(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】電気自動車用防振ゴム組成物および電気自動車用防振ゴム部材
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20220310BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220310BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20220310BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20220310BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220310BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20220310BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/04
C08K5/20
C08K5/42
C08K3/36
C08K5/541
F16F15/08 B
(21)【出願番号】P 2018067050
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岡久 正志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 英亮
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誠司
(72)【発明者】
【氏名】村谷 圭市
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-084312(JP,A)
【文献】特開2017-008182(JP,A)
【文献】特開2013-209605(JP,A)
【文献】特開2013-159678(JP,A)
【文献】特開2008-208204(JP,A)
【文献】特開2017-079222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
F16F 15/00-15/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分
、(B)成分
、および(C)成分を含有する防振ゴム組成物であって、
下記の(A)成分が防振ゴム組成物全体の50重量%以上であり、下記の(A)成分100重量部に対する(B)成分の含有量が3~40重量部の範囲であ
り、下記の(B)成分のBET比表面積が10~90m
2
/gの範囲であることを特徴とする電気自動車用防振ゴム組成物。
(A)
天然ゴム。
(B)カーボンブラック。
(C)下記の化学式(1)で表される(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムおよび下記の化学式(2)で表されるチオ硫酸S-(3-アミノプロピル)の少なくとも一方。
【化1】
【化2】
【請求項2】
上記カーボンブラック(B)のBET比表面積が10~
70m
2/gの範囲である、請求項1記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項3】
上記カーボンブラック(B)100重量部に対し、上記(C)に示す化合物の含有量が0.05~10重量部の範囲である、請求項1または2記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項4】
更にシリカ(D)を、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し3~40重量部の範囲で含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項5】
上記シリカ(D)のBET比表面積が30~500m
2/gの範囲である、請求項4記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項6】
上記カーボンブラック(B)とシリカ(D)との含有比率が、重量比で、B/D=3/97~97/3の範囲である、請求項4または5記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項7】
更にシランカップリング剤を含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項8】
上記シリカ(D)100重量部に対し、上記シランカップリング剤の含有量が0.1~20重量部の範囲である、請求項7記載の電気自動車用防振ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気自動車用防振ゴム組成物の加硫体からなることを特徴とする電気自動車用防振ゴム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モーターを動力源とする電気自動車(電気自動車(EV)の他、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)等も含む)における防振用途に用いられる防振ゴム組成物および防振ゴム部材に関するものであり、詳しくは、電気自動車用モーターマウント等のように高周波振動の低減性能が要求される部材に用いられる、電気自動車用防振ゴム組成物および電気自動車用防振ゴム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車には、振動や騒音の低減を目的として、防振ゴム組成物が用いられている。このような防振ゴム組成物には、その加硫体(防振ゴム部材)において、高剛性、高強度で、振動伝達の抑制が必要であることから、動倍率〔動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)〕の値を小さくすること(低動倍率化)が要求される。従来、この低動倍率化の対策としては、例えば、防振ゴム組成物において、補強剤としてカーボンブラックを用い、カーボンブラックの配合量や粒子径,ストラクチャー等の因子を制御することで対応している(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-269236号公報
【文献】特開2002-241539号公報
【文献】特開2005-113094号公報
【文献】特開平8-269237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のガソリン車用の防振ゴム部材と異なり、電気自動車用の防振ゴム部材においては、電動モーターから発生する高周波振動(およそ、2000~3000Hz)の低減性能が要求される。このような高周波振動の低減性能を得るには、高周波振動に対して、先に述べたような低動倍率化を達成するだけでなく、高周波振動時の動的弾性率(動的ばね定数)を低減させることが要求される。また、防振ゴム部材としての支持機能を満足させる為には、ある程度の静的弾性率(静的ばね定数)も必要とされる。
しかしながら、従来のように、カーボンブラックの配合量や粒子径,ストラクチャー等の因子を制御するだけでは、静的弾性率等の物性を低下させずに、先に述べたような高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立を達成することは極めて難しい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、静的弾性率等の物性の低下を引き起こすことなく、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立を実現することが可能な、電気自動車用防振ゴム組成物および電気自動車用防振ゴム部材の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の(A)成分を主成分とし、下記の(B)成分および(C)成分を含有する防振ゴム組成物であって、下記の(A)成分100重量部に対する(B)成分の含有量が3~40重量部の範囲である電気自動車用防振ゴム組成物を、第一の要旨とする。
(A)ジエン系ゴム。
(B)カーボンブラック。
(C)下記の化学式(1)で表される(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムおよび下記の化学式(2)で表されるチオ硫酸S-(3-アミノプロピル)の少なくとも一方。
【化1】
【化2】
【0007】
また、本発明は、上記第一の要旨の電気自動車用防振ゴム組成物の加硫体からなる電気自動車用防振ゴム部材を、第二の要旨とする。
【0008】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、防振ゴム組成物のポリマーであるジエン系ゴムに対するカーボンブラックの添加量を低く抑えることにより、動的弾性率を低減させることを検討した。しかしながら、上記のようにカーボンブラックの添加量が低すぎると、静的弾性率等の、防振ゴムに要求される物性の低下を引き起こす問題が生じ、さらに、そのことが、高周波振動に対する低動倍率化の達成を阻害するといった問題につながりやすい。そこで、本発明者らは、上記カーボンブラックの添加量を特定の割合に抑えつつ、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムやチオ硫酸S-(3-アミノプロピル)といった特定のカーボンブラック用カップリング剤を添加した結果、静的弾性率等の物性を低下させずに、高周波振動に対する動倍率をほとんど上げることなく、高周波振動に対する動的弾性率を低減させることができることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
このような現象が起きる理由は明らかではないが、つぎのように考えられる。すなわち、上記特定のカーボンブラック用カップリング剤が、その分子量が高いことからジエン系ゴムポリマーとの親和性が期待でき、さらに、上記特定のカーボンブラック用カップリング剤は、ラジカルを発生させてジエン系ゴムポリマーやカーボンブラックに反応するため、
図1に示すような架橋形態をとる(図において、1はジエン系ゴムの分子鎖、2はカーボンブラック用カップリング剤、3はカーボンブラック、4は加硫剤による架橋部を示す。)。そして、図のように、ジエン系ゴムの分子鎖1が、部分的に、カーボンブラック3を介し物理的に架橋するようになることから、カーボンブラック3の添加量を抑えても静的弾性率が高くなり、その結果、動倍率が小さくなる。また、ジエン系ゴムの分子鎖1とカーボンブラック3とを結合するカーボンブラック用カップリング剤2の架橋部により、高周波振動に対する動的弾性率の低減効果が顕著に高まることから、高周波振動に対する動的弾性率の低減と低動倍率化との両立を実現することができたものと考えられる。さらに、この架橋形態により、カーボンブラック同士の摩擦が低下し、それによりゴム材料の補強性が上がることも、2000~3000Hzの高周波振動での低動倍率化と動的弾性率の低減効果が得られた理由の一つと考えられる。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の電気自動車用防振ゴム組成物は、ジエン系ゴム(A)を主成分とし、カーボンブラック(B)および特定のカーボンブラック用カップリング剤(C)を含有する。そして、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対する上記カーボンブラック(B)の含有量が3~40重量部の範囲であり、上記特定のカーボンブラック用カップリング剤(C)が、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムおよびチオ硫酸S-(3-アミノプロピル)の少なくとも一方である。そのため、静的弾性率等の物性の低下を引き起こすことなく、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。そして、本発明の電気自動車用防振ゴム組成物は、特に、電気自動車用の、モーターマウント、サスペンションブッシュ、サブフレームマウント等の、電気自動車用防振ゴムの用途に有利に用いることができる。
【0011】
特に、上記カーボンブラック(B)のBET比表面積が10~90m2/gの範囲であると、高周波振動に対する動倍率の低下が促進され、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0012】
また、上記カーボンブラック(B)100重量部に対し、上記特定のカーボンブラック用カップリング剤(C)の含有量が0.05~10重量部の範囲であると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0013】
また、本発明の電気自動車用防振ゴム組成物に対し、更にシリカ(D)を、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し3~40重量部の範囲で含有すると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0014】
そして、上記シリカ(D)のBET比表面積が30~500m2/gの範囲であると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0015】
また、上記カーボンブラック(B)とシリカ(D)との含有比率が、重量比で、B/D=3/97~97/3の範囲であると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0016】
また、上記シリカ(D)とともに、シランカップリング剤を含有すると、ジエン系ゴム(A)の分子鎖に対し、シリカ(D)も物理的に結合されるようになるため、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0017】
そして、上記シリカ(D)100重量部に対し、上記シランカップリング剤の含有量が0.1~20重量部の範囲であると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る電気自動車用防振ゴム組成物の架橋形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0020】
本発明の電気自動車用防振ゴム組成物(以下、「防振ゴム組成物」と略す。)は、先に述べたように、ジエン系ゴム(A)を主成分とし、特定量のカーボンブラック(B)および特定のカーボンブラック用カップリング剤(C)を含有する。ここで「主成分」とは、上記防振ゴム組成物としての特性に大きな影響を与える成分のことであり、通常は、上記防振ゴム組成物全体の50重量%以上が、上記ジエン系ゴム(A)であるものを示す。
以下、本発明の防振ゴム組成物の構成材料について詳しく説明する。
【0021】
〔ジエン系ゴム(A)〕
上記ジエン系ゴム(A)としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、強度や低動倍率化の点で、天然ゴムが好適に用いられる。また、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とを併用すると、より低動倍率化するため、好ましい。このような効果が得られるようにするには、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とが、重量比で、NR/BR=100/0~70/30であることが望ましい。
【0022】
〔カーボンブラック(B)〕
つぎに、上記カーボンブラック(B)としては、例えば、SAF級,ISAF級,HAF級,MAF級,FEF級,GPF級,SRF級,FT級,MT級等の種々のグレードのカーボンブラックが用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、高周波振動に対する動倍率の低下が促進されることから、FT級,MT級のカーボンブラックが、好ましく用いられる。
【0023】
そして、高周波振動に対する動倍率の低下が促進され、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになることから、上記カーボンブラック(B)のBET比表面積は、10~90m2/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは10~70m2/gの範囲である。
なお、上記カーボンブラック(B)のBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0024】
そして、上記カーボンブラック(B)の含有量は、ポリマーであるジエン系ゴム(A)100重量部に対し、3~40重量部の範囲であり、好ましくは5~35重量部、より好ましくは5~25重量部の範囲である。すなわち、上記カーボンブラック(B)の含有量が少なすぎると、静的弾性率が低下して一定水準の補強性を満足できなくなるからであり、逆に上記カーボンブラック(B)の含有量が多すぎると、高周波数領域での動的弾性率が高くなるといった問題が生じるからである。
【0025】
〔カーボンブラック用カップリング剤(C)〕
本発明の防振ゴム組成物には、特定のカーボンブラック用カップリング剤として、下記の化学式(1)で表される(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムおよび下記の化学式(2)で表されるチオ硫酸S-(3-アミノプロピル)の少なくとも一方が用いられる。すなわち、上記二種のカーボンブラック用カップリング剤は、それぞれを単独で用いても、併せて用いてもよい。
【0026】
【0027】
【0028】
上記特定のカーボンブラック用カップリング剤(C)の含有量は、上記カーボンブラック(B)100重量部に対し、0.05~10重量部の範囲であることが、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになることから好ましい。同様の観点から、上記特定のカーボンブラック用カップリング剤(C)の含有量は、上記カーボンブラック(B)100重量部に対し、0.1~5重量部の範囲であることが、より好ましい。
【0029】
〔シリカ(D)〕
本発明の防振ゴム組成物においては、上記(A)~(C)の各成分とともに、必要に応じて、シリカ(D)が含有される。
上記シリカ(D)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等が用いられる。そして、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0030】
そして、高周波振動に対する動倍率の低下が促進され、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになることから、上記シリカ(D)のBET比表面積は、30~500m2/gの範囲であることが好ましい。
なお、上記シリカ(D)のBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0031】
また、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになることから、上記シリカ(D)の含有量は、ポリマーであるジエン系ゴム(A)100重量部に対して、3~40重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは15~40重量部の範囲である。
【0032】
そして、上記のようにシリカ(D)を含有する場合、前記カーボンブラック(B)と上記シリカ(D)との含有比率が、重量比で、B/D=3/97~97/3の範囲であると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになるため、好ましい。同様の観点から、より好ましくは、B/D=10/90~90/10の範囲である。
【0033】
また、上記シリカ(D)とともに、シランカップリング剤を含有すると、ジエン系ゴム(A)の分子鎖に対し、シリカ(D)も物理的に結合されるようになるため、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになる。
【0034】
そして、上記シリカ(D)100重量部に対し、上記シランカップリング剤の含有量が0.1~20重量部の範囲であると、より一層、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立がなされるようになるため、好ましい。同様の観点から、上記シリカ(D)100重量部に対するシランカップリング剤の含有量は、0.1~10重量部の範囲であることが、より好ましい。
【0035】
ここで、上記シランカップリング剤としては、例えば、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0036】
上記アミン系シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0037】
上記エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0038】
上記ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0039】
上記メルカプト系シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0040】
上記スルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0041】
なお、本発明の防振ゴム組成物においては、前記(A)~(C)の各成分とともに、上記シリカ(D)やシランカップリング剤、さらには、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイル等を、必要に応じて適宜に含有することも可能である。
【0042】
上記加硫剤としては、例えば、硫黄(粉末硫黄,沈降硫黄,不溶性硫黄)、アルキルフ
ェノールジスルフィド等の硫黄含有化合物等があげられる。これらは単独であるいは二種
以上併せて用いられる。
【0043】
上記加硫剤の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~5重量部の範囲である。すなわち、上記加硫剤の含有量が少なすぎると、架橋反応性が悪くなる傾向がみられ、逆に上記加硫剤の含有量が多すぎると、ゴム物性(破断強度,破断伸び)が低下する傾向がみられるからである。
【0044】
上記加硫促進剤としては、例えば、チウラム系,スルフェンアミド系,グアニジン系,チアゾール系,アルデヒドアンモニア系,アルデヒドアミン系,チオウレア系等の加硫促進剤があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、圧縮永久歪みに優れるようになることから、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系,グアニジン系,チアゾール系から選択される少なくとも一つの加硫促進剤とを組み合わせたものが好ましい。
【0045】
また、上記加硫促進剤の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~5重量部の範囲である。
【0046】
上記チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等があげられる。
【0047】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NOBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(BBS)、N,N′-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等があげられる。これらは単独でもしくは二種類以上併せて用いられる。
【0048】
上記グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、N,N’-ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジブチルチオ尿素等があげられる。これらは単独でもしくは二種類以上併せて用いられる。
【0049】
上記チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩(NaMBT)、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩(ZnMBT)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、特に架橋反応性に優れる点で、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)が好適に用いられる。
【0050】
上記加硫助剤としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ステアリン酸、酸化マグネシウム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0051】
また、上記加硫助剤の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.1~10重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~7重量部の範囲である。
【0052】
上記老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0053】
また、上記老化防止剤の含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、0.5~15重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1~10重量部の範囲である。
【0054】
上記プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0055】
また、上記プロセスオイルの含有量は、上記ジエン系ゴム(A)100重量部に対し、1~35重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは3~30重量部の範囲である。
【0056】
〔防振ゴム組成物の調製方法〕
ここで、本発明の防振ゴム組成物は、その必須材料である(A)~(C)成分、および必要に応じて上記列記したその他の材料を用いて、これらをニーダー,バンバリーミキサー,オープンロール,二軸スクリュー式撹拌機等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0057】
本発明の防振ゴム組成物は、高温(150~170℃)で5~30分間、加硫することにより防振ゴム部材(加硫体)となる。そして、本発明の防振ゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材は、電動モーターを動力源とする電気自動車(電気自動車(EV)の他、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)等も含む)用の、モーターマウント、サスペンションブッシュ、サブフレームマウント等の、電気自動車用防振ゴムの用途に有利に用いることができる。
【実施例】
【0058】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0059】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。なお、カーボンブラックおよびシリカBET比表面積は、前記手法によりBET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定されたものである。
【0060】
〔天然ゴム(NR)〕
RSS#3
【0061】
〔BR〕
ブタジエンゴム(日本ゼオン社製、ニポール1220)
【0062】
〔酸化亜鉛〕
堺化学工業社製、酸化亜鉛二種
【0063】
〔ステアリン酸〕
花王社製、ルーナックS30
【0064】
〔老化防止剤〕
精工化学社製、オゾノン6C
【0065】
[カーボンブラック(i)]
FEF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストSO、BET比表面積42m2/g)
【0066】
[カーボンブラック(ii)]
昭和キャボット社製、ショウブラックIP200、BET比表面積52~70m2/g
【0067】
[カーボンブラック(iii)]
FT級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストTA、BET比表面積19m2/g)
【0068】
[シリカ]
東ソー・シリカ社製、ニプシールVN3、BET比表面積200m2/g
【0069】
〔プロセスオイル〕
出光興産社製、ダイアナプロセスNM300
【0070】
[カーボン用カップリング剤(i)]
チオ硫酸S-(3-アミノプロピル)(住友化学社製、SUMILINK100)
【0071】
[カーボン用カップリング剤(ii)]
(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム(住友化学社製、SUMILINK200)
【0072】
[シランカップリング剤]
スルフィド系シランカップリング剤
【0073】
[加硫促進剤(i)]
スルフェンアミド系加硫促進剤
【0074】
[加硫促進剤(ii)]
チウラム系加硫促進剤
【0075】
〔硫黄(加硫剤)〕
軽井沢精錬所社製
【0076】
[実施例1~12、比較例1~3]
上記各材料を、後記の表1および表2に示す割合で配合して混練することにより、防振ゴム組成物を調製した。なお、上記混練は、まず、加硫剤と加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練し、ついで、加硫剤と加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより行った。
【0077】
このようにして得られた実施例および比較例の防振ゴム組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0078】
(静的弾性率)
各防振ゴム組成物を用い、150℃×20分の加硫条件でプレス加硫して、シート形状(縦120mm、横120mm、厚み2mm)の加硫ゴム試料を作製した。その後、この加硫ゴム試料から、JIS K 6394に準じて、短冊状試験片を作成し、JIS K 6394に規定の引張り方法にて、上記短冊状試験片の静的弾性率(MPa)を算出測定した。上記測定は、-30℃~40℃の環境下において、5℃間隔で行い、周波数を横軸とし、弾性率を縦軸とするグラフを作成し、低温側の曲線グラフを水平移動させて、高周波数領域のマスターカーブを作成し、そこから、1Hzの弾性率を静的弾性率として読みとった。
そして、後記の表1および表2には、実施例1における静的弾性率の測定値(MPa)を100としたときの、各実施例および比較例における静的弾性率の測定値を指数換算したものを表記した。
また、後記の表1および表2には、上記指数換算した値が35以上であったものを「◎」、30以上35未満であったものを「○」、30未満であったものを「×」と評価した。
【0079】
(動的弾性率)
各防振ゴム組成物を用い、150℃×20分の加硫条件でプレス加硫して、シート形状(縦120mm、横120mm、厚み2mm)の加硫ゴム試料を作製した。その後、この加硫ゴム試料から、JIS K 6394に準じて、短冊状試験片を作成し、JIS K 6394に規定の引張り方法にて、上記短冊状試験片の動的弾性率(MPa)を算出測定した。上記測定は、-30℃~40℃の環境下において、5℃間隔で行い、周波数を横軸とし、弾性率を縦軸とするグラフを作成し、低温側の曲線グラフを水平移動させて、高周波数領域のマスターカーブを作成し、そこから、3000Hzの動的弾性率を読みとった。
そして、後記の表1および表2には、実施例1における動的弾性率の測定値(MPa)を100としたときの、各実施例および比較例における動的弾性率の測定値を指数換算したものを表記した。
また、後記の表1および表2には、上記指数換算した値が90未満であったものを「◎」、90以上120以下であったものを「○」と評価した。
【0080】
(動倍率)
上記のようにして測定した静的弾性率(MPa)と、上記のようにして測定した3000Hzの動的弾性率(MPa)から、「動的弾性率/静的弾性率」を求め、この値を、動倍率の値とした。そして、上記動倍率が1.35以下のものを「◎」、上記動倍率が1.35より大きく1.40以下のものを「○」、上記動倍率が1.40を超えるものを「×」と評価した。
【0081】
【0082】
【0083】
上記表の結果から、実施例の防振ゴム組成物の加硫体は、静的弾性率が高く、しかも、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立が実現されていることがわかる。
【0084】
これに対し、比較例1の防振ゴム組成物の加硫体は、カーボン用カップリング剤を含んでおらず、高周波振動に対する低動倍率化が実現されていない。比較例2の防振ゴム組成物の加硫体は、カーボンブラックの含有量が多すぎ、高周波振動に対する低動倍率化が実現されていない。比較例3の防振ゴム組成物の加硫体は、高周波振動に対する、動的弾性率の低減と低動倍率化との両立が実現されているが、カーボンブラックの含有量が少なすぎることから、静的弾性率に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の防振ゴム組成物は、電動モーターを動力源とする電気自動車(電気自動車(EV)の他、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)等も含む)用の、モーターマウント、サスペンションブッシュ、サブフレームマウント等の、電気自動車用防振ゴムの用途に有利に用いることができる。また、本発明の防振ゴム組成物は、自動車以外の機器に対し、電動モーターの高周波振動を抑えるための用途にも、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0086】
1 ジエン系ゴムの分子鎖
2 カーボンブラック用カップリング剤
3 カーボンブラック
4 加硫剤による架橋部