検査員においても風味の評価が悪かった。さらに比較例5で得られたハードキャンディは、酸味料とpH調整剤とを含むものであるが、実施例で得られたハードキャンディのように二つの層それぞれに酸味料とpH調整剤とを別々に含むものではなく、一つの層に酸味料とpH調整剤とを含むものであるため、風味の評価が悪かった。さらにまた比較例6、7で得られた各ハードキャンディは、実施例と同様の方法で製造したものであるが、比較例6では酸味料の配合量が少なく、(a)層を酸性にするのに充分ではなかったため、酸味の評価が得られなかった。これに対して比較例7では酸味料の配合量が過剰で(b)層とのバランスが損なわれ、塩味の評価が低く、pHも3.9と低く、う蝕が発生する危険性があった。
【0040】
[試験例2:唾液分泌促進効果]
2名の被検者(Y及びZ)を、以下の手順に従い、唾液分泌促進効果の試験に付した。
(手順)
安静状態を保ちながら唾液を飲み込まないように口腔内にため、あらかじめ重量を測定しておいたカップに1分ごとに吐き出す。
カップの重量を測定し、分泌された唾液量を計算する。
1分ごとに5分間実施する。この時に得られた唾液を「前」とする。
ハードキャンディ3.8gを舐め、唾液を飲み込まないように口腔内にため、カップに1分ごとに吐き出す。
1分ごとに5分間実施する。この時に得られた唾液を「中」とする。
5分後、ハードキャンディを吐き出した後、安静状態を保ちながら唾液を飲み込まないように口腔内にため、カップに1分ごとに吐き出す。
1分ごとに5分間実施する。この時に得られた唾液を「後」とする。
(結果)
ハードキャンディを舐める前、中、後にそれぞれ5分間、1分ごとに測定した唾液量の平均値(1分間当たりの平均唾液量(mL))を表6に示す。また、ハードキャンディを舐める前5分間の1分間当たりの平均唾液量(mL)を1としたときの変化を、唾液分泌増加率として、各被験者について
図1A及び
図1Bに示す。これらの結果より、比較例1、4~6のハードキャンディよりも、実施例1のハードキャンディを舐めた場合、唾液分泌が増加することが明らかとなった。
【0041】