(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】特発性肺線維症の治療方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20220310BHJP
C12N 5/12 20060101ALI20220310BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220310BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220310BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220310BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220310BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220310BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220310BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N5/12
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P11/00
A61P29/00
C12P21/08
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2017549593
(86)(22)【出願日】2015-12-11
(86)【国際出願番号】 EP2015079443
(87)【国際公開番号】W WO2016092082
(87)【国際公開日】2016-06-16
【審査請求日】2018-12-11
(32)【優先日】2014-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】DSMZ DSM ACC3031
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521480709
【氏名又は名称】シトリル べー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Citryll B.V.
【住所又は居所原語表記】Kloosterstraat 9 RE building 5349 AB Oss The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】シーリフィ,レナート ヘラルデュス シルファーノ
(72)【発明者】
【氏名】ラーツ,ヨーゼフ マリア ヘンドリック
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513374(JP,A)
【文献】特表2014-517296(JP,A)
【文献】石神昭人,日本老年医学会雑誌,2014年07月,Vol.51, No.4,p.314-320
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-16/46
A61P 29/00-29/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/DWPI/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに特異的に反応する抗体を含み、
前記シトルリン化エピトープは、配列番号1または配列番号2で表わされる配列を含むペプチドに存在
し、
前記抗体は、配列番号5で表わされるポリペプチドを含む重鎖CDR1ドメインと、配列番号6で表わされるポリペプチドを含む重鎖CDR2ドメインと、配列番号7で表わされるポリペプチドを含む重鎖CDR3ドメインと、配列番号8で表わされるポリペプチドを含む軽鎖CDR1ドメインと、配列番号9で表わされるポリペプチドを含む軽鎖CDR2ドメインと、配列番号10で表わされるポリペプチドを含む軽鎖CDR3ドメインとを含むことを特徴とする、特発性線維症の、予防または治療における使用のための組成物。
【請求項2】
脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに特異的に反応する抗体を含み、
前記シトルリン化エピトープは、配列番号1または配列番号2で表わされる配列を含むペプチドに存在
し、
前記抗体は、受入番号ACC3031としてDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるモノクローナル抗体RmmAb22.101に含まれる、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とする、特発性線維症の、予防または治療における使用のための組成物。
【請求項3】
脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに特異的に反応する抗体を含み、
前記シトルリン化エピトープは、配列番号1または配列番号2で表わされる配列を含むペプチドに存在
し、
前記抗体は、配列番号1または配列番号2で表わされるペプチドに対する結合について、モノクローナル抗体RmmAb22.101に競合することを特徴とする、特発性線維症の、予防または治療における使用のための組成物。
【請求項4】
前記抗体は、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1
~3のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、特に特発性線維症(IPF)の治療のための方法および製剤の分野に属する。本発明は、選択されたシトルリン化エピトープに反応する、抗体またはそのフラグメントが、IPFの治療において使用される方法を提供する。ヒストンポリペプチドH2AおよびヒストンポリペプチドH4のアミノ末端に位置するシトルリン化エピトープに対する抗体は、特に有用であることが見出された。
【背景技術】
【0002】
特発性線維症(IPF)は、病因が知られていない複合的な慢性線維増殖性肺疾患であり、発生率が上昇している。この疾患は、間質内における細胞外マトリックスの進行性蓄積によって特徴付けられる。この疾患は、36カ月しかない推定生存期間中央値を有する進行性の不可逆性疾患である。歴史的には、免疫抑制剤(たとえば、アザチオプリン)および/またはN-アセチルシステインと組み合わせたコルチコステロイド(たとえば、プレドニゾロン)が妥当であると提唱されたが、IPFについての治療方法は、実証されていなかった。日本、欧州、インド、およびカナダにおいて、IPFの治療について承認された別の薬剤は、ピルフェニドンである。ピルフェニドンは、肺線維症の実験モデルにおいて、抗炎症性作用、抗酸化作用、および抗線維化作用を有する経口投与されるピリジンであるが、詳細な作用機序は知られていない。ピルフェニドンは、向上した無増悪生存期間が観察される唯一の薬剤である。現時点では、現行の治療方法がIPFにおける線維化を元に戻すことが可能であることを示唆する科学的な証拠は存在しない。研究中の治療の現実的な目標は、疾患の進行速度を安定化または低下させることである。
【0003】
IPFについて良好でより効果的な治療方法が早急に必要とされていることは明らかである。
【発明の概要】
【0004】
我々は、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端に由来するペプチドにおけるシトルリン化エピトープに対する抗体が、そのような治療を必要とする患者に投与されたとき、IPFの症状を、防ぎ、回復し、または消失させることができる証拠を本明細書において提供する。同一の効果は、シトルリン残基を含む、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4に由来するN末端ペプチドを用いて免疫化することによって得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明に通じる実験において、我々は、IPFについて受け入れられたマウスモデルを使用した。そのモデルにおいて、C57BL/6マウスの肺における線維症は、実施例1に詳述されるようにブレオマイシンの咽頭滴下によって誘導された。コントロール動物は、PBSの咽頭滴下を受けた。
【0006】
脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに特異的に反応する抗体は、ブレオマイシン処置された動物に投与され、IPFの症状の治療において効果的であることが示された。そのような抗体は、本明細書において、抗シトルリンタンパク質抗体と名付けられ、ACPAと省略して記載される。
【0007】
ACPAは、それ自体が当業者に知られたいくつもの様々な方法で得ることができる。たとえば、ACPAは、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープを含むペプチドなどの好適な抗原を用いて実験動物を免疫することによって作製され得る。そのようなペプチドの代表例は、以下の表1のアミノ酸配列、SGCitGKQGGKARA(配列番号1)、およびSGCitGKGGKGLGKGGAKRHRKVLR(配列番号2)を含み得る。
【0008】
得られた抗体は、したがって、ヒストンH2AまたはヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに対するそれらの特異的な結合について試験され得る。このことは、配列番号1または配列番号2で表わされるペプチドに対する抗体の結合を、ヒストンH2AまたはヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープを保持していないコントロールペプチドに対する結合と比べることによって有利に実施可能である。ヒストンH2AまたはヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープを含まないペプチドの代表例は、たとえば、表1における、アミノ酸配列SGRGKQGGKARA(配列番号3)、およびアミノ酸配列SGRGKGGKGLGKGGAKRHRKVLR(配列番号4)を含むペプチドである。
【表1】
【0009】
脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに対する抗体の結合は、当該抗体が、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに結合するが、ヒストンH2AまたはヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープを含まないコントロールペプチドに対して低い親和性で結合する場合、特異的であると考えられる。本明細書において、低い親和性は、たとえば、75%、90%、95%、または95%よりも低い、少なくとも50%よりも低い結合を意味する。より好ましくは、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに対する抗体の結合は、容易に検出可能であるのに対して、シトルリン残基が、アルギニン残基によって置換される、同一アミノ酸配列を有するペプチドに対する抗体の結合は、検出できない。
【0010】
本明細書に開示された特異的反応性抗体(RhmAb2.102、RhmAb2.108、RhmAb2.109、RhmAb2.110、RhmAb2.111、RhmAb2.112、MQ22.101、MQ22.102、およびMQ22.101b/d)は全て、配列番号1または配列番号2で表わされるペプチドに反応し、それらは、配列番号3または配列番号4のペプチドに結合しないことが見出された。これらの抗体は、WO2011/070172、およびWO2009/147201にも開示された。
【0011】
マウルモノクローナル抗体Rmmab22.101(本明細書において、MQ22.101と省略して記載される)は、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに特異的に結合する抗体のクラスを表すモデル抗体として選択された。
【0012】
MQ22.101抗体の治療活性は、以下のように評価された。ブレオマイシン処置マウスは、1mgのモノクローナル抗体MQ22.101、またはModiQuest Research社から得た1mgのアイソタイプ同一コントロール抗体MQ20.101(カタログ番号MQ20.101)を含む腹腔内注入を受けた。
【0013】
モノクローナル抗体は、0日目、2日目、および5日目に動物に投与された。全ての動物の体重は、0日目から14日目まで一日おきに評価された。動物の体重減少は、疾患の重症度の尺度として扱われた。
【0014】
我々は、ブレオマイシン+MQ20.101を用いて処置されたマウスが、全期間にわたって徐々に体重を減らし、全く体重が減少しなかったPBS処置コントロール動物と比べて、14日目において体重が32%減少したことを観察した(
図1)。MQ22.101処置群において、我々は、動物が、大幅な体重減少から保護され、6日目において最大17%の体重減少であり、その後、全期間にわたって体重が徐々に増加することを見出した(0日目に比べて14日目において10%体重減少)。
【0015】
ブレオマイシン滴下後またはPBS滴下後、2週間、または3週間で、マウスは、イソフルラン麻酔下における頸椎脱臼によって屠殺され、気管支肺胞洗浄(BAL)液が収集された。肺は、固定され、パラフィン包埋され、切片は、炎症/線維症の量を評価するためにマッソン染色された(
図2)。
【0016】
我々は、ブレオマイシン+MQ20.101処置マウスが、線維症の徴候を全く示さなかったコントロールマウス(PBS処置)の肺と比べて、肺に存在する大量の線維化組織を有することを観察した。MQ22.101は、肺における炎症応答、したがって線維化からブレオマイシン処置マウスを保護することができた(
図2)。
【0017】
BALにおける総タンパク質量は、肺損傷の尺度である。ブレオマイシン+MQ20.101処置マウスに由来するBLA液は、生理食塩水、およびMQ22.101処置マウスと比べて、それぞれ4倍および2倍多いタンパク質を含んでいた(
図3A)。また、総細胞数、および細胞百分率(好中球、マクロファージ、およびリンパ球)が、BAL液中で測定された。細胞の総数は、生理食塩水処置マウスおよびMQ22.101処置マウスに比べて、ブレオマイシン+MQ20.101処置マウスにおいて顕著に増加した(
図3B)。細胞百分率を見ると(
図3C~
図3E)、最も著しい相違は、好中球で見出され、ブレオマイシン+MQ20.101処置マウスは、20%好中球を含んでいたのに対して、生理食塩水処置され、MQ22.101処置されたマウスに由来するBALにおける好中球の割合は、0%に近かった(
図3C)。
【0018】
上述の実験は、実施例2に記載されたようにいくらか軽度に修正され、MQ22.101のヒト化バージョンを用いて繰り返された。MQ22.101のヒト化バージョン、MQ22.101b/dの作製は、実施例7に記載されている。MQ22.101の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)フラグメントは、ヒトIgG1カッパ主鎖にクローン化された。VHおよびVLドメインは、その後、CDR移植法によってヒト化された。表2は、IMGT(http://www.imgt.org/)に従って、VH CDR1、2、および3ポリペプチド(配列番号5、6、および7)、ならびにVL CDR1、2、および3ポリペプチド(配列番号8、9、および10)を示す。
【0019】
実施例2に記載された実験において、肺における炎症および線維症の組織病理学的分析は、Madtesスコアリング(Madtes DK et al., A J Respir Cell Mol Biol 20, 924-934, 1999)を用いて評価された。MQ22.101抗体と、そのヒト化対応物MQ22.101b/dのみが、コントロール抗体MQ20.101およびMQR2.101に比べて、肺における炎症および線維症を減少させた(
図4)。ModiQuest Research社から得られたMQR2.101(カタログ番号MQ20.101)は、MQ22.101b/dについてのアイソタイプ同一コントロール抗体である。
【表2】
【0020】
ACPA、および特にMQ22.101、およびそのヒト化対応物MQ22.101b/dは、肺における、炎症および線維症からマウスを保護すると結論付けられた。
【0021】
本明細書において選択されたモデルシステムは、IPFのヒトバージョンを表すので、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープに特異的に反応する抗体は、特発性肺線維症の、予防または治療において使用することができると結論付けられる。
【0022】
上述されたような受動療法的ワクチン投与(抗体の投与)における使用に次いで、本発明は、それを必要とする患者におけるin vivoの免疫応答を誘導することによっても実施可能である。その目的のために、我々は、脱イミノ化ヒストンH2Aまたは脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープを含むペプチドを使用した。そのようなペプチドは、マウスに皮下投与(能動療法的ワクチン投与)され、受動的に免疫されたマウスにおいて見出された力価と同じ、マウスにおける特異的ACPA力価を得た。そのようなマウスは、もはやブレオマイシン滴下に応答せず、それらの受動的免疫対応物と同じ症状の消失を示した。
【0023】
本明細書において、用語「シトルリンに特異的に反応する」、または「シトルリン化エピトープに反応する」、または「シトルリンエピトープに特異的に反応する」は、シトルリン残基を含むペプチドなどの構造に反応するが、シトルリン残基の代わりにアルギニン残基を含む同一構造に、あまり反応しないか、または好ましくは全く反応しない、抗体または抗体フラグメントを表す。ペプチドとの用語は、本明細書において、本明細書に記載されたような抗体との免疫応答性の適切な文脈において、好ましくは、人体または動物体において現れるような同一の文脈において、好ましくは、天然ポリペプチドの文脈において、シトルリン残基を有することができる構造として解釈されるべきである。天然抗体(イムノグロブリンとしても知られている)は、血中、または脊椎動物の他の体液に見出され得る、ガンマグロブリンタンパク質であり、細菌およびウイルスなどの外来物を、特定および中和するための免疫システムによって使用される。
【0024】
天然抗体は、典型的には基本的構造ユニットからなっており、2つの大きな重鎖と2つの小さな軽鎖とを有し、たとえば、1つのユニットを有するモノマー、2つのユニットを有するダイマー、または5つのユニットを有するペンタマーを形成する。抗体は、B細胞と称される白血球によって産生される。様々な種類の重鎖が存在し、様々な種類の抗体をもたらす。抗体は、それらが保持する重鎖に基づいて異なるアイソタイプに分類することができる。5つの異なる抗体アイソタイプが哺乳類において知られており、それらは異なる役割を果たし、それらが遭遇する様々な種類の各外来物に適した免疫応答を直接に補助する。ラクダ(たとえば、リャマ)、およびサメなどのいくつかの動物種は、異常な抗体構造を有し得る。
【0025】
全ての抗体の一般的な構造は、非常に似通っているが、タンパク質の先端における小さな領域は、非常に変わりやすく、わずかに異なる先端構造を有する数百万の抗体が存在することを可能にする。この領域は、高頻度可変領域として知られている。これらの各変異体は、抗原として知られる異なる標的に結合することができる。抗体のこの広範な多様性は、免疫系が、抗原の等しく広い多様性を認識することを可能にする。
【0026】
抗体によって認識される抗原の特有部分は、エピトープと称される。これらのエピトープは、抗体が、生物体を構成する数百万の様々な分子の中でそれらの特有の抗原のみを特定し結合することを可能にする高度に特異的な相互作用でそれらの抗体に結合する。抗体による抗原の認識は、免疫系の他の部分による攻撃のために抗原を標識する。抗体は、たとえば、感染をもたらすために必要な、病原体の一部に結合することによって標的を直接に中和することもできる。
【0027】
抗体の多くの多種多様な集団は、様々な抗原結合部位(またはパラトープ)をコードする遺伝子セグメントのセットのランダムな組み合わせ、それに続いてさらなる多様性をもたらす抗体遺伝子のこの領域のランダム変異によって生じる。抗体遺伝子は、重鎖の基礎を別のものに変化させるクラススイッチングと称される処理において再編成され、抗原特異的可変領域を保持する抗体の様々なアイソタイプをもたらす。このことは、単一の抗体が、免疫系のいくつかの異なる部分によっていくつかの異なるアイソタイプで使用されることを可能にする。
【0028】
本明細書において使用されるような「複数の抗体」または「抗体」との用語は、構造、好ましくはタンパク質またはポリペプチド構造であって、多くの場合に「抗原」と表わされる標的分子に特異的に結合することができる構造をいう。
【0029】
抗体は、一本鎖抗体、一本鎖可変フラグメント(scFvs)、フラグメント抗原結合領域(Fabs)、組み換え抗体、モノクローナル抗体、天然抗体もしくはアプタマーの抗原結合ドメインを含む融合タンパク質、VHH抗体、ナノボディ(ラクダ由来のシングルドメイン抗体)、およびVNARと称されるシングルドメイン抗体フラグメントに由来するサメIgNARとしても知られているシングルドメイン抗体(sdabs)、またはそれらのフラグメント、もしくはそれらの一部からなる群から選択され得る。
【0030】
別の好ましい実施形態において、抗体は、天然抗体の抗原結合ドメインを含む融合タンパク質である。
【0031】
抗体または他の特異的結合分子との関連で「またはそれらの一部」または「それらのフラグメント」との用語は、抗体、または特異的結合分子の特異的結合部位を構成する、抗体または特異的結合分子の一部を表すことを意図されており、抗体全体、または特異的結合分子全体と同一のエピトープと反応することができる、抗体、または特異的結合分子の一部と解釈されてもよい。
【0032】
それらのヒト抗体、またはそれらのフラグメントは、本発明の好ましい実施形態である。好ましくは、IgG1重鎖と、ラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖とを有するIgG1抗体は、有利に使用可能である。しかしながら、カッパ軽鎖またはラムダ軽鎖と組み合わせた、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、およびIgEなどの他のヒト抗体アイソタイプも、本発明に包含される。また、様々なアイソタイプの全ての動物由来の抗体が、本発明において使用可能である。抗体は、Fab、F(ab’)2、一本鎖Fvフラグメント、またはシングルドメインVHH、VH、もしくはVLシングルドメインなどの、全長抗体、または抗体の抗原結合フラグメントであってもよい。
【0033】
「シトルリン化エピトープに反応する抗体」との用語は、ペプチド、またはペプチド核酸、またはペプチド模倣構造体などの大きな構造との関連において、シトルリン残基に特異的に反応する抗体として解釈されるべきである。
【0034】
シトルリンは、通常の翻訳の間にタンパク質に組み込まれないが、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)によるアルギニン残基の翻訳後修飾によって生じ得るアミノ酸である。
【0035】
シトルリン化は、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)によって触媒される、シトルリン残基へのアルギニン残基の翻訳後変換である。ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD;EC3.5.3.15)酵素は、タンパク質において、シトルリン残基へのアルギニン残基の変換を触媒する。tRNAはシトルリンに存在せず、タンパク質中のシトルリン残基の存在は、もっぱら翻訳後修飾の結果である。哺乳類(ヒト、マウス、およびラット)において、それぞれ異なる遺伝子によってコードされる5つのPADアイソタイプ(PAD1~PAD6;「PAD4」および「PAD5」は、同一アイソタイプに使用される)が同定された(Vossenaar et al, Bioessays 25, 1106-1118, 2003)。全てのこれらの酵素は、活性についてCa2+の存在に強く依存し、遊離のL-アルギニンを遊離L-シトルリンに変換することができない。遊離のL-アルギニンは、真核生物において一酸化窒素合成酵素(EC1.14.13.39)によって、または細菌においてアルギニンデイミナーゼ(EC3.5.3.6)によって、遊離のL-シトルリンに変換可能である。これらの酵素は、Ca2+依存的ではない。
【0036】
高度に相同的なPAD酵素の間における最も顕著な相違点は、それらの組織特異的発現である。表皮において、PAD1(同義語:PAD I、PAD I型)は、ケラチノサイト分化の最終段階の間におけるケラチンフィラメントのシトルリン化に関与し、これは、角化膜の再構築に重要である。表皮におけるシトルリン化の別の部位は、PAD3(同義語 PAD III、PAD III型)と、その天然基質のトリコヒアリン(THH)とを含む毛包である。THHは、内毛根鞘細胞と毛包の髄質層との主な構造タンパク質であり、それほどではないが、他の特定上皮の主な構造タンパク質である。ごく最近特定されたPADアイソタイプである、PAD6(同義語:ePAD)は、初期の胚形成において重要な役割を果たす、マウス卵母細胞の細胞質シートにおいて見出された。そのヒトオルソログの発現は、卵巣、精巣、および末梢血白血球細胞に限定されることが見出された(Chavanas et al., Gene 330; 19-27, 2004)。元来、このPADアイソタイプは、ePADと命名されたが、他のPADの体系的な番号付けに基づいて、このアイソタイプは、PAD6に改名された(Vossenaar et al., Bioessays 25 1106-1118, 2003)。最も広く発現されるアイソタイプであるPAD2(同義語 PAD II、PAD II型、PAD-H19)は、骨格筋、脳、脾臓、分泌腺、およびマクロファージなどの多くの様々な組織に存在する。この広い発現パターンにもかかわらず、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびビメンチンのみが、天然の基質として同定された。多発性硬化症(MS)において、患者は、MBPに対する自己免疫応答を生じる。MBPは、ミエリン鞘の豊富なタンパク質であり、そのシトルリン化は、中枢神経系の発生の間に生じる。ビメンチンのシトルリン化は、上述されたように、ヒトマクロファージおよびマウスマクロファージのカルシウムイオノフォア誘導アポトーシスの間に観察され、シトルリン化ビメンチンは、RA特異的な抗Sa自己抗体の標的であることが示された。細胞の細胞質に主に局在する上述のPADに対して、PAD4アイソタイプ(同義語: PAD IV、PAD IV型、HL-60 PAD、PAD V、PAD V型、PADI4)は、核に局在する。PAD4の核局在シグナルは、タンパク質のN末端領域に見出された。PAD4は、末梢血中の、顆粒球および単核球において主に発現される。核内におけるPAD4の基質は、ヒストンコアタンパク質(H2A、H3、およびH4)、ならびにリボソームアセンブリ、核細胞質間輸送、および中心体複製において機能する核小体タンパク質であるヌクレオフォスミン/B23である。
【0037】
また、本明細書に開示されたようなモノクローナル抗体と競合する抗体は、本発明において有利に使用可能である。そのような競合抗体は、標準的な手順によって選択されてもよい。要するに、脱イミノ化ヒストンH2A、または脱イミノ化ヒストンH4のN末端におけるシトルリン化エピトープを含むペプチドが、固体支持体に固定化されるELISAのような結合アッセイが開発されてもよい。本明細書に開示されたようなモノクローナル抗体は、標識されてもよく、固定化された抗原に対するそれらの結合との干渉は、通常の分析によって容易に決定可能である。これらのような、より洗練された方法は、当業者に周知であり、通常の実験室条件において規定通りに実施可能である。
【0038】
特に、アッセイは、固体支持体上に固定化された、配列番号1または配列番号2で表わされる抗原ペプチドのいずれかを用いて容易に開発することができる。RhmAb2.102、RhmAb2.108、RhmAb2.109、RhmAb2.110、RhmAb2.111、RhmAb2.112、MQ22.101、MQ22.102、およびMQ22.101b/dからなる群から選択されたモノクローナル抗体は、試験抗体の有無に関わらず、標識され、固定化抗原に接触可能である。試験抗体が、結合に干渉する、すなわち、標識化抗体のいずれかを用いて得られるシグナルを低下させる場合、試験抗体は、標識化抗体の結合に競合すると結論付けることができる。そのような競合抗体は、当該競合抗体が、シトルリン残基がアルギニン残基によって置き換えられた同一配列を有するペプチドと反応しないとすれば、本発明の方法における使用に適したものであろう。
【0039】
本発明に係る使用のための抗体は、実質的に2つの方法で作製可能である。第1に、それらは、上述の抗体、および本明細書に示されたようなその配列に由来してもよい。抗体の反応性は、部位特異的突然変異誘発、Chainシャフリング、セクシャルPCRによって、または当業者に公知の抗体誘導および最適化のための他の手段によってさらに向上されてもよい。また、抗体は、本明細書に記載されたような任意の特異的反応性エピトープ、特に、脱イミノ化ヒストン2A、配列番号1または配列番号2で表わされる配列を含むペプチド、および他の特異的反応性ペプチドを用いてパニングすることによって得ることが可能である。
【0040】
当業者は、たとえば、以下の実施例に記載されたような、cDNAまたはゲノム配列をクローンまたは作製するために本明細書に記載された配列を使用可能である。pcDNA3(In Vitrogen社)のような好適な真核生物発現ベクター、またはそれらの誘導体へのこれらの配列のクローニングと、それに続く好適な軽鎖と重鎖との組み合わせを含むベクターを用いる哺乳類細胞(CHO細胞など)のトランスフェクションとは、必要な抗体の発現および分泌をもたらすであろう。
【0041】
マウスモノクローナル抗体MQ22.101は、寄託されたそれらの各ハイブリドーマ細胞株(DSMZ番号 ACC 3031)によって、直接に発現および分泌されてもよい。
【0042】
当業者は、抗体配列の特異的結合ドメインを用いることによって、本明細書に記載されたような特異的結合分子のアナログを作製し、融合タンパク質などのポリペプチドのような異なる状況でそれらを発現させることも可能である。このことは、当該分野において周知である。
【0043】
本明細書および特許請求の範囲において、動詞「含む」と、その語形変化とは、その語句に続く事項が含まれることを意味するようにその非限定的な意味で使用されるが、特に言及されない事項は、除外されない。また、不定冠詞「a」または「an」による要素の言及は、前後の文脈が、1およびただ1つの要素が存在することを明確に要求しない限り、1以上の要素が存在する可能性を除外するものではない。不定冠詞「a」または「an」は、したがって、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0044】
理論に束縛されることを望むものではないが、我々は、MQ22.101と、そのヒト対応物とが、好中球細胞外トラップ(NET)において脱イミノ化ヒストンを標的とし、それによって活性を抑制することによって炎症経路を阻害することができるので、炎症性好中球の流入を阻害することができると仮説を立てた。NETは、炎症に関与するだけではなく、繊維芽細胞分化におけるそれらの影響によって後の線維症に関与するので、本発明に係る抗体治療のための魅力的な標的となることが、Chrysanthopoulouらによって示された(J Pathol 233, 294-307, 2014)。本発明に係る抗体治療は、重大な有害作用を有さないので、免疫系、または他の一般的なハウスホールディング経路を妨害しない。
【実施例】
【0045】
実施例1:線維症のための実験動物モデル
雌C57BL/6マウス(6~8週齢)は、Jackson Laboratory社から購入された。全てのマウスは、病原菌フリー条件下で維持され、自由に飼料および水を与えられた。肺損傷は、マウスが8~10週齢(体重19~21g)のとき、0日目において、ブレオマイシンの咽頭滴下(0.045ユニット/マウス)によって誘導された。コントロール動物は、PBSの咽頭滴下を受けた。0日目、2日目、および5日目において、1mgのMQ22.101、または1mgのコントロール抗体MQ20.101を含む咽頭滴下を受けた(無関係のアイソタイプ同一コントロール抗体)。全ての動物の体重は、0日目から14日目まで一日おきに評価された(
図1)。
【0046】
ブレオマイシン滴下またはPBS滴下の2週間後および3週間後、マウスは、イソフルラン麻酔下における頸椎脱臼によって屠殺され、気管支肺胞洗浄(BAL)液が集められた。肺は、固定化され、パラフィン包埋され、切片は、炎症/線維症の量を評価するためにマッソン染色された。タンパク質含有量と、総細胞数、および細胞百分率(好中球、マクロファージ、およびリンパ球)とは、BALにおいて測定された。タンパク質含有量が測定され、総細胞数および細胞百分率は、BAL液を用いてサイトスピンを実施し、細胞を染色し、それらの形態に基づいて異なる細胞種を計数および特定することによって評価された(
図3)。
【0047】
実施例2:確認実験
実施例1において得られた結果は、わずかに変更された実験設定の別の独立した実験で確かめられた。
【0048】
雄C57BL/6Nマウス(到着時19~21グラム)は、Charles River社から購入された。全てのマウスは、病原体フリー条件下において維持され、飼料および水を自由に与えられた。肺損傷は、マウスが8~10週齢(体重19~21g)のとき、0日目において、ブレオマイシンの鼻腔内投与によって誘導された。ブレオマイシン硫酸塩は、ブレオマイシンの0.4mg/mLの濃度に達するために0.9%NaCl溶液に溶解され(10mg/25ml)、続いて1mlの一定分量に分けられ、-20℃において保存された。投与のためのブレオマイシン溶液の用量は、50μl/マウスである。コントロール動物は、PBSの鼻腔内投与を受けた。ピルフェニドンは、ブレオマイシン誘導肺線維症動物モデルにおいて、肺線維症に対する確立した治療として使用されてきた。毎朝、ピルフェニドンの一日量は、ピルフェニドンの適量を0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩に溶かすことによって作製された。投与量は、体重あたり10mL/kgである。ピルフェニドンは、2回の投与間において7.5時間間隔で1日2回経口投与された。週末の間、マウスは、朝に一日量の全てを受けた。
【0049】
処置:0日目、2日目、および5日目において、ブレオマイシン処置群は、1mgのマウス抗体MQ22.101、1mgのマウス抗体「MQ20.101」(無関係のアイソタイプ同一コントロール抗体)、またはPBSを含む腹腔内注入を受けた。2群のさらなるブレオマイシン処置群は、2日目および5日目において、1mgのヒト化MQ22.101(MQ22.101b/d)、または1mgのヒト「MQR2.101」(ヒトコントロール抗体)を受けた。MQR2.101は、コントロール抗体である。ピルフェニドンは、0日目~13日目まで毎日投与された。ブレオマイシン滴下またはPBS滴下の2週間後、マウスは、ケタミン塩酸塩(Narketan)およびキシラジン塩酸塩(Rompun)の過剰量投与によって安楽死させられた。肺は、組織病理学的分析のために10%緩衝ホルマリンを用いて固定された(Madteスコア:表3および表4)。
【0050】
組織病理学的評価のために、肺全体は、パラフィン包埋され、マロリーに従って染色された。肺の組織学的な変化は、Madteスコアリング法を用いて評価された(Madtes DK et al. Am J Respir Cell Mol Biol 20: 924-934, 1999)。Madteスコアシステムは、線維化パラメータおよび炎症パラメータを取り入れている(表3および表4;
図4)。10の弱拡大視野(LPF、すなわち、50×拡大率)は、炎症スコアスキームに従って炎症について調べられ(表3を参照)、線維症スコアスキームに従って線維症について調べられた(表4を参照)。スクリーニング領域は、左右の肺葉を覆った:左肺(4×LPF)、および右肺(前葉 2×LPF、後葉 2×LPF、中葉 1×LPF、および副葉 1×LPF)。各動物について、最終スコアは、10のLPFの中央値として計算された。
【表3】
【表4】
【0051】
実施例3:ACPAの作製
脱イミノ化ヒストンH2A、または脱イミノ化ヒストンH4のN末端のシトルリン化エピトープを含むペプチドに対する抗体は、WO2011/070172に以前記載されたように、DBA/J1マウスにおいて、配列番号1および配列番号2で表わされるペプチドを用いてマウスを免疫することによって産生された。
【0052】
簡潔には、免疫処理の開始後125日目において、血清試料が採取され、シトルリン特定抗原応答について分析された。これは、配列番号1で表わされるペプチドを抗原として用いるELISAにおいて得られたシグナルを、配列番号3で表わされるペプチドを抗原として用いるELISAと比較することによって実施された。全てのマウスは、試験された時点において特異的抗原に特異的な血清力価を示した。
【0053】
ハイブリドーマ細胞株を作製するために、脾臓は、最後の追加免疫後に解剖され、脾細胞は、脾臓から採取され、標準的な手順に従ってマウスミエローマ細胞株(NS-1)と融合された。ハイブリドーマ上清に特異的な抗体は、シトルリン含有抗原と非シトルリン化等価物とにおいて選別された。
【0054】
このことは、MQ22.101を産生するハイブリドーマクローンをもたらした(DSMZ受入番号ACC3031)。それぞれ配列番号11および配列番号12で表わされる重鎖および軽鎖の後続のシークエンシング。
【0055】
実施例4:ACPAのエピトープマッピング
96ウェルELISAプレートは、4℃で一晩ニュートラアビジン(0.1μg/ウェル)を用いて被覆された。ウェルは、PBS-Tween20(PBS-T)を用いて5回洗浄され、PBS-T + 1%ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて室温(RT)で1時間インキュベートすることによってブロックされた。PBS-Tを用いてさらに5回洗浄後、ウェルは、シトルリン由来のヒストンH2Aと、ビオチンを含む配列番号1および配列番号2で表わされるペプチド(0.3μg/ウェル)を用いてRTで1時間インキュベートされた。全ての使用されたペプチドは、遊離のN末端NH2基を含むものであった。PBS-Tを用いてさらに5回洗浄後、ウェルは、10μg/ウェルの濃度で始まる、PBS-T + 1%BSA中のMQ22.101またはMQ22.101b/dの連続希釈を用いてRTで1時間インキュベートされた。ウェルは、PBS-Tを用いて5回洗浄され、RTで1時間にわたってウサギ抗ヒトHRP(1:2000)とともにインキュベートされ、PBS-Tを用いて5回洗浄され、PBSを用いる3回洗浄工程を行われた。ウェルは、2M H2SO4を用いて反応を停止する前に、TMB基質を用いて5分間インキュベートされた。光学密度は、450nmで測定され、使用された抗体の親和性の尺度とされた。
【0056】
MQ22.101およびMQ22.101b/dは、ヒストンH2AのN末端シトルリン化ペプチド(配列番号1)に結合したが、アルギニンを含むペプチドには結合しなかった(配列番号3)。ヒストンH4のN末端シトルリン化ペプチド(配列番号2)へのMQ22.101およびMQ22.101b/dの結合は、同様の結果を示した。
【0057】
実施例5:シトルリン含有ペプチドを用いるワクチン投与は、in vivoにおいて防御免疫応答を生じる。
免疫応答は、配列番号1または配列番号2のシトルリン残基を含む合成ヒストンペプチドに対して、C57BL/6Nマウス(到着時19~21グラム)において誘導された(表1)。57日目と80日目との間において、免疫処理の開始後、血清試料は、採取され、シトルリン含有ペプチド特異的な抗原応答について分析された。シトルリンを含む配列番号1および/または配列番号2で表わされるペプチドに反応するが、アルギニンを含む配列番号3および配列番号4で表わされるペプチドには反応しない特異的抗原血清力価を示すマウスは、実施例1に説明されたようにブレオマイシンの咽頭滴下によって肺損傷を誘導するために使用された。全ての動物の体重は、0日目から始まり21日目まで一日おきに評価された。
【0058】
ブレオマイシン滴下またはPBS滴下の2週間後、および3週間後、マウスは、イソフルラン麻酔下における頸椎脱臼によって屠殺され、気管支肺胞洗浄(BAL)液が集められた。肺は、固定化され、パラフィン包埋され、切片は、炎症/線維症の量を評価するためにマッソン染色された。タンパク質含有量と、総細胞数および細胞百分率(好中球、マクロファージ、およびリンパ球)は、BALにおいて測定された。タンパク質含有量が測定され、総細胞数および細胞百分率は、BAL液を用いてサイトスピンを実施し、細胞を染色し、それらの形態に基づいて様々な細胞種を計数および特定することによって評価された。
【0059】
これらのマウスの臨床パラメータの結果は、ACPA抗体MQ22.101を用いて受動的に免疫されたマウスと同一でない場合、同等であった。
【0060】
実施例6:ACPAの検出アッセイ
治療特性を有する複数の抗体を識別するアッセイは、固体支持体上に固定化された、配列番号1または配列番号2で表わされる抗原タンパク質を用いて容易に開発可能である。たとえば、MQ22.101(または治療特性を有する他のACPA)は、標識され、試験抗体の有無に関わらず固定化抗原に接触させることができる。試験抗体が、結合を阻害する、つまり標識化M Q22.101によって得られるシグナルを低下させる場合、試験抗体は、標識化MQ22.101の結合と競合すると結論付けることができる。そのような競合抗体は、したがって、当該競合抗体が、シトルリン残基がアルギニン残基に置き換えられた同一配列(配列番号3、および配列番号4)を有するペプチドに反応しないとすれば、本発明の方法における使用に好適である。
【0061】
実施例7:MQ22.101b/dの作製
ハイブリドーマMQ22.101に由来する可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)フラグメントは、RT-PCRによって得られ、ヒトIgG1とヒトカッパ定常ドメインとを含む発現ベクターにクローン化された。VHドメインおよびVLドメインは、続いて、CDRグラフティングによって、ヒト化および生殖系列化(germlined)された。表2は、VH CDR1、2、および3ポリペプチド(配列番号5、6、および7)と、MQ22.101b/dに由来する、VL CDR1、2、および3ポリペプチド(配列番号8、9、および10)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】誘導肺線維症モデルは、MQ22.101の体重減少における影響を試験するために使用された。0日目において、マウスは、PBS(菱形)、またはブレオマイシン(0.045ユニット/マウス)(三角および四角)の咽頭滴下を受けた。0日目、2日目、5日目において、マウスは、1mgのMQ22.101(三角)、1mgのコントロール抗体MQ20.101(四角)、またはPBS(菱形)を用いて腹腔内処置された。動物は、0日目から始まって14日目まで一日おきに体重を測定された。
【
図2】ブレオマイシン誘導肺線維症モデルは、肺炎症/線維症の予防におけるMQ22.101の効果を試験するために使用された。
図2aおよび
図2bに示される実験において使用されたマウスは、0日目においてPBSの咽頭滴下を受けたが、
図2c~
図2fに示される実験において使用されたマウスは、ブレオマイシンの咽頭滴下を受けた(0.045ユニット/マウス)。0日目、2日目、および5日目において、
図2c~
図2dのマウスは、1mgのMQ22.101を用いて腹腔内処理され、
図2e~
図2fのマウスは、1mgのコントロール抗体MQ20.101を用いて腹腔内処理された。マウスは、14日後(
図2a、
図2c、および
図2e)、または21日後(
図2b、
図2d、および
図2f)に屠殺され、肺は固定され、パラフィン包埋され、切片は、炎症/線維症の量を評価するためにマッソン染色された。
【
図3】各実験群の2匹のマウスに由来するBAL液は、タンパク質含有量(
図3a)、および細胞含有量(
図3b~
図3e)を測定するために得られた。BAL液を集めるために、カニューレは、肺が3倍体積のPBS(総体積1mL)を用いて洗浄された後、予め準備された気管に挿入された。タンパク質含有量が測定され、総細胞数、および細胞百分率は、BAL液を用いてサイトスピンを実施し、細胞を染色し、計数し、それらの形態に基づいて細胞の種類を特定することによって評価された。
【
図4】ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルは、肺における炎症および線維症に対するMQ22.101およびMQ22.101b/dの影響を試験するために使用された。0日目において、マウスは、ブレオマイシンの咽頭滴下を受けた。0日目、2日目、および5日目において、ブレオマイシン処置群は、1mgのマウス抗体MQ22.101、1mgのマウス抗体MQ2 0.101(無関係のアイソタイプ同一コントロール抗体)、またはPBSを含む咽頭滴下を受けた。さらなる2群のブレオマイシン処置群は、1mgのヒト化MQ22.101(MQ22.101b/d)、または1mgのヒト抗体MQR2.101(ヒトコントロール抗体)を2日目および5日目に受けた。MQR2.101は、コントロール抗体である。ピルフェニドンは、0日目から13日目まで毎日投与された。ブレオマイシン滴下、またはPBS滴下の2週間後、マウスは、ケタミン塩酸塩(Narketan)、およびキシラジン塩酸塩(Rompun)の過剰量投与によって安楽死させられた。肺は、計量され、病理組織学的分析のために10%緩衝ホルマリンを用いて固定された。Madtesスコアリングは、表3および表4に従って実施された。スコア:0~10。
*p<0.05 ベヒクルに対して、マン・ホイットニー検定。
【配列表】