(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ラックバーの製造方法及びラックバー
(51)【国際特許分類】
B21K 1/76 20060101AFI20220310BHJP
【FI】
B21K1/76 A
(21)【出願番号】P 2017196921
(22)【出願日】2017-10-10
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 健一
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-136369(JP,A)
【文献】特開2000-202522(JP,A)
【文献】特開2003-94140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/76
B21D 5/02 - 5/06
B21D 51/16
B21D 53/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の軸材の軸方向に延びて設けられた平坦状の歯形成部の外周面に歯型を押し当てた状態で、前記軸材に挿入する芯金の前記歯形成部に垂直な高さ方向の寸法を次第に大きなものとして前記軸材に対する前記芯金の挿入を繰り返し行うことにより、前記歯形成部の材料を前記歯型に向けて塑性流動させて前記歯形成部に複数の歯を形成する歯形成ステップを備え、
前記軸材に挿入される複数の前記芯金は、前記歯形成部の内周面に接する押圧部の前記軸方向及び前記高さ方向に垂直な幅方向の寸法が二種以上に異なり、
前記歯形成ステップにおいて前記軸材に挿入される順に、前記芯金の前記押圧部の幅を次第に小さくするラックバーの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のラックバーの製造方法であって、
前記芯金は、前記軸材の内半径と同一の曲率半径を有する支持部を有し、
前記押圧部の幅方向両側の角部は、前記支持部の曲率中心を中心とし且つ前記支持部の曲率半径を半径とする円の内側に収まるラックバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックバーの製造方法及びラックバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式ステアリング装置等に用いられるラックバーとして、例えば中実の軸材に複数の歯が切削加工によって形成されたラックバーが知られているが、中空の軸材が用いられることによって軽量化が図られた、いわゆる中空ラックバーも知られている。
【0003】
中空ラックバーは、概略、以下のようにして製造される。まず、中空の軸材の一部が潰されてなる平坦状の歯形成部が軸材に設けられ、歯型が歯形成部の外周面に押し付けられる。そして、歯型が歯成形部に押し付けられた状態で軸材に芯金が挿入される。軸材に芯金が挿入されることにより、軸材の歯形成部の材料が芯金によってしごかれて歯型に食い込む。そして、芯金を次第に大きなものとして芯金の挿入が繰り返されることにより、歯型の形状が転写されてなる複数の歯が軸材の歯形成部に形成される。
【0004】
上記中空ラックバーの製造方法によって形成される歯の歯幅は、芯金の挿入回数に関連しており、基本的に挿入回数が多いほど歯幅は大きくなる。しかし、挿入回数が多くなるほど、歯型の寿命は短くなり、製造コストも増大する。特許文献1に記載された中空ラックバーの製造方法では、歯型に超音波振動を付与することにより、芯金の挿入回数の低減及び歯幅の拡大が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された中空ラックバーの製造方法では、歯型に超音波振動を付与する超音波振動付与機構を要し、製造設備の簡素化を図る観点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、ラックバー及びその製造方法において、芯金の挿入回数を低減でき、且つ簡易に歯幅を拡大することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様のラックバーの製造方法は、中空の軸材の軸方向に延びて設けられた平坦状の歯形成部の外周面に歯型を押し当てた状態で、前記軸材に挿入する芯金の前記歯形成部に垂直な高さ方向の寸法を次第に大きなものとして前記軸材に対する前記芯金の挿入を繰り返し行うことにより、前記歯形成部の材料を前記歯型に向けて塑性流動させて前記歯形成部に複数の歯を形成する歯形成ステップを備え、前記軸材に挿入される複数の前記芯金は、前記歯形成部の内周面に接する押圧部の前記軸方向及び前記高さ方向に垂直な幅方向の寸法が二種以上に異なり、前記歯形成ステップにおいて前記軸材に挿入される順に、前記芯金の前記押圧部の幅を次第に小さくする。
【0009】
また、本発明の一態様のラックバーは、中空の軸材からなり、前記軸材の軸方向に延びて設けられている歯形成部と、前記歯形成部の外周面に形成されている複数の歯と、前記歯形成部の内周面に凹状に形成されており、前記軸方向に延びている第1加工面及び第2加工面と、を備え、前記第2加工面は、前記第1加工面の歯幅方向中央部に形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラックバー及びその製造方法において、芯金の挿入回数を低減でき、且つ簡易に歯幅を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、ラックバーの一例の平面図である。
【
図3A】
図1のラックバーの製造方法の一工程を示す模式図である。
【
図3B】
図1のラックバーの製造方法の一工程を示す模式図である。
【
図3C】
図1のラックバーの製造方法の一工程を示す模式図である。
【
図4】
図1のラックバーの製造方法に用いられる芯金の側面図である。
【
図9】実験例の歯幅の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び
図2は、本発明の実施形態を説明するための、ラックバーの一例を示す。
【0013】
ラックバー10は、例えば鋼等の金属材料からなり、軸方向両側の端部11a,11bに開口を有する円筒形状の中空の軸材11の一部に軸方向に延びる平坦状の歯形成部12が設けられ、この歯形成部12の外周面に複数の歯13が形成されたものである。両側の端部11a,11bの内周部には、例えばステアリング装置のタイロッドが連結されるジョイントを接合するための雌ねじが形成される。
【0014】
本例では、歯13の歯幅方向が軸材11の軸方向と直交しており、歯13のピッチが一定となっているが、歯13の歯幅方向は軸材11の軸方向に対して斜めになっていてもよく、歯13のピッチは、例えば歯形成部12の中央部において相対的に狭く、歯形成部12の両端部において相対的に広くなるように変化していてもよい。
【0015】
【0016】
まず、
図3Aに示すように、円筒形状の中空の軸材11の一部が、プレス加工で内方に押し潰され、軸材11の軸方向に延びる平坦状の歯形成部12が予め形成される。
【0017】
<歯形成ステップ>
次に、
図3Bに示すように、軸材11が金型20の上型21と下型22とによって挟持され、上型21に取り付けられた歯型23が軸材11の歯形成部12の外周面に押し当てられる。そして、芯金ホルダー24に収容されている複数の芯金25の一つが、第1押棒26によって押されて軸材11に挿入される。続いて、
図3Cに示すように、軸材11に挿入された芯金25が第2押棒27によって押し戻されて軸材11から排出され、再び芯金ホルダー24に収容される。
【0018】
芯金25が歯形成部12の全長に亘って往復移動される過程で、歯形成部12の材料は、芯金25によってしごかれ、歯形成部12に押し当てられている歯型23に向けて塑性流動する。芯金ホルダー24に収容されている複数の芯金25から選択されて軸材11に挿入される芯金の歯形成部12に垂直な高さ方向の寸法が次第に大きいものとされ、軸材11に対する芯金25の挿入が繰り返されることにより、歯形成部12の材料が歯型23の成形面に次第に食い込み、歯型23の成形面の歯形状が転写され、歯形成部12に複数の歯13が形成される。
【0019】
【0020】
芯金25は、金属材料からなる棒状の部材であり、芯金25の中心軸が軸材11の中心軸と略平行に配置された状態で軸材11に挿入される。芯金25は、押圧部30と、支持部31とを有する。芯金25が軸材11に挿入された際に、押圧部30は歯形成部12の内周面に接する。支持部31は、芯金25の中心軸に垂直な断面において円弧状に形成されており、支持部31の曲率半径rは、軸材11の内半径(内径Dの1/2)と略同一である。芯金25が軸材11に挿入された際に、支持部31は、軸材11の中心軸を挟んで歯形成部12とは反対側に位置する円弧状の背部14(
図2参照)に接する。
【0021】
押圧部30は、全体として平坦状に形成されているが、押圧部30の表面には複数の凸部32a~凸部32cが設けられている。凸部32a~凸部32cは、表面からの高さhが同一に形成されてもよく、又は、上記歯形成ステップにおいて芯金25が軸材11に挿入される際に挿入方向後側に配置される凸部32cが挿入方向先側に配置される凸部32aよりも高く形成されてもよく、若しくは、中央の凸部32bが両側の凸部32a,32cよりも高く形成されてもよい。芯金25の高さ方向の寸法Hは、断面における支持部31の円弧の中点から、凸部32a~凸部32cのうち最も高い凸部の頂部までの距離とする。
【0022】
一方、芯金25の軸方向及び高さ方向に垂直な方向を幅方向として、凸部32a~凸部32cの幅方向の寸法Wは略同一に形成されている。以下、凸部32a~凸部32cの幅方向の寸法Wを押圧部30の幅とする。上記歯形成ステップで軸材11に挿入される複数の芯金25として、押圧部30の幅Wが二種以上に異なる複数の芯金25が用いられ、軸材11に挿入される順に、芯金25の高さHは次第に大きくされ、押圧部30の幅Wは次第に小さくされる。
【0023】
芯金25の高さH及び押圧部30の幅Wにかかわらず、押圧部30の幅方向両側の角部30a,30bが、支持部31の曲率中心Oを中心とし且つ支持部31の曲率半径rを半径とする円C1の内側に収まるように、全ての芯金25は形成されている。
【0024】
【0025】
図6は、押圧部30の幅WがW1である一つ以上の芯金25Aと、押圧部30の幅WがW2(W1>W2)である一つ以上の芯金25Bとが用いられ、上記歯形成ステップにおいて、軸材11に対し、芯金25Aが先に挿入され、芯金25Bが後に挿入された例である。歯形成部12の内周面には、軸材11の軸方向に延びている第1加工面15及び第2加工面16が形成されている。
【0026】
第1加工面15は、先に挿入された芯金25Aの相対的に幅広な押圧部30によってしごかれた凹状の加工面であり、第2加工面16は、後に挿入された芯金25Bの相対的に幅狭な押圧部30によってしごかれた凹状の加工面である。第2加工面16は、第1加工面15の歯幅方向中央部に形成されている。第2加工面16の歯幅方向両側に残る第1加工面15と第2加工面16との境界部には、後に挿入された芯金25Bの両側の側面に沿って軸材11の内方に突出した微小な突起17が形成されている。
【0027】
仮に、軸材11に対して挿入される複数の芯金25が、押圧部30の幅WがW1である芯金25Aのみによって構成された場合に、
図7に示すように、押圧部30の幅方向両側の角部が軸材11の端部11aの内周部に干渉する虞がある。換言すれば、第1加工面15の歯幅方向両側の角部15a,15bが、軸材11の内径円C2の外側に突出する虞がある。この場合、軸材11の端部11aの内周部に傷が生じ、例えばジョイントを接合するための雌ねじの形成に支障をきたす虞がある。
【0028】
これに対し、軸材11に挿入される順に芯金25の押圧部30の幅Wを次第に小さくすることにより、押圧部30の幅方向両側の角部と軸材11の端部11aの内周部との干渉を回避できる。換言すれば、第1加工面15及び第2加工面16を軸材11の内径円C2の内側に収めることができる。そして、先に挿入される芯金25Aの相対的に幅広な押圧部30によって歯形成部12の材料が広範囲にわたってしごかれることにより、歯13の歯幅が簡易に拡大され、所望の歯幅を得るにあたって必要となる芯金25の挿入回数を低減できる。さらに、歯型23の寿命も延長できる。
【0029】
なお、押圧部30の幅方向の寸法Wが三種以上に異なる複数の芯金25が用いられてもよい。例えば芯金25A及び芯金25Bに加えて、押圧部30の幅方向の寸法WがW3(W1>W2>W3)の一つ以上の芯金25Cがさらに用いられ、軸材11に対し、芯金25Bが挿入された後に芯金25Cが挿入された場合には、
図8に示すように、第3加工面18が第2加工面16の歯幅方向中央部に凹状に形成される。
【0030】
以下、実験例について説明する。
【0031】
実験例1では、外径38mm、内径26.5mmの軸材11に対して、上記歯形成ステップにて19本の芯金25を挿入してラックバー10を製造した。19本全ての芯金25に、押圧部30の幅Wが20.35mmの芯金を用いた。また、軸材11に挿入される順に、No.1の芯金25の高さHは19.04mmであり、No.19の芯金25の高さHは22.70mmであり、0.4mm~0.05mmの間隔で大きくした。
【0032】
実験例2では、実験例1と同じ軸材11に対して、上記歯形成ステップにて17本の芯金25を挿入してラックバー10を製造した。軸材11に挿入される順に、No.1~13の芯金25には、押圧部30の幅Wが22.3mmの芯金を用い、No.14~17の芯金25には、押圧部30の幅Wが20.35mmの芯金を用いた。No.1の芯金25の高さHは19.04mmであり、No.17の芯金25の高さHは22.60mmであり、0.4mm~0.05mmの間隔で大きくした。
【0033】
実験例1のラックバー10及び実験例2のラックバー10それぞれの歯13の歯幅をピン接触長さによって評価した。評価対象とした歯13は、歯形成部12の軸方向一端側の六つの歯(歯No.1~6)、歯形成部12の軸方向中央部の二つの歯(歯No.11~12)及び歯形成部12の軸方向他端側の六つの歯(歯No.17~22)である。また、ピン接触長さは、
図9に示すように、隣り合う二つの歯13の間にφ4.5mmのピンゲージ40を挿し込んだ際の歯13とピンゲージ40との接触部分の長さLである。ピン接触長さによる評価は、歯13において、歯先よりもピニオンと噛み合う部分により近い部分の歯幅を評価することになり、実状に則した評価と言うことができる。
【0034】
実験例1及び実験例2の歯幅の評価結果を
図10に示す。
【0035】
図10に示すように、歯形成ステップの初期に挿通される芯金25の押圧部30の幅Wを歯形成ステップの終期に挿通される芯金25の押圧部30の幅Wよりも相対的に大きくして、芯金25を17本挿通した実験例2のラックバー10の歯幅は、押圧部30の幅Wが一定の芯金25を19本挿通した実験例1のラックバー10の歯幅よりも、評価対象とした全ての歯13に関して大きくなっている。
【0036】
以上の結果から、軸材11に挿入される複数の芯金25として、押圧部30の幅Wが二種以上に異なる芯金を用い、歯形成ステップにおいて軸材11に挿入される順に、芯金25の押圧部30の幅Wを次第に小さくする、換言すれば、歯形成ステップの初期に挿入される芯金の押圧部30の幅Wを歯形成ステップの終期に挿入される芯金の押圧部30の幅Wよりも大きくすることにより、歯13の歯幅を簡易に拡大でき、所望の歯幅を得るにあたって必要となる芯金25の挿入回数を低減できることがわかる。
【符号の説明】
【0037】
10 ラックバー
11 軸材
12 歯形成部
13 歯
14 背部
15 第1加工面
16 第2加工面
17 突起
18 第3加工面
20 金型
21 上型
22 下型
23 歯型
24 芯金ホルダー
25,25A,25B,25C 芯金
26 第1押棒
27 第2押棒
30 押圧部
31 支持部
32a,32b,32c 凸部
40 ピンゲージ