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特許7037921未加硫ゴム用防着剤および未加硫ゴム用防着剤水分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】未加硫ゴム用防着剤および未加硫ゴム用防着剤水分散液
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20220310BHJP
【FI】
C08J7/00 Z CEQ
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017220877
(22)【出願日】2017-11-16
(65)【公開番号】P2019089970
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】岡 孝生
(72)【発明者】
【氏名】坂本 一幸
(72)【発明者】
【氏名】勢旗 志郎
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001720(JP,A)
【文献】特開2013-124292(JP,A)
【文献】特開2017-088686(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133207(WO,A1)
【文献】特開昭62-032127(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164171(WO,A1)
【文献】特開2013-213202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D)を含み、
下記成分(B)の含有率が下記成分(A)~(D)の質量の合計に対して、0.1質量%以上10質量%以下であり、
下記成分(C)の含有率が下記成分(A)~(D)の質量の合計に対して、1質量%以上20質量%以下であり、
下記成分(B)の全体の質量(Ball)に対して、下記式(1)においてm=0である化合物(B0)の含有率((B0/Ball)×100)が、10~100質量%である、
ことを特徴とする未加硫ゴム用防着剤。
(A)無機粉末
(B)下記式(1)で表される化合物
(C)下記式(2)で表される化合物のうち成分(B)を除くノニオン界面活性剤
(D)アニオン界面活性剤
【化1】
前記式(1)中、
は、炭素数4~20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、
EOは、オキシエチレン基であり
mは、EOの平均付加モル数を示す0~10の数であ

R-O-(AO)x-H ・・・(2)

前記式(2)中、
Rは、炭素数が12~16の脂肪族炭化水素基であり、
AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、
xは、AOの平均付加モル数を示す1~30の数である。
【請求項2】
前記式(1)中、Rが、炭素数4~16の直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素基である、請求項1記載の未加硫ゴム用防着剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の未加硫ゴム用防着剤と、水と、を含むことを特徴とする未加硫ゴム用防着剤水分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫ゴム用防着剤および未加硫ゴム用防着剤水分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムの生産加工の現場においては、シート状等に成形された未加硫ゴムを、次の成形、加硫等の工程に移行するまでの間、積み重ねたり、折り畳んだりして貯蔵することがある。このような貯蔵時において、未加硫ゴム同士が密着し、剥がれなくなることを防止する目的で、未加硫ゴムの表面に防着剤(密着防止剤)を付着させることが行われている。
【0003】
未加硫ゴム用防着剤(以下、「ゴム用防着剤」または「防着剤」ということがある)が良好な防着性を発揮するためには、ゴム表面への付着性が高いことが必要である。このため、ゴム用防着剤のゴム表面への付着性を高めるための種々の工夫がなされている。例えば、特許文献1~4では、膨潤性の無機粉末に、アルギン酸ナトリウム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ポリアクリル酸ナトリウム、PVA(ポリビニルアルコール)等の水溶性高分子、キサンタンガム等の水溶性多糖類等を配合して防着剤水分散液の粘度を上昇させ、ゴム表面への防着剤の付着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭53-061639号公報
【文献】特開昭62-032127号公報
【文献】特開2009-161667号公報
【文献】特開2009-249533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4では、前述のとおり、防着剤水分散液の粘度を上昇させることで、ゴム表面への付着性を向上させている。しかし、防着剤水分散液の粘度が高すぎると、乾燥に時間がかかり、未乾燥部分で未加硫ゴム同士が密着して剥がれなくなり、防着性を発揮できないおそれがある。また、この問題があるために、防着剤水分散液の濃度コントロールによって、前記水分散液の粘度を厳しくコントロールする必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、水分散液の粘度コントロールに頼ることなく、ゴム表面への付着性を向上可能な未加硫ゴム用防着剤、および未加硫ゴム用防着剤水分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の未加硫ゴム用防着剤は、下記成分(A)~(D)を含むことを特徴とする。
(A)無機粉末
(B)下記式(1)で表される化合物
(C)成分(B)を除くノニオン界面活性剤
(D)アニオン界面活性剤
【化1】
前記式(1)中、
は、炭素数4~20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、
EOは、オキシエチレン基であり、
POは、オキシプロピレン基であり、
mは、EOの平均付加モル数を示す0~10の数であり、
nは、POの平均付加モル数を示す0~10の数であり、
/は、EOおよびPOがランダム付加またはブロック付加のいずれでもよいことを示す。
【0008】
本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液は、
前記本発明の未加硫ゴム用防着剤と、
水と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水分散液の粘度コントロールに頼ることなく、ゴム表面への付着性を向上可能な未加硫ゴム用防着剤、および未加硫ゴム用防着剤水分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、さらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0011】
本発明の未加硫ゴム用防着剤および未加硫ゴム用防着剤水分散液は、例えば、成分(B)の全体の質量(Ball)に対して、前記式(1)においてm=0、n=0である化合物(B)の含有率((B/Ball)×100)が、10~100質量%であってもよい。
【0012】
[無機粉末(A)]
無機粉末(A)(成分(A))は、特に限定されず、例えば、スメクタイト、カオリン(カオリンクレーともいう)、クレー、タルク、マイカ、アルカリ土類金属炭酸塩等が挙げられる。前記スメクタイトとしては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等のスメクタイト、および、モンモリロナイトを含有するベントナイト等が挙げられる。前記アルカリ土類金属炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。成分(A)は、無機粉末を1種類のみ含んでいてもよいし、2種類以上の無機粉末を併用してもよい。
【0013】
本発明の未加硫ゴム用防着剤中における成分(A)の含有率は、目的に応じて選択可能であり、例えば、前記成分(A)~(D)の質量の合計に対して、60質量%以上98.4質量%以下、65質量%以上95質量%以下、または70質量%以上90質量%以下であってもよい。本発明の未加硫ゴム用防着剤に付着性向上や高い分散安定性を付与し水中での分離を防止する観点から、前記無機粉末の含有率が低すぎないことが好ましい。また、本発明の未加硫ゴム用防着剤の分散性低下、乾燥性低下を防止する観点から、前記無機粉末の含有率が高すぎないことが好ましい。
【0014】
[式(1)で表される化合物(B)]
化合物(B)(成分(B))は、下記式(1)で表される。
【化2】
前記式(1)中、
は、炭素数4~20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基であり、
EOは、オキシエチレン基であり、
POは、オキシプロピレン基であり、
mは、EOの平均付加モル数を示す0~10の数であり、
nは、POの平均付加モル数を示す0~10の数であり、
/は、EOおよびPOがランダム付加またはブロック付加のいずれでもよいことを示す。
【0015】
前記式(1)中、Rは、前述のとおり、炭素数4~20の直鎖または分岐鎖の炭化水素基である。成分(B)は、式(1)で表される2種類以上の化合物の混合物であってもよく、その場合、Rの炭素数は、前記混合物における平均炭素数である。Rの炭素数は、例えば、4~16、4~12、または4~9であってもよい。前記炭化水素基としては、例えば、飽和または不飽和炭化水素基が挙げられる。前記飽和または不飽和炭化水素基は、例えば、脂肪族飽和または不飽和炭化水素基である。前記脂肪族飽和または不飽和炭化水素基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等であってもよい。
【0016】
前記アルキル基は、特に限定されず、例えば、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0017】
前記アルケニル基は、例えば、前記アルキル基において、1個または複数の二重結合を有するもの等が挙げられる。前記アルケニル基としては、例えば、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1,3-ブタジニエル基、3-メチル-2-ブテニル基等が挙げられる。
【0018】
前記アルキニル基は、例えば、前記アルキル基において、1個または複数の三重結合を有するもの等が挙げられる。前記アルキニル基としては、例えば、ブチニル基等が挙げられる。前記アルキニル基は、例えば、さらに、1個または複数の二重結合を有してもよい。
【0019】
前述のとおり、前記式(1)中、mは、EOの平均付加モル数を示す0~10の数である。mは、例えば、0~6、0~4、0~2、または0であってもよい。
【0020】
前述のとおり、前記式(1)中、nは、POの平均付加モル数を示す0~10の数である。nは、例えば、0~7、0~6、0~5、または0~3であってもよい。
【0021】
本発明の未加硫ゴム用防着剤によれば、前述の無機粉末(成分(A))に、式(1)において、Rの炭素数が4~20、m=0~10、かつ、n=0~10である化合物(成分(B))と、後述の成分(C)(成分(B)以外のノニオン界面活性剤)および成分(D)(アニオン界面活性剤)とを配合することで、水分散液の粘度コントロールに頼ることなく、表面張力の調整により、ゴム表面への付着性を向上可能である。
【0022】
前記式(1)において、mおよびnの和(m+n)は、特に限定されず、例えば、0~8、0~6、0~5、または0~3であってもよい。
【0023】
前述のとおり、例えば、成分(B)の全体の質量(Ball)に対して、前記式(1)においてm=0、n=0である化合物(B)の含有率((B/Ball)×100)は、10~100質量%であってもよい。成分(B)に含まれる、前記式(1)においてm=0、n=0である化合物(B)の量は、例えば、一般的に界面活性剤の分析に使用されるHPLC(High Performance Liquid Chromatography、高速液体クロマトグラフィー)により定量できる。
【0024】
本発明の未加硫ゴム用防着剤中における成分(B)の含有率は、目的に応じて選択可能であり、例えば、前記成分(A)~(D)の質量の合計に対して、0.1質量%以上10質量%以下、0.3質量%以上8質量%以下、または0.5質量%以上6質量%以下であってもよい。
【0025】
本発明の未加硫ゴム用防着剤の調製において、成分(B)は、例えば、市販品を使用することができる。前記市販品は、例えば、前記式(1)におけるEOの付加モル数およびPOの付加モル数が、それぞれ、分布を有し、平均付加モル数で示されていることが一般的である。このため、例えば、前記式(1)と平均付加モル数(0~10)を満たす市販品を使用すれば、調製された組成物(未加硫ゴム用防着剤)中に、成分(B)を含有させることができる。
【0026】
[成分(B)を除くノニオン界面活性剤(C)]
本発明の未加硫ゴム用防着剤において、成分(C)は、前述のとおり、成分(B)を除く(すなわち、成分(B)以外の)ノニオン界面活性剤である。ノニオン界面活性剤(C)は、例えば、未加硫ゴム用防着剤に濡れ性および水への分散性を付与する働きをする。ノニオン界面活性剤(C)(成分(C))としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤等が挙げられる。ノニオン界面活性剤(C)は、ノニオン界面活性剤を1種類のみ用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0027】
ノニオン界面活性剤(C)は、特に限定されず、本発明では、例えば、下記式(2)で表されるノニオン界面活性剤のうち成分(B)を除くノニオン界面活性剤を用いることができる。下記式(2)のノニオン界面活性剤は、後述のアニオン界面活性剤(成分(D))とともに、防着剤懸濁液(水分散液)の未加硫ゴムの表面に対する表面張力を低下させるのに加えて、防着剤の未加硫ゴムの表面への付着性を効果的に高める作用を奏するものと推測される。ただし、この推測は、本発明をなんら限定しない。

RO-(AO)-H ・・・(2)
【0028】
前記式(2)中、Rは、炭素数が8~18の脂肪族炭化水素基を示す。前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。Rの炭素数は、成分(A)の分散性に優れる点から、好ましくは12~16であり、12~13がさらに好ましい。
AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基を示し、xは、AOの平均付加モル数である。
xは、例えば、1~30、1~25、または1~20であってもよい。具体的には、界面活性能が低下し、成分(A)の分散性が低下することを防止する観点から、xは、1以上(すなわち、0ではない)が好ましい。また、親水性が高くなりすぎることによる付着性低下を防止する観点から、xは、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。xが、好ましくは1~30の範囲、より好ましくは1~25の範囲、さらに好ましくは1~20の範囲であれば、成分(A)の分散性がさらに向上し、かつ、未加硫ゴム表面の疎水性が高い場合にも、被覆に充分な粘弾性を与えることで付着性を向上させるものと推測される。ただし、この推測は、本発明をなんら限定しない。
【0029】
炭素数2~4のオキシアルキレン基とは、例えば、炭素数2~4のアルキレンオキサイドの付加重合により形成される重合単位である。炭素数2~4のオキシアルキレン基としては、具体的には、エチレンオキサイドが付加して形成されるオキシエチレン基(EO)、プロピレンオキサイドが付加して形成されるオキシプロピレン基(PO)、および、ブチレンオキサイドが付加して形成されるオキシブチレン基(BO)がある。(AO)は、その構造中に、少なくともオキシエチレン基(EO)を含み、オキシエチレン基(EO)のみでもよいし、オキシエチレン基(EO)とさらに他のオキシアルキレン基とを含んでもよい。(AO)が、オキシエチレン基(EO)と、オキシプロピレン基(PO)と、オキシブチレン基(BO)とのうち複数種類を含む場合、これらの基は、ブロック状に配列していても、ランダムに配列していてもよい。(AO)は、例えば、親水性、疎水性のバランスに優れる点から、オキシエチレン基(EO)のみからなることが好ましい。
【0030】
本発明の未加硫ゴム用防着剤中におけるノニオン界面活性剤(C)の含有率は、目的に応じて選択可能であり、例えば、前記成分(A)~(D)の質量の合計に対して、1質量%以上20質量%以下、3質量%以上18質量%以下、または3質量%以上15質量%以下であってもよい。ノニオン界面活性剤(C)の含有率が前記下限値以上であれば、ゴムに対する防着液(防着剤水分散液)の濡れ性が不足することにより、ハジキが発生する等の問題が起こりにくく、前記上限値以下であれば、起泡が多くなり使用の際に設備からオーバーフローするという問題が起こりにくい。
【0031】
[成分(D)]
本発明の未加硫ゴム用防着剤において、アニオン界面活性剤(D)(成分(D))は、例えば、未加硫ゴム用防着剤に濡れ性および水への分散性を付与する働きをする。アニオン界面活性剤(D)(成分(D))としては、特に限定されず、例えば、下記(1)~(4)等が挙げられる。また、アニオン界面活性剤(D)は、アニオン界面活性剤を1種類のみ用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。

(1)高級脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテルカルボン酸塩、アルキル(又はアルケニル)アミドエーテルカルボン酸塩、アシルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸型アニオン界面活性剤
(2)高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノ硫酸エステル塩等の硫酸エステル型アニオン界面活性剤
(3)アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホン酸型アニオン界面活性剤
(4)アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノリン酸エステル塩等のリン酸エステル型アニオン界面活性剤
【0032】
アニオン界面活性剤の対イオンは、特に限定されず、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミンが好ましい。これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
アニオン界面活性剤としては、未加硫ゴムの表面との濡れ性により優れる防着剤懸濁液(水分散液)が得られることから、α-オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩が好ましく、α-オレフィンスルホン酸塩としてはα-オレフィンスルホン酸Na塩「リポラン(登録商標)LB-840」(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、ジアルキルスルホコハク酸塩としては、ジオクチルスルホサクシネートNa塩がより好ましい。
【0034】
本発明の未加硫ゴム用防着剤中におけるアニオン界面活性剤(D)の含有率は、目的に応じて選択可能であり、例えば、前記成分(A)~(D)の質量の合計に対して、0.5質量%以上10質量%以下、0.8質量%以上8質量%以下、または1質量%以上5質量%以下であってもよい。アニオン界面活性剤(D)の含有率が前記下限値以上であれば、ゴムに対する防着液(防着剤水分散液)の濡れ性が不足することにより、ハジキが発生する等の問題が起こりにくく、前記上限値以下であれば、起泡が多くなり使用の際に設備からオーバーフローするという問題が起こりにくい。
【0035】
[任意成分]
本発明の未加硫ゴム用防着剤は、成分(A)~(D)以外の任意成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明の未加硫ゴム用防着剤には、必要に応じて、例えば、任意成分として、消泡剤、濡れ性補助剤、粘性補助剤、異物低減補助剤等の添加剤等が含まれていてもよい。
【0036】
消泡剤としては、特に限定されず、例えば、ヒマシ油、ゴマ油、アマニ油、動植物油等の油脂系消泡剤;ステアリン酸イソアミル、コハク酸ジステアリル、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル系消泡剤;ポリオキシアルキレンモノハイドリックアルコールジ-t-アミルフェノキシエタノール等のアルコール系消泡剤;ジ-t-アミルフェノキシエタノール3-ヘプチルセロソルブノニルセロソルブ3-ヘプチルカルビトール等のエーテル系消泡剤;トリブチルオスフェート、トリス(ブトキシエチル)フォスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;ジアミルアミン等のアミン系消泡剤;ポリアルキレンアミド、アシレートポリアミン等のアミド系消泡剤;鉱物油;シリコーン油;等が挙げられる。前記消泡剤は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0037】
濡れ性補助剤としては、特に限定されず、例えば、アルコール類が挙げられ、より具体的には、例えば、メタノール、エタノール、グリセリン、1,3-ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、ソルビトール、マルチトール、スクロース、エリスリトール、キシリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、多価アルコールのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの付加物等が挙げられる。前記濡れ性補助剤は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0038】
粘性補助剤としては、特に限定されず、例えば、水溶性高分子類が挙げられ、より具体的には、例えば、蛋白類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、水溶性ウレタン樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ブタジエン樹脂、水溶性フェノール樹脂等の合成水溶性高分子;キサンタンガム、グアーガム、ウェランガム、ローカストビーンガム、ダイユータンガム、タマリンドガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、アラビアガム、カラギーナン、ラムザンガム、サクシノグリカン、タラガム、ジェランガム、カラヤガム、ペクチン、アルギン酸誘導体、セルロースエーテル類等の天然水溶性高分子が挙げられる。前記粘性補助剤は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0039】
また、本発明の未加硫ゴム用防着剤には、例えば、その粉体流動を抑制する等の目的で、水を含有させてもよい。その場合、水の含有率は、特に限定されず、例えば、2~3質量%程度である。
【0040】
[未加硫ゴム用防着剤、未加硫ゴム用水分散液および防着処理済み未加硫ゴム]
本発明の未加硫ゴム用防着剤は、前述のとおり、無機粉末(成分(A))を含有する。無機粉末は、防着性を担う成分であるため、良好な防着性を得るためには、前述のとおり、防着剤中の含有率が前記下限値以上であることが好ましい。一方、防着剤中の含有率が前記上限値以下であれば、防着剤乾燥固化物硬度の低減効果がより有効に得られ、より良好な異物抑制効果を得ることができるため好ましい。なお、無機粉末には、水を含んだ状態で流通するものもあるが、本明細書において無機粉末の含有率といった場合、該含有率は、水の量を含まない値である。
【0041】
本発明の未加硫ゴム用防着剤の製造方法は、特に限定されず、例えば、未加硫ゴム用防着剤の全ての成分、すなわち、成分(A)~(D)と、必要に応じて配合される任意成分とを混合することにより製造できる。混合に用いる装置としては、例えば、撹拌羽根を容器内に備えた構成の装置等を使用できる。具体的には、例えば、リボン型混合機、垂直スクリュー型混合機等の揺動撹拌または撹拌を行える粉体混合機を挙げることができる。また、撹拌装置が複数組み合わされたスーパーミキサー(株式会社カワタ製)、ハイスピードミキサー(株式会社アーステクニカ製)、ニューグラムマシン(株式会社セイシン企業製)、SVミキサー(株式会社神鋼環境ソリューション社製)等の多機能粉体混合機等も使用できる。また、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロッドミル、ボールミル、振動ロッドミル、振動ボールミル、円盤型ミル、ジェットミル、サイクロンミル等の乾式粉砕機を用いてもよい。
【0042】
また、未加硫ゴム用防着剤の全ての成分のうち、液体成分を少なくとも1種使用する場合には、例えば、未加硫ゴム用防着剤の製造のために、前記液体成分を液体成分以外の混合物に対して吹付けたり散布したりするスプレー装置、シャワー装置等を併用してもよい。
【0043】
粉末状の未加硫ゴム用防着剤とする場合、粉末防着剤全体に対する成分(A)~(D)の質量の合計の割合は100質量%でもよい。また、水および/またはその他の前記任意成分を含む場合、成分(A)~(D)の質量の合計の割合は特に限定されず、例えば、未加硫ゴム用防着剤の質量全体に対し、例えば、80質量%以上、85質量%以上97質量%以下、または85質量%以上95質量%以下である。
【0044】
本発明の未加硫ゴム用防着剤は、例えば、前記本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液として用いることができる。本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液の製造方法は、特に限定されない。例えば、前述のように、本発明の未加硫ゴム用防着剤の全ての成分を混合し、本発明の未加硫ゴム用防着剤を製造した後に、それを水中に分散させて、本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液としてもよい。また、例えば、本発明の未加硫ゴム用防着剤の各成分を、それぞれ水中に溶解または分散させ、水中で混合することにより、本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液としてもよい。前記各成分を溶解または分散させる方法も特に限定されず、例えば、粉末状の未加硫ゴム用防着剤を、攪拌槽内で所定量の水に分散させればよい。本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液中における、前記成分(A)、成分(B)、成分(C)、および成分(D)の含有率は、特に限定されず、例えば、本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液全体の質量に対し、0.5質量%以上10質量%以下、0.5質量%以上8質量%以下、0.5質量%以上6質量%以下、または0.5質量%以上4質量%以下である。
【0045】
未加硫ゴム用防着剤水分散液とする場合、前記未加硫ゴム用防着剤水分散液中における水以外の成分の質量の合計に対する成分(A)~(D)の合計の含有率は、例えば、90質量%以上100質量%以下、90質量%以上99質量%以下、または93質量%以上98質量%以下である。
【0046】
このように未加硫ゴム用防着剤水分散液として製造した場合、そのまま後述のウェット法等により未加硫ゴム表面に塗布して使用することもできる。
【0047】
本発明の未加硫ゴム用防着剤を用いた防着処理済み未加硫ゴムの製造方法は、例えば、前記本発明の未加硫ゴム用防着剤を未加硫ゴムの表面に付着させて防着処理する防着処理工程を有する。このようにして製造された防着処理済み未加硫ゴムは、積み重ねたり、折り畳んだりして貯蔵されても、例えば、未加硫ゴム同士が密着し、剥がれなくなるのを防止できる。
【0048】
前記防着処理工程は、例えば、前記本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液を前記未加硫ゴムの表面に付着させ、さらに水を揮発させることにより、前記未加硫ゴムの表面に前記本発明の未加硫ゴム用防着剤を付着させる工程であってもよい。より具体的には、前記防着処理工程は、前記本発明の未加硫ゴム用防着剤水分散液(防着剤懸濁液)を未加硫ゴムの表面に付着させる懸濁液付着工程(水分散液付着工程)と、未加硫ゴムの表面の前記防着剤懸濁液を乾燥して、防着剤からなる被膜を未加硫ゴムの表面に形成する乾燥工程とを有することが好ましい。このような防着処理工程を、例えば、ウェット法という。
【0049】
本発明の防着処理済み未加硫ゴムの製造方法において、前記ウェット法は、特に限定されず、例えば、一般的な未加硫ゴム用防着剤におけるウェット法と同様にして行うことも可能である。前記防着剤懸濁液(水分散液)中における前記本発明の未加硫ゴム用防着剤の濃度は、特に限定されず、任意に調整可能であり、例えば、前述のとおりであり、より具体的には、例えば、2~3質量%とすることができる。
【0050】
前記懸濁液付着工程では、例えば、シート状等に成形された時の熱により高温状態(例えば、80~150℃程度)にある未加硫ゴムに対して、防着剤懸濁液を付着させることが好ましい。
【0051】
前記懸濁液付着工程の具体的方法としては、例えば、防着剤懸濁液を未加硫ゴムにシャワー装置で散布する方法、防着剤懸濁液の入った槽に未加硫ゴムを短時間浸漬するディップ法が挙げられる。また、塗布装置を用いて防着剤懸濁液を未加硫ゴムに塗布する方法等を採用してもよく、これらの方法を適宜併用してもよい。
【0052】
本発明によれば、水分散液の粘度コントロールに頼ることなく、ゴム表面への付着性を向上できる。本発明の未加硫ゴム用防着剤が適用可能なゴム種は、特に制限されず、未加硫のゴムであればよい。前記ゴム種としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、IIR(ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等のゴムや、これらのうちの複数種が混合されたゴムが挙げられる。
【実施例
【0053】
[実施例1~16および比較例1~3]
下記表1および2に示す重量(質量)比率で、各成分を混練して、均一粉体からなる各例の防着剤を調製した。そして、得られた防着剤を水道水に撹拌しながら加え、防着剤の濃度が2質量%である防着剤懸濁液を調製した。実施例1~16は、下記表1に示すとおり、(A)~(D)成分を全て配合した。これに対し、下記表2に示すとおり、比較例1は、成分(A)、(C)、(D)を配合したが、成分(B)を配合せず、比較例2は、成分(A)、(B)、(D)を配合したが、成分(C)を配合せず、比較例3は、成分(A)、(B)、(C)を配合したが、成分(D)を配合しなかった。なお、下記表1および2に記載された各成分の製品名(商品名)および製造元を、下記表3に示す。また、下記表1~3に記載された成分(B)および成分(C)におけるオキシエチレン基(EO)の付加モル数は、平均付加モル数である。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表1および2に記載の実施例1~16および比較例1~3の各防着剤懸濁液(水分散液、濃度2質量%)を用いて、下記の評価を行った。
【0058】
<評価>
各種評価には、評価用ゴムとして下記の未加硫NR/BRゴムを用いた。
【0059】
(未加硫NR/BRゴム)
NR(RSS♯3)70質量部とBR(JSR(株)製、商品名「BR-01」)30質量部の合計100質量部に対して、ホワイトカーボン(東ソー・シリカ(株)製、商品名「ニップシールVN-3」)10質量部と、ISAFブラック(東海カーボン(株)製、商品名「シースト6」)30質量部と、JSRAROMA(プロセスオイル)(日本サン石油(株)製、商品名「アロマ790」)15質量部と、亜鉛華(ハクスイテック(株)製、亜鉛華2種)3質量部と、ステアリン酸(日油(株)製、椿)1質量部と、6PPD(大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクラック6C」)1質量部と、CBS(大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーCZ-G」)1質量部と、硫黄(鶴見化学(株)製)1.5質量部とを配合した(合計162.5質量部)未加硫NR/BRゴム。
【0060】
(1)付着性の評価
上記の未加硫ゴム(未加硫NR/BRゴム)を温度80~120℃のオープンロールで練り出してゴムシート(厚さ:5~8mm、60cm×15cm)とし、繰り出された直後の前記ゴムシートを、実施例1~16および比較例1~3の各例で得られた防着剤懸濁液(温度40℃)1Lに約1秒間浸漬した。その後、前記ゴムシートをすばやく垂直に引き上げ、室温下で静置した。前記ゴムシートの表面積を100%とした際の、防着剤乾燥被膜(防着剤乾燥固化物の被膜)の均質性、被膜の厚み(一様の膜厚で覆われている)を目視にて確認し、下記1~5の5段階で判定した。
1:ハジキが発生している。
2:被膜が縦縞状やマダラ状被膜である。
3:被膜が縦縞状やマダラ状でない薄い均質被膜である。
4:被膜が縦縞状やマダラ状でない均質被膜である。
5:被膜が縦縞状やマダラ状でないやや厚い均質被膜である。
【0061】
上記のように、80~120℃のオープンロールで繰り出され、表面が高温状態にあるゴムを、防着剤懸濁液にごく短時間(約1秒間)浸漬させただけで、付着した防着剤懸濁液から水分が急速に蒸発しても、縦縞状、マダラ状等のムラがない均一な薄膜状態で、防着剤がゴム表面に残存できる付着状態が好ましい。
【0062】
本発明の実施例1~16については、いずれも均質被膜(評価5)が得られた。一方、比較例1および2については、マダラ状の被膜(評価2)となった。また、比較例3については、ハジキが発生した。
【0063】
(2)防着性の評価
上記の未加硫ゴム(未加硫NR/BRゴム)を温度80~120℃のオープンロールで練り出してゴムシート(厚さ:5~8mm、60cm×15cm)とし、繰り出された直後の前記ゴムシートを、実施例1~16および比較例1~3の各例で得られた防着剤懸濁液(温度40℃)1Lに約1秒間浸漬した。その後、前記ゴムシートをすばやく垂直に引き上げ、室温下において垂直状態で静置し、自然乾燥した。
【0064】
その後、前記ゴムシートを6cm×15cmにカットし、2枚を重ね合わせて積層状態の試験片とした。前記試験片に対して、一方の面から垂直方向に1t/mの荷重をかけ、60℃、12時間放置した。
【0065】
その後、前記試験片を室温に戻し、引張り試験機〔AGS-500D型、SHIMADZU〕を用いて180°剥離試験を行い、引っ張り速度300mm/minで剥離抗力(N/cm)を測定した。
【0066】
剥離抗力が2.0N/cm以下の場合、大きな負荷なくゴムシートを剥がすことができ、防着性能は良好であると判断できる。剥離抗力が2.0N/cm超の場合、ゴムシートを剥がす時の負荷が大きく、防着性能は不良であると判断できる。さらに剥離抗力が3.0N/cm超の場合、ゴムシートは密着しており、通常の作業現場での剥離は困難であると判断できる。
【0067】
本発明の実施例1~16については、いずれも剥離抗力が2.0N/cm以下の良好な防着性能が得られた。一方、比較例1~3については、いずれも剥離抗力が2.0N/cmを超える不良の結果となった。