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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】撥水抑制剤とそれを用いた培養土
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/30 20180101AFI20220310BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
A01G24/30
A01G7/00 602C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017201891
(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公開番号】P2019071854
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-055275(JP,A)
【文献】特開昭47-018649(JP,A)
【文献】特開2005-052012(JP,A)
【文献】特開2002-171831(JP,A)
【文献】特開昭59-074928(JP,A)
【文献】特開平03-139215(JP,A)
【文献】特開平11-256160(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0283337(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/00
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養土または土壌の撥水抑制に使用される撥水抑制剤であって、
担体と、この担体に吸着した界面活性剤と、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種とを含有し、
前記担体は、サイズが1μm~1.0mmの多孔性物質であり、
前記界面活性剤の含有量が5~50質量%であり、
前記水および前記アルコールから選ばれる少なくとも1種合計量が3~30質量%である、撥水抑制剤(但し、非多孔性物質との混合物を除く。)。
【請求項2】
前記多孔性物質が、植物性の繊維状物質または多孔性構造の無機物質である請求項1に記載の撥水抑制剤。
【請求項3】
前記多孔性物質が、単一の比重を持つ単一種からなる請求項1または2に記載の撥水抑制剤。
【請求項4】
前記担体は、サイズが250μm以下の多孔性物質である請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水抑制剤。
【請求項5】
前記界面活性剤が、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1~4のいずれか一項に記載の撥水抑制剤。
【請求項6】
前記界面活性剤として、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の撥水抑制剤。
【請求項7】
前記界面活性剤として、次のアニオン界面活性剤(A)およびノニオン界面活性剤(B)を含有し、(A)/(B)で表される質量比が0.01~5.00である請求項1~6のいずれか一項に記載の撥水抑制剤:
(A)スルホン酸塩型およびリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン界面活性剤;および
(B)ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸アルカノールアミド、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種のノニオン界面活性剤。
【請求項8】
前記アルコールとして、炭素数が8以下である、1~3価のアルコールもしくはアルコキシアルコールを含有する請求項1~7のいずれか一項に記載の撥水抑制剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の撥水抑制剤を培養土成分に混合した培養土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養土または土壌の撥水抑制に使用される撥水抑制剤とそれを用いた培養土に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物質や無機物質の土壌改良材、肥料、土等をブレンドした培養土は、野菜、果樹、花卉等の栽培に使用されている。培養土は、栽培の経過とともに給水、乾燥を繰り返すことによって、密度が高くなって水の浸透性が低下し、植物に十分に水が行きわたらなくなる傾向がある。さらに保水性も低下してくるようになり、その結果、植物の生育が阻害され、十分に発育しなくなることがある。特に、培養土に配合されるピートモス等の有機物質は、乾燥した植物性の繊維状物質に特有の撥水性を有しており、その撥水性により植物に十分に水が行きわたらなくなると、植物の生育が阻害され、十分に発育しなくなる場合があった。
【0003】
従来、培養土や土壌の撥水抑制のための方法が提案されている。例えば、培養土や土壌自体に界面活性剤を直接添加する方法が提案されている(特許文献1~15)。しかし、初期の水の浸透性は良くても給水を繰り返しているうちに浸透性が低下するなど効果が持続しない場合があり、多量の使用は生育障害を引き起こす懸念がある。また、通常培養土は製造後に輸送や保存されるため、培養土を製造してから実際に使用されるまでの間にはタイムラグが生ずるが、培養土の製造場所からの輸送や倉庫での保管の期間を経て使用されると、製造直後のような撥水抑制能を示さない場合があった。
【0004】
一方、界面活性剤を予め吸着させた担体を撥水性改良材として、この担体を培養土成分や土壌に添加することで、撥水性等の改良を図る技術が提案されている(特許文献16~19)。
【0005】
特許文献16は、親水剤として界面活性剤を乾燥状態の土壌有機物に吸着させた土壌改良剤が提案されている。具体的な開示においては、乾燥状態で1kgのピートモスに界面活性剤の1000倍水溶液を1Lの割合で含侵させた後、乾燥させて製造しているが、界面活性剤量が少なく、ピートモスのサイズについては記載されていない。
【0006】
特許文献17、18は、ジアルキルスルホコハク酸塩もしくはアルキルアリルスルホン酸塩を含有する水溶液を用いてピートの撥水性を抑止するようにした、非撥水性土壌改良材の製造方法が提案されている。具体的な開示においては、界面活性剤0.1~10%水溶液中にピートを含侵させた後、乾燥させて製造しているが、界面活性剤量が少なく、ピートのサイズについては記載されていない。
【0007】
なお、培養土の有機・無機材料は、同一種であってもその形状やサイズとして各種のものが製品として流通している。例えば、培養土の有機材料としてのピートモスは、微粉状、粗粉状、顆粒状、ペレット状、紐状、ネット状、シート状、マット状等の様々な形状、サイズのものがある。また無機材料としてのバーミキュライトも、そのサイズとして粒度分布等ごとに、例えばサイズが小さいものでは0.25~0.71mmのものから、サイズが大きいものでは2.8~8.0mmのものまで幅広いサイズの製品がある。
【0008】
特許文献19は、多孔性物質と非多孔性物質とからなる担体に界面活性剤を吸着させた土壌浸透剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭53-122508号公報
【文献】特開平08-023768号公報
【文献】特開平08-130976号公報
【文献】特開平08-157819号公報
【文献】特開平10-164975号公報
【文献】特開平10-191780号公報
【文献】特開平11-215917号公報
【文献】特開2003-261872号公報
【文献】特開2005-052013号公報
【文献】特開2008-092955号公報
【文献】特開2015-054880号公報
【文献】特開2015-074677号公報
【文献】再表2012―063899号公報
【文献】特開2001-204246号公報
【文献】特開平07-000041号公報
【文献】特開昭61-085488号公報
【文献】特開平06-030654号公報
【文献】特開平07-026260号公報
【文献】特開平11-256160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献19では、比較例2の繊維長3mmのサイズが大きいピートモスについて、初期の浸透性が悪いという認識から、界面活性剤が内部に浸透せず露出外面に吸着する非多孔性の珪砂を併用し、初期の浸透性の悪さを補うとされている。実施例1では上記繊維長3mmのピートモスに珪砂を4:6の質量比で混合することで比較例2に比べて初期の撥水抑制能が改善されたこと、実施例2、3でも珪砂を混合することで同等の結果が得られたことが記載されているが、サイズの小さい多孔性物質の単独使用による結果は示されておらず、多孔性の微細な担体による比表面積の影響、特に初期から長期にわたる撥水抑制能と植物の生育障害抑制への影響については着目されていない。また、2種類以上の担体を併用した場合、担体それぞれの比重やサイズが異なるため、均一な剤が得られず、培養土全体への均一な分散は難しく、分散性が悪いと性能を十分に発揮できない。
【0011】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、初期から長期にわたって撥水抑制能を発揮し、植物の生育を促進することができる撥水抑制剤とそれを用いた培養土を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の撥水抑制剤は、培養土または土壌の撥水抑制に使用される撥水抑制剤であって、担体と、この担体に吸着した界面活性剤とを含有し、前記担体は、サイズが1μm~1.0mmの多孔性物質であり、前記界面活性剤の含有量が5~50質量%であり、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を含有する場合には、その合計量が30質量%以下である(但し、非多孔性物質との混合物を除く。)ことを特徴としている。
【0013】
本発明の培養土は、前記撥水抑制剤を培養土成分に混合したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の撥水抑制剤とそれを用いた培養土によれば、初期から長期にかけての撥水抑制能に優れ、植物の生育を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の撥水抑制剤に使用される担体は、サイズが1μm~1.0mmの多孔性物質である。担体にこのような小さいサイズの多孔性物質を使用することで、界面活性剤が吸着する比表面積が大きくなり、特に担体の露出外面の比表面積も大きくなるため、培養土成分に混合させることにより、初期から安定した撥水抑制能を発揮する。そして使用されるまでにタイムラグが生じたり、植物の生育を長期にわたり行い灌水を繰り返したりしても、素早く均一に水を浸透させることができ、透水性を有し、初期から長期にわたり安定した撥水抑制能を維持させることができる。また界面活性剤の吸着する比表面積が大きくなることで、生育障害の原因となる界面活性剤の部位濃度が低減し、生育障害の抑制に繋がる。多孔性物質のサイズが1μm以上であると、作業時に舞ってしまうことがなく作業性が良好である。1.0mm以下であると、培養土成分との混合時の分散性が良く、性能を発現できる。この点を考慮すると、担体のサイズは800μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、300μm未満がさらに好ましく、250μm以下が特に好ましい。
【0017】
多孔性物質は、単一の比重を持つ単一種からなることが好ましい。単一種の担体を用いることで、培養土全体への分散性が向上し、安定した透水効果を示す。
【0018】
多孔性物質は、界面活性剤が内部に浸透する細孔を有するものであり、植物性の繊維状物質、多孔性構造の無機物質等が挙げられる。
【0019】
本発明において多孔性物質のサイズとは、繊維状物質の場合は平均繊維長、無機物質等の粒状体の場合は平均粒径である。平均繊維長は、走査型電子顕微鏡で測定した値、例えば任意に抽出した50個の繊維状物質の繊維長の平均値が参照される。平均粒径は、走査型電子顕微鏡で測定した値、例えば任意に抽出した50個の粒子の最長径の平均値が参照される。
【0020】
多孔性物質のうち、植物性の繊維状物質としては、例えば、ピートモス、ココピート、ヤシガラ、モミガラ、オガクズ、竹粉、バガス、泥炭、草炭等が挙げられる。
【0021】
多孔性物質のうち、多孔性構造の無機物質としては、例えば、バーミキュライト、ケイソウ土、アタパルジャイト、セピオライト、ゼオライト、パーライト、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0022】
本発明の撥水抑制剤においては、非多孔性物質との混合物とはされない。ここで非多孔性物質とは、珪砂、海砂、アルミナサンド、タルク、炭酸カルシウム等の界面活性剤が内部に浸透する細孔を有しないものである。多孔性物質と非多孔性物質を併用した場合、これらは比重が異なるため、混合しても撥水抑制剤自体が均一とならず、本発明のように多孔性物質を単独で用いた場合に比べると、初期から長期にかけての撥水抑制能や植物の生育促進において所望の効果を得ることが困難になる。また非多孔質の担体を使用することで比表面積が小さくなり、生育障害の原因となる界面活性剤の部位濃度が上昇すると植物の生育を阻害し得る。
【0023】
本発明の撥水抑制剤において、界面活性剤の含有量は、5~50質量%である。界面活性剤の含有量がこの範囲内であると、培養土成分に混合させることにより、使用されるまでにタイムラグが生じたり、植物の生育を長期にわたり行い灌水を繰り返したりしても、素早く均一に水を浸透させることができ、透水性を有し、初期から長期にわたり安定した撥水抑制能を維持させることができ、生育阻害を生じることなく植物の生育を促進することができる。撥水抑制能の点を考慮すると、界面活性剤の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。植物の生育阻害を抑制する点を考慮すると、界面活性剤の含有量は、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0024】
本発明の撥水抑制剤に使用される界面活性剤は、特に限定されるものではないが、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0025】
アニオン界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、スルホン酸塩型、リン酸エステル塩型、カルボン酸塩型、硫酸塩型等が挙げられる。その中でも、次のアニオン界面活性剤(A)が好ましい。アニオン界面活性剤(A)は、スルホン酸塩型およびリン酸エステル塩型から選ばれる少なくとも1種のアニオン界面活性剤である。
【0026】
スルホン酸塩型のアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
アルキルスルホコハク酸塩としては、例えば、アルキル基がイソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル等の炭素数4~10のものであり、カチオン種がナトリウム、カリウム等である、モノまたはジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、アルキル基が炭素数10~18の直鎖状であり、カチオン種がナトリウム、カリウム等であるもの等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
アルファオレフィンスルホン酸塩としては、例えば、アルケニル基が炭素数12~18であり、カチオン種がナトリウム、カリウム等であるもの等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
リン酸エステル塩型のアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
アルキルリン酸エステル塩としては、例えば、アルキル基が炭素数8~22であり、カチオン種がナトリウム、カリウム、アンモニウム、アミン化合物等である、モノまたはジアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩としては、例えば、アルキル基が炭素数12~22のものであり、カチオン種がナトリウム、カリウム、アンモニウム、アミン化合物等であるもの等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
カルボン酸塩型のアニオン界面活性剤としては、例えば、炭素数8~22の脂肪酸とアルカリ金属、アミン化合物との塩が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
硫酸塩型のアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
アルキル硫酸エステル塩としては、例えば、アルキル基が炭素数12~18であり、カチオン種がナトリウム、カリウム等であるもの等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
アルキルエーテル硫酸エステル塩としては、例えば、炭素数12~18の高級アルコールにエチレンオキシド(EO)を付加させたものを硫酸エステル化して得られるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸の塩であり、カチオン種がナトリウム、カリウム等であるもの等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
ノニオン界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、次のノニオン界面活性剤(B)が好ましい。ノニオン界面活性剤(B)は、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸アルカノールアミド、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種のノニオン界面活性剤である。
【0038】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物が好ましく、エチレンオキサイド含有率が40%以下であることがより好ましく、例えば、プロピレンオキシド25~35モル付加物であるポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド3~30モル付加物等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのプロピレンオキサイドおよび/またはエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのプロピレンオキサイド2~10モル付加物、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのエチレンオキサイド2~10モル付加物、炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコールのエチレンオキサイド2~15モル、プロピレンオキサイド2~15モルのランダムもしくはブロック付加物が好ましい。ブロック付加物の場合は、乳化分散効果の点で末端エチレンオキサイド付加物が好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
特に、ノニオン界面活性剤(B)である上記ポリオキシアルキレングリコール、上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、泡立ち等のハンドリング性や撥水抑制能の点から、HLB8以下のものが好ましい。
【0041】
ここで、HLB(親水性親油性バランス)は、界面活性剤の全分子量に占める親水基部分の分子量を示すものであり、ポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤のHLBは、次に示すグリフィン(Griffin)の式により求められる。なお、プロピレンオキサイド単独付加物の場合はHLB値が0となる。
HLB値 = E/5
E:界面活性剤分子中に含まれるポリオキシエチレン部分の質量%
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、炭素数8~12のアルキルフェノールの3~50モルのエチレンオキサイド付加物が好ましく、オクチルフェノールのエチレンオキサイド5~20モル付加物、ノニルフェノールのエチレンオキサイド5~20モル付加物がより好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルとしては、(モノ、ジ、トリ)スチレン化フェノールの3~50モルのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油としては、ヒマシ油もしくは硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド10~60モル付加物が好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、例えば、脂肪族一級アミン(炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐状)のエチレンオキシド2~20モル付加体等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
脂肪酸アルカノールアミドとしては、例えば、ラウリン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、パーム油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の撥水抑制剤は、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を併用することが好ましい。アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を併用すると、浸水スピード、透水性、植物の生育促進作用が全体的により良好となる。
【0048】
本発明の撥水抑制剤は、上記のアニオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B)を併用することが好ましい。アニオン界面活性剤(A)は撥水抑制能に優れ、ノニオン界面活性剤(B)は植物の生育に影響が少ない。これらを併用することで、撥水抑制能と植物の生育障害の抑制作用に優れたものを得ることができる。アニオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B)を併用すると、特に透水性が良好であり、植物の根深くまで水が行き渡り、生育を助長することができる。植物の生育促進作用は特に良好となる。アニオン界面活性剤(A)の中でも、撥水抑制能の点ではスルホン酸塩型を好ましく用いることができ、植物の生育障害の抑制作用の点ではリン酸エステル塩型を好ましく用いることができる。上記特許文献1~19は、各イオン性の界面活性剤として種々の化合物が挙げられているが、開示内容は基本的にアニオン界面活性剤もしくはノニオン界面活性剤を単独で使用したもので、異なるイオン性を持つ界面活性剤の併用系について具体的には検証されていない。
【0049】
本発明の撥水抑制剤において、アニオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B)の(A)/(B)で表される質量比は、0.01~5.00が好ましく、0.25~1.00がより好ましい。アニオン界面活性剤(A)とノニオン界面活性剤(B)をこのような質量比で配合することによって、撥水抑制能と植物の生育障害の抑制作用に優れたものを得ることができる。
【0050】
本発明の撥水抑制剤は、担体に界面活性剤を吸着させることによって製造することができる。
【0051】
担体に界面活性剤を吸着させる際には、界面活性剤と、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種との混合液を予め調製し、この混合液を担体と均一に混合してもよい。混合液を調製することで粘度を下げ、界面活性剤を担体へ均一に吸着させることができる。
【0052】
常温で液状の界面活性剤については、上記混合液を調製してもよいし、原液のまま担体に界面活性剤を吸着させてもよい。固体またはペースト状の界面活性剤については、上記混合液とすることが好ましい。
【0053】
担体と、界面活性剤単独もしくは上記混合液を混合する方法としては、ヘンシェルミキサー等の攪拌混合装置を用いて均一に混合する方法、スプレー等で吹き付ける方法等が挙げられる。
【0054】
なお、界面活性剤を上記混合液として使用する場合には、上記担体との混合処理後に乾燥処理を施して過剰の水分等を取り除いてもよいが、乾燥すると、アルコールを使用した場合には蒸散するので、乾燥処理をせずに製造する方法が好ましい。
【0055】
担体に界面活性剤を吸着させる方法のうち、担体を低濃度界面活性剤水溶液に含浸させる方法では、ブロッキングが起きやすく、意図した量を担体に付着させることが困難であり、界面活性剤の付着量が不足する懸念がある。スプレー等で吹き付ける方法では、意図した通りの界面活性剤量を付着させることが可能な一方、界面活性剤溶液の粘度が高い場合、水等で希釈する必要があり、多量の水を使用するとブロッキングが起こる等の懸念がある。このような点から、本発明の撥水抑制剤において担体に界面活性剤を吸着させる方法としては、攪拌混合装置を用いて、担体と、界面活性剤単独もしくは上記混合液を均一に混合する方法が好ましい。
【0056】
撹拌混合装置は、特に限定されず一般的な装置を使用することができる。例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、V型混合機、ハイブリタイザー、リボンブレンダー、レーディゲミキサー等が挙げられる。
【0057】
本発明の撥水抑制剤は、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を含有する場合には、その合計量が30質量%以下である。合計量が30質量%以下であると、ダマ、つまり崩壊しにくい担体の塊が生じにくく、ハンドリング性が良好となる。またブロッキング、つまり崩壊する程度の柔らかい担体の凝集物も生じにくくハンドリング性が良好となる。これらの点を考慮すると、当該合計量は25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。界面活性剤との混合液を調製することで粘度を下げ、界面活性剤を担体へ均一に吸着させることができる点を考慮すると、合計量は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
【0058】
本発明の撥水抑制剤は、上記アルコールとして、炭素数が8以下である、1~3価のアルコールもしくはアルコキシアルコールを含有することが好ましい。これらのアルコールを使用することで、ブロッキングを抑制でき、ハンドリング性が特に良好となる。さらに浸水スピードもより向上する。
【0059】
上記アルコールのうち、炭素数1~8の1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、ヘキサノール、メチルペンタノール、ジメチルブタノール、2-エチルブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
炭素数1~8の2価アルコールとしては、例えば、メタンジオール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
炭素数1~8の3価アルコールとしては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
【0062】
炭素数2~8のアルコキシアルコールとしては、例えば、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(n-プロポキシ)エタノール、2-イソプロポキシ-1-エタノール、3-(n-プロポキシ)エタノール、2-(n-ブトキシ)エタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、4-メトキシ-1-ブタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
本発明の撥水抑制剤において、上記炭素数が8以下である、1~3価のアルコールもしくはアルコキシアルコールの含有量は、ブロッキングを抑制しハンドリング性が特に良好となる点を考慮すると、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。製造時の蒸散抑制等を考慮すると、上限は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0064】
本発明の撥水抑制剤には、本発明の効果を損なわない範囲内において、栄養源やミネラル等の肥料分、塩類、消泡剤、殺菌剤、香料、pH調整剤等の他の成分を、界面活性剤もしくは混合液に、あるいは担体と直接混合する等の方法で配合することができる。
【0065】
本発明の撥水抑制剤は、培養土成分に混合させることにより、使用されるまでにタイムラグが生じたり、植物の生育を長期にわたり行い灌水を繰り返したりしても、素早く均一に水を浸透させることができ、透水性を有し、初期から長期にわたり安定した撥水抑制能を維持させることができ、生育阻害を生じることなく植物の生育を促進することができる。
【0066】
さらに本発明の撥水抑制剤は、土壌の撥水抑制にも使用することができ、植栽する土地(土壌)の表面に直接散布し、あるいは土壌中に少量混合するだけでも撥水抑制効果を発揮し得るものである。
【0067】
本発明の培養土は、本発明の撥水抑制剤を培養土成分に混合したものである。本発明の培養土において、本発明の撥水抑制剤の添加量は、撥水抑制剤以外の培養土成分100質量部に対して0.01~10質量部が好ましく、0.01~5質量部がより好ましい。この範囲内であれば、育成する植物の生育阻害を生じることなく、初期から長期にわたり安定した撥水抑制能を得ることができる。
【0068】
培養土成分に本発明の撥水抑制剤を混合させる方法としては、培養土成分中に均一に分散させるために、通常用いられる方法を適宜に採用することができる。
【0069】
本発明の培養土において、使用する培養土成分は、通常培養土として使用されるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、従来より培養土に使用されている各種の植物性有機物質や無機物質、肥料、土等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。培養土成分の肥料としては、例えば、窒素肥料、リン酸肥料、カリ肥料、水酸化カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化マグネシウム等のマグネシウム化合物、酸化亜鉛等の亜鉛化合物等が挙げられる。培養土成分の土としては、例えば、黒ボク土、赤玉土、鹿沼土、日向土、田土等の天然土壌等が挙げられる。
【実施例
【0070】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)撥水抑制剤の製造
表1および表2の実施例1~17、比較例1~8に示す配合に従い、担体と界面活性剤等の成分を攪拌混合して撥水抑制剤を得た。水およびアルコールは予め界面活性剤との混合液とし、この混合液を担体に添加、攪拌混合した。攪拌混合はヘンシェルミキサーを使用し常温にて200rpm、3分で実施した。
【0071】
(2)培養土の製造
培養土成分としてピートモス/バーミキュライト=5/5(質量比)を使用し、これらの培養土成分100質量部に対して、上記撥水抑制剤を1質量部混合して培養土を得た。
【0072】
(3)評価
次の評価を行った。
<ハンドリング性>
撥水抑制剤製造時のダマの有無については、(1)撥水抑制剤の製造後の状態を目視で観察評価した(○:なし、×:あり)。
撥水抑制剤のブロッキングは、ポリ袋に充填後の状態を目視で観察評価した(◎:起きない、○:起きにくい、×:起きやすい)。結果を表1および表2に示す。
【0073】
<培土添加時の分散性>
撥水抑制剤を培養土に混合した際の分散性は、目視で観察評価した。(○:均一、×:不均一)
【0074】
<撥水防止性能>
<浸水スピード>
農水省規格セルトレイ(30角、128穴)に播種機を用いて一定量の培養土を充填し、展圧した後、一定量を灌水した。該水が培養土中へ浸水するまで(水浮きがない状態)の時間について、5:5秒以内、4:5~10秒、3:10~20秒、2:20~60秒、1:60秒以上の5段階で観察評価した。結果を表1および表2に示す。
なお、50回目とは、1日1回一定量を灌水して50日目の評価結果である。また製造120日後の培養土は、製造後、ポリ袋に培養土を充填、密閉し、30℃で保管したものである。
【0075】
<透水性>
農水省規格セルトレイ(30角、128穴)に播種機を用いて一定量の培養土を充填し、展圧した後、一定量を灌水した。灌水1分後、スパチュラで培養土を掘り起し、全体に対する透水性について、5:100~90%、4:90~80%、3:80~60%、2:60~40%、1:40%未満の5段階で観察評価した。結果を表1および表2に示す。
なお、50回目とは、1日1回一定量を灌水して50日目の評価結果である。また製造120日後の培養土は、製造後、ポリ袋に培養土を充填、密閉し、30℃で保管したものである。
【0076】
<生育性>
農水省規格セルトレイ(30角、128穴)に播種機を用いて一定量の培養土を充填し、展圧した後、小松菜の種子を1ポットにつき1粒ずつ再度播種機を用いて播種し、一定量の培養土で覆土し、一定量を灌水して播種作業を完了した。播種後、1日1回一定量を灌水して育苗し、7日後、発芽率、発根状況、子葉の展開状況について、4:良、3:やや良、2:やや不良、1:不良、の4段階で観察評価した。結果を表1および表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
上記評価において、サイズが1μm~1.0mmの多孔性物質に界面活性剤を5~50質量%付着させた本発明の撥水抑制剤(実施例1~17)は、ハンドリング性に優れ、培養土に均一に分散できることが確認された。また、本発明の撥水抑制剤を混合した培養土は、製造直後から長期間にわたって浸水スピードが速い状態を維持し、透水性に優れ、植物の生育を阻害しないことが確認された。
【0079】
比較例7、8のように多孔性物質と非多孔性物質を併用すると、均一に混合されず、多孔性物質と非多孔性物質が分離した撥水防止剤となった。これを培養土に混合しても均一に分散しなかった。そのため、以降の撥水防止性能、生育性の評価を行わなかった。
【0080】
多孔性物質のサイズが300μm未満、特に250μm以下(実施例2、3、4、6、9、11~14)であると、培養土に混合する際の分散性が良好となり、透水性が向上することで植物の生育が良好となることが確認された。
【0081】
アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を併用(実施例10~17)すると、ノニオン界面活性剤単独(実施例1、2、5、6、7、8、9)より浸水スピード、透水性が向上し、アニオン界面活性剤単独(実施例3、4)より植物の生育が良好となる。
【0082】
アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の併用において、アニオン界面活性剤にスルホン酸塩型またはリン酸エステル塩型を使用(実施例11、12、13、17)すると、カルボン酸塩型(実施例14、16)、硫酸塩型(実施例15)に比べて、透水性、植物の生育が良好となる。
【0083】
撥水抑制剤にアルコールを混合(実施例6、7、12、13、17)すると、ブロッキングが生じにくく、ハンドリング性が良好となる。浸水スピードもより向上する。