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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20220310BHJP
【FI】
C09K5/10 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018521035
(86)(22)【出願日】2016-11-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 DE2016000395
(87)【国際公開番号】W WO2017080542
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2018-05-29
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-23
(31)【優先権主張番号】102015014480.4
(32)【優先日】2015-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518136279
【氏名又は名称】ロウ ホールディング ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バーガー,ステファン
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】門前 浩一
【審判官】木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-514063(JP,A)
【文献】米国特許第4743393(US,A)
【文献】特開平7-278857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
F01P 1/00-11/20
C23F 11/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物であって、
前記濃縮物の全量に対して90重量パーセント超の少なくとも1つの凝固点降下液と、
前記濃縮物の全量に対して1.5~5重量パーセントの少なくとも2つの飽和脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1つの混合物と、
前記濃縮物の全量に対して0.1~1重量パーセントの少なくとも1つの飽和脂肪族モノカルボン酸またはヒドロキシル基含有芳香族モノカルボン酸と、
前記濃縮物の全量に対して0.05~0.5重量パーセントの少なくとも1つのアゾールと、
前記濃縮物の全量に対して0.01~0.06重量パーセントの少なくとも1つのアルカリ金属メタケイ酸塩と、
前記濃縮物の全量に対して0.01~1重量パーセントの少なくとも1つの式(PM o12 40 3- のリンモリブデン酸
を含み、
前記アルカリ金属メタケイ酸塩は、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸リチウムを含む群の化合物、またはそれらの混合物である、
ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物。
【請求項2】
前記凝固点降下液はアルキレングリコール、アルキレングリコールエーテル、グリコールエーテル、グリセリンを含む群の化合物、またはこれらの化合物の2つ以上の混合物である、請求項1に記載の冷却剤濃縮物。
【請求項3】
前記ジカルボン酸は4~12炭素原子の鎖長を有する、請求項1または2に記載の冷却剤濃縮物。
【請求項4】
前記ジカルボン酸および/またはモノカルボン酸はそれらのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の形態で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却剤濃縮物。
【請求項5】
pH調整成分が含まれる、請求項1~のいずれか1項に記載の冷却剤濃縮物。
【請求項6】
前記濃縮物のpH値は6~10の範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載の冷却剤濃縮物。
【請求項7】
燃焼機関、ソーラープラントまたは冷蔵庫の冷却のための、請求項1~のいずれか1項に記載の冷却剤濃縮物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物および冷却剤濃縮物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼機関の冷却サイクルのための冷却剤濃縮物は、例えば自動車では、主として凝固点降下液、具体的には、エチレングリコールまたはプロピレングリコールからなる。使用前に、これらの液体は通常、凝固点を下げるために水と1:1 v/v%で混合される。グリコール水混合物は腐食性であるため、様々な腐食抑制剤が混合物に添加される。
【0003】
冷却剤組成物は、DE 101 28 530 A1、DE 196 25 692 A1、DE 699 05 072 T2、EP 0 863 960 B1、US 2014/0224193 A1およびUS 6 413 445 B1から知られている。
【0004】
今日では、腐食抑制剤は様々な要求を満たさなければならない。それらは低濃度で有効でなければならず、いかなる毒性学的効果または環境に危険な効果を有してはならない。鉄、銅、真鍮、硬ろう、アルミニウムおよびアルミニウム合金、ならびにエラストマーなどの非金属構成要素など、冷却サイクル中に存在する全ての材料は、高い熱応力下でも異なる形態の腐食から確実に保護されなければならない。冷却サイクル中の複数の金属は、特に金属が互いに導電接触している場合、潜在的な腐食問題を引き起こす。これらの場所では、選択腐食、接触腐食、隙間腐食、表面腐食、孔食またはキャビテーションが起こり得る。
【0005】
冷却サイクル中の腐食生成物の存在はエンジンから冷却液への熱伝達を妨げ得、これは必然的にエンジンの過熱および構成要素の故障をもたらす。
【0006】
冷却剤体積の減少とともに、ますます上昇するピーク温度、大きな温度変化およびより高い流速の結果として、今日では、冷却剤の熱安定性により高い要求がなされている。
【0007】
乗用車およびトラックが汚染物質排出低減の法的環境規制を満たすことができ、同時に低減された燃料消費量を有するために、自動車メーカは、アルミニウムおよびその合金などの軽金属で冷却サイクルの複数の構成要素を製作する。
【0008】
熱交換器の典型的な構成要素は、例えば、冷却剤がそこを通って流れ、その中で熱交換が起こる管、または周囲への放熱のための管の間のラメラである。
【0009】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製の自動車用熱交換器は、主に管理雰囲気ろう付け(CAB)プロセスにしたがって製造される。他のはんだ付け方法とは対照的に、これらのプロセスは、酸化アルミニウムの形成が起こらず、それは特にコスト効率が良く同時に高品質の製品を生産するという利点を提供する。典型的には、構成要素ははんだを用いた冶金的接合の形成を通して組み立てられ、はんだの融点は材料自身の融点より低い。
【0010】
プロセスに固有の酸化アルミニウム保護層を除去するために、金属表面にフラックスが適用され、はんだが自由に流れ得る。典型的には、NOCOLOK(登録商標)の商品名で知られる式K1~3AlF4~6のフッ化アルミン酸カリウムを含有する混合物が、フラックスとして使用される。
【0011】
しかしながら、操作中に、フラックス残渣は、冷却剤が通って流れる構成要素から剥がれ得、冷却システム中へ入り得る。フッ化物含有フラックスはアルミニウムに対して非腐食性であると考えられているが、腐食問題は定期的に起こる傾向がある。
【0012】
アルカリ金属ケイ酸塩はアルミニウム構成要素に対して特に有効な腐食抑制剤であることが判明しており、それ自体、冷却剤に添加される。ケイ酸塩は、金属表面上に連続した単分子の腐食抑制保護層を形成すると想定される。しかしながら、ケイ酸塩はフラックス残渣の存在下で機能しなくなる傾向があり、かつ重合反応中に不可逆的にゲル状の沈殿物を形成する傾向がある。これらの沈殿物は冷却器ラメラを詰まらせ、冷却システム中の材料から熱媒流体への熱伝達が妨げられ、したがってエンジンが過熱し、水ポンプが損傷し、または他のエンジン損傷が起こる。
【0013】
これらの効果は、特に、冷却システム中のケイ酸塩含有量が30ppm未満に著しく低下した場合に観測され得る。近年、冷却サイクル中のアルミニウム構成要素の数が増加し続けているため、フラックス耐性で安定化されたケイ酸塩含有有機冷却剤技術、いわゆるSi-OATに対する需要が、自動車産業の側でますます高まっている。
【0014】
したがって、フラックス残渣に対して高い耐性を有し、フラックスの存在下で、その中のケイ素含有量が高い熱応力下でもほとんど変化しないSi-OATベースの冷却剤の提供に対する需要が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高い熱応力下でもフラックス残渣に対して高い耐性を有し、したがってAl-O-Si化合物および難溶性のAl(OH)3の形成を低減または防止する、Si-OATベースの冷却剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、
少なくとも1つの凝固点降下液と、
少なくとも2つの飽和脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1つの混合物と、
少なくとも1つの飽和脂肪族モノカルボン酸またはヒドロキシル基含有芳香族モノカルボン酸と、
少なくとも1つのアゾールと、
少なくとも1つの安定化ケイ酸塩と、
少なくとも1つのホスホノカルボン酸と、
ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、酸素、硫黄、セレン、テルルなどの、元素周期表のIIIA~VIA族からの少なくとも1つのヘテロポリ錯アニオンと
を含む、ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物によって達成される。
【0017】
冷却剤濃縮物のpH値は7~9.5であり、カールフィッシャーによるその水分値は3%未満であり、ケイ素含有量は約200ppm~300ppmである。冷却剤の使用は乗用車およびトラック中の密閉冷却サイクルに限定されず、セントラルヒーティングなどの開放冷却サイクルにも使用され得る。
【0018】
ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物は、複数の利点を有する。ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物は、良好な流動性、高い安定性、特に、高い馬力を有する自動車において、そこではエンジンが非常に熱くなるため、要求されるような、良好な温度安定性を有し、銅などの非鉄金属抑制に特に良く適しており、かつ、ケイ酸塩はアルミニウム保護の役割を果たすため、良好なアルミニウム腐食保護を提供する。ここではケイ酸塩は安定化され、なぜならそうでなければ沈殿が起こり、したがって冷却システムが詰まるためである。
【0019】
凝固点降下液は(冷却剤)液体の凝固点を下げる役割を果たす。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、ケイ酸塩含有冷却剤、それぞれ熱媒流体の組成物が記載され、これは成分の特に高いフラックス適合性を含む。
【0021】
凝固点降下成分、2つの異なる飽和脂肪族ジカルボン酸、1つのモノカルボン酸、1つのアゾール、および市販の安定化ケイ酸塩からなる冷却剤または熱媒流体において、アルミニウムおよびアルミニウム合金のより高いフラックス適合性が、ホスホノカルボン酸と組み合わせたヘテロポリ錯アニオンの使用により達成される。
【0022】
この効果を、フラックス含有水を使用する150℃で168時間の改良ASTM D4340腐食試験を使用して試験し、続いて腐食速度をmg/cm2/週単位で測定し、ケイ素含有量をppm単位で測定した。
【0023】
ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物は、0.1重量パーセント~2重量パーセントの6~12炭素原子(C6~C12)を有する飽和脂肪族モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸を含有する。飽和脂肪族モノカルボン酸類の典型的なメンバーは、ペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、n-ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、イソシアン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸である。
【0024】
モノカルボン酸はカルボン酸イオンとして存在して金属表面に付着し、その結果、電解質が金属表面(冷却器または冷却システムの金属表面)に到達しないため、モノカルボン酸は錆止めとして機能する。
【0025】
ヒドロキシル基含有芳香族カルボン酸は、安息香酸から誘導されるカルボン酸に関係する。それらは1つまたは2つのヒドロキシル基を含む。適切なヒドロキシル基含有芳香族モノカルボン酸は、2-もしくは3-ヒドロキシ安息香酸、および特に4-ヒドロキシ安息香酸または2-、3-もしくは4-(ヒドロキシメチル)安息香酸である。
【0026】
濃縮物は添加剤として少なくとも1つのアゾールを含有する。典型的な例は、トリルトリアゾール、水和トリルトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ブチルベンゾトリアゾール、1H-1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、置換チアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、テトラゾール、(2-ベンゾチアジルチオ)酢酸である。濃縮物の全量に対して0.01重量パーセント~0.5重量パーセントのアゾールが、冷却剤濃縮物中に含有される。上記の化合物の2つ以上の組み合わせが同様に使用され得、それもまた用語アゾールに含まれる。
【0027】
適切には、冷却剤濃縮物は、濃縮物の全量に対して、0.01重量パーセント~0.06重量パーセントの安定化ケイ酸塩を含有する。ケイ酸塩は、ケイ酸塩安定剤を介して通常の量で安定化される。
【0028】
適切なケイ酸塩は(MO)mSiO(4n/2)(OH)p型のものであり、式中、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、またはテトラ有機アンモニウムの群からの1価のカチオンであり、mは1~4であり、nは1~4であり、およびpは0~3であり、m+p=nである。その例は、メタケイ酸カリウム、オルトケイ酸ナトリウム、二ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸リチウム、オルトケイ酸リチウム、二ケイ酸ルビジウム、四ケイ酸ルビジウム、混合塩、ケイ酸テトラメチルアンモニウムト、ケイ酸テトラエチルアンモニウムト、ケイ酸アンモニウム、ケイ酸テトラヒドロキシエチルアンモニウムを含む。Si(OR)4型の有機ケイ酸エステルも同様に適切であり、式中、RはC1~C36のアルキル-、アリール-、またはヒドロキシアルキル基である。しかしながら、適切には、アルカリ金属メタケイ酸塩が使用される。
【0029】
Silquest(登録商標)Y-5560もしくはSilan AF-1などの有機シラン、Xiameter(登録商標)Q1-6083などの(トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホン酸ナトリウム、アルカリ金属アミノホスホン酸塩、US4 629 602に記載の(O1,5Si-C3H6)-P(O)(O-Na+)(OC2H5)型の有機ホスホシリコーン、ポリアクリル酸、メチルセルロース、またはホウ酸塩が、ケイ酸塩安定剤として使用され得る。
【0030】
凝固点降下液は、好ましくは、アルキレングリコール、アルキレングリコールエーテル、グリコールエーテル、グリセリン、またはこれらの化合物の2つ以上の混合物を含む群の化合物である。この種類のメンバーとして、モノエチレングリコール、モノプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテルが使用される。モノエチレングリコールが特に適している。
【0031】
12炭素原子を超える鎖長を有するカルボン酸は溶解しないため、ジカルボン酸は、好ましくは4~12炭素原子(C4~C12)の鎖長を有する。
【0032】
適切には、2つの異なる4~12炭素原子(C4~C12)の飽和脂肪族ジカルボン酸の混合物が使用される。ジカルボン酸の典型的なメンバーは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸(C8H14O4)、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、ジシクロペンタジエンジカルボン酸を含む。アジピン酸およびセバシン酸の混合物で特に良好な結果が得られる。
【0033】
好ましくは、ジカルボン酸および/またはモノカルボン酸は、それらのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の形態で存在する。ナトリウムおよびカリウム塩が特に適している。ジカルボン酸としてアジピン酸およびセバシン酸の混合物が使用される場合、それらの両方がニカリウム塩の形態で使用されるか、またはセバシン酸がニナトリウム塩としておよびアジピン酸がニカリウム塩として使用されるかのいずれかである。
【0034】
少なくとも1つのホスホノカルボン酸またはその混合物がさらなる添加剤として使用される。用語ホスホノカルボン酸は、遊離カルボン酸およびカルボン酸塩の両方を含む。その例は、ホスホノコハク酸、1,2,3,4,5,6-ヘキサカルボキシヘキサン(1,2,3,4,5,6-ヘキサホスホノカルボキシヘキサン)、1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸(1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホノカルボン酸)、1-ホスホノ-1,2,3,4-テトラホスホン酸(1-ホスホノ-1,2,3,4-テトラホスホノカルボン酸)、アミノ-トリメチル-ホスホン酸、ホスホン酸(ホスホノカルボン酸)、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ホスホノ-1-ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシメチル-ホスホン酸などを含む。濃縮物の全量に対する含有量は、0.01重量パーセント~0.5重量パーセントである。
【0035】
冷却剤濃縮物は、添加剤として、濃縮物の全量に対して0.01重量パーセント~1重量パーセントの、元素周期表のIIIA~VIA族からの少なくとも1つのヘテロポリ錯アニオンを含む。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、ヘテロポリ錯アニオンはモリブデン酸アニオンである。
【0037】
特に好ましくは、ヘテロポリ錯アニオンは、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、マンガンモリブデン酸、ケイタングステン酸、テルルモリブデン酸、ヒ素モリブデン酸、またはこれらの化合物の2つ以上の混合物を含む群からのアニオンである。
【0038】
好ましくは、ヘテロポリ錯アニオンは式(PMo12O40)3-のリンモリブデン酸である。
【0039】
ホスホノカルボン酸は好ましくは2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、冷却剤濃縮物はpH調整成分を含有する。pH調整成分は、冷却剤のpH値を調整する役割を果たす。適切なpH調整成分は、苛性カリ、苛性ソーダ、またはリン酸ナトリウムなどの化合物である。
【0041】
ケイ酸塩を含有するフラックス耐性冷却剤濃縮物のpH値は、好ましくは6~10の範囲であり、特に、7.5~8.5の範囲である。ここで、所望のpH値は、アルカリ金属水酸化物を(冷却剤濃縮物)製剤に添加することにより調整され得る。適切には、脂肪族カルボン酸はそのアルカリ金属塩の形態で使用され、製剤のpH値は所望の範囲に自然に到達する。しかしながら、あるいは、遊離(カルボン)酸を使用することもまた可能であり、それらはアルカリ金属水酸化物で中和される。水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムまたは苛性カリもしくは苛性ソーダ水溶液が最も適切である。
【0042】
最終的に、濃縮物の全量に対して0.5重量パーセント以下の、ポリアクリル酸、ポリ-マレイン酸、アクリル酸マレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ビニルピロリドン-ビニルイミダゾール-コポリマーおよび/または不飽和カルボン酸とオレフィンとのコポリマーに基づいた、1つまたは複数の硬水安定剤が存在し得る。しかしながら、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸などの低分子物質が好ましくは使用される。
【0043】
さらに、冷却剤濃縮物(または熱媒流体)は、pH緩衝剤、直鎖、分岐もしくは芳香族モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、モリブデン酸塩、ホウ酸塩、窒化物、アミン、リン酸塩、またはシリコーンなどの腐食抑制剤を含有し得る。
【0044】
通常0.001重量パーセント~0.02重量パーセントの少量の消泡剤、単独または複数の着色料、および嚥下防止策としての苦汁が、さらなる添加剤として冷却剤濃縮物に添加され得る。苦汁の一例は安息香酸デナトニウムであり、それはBitrex(登録商標)の商品名で市販されている。
【0045】
本発明の好ましい実施形態では、冷却剤濃縮物は、
濃縮物の全量に対して90重量パーセント超の、少なくとも1つの凝固点降下液と、
濃縮物の全量に対して1.5~5重量パーセントの、少なくとも2つの飽和脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1つの混合物と、
濃縮物の全量に対して0.1~1重量パーセントの、少なくとも1つの飽和脂肪族モノカルボン酸、またはヒドロキシル基含有芳香族モノカルボン酸と、
濃縮物の全量に対して0.05~0.5重量パーセントの、少なくとも1つのアゾールと、
濃縮物の全量に対して0.01~0.06重量パーセントの、少なくとも1つの安定化ケイ酸塩と、
濃縮物の全量に対して0.01~1重量パーセントの、少なくとも1つのホスホノカルボン酸と、
濃縮物の全量に対して0.01~1重量パーセントの、元素周期表のIIIA~VIA族からの少なくとも1つのヘテロポリ錯アニオンと
を含む。
【0046】
さらに、本発明の目的は、燃焼機関、ソーラープラントまたは冷蔵庫の冷却用の、熱媒流体としての冷却剤濃縮物の使用によって達成される。
【0047】
冷却剤濃縮物のフラックス耐性のため、それは燃焼機関の、例えば自動車の冷却器または冷却システムにおける使用に特に適している。
【0048】
プロピレングリコールなどの無毒の凝固点降下液の使用を通して、ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物は食品産業においても使用され得る。
【0049】
以下、本発明を例によってさらに詳細に説明する。
【0050】
カルボン酸、アゾール、ホスホノカルボン酸、および元素周期表のIIIA~VIA族からの少なくとも1つのヘテロポリ錯アニオン、アルキレングリコール、またはそれらの誘導体の混合物に基づいた、本明細書に記載の燃焼機関のためのケイ酸塩を含有する窒化物、硝酸塩、ホウ酸塩およびアミンを含まない冷却剤濃縮物。
【0051】
ケイ酸塩含有冷却剤濃縮物のさらなる可能な成分は、例えば、サビット(sabit)および/またはチオプロピオン酸であり、それらは銅抑制剤として機能する。
【0052】
ケイ酸塩は、特にアルミニウムおよびその合金に対して優れた腐食保護を提供する。したがって、ケイ酸塩含有冷却剤中で、ケイ酸塩またはケイ素含有量の減少の発生を防がなければならならず、そうでなければ腐食保護が影響を受ける。
【0053】
冷却剤濃縮物は向上した熱安定性およびフラックス残渣に対する向上した適合性を有する。
【0054】
比較試験:
様々なケイ酸塩含有冷却剤で改良ASTM D4340腐食試験を実施した。各ケースにおいて、250mlの冷却剤を各ケース250mlのNOCOLOK(登録商標)水(2000mg/l)と混合し、初期のケイ素含有量をAAS(原子吸光分析)で決定し、続いて、冷却剤を150℃で8時間、燃焼機関中のアルミニウム製シリンダヘッドの高温表面をシミュレートする試験装置中で加熱した。冷却剤が再び室温に到達したら、5mlの各冷却剤を0.45μlフィルタでろ過し、続いてケイ素含有量を再び測定した。以下の表は、冷却剤組成物の代表例ならびに8時間の試験期間にわたるケイ酸塩含有量のパーセントでの減少を示す。
【表1】
【0055】
表に示された全ての冷却剤は、アルカリ金属ケイ酸塩の形態で同量のケイ素、すなわち0.16重量パーセントを含有する。冷却剤1および4は、本発明によるケイ酸塩含有冷却剤濃縮物である。
【0056】
表に見られるように、冷却剤中のケイ素含有量の減少(ΔSi[%])、したがって冷却剤中のケイ酸塩含有量の減少は、冷却剤1および4において、ヘテロポリ錯アニオンを含有しない冷却剤2および3より著しく小さい。