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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】二酸化マンガンとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/02 20060101AFI20220311BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20220311BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220311BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20220311BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C01G45/02
B01J23/34 M
B01J20/06 A ZAB
C02F1/28 E
B01D53/86 280
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021180545
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2021-11-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】栗田 純志
(72)【発明者】
【氏名】木村 絵夢
(72)【発明者】
【氏名】吉竹 明
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-518938(JP,A)
【文献】特開2016-108212(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111384366(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00 - 45/12
B01J 21/00 - 38/74
B01J 20/06
C02F 1/28
B01D 53/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積(BET値)150m/g以上350m /g以下であり、且つ嵩密度0.4g/cm以上1.0g/cm 以下である結晶構造がδ型の二酸化マンガン。
【請求項2】
比表面積(BET値)294m /g以上352m /g以下であり、且つ嵩密度0.42g/cm 以上1.0g/cm 以下である結晶構造がα型の二酸化マンガン。
【請求項3】
請求項1記載のδ型二酸化マンガンを有効成分とする脱臭、排気ガス無害化用、金属イオン除去用及び/又は揮発性有機化合物除去用の吸着剤及び/又は触媒。
【請求項4】
請求項2記載のα型二酸化マンガンを有効成分とするオゾン、又は金属イオン除去用の吸着剤及び/又は触媒。
【請求項5】
請求項1記載の高BET値且つ高嵩密度のδ型二酸化マンガンの製造方法であって、
過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下する工程において、
硫酸マンガン溶液の滴下速度を7.8mL分以上93mL/分以下に調整することを特徴とするδ型二酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
請求項2記載の高BET値且つ高嵩密度のα型二酸化マンガンの製造方法であって、
過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下する工程において、
硫酸マンガン溶液の滴下速度を7.8mL分以上93mL/分以下に調整し、
過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下・撹拌後に、24時間以上の静置時間を設けることを特徴とするα型二酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
請求項2記載の高BET値且つ高嵩密度のα型二酸化マンガンの製造方法であって、
濃度0.25mol/L以上の過マンガン酸カリウム溶液及び1.375mol/L以上の硫酸マンガン溶液を用いて反応させることを特徴とするα型二酸化マンガンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭、排気ガス無害化、オゾン除去、重金属を含む金属イオン除去等の触媒として活用できる二酸化マンガンに関する。具体的にはBET値が高く、且つ嵩密度が高い二酸化マンガン、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から二酸化マンガンは、無機触媒として、脱臭、排気ガスの無害化、金属イオンの吸着など様々な用途に用いられている。また、二酸化マンガンはα型、β型、γ型、δ型(バーネサイト型)、ε型など様々な結晶構造を取る。結晶構造によって物理的・化学的性質が異なることから、触媒としての用途も異なることが知られている。例えば、δ型は金属の吸着・除去に用いられており、その製造方法や結晶構造が開示されている(特許文献1~5)。また、結晶構造によって、オゾン分解能が異なることが示されている(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、鉛、カドミウム、水銀などの重金属の吸着剤として用いる結合水が多い二酸化マンガンの製造方法が記載されている。2価のマンガン塩水溶液を過マンガン酸塩水溶液、次亜塩素酸塩水溶液、過酸化水素水等に添加して反応させることにより、δ型二酸化マンガンを得ることが開示されている。特許文献2には、海水中のストロンチウムイオンの吸着剤として使用する二酸化マンガンが開示されており、層間内にカリウムイオンを有する層状マンガン酸化物、すなわちδ型の結晶構造であることが記載されている。マンガン原料とカリウム原料を混合して焼成する固相反応法で合成し、層状マンガン酸化物を得ることが開示されている。特許文献3には、環境浄化用の吸着性能に優れたセリウム含有δ型二酸化マンガン酸化物粒子が開示されている。特許文献4には、原子力発電所における廃液中のストロンチウムの吸着に用いるためのδ型二酸化マンガンが開示されている。2価のマンガン塩水溶液と水酸化アルカリ金属水溶液と、過酸化水素水やペルオキソ二硫酸塩水溶液等の酸化剤を混合して製造することが開示されている。特許文献5には、水溶液中のルテニウムを吸着・除去するためのα型、又はδ型二酸化マンガンが記載されている。非特許文献1には、α型、β型、γ型の3種の結晶構造の二酸化マンガンを合成し、そのオゾンの分解能を解析している。その結果、α型の結晶構造を有する二酸化マンガンのオゾン分解能が最も優れていることが示されている。
【0004】
上述のように、種々の製造方法によるα型、δ型の二酸化マンガンが提案されている。しかし、近年、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、VOC)の吸着・除去に関心が集まっていることから、より多様で高性能の吸着・除去性能を持つ二酸化マンガンが求められている。常温常圧で揮発性が高いVOCは、光化学スモッグやPM2.5の発生原因となることから、排出規制や排出削減が求められている。VOCは、トルエン、キシレンなどの有機溶剤に含まれることから、大規模施設ではVOC排出規制が、中小規模施設ではVOC排出削減の自主的な取り組みへの推進が求められている。従来から二酸化マンガンは、脱臭・排気ガス無害化用にも用いられているが、嵩密度が十分に高くなく、触媒として使用する際にフィルターへの担持が困難であることから、より性能の良い二酸化マンガンの合成が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-18312号公報
【文献】国際公開第2018/110615号
【文献】特開2020-33215号公報
【文献】特開2021-87931号公報
【文献】国際公開第2016/152141号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jia,J., Zhang, P., & Chen, L., 2016, Applied Catalysis B; Enviromental, Vol.189, pp.210-218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
BET値が150m/g以上と高く、且つ嵩密度が0.4g/cm以上という性能を備えた二酸化マンガンであれば、脱臭・排気ガスを無害化する目的、さらにVOC除去に適しているものと考えられる。また、他の用途であっても、吸着能が高いことから、より効果の高い吸着剤、触媒として機能すると考えられる。
【0008】
特許文献1~5、非特許文献1に記載の二酸化マンガンは、ストロンチウムやルテニウムなどの重金属の吸着、あるいはオゾンの吸着に優れたものであることが記載されている。しかし、上述のように排気ガスの無害化用二酸化マンガンは、比表面積(BET値)が大きいことが重要であるが、それとともに嵩密度が高い必要がある。上述のように、触媒として使用するために、フィルターに担持する場合には、嵩密度が0.4g/cm以上であることが望ましいからである。
【0009】
特許文献1に記載の重金属吸着剤用の二酸化マンガンや、特許文献2に記載のストロンチウムイオンの吸着剤用のマンガン酸化物は、BET値や嵩密度についての記載はない。特許文献3に記載の二酸化マンガン酸化物粒子は、BET比表面積が50m/g以上150m/g以下であり、平均粒子径が3μm以上30μm以下であり、かつ、体積粒子径分布測定における、最大頻度を示す粒径のピーク強度に対する、累積10%および90%の粒径のピーク強度比が0.5以下となるモノモ―ダルな粒度分布を有することが開示されている。しかし、嵩密度に関する記載はなく、また、BET値も50m/g以上150m/g以下と低い値となっている。特許文献4に記載のδ型二酸化マンガンは、嵩密度は、0.9g/cmと高いものの、BET値についての記載ない。しかし、明細書の図面から推定されるBET値はあまり高くなく、VOCの吸着等には十分な性能を有していないと考えられる。特許文献5に記載のルテニウムを吸着・除去するための二酸化マンガンは、BET値は300m/g以上であるが、嵩密度についての記載ない。また、非特許文献1には、異なる結晶型間でのオゾン分解能の比較はあるものの、BET値や嵩密度に関する記載はない。
【0010】
上述のように、脱臭、排気ガス無害化等に用いる二酸化マンガンは、嵩密度、BET値ともに高い必要があるが、上述の文献に記載されている二酸化マンガンは、両方の性能を満足しているものとは考えられない。本発明は、BET値、嵩密度ともに高い二酸化マンガン、及び製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に対し、本発明は以下の二酸化マンガン、及びその製造方法に関する。
(1)比表面積(BET値)150m/g以上であり、且つ嵩密度0.4g/cm以上である結晶構造がδ型又はα型の二酸化マンガン。
上記範囲のBET値及び嵩密度を満たすδ型又はα型の二酸化マンガンは十分な量をフィルターに担持可能であり、十分な性能を発揮することができる。
(2)(1)記載のδ型二酸化マンガンを有効成分とする脱臭、排気ガス無害化用、金属イオン除去用及び/又は揮発性有機化合物除去用の吸着剤及び/又は触媒。
(3)(1)記載のα型二酸化マンガンを有効成分とするオゾン、又は金属イオン除去用の吸着剤及び/又は触媒。
(4)(1)記載の高BET値且つ高嵩密度のδ型二酸化マンガンの製造方法であって、過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下する工程において、硫酸マンガン溶液の滴下速度を調整することを特徴とするδ型二酸化マンガンの製造方法。
反応に必要なモル当量の硫酸マンガン溶液を過マンガン酸カリウム溶液に滴下する速度を調整することによって、反応が進行する速度を調整し、BET値、及び嵩密度が最適な範囲になるように調整し得ることを見出した。滴下速度の調整によって、BET値、及び嵩密度を調整できることは本発明者らが見出したことである。δ型二酸化マンガンは、脱臭や排気ガスの無害化、また、金属イオン、揮発性有機化合物の吸着性能が高い。
(5)(1)記載の高BET値且つ高嵩密度のα型二酸化マンガンの製造方法であって、過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下・撹拌後に、20時間以上の静置時間を設けることを特徴とするα型二酸化マンガンの製造方法。
滴下速度を調節して過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下し、撹拌後に静置時間を設けることにより、BET値、嵩密度が高いα型の二酸化マンガンを得ることができる。α型二酸化マンガンは、オゾンや金属イオン除去に優れている。
(6)(1)記載の高BET値且つ高嵩密度のα型二酸化マンガンの製造方法であって、濃度0.25mol/L以上の過マンガン酸カリウム溶液及び1.375mol/L以上の硫酸マンガン溶液を用いて反応させることを特徴とするα型二酸化マンガンの製造方法。
高濃度の溶液を用いて反応させることにより、滴下に要する時間が短時間であっても、BET値、嵩密度の高いα型二酸化マンガンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】滴下時間を変えて製造した二酸化マンガンの結晶構造をX線回折により解析した結果を示す図。
図2】滴下時間を変えて製造した二酸化マンガンのSEM像(上段)、及び粒径分布を示す図。
図3】過マンガン酸溶液に硫酸マンガン溶液を滴下・撹拌後に静置する時間を設けて製造した二酸化マンガンの結晶構造をX線回折により解析した結果を示す図。
図4】原料の薬品濃度を変えて製造した二酸化マンガンの結晶構造をX線回折により解析した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
対象となる物質、具体的には、VOC、オゾン、Pb、Cd、Co、Hg、Ni、Sb、Ru、Srを含む金属イオン等を効率良く除去・吸着し、フィルターへ担持が容易な二酸化マンガンは、BET値が150m/g以上、嵩密度が0.4g/cm以上であることが望ましい。この条件を満足する二酸化マンガンの製造方法の検討を行った。条件を変えて製造方法を検討した結果、過マンガン酸カリウム(KMnO)溶液へ硫酸マンガン(MnSO)溶液を添加する際の滴下速度の調整、滴下・撹拌後に静置して反応液に沈殿を浸漬しておくこと、あるいは反応液の濃度の調整により、BET値が高く、嵩密度が高い二酸化マンガンを製造することができた。また、BET値、嵩密度を満足する二酸化マンガンの結晶構造をX線回折により解析した結果、α型、又はδ型であった。さらに、粒径分布を解析したところ、二次粒子が球形に近い形状をしていたことから、これが高い嵩密度の要因であると考えられた。
【0014】
BET値及び嵩密度が高い二酸化マンガンは下記の方法によって製造できる。本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例
【0015】
[BET値、嵩密度の高いδ型二酸化マンガンの製造]
過マンガン酸カリウム溶液に硫酸マンガン溶液を滴下により添加し、以下の反応式に示す二酸化マンガンを製造する。
3MnSO+2KMnO+2HO→5MnO+KSO+2HSO
滴下速度がBET値、嵩密度に影響を与えるか検討を行った。硫酸マンガン溶液の滴下速度を変え、反応に必要なモル当量の硫酸マンガンを滴下する時間を変えた以外は全て同じ条件で製造を行っている。まず、0.10mol/Lの過マンガン酸カリウム、2.0mol/L硫酸(HSO)溶液20Lに、0.55mol/Lの硫酸マンガン、2.0mol/L硫酸溶液5.6Lを滴下する。1分間に滴下する量を変えることにより、5.6L全量の滴下が終了するまでの時間を調整した。滴下完了までの時間(表1、滴下時間)を30分(比較例1)、1時間(実施例1)、4時間(実施例2)、6時間(実施例3)と変えて滴下を行った。なお、滴下時間30分、1時間、4時間、6時間の滴下速度は、それぞれ約187mL/分、93mL/分、23mL/分、16mL/分である。滴下終了後2時間静かに攪拌しながら反応を行う。反応後イオン交換水で4回洗浄し、10%水酸化カリウム(KOH)溶液でpH7.0に中和した後、100℃で24時間乾燥させた。乾燥させた凝集体は解砕処理を行い、目開き106μmの篩にかけた。
【0016】
製造した二酸化マンガンのBET値、嵩密度を測定した。BET値は、比表面積測定装置((株)マウンテック製、Macsorb HM-model 1208)を用いてNガス吸着によるBET1点法で測定した。嵩密度は、容積が既知の容器へ試料をスリ切りまで充填した時の重量から計算した。結果を表1に示す。滴下時間30分では、BET値は302m/gと高いものの、嵩密度が0.29g/cmと要求水準を満たさない。滴下時間を1時間に調整して反応を行うと、BET値は284m/g、嵩密度0.43g/cmと要求を満たす二酸化マンガンとなる。表1の結果から分かるように、BET値は滴下時間を調整し、時間をかけて滴下することにより直線的に減少する傾向にあり、嵩密度は増加していく傾向にある。滴下時間は12時間を超すとBET値が要求水準である150m/g以上を満たさない可能性がある。また、実験結果から嵩密度は滴下時間を6時間以上としても、これ以上は僅かに増加するに過ぎないと考えられる。これらデータから、高BET値且つ高嵩密度のδ型二酸化マンガンを製造するためには滴下速度を調整し、1時間以上12時間以下で反応に必要なモル当量の硫酸マンガン溶液を過マンガン酸カリウム溶液に滴下する必要がある。具体的には、滴下時間を1時間以上12時間以下、好適には1時間以上6時間以下、更に好適には1.5時間以上4時間以下、滴下速度に換算した場合には7.8mL分以上93mL/分以下、好適には16mL分以上93mL/分以下、更に好適には23mL分以上62mL/分以下に調整すれば、BET値150m/g以上であり、嵩密度0.4g/cm以上という条件を満たす二酸化マンガンになるものと考えられる。また、滴下時間を変えて調整した場合、BET値の上限は350m/g、嵩密度の上限は1.0g/cm程度であると考えられる。
【0017】
【表1】
【0018】
次に、BET値、嵩密度の高い実施例2の二酸化マンガンと比較例1の二酸化マンガンの結晶構造をX線回折により解析した(図1)。なお、X線回折は、X線回折装置((株)リガク製、Multiflex)を用い、線源にはCuKα線(波長0.154nm)を使用して2θ=5°~80°の範囲で測定した。その結果、実施例2(滴下時間4時間)の試料も、比較例1(滴下時間30分)の試料もδ型の結晶構造を示していた。結晶構造は、物理的・化学的性質を決め、触媒の用途に関わるが、δ型を維持していることから、滴下時間を調整し、滴下完了時間を1時間以上とすることにより製造した二酸化マンガンは、脱臭・排気ガス無害化、VOCの除去、金属イオンの吸着に好適に用いることができる。
【0019】
硫酸マンガン溶液をゆっくりと滴下することにより、嵩密度が増加することが明らかとなったが、その原因を確認するために形態観察と粒径測定を行った(図2)。形態観察はSEM(株式会社日立ハイテク製、TM3000)を用いて行った。粒径測定はレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製、Microtrac MT3300EXII)を用い、試料を水性分散媒に投入し超音波を60秒間照射した後、粒子屈折率を1.77、粒子形状を非球形、溶媒屈折率を1.333とした条件で測定した。各粒子の体積で重みづけされた平均値(体積平均径)を平均粒径としている。SEM像で観察される小さい粒子を一次粒子、一次粒子の凝集塊を二次粒子という。平均粒径として測定されるのは、二次粒子の粒径である。
【0020】
比較例1(滴下時間30分)、実施例2(滴下時間4時間)の平均粒径はそれぞれ13.01μm、13.11μmと大きく変わらないものの、実施例2の粒径分布がより狭い範囲に分布していることが明らかとなった。粒径分布が狭い範囲に分布していることは、粒径が整っていることを意味している。また、SEM像より二次粒子が球形に近いことから、二次粒子が球形に近づく過程で、分布が狭くなると考えられる。したがって、嵩密度が高い原因は、二次粒子が球形に近いことが原因であると考えられ、滴下速度を遅くするほど球形に近い二次粒子が形成されていると考えられる。BET値、嵩密度の高いδ型の二酸化マンガンは、脱臭、排気ガス無害化、VOCの除去、金属イオンの吸着に有効な吸着剤、触媒とすることができる。
【0021】
[BET値、嵩密度の高いα型二酸化マンガンの製造方法]
(1)滴下・撹拌後に静置時間を設ける製造方法(実施例4)
次に、α型の二酸化マンガンについてもBET値、嵩密度を高く製造する方法を検討した。δ型二酸化マンガンの製造方法と異なるのは、硫酸マンガン溶液を滴下し、2時間撹拌した後、24時間静置している点である。具体的には以下のようにして製造を行った。20Lの0.20mol/Lの過マンガン酸カリウム、2.0mol/L硫酸溶液に、1.10mol/Lの硫酸マンガン、2.0mol/L硫酸溶液5.6Lを滴下時間2時間で添加した。ここでは滴下時間を2時間で行っているが、滴下時間は上記実施例と同様に1時間以上12時間以下で、反応に必要なモル当量の硫酸マンガン溶液を過マンガン酸カリウム溶液に滴下すれば良い。滴下終了後2時間静かに攪拌しながら反応を行った後、24時間静置し、その後イオン交換水で4回洗浄し、10%水酸化カリウムで中和した後、100℃で24時間乾燥させた。乾燥させた凝集体は解砕処理を行い、目開き106μmの篩にかけた。
【0022】
製造した二酸化マンガンのBET値は294m/g、嵩密度は0.49g/cmであった。X線回折による解析結果を図3に示す。解析結果が示すように、試料を長時間反応液に浸漬して製造した二酸化マンガンの結晶構造はα型であった。ここでは24時間反応液に浸漬したが、20時間以上であれば、同様の結果が得られると考えられる。24時間浸漬すれば十分と考えられ、それ以上浸漬することによる効果も考えられないことから、20時間以上24時間以下静置した後に次の工程を行えば良い。α型の結晶構造をとる場合には、特許文献5に記載されているようにルテニウム等の金属イオン除去、非特許文献1に記載されているようにオゾン除去に効果の高い吸着剤や触媒として好適に使用することができる。
【0023】
(2)原料薬品濃度を変えた検討(実施例5)
次に、原料である過マンガン酸カリウム溶液、硫酸マンガン溶液濃度を変えて、BET値、嵩密度の高い二酸化マンガンが製造できるか検討を行った。表2のように、過マンガン酸カリウム溶液、硫酸マンガン溶液の濃度を変えて、検討を行った。いずれも2.0mol/L硫酸溶液を用いて検討を行った。なお、0.10mol/L過マンガン酸カリウム溶液、0.55mol/L硫酸マンガン溶液という濃度は、比較例1、実施例1~3と同様の濃度である。原料の薬品濃度を高くした他は、上述の比較例1と同様の方法で製造した。具体的には、硫酸マンガン溶液5.6Lを過マンガン酸カリウム溶液20Lに30分かけて滴下し、滴下終了後2時間静かに攪拌しながら反応を行う。反応後イオン交換水で4回洗浄し、10%水酸化カリウム溶液で中和した後、100℃で24時間乾燥させた。乾燥させた凝集体は解砕処理を行い、目開き106μmの篩にかけた。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示すように、比較例1の3倍の濃度の過マンガン酸カリウム溶液(0.30mol/L)、硫酸マンガン溶液(1.65mol/L)を用いて製造を行った場合には、BET値352m/g、嵩密度0.42g/cmと要求される水準の二酸化マンガンを製造することができた。
【0026】
X線回折により解析した結果、濃度を現行の3倍に増加して反応を行った実施例5の二酸化マンガンの結晶はα型の構造であることが示された(図4)。結晶構造は現行濃度よりも増加させて反応を行うことにより徐々にα型に変わって行くものと考えられる。2.5倍以上の濃度で反応を行うことによりBET値、嵩密度の高い二酸化マンガンを製造することができると考えられる。また、実質的には3.5倍以上の濃度とすることは原料の薬品の溶解度の都合上難しいことから、2.5倍以上3.5倍以下、具体的には、過マンガン酸カリウム溶液0.25mol/L、硫酸マンガン溶液1.375mol/L以上、過マンガン酸カリウム溶液0.35mol/L、硫酸マンガン溶液1.925mol/L以下の濃度の薬品を調整し、反応させることにより、BET値、嵩密度の高い二酸化マンガンを製造することができる。実施例4で示した二酸化マンガン同様、原料薬品濃度を上げて製造したα型の二酸化マンガンもルテニウム等の金属イオン除去、オゾン除去に効果の高い吸着剤や触媒として好適に使用することができる。
【0027】
製造方法を検討することにより、BET値が150m/g以上と高く、且つ嵩密度が0.4g/cm以上と高い二酸化マンガンを製造することができた。BET値及び嵩密度の高い二酸化マンガンは、フィルターに十分な量を担持可能であり、δ型の結晶構造を有するものは脱臭、排気ガス無害化、VOCの除去等に、α型の結晶構造を有するものは、オゾンやルテニウム等の金属イオンの除去に使用することができる。
【要約】
【課題】排気ガス無害化に対応できる比表面積(BET値)150m/g以上であり、嵩密度0.4g/cm以上の二酸化マンガンを提供することを課題とする。
【解決手段】製造条件を変えて検討した結果、過マンガン酸カリウム(KMnO)溶液への硫酸マンガン(MnSO)溶液の滴下速度の調整、あるいは滴下・撹拌後に静置して反応液に沈殿を浸漬しておくこと、反応液の濃度の調整により、BET値が高く、嵩密度が高い二酸化マンガンを製造できることが明らかとなった。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4