(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】弁輪形成リングおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021196272
(22)【出願日】2021-12-02
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2020200594
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520399969
【氏名又は名称】株式会社S.H.Iバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏明
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-526432(JP,A)
【文献】特表2018-519986(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁輪形成リングの製造方法であって、
該弁輪形成リングは、
バネ性材料からなる帯状板部材が、僧帽弁輪に沿った形状にて開口部を定めるようにかつC字形状を呈するように、湾曲した構造を有するコア部と、
前記コア部の表面を覆うポリマー材料製の外層とを有し、
前記開口部を血流方向に通過する中心軸線を含む平面にて該コア部を切断したときの、前記帯状板部材の断面の長手方向軸線が、前記中心軸線に対して傾いており、その傾きは、前記中心軸線を血流方向に移動するにつれて前記開口部の口径が小さくなっていく傾きであり、かつ、
当該製造方法は、
(i)コア部形成工程を有し、該コア部形成工程は、前記弁輪形成リングのコア部を形成するための円弧状部材を用意し、該円弧状部材に外力を加えて該コア部の帯状板部材の形状へと変形させ、かつ、前記帯状板部材の形状へと変形させた状態で熱処理を施して、該帯状板部材の形状を原形状として有するコア部を形成する工程であり、
前記円弧状部材は、前記弁輪形成リングのコア部の帯状板部材と、同じ材料、同じ板厚、および、同じ帯幅を持った帯状板が円弧を呈するように湾曲した部材であって、該帯状板の板面は平坦であり、該帯状板の帯幅の方向が前記円弧の半径方向に一致するものであり、
(ii)外層形成工程を有し、該外層形成工程は、前記コア部の表面をポリマー材料製の外層で覆う工程である、
前記製造方法。
【請求項2】
前記円弧状部材が、中心角135~225度の円弧を呈するように湾曲した部材である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記帯状板部材の材料が、形状記憶合金であるNi-Ti合金であって、
上記熱処理が、該Ni-Ti合金の形状記憶熱処理温度から、Af点よりも低い温度への急冷である、
請求項
1または
2に記載の製造方法。
【請求項4】
当該製造方法が製造すべき上記弁輪形成リングが、僧帽弁輪に適用するための僧帽弁輪形成リングであって、
製造すべき僧帽弁輪形成リングのコア部は、帯状板部材が、僧帽弁輪に沿った形状であるサドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように湾曲したものであり、
上記円弧状部材の2つの端部には、該円弧状部材を、前記C字形状に変形させた状態で固定するための貫通孔がそれぞれ設けられており、
当該製造方法における上記(i)のコア部形成工程では、前記円弧状部材を前記C字形状に変形させた状態で保持しかつその状態のままで熱処理を行うための治具が用いられ、
該治具は、第1平面を持ったベース部を有し、第1平面の所定の位置には、リング固定部材が設けられており、
該リング固定部材は、前記サドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように変形させた円弧状部材の前記2つの端部を固定するための、2つの斜面を有し、
前記2つの斜面は、前記円弧状部材の2つの端部がサドルシェイプに沿うように、第1平面上の2つの位置にあり、かつ、
前記2つの斜面は、前記コア部の傾きを持った斜面となっており、かつ、
前記2つの斜面は、前記2つの端部を、前記サドルシェイプに対応する高さの位置に固定するための固定部を有しており、
第1平面の所定位置には、前記円弧状部材を前記サドルシェイプを描くC字形状へと変形させた状態を維持するように、該C字形状に沿った位置に、3つ以上のガイド部材が突起しており、
前記3つ以上のガイド部材のうちの2つのガイド部材は、前記C字形状において、最も大きい曲率にて湾曲する2つの対向する湾曲部分の内側にそれぞれ位置し、かつ、2つのガイド部材は、それぞれ、前記円弧状部材を、前記コア部の傾きを持った斜面へと傾けるように、前記湾曲部分の外側へと傾いた部分を有し、
前記3つ以上のガイド部材のうちの残りのガイド部材は、前記2つの対向する湾曲部分同士を接続する中央湾曲部分の外側に位置して、前記円弧状部材が外側へ広がることを妨げ、該円弧状部材の形状を、製造すべき僧帽弁輪形成リングのコア部のC字形状へと規制する部材である、
請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
外層が布製の層であって、該布製の層は、上記帯状板部材の上記断面の形状と同じ断面形状を持った芯材の周囲に糸を編んで得られた編組チューブである、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の三尖弁や僧帽弁に対する弁輪形成術に用いられる弁輪形成リング、および、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、僧帽弁閉鎖不全症など、心臓における種々の弁疾患(とりわけ弁輪に関係する疾患)を治療する弁形成術では、弁輪の補正や補強のために種々の弁輪形成用リング(人工弁輪、弁形成バンドなどとも呼ばれている)が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2)。以下、弁輪形成用リングを、単に「リング」ともいう。
【0003】
特許文献1に記載されたリングの形状は、
図12(a)に市販品の一例を示すように、僧帽弁の弁口の全周を完全に取り囲む閉ループ形状であって、かつ、血流方向に部分的に大きく波打った立体的な形状(サドルシェイプ(鞍形)などと呼ばれる形状)となっている。このリングは、閉ループ形状のコア部と、該コアの外面を覆うポリエステル布とを有しており、
図12(a)の例では、該コアは、金属とプラスチックとが積層された複合構造となっている。該コア部によって、リング全体の形状を保つ適度な剛性が付与され、また、僧帽弁の生体的な動きに合わせて部分的に柔軟性が付与されている。
【0004】
一方、特許文献2に記載された弁輪形成リングは、
図12(b)に僧帽弁輪形成リングの市販品の一例を示すように、リングの概念に属してはいるが、閉ループ形状の一部を切り欠いたC字形状(パーシャルリング形状)であり、また、サドルシェイプのような立体的な形状ではなく、平面的にC字を描く形状である。このリングもまた、コアと、該コアの外面を覆うポリエステル布とを有しているが、該コアは、柔軟なシリコーンゴム製であり、この柔軟性により、僧帽弁輪の元来のサドルシェイプを変形させることなく、かつ、僧帽弁輪の3次元的な動きに追従することができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許公開第2009-0177276A1号公報
【文献】米国特許第4055861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の弁輪形成リングを本発明者が詳細に検討したところ、次の問題点が存在していることがわかった。
【0007】
先ず、
図12(a)に示した閉じたループ形状のリングおよび(b)に示したC字形状のリングの両方に共通する問題点としては次のようなものが挙げられる。
例えば、僧帽弁輪形成術に用いられるリングでは、該リングの断面形状(該リングの中心軸線を含む平面で該リングを切断したときの断面形状)が、
図13(a)および(b)に示すように、円形や、正方形に近い形状(正方形の角部に丸みを付けた形状)であるから、僧帽弁の表面に対して十分に大きい接触面積を以てぴったりと接することは困難である。また、これらのリングは、
図5(b)にも示すように、僧帽弁輪の表面から左心房側の流路中に比較的大きく突き出す。よって、
図13(a)に示すように、血流に対する抵抗が大きく、かつ、乱流を生じさせるので好ましくなく、また、
図13(b)に示すように、血行動態上問題のない軽度に血液が逆流する場合でも、逆流ジェットがリングに当たると乱流が生じ、その結果、高度溶血性貧血が引き起こされる恐れがある。
【0008】
次に、
図12(a)に示した閉じたループ形状のリングに固有の問題点として、次のようなものが挙げられることがわかった(該問題点を、僧帽弁輪形成術を例として述べるが、三尖弁輪形成術の場合も同様である)。
(a)僧帽弁の前尖の基部が比較的剛性の高いリングに固定されてしまうので、弁尖運動が阻害される。
(b)僧帽弁の弁口面積がリングの開口面積(不動)に限定されるので、例えば、運動付加時に弁口面積が不足し、結果、狭窄状態になるという問題が生じる。
(c)リング中の金属製コアを避けて外層に固定糸をかける必要があるので、
図5(b)にも示すように、リングが縫合ラインよりも後流側に位置し、それによりリングが僧帽弁口中に張り出すことになり、また、該固定糸の結び目が流路中に突き出すことになる。
【0009】
また、
図12(b)に示したC字形状の柔軟な弁輪形成リングに固有の問題点としては、次のようなものが挙げられることがわかった。
(d)柔軟な紐状態であるために、特に端部(C字の切り欠き部分を挟んで互いに向かい合った2つの端部)に弁輪から力が繰り返し作用し、よって、該端部の固定糸に大きい張力が繰り返し作用し、固定糸や弁輪の組織にダメージを与える。
(e)端部の固定糸に張力が繰り返し作用することにより、弁輪組織の微小裂隙形成、修復過程が繰り返され、該リングが最初の縫着位置からずれる場合がある。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を低減し得る弁輪形成リングを提供すること、および、該弁輪形成リングの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の主たる構成は、以下の通りである。
〔1〕弁輪形成リングであって、
バネ性材料からなる帯状板部材が、僧帽弁輪に沿った形状にて開口部を定めるようにかつC字形状を呈するように、湾曲した構造を有するコア部と、
前記コア部の表面を覆うポリマー材料製の外層とを有し、
前記開口部を血流方向に通過する中心軸線を含む平面にて該コア部を切断したときの、前記帯状板部材の断面の長手方向軸線が、前記中心軸線に対して傾いており、その傾きは、前記中心軸線を血流方向に移動するにつれて前記開口部の口径が小さくなっていく傾きである、
前記弁輪形成リング。
〔2〕当該弁輪形成リングが、僧帽弁輪に適用するための僧帽弁輪形成リングである、前記〔1〕に記載の弁輪形成リング。
〔3〕帯状板部材が、僧帽弁輪に沿った形状であるサドルシェイプを描きながら、C字形状を呈するように湾曲している、前記〔2〕に記載の弁輪形成リング。
〔4〕帯状板部材の材料が、形状記憶合金であるNi-Ti合金である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の弁輪形成リング。
〔5〕上記Ni-Ti合金のAf点が、15℃以下である、前記〔4〕に記載の弁輪形成リング。
〔6〕帯状板部材の上記の断面の長手方向軸線が、上記中心軸線に垂直な平面に対して仰角45~60度をなすように傾いている、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の弁輪形成リング。
〔7〕外層が布製の層であって、該布製の層は、上記帯状板部材の上記断面の形状と同じ断面形状を持った芯材の周囲に糸を編んで得られた編組チューブである、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の弁輪形成リング。
〔8〕心臓における弁疾患の治療用である、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の弁輪形成リング。
〔9〕前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の弁輪形成リングの製造方法であって、当該製造方法は、
(i)コア部形成工程を有し、該コア部形成工程は、前記弁輪形成リングのコア部を形成するための円弧状部材を用意し、該円弧状部材に外力を加えて該コア部の帯状板部材の形状へと変形させ、かつ、前記帯状板部材の形状へと変形させた状態で熱処理を施して、該帯状板部材の形状を原形状として有するコア部を形成する工程であり、
前記円弧状部材は、前記弁輪形成リングのコア部の帯状板部材と、同じ材料、同じ板厚、および、同じ帯幅を持った帯状板が円弧を呈するように湾曲した部材であって、該帯状板の板面は平坦であり、該帯状板の帯幅の方向が前記円弧の半径方向に一致するものであり、
(ii)外層形成工程を有し、該外層形成工程は、前記コア部の表面をポリマー材料製の外層で覆う工程である、
前記製造方法。
〔10〕前記円弧状部材が、中心角135~225度の円弧を呈するように湾曲した部材である、前記〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕上記帯状板部材の材料が、形状記憶合金であるNi-Ti合金であって、
上記熱処理が、該Ni-Ti合金の形状記憶熱処理温度から、Af点よりも低い温度への急冷である、
前記〔9〕または〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕当該製造方法が製造すべき上記弁輪形成リングが、僧帽弁輪に適用するための僧帽弁輪形成リングであって、
製造すべき僧帽弁輪形成リングのコア部は、帯状板部材が、僧帽弁輪に沿った形状であるサドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように湾曲したものであり、
上記円弧状部材の2つの端部には、該円弧状部材を、前記C字形状に変形させた状態で固定するための貫通孔がそれぞれ設けられており、
当該製造方法における上記(i)のコア部形成工程では、前記円弧状部材を前記C字形状に変形させた状態で保持しかつその状態のままで熱処理を行うための治具が用いられ、
該治具は、第1平面を持ったベース部を有し、第1平面の所定の位置には、リング固定部材が設けられており、
該リング固定部材は、前記サドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように変形させた円弧状部材の前記2つの端部を固定するための、2つの斜面を有し、
前記2つの斜面は、前記円弧状部材の2つの端部がサドルシェイプに沿うように、第1平面上の2つの位置にあり、かつ、
前記2つの斜面は、前記コア部の傾きを持った斜面となっており、かつ、
前記2つの斜面は、前記2つの端部を、前記サドルシェイプに対応する高さの位置に固定するための固定部を有しており、
第1平面の所定位置には、前記円弧状部材を前記サドルシェイプを描くC字形状へと変形させた状態を維持するように、該C字形状に沿った位置に、3つ以上のガイド部材が突起しており、
前記3つ以上のガイド部材のうちの2つのガイド部材は、前記C字形状において、最も大きい曲率にて湾曲する2つの対向する湾曲部分の内側にそれぞれ位置し、かつ、2つのガイド部材は、それぞれ、前記円弧状部材を、前記コア部の傾きを持った斜面へと傾けるように、前記湾曲部分の外側へと傾いた部分を有し、
前記3つ以上のガイド部材のうちの残りのガイド部材は、前記2つの対向する湾曲部分同士を接続する中央湾曲部分の外側に位置して、前記円弧状部材が外側へ広がることを妨げ、該円弧状部材の形状を、製造すべき僧帽弁輪形成リングのコア部のC字形状へと規制する部材である、
前記〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕外層が布製の層であって、該布製の層は、上記帯状板部材の上記断面の形状と同じ断面形状を持った芯材の周囲に糸を編んで得られた編組チューブである、前記〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明による弁輪形成リング(以下、当該リングともいう)は、患者または施術対象動物の弁輪(例えば、僧帽弁輪)の表面に対して、従来品よりも大きい接触面積にてぴったりと、より安定して縫着されることができる。また、当該リングは、自体の偏平な断面形状に起因して、
図4(b)、
図5(a)に示すように、患者の弁輪の表面から流路中に突き出す高さが従来品よりも低くなり、血流に乱流を発生させ難くなる。
【0013】
また、当該リングでは、
図5(a)に示すように、自体の広い接触面の外層下を固定糸の通過経路として用い、該固定糸の結び目を当該リングの外周の外側に作ることができる。この縫着態様では、
図5(a)に示すように、固定糸は、通常の縫合ラインの位置から当該リングの開口側の外層に入り、心壁側(接触面側)の外層内を通過し、該外層の外周側から外に出て結び目が作られる。よって、従来、固定糸の結び目によって血流に発生していた微小な乱流が、本発明では抑制される。
【0014】
以上の効果により、僧帽弁などの入口付近で血流に乱流を発生させるという従来品の問題を抑制することができ、血液が凝固して血栓が生じる可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明による弁輪形成リングの構成の一例を示す図である。
図1(a)は、当該リングを中心軸線に沿って見た図である。該中心軸線は、
図1(a)では、点P1を紙面に垂直に通過する軸線である。
図1(b)は、
図1(a)に示した当該リングを
図1(a)の下方から見た図である。
図1(c)は、
図1(a)のX1-X1切断端面矢視図であり、コア部と外層の断面を模式的に示している。コア部の切断端面には領域を区別するためのハッチングを施しており、外層の切断端面へのハッチングは省略している。
【
図2】
図2は、本発明による弁輪形成リングの断面を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、本発明による弁輪形成リングの実施例品の外観の一例を示す写真図であり、当該リングを
図1(b)に示す中心軸線Zに沿って見た図である。同図では、当該リングの寸法が分かりやすいように、1辺10mmの方眼が描かれた面上に当該リングが配置されている。
【
図4】
図4は、本発明による弁輪形成リングを僧帽弁輪に縫着した状態を示す模式図である。
図4(a)は、当該リングを
図1(b)に示す中心軸線Zに沿って見た図であり、僧帽弁との位置関係を示すために、前尖(A1、A2、A3)と後尖(P1、P2、P3)を描き加えている。
図4(b)は、当該リングが縫着された僧帽弁を中心軸線Zに沿って切断したときの端面図である。
【
図5】
図5は、本発明と従来のそれぞれの弁輪形成リングを僧帽弁輪に縫着した状態の差異を示す模式図である。
図5(a)に当該リングを示し、
図5(b)に従来のリングを示している。
【
図6】
図6は、本発明による弁輪形成リングの各部の寸法を例示するための図である。
図6(a)は、当該リングを
図1(b)に示す中心軸線Zに沿って見た図である。
図6(b)は、
図6(a)に示した当該リングを
図6(a)の下方から見た図である。
【
図7】
図7は、本発明による弁輪形成リングの好ましい態様例を示す図である。
図7(a)、(b)は、当該リングを
図1(b)に示す中心軸線Zに沿って見た図である。
図7(a)、(b)では、当該リングの外観図の上にコア部の外観図を重ねることでコア部と外層の形状を示している。
【
図8】
図8は、本発明の弁輪形成リングのコア部の製造方法の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の弁輪形成リングのコア部の好ましい製造方法の一例を示す図である。
図9(a)は円弧状部材の一例を示した図であり、
図9(b)、(c)は、
図9(a)の円弧状部材を変形させて、サドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように湾曲した帯状板部材(=コア部)の一例を示した図である。
図9(b)は、帯状板部材をC字形状の切り欠き部分の側から見た図である。
図9(c)は、
図9(b)の帯状板部材を背面側から見た図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した製造方法を好ましく実施し得る治具とその使用方法を示した図である。
【
図11】
図11は、
図10に示した治具の試験品の一例を示した写真図である。同図では、治具の寸法が分かりやすいように、1辺10mmの方眼が描かれた面上に治具が配置されている。
【
図12】
図12は、従来の僧帽弁輪形成リングを例示する写真図である。
【
図13】
図13は、従来の僧帽弁輪形成リングを僧帽弁輪に縫着した状態を示す切断端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、本発明の弁輪形成リングについて説明する。以下の説明では、当該リングを装着すべき弁輪として僧帽弁輪を挙げて、当該リングを説明する。僧帽弁輪独特の形状であるサドルシャイプに関連する説明を除いては、以下の説明は、三尖弁輪形成リングの説明としても適用可能である。図に示す符号は、
図1~13では、同じ部分には同じ符号を適宜に付与しており、それらの符号について、図ごとに同じ説明をすることは省略している。
【0017】
図1に構成の一例を示すように、当該リングは、コア部10と、その表面を覆うポリマー材料製の外層20とを有する。
図1(a)、(b)では、視覚的に分かりやすいように、当該リングに角部の線(エッジライン)を描き加えているが、実際の製品では、角部に丸みが付き、エッジラインは明確には現れない場合がある。コア部10は、
図1(a)、(b)では外層20に隠れているが、コア部の形状の概要は、
図1(a)、(b)に現れている。コア部10は、
図1(c)、
図8、
図9に例示するように、バネ性材料からなる帯状板部材が、装着目的とする弁輪に沿った形状にて、開口部(
図8(b)~(d)に示すQ1)を定めるように、かつ、C字形状を呈するように湾曲した構造を有する。
【0018】
コア部10を構成する帯状板部材は、
図2に断面形状を示すように、所定の板厚t1と帯幅w1とを持った帯状の板である。帯幅w1に対して板厚t1が十分に小さいので、該帯状板部材の該断面形状は、
図2に示すように細長い長方形状であり、よって、長辺に沿った長手方向軸線10aを持っている。
【0019】
当該リングの重要な特徴の1つは、コア部の形状にある。本発明では、
図1(c)に示すように、コア部が定める開口部を血流方向(図では矢印Fで示した下向きの方向)に通過する設計上の中心軸線Zが規定される。この中心軸線Zを含む平面にて、該コア部10を切断したときの、帯状板部材の断面の形状は、上記したように、板を切断したときの断面形状として細長い断面形状となる。本発明では、この細長い断面形状の長手方向軸線10aが、中心軸線Zに対して傾いていることが重要である。換言すると、コア部10を構成する帯状板部材は、漏斗状をなすように傾いている。その傾きは、
図1(c)によく現れているように、中心軸線Zを血流方向Fに移動するにつれて、開口部の口径が小さくなっていくような傾きである。
図1(c)では、その傾きは、中心軸線Zに垂直な平面H1に対して角度(仰角)θ1だけ起き上がった傾きとして規定されている。コア部がこのような傾きを有することによって、当該リングの断面も、
図1(c)に示すように、細長い長方形状となっており、中心軸線Zを血流方向Fに移動するにつれて、開口部の口径が小さくなっていくような傾きを持った形状となっている。
【0020】
当該リングの規定における「血流方向」とは、当該リングを僧帽弁輪に装着したと仮定した場合に、左心房側から左心室側へと向かうように、開口部を貫通する方向である。当該リングの好ましい態様では、健常な僧帽弁輪自体が描くサドルシェイプにフィットするように、それと同様のサドルシェイプとなっている。よって、
図1(b)において、C字形状の2つの端部(c5、c6)が隆起した方向(該図の上側)が左心房側であり、その反対側(該図の下側)が左心室側である。
【0021】
図1および
図4(a)に示すように、当該リングが描くサドルシェイプは、より大きい曲率にてより急激に曲がる2つの湾曲部分(湾曲の中心はc2、c3)が、後交連~右線維三角の付近、および、前交連~左線維三角の付近にそれぞれ対応して、左心室側(図の下側)に落ち込み、より小さい曲率にてより緩やかに曲がる中央湾曲部分(その湾曲の中心はc1)が後尖弁輪に対応して緩やかに左心房側に隆起し、また、2つの端部(c5、c6)も緩やかに左心房側に隆起した形状である。
【0022】
以上の構成を有することによって、上記した発明の効果が得られ、上記した従来の弁輪形成リングの問題点が低減される。以下に当該リングの各部をより詳細に説明する。
【0023】
(コア部)
コア部10は、健常な弁口(本例では、僧帽弁口)を取り囲むことができる閉ループの全周のうちの一部の区間(
図8(d)に例示する区間b1)を切り欠いた、概してC字形状を呈する部品である。以下、この閉ループのうちの切り欠かれた区間b1の部分を「切り欠き部分」と呼び、残るC字形状を呈する部分(即ち、コア部の実体部分)を「C字形状部分」とも呼ぶ。同様に、当該リングについても、切り欠かれた区間の部分を「切り欠き部分」と呼び、C字形状を呈する実体部分を「C字形状部分」とも呼ぶ。
【0024】
(コア部の開口部)
コア部10の開口部は、C字形状部分によって定められる領域であり、とりわけ、
図8(d)に示すように、血流方向の出口側において、内側エッジが描くC字形状の湾曲線によって定められる領域Q1である。この内側エッジが描くC字形状の湾曲線は、
図8(d)の例では、一方の端部a5、湾曲の頂点a2、湾曲(中央湾曲部)の頂点a1、湾曲の頂点a3、他方の端部a6を、サドルシェイプを描きながら滑らかに通過する立体的な曲線である。より詳細には、コア部10の開口部は、前記のC字形状の湾曲線に、切り欠き部分の湾曲線b2を加えた閉ループによって取り囲まれた領域である。該湾曲線b2は、
図8(d)に例示するとおり、外側に凸状となるように滑らかに湾曲した曲線である。該湾曲線b2は、前記のC字形状の湾曲線の2つの端部(a5、a6)とそれぞれに滑らかに接続される。健常な僧帽弁輪が描く環状の形状を知る当業者であれば、コア部のC字形状部分(とりわけ、前記した内側エッジが描くC字形状の湾曲線)に基づいて、切り欠き部分の湾曲線b2を適切に加えて、コア部10の開口部の形状を特定することができる。
【0025】
(中心軸線)
図1(b)、(c)に現れる中心軸線Zは、コア部および当該リングに共通する設計上の基準軸線である。中心軸線Zは、健常な僧帽弁を通過する血流の流れ方向(血流方向)に延びる理想的な血流軸線に対応する。即ち、本発明において、「開口部を血流方向に通過する中心軸線」とは、例えば、当該リングを僧帽弁輪に装着した場合に、該開口部の中心を理想的に通過する血液の流れに沿った軸線を意味する。コア部10のサドルシェイプの曲線から中心軸線Zを求めることは可能であるが、中心軸線Zを先ず定めて基準線とし、それに基づいて開口部を規定する方が、該開口部の各部の湾曲や、中心軸線と開口部の幾何学的な関係がより明確となる。以下、中心軸線Zを基準線として、開口部の形状、当該リングの形状を説明する。
【0026】
(当該リングの形状)
図1(a)は、当該リングを中心軸線Zに沿って、上流側(当該リングを僧帽弁輪に装着したと仮定した場合の左心房側)から見た図である。以下、この図を当該リングの上面図という。中心軸線Zは、点P1を上面図の紙面に垂直に通過する。血流の向きは、中心軸線Zに沿って、紙面の手前側から裏側へと進む向きである。
図1(c)に示すように、当該リングは、コア部10に外層20を加えた構成を有する。よって、上面図における当該リングの形状は、コア部10と同様にC字形状を呈する。本発明の一実施例では、上面図である
図1(a)に現れるC字形状は楕円形に近い形状であり、中心軸線Zと点P1で直交する長軸線Xと短軸線Yとを有する。
図1(b)、(c)に示すように、当該リングは、コア部10と同様に、漏斗状の内側斜面S1と外側斜面S2を有し、サドルシェイプを描きながらC字形状に湾曲している。
【0027】
(当該リングに求められるバネ特性)
当該リングのバネ特性は、主としてコア部の特性である。外層20がエラストマーなどのポリマー材料からなるソリッドな層である場合には、該外層もバネ特性に影響を与える場合があるが、外層が布製の層である場合には、該外層はバネ特性には実質的に影響を与えない。当該リングのバネ特性は、例えば、
図12(a)に示す弁輪形成リングなど、従来公知のバネ性を持った弁輪形成リングのバネ特性を参照することができる。
【0028】
(コア部を構成する帯状板部材の材料)
帯状板部材の材料は、当該リングに求められる上記の力学的な特性を達成し得るバネ性材料が利用可能である。また、当該リングは、僧帽弁輪に縫着されるので、帯状板部材の材料は、生体適合性を有することが必要である。
本発明でいうバネ性材料には、弾性体として変形から復帰する性質を示す材料のみならず、超弾性体として変形から復帰する性質を示す材料も含まれる。
【0029】
帯状板部材の材料として利用可能なバネ性材料は、弁輪形成リングとして適切なバネ性(変形しても原形へ弾性的に復帰し得る特性)を該コア部に付与し得、かつ、生体適合性を有し、好ましくは、経時的に変化し難い材料が利用可能である。該バネ性材料のバネ特性は、材料によって異なるが、帯状板部材の厚さや帯幅を局所的にまたは全体的に変えることによって、適切なバネ特性となるように調整することができる。そのようなバネ性材料としては、医療用の種々のプラスチック材料(弾性変形と原形状への復帰が可能なポリマー材料)、βチタン合金やNi-Ti合金などのバネ性を有する金属材料や合金材料が挙げられる。
【0030】
(コア部を構成する帯状板部材の材料としてのNi-Ti合金)
上記した帯状板部材の材料のなかでも、形状記憶合金が好ましい材料として挙げられ、なかでも、Ni-Ti(ニッケル-チタン)合金が、特に好ましい形状記憶合金として挙げられる。Ni-Ti合金は、例えば、JIS T 7404:2013に規定された「インプラント用チタン-ニッケル(Ti-Ni)合金」では、Niの質量分率が53.5~57.5(%)であり、Tiの質量分率がその残部または46.5~42.5(%)である。
【0031】
当該リングのコア部にとって好ましいNi-Ti合金は、形状記憶合金としてのAf点(オーステナイト相変態終了温度)が、体温よりも十分に低い温度であるような合金である。そのようなAf点の好ましい範囲としては、15℃以下が例示される。該Af点の下限は特に限定はされないが、例えば0℃が挙げられる。本発明の実施例で用いたNi-Ti合金のAf点は、製造メーカーの呼称が5℃であり、ASTM F2063-18に準拠した試験では、該Af点は1~8℃であった。Af点がこのように低いNi-Ti合金であれば、弁形成術を行うための手術室の通常の室温(20~30℃)や患者の体温(35~40℃)においては、該Ni-Ti合金は超弾性を発現する。例えば、通常のバネ材料では塑性変形するような比較的大きい変形が手術時に加えられたとしても、前記のNi-Ti合金からなるコア部であれば、原形状に復帰し、患者の弁輪に縫合された後は、適切なバネ性にて、弁輪を支持することができる。
【0032】
本発明の実施例では、コア部を構成する帯状板部材の材料として、株式会社吉見製作所製のNi-Ti合金板(厚さ0.3mm、Ni:55.85wt%、Ti:残部)を用いた。このNi-Ti合金板は、他の微量な元素C、O、N、N+O、Co、Cu、Cr、H、Fe、Nb等も含有するが、それらの微量な含有量の記載は省略する。このNi-Ti合金板のメーカー呼称のAf点は上記したとおり5℃であり、ASTM F2063-18に準拠した試験では、該Af点は1~8℃であった。
【0033】
Ni-Ti合金は、例えばニチノール(登録商標)という名称にて販売されており、生体内へ埋め込むことが可能な金属材料として従来より医療分野で利用されている。
本発明では、Ni-Ti合金製の平坦なC字形状をなす板材(円弧状部材)を、弁輪に沿うようにサドルシェイプ形状に波打った形状へと治具などを用いて変形させ、その変形状態で、450~520℃程度(実施例では490℃)の形状記憶熱処理温度に加熱し、次いでAf点よりも低い温度(例えば、5℃のAf点に対しては、0℃付近)へと、低温の液体(例えば、十分な量の氷を混ぜた0℃に近い水)を用いて急冷する熱処理を加える。熱処理の液体は、0℃以下であっても凍結しない液体であってもよい。この熱処理(形状記憶処理)により、該サドルシェイプ形状に波打ったC字形状が原形状となる。このように形状記憶処理されたC字形状かつサドルシェイプ形状のコア部は、例えばヒトの心臓内部の温度(発熱時を含み、概して35~40℃程度)では、弁輪形成リングとして好ましいバネ性を示す。
【0034】
帯状板部材の材料は、上記したポリマー材料または金属(単一金属や合金、Ni-Ti合金などの形状記憶合金)だけからなる単一の材料であってもよく、ポリマー材料からなる層と金属材料からなる層との積層体のような複合材料であってもよい。また、好ましい変形特性や応力特性が得られるように、C字形状の湾曲に沿って、断面積や断面形状を局所的に変化させてもよい。
【0035】
(帯状板部材の傾きの角度)
上記したように、中心軸線Zを含む平面(例えば、
図1(a)において点P1を含み、紙面に垂直な任意の平面)にて、コア部10を切断したときの、帯状板部材の断面の長手方向軸線10aは、
図1(c)に示すように、中心軸線Zに垂直な平面H1に対して角度(仰角)θ1だけ起き上がって傾いている。この角度θ1の値は、C字形状部分を周方向に移動するにつれて変動してよい。例えば、1つの僧帽弁輪形成リング内での角度の変動や、僧帽弁輪形成リングとしての角度θ1の許容範囲を全て含めた該角度θ1の値は、概ね45~60度程度あり、僧帽弁輪に対しては、50度がより好ましい角度として例示される。
【0036】
(帯状板部材の板厚と帯幅)
図2は、中心軸線Zを含む平面にて当該リングを切断したときの断面の模式的に示した図である。同図では、該断面の長手方向軸線が水平方向に延びるような姿勢にて、該断面を示している。
コア部10である帯状板部材の厚さt1は、材料によって異なるが、Ni-Ti合金の場合には、0.2~0.5mm程度が好ましく、例えば0.3mm程度が特に好ましい。
帯状板部材の帯幅w1は、材料によって異なるが、Ni-Ti合金の場合には、2~3mm程度が好ましく、例えば、患者の弁輪の大きさに応じて、2.4mm、2.6mm、2.8mmなど、適宜に異なる幅の製品を提供してよい。
【0037】
図2の例において、プレス抜きやレーザー加工によって得られた帯状板部材の断面の角部11は、鋭いエッジやバリ(かえり)になっている場合があるので、そのような角部にはバレル研磨などを施して、適当な丸みを持った曲面とすることが好ましい。
【0038】
(外層)
外層は、生体適合性を有しかつ柔軟な材料であることが求められる。外層は、シリコーン、ポリエステルなどの生体に埋め込み可能なポリマー材料からなるソリッドな層であってもよく、また、生体に埋め込み可能なポリマー材料製の繊維(ポリエステルなど)からなる公知の布製の層であってもよい。布製の外層は、その多孔性の布組織の内部に弁輪から線維芽細胞が入り込み、弁輪の細胞組織と布製の外層とが一体的になるという点で好ましい。布製の層としては、ポリマー材料製の繊維を編んだ編組チューブが例示される。
図3は、当該リングの実施例品の外観の一例を示す写真図であり、編組チューブの表面の様子が現れている。編組チューブなどの布製の層の端部は、縫合糸や加熱によって閉じることが好ましい。外層の材料や構造、編組チューブの織り方や端部の閉じ方などは、従来公知の僧帽弁輪形成リングの外層を参照することができる。
【0039】
(外層の好ましい態様)
当該リングの好ましい態様では、外層として用いられる編組チューブの内部空間の断面形状が、コア部の帯状板部材の断面形状(
図2にハッチングで示した断面形状)と同様の長方形である。このような内部空間の断面形状を持った編組チューブを用いることで、編組チューブが帯状板部材の断面の周囲を回るといった現象が生じ難くなる。これにより、縫合糸によって弁輪の所定の固定位置に固定した当該リングが、編組チューブが回ることによって該固定位置から意図せず移動する、といった現象を抑制することができる。
【0040】
前記のような扁平な断面形状を持った編組チューブは、帯状板部材の断面の形状と同じ断面形状(編組チューブの伸縮を見込んで、寸法が多少調整されたものも含む)を持った芯材の周囲に、糸を編組することによって得ることができる。
なお、本発明では、前記のような扁平な断面形状を持った編組チューブを、「上記帯状板部材の上記断面の形状と同じ断面形状を持った芯材の周囲に糸を編んで得られた編組チューブである」との規定のとおり、製造方法によって規定している。この規定は、該編組チューブの内部空間が、帯状板部材の断面形状と同じ断面形状を持つことを示すための規定である。この規定は、糸によって編組された柔軟で変形し易い編組チューブの断面形状を特定することがおよそ実際的でないという事情に基づき、製造方法によって規定する形式としたものである。
【0041】
(外層の厚さと幅)
以下、当該リングが僧帽弁輪形成リングである場合の各部の寸法を例示するが、当該リングを三尖弁輪形成リングとして用いる場合には、該各部の寸法を適宜に変更してよい。
図2に示す外層20の厚さt2は、材料、外層の組織、患者の弁輪の大きさなどに応じて異なるが、0.3~0.8mm程度が好ましい。
【0042】
(当該リングのC字形状部分の厚さと幅)
上記したコア部と外層の寸法を好ましく選択して組み合わせることにより、
図2に示す当該リングのC字形状部分の寸法が得られる。例えば、当該リングの厚さt3は、0.8mm~2mm程度が好ましく、より好ましくは1~1.2mm程度であり、好ましい実施例では1.1mmが例示される。
また、当該リングの幅w2は、2.8~4mm程度であり、好ましい実施例では3mmが例示される。
【0043】
コア部と外層との間には、接着剤層や他の機能層が介在していてもよいが、生体内に埋め込む場合の安全性の観点から、接着剤層を設けず、コア部に対して外層を縫合糸で固定し、必要な部分を加熱することで該外層をコア部に溶着させることが好ましい。
【0044】
(当該リングの各部の寸法)
図6は、当該リングの各部の寸法を例示するための図である。
図6(a)は、
図1(a)と同様に上面図であり、
図6(b)は、
図1(b)と同様に
図6(a)の当該リングを
図6(a)の下方から見た図である。同図に示す寸法から外層の厚さの寸法(2層分)を差し引くことで、コア部の各部の寸法を求めることができる。以下に示す当該リングの各部の寸法の範囲は、幼児~成人の患者の僧帽弁輪のサイズに応じた一般的な例であり、例外に応じて、三尖弁輪への適用に応じて、各部の寸法は適宜に変更してよい。
【0045】
図6(a)に示す上面図では、当該リングは切り欠き部分の曲線を、一点鎖線で示すように補うと、楕円形に近い形状を呈すが、C字形状の2つの端部およびその近傍の区間は、弁輪の形状に沿うように局所的に変形していてもよい。各部の寸法例は次のとおりである。
長軸方向の内径D2は、心室側の口径であって、26~40mm程度であり、例えば、26mm、28mm、30mm、32mm・・・・、36mm、38mm、40mmといったように、2mmずつ増加させた製品ラインアップを医師等が選択できるように提供してもよい。長軸方向の外径D1は、心房側の口径であって、前記した幅w2と傾きθ1とから計算される寸法(w2×cosθ1)の2倍を、前記内径D2に加えることによって得られる。
当該リングの切り欠き部分の寸法L1(2つの端部c5とc6の間の直線距離)は、20~30mm程度である。
当該リングのC字形状部分の短軸方向の外形寸法L2は、20~28mm程度である。
【0046】
図6(b)に示す図では、同図の上下方向の各寸法は、中心軸線Zの方向に沿った寸法である。以下、
図6(b)の上下方向の寸法を「高さ」とも呼ぶ。
C字形状部分の最下点(湾曲の中心c2、c3)と、C字形状部分の中央湾曲部の中心(緩やかな湾曲の中心c1)との間の高さの差異L3は、2.5~6mm程度である。C字形状部分の最下点は、サドルシェイプに起因して、最も心室側に沈み込んだピークに位置する。ここでは、最下点(c2、c3)の高さをゼロとする。
C字形状部分の最下点(c2、c3)と、C字形状部分の2つの端部の内側(下側)部分(c5、c6)との間の高さの差異L4は、3.2~4.4mm程度である。
C字形状部分の全高さL5は、傾きθ1を考慮した幅w2の高さ成分(w2×sin(θ1))を前記寸法L3に加えることによって得られる。
【0047】
前記した当該リングの各部の寸法は、患者の僧帽弁輪または三尖弁輪のサイズに適合するよう、適宜に選択することができる。当該リングは、患者の年齢、性別、体格などに応じた弁輪のサイズに合わせて、予め種々の段階のサイズのものを用意しておくことが好ましい。
【0048】
(C字形状の他の態様)
図1(a)の例において、当該リングのC字形状部分が描く形状は楕円形に近い形状である。これに対して、
図7(a)に示す例では、僧帽弁輪の実際の形状や動きにより適合するように、楕円形からより大きく変形した好ましい形状となっており、この形状によって、僧帽弁輪に対して好ましくない力や変形が付加されないようになっている。三尖弁輪用の場合も同様に、三尖弁輪の外周形状によりフィットするように、当該リングが描くC字形状を決定することが好ましい。
【0049】
(好ましい態様1)
当該リングの好ましい態様では、
図7に示すように、コア部の端部の近傍に、貫通孔12a、12bが設けられる。この貫通孔12a、12bは、後述の製造方法において、コア部形成のために治具に固定するための孔として利用され、また、コア部と外層とを糸で固定するために利用される。該貫通孔12a、12bの開口形状は、特に限定はされず、ボルトなどを通過させるための円形や四角形などであってもよいが、
図9(a)に示すような半円形が、より好ましい形状として挙げられる。単に治具にボルトなどで固定するための孔として利用するためだけでは、該貫通孔の開口形状は、オネジが通過可能かつ適当に位置決め可能な円形が好ましい。しかし、コア部と外層とを糸で固定するためには、糸が何度も該貫通孔を通過する。オネジが通過可能かつ適当に位置決め可能であるという開口形状を維持しながらも、その開口面積を少しでも大きくするための形状として、
図9(a)に示すような半円形(または、D字状)の開口形状が挙げられる。
【0050】
(好ましい態様2)
当該リングのその他の好ましい態様では、
図7(b)に示すように、コア部10の切り欠き部分(端部a5と端部a6との間の部分)に外層20の両端部が延び出しており、それら外層20の両端部が、接合部22において互いに接合され閉ループとなっている。これにより、コア部10の端部a5と端部a6との間は、コア部の無い外層だけの部分21となっている。この外層だけの部分21を設けることによって、該部分21を利用して、前尖弁輪に当該リングを固定できるという効果が得られるので好ましい。
【0051】
(製造方法)
次に、上記で説明した本発明による弁輪形成リングの製造方法を、僧帽弁輪形成リングを形成する場合の例を挙げて説明する。三尖弁輪形成リングの製造工程も、サドルシャイプの有無以外は、基本的に同様である。
当該製造方法は、概しては、コア部形成工程と外層形成工程とを有する。
【0052】
(コア部形成工程)
当該リングのコア部を製造する方法としては、大きく分けて、次の(I)、(II)の方法が挙げられる。
(I)
図8(a)~(d)に示すように、帯状板部材からなる円錐状の円環部品(閉ループ)を形成し、次に該円環部品をサドルシェイプへと変形させ、最後に所定区間(切り欠き部分)を除去し、それによりC字形状部分(コア部)を得るという方法。
(II)
図9~
図11に示すように、平面的に円弧を描く帯状板部材を用意し、これを変形させて、円錐状に傾きながらかつサドルシェイプを描くC字形状部分を得るという方法である。
【0053】
上記(I)の製造方法では、上記コア部の帯状板部材と同じ材料、同じ板厚、および、同じ帯幅を持った帯状板を、
図8(a)に示すように、円錐状の円環となるように加工する。もとの帯状板には、
図7に示した貫通孔を設けておくことが好ましい。
図8(a)に示す円錐状の円環を得る加工方向としては、例えば、平面的な円環をプレスで円錐状へと変形させる方法(その場合は継ぎ目なし)や、所定の長さの帯状板の長手方向の両端面に所定の角度を付けて、円錐状の円環を呈するようにループにし、両端面同士を溶接などで接合する方法などが挙げられる。
【0054】
次に、
図8(b)に示すように、前記の円錐状の円環に対して直径方向に圧縮力fを作用させて、サドルシェイプ(互いに対向する2点a2、a3に対して、2点a1、a4が隆起した形状)へと変形させ、その変形した状態のままで熱処理を施し、サドルシェイプを原形状とする。帯状板部材の材料がNi-Ti合金であれば、サドルシェイプの形状を容易に記憶させることができる。
【0055】
次に、
図8(c)に示すように、サドルシェイプの隆起した2つの部分a1、a4のうちの一方の部分a4を含んだ所定区間b1を切除し、
図8(d)に示すように、目的とするコア部10を得る。所定区間b1の切除によって、2つの端部a5、a6が生じている。
図8の例では、視覚的に分かりやすいように、ループの継ぎ目をa3に位置させているが、該継ぎ目を所定区間b1内に位置させて除去してもよい。
【0056】
上記(II)の製造方法では、先ず、
図9(a)に示すような平面的に円弧を描く帯状板部材10bを用意する。材料はNi-Ti合金のような形状記憶合金が好ましい。この帯状板部材10bは、コア部10の帯状板部材と同じ材料、同じ板厚、および、同じ帯幅を持つ部材であるが、帯面は平面状であり、サドルシェイプのような起伏はない。円弧の中心角θ2は135~228度程度であり、特に170~190度程度が好ましい範囲である。本発明者の研究によれば、
図1(c)に示したコア部の好ましい傾きθ1は、50度程度であり、円弧の中心角θ2が180度であれば、C字状に湾曲させたときに、θ1が50度に近づく。よって、θ2のより好ましい値として、180度が挙げられる。
【0057】
図9(a)に示すような平面的に円弧を描く部材は、プレス加工による板材からの打ち抜き、ワイヤーカットやレーザー加工などによる板材からの切り出しなどによって得ることができる。該帯状板部材10bの両端部には、
図9に示したような貫通孔12a、12bを設けておくことが好ましい。
【0058】
次に、前記の帯状板部材10bをさらに湾曲させ、かつ、帯状板部材の断面の長手方向軸線が中心軸線に対して傾くように変形させて、
図9(b)、(c)に示すようにサドルシェイプを呈するコア部の形状とし、その変形した状態のままで熱処理を施し、サドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように湾曲した形状を原形状として有するコア部を得る。帯状板部材の材料が、上記したNi-Ti合金であれば、前記の熱処理は、上記した形状記憶処理(形状記憶熱処理温度への加熱と、Af点よりも低い温度への急冷)である。
【0059】
図9(a)に示すような平面的に円弧を描く円弧状部材10bは、閉じた環状の部材よりも、1枚の板材からより多く取り出すことができ、かつ、C字形状のサドルシェイプへの加工もより容易である点で、上記(II)の製造方法は、上記(I)の製造方法よりも優れている。
【0060】
(上記(II)の製造方法のための好ましい治具)
図10は、上記(II)の製造方法を好ましく実施し得る治具の一例と、それを用いて当該リングのコア部を製造している様子を示した図である。該治具は、製造すべき弁輪形成リングが僧帽弁輪形成リングであって、そのコア部がサドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように湾曲したものである場合に、特にその有用性が顕著になる。
【0061】
同図に例示した治具100は、第1平面S110を持ったベース部110を有し、第1平面S110上の所定の位置には、所定の高さのリング固定部材120が設けられている。該リング固定部材120は、後述の2つの斜面S131、S132を持っている。これらの斜面は、サドルシェイプを描きながらC字形状を呈するように変形させた円弧状部材の2つの端部を固定するための斜面である。この2つの斜面は、第1平面上の2つの位置にあって、目的とするC字形状へと前記円弧状部材を曲げて、その2つの端部を2つの斜面にそれぞれ固定した時に、該2つの端部がサドルシェイプに沿うようになっている。よって、これら2つの斜面は、目的とするコア部の両端部の傾きを持った斜面となっている。
【0062】
前記の2つの斜面S131、S132は、
図10の例のように、1つのリング固定部材に設けられていてもよいし、1つの独立したリング固定部材に一方の斜面S131が設けられ、他の独立したリング固定部材に他の斜面S132が設けられていてもよい。
図10の例では、リング固定部材120は1つの板状部材であって、その角部に2つの斜面S131、S132が設けられている。
【0063】
図10の例では、ベース部110とリング固定部材120はいずれも板状部材であって、これら板状部材が階段状となるように、リング固定部材120がベース部110の第1平面S110上の所定の位置に積み重ねられている。リング固定部材120は、第1平面S110から垂直に立ち上がった段差S115を有している。ベース部110とリング固定部材120は、1つの材料から削り出した一体のものであってもよい。
【0064】
図10、
図11は、第1平面S110、段差面S115、第2平面S120が見えるように、該治具100を上方から斜めに見下ろした図である(ベース部110の手前側の側面は図示を省略している)。また、
図11は、
図10に例示した治具の試作品とそれを用いて当該リングのコア部を製造している様子を示した写真図である。
【0065】
図10(a)、
図11(a)によく現れているように、実施例として製作した治具では、段差面S115と第2平面S120とが交わるエッジ部121が部分的に削り取られ、製造すべきコア部の両端部を固定するための2つの斜面S131、S132が形成されている。これらの斜面S131、S132は、サドルシェイプを呈するC字形状のコア部の両端部の傾きに沿った斜面となっている。斜面S133は、前記の2つの斜面S131、S132の形成に起因して生じた両者の間に位置する斜面である。斜面S133は必須ではないが、円弧状部材(コア部)を着脱する操作にはエッジ部121を無くして斜面S133となっている方が好ましい。
【0066】
2つの斜面S131、S132は、サドルシェイプに対応する高さの位置に、固定部を有している。この固定部は、貫通孔12a、12bを利用して、円弧状部材の端部を固定するための部分である。該固定部は、例えば、単純なメネジであれば、ボルトやネジを締め付けることで、円弧状部材の2つの端部を、2つの斜面S131、S132に固定することができる。しかし、固定のためにボルトやネジを用いると、円弧状部材を湾曲させながら固定部に固定する作業が容易ではない。そこで、実施例として製作した治具では、斜面S131、S132のそれぞれの中心部には、それぞれの斜面に対して直角にネジ穴が設けられており、各ネジ穴には裏面側からボルトがねじ込まれ、各斜面から該ボルトのネジ部141、142が直角に突き出している。この該ボルトのネジ部141、142に、先ず、円弧状部材の端部の貫通孔を引っ掛け、次にナットを締め付けることによって、円弧状部材を湾曲させながら固定部に固定する作業が容易になる。
【0067】
図11に例示した治具では、該ボルトのネジ部141、142の呼びはM1.6である(符号141、142は、
図10(a)を参照)。これらのネジ部141、142と、帯状板部材10bの両端部に設けられた貫通孔(例えば、
図7(a)に示す貫通孔12a、12b)と、ナット141a、142aとによって、帯状板部材10bの両端部を、斜面S131、S132に固定することができる。ここで、斜面S131、S132の傾きのみならず、ネジ部141、142の中心位置が第1平面S110よりも高い位置(サドルシェイプに応じた所定の位置)にあることも重要である。ネジ部141、142の中心位置が所定の高い位置にあることによって、C字形状へと曲げられた円弧状部材の両端部が、斜面S131、S132に沿った状態となりながら、サドルシェイプとなるように高い位置に維持される。
【0068】
一方、
図10(b)に示すように、第1平面S110の所定位置には、3つ以上のガイド部材が突起している。
図10(b)の例では、ガイド部材は5つの細い丸棒(ピン)111a~115aである。ガイド部材は、円弧状部材を前記サドルシェイプを描くC字形状へと変形させた状態を維持するように、該C字形状に沿った位置に設けられる。
【0069】
図10、
図11の例では、平面状の円弧状部材を立体的なサドルシェイプへと強制的に変形させるガイド部材(ピン)を差し込むための穴111、112、113、114、115が設けられている。これらの穴111~115には、
図10(b)に示すように、それぞれガイド部材111a、112a、113a、114a、115aが差し込まれる。
【0070】
前記3つ以上のガイド部材のうちの2つのガイド部材は、前記C字形状において、最も大きい曲率にて湾曲する2つの対向する湾曲部分の内側にそれぞれ位置する。2つのガイド部材は、それぞれ、前記円弧状部材を、前記コア部の傾きを持った斜面へと傾けるように、前記湾曲部分の外側へと傾いた部分を有する。
【0071】
ガイド部材111a、115aは、
図10(b)に示すように、製造すべきコア部の楕円形状の長軸のピーク部分において湾曲の内側に位置し、かつ、円弧状部材(コア部10)を斜めに維持するように、楕円形状の外側に向って傾いている。ガイド部材111a、115aの傾いた部分によって、曲げられた円弧状部材(コア部10)は、内側から規制を受け、かつ、第1平面S110に接するように押さえつけられ、好ましい楕円形状へと維持される。
【0072】
前記3つ以上のガイド部材のうち、ガイド部材111a、115a以外の残りのガイド部材は、C字形状の中央湾曲部分の外側に位置して、円弧状部材が外側へ広がることを妨げ、該円弧状部材の形状を、製造すべき僧帽弁輪形成リングのコア部のC字形状へと規制する部材である。この残りのガイド部材の部材の数は、特に限定はされず、1または2であってもよいが、少ない数で、円弧状部材の湾曲を適切に規制する点からは、
図10(b)に示すガイド部材112a、113a、114aのように、3が好ましい数である。
【0073】
図10(b)、
図11の例では、ガイド部材112a、113a、114aは、ストレートなピンであって、
図10(b)に示すように、コア部10の楕円形状の短軸のピーク部分を含む緩やな中央湾曲部分の外側に位置する。ガイド部材112a、113a、114aによって、コア部10は、外側から規制されて、サドルシェイプを描くように第1平面S110から浮き上がりながら、好ましい楕円形状へと維持される。
【0074】
コア部10が、好ましいサドルシェイプを描くように湾曲した状態で、2つのナット141a、142aが締め付けられて、該治具100にコア部10が固定された状態のまま炉に入れられ、サドルシェイプが原形状となるように熱処理(形状記憶処理)が施される。
【0075】
図10、
図11に示したような治具は、コア部のC字形状の2つの端部だけが不動に固定され、他の部分は、ガイド部材によって規制されてはいるが、微量な変位が可能である。このような状態で熱処理(形状記憶処理)を受けると、熱膨張したコア部が比較的自由に変位し得るので、熱処理による残留応力が生じ難く、治具から解放した時に残留応力に起因して変形するといった現象が生じにくい。また、炉内にコア部が露出するので、熱処理のための熱量も少なくて済むという利点もある。
【0076】
これに対して、例えば、上下の金型によって、サドルシェイプになるようにコア部の全周を挟み込み、その状態で熱処理を施すと、コア部は変位することができないので、残留応力が生じる可能性が高く、金型から解放した時に残留応力に起因して変形するといった現象が生じる場合がある。また、金型内にコア部を閉じ込めるので、熱処理のために大きい熱量が必要となるので経済的ではなく、また、金型から取り出して急冷する操作も容易ではない。
【0077】
治具の材料は、特に限定はされず、機械構造用炭素鋼や、金型用のダイス鋼などであってもよいが、ベース部110とリング固定部材120は、コア部の熱処理の障害にならないように、熱伝導性が良好な金属材料が好ましく、例えば、真鍮、アルミニウム合金、ステンレス鋼などが好ましい材料として例示される。一方、ガイド部材の材料としては、炭素工具鋼、ダイス鋼、ステンレス鋼など、硬い鉄鋼材料が好ましいものとして例示される。
【0078】
(外層形成工程)
外層形成工程では、前記コア部形成工程によって得られたコア部の表面を、ポリマー材料製の外層で覆う。コア部の表面を外層で覆う方法は、外層の構成に応じて適宜に選択してよい。外層がポリエステル製の編組チューブである場合、該編組チューブは、上記したように、リングのコア形状に相応した扁平材料を芯として組紐編みされた通称袋紐であり扁平なチューブ状を呈することが好ましい。これをコア部の端部から通し、他端まで至らせる。コア部と外層の固定は、コア部の端部の貫通孔にポリエステル糸を繰り返し通す事により行われる。外層である編組チューブの端部は、超音波溶着により閉じられた後、コア端部から規定の距離の部分で刃物によって切り離される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によって、患者の弁輪の表面に対して、従来品よりも大きい接触面積にてぴったりとより安定して縫着することができる好ましい弁輪形成リングが提供できる。これにより、例えば僧帽弁の入口付近で血流に乱流を発生させるという従来品の問題を抑制することができるようになる。
【符号の説明】
【0080】
10 コア部
20 外層
Z 中心軸線
F 血流方向
θ1 帯状板部材の断面の長手方向軸線の傾きの角度
【要約】
【課題】従来の弁輪形成リングの問題点を低減し得る、新たな弁輪形成リングとその製造方法を提供すること。
【解決手段】コア部10と外層20とを有してなる弁輪形成リングである。コア部10は、バネ性材料からなる帯状板部材が、弁輪に沿った形状にて開口部を定めるようにかつC字形状を呈するように湾曲している。外層20は、前記コア部10の表面を覆うポリマー材料製の層である。開口部を血流方向Fに通過する中心軸線Zを含む平面にて該コア部を切断したときの、前記帯状板部材の断面の長手方向軸線10aが中心軸線Zに対して傾いており、その傾きは、中心軸線Zを血流方向Fに移動するにつれて開口部の口径が小さくなっていく傾きである。
【選択図】
図1