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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】抗SARS-CoV-2抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220311BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20220311BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/10
C07K16/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021076809
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022008067
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020081544
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020115152
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020193807
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 佑太
(72)【発明者】
【氏名】東條 卓人
(72)【発明者】
【氏名】森本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠記
(72)【発明者】
【氏名】稲浦 峻亮
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 成史
(72)【発明者】
【氏名】熊地 重文
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/045836(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111592595(CN,A)
【文献】国際公開第2021/153129(WO,A1)
【文献】WU Y. et al.,Fully human single-domain antibodies against SARS-CoV-2.,bioRxiv,2020年03月31日,doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.30.015990
【文献】RUDIKOFF S. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1982年,Vol.79,pp.1979-1983
【文献】TIAN X. et al.,Emerging Microbes & Infections,2020年02月17日,9: 1,p.382-385,DOI: 10.1080/22221751.2020.1729069
【文献】ZHAO G. et al.,Journal of Virology,2018年,Vol.92 Issue 18,e00837-18
【文献】WRAPP D. et al.,Cell,2020年05月28日,181,p.1004-1015, e1-e8, Supplemental Figures
【文献】WAN J. et al.,Cell Reports,2020年07月21日,32: 107918,https://doi.org/10.1016/j.celrep.2020.107918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/10
C07K 16/46
C12P 21/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記1)~4)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体であって、VHH抗体、重鎖抗体又はVHH抗体多量体である、抗体。
1)CDR1:配列番号1で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号2で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号3で示されるアミノ酸配列
2)CDR1:配列番号1で示されるアミノ酸配列において、4番目のフェニルアラニン残基がイソロイシン残基へ置換されるか、又は5番目のセリン残基がアルギニン残基へ置換されたアミノ酸配列
CDR2:配列番号2で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号3で示されるアミノ酸配列
3)CDR1:配列番号1で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号2で示されるアミノ酸配列において、3番目のセリン残基がアスパラギン残基へ置換されるか、4番目アルギニン残基がセリン残基へ置換されるか、5番目のアスパラギン残基がチロシン残基へ置換されるか、7番目のグリシン残基がセリン残基へ置換されるか、8番目のスレオニン残基がメチオニン残基へ置換されるか、9番目のスレオニン残基がイソロイシン残基へ置換されるか、又は10番目のスレオニン残基がメチオニン残基へ置換されたアミノ酸配列
CDR3:配列番号3で示されるアミノ酸配列
4)CDR1:配列番号1で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号2で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号3で示されるアミノ酸配列において、1番目のバリン残基がイソロイシン残基へ置換されるか、又は4番目のアスパラギン酸残基がグリシン残基若しくはバリン残基に置換されたアミノ酸配列
【請求項2】
VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である請求項記載の抗体。
【請求項3】
VHH抗体多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である請求項記載の抗体。
【請求項4】
請求項1に記載の抗体をコードする核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSARS-CoV-2に結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)やMERSコロナウイルス(MERS-CoV)と同様ベータコロナウイルス属に属し、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスである。2019年に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認され、その後、COVID-19の世界的流行(パンデミック)を引き起こしている。
【0003】
SARS-CoV-2は、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度で、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。また、ウイルス粒子(ビリオン)は、50~200nmほどの大きさである。一般的なコロナウイルスと同様に、スパイクタンパク質、ヌクレオタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質として知られる4つのタンパク質と、RNAより構成されている。このうちヌクレオタンパク質がRNAと結合してヌクレオカプシドを形成し、脂質と結合したスパイクタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する(非特許文献1、2)。
【0004】
スパイクタンパク質は、2つのサブユニット、S1及びS2からなる大きなI型膜貫通型タンパク質で、S1は主に、細胞表面の受容体を認識する受容体結合ドメイン(RBD)が、S2には膜融合に必要な要素が含まれている。スパイクタンパク質は、中和抗体及びT細胞応答の誘導、並びに防御免疫において重要な役割を果たすとされている。
【0005】
S1に結合する既知の受容体には、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)、DPP4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)、APN(アミノペプチダーゼN)、CEACAM(癌胎児性抗原関連細胞接着分子1)、O-ac Sia(O-アセチル化シアル酸)があり、SARS-CoV-2は、ヒトACE2を介してヒト呼吸上皮細胞に感染することが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
COVID-19のウイルス学的診断には主に遺伝子増幅法(PCR)によるSARS-CoV-2の遺伝子検出が行われている。PCR検査は、現時点で使えるウイルス検査の中では最も正確とされているが、検査を実施するには時間や手間がかかり、PCR検査を本当に必要な数まで拡大するのが難しいという問題が存在する。一方、ウイルスの検出には、ウイルスの遺伝物質を検出するPCRとは異なり、ウイルス表面のタンパク質の断片を検出する抗原検査も存在する。抗原が検出できれば、高価な機械や訓練、労力がなくても、感染しているかどうかが数分で診断できる。したがって、信頼できる抗原検査があれば、検査規模を容易に拡大でき、自宅や診療現場でCOVID-19の診断ができるようになり、一刻も早い臨床現場への導入が求められている。また、血清中のウイルス特異的抗体を検出するイムノクロマト法や酵素抗体法(ELISA)を利用した血清学的診断法が検討されている。特に、COVID-19は、多くの症例において感染から発症までの潜伏期間が長いと考えられている。また、発症から1週間程度経過した後に症状が急速に悪化して重症肺炎に至るなど、臨床経過が長い症例も報告されている。そのため、COVID-19の診断において血清学的診断が有用となることが期待されている。
【0007】
一方、ラクダ科動物の血清中から見いだされた重鎖抗体の可変領域を利用した天然のシングルドメイン抗体であるVHH抗体は、その分子量がIgG抗体の10分の1と小さく、耐酸性や耐熱性に優れる。また、IgG抗体は培養細胞を用いて生産する必要があるが、VHH抗体は大腸菌や酵母で生産できる。また、VHH抗体は1本鎖のペプチドなので、蛋白質工学や化学修飾による機能の改変がしやすく、抗体薬物複合体(ADC)を作製しやすいという特徴を有する。その一方で、基質との親和性が高いVHH抗体を取得するのは難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273.
【文献】A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature. 2020 Mar;579(7798):265-269.
【文献】Structure、Function、and Antigenicity of the SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein. Cell. Volume 181、Issue 2、16 April 2020、Pages 281-292.e6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、SARS-CoV-2に結合する抗体及びその利用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはSARS-CoV-2に結合する抗体を得るべく検討した結果、特定のアミノ酸数を有するCDR1~3をコンストラクトに含むVHH抗体ライブラリから、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより、SARS-CoV-2に反応性の高いクローンを得ることに成功した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の1)~2)に係るものである。
1)配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
2)1)の抗体をコードする核酸。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、反応性の高い抗SARS-CoV-2抗体を提供することができる。当該抗体を用いることにより、SARS-CoV-2の検出、すなわちSARS-CoV-2感染症である急性呼吸器疾患(COVID-19)の迅速な検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】各ラウンドのセレクション後に出現した抗SARS-CoV-2抗体候補の出現頻度の分布(上位10に絞って表示)。矢印はCoVHH1の出現頻度を示す。
図2】セレクションにより選抜されたCoVHH1とCoVHH1変異体のアミノ酸配列のアライメント図。*は保存されたアミノ酸を示す。CoVHH1のアミノ酸配列と比較して、アミノ酸が置換されている場所を四角で囲うことで示した。
図3】VHH遺伝子を組み込んだ枯草菌培養上清についてのウエスタンブロッティング像。*は目的タンパク質のバンドを示す。
図4】バイオレイヤー干渉法によるCoVHH1のSARS-CoV-2のS1タンパク質に対する結合活性測定。灰色線は計測された生データに基づく結合乖離曲線、黒線はフィッティング後の結合乖離曲線を示す。
図5】ELISA法によるCoVHH1とCoVHH1二量体のSARS-CoV-2のS1タンパク質に対する結合活性測定。
図6】サンドイッチELISA法によるCoVHH1のSARS-CoV-2のS1タンパク質に対する結合活性測定。
図7】ELISA法によるCoVHH1のコロナウイルスS1タンパク質に対する結合特異性評価。
図8】バイオレイヤー干渉法によるCoVHH1のSARS-CoV-2のS1タンパク質に対する結合活性測定。黒線は計測された生データに基づく結合乖離曲線、灰色線はフィッティング後の結合乖離曲線を示す。
図9】表面プラズモン共鳴法によるCoVHH1のpH7.4におけるS1タンパク質に対する結合活性測定。黒線は計測された生データに基づく結合乖離曲線、灰色線はフィッティング後の結合乖離曲線を示す。
図10】表面プラズモン共鳴法によるCoVHH1のpH6.5におけるS1タンパク質に対する結合活性測定。黒線は計測された生データに基づく結合乖離曲線、灰色線はフィッティング後の結合乖離曲線を示す。
図11】サンドイッチELISA法によるCoVHH1のSARS-CoV-2のS1タンパク質に対する結合活性測定。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のSARS-CoV-2に結合する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、抗SARS-CoV-2抗体である。
【0015】
SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルスであり、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。本発明の抗体は、SARS-CoV-2に結合する抗体であるが、詳細には、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のうちのS1サブユニットに結合する抗体である。
【0016】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2及びCDR3の3つのCDRを有する。CDR(Complementarity Determining Region;相補性決定領域)とは、配列可変な抗原認識部位又はランダム配列領域を含み、超可変領域とも云われる。本発明の抗体の構造ドメインにおいて、3つのCDRは、N末端側からCDR1、CDR2、CDR3の順で存在する。
【0017】
本発明の抗体の構造ドメインにおいて、
CDR1は、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、
CDR2は、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、
CDR3は、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる。
ここで、配列番号1で示されるアミノ酸配列はGSTFSDYVMAであり、配列番号2で示されるアミノ酸配列TISRNGGTTTであり、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるCDR3のアミノ酸配列はVGGDGDSである。
【0018】
上記配列番号1~3で示されるアミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDRは、配列番号1~3で示されるアミノ酸配列からなるCDRに変異が導入されたCDRを意味する。また、CDR1、CDR2、CDR3に変異が導入されていても、SARS-CoV-2に対する結合能を有している限り、本発明の抗体のCDRに包含される。
ここで、置換されるアミノ酸の位置は限定されないが、好ましい位置として、CDR1においては3、4、5又は10番目が挙げられ、CDR2においては3、4、5、6、7、8、9又は10番目が挙げられ、CDR3においては1、2、3又は4番目が挙げられる。
また、置換後のアミノ酸の種類は限定されないが、好ましい置換として、極性や大きさが類似のアミノ酸への置換が挙げられる。また、スレオニン残基のアスパラギン残基、イソロイシン残基またはメチオニン残基への置換、フェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換、セリン残基のアルギニン残基またはアスパラギン残基への置換、アラニン残基のスレオニン残基への置換、アルギニン残基のセリン残基への置換、アスパラギン残基のチロシン残基への置換、グリシン残基のセリン残基への置換、バリン残基のフェニルアラニン残基またはイソロイシン残基への置換、アスパラギン酸残基のグリシン残基またはバリン残基への置換も好ましい置換として挙げられる。
置換されるアミノ酸の位置及び置換後のアミノ酸の種類の好ましい組み合わせとしては、CDR1においては、3番目のスレオニン残基のアスパラギン残基への置換、4番目のフェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換、5番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、10番目のアラニン残基のスレオニン残基への置換、
CDR2においては、3番目のセリン残基のアスパラギン残基への置換、4番目アルギニン残基のセリン残基への置換、5番目のアスパラギン残基のチロシン残基への置換、6番目のグリシン残基のセリン残基への置換、7番目のグリシン残基のセリン残基への置換、8番目のスレオニン残基のメチオニン残基への置換、9番目のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換、10番目のスレオニン残基のメチオニン残基への置換、
CDR3においては、1番目のバリン残基のイソロイシン残基への置換、3番目のグリシン残基のバリン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基またはバリン残基への置換、が好ましい。
【0019】
なお、SARS-CoV-2に対する結合能は、当業者に公知の方法により評価できる。具体的には、後述する実施例に示すように、バイオレイヤー干渉法により、平衡乖離定数KDを求めることにより評価できる。また、例えば抗原を固定したELISA法、イムノクロマト法、等温滴定カロリメトリー法、表面プラズモン共鳴測定法等を用いた方法によっても評価できる。
【0020】
本発明の抗体の構造ドメインは、CDR1、CDR2、CDR3の両端にフレームワーク領域を有するものであってもよい。
フレームワーク領域とは、抗体分子の可変領域において相補性決定領域を除く領域であり、保存性の高い領域を指す。
すなわち、本発明の構造ドメインは、一態様として、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものが挙げられる。
構造ドメインにおけるフレームワーク領域のアミノ酸配列としては以下のものが挙げられる。
FR1:配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR2:配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR3:配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR4:配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0021】
配列番号4~7で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域としては、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域が挙げられる。
【0022】
ここで、アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。配列の同一性は、例えばNational Center for
Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いて解析を行なうことにより算出できる。
【0023】
本発明の抗体のうち、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号7で示されるアミノ酸配列である構造ドメイン(配列番号9)を有する抗体は、後述する実施例において、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより得られた、SARS-CoV-2に反応性の高いクローン(CoVHH1)であり、好適な抗SARS-CoV-2抗体である。
【0024】
本発明の抗体は、上記の構造ドメインを少なくとも1つ有するものであればその形態は限定されず、VHH抗体のようなシングルドメイン抗体(ナノボディーとも呼ばれる)の他、一本鎖抗体、重鎖抗体、可変領域断片をペプチドリンカーなどで結合させた多量体、例えば二量体、更には、可変領域断片と抗原特異性の異なる可変領域断片の1または複数を連結した多量体であってもよい。
また、本発明の抗体はヒト化されていてもよい。ヒト化された抗体は、ヒトに投与することが可能であるため、医薬として応用することができる。
【0025】
本発明の抗体の作製方法は特に限定されず、当該技術分野における公知技術により容易に作製することができる。例えば、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・リゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製することや遺伝子工学的に作製することができるが、本発明の抗体をコードする核酸を適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞に導入し、組換え抗体として産生させる方法が好ましい。
【0026】
組換え抗体として産生において使用される宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌、カビ、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞等が挙げられる。抗体を発現させるための発現用ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pHY300PLK等の大腸菌と枯草菌で共用することができるシャトルベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカー及びプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位及びポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ及びGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
【0027】
発現させた本発明の抗体を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的の抗体を取得することができる。
公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0028】
本発明の抗体は、SARS-CoV-2に結合することから、これを、SARS-CoV-2を含有するか、または含有する可能性のある被験試料と接触させることによって、当該試料中にSARS-CoV-2が存在すること、あるいは存在しないことを確認できる。
具体的には、本発明の抗体を用いたSARS-CoV-2の検出は、本発明の抗体と、被験試料とを接触させ、本発明の抗体と前記被験試料中のSARS-CoV-2との結合体を形成させる工程と、前記結合体中のSARS-CoV-2を検出する工程、を備えてなる。
また、本発明の抗体は、血清中のウイルス特異的抗体の検出において、固定化した被験試料(血清)中に含まれる抗SARS-CoV-2抗体(例えば血清抗体)に対して、SARS-CoV-2抗原の一部を添加して結合させ、当該結合体状態にあるSARS-CoV-2抗原の存在を確認する抗体として使用することもできる。
【0029】
被験試料としては、気管スワブ、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等の生体試料の他、ウイルスが付着している可能性のある固体表面、例えばドアノブ、便器等から採取された試料が挙げられる。抗体は固相に固定されていてもよく、固相に固定されていなくてもよい。
上記の結合体中のSARS-CoV-2を検出する工程は、例えば、上記の結合体に、結合体中の本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する、抗SARS-CoV-2抗体を反応させることにより行うことができる。或いは、ホモジニアスアッセイにより、液相中で上記の結合体中のSARS-CoV-2を検出してもよい。
【0030】
また、本発明の抗体は、SARS-CoV-2検出用キットの構成成分となり得る。当該キットは、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の診断薬として、またSARS-CoV-2感染症治療薬の開発用のツールとして使用可能である。
当該検出キットは、本発明の抗SARS-CoV-2抗体の他、検出に必要な試薬及び器具、例えば抗体、固相担体、緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むことができる。
当該検出キットにおいて、本発明の抗体は固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、ビーズ、膜、反応容器の側面や底面、スライドガラス等の板状基板、イムノプレート等のウェル基板等が挙げられ、本発明の抗体が直接的又は間接的に固定される。
【0031】
また、本発明の抗体は、SARS-CoV-2のS1サブユニットに結合し、ウイルスの細胞への結合を阻害することが考えられる。したがって、本発明の抗体は、哺乳動物に投与し、SARS-CoV-2感染症の予防又は治療するための医薬として利用することも可能である。哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ブタ等があげられるが、ヒトが好ましい。
本発明の抗体を医薬として用いる場合には、その態様は、経口、非経口のいずれでもよく、適宜、周知の薬学的に許容可能な無毒性の担体、希釈剤と組み合わせて用いることができる。非経口投与としては、典型的には注射剤が挙げられるが、噴霧剤等と共に吸入による投与も可能である。
【0032】
斯かる医薬において、その組成物中における本発明の抗体の含有量は適宜調整できる。
また、斯かる医薬は、本発明の抗体として、有効量を1週間に1~数回程度の間隔で、SARS-CoV-2感染症の予防又は治療が必要な対象、例えば患者に投与することにより適用することができる。この場合の投与方法としては、好適には静脈注射、点滴等が挙げられる。
【0033】
本発明においては上述した実施形態に関し、さらに以下の態様が開示される。
<1>配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
<2>VHH抗体、重鎖抗体又はVHH抗体多量体である、<1>の抗体。
<3>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である<2>の抗体。
<4>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを2つ連結した二量体である<2>の抗体。
<5>VHH抗体多量体が、前記構造ドメインの1又は複数と、該構造ドメインとは抗原特異性の異なる構造ドメインの1又は複数を連結した多量体である<2>の抗体。
【0034】
<6>配列番号1で示されるアミノ酸配列において1個のアミノ酸の他のアミノ酸への置換が、3番目のスレオニン残基のアスパラギン残基への置換、4番目のフェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換、5番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、又は10番目のアラニン残基のスレオニン残基への置換である、<1>~<5>のいずれかの抗体。
<7>配列番号2で示されるアミノ酸配列において1個のアミノ酸の他のアミノ酸への置換が、3番目のセリン残基のアスパラギン残基への置換、4番目アルギニン残基のセリン残基への置換、5番目のアスパラギン残基のチロシン残基への置換、6番目のグリシン残基のセリン残基への置換、7番目のグリシン残基のセリン残基への置換、8番目のスレオニン残基のメチオニン残基への置換、9番目のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換、又は10番目のスレオニン残基のメチオニン残基への置換である、<1>~<5>のいずれかの抗体。
<8>配列番号3で示されるアミノ酸配列において1個のアミノ酸の他のアミノ酸への置換が、CDR3においては、1番目のバリン残基のイソロイシン残基への置換、3番目のグリシン残基のバリン残基への置換、又は4番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基またはバリン残基への置換である、<1>~<5>のいずれかの抗体。
<9>構造ドメインが、第1フレームワーク領域(FR1)、CDR1、第2フレームワーク領域(FR2)、CDR2、第3フレームワーク領域(FR3)、CDR3及び第4フレームワーク領域(FR4)をこの順に有するものである、<1>~<8>のいずれかの抗体。
<10>FR1~FR4が以下のアミノ酸配列からなる、<9>の抗体。
FR1:配列番号4で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR2:配列番号5で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR3:配列番号6で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
FR4:配列番号7で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
<11>FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4がこの順で連結され、CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列、CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列、CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列であり、FR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列、FR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列、FR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列、FR4が配列番号7で示されるアミノ酸配列である、<9>の抗体。
<12><1>の抗体をコードする核酸。
【実施例
【0035】
実施例1 抗SARS-CoV-2抗体のスクリーニング
<材料と方法>
1.スクリーニングの標的分子
標的分子として、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike Protein(S1 Subunit,His Tag)(Hisタグ付きS1タンパク質、Sino Biological)を用いた。
【0036】
2.cDNAディスプレイの合成
(1)初期ライブラリーの合成
VHHナイーブDNAライブラリーAlipLib L hinge(60ng/μL;RePHAGEN)又はAlipLib S hinge(60ng/μL;RePHAGEN)を鋳型DNAにしたPCR増幅により、1x1014の多様性をもつAlipLib L hinge 1st PCR product又はAlipLib S hinge 1st PCR productを調製した。AlipLib L hingeのPCR増幅には、プライマーphage_to_cDNA_dis.とLHinge-GGGS-His-Rsを使用した。AlipLib S hingeのPCR増幅には、プライマーphage_to_cDNA_dis.とSHinge-GGGS-His-Rとを使用した。
PCR用溶液の組成は250μL反応スケールに調整し、テストチューブ5本に分注した。テストチューブ1本あたり、300ngのVHHナイーブDNAライブラリーを鋳型DNAとし、上記プライマーまたはプライマーSHinge-GGGS-His-R、PrimeSTAR DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)、5x PrimeSTAR Buffer(タカラバイオ)、2.5mM dNTP mix、及びHO(Ultra Pure DNase/RNase-Free Distilled Water、ThermoFisher Scientific)を含むものとした。
PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いた。1μLのPCR産物あたり約2容量のビーズを加え、ピペッティングして混合し、数分間静置した後に上清を除去し、70%エタノールを用いてビーズを洗浄した。この後、ビーズを風乾させ、適当量のHOを添加してビーズを懸濁させ、上清を回収した。その後、吸光度測定(A260/A280)によりDNA濃度を定量した。
次にAlipLib L hinge 1st PCR product又はAlipLib S hinge 1st PCR productを鋳型DNAにしたPCR増幅により、AlipLib L hinge 2nd PCR product又はAlipLib S hinge 2nd PCR productを調製した。PCR増幅にはプライマーとしてT7-Ω及びHis-C(Ytag cnvK)とを使用した。
PCR用溶液は500μL反応スケールで調製し、10本のテストチューブに分注した。各テストチューブは、3000ngの鋳型DNA、プライマー(T7-Ω及びHis-C)、PrimeSTAR DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)、5x PrimeSTAR Buffer(タカラバイオ)、2.5mM dNTP mix、HO(Ultra Pure DNase/RNase-Free Distilled Water、ThermoFisher Scientific)を含むものとした。
PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、目的位置に分離されたVHHライブラリーフラグメント(PCR産物)を含むゲルを切り出した後、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up (タカラバイオ)を用いて精製して、AlipLib
L hinge 2nd PCR product及びAlipLib S hinge 2nd PCR productを得た。DNA濃度は、吸光度測定(A260/A280)により行い、DNA濃度を定量した。
4,500ngのAlipLib L hinge 2nd PCR product及び4,500ngのAlipLib S hinge 2nd PCR product(Epsilon Molecular Engineering)をPCRで増幅した。反応液は1サンプルあたり25μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems)、1.5μLの10μM Forward primer、1.5μLの10μM Reverse index primer、300ngのDNAを混合し、NUCLEASE FREE WATERで50μLになるように調製した。プライマーは5’-GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGG-3’(配列番号10)と5’-TTTCCACGCCGCCCCCCGTCCT-3’(配列番号11)を用いた。PCRは95℃で5分間の後、98℃で20秒間、65℃で15秒間、72℃で30秒を5サイクル、そして72℃で5分間の条件で行った。PCR産物の精製はAgencourt AMPure
XP(Beckman Coulter)を用いた。1μLのPCR産物あたり1.8μLのビーズを加え、ピペッティングによる混合後、5分間静置した。磁性プレート上で透明になるまで静置した後、上清を除去した。1.4mLの70%エタノールを添加し、30秒静置した後、上清を除去した。このエタノール洗浄は3回行った。上清の除去後、磁気プレート上で3分間静置し、ビーズを風乾させた。チューブを磁気プレートから下ろし、100μLのNUCLEASE FREE WATERを添加後、ピペッティングによりビーズを懸濁し5分静置した。チューブを磁気プレート上で2分間静置した後、上清を回収した。
【0037】
(2)in vitro転写
T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega)を用いた。25μLのRiboMAX(商標) Express T7 2X Buffer,20pmol PCR産物、5μLのEnzyme Mixを混合し,37℃で30分間インキュベートした。続いて、5μLのRQ1 RNase-Free DNaseを添加し、37℃で15分間インキュベートした。転写産物の精製はRNAClean XP(Beckman Coulter)を用いた。1μLの転写産物あたり1.8μLのビーズを加え、ピペッティングによる混合後、5分間静置した。磁性プレート上で透明になるまで静置した後、上清を除去した。200μLの70%エタノールを添加し、30秒静置した後、上清を除去した。このエタノール洗浄は3回行った。上清の除去後、磁気プレート上で10分間静置し、ビーズを風乾させた。チューブを磁気プレートから下ろし、20μLのNUCLEASE FREE WATERを添加後、ピペッティングによりビーズを懸濁し5分静置した。チューブを磁気プレート上で1分間静置した後、上清を回収した。精製後、NanoPad DS-11FX(DeNovix)によりRNAを定量した。
【0038】
(3)mRNAとピューロマイシンリンカーの連結
4μLの0.25M Tris-HCl(pH7.5)、4μLの1M NaCl、20pmolのmRNA、20pmolのcnvK riboG linkerを混合し、NUCLEASE FREE WATERで20μLになるように反応液を調製した。アニーリングはProFlex PCR System(Life technologies)を用いて、90℃で2分間、70℃で1分間、25℃で30秒、4℃でインキュベートの条件で行った。Ramp rateは0.1℃/秒に設定した。続いて、Handheld UV Lamp,6W、UVGL-58、254/365nm、100V(Analytik jena US、An Endress+Hauser Company)を用いて波長365nmの紫外線を5分間照射した。mRNA-リンカー連結体は使用するまで遮光し、氷冷した。
【0039】
(4)無細胞翻訳
mRNA-リンカー連結体からのmRNA-VHH連結体の合成にはRabbit Reticulocyte Lysate System、Nuclease Treated(Promega)を用いた。10.5μLのNUCLEASE FREE WATER、1.5μLの20x Translation Mix,52.5μLのRabbit Reticulocyte Lysate、1.5μLのRNasin(商標) Ribonuclease Inhibitor(40U/μL)(Promega)、9μLのmRNA-リンカー連結体を混合した。この反応液を37℃で15分間インキュベートした後、36μLのIVV formation buffer(3M KCl,1M MgCl)混合液を加え、さらに37℃で20分間反応させることで、mRNA-VHH連結体を合成した。
【0040】
(5)ストレプトアビジン磁性体ビーズへの固定化
60μLのDynabeads My One Streptavidin C1(Thermo Fisher Scientific)に60μLの2x Binding
buffer(20mM Tris-HCl、2M NaCl、0.2% Tween
20、2mM EDTA,pH8)を添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた。磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。この洗浄は2回行った。75μLのmRNA-VHH連結体、75μLの2xBinding buffer、洗浄済みのストレプトアビジン磁性体ビーズと混合し、室温で30分間インキュベートした。磁性プレート上で1分間静置した後、上清を除去した。200μLのBinding buffer(10mM Tris-HCl、1M NaCl、0.1% Tween 20、1mM EDTA,pH8)を添加し、1分間ピペッティングした後、上清を除去した。この洗浄は2回行った。
【0041】
(6)逆転写反応
55.5μLのNUCLEASE FREE WATER、15μLの5x ReverTra Ace Buffer(Toyobo Life Science)、3μLの25mM dNTP Mix、1.5μLのReverTra Ace(100U/μL)(Toyobo Life Science)を混合した。上記の反応液にストレプトアビジン磁性体ビーズ上に固定化されたmRNA-VHH連結体を添加し、42℃、30分間インキュベートすることで逆転写反応を行うことで、cDNA-VHH連結体を合成した。
【0042】
(7)ビーズからの切り出し
ストレプトアビジン磁性体ビーズ上に固定化されたcDNA-VHH連結体に対して、His-tag wash buffer(20mM Sodium phosphate、500mM NaCl、5mM Imidazole、0.05% Tween 20、pH7.4)を添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた。磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。続いて、30μLの10U RNase T1(Thermo Fisher Scientific)含有His-tag wash bufferを添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた後、37℃で15分間静置することでcDNA-VHH連結体を溶出させた。
【0043】
(8)精製
30μLのHis Mag Sepharose Ni Beads(GE Health Care)を磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた後、His-tag wash bufferで再懸濁した。この洗浄操作は2回行った。cDNA-ペプチド連結体の溶出液とHis Mag Sepharose Ni Beads懸濁液を混合し、室温で30分間インキュベートした後、磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。200μLのHis-tag wash bufferを添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた。磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。この洗浄操作は2回行った。10μLのHis-tag elution buffer(20mM
Sodium phosphate、500mM NaCl、250mM Imidazole、0.05% Tween 20、pH7.4)を添加し、室温で15分間インキュベートすることで、cDNA-VHH連結体を溶出した。
【0044】
3.セレクション
(1)標的分子の固相化とブロッキング
SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike Protein(S1 Subunit、His Tag)(Sino Biological)を標的分子として用いた。Nunc-Immuno(商標) Plate II(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに100μLの100ug/mL(セレクションラウンド1、R1)、10ug/mL(セレクションラウンド2、R2)、1ug/mL(セレクションラウンド3、R3)SARS-CoV-2のS1タンパク質/PBSを添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ピペットを用いて丁寧にウェルに吸着しなかったS1タンパク質/PBSを取り除いた後、200μLの3%BSA/PBST(0.02% Tween20含有PBS)を添加し、室温で2時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にBSA/PBSTを取り除いた後、200μLのHBST(20mM HEPES、500mM NaCl、0.02% Tween20、pH7.2)を添加し、5分静置した後、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。
【0045】
(2)セレクション
セレクションラウンド1(R1)では200pmol、セレクションラウンド2(R2)及びセレクションラウンド3(R3)では6pmolに調製されたcDNAディスプレイライブラリを用いた。各cDNAディスプレイライブラリはHBST(20mM HEPES、500mM NaCl、0.02% Tween20、pH7.2、0.5%Bovine serum albumin)を添加し、100μLに調製した。S1タンパク質が固相化されたウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にcDNAディスプレイ溶液を取り除いた後、200μLのHBSTを添加し、室温で5分間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は10回行った。100μLの100mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(pH11)を添加し、丁寧にピペッティングした後、室温で5分間静置した。静置後、上清を新しいチューブに回収した。
【0046】
4.PCR増幅
溶出液をPCRに供した。反応液は1サンプルあたり25μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems)、1.5μLの10μM Forward primer、1.5μLの10μM Reverse index primer、12.5μLのcDNA-VHH連結体、9.5μLのNuclease free waterを混合し調製した。プライマーは5’-GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGGAAGTATTTTTACAACAATTACCAACA-3’(配列番号12)と5’-TTTCCACGCCGCCCCCCGTCCT-3’(配列番号11)を用いた。PCRは95℃で2分間の後、98℃で20秒間、68℃で15秒間、72℃で20秒間を22サイクル(R1)または24サイクル(R2以降)、そして72℃で5分間の条件で行った。PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いた。1μLのPCR産物あたり1.8μLのビーズを加え、ピペッティングによる混合後、5分間静置した。磁性プレート上で透明になるまで静置した後、上清を除去した。200μLの70%エタノールを添加し、30秒静置した後、上清を除去した。このエタノール洗浄は2回行った。上清の除去後、磁気プレート上で5分間静置し、ビーズを風乾させた。チューブを磁気プレートから下ろし、45μLのNUCLEASE FREE WATERを添加後、ピペッティングによりビーズを懸濁し5分静置した。チューブを磁気プレート上で1分間静置した後、上清を回収した。
【0047】
5.VHH抗体候補配列の抽出
(1)PCR産物の定量と濃度調製
PicoGreen(商標) dsDNA reagent kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてPCR産物の定量を行った。定量値に従い、各サンプルの濃度を100ng/mLに調製した。
【0048】
(2)シーケンスライブラリーの調製
st PCRを行った。反応液は1サンプルあたり12.5μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems)、0.5μLの10μM Forward primer、0.5μLの10μM Reverse primer、2.5μLの前段落記載のPCR産物、9μLのNuclease free waterを混合し調製した。プライマーは5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNATGGCTGAGGTGCAGCTCGTG-3’(配列番号13)と5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNTGATGATGATGGCTACCACCTCCCG-3’(配列番号14)を用いた。PCRは95℃で3分間の後、98℃で20秒間、62℃で15秒間、72℃で20秒を16サイクル、そして72℃で5分間の条件で行った。
PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いた。1μLのPCR産物あたり1.8μLのビーズを加え、ピペッティングによる混合後、5分間静置した。磁性プレート上で透明になるまで静置した後、上清を除去した。200μLの70%エタノールを添加し、30秒静置した後、上清を除去した。このエタノール洗浄は2回行った。上清の除去後、磁気プレート上で5分間静置し、ビーズを風乾させた。チューブを磁気プレートから下ろし、20μLのNUCLEASE FREE WATERを添加後、ピペッティングによりビーズを懸濁し5分静置した。チューブを磁気プレート上で1分間静置した後、上清を回収した。
続いて、Index PCRを行った。反応液は1サンプルあたり12.5μLのKAPA HiFi HotStart Ready Mix(2X)(Kapa biosystems)、1μLの10μM Forward index primer(Nextera XT Index Kit v2、Illumina)、1μLの10μM
Reverse index primer(Nextera XT Index Kit v2、Illumina)、2.5μLのテンプレートDNA、8μLのNuclease free waterを混合し調製した。PCRは95℃で3分間の後、98℃で20秒間、55℃で15秒間、72℃で30秒を8サイクル、そして72℃で5分間の条件で行った。PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いた。ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりPCR産物のサイズを確認後、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay
Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてPCR産物の定量を行い、以下の式(1)に従ってモル濃度を算出した。得られた定量値に基づき、NUCLEASE FREE WATERで希釈することで4nMに調製した。
DNA濃度[ng/μL]/(660[g/mol]×550[bp])×10=DNA濃度[nM]・・・(1)
【0049】
(3)シーケンス
4nMライブラリーを使用する際の推奨プロトコルに従って調製した。変性・希釈済みのサンプルライブラリーの最終濃度は7pMになるように調製した。また、サンプルライブラリー中のPhiX Controlは5%になるように調製した。MiSeq (Illumina)とMiSeq Reagent Nano Kit v2 500 cycle(Illumina)を用いてシーケンスを行った。
【0050】
(4)シーケンスデータからVHH抗体のアミノ酸配列の抽出と重複数の計測
MiSeq Controllerを用いてDemultiplexingされた配列データを解析に供した。シーケンスデータからVHH抗体がコードされている塩基配列領域を抜き出し、アミノ酸配列に翻訳した。その後、各アミノ酸配列と完全に一致したアミノ酸配列数を計測した。
【0051】
(5)抗SARS-CoV-2 VHH抗体候補配列の選抜
R2とR3のセレクション後のライブラリーに共通して出現するVHH抗体のアミノ酸配列と各配列のクローン数を算出した。VHH抗体全長のアミノ酸配列の完全一致によりクローン数を求めた結果、CoVHH1がライブラリー中で最も優占していることがわかった(図1)。
CoVHH1をコードする全塩基配列は配列番号8に示すとおりであり、そのアミノ酸配列はAEVQLVESGGGQVETGGSLRLSCQASGSTFSDYVMAWFRQRPGKEREFVATISRNGGTTTYGSSVKGRFTISRDNAKSTVYLQMNSLKPEDTAVYYCYAVGGDGDSWGQGTQVTVSS(配列番号9)である。なお、アミノ酸をコードする塩基配列は配列番号8に示すコドンに限定されるものではない。当該アミノ酸配列において、1~26番がFR1、27~36番がCDR1、37~50番がFR2、51~60番がCDR2、61~99番がFR3、100~106番がCDR3、108~117番がFR4である。
【0052】
(6)VHH抗体のCDR領域アミノ酸配列の抽出
R2とR3のセレクション後のライブラリーに共通して出現し、さらに出現頻度の最も高かったCoVHH1とアミノ酸配列が類似したCoVHH1変異体について、CDR領域の比較を行った(図2)。CoVHH1変異体として、CDR1領域変異体は4配列(CoVHH1301(配列番号34)、CoVHH319(配列番号35)、CoVHH39(配列番号36)、CoVHH327(配列番号37))、CDR2領域変異体は8配列(CoVHH47(配列番号38)、CoVHH16(配列番号39)、CoVHH49(配列番号40)、CoVHH58(配列番号41)、CoVHH417(配列番号42)、CoVHH118(配列番号43)、CoVHH416(配列番号44)、CoVHH3342(配列番号45))、CDR3領域変異体は6配列(CoVHH201(配列番号46)、CoVHH20(配列番号47)、CoVHH112(配列番号48)、CoVHH2017(配列番号49)、CoVHH137(配列番号50)、CoVHH96(配列番号51))が見出された。
【0053】
実施例2 プロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産
(1)遺伝子の人工合成
合成されるCoVHH1のアミノ酸配列は、配列番号9のC末端側にヒンジ配列を介したHisタグ配列(配列番号25、EPKTPKPQSHHHHHH)が付与された配列番号26となる。そのため、CoVHH1発現用の人工合成遺伝子には、配列番号26をコードする塩基配列の3’末端に終止コドンが付与された配列番号27となる。さらに、CoVHH1発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するための配列として、配列番号27に対して、GCAGCTCTTGCAGCA(配列番号28)が5’末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号29)が3’末端に付加されたものをユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。
【0054】
(2)Hisタグ付きVHH発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換えプラスミドpHY-S237(特開2014-158430)をテンプレートとし、5’-GATCCCCGGGAATTCCTGTTATAAAAAAAGG-3’(配列番号15)と5’-ATGATGTTAAGAAAGAAAACAAAGCAG-3’(配列番号16)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、5’-GAATTCCCGGGGATCTAAGAAAAGTGATTCTGGGAGAG-3’(配列番号17)と5’-CTTTCTTAACATCATAGTAGTTCACCACCTTTTCCC-3’(配列番号18)のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込み、spoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドを構築した。5’-TGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3’(配列番号19)及び5’-TCTATTAAACTAGTTATAGGG-3’(配列番号20)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片に、(1)の人工合成遺伝子を含むDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、人工合成VHH遺伝子の各々を含むVHH発現用プラスミドを構築した。このHisタグ付きCoVHH1発現用プラスミドをCoVHH1-His-pHYと呼ぶ。
また、CoVHH二量体については以下のように構築を行った。CoVHH1二量体についてはCoVHH1発現用の人工合成遺伝子をテンプレートとし、5’-GCAGCTCTTGCAGCAGCTGAAG-3’(配列番号21)及び5’-CGCGGCTGCTGAACTCACGGTTACCTGAG-3’(配列番号22)のプライマーセット、及びVHH1をテンプレートとし、5’-AGTTCAGCAGCCGCGGAAGTGCAACTGGTTGAGTCTG-3’(配列番号23)及び5’-AACTAGTTTAATAGATTAATG-3’(配列番号24)のプライマーセットを用いて、PrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)によるPCRにより得られたPCR断片(遺伝子)をIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて上記と同様にspoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドへと組み込んだ。このHisタグ付きCoVHH1二量体発現用プラスミドをCoVHH1(dimer)-His-pHYと呼ぶ。
【0055】
(3)FLAGタグ付きVHH発現用プラスミドの構築
CoVHH1-His-pHYをテンプレートとし、5’-GCAGCTCTTGCAGCAGCTGAAGTGCAACTGGTTGAG-3’(配列番号31)及び5’-AACTAGTTTAATAGATTATTTGTCATCATCATCCTTATAGTCCGACTGTGGTTTCGGTGTTTTG-3’(配列番号32)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりFLAGタグ付きCoVHH1のPCR断片を増幅した。前述のspoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドをテンプレートとし、5’-TGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3’(配列番号19)及び5’-TCTATTAAACTAGTTATAGGG-3’(配列番号20)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたプラスミドPCR断片に、FLAGタグ付きCoVHH1のPCR断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込みこんだ。このFLAGタグ付きCoVHH1二量体発現用プラスミドをCoVHH1-FLAG-pHYと呼ぶ。
構築したプラスミドを、下記(4)に示す手順に従ってBacillus subtilis 168株から、特開2006-174707号に記載されている方法に従って、9種の細胞外プロテアーゼ遺伝子(epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE及びaprX)を全て欠損させ、さらに特許第4336082に記載されている方法に従い、胞子形成に関与するsigF遺伝子を欠損させることにより得られた株(Dpr9ΔsigF)に導入した。
【0056】
(4)組換え枯草菌の作製
枯草菌株へのプラスミド導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、1,2000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(SIGMA)4mg/mLを含むSMMP500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLを各種プラスミドと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。
【0057】
(5)VHH産生
(4)で作製した組換え枯草菌を1mLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、32℃で一晩往復振とうし、前培養液とした。Dpr9ΔsigFは、前培養液をひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養終了時に1mLの培養液をマイクロチューブにて4℃、15,000rpm、5分間遠心し、上清を回収した。各VHHについてはNi-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬)を用い、キットのプロトコルに従って精製した。溶出液にはPBS(50mM イミダゾール)を用いた。
培養上清における抗体の生産を確認するため、ウエスタンブロッティングを行った。SDS-PAGEについては、ゲルはスーパーセップエース、15-20% (トリシンゲル)(富士フィルム和光純薬)を用い、各ウェルに0.5μLの培養上清を含むサンプルをアプライした後に120Vで3時間泳動した。分子量マーカーにはxL ladder(Broad)(アプロサイエンス)を用いた。SDS-PAGEゲルから、Trans-Blot Turbo Mini PVDF Transfer Packs(BIO-RAD)、及びTrans-Blot Turbo System(BIO-RAD)を用いてタンパク質をPVDF膜へ転写した。抗体は6×-His Tag Monoclonal Antibody(3D5),HRP(Invitorogen)またはANTI-FLAG M2-ペルオキシダーゼ(HRP)コンンジュゲート(シグマアルドリッチ)を、抗体反応にはiBind Western System(Invitrogen)を用いた。1-Step Ultra TMB-Blotting Solution(Thermo Scientific)を用いて目的タンパク質を検出した(図3)。
【0058】
その結果、CoVHH1とCoVHH1二量体が合成されていることが確認された。この方法で合成されるHisタグ付きCoVHH1のアミノ酸配列は配列番号26に示す通りであり、Hisタグ付きCoVHH1二量体は配列番号30に示す通りであり、FLAGタグ付きCoVHH1のアミノ酸配列は配列番号33に示す通りである。
【0059】
実施例3 バイオレイヤー干渉法による結合活性測定
BLItz bio-layer interferometer(Fortebio)を用いてNi-NTAセンサーチップに固相化したCoVHH1のS1タンパク質に対する結合活性を測定した。Advanced kinetics modeを選択し、250μLの各測定液をBlack 0.5mL Tubeに添加して測定した。測定前にDip and Read(商標) Ni-NTA(NTA)Biosensors(Fortebio)の先端を100μLのPBST(0.1% Tween20含有PBS,pH7.4)に1晩浸漬させることでチップを水和させた。ラン毎の測定順は以下の通りである;1)Baseline step:PBST中で30秒間の測定、2)Loading step:PBSTで希釈調製した1-10μg/mL Hisタグ付きCoVHH1で120秒間の測定、3)Baseline step:PBST中で30秒間の測定、4)Association step:PBSTで希釈し調製した0-693.1nM SARS-CoV-2 S1 subunit-Fc(Fcタグ付きS1タンパク質、The Native Antigen Company)で180秒間の測定、5)Dissociation step:PBST中で300秒間の測定。BLItz Proソフトウェアバージョン(1.2.1.5)(Molecular Devices)を用いてGlobal Fittingを行い、結合活性を算出した(図4)。
その結果、CoVHH1のS1タンパク質に対する平衡乖離定数(KD)は7.131x10-9M(ka=1.604x10(1/Ms)、kd=1.144x10-4(1/s))であった。
【0060】
実施例4 ELISA
Nunc-Immuno(商標) Plate II(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルにPBSで希釈し調整した100μLの0-10μg/mL SARS-CoV-2 S1 subunit-Fc(Fcタグ付きS1タンパク質、The Native Antigen Company)を添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ピペットを用いて丁寧にウェルに吸着しなかったS1タンパク質分散液を取り除いた後、200μLの5%スキムミルク/PBST(0.05% Tween20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にスキムミルクを取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、5分静置した後、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。S1タンパク質を固相化した各ウェルに対して100μLの2μg/mL Hisタグ付きCoVHH1又はHisタグ付きCoVHH1二量体/PBSTを添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にVHH抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、5分静置した後、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。一次抗体にはAnti-His-tag mAb-Biotin(Monoclonal、OGHis)(MEDICAL & BIOLOGICAL LABORATORIES)を用いた。PBSTにより一次抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの一次抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に一次抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、5分静置した後、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。一次抗体の検出にはStreptavidin HRP Conjugate(東京化成工業)を用いた。PBSTによりStreptavidin HRP Conjugate溶液を1/5,000に希釈し、各ウェルに100μLずつ添加した後、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にStreptavidin HRP Conjugate溶液を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、5分静置した後、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し,遮光下で20分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した。その結果、CoVHH1及びCoVHH1二量体ともにS1タンパク質に対する結合活性が認められた。さらにCoVHH1を二量体化することにより、結合活性が向上することがわかった(図5)。
【0061】
実施例5 中和活性試験
前記の方法で取得したHisタグ付きCoVHH1とHisタグ付きCoVHH1二量体のSARS-CoV-2に対する中和活性を測定した。CoVHH1溶液とCoVHH1二量体溶液は2%Fetal Bovine Serum(FBS)/Dulbecco Modified Eagle Medium(DMEM)と混合することで、それぞれ323.4μg/mLと122.5μg/mLの濃度になるように調製した。100μLの各混合液と100μLの2%FBS/DMEMを混合することで2倍希釈液を調製し、同様にして2%FBS/DMEMを用いて128倍希釈まで抗体の2倍希釈系列溶液を調製した(表1)。
【0062】
【表1】
【0063】
96ウェルプレートにHisタグ付きCoVHH1またはHisタグ付きCoVHH1二量体の各2倍希釈系列溶液を100μL添加し、さらに2.5×10pfu/mLのSARS-CoV-2溶液(国立感染症研究所から入手)をそれぞれ100μLずつ添加した。その後、37℃で2時間インキュベートした後、4℃で一晩インキュベートし、抗体とウイルスを接触させた。Vero-E6/TMPRSS2細胞(JCRB細胞バンクより購入)を播種したウェルに、抗体とウイルスを接触させた溶液100μLを加え、37℃、5%CO環境下で培養した。コントロールとして、CoVHH1とCoVHH1二量体の溶解に用いているPBS(50mM イミダゾール含有)を用いた。培養開始3日後に顕微鏡により細胞変性効果(CPE)を測定し中和活性を評価した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
その結果、イミダゾールを添加した場合ではすべてのウェルで細胞変性が認められたのに対し、CoVHH1は4.043μg/wellで中和活性能を示し、CoVHH1二量体は0.8750μg/wellで中和活性能を示すことが明らかとなった。即ち、CoVHH1の中和活性は、多量体化することにより高まることが示された。
【0066】
実施例6 サンドイッチELISAによるSARS-CoV-2のS1タンパク質の検出
Pierce(商標) Nickel Coated Plates、Clear、96-Well(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに100μLの5μg/mL Hisタグ付きCoVHH1を添加し、4℃で一晩静置した。ピペットを用いて丁寧にウェルに吸着しなかったVHH抗体を取り除いた後、200μLの5%スキムミルク/PBST(0.05% Tween 20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にブロッキング剤を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。VHH抗体を固相化した各ウェルに対して100μLの0~1μg/mL SARS-CoV-2 S1 subunit-Fc(Fcタグ付きS1タンパク質、The Native Antigen Company)/PBSTを添加し、室温で50分間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にFcタグ付きS1タンパク質を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。一次抗体にはRabbit Anti-Sheep IgG Fc(Abcam)を用いた。PBSTにより一次抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの一次抗体を添加し、室温で50分間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に一次抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。二次抗体にはGoat Anti-Rabbit IgG H&L(HRP)(abcam)を用いた。PBSTにより二次抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの二次抗体を添加し、室温で50分間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に二次抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で30分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した。
【0067】
その結果、CoVHH1をプレートに固相化することにより、SARS-CoV-2のS1タンパク質を検出することが出来ることが明らかになった(図6)。
【0068】
実施例7 ELISAによるCoVHH1の結合特異性評価
Nunc-Immuno(商品商標) Plate II(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに100μLの0-10μg/mL コロナウイルスのHisタグ付きS1タンパク質/PBSを添加、シーリング後、4℃で一晩静置した。コロナウイルスのS1タンパク質としては、Human coronavirus HKU1(isolate N1)(HCoV-HKU1)Spike/S1 Protein(S1 Subunit、His Tag)、Human coronavirus(HCoV-NL63)Spike/S1 Protein(S1 Subunit、 His Tag)、Human coronavirus(HCoV-229E)Spike/S1 Protein(S1 Subunit、His Tag)、Human coronavirus(HCoV-OC43)Spike S1 Protein(His Tag)、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike Protein(S1 Subunit,His Tag)、MERS-CoV Spike/S1 Protein(S1 Subunit、aa 1-725、His Tag)(いずれもSino Biological)、SARS Coronavirus Spike Glycoprotein(S1)、His-Tag(HEK293)(The Native Antigen Company)を用いた。ピペットを用いて丁寧にウェルに吸着しなかったS1タンパク質分散液を取り除いた後、200μLの5%スキムミルク/PBST(0.05% Tween20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にスキムミルクを取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。S1タンパク質を固相化した各ウェルに対して100μLの20μg/mL FLAGタグ付きCoVHH1/PBSTを添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にVHH抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはモノクローナル抗FLAG(登録商標) M2抗体-ペルオキシダーゼ(HRP)標識 マウス宿主抗体(Merck)を用いた。PBSTにより検出抗体を1/5000に希釈した。各ウェルに100μLの検出抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に検出抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で30分間インキュベートし、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した。
【0069】
その結果、CoVHH1はSARS-CoV-2のS1タンパク質に対しては結合を示したが、その他のコロナウイルスのS1タンパク質に対する結合は認められなかった(図7)。
【0070】
実施例8 バイオレイヤー干渉法による結合活性測定
S1タンパク質に対するCoVHH1の結合活性をより高精度に測定するため、Octet RED 384システム(Fortebio)を用いて、HIS1Kセンサーチップに固相化したCoVHH1のS1タンパク質に対する結合活性を測定した。バッファーにはPBST(0.05% Tween20含有PBS)を用い、反応温度は25℃に設定した。50μLの各反応液は384-well black plate(Fortebio)の各ウェルに入れて測定した。測定条件は以下の通りである。1)Baseline
step:PBST中で30秒間の測定、2)Loading step:PBSTで希釈調製したHisタグ付きCoVHH1でBindingが0.3nmになるように測定、3)Baseline step:PBST中で30秒間の測定、4)Association step:PBSTで希釈し調製した0-245.8nM SARS―CoV―2 (2019-nCoV) Spike S1-Fc Recombinant Proteinで180秒間の測定、5)Dissociation step:PBST中で240秒間の測定。ForteBio Octet analysis software (Date Analysis HT Version 11.1.2.48)を用いて1:1のFittingを行い、結合活性を算出した(図8)。その結果、CoVHH1のS1タンパク質に対する平衡乖離定数(KD)は1.40x10-9M(ka=6.72x10(1/Ms)、kd=9.42x10-4(1/s))であった。
【0071】
実施例9 表面プラズモン共鳴(SPR)法共鳴法による結合活性の測定
Biacore(商標)T200(Cytiva)を用いてSeries S Sensor Chip NTA(Cytiva)に固相化したHisタグ付きCoVHH1のS1タンパク質に対する結合活性を測定した。Wizard、Kinetics/Affinityのモードで測定した。温度は25℃に設定した。ランニング緩衝液には10mM HEPES、150mM NaCl、50μM EDTA、0.005%(v/v)Tween20(pH 7.4)又は50mM MES、150mM NaCl、50μM EDTA、0.005%(v/v)Tween20(pH 6.5)を用いた。ラン毎の測定順は以下の通りである;1)VHHの固相化:流速を10μL/mLに設定し、0.5mM NiCl2水溶液を60秒間添加し、その後、ランニング緩衝液で希釈したHisタグ付きVHH溶液を60秒間添加することで200RU固定化した。2)結合活性の測定:流速を30μL/mLに設定し、ランニング緩衝液で希釈したSARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike S1-Fc Recombinant Protein(Fcタグ付きS1タンパク質、Sino Biological)をAssociation Time180秒間、Dissociation Time400秒間に設定して相互作用させた。3)センサーチップ表面の再生:流速を30μL/mLに設定し、350mM EDTA溶液(pH 8.0)を60秒間添加することで固相化されたHisタグ付きVHHを溶離した。Biacore(商標)T200 Evaluation(ソフトウェアバージョン2.0)(Cytiva)を用いて1:1 binding modelによる解析を行い、結合活性を算出した(図9図10)。その結果、Hisタグ付きCoVHH1のS1タンパク質に対する平衡乖離定数(KD)はpH7.4で3.77x10-9M(ka=8.87x10(1/Ms)、kd=3.35x10-4(1/s))、pH6.5で4.32x10-12M(ka=6.97x10(1/Ms)、kd=3.01x10-7(1/s))であった。
【0072】
実施例10 CoVHH1及びCoVHH1変異体の合成
CoVHH1(配列番号9)及びCoVHH1変異体(CoVHH1301(配列番号34)、CoVHH319(配列番号35)、CoVHH39(配列番号36)、CoVHH327(配列番号37)、CoVHH47(配列番号38)、CoVHH16(配列番号39)、CoVHH49(配列番号40)、CoVHH58(配列番号41)、CoVHH417(配列番号42)、CoVHH118(配列番号43)、CoVHH416(配列番号44)、CoVHH3342(配列番号45)、CoVHH201(配列番号46)、CoVHH20(配列番号47)、CoVHH112(配列番号48)、CoVHH2017(配列番号49)、CoVHH137(配列番号50)、CoVHH96(配列番号51))のC末端側にELISAのためGGGSHHHHHH(配列番号52)を付与したものを実施例2の方法に従い合成した。それぞれのVHHを合成するための人工合成遺伝子の配列は表3に示す通りである。これら人工合成遺伝子をもとに、実施例2の(2)以降の手順に従って、CoVHH1及びCoVHH1変異体を合成した。その結果、CoVHH118を除く全てのCoVHH1及びCoVHH1変異体が合成されたことが確認された。
【0073】
【表3】
【0074】
実施例11 サンドイッチELISAによるCoVHH1変異体の結合活性の評価
Pierce(商品商標) Nickel Coated Plates、Clear、96-Well(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに実施例10にて合成した100μLの5μg/mL Hisタグ付きCoVHH1または各CoVHH1変異体を添加し、4℃で一晩静置した。ピペットを用いて丁寧にウェルに吸着しなかったVHH抗体を取り除いた後、200μLの5%スキムミルク/PBST(0.05% Tween 20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にブロッキング剤を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。VHH抗体を固相化した各ウェルに対して100μLの0~0.1μg/mL SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike S1-Fc Recombinant Protein(Fcタグ付きS1タンパク質、Sino Biological)/PBSTを添加し、室温で50分間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にFcタグ付きS1タンパク質を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。検出抗体にはGoat Anti-Human IgG Fc(HRP)(アブカム)を用いた。PBSTにより一次抗体を1/5,000に希釈した。各ウェルに100μLの検出抗体を添加し、室温で50分間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に検出抗体を取り除いた後、200μLのPBSTを添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で20分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した。
【0075】
その結果、スクリーニングにより取得されたCoVHH1変異体のうち、CoVHH1301(配列番号34)、CoVHH319(配列番号35)、CoVHH39(配列番号36)、CoVHH327(配列番号37)、CoVHH47(配列番号38)、CoVHH16(配列番号39)、CoVHH49(配列番号40)、CoVHH58(配列番号41)、CoVHH417(配列番号42)、CoVHH416(配列番号44)、CoVHH3342(配列番号45)、CoVHH20(配列番号47)、CoVHH112(配列番号48)、CoVHH2017(配列番号49)、CoVHH137(配列番号50)について、CoVHH1と同様にSARS―CoV―2のS1タンパク質に対する結合活性があることが確認された(図11)。このことから、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングを経て取得されたCoVHH1変異体(CoVHH1のいずれかのCDR領域に1つのアミノ酸変異を持つVHH抗体)はSARS―CoV―2のS1タンパク質に対する結合活性があることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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