(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】移動体の段差移動制御方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/0165 20060101AFI20220311BHJP
B60G 1/02 20060101ALI20220311BHJP
B60G 9/02 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
B60G17/0165
B60G1/02
B60G9/02
(21)【出願番号】P 2018092958
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114502
【氏名又は名称】山本 俊則
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀朗
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特許第5105528(JP,B2)
【文献】特開2014-000923(JP,A)
【文献】特開平07-099812(JP,A)
【文献】特開2010-094802(JP,A)
【文献】特開昭57-194171(JP,A)
【文献】実開昭62-037504(JP,U)
【文献】独国実用新案第202011110136(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/0165
B60G 1/02
B60G 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に互いに間隔を設けて対向し、標準状態において、前記第1の方向に直交する第2の方向にそれぞれ延在する第1及び第2の支持体と、
前記第1の支持体の前記第2の方向の中間部を、前記第1の方向と平行な第1のロール軸を中心に回転可能に支持し、前記第2の支持体の前記第2の方向の中間部を、前記第1の方向と平行な第2のロール軸を中心に回転可能に支持する本体と、
前記第1の支持体の前記第2の方向の一方の端部に、前記標準状態において前記第2の方向と平行な第1の軸を中心に回転可能に支持された第1の車輪と、
前記第1の支持体の前記第2の方向の他方の端部に、前記標準状態において前記第2の方向と平行な第2の軸を中心に回転可能に支持された第2の車輪と、
前記第2の支持体の前記第2の方向の一方の端部に、前前記標準状態において記第2の方向と平行な第3の軸を中心に回転可能に支持された第3の車輪と、
前記第2の支持体の前記第2の方向の他方の端部に、前記標準状態において前記第2の方向と平行な第4の軸を中心に回転可能に支持された第4の車輪と、
前記第1乃至第4の車輪を回転駆動する回転駆動手段と、
を備えた移動体の段差移動制御方法であって、
前記移動体は、
前記移動体の外部から見た前記本体の前記第2の方向の傾き角度である本体傾き角度を検出する傾き角度検出器と、
前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体を前記本体に対して相対回転させるための第1のロール軸トルクを発生する第1のロール軸トルク発生手段と、
前記第1のロール軸トルクを検出する第1のロール軸トルク検出器と、
前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体が前記本体に対して相対回転する角度である第1のロール軸角度を検出する第1のロール軸角度検出器と、
前記第1又は第2の車輪が第1の段差に達したことと、前記第1又は第2の車輪が第1の段差を通過したこととを検知するための第1の信号を出力する第1の段差検知手段と、
前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体を前記本体に対して相対回転させるための第2のロール軸トルクを発生する第2のロール軸トルク発生手段と、
前記第2のロール軸トルクを検出する第2のロール軸トルク検出器と、
前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体が前記本体に対して相対回転する角度である第2のロール軸角度を検出する第2のロール軸角度検出器と、
前記第3又は第4の車輪が第2の段差に達したことと、前記第3又は第4の車輪が第2の段差を通過したこととを検知するための第2の信号を出力する第2の段差検知手段と、
前記回転駆動手段と、前記第1のロール軸トルク発生手段と、前記第2のロール軸トルク発生手段とを制御する制御手段と、
を備え、
前記段差移動制御方法は、
前記制御手段が前記回転駆動手段を制御して、前記移動体の移動を継続させる第1の工程と、
前記制御手段が、前記第1の信号に基づいて前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差に達したか否かの判定を繰り返し、前記第2の信号に基づいて前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差に達したか否かの判定を繰り返す第2の工程と、
前記制御手段が、前記第1の信号に基づいて前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差を通過したか否かの判定を繰り返し、前記第2の信号に基づいて前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差を通過したか否かの判定を繰り返す第3の工程と、
前記制御手段が、前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差に達したと判定したとき、前記第1のロール軸トルクが第1の最終目標トルクになるように前記第1のロール軸トルク発生手段を制御するとともに、前記本体傾き角度を前記標準状態における所定角度にするように前記第2のロール軸トルク発生手段を制御する第1の制御を、前記制御手段が開始する第4の工程と、
前記制御手段が、前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差を通過したと判定したとき、前記制御手段が前記第1の制御を終了する第5の工程と、
前記制御手段が、前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差に達したと判定したとき、前記第2のロール軸トルクが第2の最終目標トルクになるように前記第2のロール軸トルク発生手段を制御するとともに、前記本体傾き角度を前記所定角度にするように前記第1のロール軸トルク発生手段を制御する第2の制御を、前記制御手段が開始する第6の工程と、
前記制御手段が、前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差を通過したと判定したとき、前記制御手段が前記第2の制御を終了する第7の工程と、
を備え、
前記第1の最終目標トルクは、
前記本体傾き角度を前記所定角度にするように、前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体を前記本体に対して相対回転させる前記第1の目標トルクと、
前記第1のロール軸角度が、前記第1の段差に達したと判定された前記第1又は第2の車輪を前記第1の段差を通過する方向に移動させるように前記第1の支持体が前記第1のロール軸を中心に前記本体に対して相対回転する角度である第1の目標角度になるように、前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体を前記本体に対して相対回転させる第2の目標トルクとを、
第1の比率で含み、
前記第2の最終目標トルクは、
前記本体傾き角度を前記所定角度にするように、前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体を前記本体に対して相対回転させる第3の目標トルクと、
前記第2のロール軸角度が、前記第2の段差に達したと判定された前記第3又は第4の車輪を前記第2の段差を通過する方向に移動させるように前記第2の支持体が前記第2のロール軸を中心に前記本体に対して相対回転する角度である第2の目標角度になるように、前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体を前記本体に対して相対回転させる第4の目標トルクとを、
第2の比率で含むことを特徴とする、移動体の段差移動制御方法。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第1の制御を行うとき、前記第2のロール軸トルクが前記第3の目標トルクになるように前記第2のロール軸トルク発生手段を制御し、
前記第2の制御を行うとき、前記第1のロール軸トルクが前記第1の目標トルクになるように前記第1のロール軸トルク発生手段を制御することを特徴とする、請求項1に記載の移動体の段差移動制御方法。
【請求項3】
前記第1の目標トルクをT
d1とし、前記本体傾き角度をθ
0とし、前記本体傾き角度の目標値である前記所定角度をθ
d0とし、上部にドット記号が付されたθ
0を前記本体傾き角度の角速度とし、上部にドットが付されたθ
d0を前記本体傾き角度の前記角速度の目標値とし、K
1を第1の角度ゲインとし、D
1を第1の角速度ゲインとすると、前記第1の目標トルクは次の式(1)で表され、
【数1】
前記第2の目標トルクをT
d2とし、前記第1のロール軸角度をθ
1とし、前記第1のロール軸角度の前記第1の目標角度をθ
d1とし、上部にドット記号が付されたθ
1を前記第1のロール軸角度の角速度とし、上部にドット記号が付されたθ
d1を前記第1のロール軸角度の前記角速度の目標値とし、K
2を第2の角度ゲインとし、D
2を第2の角速度ゲインとすると、前記第2の目標トルクは、次の式(2)で表され、
【数2】
前記第1の最終目標トルクをT
1とすると、前記第1の最終目標トルクは次の式(3)で表され、
【数3】
ここで、w
1,w
2は前記第1の比率を定義する重み係数であり、w
1+w
2=1であり、
前記第3の目標トルクをT
d3とし、前記本体傾き角度をθ
0とし、前記本体傾き角度の目標値である前記所定角度をθ
d0とし、上部にドット記号が付されたθ
0を前記本体傾き角度の角速度とし、上部にドットが付されたθ
d0を前記本体傾き角度の前記角速度の目標値とし、K
3を第3の角度ゲインとし、D
3を第3の角速度ゲインとすると、前記第3の目標トルクは次の式(4)で表され、
【数4】
前記第4の目標トルクをT
d4とし、前記第2のロール軸角度をθ
2とし、前記第2のロール軸角度の前記第2の目標角度をθ
d2とし、上部にドット記号が付されたθ
2を前記第2のロール軸角度の角速度とし、上部にドット記号が付されたθ
d2を前記第2のロール軸角度の前記角速度の目標値とし、K
4を第4の角度ゲインとし、D
4を第4の角速度ゲインとすると、前記第4の目標トルクは、次の式(5)で表され、
【数5】
前記第2の最終目標トルクをT
2とすると、前記第2の最終目標トルクは次の式(6)で表され、
【数6】
ここで、w
3,w
4は前記第2の比率を定義する重み係数であり、w
3+w
4=1であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の移動体の段差移動制御方法。
【請求項4】
前記第1の段差検知手段は、
前記回転駆動手段から前記第1の車輪に伝達される第1の車輪トルクを検出する第1の車輪トルク検出器と、
前記回転駆動手段から前記第2の車輪に伝達される第2の車輪トルクを検出する第2の車輪トルク検出器と、
を含み、
前記第1の信号は、前記第1及び第2の車輪トルク検出器からの第1及び第2の検出信号を含み、
前記第2の段差検知手段は、
前記回転駆動手段から前記第3の車輪に伝達される第3の車輪トルクを検出する第3の車輪トルク検出器と、
前記回転駆動手段から前記第4の車輪に伝達される第4の車輪トルクを検出する第4の車輪トルク検出器と、
を含み、
前記第2の信号は、前記第3及び第4の車輪トルク検出器からの第3及び第4の検出信号を含むことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の移動体の段差移動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の段差移動制御方法に関し、詳しくは、移動体が、両端に車輪を支持する支持体を本体に対して回動させて段差を移動する際の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の自動車や搬送ロボット等の四輪の移動体が移動可能な段差の高さには限界がある。より高い段差を上ることができるようにするため、段差の手前で車輪を持ち上げることが提案されている。例えば特許文献1には、駆動車輪の手前に段差乗り越え用車輪を設け、段差乗り越え用車輪が段差に乗り上げることによって駆動車輪が持ち上がり、この状態で駆動車輪が段差に達するようにすることが開示されている。特許文献2には、車輪を支持する車輪支持フレームに回動部材を設け、回動部材が段差の角に当って回動して車輪が浮き上がった状態で、駆動車輪が段差に達するようにすることが開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、両端部に車輪を支持する支持体を、アクチュエータを用いて、支持体の中点を中心に本体に対して回動させることによって、本体を左右方向に傾斜させる傾斜装置が開示されている。特許文献4には、両端部に車輪を支持する支持体を本体に対して回動させるアクチュエータを、センサで検出した本体の姿勢変化に応じて制御して、本体の傾きを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-125992号公報
【文献】特開2008-207748号公報
【文献】国際公開第2012/049724号
【文献】特許第5105528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常の4輪の移動体は、車輪の摩擦状況にもよるが、上ることができる段差の高さは、車輪直径の3割程度までである。特許文献4のように、本体の傾きを抑制するように支持体を本体に対して回動させる場合、車輪の摩擦状況にもよるが,車輪直径の3~6割程度の高さまで対応可能となる。
【0006】
車輪の直径を大きくすると、より高い段差を移動可能になる。しかしながら、車輪を大きくすると、移動体が大型化し、用途によっては不都合が生じる。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑み、両端部に車輪を支持する支持体を本体に対して回動させる移動体が、より高い段差を、本体の傾きを抑制しながら上ることができるようにする、移動体の段差移動制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した移動体の段差移動制御方法を提供する。
【0009】
移動体の段差移動制御方法は、(a)第1の方向に互いに間隔を設けて対向し、標準状態において、前記第1の方向に直交する第2の方向にそれぞれ延在する第1及び第2の支持体と、(b)前記第1の支持体の前記第2の方向の中間部を、前記第1の方向と平行な第1のロール軸を中心に回転可能に支持し、前記第2の支持体の前記第2の方向の中間部を、前記第1の方向と平行な第2のロール軸を中心に回転可能に支持する本体と、(c-1)前記第1の支持体の前記第2の方向の一方の端部に、前記標準状態において前記第2の方向と平行な第1の軸を中心に回転可能に支持された第1の車輪と、(c-2)前記第1の支持体の前記第2の方向の他方の端部に、前記標準状態において前記第2の方向と平行な第2の軸を中心に回転可能に支持された第2の車輪と、(c-3)前記第2の支持体の前記第2の方向の一方の端部に、前前記標準状態において記第2の方向と平行な第3の軸を中心に回転可能に支持された第3の車輪と、(c-4)前記第2の支持体の前記第2の方向の他方の端部に、前記標準状態において前記第2の方向と平行な第4の軸を中心に回転可能に支持された第4の車輪と、(d)前記第1乃至第4の車輪を回転駆動する回転駆動手段と、を備えた移動体の段差移動制御方法である。前記移動体は、(e)前記移動体の外部から見た前記本体の前記第2の方向の傾き角度である本体傾き角度を検出する傾き角度検出器と、(f-1)前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体を前記本体に対して相対回転させるための第1のロール軸トルクを発生する第1のロール軸トルク発生手段と、(f-2)前記第1のロール軸トルクを検出する第1のロール軸トルク検出器と、(f-3)前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体が前記本体に対して相対回転する角度である第1のロール軸角度を検出する第1のロール軸角度検出器と、(f-4)前記第1又は第2の車輪が第1の段差に達したことと、前記第1又は第2の車輪が第1の段差を通過したこととを検知するための第1の信号を出力する第1の段差検知手段と、(g-1)前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体を前記本体に対して相対回転させるための第2のロール軸トルクを発生する第2のロール軸トルク発生手段と、(g-2)前記第2のロール軸トルクを検出する第2のロール軸トルク検出器と、(g-3)前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体が前記本体に対して相対回転する角度である第2のロール軸角度を検出する第2のロール軸角度検出器と、(g-4)前記第3又は第4の車輪が第2の段差に達したことと、前記第3又は第4の車輪が第2の段差を通過したこととを検知するための第2の信号を出力する第2の段差検知手段と、(h)前記回転駆動手段と、前記第1のロール軸トルク発生手段と、前記第2のロール軸トルク発生手段とを制御する制御手段と、を備える。
【0010】
移動体の段差移動制御方法は、第1乃至第7の工程を備える。前記第1の工程において、前記制御手段が前記回転駆動手段を制御して、前記移動体の移動を継続させる。前記第2の工程において、前記制御手段が、前記第1の信号に基づいて前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差に達したか否かの判定を繰り返し、前記第2の信号に基づいて前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差に達したか否かの判定を繰り返す。前記第3の工程において、前記制御手段が、前記第1の信号に基づいて前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差を通過したか否かの判定を繰り返し、前記第2の信号に基づいて前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差を通過したか否かの判定を繰り返す。前記第4の工程において、前記制御手段が、前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差に達したと判定したとき、前記第1のロール軸トルクが第1の最終目標トルクになるように前記第1のロール軸トルク発生手段を制御するとともに、前記本体傾き角度を前記標準状態における所定角度にするように前記第2のロール軸トルク発生手段を制御する第1の制御を、前記制御手段が開始する。前記第5の工程において、前記制御手段が、前記第1又は第2の車輪が前記第1の段差を通過したと判定したとき、前記制御手段が前記第1の制御を終了する。前記第6の工程において、前記制御手段が、前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差に達したと判定したとき、前記第2のロール軸トルクの値が第2の最終目標トルクになるように前記第2のロール軸トルク発生手段を制御するとともに、前記本体傾き角度を前記所定角度にするように前記第1のロール軸トルク発生手段を制御する第2の制御を、前記制御手段が開始する。前記第7の工程において、前記制御手段が、前記第3又は第4の車輪が前記第2の段差を通過したと判定したとき、前記制御手段が前記第2の制御を終了する。
【0011】
前記第1の最終目標トルクは、(i)前記本体傾き角度を前記所定角度にするように、前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体を前記本体に対して相対回転させる第1の目標トルクと、(ii)前記第1のロール軸角度が、前記第1の段差に達したと判定された前記第1又は第2の車輪を前記第1の段差を通過する方向に移動させるように前記第1の支持体が前記第1のロール軸を中心に前記本体に対して相対回転する角度である第1の目標角度になるように、前記第1のロール軸を中心に前記第1の支持体を前記本体に対して相対回転させる第2の目標トルクとを、第1の比率で含む。
【0012】
前記第2の最終目標トルクは、(i)前記本体傾き角度を前記所定角度にするように、前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体を前記本体に対して相対回転させる第3の目標トルクと、(ii)前記第2のロール軸角度が、前記第2の段差に達したと判定された前記第3又は第4の車輪を前記第2の段差を通過する方向に移動させるように前記第2の支持体が前記第2のロール軸を中心に前記本体に対して相対回転する角度である第2の目標角度になるように、前記第2のロール軸を中心に前記第2の支持体を前記本体に対して相対回転させる第4の目標トルクとを、第2の比率で含む。
【0013】
上記方法によれば、第4の工程で第1の制御を開始する。第1又は第2の車輪が第1の段差を通過する間、第1の支持体は、第1の目標トルクによって、本体の第1の方向の傾きを抑制するように本体に対して相対回転しようとし、第2の目標トルクによって、第1のロール軸回転角度が第1の段差を通過する方向の第1の目標角度になるように本体に対して相対回転しようとする。第2の支持体は、第2のロール軸トルク発生手段が制御されることによって、本体の第2の方向の傾きを抑制するように相対回転しようとする。第1のロール軸トルクの目標値である第1の最終目標トルクが、第1の目標トルクと第2の目標トルクとを第1の比率で含むように第1のロール軸トルク発生手段を制御するとともに、本体傾き角度を所定角度にするように第2のロール軸トルク発生手段を制御すると、4つの車輪とも路面に接地させたまま移動させることができ、第1のロール軸トルクの目標値として第1の目標トルクのみを用いて制御し第2のロール軸トルクの目標値として第3の目標トルクのみを用いて制御する場合よりも高い段差を、本体の第1の方向の傾きを抑制しながら上ることが、可能となる。
【0014】
また、第6の工程で第2の制御を開始する。第3又は第4の車輪が第2の段差を通過する間、第2の支持体は、第3の目標トルクによって、本体の第1の方向の傾きを抑制するように本体に対して相対回転しようとし、第4の目標トルクによって、第2のロール軸回転角度が第2の段差を通過する方向の第2の目標角度になるように本体に対して相対回転しようとする。第1の支持体は、第1のロール軸トルク発生手段が制御されることによって、本体の第2の方向の傾きを抑制するように相対回転しようとする。第2のロール軸トルクの目標値である第2の最終目標トルクが、第3の目標トルクと第4の目標トルクとを第2の比率で含むように第2のロール軸トルク発生手段を制御するとともに、本体傾き角度を所定角度にするように第1のロール軸トルク発生手段を制御すると、4つの車輪とも路面に接地させたまま移動させることができ、第1のロール軸トルクの目標値として第1の目標トルクのみを用いて制御し第2のロール軸トルクの目標値として第3の目標トルクのみを用いて制御する場合よりも高い段差を、本体の第1の方向の傾きを抑制しながら上ることが、可能となる。
【0015】
好ましくは、前記制御手段は、(a)前記第1の制御を行うとき、前記第2のロール軸トルクが前記第3の目標トルクになるように前記第2のロール軸トルク発生手段を制御し、(b)前記第2の制御を行うとき、前記第1のロール軸トルクが前記第1の目標トルクになるように前記第1のロール軸トルク発生手段を制御する。
【0016】
好ましくは、前記第1の目標トルクをT
d1とし、前記本体傾き角度をθ
0とし、前記本体傾き角度の前記所定角度をθ
d0とし、上部にドット記号が付されたθ
0を前記本体傾き角度の角速度とし、上部にドットが付されたθ
d0を前記本体傾き角度の前記角速度の目標値とし、K
1を第1の角度ゲインとし、D
1を第1の角速度ゲインとすると、前記第1の目標トルクは次の式(1)で表される。
【数1】
前記第2の目標トルクをT
d2とし、前記第1のロール軸角度をθ
1とし、前記第1のロール軸角度の前記第1の目標角度をθ
d1とし、上部にドット記号が付されたθ
1を前記第1のロール軸角度の角速度とし、上部にドット記号が付されたθ
d1を前記第1のロール軸角度の前記角速度の目標値とし、K
2を第2の角度ゲインとし、D
2を第2の角速度ゲインとすると、前記第2の目標トルクは、次の式(2)で表される。
【数2】
前記第1の最終目標トルクをT
1とすると、前記第1の最終目標トルクは次の式(3)で表される。
【数3】
ここで、w
1,w
2は前記第1の比率を定義する重み係数であり、w
1+w
2=1である。
【0017】
前記第3の目標トルクをT
d3とし、前記本体傾き角度をθ
0とし、前記本体傾き角度の目標値である前記所定角度をθ
d0とし、上部にドット記号が付されたθ
0を前記本体傾き角度の角速度とし、上部にドットが付されたθ
d0を前記本体傾き角度の前記角速度の目標値とし、K
3を第3の角度ゲインとし、D
3を第3の角速度ゲインとすると、前記第3の目標トルクは次の式(4)で表される。
【数4】
前記第4の目標トルクをT
d4とし、前記第2のロール軸角度をθ
2とし、前記第2のロール軸角度の前記第2の目標角度をθ
d2とし、上部にドット記号が付されたθ
2を前記第2のロール軸角度の角速度とし、上部にドット記号が付されたθ
d2を前記第2のロール軸角度の前記角速度の目標値とし、K
4を第4の角度ゲインとし、D
4を第4の角速度ゲインとすると、前記第4の目標トルクは、次の式(5)で表される。
【数5】
前記第2の最終目標トルクをT
2とすると、前記第2の最終目標トルクは次の式(6)で表される。
【数6】
ここで、w
3,w
4は前記第2の比率を定義する重み係数であり、w
3+w
4=1である。
【0018】
この場合、ゲイン、目標角度、重み係数等のパラメータを適切に設定すると、移動体は、段差を円滑に上ることができ、かつ、円滑に下ることができる。
【0019】
第1及び第2の段差検知手段は、カメラや測距センサ等を用いて構成してもよい。
【0020】
好ましくは、前記第1の段差検知手段は、前記回転駆動手段から前記第1の車輪に伝達される第1の車輪トルクを検出する第1の車輪トルク検出器と、前記回転駆動手段から前記第2の車輪に伝達される第2の車輪トルクを検出する第2の車輪トルク検出器とを含む。前記第1の信号は、前記第1及び第2の車輪トルク検出器からの第1及び第2の検出信号を含む。前記第2の段差検知手段は、前記回転駆動手段から前記第3の車輪に伝達される第3の車輪トルクを検出する第3の車輪トルク検出器と、前記回転駆動手段から前記第4の車輪に伝達される第4の車輪トルクを検出する第4の車輪トルク検出器とを含む。前記第2の信号は、前記第3及び第4の車輪トルク検出器からの第3及び第4の検出信号を含む。
【0021】
この場合、第1乃至第4の車輪トルクに基づいて、段差に達している車輪や、段差を通過した車輪を判定することができる。第1乃至第4の車輪トルク検出器は、第1の工程における回転駆動手段の制御にも利用することができ、カメラや測距センサ等を第1及び第2の段差検知手段として用いる場合に比べ、構成を簡素化できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、両端部に車輪を支持する支持体を本体に対して回動させる移動体が、より高い段差を、本体の傾きを抑制しながら上ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】
図3は制御系のブロック図である。(実施例1)
【
図4】
図4は移動体の動作のフローチャートである。(実施例1)
【
図6】
図6はトルクと角度のグラフである。(試作例1)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
<実施例1> 実施例1の移動体10について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、移動体10の斜視図である。
図2は、移動体10の正面図である。
図1及び
図2に示すように、移動体10は、大略、本体14と、4つの車輪21~24と、第1及び第2の車輪21,22を支持する第1の支持体40と、第3及び第4の車輪23,24を支持する第2の支持体42とを備える。
図1は、移動体10の標準状態を示しており、車輪21~24は、第1の方向(x方向)及び第1の方向に直交する第2の方向(y方向)に延在する平面(x-y面)に接している。
【0027】
図1に示す+x方向を前方、-x方向を後方とすると、第1の支持体40は前側の支持体40であり、第1の車輪21は左前輪21、第2の車輪22は右前輪22になる。第2の支持体42は後側の支持体42である。第3の車輪23は左後輪23、第4の車輪24は右後輪24になる。
【0028】
第1及び第2の支持体40,42は、標準状態において、第1の方向(前後方向)に互いに間隔を設けて対向し、第2の方向(左右方向)に延在するように配置される。
【0029】
第1の支持体40の第2の方向の一方の端部に第1の車輪21が回転可能に支持され、他方の端部に第2の車輪22が回転可能に支持されている。第2の支持体42の第2の方向の一方の端部に第3の車輪23が回転可能に支持され、他方の端部に第4の車輪24が回転可能に支持されている。各車輪21~24は、第2の方向と平行な軸を中心に回転可能に支持され、第1の方向に移動可能である。第1乃至第4の車輪21~24は、それぞれ、第1乃至第4の車輪モータ31~34(34は、
図3参照)によって回転駆動される。第1乃至第4の車輪21~24と第1乃至第4の車輪モータ31~34との間には、第1乃至第4の車輪21~24に伝達される第1乃至第4の車輪トルクを検出する第1乃至第4の車輪トルク検出器51~54(
図3参照)が設けられている。
【0030】
第1の支持体40は、本体14の第1の方向の一方端側に配置され、第1のロール機構100及び第1のステアリング機構200を介して、本体14に支持されている。第2の支持体42は、本体14の第1の方向の他方端側に配置され、第2のロール機構110及び第2のステアリング機構210を介して、本体14に支持されている。
【0031】
第1及び第2の支持体40,42は、それぞれの第2の方向の中間部が、第1の方向と平行に延在する第1及び第2のロール軸を中心に回転可能に支持されている。第1及び第2のロール軸の回転中心線が一直線上に並ぶ構成が好ましいが、第1及び第2のロール軸の回転中心線がずれる構成とすることも可能である。
【0032】
第1のロール機構100は、第1のロール軸を中心に第1の支持体40を回転させるための第1のロール軸トルクを発生する第1のロールモータ102(
図3参照)と、第1のロール軸トルクを検出する第1のロール軸トルク検出器104(
図3参照)と、第1の支持体40が第1のロール軸を中心に本体14に対して回転する角度である第1のロール軸角度を検出する第1のロール軸角度検出器106(
図3参照)とを備えている。第2のロール機構110は、第2のロール軸を中心に第2の支持体42を回転させるための第2のロール軸トルクを発生する第2のロールモータ112(
図3参照)と、第2のロール軸トルクを検出する第2のロール軸トルク検出器114(
図3参照)と、第2の支持体42が第2のロール軸を中心に本体14に対して回転する角度である第2のロール軸角度を検出する第2のロール軸角度検出器116(
図3参照)とを備えている。
【0033】
第1の支持体40が第1のロール軸を中心に回転することによって、第2の方向(左右方向)の本体14の傾きを水平に保ちながら、第1及び/又は第2の車輪21,22が段差を通過することが、可能となる。また、第2の支持体42が第2のロール軸を中心に回転することによって、第2の方向(左右方向)の本体14の傾きを水平に保ちながら、第3及び/又は第4の車輪23,24が段差を通過することが、可能となる。例えば
図2において鎖線で示すように、第1の支持体40が第1のロール軸を中心に、標準状態から角度θ回転することにより、第2の方向の本体14の傾きを水平に保ちながら、第1の車輪21が高さHの段差を上ることが、可能となる。
【0034】
図1及び
図2に示すように、第1及び第2の支持体40,42は、それぞれの第2の方向の中間部が、第1及び第2の方向に垂直な第3の方向(z方向)と平行に延在する第1及び第2のステアリング軸を中心に回転可能に支持されている。第1及び第2のステアリング軸の回転中心線を含む面は、第1の方向と平行である構成が好ましいが、第1の方向に対して斜めになる構成とすることも可能である。
【0035】
第1のステアリング機構200は、第1のステアリング軸を中心に第1の支持体40を回転させるための第1のステアリング軸トルクを発生する第1のステアリングモータ202(
図3参照)と、第1のステアリング軸トルクを検出する第1のステアリング軸トルク検出器204(
図3参照)と、第1の支持体40が第1のステアリング軸を中心に回転する角度である第1のステアリング角度を検出する第1のステアリング角度検出器206(
図3参照)とを備えている。第2のステアリング機構210は、第2のステアリング軸を中心に第2の支持体42を回転させるための第2のステアリング軸トルクを発生する第2のステアリングモータ212(
図3参照)と、第2のステアリング軸トルクを検出する第2のステアリング軸トルク検出器214(
図3参照)と、第2の支持体42が第2のステアリング軸を中心に回転する角度である第2のステアリング角度を検出する第2のステアリング角度検出器216(
図3参照)とを備えている。
【0036】
なお、第1及び/又は第2のステアリング機構200,210をなくし、第1及び/又は第2の支持体40,42を、第3の方向と平行な軸を中心に回転不可能に、本体14に支持してもよい。
【0037】
本体14には、載置台16を本体14の上方に支持する載置台支持機構12が設けられている。載置台16は、一対の支持部材18の先端に固定されている。一対の支持部材18の基端側は、第2の方向と平行な軸を中心に回転可能に、本体14に支持されている。本体14の内部には、一対の支持部材18を回転させる載置台モータ17(
図3参照)が配置され、載置台16の本体14に対する角度が変わるように構成されている。載置台モータ17(
図3)は、制御装置60(
図3参照)によって、本体14が第1の方向に傾いても載置台16の第1の方向の角度が一定に保たれるように、制御される。
【0038】
本体14には、本体14の状態のうち少なくとも本体14の傾きを検出するためのジャイロセンサや加速度センサ等の状態検出器15(
図3参照)と、モータやセンサ等に電源を供給するバッテリー(図示せず)と、車輪モータ31~34、ロールモータ102,112、ステアリングモータ202,212、載置台モータ17等を制御するシーケンサ等の制御装置60(
図3参照)が配置されている。状態検出器15は、本体14の移動方向、移動速度、移動加速度等の状態を検出してもよい。
【0039】
図3は、制御系のブロック図である。
図3に示すように、制御装置60には、コントローラ62と、状態検出器15と、第1乃至第4の車輪トルク検出器51,52,53,54と、第1及び第2のロール軸トルク検出器104,114と、第1及び第2のロール軸角度検出器106,116と、第1及び第2のステアリング軸トルク検出器204,214と、第1及び第2のステアリング角度検出器206,216と、第1乃至第4の車輪モータ31,32,33,34と、第1及び第2のロールモータ102,112と、第1及び第2のステアリングモータ202,212と、載置台モータ17とが接続されている。
【0040】
操作者が、載置台16に座った状態で、又は移動体10から離れた状態でコントローラ62を操作することによって、移動体10が移動する。
【0041】
第1乃至第4の車輪モータ31~34は、第1乃至第4の車輪21~24を回転駆動する回転駆動手段である。回転駆動手段は、一つのアクチュエータから複数の車輪にトルクを分配するように構成してもよい。第1及び第2の車輪トルク検出器51,52は、第1又は第2の車輪21,22が第1の段差に達したことを検知するための第1の信号を出力する第1の段差検知手段である。第3及び第4の車輪トルク検出器53,54は、第3又は第4の車輪23,24が第2の段差に達したことを検知するための第2の信号を出力する第2の段差検知手段である。第1及び第2の段差検知手段は、カメラや測距センサ等を用いて構成してもよい。第1のロールモータ102は、第1のロール軸トルクを発生する第1のロール軸トルク発生手段である。第2のロールモータ112は、第2のロール軸トルクを発生する第2のロール軸トルク発生手段である。状態検出器15は、本体14の第2の方向の傾き角度である本体傾き角度を検出する傾き角度検出器を含む。制御装置60は、回転駆動手段(第1乃至第4の車輪モータ31,32,33,34)及び第1及び第2のロール軸トルク発生手段(第1及び第2のロールモータ102,112)を制御する制御手段である。
【0042】
次に、移動体10の段差移動制御方法について、
図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0043】
(1)まず、外部からの指令に基づき、制御手段が回転駆動手段を制御して、移動体の移動を継続させる(第1の工程)。
【0044】
具体的には、コントローラによって移動が指示されると(S10でY)、制御装置は、第1乃至第4の車輪モータが回転するように制御するとともに(S12)、各種センサをONにする(S14)。これによって、移動体は移動を開始し、移動を継続する。このとき、移動体がコントローラからの指示通りに移動するように、制御装置は、状態検出器で検出した移動体の移動方向や移動速度等に基づいて、車輪モータを制御する。例えば、移動体が一定速度で移動するように制御したり、コントローラで指示された速度で移動体が移動するように制御する。
【0045】
(2)次いで、制御手段が、第1の信号に基づいて第1又は第2の車輪が第1の段差に達したか否かの判定を繰り返し、第2の信号に基づいて第3又は第4の車輪が前記第2の段差に達したか否かの判定を繰り返す(第2の工程)。
【0046】
具体的には、制御装置は、移動中に車輪が段差に達したか否かを判定する(S16)。例えば、車輪が上りの段差に達したとき、車輪は段差の下の面と段差の角又は垂直面との2か所に接して車輪トルクが上昇するので、制御装置は、車輪トルク検出器が検出した車輪トルクが閾値を超えた場合、車輪が上りの段差に到達したと判定する。また、車輪が下りの段差に達したとき、車輪は段差の角のみに接し、その後、段差の垂直面に沿って移動するので、車輪トルク検出器が検出した車輪トルクが急激に低下、あるいは、逆向きになった場合、車輪が下りの段差に達したと判定する。車輪トルク検出器の代わりに、カメラや測距センサ等を用いて、車輪が段差に達したことを判定してもよい。この場合、所定高さ以上の段差についてのみ、車輪が段差に達したか否かを判定してもよい。
【0047】
いずれの車輪も段差に達していないと判定した場合には(S16でN)、コントローラで移動が指示されている間は(S22でY)、ステップS16に戻り、車輪が段差に達したか否かを判定を継続する。
【0048】
(3)制御手段が、第1又は第2の車輪が第1の段差に達したと判定したとき、詳しくは後述する第1の制御を開始する(第4の工程)。また、制御手段が、第3又は第4の車輪が第2の段差に達したと判定したとき、制御手段は、詳しくは後述する第2の制御を、開始する(第6の工程)。
【0049】
具体的には、いずれかの車輪が段差に到達したと判定したとき(S16でY)、段差に到達した車輪を支持する支持体がロール軸を中心に回転するように、制御装置はロールモータを制御する(S18)。制御の詳細は、後述する。
【0050】
(4)次いで、制御手段が、第1の信号に基づいて第1又は第2の車輪が第1の段差を通過したか否かの判定を繰り返し、第2の信号に基づいて第3又は第4の車輪が第2の段差を通過したか否かの判定を繰り返す(第3の工程)。
【0051】
具体的には、車輪が段差を通過したか否かを判定する(S20)。制御装置は、いずれの車輪も段差を通過したと判定されないとき(S20でN)、ロールモータの制御(S18)を継続する。
【0052】
(5)制御手段が、第1又は第2の車輪が第1の段差を通過したと判定したとき、制御手段は第1の制御を終了する(第5の工程)。また、制御手段が、第3又は第4の車輪が第2の段差を通過したと判定したとき、制御手段は第2の制御を終了する(第7の工程)。
【0053】
具体的には、車輪が段差を通過したと判定したとき(S20でY)、制御装置は、段差を通過した車輪を支持している支持体を回転させるためのロールモータの制御を、終了する(S22)。
【0054】
(6)外部からの停止の指令があるまで、制御手段は回転駆動手段を制御して、移動体の移動を継続する。
【0055】
具体的には、制御装置は、コントローラから移動が指示されている間は(S24でY)、ステップS16に戻り、移動中に車輪が段差に達したか否かの判定を継続する。コントローラから停止が指示されると(S22でY)、制御装置は、車輪モータの回転を停止させるとともに(S26)、センサをOFFにする(S28)。これによって、移動体は停止する。
【0056】
次に、上記(3)における第1及び第2の制御、具体的には、制御装置によるロールモータの制御(S18)について説明する。
【0057】
第1の制御において、制御手段は、第1のロール軸トルクが第1の最終目標トルクになるように第1のロール軸トルク発生手段を制御するともに、本体傾き角度を標準状態における所定角度にするように第2のロール軸トルク発生手段を制御する。第1の最終目標トルクは、本体傾き角度を所定角度にするように、第1のロール軸を中心に第1の支持体を本体に対して相対回転させる第1の目標トルクと、第1のロール軸角度を第1の目標角度にするように、第1のロール軸を中心に第1の支持体を本体に対して相対回転させる第2の目標トルクとを、第1の比率で含む。第1の目標角度は、第1の段差に達した第1又は第2の車輪が、第1の段差の垂直面に沿って移動する方向の角度である。すなわち、第1の目標角度は、第1の段差に達したと判定された第1又は第2の車輪を第1の段差を通過する方向に移動させるように、第1の支持体が第1のロール軸を中心に本体に対して相対回転する角度である。
【0058】
第2の制御において、制御手段は、第2のロール軸トルクが第2の最終目標トルクになるように第2の目標トルク発生手段を制御するともに、本体傾き角度を標準状態における所定角度にするように第1のロール軸トルク発生手段を制御する。第2の最終目標トルクは、本体傾き角度を所定角度にするように、第2のロール軸を中心に第2の支持体を本体に対して相対回転させる第3の目標トルクと、第2のロール軸角度を第2の目標角度にするように、第2のロール軸を中心に第2の支持体を本体に対して相対回転させる第4の目標トルクとを、第2の比率で含む。第2の目標角度は、第2の段差に達した第3又は第4の車輪が、第2の段差の垂直面に沿って移動する方向の角度である。すなわち、第2の目標角度は、第2の段差に達したと判定された第3又は第4の車輪を第2の段差を通過する方向に移動させるように、第2の支持体が第2のロール軸を中心に本体に対して相対回転する角度である。
【0059】
具体的には、第1又は第2の車輪が第1の段差に達したとき、制御装置は、第1のロール軸角度検出器が検出する第1のロール軸角度と、第1のロール軸トルク検出器が検出する第1のロール軸トルクとに基づいて、第1のロール軸トルクが第1の最終目標トルクとなるように、第1のロールモータを制御するとともに、第2のロール軸トルクが第3の目標トルクとなるように、第2のロールモータを制御する。また、第3又は第4の車輪が第2の段差に達したとき、制御装置は、第2のロール軸角度検出器が検出する第2のロール軸角度と、第2のロール軸トルク検出器が検出する第2のロール軸トルクとに基づいて、第2のロール軸トルクが第2の最終目標トルクとなるように、第2のロールモータを制御するとともに、第1のロール軸トルクが第1の目標トルクとなるように、第1のロールモータを制御する。
【0060】
第1の目標トルクT
d1は、次の式(1)で表される。
【数7】
ここで、θ
0は、本体の第2の方向の傾き角度である本体傾き角度、θ
d0は本体傾き角度の目標値である所定角度、上部にドット記号が付されたθ
0は本体傾き角度の角速度、上部にドットが付されたθ
d0は本体傾き角度の角速度の目標値、K
1は第1の角度ゲイン、D
1は第1の角速度ゲインである。
【0061】
本体が標準状態のとき、本体傾き角度及びその角速度の目標値を0とすると、式(1)は、次の式(1a)で表される。
【数8】
【0062】
第2の目標トルクT
d2は、次の式(2)で表される。
【数9】
ここで、θ
1は、段差に達した車輪を支持する第1の支持体が、第1のロール軸を中心に本体に対して相対回転する角度である第1のロール軸角度、θ
d1は第1のロール軸角度の目標角度、上部にドット記号が付されたθ
1は第1のロール軸角度の角速度、上部にドット記号が付されたθ
d1は第1のロール軸角度の角速度の目標値、K
2は第2の角度ゲイン、D
2は第2の角速度ゲインである。
【0063】
第1のロール軸トルクの目標値である第1の最終目標トルクT
1は、次の式(3)で表される。
【数10】
ここで、w
1,w
2は、第1及び第2の目標トルクT
d1,T
d2の比率を定義する重み係数であり、w
1+w
2=1である。
【0064】
第3の目標トルクT
d3は、前述した式(1)と同様に、次の式(4)で表される。
【数11】
ここで、θ
0は、本体の第2の方向の傾き角度である本体傾き角度、θ
d0は本体傾き角度の目標値である所定角度、上部にドット記号が付されたθ
0は本体傾き角度の角速度、上部にドットが付されたθ
d0は本体傾き角度の角速度の目標値、K
3は第3の角度ゲイン、D
3は第3の角速度ゲインである。K
1=K
3,D
1=D
3とすると、第1及び第3の目標トルクは同じ式で表される。
【0065】
本体が標準状態のとき、本体傾き角度及びその角速度の目標値を0とすると、式(4)は、次の式(4a)で表される。
【数12】
【0066】
第4の目標トルクT
d4は、次の式(5)で表される。
【数13】
ここで、θ
2は、段差に達した車輪を支持する第2の支持体が、第2のロール軸を中心に本体に対して相対回転する角度である第2のロール軸角度、θ
d2は第2のロール軸角度の目標角度、上部にドット記号が付されたθ
2は第2のロール軸角度の角速度、上部にドット記号が付されたθ
d2は第2のロール軸角度の角速度の目標値、K
4は第4の角度ゲイン、D
4は第4の角速度ゲインである。
【0067】
第2のロール軸トルクの目標値である第2の最終目標トルクT
2は、次の式(6)で表される。
【数14】
ここで、w
3,w
4は、第3及び第4の目標トルクT
d2,T
d4の比率を定義する重み係数であり、w
3+w
4=1である。
【0068】
第1のロール軸トルクの目標値として第1の目標トルクTd1のみを用いて制御し、第2のロール軸トルクの目標値として第3の目標トルクTd3のみを用いて制御すると、摩擦条件によって変わるが、例えば車輪の直径の4~6割程度までの高さの段差であれば、車輪は段差を乗り越えて移動することができる。しかしながら、それ以上に高い段差になると、車輪は段差を乗り越えることができない。
【0069】
段差に達した車輪を支持する一方の支持体に対するロール軸トルクの目標値として、支持体を能動的に回転させる第2又は第4の目標トルクTd2,Td4のみを用いても、他方の支持体に対するロール軸トルクの制御によって、本体の傾きを抑制することができないわけではない。しかしながら、一方の支持体に対するロール軸トルクの目標値として第2又は第4の目標トルクTd2,Td4のみを用いると、段差に達した車輪は、「人が歩くときの足裏のように」路面から離床することになる。これが成り立つ条件は、他の3つの車輪の支点でできた多角形の中に重心があることである。状況によっては多角形の外に重心がある場合もあり、その場合には他の3つの車輪のうち1つの車輪が離床してしまい、もちろん段差を上ることができない。
【0070】
第1の支持体が支持する車輪が段差に達したとき、第1の支持体に対する第1のロール軸トルクの目標値として、式(3)で示したように、第1の目標トルクTd1と第2の目標トルクTd2の両方を所定の比率で含むようにするとともに、第2の支持体に対する第2のロール軸トルクの目標値として、式(4)で示した第3の目標トルクTd3を用いると、4つの車輪とも路面に接地させたまま移動させることができ、本体の傾きを抑制しながら、第1のロール軸トルクの目標値として第1の目標トルクTd1のみを用いて制御し第2のロール軸トルクの目標値として第3の目標トルクTd3のみを用いて制御する場合よりも高い段差を乗り越えて移動することが、可能になる。また、第2の支持体が支持する車輪が段差に達したとき、第2の支持体に対する第2のロール軸トルクの目標値として、式(6)で示したように、第3の目標トルクTd3と第4の目標トルクTd4の両方を所定の比率で含むようにするとともに、第1の支持体に対する第1のロール軸トルクの目標値として、式(1)で示した第1の目標トルクTd1を用いると、4つの車輪とも路面に接地させたまま移動させることができ、本体の傾きを抑制しながら、第1のロール軸トルクの目標値として第1の目標トルクTd1のみを用いて制御し第2のロール軸トルクの目標値として第3の目標トルクTd3のみを用いて制御する場合よりも高い段差を乗り越えて移動することが、可能になる。
【0071】
なお、車輪が段差を通過するとき以外の通常の移動中において、制御装置は、第1のロール軸トルクの目標値として第1の目標トルクのみを用い、第2のロール軸トルクの目標値として第3の目標トルクのみを用いて、第1及び第2のロール軸トルク発生手段を制御してもよい。この場合、車輪が凹凸を通過するときに生じる本体の傾きを、抑制することができる。
【0072】
<試作例1> 移動体10の試作例1について、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5は、試作例1の移動体の写真である。
図6は、試作例1の移動体が段差を移動するときのトルクと角度のグラフである。
図6において、横軸は時間であり、縦軸はトルク、角度であり、無次元で表している。
図5及び
図6は、試作例1の移動体が前進して、まず、左前輪が段差を上り、次いで、右前輪が段差を上る場合を示している。
【0073】
図5(a)に示すように、試作例1の移動体が前進して、まず、左前輪が段差に当たる。これにより、
図6(a)に示すように、移動が阻止された左前輪の車輪トルク(左車輪トルク)が上昇し、次いで右前車の車輪トルク(右車輪トルク)が上昇する。左前輪は、水平面と段差の垂直面とに当接して移動が阻止されるのに対し、右前輪は水平面にのみ当接しているので、左車輪トルクは右車輪トルクよりも大きくなる。また、
図6(b)において符号1を付した破線で囲む部分に示すように、前側の支持体のステアリング角度(前ステアリング角度)が変化する。
【0074】
左前輪のトルクが所定の閾値を超えることに基づいて、あるいは、前ステアリング角度が所定の閾値を超えることに基づいて、左前輪が段差に達したと制御装置が判定すると、制御装置は、前側の支持体を回転させるためのロール軸トルクが最終目標トルクになるように、ロールモータを回転させる。前側の支持体は、ロール軸トルクが伝達されて回転し、前ロール軸角度が大きくなる。
【0075】
図6(a)に示すように、前ロール軸角度が大きくなるとき、左前輪は段差の垂直面を移動するので、左車輪のトルクは減少する。一方、右前輪は移動しないため、右車輪トルクに著しい変化はない。
【0076】
左前輪が段差を上りきると、左前輪と右前輪とは進行方向の移動を再開し、
図6(a)に示すように、左車輪トルクと右車輪トルクが減少する。
【0077】
制御装置は、ロール軸を中心に支持体を回転させる間、前ステアリング角度を0に戻すようにステアリングモータを制御する。左前輪が段差の垂直面を上る間、ステアリング軸トルクが伝達されるので、左前輪が段差を上りきると、
図6(b)において符号2の破線で囲んでいるように、前ステアリング角度がオーバーシュートする。
【0078】
制御装置は、左車輪トルクが所定の閾値以下に減少することに基づいて、あるいは、前ステアリング角度が所定の閾値を通過することに基づいて、左車輪が段差を上りきり、段差を通過したと判定すると、ロール軸トルクの制御を終了する。そのため、
図6(a)に示すように、左車輪が段差の上側の面を移動し、右車輪が段差の下側の面を移動する間、前ロール軸角度は略一定である。
【0079】
次いで、右前輪は、
図5(b)に示すように段差に当たる。これにより、右前輪は移動が阻止され、
図6(a)に示すように、右車輪トルクが上昇し、次いで左車輪トルクが上昇する。また、
図6(b)において符号3を付した破線で囲む部分に示すように、前ステアリング角度が変化する。
【0080】
制御装置は、右前輪のトルクが所定の閾値を超えたことによって、あるいは、前ステアリング角度が所定の閾値を超えたことによって、右前輪が段差に達したと判定すると、ロール軸トルクの制御を開始する。これによって、前ロール軸角度が小さくなる。前ロール軸角度が変化する間、右前輪は段差の垂直面を移動するので、右車輪トルクは減少する。一方、左前輪は移動しないため、左車輪トルクに著しい変化はない。
【0081】
右前輪が段差を上りきり、段差を通過すると、右前輪と左前輪とは進行方向の移動を再開するため、
図6(a)に示すように、右車輪トルクが小さくなる。また、右前輪が段差を上る間、前側の支持体には前ステアリング角度を0に戻すようにステアリングトルクが伝達されているので、右前輪が段差を通過すると、
図6(b)において符号4の破線で囲んでいるように、前ステアリング角度がオーバーシュートする。
【0082】
<試作例2>
図7は、試作例2の移動体の写真であり、前輪が段差を通過した後に後輪が段差を通過するときの写真である。
【0083】
図7(a)に示すように、左後輪が段差に当たると、後ろ側の支持体について、前側の支持体と同様に、後側の支持体を回転させるためのロール軸トルクが制御されて、左後輪が持ち上がる方向に、後側の支持体が回転し、
図7(b)に示すように、左後輪が段差を乗り越える。左後輪が段差を乗り越えると、段差に当たった右後輪を持ち上げる方向に、後側の支持体を回転させるためのロール軸トルクが制御され、右後輪は段差を上りきって通過する。
【0084】
試作例2の移動体は、直径0.2mの4つの車輪を有している。段差移動では、通常、前輪より後輪の方が難しいが、試作例2の移動体の後輪は、車輪の直径比8割である0.16mの高さの段差を上って通過することができた。
【0085】
<まとめ> 以上に説明したように、本発明の移動体は、両端部に車輪を支持する支持体を本体に対して回動させる移動体が、より高い段差を、本体の傾きを抑制しながら上ることができる。
【0086】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0087】
例えば、回転駆動される車輪が4輪を超えてもよいし、回転駆動されない車輪が追加されてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10 移動体
14 本体
15 状態検出器(傾き角度検出器)
21,22,23,24 車輪
31,32,33,34 車輪モータ(回転駆動手段)
40,42 支持体
51,52 車輪トルク検出器(第1の段差検知手段)
53,54 車輪トルク検出器(第2の段差検知手段)
60 制御装置(制御手段)
102 第1のロールモータ(第1のロール軸トルク発生手段)
112 第2のロールモータ(第2のロール軸トルク発生手段)
104,114 ロール軸トルク検出器
106,116 ロール軸角度検出器