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特許7038233ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法、マスターバッチペレット、並びに成形体
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  • 特許-ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法、マスターバッチペレット、並びに成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法、マスターバッチペレット、並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220310BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220310BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20220310BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220310BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20220310BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L23/00
C08K3/30
C08K5/09
C08L21/00
C08J3/22 CES
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020563378
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050974
(87)【国際公開番号】W WO2020138222
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018243931
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高山 哲生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕三
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 徹
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113480(JP,A)
【文献】特開2013-213153(JP,A)
【文献】特開2018-076389(JP,A)
【文献】特開2010-260934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 23/00
C08K 3/30
C08K 5/09
C08L 21/00
C08J 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)を50~90質量%、オレフィン重合体(B)としてのポリプロピレンを2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)を5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)を0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)を1~20質量%含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂を含む海部と、前記エラストマーを外周に有する島部とからなる海島構造を有することを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
オレフィン重合体(B)としてのポリプロピレン2~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、並びにエラストマー(E)1~50質量%を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、
該マスターバッチペレット10~60質量%、及びポリカーボネート樹脂(A)40~90質量%を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程と
を有することを特徴とする請求項1または2記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
オレフィン重合体(B)としてのポリプロピレン28~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、
該マスターバッチペレット10~59質量%、ポリカーボネート樹脂(A)40~89質量%、及びエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程と
を有することを特徴とする請求項1または2記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂(A)50~90質量%、オレフィン重合体(B)としてのポリプロピレン2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練することを特徴とする請求項1または2記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
オレフィン重合体(B)としてのポリプロピレン2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練し、その後、
ポリカーボネート樹脂(A)50~90質量%を加えて溶融混練することを特徴とする請求項1または2記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)を含む希釈材と混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造するためのマスターバッチペレットであって、
オレフィン重合体(B)としてのポリプロピレン2~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、及びエラストマー(E)1~50質量%を含むことを特徴とするマスターバッチペレット。
【請求項8】
請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物の成形物であることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法、マスターバッチペレット、並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた機械的特性、熱特性を有しているため、OA機器分野、電子電気機器分野、及び自動車分野など様々な分野で広く利用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、溶融粘度が高いため加工性に乏しい、また、非結晶性樹脂であることから耐薬品性に劣る。そこで、ポリカーボネート樹脂の耐薬品性を向上させるために、ポリカーボネート樹脂にポリオレフィン系樹脂を添加することが知られている。性質の異なる両者の相溶性を高め、実用的な機械的特性を付与するために、エラストマー等の相溶化剤や充填材を添加した樹脂組成物が数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂組成物に剛性を始めとする機械的特性を付与するため、ポリカーボネート系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを含む樹脂に、相溶化剤としてスチレン系熱可塑性エラストマー、さらにガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材を添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-204480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス繊維を含有するポリカーボネート樹脂組成物は、加工性に問題がある。また、ガラス繊維を含有するポリカーボネート樹脂組成物を硬化させて得られる成形体は、衝撃強度が不十分であるのに加え、ガラス繊維に起因して外観が損なわれることがある。
【0006】
そこで、ガラス繊維より繊維径がより小さく、補強効果を有すると共に外観に優れた成形体が得られる充填材として、繊維状塩基性硫酸マグネシウムが着目されている。繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、生体溶解性を備えた安全な充填材である。しかしながら、繊維状塩基性硫酸マグネシウムは弱塩基性であるため、塩基に弱いポリカーボネート樹脂に添加すると、ポリカーボネート樹脂が加水分解してしまう。この場合には、混練自体が不可能になるという問題が生じる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、加水分解せずに混練・成型可能で加工性に優れ、機械的特性及び外観の良好な成形体が得られるポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法、マスターバッチペレット、並びに成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の目的を達成するために、鋭意検討した結果、繊維状塩基性硫酸マグネシウムがポリカーボネート樹脂に添加された場合でも、オレフィン重合体と脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種とエラストマーが含有されていれば、ポリカーボネート樹脂の加水分解を回避して混練可能となり、加工性も向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)を50~90質量%、オレフィン重合体(B)を2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)を5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)を0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)を1~20質量%含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、オレフィン重合体(B)2~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、並びにエラストマー(E)1~50質量%を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、該マスターバッチペレット10~60質量%、及びポリカーボネート樹脂(A)40~90質量%を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程とを有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、オレフィン重合体(B)28~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、該マスターバッチペレット10~59質量%、ポリカーボネート樹脂(A)40~89質量%、及びエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程とを有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)50~90質量%、オレフィン重合体(B)2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、オレフィン重合体(B)2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練し、その後、ポリカーボネート樹脂(A)50~90質量%を加えて溶融混練することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0014】
さらに、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)を含む希釈材と混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造するためのマスターバッチペレットであって、オレフィン重合体(B)2~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、及びエラストマー(E)1~50質量%を含むことを特徴とするマスターバッチペレットに関する。
【0015】
さらにまた、本発明は、前記ポリカーボネート樹脂組成物の成形物であることを特徴とする成形体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加水分解せずに混練・成型可能で加工性に優れ、機械的特性及び外観の良好な成形体が得られるポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法、マスターバッチペレット、並びに成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】扇状塩基性硫酸マグネシウムの走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例2に係るポリカーボネート樹脂組成物の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)を50~90質量%、オレフィン重合体(B)を2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)を5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)を0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)を1~20質量%含む。本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、各成分を上述の割合で含むことにより、ポリカーボネート樹脂を含む海部の中に、残りの成分を含有する島部が分散した海島構造が形成される。
【0019】
島部の外周は、エラストマーで構成されている。島部の内部には、塩基性硫酸マグネシウムがオレフィン重合体等の残りの成分と混合されて存在する。これによって、塩基性硫酸マグネシウムが、海部のポリカーボネート樹脂と直接接触することは回避される。その結果、ポリカーボネート樹脂が加水分解することなくポリカーボネート樹脂組成物の混練・成型が可能になるものと考えられる。以下、各成分について説明する。
【0020】
(A)ポリカーボネート樹脂
ポリカーボネート樹脂としては、特に制限はなく、例えば、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリカーボネートなどを用いることができる。これらの中でも、芳香族ポリカーボネートが好ましい。ポリカーボネート樹脂は、市販品を用いてもよく、適宜合成したものを用いてもよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂を合成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法などにより合成する方法などが挙げられる。また、必要に応じて、分子量調整剤、分岐剤、触媒などを適宜使用してもよい。
【0022】
2価フェノールとしては、例えば、ビスフェノールA〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〕、ヒドロキノン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシジフェニル)ペンタン、2,2’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビス(3,5-ジエチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフォン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、5’-クロロ-2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジクロロジフェニルエーテル、ビス(4-ジヒドロキシ-5-プロピルフェニル)メタン、ビス(4-ジヒドロキシ-2,6-ジメチル-3-メトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2-エチルフェニル)エタン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、市場での入手の容易性の点で、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系化合物が好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0023】
カーボネート前駆体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルボニルハライド、カーボネート、ハロホルメートなどが挙げられる。具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、2価フェノールのジハロホルメート、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂のメルトフローレート(MFR)は、目的に応じて適宜選択することができるが、2~25g/10分が好ましく、2~10g/10分がより好ましい。ポリカーボネート樹脂のメルトフローレートが2g/10分以上であれば、成形加工性の良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られる。また、前記メルトフローレートが25g/10分以下であれば、十分な衝撃強度を成形体に付与することができる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全体量に対して、50~90質量%の範囲であり、55~75質量%の範囲が好ましい。ポリカーボネート樹脂の含有量が50質量%以上であれば、ポリカーボネート樹脂に由来する高い衝撃強度を有する成形体を得ることができる。一方、ポリカーボネート樹脂の含有量が90質量%以下であれば、フィラーによる補強効果が十分に発揮されて所望の曲げ弾性率を成形体に付与することができる。
【0026】
(B)オレフィン重合体
オレフィン重合体としては、エチレン重合体、プロピレン重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体などを挙げることができ、特にプロピレン重合体が好ましく、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)がより好ましい。オレフィン重合体は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。オレフィン重合体のメルトフローレート(MFR)は、通常3~300g/10分の範囲であり、好ましくは6~100g/10分の範囲である。
【0027】
オレフィン重合体の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全体量に対して、2.5~20質量%の範囲であり、8~15質量%の範囲が好ましい。オレフィン重合体の含有量が2.5質量%以上であれば、塩基性硫酸マグネシウムによるポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制することができる。一方、オレフィン重合体の含有量が20質量%以下であれば、所望の衝撃強度を有する成形体が得られる。
【0028】
(C)塩基性硫酸マグネシウム
塩基性硫酸マグネシウムとしては、以下に説明するような繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)および扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選択される少なくとも一つが用いられる。
【0029】
(C-1)繊維状塩基性硫酸マグネシウム
繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、例えば、海水から製造した水酸化マグネシウムと硫酸マグネシウムとを原料として、水熱合成で得ることができる。繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均長径が一般に5~100μmの範囲であり、10~60μmの範囲であることが好ましい。また、繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均短径が一般に0.1~5.0μmの範囲であり、0.2~2.0μmの範囲であることが好ましく、0.2~1.0μmの範囲が特に好ましい。
従来、充填材として用いられているガラス繊維は、平均繊維径(平均短径)が最小でも10μm程度である。繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、ガラス繊維より平均繊維径(平均短径)が小さいことから、ガラス繊維より認識され難い。
【0030】
繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均アスペクト比(平均長径/平均短径)が一般に2以上、好ましくは5以上、特に好ましくは5~80の範囲である。なお、繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均長径と平均短径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像から測定した100個の粒子の長径と短径のそれぞれの平均値から算出することができる。また、繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、複数の繊維状粒子の集合体や結合体であってもよい。
【0031】
(C-2)扇状塩基性硫酸マグネシウム
扇状塩基性硫酸マグネシウムは、複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムの一部が接合されて扇状に連なった粒子であり、例えば、その平均粒子長2~100μm、平均粒子幅1~40μm、平均アスペクト比1~100程度である。ここで、平均粒子長とは、粒子の長手方向の寸法を指し、平均粒子幅とは、粒子の短手方向の最大寸法を指す。粒子の長手方向とは粒子長が最大となる方向であり、粒子の短手方向とは長手方向と直交する方向である。また、平均アスペクト比とは、(平均粒子長/平均粒子幅)である。
【0032】
図1には、本発明で用い得る扇状塩基性硫酸マグネシウムの一例の走査型顕微鏡写真を示す。ここに示した扇状塩基性硫酸マグネシウムは、複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムが束なった扇状(平均粒子長33.0μm、平均粒子幅6.0μm、平均アスペクト比5.5)である。それぞれの繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均繊維長33.0μm、平均繊維径1.3μm、平均アスペクト比26である。
【0033】
扇状塩基性硫酸マグネシウムを構成しているそれぞれの繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均繊維長2~100μm、平均繊維径0.1~5μm、平均アスペクト比1~1000である。複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、例えば一端で束ねられ、他端で広がりを有する。また、複数の繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、長手方向における任意の位置で束ねられて、両端で広がりを有していてもよい。こうした扇状塩基性硫酸マグネシウムは、例えば、特公平4-36092号公報、および特公平6-99147号公報等に記載されている方法に従って製造し、確認することができる。
【0034】
また、扇状塩基性硫酸マグネシウムは、必ずしも個々の繊維状塩基性硫酸マグネシウムが確認される状態である必要はなく、一部において繊維状塩基性硫酸マグネシウム同士が長手方向にて接合した状態であってもよい。上述のような形状を有し、さらに所定範囲の平均繊維長、平均繊維径、および平均アスペクト比を有する繊維状塩基性硫酸マグネシウムが含まれることが確認されれば、本発明で用いられる扇状塩基性硫酸マグネシウムとみなすことができる。
【0035】
塩基性硫酸マグネシウムの含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全体量に対して、5~40質量%の範囲であり、5~30質量%の範囲が好ましく、10~30質量%の範囲がより好ましい。塩基性硫酸マグネシウムの含有量が5質量%以上であれば、塩基性硫酸マグネシウムの効果が発揮されて、所望の曲げ弾性率を成形体に付与することができる。一方、塩基性硫酸マグネシウムの含有量が40質量%以下であれば、加工性の良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0036】
(D)脂肪酸金属塩及び脂肪酸
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種を含有することによって、塩基性硫酸マグネシウムがオレフィン重合体中に優先的に分配される。脂肪酸金属塩及び脂肪酸は、ポリカーボネート樹脂組成物中に少なくとも一種が含有されればよいが、特に脂肪酸金属塩が好ましい。
【0037】
脂肪酸は、炭素原子数が12~22の範囲であることが好ましく、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸の例としては、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ベヘン酸などが挙げられる。不飽和脂肪酸の例としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸などが挙げられる。金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、リチウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0038】
脂肪酸金属塩及び脂肪酸の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全体量に対して、0.1~8質量%の範囲であり、0.1~7質量%の範囲が好ましく、0.5~6質量%の範囲がより好ましい。脂肪酸金属塩及び脂肪酸の含有量が0.1質量%以上であれば、これら化合物を添加した効果が発揮される。一方、脂肪酸金属塩及び脂肪酸の含有量が8質量%以下であれば、熱的安定性の良好なポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
(E)エラストマー
エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。スチレン系熱可塑性エラストマーは、下記式(e1)または(e2)で表されるブロック共重合体であることが好ましい。
Xk-Ym-Xn …(e1)
Xm-Yn …(e2)
【0040】
上記式中、Xは芳香族ビニル重合体ブロックを表す。式(e1)においては、分子鎖両末端で重合度が同一でも異なっていてもよい。また、Yは、ブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、ブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、水添されたブタジエン重合体ブロック、水添されたイソプレン重合体ブロック、水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロック、部分水添されたブタジエン重合体ブロック、部分水添されたイソプレン重合体ブロック及び部分水添されたブタジエン/イソプレン共重合体ブロックの中から選択される。k、m、nは1以上の整数である。
【0041】
具体例としては、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体等が挙げられ、その中でもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-ブテン-スチレン共重合体が最も好適である。
【0042】
前記ブロック共重合体におけるX成分の含有量は、20~80質量%であり、好ましくは30~75質量%であり、より好ましくは40~70質量%である。X成分の量が20質量%以上であれば、適切な剛性及び衝撃強度を成形体に付与することができる。一方、X成分が80質量%以下であれば、所望の衝撃強度を有する成形体を得ることができる。
【0043】
スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は25万以下が好ましく、20万以下がより好ましく、15万以下がさらに好ましい。重量平均分子量が25万以下であれば、成形加工性が低下したり、ポリカーボネート樹脂組成物中の分散性が悪化するおそれがない。また、重量平均分子量の下限については特に限定されないが、4万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。
【0044】
なお、重量平均分子量は以下の方法で測定した値である。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を算出する。スチレン系熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(230℃、2.16kg)は、0.1~10g/10minであることが好ましく、0.15~9g/10minであることがより好ましく、0.2~8g/10minであることが特に好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーのメルトフローレートが0.1~10g/10minの範囲内であれば、十分な靭性を備えた成形体が得られる。
【0045】
エラストマーの含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の全体量に対して、1~20質量%の範囲であり、1~15質量%の範囲が好ましく、1~12質量%の範囲がより好ましい。エラストマーの含有量が1.0質量%以上であれば、エラストマーを添加した効果を得ることができる。一方、エラストマーの含有量が20質量%以下であれば、適切な剛性及び長期耐クリープ特性を成形体に付与することができる。
【0046】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、耐電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤などを挙げることができる。他の成分の含有量としては、ポリカーボネート樹脂組成物全体の1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0047】
2.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法
次に、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、(製造方法I)オレフィン重合体(B)、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、該マスターバッチペレット及びポリカーボネート樹脂(A)を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程とを有する方法、(製造方法II)オレフィン重合体(B)、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)、並びに脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、該マスターバッチペレット、ポリカーボネート樹脂(A)、及びエラストマー(E)を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程とを有する方法、(製造方法III)ポリカーボネート樹脂(A)、オレフィン重合体(B)、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)を溶融混練する方法、(製造方法IV)オレフィン重合体(B)、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)を溶融混練し、その後、更にポリカーボネート樹脂(A)を加えて溶融混練する方法が挙げられる。
【0048】
上記(製造方法I)~(製造方法IV)のいずれの方法を用いても、本発明のポリカーボネート樹脂組成物、すなわち、ポリカーボネート樹脂を含む海部の中に、エラストマーを外周に有する島部が分散した海島構造を得ることができる。塩基性硫酸マグネシウムは、オレフィン重合体等の残りの成分とともに島部内部に存在している。その結果、塩基性硫酸マグネシウムは、海部のポリカーボネート樹脂と直接接触しないことから、ポリカーボネート樹脂の加水分解を回避することが可能である。
【0049】
(製造方法I)
製造方法Iは、オレフィン重合体(B)2~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、並びにエラストマー(E)1~50質量%を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、該マスターバッチペレット10~60質量%、及びポリカーボネート樹脂(A)40~90質量%を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程とを有する製造方法である。
製造方法Iでは、第一工程として、オレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)を溶融混練することで、オレフィン重合体中に塩基性硫酸マグネシウムが取り込まれた状態のマスターバッチペレットが得られる。こうしたマスターバッチペレットをポリカーボネート樹脂と混練することによって、ポリカーボネート樹脂の加水分解をより効果的に抑制できる。
【0050】
製造方法Iにおける溶融混練方法としては、第一工程及び第二工程ともに、特に制限はなく、1軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、混練ロールなどを用いる方法が挙げられる。溶融混練温度としては、第一工程が、好ましくは160~240℃、より好ましくは180~230℃であり、第二工程が、好ましくは230~280℃、より好ましくは240~260℃である。
【0051】
第一工程における「オレフィン重合体(B)2~50質量%、塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、並びにエラストマー(E)1~50質量%」の各割合は、マスターバッチペレットの製造における割合である。上記割合で製造されたマスターバッチペレットとポリカーボネート樹脂(A)との割合を、第二工程において調整することで、ポリカーボネート樹脂組成物中のオレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)の割合を調整することが可能である。
【0052】
第一工程において、マスターバッチペレットを得る方法としては、特に制限はなく、溶融混練の後、公知の方法を用いてペレット状に成形することによってマスターバッチペレットを得ることができる。
【0053】
また、第二工程において、溶融混練によって得られたポリカーボネート樹脂組成物の形状に制限はなく、ストランド状、シート状、平板状又はペレット状などの任意の形状への成形が可能である。後の工程で成形することを考慮すると、成形加工機への供給を容易であるという観点から、ペレット状とするのが好ましい。
【0054】
(製造方法II)
製造方法IIは、オレフィン重合体(B)28~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%を溶融混練してマスターバッチペレットを得る第一工程と、該マスターバッチペレット10~60質量%、ポリカーボネート樹脂(A)40~90質量%、及びエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造する第二工程とを有する製造方法である。
【0055】
製造方法IIにおける溶融混練方法は、製造方法Iと同様である。製造方法IIでは、エラストマー(E)は、第二工程においてポリカーボネート樹脂とともにマスターバッチペレットに配合している。このため、市販のポリオレフィンと塩基性硫酸マグネシウムと脂肪酸金属塩等からなるマスターバッチを利用することができるうえ、エラストマーの含有量のみを変更できる点で有利となる。溶融混練温度としては、ポリカーボネート樹脂の熱分解を防ぐ観点から、好ましくは230~280℃であり、より好ましくは240~270℃であり、さらに好ましくは245~260℃である。
【0056】
第一工程における「オレフィン重合体(B)28~50質量%、塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%」の各割合は、マスターバッチペレットの製造における割合である。上記割合で製造されたマスターバッチペレットとポリカーボネート樹脂(A)とエラストマー(E)との割合を、第二工程において調整することで、ポリカーボネート樹脂組成物中のオレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)の割合を調整することが可能である。
【0057】
また、製造方法IIにおける溶融混練によって得られたポリカーボネート樹脂組成物の形状に特に制限はなく、製造方法Iと同様に、ストランド状、シート状、平板状又はペレット状などの任意の形状への成形が可能である。
【0058】
(製造方法III)
製造方法IIIは、ポリカーボネート樹脂(A)50~90質量%、オレフィン重合体(B)2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練する製造方法である。
【0059】
製造方法IIIにおける溶融混練方法は、製造方法Iと同様である。製造方法IIIでは、ポリカーボネート樹脂(A)、オレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)をまとめて溶融混練することで、ポリカーボネート樹脂の熱分解防止、製造工程の簡略化といった利点を有する。溶融混練温度としては、ポリカーボネート樹脂の熱分解を防ぐ観点から、好ましくは230~280℃であり、より好ましくは240~270℃であり、さらに好ましくは245~260℃である。
【0060】
また、製造方法IIIにおける溶融混練によって得られたポリカーボネート樹脂組成物の形状に特に制限はなく、製造方法Iと同様に、ストランド状、シート状、平板状又はペレット状などの任意の形状への成形が可能である。
【0061】
(製造方法IV)
製造方法IVは、オレフィン重合体(B)2.0~20質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)5~40質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~8質量%、並びにエラストマー(E)1~20質量%を溶融混練し、その後、更にポリカーボネート樹脂(A)50~90質量%を加えて溶融混練する製造方法である。
【0062】
製造方法IVにおける溶融混練方法は、製造方法Iと同様である。製造方法IVでは、オレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、並びにエラストマー(E)を先に溶融混練して、その後にポリカーボネート樹脂(A)を加えることで、製造工程を簡略化できると。先の溶融混練の温度は、好ましくは160~240℃、より好ましくは180~230℃であり、ポリカーボネート樹脂(A)を加えた後の溶融混練の温度は、好ましくは230~280℃、より好ましくは240~260℃である。
【0063】
また、製造方法IVにおける溶融混練によって得られたポリカーボネート樹脂組成物の形状に特に制限はなく、製造方法Iと同様に、ストランド状、シート状、平板状又はペレット状などの任意の形状への成形が可能である。
【0064】
3.マスターバッチ(MB)ペレット
次に、マスターバッチペレットについて説明する。本発明のマスターバッチペレットは、ポリカーボネート樹脂(A)を含む希釈材と混練してポリカーボネート樹脂組成物を製造するための原材料である。
【0065】
本発明のマスターバッチペレットは、オレフィン重合体(B)2~50質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)及び扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2)から選ばれる塩基性硫酸マグネシウム(C)40~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)0.1~5質量%、エラストマー(E)1~50質量%を含んでいる。好ましくは、オレフィン重合体(B)を2~45質量%、塩基性硫酸マグネシウム(C)を55~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)を0.1~4.5質量%、エラストマー(E)1~45質量%含んでいる。さらに好ましくは、オレフィン重合体(B)を2~40質量%、塩基性硫酸マグネシウム(C)を60~70質量%、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)を0.5~4質量%、エラストマー(E)を2~40質量%含んでいる。
【0066】
オレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム(C)、脂肪酸金属塩及び脂肪酸から選ばれる少なくとも一種(D)、エラストマー(E)の詳細については、上述したとおりなので説明を省略する。また、マスターバッチペレットの製造方法は、上述したポリカーボネート樹脂組成物の製造方法Iの第一工程と同じである。希釈材としては、上述したポリカーボネート樹脂(A)を含む樹脂であれば特に制限はない。
【0067】
4.成形体
次に、成形体について説明する。本発明の成形体は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形することで製造することができる。ポリカーボネート樹脂組成物を成形する方法としては、上述した方法によりポリカーボネート樹脂組成物を製造し、これを成形する方法や、マスターバッチペレットと希釈ペレットを混合し、当該混合物を成形機により直接成形する方法などを挙げることができる。また、成形に使用する成形機としては、例えば、圧延成形機(カレンダー成形機など)、真空成形機、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、プレス成形機などを挙げることができる。
【0068】
本発明の成形体は、アイゾット衝撃強度が高いという優れた特性を備えている。アイゾット衝撃強度は衝撃に対する強さを表す指標である。本明細書におけるアイゾット衝撃強度の値は、後述する実施例に記載した方法で測定した結果と定義することができる。具体的には、アイゾット衝撃試験機を使用し、JISK7110に準拠する方法で測定を行った結果である。
【0069】
さらに本発明の成形体は、曲げ弾性率が高い点も優れている。曲げ弾性率は、成形体の変形のしにくさを表す指標であり、後述する実施例に記載した方法で測定した結果と定義することができる。具体的には、万能力学試験機を使用し、JISK7171に準拠する方法で測定を行った結果である。
【0070】
本発明の成形体は、平均繊維径(平均短径)の小さい繊維状塩基性硫酸マグネシウム、またはこうした繊維状塩基性硫酸マグネシウムを含む扇状塩基性硫酸マグネシウムを充填材として用いたポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる。したがって、本発明の成形体は、平均繊維径(平均短径)の大きいガラス繊維などを充填材としていた場合よりも外観に優れ、人目に触れる外装部分にも使用できるという利点も備えている。
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではなく、また、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0072】
まず、本実施例で用いた測定方法を示す。
(メルトフローレート(MFR))
メルトフローインデクサ((株)東洋精機製作所製、G-01)を用いて、JISK7210に準拠してメルトフローレート試験を行い、メルトフローレート(MFR)を評価した。
【0073】
(アイゾット衝撃強度(Izod))
アイゾット衝撃試験機((株)マイズ試験機製)を用いてJISK7110に準拠して試験を行い、アイゾット衝撃強度を評価した。ハンマーは2.75Jとした。
【0074】
(曲げ弾性率(FM))
万能力学試験機((株)イマダ製)を用いて3点曲げ試験を行い、得られた荷重たわみ曲線から。JISK7171に準拠した方法により曲げ弾性率を評価した。支点間距離は40mm、負荷速度は10mm/minとした。
【0075】
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察)
得られたポリカーボネート樹脂組成物を光硬化性アクリル樹脂で包埋後、組成物中の繊維状塩基性硫酸マグネシウムの繊維方向の断面が観察できるように切り出した。さらに、アルミ試料ピンに固定した。トリミング、面出しを行い、クライオミクロトーム(LEICA製、FCS)を使用して超薄切片を作製した。得られた超薄切片を試料として、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、JEM-2100F)を用いて観察した。
【0076】
<樹脂組成物の製造>
実施例及び比較例において用いる成分を、以下に示す。
ポリカーボネート樹脂(A):
[MFR(温度240℃、荷重5.000kg):4.5g/10分]
オレフィン重合体(B):
ポリプロピレン樹脂[MFR(温度230℃、荷重2.160kg):8g/10分]
繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1):
(モスハイジA-1、宇部マテリアルズ(株)製、平均長径:15μm、平均短径:0.5μm)
扇状塩基性硫酸マグネシウム(C-2):
(平均粒子長33.0μm、平均粒子幅6.0μm、平均アスペクト比5.5)
脂肪酸金属塩(D):ステアリン酸マグネシウム
エラストマー(E):スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS、タフテックH1043、旭化成(株)製)
ガラス繊維(F):
(CS(F)3-PE-960S、(株)日東紡製、繊維長径:3mm、繊維短径:13μm)
【0077】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(B)29.5質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)68.6質量%、及びステアリン酸マグネシウム(D)1.9質量%を混合し、得られた混合物を180℃で2分間、溶融混練した。溶融混練には、溶融混練押出機ラボプラストミルローラミキサ(R60型、容量60cc、(株)東洋精機製)を用い、軸の回転数は120rpmとした。得られた溶融混練物をホットプレス(温度200℃)にてシート状にした後、切断してマスターバッチペレットを得た。
上記マスターバッチペレット21質量%、ポリカーボネート樹脂(A)76質量%、及びエラストマー(E)3質量%を混合した。その後、二軸溶融混練押出機(L/D=25、(株)井元製作所製)を用いて、250℃、50rpmで溶融混練して実施例1のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0078】
(実施例2)
ポリカーボネート樹脂(A)の割合を73.9質量%に変更し、エラストマー(E)の割合を5.1質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0079】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(B)27.5質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)64.2質量%、ステアリン酸マグネシウム(D)1.7質量%、及びエラストマー(E)6.6質量%を用いる以外は実施例1と同様にして、マスターバッチペレットを得た。
上記マスターバッチペレット22.9質量%及びポリカーボネート樹脂(A)73.9質量%を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例3のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0080】
(実施例4)
ポリプロピレン樹脂(B)25.5質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)59.1質量%、ステアリン酸マグネシウム(D)1.6質量%、及びエラストマー(E)13.8質量%を用いてマスターバッチペレットを作製し、得られたマスターバッチペレット24.7質量%とポリカーボネート樹脂(A)75.3質量%とを混合した以外は実施例3と同様にして、実施例4のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0081】
(実施例5)
ポリプロピレン樹脂(B)22.6質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)53.3質量%、ステアリン酸マグネシウム(D)1.5質量%、及びエラストマー(E)22.6質量%を用いてマスターバッチペレットを作製し、得られたマスターバッチペレット27.4質量%とポリカーボネート樹脂(A)72.6質量%とを混合した以外は実施例3と同様にして、実施例5のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0082】
(実施例6)
ポリプロピレン樹脂(B)19.6質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)46.2質量%、ステアリン酸マグネシウム(D)1.3質量%、及びエラストマー(E)32.9質量%を用いてマスターバッチペレットを作製し、得られたマスターバッチペレット31.6質量%とポリカーボネート樹脂(A)68.4質量%とを混合した以外は実施例3と同様にして、実施例6のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0083】
(実施例7)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)を、同量の扇状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-2)に変更した以外は実施例4と同様にして、実施例7のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0084】
(実施例8)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)を、同量の扇状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-2)に変更した以外は実施例5と同様にして、実施例8のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0085】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂(B)28.1質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)70.0質量%、及びステアリン酸マグネシウム(D)1.9質量%を用いてマスターバッチペレットを作製し、得られたマスターバッチペレット21質量%とポリカーボネート樹脂(A)79質量%とを混合した以外は実施例1と同様にして、比較例1のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0086】
(比較例2)
ポリカーボネート樹脂(A)を単独で用いた。
【0087】
(比較例3)
ポリカーボネート樹脂(A)80質量%とガラス繊維(F)20質量%とを混合した。得られた混合物を二軸溶融混練押出機で溶融混練して、比較例3のポリカーボネート樹脂組成物を得た。溶融混練は、温度を280℃に変更した以外は実施例1と同様にして行った。
【0088】
(比較例4)
ポリカーボネート樹脂(A)80質量%と繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)20質量%とを混合した。次いで、実施例1と同様に二軸溶融混練押出機で溶融混練を試みたが、混練不能であった。
【0089】
(比較例5)
ポリカーボネート樹脂(A)84.7質量%と、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)14.9質量%と、脂肪酸金属塩(D)0.4質量%とを混合した。次いで、実施例1と同様に二軸溶融混練押出機で溶融混練を試みたが、混練不能であった。
【0090】
(比較例6)
ポリカーボネート樹脂(A)79.0質量%と、オレフィン重合体(B)6.3質量%と、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)14.7質量%とを混合した。次いで、実施例1と同様に二軸溶融混練押出機で溶融混練を試みたが、混練不能であった。
【0091】
比較例3~6の結果から、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)が含有されていても、オレフィン重合体(B)及び/又は脂肪酸金属塩(D)が含まれない場合には、混練自体が不可能であることがわかる。
【0092】
(比較例7)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)を同量のガラス繊維(F)に変更した以外は実施例3と同様にして、比較例7のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0093】
(比較例8)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)を同量のガラス繊維(F)に変更した以外は実施例4と同様にして、比較例8のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0094】
(比較例9)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)を同量のガラス繊維(F)に変更した以外は実施例5と同様にして、比較例9のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0095】
(比較例10)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-1)を同量のガラス繊維(F)に変更した以外は実施例6と同様にして、比較例10のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0096】
(比較例11)
繊維状塩基性硫酸マグネシウム(C-1)を、同量の扇状塩基性硫酸マグネシウム粒子(C-2)に変更した以外は比較例1と同様にして、比較例11のポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0097】
実施例1~8及び比較例1~11で得られたポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂(A)、オレフィン重合体(B)、塩基性硫酸マグネシウム粒子(C)、脂肪酸金属塩(D)、エラストマー(E)及びガラス繊維(F)の含有量(質量%)を、下記表1にまとめる。
【0098】
【表1】
【0099】
<評価方法>
実施例及び比較例にて得られたポリカーボネート樹脂組成物をストランド状に押出した後、切断して、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットとした。ポリカーボネート樹脂組成物ペレットは、上記の方法によりメルトフローレートを測定した。
また、上記ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを、小型射出成形機(C.Mobile0813、(株)新興セルビック製)にて射出成形し、成形体(長さ50mm、幅5mm、厚さ2mm)を製造した。得られた成形体を試験片として用いて、上述した方法により衝撃強度及び曲げ弾性率を測定した。
さらに、各試験片の外観を目視により観察して、表面に充填材が認識されるか否かを調べた。充填材が認識されない場合を“○”とし、認識される場合を“×”とした。
得られた結果を、上述の測定結果とともに下記表2にまとめる。
【0100】
【表2】
【0101】
上記表2に示されるように、ポリカーボネート樹脂、オレフィン重合体、塩基性硫酸マグネシウム、脂肪酸金属塩及びエラストマーを所定の量で含有するポリカーボネート樹脂組成物(実施例1~8)は、ポリカーボネート樹脂単体(比較例2)や充填材としてガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物(比較例3)と比較して、メルトフローレートの値が大幅に向上している。
【0102】
また、実施例1~8のポリカーボネート樹脂組成物を用いて製造した成形体の衝撃強度(Izod)は、エラストマーを含有しないポリカーボネート樹脂組成物(比較例1)を用いて製造した成形体より著しく大きい。曲げ弾性率が3.5GPa程度であっても衝撃強度が13kJ/m2未満の成形体は、実用には適さない場合がある。本発明の成形体は、衝撃強度が13kJ/m2以上であるので、実用上問題ないことがわかる。
また、実施例1~8のポリカーボネート樹脂組成物を用いて製造した成形体は、ポリカーボネート樹脂単体(比較例2)を用いて製造した成形体より曲げ弾性率が優れている。しかも、充填材としてガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物(比較例3)を用いて製造した成形体のように外観の不良も発生しない。
【0103】
比較例7~10のポリカーボネート樹脂組成物を用いて製造した成形体は、いずれも外観に不良が確認された。比較例7~10のポリカーボネート樹脂組成物は、繊維状塩基性硫酸マグネシウムの代わりにガラス繊維を含有する以外は、それぞれ実施例3~6のポリカーボネート樹脂組成物と同様の組成である。充填材としてガラス繊維が含有された場合には、加水分解せずに混練・成型可能で加工性に優れ、機械的特性及び外観の良好な成形体が得られるポリカーボネート樹脂組成物が得られないことが示された。
【0104】
扇状塩基性硫酸マグネシウム粒子を含有しても、エラストマーを含有しないポリカーボネート樹脂組成物を用いた場合には、衝撃強度(Izod)の大きな成形体は得られないことが、実施例7,8と比較例11との比較からわかる。
【0105】
ここで、実施例2のポリカーボネート樹脂組成物のTEM写真を、図2に示す。図示するように、ポリカーボネート樹脂からなる海部11の中に、エラストマー15で包囲された島部12が分散している。島部12の内部では、繊維状塩基性硫酸マグネシウム14がオレフィン重合体13とともに存在していることが確認される。
【符号の説明】
【0106】
11…海部(ポリカーボネート樹脂) 12…島部 13…オレフィン重合体
14…繊維状塩基性硫酸マグネシウム 15…エラストマー
図1
図2