(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】サムターン装置
(51)【国際特許分類】
E05B 47/00 20060101AFI20220311BHJP
E05B 1/00 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
E05B47/00 J
E05B1/00 311H
(21)【出願番号】P 2018087731
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000130433
【氏名又は名称】株式会社ゴール
(73)【特許権者】
【識別番号】390000594
【氏名又は名称】株式会社レクザム
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】福岡 法允
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-030371(JP,U)
【文献】特開2013-209856(JP,A)
【文献】実開昭48-050751(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0001414(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014110857(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00-85/28
E05C 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サムターンと連結され、前記サムターンの回転軸を中心に回転する回転体と、
前記回転体に取り付けられる切替部材と、
前記回転体に対する前記切替部材の相対位置を、右勝手に対応する右勝手位置と左勝手に対応する左勝手位置との双方において位置決め可能とする係合機構と、
前記係合機構により前記回転体に位置決めされた前記切替部材を、前記右勝手位置及び前記左勝手位置に相互に切り替える切替機構とを有し、
前記切替機構が、
前記切替部材と接触して前記切替部材の回転を阻止可能であり、前記回転体の回転を許容する規制部を備え、
前記切替部材と前記規制部とが接触する規制位置において、前記切替部材の回転を阻止しつつ前記回転体の回転を許容することにより、前記回転体に対する前記切替部材の相対位置が切り替えられることを特徴とするサムターン装置。
【請求項2】
前記係合機構が、
前記回転体及び前記切替部材の一方に設けられる凹部と、
他方に設けられる凸部とを備え、
前記回転体及び前記切替部材が、前記凹部及び前記凸部が嵌合することにより、相対位置が位置決めされて一体的に回転可能とされるものであり、
前記凹部及び前記凸部の少なくとも一方には、前記右勝手位置に対応するもの及び前記左勝手位置に対応するものの双方が含まれるものであることを特徴とする請求項1に記載のサムターン装置。
【請求項3】
前記切替部材には前記凸部が設けられ、前記回転体には前記凹部が設けられるものであり、
前記凸部には、前記右勝手位置に対応する第一凸部と、前記左勝手位置に対応する第二凸部とが含まれていることを特徴とする請求項2に記載のサムターン装置。
【請求項4】
前記切替部材が、前記回転軸が延びる軸線方向に向けて突出して形成される被規制部を備え、
前記被規制部が前記規制部と接触する位置において、前記切替部材の回転が阻止されて前記回転体の回転が許容されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のサムターン装置。
【請求項5】
前記回転体が、前記回転軸を中心として少なくとも半周分(180度)の範囲の可動域を備えるものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のサムターン装置。
【請求項6】
前記回転体が、前記サムターンの回転に連動して回転するとともに、動力が伝達されて回転可能とされたものであり、
前記回転体及び前記切替部材の少なくとも一方の位置を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された情報に基づいて、前記回転体の回転制御を行う制御部とを有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のサムターン装置。
【請求項7】
前記検出装置が、前記回転体及び前記切替部材の双方の位置を検出可能であり、
前記制御部が、前記検出装置により検出された情報に基づいて、右勝手及び左勝手のうちのいずれであるかの判定を行うとともに、施錠状態及び解錠状態のいずれであるかの判定を行うものであることを特徴とする請求項6に記載のサムターン装置。
【請求項8】
前記回転体が、
外周面の少なくとも一部に歯部が形成された外歯車とされ、
径方向内側に前記切替部材が収容される収容部が形成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載のサムターン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サムターン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、扉に設けられる錠前や、錠前に取り付けられるサムターン装置が提供されている。錠前には、デッドボルトが進退可能に設けられており、室内側からはサムターン装置のサムターンの操作によりデッドボルトを出没させて施解錠可能とされ、室外側からはシリンダー装置の鍵の操作、あるいはカードやテンキーなどにより施解錠可能とされている。
【0003】
ここで、扉には、内開き又は外開きの右勝手の扉(以下、単に「右勝手」と記載する場合がある)と、内開き又は外開きの左勝手の扉(以下、単に「左勝手」と記載する場合がある)とがある。錠前については、デッドボルトを進退可能な方向に向くように扉に取り付けることで、扉が右勝手及び左勝手のいずれの場合にも対応可能である。
【0004】
その一方、サムターン装置は、サムターンの回転方向と錠前のハブを施錠及び解錠できる向き、及びサムターンの施解錠を示す向き(一般的にはサムターンが縦向きの場合は解錠、横向きの場合は施錠)、及びサムターン装置が電動式である場合にはモータ等の駆動部を駆動させて施解錠可能な向きの全てを一致させる必要がある。そのため、サムターン装置を右勝手及び左勝手の双方に対応可能とすることは簡単ではなく、従来では右勝手用のサムターン装置、及び左勝手用のサムターン装置のそれぞれが準備され、勝手によってサムターン装置が選択されることが一般的であった。
【0005】
このようなサムターンの向きなどを一致させつつ、右勝手及び左勝手の双方に対応可能であり、勝手を切り替えることができるサムターン装置が下記特許文献1に開示されている。特許文献1のサムターン装置は、錠前に取り付ける前の状態で工具を用いて左右勝手の切り替え操作を行い得るものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のサムターン装置では、左右勝手の切り替えを行うにあたり、工具などを用いて行う必要があり、切り替え作業が煩わしい。また、特許文献1のサムターン装置では、例えば左右勝手を誤って設定された上で錠前に取り付けられた場合など、錠前からサムターン装置を取り外して再び工具を用いて左右勝手の切り替えを行う必要がある。
【0008】
そこで本発明は、工具を要さず、かつ錠前や扉に取り付けられた状態で左右勝手の切り替えを行い得るサムターン装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決すべく提供される本発明のサムターン装置は、サムターンと連結され、前記サムターンの回転軸を中心に回転する回転体と、前記回転体に取り付けられる切替部材と、前記回転体に対する前記切替部材の相対位置を、右勝手に対応する右勝手位置と左勝手に対応する左勝手位置との双方において位置決め可能とする係合機構と、前記係合機構により前記回転体に位置決めされた前記切替部材を、前記右勝手位置及び前記左勝手位置に相互に切り替える切替機構とを有し、前記切替機構が、前記切替部材と接触して前記切替部材の回転を阻止可能であり、前記回転体の回転を許容する規制部を備え、前記切替部材と前記規制部とが接触する規制位置において、前記切替部材の回転を阻止しつつ前記回転体の回転を許容することにより、前記回転体に対する前記切替部材の相対位置が切り替えられることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のサムターン装置によれば、サムターンが回動操作された場合に、切替部材と規制部とが接触する規制位置において、切替部材の回転が規制されつつ回転体がさらに回転する。これにより、本発明のサムターン装置は、回転体に対する切替部材の位置を、右勝手位置から左勝手位置、あるいは左勝手位置から右勝手位置へと切り替えることができる。すなわち、本発明のサムターン装置は、サムターンの回動操作を行うだけで、ドライバーなどの工具を必要とせず、右勝手から左勝手、あるいは左勝手から右勝手へと切り替えることができる。そのため、本発明のサムターン装置によれば、例えばサムターン装置を錠前や扉などに取り付ける前に勝手を切り替える作業を必要とせず、サムターン装置が扉などに取り付けられた状態で勝手の切り替えを行うことができる。
【0011】
また、本発明のサムターン装置によれば、右勝手及び左勝手の双方に対応することができるため、右勝手用のサムターン装置及び左勝手用のサムターン装置の双方を準備する必要性を低下させることができる。
【0012】
本発明のサムターン装置は、前記係合機構が、前記回転体及び前記切替部材の一方に設けられる凹部と、他方に設けられる凸部とを備え、前記回転体及び前記切替部材が、前記凹部及び前記凸部が嵌合することにより、相対位置が位置決めされて一体的に回転可能とされるものであり、前記凹部及び前記凸部の少なくとも一方には、前記右勝手位置に対応するもの及び前記左勝手位置に対応するものの双方が含まれるものであることが望ましい。
【0013】
上述の構成によれば、機械的な構造により、回転体及び切替部材の相対位置を維持しつつ切り替えることができる。
【0014】
本発明のサムターン装置は、前記切替部材には前記凸部が設けられ、前記回転体には前記凹部が設けられるものであり、前記凸部には、前記右勝手位置に対応する第一凸部と、前記左勝手位置に対応する第二凸部とが含まれているものとすることができる。
【0015】
上述の構成によれば、機械的な構造により、回転体及び切替部材の相対位置を維持しつつ切り替えることができる。
【0016】
また、本発明のサムターン装置は、前記切替部材が、前記回転軸が延びる軸線方向に向けて突出して形成される被規制部を備え、前記被規制部が前記規制部と接触する位置において、前記切替部材の回転が阻止されて前記回転体の回転が許容されるものであることが望ましい。
【0017】
上述の構成によれば、機械的な構造により、回転体及び切替部材の相対位置を維持しつつ切り替えることができる。
【0018】
本発明のサムターン装置は、前記回転体が、前記回転軸を中心として少なくとも半周分の範囲の可動域を備えるものであることが望ましい。
【0019】
上述の構成によれば、回転体の可動域の中央を左右勝手共通の解錠位置として、回転体を正方向に四半周分(90度)回転させて左右勝手の一方の施錠位置とし、逆方向に四半周分(90度)回転させて他方の施錠位置とすることができる。すなわち、本発明のサムターン装置によれば、左右勝手に対応して、回転体の可動域全体を変位させることを要さず、機械的な他の機構や制御により、柔軟に左右勝手に応じて回転体を回転させることができる。
【0020】
本発明のサムターン装置は、前記回転体が、前記サムターンの回転に連動して回転するとともに、動力が伝達されて回転可能とされたものであり、前記回転体及び前記切替部材の少なくとも一方の位置を検出する検出装置と、前記検出装置により検出された情報に基づいて、前記回転体の回転制御を行う制御部とを有することが望ましい。
【0021】
上述の構成によれば、機械的な構造により回転体及び切替部材の相対位置を切り替えて左右勝手の切り替えを行うとともに、制御部の回転制御により回転体を回転させ、施解錠の制御を行うことができる。その結果、本発明のサムターン装置は、サムターンを手動で操作して施錠や解錠を行い得ることに加え、カードやテンキーに対応して施錠や解錠を可能とした電動式のサムターン装置として、好適に活用することができる。
【0022】
また、本発明のサムターン装置は、前記検出装置が、前記回転体及び前記切替部材の双方の位置を検出可能であり、前記制御部が、前記検出装置により検出された情報に基づいて、右勝手及び左勝手のうちのいずれであるかの判定を行うとともに、施錠状態及び解錠状態のいずれであるかの判定を行うものであることが望ましい。
【0023】
上述の構成によれば、機械的な構造により回転体及び切替部材の相対位置を切り替えて左右勝手の切り替えを行うとともに、制御システム上の左右勝手の判定や施解錠の判定を行い、左右勝手に応じた施解錠の制御を行うことができる。その結果、本発明のサムターン装置は、サムターンを手動で操作して施錠や解錠を行い得ることに加え、カードやテンキーに対応して施錠や解錠を可能とした電動式のサムターン装置として、好適に活用することができる。
【0024】
本発明のサムターン装置は、前記回転体が、外周面の少なくとも一部に歯部が形成された外歯車とされ、径方向内側に前記切替部材が収容される収容部が形成されているものとすることができる。
【0025】
上述の構成によれば、サムターンへの手動操作及び駆動部による駆動の双方により、回転体を回転させることができる。すなわち、本発明のサムターン装置によれば、動力により施解錠する場合と手動により施解錠する場合との双方において、回転体の回転動作により行うことができる。また、本発明のサムターン装置は、回転体の径方向内側に切替部材を収容させて、係合機構及び切替機構をコンパクトな構成とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、工具を要さず、かつ錠前や扉に取り付けられた状態で左右勝手の切り替えを行い得るサムターン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係るサムターン装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】右勝手及び左勝手を説明するための参考図である。
【
図4】
図1のサムターン装置のサムターン、サムギア、及び連結部材を示す側面図である。
【
図5】
図1のサムターン装置のサムギアを示している。(a)は正面側の斜視図、(b)は背面側の斜視図、(c)は背面図である。
【
図6】
図1のサムターン装置の切替部材を示している。(a)は背面側の斜視図、(b)は正面図、(c)は
図6(b)のA-A’線断面図である。
【
図7】
図1のサムターン装置のサムギア及び切替部材を示している。(a)は正面側の斜視図、(b)は背面側の斜視図である。
【
図8】
図1のサムターン装置の係合機構を示す図である。
【
図9】
図1のサムターン装置の切替機構を示す図である。
【
図10】
図1のサムターン装置の駆動機構を示す正面図である。
【
図11】
図1のサムターン装置の駆動機構を示す分解斜視図である。
【
図12】
図1のサムターン装置のクラッチ機構の動作を示す正面図である。
【
図13】
図1のサムターン装置の右勝手設定における施解錠動作を示す図である。
【
図14】
図1のサムターン装置の左勝手設定における施解錠動作を示す図である。
【
図15】
図1のサムターン装置の左勝手設定への切り替え動作を示す図である。
【
図16】
図1のサムターン装置の右勝手設定への切り替え動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係るサムターン装置10について図面を参照しつつ説明する。
図1は、サムターン装置10の外観を示す斜視図である。
【0029】
図1に示すとおり、サムターン装置10は、サムターン18を有している。サムターン装置10は、扉Dの室内側に取り付けられ、錠前1に連結される。錠前1は、本締りが可能な錠とされ、デッドボルト2が進退可能に設けられている。錠前1は、サムターン18への手動操作や、鍵(図示を省略)による手動操作、あるいはカードやテンキーにより後述する駆動機構60を作動させて施錠及び解錠を行うことができる。
【0030】
錠前1には、回動自在とされたハブ3が設けられている。錠前1は、ハブ3を回転させることにより、ハブ3と連結された作動アーム(図示を省略)等が作動して、デッドボルト2を突出させ、あるいは後退させて施解錠を行うことができる。ハブ3の室内側には、本実施形態のサムターン装置10の連結部材20が連結される。
【0031】
ここで、扉Dの左右勝手と、施解錠時のサムターン18の回転方向について説明する。本明細書では、扉Dが屋内側に開くことを「内開き」、屋外側に開くことを「外開き」と記載して説明する。また、
図2に示すとおり、屋内側から見て丁番(図示を省略)が右側に見える状態を「右勝手」、丁番が左側に見える状態を「左勝手」と記載して説明する。
【0032】
図2に示すとおり、解錠状態では、扉Dが右勝手であるか左勝手であるかを問わず、サムターン18は縦向きとされる。また、施錠状態では、扉Dが右勝手であるか左勝手であるかを問わず、サムターン18は横向きとされる。言い換えれば、サムターン18は、縦向きの場合には解錠状態を示し、横向きの場合には施錠状態を示すインジケータとしての機能を有している。
【0033】
一方、解錠状態から施錠状態へと操作を行う場合、扉Dが右勝手であるか左勝手であるかによって、サムターン18を横向きとする場合の回転方向が異なる。
【0034】
例えば、
図2(a)に示すとおり、扉Dが右勝手である場合において施錠状態から解錠状態へと操作を行う場合には、サムターン18を室内側から見て「時計回り」(正方向)に約90度回転させると、突出していたデッドボルト2が後退して、解錠状態とされる。また、
図2(a)に示すとおり、扉Dが右勝手である場合において解錠状態から施錠状態へと操作を行う場合には、サムターン18を室内側から見て「反時計回り」(逆方向)に約90度回転させると、デッドボルト2が突出して施錠状態とされる。なお、扉Dに設けられる錠前1の種類や構造等によっては、前述したのとは逆に、扉Dが右勝手である場合においてサムターン18を室内側から見て「反時計回り」(逆方向)に約90度回転させることで解錠状態となり、「時計回り」(正方向)に約90度回転させることで施錠状態となるものもある。以下の説明では、特に断りのない限り、右勝手の場合には前述の通り「時計回り」(正方向)に約90度回転させることで解錠状態となり、「反時計回り」(逆方向)に約90度回転させることで施錠状態となるものであることを前提として説明する。
【0035】
図2(b)に示すとおり、扉Dが左勝手である場合において施錠状態から解錠状態へと操作を行う場合には、サムターン18を室内側から見て「反時計回り」(逆方向)に約90度回転させると、突出していたデッドボルト2が後退して、解錠状態とされる。また、
図2(b)に示すとおり、扉Dが左勝手である場合において解錠状態から施錠状態へと操作を行う場合には、サムターン18を室内側から見て「時計回り」(正方向)に約90度回転させると、デッドボルト2が突出して施錠状態とされる。なお、扉Dに設けられる錠前1の種類や構造等によっては、前述したのとは逆に、扉Dが左勝手である場合においてサムターン18を室内側から見て「時計回り」(正方向)に約90度回転させることで解錠状態となり、「反時計回り」(逆方向)に約90度回転させることで施錠状態となるものもある。以下の説明では、特に断りのない限り、左勝手の場合には前述の通り「反時計回り」(逆方向)に約90度回転させることで解錠状態となり、「時計回り」(正方向)に約90度回転させることで施錠状態となるものであることを前提として説明する。
【0036】
サムターン装置10は、右勝手、及び左勝手に対応可能とされている。また、サムターン装置10は、右勝手及び左勝手に相互に切り替え可能とされている。以下、サムターン装置10の構成について説明する。
【0037】
図1及び
図3に示すとおり、サムターン装置10は、本体14、サムターン18、及びカバー12を有している。サムターン装置10は、本体14をカバー12により覆い、カバー12の外側にサムターン18を配置させた構成されている。また、本体14には、駆動源となる電池8を収容することができる。
【0038】
図3に示すとおり、本体14は、サムターン18、サムギア30(回転体)、切替部材40、ギア収容体54、連結部材20、駆動機構60、裏蓋16を有している。また、本体14は、係合機構50(
図7参照)、切替機構52(
図8参照)、制御部(図示を省略)、及び検知装置(図示を省略)を備えている。
【0039】
図3に示すとおり、本体14には、扉Dに取り付けられる背面側に裏蓋16が設けられている。サムターン装置10は、カバー12と裏蓋16により形成される内部空間内に、サムギア30、駆動機構60等の構成を収容させている。
【0040】
カバー12は、背面側が開口とされ、内部に収容空間が形成された箱体とされている。カバー12と裏蓋16とは、ねじ等の接続部材(図示を省略)により組み付けられる。なお、カバー12の内側には、ギア収容体54やモータケース61等を位置決めするため、図示を省略した位置決め用の突起等が形成されている。
【0041】
サムターン18は、手動による施錠及び解錠を行うための操作用のツマミである。上述のとおり、サムターン18は、カバー12の外側に配置される。また、サムターン18の内側には、図示を省略した軸取付部が形成され、軸取付部にはサムギア30の軸部32が嵌め込まれる。
【0042】
サムターン18は、サムギア30を介して後述するサムターン軸22と連結され、サムターン軸22の回転軸と一体的に回転する。言い換えれば、サムターン18、サムギア30、及びサムターン軸22は、相互に回転軸を一致させ、回転軸L1を中心に一体的に回転する。以下の説明では、サムターン18、サムギア30、及びサムターン軸22の回転軸を、単に「回転軸L1」と記載して説明する。また、回転軸L1が延びる方向を、単に「軸線方向X」と記載して説明する場合がある。また、軸線方向Xにおいて、裏蓋16側を「背面側」と、背面とは反対側を「正面側」と記載して説明する場合がある。
【0043】
図1に示すとおり、連結部材20は、錠前1のハブ3に連結される。
図3及び
図4に示すとおり、連結部材20は、サムターン軸22と、胴部24とを有している。
【0044】
サムターン軸22は、サムギア30の回転を錠前1のハブ3に伝達するためのものである。
図4に示すとおり、サムターン軸22は、正面側の端部である先端部22b及び背面側の端部である基端部22aの双方に、略十字状の断面形状を有している。サムターン軸22は、基端部22aがハブ3の係合穴(図示を省略)にはめ込まれ、サムターン軸22とハブ3は一体的に回転する。これにより、サムターン装置10は、サムターン軸22の回転によりハブ3を回転させて、錠前1のデッドボルト2を進退させることができる。また、先端部22bは、サムギア30の軸部32に挿通されて取り付けられる。サムターン軸22とサムギア30の軸部32とは、サムターン軸22の十字状の形状に軸部32の係止部32bが係止して、回転方向に位置決めされて一体的に回転する。
【0045】
胴部24は、サムターン軸22を回転可能に支持するためのものである。胴部24は、図示を省略したねじ等の部材を介して裏蓋16に取り付けられる。サムターン軸22は、胴部24に取り付けられた状態において、軸線方向Xに位置決めされ、回転可能に支持される。
【0046】
サムギア30(回転体)は、サムターン18への手動による回転操作や駆動機構60による作動により、回転軸L1を中心に回転する。言い換えれば、サムギア30は、サムターン装置10において手動及び電動により回転され、手動及び電動による回転をサムターン軸22に伝達させて施解錠動作を行うために設けられている。サムギア30は、サムターン18と連結され、サムターン18の回転軸L1を中心に回転する。
【0047】
図5に示すとおり、サムギア30は、軸状に形成された軸部32と、軸部32の中途部から径方向外側に拡径するように形成されたギア部34とを有している。サムギア30は、軸部32及びギア部34が一体的に形成され、
図5に示すような外観を有している。
【0048】
図5に示すとおり、軸部32は、略円柱状の外観とされている。
図5(b)に示すとおり、軸部32は、内部が中空とされ、内周面には軸線方向Xに延びる二本の係止部32bが形成されている。また、
図5(a)に示すとおり、軸部32の正面側の端部には、略十字状のサムターン連結部32aが形成されている。
【0049】
図4に示すとおり、軸部32には、背面側からサムターン軸22が挿通される。また、軸部32は、正面側のサムターン連結部32aがサムターン18の内側に挿通され、サムターン18の軸取付部(図示を省略)に嵌め込まれる。これにより、サムターン18、サムギア30、及びサムターン軸22は、サムターン軸22の回転軸L1と一致する回転軸線を形成して一体的に回転する。言い換えれば、サムギア30の軸部32は、サムターン18とサムターン軸22とを連結して一体的に回転させる連結部材として機能する。また、サムターン18、サムギア30の軸部32、及びサムターン軸22は、サムターン18への手動による回転を伝達する手動機構として機能する。
【0050】
図5に示すとおり、ギア部34は、軸部32の径方向外側に向けて拡径するようなフランジ状の形状とされている。ギア部34の外周面34aには、歯部35が形成されている。歯部35は、ギア部34の周方向の全域のうち半周以上(180度以上)に亘り形成されている。ギア部34は、後述する駆動機構60から動力が伝達され、回転軸L1を回転軸として回転する。言い換えれば、サムギア30は、駆動機構60により駆動される電動機構としても機能する。
【0051】
図5(b)及び(c)に示すとおり、ギア部34の背面側には、ギア部34の内周面34bに取り囲まれた収容部36が形成されている。
図7(b)に示すとおり、収容部36には、後述する切替部材40が収容される。
【0052】
図5(c)に示すとおり、ギア部34の周部のうち外側に歯部35が形成されていない領域は、径方向内側に縮小するように形成された縮径部34cとされている。縮径部34cの内周面34bには、後で詳述する係合機構50を構成する凹部38が設けられている。凹部38は、ギア部34の内周面34bの一部を起伏させるように形成されている。より具体的には、凹部38は、ギア部34の内側の壁面を径方向内側から外側に向けて窪ませるように形成されている。また、ギア部34の内周面34bのうち凹部38と隣接する部分は、凹部38と連続するように起伏する形状とされている。
【0053】
図5(b)及び(c)に示すとおり、ギア部34には、第一被検知部80が設けられている。第一被検知部80は、凹部38が設けられた位置に対して径方向外側に隣接するように設けられている。第一被検知部80は、非接触型の磁気センサーとされた検知装置(図示を省略)により検知可能とされている。本実施形態では、第一被検知部80は、磁石として設けられている。
【0054】
図5(c)に示すとおり、サムターン18が縦向きである場合(解錠状態)には、サムギア30は、サムターン装置10を正面視した状態において、第一被検知部80が下方の基準位置P1に配置される(
図13等参照)。また、サムギア30は、基準位置P1から正方向に約90度(+90度)回転可能とされ、基準位置P1から逆方向に約90度(-90度)回転可能とされている。すなわち、サムギア30は、回転軸L1を中心として少なくとも半周分(180度)の範囲の可動域Rを備えている。
【0055】
切替部材40は、サムターン装置10の左右勝手の設定を切り替えるために設けられている。
図6に示すとおり、切替部材40は、軸線方向Xに異なる厚みを有する部材である。
図7等に示すように、切替部材40は、サムギア30に取り付けられる。
【0056】
図6(c)に示すとおり、切替部材40は、軸線方向Xに所定の厚みを備える第一構成部40aと、第一構成部40aから軸線方向Xの背面側に突出するように形成された第二構成部40bとを有し、第一構成部40a及び第二構成部40bとが一体的に形成されている。また、切替部材40は、背面側から視認した場合に、
図6(a)に示す外観を形成している。
【0057】
切替部材40は、略中央に孔部41が設けられている。
図7に示すとおり、切替部材40は、サムギア30の軸部32に孔部41が挿通され、サムギア30の収容部36に収容される。
図7に示すとおり、切替部材40が収容部36に収容された状態では、切替部材40の第一構成部40aが正面側に配置され、第二構成部40bが背面側に配置される。また、切替部材40は、回転軸L1を回転中心としてサムギア30と一体的に回転し、左右勝手の設定切替時には、後述する規制部56により回転が規制されて回転軸L1を中心としてサムギア30に対して相対的に変位する。
【0058】
図6(a)に示すとおり、切替部材40には、凸部42、突出部45、被規制部48、及び第二被検知部82が設けられている。凸部42及び突出部45は、第一構成部40aに形成されている。また、被規制部48は、第二構成部40bに形成されている。言い換えれば、切替部材40は、正面側に配置される凸部42及び突出部45と、背面側に配置される被規制部48との、軸線方向Xの異なる位置に配置される構成を有している。
【0059】
凸部42は、凹部38とともに後述する係合機構50を構成する。切替部材40には、二つの凸部42として、第一凸部43と、第二凸部44とが形成されている。第一凸部43と第二凸部44とは、切替部材40の回転中心に対して、略90度の角度をなすように配置されている。切替部材40は、第一凸部43及び第二凸部44のうちのいずれかが凹部38と嵌合することにより、サムギア30に対して周方向に位置決めされる。これにより、切替部材40は、サムギア30と一体的に回転する。
【0060】
図6(b)に示すとおり、突出部45は、凸部42よりも径方向に大きく突出するように形成された部分である。切替部材40には、二つの突出部45として、第一突出部46及び第二突出部47とが形成されている。
【0061】
被規制部48は、後述する規制部56とともに、切替機構52を構成している。
図6(a)及び(c)に示すとおり、被規制部48は、切替部材40において、第一構成部40aに対して軸線方向Xに突出するように形成されている。被規制部48は、正面視において、回転軸L1を中心として、周方向において略90度の角度をなす扇状の形状とされている。被規制部48は、後述する規制部56と接触する位置に配置される。
【0062】
切替部材40には、第二被検知部82が設けられている。第二被検知部82は、被規制部48の略中央に設けられている。第二被検知部82は、非接触型の磁気センサーとされた検知装置(図示を省略)により検知可能とされている。本実施形態では、第二被検知部82は、磁石として設けられている。
【0063】
図7に示すとおり、ギア収容体54には、サムギア30及び切替部材40が収容される。ギア収容体54は裏蓋16側に配置され、カバー12に設けられた位置決め部(図示を省略)に取付孔57bが挿通されて位置決めされる。
【0064】
図7(a)に示すとおり、ギア収容体54には、貫通孔57a及び規制部56が設けられている。貫通孔57aは、サムギア30の軸部32を挿通させるために設けられている。
【0065】
規制部56は、被規制部48とともに切替機構52を構成している。規制部56は、被規制部48と接触して切替部材40の回転範囲を約90度に制限しつつサムギア30の回転を許容して、サムギア30と切替部材40とがなす角度を切り替えるために設けられている。
図9に示すとおり、本実施形態の規制部56は、回転軸L1を中心として略180度の角度をなすU字状の突起部として設けられている。規制部56は、切替部材40が正方向(
図8では時計回り)に回転した場合に被規制部48と接触する第一規制部56aと、切替部材40が逆方向(
図8では反時計回り)に回転した場合に被規制部48と接触する第二規制部56bとを有している。
【0066】
続いて、係合機構50について、
図8を参照しつつ説明する。なお、
図8は、正面側から視認した状態を示している。上述のとおり、係合機構50は、凹部38及び凸部42により構成されている。
図8等に示すとおり、本実施形態のサムターン装置10では、凹部38がサムギア30に設けられ、凸部42が切替部材40に設けられている。サムギア30及び切替部材40は、凹部38及び凸部42が嵌合することにより、相対位置が位置決めされて一体的に回転可能とされている。凸部42には、右勝手位置Prに対応する第一凸部43と、左勝手位置Plに対応する第二凸部44とが含まれている。
【0067】
係合機構50は、サムギア30に対する切替部材40の相対位置を、右勝手に対応する右勝手位置Pr、及び左勝手に対応する左勝手位置Plの双方において位置決め可能としている。具体的には、
図8(a)に示すとおり、凹部38に第一凸部43が嵌め込まれている状態では、サムギア30及び切替部材40の相対位置は、サムギア30の可動域Rのうち、基準位置P1からサムギア30が逆方向(
図8では反時計回り)に約90度回転可能となる右勝手位置Prとされる。
【0068】
また、
図8(b)に示すとおり、凹部38に第二凸部44が嵌め込まれている状態では、サムギア30及び切替部材40の相対位置は、サムギア30の可動域Rのうち、基準位置P1からサムギア30が正方向(
図8では時計回り)に約90度回転可能となる左勝手位置Plとされる。
【0069】
次いで、切替機構52について、
図9を参照しつつ説明する。切替機構52は、係合機構50によりサムギア30に位置決めされた切替部材40を、右勝手位置Pr及び前記左勝手位置Plに相互に切り替えるために設けられている。規制部56は、第一規制部56aと第二規制部56bとを備えている。
【0070】
図9に示すとおり、切替機構52は、規制部56及び被規制部48により構成されている。なお、
図9は、正面側から視認した場合を示している。規制部56はギア収容体54(
図9では図示を省略)に設けられており、被規制部48は切替部材40に設けられている。規制部56が設けられた規制位置では、被規制部48と規制部56とが接触して、切替部材40の回転が阻止されつつ、サムギア30の回転が許容される。
【0071】
より具体的には、切替部材40及びサムギア30が右勝手位置Prとなるよう係止された状態(
図9(a)参照)で被規制部48が第一規制部56aと接触する規制位置に到達すると、切替部材40は正方向への回転が阻止され、サムギア30はさらに正方向に回転する。サムギア30が規制位置からさらに正方向に90度回転すると、サムギア30は、凹部38と第二凸部44とが係合する位置まで回転して、サムギア30と切替部材40とが、左勝手位置Plとなる(
図9(b)参照)。
【0072】
また、図示は省略するが、切替部材40及びサムギア30が左勝手位置Plとなるよう係止された状態で被規制部48が第二規制部56bと接触する規制位置に到達すると、切替部材40は逆方向への回転が阻止され、サムギア30がさらに逆方向に回転する。サムギア30が規制位置からさらに逆方向に90度回転すると、サムギア30は、凹部38と第一凸部43とが係合する位置まで回転して、サムギア30と切替部材40とが、右勝手位置Prとなる。
【0073】
このように、切替機構52は、切替部材40と規制部56とが接触する規制位置において、切替部材40の回転を阻止しつつサムギア30の回転を許容することにより、サムギア30に対する切替部材40の相対位置を切り替えることができる。また、
図7及び8等に示すとおり、係合機構50の凹部38と凸部42とが接触する面は周方向に対して湾曲した当接面とされ、切替機構52の規制部56と被規制部48とが接触する面は変周方向と交差するような平坦面とされている。そのため、規制位置において、さほど大きな外力を要さずにサムターン18を回転させて、切替部材40の回動を阻止しつつサムギア30の回動を許容する。これにより、サムターン装置10は、サムターン18を正方向又は逆方向に回転させる操作を行うだけで、機械的な左右勝手を切り替えることができる。
【0074】
検知装置(図示を省略)は、サムギア30及び切替部材40の位置を検知するために設けられている。検知装置は、サムギア30に取り付けられる第一被検知部80と、切替部材40に取り付けられる第二被検知部82との位置を検出可能とされている。なお、本実施形態の検知装置は、磁力を検知対象とする非接触型センサーとされている。
【0075】
制御部(図示を省略)は、検知装置により検知されたサムギア30及び切替部材40の位置を判定して、左右勝手の状態を判定するために設けられている。また、サムターン装置10は、検知装置により検知されたサムギア30の位置に基づいて、施錠状態であるか解錠状態であるかを判定する。
【0076】
続いて、サムターン装置10の電動による作動のために設けられた駆動機構60について説明する。駆動機構60は、電池8を動力源として電動によりサムギア30を回転させるために設けられている。
図1及び
図10に示すとおり、駆動機構60を構成するモータ62やギア等は、モータケース61に収容されている。
【0077】
図10に示すとおり、駆動機構60は、モータ62(駆動部)、及び動力伝達機構64を有している。モータ62(駆動部)は、正方向及び逆方向の双方に回転可能なモータであり、モータ軸62aを有している。
【0078】
動力伝達機構64は、モータ62の回転動力をサムギア30に伝達するために設けられている。
図11に示すとおり、動力伝達機構64は、ウォームギア66、ホイールギア67、トルクリミットギア69、センターギア70、クラッチ機構72を有している。
【0079】
ウォームギア66は、モータ62のモータ軸62aに取り付けられている。ウォームギア66は、ホイールギア67と噛み合い、ホイールギア67に伝達された回転動力は、ホイールギア67と一体的に形成されたサブギア68を介してトルクリミットギア69に伝達される。トルクリミットギア69とセンターギア70とは、同軸とされた駆動回転軸L2を中心として回転する。センターギア70は、クラッチ機構72を構成するクラッチギア75,76と噛み合う。さらに、クラッチギア75,76は、後で詳述するとおり、揺動板74が揺動してサムギア30のギア部34と噛み合う位置となり、クラッチギア75,76からサムギア30に回転動力が伝達される。
【0080】
このように、モータ62の動力は、ウォームギア66、ホイールギア67、サブギア68、トルクリミットギア69、センターギア70、クラッチギア75,76の歯車列を介して、サムギア30に伝達される。
【0081】
ここで、サムギア30と駆動機構60との動力伝達を接続及び遮断するためのクラッチ機構72について説明する。クラッチ機構72は、サムターン装置10の手動と電動との切り換えをスム-ズに行うために設けられている。
図11及び
図12に示すとおり、クラッチ機構72は、揺動板74、一対のクラッチギア75,76、及び復帰用ピン77を備えている。
【0082】
図12(a)に示すとおり、センターギア70の回転が停止している状態では、揺動板74は傾斜しておらず、センターギア70とクラッチギア75,76とは離間した状態で維持される。すなわち、モータ62から動力が伝達されていない状態では、駆動機構60からサムギア30への動力伝達が遮断された状態となる。そのため、サムターン装置10は、サムターン18が手動で操作される場合には、手動操作によるサムギア30の回転によりモータ62に負荷がかかることを抑制することができる。
【0083】
図12(b)に示すとおり、センターギア70が回転すると、センターギア70の回転方向に沿って揺動板74が揺動して傾く。また、揺動板74に取り付けられたクラッチギア75及びクラッチギア76のうちのいずれかがサムギア30の歯部35と噛み合う位置に変位する。クラッチギア75,76のいずれかがサムギア30の歯部35と噛み合う位置まで変位した状態では、センターギア70の回転動力がクラッチギア75,76を介してサムギア30に伝達される。
【0084】
また、
図12(c)に示すとおり、
図12(a)の状態からサムギア30の回転角度が90度に到達すると、復帰用ピン77がサムギア30と一体的に回転する切替部材40の第一突出部46と接触する。復帰用ピン77は、第一突出部46により揺動板74の傾斜を解除させる方向に押され、クラッチギア75,76は再びサムギア30の歯部35から離間する位置へと変位する。
【0085】
なお、
図12に示す方向とは逆向きにセンターギア70が回転するようにモータ62が作動する場合には、
図12に示す方向と逆向きの方向のクラッチギア75,76がサムギア30の歯部35と噛み合う。
【0086】
このように、サムターン装置10は、手動でサムターン18を回転して施解錠を行う場合には、モータ62への負荷を低減させつつ、電動で施解錠を行う場合に、正回転及び逆回転のいずれの場合にも適切に動力を伝達することができる。このように、サムギア30が約90度回転して、解錠状態から施錠状態、又は施錠状態から解錠状態へと状態が変化する度に、サムギア30と駆動機構60との動力伝達が遮断される。これにより、サムターン装置10は、手動と電動との切り替えをスムーズに行うことができる。
【0087】
続いて、サムターン装置10の施解錠時の動作、及び左右勝手の切り替え時の動作について、
図13~
図16を参照しつつ説明する。本実施形態では、先ずサムターン装置10の施解錠時の動作について説明し、次いでサムターン装置10の左右勝手の切り替えを行う動作について説明する。
【0088】
なお、
図13~16では、サムターン軸22、錠前1、ハブ3は図示を省略している。また、
図13~16に示す図は、正面側から視認した状態を示している。
【0089】
なお、以下の説明において、サムターン装置10が右勝手用として設定されている状態を単に「右勝手設定」と記載する場合がある。また、サムターン装置10が左勝手用として設定されている状態を単に「左勝手設定」と記載する場合がある。
【0090】
図13(a)及び
図14(a)に示すとおり、サムターン装置10は、右勝手設定、及び左勝手設定の双方において、サムターン18が縦向きとなる場合に解錠状態となるように設定されている。また、
図13(b)及び
図14(b)に示すとおり、サムターン装置10は、右勝手設定、及び左勝手設定の双方において、サムターン18が横向きとなる場合に施錠状態となるように設定されている。言い換えれば、サムターン18は、縦向きの場合には解錠状態を示し、横向きの場合には施錠状態を示すインジケータとしての機能を有している。
【0091】
サムギア30は、右勝手設定であるか左設定であるかに関わらず、サムターン18が縦向きである場合には第一被検知部80が基準位置P1に配置される状態(サムギア30の回転角度±0度)となる。
【0092】
<右勝手の場合の施解錠動作>
図13を参照しつつ、右勝手設定における施解錠動作について説明する。
図13(a)に示すとおり、サムターン装置10は、右勝手位置Prに対応する第一凸部43が凹部38に嵌め込まれた状態において、右勝手設定とされる。また、制御部は、検知装置により検知された第一被検知部80及び第二被検知部82の相対位置が、回転軸L1に対して角度θ1(本実施形態では約135度)である場合には、右勝手設定であると判定する。
【0093】
図13(b)に示すとおり、右勝手設定のサムターン装置10では、サムギア30が逆方向(
図13では反時計回り)に90度(-90度)回転すると、施錠状態とされる。
【0094】
例えば、手動により、右勝手設定のサムターン装置10を解錠状態から施錠状態にする場合には、サムターン18を逆方向に90度(-90度)回転させる操作が行われることにより、サムギア30が逆方向に90度(-90度)回転する。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の施錠動作が行われる。
【0095】
また、電動により、右勝手設定のサムターン装置10を解錠状態から施錠状態にする場合には、制御部が第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいて、モータ62を駆動させる制御が行われる。具体的には、右勝手設定において解錠状態から施錠状態にする場合には、制御部は、検知装置により検知された第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいてモータ62を作動させ、サムギア30を逆方向に90度(-90度)回転させる。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の施錠動作が行われる。
【0096】
制御部は、右勝手設定である場合において、サムギア30の回転角度が逆方向に90度(-90度)に到達した場合には、施錠状態であると判定する。具体的には、
図13(b)に示すとおり、制御部は、第一被検知部80が基準位置P1から逆方向に90度の位置にある右勝手施錠位置P2において検知されると、施錠状態であると判定する。
【0097】
図13(c)に示すとおり、右勝手設定のサムターン装置10では、サムギア30が正方向(
図13では時計回り)に約90度(+90度)回転されると、サムターン軸22を介してハブ3に回転が伝達されて解錠状態とされる。
【0098】
例えば、手動により、右勝手設定のサムターン装置10を施錠状態から解錠状態にする場合には、サムターン18を正方向に約90度回転させる操作が行われることにより、サムギア30が正方向に約90度(+90度)回転する。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の解錠動作が行われる。
【0099】
また、電動により、右勝手設定のサムターン装置10を施錠状態から解錠状態にする場合には、制御部が第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいて、モータ62を駆動させる制御が行われる。具体的には、右勝手設定において施錠状態から解錠状態にする場合には、制御部は、検知装置により検知された第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいてモータ62を作動させ、サムギア30を正方向に約90度(+90度)回転させる。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の解錠動作が行われる。
【0100】
<左勝手の場合の施解錠動作>
次いで、
図14を参照しつつ、左勝手設定における施解錠動作について説明する。
図14(a)に示すとおり、サムターン装置10は、左勝手位置Plに対応する第二凸部44が凹部38に嵌め込まれた状態において、左勝手設定とされる。また、制御部は、検知装置により検知された第一被検知部80及び第二被検知部82の相対位置が、回転軸L1に対して角度θ2(本実施形態では約225度)である場合には、左勝手設定であると判定する。
【0101】
図14(b)に示すとおり、左勝手設定のサムターン装置10では、サムギア30が正方向(
図14では時計回り)に約90度(+90度)回転すると、施錠状態とされる。
【0102】
例えば、手動により、左勝手設定のサムターン装置10を解錠状態から施錠状態にする場合には、サムターン18を正方向に約90度(+90度)回転させる操作が行われることにより、サムギア30が正方向に約90度(+90度)回転する。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の施錠動作が行われる。
【0103】
また、電動により、左勝手設定のサムターン装置10を解錠状態から施錠状態にする場合には、制御部が第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいて、モータ62を駆動させる制御が行われる。具体的には、左勝手設定において解錠状態から施錠状態にする場合には、制御部は、検知装置により検知された第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいてモータ62を作動させ、サムギア30を正方向に約90度(+90度)回転させる。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の施錠動作が行われる。
【0104】
制御部は、左勝手設定である場合において、サムギア30の回転角度が正方向に90度(+90度)である場合には、施錠状態であると判定する。具体的には、
図14(b)に示すとおり、制御部は、第一被検知部80が基準位置P1から正方向に90度の位置にある左勝手施錠位置P3において検知されると、施錠状態であると判定する。
【0105】
図14(c)に示すとおり、左勝手設定のサムターン装置10では、サムギア30が逆方向(
図14では反時計回り)に約90度(-90度)回転すると、サムターン軸22を介してハブ3に回転が伝達されて解錠状態とされる。
【0106】
例えば、手動により、左勝手設定のサムターン装置10を施錠状態から解錠状態にする場合には、サムターン18を逆方向に約90度回転させる操作が行われることにより、サムギア30が逆方向に約90度(-90度)回転する。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の解錠動作が行われる。
【0107】
また、電動により、左勝手設定のサムターン装置10を施錠状態から解錠状態にする場合には、制御部が第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいて、モータ62を駆動させる制御が行われる。具体的には、左勝手設定において施錠状態から解錠状態にする場合には、制御部は、検知装置により検知された第一被検知部80及び第二被検知部82の位置情報に基づいてモータ62を作動させ、サムギア30を逆方向に約90度(-90度)回転させる。サムギア30の回転は、サムターン軸22を介してハブ3に伝達され、錠前1の解錠動作が行われる。
【0108】
なお、
図14(b)及び(c)に示すとおり、右勝手設定であるか左勝手設定であるかに関わらず、施解錠動作において、切替部材40は、第一凸部43が凹部38に嵌め込まれた状態でサムギア30と一体的に回転する。言い換えれば、サムギア30及び切替部材40は、施解錠動作において、相対位置を維持した状態で一体的に回転する。
【0109】
また、上述のとおり、右勝手設定及び左勝手設定のいずれの場合においても、解錠状態では、クラッチ機構72により、駆動機構60とサムギア30との動力伝達が遮断された状態となる。そのため、サムギア30が手動により回転する場合に、サムギア30の回転がモータ62に伝達されず、モータ62に負荷がかかることを抑制することができる。
【0110】
<左右勝手の切り替え動作について>
続いて、
図15及び
図16に基づいて、サムターン装置10の左右勝手の切り替え動作について説明する。
図15は、右勝手設定のサムターン装置10を左勝手設定に切り替える場合の一連の動作を示している。
【0111】
図15(a)に示すとおり、サムターン装置10が右勝手設定であり、かつ解錠状態では、第一凸部43が凹部38に嵌め込まれた状態とされ、被規制部48が規制部56の第一規制部56aと隣接するように配置されている。
【0112】
図15(b)に示すとおり、サムターン18が正方向に回転されると、切替部材40は、被規制部48が規制部56と接触して正方向への回転が阻止される。その一方、サムギア30はサムターン18の回転に連動して正方向に回転が許容される。より具体的には、右勝手設定かつ解錠状態において、サムターン18を正方向に回転させると、サムギア30は凹部38と第一凸部43との嵌合が外れて回転する。この際、切替部材40の第一凸部43は、凹部38と連続するように形成された起伏形状を乗り越えて、凹部38との嵌合が解除される。これにより、サムギア30は切替部材40に対する相対位置が変化可能となる。
【0113】
図15(c)に示すとおり、サムターン18及びサムギア30の回転角度が90度に到達すると、凹部38には第二凸部44が嵌め込まれた状態となる。凹部38に第二凸部44が嵌め込まれると、サムギア30と切替部材40とは、再び一体的に回転可能となる。また、この状態では、サムターン18は、施錠状態を示す横向きの姿勢となる。これにより、サムターン装置10は、機械的な構造として「右勝手設定」から「左勝手設定」への切り替えを行うことができる。
【0114】
さらに、第一被検知部80と第二被検知部82とは、角度θ2(本実施形態では225度)の角度をなすように配置される。サムターン装置10の制御部は、第一被検知部80と第二被検知部82とが角度θ2をなす場合には、「左勝手設定」であると判定する。
【0115】
図15(c)に示す状態で、制御部に「施錠状態」であることを設定する操作を行い「施錠状態」であると認識させる。制御部は、第一被検知部80と第二被検知部82との相対位置に基づいて、「左勝手設定」であると判定する。また、制御部は、施錠状態とする場合にサムギア30を正方向に回転させ、解錠状態とする場合にサムギア30を逆方向に回転させるようにモータ62を作動させる制御が切り替えられる。これにより、制御システム上の左右勝手の切り替えが行われる。
【0116】
また、上述のサムターン18を逆方向に回転させる動作とは逆向きの動作を行うことにより、サムターン装置10は左勝手設定から右勝手設定への切り替えを行うことができる。
【0117】
具体的には、
図16に示すとおり、サムターン装置10が左勝手設定であり、かつ解錠状態では、第二凸部44が凹部38に嵌め込まれた状態とされている。また、この状態では、被規制部48が規制部56の第二規制部56bと隣接するように配置されている。
【0118】
図16(b)に示すとおり、サムターン18及びサムギア30が逆方向に回転されると、切替部材40は、被規制部48が規制部56と接触して逆方向への回転が阻止される。その一方、サムギア30はサムターン18の回転に連動して逆方向に回転が許容される。より具体的には、左勝手設定かつ解錠状態において、サムターン18を逆方向に回転させると、サムギア30は凹部38と第二凸部44との嵌合が外れて回転する。この際、切替部材40の第二凸部44は、凹部38と連続するように形成された起伏形状を乗り越えて、凹部38との嵌合が解除される。これにより、サムギア30と切替部材40との相対位置が変化可能となる。
【0119】
図16(c)に示すとおり、サムターン18及びサムギア30の回転角度が90度に到達すると、凹部38には第一凸部43が嵌め込まれた状態となる。凹部38に第一凸部43が嵌め込まれると、サムギア30と切替部材40とは、再び一体的に回転可能となる。また、この状態では、サムターン18は、施錠状態を示す横向きの姿勢となる。これにより、サムターン装置10は、機械的な構造として「左勝手設定」から「右勝手設定」への切り替えを行うことができる。
【0120】
図16(c)に示す状態で、制御部に「施錠状態」であることを設定する操作を行い「施錠状態」であると認識させる。制御部は、第一被検知部80と第二被検知部82との相対位置に基づいて、「右勝手設定」であると判定する。また、制御部は、施錠状態とする場合にサムギア30を逆方向に回転させ、解錠状態とする場合にサムギア30を正方向に回転させるようにモータ62を作動させる制御が切り替えられる。これにより、制御システム上の左右勝手の切り替えが行われる。
【0121】
このように、サムターン装置10は、工具などを用いることなく、サムターン18を回転させる動作により機械的な左右勝手の切り替えを行うことができる。そのため、サムターン装置10は、錠前1にサムターン装置10を取り付ける前に左右勝手の切り替えを行うことを要さず、錠前1に取り付けられた後であっても左右勝手の切り替えを行うことができる。例えば、サムターン装置10は、左右勝手の機械的な設定を誤って錠前1に取り付けられた場合に、サムターン装置10を錠前1から取り外すことなく、正しい勝手へと切り替えを行うことができる。
【0122】
また、サムターン装置10は、サムターン装置10を機械的な施錠状態とした後に、制御部に「施錠状態」であることを認識させる操作を行うことで、制御システム上の勝手設定の切り替えを行うことができる。そのため、サムターン装置10の機械的な勝手設定を行った後に、「施錠状態」及び「解錠状態」のそれぞれを認識させることを要さず、制御システム上の勝手設定について設定作業の手間を少なくすることができる。
【0123】
以上、本発明の実施形態に係るサムターン装置10について説明したが、本発明のサムターン装置は、上述の実施形態に限定されない。
【0124】
例えば、上述の実施形態に係るサムターン装置10の係合機構50は、サムギア30に凹部38を設け、切替部材40に凸部42を設けた例を示したが、本発明のサムターン装置はこれに限定されない。具体的には、本発明のサムターン装置は、サムギア(回転体)に凸部を設け、切替部材に凹部を設けたものとしてもよい。また、上述の実施形態に係るサムターン装置10の係合機構50は、二つの凸部42と一つの凹部38により構成される例を示したが、本発明のサムターン装置は、二つの凹部と一つの凸部により構成されるものとしてもよい。
【0125】
また、上述の実施形態に係るサムターン装置10では、規制部56をギア収容体54に設けた例を示したが、本発明のサムターン装置はこれに限定されない。例えば、本発明のサムターン装置の規制部は、サムターン装置において切替部材と接触可能な位置であり、かつ、サムターン装置全体において相対位置が変化しない部材や位置に設けられるものであれば、いかなる部材に設けられるものであってもよい。例えば、本発明のサムターン装置10の規制部は、裏蓋に設けられるものであってもよいし、カバーに設けられるものであってもよい。
【0126】
さらに、上述の実施形態に係るサムターン装置10では、非接触型センサーとされた検知装置により第一被検知部80及び第二被検知部82の位置を検知することにより、サムギア30及び切替部材40の位置を判定し、右勝手設定であるか左設定であるか、また施解錠の状態を判定するものとした例を示したが、本発明のサムターン装置はこれに限定されない。例えば、本発明のサムターン装置の検知装置は、サムギアや切替部材の変位量を検知して、左右勝手の判定や施解錠の判定を行うものであってもよい。
【0127】
また、上述の実施形態に係るサムターン装置10では、錠前1に取り付けられるものとした例を示したが、本発明のサムターン装置はこれに限定されない。例えば、本発明のサムターン装置は、さらにデッドボルトやハブを備えるものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、左右勝手に対応するサムターン装置として、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0129】
10 サムターン装置
18 サムターン
30 サムギア(回転体)
38 凹部
40 切替部材
42 凸部
43 第一凸部(凸部)
44 第二凸部(凸部)
48 被規制部
50 係合機構
52 切替機構
56 規制部
56a 第一規制部(規制部)
56b 第二規制部(規制部)
L1 回転軸
Pl 左勝手位置
Pr 右勝手位置
R 可動域