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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20220310BHJP
   B60R 21/0134 20060101ALI20220310BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220310BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
B60W30/09
B60R21/0134
G08G1/16 C
B60R21/00 991
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017188379
(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公開番号】P2019064294
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-024108(JP,A)
【文献】特開2015-013552(JP,A)
【文献】特開2009-258775(JP,A)
【文献】特開2008-123112(JP,A)
【文献】特開2007-022263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60R 21/0134
B60R 21/00
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作において衝突の可能性を判断する衝突判断部と、
前記衝突判断部により衝突の可能性が判断された場合、前記衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員挙動を抑制し、乗員の着座位置を前記衝突回避制御または衝突回避操作前の位置に戻すように前記車両の挙動を制御する制御部と、
を有する、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記自動運転制御の衝突回避制御による車両の挙動を戻すように前記車両の挙動を制御する、
請求項記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記衝突判断部は、前記自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路に対して他の物体が侵入すると予想した場合または存在する場合、衝突の可能性を判断する、
請求項1または2記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記衝突判断部は、前記車両の進路が、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路から逸脱すると予想した場合、衝突の可能性を判断する、
請求項1からのいずれか一項記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両の挙動制御に加えて、
前記自動運転制御の衝突回避制御によって変化した車両において、乗員の位置または姿勢が前記自動運転制御の衝突回避制御の前の状態に近づくように乗員保護制御を実行する、
請求項1からのいずれか一項記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車といった車両の挙動を制御するなどして乗員を保護する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両において、乗員を保護する場合、シートベルトによる乗員支持、展開したエアバッグでの乗員衝撃の吸収などが実施されている。
そして、近年においては自動運転制御装置や運転支援制御装置といった運転支援技術が盛んに開発されている。
この場合、通常時の走行支援だけでなく、衝突回避などの緊急回避支援についても、自動運転制御装置や運転支援制御装置により実施させることが考えられる。
特許文献1では、自車両の周辺の状況に基づいて、危険を回避する回避方向へ自車両を進行させる。これにより、たとえば衝突直後に運転者が自車両を安全に操作できない状況下であっても、他の障害物との二次衝突を回避でき、自車両の乗員の被害を軽減できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-034814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動車が衝突を回避する場合、自動車は急激に加速したり減速したり操舵されたりすることになる。この際、自動車の挙動が変化し、乗員の姿勢や位置も変動してしまう可能性がある。
特に、自動運転制御などにより衝突を回避する場合、自動車の限界性能での加減速や操舵が実行される可能性がある。この場合、手動運転による衝突回避操作の場合と比べて、乗員の姿勢や位置が大きく変動してしまう可能性がある。このことは特許文献1の場合でも、同様である。
そして、乗員の姿勢や位置が変動した状態において車両が衝突してしまうと、乗員に対しては、たとえばシートに正しく着座したまま衝突した場合とは異なる力が作用してしまう可能性がある。衝突前に乗員の姿勢や位置が変動していると、その後の衝突時にシートベルトやエアバッグを作動させたとしても、適切に乗員を支持できない可能性もある。乗員に対して想定外の力が入力されてしまう可能性が高くなることは否定し得ない。
【0005】
このように、車両の開発では、乗員の保護性能を更に向上させることが求められている。
特に、たとえば、自動運転制御装置や運転支援制御装置により衝突回避制御を実施した場合であっても、適切な乗員の保護性能が得られるように努力することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、車両の自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作において衝突の可能性を判断する衝突判断部と、前記衝突判断部により衝突の可能性が判断された場合、前記衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員挙動を抑制し、乗員の着座位置を前記衝突回避制御または衝突回避操作前の位置に戻すように前記車両の挙動を制御する制御部と、を有する。
【0008】
好適には、前記制御部は、前記自動運転制御の衝突回避制御による車両の挙動を戻すように前記車両の挙動を制御する、とよい。
【0009】
好適には、前記衝突判断部は、前記自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路に対して他の物体が侵入すると予想した場合または存在する場合、衝突の可能性を判断する、とよい。
【0010】
好適には、前記衝突判断部は、前記車両の進路が、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路から逸脱すると予想した場合、衝突の可能性を判断する、とよい。
【0011】
好適には、前記制御部は、前記車両の挙動制御に加えて、前記自動運転制御の衝突回避制御によって変化した車両において、乗員の位置または姿勢が前記自動運転制御の衝突回避制御の前の状態に近づくように乗員保護制御を実行する、とよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、車両が衝突しそうな場合に、自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作の実行が開始される。
そして、その回避状態において衝突判断部が衝突前に衝突することを判断すると、先の衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員挙動を抑制するように車両の挙動が制御される。
たとえば、自動運転制御の衝突回避制御による車体の変化を戻すように車両の挙動が制御される。
よって、その後に実際に衝突する時点では、衝突回避制御または衝突回避操作による乗員挙動が抑制されていることを期待できる。衝突による衝撃が作用する時点での乗員の姿勢や位置は、衝突回避制御または衝突回避操作によって変化してしまう姿勢や位置より抑制され得、乗員に対して想定外の力が入力されてしまう可能性を抑えることを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車および走行状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図2図2は、図1の自動車に搭載される乗員保護装置の構成の説明図である。
図3図3は、図2の自動運転制御部による自動運転制御の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、自動運転制御部による衝突回避制御状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図5図5は、図2の衝突判断部および乗員保護制御部による衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、衝突時制御による乗員保護状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図7図7は、第2実施形態での、衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1および走行状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図1の自動車1は、車体2を有する。車体2の車室には、乗員Mが着座する複数のシート3が設けられる。
自動車1は、乗員Mの操作により、加速し、減速し、左右へ操舵される。
【0016】
ところで、近年において自動車1では自動運転制御や運転支援制御といった運転支援技術が盛んに開発されている。
この場合、通常時の走行支援だけでなく、衝突回避などの緊急回避支援についても、自動運転制御装置や運転支援制御装置により実施させることが考えられる。
たとえば図1に示すように自動車1が図の下から上へ向かって実線の矢印に沿って移動している場合において、道路の左側から他の自動車51が侵入しようとするとき、その状況を判断して点線の矢印のように操舵を伴う衝突回避制御を実施することが考えられる。
【0017】
しかしながら、自動車1が衝突を回避する場合、自動車1は急激に加速したり減速したり操舵されたりすることになる。この際、自動車1の挙動が変化し、乗員Mの姿勢や位置も変動してしまう可能性がある。
特に、自動運転制御などにより衝突を回避する場合、自動車1の限界性能での加減速や操舵が実行される可能性がある。この場合、手動運転による衝突回避操作の場合と比べて、乗員Mの姿勢や位置が大きく変動してしまう可能性がある。
そして、乗員Mの姿勢や位置が大きく変動した状態において自動車1が衝突してしまうと、乗員Mに対しては、たとえばシート3に正しく着座したまま衝突した場合とは異なる力が作用してしまう可能性がある。衝突前に乗員Mの姿勢や位置が変動していると、その後の衝突時にシートベルトやエアバッグを作動させたとしても、適切に乗員Mを支持できない可能性もある。乗員Mに対して想定外の力が入力されてしまう可能性が高くなることは否定し得ない。
このように、自動車1の開発では、乗員Mの保護性能を更に向上させることが求められている。
特に、たとえば、自動運転制御装置や運転支援制御装置により衝突回避制御を実施した場合であっても、適切な乗員Mの保護性能が得られるように努力することが求められる。
【0018】
図2は、図1の自動車1に搭載される乗員保護装置10の構成の説明図である。
図2の乗員保護装置10は、車外カメラ11、車内カメラ12、自動運転制御部13、衝突判断部14、乗員保護制御部15、操舵装置16、制動装置17、駆動装置18、エアバッグ装置19、シートベルト装置20、を有する。
自動運転制御部13、衝突判断部14、および乗員保護制御部15は、たとえばマイクロコンピュータ21において実現されてよい。この場合、車外カメラ11、車内カメラ12、操舵装置16、制動装置17、駆動装置18、エアバッグ装置19、およびシートベルト装置20は、マイクロコンピュータに接続されてよい。
【0019】
車外カメラ11は、自動車1の前方などの周囲を撮像するカメラである。これにより、自動車1の進路上の障害物やその周辺の他の自動車51などを撮像できる。
【0020】
車内カメラ12は、車室を撮像するカメラである。これにより、シート3に着座した乗員Mの着座位置や姿勢を撮像できる。
【0021】
操舵装置16は、乗員Mによるハンドル操作などに基づいて、自動車1のタイヤの向きを制御し、自動車1の進行方向を制御する。
【0022】
制動装置17は、乗員Mによるブレーキ操作などに基づいて、自動車1を減速または停止させる。
【0023】
駆動装置18は、乗員Mによるアクセル操作などに基づいて、自動車1を加速させる。
【0024】
エアバッグ装置19は、衝突発生時にシート3に着座した乗員Mの周囲でエアバッグを展開する。これにより、シート3に着座した乗員Mが衝突の衝撃力により着座位置から移動したり倒れたりする際に、これを支えることができる。たとえば展開したエアバッグに対して乗員Mの上体が倒れ込むことにより、乗員Mの上体の運動エネルギーを吸収することができる。また、乗員Mの上体は、エアバッグに当たった状態からさらに移動したり倒れたりし難くなる。
【0025】
シートベルト装置20は、衝突発生時またはその直前のプリテンション動作により、シート3に着座した乗員Mをベルトによりシート3から離れ難くなるように拘束する。
【0026】
自動運転制御部13は、たとえば目的地までの移動経路に基づいて、操舵装置16、制動装置17および駆動装置18を制御し、自動車1を走行させる。
また、自動運転制御部13は、車外カメラ11の撮像画像に基づいて衝突などの可能性を予測する。そして、衝突などの可能性がある場合、衝突回避制御を実行する。
【0027】
衝突判断部14は、自動運転制御部13による衝突回避制御が実行されている場合に、衝突の可能性を判断する。
【0028】
乗員保護制御部15は、自動運転制御部13が衝突回避制御を実行している場合に衝突判断部14により衝突が不可避であると判断された場合、衝突回避制御または衝突回避操作による乗員Mの挙動を抑制するように自動車1の挙動を制御する。
【0029】
図3は、図2の自動運転制御部13による自動運転制御の一例を示すフローチャートである。
自動運転制御部13は、たとえば乗員Mにより自動運転開始の操作が成された場合、図3の自動運転制御を実行する。
【0030】
自動運転制御において、自動運転制御部13は、まず、自動運転の要否を判断する(ステップST1)。ここで、自動運転の可否についても判断してよい。
そして、自動運転が不要である場合または適さない場合、自動運転制御部13は、図3の自動運転制御を終了する。
自動運転が必要である場合または適している場合、自動運転制御部13は、実際に自動運転制御を開始する(ステップST2)。
自動運転制御では、自動運転制御部13は、たとえば車外カメラ11の撮像画像や目的地までの経路情報に基づいて、自動車1の操舵装置16、制動装置17および駆動装置18を制御する。
また、自動運転制御を開始した後、自動運転制御部13は、衝突の可能性を判断する(ステップST3)。車外カメラ11の撮像画像において、自車の予定進路上に障害物があるか否かを判断する。また、他の自動車51などの移動体が、自車の予定進路に侵入する可能性について判断する。
そして、危険性が無い場合、自動運転制御部13は、通常の自動運転を継続する(ステップST2)。
逆に、自車の予定進路上に障害物があって衝突する可能性がある場合、または他の自動車51が自車の予定進路に侵入する可能性がある場合、自動運転制御部13は、自動的にそれらを避ける衝突回避制御を実行する(ステップST4)。
衝突回避制御では、障害物や他の自動車51を避けて走行するように、自動車1の操舵装置16、制動装置17および駆動装置18を制御する。
また、自動運転制御部13は、衝突回避制御により衝突が解消されたか否かを判断する(ステップST5)。衝突が解消されていない場合、衝突回避制御を継続する(ステップST4)。
衝突が解消された場合、自動運転制御部13は、衝突回避制御から通常の自動運転制御へ戻る(ステップST2)。
【0031】
これにより、自動車1は、自動運転制御により道路上の障害物や他の自動車51を避けながら走行し、たとえば所望の目的地まで移動することができる。
たとえば図1に実矢印線で示す道路直進の予定進路により自動車1が自動運転制御により走行している場合において、破線矢印の進路で横道から他の自動車51が侵入しようとすると、衝突回避制御により、右側の車線へ移動して進行する破線矢印の進路に自車の走行が切り替え制御される。これにより、仮に他の自動車51が自車の予定進路の車線に侵入してきたとしても、他の自動車51との衝突を避けて進行することができる。
【0032】
図4は、自動運転制御部13による衝突回避制御状態の一例を説明する模式的な説明図である。
しかしながら、実際の他の自動車51は、自動運転制御により予想した動きで走行するとは限らない。
たとえば図4に実矢印線で示すように、他の自動車51は、自車の走行車線ではなく、さらに右側の走行車線へ侵入しようと横切って侵入してくる可能性もある。
そして、自車が実矢印線の回避制御により走行を開始してしまうと、乗員Mの上体は急激な操舵により車体2の外側へ傾き、その状態のまま侵入してきた他の自動車51と衝突してしまう。
乗員Mの上体の位置は他の自動車51と衝突する側面の近くに移動しているため、乗員Mの上体に対して衝撃が直接的に強く作用してしまう可能性が高くなる。
このような事態は、極力避けることが望ましい。
【0033】
図5は、図2の衝突判断部14および乗員保護制御部15による衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
図5は、たとえば自動運転制御中に繰り返し実行される。
【0034】
衝突判断部14は、まず、自動運転制御部13が自動回避制御中であるか否かを判断する(ステップST11)。そして、自動回避制御中でない場合、図5の処理を終了する。
自動回避制御中である場合、衝突判断部14は、さらに自動回避制御によっても衝突が不可避であるか否か(ステップST12)と、自動回避制御から逸脱したか否か(ステップST13)と、を判断する。
たとえば、衝突判断部14は、車外カメラ11の撮像画像中の他の自動車51と、自動回避制御による予定回避進路の情報とに基づいて、予定回避進路に他の自動車51が侵入してくるか否かを判断する。そして、予定回避進路に他の自動車51が侵入してくる場合、衝突判断部14は、自動回避制御によっても衝突が不可避であると判断する。
また、衝突判断部14は、車外カメラ11により時間的に連続して撮像される複数の撮像画像の差により判断可能な自車の実進路と、自動回避制御による予定回避進路とを比較する。そして、実進路と予定回避進路との間に所定の差が生じた場合、衝突判断部14は、自動回避制御による予定回避進路から逸脱したと判断する。
衝突が不可避でない場合、または自動回避制御から逸脱していない場合、衝突判断部14は、以上の処理を繰り返し実行する(ステップST11~ST13)。自動回避制御が終了すると、図5の処理を終了する。
【0035】
衝突判断部14により衝突が不可避であると判断された場合または自動回避制御から逸脱したと判断された場合、乗員保護制御部15は、エアバッグ装置19およびシートベルト装置20を用いた衝突発生時の通常の乗員保護制御に先立つ乗員保護制御を開始する(ステップST14)。
乗員保護制御部15は、まず、自動車1の走行を制御するために、操舵装置16、制動装置17および駆動装置18の制御を、自動運転制御部13から取得する(ステップST15)。
自動車1の走行制御をオーバライドした後、乗員保護制御部15は、操舵装置16、制動装置17および駆動装置18の制御を開始する。
具体的には、乗員保護制御部15は、自動回避制御による自動車1の挙動を戻すように自動車1の挙動を制御する(ステップST16)。
【0036】
図6は、衝突時制御による乗員保護状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図6に破線矢印で示すように、自動車1は、自動回避制御により右へ操舵されている。
この場合、衝突時制御において乗員保護制御部15は、操舵装置16へ左への操舵を指示する。これにより、自動回避制御により右へ旋回することにより左側へ傾斜していた自動車1は、実矢印線に沿って進行するようになり、中立した状態または右側へ傾斜した状態に戻される。
衝突回避制御によって生じた乗員の上体の振れまたは移動した挙動状態が抑制されるように自動車1の挙動が制御される。
この他にも、乗員保護制御部15は、減速装置へ制動を指示する。この際、乗員保護制御部15は、車体2の姿勢が戻ってから遅れて、減速装置へ制動を指示してもよい。これにより、制動動作が車体2の姿勢戻り動作を妨げ難くできる。
【0037】
自動車1の挙動を戻す自動車1の挙動制御を実行した後、乗員保護制御部15は、衝突発生時の通常の乗員保護制御を実行する。
乗員保護制御部15は、衝突発生時またはその直前に、シートベルト装置20へプリテンション制御を指示する(ステップST17)。これにより、シートベルトが引き込まれ、シート3に着座した乗員Mは好適にシート3に着座した状態に拘束され得る。乗員Mの上体の位置や姿勢は、シート3に着座した状態に戻して拘束され得る。
その後、実際に衝突発生を検出すると(ステップST18)、乗員保護制御部15は、シートベルト装置20およびエアバック装置を制御して作動させる(ステップST19、ST20)。シートベルト装置20は、シートベルトを瞬時的に強く引き込んで保持する。エアバック装置は、シート3の周囲でエアバッグを展開する。これにより、衝突の衝撃によりたとえばシート3に着座した乗員Mが前方などへ移動して倒れようとしても、それを抑制するように衝突エネルギーを吸収できる。
【0038】
ここで、図4の自動運転中の衝突回避制御のまま衝突した場合と、さらに図6の衝突回避制御を実行して衝突した場合とでの乗員Mの状態を比較する。
図4の自動運転中の衝突回避制御では、衝突を未然に回避しようとして、右へ操舵されている。そして、自動車1の車体2は、左側に傾く。この場合、シート3に着座した乗員Mのたとえば上体は、横方向の力により旋回外側である左側に傾く。
この状態のまま衝突を回避できずに他の自動車51と衝突すると、車体2の左側から他の自動車51が衝突することになる。その結果、シート3に着座した乗員Mは、衝撃が入力される車体2の左側の側面に傾いた状態で、衝突の衝撃が作用することになる。その結果、シート3に着座した乗員Mは、図4中の矢印Aに示すように、さらに左側へ移動し易い。他の自動車51の衝撃が直接的に作用し易くなる。また、衝突発生時に乗員保護制御部15がシートベルト装置20やエアバッグ装置19を作動させたとしても、それ以前にすでに乗員Mが左側にずれているため、乗員Mを適切に支持して衝撃を吸収することが上手く機能しない可能性が高くなる。
これに対し、図6の衝突回避制御では、自動運転中の衝突回避制御により左側へ傾いた車体2を中立位置または右側へ戻している。シート3に着座した乗員Mも、中立位置または右側へ戻り得る。
この状態で衝突を回避できずに他の自動車51と衝突すると、シート3に着座した乗員Mには、中立位置または右側へ戻った状態で、衝撃が作用し得る。
その結果、車体2の左側へ他の自動車51が衝突することにより、シート3に着座した乗員Mが図6中の矢印Bに示すように左側へ移動するとしても、他の自動車51の衝撃が直接的に作用し易くなる。また、衝突発生時に乗員保護制御部15がシートベルト装置20やエアバッグ装置19を作動させることにより、シート3に適切に着座した位置から移動または倒れる乗員Mを適切に支持して衝撃を吸収することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態では、自動車1が衝突しそうな場合に、自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作の実行が開始される。そして、その回避状態において衝突判断部14が衝突前に衝突することを判断すると、先の衝突回避制御または衝突回避操作による乗員挙動を抑制するように自動車1の挙動が制御される。たとえば、自動運転制御の衝突回避制御による自動車1の挙動を戻すように自動車1の挙動が制御される。よって、その後に実際に衝突する時点では、衝突回避制御または衝突回避操作による乗員挙動が抑制されていることを期待できる。衝突による衝撃が作用する時点での乗員Mの姿勢や位置は、衝突回避制御または衝突回避操作によって変化してしまう姿勢や位置より抑制され得、乗員Mに対して想定外の力が入力されてしまう可能性を抑えることを期待できる。
【0040】
本実施形態では、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路に対して他の自動車51などの物体が侵入すると予想した場合または存在する場合、衝突の可能性があると判断する。よって、衝突回避制御により衝突を回避できない場合には、その可能性の判断に基づいて、衝突回避制御または衝突回避操作による乗員挙動を抑制するように自動車1の挙動を制御できる。その結果、たとえば自動運転制御により車体2の性能を発揮した衝突回避制御が実行されたとしても、その衝突回避制御によって乗員Mの位置や姿勢が大きく変化した状態のまま衝突することが起き難くできる。自動運転制御による車体2の性能を発揮した衝突回避制御と、乗員Mの保護性能との、両立化を図ることができる。
【0041】
本実施形態では、自動車1の進路が、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路から逸脱すると予想した場合、衝突の可能性を判断する。よって、衝突回避制御の通りに自動車1が進行できない場合には、その可能性の判断に基づいて、衝突回避制御または衝突回避操作による乗員挙動を抑制するように自動車1の挙動を制御できる。その結果、たとえば自動運転制御により車体2の性能を発揮した衝突回避制御が実行されたとしても、その衝突回避制御によって乗員Mの位置や姿勢が大きく変化した状態のまま衝突することが起き難くできる。自動運転制御による車体2の性能を発揮した衝突回避制御と、乗員Mの保護性能との、両立化を図ることができる。
【0042】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る自動車1を説明する。以下の説明では、第1実施形態と同一の符号を使用し、主に第1実施形態との相違点について説明する。
【0043】
図7は、第2実施形態での、衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
【0044】
乗員保護制御部15は、ステップST16において自動車1の挙動を戻す自動車1の挙動制御を実行した後、さらに乗員Mの姿勢および位置を戻すプリテンション制御を実施する(ステップST31)。
シートベルト装置20は、シートベルトを引き込む。
これにより、自動運転制御の衝突回避制御により移動または傾いた乗員Mは、シート3に着座する位置へ戻され得る。
その後、実際に衝突発生を検出すると(ステップST18)、乗員保護制御部15は、シートベルト装置20およびエアバック装置を制御して作動させる(ステップST19、ST20)。
【0045】
以上のように、本実施形態では、自動運転制御の衝突回避制御を実行しても衝突が不可避である場合、自動車1の挙動制御に加えてさらに乗員保護制御を実行する。よって、自動車1の挙動制御のみで乗員挙動を抑制する場合よりも、より効果的に乗員挙動を抑制できる。
しかも、自動運転制御の衝突回避制御によって変化した車体2において、自動運転制御の衝突回避制御の前の状態を基準としてそれに近づくように乗員Mの位置または姿勢を制御する。よって、自動運転制御の衝突回避制御による車体2の姿勢などの変化が解消されていない状態であっても、乗員Mの位置や姿勢については自動運転制御の衝突回避制御の前の状態に近づくように戻して、衝突の衝撃については、衝突回避制御の前の状態に近い乗員Mに対して作用させることができる。乗員Mに対して想定外の力が入力されてしまう可能性を更に抑えることを期待できる。
【0046】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0047】
たとえば上記実施形態では、衝突判断部14は、自動運転制御による衝突回避制御によっても衝突が不可避であることを判断し、乗員保護制御部15は、衝突時制御を実行している。
この他にもたとえば、衝突判断部14は、乗員Mの手動運転による衝突回避操作においても衝突が不可避であることを判断し、乗員保護制御部15は、衝突時制御を実行してもよい。この際、衝突判断部14は、判断時までの乗員Mの手動運転に基づいて、今後の予定回避進路を推定すればよい。
【符号の説明】
【0048】
1…自動車(車両)、2…車体、3…シート、10…乗員保護装置、11…車外カメラ、12…車内カメラ、13…自動運転制御部、14…衝突判断部、15…乗員保護制御部(制御部)、16…操舵装置、17…制動装置、18…駆動装置、19…エアバッグ装置、20…シートベルト装置、21…マイクロコンピュータ、51…他の自動車、M…乗員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7