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特許7037919マスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】マスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20220310BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
G03F1/32
C23C14/06 P
C23C14/06 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017219237
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2019090911
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-015136(JP,A)
【文献】特開2007-271891(JP,A)
【文献】特開2008-052120(JP,A)
【文献】特開2009-244350(JP,A)
【文献】特開2016-045233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーフトーンマスクとなる層を有するマスクブランクであって、
耐薬品性を高めた耐薬層と、
i線からg線に渡る波長帯域において半透過率の変動幅が所定の範囲内となるように制御された均透過率層と、を有し、これらの層における窒素含有率が異なり、
前記耐薬層と前記均透過率層とにおいて、前記半透過率の変動幅が前記耐薬層の膜厚に対して、下凸となるプロファイルを有す
ことを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
ハーフトーンマスクとなる層を有するマスクブランクであって、
耐薬品性を高めた耐薬層と、
i線からg線に渡る波長帯域において半透過率の変動幅が所定の範囲内となるように制御された均透過率層と、を有し、これらの層における窒素含有率が異なり、
前記耐薬層と前記均透過率層とにおいて、405nmにおける透過率が28~29%とされ
ことを特徴とするマスクブランク。
【請求項3】
前記耐薬層のほうが前記均透過率層よりも外側に位置している
ことを特徴とする請求項1または2記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記耐薬層のほうが前記均透過率層よりも窒素濃度が高く設定される
ことを特徴とする請求項1または2記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記耐薬層と前記均透過率層とが、シリサイドからなる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記耐薬層の窒素濃度が36atm%以上とされる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記均透過率層の窒素濃度が35atm%以下とされる
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記耐薬層の膜厚が20nm以下とされる
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか記載のマスクブランク。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか記載のマスクブランクから製造される
ことを特徴とするハーフトーンマスク。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか記載のマスクブランクの製造方法であって、
前記耐薬層と前記均透過率層との成膜時において、窒素ガスの分圧を異ならせる
ことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項11】
請求項9記載のハーフトーンマスクの製造方法であって、
前記耐薬層と前記均透過率層との成膜時において、窒素ガスの分圧を異ならせる
ことを特徴とするハーフトーンマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法に関して好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)用のアレイ基板は複数のマスクを用いることで製造されているが、工程削減のために半透過性のハーフトーンマスクを用いてマスク枚数を削減することができる。また、有機ELディスプレイ等では有機絶縁膜に開口部を形成するために有機絶縁膜の膜厚を多段階に制御することが必要となる。このためにハーフトーンマスクの重要度が高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4516560号公報
【文献】特開2008―052120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらのハーフトーンマスクにおいては、露光時に多波長露光に対応すること、つまり、透過率の波長依存性の小さい特性が求められている。しかしながら、透過率の波長依存性の小さいハーフトーンマスクに用いられる膜は酸化や窒化が進んでいない金属的な膜が望ましいことがわかった。
【0005】
一方、マスクは光学特性に影響を与える汚染物質を取り除くために酸性やアルカリ性の薬液を用いて洗浄することが必要である。この洗浄工程において、酸化や窒化が進んでいない金属的な膜はアルカリ溶液に対する耐性に劣ることがわかった。
【0006】
しかし、ハーフトーンマスクに用いられる金属的な膜として、膜の酸化や窒化を進めることと、アルカリ溶液に対する耐性(薬液耐性)とは、トレードオフとなっていることがわかった。
【0007】
ハーフトーンマスクにおいて、透過率の波長依存性が小さいことと、薬液耐性の強いことを両立させたハーフトーン膜が求められている。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、透過率の波長依存性が小さいことと、薬液耐性の強いことを両立させたハーフトーン膜を実現するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマスクブランクは、ハーフトーンマスクとなる層を有するマスクブランクであって、
耐薬品性を高めた耐薬層と、
i線からg線に渡る波長帯域において半透過率の変動幅が所定の範囲内となるように制御された均透過率層と、を有し、これらの層における窒素含有率が異なり、
前記耐薬層と前記均透過率層とにおいて、前記半透過率の変動幅が前記耐薬層の膜厚に対して、下凸となるプロファイルを有することにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクは、ハーフトーンマスクとなる層を有するマスクブランクであって、
耐薬品性を高めた耐薬層と、
i線からg線に渡る波長帯域において半透過率の変動幅が所定の範囲内となるように制御された均透過率層と、を有し、これらの層における窒素含有率が異なり、
前記耐薬層と前記均透過率層とにおいて、405nmにおける透過率が28~29%とされることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記耐薬層のほうが前記均透過率層よりも外側に位置していることがより好ましい。
本発明の前記耐薬層のほうが前記均透過率層よりも窒素濃度が高く設定されることが可能である
た、前記耐薬層と前記均透過率層とが、シリサイドからなることができる。
また、前記耐薬層の窒素濃度が36atm%以上とされることが好ましい。
本発明においては、前記均透過率層の窒素濃度が35atm%以下とされることができる。
また、本発明において、前記耐薬層の膜厚が20nm以下とされることができる。
また、本発明のハーフトーンマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクから製造されることができる。
また、本発明のマスクブランクの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクの製造方法であって、
前記耐薬層と前記均透過率層との成膜時において、窒素ガスの分圧を異ならせることができる。
また、本発明のハーフトーンマスクの製造方法は、前記耐薬層と前記均透過率層との成膜時において、窒素ガスの分圧を異ならせることができる。
【0010】
本願発明者らは、ハーフトーンマスクとして用いられているハーフトーン膜においては、鋭意検討の結果、薬液耐性を高めるために窒素濃度が高いことが重要であることがわかった。一方、透過率の波長依存性の少ないハーフトーン膜を形成するためには窒素濃度が低い方が好ましいことを見出した。これらにより、本願発明者らは本発明を完成した。
【0011】
本発明本発明のマスクブランクは、ハーフトーンマスクとなる層を有するマスクブランクであって、
耐薬品性を高めた耐薬層と、
i線からg線に渡る波長帯域において半透過率の変動幅が所定の範囲内となるように制御された均透過率層と、を有し、これらの層における窒素含有率が異なることにより、洗浄等の工程において使用される薬剤耐性と、i線からg線に渡る波長帯域において半透過率の変動を抑制したマスク層を有するハーフトーンマスクとすることのできるマスクブランクを提供することが可能となる。
ここで、薬剤としては、アルカリ性のもの、あるいは、酸性のものを適用でき、例として、現像液、剥離液、洗浄液などがあり、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、硫酸(HSO)、硫酸と過酸化水素(H)の混合液等を挙げることができるが、特に、水酸化ナトリウム溶液を挙げることができる。
また、本願発明のマスクブランクとして、FPD製造の多色波露光に用いられる大型のマスクを想定することができる。
【0012】
本発明において、前記耐薬層のほうが前記均透過率層よりも外側に位置していることにより、製造途中などにおいて薬剤に接触する可能製のある外側位置(表層側)に耐薬層が設けられることで、薬剤による膜厚の減少を防止して、マスク層として、g線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において半透過率の変動を抑制することが可能となる。
ここで、外側とは、例えばガラスとされる透明基板にマスク層が形成される際に、この基板と反対側、つまり、積層工程として後の工程で積層される側を外側と称する。
【0013】
本発明の前記耐薬層のほうが前記均透過率層よりも窒素濃度が高く設定されることにより、透過率の波長依存性を更に低減することが可能である。
【0014】
また、本発明において、前記耐薬層と前記均透過率層とにおいて、前記半透過率の変動幅が前記耐薬層の膜厚に対して、下凸となるプロファイルを有することにより、薬液耐性を高め、透過率の波長依存性の少ないハーフトーン膜を形成することができる。
【0015】
また、前記耐薬層と前記均透過率層とが、シリサイドからなることにより、透過率の波長依存性の少なく薬液耐性の強い膜を得ることが可能となる。
ここで、ハーフトーンマスクとして適応可能なシリサイド膜としては、MoとSiで構成されるMoSi系材料に限らず、金属及びシリコン(MSi、M:Mo、Ni、W、Zr、Ti、Cr等の遷移金属)、酸化窒化された金属及びシリコン(MSiON)、酸化炭化された金属及びシリコン(MSiCO)、酸化窒化炭化された金属及びシリコン(MSiCON)、酸化された金属及びシリコン(MSiO)、窒化された金属及びシリコン(MSiN)、などが挙げられ、また、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金又はこれらの金属と他の金属との合金(他の金属としてはCr、Niが挙げられる)や、これらの金属又は合金とシリコンとを含む材料、が挙げられる。特に、MoSi膜を挙げることができる。
【0016】
また、前記耐薬層の窒素濃度が36atm%以上とされることにより、所望の耐薬性を実現することができ、例えば洗浄工程における膜厚の変動を抑制して、半透過率の変動幅が当初設定した範囲からずれてしまうことを防止できる。
【0017】
本発明においては、前記均透過率層の窒素濃度が35atm%以下とされることにより、半透過率の変動幅を所望の範囲に設定することを防止できる。
【0018】
また、本発明において、前記耐薬層の膜厚が20nm以下とされることにより、所望の耐薬性を実現しつつ、前記均透過率層によって設定された半透過率の変動幅が当初設定した範囲からずれてしまうことを防止できる。
【0019】
また、本発明のハーフトーンマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクから製造されることにより、薬剤耐性と半透過率の変動抑制とを両立することが可能となる。
【0020】
また、本発明のマスクブランクの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクの製造方法であって、
前記耐薬層と前記均透過率層との成膜時において、窒素ガスの分圧を異ならせることにより、前記耐薬層における耐薬性と、前記均透過率層における半透過率の変動抑制とを有するマスクブランクを製造可能とすることができる。
【0021】
また、本発明のハーフトーンマスクの製造方法は、
前記耐薬層と前記均透過率層との成膜時において、窒素ガスの分圧を異ならせることにより、それぞれの層で、所望の膜特性を有するマスクブランクを製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、薬剤耐性と半透過率の変動抑制とを両立したマスクブランク、ハーフトーンマスクを提供ことができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るマスクブランクの第1実施形態を示す断面図である。
図2】本発明に係るハーフトーンマスクの第1実施形態を示す断面図である。
図3】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図4】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
図5】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における分光透過率のN分圧依存性を示すグラフである。
図6】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における透過率変化(g線-i線)の窒素濃度依存性を示すグラフである。
図7】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるNaOH処理後の透過率変化、N/Arガス比依存性を示すグラフである。
図8】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるNaOH処理後透過率変化の窒素濃度依存性を示すグラフである。
図9】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における屈折率の波長依存性を示すグラフである。
図10】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における消光係数の波長依存性を示すグラフである。
図11】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における分光透過率を示すグラフである。
図12】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における分光反射率を示すグラフである。
図13】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるg線-i線の透過率差を示すグラフである。
図14】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるg線-i線の反射率差を示すグラフである。
図15】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における分光透過率を示すグラフである。
図16】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態における分光反射率を示すグラフである。
図17】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるg線-i線の透過率差を示すグラフである。
図18】本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるg線-i線の反射率差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るマスクブランク、ハーフトーンマスクおよびその製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクを示す断面図であり、図2は、本実施形態におけるハーフトーンマスクを示す断面図であり、図において、符号10Bは、マスクブランクである。
【0025】
本実施形態に係るマスクブランク10Bは、露光光の波長が365nm~436nmの範囲で使用されるハーフトーンマスクに供されるものとされ、図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、このガラス基板11上に形成された均透過率層12と、均透過率層12上に形成された耐薬層13と、で構成される。均透過率層12と耐薬層13とは、ハーフトーン型位相シフトマスク層を構成している。
なお、本実施形態に係るマスクブランク10Bは、均透過率層12と耐薬層13以外に、反射防止層、遮光層、エッチングストッパー層、等を積層した構成とされてもよい。
【0026】
透明基板11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。
【0027】
均透過率層12と耐薬層13としては、窒素を含有するシリサイド膜、例えば、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金とシリコンとを含む膜や、特に、MoSi(X≧2)膜(例えばMoSi膜、MoSi膜やMoSi膜など)が挙げられる。
鋭意検討の結果、MoSi膜の組成に関してはMoとSiの組成比において、Moの比率が高い程、MoSi膜の金属的な性質が高まるために、透過率の波長依存性が低減することがわかった。そのためにMoSi膜におけるXの値は3以下が望ましく、更に望ましくはXの値は2.5以下にすることが望ましいことがわかった。そのために本検討においてはXの値が2.3のターゲットを用いている。
【0028】
本実施形態においては、均透過率層12の窒素濃度が35atm%以下とされてよく、均透過率層12の窒素濃度が30atm%以下がより好ましく、耐薬層13の窒素濃度が36atm%以上とされてよく、耐薬層13の窒素濃度が40atm%以上がより好ましく、耐薬層13の膜厚が20nm以下とされることができる。また、耐薬層13の膜厚が5nm以上、好ましくは10nm以上とされることもできる。
【0029】
本実施形態におけるマスクブランクの製造方法は、ガラス基板(透明基板)11に均透過率層12を成膜した後に、耐薬層13を成膜するものとされる。マスクブランク製造方法は、均透過率層12と耐薬層13以外に、反射防止層、遮光層、エッチングストッパー層、等を積層する場合には、これらの積層工程を有することができる。
一例として、例えば、クロムを含む遮光層を挙げることができる。
【0030】
本実施形態におけるハーフトーンマスク10は、図2に示すように、マスクブランク10Bの均透過率層12と耐薬層13とにパターンを形成したものとされる。
【0031】
以下、本実施形態のマスクブランク10Bからハーフトーンマスク10を製造する製造方法について説明する。
【0032】
マスクブランクス10Bの最外面上にフォトレジスト層を形成する。フォトレジスト層は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層としては、液状レジストが用いられる。
【0033】
続いて、フォトレジスト層を露光及び現像することで、耐薬層13よりも外側にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、均透過率層12と耐薬層13とのエッチングマスクとして機能し、均透過率層12と耐薬層13とのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、位相シフト領域においては、形成する位相シフトパターンの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0034】
次いで、このレジストパターン越しにエッチング液を用いて均透過率層12と耐薬層13とをウェットエッチングしてハーフトーンパターン12P,13Pを形成する。エッチング液としては、均透過率層12と耐薬層13とがMoSiである場合には、エッチング液として、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることが好ましい。
【0035】
さらに、遮光層等他の膜を成膜してあるマスクブランクス10Bの場合には、この膜を対応するエッチング液を用いたウェットエッチング等により、ハーフトーンパターン12P,13Pに対応した所定の形状にパターンニングする。遮光層等他の膜のパターンニングは、その積層順に対応して均透過率層12と耐薬層13とのパターンニングの前後所定の工程としておこなわれることができる。
【0036】
以上により、ハーフトーンパターン12P,13Pを有するハーフトーンマスク10が、図2に示すように得られる。
【0037】
以下、本実施形態におけるマスクブランクの製造方法について、図面に基づいて説明する。
図3は、本実施形態におけるマスクブランクの製造装置を示す模式図であり、図4は、本実施形態におけるマスクブランクの製造装置を示す模式図である。
【0038】
本実施形態におけるマスクブランク10Bは、図3または図4に示す製造装置により製造される。
【0039】
図3に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード・アンロード室S11と、ロード・アンロード室S11に密閉手段S13を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0040】
ロード・アンロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S12へと搬送するか成膜室S12を外部へと搬送する搬送手段S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S11bが設けられる。
【0041】
成膜室S12には、基板保持手段S12aと、成膜材料を供給する手段として、ターゲットS12bを有するカソード電極(バッキングプレート)S12cと、バッキングプレートS12cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S12dと、この室内にガスを導入するガス導入手段S12eと、成膜室S12の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S12fと、が設けられている。
【0042】
基板保持手段S12aは、搬送手段S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS12bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード・アンロード室S11からの搬入およびロード・アンロード室S11へ搬出可能とされている。
ターゲットS12bは、ガラス基板11に成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
【0043】
図3に示す製造装置S10においては、ロード・アンロード室S11から搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S12においてスパッタリング成膜をおこなった後、ロード・アンロード室S11から成膜の終了したガラス基板11を外部に搬出する。
【0044】
成膜工程においては、ガス導入手段S12eから成膜室S12にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S12cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS12b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S12内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S12cのターゲットS12bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の膜が形成される。
【0045】
この際、均透過率層12の成膜と、耐薬層13の成膜とで、ガス導入手段S12eから異なる量の窒素ガスを供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
なお、均透過率層12の成膜と、耐薬層13の成膜とで、ターゲットS12bを交換することもできる。
【0046】
さらに、これら均透過率層12と耐薬層13との成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランク10Bとする。
【0047】
また、図4に示す製造装置S20は、インライン式のスパッタリング装置とされ、ロード室S21と、ロード室S21に密閉手段S23を介して接続された成膜室(真空処理室)S22と、成膜室S22に密閉手段S24を介して接続されたアンロード室S25と、を有するものとされる。
【0048】
ロード室S21には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S22へと搬送する搬送手段S21aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S21bが設けられる。
【0049】
成膜室S22には、基板保持手段S22aと、成膜材料を供給する手段として、ターゲットS22bを有するカソード電極(バッキングプレート)S22cと、バッキングプレートS22cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S22dと、この室内にガスを導入するガス導入手段S22eと、成膜室S22の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気手段S22fと、が設けられている。
【0050】
基板保持手段S22aは、搬送手段S21aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS22bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード室S21からの搬入およびアンロード室S25へ搬出可能とされている。
ターゲットS22bは、ガラス基板11に成膜するために必要な組成を有する材料からなる。
【0051】
アンロード室S25には、成膜室S22から搬入されたガラス基板11を外部へと搬送する搬送手段S25aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気手段S25bが設けられる。
【0052】
図4に示す製造装置S20においては、ロード室S21から搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S22においてスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S25から成膜の終了したガラス基板11を外部に搬出する。
【0053】
成膜工程においては、ガス導入手段S22eから成膜室S22にスパッタガスと反応ガスとを供給し、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S22cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS22b上に所定の磁場を形成してもよい。成膜室S22内でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S22cのターゲットS22bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の膜が形成される。
【0054】
この際、均透過率層12の成膜と、耐薬層13の成膜とで、ガス導入手段S22eから異なる量の窒素ガスを供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
なお、均透過率層12の成膜と、耐薬層13の成膜とで、ターゲットS22bを交換することもできる。
【0055】
さらに、これら均透過率層12と耐薬層13との成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランク10Bとする。
【0056】
以下、本実施形態における均透過率層12と耐薬層13との膜特性について説明する。
図5は、本実施形態のハーフトーン膜における分光透過率のN分圧依存性を示すグラフであり、図6は、本実施形態のハーフトーン膜における透過率変化(g線-i線)の窒素濃度依存性を示すグラフである。
【0057】
ここで、均透過率層12と耐薬層13とは、説明のため、MoSiからなる膜とするが、これに限定されるものではない。
本実施形態の均透過率層12と耐薬層13とにおいては、均透過率層12に比べて、耐薬層13における窒素濃度が高くなるように設定される。
【0058】
具体的には、均透過率層12は、スパッタリングによる成膜時のN分圧を変化させて、例えば、窒素濃度30%以下のMoSi膜として成膜される。
耐薬層13は、スパッタリングによる成膜時のN分圧を変化させて、例えば、窒素濃度40%以上のMoSi膜として成膜される。
【0059】
ここで、窒素含有量変化による透過率変化について検証する。
【0060】
例として、スパッタリングによる成膜時のN分圧を変化させた際におけるMoSi膜単層の組成比変化を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、窒素の組成比が変化すると、これにともなって透過率が変化することがわかる。本実施形態の均透過率層12と耐薬層13とにおいては、これを用いて、所定の反透過率を有するように、ハーフトーン膜を設定することができる。
このように、スパッタリングによる成膜時のN分圧を変化させた際におけるMoSi膜単層は、図5に示す分光透過率のN分圧依存性を有する。
【0063】
上述した成膜時のN分圧を変化させた際におけるMoSi単層膜において、g線(436nm)-i線(365nm)における透過率変化も、図6に示すように窒素濃度依存性を有する。窒素濃度が30atm%より小さいと、g線(436nm)とi線(365nm)とにおける透過率が4%以下に抑えられていることがわかる。
したがって、g線(436nm)とi線(365nm)とにおける透過率変化を抑制しようとした場合、窒素濃度を低くすればよいことがわかる。
【0064】
次に、耐薬性について検証する。
図7は、本実施形態のハーフトーン膜におけるNaOH処理後の透過率変化、N/Arガス比依存性を示すグラフであり、図8は、本実施形態のハーフトーン膜におけるNaOH処理後透過率変化の窒素濃度依存性を示すグラフである。
【0065】
例として、上述したスパッタリングによるN分圧を変化させて成膜時したMoSi膜単層において、アルカリ液処理前後での405nmでの透過率変化を調べた。
ここで、処理条件は、NaOH濃度は5%、温度40℃、浸漬時間15~60minとして変化させた。なお、成膜時のガス条件として、表1のN分圧に対応して、N:Arの流量比として示してある。
【0066】
この結果から、図7に示すように、窒素分圧100%から窒素分圧0%まで変化させた際、NaOH処理後の膜厚変化によって、窒素分圧が小さくなるに従って、405nmでの透過率変化が大きくなるような窒素分圧依存性を有することがわかる。
同様に、図8、表2に示すように、窒素濃度が40atm%以上であれば、405nmでの透過率変化がほぼ無視しうるような膜厚変化および窒素濃度依存性を有することがわかる。
【0067】
【表2】
【0068】
次に、波長依存性について検証する。
図9は、本実施形態のハーフトーン膜における屈折率の波長依存性を示すグラフであり、図10は、本実施形態のハーフトーン膜における消光係数の波長依存性を示すグラフである。
【0069】
例として、上述したスパッタリングによるN分圧を変化させて成膜時したMoSi膜単層において、屈折率と消光係数の波長依存性を調べた。
【0070】
この結果から、図9に示すように、窒素分圧100%から窒素分圧0%まで変化した際、窒素分圧が大きくなるに従って、それぞれの波長での屈折率変化が小さくなるとともに、図10に示すように、消光係数が小さくなるような窒素分圧依存性を有することがわかる。
【0071】
次に、分光透過率、分光反射率について検証する。
図11は、本実施形態のハーフトーン膜における分光透過率を示すグラフであり、図12は、本実施形態のハーフトーン膜における分光反射率を示すグラフである。
【0072】
例として、MoSiからなる均透過率層12と耐薬層13とにおいて、表3に示すように膜厚を変化させた際の405nmにおける分光透過率、分光反射率の膜厚依存性を調べた。
なおこのときの窒素濃度は、均透過率層12が29.5atm%(成膜時N分圧30%)、耐薬層13が49.5atm%(成膜時N分圧100%)である。
【0073】
これらのMoSi膜の積層では、窒素濃度のみを切り替えつつガスを連続供給するか、異なるスパッタ工程として、供給ガスの窒素濃度を高くすることができる。
また、均透過率層12と耐薬層13とを積層した状態において、各膜厚で透過率が29%程度に等しくなるように、それぞれの膜厚を調整した。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示すように、均透過率層12と耐薬層13とにおいて、それぞれの膜厚を調整することで、図11に示すように、分光透過率における波長依存性がほぼなくなるように制御することが可能となることがわかる。
また、このとき、図12に示すように、分光反射率は、波長が500nm付近と大きい場合には変化が小さいが、波長が400~350nm付近で小さくなると大きく変化することがわかる。
【0076】
次に、薬剤耐性について検証する。
図13は、本実施形態のハーフトーン膜におけるg線-i線の透過率差を示すグラフであり、図14は、本実施形態のハーフトーン膜におけるg線-i線の反射率差を示すグラフである。
【0077】
例として、MoSiからなる均透過率層12と耐薬層13とにおいて、表3に示すように膜厚を変化させた際のg線(436nm)とi線(365nm)とにおける透過率差、反射率差の膜厚依存性を調べた。
【0078】
図13に示すように、均透過率層12と耐薬層13とにおいて、それぞれの膜厚を調整することで、耐薬層13の膜厚変化に対して、g線(436nm)とi線(365nm)とにおける透過率差が、耐薬層13の膜厚20nm付近を頂点とするように下凸のプロファイルを有すること、つまり、耐薬層13の膜厚10nm~20nm付近が最もg線とi線とにおける透過率差が小さくなることがわかる。
また、このとき、図14に示すように、反射率差は、耐薬層13の膜厚が50nmから0nmまで小さくなるに従って大きくなるように変化することがわかる。
【0079】
次に、分光透過率、分光反射率について検証する。
図15は、本実施形態のハーフトーン膜における分光透過率を示すグラフであり、図16は、本実施形態のハーフトーン膜における分光反射率を示すグラフである。
【0080】
例として、MoSiからなる均透過率層12と耐薬層13とにおいて、表4に示すように膜厚を変化させた際の405nmにおける分光透過率、分光反射率の膜厚依存性を調べた。
なおこのときの窒素濃度は、均透過率層12が7.2atm%(成膜時N分圧0%)、耐薬層13が49.5atm%(成膜時N分圧100%)である。また、均透過率層12と耐薬層13とを積層した状態において、各膜厚で透過率が29%程度に等しくなるように、それぞれの膜厚を調整した。
【0081】
【表4】
【0082】
表4に示すように、均透過率層12と耐薬層13とにおいて、それぞれの膜厚を調整することで、図15に示すように、分光透過率における波長依存性がほぼなくなるように制御することが可能となることがわかる。
また、このとき、図16に示すように、分光反射率は、波長が500nm付近と大きい場合には変化が小さいが、波長が400~350nm付近で小さくなると大きく変化することがわかる。
【0083】
次に、薬剤耐性について検証する。
図17は、本実施形態のハーフトーン膜におけるg線-i線の透過率差を示すグラフであり、図18は、本実施形態のハーフトーン膜におけるg線-i線の反射率差を示すグラフである。
【0084】
例として、MoSiからなる均透過率層12と耐薬層13とにおいて、表4に示すように膜厚を変化させた際のg線(436nm)とi線(365nm)とにおける透過率差、反射率差の膜厚依存性を調べた。
【0085】
図17に示すように、均透過率層12と耐薬層13とにおいて、それぞれの膜厚を調整することで、耐薬層13の膜厚変化に対して、g線(436nm)とi線(365nm)とにおける透過率差が、耐薬層13の膜厚15nm付近を頂点とするように下凸のプロファイルを有すること、つまり、耐薬層13の膜厚10nm~20nm付近が最もg線とi線とにおける透過率差が小さくなることがわかる。
また、このとき、図18に示すように、反射率差は、耐薬層13の膜厚が40nmから0nmまで小さくなるに従って大きくなるように変化することがわかる。
【0086】
本実施形態においては、MoSiからなる均透過率層12と耐薬層13との成膜時N分圧を制御するとともに、その膜厚を制御して、透過率の波長依存性が小さく、薬剤耐性の高いハーフトーン膜を有するマスクブランク10B、ハーフトーンマスク10を製造することが可能となる。
【0087】
また、洗浄工程において光学特性に影響を与える汚染物質を取り除くために酸性やアルカリ性の薬液を用いてマスクブランク10B、ハーフトーンマスク10を洗浄する際に、耐性が高く、膜厚変動と、それにともなった透過率の変動の少ないマスクブランク10B、ハーフトーンマスク10を製造することが可能となる。
【0088】
本実施形態に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク10Bおよびハーフトーンマスク10において、ハーフトーン膜とされるMoSiからなる均透過率層12と耐薬層13とは、成膜時N分圧と膜厚を切り替えて制御するだけで、超高圧水銀灯から放射される少なくともi線からg線に渡る波長帯域において、MoSiからなる均透過率層12と耐薬層13との半透過率の変動幅が4.5%未満の範囲内となるように制御することができ、これによって、i線,h線,g線に対するハーフトーンマスク膜の半透過率が波長によらずほぼ同等(例えば半透光性膜の半透過率の差異が5%未満)であることができる。
【0089】
本実施形態に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク10Bおよびハーフトーンマスク10において、ハーフトーン膜とされるMoSiからなる均透過率層12と耐薬層13とは、MoとSiで構成されるMoSi系材料に限らず、金属及びシリコン(MSi、M:Mo、Ni、W、Zr、Ti、Cr等の遷移金属)、酸化窒化された金属及びシリコン(MSiON)、酸化炭化された金属及びシリコン(MSiCO)、酸化窒化炭化された金属及びシリコン(MSiCON)、酸化された金属及びシリコン(MSiO)、窒化された金属及びシリコン(MSiN)、などが挙げられ、また、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金又はこれらの金属と他の金属との合金(他の金属としてはCr、Niが挙げられる)や、これらの金属又は合金とシリコンとを含む材料、が挙げられる。
【0090】
本実施形態に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク10Bおよびハーフトーンマスク10において、遮光層を有することができ、その際、遮光層の材料としては、例えば、ハーフトーン膜のエッチング特性と異なる材料がよく、ハーフトーン膜を構成する金属がモリブデンの場合、クロムや、クロムの酸化物、クロムの窒化物、クロムの炭化物、クロムのフッ化物、それらを少なくとも1つ含む材料が好ましい。同様に、半透光性膜がクロム窒化膜系材料で構成される場合、クロムや、クロムの酸化物、クロムの炭化物、クロムのフッ化物、それらを少なくとも1つ含む材料が好ましい。
遮光層は、ガラス基板11に対して、ハーフトーン膜よりも外側となる上置きタイプ、またはハーフトーン膜よりも内側となる下置きタイプとすることができる。さらに、このとき、遮光層とハーフトーン膜との間に、エッチングストップ層を設けることもできる。
【0091】
本実施形態に係るFPDデバイスを製造するためのマスクブランク10Bおよびハーフトーンマスク10においては、ハーフトーン膜となる均透過率層12と耐薬層13との窒素濃度を変化させるだけで製造できるため、あらかじめ、所定濃度(所定流量比)に設定された雰囲気ガスをスパッタリング時に供給するだけで製造でき、これにより、ハーフトーン膜における面内方向での窒素濃度を均一にすることが容易にでき、透過率の面内方向での変動を抑制することが可能となる。
【0092】
なお、本実施形態においては、均透過率層12と耐薬層13との窒素濃度が膜厚方向に変化する構成とすることもできる。この場合、耐薬性を維持するために最表面(外側位置)で高い窒素濃度を維持していれば、膜厚および窒素濃度は、所定の透過率を維持するように適宜変動させることができる。
【実施例
【0093】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0094】
<実施例1>
大型ガラス基板(合成石英(QZ)10mm厚、サイズ850mm×1200mm)上に、大型インラインスパッタリング装置を使用し、ハーフトーンマスク膜の成膜を行った。具体的には、Xの値が2.3のMoSiターゲットを用い、ArとNガスをスパッタリングガスとしてMoSi膜を、窒素ガス分圧を変化させて、窒素濃度を44.9atm%(実験例1)、40.8atm%(実験例2)、29.5atm%(実験例3)、7.2atm%(実験例4)、と段階的に変化させて、複数の試料を作製した。
【0095】
この実験例1~4の分光透過率線を図5に、g線とi線の透過率差を図6に示す。ここで、分光透過率は分光光度計(日立製作所社製:U-4100)により測定した。
【0096】
<実施例2>
さらに、上記の実験例1~4の膜に対し、NaOH液処理前後での405nmでの透過率変化を調べた結果を図7図8に示す。
ここで、処理条件は、NaOH濃度は5%、温度40℃、浸漬時間15~60minとして変化させた。なお、成膜時のガス条件として、表1のN分圧に対応して、N:Arの流量比として示してある。
【0097】
さらに、上記の実験例1~4の膜に対し、屈折率と消光係数の波長依存性を調べた結果を図9図10に示す。
【0098】
これらの結果から、MoSi膜内の窒素濃度によって、耐薬性および、透過率、屈折率が変化することがわかる。
【0099】
<実施例3>
次に、実施例1と同様にして、膜厚方向に窒素濃度が29.5atm%,49.5atn%の異なる二層を積層した。このとき、ガラス基板側の層の窒素濃度が低くなるように、成膜開始後、MoSi膜が所定の膜厚となった後に、導入ガスの窒素分圧を切り替えて、上側層の窒素ガス濃度が、実施例2における耐薬性を有するように窒素分圧を高くしてさらに成膜した。
【0100】
また、窒素濃度が異なるMoSi膜を積層した状態において、上側の高窒素濃度膜の膜厚が、0.0nm(実験例5)、5.0nm(実験例6)、10.0nm(実験例7)、15.0nm(実験例8)、20.0nm(実験例9)、30.0nm(実験例10)、40.0nm(実験例11)、50.0nm(実験例12)として変化させた。
また、積層状態で透過率が29%程度に等しくなるように、それぞれの実施例5~12で下側の低窒素濃度膜の膜厚を表3に示すように調整した。
【0101】
さらに、上記の実験例5~12の積層膜に対し、透過率と反射率とを調べた結果を図11図12に示す。
さらに、実験例5~12のg線とi線の透過率差を図13に示す。
さらに、実験例5~12のg線とi線の反射率を図14に示す。
【0102】
これらの結果から、MoSi膜内の窒素濃度を厚さ方向に変化させるとともに、その膜厚を調整することによって、上側の高窒素濃度膜の膜厚に対して、積層膜における透過率プロファイルが、下凸となることがわかる。
【0103】
<実施例4>
実験例3と同様にして、膜厚方向に窒素濃度が7.2atm%,49.5atn%の異なる二層を積層し、高窒素濃度膜の膜厚に応じて実験例13~20とした。
また、積層状態で透過率が29%程度に等しくなるように、それぞれの実施例13~20で下側の低窒素濃度膜の膜厚を表4に示すように調整した。
【0104】
さらに、上記の実験例13~20の積層膜に対し、透過率と反射率とを調べた結果を図15図16に示す。
さらに、実験例5~12のg線とi線の透過率差を図17に示す。
さらに、実験例5~12のg線とi線の反射率を図18に示す。
【0105】
これらの結果から、MoSi膜内の窒素濃度を厚さ方向に変化させるとともに、その膜厚を調整することによって、上側の高窒素濃度膜の膜厚に対して、積層膜における透過率差(透過率の変動幅)のプロファイルが、下凸となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の活用例として、LCDや有機ELディスプレイの製造に必要なすべてのマスクに活用することができる。例えばTFTやカラーフィルターなどを製造するためのマスクに活用することを挙げることができる。
【符号の説明】
【0107】
10…ハーフトーンマスク
10B…マスクブランク
11…ガラス基板(透明基板)
12…均透過率層
13…耐薬層
12P,13P…ハーフトーンパターン
S10,S20…成膜装置(スパッタ装置)
S11…ロード・アンロード室
S21…ロード室
S25…アンロード室
S11a,S21a,S25a…搬送装置(搬送ロボット)
S11b,S21b,S25b…排気手段
S12,S22…成膜室(チャンバ)
S12a,S22a…基板保持手段
S12b,S22b…ターゲット
S12c,S22c…バッキングプレート(カソード電極)
S12d,S22d…電源
S12e,S22e…ガス導入手段
S12f,S22f…高真空排気手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18