(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】コンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法及び同方法用加振ビット
(51)【国際特許分類】
E04G 21/06 20060101AFI20220310BHJP
E04G 17/075 20060101ALI20220310BHJP
E04G 17/065 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
E04G21/06
E04G17/075 A
E04G17/065 A
(21)【出願番号】P 2020077645
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳司
(72)【発明者】
【氏名】槇島 修
(72)【発明者】
【氏名】折田 現太
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-143421(JP,A)
【文献】特開2002-180667(JP,A)
【文献】特開2000-271877(JP,A)
【文献】登録実用新案第3215768(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/00 -21/10
E04G 17/075
E04G 17/065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータにより所定間隔を保つように設置された型枠の間に打ち込まれ、加振によって締固められたコンクリートを、所定の時間放置する放置段階と、
所定の時間経過後
にセパレータに接続されたフォームタイを介し
て所定の加振時間でセパレータに振動を伝達する再振動締固め段階とを有
し、
前記再振動締固め段階は、電動ハンマを加振源とし、先端部にナットの緩み防止手段を備える加振ビットをフォームタイの固定ナットに被せるように押し付けて固定ナットの回転を防止しながら振動を伝達することを特徴とするコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法。
【請求項2】
前記所定の時間は打ち込まれたコンクリートのブリーディングの進行状況により決定される時間であり、所定の加振時間は加振源となる電動ハンマの最大加速度と振動数に基づき締固めに必要なエネルギーから求められる時間であることを特徴とする請求項
1に記載のコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法に使用する加振ビットであって、
前記加振ビットは電動ハンマに取り付けるためのシャンクと、先端部にナットの緩み防止手段を備え
、フォームタイの固定ナットに被せるように押し付けて固定ナットの回転を抑えながら電動ハンマの振動を伝達するように形成されることを特徴とする加振ビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの再振動締固め方法及び同方法用加振ビットに関し、特にセパレータにより所定間隔を保つように設置された型枠の間に打ち込まれたコンクリートを所定の時間放置した後、セパレータに直接または間接的に振動を伝達することによりセパレータ近傍のコンクリートに発生する欠陥の発生を解消する再振動締固め方法及び同方法用加振ビットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の壁面を形成する場合、セパレータにより所定間隔を保つように設置された型枠の間にコンクリートを打ち込み、その後打ち込みの際に巻き込まれた気泡を除去したり、型枠内の隅々までコンクリートを確実に行き渡らせたりするために、打ち込んだコンクリートにバイブレータにより振動を伝達して締固めを行い、コンクリートの品質を向上させる工法が用いられる。
【0003】
また、壁面が高い場合は一度にコンクリートを打ち込まず、複数回に分けて打ち込みが行われるため、下側の打ち込み層と上側の打ち込み層との間に不連続な欠陥が生じないようにするためにもバイブレータによる振動の伝達が行われ、上層と下層のコンクリートの一体化が図られる。
【0004】
ここで、型枠内に打ち込まれ、締固められたコンクリートは、時間の経過に伴い次第に凝結するが、元々コンクリートはセメント、水、細骨材、粗骨材などの混合物であるため、凝結の過程で水が浮かび上がってくる「ブリーディング現象」が知られている。これに伴い、水以外の成分が沈下する「沈下現象」が生ずるが、型枠内には型枠に固定されたセパレータ及びセパレータの両端にはPコーンが配置されている。これによりセパレータ及びPコーンの下部のコンクリートでは沈下を生ずるが、セパレータ及びPコーンの上部のコンクリートでは、セパレータ及びPコーンにより沈下が阻害されるため、セパレータ及びPコーンの下部界面近傍に空隙が発生しやすい。セパレータは型枠内を貫通する形で設置されているため、このような空隙は壁面を貫通し、漏水の原因となりやすい。
【0005】
セパレータ及びPコーンの下部界面近傍の空隙を解消するためには、沈下を生じなくなった時点で、再度振動を加えセパレータ及びPコーン近傍のコンクリートを再び流動させて充填させることが望まれる。沈下を生じなくなるまでには上層に新たなコンクリートの層が打ち込まれることが多いため、複数層打ち込まれた後の上部からバイブレータを型枠内に挿入し、上層を貫通させて、目的の場所に的確に到達させて再振動を行うことは非常に難しい。
【0006】
また、バイブレータは電源ケーブルなど外部からエネルギーを供給するものが多く、電源ケーブルなどを引き回しながらこまめに場所を変えて振動を伝達する締固め作業も容易ではない。
そこで、再振動による締固めは、側面から振動を伝達する方法が有望である。
型枠の側面から型枠内のコンクリートに振動を伝達する方法として、型枠の合板部分に直接押し当てる壁型バイブレータ、横端太と型枠の合板間に差し込むクサビ型バイブレータなどが一般的である。
【0007】
なお、特許文献1には型枠を介して型枠内コンクリートを加振する型枠バイブレータと、型枠内コンクリートの打設高さを検知し型枠バイブレータの作動を開始させるコンクリートセンサと、型枠バイブレータの加振力と加振時間の積算値を検知し型枠バイブレータの作動を停止する振動センサからなるコンクリート自動締固め装置が開示されている。
【0008】
特許文献1によれば、コンクリートセンサにより型枠内コンクリートの打設高さを検知し、それにより予め型枠に取り付けた型枠バイブレータを作動させるため、打設されたコンクリートの高さに応じて、自動的に振動を伝達することができ、作業の負荷も軽減される。
【0009】
型枠の側面から振動を伝達するには、壁型バイブレータやクサビ型バイブレータ、特許文献1のように予め取付けるバイブレータ、特許文献2に記載の様な自動ハンマを使用することもできる。しかし、いずれも型枠を介してコンクリートを振動させるため、特に振動させたいセパレータ近傍のコンクリートに集中的に振動を伝達することは難しい。
【0010】
そこでセパレータ近傍のコンクリートに効果的に振動を伝達することが望まれるが、特許文献2に記載の自動ハンマのように先端が平坦なビットを、セパレータ又はセパレータに接続されるフォームタイ(登録商標)に押し付けるようにして振動させると、フォームタイの固定ナットが振動で緩んでしまうという課題があることも分かってきている。
このため、コンクリートのブリーディングが終了し沈下が生じなくなった時点でセパレータ又はセパレータに接続されるフォームタイに効果的な振動を伝達し、セパレータ近傍の欠陥の発生を解消するコンクリートの再振動締固め方法及び、再振動締固めの加振中にも固定ナットの回転による緩みの防止が可能な加振ビットの提供が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平02-157359号公報
【文献】特開2010-201585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の締固め方法における問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、セパレータにより所定間隔を保つように設置された型枠の間に打ち込まれたコンクリートを所定の時間放置した後、セパレータに直接または間接的に振動を伝達することによりセパレータ近傍に発生した貫通性の空隙を解消するコンクリートの再振動締固め方法及び同方法用加振ビットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法は、セパレータにより所定間隔を保つように設置された型枠の間に打ち込まれ、加振によって締固められたコンクリートを、所定の時間放置する放置段階と、所定の時間経過後にセパレータに接続されたフォームタイを介して所定の加振時間でセパレータに振動を伝達する再振動締固め段階とを有し、前記再振動締固め段階は、電動ハンマを加振源とし、先端部にナットの緩み防止手段を備える加振ビットをフォームタイの固定ナットに被せるように押し付けて固定ナットの回転を防止しながら振動を伝達することを特徴とする。
【0015】
前記所定の時間は打ち込まれたコンクリートのブリーディングの進行状況により決定される時間であり、所定の加振時間は加振源となる電動ハンマの最大加速度と振動数に基づき締固めに必要なエネルギーから求められる時間であることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するためになされた本発明による加振ビットは、コンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法に使用する加振ビットであって、電動ハンマに取り付けるためのシャンクと、先端部にナットの緩み防止手段を備え、フォームタイの固定ナットに被せるように押し付けて固定ナットの回転を抑えながら電動ハンマの振動を伝達するように形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るコンクリートの再振動締固め方法によれば、締固められたコンクリートを、所定の時間放置した後に空隙が発生しやすいセパレータに直接、又はセパレータに接続されたフォームタイを介して間接的に、セパレータを振動させるため、その振動によりセパレータ近傍のコンクリートが再び流動し、セパレータ近傍の空隙の解消や、新たな空隙の発生の防止が可能となる。その結果、完成後のコンクリートの品質が向上し、セパレータからの漏水を防止するコンクリート構造物の提供が可能となる。
【0018】
本発明に係るコンクリートの再振動締固め方法によれば、セパレータ近傍に集中的に振動を伝達することができるため、比較的出力の小さい充電式の電動ハンマでも再振動締固めを行うことができる。また加振時間は、加振源となる電動ハンマの最大加速度と振動数に基づき、締固めに必要なエネルギーから求められる時間であることから、加振源の種類に応じて適切な加振条件を設定できるため、加振源としては様々な仕様の加振源を使用することが可能である。
【0019】
本発明に係るコンクリートの再振動締固め方法用加振ビットによれば、先端部にナットの緩み防止手段を備えることから、セパレータ又はフォームタイの固定ナットに被せるように押し付けて使用することで固定ナットの緩みを防止しながら振動を伝達することができ、直接加振するフォームタイに連結したセパレータに合理的に直接電動ハンマの振動を伝達することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法を概略的に示す図である。
【
図2】コンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙の発生と再振動締固めによる空隙の解消効果を概略的に示す断面図である。
【
図3】コンクリートの打ち込み及び締固め後の放置に伴うブリーディング量の変化例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固めの効果を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態による加振ビットの構造を概略的に示す図である。
【
図6】本発明の実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係るコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法を実施するための形態の具体例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法を概略的に示す図である。
【0022】
図1を参照すると、セパレータ3の両端に取り付けられたPコーン4によって所定の間隔を保つように設置された2枚の型枠1の間に、コンクリート2が打ち込まれている。型枠1の外側からは縦方向と横方向に組み合わされた端太材7と、端太材7を固定するフォームタイ5、端太座金8、及び固定ナット6とが型枠1を保持している。
図1では1つのセパレータ3を含む断面を示すが、セパレータ3は型枠1に対して水平方向、高さ方向に複数が格子状に設置され、それぞれが
図1に代表されるような構成要素の組み合わせにより型枠1を支持する。
【0023】
このように1対の型枠1を所定の間隔を保って設置した上で、その間にコンクリート2を打ち込んで硬化させる工法は多くの構造物を建造する際に通常行われる工法である。コンクリート2は、1対の型枠1の間に打ち込まれた状態では、打ち込みの際に気泡を巻き込んだり、またコンクリート2自体の流動性の影響で、十分隅々まで行き渡らなかったりすることがあるため、そのまま硬化させてしまうと気泡や未充填部を含む不完全な構造体となってしまうおそれがある。
【0024】
そこで、コンクリート2を打ち込んだ後に、振動機により打ち込んだコンクリート2に振動を加え、気泡や未充填部の解消を行うコンクリート2の締固めが行われる。締固めの後、放置する間にコンクリート2の凝結が進行する。この凝結の過程でコンクリート2のブリーディング現象により水が浮かび上がるとともに水以外の成分の沈下現象が発生する。しかし
図1に示すようにコンクリート2の中にはPコーン4を取り付けたセパレータ3が貫通するように設置されているため、Pコーン4及びセパレータ3の下側では沈下現象が進むが、Pコーン4及びセパレータ3の直上のコンクリート2はPコーン4及びセパレータ3に遮られて沈下現象が進行しない。その結果Pコーン4及びセパレータ3の下面に空隙が生じやすい。
【0025】
本発明によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法は、このようなPコーン4及びセパレータ3の下面に生じる空隙に対し、直接又はフォームタイ5を介してセパレータ3に振動を伝達し、セパレータ3近傍のコンクリート2を再び流動させることで空隙を解消する方法を提供するものである。セパレータ3への振動の伝達を効率的にまた作業性よく行うために、本発明による実施形態では電動ハンマ9を加振源とし、専用の加振ビット10を使用して、加振ビット10をセパレータ3又はフォームタイ5の固定ナット6に被せるように押し付けながら振動を伝達する。単純にセパレータ3やフォームタイ5に振動を伝達すると、固定ナット6が振動により緩み、型枠1の固定が緩んでしまうことが起こり得る。実施形態の加振ビット10には
図5を参照して後述するようにナットの緩み防止手段が設けられており、加振ビット10を固定ナット6に被せるように押し付けることにより、固定ナット6の回転を防止し効率的に振動を伝達することができる。
【0026】
図1に示す実施形態では、型枠1を外側から支持するのにフォームタイ5を使用し、フォームタイ5に端太材7を押さえる端太座金8を挿通後、固定ナット6を螺合することで端太材7を介して型枠1を支持している。フォームタイ5を取り付けるためのPコーン4の軸足を延長させてフォームタイ5と同様にPコーン4の軸足に端太材7を押さえる端太座金8を挿通後、固定ナット6を螺合することでも型枠1の固定は可能である。更にはセパレータ3を延長し、延長部に設けたねじに端太材7を押さえる端太座金8を挿通後、固定ナット6を螺合することでも型枠1を固定することは可能である。本発明によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法は、このようにセパレータ3、又はその延長上に型枠1を直接または間接に支持するために取り付ける構成要素(Pコーン4の軸足、フォームタイ5など)に振動を伝達する方法であり、加振ビット10が振動伝達時に緩み防止をするのは、最終的に型枠1を支持するためにセパレータ3または上記構成要素に螺合する固定ナット6である。
【0027】
コンクリート2のブリーディング現象に伴う沈下現象は、放置時間の経過とともに徐々に進行するため、放置時間の早い段階で再振動締固めを実施すると、その時点での空隙は解消されるが、その後の放置時間に継続して進行する沈下現象により再度空隙が生じる虞がある。一方放置時間を取りすぎるとコンクリート2の凝結が進行し流動性が低下する結果、再振動締固めを実施しても空隙は解消されないで残存してしまう。このため本発明の実施形態での再振動締固めは、所定の時間、即ちブリーディングの進行状況により決定される時間の放置後に実施する。
【0028】
再振動締固めを実施するにあたり、振動を伝達するための加振時間も重要な要素である。加振時間が短いとコンクリート2に再び十分な流動を起こさせることができず、発生した空隙を解消できない。一方加振時間が長すぎると作業効率の低下をもたらすとともにセパレータ3の近傍のコンクリート2の過振動による材料分離による構成材料の不均一が品質低下を及ぼすことも懸念されるようになる。そのため適切な加振時間で振動を伝達する必要がある。
そこで、本発明の実施形態では所定の加振時間、即ち加振源となる電動ハンマ9の最大加速度と振動数に基づき締固めに必要なエネルギーから求められる時間でセパレータ3に振動の伝達を行う。
【0029】
締固めに必要なエネルギーは、t秒間にコンクリート2が受ける締固めエネルギーをEt(J/l)として(1)式のように表すことができる。
ここに、
tは加振時間(s)
α
maxは最大加速度(m/s
2)
fは振動数(s
-1)
ρ
0は単位容積質量(kg/l)
である。
予め締固めに必要なエネルギーを試験サンプルなどで評価しておくことにより、(1)式を用いて加振時間tを求めることができる。
【0030】
本発明の実施形態では前述のように加振ビット10は専用のものを使用するが、加振ビット10が取り付けられ、コンクリート2に振動を与えることのできる電動ハンマ9であれば種類は問わない。一実施形態では充電式の電動ハンマ9を使用する。これにより再振動締固めを実施する際に電動ハンマ9のケーブルを引き回しながら移動して作業を行う必要がなく、高い作業性を確保することが可能である。
このように市販の様々な電動ハンマ9を使用することが可能であるが、使用する電動ハンマ9の振動数や最大加速度から(1)式を用いて電動ハンマ9毎の加振時間tを求め、求めた加振時間でセパレータ3に振動の伝達を行う。
【0031】
図2は、コンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙の発生と再振動締固めによる空隙の解消効果を概略的に示す断面図である。
図2(a)は型枠1へのコンクリート2の打ち込み及び締固めが終了した状態を示す断面図であり、
図2(b)は所定の放置時間後のコンクリートの状態を示す図であり、
図2(c)は実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法を施した後の状態を示す断面図である。尚
図2(a)~(c)は同一箇所の時間経過を示すものであるので共通の構成要素の符号は
図2(a)に纏めて示す。
【0032】
図2(a)を参照すると、締固めが終了した状態ではコンクリート2内の気泡や未充填箇所は解消され、コンクリート2を貫通するように設置されているセパレータ3及びPコーン4の周辺にも隙間なくコンクリート2が充填されている。
【0033】
図2(b)を参照すると締固めが終了した後、ブリーディング現象に伴う沈下現象が生じる。所定の放置時間後においてセパレータ3及びPコーン4の下方や水平方向に隣接するセパレータ3及びPコーン4の間のコンクリート2では水以外の成分が沈下するが、セパレータ3及びPコーン4の直上のコンクリート2では沈下が阻害され、その結果、セパレータ3及びPコーン4の下面側に空隙30が生じたり、セパレータ3及びPコーン4を中心として斜め上方にひび割れを生じたりする。
このままの状態で放置を続けコンクリート2が凝結してしまうと、セパレータ3及びPコーン4の下面側にコンクリート2を貫通する空隙30が残ってしまい、例えばこのコンクリート2が構造物の外壁として使用される場合、雨水が進入するような不具合が発生する原因となる。
【0034】
図2(c)を参照すると、フォームタイ5に電動ハンマ9に取り付けた加振ビット10を押し当てて振動を伝達し、再振動締固めを実施した後にはセパレータ3及びPコーン4の周辺のコンクリート2が再び流動し空隙30が解消されている。
【0035】
図3は、コンクリートの打ち込み及び締固め後の放置に伴うブリーディング量の変化例を示す図である。
図3を参照すると最初の30分くらいまで、ブリーディング量は殆ど増加しないが、30分を経過した付近から増加し、その後時間経過とともに直線若しくは直線に近いS字状のカーブを描いてブリーディング量が増加する。その後250分付近で増加が止まり、その後一定となっている。
【0036】
図3に示すようなブリーディング量の時間変化を示すようなコンクリート2の場合、ブリーディング量が増加している約30分から約250分の間はブリーディングの進行に伴うコンクリート2の沈下現象が生じているとみることができる。そこでブリーディング量の増加が止まる約250分の時点を狙って再振動締固めを実施する。
図3に示すブリーディングの変化例は1例であって、ブリーディング量の時間変化はコンクリート2の成分によって変わってくるため、実施形態では、使用するコンクリート2のブリーディング特性は予め、又はコンクリート2の打ち込みと並行して評価を行い、ブリーディングの進行が止まる時点を狙って再振動締固めを実施する。
【0037】
図4は、本発明の実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固めの効果を示す図である。
図4は、
図1に示すコンクリートの硬化後にセパレータ3を含む円筒状の試料を切り出し、乾燥させ、次に、真空下で十分に蛍光エポキシ樹脂に浸漬した後取り出して、エポキシ樹脂が硬化するまで静置し、さらに、試験体の中央を横断して円板状に切り出して試料2とし、残りの両端について縦にセパレータ3を含む面で切断して試料1および3として、合計3試料の断面に紫外線を照射し、観察した写真である。
【0038】
図4(a)はコンクリート2に再振動締固めを実施せずに硬化させた場合の試料の写真であり、
図4(b)はブリーディングの進行状況により決定される時間で再振動締固めを実施した試料の写真である。
図4(a)を参照すると、試料2についてはセパレータ3の下面側とセパレータ3を中心として左右の斜め上方に延びる蛍光エポキシ樹脂20の存在が観察される。即ち、セパレータ3の下面側には蛍光エポキシ樹脂20が侵入しうる空隙30が生じており、セパレータ3の斜め上方に延在するひび割れが生じていることがわかる。また試料(1、3)のセパレータ3の下面側には連続する蛍光エポキシ樹脂20が認められ、セパレータ3の下面に沿ってコンクリート2を貫通する空隙30が生じていることが認められる。
【0039】
それに対し
図4(b)を参照すると、試料2の内部には蛍光エポキシ樹脂20は侵入しておらず、再振動締固めを実施したことによりセパレータ3の周辺の空隙30及びひび割れは解消されていることがわかる。また縦断面用の試料(1、3)の内、試料1についてはセパレータ3の下面側に蛍光エポキシ樹脂20の侵入は生じていない。試料3についてはセパレータ3の下面側に蛍光エポキシ樹脂20が侵入している。これはセパレータ3に対し試料1側から振動を伝達したことに起因すると考えられる。セパレータ3に伝達した振動はセパレータ3を伝搬する間に減衰するため、コンクリート2に再度の流動を生じさせる有効な範囲には限界がある。そこでコンクリート2の厚さが厚い場合はセパレータ3の両側から再振動締固めを実施して振動を伝達することが必要である。
【0040】
一実施形態では、予めセパレータ3に振動を伝達する時間と、セパレータ3近傍の空隙30が解消される振動を伝達した側の型枠1からの距離による、加速度の減衰の関係を求め、コンクリート2の厚さが厚い場合はコンクリート2の厚さの1/2の範囲に有効となる加振時間でコンクリート2の両側からセパレータ3に振動を伝達する。
【0041】
図5は本発明の実施形態による加振ビットの構造を概略的に示す図である。
図5(a)は加振ビットを先端側から見た図であり、
図5(b)はA-A線に沿って切断した断面図である。
図5を参照すると、本発明の実施形態による加振ビット10は、先端にセパレータ3又はフォームタイ5の固定ナット6に被せて固定ナット6の回転を止めるナットの緩み防止手段12を備え、後端には電動ハンマ9に取り付けるためのシャンク11を備える。
従来技術に使用する壁型バイブレータでは、加振ビット10の先端は壁に押し当てるため平面的な形状のものが用いられる。しかしこうした加振ビット10を使用してフォームタイ5から再振動のための加振を行うと、フォームタイ5の固定ナット6が振動により緩んでしまう。ナットの緩み防止手段12は、電動ハンマ9からの振動を伝達中でも固定ナット6が回転して緩んでしまうのを防止するためのものである。
【0042】
固定ナット6は、前述のようにセパレータ3又はフォームタイ5に限らず、型枠1を固定するためにセパレータ3の延長上に取り付けられる構成要素に螺合して型枠1を固定する固定ナット6にも適用される。
こうした固定ナット6には通常六角ナットが使用されるため、実施形態ではナットの緩み防止手段12は、固定ナット6の外形形状に合わせた六角穴を備える。これに限らず六角ナットの再振動伝達中の回転が止められれば他の形状の穴であっても構わない。更には六角ナット以外の形状の固定ナット6の場合はその固定ナット6の回転を止めるような形状を備えるようにする。
尚、
図1に示すように固定ナット6を取り付けた状態で、フォームタイ5などのネジ部が固定ナット6の取付け部より長く突出することがある。そこで一実施形態では、加振ビット10の緩み防止手段12の奥行dは、固定ナット6の厚さと、固定ナット6を取り付けた状態で固定ナット6より突出するフォームタイ5などのネジ部長さとの合計長より長く形成する。
【0043】
シャンク11は電動ハンマ9に取り付けるため、使用する電動ハンマ9のビット取付け部の仕様に合わせたものとする。電動ハンマ9用のシャンク11の形状には六角棒、SDSプラス、SDSmaxなどの形状があるが、加振ビット10のシャンク11としてはいずれの形状でも構わない。
【0044】
加振ビット10は振動が加わるため、ナットの緩み防止手段12とシャンク11との組み合わせが変更できるような着脱部を備えると、振動により着脱部が損傷しやすく寿命が短くなってしまう。そこで実施形態では先端のナットの緩み防止手段12から後端のシャンク11までが一体の構造を有する。ここで一体とは着脱部を含まないことを意味し、異なる材料を溶接して一体化したような構造でもよい。
【0045】
図6は、本発明の実施形態によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙を解消する再振動締固め方法を説明するためのフローチャートである。
図6を参照すると、段階S610にてセパレータ3により所定間隔を保つように設置された型枠1の間にコンクリート2を打ち込む。
コンクリート2を打ち込んだ後、段階S620にて打ち込んだコンクリート2に振動機により振動を伝達し、締固めを行う。これにより打ち込み時の気泡や未充填部が解消する。
段階S610及び段階S620は本発明によるコンクリートの沈下に伴うセパレータ近傍の空隙30を解消する再振動締固め方法の前の準備段階に相当する。
【0046】
段階S620にて締固めが終了したコンクリート2を所定時間放置する。締固めが終了後コンクリート2はブリーディングが徐々に進行する。ブリーディングが進行している間はコンクリート2の水以外の成分の沈下が進行するので、ブリーディングの進行が止まり、沈下現象が収まる時点を見計らって再振動による締固めを実施するのが有効である。そこで放置する所定時間はブリーディングの進行状況により決定される時間である。通常、コンクリート2には、ブリーディングの進行が止まるまでの有効な放置する一定の所定時間が存在する。
【0047】
放置により所定時間が経過したところで段階S640にてセパレータ3に電動ハンマ9により振動を伝達して再振動締固めを行う。セパレータ3への振動の伝達はセパレータ3が最外部に突出している場合はセパレータ3に直接、セパレータ3の延長上にフォームタイ5などが接続されている場合はフォームタイ5を介してセパレータ3に振動を伝達する。
【0048】
また電動ハンマ9に取り付け振動を伝達するためのビットとしては専用の加振ビット10を使用し、振動伝達中に型枠1を最終的に外から固定する固定ナット6が緩まないよう加振ビット10のナットの緩み防止手段12を固定ナット6に被せて加振ビット10を押し付けるようにして振動を伝達する。このときの加振時間は、電動ハンマ9の最大加速度と振動数に基づき締固めに必要なエネルギーから求められる時間とすることで、セパレータ3近傍の空隙30を解消するのに必要な振動をセパレータ3に伝達することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲から逸脱しない範囲内で多様に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 型枠
2 コンクリート
3 セパレータ
4 Pコーン
5 フォームタイ
6 固定ナット
7 端太材
8 端太座金
9 電動ハンマ
10 加振ビット
11 シャンク
12 ナットの緩み防止手段
20 蛍光エポキシ樹脂
30 空隙