(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-09
(45)【発行日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ホットメルト接着剤の製造方法及びホットメルト接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 5/00 20060101AFI20220310BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20220310BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
C09J5/00
C09J201/00
C09J11/08
(21)【出願番号】P 2021501946
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005843
(87)【国際公開番号】W WO2020175187
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2019032653
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】藤井 満美子
(72)【発明者】
【氏名】佐見津 麻希
(72)【発明者】
【氏名】石岡 将史
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】楠 栄二
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-322288(JP,A)
【文献】特開2010-180387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0355228(US,A1)
【文献】特開2017-125181(JP,A)
【文献】特開2004-292654(JP,A)
【文献】特開2016-141064(JP,A)
【文献】特開2016-017180(JP,A)
【文献】特開平09-012695(JP,A)
【文献】特表2004-532926(JP,A)
【文献】中国実用新案第206493568(CN,U)
【文献】特開2005-053995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00-5/10;9/00-201/10
B29B7/00-11/14;13/00-15/06
B29C31/00-31/10;37/00-37/04
B29C47/00-47/96;71/00-71/02
C08J3/00-3/28;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー系、ポリオレフィン系、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)系、ポリアクリレート系、ポリエステル系、及びポリアミド系の熱可塑性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂ポリマーをベース樹脂とし、粘着性付与剤を含むホットメルト接着剤の製造方法であって、
液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、ゲージ圧が-60kPaより高い真空度で脱気を行うことを含
み、
前記流体は、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、一酸化炭素ガス、アンモニアガス、空気、液化窒素、液化ヘリウム、液化アルゴン、液化酸素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、ノルマルヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、リモネン、脂肪族系溶剤、水からなる群より選択される少なくとも1種であるホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項2】
前記加熱混練機容積に対し0.4倍容積以上の分速排気速度で脱気を行う、請求項1に記載のホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項3】
さらに前記加熱混練機から排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ流体を回収することを含む、請求項1または2に記載のホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項4】
前記流体の回収率が60%以上である、請求項3に記載のホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項5】
得られるホットメルト接着剤における残存揮発性有機化合物が10ppm以下である、請求項1~4のいずれかに記載のホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項6】
前記加熱混練機がバッチ処理方式である、請求項1~5のいずれかに記載のホットメルト接着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト材料で使用されるポリマー材料には、原料や重合溶剤などの揮発性有機化合物(以下、VOCともいう)がごく微量に残存している。これらの揮発性有機化合物は固化した接着剤から蒸発または移動することがあり、特に、自動車分野では、前記揮発性成分がパッセンジャーセル内の呼吸可能な空気中に溜まり、不快な匂いを生じさせる可能性があり、健康に関わる可能性がある。また、揮発性成分がフロントガラス等の冷表面に堆積して視界障害を引き起こす可能性もある(フォギング現象)。さらに、衛生材料分野では近年、密閉袋を開封した時に発せられる臭気に対して、消費者からの指摘を受けているという事情もある。
【0003】
従来、加熱脱気されることで一部のVOC成分は除去されるが、原料に残存した微量のVOC成分の除去が可能なホットメルト接着剤の製造方法は確立されていない(例えば、特許文献1)。
【0004】
そこで、現状では、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を配合するためには、材料中に含まれる揮発成分が少ないポリマー材料を選択するしかなかった。
【0005】
しかしながら、材料中に含まれる揮発成分が少ないポリマー材料を選択する場合、配合技術の設計範囲を狭め、接着性能ニーズにあったホットメルト接着剤の提供が難しいという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、前記問題点を解決することにある。すなわち、材料を限定することなく、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記構成によって、上記目的を達することを見出し、この知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の一局面に係るホットメルト接着剤の製造方法は、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のホットメルト接着剤の製造方法は、上述したように、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすることによって、VOCを多く含有している材料や臭気の強い材料を用いた場合でも低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を製造することが可能となり、接着性能と低VOC・低臭気との両立を図りやすくなる。また、特殊な材料を用いる必要もなくなるため、配合設計の自由度が上がり、コストの抑制にもつながる。すわなち、本発明によれば、材料選択にとらわれることなく、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を様々な産業分野に提供することができる。
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
まず、本実施形態で使用できるホットメルト接着剤材料としては、従来からホットメルト接着剤に使用されているベース樹脂、粘着性付与剤、その他添加剤を特に限定なく使用することができる。特に、本実施形態の製造方法によれば、どのようなホットメルト接着剤材料を使用しても、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を提供することができる。
【0014】
具体的な材料としては、ベース樹脂としては、例えば、ホットメルト接着剤を構成する成分として用いられる熱可塑性ポリマーを特に限定なく使用することができる。熱可塑性ポリマーとしては、具体的には、エラストマー系の熱可塑性ポリマー、ポリオレフィン系の熱可塑性ポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)系の熱可塑性ポリマー、ポリアクリレート系の熱可塑性ポリマー、ポリエステル系の熱可塑性ポリマー、及びポリアミド系の熱可塑性ポリマーが挙げられる。
【0015】
エラストマー系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、エラストマー系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、共役ジエン化合物に基づく構成単位(共役ジエン単位)を有する重合体である共役ジエン系重合体等が挙げられる。また、エラストマー系の熱可塑性ポリマーとしては、具体的には、共役ジエン系化合物とビニル系芳香族炭化水素との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体等が挙げられる。すなわち、前記熱可塑性ポリマーとして、このような熱可塑性ブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0016】
共役ジエン系化合物は、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物であれば、特に限定されない。共役ジエン系化合物としては、具体的には、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、及び1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。
【0017】
ビニル系芳香族炭化水素は、ビニル基を有する芳香族炭化水素であれば、特に限定されない。ビニル系芳香族炭化水素としては、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、及びビニルアントラセン等が挙げられる。
【0018】
共役ジエン系重合体としては、水素添加した水素添加型の共役ジエン系共重合体であってもよいし、水素添加していない非水素添加型の共役ジエン系共重合体であってもよい。
【0019】
熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性ブロック共重合体が好ましく、その具体例としては、例えば、スチレン-ブタジエンブロックコポリマー、スチレン-イソプレンブロックコポリマー、水素添加されたスチレン-ブタジエンブロックコポリマー、及び水素添加されたスチレン-イソプレンブロックコポリマー等が挙げられる。また、これらの共重合体は、ABA型トリブロック共重合体を含む。スチレン-ブタジエンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー(SBS)等が挙げられる。また、スチレン-イソプレンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)等が挙げられる。また、水素添加されたスチレン-ブタジエンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー(SEBS)等が挙げられる。また、水素添加されたスチレン-イソプレンブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー(SEPS)等が挙げられる。
【0020】
ポリオレフィン系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、ポリオレフィン系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリオレフィンのホモポリマーおよびコポリマーは、エチレン、プロペンおよび/またはブテンに基づくポリ-α-オレフィン、アタクチックポリ-α-オレフィン(APAO)、ならびにエチレン/α-オレフィンおよびプロピレン/α-オレフィンコポリマー等が挙げられる。
【0021】
EVA系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、EVA系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、エチレンと酢酸ビニルから合成される共重合体等が挙げられる。
【0022】
ポリアクリレート系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤におけるポリアクリレート系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されない。ポリアクリレート系の熱可塑性ポリマーといえば、例えばポリメリルメタクリレートとポリブチルアクリレートとのブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0023】
ポリエステル系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、ポリエステル系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されない。ポリエステル系の熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ダイマー酸を用いて重合されたポリエステル等が挙げられる。
【0024】
ポリアミド系の熱可塑性ポリマーは、ホットメルト接着剤における、ポリアミド系の熱可塑性ポリマーとして用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、ナイロン等が挙げられる。上述したようなベース樹脂は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
また、粘着性付与剤についても、その他、芳香族系、脂肪族系、脂環族系、天然物およびその水素添加物等を特に限定なく用いることが可能である。例えば、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体を例示することができる。上述したような粘着付与剤は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
その他、添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填材、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、ワックス、及び可塑剤等を用いてもよい。
【0027】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤や有機硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。有機硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、上記例示した酸化防止剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本実施形態の製造方法は、液状状態のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を導入する工程と、加熱撹拌または分散を行い、脱気を行う工程を含む。
【0029】
加熱混練機に流体を導入する工程は、ホットメルト接着剤用材料を加熱混練機に投入した後であれば、ホットメルト接着剤用材料を混練する間に行ってもよいし、混練が完了した後に行ってもよい。好ましくは、材料の混練が完了した後に行う。本実施形態において、「混練が完了した」とは、ホットメルト接着剤の材料(例えば、ベース樹脂と粘着性付与剤)が一様の流動性を示した状態を意味する。
【0030】
加熱混練機については、ホットメルト接着剤の撹拌混練に使用されている一般的な製造装置を使用することができる。例えば、ホットメルト接着剤の一般的な製造方式において、連続処理方式とバッチ処理方式がある。連続処理方式として使用される加熱混錬機として、ルーダー、エクストルーダー、二軸テーパースクリュー等を用いることができる。また、バッチ処理方式として使用される加熱混錬機として、撹拌混練機やバンバリーミキサー、ニーダー等を用いることができる。
【0031】
加熱混練機に導入する流体は、特に限定はされず、形状も液体であっても気体であっても、超臨界状態であっても、亜臨界状態であってもよい。具体的には、例えば、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニアガス、空気、液化窒素、液化ヘリウム、液化二酸化炭素、液化アルゴン、液化酸素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、ノルマルヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、リモネン、脂肪族系溶剤、水などの粘度10mPa・s以下の流体などが挙げられる。これらは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
前記流体の加熱混練機への導入は、前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部の量で行う。導入量が0.3質量部未満となると、VOC成分の除去効率が低下するおそれがある。
【0033】
また、導入量の上限については脱VOC、脱臭気効果が低下することがないため特に設ける必要はない。しかしながら、コストや工程時間などを考慮すると、好ましくは前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して50質量部以下、さらには25質量部以下であることが望ましい。
【0034】
本実施形態における流体の導入方法は特に限定されず、加熱混練機の上方、側面、下方のいずれから導入してもよい。具体的には、例えば、前記流体が気体であれば加熱混練機の下方および/または側面から導入することによって、あるいは、前記流体が液体であれば加熱混練機の下方および/または側面から導入することによって導入することができる。
【0035】
前記流体を加熱混練機に導入した後、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行う。このときの加熱温度は、ホットメルト接着剤用材料の溶融温度以上であれば特に限定はなく、ホットメルト接着剤用材料として使用しているベース樹脂の種類などによって適宜設定することができる。
【0036】
加熱撹拌や分散は、従来、本技術分野で公知の手段によって行うことができる。例えば、パドル、タービン、プロペラ、アンカー、ヘリカルリボン、マックスブレンド、フルゾーン、スクリュー、ブレード、MR-205、Hi-Fミキサー、サンメラー等を使用できる。これらは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
脱気は、前記加熱混練機容積に対し0.4倍容積以上の分速排気速度で、ゲージ圧が-60kPaより高い真空度となるまで行うことが好ましい。このような条件で脱気を行うことによって、残留VOC量をより十分に抑えることができる。
【0038】
本実施形態の脱気の手段は特に限定されないが、具体的には、例えば、前記分速排気速度となるように調整した真空ポンプを用いて、前記真空度となるまで減圧することによって脱気することができる。
【0039】
前記分速排気速度は、より好ましくは、加熱混練機容積に対し等倍容積以上である。前記分速排気速度の上限は特に規定する必要はないが、設備の大型化、コスト抑制の観点から、前記加熱混練機容積に対し17.5倍容積以下とすることが好ましい。
【0040】
前記脱気はゲージ圧が-90kPaより高い真空度であることがより好ましい。上限値については特に設ける必要はないが、設備の破損、設備の大型化、コストアップなどの観点からゲージ圧-101kPaより低い真空度であることが望ましい。
【0041】
以上のように、特定の条件下において、ホットメルト接着剤用材料中に流体を分散させることによって、この流体に難揮発性有機化合物が吸着し、脱気工程によってホットメルト接着剤用材料から除去されると考えられる。その結果、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を提供することができる。
【0042】
さらに、本実施形態の製造方法では、前記加熱混練機から排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ流体を回収する工程を含んでいてもよい。
【0043】
それにより、真空ポンプの長寿命化が図れるといった利点がある。
【0044】
また、前記回収工程における流体の回収率が60%以上であることが好ましい。それにより、環境大気汚染をより抑制することができると考えられる。
【0045】
本実施形態の製造方法によって得られるホットメルト接着剤は、残存揮発性有機化合物が10ppm以下であり、低VOC及び低臭気であるため、産業利用上非常に有用である。このようなホットメルト接着剤は、材料中に含まれる揮発成分が少ないポリマー材料を選択して製造された従来のホットメルト接着剤よりもさらに残存揮発性有機化合物が少ないことが特徴である。よって、本実施形態の製造方法によって得られるホットメルト接着剤(残存揮発性有機化合物が10ppm以下)もまた本発明に包含される。
【0046】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0047】
本発明の一局面に係るホットメルト接着剤の製造方法は、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に流体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.3質量部の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記流体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする。
【0048】
このような構成により、材料選択にとらわれることなく、低VOC、低臭気のホットメルト接着剤を様々な産業分野で提供することができる。
【0049】
さらに、前記加熱混練機容積に対し0.4倍容積以上の分速排気速度で脱気を行うことが好ましく、また、前記脱気のゲージ圧が-60kPaより高い真空度であることが好ましい。それにより、上述した効果がより確実に得られると考えられる。
【0050】
前記製造方法は、さらに、前記加熱混練機から排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ流体を回収することを含むことが好ましい。それにより、真空ポンプの長寿命化等を図ることができる。
【0051】
また、前記製造方法において、前記流体の回収率が60%以上であることが好ましい。それにより、環境大気汚染をより抑制することができると考えられる。
【0052】
さらに、前記製造方法において、得られるホットメルト接着剤における残存揮発性有機化合物が10ppm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
まず、本実施例で使用したホットメルト接着剤用材料を以下に示す。
【0055】
(ホットメルト接着剤1:オレフィン系ホットメルト)
・ベース樹脂:アモルファス-ポリα-オレフィンポリマー(エボニック社製のベストプラスト704 ) 70質量部
・粘着性付与剤:水添石油樹脂(出光興産株式会社製のアイマーブ P-100) 30質量部
ホットメルト接着剤1の溶融温度は160℃、粘度は5275mPa・s、軟化点は105℃であった。
【0056】
(ホットメルト接着剤2:ゴム系ホットメルト)
・ベース樹脂:スチレン・イソプレン・ブロックポリマー(日本ゼオン株式会社のクインタック3433N) 30質量部
・粘着付与剤1:脂環族系石油樹脂水素化物(荒川化学工業株式会社製のアルコンM100) 30質量部
・粘着付与剤2:芳香族系炭化水素樹脂(三井化学株式会社製のFTR-0100) 20質量部
・軟化材:パラフィンオイル(出光興産株式会社製のダイアナフレシアW-90) 20質量部
ホットメルト接着剤2の溶融温度は160℃、粘度は5250mPa・s、軟化点は103℃であった。
【0057】
(ホットメルト接着剤3:EVA系ホットメルト)
・ベース樹脂:エチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製のウルトラセン722 ) 60質量部
・粘着性付与剤:脂肪族系石油樹脂水素化物(日本ゼオン株式会社製のQuintone R100) 30質量部
・ワックス:フィッシャートロプシュワックス(Shell社製のGTL Sarawax SX100) 15質量部
・酸化防止剤:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製のIrganox 1010) 1質量部
溶融温度は160℃、で粘度は7055mPa・s、軟化点は109℃であった。
【0058】
(ホットメルト接着剤4:アクリル系ホットメルト)
・ベース樹脂:ポリメチルメタクリレート-ポリブチルアクリレートブロック共重合体(株式会社クラレ社製のクラリティLA3320) 30質量部
・粘着性付与剤:芳香族系炭化水素樹脂(三井化学株式会社製のFTR-2120) 30質量部
・軟化剤:アクリルポリマー(東亞合成株式会社製のARUFON UP-10000) 40質量部
溶融温度は160℃、で粘度は9950mPa・s、軟化点は106℃であった。
【0059】
(ホットメルト接着剤5:ポリエステル系ホットメルト)
・ベース樹脂:ヒドロキシステアリン酸系エステル系ワックス(伊藤製油株式会社製のITOHWAX E-230) 100質量部
溶融温度は160℃、で粘度は600mPa・s、軟化点は70℃であった。
【0060】
(ホットメルト接着剤6:ポリアミド系ホットメルト)
・ベース樹脂:ヒドロキシ脂肪酸系アミド(伊藤製油株式会社製のITOHWAX J-50) 100質量部
溶融温度は160℃、で粘度は1050mPa・s、軟化点は76℃であった。
【0061】
(ホットメルト接着剤の製造方法)
容量4Lのステンレス鋼(SUS)製の攪拌混錬機中に、前記ホットメルト接着剤1~6の材料を2kg投入し、165℃以上で攪拌、溶融させた。
【0062】
そして、表1~8に示す各流体を側面または/および下方から表1~8に示す導入量(ホットメルト接着剤材料に対する割合(質量部))で導入した。そして、タンク容量に対し、表1に示す目的倍率容積の分速排気速度(排気速度/タンク容積)となるよう調整した真空ポンプを用い、攪拌混錬機内をそれぞれの目標到達真空度まで減圧することによって、実施例1~31および比較例1~9のホットメルト接着剤を得た。
【0063】
〔評価試験:残存揮発性有機化合物(TVOC)量の測定〕
TVOCの量の測定は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC アジレント社製7890B GCシステム、MS アジレント社製5977Bシリーズ GC/MSDシステム、DHS ゲステル社製DHSシステム)を用い、ダイナミックヘッドスペース法に基づいて行った。試料の加熱温度は65℃、加熱時間は60分間とし、ガスクロには内径0.25mm、ジメチルポリシロキサンコーティング(コーティング厚1.00μm)、長さ60mのキャピラリーカラムを使用した。カラムの昇温プログラムは50~300℃まで10℃/分で加熱し、その後39分間保持した。この操作によって、質量分析器で検出したn-ヘキサデカンまでの物質をすべて、基準物質であるトルエンと仮定し、トルエンの検量線からトルエン換算の発生ガス量を求め、これをTVOCと見なした。
【0064】
結果を表1~8示す。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
(考察)
表1~8の結果から明らかなように、本発明の製法に基づいて得られた様々な組成のホットメルト接着剤(実施例1~31)では、TVOCの量が10ppm以下となっており、臭気も低減した。さらに、脱気工程において、分速排気速度や到達真空度が好ましい範囲となっている、実施例2、4~7等ではより高い効果が得られていることもわかる。さらに条件によっては、TVOCの量を非常に低減できることも確認できた(実施例14~26)。
【0074】
これに対し、流体を導入させず、従来の製法に基づいて得られた比較例1のホットメルト接着剤1(オレフィン系ホットメルト)では、TVOCが40ppmと多くなっていた。また、流体導入量が不足していると(比較例2~4)、従来方法で得られたホットメルト接着剤と同様にTVOCが十分に低減できないことも確認された。また、比較例1と同じ条件では、オレフィン系ホットメルト以外のホットメルト接着剤2~6でもTVOCは多くなっていることも確認された。
【0075】
この出願は、2019年2月26日に出願された日本国特許出願特願2019-32653を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0076】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、ホットメルト接着剤およびその製造方法に関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。