(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】断熱防水構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
E04B1/76 500B
(21)【出願番号】P 2017241872
(22)【出願日】2017-12-18
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000133342
【氏名又は名称】株式会社ダイフレックス
(73)【特許権者】
【識別番号】516043317
【氏名又は名称】株式会社青和
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】東 克洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】徳原 則彦
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-106172(JP,A)
【文献】登録実用新案第3137287(JP,U)
【文献】特開平11-350614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/76 - 1/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の躯体の床および壁に取り付けられた平板状の断熱材と、隣接する上記断熱材の交差部に配置されたコーナー断熱材と、上記断熱材および上記コーナー断熱材の表面を覆う防水層とを備えた断熱防水構造において、
上記コーナー断熱材は、上記床または上記壁に当接する外周面と、幅寸法が上記断熱材の厚さ寸法と等しく形成されて各々対向する上記断熱材の端面に当接する当接面と、これらの当接面間にあって入隅部となる内周面とによって画成され
た棒状の部材であり、かつ上記内周面は、隣接する上記断熱材の表面
から連続する
断面円弧状の凹曲面によって形成されていることを特徴とする断熱防水構造。
【請求項2】
上記防水層は、上記断熱材の表面およびコーナー断熱材の内周面にスプレー施工された超速硬化性のウレタン防水材からなることを特徴とする請求項1に記載の断熱防水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱槽等において躯体の床および壁に沿って施工された断熱材および防水材を備えた断熱防水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の地下室等に設置された冷水槽、温水槽、冷温水槽、氷蓄熱槽等の蓄熱槽は、本来の空気調和設備における熱媒体の供給源としてのみならず、近年においては災害発生時における非常用水の供給源として、その有用性が再認識されつつある。
【0003】
このような蓄熱槽の内周面を形成する従来の断熱防水構造は、
図13に示すように、建物の地下室等において、コンクリート躯体の床10aおよび壁10bの表面に、平板状の断熱材11をプラスチックアンカー12によって取り付け、これら断熱材11の表面に超速硬化性のウレタン防水材をスプレー施工することによって防水層13を形成したものである。
【0004】
また、下記特許文献1においては、断熱材11の表面に沿って、防水シートを張設することによって防水層を形成した蓄熱槽における断熱防水構造が開示されている。
【0005】
ところで、上記蓄熱槽にあっては、例えば水深3mの場合に底面においては3t/m2もの水圧を常時受けるのに対して、断熱材11は剛性が低いために大きく変形し、この結果断熱材11上に張られた防水層13に引張力が生じて、断熱材11が直角に交差する入隅部等に局所的な伸びが生じ、これが漏水を生じる原因の一つとなっていた。
【0006】
また、特にスプレー施工による防水層13においては、上記入隅部に一定の厚さで防水材を施工することが難しく、かつピンホールが出来やすいという性質がある。
【0007】
そこで、上記従来の断熱防水構造においては、上記入隅部に起因する防水上の問題点を解決すべく、
図13に示すように、断熱材11を施工した後に、上記入隅部に三角面木14を配置して、その上から防水材を施工することにより、断熱材11に交差部に90°の角部が形成されることを防止している。この際に、
図14に示すように、蓄熱槽内における表面を凹曲面によって形成したR面木15を用いる場合もある。
【0008】
しかしながら、このような面木14、15を配置した場合においても、面木14、15の端部14a、15aに角部が生じて漏水の原因になるという問題点があった。
【0009】
また、床10aおよび壁10bの施工誤差に起因して、これら床10aおよび壁10bに取り付けた断熱材11間の角度が90°にならないと、上記面木14、15の端部14a、15aと断熱材11との間に隙間が生じてしまい、同様に防水材の施工時にピンホールが出来やすいという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平08-309904号公報
【文献】特開平06-101876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、入隅部に角部が生じることを防止して高い防水性を得ることが可能になる断熱防水構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、建物の躯体の床および壁に取り付けられた平板状の断熱材と、隣接する上記断熱材の交差部に配置されたコーナー断熱材と、上記断熱材および上記コーナー断熱材の表面を覆う防水層とを備えた断熱防水構造において、上記コーナー断熱材は、上記床または上記壁に当接する外周面と、幅寸法が上記断熱材の厚さ寸法と等しく形成されて各々対向する上記断熱材の端面に当接する当接面と、これらの当接面間にあって入隅部となる内周面とによって画成されてなり、かつ上記内周面は、隣接する上記断熱材の表面に連続する凹曲面によって形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記防水層は、上記断熱材の表面およびコーナー断熱材の内周面にスプレー施工された超速硬化性のウレタン防水材からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1または2に記載の発明においては、互いに直交する断熱材の入隅部に、従来の入隅部に位置する断熱材と面木とが一体化された形状のコーナー断熱材を配置するとともに、当該コーナー断熱材の内周面を、隣接する断熱材の表面に連続する凹曲面によって形成しているために、入隅部に従来の面木を用いた場合のような漏水の原因となる角部が生じることが無い。
【0015】
しかも、上記コーナー断熱材は、従来の角隅部に位置する断熱材と面木とが一体化された形状のものであるために、壁側の断熱材と床側の断熱材とのなす角度が正確に90°にならない場合にも、漏水の原因となる角部やピンホールが生じ易い隙間が生じることが無い。
【0016】
この結果、高い防水性を得ることが可能になり、特に請求項2に記載の発明のように、超速硬化性のウレタン防水材を断熱材の表面およびコーナー断熱材の内周面にスプレー施工することによって防水層を形成する構造に適用した場合に、容易に一定の厚さで防水材を施工することが可能になり、よって上記ピンホールの発生を未然に防止することができるために顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における要部の斜視図である。
【
図3】
図1のA部におけるコーナー断熱材の端部の加工形状を示す分解斜視図である。
【
図4】
図3のコーナー断熱材の接続状態を示す分解斜視図である。
【
図5】
図4のコーナー断熱材の接続状態を示す斜視図である。
【
図6】
図1のB部におけるコーナー断熱材の端部の加工形状を示す分解斜視図である。
【
図7】
図1のB部におけるコーナー断熱材の接続状態を示す斜視図である。
【
図8】
図1のC部におけるコーナー断熱材の接続状態を示す斜視図である。
【
図10】上記一実施形態の施工手順を説明するための図で、コンクリート躯体の要部の形状を示す斜視図である。
【
図11】
図10のコンクリート躯体にコーナー断熱材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図12】
図11の基礎部分に断熱材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図13】従来の断熱防水構造を示す縦断面図である。
【
図14】従来の他の断熱防水構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図12は、本発明に係る断熱防水構造を蓄熱槽に適用した一実施形態の要部を示すもので、この蓄熱槽における断熱防水構造は、建物の地下室のコンクリート躯体の床1aおよび壁1bに複数枚の方形板状の断熱材2がプラスチックアンカー3によって取り付けられ、断熱材2、5、6の表面の所要箇所に導電フィルム(図示を略す。)が貼設されるとともに、これら断熱材2、5、6および導電フィルムの表面に、スプレー施工された超速硬化性のウレタン防水材からなる防水層4が形成されたものである。ちなみに、上記導電フィルムは、上記特許文献2においても開示されているように、防水層4の厚さ測定およびピンホールの検出を行うためのものである。
【0019】
ここで、本実施形態の対象となる蓄熱槽においては、
図10に示すように、床1aおよび壁1bの角隅部に基礎1cの一部が突出しており、これにより上記断熱防水構造においては、槽内の断熱材2に入隅部および出隅部が形成されている。そして、入隅部となる断熱材2の交差部には、第1のコーナー断熱材(コーナー断熱材)5が配置されている。
【0020】
この第1のコーナー断熱材5は、床1aまたは壁1bに当接する外周面5aと、幅寸法が断熱材2の厚さ寸法と等しく形成されて各々対向する断熱材2の端面に当接する当接面5bと、これらの当接面5b間にあって入隅部となる内周面5cとによって画成された棒状の部材で、断熱材2と同じ素材によって形成されている。
【0021】
そして、この第1のコーナー断熱材5の内周面5cは、
図2に示すように、隣接する断熱材2の表面に連続する凹曲面、より具体的に本実施形態においては断熱材2の表面が接線方向となる1/4円周面によって形成されている。
【0022】
これに対して、出隅部となる断熱材2の交差部には、第2のコーナー断熱材6が配置されている。この第2のコーナー断熱材6は、同様に断熱材2と同じ素材からなるもので、断熱材2の厚さ寸法を半径とする円柱を1/4円周に等分割した棒状の部材である。これにより、第2のコーナー断熱材6は、直角を間に挟んで断熱材2の端面に当接する当接面6aと、これら当接面6a間において1/4円周面によって出隅部を形成する外周面6bとによって画成されている。
【0023】
以上のように、この断熱防水構造においては、入隅部および出隅部が、第1のコーナー断熱材5の内周面5cおよび第2のコーナー断熱材6の外周面6bによって断熱材2の表面から連続する断面円弧状の凹曲面または凸曲面によって形成されている。
【0024】
さらに、この断熱防水構造においては、
図1に示すように、3本の第1のコーナー断熱材5が接続される角隅部A、3本の第2のコーナー断熱材6が接続される角隅部B、および2本の第1のコーナー断熱材5と1本の第2のコーナー断熱材6が接続される角隅部Cにおいても、当該角隅部A、B、Cが円滑な凹曲面または凸曲面になるように加工が施されている。
【0025】
すなわち、上記角隅部Aにおいては、
図3~
図5に示すように、水平方向に配置される2本の第1のコーナー断熱材5の端部に、鉛直方向に配置される第1のコーナー断熱材5の当接面5bと等しい幅寸法に形成されて上記当接面5bに接続される当接面7aと、この当接面7aから突出して鉛直方向の第1のコーナー断熱材5の内周面5cに当接する外周面7bと、隣接する水平方向の第1のコーナー断熱材5同士が当接する先端面7cが形成されている。
【0026】
この結果、3本の第1のコーナー断熱材5が接続される角隅部においては、3本の第1のコーナー断熱材5の端部における内周面5cによって略球面状の凹曲面が形成されている。
【0027】
これら水平方向に配置される2本の第1のコーナー断熱材5の端部は、例えばNC加工機によって上記形状に加工されている。また、これら第1のコーナー断熱材5の内周面5cに導電フィルムを貼設する箇所においては、予め上記NC加工を行う前の第1のコーナー断熱材5の内周面5cに上記導電フィルムを貼設して上記NC加工を行うことにより、上記導電フィルムに皺や凹凸を生じることなく、連続した略球面状の上記凹曲面を形成させることができる。
【0028】
また、3本の第2のコーナー断熱材6が接続される角隅部Bにおいては、
図6および
図7に示すように、水平方向に配置される2本の第2のコーナー断熱材6の端部が、軸線に対して45度傾斜して切断されることにより、隣接する第2のコーナー断熱材6同士が当接する当接面8が形成されている。
【0029】
これにより、3本の第2のコーナー断熱材6の接続部においては、円滑な凸曲面が形成されている。なお、これら第2のコーナー断熱材6の外周面6bに導電フィルムを貼設する箇所においては、同様に予め上記NC加工を行う前の第2のコーナー断熱材6の外周面6bに上記導電フィルムを貼設して上記NC加工を行うことにより、上記導電フィルムに皺や凹凸を生じることなく連続した凸曲面を形成させることができる。
【0030】
また、上記3本の第2のコーナー断熱材6を接続した後に、上記外周面6bに導電フィルムを貼設するとともに、この際に上記導電フィルムの端部に、地球儀に地図紙を貼る場合と同様の切り欠き形状を加工しておいて、上記接続部に上記凸曲面を形成するように貼設してもよい。
【0031】
さらに、2本の第1のコーナー断熱材5と1本の第2のコーナー断熱材6が接続される角隅部Cにおいては、
図8および
図9に示すように、2本の第1のコーナー断熱材5の接続部が内周面5cによる凹曲面であるのに対して、1本の第2のコーナー断熱材6の外周面6bが凸曲面であることから、第2のコーナー断熱材6の接続端部に近接する第1のコーナー断熱材5の端部に、凸面状の面取り部9が形成されている。
【0032】
次に、
図10~
図12に基づいて、
図1~
図9に示した蓄熱槽における断熱防水構造の施工手順について概略説明する。
図10に示すコンクリート躯体に対して、先ず
図11に示すように、床1aと壁1bとの交差部および床1aあるいは壁1bと基礎1cとの交差部に、入隅部を形成する第1のコーナー断熱材5を取り付ける。
【0033】
次いで、
図12に示すように、基礎1cの3面に断熱板2を取り付けるとともに、隣接する断熱板2の端部間に第2のコーナー断熱材6を挿入して取り付ける。そして、コンクリート躯体の床1aおよび壁1bに断熱材2を取り付ける。この際に、導電フィルムを調節すべき箇所においては、上述したように予め断熱材2、第1および第2のコーナー断熱材5、6の内周面5cおよび外周面6bに上記導電フィルムを貼設する。あるいは、断熱材2、第1および第2のコーナー断熱材5、6を取り付けた後に、現場施工によって導電フィルムを貼設してもよい。
【0034】
そして、上記断熱材2並びに第1および第2のコーナー断熱材5、6の表面、あるいは当該表面に貼設された導電フィルムの表面に、超速硬化性のウレタン防水材をスプレー施工して防水層4を形成することにより、
図1に示した断熱防水構造の施工が完了する。
【0035】
以上説明したように、上記構成からなる断熱防水構造によれば、床1aと壁1bとの入隅部および直交する壁1bの入隅部に、それぞれ従来の入隅部に位置する断熱材と面木とが一体化された第1のコーナー断熱材5を配置するとともに、入隅部を形成する上記第1のコーナー断熱材5の内周面5cを、隣接する断熱材2の表面に連続する1/4円弧の凹曲面によって形成しているために、入隅部に従来の面木を用いた場合のような角部が生じることが無い。
【0036】
加えて、第1のコーナー断熱材5は、従来の角隅部に位置する断熱材と面木とが一体化された形状のものであるために、床1a側の断熱材2と壁1b側の断熱材2とのなす角度が正確に90°にならない場合にも、ピンホールが生じるような隙間を生じることが無い。
【0037】
また、本実施形態のように蓄熱槽内に基礎1c等の突起部が有る場合に、当該基礎1c等の壁や床に取り付けられた断熱材2間に、第2のコーナー断熱材6を配置するとともに、当該第2のコーナー断熱材6の出隅部となる外周面を、1/4円周の凸曲面によって形成しているために、上記出隅部においても漏水の原因となる角部やピン-ホールが生じ易い隙間が形成されることを防ぐことができる。
【0038】
この結果、超速硬化性のウレタン防水材を断熱材2並びに第1および第2のコーナー断熱材5、6の内周面5cおよび外周面6bにスプレー施工することによって防水層4を形成する際に、容易に一定の厚さで防水材を施工することが可能になり、よって高い防水性を得ることができる。
【0039】
なお、上記実施形態においては、断熱材2の表面並びに第1および第2のコーナー断熱材5、6の内周面5cおよび外周面6bに超速硬化性のウレタン防水材をスプレー施工して防水層4を形成する場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記断熱材2等の表面に防水シートを貼設して防水層を形成する場合に適用しても同様の効果を得ることができる。
【0040】
また、上記実施形態においては、断熱材2、5、6の表面の所要箇所に、防水層4の厚さ測定およびピンホールの検出を行うための導電フィルムを貼設する場合に付いて説明したが、上記導電フィルムを施工しない場合にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1a コンクリート躯体の床
1b コンクリート躯体の壁
2 断熱材
4 防水層
5 第1のコーナー断熱材(コーナー断熱材)
5a 外周面
5b 当接面
5c 内周面