(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】洗掘状態監視システム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/44 20060101AFI20220311BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20220311BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20220311BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220311BHJP
G01S 15/10 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
G01N29/44
E01D1/00
E01D19/02
E01D22/00 A
G01S15/10
(21)【出願番号】P 2021156621
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2021-11-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514018238
【氏名又は名称】株式会社きんそく
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】奥野 勝司
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 憲二
(72)【発明者】
【氏名】田中 達
(72)【発明者】
【氏名】重松 孝昌
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105726(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113373994(CN,A)
【文献】米国特許第05753818(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
E01D 1/00-E01D 24/00
G01S 15/10
G01M 99/00
G01H 1/00-G01H 17/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象となる水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を監視する洗掘状態監視システムであって、
一対の送波器と受波器とからなり洗掘状態を計測する超音波探知機と、
前記超音波探知機を前記水中構造物に取り付ける取付部と、
前記取付部を介して前記水中構造物に取り付けられる前記超音波探知機の探知姿勢を調節する
ことで、前記水中構造物から反射するノイズ信号を抑制する姿勢調節部と、
前記超音波探知機を制御して洗掘状態を示す計測信号を取得する制御部と、
前記制御部で取得した計測信号を、通信媒体を介して受信して、各水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を監視する中央監視装置と、
を備え、
前記制御部は、前記姿勢調節部により調節された前記超音波探知機の探知姿勢を示す姿勢情報に基づいて前記計測信号を
鉛直方向の水深を示すように補正し、補正後の前記計測信号を前記中央監視装置に出力するように構成されている洗掘状態監視システム。
【請求項2】
前記姿勢調節部は、前記取付部に前記超音波探知機を姿勢変更可能に取り付けるジョイント機構と、前記ジョイント機構に組み込まれ、前記超音波探知機の前記姿勢情報を生成して前記制御部に出力する姿勢検出機構と、を備えている請求項1記載の洗掘状態監視システム。
【請求項3】
前記中央監視装置は、前記計測信号の値に基づいて前記制御部を介して前記超音波探知機の探知姿勢を遠隔制御するように構成されている請求項1または2記載の洗掘状態監視システム。
【請求項4】
前記超音波探知機から送波される超音波の発振周波数は200kHz±10kHzに設定され、指向特性が音圧半減角で全角6度に設定され、
前記中央監視装置は、前記計測信号に基づき算出した水深に基づいて、前記制御部を介して前記受波器で検出された反射信号が接続される増幅器のゲインを
遠隔で調節する
ことにより、濁液に含まれる物体からの反射信号を減衰させるように構成されている請求項1
から3の何れかに記載の洗掘状態監視システム。
【請求項5】
前記水中構造物の少なくとも一つに複数の前記超音波探知機が少なくとも水平方向距離を隔てて取り付けられ、前記中央監視装置は、各制御部から送信された前記計測信号を合成処理することにより
前記水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を示す監視画像を生成する合成処理部を備え
、合成した監視画像を表示部に表示するように構成されている請求項4記載の洗掘状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗掘状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
河川等にかけられる橋梁等の水中構造物では、局所洗掘や川底低下等によって橋脚等の安定性に関する健全度が低下する虞がある。
特許文献1には、風や水流による橋脚の常時微動を測定することによって、橋脚の健全度を評価する健全度予測装置が提案されている。
【0003】
当該健全度予測装置は、地盤に設けられた橋脚に関し、地盤表面の高さの変化に応じた健全度の変化について予測する健全度予測装置であって、前記橋脚および前記地盤を模した解析モデルであって地盤表面の高さを変えた複数の解析モデルのそれぞれに入力振動情報を入力し、各解析モデルにおける前記橋脚の応答振動情報を算出する振動情報算出手段と、各解析モデルにおける前記橋脚の応答振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積による比を橋脚の健全度として算出する健全度算出手段と、を有する。
【0004】
橋脚の常時微動を加速度センサで測定し、当該常時微動の測定値から、橋脚の固有振動数と相関するパワースペクトル面積比を算出する。そして、当該パワースペクトル面積比に基づいて土被り量を推定して、橋脚の健全度を評価するものである。しかし、加速度センサの測定データに、橋脚が設けられた河川の水位等の環境ノイズの影響が含まれるため、適正に健全度を評価できないという課題があった。
【0005】
特許文献2には、河川増水時等の非定常時において、卓越振動数を精度良く算出できない場合でも、橋脚、橋脚の基礎および基礎の地盤の少なくとも1つの健全度を適正に評価できるモニタリング装置が提案されている。
【0006】
当該モニタリング装置は、橋脚に設置され、前記橋脚、前記橋脚の基礎および前記基礎の地盤の少なくとも1つの健全度を測定するモニタリング装置であって、前記橋脚の常時微動を測定可能に構成された常時微動測定部と、前記橋脚の傾斜角を測定可能に構成された傾斜角測定部と、前記常時微動測定部による前記常時微動の測定データに基づいて、前記橋脚の卓越振動数を算出する解析部と、切替信号を入力可能に構成された入力部と、前記入力部に入力された前記切替信号に基づいて、前記常時微動測定部による前記常時微動の測定頻度および前記傾斜角測定部による前記傾斜角の測定頻度を変更する測定頻度変更部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-3417号公報
【文献】特開2020-183956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した加速度センサを用いた振動解析による手法では、環境ノイズ等の影響を完全に排除できず、正確な評価が困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、簡単な構成で精度よく洗掘状態を監視できる洗掘状態監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による洗掘状態監視システムの第一の特徴構成は、監視対象となる水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を監視する洗掘状態監視システムであって、一対の送波器と受波器とからなり洗掘状態を計測する超音波探知機と、前記超音波探知機を前記水中構造物に取り付ける取付部と、前記取付部を介して前記水中構造物に取り付けられる前記超音波探知機の探知姿勢を調節することで、前記水中構造物から反射するノイズ信号を抑制する姿勢調節部と、前記超音波探知機を制御して洗掘状態を示す計測信号を取得する制御部と、前記制御部で取得した計測信号を、通信媒体を介して受信して、各水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を監視する中央監視装置と、を備え、前記制御部は、前記姿勢調節部により調節された前記超音波探知機の探知姿勢を示す姿勢情報に基づいて前記計測信号を鉛直方向の水深を示すように補正し、補正後の前記計測信号を前記中央監視装置に出力するように構成されている点にある。
【0011】
取付部を介して超音波探知機を水中構造物に取付けて、水中構造物を支持する河床や海底等に向けて超音波を送波し、河床や海底から反射した超音波を受波することにより、超音波探知機から河床や海底までの距離を計測することができる。このようにして得られた計測信号を中央監視装置に送信することにより、中央監視装置で、複数の水中構造物に対する洗掘状況を集中して監視することができるようになる。ここで、水中構造物を支持する河床や海底等に向けて送波され反射された超音波に、水中構造物からの反射波がノイズ成分として含まれると正確な河床や海底までの距離を計測することが困難となる。そのような場合でも、姿勢調節部により超音波探知機の探知姿勢を調節することにより、水中構造物からの反射波の影響を排除または低減することができる。そして、調節された探知姿勢を示す姿勢情報に基づいて計測信号が補正されるので、超音波探知機から河床や海底までの正確な距離を把握することができるようになる。
【0012】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記姿勢調節部は、前記取付部に前記超音波探知機を姿勢変更可能に取り付けるジョイント機構と、前記ジョイント機構に組み込まれ、前記超音波探知機の前記姿勢情報を生成して前記制御部に出力する姿勢検出機構と、を備えている点にある。
【0013】
ジョイント機構により取付部に超音波探知機を姿勢変更可能に取り付けることができ、ジョイント機構に組み込まれた姿勢検出機構により自動生成された姿勢情報が制御部に入力されるので、超音波探知機の設置姿勢に応じて制御部に姿勢情報を手動で入力する煩雑な作業が不要になる。
【0014】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記中央監視装置は、前記計測信号の値に基づいて前記制御部を介して前記超音波探知機の探知姿勢を遠隔制御するように構成されている点にある。
【0015】
水底部までの深度の変化に応じて、姿勢調節部により超音波探知機の探知姿勢を遠隔制御により調節することにより、測定の妨げとなる橋脚等の干渉信号や濁液に含まれる物体からの反射信号を適切に減衰させることが可能になる。
【0016】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記超音波探知機から送波される超音波の発振周波数は200kHz±10kHzに設定され、指向特性が音圧半減角で全角6度に設定され、前記中央監視装置は、前記計測信号に基づき算出した水深に基づいて、前記制御部を介して前記受波器で検出された反射信号が接続される増幅器のゲインを遠隔で調節することにより、濁液に含まれる物体からの反射信号を減衰させるように構成されている点にある。
【0017】
発振周波数を200kHz±10kHzに設定するとともに音圧半減角で全角6度の指向特性に設定することで、水中構造物からの反射ノイズの影響を受け難くすることができ、また、水深に従って増幅器のゲインを可変に調節することにより、濁液に含まれる物体からの反射信号を減衰させて、計測精度を保持することができるようになる。
【0018】
同第五の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、前記水中構造物の少なくとも一つに複数の前記超音波探知機が少なくとも水平方向距離を隔てて取り付けられ、前記中央監視装置は、各制御部から送信された前記計測信号を合成処理することにより前記水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を示す監視画像を生成する合成処理部を備え、合成した監視画像を表示部に表示するように構成されている点にある。
【0019】
大型の水中構造物では、単一の超音波探知機による検出信号のみでは、安全性を担保することができず、複数の超音波探知機を設置する必要がある。そのような場合に、個々の超音波探知機からの計測信号を監視画像として個別に表示すると、却って把握し難くなる。そのような場合でも、合成処理部によって対象となる水中構造物に設置した複数の超音波探知機からの計測信号を合成処理して監視画像を生成することで、対象となる水中構造物に対する洗掘状態を適切に把握して総合的に安全性を評価することができるようになる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明によれば、簡単な構成で精度よく洗掘状態を監視できる洗掘状態監視システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)は河川に架けられた橋梁の説明図、(b)は橋梁を支持する橋脚の説明図
【
図2】洗掘状態監視システムの機能ブロックの構成を示す説明図
【
図3】(a)は鉛直下方を向けた超音波探知機の取付構造を示す側面図、(b)は(a)に対応する超音波探知機の要部説明図、(c)は斜め下方を向けた超音波探知機の取付構造を示す側面図、(d)は(c)に対応する超音波探知機の要部説明図
【
図4】(a)~(c)は合成処理部により合成処理される監視画像の説明図
【
図5】超音波探知機に対する信号処理部の処理手順を示すフローチャート
【
図6】中央監視装置に備えた監視処理部の処理手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明による洗掘状態監視システムの一態様を図面に基づいて説明する。
[水中構造物の例示]
図1(a)には、洗掘状態監視システムによる監視対象となる水中構造物の例として河川に設けられた橋梁2が示されている。橋梁2とは、道路、鉄道、水路などの輸送路において、輸送の障害となる河川、渓谷、湖沼、海峡あるいは他の道路、鉄道、水路などの上方にこれらを横断するために建設される構造物をいう。
【0023】
橋梁2は、障害となる河川などの上を横断する構造体である上部構造2Aと、上部構造2Aを支える構造体である下部構造2Bを備えている。橋梁2の両端で一般部と橋梁部を仕切り、一般部に対する擁壁となって上部構造2Aを支持する橋台2Cと、橋梁2の中間部で上部構造2Aを支持する橋脚2Dの其々の上部に躯体2Eが延出形成されている。各躯体2Eの上部に配された支承2Fを介して上部構造2Aを構成する主桁やアーチ橋等が設置される。
【0024】
橋脚2Dや橋台2Cは河床底部の地盤に強固に支持されているが、洪水や台風等の自然災害の発生時に、橋脚2Dや橋台2Cの周りに生じる水流の乱れによって橋脚2Dや橋台2Cの周囲だけが凹状に掘れる洗掘が生じる場合がある。洗掘が進行すると、橋脚2Dや橋台2Cを支持する地盤まで侵食される虞があり、そのような場合には、橋脚2Dや橋台2Cに沈下や傾斜が発生する虞がある。
【0025】
一級河川や海峡に設けられた橋梁2には、多数の橋脚2Dや橋台2Cが設けられ、其々の橋脚2Dや橋台2Cに洗掘が生じているか否か、どの程度に洗掘が進行しているかは非常に重要であり、自然災害の発生時であってもそれらを監視することが非常に重要となる。そのため、本発明による洗掘状態監視システムが用いられる。
【0026】
[洗掘状態監視システムの構成]
図2に示すように、洗掘状態監視システム1は、複数の橋脚側装置10と、橋梁2から離れた位置に設置された中央監視装置50を備えて構成されている。橋脚側装置10と中央監視装置50とは、インターネットを介して通信可能に接続されている。なお、インターネット以外の無線通信媒体を用いることも可能であり、インターネットに接続する場合には中継用のゲートウェイを備えてもよく、無線通信の具体的な態様は特に限定されるものではない。
【0027】
橋脚側装置10は、送受波器20と、制御部30と、通信インタフェース40を備えている。送受波器20には、超音波を出力する送波器と、河川等の底部で反射された超音波を検出する受波器を備えている。
【0028】
制御部30には、送波器を制御して探査用の超音波を所定のインタバルで発振させるセンサ制御部31と、受波器で受波された反射信号を増幅して洗掘状態を示す計測信号を取得する信号処理部32と、送受波器20及び制御部30などに必要となる電力を供給するバッテリ33等を備えている。また、バッテリ33にはソーラーパネルが接続可能に構成され、ソーラーパネルを接続すると太陽光エネルギーによる発電電力でバッテリ33を充電することが可能になる。
【0029】
中央監視装置50は、出力部60と、監視処理部70と、通信インタフェース80等を備えている。監視処理部70は、通信インタフェース80を介して各橋脚側装置10に備えた通信インタフェース40から送信された計測信号を受信して、橋梁2を構成する橋脚2D等の洗掘状態を監視する。そして、計測信号を含む監視結果を出力部60に出力する。
【0030】
出力部60は、表示装置や発報装置等で構成されている。表示装置には、例えば洗掘状態を示す計測信号が時系列で表示されるとともに、水底までの深さが目視可能に表示される。
【0031】
監視処理部70は、計測された水底までの深さが、予め設定された閾値深さを超えるまで洗掘が進んだと判断すると、発報装置を起動して管理者に注意すべき状態に到った旨の情報を伝達する。なお、閾値深さは水中構造物毎に予め設定しておけばよく、一つの値ではなく、危険度の順に注意レベル、警戒レベル、危険レベルと段階的に設定してもよい。
【0032】
発報装置として鳴動装置、メーラーなどが適宜用いられる。鳴動装置から出力される警報音により、中央監視装置50が設置された管理室で作業する管理者に異常状態を伝達し、メーラーを介した警告メールが送信された橋梁2の管理者に異常状態を伝達することで、橋梁2の通行を速やかに制限することができ、安全を確保することができる。さらに、発報装置からの出力で橋梁の入口に設置されたゲート機構を遠隔制御することも可能になる。
【0033】
そのため、監視処理部70には、橋脚側装置10が何れの橋梁2の何れの位置に設置された橋脚2Dであるかを一意に特定可能なIDコード、各IDコードに関連して規定された異常洗掘レベル等を記憶する記憶装置が設けられている。当該記憶装置には、橋脚側装置10から送信された計測信号等が時系列的に記憶されるとともに、警告メールを送信する送信先メールアドレス等が記憶されている。また、橋脚側装置10の制御部30に備えた記憶装置には、其々固有のIDコードが記憶され、IDコードに加えてタイムスタンプが付された計測信号等の制御情報が中央監視装置50に送信される。
【0034】
[送受波器の取付構造]
図1(b)に示すように、橋台2Cや橋脚2Dの躯体2Eには、平時水面の水面下に位置するように送受波器20が設置され、躯体2Eの上部に配された支承2Fには、制御部30及び通信インタフェース40が設置されている。躯体2Eが狭義の水中構造物となる。送受波器20に備えた送波器から河床Bに向けて送波され、送受波器20に備えた受波器で受波された河床Bからの反射波を示す計測信号が、信号ケーブルCを介して制御部30に入力される。信号ケーブルCは、躯体2Eにアンカーボルトで固定された固定部Fを介して保持されたケーブル配管Pに収容されている。
【0035】
図3(a)~(d)に示すように、送受波器20は、送波器3A及び受波器3Bでなる超音波探知機3と、センサ保持部4と、取付部5と、姿勢調節部6とを備えている。
【0036】
センサ保持部4は、断面が「コ」の字形に形成されたアルミ製の板状体で構成され、正面に一対の窓部4B,4Cが形成されている。送波器3Aの送波面と受波器3Bの受波面が窓部4B,4Cから河床Bを臨むように、送波器3Aと受波器3Bとからなる超音波探知機3がボルトナットでセンサ保持部4に固定されている。また、センサ保持部4の一対の対向面には、其々一対の取付孔4Aが形成されている。
図3(b),(d)に示す符号Cは信号ケーブルである。
【0037】
取付部5は、筒状のケーブル配管Pと、ケーブル配管Pの下端に固定された断面が「コ」の字形に形成されたアルミ製のアタッチメント5Aとで構成され、ケーブル配管Pは、
図1(b)で示したように、複数のアンカーボルトを介して躯体2Eに取付けられている。なお、アタッチメント5Aもケーブル配管Pと同様にアンカーボルトを介して躯体2Eに取付けることも可能である。
【0038】
アタッチメント5Aのうちケーブル配管Pの取付面と対向する面が開放され、開放面と直交する一対の側面には複数の取付孔H1~H4が穿設され、取付孔H1~H4の内面側に固定用のナットが溶着されている。センサ保持部4に形成した一対の取付孔4Aとアタッチメント5Aに形成された取付孔H1~H4の何れかを位置合わせしてボルトBLで固定することにより、アタッチメント5Aに対するセンサ保持部4の取付姿勢が調節される。
【0039】
すなわち、センサ保持部4に形成した一対の取付孔4Aと、アタッチメント5Aに形成した取付孔H1~H4と、両者を位置決め固定するボルトナットからなるジョイント機構により姿勢調節部6が構成される。
【0040】
ボルトBLが締結された取付孔H1~H4を検知する3連のスイッチSWがナットに対向するように設置されている。ナットを挿通したボルトBLの端部が何れかのスイッチSWの接点を押圧することにより、ケーブル配管Pを挿通した信号線SLを介してスイッチSWの状態が制御部30に入力される。つまり、スイッチSWにより、センサ保持部4の取付姿勢を検出する姿勢検出機構7が構成される。
【0041】
図3(a),(b)の例では、センサ保持部4が鉛直下方を臨むように取付孔H1,H4を介してアタッチメント5Aに取り付けられ、
図3(c),(d)の例では、センサ保持部4が鉛直下方に対して角度θ=20°傾斜するように取付孔H1,H2を介してアタッチメント5Aに取り付けられている。また、取付孔H1,H3介してアタッチメント5Aに取り付けられる場合には、センサ保持部4が鉛直下方に対して角度θ=10°傾斜するようになる。
【0042】
アタッチメント5Aに対してセンサ保持部4を傾斜姿勢で取り付けるのは、送波器3Aから出射された超音波が躯体2Eの壁面から反射したノイズ信号が受波器3Bで受波されることを回避するためである。そのため、超音波の指向角と河床Bの深さ(計測深度)に応じて、躯体2Eの壁面からの反射波の影響を低減するために傾斜角度を調節する必要がある。例えば、設置時に水底までの水深を計測し、その値に応じて傾斜角度を調節するようにすればよい。
【0043】
調節された後のセンサ保持部4の姿勢は、上述した姿勢検出機構7により検出され、制御部30に備えた信号処理部32によって傾斜角θに対応する計測信号の値にcosθを乗ずることにより、鉛直方向の水深を示す計測信号に補正される。
【0044】
上述した例では、姿勢調節部6を、センサ保持部4に形成した一対の取付孔4Aと、アタッチメント5Aに形成した取付孔H1~H4と、両者を位置決め固定するボルトナットからなるジョイント機構で構成した例を示したが、ジョイント機構はこのような態様に限るものではない。例えば、取付部5に対して躯体2Eに沿う回転軸周りにセンサ保持部4を連続的またはステップ的に回動させる回動機構で構成することも可能である。そして、センサ保持部4の回転軸周りの回転角度を検出するエンコーダにより姿勢検出機構7を構成することができる。
【0045】
なお、姿勢検出機構7を設ける代わりに、制御部30に治具を接続して手動で傾斜角θを入力するように構成してもよい。治具として傾斜角θを入力するための専用アプリケーションをインストールしたスマートフォンなどを好適に用いることができる。スマートフォンと制御部30とのインタフェースとして、ブルートゥース(登録商標)などを用いることができる。
【0046】
さらに、例えば、取付部5に対して躯体2Eに沿う回転軸周りにセンサ保持部4を連続的またはステップ的に回動させる回動機構と、回動機構を回動駆動するモータ等のアクチュエータと、センサ保持部4の回転軸周りの回転角度を検出するエンコーダを備えることも可能である。
【0047】
このような構成を備えると、中央監視装置50に備えた監視処理部70が、測定された水底部までの深度の変化に応じて、各橋脚側装置10に備えた制御部30を介してセンサ保持部4の傾斜角度を遠隔制御するとともに、増幅器のゲインを遠隔で調節することにより、測定の妨げとなる橋脚等の干渉信号や濁液に含まれる物体からの反射信号を適切に減衰させることが可能になる。
【0048】
本実施形態における超音波探知機3の仕様は以下の通りである。
計測深度1~10mで精度±30cm、発振周波数200kHz±10kHz、送信周期1秒、送信パルス幅0.1m秒、送波指向角6度(音圧半減角で全角6度)、受波指向角12度(指向特性が音圧半減角で全角12度)。つまり、受波指向角は送波指向角の2倍前後の値、好ましくは2倍に設定されている。また、計測深度に応じて受波器3Bで検出された反射信号が接続される増幅器のゲインを複数段に切り替えることで、水底からの反射波以外の砂礫や気泡などから反射したノイズ信号を低減させるように構成されている。なお、水中での超音波の伝搬速度は、約1500m/秒であり、例えば送波から受波までの時間が0.01秒であれば、水深は約7.5mとなる。
【0049】
図7には、受波器3Bで検出され信号処理部32で増幅された反射信号の波形が例示されている。超音波探知機3が設置された基準面から下方で、薄いグレーで示された信号が濁液に含まれる物体や橋脚2Dなどからの反射信号であり、最下部に太いグレーで示された信号が水底部を示す。
【0050】
増幅器のゲインは、予め計測した水底部までの深度に応じて濁液に含まれる物体などからのノイズ信号を減衰可能な値に設定すればよく、また、経時的に水底までの深度が変動する場合には、中央監視装置50からの制御指令に応じて各橋脚側装置10の制御部30を介した遠隔操作により切り替え制御することができる。
【0051】
図4(a)には、躯体2Eの一側面に沿って3台の送受波器20が水平方向距離を隔てて設置される態様が示されている。大型の橋梁2では各躯体2Eも大きくなり、1台の送受波器20では広域にわたって洗掘状態を検知することが困難となる。そのため、発振周波数を下げて指向角を大きくすると、橋脚2Dや躯体2Eからの反射ノイズが大きくなる。そこで、指向角の狭い送受波器20を一つの躯体2Eに併設することで、広域にわたって洗掘状態を検知することが可能となる。
【0052】
図4(b)には、各送受波器20で検出された水底Pa,Pb,Pcにおける水深の経時特性が示されている。当該計測信号が橋脚側装置10から中央監視装置50に送信されると、中央監視装置50に備えた監視処理部70により合成処理されて、
図4(c)に示すような監視画像に合成されて表示装置に出力される。
【0053】
この例では、監視処理部70が合成処理部として機能し、水底Pa,Pb,Pcにおけるある時刻の水深が、各送受波器20が設置された躯体2Eの幅方向に沿って点としてプロットされ、各点を滑らかに連結するスプライン曲線などによって水深の分布が示される。なお、各送受波器20の設置位置は、予め設定された橋脚のIDに付加された設置位置情報で特定される。
【0054】
大型の水中構造物では、単一の超音波探知機による検出信号のみでは、安全性を担保することができず、複数の超音波探知機を設置する必要がある。そのような場合に、個々の超音波探知機からの計測信号を監視画像として個別に表示すると、却って把握し難くなる。そのような場合でも、合成処理部によって対象となる水中構造物に設置した複数の超音波探知機からの計測信号を合成処理して監視画像を生成することで、対象となる水中構造物に対する洗掘状態を適切に把握して総合的に安全性を評価することができるようになる。
【0055】
この例では、躯体2Eの一側面に沿って3台の送受波器20が水平方向距離を隔てて設置される態様を示しているが、躯体2Eの周面に沿って複数台の送受波器20を、水平方向距離を隔てて設置することにより、監視対象となる橋脚2Dの周囲の水底の洗掘状態を監視できるようになる。
【0056】
監視処理部70は、例えば、発報装置を起動するための閾値深さが、危険度の順に注意レベル、警戒レベル、危険レベルと段階的に設定されている場合、複数の超音波探知機からの計測信号の何れかが閾値深さを超えると、対応する橋脚を示すコード情報と、橋脚における超音波探知機の設置位置または計測対象位置を示すコード情報と、危険度に応じたメッセージやコード情報等を含む警報が出力されるように発報装置を制御する。
【0057】
図5には、橋脚側装置10に備えた制御部30の動作が示されている。電源が投入されると、予め定められた初期設定が実行され(SA1)、次にセンサ保持部4の姿勢情報が入力される(SA2)。
【0058】
中央監視装置50との間で送受信処理が実行され(SA3)、中央監視装置50からの測定指令を受信し(SA4,Y)、インタバルタイマがカウントアップされると(SA5,Y)、0.1秒の送波処理を実行し(SA6)、1秒のインタバルタイマを設定する(SA7)。
【0059】
さらに、受波処理を行ない(SA8)、受信信号とセンサ保持部4の傾斜角度から洗掘状態を示す鉛直方向の水深を算出して(SA9)、ステップSA3に戻って演算結果等を中央監視装置50に送信する。
【0060】
ステップSA4で測定指令を受信しない場合には(SA4,N)、送波処理を停止する。
【0061】
図6には、中央監視装置50に備えた監視処理部70の動作が示されている。電源が投入されると、予め定められた初期設定が実行され(SB1)、次に各橋脚側装置10との間で送受信処理が実行される(SB2)。
【0062】
橋脚側装置10の何れかから超音波探知機の異常情報を受信すると(SB3,Y)、該当する橋脚側装置10のセンサ異常を判定して発報処理を実行し(SB9)、その旨を表示装置に表示する(SB8)。
【0063】
正常な橋脚側装置10に対して(SB3,N)、測定指令を出力し(SB4)、橋脚側装置10から受信した信号を処理し、同一の橋脚側装置10から複数の信号を受信すると上述した合成処理を行なう(SB6)。
【0064】
各橋脚側装置10からの受信信号に基づいて橋脚が異常に洗掘されているか否かが判定され(SB7)、ステップSB5~SB7の結果が表示装置に表示され、異常な洗掘状態と判断された場合には、発報装置を介して発報処理される(SB8)。
【0065】
上述した実施形態は本発明の一態様であり、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、また本発明の作用効果を奏する範囲で各部の具体的な構成は適宜変更設計することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1:洗掘状態監視システム
2:橋梁
2C:橋台
2D:橋脚
2E:躯体
10:橋脚側装置
20:送受波器
3:超音波探知機
3A:送波器
3B:受波器
4:センサ保持部
5:取付部
6:姿勢調節部
30:制御部
31:センサ制御部
32:信号処理部
33:バッテリ
50:中央監視装置
60:出力部
70:監視処理部
【要約】
【課題】簡単な構成で精度よく洗掘状態を監視できる洗掘状態監視システムを提供する。
【解決手段】監視対象Bとなる水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を監視する洗掘状態監視システム1であって、洗掘状態を計測する超音波探知機(送受波器20)と、前記超音波探知機を前記水中構造物に取り付ける取付部と、前記取付部を介して前記水中構造物に取り付けられる前記超音波探知機の探知姿勢を調節する姿勢調節部と、前記超音波探知機を制御して洗掘状態を示す計測信号を取得する制御部30と、各制御部30で取得した計測信号を通信媒体を介して受信して、各水中構造物を支持する河床や海底等の洗掘状態を監視する中央監視装置50と、を備え、前記制御部30は、前記姿勢調節部により調節された前記超音波探知機の探知姿勢を示す姿勢情報に基づいて前記計測信号を補正し、補正後の前記計測信号を前記中央監視装置50に出力するように構成されている。
【選択図】
図2