(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】薬剤送達デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/42 20060101AFI20220310BHJP
A61M 5/24 20060101ALI20220310BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
A61M5/42 500
A61M5/24
A61M37/00 510
(21)【出願番号】P 2019522920
(86)(22)【出願日】2017-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2017077020
(87)【国際公開番号】W WO2018082957
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-09
(32)【優先日】2016-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ-アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・クレム
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06312412(US,B1)
【文献】特開2002-172169(JP,A)
【文献】特表2016-521585(JP,A)
【文献】特表2015-510802(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0338586(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02886148(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/42
A61M 5/24
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達デバイス(10、110)であって:
患者の体内に薬剤を注射するための主注射針(17)と;
薬剤を注射する前に患者の体内に痛み低減物質を放出するための痛み低減デバイス(16、116)と;を含み、
ここで、該痛み低減デバイス(16、116)はマイクロニードル(19、119)のアレイ(18、118)を含む、前記薬剤送達デバイス。
【請求項2】
マイクロニードル(19、119)のアレイ(18、118)は、各マイクロニードル(19、119)が少なくとも部分的にデバイス(10、110)内に引き込まれている後退位置と、各マイクロニードル(19、119)の近位端がデバイス(10、110)から突出している展開位置と、の間で可動である、請求項1に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項3】
薬剤の注射をトリガする前に痛み低減物質の放出をトリガするように構成された起動機構(14)を含む、請求項1または2に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項4】
起動機構(14)は、マイクロニードル(19、119)のアレイ(18、118)を後退位置と展開位置との間で駆動するように構成されている、請求項2または請求項3に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項5】
主注射針(17)は、該主注射針(17)がデバイス(10、110)内に少なくとも部分的に引き込まれている収納位置と、主注射針(17)の近位端がデバイス(10、110)から突出している使用位置と、の間で可動であり、起動機構(14)は、主注射針(17)を収納位置から使用位置に向けて駆動する前に、マイクロニードル(19、119)のアレイ(18、118)を後退位置から展開位置に向けて駆動するように構成されている、請求項4に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項6】
痛み低減デバイス(16)は、痛み低減物質を収納するためのチャンバ(25)を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10)。
【請求項7】
痛み低減デバイス(116)は、マイクロニードル(119)のアレイ(118)の表面上に配設された痛み低減物質のコーティング(29)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(110)。
【請求項8】
マイクロニードル(19、119)のアレイ(18、118)は、約70から約7000本の間のマイクロニードルを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項9】
マイクロニードル(19、119)のアレイ(18、118)は実質的に円形であり、約10から約30ミリメートルの間で構成される直径を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項10】
各マイクロニードル(19、119)は、約0.2から約3ミリメートルの範囲内の長さを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項11】
各マイクロニードル(19、119)は円形の断面を有し、約40から約150マイクロメートルの間の範囲の直径を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項12】
痛み低減物質は、麻酔薬および局所作用型麻薬物質のうちの少なくとも一方を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項13】
薬剤のカートリッジ(15)を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【請求項14】
自動注射器である、請求項1~13のいずれか1項に記載の薬剤送達デバイス(10、110)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に薬剤を送達するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動注射器などの薬剤注射デバイスは、注射によって薬剤を送達するように設計された、一般的な種類の薬剤送達デバイスである。この種類のデバイスは、容易に使用できるように設計されており、患者による自己投与または正規の医療訓練を受けていない人による投与が意図されている。
【0003】
自動注射器は通常、薬剤充填済みシリンジと、シリンジの本体に固定された注射針と、を含む。この種類のデバイスに共通した1つの問題は、皮膚内への注射針の導入が、患者にとって、特に子供にとって、痛みを伴う可能性があることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
少なくとも特定の実施形態において、本発明は、少なくとも上述した問題を克服または緩和することを企図している。特に、本発明は、患者の皮膚内への注射針の導入によって誘起される痛みを低減する、薬剤を送達するためのデバイスを提供することを企図している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様は、薬剤送達デバイスに関する。
【0006】
本発明の更なる態様によれば、患者の体内に薬剤を注射するための主注射針と、薬剤を注射する前に患者の体内に痛み低減物質を放出するための痛み低減デバイスと、を含む薬剤送達デバイスが提供される。これにより、薬剤投与中に患者が受ける不快感を有利に低減することができる。
【0007】
痛み低減デバイスはマイクロニードルのアレイを含む。これにより、皮膚のあるエリアにわたって痛み低減物質を提供するのを有利に助けることができ、また患者が受ける不快感を低減することもできる。
【0008】
マイクロニードルのアレイは、各マイクロニードルがデバイス内に少なくとも部分的に引き込まれている後退位置と、各マイクロニードルの近位端がデバイスから突出している展開位置との間で、可動であってもよい。これにより、デバイスが使用されていないときにマイクロニードルにより皮膚に意図せず穿孔してしまうのを防止するのを助けるという安全の利益を提供することができ、かつ/または、使用前もしくは使用後にマイクロニードルアレイを損傷から保護するのを助けることができる。
【0009】
薬剤送達デバイスは、薬剤の注射をトリガする前に痛み低減物質の放出をトリガするように構成された、起動機構を含んでもよい。これにより、適正なシークエンスでのデバイスの適正な動作を保証するのを助けること、および患者による使用の容易さという使い勝手の利益を提供すること、およびデバイスの不適正な使用を回避することができ、有利である。
【0010】
起動機構は、マイクロニードルのアレイを後退位置と展開位置との間で駆動するように構成することができる。
【0011】
主注射針は、主注射針がデバイス内に少なくとも部分的に引き込まれている収納位置と、主注射針の近位端がデバイスから突出している使用位置と、の間で可動であってもよく、起動機構は、主注射針を収納位置から使用位置に向けて駆動する前に、マイクロニードルのアレイを後退位置から展開位置に向けて駆動するように構成されている。
【0012】
痛み低減デバイスは、痛み低減物質を収納するためのチャンバを含んでもよい。これにより、デバイスにおいて十分な供給量の痛み低減物質が利用できることを保証するのを有利に助けることができる。
【0013】
痛み低減デバイスは、マイクロニードルのアレイの表面上に配設された、痛み低減物質のコーティングを含んでもよい。これにより、痛み低減物質をマイクロニードルに事前に適用できるので、デバイスの構成および構造を単純化するのを有利に助けることができる。
【0014】
マイクロニードルのアレイは、約70から約7000本の間のマイクロニードルを含んでもよい。
【0015】
マイクロニードルのアレイは実質的に円形であってもよく、約10から約30ミリメートルの間で構成される直径を有してもよい。これにより、注射部位の周囲の患者の皮膚のエリアに十分な痛み低減物質が確実に提供されるのを有利に助けることができる。
【0016】
各マイクロニードルは、約0.2から約3ミリメートルの範囲内の長さを有してもよい。各マイクロニードルは円形の断面を有してもよく、約40から約150マイクロメートルの間の範囲の直径を有してもよい。
【0017】
痛み低減デバイスは、抗菌剤を含むコーティングを含んでもよい。
【0018】
マイクロニードルは、中空のマイクロニードルを含んでもよいか、あるいは別法として、またはこれに加えて、中実のマイクロニードルを含んでもよい。
【0019】
痛み低減物質は、麻酔薬および局所作用型麻薬物質(locally-acting narcotic agent)のうちの少なくとも一方を含んでもよい。
【0020】
本発明の態様はまた、薬剤のカートリッジまたは他のリザーバを含む、上記したような薬剤送達デバイスを提供する。
【0021】
薬剤送達デバイスは自動注射器を含んでもよい。
【0022】
本発明の態様はまた、患者の体内に薬剤を注射するための主注射針と、薬剤を注射する前に患者の体内に痛み低減物質を注射するための痛み低減デバイスと、を含む薬剤送達デバイスを使用することを含む、薬剤の注射中に痛みを低減する方法に関する。
【0023】
用語「薬物」または「薬剤」は、本明細書では交換可能に使用され、少なくとも1種の薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味する。
【0024】
用語「薬剤送達デバイス」は、ヒトまたはヒト以外(本開示では獣医学的用途が明らかに企図されている)の体内に薬物を直接投薬するように設計された、あらゆるタイプのデバイスまたはシステムまたは装置を包含するように理解されるものとする。「直接投薬する」とは、薬物送達デバイスからの薬物の放出とヒトまたはヒト以外の体への投与との間に、使用者によるいかなる必要な薬物の中間操作も存在しないことを意味する。それだけには限らないが、薬物送達デバイスの典型的な例は、注射デバイス、吸入器、および胃管送給システムにおいて見出すことができる。やはりそれだけには限らないが、例示的な注射デバイスとしては、たとえば、シリンジ、自動注射器、注射ペンデバイス、および脊髄注射システムを挙げることができる。
【0025】
本発明の例示的な実施形態について、添付の図面を参照して以下の通り記載する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、本発明の実施形態を含み得る薬剤送達デバイスの概略側面図である。
【
図2A】主注射針が収納位置にあり、マイクロニードルのアレイが展開位置にある、
図1Aの薬剤送達デバイスの一部の概略断面図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、本発明の更なる実施形態による薬剤送達デバイスの、それぞれ概略斜視図および概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態により、患者の体内に薬剤を注射するための主注射針と、薬剤を注射する前に患者の体内に痛み低減物質を放出するための痛み低減デバイスと、を含む薬剤送達デバイスが提供される。かかる痛み低減デバイスを提供することにより、薬剤を注射する前に痛み低減物質を注射部位内に放出することが可能になり、このことにより、主注射針がトリガされ患者の皮膚を通して挿入されるときに患者が感じる痛みまたは不快感を低減することが可能になる。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態に従い、ここでは単に「デバイス10」と呼ぶ、例示的な薬物送達デバイス10が、
図1Aおよび
図1Bに示されている。
【0029】
本出願の文脈では、用語「近位」および「遠位」は本明細書においてそれぞれ、相対的に患者により近いこと、および、相対的に患者からより遠く離れていることを指す。
【0030】
本明細書において記載するような薬物送達デバイスは、患者に薬剤を注射するように構成することができる。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内であり得る。かかるデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの介護者によって操作される可能性があり、様々なタイプの安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器を含み得る。デバイスは、使用前にシールされたアンプルに穿孔する必要のある、カートリッジベースのシステムを含み得る。これら様々なデバイスを用いて送達される薬剤の体積は、約0.5mlから約2mまでの範囲であり得る。更に別のデバイスは、「大きな」体積の薬剤(典型的には約2mlから約10ml)を送達するためにある時間(たとえば、約5、15、30、60、または120分)の間患者の皮膚に接着されるように構成された、大容量デバイス(「LVD(large volume device)」)またはパッチポンプを含み得る。
【0031】
特定の薬剤と組み合わせて、ここで記載しているデバイスを、要求される仕様内で動作するようにカスタマイズしてもよい。たとえば、デバイスを、ある時間(たとえば、自動注射器では約3から約20秒、LVDでは約10分から約60分)内で薬剤を注射するようにカスタマイズしてもよい。他の仕様としては、不快感が低いかもしくは最小限であること、または、人間要素、貯蔵期限、使用期限、生体適合性、環境的配慮、等に関連する特定の条件を挙げることができる。このような多様性は、たとえば薬物の粘度が約3cPから約50cPまでの範囲にわたることなど、様々な要因に起因して生じる可能性がある。この結果、薬物送達デバイスは多くの場合、約25から約31ゲージのサイズの中空の針を含むことになる。一般的なサイズは27および29ゲージである。
【0032】
本明細書に記載する送達デバイスはまた、1つまたはそれ以上の自動化された機能も含み得る。たとえば、針の挿入、薬剤の注射、および針の引き込みのうちの1つまたはそれ以上を自動化できる。1つまたはそれ以上の自動化ステップのためのエネルギーを、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって供給できる。エネルギー源としては、たとえば、機械的な、空圧式の、化学的な、または電気的なエネルギーを挙げることができる。たとえば、機械的なエネルギー源としては、ばね、てこ、エラストマー、またはエネルギーを貯蔵もしくは解放するための他の機械的機構を挙げることができる。1つまたはそれ以上のエネルギー源を、単一のデバイス内に組み合わせることができる。デバイスは更に、ギア、弁、またはエネルギーをデバイスの1つもしくはそれ以上の構成要素の動きに変換するための他の機構を含み得る。
【0033】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化された機能は、起動機構を介してそれぞれ起動させることができる。かかる起動機構は、ボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動構成要素のうちの、1つまたはそれ以上を含み得る。自動化された機能の起動は、1ステップのまたは複数ステップの工程であってもよい。すなわち、使用者は、自動化された機能を実行させるために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動させる必要があり得る。たとえば、1ステップの工程では、薬剤の注射を実行するために、使用者がニードルスリーブを自身の体に押し付けてもよい。他のデバイスでは、自動化された機能を複数ステップで起動する必要があり得る。たとえば、注射を実行するために、使用者がボタンの押下およびニードルシールドの引き込みを行う必要のある場合がある。
【0034】
加えて、自動化された機能の起動により、1つまたはそれ以上の後続の自動化された機能を起動させ、これにより起動シークエンスを形成してもよい。たとえば、第1の自動化された機能の起動により、針の挿入、薬剤の注射、および針の引き込みのうちの、少なくとも2つを起動させてもよい。デバイスによっては、1つまたはそれ以上の自動化された機能を行わせるために、ステップの特定のシークエンスを必要とする場合もある。またデバイスによっては、シークエンスから独立したステップによって動作してもよい。
【0035】
一部の送達デバイスは、安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器の、1つまたはそれ以上の機能を含み得る。たとえば、送達デバイスは、薬剤を自動的に注射するように構成された(自動注射器において典型的に見られるような)機械的なエネルギー源と、(ペン型注射器において典型的に見られるような)用量設定機構と、を含み得る。
【0036】
デバイス10は、上記したように、患者の体内に薬剤、たとえば液体薬剤を注射するように構成されている。デバイス10は、注射される薬剤を収容しているリザーバ(たとえば、シリンジまたはカートリッジ)を典型的には収容している、本体またはハウジング11と、送達工程の1つまたはそれ以上のステップを容易にするために必要となる構成要素と、を含む。デバイス10はまた、ハウジング11に着脱可能に装着できる、キャップアセンブリ12も含み得る。通常は、デバイス10が操作可能となる前に、使用者がハウジング11からキャップアセンブリ12を取り外さなければならない。
【0037】
デバイス10は、液体薬剤充填済みカートリッジ15と、カートリッジ15から患者の体に薬剤を注射するための主注射針17を含む、ペン型ニードルまたはニードルアセンブリと、を含む。ハウジング11は、カートリッジ15の内容物を見ることができる窓11aを含む。
【0038】
デバイス10は、薬剤を注射する前に痛み低減物質を患者の体内に注射するための、痛み低減デバイス16(
図2Aに更に詳細に示す)を含む。
【0039】
デバイス10はまた、痛み低減物質および薬剤の注射工程を制御するための、起動機構14も含む。
【0040】
示されているように、ハウジング11は実質的に円筒形であり、長手方向軸Xに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、近位領域20と遠位領域21とを有する。用語「近位」は注射の部位に相対的により近い位置を指し、用語「遠位」は注射部位から相対的により遠くに離れた位置を指す。
【0041】
デバイス10はまた、ハウジング11に対するスリーブ13の動きが可能となるようにハウジング11に結合された、ニードルスリーブ13も含み得る。スリーブ13は、ハウジング11内に引き込み可能に装着される。たとえば、スリーブ13は、長手方向軸Xと平行な長手方向に移動可能である。具体的には、遠位方向へのスリーブ13の動きにより、主注射針17がハウジング11の近位領域20から延びることが可能になる。
【0042】
主針17の挿入は、いくつかの機構を介して行うことができる。たとえば、主針17は、ハウジング11に対して固定的に位置することができ、最初は延ばしたニードルスリーブ13内に位置することができる。スリーブ13の近位端を患者の体に当接させて設置し、ハウジング11を近位方向に移動させることによる、スリーブ13の遠位方向への動きによって、主針17の近位端が現れることになる。かかる相対的な動きにより、主針17の近位端が患者の体内に延びることが可能になる。かかる挿入は「手作業の」挿入と呼称されるが、その理由は、主針17が、患者がスリーブ13に対してハウジング11を手で動かすのを介して、手作業で挿入されるからである。
【0043】
挿入の別の形態は「自動化された」ものであり、それによって、主針17がハウジング11に対して移動する。かかる挿入は、スリーブ13の動きによって、またはたとえばボタン22などの別の形態の起動によって、トリガすることができる。
図1Aおよび
図1Bに示すように、ボタン22は、ハウジング11の遠位端に位置する。ただし他の実施形態では、ボタン22をハウジング11の側面上に位置することができる。
【0044】
他の手作業のまたは自動化された機能としては、薬物の注射もしくは針の引き込み、または両方を挙げることができる。注射は、栓またはピストン23がカートリッジ内の遠位位置からカートリッジ内のより近位の位置へと移動されて、カートリッジから主針17に薬剤が押し通される工程である。いくつかの実施形態では、デバイス10が起動される前に、駆動ばね(図示せず)が圧縮されている。駆動ばねの遠位端をハウジング11の遠位領域21内に固定することができ、駆動ばねの近位端を、ピストン23の遠位表面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動後、駆動ばねに貯蔵されているエネルギーの少なくとも一部を、ピストン23の遠位表面に加えることができる。この圧縮力がピストン23に作用して、これを近位方向に移動させる。かかる近位方向への動きはカートリッジ内の液体薬剤を圧縮するように作用し、これを主針17から押し出す。
【0045】
注射後、スリーブ13またはハウジング11内に主針17を引き込むことができる。引き込みは、使用者が患者の体からデバイス10を取り外す際に、スリーブ13が近位方向に移動するときに行われることがある。これが行われるのは、主針17がハウジング11に対して固定的に位置するままであるからである。スリーブ13の近位端が主針17の近位端を通り過ぎて、主針17が覆われると、スリーブ13をロックすることができる。このようなロックは、ハウジング11に対するスリーブ13のいかなる遠位方向への動きもロックすることを含み得る。
【0046】
針の引き込みの別の形態は、主針17がハウジング11に対して移動される場合に行われることがある。このような動きは、ハウジング11内のカートリッジがハウジング11に対して遠位方向に移動される場合に行われることがある。この遠位方向への動きは、近位領域20内に位置する引き込みばね(図示せず)を使用することによって達成可能である。圧縮された引き込みばねは、起動時、カートリッジにこれを遠位方向に移動させるのに十分な力を供給することができる。十分な引き込み後、ロッキング機構を用いて、主針17とハウジング11との間のどのような相対的な動きもロックすることができる。加えて、デバイス10のボタン22または他の構成要素を、必要に応じてロックすることができる。
【0047】
本明細書に記載する実施形態では、主針17はハウジング11に対して収納位置と使用位置との間で可動である。収納位置では、主針17は、ハウジング11内に少なくとも部分的に引き込まれている。使用位置では、主針17の近位端は、ハウジング11の近位領域20から突出している。デバイス10から薬剤を排出するために、ピストン23がカートリッジ15内の遠位位置からカートリッジ15内のより近位の位置へと駆動され、この結果、カートリッジ15から主針17に薬剤が押し通される。
【0048】
痛み低減デバイス16は、デバイス10の近位領域20内に位置する。痛み低減デバイス16は、痛み低減物質を収納するための、痛み低減物質区画またはチャンバ25を含む。痛み低減デバイス16は、チャンバ25に接続された複数の中空のマイクロニードル19を含むアレイ18を含み、このマイクロニードル19を通して痛み低減物質を排出することができる。マイクロニードル19はチャンバ25と流体連通している。
【0049】
この実施形態では、痛み低減デバイス16はデバイス10と一体に形成される。別法として、痛み低減デバイス16は、デバイス10に取り外し可能に接続することができる。
【0050】
痛み低減物質は、たとえば、局所作用型麻薬または局所麻酔剤であってもよい。痛み低減物質の例としては、アルチカイン、塩基性没食子酸ビスマスとリドカインの組み合わせ、塩化ベンゼトニウムと尿素とポリドカノールの組み合わせ、ベンゾカイン、ベンゾカインと塩化セチルピリジニウムの組み合わせ、ベンゾカインとクロルヘキシジンの組み合わせ、ブフェキサマクと塩基性没食子酸ビスマスとリドカインの組み合わせ、ブピバカイン、塩化セチルピリジニウムとベンゾカインの組み合わせ、塩化セチルピリジニウムと塩化デカリニウムとリドカインの組み合わせ、シンコカイン、フルオコルトロンとリドカインの組み合わせ、カミツレ花とリドカインの組み合わせ、リドカイン、リドカインとプリロカインとメピバカインの組み合わせ、オキセタカインと水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの組み合わせ、フェナゾンとプロカインの組み合わせ、ポリクレスレンとシンコカインの組み合わせ、ポリドカノール、ポリドカノールとヘキシルレゾルシノールの組み合わせ、プリロカイン、プロカイン、キニソカイン、ロピバカイン、チロスリシンと臭化セトリモニウムとリドカインの組み合わせ、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0051】
本明細書に記載する実施形態では、マイクロニードル19は互いに実質的に同一である。個々のマイクロニードル19の長さは、約0.2から約3ミリメートルの範囲内で構成される。各マイクロニードル19の長さは、マイクロニードルの材料によっておよび/または使用される痛み低減物質によって異なる。本明細書に記載する実施形態では、各マイクロニードル19は鋼から作製される。本明細書に記載する実施形態では、各マイクロニードル19は少なくとも部分的に実質的に円筒形である。特に、各マイクロニードル19は円形の断面を有し、約40から約150マイクロメートルの間の範囲の直径を有する。各マイクロニードル19の直径もまた、マイクロニードルの材料によっておよび/または使用される痛み低減物質によって異なる。本発明をこの特定のタイプのマイクロニードルに限定することは意図していないことに留意すべきである。たとえば、マイクロニードル19は、円錐形、管状、または角錐形などの、異なる形状を有してもよい。代替の実施形態では、アレイ18は、異なるマイクロニードルを混合したものを含む。たとえば、アレイ18は、様々な長さ、直径、または形状を有するマイクロニードルを含んでもよい。
【0052】
マイクロニードル19のアレイ18は実質的に円形であってもよく、約10から約30ミリメートルの間で構成される直径を有してもよい。マイクロニードル19のアレイ18は、約70本から約7000本のマイクロニードルを含んでもよい。たとえば、この実施形態では、アレイ18は約30ミリメートルの直径を有し、1ミリメートルあたり約10本のマイクロニードルを含む。本明細書に記載する実施形態におけるアレイ18のマイクロニードル19の数はしたがって、約7000本のマイクロニードルを含む。変形例では、アレイ18は約10ミリメートルの直径を有し、1ミリメートルあたり約1本のマイクロニードルを含む。この変形例におけるアレイ18のマイクロニードル19の数はしたがって、約70から80本のマイクロニードルで構成される。2つの連続したマイクロニードル19の間の距離は、各マイクロニードル19の直径よりも約1から3倍大きい。2つの連続したマイクロニードルの間の距離は、約40マイクロメートルから約1ミリメートルの間、特に約80マイクロメートルから約450マイクロメートルの間で構成することができる。本明細書に記載する実施形態では、アレイ18は概ね円形の形状を有する。ただし、本発明をアレイ18に関してこの特定の形状に限定することは意図していないことに留意すべきである。たとえば、アレイ18は方形または矩形であってもよい。
【0053】
デバイス10は無菌包装される。別法として、またはこれに加えて、痛み低減物質を注射する前に注射エリアを消毒できるように、アレイ18を抗菌剤または殺菌剤を含むコーティングで覆ってもよい。この用途の文脈では、用語「殺菌する」、「消毒する」、または類似のものは、皮膚の表面上に存在する微生物の少なくとも一部を殺す、および/またはそれらの感染力を失わせることを意味する。
【0054】
チャンバ25は、チャンバ25に摺動可能に装着される栓を含む。栓は、チャンバ25内で摺動して、痛み低減物質をマイクロニードル19に向けて導き、このことにより痛み低減物質をデバイス10から排出するように構成される。別法として、チャンバ25は、チャンバ25に注射部位に向けて力が加えられるときに、チャンバ25からマイクロニードル19を通して痛み低減物質が排出されるように、可撓性材料で作製してもよい。更なる代替の実施形態では、チャンバ25は、破断可能な膜またはフィルムを含む。使用時、チャンバ25は加圧された状態になり、破断可能なフィルムが破れ、この結果、痛み低減物質が中空のマイクロニードル19を通って流れることができるようになる。更に別の代替の実施形態では、チャンバ25は軟質の材料で作製され、使用時、主針17は、マイクロニードル19に向けて痛み低減物質を放出できるように、チャンバ25に穿孔する。
【0055】
図2Bに示されているように、チャンバ25と中空のマイクロニードル19との間に、痛み低減物質を注射する前に痛み低減物質を保持するための、感圧性の膜27などの透過性の膜を設けてもよい。使用時、痛み低減物質は様々な方法で、たとえば拡散によっておよび/または流体力学に従って、膜27を通過して流れる。痛み低減物質が拡散によって流れるとき、痛み低減物質はまず膜27内で溶解する。チャンバ25と膜27との間の化学ポテンシャルの勾配により、チャンバ25内および膜27内の化学ポテンシャルが等しくなるまで、すなわちチャンバ25と膜27との間の界面において平衡に達するまで、チャンバ25から膜27に向かって痛み低減物質が拡散することが保証される。痛み低減物質はまた、流体力学に従ってまたは対流によって、膜27に向かって流れる。膜27は、精密ろ過および/または限外ろ過で使用されるタイプの膜、たとえば、溶液から高分子を、分散液からコロイドを、分離するために、またはバクテリアを除去するために、使用される膜であってもよい。この工程中、膜27上に保持される痛み低減物質の粒子または分子は、膜27上に果肉状の塊またはろ過ケークを形成する。膜27のこの閉塞により、ろ過およびマイクロニードル19に向かう痛み低減物質の流れが妨げられる場合がある。この閉塞をクロスフローろ過の使用によって低減することができ、この場合、痛み低減物質は、膜27の前面に沿って接線方向に、浸透側または膜27の背面に対して正圧で流れる。痛み低減物質の粒子のうち膜孔サイズよりも小さいものが、膜27を透過液またはろ過液として通過し、残りの部分が膜27の前面上に残余分として保持される。前面上の接線方向の流れにより、ろ過ケークを砕きファウリングを低減するせん断応力が生み出される。
【0056】
アレイ18はハウジング11に対して、マイクロニードル19の近位端がデバイス10から突出するように、および、デバイス10が注射エリア上に設置されると、マイクロニードル19が皮膚を貫通および/または内部組織に貫入および/または患者の血管壁を貫通するように、配置されている。この実施形態では、アレイ18はデバイス10内に、マイクロニードル19がハウジング11に対して少なくとも2つの異なる位置をとるように配置されている。具体的には、アレイ18は、ハウジング11に対して後退位置と展開位置との間で可動である。後退位置では、アレイ18はデバイス10内に引き込まれている、すなわち、マイクロニードル19はハウジング11内に少なくとも部分的に引き込まれている。展開位置では、アレイ18はデバイス10から突出している、すなわち、マイクロニードル19の先端部は、ハウジング11の近位領域20から突出している。代替の実施形態では、アレイ18はハウジング11に対して固定される。
【0057】
起動機構14はハウジング11内に配設される。起動機構14は、主針17を収納位置と使用位置との間で駆動するように、およびカートリッジ15内でピストン23を駆動するように、構成される。同様に、起動機構14は、アレイ18を後退位置と展開位置との間で駆動するように、およびチャンバ25内で栓を駆動するように、構成される。特に、起動機構14は、薬剤を注射する前に痛み低減物質が患者の身に注射されるように、主針17を収納位置から使用位置に向けて駆動する前に、アレイ18を後退位置から展開位置に向けて駆動するように、構成される。起動機構14は、痛み低減物質が患者の体内に注射された後の所定の時間期間の最後に、主針17を駆動するように適用される。たとえば、痛み低減物質の注射の終わりから主針17のトリガまでの間の時間は、皮膚のタイプ、身体における注射部位の位置、薬剤、および/または薬剤の圧力に応じて、1秒またはそれ以上から1分までの間で構成される。この目的のために、起動機構14は、痛み低減物質の注射後に所定の時間期間の間主針17のトリガを遅らせるように構成された、タイマを含んでもよい。これにより、薬剤を注射する前に痛み低減物質が患者の体内で効果を発揮するのに、たとえば注射部位を麻酔するのに、十分な時間を提供することができる。起動機構14は、ボタン22を押すことによってトリガされる。
【0058】
本発明による薬剤注射デバイス10の動作についてここで説明する。
【0059】
最初は、主針17は収納位置にある、すなわち、主針17はハウジング11内に引き込まれている。アレイ18は後退位置にある、すなわち、マイクロニードル19の先端部はハウジング11内に引き込まれている。
【0060】
使用時、キャップアセンブリ12はハウジング11から引き離され、デバイス10は患者の皮膚上の注射部位上に設置される。次いで、ボタン22が押され、起動機構14がトリガされる。起動機構14は、アレイ18が後退位置から展開位置に向けて移動するように、アレイ18を駆動する。アレイ18が展開位置に向かって移動する間に、マイクロニードル19は、マイクロニードル19が患者の皮膚に達しこれを貫通するまで、注射部位に向かって移動する。アレイ18を覆う殺菌コーティングにより、痛み低減物質を注射する前に注射エリアが消毒される。次いで、起動機構14は、チャンバ25内で摺動する栓をデバイス10の近位末端部に向かって駆動して、膜27を通しておよびマイクロニードル19を通して、患者の体内に、たとえば患者の皮膚および/または内部組織および/または血管壁の中に、痛み低減物質を排出させる。
【0061】
痛み低減物質の注射が実行されて注射エリアが無感覚になると、起動機構14は後退位置に向かって戻るようにアレイ18を駆動し、この結果、マイクロニードル19は注射部位から離れる方へ移動する。次いで、所定の時間期間の後で、起動機構により主針17が収納位置から使用位置に向けて駆動される。主針17は、主針17が患者の皮膚に達しこれを貫通するまで、注射部位に向かって移動する。注射部位は痛み低減物質によって無感覚になっているので、主針17が皮膚を貫通するときに患者が感じる痛みが低減される。起動機構14は次いで、ピストン23をデバイス10の近位領域20に向けて駆動して、主針17を通して薬剤を排出させる。この結果、良く知られたようにして薬剤が患者に注射される。注射後、起動機構14は、収納位置に向かって戻るように主針17を駆動し、この結果、主針17は注射部位から離れる方へ移動する。その後デバイス10は、廃棄、または以降の使用のために準備することができる。
【0062】
図3Aおよび
図3Bには本発明の更なる実施形態が描かれている。同様の構成には同じ参照番号を維持し、かかる同様の構成の詳細な説明は繰り返さない。
【0063】
この更なる実施形態では、デバイス110は、マイクロニードル119のアレイ118が表面に配設される、箔または金属シート28を含む。マイクロニードル119の表面は、痛み低減物質のコーティング29で覆われている。コーティング29は、高濃度の麻酔クリームまたは軟膏を含んでもよい。アレイ118は、様々な方法で製作することができる。たとえば、アレイ118は、熱成形する、または深絞り成形した金属から作製する、または硬質プラスチックから作製することができる。痛み低減物質のコーティング29を、金属シート28の表面の、マイクロニードル119上におよび/またはマイクロニードル119間に、霧状にして振り掛けることができる。マイクロニードル119は、中実のマイクロニードル119であってもよい。別法として、マイクロニードル119は、痛み低減物質が充填済みである中空のマイクロニードル119であってもよい。
【0064】
上記した実施形態では、薬剤送達デバイスは、自動注射器であるものとして記載されている。ただし、本発明をこの特定のタイプの薬剤の送達デバイスに限定することは意図しておらず、他のタイプのデバイス、たとえばパッチポンプデバイスが、本発明の範囲内に属することが意図されている。
【0065】
上記した実施形態では、薬剤送達デバイスは、マイクロニードルのアレイを含む痛み低減デバイスを含むものとして記載されている。しかしながら、本発明をこの特定のタイプの薬剤送達デバイスに限定することは意図しておらず、他のタイプのデバイス、たとえば、薬剤を注射する前に痛み低減物質を予備的に注射するための補助的な注射針を痛み低減デバイスが含んでいるデバイスが、本発明の範囲内に属することが意図されている。
【0066】
用語「薬物」または「薬剤」は、本明細書において同意語として使用され、1つまたはそれ以上の医薬品有効成分または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物と、場合により、薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤を示す。医薬品有効成分(「API」)とは、最も広範な言い方で、ヒトまたは動物に生物学的影響を及ぼす化学構造のことである。薬理学では、薬物または薬剤が、疾患の処置、治療、予防、または診断に使用され、またはそれとは別に、身体的または精神的健康を向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限られた継続期間、または慢性疾患では定期的に、使用される。
【0067】
以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つのAPI、またはその組み合わせを含むことができる。APIの例としては、分子量が500Da以下である低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが含まれ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込まれる。1つまたはそれ以上の薬物の混合物もまた企図される。
【0068】
用語「薬物送達デバイス」は、薬物または薬剤をヒトまたは動物の体内に投薬するように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。それだけには限らないが、薬物送達デバイスは、注射デバイス(たとえばシリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、潅流システム、または眼内、皮下、筋肉内、もしくは血管内送達にあわせて構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば鼻用または肺用)、埋め込み型デバイス(たとえば、薬物またはAPIコーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムとすることができる。ここで説明される薬物は、たとえば24以上のゲージ数を有する、たとえば皮下針である針を含む注射デバイスでは特に有用であり得る。
【0069】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含まれる。薬物容器は、たとえば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つもしくはそれ以上の薬物の保存(たとえば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の固体もしくは可撓性の容器とすることができる。たとえば、場合によって、チャンバは、少なくとも1日(たとえば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を収納するように設計される。場合によって、チャンバは、約1カ月から約2年の間薬物を保存するように設計される。保存は、室温(たとえば約20℃)または冷蔵温度(たとえば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。場合によって、薬物容器は、投与予定の医薬製剤の2つまたはそれ以上の成分(たとえばAPIおよび希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成される。たとえば、2つのチャンバは、これらが(たとえば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成される。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成される。
【0070】
本明細書において説明される薬物送達デバイス内に含まれる薬物または薬剤は、数多くの異なるタイプの医学的障害の処置および/または予防に使用される。障害の例としては、たとえば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症が含まれる。障害の別の例としては、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチがある。APIおよび薬物の例としては、たとえば、それだけには限らないが、ハンドブックのRote Liste 2014、主グループ12(抗糖尿病薬物)または主グループ86(腫瘍薬物)、およびMerck Index、第15版などに記載されているものがある。
【0071】
1型もしくは2型の糖尿病、または1型もしくは2型の糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物、またはそれらの任意の混合物が含まれる。本明細書において使用される用語「類似体」および「誘導体」は、元の物質と構造的に十分に類似しており、それによって同様の機能または活性(たとえば治療効果性)を有することができる任意の物質を指す。特に、用語「類似体」は、天然のペプチドの構造、たとえばヒトのインスリンの構造から、天然のペプチド中に見出される少なくとも1つのアミノ酸残基を欠失させるおよび/もしくは交換することによって、ならびに/または少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換されるアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基、または他の天然の残基もしくは完全に合成によるアミノ酸残基とすることができる。インスリン類似体は「インスリン受容体リガンド」とも呼ばれる。特に、用語「誘導体」は、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば、脂肪酸)が1つまたはそれ以上のアミノ酸に結合している、天然のペプチドの構造、たとえばヒトのインスリンの構造から式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然のペプチド中に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失され、かつ/もしくはコード不可能なアミノ酸を含む他のアミノ酸によって置換されていてもよく、または、コード不可能なアミノ酸を含むアミノ酸が、天然のペプチドに付加されていてもよい。
【0072】
インスリン類似体の例としては、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置換されているヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンがある。
【0073】
インスリン誘導体の例としては、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、Levemir(登録商標))、B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ω-カルボキシヘプタデカノイル-γ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、Tresiba(登録商標))、B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンがある。
【0074】
GLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストの例としては、たとえば、リキシセナチド(Lyxumia(登録商標)、エキセナチド(エキセンディン-4、Dyetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Victoza(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(Syncria(登録商標))、デュラグルチド(Trulicity(登録商標))、rエキセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン(Eligen)、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenがある。
【0075】
オリゴヌクレオチドの例としては、たとえば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセンナトリウム(Kynamro(登録商標))がある。
【0076】
DPP4阻害剤の例としては、ビルダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンがある。
【0077】
ホルモンの例としては、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストが含まれる。
【0078】
多糖類の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、ハイランG-F20(Synvisc(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0079】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例には、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが含まれる。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(たとえばネズミ)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。たとえば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、これはFc受容体との結合を支持せず、たとえば、突然変異した、または欠失したFc受容体結合領域を有する。用語の抗体はまた、四価二重特異性タンデム免疫グロブリン(TBTI)および/または交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗体結合分子を含む。
【0080】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、単一特異性抗体フラグメント、または二重特異性、三重特異性、四重特異性および多重特異性抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの多重特異性抗体フラグメント、一価抗体フラグメント、または二価、三価、四価および多価抗体などの多価抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントの更なる例が当技術分野で知られている。
【0081】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0082】
抗体の例としては、アンチPCSK-9mAb(たとえばアリロクマブ)、アンチIL-6mAb(たとえばサリルマブ)、およびアンチIL-4mAb(たとえばデュピルマブ)がある。
【0083】
本明細書において説明される任意のAPIの薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける薬物または薬剤の使用に企図される。薬学的に許容される塩は、たとえば酸付加塩および塩基性塩である。
【0084】
本明細書に記載するAPI、調合物、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または削除)を、本発明の最大限の範囲および精神から逸脱することなく行うことができ、そこにはかかる修正形態およびそのありとあらゆる等価物が包含されていることを、当業者は理解するであろう。