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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】電解質組成物、電解質膜及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20220311BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220311BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220311BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220311BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M12/08 K
H01M10/0562
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019532652
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027777
(87)【国際公開番号】W WO2019022095
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017142512
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダム
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】金村聖志
(72)【発明者】
【氏名】棟方裕一
(72)【発明者】
【氏名】木村豪志
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/046915(WO,A1)
【文献】特開2016-192371(JP,A)
【文献】特開2014-212103(JP,A)
【文献】国際公開第2012/138403(WO,A1)
【文献】特開2010-257838(JP,A)
【文献】国際公開第2016/120266(WO,A1)
【文献】特開2011-159528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質粉体、バインダー及びイオン伝導性物からなり、
上記電解質粉体が、酸化物系のセラミック電解質粉体であり、
上記バインダーが、金属イオンに対して安定な高分子化合物であり、
上記イオン伝導性物が、金属イオン系化合物を有する、溶媒和イオン伝導性物又はイオン伝導性溶体であり、
上記電解質粉体、上記バインダー及び上記イオン伝導性物の配合割合が、
上記電解質粉体70~90重量部、上記バインダー5~20重量部、上記イオン伝導性物3~15重量部であり、且つ合計100重量部である電解質組成物であって、
上記電解質組成物を混合した場合に、
上記電解質粉体間に上記バインダーと上記イオン伝導性物とのコンポジット材が形成され、上記電解質粉体70~90重量部、上記コンポジット材10~30重量部で、且つ合計100重量部であり
差走査熱量計(DSC)において、上記イオン伝導性物に由来する融点ピークが消失し、NMRにおいてLi及びHについての上記イオン伝導性物固有のピークが上記イオン伝導性物の配合比率が増えるにつれて高磁場側にシフトする
ことを特徴とする電解質組成物。
【請求項2】
上記電解質粉体が、ガーネット型リチウムイオン伝導性セラミック又はペロブスカイト型リチウムイオン伝導性セラミックであり、その平均粒子径(メジアン径D50)が、0.1~20μmである
ことを特徴とする請求項1記載の電解質組成物。
【請求項3】
上記電解質組成物を混合した混合物において、
上記電解質粉体間に上記バインダーと上記イオン伝導性物とのコンポジット材が形成され、
上記混合物の以下の測定法における伝導率が10-6Scm-1以上である
ことを特徴とする請求項1記載の電解質組成物。
伝導率の測定法:コンポジット電解質シートの両面にφ10 mm(0.785cm2)のAu集電体をスパッタリング法で形成し、アルゴン雰囲気中で交流インピーダンス法により、コンポジットの抵抗を計測し、シートの厚みとAu集電体面積からイオン伝導率を算出した。イオン導電率σは抵抗率ρの逆数でありσ=1/ρの関係が成り立つ。抵抗率ρは電解質抵抗R(Ω)、電解質厚さt(μm)、電極面積A(cm)から、R=ρt/Aの関係が成り立つ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の電解質組成物を用いて形成され、上記電解質粉体と、上記バインダー及び上記イオン伝導性物が複合化されてなるコンポジット材とを具備することを特徴とする電解質膜。
【請求項5】
上記コンポジット材が電解質膜の厚み方向全体に亘って、上記電解質粉体と混合された状態で存在していることを特徴とする請求項4記載の電解質膜。
【請求項6】
請求項4又は5記載の電解質膜を具備する電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物、電解質膜及び電池に関し、さらに詳細には、実用的な膜厚を有し、機械的な強度にも優れ、電気化学的特性を有する電解質膜、該電解質膜を得ることができる電解質組成物及び電池に関するものである
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、長寿命・高効率・高容量であり、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの電源に利用されている。そして電池を構成する電解質膜について種々検討が行われており、特に固体電解質の開発が行われている。
たとえば、特許文献1には、複合金属酸化物と水との反応を防ぐことができるとともに、充放電を繰り返す際にサイクル性能の低下を抑制することができる固体電解質として、LiとLaとZrとを含有しリチウムイオン伝導性を有するガーネット型構造の複合金属酸化物と、リン酸リチウムを含み該複合金属酸化物の表面を被覆する被覆膜とを備える固体電解質が提案されている。
また、特許文献2には、二次電池、キャパシタ、ガスセンサー用固体電解質材料として、超急速冷却法を用いて構成する成分イオンがそれぞれ孤立したイオンで存在するイオンガラスとイオン液体を一緒にして、常温で機械的エネルギーを付加して混合し複合化してなる、高いイオン導電性を有するイオン伝導性ガラス材料が提案されている。
また特許文献3には、揮発による電解質の減少がなく、電池の長期の安定作動が可能で安全な固体電解質として、固体電解質にイオン液体を含浸させる構造を有するリチウム空気電池が提案されている。
また、特許文献4には、安全性が高く、充放電サイクル特性に優れた全固体リチウム二次電池の電解質膜として、固体電解質の粉末を成形した粉末成形体からなり、この粉末成形体の粉末間の隙間に、金属リチウムと反応して電子絶縁体となるものを生じる液状物質が存在する固体電解質層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-176857号公報
【文献】特開2006-156083号公報
【文献】特開2014-82091号公報
【文献】特開2009-211910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の提案にかかる各固体電解質を実用化するに際しては、固体電解質を薄膜化し、実抵抗を減らす必要があるが、薄膜化に伴い、固体電解質の機械的強度が低下するため、実用的な固体電解質薄膜を得ることが従来技術では困難であるという問題があった。
要するに、未だに実用的な膜厚を有し、機械的な強度にも優れ、電気化学的特性を有する固体電解質膜は得られていないのが現状である。
【0005】
したがって本発明の目的は、実用的な膜厚を有し、機械的な強度にも優れ、電気化学的特性を有する電解質膜、該電解質膜を得ることができる電解質組成物並びにこの電解質膜を用いてなる電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解消するために鋭意検討した結果、特定のイオン液体を用いることで上記課題を解消し得ることを知見し、更に検討をすすめることで本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の各発明を提供するものである。
1.電解質粉体、バインダー及びイオン伝導性物からなり、
上記電解質粉体が、酸化物系のセラミック電解質粉体であり、
上記バインダーが、金属イオンに対して安定な高分子化合物であり、
上記イオン伝導性物が、金属イオン系化合物を有する、溶媒和イオン伝導性物又はイオン伝導性溶体である、
ことを特徴とする電解質組成物。
2.上記電解質粉体、上記バインダー及び上記イオン伝導性物の配合割合が、上記電解質粉体60~95重量部、上記バインダー4~35重量部、上記イオン伝導性物1~20重量部であり、且つ合計100重量部である、
ことを特徴とする1記載の電解質組成物。
3.上記電解質粉体、上記バインダー及び上記イオン伝導性物の配合割合が、
上記電解質粉体 70~90重量部、上記バインダー 5~20重量部、上記イオン伝導性物 3~15重量部(合計100重量部)であり、且つ合計100重量部である、
ことを特徴とする1記載の電解質組成物。
4.上記電解質粉体が、ガーネット型リチウムイオン伝導性セラミック又はペロブスカイト型リチウムイオン伝導性セラミックであり、その平均粒子径(メジアン径D50)が、0.1~20μmである
ことを特徴とする1記載の電解質組成物。
5. 上記イオン伝導性溶体が、溶媒にイオン化合物を溶解させてなるイオン伝導性液体であり、上記溶媒に対する上記イオン化合物との配合割合は、上記イオン化合物の濃度がモル濃度で0.5~5mol/Lである
ことを特徴とする請求項1記載の電解質組成物。
6.上記電解質組成物を混合した場合に、
各電解質粉体間に上記バインダーとイオン伝導性物とのコンポジット材が形成され、
示差走査熱量計(DSC)において、上記イオン伝導性物に由来する融点ピークが消失し、
NMRにおいてLi及びHについての上記イオン伝導物固有のピークが上記イオン伝導性物の配合比率が増えるにつれて高磁場側にシフトする
ことを特徴とする1記載の電解質組成物。
7.上記電解質組成物を混合した混合物において、
各電解質粉体間に上記バインダーとイオン伝導性物とのコンポジット材が形成され、
上記混合物の以下の測定法における伝導率が10-6S cm-1以上である
ことを特徴とする請求項1記載の電解質組成物。
伝導率の測定法:コンポジット電解質シートの両面にφ10 mm(0.785 cm2)のAu集電体をスパッタリング法で形成し、アルゴン雰囲気中で交流インピーダンス法により、コンポジットの抵抗を計測し、シートの厚みとAu集電体面積からイオン伝導率を算出した。イオン導電率σは抵抗率ρの逆数でありσ=1/ρの関係が成り立つ。抵抗率ρは電解質抵抗R(Ω)、電解質厚さt(μm)、電極面積A(cm2)から、R=ρt/Aの関係が成り立つ。
8.1~7のいずれかに記載の電解質組成物を用いて形成され、電解質粉体と、バインダー及びイオン伝導性物が複合化されてなるコンポジット材とを具備することを特徴とする電解質膜。
9.上記コンポジット材が電解質膜の厚み方向全体に亘って、上記電解質粉体と混合された状態で存在していることを特徴とする8記載の電解質膜。
10.8又は9記載の電解質膜を具備する電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電解質膜は、実用的な膜厚を有し、機械的な強度にも優れ、電気化学的特性を有するものである。また、コンポジット材を有し、電解質粉体と密接した状態となるため、高い熱的安定性と柔軟性を有し、従来の固体電解質を用いた全固体電池で課題となっている固体電解質の薄膜化や機械的強度の確保を解決でき、実用的な全固体電池を実現できる。
本発明の電解質組成物は、上述の特性を有する電解質膜を得ることができるものである。
本発明の電池は、十分な電池的特性を有し、従来の固体電解質を用いた全固体型電池の問題点を解消した、実用的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の電解質膜の1実施形態を摸式的に示す拡大断面図である。
図2図2は、各実施例で得られた電解質膜及びイオン液体のDSC測定結果を示すチャートである。
図3図3は、各実施例で得られた電解質膜及びイオン液体のNMR測定結果を示すチャートである。
図4図4(a)~(c)は、それぞれ実施例1及び2並びに比較例で得られた電解質膜についてのFIB-SEMによる断面観察結果を示す写真(図面代用写真)である。
図5図5はEDSマッピングの結果を示す写真(図面代用写真)である
図6図6は実施例で得られた電解質膜の電気特性を示すチャートである。
図7図7は実施例で得られた電解質膜の金属リチウムの溶解析出挙動を示すチャートである。
図8図8は実施例で得られた電解質膜を用いて製造した電池を示す概要図(a)及びその電池特性を示すチャート(b)である。
図9図9は実施例で得られた空気電池の電池特性を示すチャートである。
図10図10は実施例4で得られた電解質膜の電気特性を示すチャートである。
図11図11は実施例4で得られた電解質膜の金属リチウムの溶解析出挙動を示すチャートである。
図12図12(a)及び(b)は、実施例4で得られた電解質膜を用いた電池の充放電容量を示すチャートである。
図13図13は、実施例4~6及び参考例2の電解質膜のDSCデータを示すチャートである。
図14図14(a)及び(b)は、実施例4~7及び参考例2で得られた電解質膜のNMRデータを示すチャートである。
図15図15は、参考例の電解質膜のDSCデータを示すチャートである。
図16図16は、参考例の電解質膜のNMRデータを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<電解質組成物>
本発明の電解質組成物は、電解質粉体、バインダー及びイオン伝導性物からなり、
上記電解質粉体が、酸化物系のセラミック電解質粉体であり、
上記バインダーが、金属イオンに対して安定な高分子化合物であり、
上記イオン伝導性物が、金属イオン系化合物を有する、溶媒和イオン伝導性物又はイオン伝導性溶体である。
以下、各成分について説明する。
【0010】
(電解質粉体)
上記電解質粉体は、酸化物系のセラミック電解質粉体であり、具体的には、LiLaZr12 (LLZ)等のガーネット型リチウムイオン伝導性セラミック、LixLa(2/3―X)TiO(LLT)等のペロブスカイト型リチウムイオン伝導性セラミック等を挙げることができる。また、上記電解質粉体の結晶系は立方晶、六方晶、三方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、三斜晶のいずれも採ることができるが、電解質膜を製造する際に焼結処理を行う必要がないので立方晶が特に好ましい。
また、上記電解質粉体の平均粒子径(メジアン径D50)は、0.01~50μmであるのが好ましく、0.1~20μmであるのがさらに好ましい。所定の平均粒子径にするには、よく知られた粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミルや篩などが好適に用いられる。
上記平均粒子径は通常公知の手法により測定することができるが、具体的には以下のようにして測定することができる。
動的光散乱(DLS)法による測定、又は走査型電子顕微鏡(SEM)観察像の画像処理や目視による測定等を用いた目視による観察による測定等。
本発明においては、上記電解質粉体が、ガーネット型リチウムイオン伝導性セラミック又はペロブスカイト型リチウムイオン伝導性セラミックであり、その平均粒子径(メジアン径D50)が、0.1~20μmであるのが最も好ましい。
【0011】
(バインダー)
上記バインダーとして用いられる上記高分子化合物は、金属リチウムに対して安定な高分子化合物であり、更に上記電解質粉体に対する相溶性があまり良くない高分子化合物が更に好ましい。このような高分子化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等のフッ素樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルブチラール(PVB)、アクリル系樹脂、エラストマー樹脂等を好ましく挙げることができる。これらの高分子化合物は、該高分子化合物により構成される樹脂粒子などの最表面のみは金属リチウムと反応するもののそれ以上は反応せずに最表面のみで反応が終了するため好ましい。なお、用いるイオン伝導性物とバインダーとの組み合わせによっては混合する際に混合しにくくなる場合があるが、その場合には界面活性剤を用いるのが好ましい。この際用いることができる界面活性剤としては脂肪酸系分散剤(試薬特級, 商品名「ステアリン酸」、富士フィルム和光純薬社製)中京油脂社製等を挙げることができる。また、このような界面活性剤を用いる場合としては、特に上記のエラストマー樹脂を用いる場合が好ましい。この際用いることができるエラストマー樹脂としては、スチレン系エラストマー(例えば商品名「U―507」中京油脂社製等)などを用いる事ができる。このようにエラストマー樹脂を用いる場合に界面活性剤の配合量は、両者の合計量100重量部中1~10重量部とするのが好ましい。
上記高分子化合物の数平均分子量は 1000~100000000 であるのが好ましく、分散度は1~50であるのが好ましい。
【0012】
(イオン伝導性物)
上記イオン伝導性物は、上記溶媒和イオン伝導性物又は上記イオン伝導性溶体である。
・溶媒和イオン伝導性物
上記溶媒和イオン伝導性物は、溶媒、気体等の溶質と、金属イオン系化合物であるイオン化合物と、を混合してなるものであり、中でも好ましくは溶媒和イオン伝導性液体であり、溶質として溶媒を用いた場合、錯形成状態が壊れると溶媒が蒸発するものであるのが望ましい。以下、溶媒和イオン伝導性液体について説明する。
上記溶媒和イオン伝導性液体を構成する上記溶媒としては下記化学式に示すトリグライム(G3)又はテトラグライム(G4)等を挙げることができる。
また上記イオン化合物としては、下記化学式に示すリチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)、リチウムビスフルオロメタンスルホニルアミド(LiFSA)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPFを挙げることができる。
そして、上記溶媒和イオン伝導性液体は、下記化学式に示すように、塩とこれを構成するカチオンまたはアニオンに強く配位する溶媒とからなるイオン液体であり、例えば下記化学式に示す[Li(G3)][TFSA](G3とLiTFSAとを混合してなる溶媒和イオン伝導性液体であることを示す、以下同じ)、[Li(G4)][TFSA]等を挙げることができる他、[Li(G3)][FSA] 、[Li(G4)][FSA]や、濃厚電解液としての、 LiTFSA/DME(溶媒として下記するDME中にLiTFSAが飽和溶解量溶解している溶液であることを示す。以下この欄において同じ)、LiTFSA/AN、LiTFSA/DME、LiTFSA/DMSO、LiFSA/DME、LiFSA/AN、LiFSA/DME、LiFSA/DMSO等を挙げることができる。
上記溶媒和イオン伝導性液体における上記溶媒と上記イオン化合物とは、イオン化合物が溶媒に対して等モル以上となる量配合するか、または飽和溶解となるように配合するのが好ましい。
【化1】
上記溶媒和イオン伝導性液体は、イオン液体類似の性質を有し、Liの電場効果によるグライム等の溶媒の酸化安定性が増加し、構成イオンの弱配位性による性能が発揮されると共に、溶媒活量が低いことに由来する特異な電極反応を提示する等の利点がある。
【0013】
・イオン伝導性溶体
上記イオン伝導性溶体は、下記のイオン化合物と溶媒とを混合して得られるものであり、上記イオン化合物と上記溶媒とが錯体を形成してなるものである。この際用いられる溶媒としては、非プロトン性有機溶媒等が挙げられ、具体的には、ジメチルエーテル(DME)、エチレンカーボネート(EC)やポリエチレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、アセトニトリル(AN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、メチルスルホラン等挙げることができ、使用に際しては、これらの単独溶媒もしくは2種類以上の混合溶媒として用いることができる。
上記イオン化合物としては、カチオン種化合物、アニオン種化合物を挙げることができる。
カチオン種化合物におけるカチオン種としては、イミダゾリウム系(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMI)、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム(DMPI)等)、アンモニウム系(N-ブチル-N,N,N-トリメチルアンモニウム([N1114)、N,N,N,N-テトラエチルアンモニウム([N2222)、N,N,N,N-テトラブチルアンモニウム([N4444)等)、ピリジニウム系(ブチルピリジニウム(BP)、1-ブチル-3-メチルピリジニウム等)、ピロリジニウム系(1-ブチル-1-メチルピロリジニウム(BMP)、1-エチル-1-メチルピロリジニウム等)、ピペリジニウム系(1-メチル-1-プロピルピペリジニウム(PP13)等)、ホスホニウム系(テトラブチルホスホニウム、トリブチルドデシルホスホニウム)、モルホリニウム系(4-(2-エトキシエチル)-4-メチルモルホリニウム等)等を挙げることができる。
またアニオン種化合物のアニオン種としては、PF 、BF 、AsF 、CHCOO、CHSO 、N(CN) 、NO 、ClO 、F、Cl、Br、I、トリフルオロメチルスルホネート([TfO])、トリフルオロアセテート([TFA])、N(SOF) (FSA)、N(SOCF (TFSA)等が挙げられる。これらのイオン化合物はそれぞれ単独でも、また2種以上混合して用いることもできる。
上記イオン化合物としては、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)、リチウムビスフルオロメタンスルホニルアミド(LiFSA)、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF),塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)等、また上述のカチオン種を有する化合物等を挙げることができる。
ここで上記溶媒に対する上記イオン化合物の配合割合は、モル濃度で0.5~5mol/Lが好ましく、更に好ましくは1~2mol/Lであり、飽和溶解する配合量とすることもできる。
上記イオン伝導性溶体の具合例としては、非プロトン性有機溶媒を用いたものとして、1mol/Lの濃度でLiPFをPC単独溶媒、EC:DECの体積比1:1の混合溶媒、EC:DECの体積比1:2の混合溶媒、EC:DECの体積比3:7の混合溶媒、EC:EMCの体積比1:1の混合溶媒、EC:EMCの体積比3:7の混合溶媒)、EC:PCの体積比1:1の混合溶媒、EC:PCの体積比3:7の混合溶媒、EC:DMC:DECの体積比1:1:1の混合溶媒、EC:PC:EMCの体積比1:1:1の混合溶媒に溶解させたもの;
1mol/Lの濃度でLiBFを、PC単独溶媒、EC:DECの体積比1:1の混合溶媒、EC:DMCの体積比1:1の混合溶媒、EC:EMCの体積比1:3の混合溶媒、EC:PCの体積比1:1の混合溶媒に溶解させたもの;、
1mol/Lの濃度でLiCFSOをPC単独溶媒、EC:DECの体積比1:1の混合溶媒に溶解させたもの;
1mol/Lの濃度でLiTFSAをPC単独溶媒、EC:DECの体積比1:1の混合溶媒、EC:DMCの体積比1:1の混合溶媒、EC:DMCの体積比1:1の混合溶媒、EC:EMCの体積比3:7の混合溶媒に溶解させたもの;
2mol/Lの濃度でLiTFSAをEC:DMCの体積比1:1の混合溶媒に溶解させたものなどが挙げられる。また、BMIとTFSA、BMPとTFSA、BMPとBF、BMPとPF、EMIとCl、PP13とTFSA、N1114とTFSA(モル比:1/1)等、任意のイオン源と、任意のアニオンとカチオンを組み合わせたイオン化合物を用いて、上述の単独溶媒または混合溶媒に上述の濃度で溶解させたイオン伝導性溶体を用いることができる。この場合、本明細書において例えばEMITFSA等と示す場合がある。
なお、イオン伝導性物は、その使用に際して、それぞれ単独でまたは2種類以上混合して用いてもよい。
【0014】
(配合比)
本発明の電解質組成物において、上記電解質粉体、上記バインダー及び上記イオン伝導性物の配合割合が、上記電解質粉体60~95重量部、上記バインダー4~35重量部、上記イオン伝導性物1~20重量部(合計100重量部)であるのが好ましく、上記電解質粉体 70~90重量部、上記バインダー 5~20重量部、上記イオン伝導性物 3~15重量部(合計100重量部)であるのがさらに好ましく、上記電解質粉体70~85重量部、上記バインダ10~20重量部、上記イオン伝導物5~10重量部(合計100重量部)とするのが好ましい。なお、後述するコンポジット材の配合量を満足するように、上記バインダーと上記イオン伝導性物との配合割合を調整することが好ましい。
上記配合割合が、上記範囲外であると所望の効果を得ることができないので上述の範囲内とするのが好ましい。
本発明の電解質組成物は、後述する本発明の電解質膜とするなどして使用することができる。
【0015】
また、本発明の電解質組成物は、上記電解質組成物を混合した場合に、各電解質粉体間に上記バインダーとイオン伝導性物とのコンポジット材が形成される。このような統制があることは、示差走査熱量計(DSC)において、上記イオン伝導性物に由来する融点ピークが消失し、NMRにおいてLi及びHについての上記イオン伝導物固有のピークが上記イオン伝導性物の配合比率が増えるにつれて高磁場側にシフトするものであることから証左される。また、NMRについては、高磁場側に明確にシフトするといえないように見える場合もあるが、その場合でもNMRのピークの半値幅が1.25ppm以上となること、すなわち通常イオン伝導物固有のピークの半値幅とは値が異なるものとなることで証左される。
なお、「消失」とは、ピークが完全に消えること、及びピーク強度が配合量に比して弱くなることの両方を含む意味である。本明細書において「DSCのピークが消失」という場合は同じ意味である。弱くなる程度は用いるバインダー及びイオン液体の種類や製造方法に応じて種々変動する。
本発明の電解質組成物を混合して得られる混合物の以下の測定法における伝導率は、用いるイオン伝導性物によって異なるが、10-6S cm-1以上であるのが好ましい。
ここで、上記伝導率は、以下のようにして測定できる。
伝導率の測定法:電解質組成物を用いて形成したシートの両面にφ10mm(0.785cm)のAu集電体をスパッタリング法で形成し、アルゴン雰囲気中で交流インピーダンス法により、コンポジットの抵抗を計測し、シートの厚みとAu集電体面積からイオン伝導率を算出した。イオン導電率σは抵抗率ρの逆数でありσ=1/ρの関係が成り立つ。抵抗率ρは電解質抵抗R(Ω)、電解質厚さt(μm)、電極面積A(cm)から、R=ρt/Aの関係が成り立つ。
なお実施例においては、測定装置として、バイオロジック(Bio-Logic SAS(フランス))社製、商品名「SP-200」 高性能電気化学測定システムを用い、周波数範囲0.1~3,000,000Hz、温度条件は室温、印加電圧50mVの測定条件にて電気化学特性としてインピーダンスの測定を行った。なお、参考として60℃の測定データを示す場合もある。
コンポジット材、及びこれらのNMRピークがシフトする点と伝導率が特定の範囲内になる点については、通常電解質組成物を電解質膜に成形して用いる際に確認される構造及び性質であるので、電解質膜の説明において詳細に説明する。
【0016】
<電解質膜>
本発明の電解質膜は、電解質粉体と、バインダー及びイオン伝導性物が複合化されてなるコンポジット材とを具備することを特徴とする。
ここで上記電解質粉体、上記バインダー及び上記イオン伝導性物は、それぞれ上述の電解質組成物において説明したものと同じであるので、説明を省略する。すなわち、本発明の電解質膜は好ましくは上述の本発明の電解質組成物より得られるものである。
【0017】
本実施形態の電解質膜について図1を参照して説明する。
図1に示すように本実施形態の電解質膜1は、電解質粉体10と各電解質粉体10間に位置するコンポジット材20とからなる。
ここで電解質膜における電解質粉体は、いわゆる粉体状の形態を有する電解質物質であり、成分の具体例としては上述の電解質粉体の欄で説明した電解質粉体の成分を挙げることができる。また、電解質膜における電解質粉体の粒子径は平均粒子径で上述の電解質粉体の粒子径と同じである。
コンポジット材20は、イオン伝導性物とバインダーとが複合化されて、化学的に変化はしていない(化学的な分析の結果として化学的な変化は確認できない)が物性的には変性しているものであって、イオン伝導性物とバインダーとの相互作用により単なる両成分の物性ではなく物性の変化があるものである。このようなコンポジット材が存在することにより、単にイオン伝導性物を有する以上のイオン伝導性を示し、その結果電気化学特性も向上する。
たとえば、示差走査熱量計(DSC)において、電解質膜内に存在するイオン伝導性物に由来する融点ピークが消失して、上述の伝導率が好ましくは10-6 S cm-1以上となる。即ち、本発明の電解質膜は、示差走査熱量計(DSC)において、電解質膜内に存在するイオン伝導性物に由来する融点ピークが消失するものであり、本発明の電解質組成物は、この組成物を混合した際にイオン伝導性物に由来する融点ピークが消失するものである。
また、NMRにおいてLiについてもHについてもイオン伝導物固有のピークはイオン伝導性物の比率が増えるにつれて高磁場側にシフトする。通常であれば化学的構造が変化しなければピークは同じ位置に表れるものであるが、本発明の電解質組成物を混合してなる本発明の電解質膜においては、化学的構造は変化していないのに、イオン伝導性物の比率が増えるに従いピーク位置が高磁場側にシフトするという物性のみが変化する特性を有する。また、NMRについては、高磁場側に明確にシフトするといえないように見える場合もあるが、その場合でもNMRのピークの半値幅が1.25ppm以上となること、すなわち通常イオン伝導物固有のピークの半値幅とは値が異なるものとなる。
このようにコンポジット材が形成されて物性が変化する理由は定かではないが、イオン伝導性物がバインダーに取り込まれて複合化されることによりイオン伝導性物に何らかの形態変化(化学的な変化ではなくレオロジー的な変化)が生じているものと考えられる。
本発明の電解質膜において、上記電解質粉体と上記コンポジット材(上記バインダー及び上記イオン伝導性物の複合化物)との配合割合は、上記電解質粉体60~95重量部、上記コンポジット材5~40重量部で、且つ合計100重量部であるのが好ましく、上記電解質粉体70~90 重量部、上記コンポジット材10~30重量部で、且つ合計100重量部であるのがさらに好ましい。
【0018】
また、図1に示すように、本実施形態の電解質膜においては、上記コンポジット材が電解質膜の厚み方向全体に亘って、上記電解質粉体と混合された状態で存在している。ここで「厚み方向全体に亘って」とは、電解質粉体を集合させた場合に膜全体に亘って形成される、電解質粉体間に存在する空隙を、埋めるように存在することを意味する。また、コンポジット材の存在比率は、配合割合と用いる電解質粉体とにより決定される。
また、本発明の電解質膜を用いた電池の電池特性は、負極にリチウムやグラファイトを使用した場合は3~4 V、シリコンの場合3.5 V程度、チタン酸リチウム(LTO)の場合は2 V程度となる。また、出力密度は400~1000 W kg―1 である。
本実施形態の電解質膜の厚さは10~500μmであるのが好ましい。また形状は特に制限されず種々形態とすることができる。
また、本発明の電解質膜には上述の各成分の他に、本発明の所望の効果を損なわない範囲で通常この種の電解質膜に用いられる添加剤成分を適宜添加することができる。
【0019】
<製造方法>
本発明の電解質膜は、上記電解質粉体と、上記イオン伝導性物とを混合して第1混合物を得る第1混合工程と、
上記第1混合物に上記バインダーを添加して混合し、第2混合物を得る第2混合工程と、を行うことにより製造することができる。
このように第1混合工程と第2混合工程とを行うことにより、上述のコンポジット材が形成され、良好な電解質特性を発揮するものと考えられる。
・第2の方法
この他、上記電解質粉体と上記バインダーとを混合してなる混合物を成形して所望の成形物(シート状物等)を得、得られた成形物を上記イオン伝導性物そのまま又は上記イオン伝導性物の溶液に浸漬して製造することもできる。この際イオン伝導性物の溶液とする場合用いられる溶媒としては、水等が用いられ、浸漬温度は特に制限されず常温などとすることができ、浸漬時間も特に制限されず30分~24時間等とすることができる。
【0020】
(第1混合工程)
第1混合工程は、上記電解質粉体と上記イオン伝導性物とを混合することにより実施できる。ここで混合手法は特に制限されるものではなく、種々の手法で混合することができる。混合に際しては、温度は常温~ 150℃の範囲内で行うことができ、撹拌速度は
400~3000rpmとすることができ、混合時間は5~60分とすることができる。
(第2混合工程)
第2混合工程は、上記第1混合工程で得られた第1混合物と上記バインダーとを混合することにより実施できる。ここで混合手法は特に制限されるものではなく、種々の手法で混合することができる。混合に際しては、温度は常温~150℃の範囲内で行うことができ、撹拌速度は400~3000rpmとすることができ、混合時間は5~60分とすることができる。
(その他の工程)
本発明においては、用いる電解質粉体によって上述の第1及び2混合工程を行った後、得られた第2混合物を所定の形状に成形して所望の電解質膜を得ることができるが、用いる電解質粉体によってはさらに焼成工程等を行ってもよい。
焼成工程を行う場合、500~1500℃の温度で0.5~48時間焼成するのが好ましい。
この他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で通常電解質膜を製造する際に用いられるその他の工程を適宜採用することができる。
【0021】
<使用方法・電池>
本発明の電解質膜はリチウムイオン電池、好ましくは全固体型の電池の電解質膜として使用することができる。すなわち、本発明の電池は、上述の本発明の電解質膜を用いてなるものである。電池構造は従来公知の電気構造を特に制限なく採用することができる。
【0022】
<作用効果>
本発明の電解質膜は、柔軟性及び機械的強度を有し、薄膜化が可能なものである。また、Liイオンは電解質粉体内、およびコンポジット材内のイオン伝導性物中を移動するので、十分なイオン伝導経路が存在し、優れた電池特性を発揮するものである。
係る観点から、本発明の電解質膜はリチウムイオン電池、特に全固体型のリチウムイオン電池の電解質膜として有用である。
【実施例
【0023】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
【0024】
〔実施例1〕
LLZ粉体(立方晶粒子、メジアン径D50=11 μm、商品名「DLZ―2,3」第一稀元素社製)とPTFE粉体(平均粒子径300~600μm、商品名「PTFE6-J」三井デュポンフロロケミカル社製、平均分子量100000~100000000)とイオン伝導性物としての溶媒和イオン伝導性物(以下、実施例においては単に「イオン液体」という)(リチウムイオン化合物としてLiFSAを、溶媒としてG4(テトラグライム)をモル比で1:1とし混合してなる溶媒和イオン液体[Li(G4)][FSA])とを用意した。
次に、LLZ粉体とイオン液体とを、両者の配合割合が重量比で 87:3 となるように混合し、乳鉢混合して混合物を得た(第1混合工程)。
得られた混合物にPTFE粉体をLLZ粉体87重量部に対して10重量部となるように混合し、同様に混練して(第2混合工程)、電解質組成物を得た。
得られた電解質組成物を用いて0.5~4kNの荷重をかけながらロールプレスすることによりフレキシブルなシート(厚さ250~350μm)を作製し、電解質膜を得た。
〔実施例2〕
LLZ粉体と[Li(G4)][FSA]との配合割合を重量比で 81:10 とし、PTFE粉体の配合割合をLLZ粉体81重量部に対して9重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして電解質組成物及び電解質膜(厚さ250~350μm)を得た。
〔実施例3〕
LLZ粉体とPTFE粉体との混合割合を重量比で90:10とし、両者を混合し混錬してシート化し、0.5~4kNの荷重をかけながらロールプレスすることによりLLZ-PTFE混合グリーンシートを得た。その後、Auスパッタリング法で集電体としてAu膜をグリーンシート上に成膜した後、実施例1で用いたものと同じイオン液体中にグリーンシートを6時間浸漬して真空引きにより、グリーンシート中にイオン液体を含浸させて集電体付き電解質膜(厚さ250~350μm)を得た。
得られた電解質膜は、グリーンシート100重量部に対して8重量部のイオン液体が含有されていた。すなわち、本実施例ではLLZ粉体:PTFE粉体:イオン液体=83.3:9.3:7.4(重量部)の配合割合であった。
Au膜は、インピーダンス測定用および金属リチウム溶解析出試験用のセルを作製する場合は、グリーンシートの負極側、正極側両面に取り付け、電池試験用のセルを作製する場合は、負極側のみに取り付けた(図8(a)の態様)。〔比較例1〕
イオン液体を添加せず、PTFE粉体をLLZ粉体90重量部に対して10重量部となるように混合し、第2混合工程のみを行い、電解質組成物及び電解質膜を得た。
【0025】
〔試験例〕
得られた電解質膜についてそれぞれ以下の試験を行った。
〔示差走査熱量計(DSC)測定〕
電解質膜内に存在するイオン液体の融点ピークを確認することで電解質膜内においてイオン液体が如何にして存在するのかを確認した。
測定は、示差走査熱量計として、商品名「DSC―60」島津製作所社製を用い、室温付近で測定開始し、温度を-130℃ まで冷却した後、250℃付近まで加熱し、その後室温まで冷却し、この間測定を継続することで計測を行った。また、冷却及び加熱速度は10℃/分とした。その結果を図2に示す。また、比較対象としてイオン液体([Li(G4)][FSA]自体のチャートも図2に示す。
図2に示す結果から明らかなように実施例1及び2の電解質膜ではイオン液体融点由来のピークが見られないことを確認した。このことから本発明の電解質膜では、イオン液体がそのままの状態で存在しておらず、電解質粉体表面にバインダーと複合化され、この複合化されたものが吸着された状態で存在して、電解質粉体と相互作用をしていることがわかる。
また、実施例3で得られた電解質膜についてもイオン液体由来のピークは見られず、固体電解質粉体およびバインダーに吸着された状態であることが確認された。
【0026】
〔NMRによる物性変化の確認〕
電解質膜内に存在するイオン液体に起因するピークを確認することで電解質膜内においてイオン液体が如何にして存在するのかを確認した。特にLiの緩和時間、自己拡散係数、シグナルについて確認した。測定は、商品名「JNM―500」日本電子社製を用いて常法に従って行った。その結果を図3に示す。
図3に示す結果から明らかなように、実施例1及び2の電解質膜ではLiについてもHについてもピークはイオン液体の比率が上がるに連れて高磁場側にシフトした。このことから、本発明の電解質膜では単にイオン液体がそのままの状態で存在するのでなく、バインダーと複合化された状態で電解質粉体の近傍に存在する状態を形成して、新たな伝導経路を有することを示している。
【0027】
〔直交型収束イオンビーム加工観察装置-走査電子顕微鏡(FIB-SEM)による固体-液体型複合電解質の断面観察〕
実施例1及び2で得られた電解質膜並びに比較対象としての電解質膜についてFIB-SEMにより断面の観察を行い、各成分の存在状態を確認した。その結果を図4に示す。
図4に示す結果から明らかなように、実施例1及び2、特にイオン液体を多く含有する実施例2ではバインダーとイオン液体とが複合化された状態となり単にバインダーが存在する場合(比較対象)とは明らかに異なる状態を形成していることがわかる。
〔エネルギー分散形X線分光器(EDS)マッピング〕
また、実施例1の電解質膜についてEDSのマッピングによりバインダーとイオン液体との識別を行った。その結果を図5に示す。電解質粉末とそれ以外のものとの識別はできたが、バインダーとイオン液体との識別はできなかった。
〔電気化学特性〕
実施例3で得られた電解質膜について、下記のようにしてその電気化学特性を測定した。その結果を図6に示す。また、金属リチウムの溶解析出挙動についても確認した。
(電気化学特性)
測定装置として、バイオロジック(Bio-Logic SAS(フランス))社製、商品名「SP-200」 高性能電気化学測定システムを用い、周波数範囲0.1~3,000,000Hz、温度条件は室温および60℃、印加電圧50mVの測定条件にて電気化学特性としてインピーダンスの測定を行った。その結果を図6に示す。イオン導電率σは抵抗率ρの逆数でありσ=1/ρの関係が成り立つ。抵抗率ρは電解質抵抗R(Ω)、電解質厚さt(μm)、電極面積A(cm)から、R=ρt/Aの関係が成り立つ。
電解質膜の平均厚さを270μm、電極面積を0.785cm(φ 10 mm)としてLiイオン伝導率についても計測したところ、室温では初期7.0×10-6 Scm-1 であったのが、3週間後9.4×10-6Scm-1 であり、60℃では初期2.2 × 10-5 S cm-1 であったのが、3週間後2.0 × 10-5 S cm-1であり、イオン伝導率の低下はほとんど見られなかった。
(金属リチウムの溶解析出挙動)
実施例3で得られた電解質膜を用いて、両極金属リチウム箔を取り付けた対称セルを用いた。電極面積はφ10 mm(0.785 cm2)とした。測定装置は、北斗電工株式会社製、電池充放電装置、商品名「HJシリーズ(HJ1001SD8)」を用いた。温度30℃において電流密度を20μA cm-2とし酸化電流を1hr 流した後15min通電を停止し、続いて還元電流を1hr流した後15min通電を停止した。この一連の作業を10サイクル繰り返す毎に、電流密度を40μA cm-2、80μA cm-2と増大させ、金属リチウムの溶解析出挙動を調べた。その結果を図7に示す。対象セルは内部短絡することなく金属リチウムの溶解析出が繰り返し行われることが確認できた。60℃においても金属リチウムの溶解析出挙動は確認できた。
【0028】
〔電池特性〕
実施例3で得られた電解質膜を用い、正極には正極活物質としてコバルト酸リチウムを80重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを10重量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフルオライドを10重量部混合してなる塗工電極(塗布電極ともいう)を用いた。負極には金属リチウム箔を用いて、図8(a)に示す電池を得た。
測定装置は、北斗電工株式会社製、電池充放電装置、商品名「HJシリーズ(HJ1001SD8)」を用いた。60 ℃中において0.1 Cレート(実電流:85 μA, 電流密度は正極活物質重量基準で13.7 mA/g)で10 HR充電し、1 HR 開回路状態に保った後1.5 Vに達するまで放電を行った。その結果を図8(b)に示す。初期充電直前の開回路電圧(OCV)は1.6 Vであった。初期放電容量は100 mAh/gであり、電池特性が確認された。2サイクル目の充電及び放電過程ではセル電圧の低下が見られた。これは、負極の金属Liと電解質中に含まれるPTFEが接触しているため導電性ポリマーが生成し負極電位が上昇したためと考えられる。
【0029】
〔空気電池の作製と特性〕
アセチレンブラック(AB)65重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)26.25重量部及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)8.75重量部を混合して混合物を得、更にここに水100重量部とLiTFSAを1 mol kg-1含むイオン液体N,N-diethyl-N―(2―methoxyehyl)-N―methylammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(LiTFSA/IL)487.5重量部とを混合して、カソードスラリーを得た。
得られたカソードスラリーを円盤状の固体電解質膜(Li0.35La0.55TiO3(LLT)60重量部、高分子Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylne)(PVdF―HFP)20重量部、LiTFSA/IL 20重量部からなる電解質膜)上に厚み50μmとなるように塗工し、ついて50℃で12時間吸引乾燥して、空気電池用のカソードを有する複合電解質膜を作製した。
カソードが形成された複合電解質膜の反対面にリチウム金属箔、銅箔を順番に配置し、空気電池用のアノードを形成した。カソードとアノードが形成された複合電解質膜をアルミニウムが蒸着されたラミネートフィルムで封止して空気電池を得た。このとき、カソードのみが酸素に暴露されるよう封止した。得られた空気電池を酸素が注入された容器に入れ空気電池として動作させた。
得られた電池について上記の電池特性と同様にして電池特性を確認した。その結果を図9に示す。
【0030】
[参考]
特開2017-59536号公報に記載の電解質膜(電解質粉体の粒子径が0.1μmよりも小さく、バインダとしてポリアクリロニトリルを用い、その配合割合を3重量部として形成した電解質膜)のSEM写真と、実施例3で得られた電解質膜のSEM写真とを対比した。その結果、当該公報に記載の電解質膜では、本発明の電解質膜のようなコンポジット材の形成は確認できなかった。
【0031】
[実施例4~6]
LLZ粉体(立方晶粒子、メジアン径D50=11 μm、商品名「DLZ―3」第一稀元素社製)と分散剤入りスチレン系エラストマーバインダー溶液(「U―507」中京油脂社製と脂肪酸系分散剤を97:3の重量比で混合してなる溶液)と溶媒としてトルエンとを用いて混合物を作製した。各成分の配合比は、LLZ粉体:スチレン系エラストマーバインダー溶液:トルエン=30:5.16:8.07(実施例4)、30:6.24:8.50(実施例5)、30:8.15:9.00(実施例6)の重量比とした。これらをそれぞれ自転・公転ミキサー「ARV―310」シンキー社製を用いて回転数2000 rpm、大気圧下で10 min攪拌し、その後10 kPaの気圧で5 min真空脱法を行い、スラリーを得た。得られたスラリーを離型剤付きフィルムの上に塗工し、大気中、30℃で1h乾燥後、真空乾燥機中、80℃で6h乾燥し、LLZシートを得た。このLLZシートを乾燥後、離型剤付きフィルムを剥がし、φ20mmで打ち抜き、PTFEシートに包んで10 インチの風船に入れ、真空封入したのち、静水圧プレス機「NTウェーブCIP」エヌピーエーシステム社製を用いて300MPaでプレスした。Arガス雰囲気中でプレスしたLLZシートを溶媒和イオン液体[LiG4][FSA]中に浸漬し、真空含浸させることで、LLZシート中に[LiG4][FSA]を導入し、LLZ粉体:スチレン系エラストマーバインダー:イオン液体(重量比)= 77:13:10(実施例4)、75:16:9(実施例5)、71:19:10(実施例6)の電解質膜を得た。
【0032】
[実施例7及び参考例2]
(溶媒和イオン液体比を変えたサンプル)
各成分の配合比を、LLZ粉体:スチレン系エラストマーバインダー溶液:トルエン=30:2.15:7.00(実施例7)、30:8.07:9:00(参考例2)とし、静水圧プレスを行わずに真空含浸させた以外は実施例4と同様にして、LLZ粉体:スチレン系エラストマーバインダー:イオン液体(重量比)=75:5:20(実施例7)、59:16:25(参考例2)の電解質膜を得た。
【0033】
[参考例]
(粒子サイズの比較)
LLZ粉体(メジアン系D50=1μm、SCHOOT社製)および、DLZ-3をペレット化し1140℃で20 hr焼結処理した後、乳鉢粉砕して目開き46μmのふるい分けした際に、ふるいを通過しなかった粉体(メジアン系D50 =46μm以上と推定)を用いて、実施例2と同様にして組成物及び電解質膜を作製した。得られた電解質膜について、実施例2と同様にDSC測定およびNMR測定を行った。NMR測定は、商品名「JNM―ECS300」日本電子社製を用いて常法に従って行った。
【0034】
(電気化学特性)
実施例4で得られた電解質膜を用い、バイオロジック(Bio-Logic SAS(フランス))社製、商品名「SP-200」 高性能電気化学測定システムを用い、周波数範囲0.1~3,000,000Hz、温度条件は室温および60℃、印加電圧50mVの測定条件にて電気化学特性としてインピーダンスの測定を行った。その結果を図10に示す。イオン導電率σは抵抗率ρの逆数でありσ=1/ρの関係が成り立つ。抵抗率ρは電解質抵抗R(Ω)、電解質厚さt(μm)、電極面積A(cm)から、R=ρt/Aの関係が成り立つ。
電解質膜の平均厚さを450μm、電極面積を0.785cm(φ 10 mm)としてLiイオン伝導率についても計測したところ、室温で1.3×10-4 Scm-1 であった。
(金属リチウムの溶解析出挙動)
実施例4で得られた電解質膜を用いて、両極金属リチウム箔を取り付けた対称セルを作成した。電極面積はφ10 mm(0.785 cm2)とした。測定装置は、北斗電工株式会社製、電池充放電装置、商品名「HJシリーズ(HJ1001SD8)」を用いた。温度60℃において電流密度を10μA cm-2とし酸化電流を30 min 流した後15min通電を停止し、続いて還元電流を30 min流した後15min通電を停止した。この一連の作業を10サイクル繰り返す毎に、電流密度を20μA cm-2、40μA cm-2、80μA cm-2、160μA cm-2、320μA cm-2、640μA cm-2、1280μA cm-2と増大させ、金属リチウムの溶解析出挙動を調べた。その結果を図11に示す。対象セルは1280μA cm-2で通電するまで内部短絡することなく金属リチウムの溶解析出が繰り返し行われることが確認できた。60℃においても金属リチウムの溶解析出挙動は確認できた。
〔電池特性〕
実施例4で得られた電解質膜を用い、正極には正極活物質としてコバルト酸リチウムを92重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを4重量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフルオライドを4重量部、さらにイオン液体 1 mol dm-3 LiFSA/EMITFSAを10重量部混合してなる塗工電極(塗布電極ともいう)を用いた。負極には金属リチウム箔を用いて、図8(a)に示す電池を得た。
測定装置は、北斗電工株式会社製、電池充放電装置、商品名「HJシリーズ(HJ1001SD8)」を用いた。60 ℃中において0.1 Cレート(実電流:26 μA, 電流密度は正極活物質重量基準で13.7 mA/g)および0.02Cレート(実電流:21 μA, 電流密度は正極活物質重量基準で2.74 mA/g)で繰り返し充放電を行った。
0.1Cレートでは、3.0V-4.2Vの範囲で充放電が確認され、放電容量は30 mAh g-1であった(図12(a))。0.05Cレートでは、3.0V-4.1Vの範囲で充放電が可能で、30 mAh g-1の放電容量が確認された(図12(b))。
Au膜は、インピーダンス測定用および金属リチウム溶解析出試験用のセルを作製する場合は、グリーンシートの負極側、正極側両面に取り付け、電池試験用のセルを作製する場合は、負極側のみに取り付けた
【0035】
〔DSC及びNMR〕
得られた実施例4~8の電解質膜について実施例1と同様にしてDSCおよびNMR測定を行った。NMR測定は、商品名「JNM―ECS300」日本電子社製を用いて常法に従って行った。DSC測定では、電解質膜のデータ中に溶媒和イオン液体の融点由来のピークは配合量に比して弱くなって入るものの若干量観測された(図13)。電解質膜中の溶媒和イオン液体比率に関わらずピークの大きさが変わらなかったことから、電解質表面に僅かな溶媒和イオン液体が付着していたためと考えられる。電解質表面へのイオン液体の付着の原因は、真空含浸漬により膜中にイオン液体を導入する方法で電解質膜を作製したためであると考えられる。
NMR測定結果を図14(a)および(b)に示す。図14(a)および(b)に示すように実施例4~7及び参考例2では、電解質膜の7Li+ピークは溶媒和イオン液体のピークより高磁場側にシフトした。これは、スチレン系エラストマーバインダーを用いた場合、電解質膜中のLi+イオンは電子供与された状態にあるためと考えられる。また、実施例4~7及び参考例2の電解質膜の複合化による状態変化について比較するために、各NMRピークから半値幅(FWHM)を求めた。半値幅は、ベースラインからピークトップの高さhを計測し、h/2の値のピーク幅を計測することで求めた。半値幅が大きいほどピークがブロードになり、複合化に関わらない自由な溶媒和イオン液体の数は少ないことを意味する。特に参考例2の電解質膜は膜中の溶媒和イオン液体比率が他の実施例と比べ大きく、自由な溶媒和イオンの数が多いことが示唆される。これらのことから、本発明の電解質膜、特に上述の好ましい配合比の範囲内である電解質膜(実施例4~6の電解質膜)では、イオン液体がそのままの状態で存在するのでなく、バインダーと複合化された状態で電解質粉体の近傍に存在する状態を形成して、従来の電解質とは異なる新たな伝導経路を有することがわかる。本発明の電解質膜は半値幅が1.25 ppm以上が好ましい。なお図14(a)において、Liのピークは1MLiCl/DOのピークを0ppmとして補正した。また図14(a)のカッコ内の数字は半値幅である。
参考例として挙げた電解質膜のDSCデータおよびNMRデータを図15および図16に示す。PTFEバインダーとの複合化により、電解質膜のピークは溶媒和イオン液体のピークより低磁場側にシフトした。46μm以上の粒子を用いて作製した電解質膜では、1ppmおよび-1ppm付近に7Li+のピークが観測された。粒子径が大きい場合、表面積が小さいため十分に相互作用が発現されず、状態が変化していない溶媒和イオン液体が残存することがわかる。



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