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7038213医療用潤滑性部材に用いる積層材料用組成物、医療用潤滑性部材に用いる積層材料、医療用潤滑性部材、及び医療機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】医療用潤滑性部材に用いる積層材料用組成物、医療用潤滑性部材に用いる積層材料、医療用潤滑性部材、及び医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20220310BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/04 120
A61L29/06
A61L29/12
A61L27/50 300
A61L27/34
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020531330
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028027
(87)【国際公開番号】W WO2020017533
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2018134502
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100202898
【弁理士】
【氏名又は名称】植松 拓己
(72)【発明者】
【氏名】猪股 壮太郎
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-074139(JP,A)
【文献】特表2011-500500(JP,A)
【文献】特開2006-235269(JP,A)
【文献】特開2000-248045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
A61L 29/00
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマーであるポリマーb1と、該ポリマーb1と架橋体を形成し得る反応性基を有する架橋性ポリマーb2とを含み、
該反応性基が下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基であって、
前記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種であって、
前記架橋性ポリマーb2の数平均分子量が1000以上である、医療用潤滑性部材に用いるための積層材料用組成物。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【請求項2】
医療用潤滑性部材に用いるための積層材料であって、
前記積層材料は、基材aと、該基材a上に配された層bとを有し、
該層bが、ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマーであるポリマーb1と、下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する架橋性ポリマーb2から形成された架橋体を含有する層であり、
前記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種であって、
前記架橋性ポリマーb2の数平均分子量が1000以上である、医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基及びハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【請求項3】
前記ポリマーb1が、下記式(1)で表される構造単位を有し、かつ、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位及び下記式(4)で表される構造単位の少なくとも1種を有する、請求項2に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【化1】
式中、R~Rは水素原子又は有機基を示す。Lは単結合又は2価の連結基を示す。n1は3~10000である。
【化2】
式中、R及びRは水素原子又は有機基を示す。
【化3】
式中、R、Rb1及びRb2は水素原子又は有機基を示す。
【化4】
式中、Rは水素原子又は有機基を示す。Rc1~Rc5は水素原子、ハロゲン原子又は有機基を示す。
【請求項4】
前記Rが下記式(5)で表される基又は含窒素有機基である、請求項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【化5】
式中、n2は1~10000である。R10は水素原子又は有機基を示す。*は結合部位を示す。
【請求項5】
前記n1が135~10000である、請求項又はに記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項6】
前記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド及びポリウレタンの少なくとも1種である、請求項2~のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項7】
前記架橋体中、前記架橋性ポリマーb2由来の構成成分の割合が30~90質量%である、請求項2~のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項8】
前記層bの表面が親水化処理されている、請求項2~のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項9】
前記基材aが、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも1種で構成される、請求項2~のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項10】
前記基材aがシリコーン樹脂である、請求項2~のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項11】
前記医療用潤滑性部材が、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓及びコンタクトレンズから選ばれる医療機器の部材として用いるためのものである、請求項2~10のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料。
【請求項12】
請求項2~11のいずれか1項に記載の医療用潤滑性部材に用いるための積層材料と、該積層材料を構成する前記層b上に配された、親水性ポリマーを含有する層cとを有する、医療用潤滑性部材。
【請求項13】
積層材料と、該積層材料を構成する層b上に配された、親水性ポリマーを含有する層cとを有する医療用潤滑性部材であって、
前記積層材料は、基材aと、該基材a上に配された前記層bとを有し、
前記層bが、ポリシロキサン構造を含むポリマーb1と、下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する架橋性ポリマーb2から形成された架橋体を含有する層であり、
前記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種であって、
前記架橋性ポリマーb2の数平均分子量が1000以上である、医療用潤滑性部材
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基及びハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【請求項14】
請求項13に記載の医療用潤滑性部材を用いた、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓及びコンタクトレンズから選ばれる医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用潤滑性部材に用いる積層材料用組成物、医療用潤滑性部材に用いる積層材料、医療用潤滑性部材、及び医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を診察ないし治療するために、血管、気管、消化管若しくはその他の体腔又は組織中に、挿入ないし適用される医療機器には、組織と接触した際に組織に損傷ないし炎症を生じさせないことが求められる。
このような医療機器用の材料として、シリコーン成分を含有する材料が開示されている。例えば特許文献1には、疎水性(メタ)アクリレートと親水性(メタ)アクリレートとからなる(メタ)アクリレート共重合体を含む抗血栓性材料が記載されている。この特許文献1には、疎水性(メタ)アクリレートがシリコーン(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種であること、また、(メタ)アクリレート共重合体が水不溶性で、かつ室温で粘性液状であることが記載されている。
また、特許文献2には、単官能直鎖シリコーン(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位と、親水性(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位とを有し、(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位の含有量が80質量%を超え、テトラメチレングリコールジメタクリレート等の重合性基を2つ以上有する多官能モノマー由来の繰り返し単位をさらに含むシリコーンハイドロゲルが記載されている。このシリコーンハイドロゲルは、弾性率、濡れ性及び透明性のバランスに優れた各種医療用具、特にコンタクトレンズ等の眼用レンズに好適に用いることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-289864号公報
【文献】国際公開第15/198919号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療機器が人体組織との接触を伴って使用される場合、医療機器と組織表面との摩擦が大きいと組織が傷ついてしまう。例えば、内視鏡は体腔内を摺動させて用いられるため、体腔内の組織と接触する表面部材の滑り性を高めることが重要である。体腔内は湿潤状態にあるため、医療機器(内視鏡)の表面部材は、特に湿潤状態における滑り性を高めることが求められる。
また、医療用チューブを体腔内に挿入し、このチューブ内に水を通しながらカメラ及び治具等を挿入して体腔内を観察したり、生検を採取したりする場合がある。この形態においては、湿潤状態におけるチューブ内壁とカメラ及び治具等との滑り性を高めることが求められる。
【0005】
上記の内視鏡及び医療用チューブ等で求められる滑り性を高めるため、表面部材として親水性潤滑コート層を有する医療用潤滑性部材が検討されている。この医療用潤滑性部材は、基材上に、下塗り層及び親水性潤滑コート層をこの順に有する構成を有する。この構成を有する医療用潤滑性部材の下塗り層は、基材と親水性潤滑コート層とを接着する役割を担っている。
本発明者が検討したところ、上記構成を有する医療用潤滑性部材は保管中に、経時変化により、基材と基材上の下塗り層との密着性が低下する場合があることがわかった。医療機器の品質、有効性及び安全性の確保の観点からは、医療機器に用いる医療用潤滑性部材には耐用期間の長期化が望まれる。基材と基材上の下塗り層との密着性は医療用潤滑性部材の耐用期間に影響するため、経時後も、優れた密着性が維持できることが求められる。
【0006】
従って、本発明は、基材と基材上に配された層との間の密着性に優れ、この密着性を、長期に亘り所望の優れたレベルで維持することができる医療用潤滑性部材の提供を可能とする、組成物及び積層材料を提供することを課題とする。また本発明は、基材と基材上に配された層との間の密着性に優れ、この密着性を、長期に亘り所望の優れたレベルで維持することができる医療用潤滑性部材を提供することを課題とする。また、本発明は、上記医療用潤滑性部材を用いた医療機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題に鑑み鋭意検討した結果、医療用潤滑性部材の保管時における経時的な上記密着性の低下は、基材中の低分子成分の、基材表面へのブリードアウト、空気中の二酸化炭素の吸着等による層の可塑化などが一因であることがわかってきた。本発明者がさらなる検討を重ねた結果、基材上に配する層を構成する成分として、ポリシロキサン構造を含むポリマーと、主鎖中に陰性元素を有する特定の架橋性ポリマーから形成された架橋体を用いることにより、上記のブリードアウト、二酸化炭素の吸着等による可塑化の影響を受けにくく、経時後も、基材と基材上に配された層との間の密着性を所望の優れたレベルで維持できることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明の上記課題は以下の手段により解決された。
<1>
ポリシロキサン構造を含むポリマーb1と、このポリマーb1と架橋体を形成し得る反応性基を有する架橋性ポリマーb2とを含み、
この反応性基が下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基であって、
上記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種であって、
上記架橋性ポリマーb2の数平均分子量が1000以上である、医療用潤滑性部材に用いる積層材料用組成物。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【0009】
<2>
医療用潤滑性部材に用いる積層材料であって、
上記積層材料は、基材aと、この基材a上に配された層bとを有し、
この層bが、ポリシロキサン構造を含むポリマーb1と、下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する架橋性ポリマーb2から形成された架橋体を含有する層であり、
上記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種であって、
上記架橋性ポリマーb2の数平均分子量が1000以上である、医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【0010】
<3>
上記ポリマーb1が、上記ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマーである、<2>に記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<4>
上記ポリマーb1が、下記式(1)で表される構造単位を有し、かつ、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位及び下記式(4)で表される構造単位の少なくとも1種を有する、<2>又は<3>に記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
【化1】
式中、R~Rは水素原子又は有機基を示す。Lは単結合又は2価の連結基を示す。n1は3~10000である。
【化2】
式中、R及びRは水素原子又は有機基を示す。
【化3】
式中、R、Rb1及びRb2は水素原子又は有機基を示す。
【化4】
式中、Rは水素原子又は有機基を示す。Rc1~Rc5は水素原子、ハロゲン原子又は有機基を示す。
【0011】
<5>
上記Rが下記式(5)で表される基又は含窒素有機基である、<4>に記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
【化5】
式中、n2は1~10000である。R10は水素原子又は有機基を示す。*は結合部位を示す。
【0012】
<6>
上記n1が135~10000である、<4>又は<5>に記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<7>
上記架橋性ポリマーb2が、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド及びポリウレタンの少なくとも1種である、<2>~<6>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<8>
上記架橋体中、上記架橋性ポリマーb2由来の構成成分の割合が30~90質量%である、<2>~<7>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<9>
上記層bの表面が親水化処理されている、<2>~<8>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<10>
上記基材aが、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも1種で構成される、<2>~<9>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<11>
上記基材aがシリコーン樹脂である、<2>~<10>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<12>
上記医療用潤滑性部材が、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓及びコンタクトレンズから選ばれる医療機器の部材として用いられる、<2>~<11>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料。
<13>
<2>~<12>のいずれか1つに記載の医療用潤滑性部材に用いる積層材料と、この積層材料を構成する上記層b上に配された、親水性ポリマーを含有する層cとを有する、医療用潤滑性部材。
<14>
<13>に記載の医療用潤滑性部材を用いた、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓及びコンタクトレンズから選ばれる医療機器。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、特定の符号で表示された置換基、連結基等(以下、置換基等という)が複数あるとき、あるいは複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。このことは、置換基等の数の規定についても同様である。また、複数の置換基等が近接(特に隣接)するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。また、特定の符号で表示された置換基、連結基を有する構造単位を複数有するポリマーにおいて、複数の構造単位は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。
本明細書において、特に断りがない限り、ポリマーの形態は、特に制限されず、本発明の効果を損なわない範囲で、ランダム、ブロック及びグラフト等のいずれの形態であってもよい。
本明細書において、ポリマーの末端構造は、特に制限はなく、合成時に使用した基質の種類、及び、合成時のクエンチ剤(反応停止剤)の種類等により適宜に定まり、一義的に定まるものではない。末端の構造としては、例えば、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、エチレン性不飽和基及びアルキル基が挙げられる。
本明細書において、「アクリル酸」、「アクリルアミド」及び「スチレン」との用語は通常よりも広義の意味で用いている。
すなわち、「アクリル酸」は、R-C(=CR )COOHの構造を有する化合物すべてを包含する意味に用いる(R及びRは各々独立に水素原子又は置換基を示す)。
また、「アクリルアミド」はR-C(=CR )CONR の構造を有する化合物すべてを包含する意味に用いる(R、R及びRは各々独立に水素原子又は置換基を示す)。
また、「スチレン」はR-C(=CR )C の構造を有する化合物すべてを包含する意味に用いる(R、R及びRは各々独立に水素原子又は置換基を示す)。
【0014】
本明細書において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【0015】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特段の断りがない限り、GPC(Gel Permeation Chromatography)によってポリスチレン換算の分子量として計測することができる。このとき、GPC装置HLC-8220(東ソー(株)社製)を用い、カラムはG3000HXL+G2000HXL(いずれも、東ソー社製のTSK-gel HXL(商品名)シリーズ)を用い、23℃で流量は1mL/minで、RI(Refractive Index)で検出することとする。溶離液としては、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、m-クレゾール/クロロホルム(湘南和光純薬(株)社製)から選定することができ、溶解するものであればTHFを用いることとする。
親水コート層に用いたポリマーの分子量測定には、溶離液としてはN-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業社製)を用い、カラムとしては東ソー(TOSOH)株式会社製 TSK-gel Super AWM-H(商品名)を用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医療用潤滑性部材ないし医療機器は、医療用潤滑性部材を構成する基材と基材上に配された層との間の密着性に優れ、この密着性を、長期に亘り所望の優れたレベルで維持することができる。また本発明の医療用潤滑性部材に用いる積層材料用組成物及び積層材料は、本発明の医療用潤滑性部材の提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の医療用潤滑性部材に用いる積層材料の一実施形態を示す縦断面図である。
図2】本発明の医療用潤滑性部材の一実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の医療用潤滑性部材に用いる積層材料用組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、ポリシロキサン構造を含むポリマーb1と、架橋性ポリマーb2とを含み、本発明の医療用潤滑性部材に用いる積層材料(以下、「本発明の積層材料」ともいう。)の形成に好適に用いることができる。
【0019】
[本発明の組成物]
本発明の組成物は、ポリシロキサン構造を含むポリマーb1と、架橋性ポリマーb2とを含む。
上記架橋性ポリマーb2は、下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種であって、数平均分子量が1000以上である。架橋性ポリマーb2が有する上記反応性基によって、架橋性ポリマーb2はポリシロキサン構造を含むポリマーb1と架橋体を形成し得る。上記のポリシロキサン構造を含むポリマーb1及び架橋性ポリマーb2については、後述の本発明の積層材料におけるポリシロキサン構造を含むポリマーb1及び架橋性ポリマーb2の記載を好ましく適用することができる。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【0020】
本発明の組成物は、溶媒を含んでもよい。
本発明の組成物に含まれ得る溶媒としては、例えばジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等のエーテル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン及びジメチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n-ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n-ペンチル及びγ-ブチロラクトン等のエステル溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール及びシクロヘキサノール等のアルコール溶媒、キシレン、及びトルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチレンクロライド、クロロホルム及び1,1-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、2-メトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1,2-ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、N-メチルピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びアセト酢酸エチル等の2種類以上の官能基を有する有機溶媒を挙げることができる。
【0021】
本発明の組成物が溶媒を含む場合、組成物中の溶媒の含有量は、60~99質量%が好ましく、70~99質量%がより好ましく、80~99質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物に含まれる溶媒以外の成分の固形分含有量(含有比)は、本発明の積層材料において説明する通りである。上記の溶媒以外の成分の固形分とは、本発明の積層材料を構成した際に、積層材料中に残存する溶媒以外の成分を意味する。
【0022】
本発明の組成物は、使用時まで、共有結合の形成による架橋反応の進行を抑制するため、20~40℃で必要に応じて遮光して保存することが好ましい。この使用時とは、具体的には、例えば、医療用潤滑性部材に用いる積層材料の形成に用いる時である。
【0023】
以下、本発明の積層材料について好ましい実施形態を説明する。
【0024】
[本発明の積層材料]
本発明の積層材料は、後述する本発明の医療用潤滑性部材を形成するための材料である。本発明の積層材料は、基材(以下、「基材a」ともいう。)と、この基材a上に配された、後述するポリシロキサン構造を含むポリマーb1と、上記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する架橋性ポリマーb2とから形成された架橋体を含有する層(以下、「層b」ともいう。)とを有する積層体である。この積層体の形状に特に制限はなく、例えば、図1に示すように積層材料の表面は平面でもよいし、また曲面でもよい。また、積層材料は例えば、管状(チューブ状)であることも好ましく、球状であってもよい。本発明の所望の効果を奏する観点から、本発明の積層材料において、層bは基材a上に直接設けられている。
【0025】
<基材a>
本発明の積層材料を構成する基材aの構成材料は、特に限定されず、医療機器等に用いうる材料を広く採用することができる。例えば、目的に応じてガラス、プラスチック、金属、セラミックス、繊維、布帛、紙、皮革及び合成樹脂、並びにこれらの組合せを使用することができる。これらのうち、プラスチック、セラミックス、繊維、布帛、紙、皮革及び合成樹脂は、低分子成分のブリードアウトを生じ得る。そのため、本発明の積層材料における基材aとして、層bとの界面が、プラスチック、セラミックス、繊維、布帛、紙、皮革及び合成樹脂のいずれかの構成材料で構成される基材aを有する場合であっても、低分子成分のブリードアウトに起因する層bの可塑化を抑制することができ、経時後も優れた密着性を維持することができる。なかでも基材aは樹脂で形成されていることが好ましい。基材aの形状に特に制限はなく、例えば板状でもよいし、曲面を有していてもよい。また、管状(チューブ状)であることも好ましく、球状であってもよい。
【0026】
基材aは、層bが形成される表面における表面自由エネルギーが低くても、本発明に好適に用いることができる。例えば、基材aの、層bが形成される表面における表面自由エネルギーは5~1500mN/mの範囲内とすることができ、10~500mN/mの範囲内とすることができる。また、基材aの、層bが形成される表面における表面自由エネルギーは5~300mN/mであってもよいし、10~200mN/mであってもよいし、10~100mN/mであってもよいし、10~50mN/mであることも好ましい。基材aの、層bが形成される表面における表面自由エネルギーが低くても、層bが含有する架橋体が後述する特定のポリマーb1を有することにより、基材a上に、層bを、ハジキないしは斑を生じずに形成することができる。
表面自由エネルギーは通常の方法で測定することができる。すなわち、膜の接触角を水及びジヨードメタンの双方で測定し、下記Owensの式に代入することで求めることができる(下記は有機溶媒にジヨードメタン(CH)を用いる場合の式である)。
【0027】
Owensの式
1+cosθH2O=2(γS d1/2(γH2O d1/2/γH2O,V+2(γS h1/2(γH2O h1/2/γH2O,V
1+cosθCH2I2=2(γS d1/2(γCH2I2 d1/2/γCH2I2,V+2(γS h1/2(γCH2I2 h1/2/γCH2I2,V
【0028】
ここで、γH2O =21.8、γCH2I2 =49.5、γH2O =51.0、γCH2I2 =1.3、γH2O=72.8、γCH2I2,V=50.8である。θH2Oに水の接触角の測定値、θCH2I2にジヨードメタンの接触角の測定値を代入すると、表面エネルギーの分散力成分γ 、極性成分γ がそれぞれ求まり、その和γ Vh=γ +γ を表面自由エネルギー(mN/m)として求めることができる。
接触角は、液滴容量を純水、ジヨードメタンとも1μLとし、滴下後10秒後に接触角を読み取ることにより測定する。その際、測定雰囲気を温度23℃、相対湿度50%とする。
【0029】
基材aの構成材料として、例えば、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも1種を好適に用いることができ、医療用材料として用いる観点及び経時後もより優れた密着性を維持できる観点からは、シリコーン樹脂を用いることがより好ましい。
【0030】
-ウレタン樹脂-
基材aの構成材料として用いうるウレタン樹脂に特に制限はない。一般にウレタン樹脂はポリイソシアネートとポリオールの付加重合により合成される。例えば、ポリイソシアネート原料として脂肪族イソシアネートを用いた脂肪族ポリウレタン、ポリイソシアネート原料として芳香族イソシアネートを用いた芳香族ポリウレタン、及び、これらの共重合体等を用いることできる。
また、ウレタン樹脂としてパンデックスシリーズ(商品名、DIC社製)、ウレタン樹脂塗料のVグラン、Vトップシリーズ及びDNTウレタンスマイルクリーンシリーズ(商品名、いずれも大日本塗料社製)、ポリフレックスシリーズ(商品名、第一工業製薬社製)、タイプレンシリーズ(商品名、タイガースポリマー社製)、Tecoflex(登録商標)シリーズ(Thermedics社製)、ミラクトランシリーズ(商品名、日本ミラクトン社製)及びペレセンシリーズ(商品名、ダウケミカル社製)等を用いることもできる。
【0031】
-シリコーン樹脂-
基材aの構成材料として用いうるシリコーン樹脂に特に制限はなく、シリコーン樹脂は硬化剤を用いて硬化させたものであってもよい。硬化反応は通常の反応を適用することができる。例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとエチレン性C=C二重結合を有するオルガノポリシロキサンとを白金触媒を用いて硬化させることができ、過酸化物架橋により硬化させる場合は過酸化物が用いられる。
また、シリコーン樹脂としてゴムコンパウンドKEシリーズ(商品名、信越化学工業社製)、ELASTOSIL(登録商標)シリーズ(旭化成ワッカーシリコーン社製)、SILASTIC(登録商標)シリーズ(東レ・ダウコーニング社製)及びTSEシリーズ(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等を用いることもできる。
【0032】
-フッ素樹脂-
基材aの構成材料として用いうるフッ素樹脂に特に制限はない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロエチレン及びその共重合体等を用いることできる。
また、フッ素樹脂としてテフロン(登録商標、DUPON社製)、ポリフロン及びネオフロンシリーズ(商品名、ダイキン工業社製)、Fluon(登録商標)シリーズ及びcytop(登録商標)シリーズ(旭硝子社製)並びにダイニオンシリーズ(商品名、3M社製)等を用いることもできる。
【0033】
-オレフィン樹脂-
基材aの構成材料として用いうるオレフィン樹脂に特に制限はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリシクロペンテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、これらの共重合体、天然ゴム等を用いることできる。また、オレフィン樹脂としてARTON(アートン)(登録商標)シリーズ(JSR社製)、サーフレン(登録商標)シリーズ(三菱化学社製)、ZEONOR(登録商標)シリーズ及びZEONEX(登録商標)(いずれも日本ゼオン社製)等を用いることもできる。
【0034】
-アクリル樹脂-
基材aの構成材料として用いうるアクリル樹脂に特に制限はない。例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチルなどの単独重合体、及びその共重合体などのアクリル樹脂を用いることができる。
また、アクリル樹脂としてアクリライトシリーズ、アクリペットシリーズ及びアクリプレンシリーズ(商品名、いずれも三菱レイヨン社製)、コーティング用溶剤型アクリル樹脂アクリディックシリーズ(商品名、DIC社製)、アルマテックス(登録商標、三井化学社製)、ヒタロイド(商品名、日立化成社製)等を用いることもできる。
【0035】
<層b>
本発明の積層材料において、層bは、ポリシロキサン構造を含むポリマーb1(以下、「ポリマーb1」とも称す。)と、後述する反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する架橋性ポリマーb2(以下、「架橋性ポリマーb2」とも称す。)から形成された架橋体を含有する。架橋体がポリマーb1由来のポリシロキサン構造を有することにより、基材aの表面自由エネルギーが低い場合であっても、基材a表面に対する架橋体の親和性を高めることができ、ハジキないしは斑のない状態で、ポリマーb1と架橋性ポリマーb2から形成された架橋体を含有する層bを形成することが可能となる。
【0036】
(ポリシロキサン構造を含むポリマーb1)
ポリマーb1はその構成成分としてポリシロキサン構造を有する成分以外にアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分及びスチレン成分のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
ポリマーb1は、架橋性ポリマーb2との間で反応性ないし相互作用性を示す基(以下、ポリマーb1が有する、架橋性ポリマーb2との間で反応性ないし相互作用性を示す基を、「反応性官能基」と称す。)を有し、ポリマーb1と架橋性ポリマーb2とがこれらの基を介して反応ないし相互作用して架橋体を形成する。ポリマーb1は、反応性官能基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基(オキサゾリル基)、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基(好ましくは、炭素数3~27)、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造のうちの少なくとも1種を有していることが好ましい。これらのポリマーb1が有する反応性官能基は、層b上に適用され得る後述する親水性ポリマーと相互作用し、あるいはこの親水性ポリマーと反応して、層bと親水性ポリマーとの密着性(密着力)をより高めることができる。また、これらのポリマーb1が有する反応性官能基と、後述する架橋性ポリマーb2が有する反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基とが共有結合又は相互作用して架橋体を形成することにより、後述するように、層bは基材aとの間で、経時後も優れた密着性を維持することができる。
ポリマーb1が有する反応性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、エポキシ基、トリアルコキシシリル基及びハロゲン化メチル基のうちの少なくとも1種であることが好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びイソシアナト基のうちの少なくとも1種であることがより好ましい。
ポリマーb1が有する反応性官能基は、ポリマーb1の好ましい構成成分である上記のアクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分及びスチレン成分のうちの少なくとも1種中に含まれることが好ましい。
ポリマーb1が1分子中に有する反応性官能基の数は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、通常、2個以上であり、架橋性ポリマーb2との架橋体を形成する観点からは、2~300個が好ましく、50~300個がより好ましい。
ポリマーb1が主鎖中にポリシロキサン構造を有する場合、ポリシロキサンの平均繰り返し数は3~10000が好ましく、135~5000がより好ましく、200~1000がさらに好ましい。この平均繰り返し数は100以上としてもよく、120以上としてもよい。また、ポリマーb1中のポリシロキサン構造の含有量は、1~70質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~50質量%がさらに好ましい。
ポリマーb1が側鎖(グラフト鎖)中にポリシロキサン構造を有する場合、後述の式(1)における平均繰り返し数n1の記載を好ましく適用することができる。また、この場合、ポリマーb1中のポリシロキサン構造の含有量は、1~70質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~50質量%がさらに好ましい。
上記平均繰り返し数は、例えば、NMR測定等により算出することができる。
また、上記ポリマーb1中のポリシロキサン構造の含有量は、NMR等により測定したSi原子の含有量に基づき算出することができる。
【0037】
ポリマーb1は、基材aと基材a上の層bとの、密着性を経時後もより優れたレベルで維持できる点から、上記ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマーであることが好ましい。このグラフトポリマーは、ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有する構造単位を有し、かつ、アクリル酸成分、アクリル酸エステル成分、アクリルアミド成分及びスチレン成分のうちの少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。ポリマーb1は、ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有する下記式(1)で表される構造単位を有し、かつ、アクリル酸成分又はアクリル酸エステル成分としての下記式(2)で表される構造単位、アクリルアミド成分としての下記式(3)で表される構造単位及びスチレン成分としての下記式(4)で表される構造単位のうちの少なくとも1種を有することがより好ましい。
ここで、「ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有するグラフトポリマー」とは、ポリマー主鎖に結合する側鎖として、ポリシロキサン構造を有するグラフト鎖を有するポリマーを意味する。すなわち、グラフト鎖は主鎖を構成する原子を含まない鎖である。
【0038】
-ポリシロキサン構造をグラフト鎖中に有する構造単位-
【化6】
【0039】
式(1)中、R~Rは水素原子又は有機基を示す。
~Rとして採り得る有機基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、ヘテロアリールアミノカルボニル基及びハロゲン原子が挙げられ、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基が好ましい。
【0040】
~Rとして採り得るアルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。このアルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルへキシル及びn-デシルが挙げられる。
【0041】
~Rとして採り得るシクロアルキル基の炭素数は、3~10が好ましく、5~10がより好ましく、5又は6がさらに好ましい。また、このシクロアルキル基は、3員環、5員環又は6員環が好ましく、5員環又は6員環がより好ましい。R~Rとして採り得るシクロアルキル基の具体例としては、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロへキシルが挙げられる。
【0042】
~Rとして採り得るアルケニル基は、炭素数が2~10が好ましく、2~4がより好ましく、2がさらに好ましい。このアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル、アリル及びブテニルが挙げられる。
【0043】
~Rとして採り得るアリール基は、炭素数が6~12が好ましく、6~10がより好ましく、6~8がさらに好ましい。このアリール基の具体例としては、例えば、フェニル、トリル及びナフチルが挙げられる。
【0044】
~Rとして採り得るヘテロアリール基は、環構成原子として、少なくとも1つの、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を有する、5員環又は6員環のヘテロアリール基がより好ましい。このヘテロアリール基は、単環でもよく縮環していてもよい。このヘテロアリール基の具体例としては、例えば、2-ピリジル、2-チエニル、2-フラニル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-ベンゾチアゾリル及び2-オキサゾリルを挙げることができる。
【0045】
~Rとして採り得るアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基、アリールオキシカルボニル基及びアリールアミノカルボニル基を構成するアリール基の好ましい形態は、R~Rとして採り得るアリール基の形態と同じである。
【0046】
~Rとして採り得るヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、ヘテロアリールアミノ基、ヘテロアリールオキシカルボニル基及びヘテロアリールアミノカルボニル基を構成するヘテロアリール基の好ましい形態は、R~Rとして採り得るヘテロアリール基の形態と同じである。
【0047】
~Rとして採り得るアルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基の好ましい形態は、R~Rとして採り得るアルキル基の形態と同じである。
【0048】
~Rとして採り得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は臭素原子が好ましい。
【0049】
~Rが有機基の場合、この有機基は無置換でもよく、置換基を有した形態であってもよい。
【0050】
~Rとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基又はアリール基が好ましく、アルキル基、アルケニル基又はアリール基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましい。なかでもR~Rはメチル基が好ましく、Rはブチル基が好ましい。
【0051】
式(1)中、Lは単結合又は2価の連結基を示す。
として採り得る2価の連結基としては、本発明の効果を奏する限り特に制限されない。Lが2価の連結基の場合、Lの分子量は10~200が好ましく、20~100がより好ましく、30~70がさらに好ましい。
【0052】
が2価の連結基の場合、例えば、アルキレン基、アリーレン基、-C(=O)-、-O-及びNR-から選ばれる2価の基を2つ以上組み合わせてなる2価の連結基が好ましい。Rは水素原子又は置換基を示す。Rが置換基の場合、この置換基としては、アルキル基が好ましい。このアルキル基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましく、メチル又はエチルがさらに好ましい。
を構成しうる上記アルキレン基は直鎖でもよく分岐を有してもよい。このアルキレン基の炭素数は1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
また、Lを構成しうる上記アリーレン基は、その炭素数は6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~12がさらに好ましく、特に好ましくはフェニレン基である。
は、アルキレン基、-C(=O)-、-O-及びNR-から選ばれる2価の基の2つ以上を組み合わせてなる2価の連結基であることが好ましい。
として採りうる上記2価の基の組合わせ数は、上記Lとしての分子量を満たす限り特に制限されないが、例えば、2~10が好ましく挙げられる。
【0053】
式(1)中、n1は平均繰り返し数を示し、3~10000である。式(1)の構造単位がシロキサン結合の繰り返しを一定量含むことにより、層bを形成する基材a表面の表面自由エネルギーが低い場合でも、基材aと層bとの密着性を十分に高めることができる。上記観点から、n1は135~10000が好ましく、150~5000がより好ましく、200~1000がさらに好ましい。
上記平均繰り返し数は、例えば、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定等により算出することができる。
【0054】
ポリマーb1中、式(1)で表される構造単位の含有量は、1~70質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましく、10~50質量%がさらに好ましい。
【0055】
式(1)で表される構造単位は、原料として特定構造のマクロモノマーを用いることにより、ポリマーb1中に導入することができる。このマクロモノマーは常法により合成することができ、また市販品を用いることもできる。この市販品として、例えば、X-22-174ASX、X-22-174BX、KF-2012、X-22-2426及びX-22-2404(いずれも商品名、信越化学工業社製)、AK-5、AK-30及びAK-32(いずれも商品名、東亜合成社製)、MCR-M07、MCR-M11、MCR-M17及びMCR-M22(いずれも商品名、Gelest社製)等を用いることができる。
【0056】
-アクリル酸成分又はアクリル酸エステル成分-
【化7】
【0057】
式(2)中、R及びRは水素原子又は有機基を示す。
として採り得る有機基の形態としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基の形態が挙げられる。なかでもRは水素原子又はアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。このアルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルへキシル及びn-デシルが挙げられる。
【0058】
として採り得る有機基の形態としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基の形態が挙げられる。なかでもRは、水素原子、アルキル基又はアリール基が好ましい。
として採り得るアルキル基は、炭素数が1~10が好ましく、1~6がより好ましい。このアルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルへキシル及びn-デシルが挙げられる。
として採り得るアリール基は、炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、6~8がさらに好ましく、6が特に好ましい。このアリール基の具体例としては、例えば、フェニル、トリル及びナフチルが挙げられる。
【0059】
及びRが有機基の場合、この有機基は無置換でもよく、置換基を有した形態であってもよい。ポリマーb1が式(2)で表される構造単位を有する場合、ポリマーb1中の式(2)で表される構造単位のうち少なくとも一部の構造単位は、置換基として上述したポリマーb1が有する反応性官能基を有することが好ましい。
【0060】
また、ポリマーb1中に存在し得る式(2)で表される構造単位が、Rとして置換基を有するアルキル基を採る形態である場合、かかる構造単位のうち少なくとも一部の構造単位において、Rは下記式(5)で表される基である形態であることも好ましい。
【0061】
【化8】
【0062】
式(5)中、n2は平均繰り返し数を示し、1~10000である。n2は1~8000が好ましく、1~5000がより好ましく、1~3000がより好ましい。
上記平均繰り返し数は、例えば、NMR測定等により算出することができる。
10は水素原子又は有機基を示す。R10として採り得る有機基の形態としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基の形態が挙げられる。R10が有機基の場合、この有機基は無置換でもよく、置換基を有した形態であってもよい。R10は好ましくは水素原子又はアルキル基である。このアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルへキシル及びn-デシルが挙げられる。
*は式(2)中の酸素原子(-O-)との結合部位を示す。
【0063】
また、ポリマーb1中に存在し得る式(2)で表される構造単位のうち、少なくとも一部の構造単位において、Rが含窒素有機基であることも好ましい。含窒素有機基は、その分子量は10~200が好ましく、20~100がより好ましい。含窒素有機基はアミノ基(無置換のアミノ基の他に、置換アミノ基を含む)が好ましい。含窒素有機基の好ましい例として、例えばアルキルアミノ基、アルキルアミノアルキル基、アリールアミノ基、アリールアミノアルキル基、ヘテロアリールアミノ基、及びヘテロアリールアミノアルキル基を挙げることができる。
上記Rが上記式(5)で表される基又は上記含窒素有機基であることにより、ポリマーb1と架橋性ポリマーb2との相互作用が強化されると考えられる。
【0064】
-アクリルアミド成分-
【化9】
【0065】
式(3)中、R、Rb1及びRb2は水素原子又は有機基を示す。
として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基の形態が挙げられる。Rは、水素原子又はアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。このアルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルへキシル及びn-デシルが挙げられる。
【0066】
b1及びRb2として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基が挙げられる。なかでもRb1及びRb2は、水素原子、アルキル基又はアリール基が好ましい。このアリール基の炭素数は6~12が好ましく、6~10がより好ましく、6~8がさらに好ましく、6が特に好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル、トリル及びナフチルが挙げられる。
【0067】
、Rb1及びRb2が有機基の場合、この有機基は無置換でもよく、置換基を有した形態であってもよい。ポリマーb1が式(3)で表される構造単位を有する場合、ポリマーb1中の式(3)で表される構造単位のうち少なくとも一部の構造単位は、置換基として上述したポリマーb1が有する反応性官能基を有することが好ましい。
【0068】
-スチレン成分-
【化10】
【0069】
式(4)中、Rは水素原子又は有機基を示す。Rc1~Rc5は水素原子、ハロゲン原子又は有機基を示す。
として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基の形態が挙げられる。なかでもRは、水素原子が好ましい。
【0070】
c1~Rc5として採り得る有機基としては、上記式(1)におけるRとして採り得る有機基の形態が挙げられる。Rc1~Rc5として採り得るハロゲン原子に特に制限はなく、フッ素原子又は臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。Rc1~Rc5は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子が好ましい。このアルキル基の炭素数は1~10が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルへキシル及びn-デシルが挙げられる。
【0071】
及びRc1~Rc5が有機基の場合、この有機基は無置換でもよく、置換基を有した形態であってもよい。ポリマーb1が式(4)で表される構造単位を有する場合、ポリマーb1中の式(4)で表される構造単位のうち少なくとも一部の構造単位は、置換基として上述したポリマーb1が有する反応性官能基を有することが好ましい。
【0072】
ポリマーb1が上記式(2)~(4)のいずれかの式で表される構造単位を有する場合、ポリマーb1中、それらの構造単位の総量は、10~90質量%が好ましく、15~80質量%がより好ましく、20~70質量%がさらに好ましい。また、この構造単位の総量は30~99質量%としてもよく、40~95質量%としてもよく、50~90質量%としてもよい。
また、ポリマーb1が上記式(2)~(4)のいずれかの式で表され、かつ上述したポリマーb1が有する反応性官能基を有する構造単位を有する場合、かかる構造単位のポリマーb1中の含有量は5~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましく、15~30質量%が特に好ましい。この場合、上記式(2)~(4)のいずれかの式で表され、かつ上述したポリマーb1が有する反応性官能基を有する構造単位を有しない構造単位を併用することが好ましい。
なお、ポリマーb1は、本発明の効果を奏する限り、上記式(1)で表される構造単位及び上記式(2)~(4)のいずれかの式で表される構造単位の他に、その他の構造単位を有していてもよい。
【0073】
ポリマーb1は、常法により合成することができ、例えば、所望の構造単位を導くモノマーと、重合開始剤とを常法により反応させることで得られる。重合反応はアニオン重合、カチオン重合及びラジカル重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合反応により得られたポリマーは、再沈殿法等による精製操作を行うことも好ましい。
ポリマーb1は、本発明の組成物を調製する際には、溶液及び固体のいずれの状態で供してもよい。
【0074】
上記重合開始剤としては、上記重合反応(アニオン重合、カチオン重合又はラジカル重合)の形態にあわせて、特に制限することなく、任意の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれを用いても構わない。また、重合開始剤の分子量に制限はなく、低分子量から高分子量のいずれの重合開始剤を用いてもよい。
例えば、ラジカル重合開始剤の具体例としては、有機過酸化物及びアゾ化合物等が挙げられる。
また、過酸化型高分子重合開始剤及びアゾ型高分子重合開始剤等の、過酸化物構造又はアゾ構造をポリマー鎖中(好ましくは主鎖中)に有する高分子重合開始剤を挙げることもできる。
上記高分子量重合開始剤は、上記ポリシロキサン構造を有することも好ましい。上記ポリシロキサン構造を有する高分子量重合開始剤は、重合開始剤として機能するとともに、上記ポリシロキサン構造を有する構成成分として作用し、上記ポリマーb1を得ることができる。
上記高分子量重合開始剤中の過酸化物構造又はアゾ構造の数は、特に制限されないが、2個以上であることが好ましい。また、上記高分子量重合開始剤の重量平均分子量も特に制限されない。
上記高分子量重合開始剤としては、市販のものを特に制限することなく用いることができ、例えば、ポリジメチルシロキサンユニット含有高分子アゾ重合開始剤 VPS-1001N(商品名、和光純薬工業社製)を挙げることができる。
【0075】
ポリマーb1の重量平均分子量は、5000~300000が好ましく、10000~150000がより好ましく、20000~120000がさらに好ましい。
【0076】
(反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基を有する架橋性ポリマーb2)
本発明における架橋性ポリマーb2は、下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基(以下、「反応性基I」とも称す。)を有する、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種である。
ただし、架橋性ポリマーb2の数平均分子量は、層bの可塑化を抑制し、経時後も優れた密着性を示す力学強度を付与する点から、1000以上である。架橋性ポリマーb2の数平均分子量は、1000~300000が好ましく、1500~300000がより好ましく、2000~200000がより好ましく、3000~100000がさらに好ましい。架橋性ポリマーb2は、上記数平均分子量を満たす限り、オリゴマーであってもよい。以下、単にポリマーと称する場合は、ポリマーの他にオリゴマーを含む意味で使用する。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【0077】
基材aと基材a上に配された層bとの間の密着性は、層bを構成する材料と基材aとの間の結合形成、又は、層bを構成する材料の力学強度を増加させることで向上することができる。上記密着性の経時的な低下は、基材a中の低分子成分の、基材aと基材a上の層bとの界面へのブリードアウト、または、空気中の二酸化炭素の層bへの吸着等による、層bの可塑化が主な原因と考えられる。本発明の積層材料は、架橋体を構成する架橋性ポリマーb2が主鎖中に陰性元素を有する上記のポリマー種であるため、架橋体の構成成分であるポリマー鎖同士の相互作用が増加し、より強固な層bを形成することができると推定される。このような層bを有する本発明の積層材料は、層bの可塑化が抑制された結果、経時的な密着性の低下が抑制され、経時後も、十分に高い密着性を維持できると推定される。なお、ポリマーb1として、主鎖中に陰性元素を有するポリマーを用いたとしても、層bを形成する塗布液が自己架橋でゲル化するなどにより、本発明の効果を所望のレベルで享受することは難しい。
「主鎖」とは、主鎖が、主鎖からの(主鎖に対しての)分岐鎖ないしは側鎖を有する場合には、分岐鎖ないしは側鎖がペンダントとして結合している分子鎖を意味する。
「陰性元素」は、酸素元素及び窒素元素の少なくともいずれかである。
架橋性ポリマーb2は、上記の反応性基Iを有することにより、ポリマーb1との相互作用あるいは共有結合を生じて架橋体を形成するポリマーである。すなわち、本発明において「架橋体」との用語は、共有結合によってポリマーb1と架橋性ポリマーb2とが架橋した架橋体に加え、静電相互作用及び水素結合等の分子間相互作用によってポリマーb1と架橋性ポリマーb2とが相互作用してなる架橋体を含む、広義の意味で用いている。
本発明における架橋体は、初期の密着性の点からは、静電相互作用及び水素結合の少なくともいずれかによる架橋体、並びに、共有結合による架橋体の少なくともいずれかを含むことが好ましく、経時後も優れた密着性を維持する点からは、共有結合による架橋体を含むことがより好ましい。
共有結合の形成反応(架橋反応)は、架橋反応に寄与する反応性基の種類に応じて、常法により行うことができる。
本発明における架橋体は、架橋性ポリマーb2が有する反応性基Iとポリマーb1が有する反応性官能基との相互作用あるいは共有結合によって架橋体が形成されて、本発明の所望の効果を奏する限り、上記の反応性基I及び反応性官能基が関与していないその他の相互作用あるいは共有結合による架橋構造を有していてもよい。
【0078】
(1)ポリマー種
本発明における架橋性ポリマーb2は、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア及びポリイミドの少なくとも1種のポリマー種である。
本明細書において多糖類とは、単糖が10個以上縮合した(例えば、グリコシド結合により結合した)ポリマーを意味し、ポリエーテルとは別分類とする。すなわち、本発明においてポリエーテルという場合、単糖が縮合した形態を含まない。
また、本明細書においてポリエチレンイミンとは、エチレンイミンを重合してなるポリマーであればよく、直鎖状であっても、3級アミンを含む分岐状アミンであってもよい。また、ポリエチレンイミンが有するアミノ基の活性水素を変性した変性ポリエチレンイミンであってもよい。
市販品のポリマーについては、製造会社の分類に従い上記ポリマー種に分類する。なお、市販品のうち上記ポリマー種に分類されていないポリマー及び合成したポリマーについての、多糖類及びポリエチレンイミンを除く架橋性ポリマーb2の上記ポリマー種への分類は、ポリマーの主鎖中に有する結合に基づき分類する。主鎖中にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イミド結合のうち2種以上の結合を有するポリマーの場合には、主鎖中に最も数が多い結合形態に基づき分類する。例えば、エステル結合が最も多ければポリエステルに分類する。架橋性ポリマーb2は、ポリマー種を特定する結合(ポリエステルであればエステル結合、ポリエーテルであればポリエーテル結合、ポリアミドであればアミド結合、ポリウレタンであればウレタン結合、ポリウレアであればウレア結合、ポリイミドであればイミド結合)以外の結合を主鎖中に有さないことが好ましい。
架橋性ポリマーb2は、基材aと層bとの間の密着性を経時後もより優れたレベルで維持する観点から、多糖類、ポリエチレンイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド及びポリウレタンの少なくとも1種であることが好ましい。
【0079】
-多糖類-
多糖類としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ペクチン(例えばシトラス由来)、プロテインAアガロース及びヒアルロン酸(例えば鶏冠由来)が挙げられる。
【0080】
-ポリエステル-
ポリエステルとしては、例えば、水溶性ポリエステル樹脂プラスコート(商品名、瓦平化学工業株式会社)及び水系ポリエステル樹脂アロンメルトPES(商品名、東亞合成株式会社)が挙げられる。
【0081】
-ポリエーテル-
ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリブチレングリコールが挙げられる。
【0082】
-ポリエチレンイミン-
ポリエチレンイミンとしては、例えば、エポミン(登録商標、株式会社日本触媒製)、直鎖ポリエチレンイミン、分岐ポリエチレンイミン及び分岐ポリエチレンイミン-グラフト-ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0083】
-ポリアミド-
ポリアミドとしては、例えば、AQナイロン(商品名、東レ株式会社製)、水溶性ナイロン FR-700E(商品名、株式会社鉛市製)及びトーロン(登録商標、Solvay社)が挙げられる。
【0084】
-ポリウレタン-
ポリウレタンとしては、例えば、コロネート(登録商標、東ソー株式会社製)、水系ウレタン樹脂(日華化学株式会社製)、デュラネート(商品名、旭化成株式会社製)及びバーノック(BURNOCK)(商品名、DIC株式会社製)が挙げられる。
【0085】
-ポリウレア-
ポリウレアとしては、例えば、ケムコ189(セメントワークス株式会社社製)が挙げれられる。
【0086】
-ポリイミド-
ポリイミドとしては、例えば、ユピアNF-1001(登録商標、宇部興産株式会社製)が挙げられる。
【0087】
(2)反応性基I
本発明における架橋性ポリマーb2は、上述したように、下記反応性基群Iの少なくとも1種の反応性基Iを有する。
<反応性基群I>
ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル基及び酸無水物構造
【0088】
架橋性ポリマーb2が有する反応性基Iと、上記ポリマーb1とで形成される架橋体構造としては、例えば、下記の形態が挙げられる。
(i)水素結合(極性相互作用)
架橋性ポリマーb2が有するヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びスルファニル基等の反応性基Iと、ポリマーb1が有するヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びスルファニル基等の反応性官能基による水素結合が挙げられる。
上記水素結合以外にも、架橋性ポリマーb2が有する結合(例えば、アミド結合、ウレタン結合及びエステル結合が挙げられる。)とポリマーb1が有するヒドロキシ基等の反応性官能基とによる水素結合も、架橋体構造の形成に寄与する水素結合として挙げられる。
(ii)共有結合
架橋性ポリマーb2が有するヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基及びハロゲン化メチル基等の反応性基Iと、ポリマーb1が有するヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、オキサゾリン環基、エポキシ基、ビニル基、エチニル基、スルファニル基、アジド基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン化メチル等の反応性官能基との反応による共有結合;架橋性ポリマーb2が有する上記反応性基Iと、ポリマーb1が有するエステル結合及びアミド結合等の結合との反応による共有結合が挙げられる。
共有結合は、反応に寄与する反応性基I、反応性官能基及び結合の種類に応じ、適宜形成することができる。このような共有結合の具体例として、例えば、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イミド結合及びC-C結合等が挙げられる。なお、反応性基I及び反応性官能基の一方が環構造を有する基である場合、環構造の開環に伴い、2種類の上記の結合を含む共有結合を形成することができる。一例としては、オキサゾリン環基とカルボキシ基との反応による、アミド結合とエステル結合を含む共有結合(単に、アミドエステル結合とも称す。)の形成が挙げられる。
【0089】
反応性基群Iは、基材aと層bとの間の密着性を経時後もより優れたレベルで維持する観点から、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアナト基、エポキシ基、トリアルコキシシリル基及びハロゲン化メチル基であることが好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基、トリアルコキシシリル基及びハロゲン化メチル基であることがより好ましい。
これらの官能基はより反応性が高く、上記架橋体構造をより形成しやすいためである。
【0090】
架橋性ポリマーb2が1分子中に有する反応性基Iの数は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、ポリマーb1との架橋体を形成する観点からは、通常、2個以上であり、2~300個が好ましく、50~300個がより好ましい。
【0091】
架橋体中、ポリマーb1由来の構成成分の割合は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、架橋体中のポリマーb1の割合は40質量%以上であることも好ましく、60質量%以上であることも好ましく、80質量%以上であることも好ましい。架橋体中、架橋性ポリマーb2由来の構成成分の割合(すなわち、ポリマーb1由来の構成成分と架橋性ポリマーb2由来の構成成分の合計量に対する、架橋性ポリマーb2由来の構成成分の割合)は15~90質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましく、30~90質量%がさらに好ましく、40~80質量%がさらに好ましい。
上記の架橋体中のポリマーb1及び架橋性ポリマーb2由来の構成成分の割合は、層b中のポリマーb1(ポリマーb1由来の構成成分を含む)及び架橋性ポリマーb2(架橋性ポリマーb2由来の構成成分を含む)の割合と読み替えることもできる。すなわち、層b中には、本発明の効果を損なわない限り、架橋体の形成に寄与していないポリマーb1及び架橋性ポリマーb2の少なくとも1種が存在していてもよい。
【0092】
架橋体を形成するポリマーb1及び架橋性ポリマーb2は、各々独立に、1種でもよく、2種以上であってもよい。
また、本発明の効果を損なわない限り、架橋体は、ポリマーb1及び架橋性ポリマーb2以外の成分を含んでいてもよい。この場合も、架橋体中のポリマーb1及び架橋性ポリマーb2の含有割合は、上述の記載が適用される。
また、層bが架橋体以外の成分を含有する場合、架橋体以外の成分としては、例えば、高分子バインダー、界面活性剤、高分子微粒子及び無機微粒子を挙げることができる。
【0093】
層bの表面は、親水化処理されていることが好ましい。層bの親水化処理により、後述する層cと層bとの密着性が向上することに加え、親水化処理によりポリマーb1と架橋性ポリマーb2の反応点の反応率が増加するなどして、基材aと層bとの密着性が、経時後もより優れたレベルで維持できると考えられる。本発明において「層bの表面」とは、基材aと接する面とは反対側の面を意味する。
親水化処理の方法は、層b表面(層b表面に存在するポリマーb1と架橋性ポリマーb2から形成された架橋体)に親水性基を付与できれば特に制限はない。例えば、酸性溶液浸漬、アルカリ性溶液浸漬、過酸化物溶液浸漬、プラズマ処理及び電子線照射のいずれかを行うことにより、層bの表面を親水化処理することができる。
【0094】
層bの厚みは、通常は0.01~100μmであり、0.05~50μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。
【0095】
[本発明の積層材料の製造方法]
本発明の積層材料は、基材aと、基材a上に配された層bとを有する医療用潤滑性部材に用いる積層材料であり、上記層bは、上記基材aに上述のポリマーb1と架橋性ポリマーb2とを含む組成物(本発明の組成物)を塗布し、上述のポリマーb1と架橋性ポリマーb2との架橋体を含有する層を形成することにより、作製することができる。
塗布する方法は特に限定されず、例えば、上記基材aを上記組成物に浸漬させることにより塗布する方法、上記基材aに上記組成物をロールにより塗布する方法、上記基材aに上記組成物をキャストにより塗布する方法が挙げられる。
また、本発明の積層材料の製造方法は、加熱する工程を含んでもよい。加熱条件は、例えば40~170℃で10~120分である。
架橋体を含有する層を形成する方法は、本発明の積層材料が作製された段階で架橋体が形成され、得られた積層材料が本発明の所望の効果を奏する限り、架橋体が形成される段階及び形成方法は特に限定されず、通常の層形成の方法により行うことができる。
架橋体が共有結合による架橋体である場合、加熱又は光照射により架橋体を形成する反応を行うことが好ましい。この加熱は、上記加熱工程により行うことが好ましい。この場合の加熱条件は、架橋点となる共有結合を形成する、上述のポリマーb1と架橋性ポリマーb2との化学反応に併せて、適宜調整することが好ましい。また、光照射は、例えば、紫外光(300~400nm、30mW/cm)を3分間照射することで架橋体を形成することが好ましく挙げられる。
また、本発明の積層材料の製造方法は、親水化処理を含んでもよい。親水化処理の方法としては、上述の層bの表面の親水化処理で記載した方法が適用される。
【0096】
[医療用潤滑性部材]
本発明の積層材料を構成する層bの表面に、親水性ポリマーを含有してなる層c(「親水性潤滑コート層c」または「層c」とも称す。)を形成することにより、本発明の医療用潤滑性部材が提供される。すなわち、本発明の医療用潤滑性部材は、図2に示すように(図2は、図1の形態の積層材料を用いて医療用潤滑性部材を製造した場合の形態の一例である)、本発明の積層材料と、この積層材料を構成する層b上(層bの表面)に配された、親水性ポリマーを含有してなる層cとを有する。親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド及びヒアルロン酸が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。親水性ポリマーはポリビニルピロリドン、ビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体及びポリエチレングリコールのうちの少なくとも1種が好ましい。
層c中の親水性ポリマーの含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。層cが親水性ポリマー以外の成分を含有する場合、親水性ポリマー以外の成分としては、例えば、高分子バインダー、界面活性剤、高分子微粒子、無機微粒子、及び架橋剤を挙げることができる。
【0097】
層cは、上記親水性ポリマーを溶解した溶液(層c形成用塗布液)を調製し、この溶液を層b上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。また、この溶液中には目的に応じて架橋剤を含有させてもよい。層c形成用塗布液に用いる溶媒としては、例えばジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等のエーテル溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン及びジメチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n-ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n-ペンチル及びγ-ブチロラクトン等のエステル溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール及びシクロヘキサノール等のアルコール溶媒、キシレン及びトルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチレンクロライド、クロロホルム及び1,1-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル溶媒、2-メトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1,2-ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びアセト酢酸エチル等の2種類以上の官能基を有する有機溶媒等を挙げることができる。
【0098】
層c形成用塗布液中に含ませる架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物(好ましくはジイソシアネート化合物)、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ポリエポキシ化合物、ポリアミン化合物及びメラミン化合物を挙げることができる。
層cの厚さは0.1~100μmが好ましく、0.5~50μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましい。
【0099】
本発明の医療用潤滑性部材は、医療機器の部材として用いられることが好ましい。本発明の医療用潤滑性部材は、通常は、層cが医療機器の最表面(菅の内側表面及び菅の外側表面のうちの少なくとも一方の面)を構成するように用いられる。
本発明において医療機器に特に制限はなく、例えば、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓及びコンタクトレンズが挙げられる。なかでも本発明の医療用潤滑性部材が適用される医療機器は、内視鏡、ガイドワイヤ、医療用チューブ又は手術針であることが好ましい。
【0100】
[医療機器]
本発明の医療機器は、本発明の医療用潤滑性部材を用いて形成される。この医療機器としては、特に制限なく、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓及びコンタクトレンズの少なくとも1種が挙げられる。なかでも本発明の医療機器は、内視鏡、ガイドワイヤ、医療用チューブ又は手術針であることが好ましい。
【実施例
【0101】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0102】
下記ポリマー1及び2の化学構造において、[ ]で括られる構造が構造単位を示し、( )で括られる構造が繰り返し構造であることを示す。
【0103】
<1.ポリマー及びポリマー溶液の作製>
[合成例(ポリマー1の合成)]
ポリジメチルシロキサンユニット含有高分子アゾ重合開始剤 VPS-1001N(商品名、和光純薬工業社製、ポリシロキサンユニット重量平均分子量10000)70g、及び、2-ヒドロキシエチルメタクリレート 30gを混合し、75℃、窒素雰囲気下にて、4時間撹拌し、重合反応を行った。得られた反応溶液をメタノール1000mLに添加することで、白色固体が生じた。生じた白色固体を、メタノール洗いし、乾燥させることにより、ポリマー1を得た。このポリマー1の重量平均分子量は35000であった。下記ポリマー1の構造式中、ポリジメチルシロキサンの平均繰り返し数は130である。
【0104】
【化11】
【0105】
[合成例(ポリマー2の溶液の合成)]
還流塔を装着した攪拌可能な反応装置に、シリコーンマクロマーAK-32(商品名、東亞合成社製、数平均分子量20000)16.0g、ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)4.0g、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(以下、MPEGAと表記する)(Aldrich社製、数平均分子量5000)10.0g、メチルメタクリレート(東京化成工業社製)10.0g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬工業社製)0.03g及びメチルエチルケトン(MEK)(和光純薬社製)60gを加え、80℃、20時間の条件で撹拌し、重合反応を行った。得られた反応液をポリマー2の溶液として用いた。このポリマー2の重量平均分子量は20000であった。下記ポリマー2の構造式中、ポリジメチルシロキサンの平均繰り返し数は267である。
【0106】
【化12】
【0107】
[合成例(ポリマー3の合成)]
ポリジメチルシロキサンユニット含有高分子アゾ重合開始剤 VPS-1001N(商品名、和光純薬工業社製、ポリシロキサンユニット重量平均分子量10000)70g、及び、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン 30gを混合し、75℃、窒素雰囲気下にて、4時間撹拌し、重合反応を行った。得られた反応溶液をメタノール1000mLに添加することで、白色固体が生じた。生じた白色固体を、メタノール洗いし、乾燥させることにより、ポリマー3を得た。このポリマー3の重量平均分子量は35000であった。下記ポリマー3の構造式中、ポリジメチルシロキサンの平均繰り返し数は130である。
【0108】
【化13】
【0109】
<2.層b形成用塗布液の調製>
下記表1記載の配合量で、ポリマー又はポリマー溶液と、架橋性ポリマーと、必要に応じ光重合開始剤とを、溶媒に溶解させ、層b形成用塗布液1~18を調製した。表中、配合量は質量部単位であり、「-」はその成分を含有しないことを意味する。
【0110】
【表1】
【0111】
<表の注>
ポリマー2:上記で作製したポリマー2の溶液(固形分40質量%)を用い、ポリマー2の溶液としての配合量を記載する。
特開2008-289864号の実施例1のポリマー:特開2008-289864号公報の実施例1における共重合体1の合成方法に従って調製した。
コロネート:コロネート溶液としての配合量を記載する。
(架橋性ポリマーb2の詳細及び架橋体の推定形成機構)
(1)ポリイミド
ユピアNF-1001:ユピアNF-1001(登録商標)、数平均分子量10000、宇部興産株式会社製
ユピア中に残存するポリアミック酸中のカルボキシ基と、ポリマー1又は2中のヒドロキシ基とのエステル結合の形成により架橋体を形成する。また、ユピア中のカルボキシ基とポリマー1又は2中のヒドロキシ基との水素結合により架橋体を形成する。
ユピア中に残存するポリアミック酸中のカルボキシ基と、ポリマー3中のオキサゾリン環基とのアミドエステル結合の形成により架橋体を形成する。
(2)ポリエチレンイミン
エポミン:エポミン(登録商標)SP-200、数平均分子量10000、株式会社日本触媒製
エポミン中のアミノ基がポリマー1中のエステル結合を求核攻撃しアミド結合を形成、又は、エポミン中のアミノ基とポリマー1中のヒドロキシ基との水素結合により架橋体を形成する。
(3)多糖類
CMC:CMCダイセル1330(商品名)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、25℃、60回転での1%粘度 50~100mPa・s、エーテル化度(置換度)1.0~1.5、数平均分子量120000、ダイセルファインケム株式会社製
CMC中のヒドロキシ基がポリマー1中のエステル結合を求核攻撃しエステル結合を形成、又は、CMC中のカルボキシ基若しくはヒドロキシ基とポリマー1中のヒドロキシ基との水素結合により架橋体を形成する。
(4)ポリアミド
FR-700E:FINELEX(登録商標) FR-700E、メトキシメチル化ナイロンを改質した、カルボキシ基含有水溶性ナイロン、数平均分子量10000、株式会社鉛市製
FR-700E中の側鎖カルボキシ基とポリマー1中のヒドロキシ基とのエステル結合を形成することにより架橋体を形成する。またFR-700E中の側鎖カルボキシ基又は主鎖中のアミド結合とポリマー1中のヒドロキシ基との水素結合により架橋体を形成する。
(5)ポリウレタン
コロネート:コロネートL-55E(商品名)、数平均分子量2000、(東ソー株式会社製、固形分55質量%)
コロネート中のイソシアナト基とポリマー1中のヒドロキシ基とが付加反応によりウレタン結合を形成、又は、コロネート中のウレタン結合とポリマー1中のヒドロキシ基との水素結合により架橋体を形成する。
(6)その他の架橋剤
TEGDM:テトラエチレングリコールジメタクリレート、WO15/198919で使用する架橋剤
ポリブタジエン:液状ポリブタジエンNISSO-PB B-1000(商品名)、1,2-ポリブタジエン ホモポリマー、1,2-ビニル構造の割合が85%以上、日本曹達株式会社製
ポリブタジエン中のビニル基とポリマー1中のC-C結合との間で新たなC-C結合が形成されることにより架橋体が形成される。
(光重合開始剤)
イルガキュア819:イルガキュア(登録商標)819、BASFジャパン社製
【0112】
<3.積層材料塗布シートの作製>
[実施例1]
厚さ500μm、幅50mm、長さ50mmのウレタンシート(商品名:07-007-01、表面自由エネルギー:38mN/m)、ハギテック社製)を、層b形成用塗布液1に3分間浸漬した後、150℃で30分間加熱乾燥させ、層bを形成し、実施例1の積層材料塗布シートを作製した。
[実施例2~9及び13~18、比較例1及び2]
層b形成用塗布液1に代えて層b形成用塗布液2~11を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2~9及び13~18、比較例1及び2の積層材料塗布シートを作製した。
なお、比較例1は、上記加熱乾燥に加え、365nm、80mW/cmの条件で光照射を1分間行うことで、層bを形成した。
[比較例3]
層b形成用塗布液1に代えて層b形成用塗布液12を使用し、架橋性ポリマーb2を用いない以外は実施例1と同様にして、比較例3の積層材料塗布シートを作製した。
[実施例10]
実施例1において、ウレタンシートに代えてシリコーンシート(商品名:KE-880-U、硬度80A、信越化学工業社製、表面自由エネルギー:22mN/m)を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例10の積層材料塗布シートを作製した。
[実施例21~23]
それぞれ、実施例14、17及び18において、ウレタンシートに代えてシリコーンシート(商品名:KE-880-U、硬度80A、信越化学工業社製、表面自由エネルギー:22mN/m)を使用した以外は実施例14、17及び18と同様にして、実施例21~23の積層材料塗布シートを作製した。
なお、実施例1~10、13~18、21~23、比較例1~3のシートにおける層bの厚みは、いずれも0.7μmであった。
【0113】
[実施例11]
実施例8で作製した積層材料塗布シートを、10%塩酸水溶液に12時間以上浸漬させた後に、メタノールで洗浄した。その後、室温(25℃)で1時間風乾させた後に60℃で30分乾燥させることにより、層bの表面に親水化処理を施した、実施例11の積層材料塗布シートを作製した。
[実施例19]
実施例14で作製した積層材料塗布シートを、10%塩酸水溶液に12時間以上浸漬させた後に、メタノールで洗浄した。その後、室温(25℃)で1時間風乾させた後に60℃で30分乾燥させることにより、層bの表面に親水化処理を施した、実施例19の積層材料塗布シートを作製した。
[実施例24]
実施例19において、ウレタンシートに代えてシリコーンシート(商品名:KE-880-U、硬度80A、信越化学工業社製、表面自由エネルギー:22mN/m)を使用した以外は実施例19と同様にして、実施例24の積層材料塗布シートを作製した。
[実施例12]
ポリビニルピロリドン(K-90(商品名) 和光純薬製)2.0gと4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(東京化成製)0.25gとをクロロホルム100gに溶解させ、親水コート液を調製した。
実施例8で作製した積層材料塗布シートを、10%塩酸水溶液に12時間以上浸漬させた後に、メタノールで洗浄し、室温(25℃)で1時間風乾させた後に60℃で30分乾燥させた。この風乾後のシートを、親水コート液に3分間浸漬させた後、60℃で30分間、次いで135℃で30分間、加熱乾燥させ、親水性潤滑コート層cを形成し、実施例12の、親水性潤滑コート層付き積層材料塗布シートを作製した。
[実施例20]
実施例14で作製した積層材料塗布シートを、10%塩酸水溶液に12時間以上浸漬させた後に、メタノールで洗浄し、室温(25℃)で1時間風乾させた後に60℃で30分乾燥させた。この風乾後のシートを、上記親水コート液に3分間浸漬させた後、60℃で30分間、次いで135℃で30分間、加熱乾燥させ、親水性潤滑コート層cを形成し、実施例20の、親水性潤滑コート層付き積層材料塗布シートを作製した。
[実施例25]
実施例20において、ウレタンシートに代えてシリコーンシート(商品名:KE-880-U、硬度80A、信越化学工業社製、表面自由エネルギー:22mN/m)を使用した以外は実施例20と同様にして、実施例25の積層材料塗布シートを作製した。
なお、実施例11、19、24のシートにおける層bの厚みは0.7μm、実施例12、20、25のシートにおける層bと層cの厚さの合計は4.0μmであった。
【0114】
<試験>
上記で作製した積層材料塗布シートについて、以下の試験を行った。試験結果を下記表2にまとめて記載する。
【0115】
[試験例1-1]初期の密着性
上記で得られた積層材料塗布シートについて、テープ剥離試験(ISO2409準拠)にて評価した。
クロスカッターを用いて積層材料表面(基材aとは反対側の面)に、2mm間隔で、縦10マス×横10マスの合計100マスの格子パターンの切込みを入れた。続いて、格子パターンに切込みを入れた部分にセロハンテープ(登録商標、ニチバン社製、幅24mm)を貼り付け、剥がした。いずれの積層材料塗布シートについても、基材aに到達するように切込みを入れた。
全マス目に対し、積層材料が積層材料塗布シート上に残ったマス目の割合(〔残ったマスの個数/100〕×100(%))を算出し、下記評価基準により「初期の密着性」を評価した。本試験においては、「3」以上が合格である。
[試験例1-2]経時での密着性
上記で得られた積層材料塗布シートを、40℃、80%RH、大気圧(1013hPa)の条件下で2週間保管した。この経時後の積層材料塗布シートについて、試験例1-1と同様にしてテープ剥離試験を行い、下記評価基準により「経時での密着性」を評価した。本試験においては、「3」以上が合格である。
<密着性の評価基準>
9:残ったマス目の割合が99%以上である。
8:残ったマス目の割合が97%以上99%未満である。
7:残ったマス目の割合が95%以上97%未満である。
6:残ったマス目の割合が90%以上95%未満である。
5:残ったマス目の割合が80%以上90%未満である。
4:残ったマス目の割合が60%以上80%未満である。
3:残ったマス目の割合が40%以上60%未満である。
2:残ったマス目の割合が20%以上40%未満である。
1:残ったマス目の割合が20%未満である。
【0116】
【表2】
【0117】
<表の注>
*1:架橋性ポリマーb2の質量/(ポリマーb1の質量+架橋性ポリマーb2の質量)×100%で算出される。
*2:算出不可であることを示す。
*3:架橋性ポリマーb2を含有しないことを示す。
【0118】
表2に示されるように、比較例1は、層b形成用塗布液が架橋性ポリマーとして、数平均分子量1000未満のテトラエチレングリコールジメタクリレートを含有する。この塗布液を用いて形成された比較例1の積層材料塗布シートは、経時での密着性の評価結果に劣り、優れた密着性を維持することができなかった。また、比較例2は、層b形成用塗布液が、架橋性ポリマーとして、主鎖に陰性元素を有しないポリブタジエンを含有する。この塗布液を用いて形成された比較例2の積層材料塗布シートは、経時での密着性が低く、経時後も優れた密着性を維持することができなかった。また架橋性ポリマーを有さない比較例3では、初期の密着性に劣っていた。また、この比較例3は、経時後にはさらに密着性が低下する結果となった。
これに対し、本発明の規定を満たす実施例1~12の形態では、経時での密着性がいずれも高く、経時後も優れた密着性を維持することができた。
【0119】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0120】
本願は、2018年7月17日に日本国で特許出願された特願2018-134502に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0121】
10 医療用潤滑性部材に用いる積層材料
20 医療用潤滑性部材
a 基材
b ポリシロキサン構造を含むポリマーb1と架橋性ポリマーb2から形成された架橋体を含有する層
c 親水性ポリマーを含有する層
図1
図2