(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】湿度変動からのエネルギーの収穫
(51)【国際特許分類】
F24F 11/74 20180101AFI20220311BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20220311BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20220311BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20220311BHJP
F24F 110/20 20180101ALN20220311BHJP
【FI】
F24F11/74
F24F11/46
F24F5/00 K
F24F110:10
F24F110:20
(21)【出願番号】P 2017565301
(86)(22)【出願日】2016-06-24
(86)【国際出願番号】 IL2016050677
(87)【国際公開番号】W WO2016207898
(87)【国際公開日】2016-12-29
【審査請求日】2019-03-14
(32)【優先日】2015-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517435836
【氏名又は名称】テルモテラ エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】ズチョリ,ドロール
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ルトマン,ジェレミー
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02138690(US,A)
【文献】特開2006-097425(JP,A)
【文献】特開2003-042502(JP,A)
【文献】実開昭62-068559(JP,U)
【文献】特開昭57-144829(JP,A)
【文献】特開2002-115870(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103835393(CN,A)
【文献】特開2001-330273(JP,A)
【文献】米国特許第06364942(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の加熱および冷却の両方のための、吸収及び脱着システムであって、該システムは:
a)建物へ一体化された少なくとも1つの組立体であって、前記組立体は、気流経路の配置に露出するある量の吸湿性材料を含み、前記組立体は、前記吸湿性材料と前記組立体の外側の空気との間の湿度交換を防ぐために少なくとも部分的に被包される前記組立体と;
b)前記組立体に関連し、前記気流経路と建物の外側の周囲空気との間の気流通路を画定する第1および第2の外部通気口であって、前記気流経路を経由して前記組立体内で相互に接続する第1および第2の外部通気口と;
c)前記組立体に関連し、前記気流経路と建物の内側の空気との間の気流通路を画定する、第1および第2の内部通気口であって、前記気流経路を経由して前記組立体内で相互に接続する第1および第2の内部通気口と;および、
d)前記第1および第2の外部通気口および前記第1および第2の内部通気口と関連する気流制御システムであって、前記気流制御システムは、少なくとも1つのファンを含む送風機装置と、複数の切り替え可能な気流バルブを含む切り換え装置とを含んでなる気流制御システムとを含み、
前記気流制御システムは:
i.第1の状態であって、前記送風機装置が周囲空気を循環させて、前記内部通気口が閉じられている間、前記外部通気口のうちの1つを通って前記組立体の中へ、前記気流通路に沿って、かつ、前記外部通気口のもう一つを通って前記組立体から外に流れさせ、それにより、周囲空気と吸湿性材料との間の湿気交換を促進する、第1の状態;
ii.第2の状態であって、前記送風機装置が周囲空気を循環させて、前記第2の外部通気口が閉じられている間、第1の前記外部通気口を通って前記組立体の中へ、前記気流通路に沿って、かつ、前記内部通気口を通って前記組立体から外に流れさせ、それにより、湿度調整および温度調整をされた空気を建物へと導入する、第2の状態;および、
iii.第3の状態であって、前記送風機装置が室内の空気を循環させて、前記第1および第2の外部通気口が閉じられている間、前記第1の内部通気口を通って前記組立体の中へ、前記気流通路に沿って、かつ、前記第2の内部通気口を通って前記組立体から外に流れさせ、それにより、室内の空気と吸湿性材料との間の湿気交換を促進し、湿度調整および温度調整をされた空気を建物へと導入する、第3の状態、
から選択するように構成され、前記気流制御システムは、
e)建物内の空気の温度および湿度を感知するために配備される温度センサーおよび湿度センサーを少なくとも含む内部センサーセットと;
f)建物外の周囲空気の温度および湿度を感知するために配備される温度センサーおよび湿度センサーを少なくとも含む外部センサーセットと;
g)前記組立体内の空気の湿度を感知するために配備される組立体の湿度センサーと;
h)少なくとも1つのプロセッサを含む制御装置と、を含み、
前記制御装置は、前記内部温度と湿度、および前記外部温度と湿度、ならびに組立体の湿度を示す信号を受信するために、前記内部センサーセットおよび前記外部センサーセットならびに前記組立体の湿度センサーと関連し、前記制御装置は、前記気流制御システムに動作可能に連結して、前記気流制御システムを、前記第1の状態と、前記第2の状態と、前記第3の状態と、前記組立体を通る気流が防止される第4の状態とに切り替えさせ、ここで、次に予期される要求を、加熱要求または冷却要求のいずれかとして定義するように構成され、前記制御装置は、前記次に予期される要求に応じて、以下の再生:
i)戸外の湿度をモニタリングすること、前記組立体内の前記空気の湿度をモニタリングすること、および、戸外の湿度が前記組立体内の前記湿度よりも下に下がる時に前記第1の状態において気流制御システムを実行させて前記吸湿性材料の湿気含有量を減少させることを含む、加熱/ウインターモード;あるいは、
ii)戸外の湿度をモニタリングすること、前記組立体内の前記空気の湿度をモニタリングすること、および、戸外の湿度が前記組立体内の前記湿度を超過する時に前記第1の状態において気流制御システムを実行させて前記吸湿性材料の湿気含有量を増大させることを含む、冷却/サマーモード;
のうち1つを選択的に動作し;
それにより、
(A)周囲空気が吸収性材料よりも乾燥している時に、前記気流の冷却および加湿、および、前記吸収性材料の乾燥;
(B)吸収性材料が周囲空気よりも乾燥している時に、前記気流の加熱および除湿、および、前記吸収性材料の吸湿;
(C)建物内部の空気が吸収性材料よりも乾燥している時に、前記気流の冷却および加湿、および、前記吸収性材料の乾燥;
(D)吸収性材料が建物内部の空気よりも乾燥している時に、前記気流の加熱および除湿、および、前記吸収性材料の吸湿;
という効果を可能にし、加熱、冷却、加湿、および除湿は、前記気流制御システムに必要なエネルギー以外の任意のエネルギー源を使用することなく、かつ、前記周囲空気から集めた水以外の任意の水を使用することなく、前記周囲空気から収穫された湿気および乾燥の状態を使用して得られる、ことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記気流制御システムは、
(a)空気を前記建物の外側から前記建物の外側に押し込み;
(b)空気を前記建物の内側から前記建物の内側に押し込み;
(c)空気を前記建物の外側から前記建物の内側に押し込み;
(d)空気を前記建物の内側から前記建物の外側に押し込み;
(e)すべてのバルブを閉じてファンを切る;
との、5つの取りうる動作を可能にするように構成され、
前記制御装置は上述の5つの取りうる動作の予期される効果を測定し、これらの動作のうち1つが内部の状態を予め定められた快適ゾーン状態に近づけることが分かった場合、この動作が行われることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、内部の状態を予め定められた快適ゾーン状態に近づけるために、現地の天気予報とユーザーの使用パターンを考慮した制御アルゴリズムをさらに使用して、取り組む最善の動作を決定することを特徴とする、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、
a)現在の室内温度と目標温度範囲とを比較し;
b)前記現在の室内温度が前記目標温度範囲を超えた時に、かつ、周囲空気湿度が前記組立体内の前記空気の湿度を下回っている場合、前記気流制御システムを実行させて、前記気流経路を通り前記内部通気口を経由して建物内へと気流を発生させる、ように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記制御装置は、
a)現在の室内温度と目標温度範囲とを比較し;
b)前記現在の室内温度が前記目標温度範囲を下回る時に、かつ、前記周囲空気湿度が前記組立体内の前記空気の湿度を上回っている場合、前記気流制御システムを実行させて、前記気流経路を通り前記内部通気口を経由して建物内へと気流を発生させる、ように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
建物の内部に面している前記組立体の表面の一部は、建物内部の空気に曝された多孔質表面として実装され、したがって、前記吸湿性材料から建物内部の空気への空気および水蒸気の受動的な移動が可能になることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
建物の内部に面する前記組立体の表面は被包されて、前記吸湿性材料から建物内部の空気への空気および水蒸気の受動的な移動を防止することを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記組立体は、建物の壁の一部;建物の床の一部;建物の天井の一部;建物の屋根の一部;建物の家具の一部または建物の屋根板の一部、からなる群から選択される建物の部分を形成することを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記吸湿性材料は、セルロース;塩化カルシウム;セルロースとの塩化カルシウム混合物、からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
建物の少なくとも一部の湿気増強冷却のための方法であって、該方法は、
a)建物に一体化された少なくとも1つの構造的構成要素を提供する工程であって、前記構造的構成要素はある量の吸湿性材料を含み、該吸湿性材料
が隣接する通気領域内の空気に曝される、工程と;
b)通気領域中の空気、および周囲空気の湿度をモニタリングする工程と;
c)冷却のための充填期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも高い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気中の湿度が通気領域内の空気の湿度を下回った場合に、前記空気の移動を中断する工程と;および、
d)冷却期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも低い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気の湿度が通気領域内の空気の湿度を上回った場合に、前記空気の移動を中断する工程、を含み、
冷却を行なうために必要な水は、前記空気から集めた水以外の任意の水を使用することなく前記周囲空気から収穫されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
建物の少なくとも一部の吸収加熱のための方法であって、該方法は
a)建物に一体化された少なくとも1つの構造的構成要素を提供する工程であって、前記構造的構成要素はある量の吸湿性材料を含み、該吸湿性材料は隣接する通気領域内の空気に曝される、工程と;
b)通気領域中の空気、および周囲空気の湿度をモニタリングする工程と;
c)加熱のための充填期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも低い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気中の湿度が通気領域内の空気の湿度を上回った場合に、前記空気の移動を中断する工程と;および、
d)加熱期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも高い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気の湿度が通気領域内の空気の湿度を下回った場合に、前記空気の移動を中断する工程、を含み、
加熱および除湿は、気流制御システムに必要なエネルギー以外の他の外部のエネルギー源または熱源を使用することなく、前記周囲空気から収穫された乾燥の状態を使用して、得られることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、当該方法は、加熱要求または冷却要求としてのいずれかとして、次に予期される要求をさらに定義し、前記方法はさらに、
(a)次に予期される要求が冷却である時には、
(i)冷却のための充填期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも高い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気中の湿度が通気領域内の空気の湿度を下回った場合に、前記空気の移動を中断する工程と;および、
(ii)冷却期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも低い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気の湿度が通気領域内の空気の湿度を上回った場合に、前記空気の移動を中断する工程と、および
(b)次に予期される要求が加熱である時、
(i)加熱のための充填期間に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも低い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気中の湿度が通気領域内の空気の湿度を上回った場合に、前記空気の移動を中断する工程と;および、
(ii)加熱期間中に、周囲空気の湿度が通気領域の空気の湿度よりも高い時には、周囲空気と通気領域との間の空気の移動を生成し、かつ、周囲空気の湿度が通気領域内の空気の湿度を下回った場合に、前記空気の移動を中断する工程と、を含み、
加熱、冷却、加湿、および除湿は、
気流制御システムに必要なエネルギー以外の任意のエネルギー源を使用することなく、かつ、前記周囲空気から集めた水以外の任意の水を使用することなく、前記周囲空気から収穫された湿気および乾燥の状態を使用して、得られることを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記構造的構成要素は、建物の壁;建物の床;建物の天井;建物の屋根の一部;家具または屋根板からなる群から選択される要素として設計されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
構造的構成要素は、吸湿性材料と組立体の外側の空気との間の湿度交換を防止するために被包される被包組立体の一部であり、通気領域は、組立体を通過する気流経路の配置であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
(a)室内の空気の湿度をモニタリングする工程;
(b)以下の通路のうちの1つに気流を生成する工程であって、該通路は:
(i)前記建物の外部から、前記吸湿性材料を通って、前記建物の外部へ;
(ii)前記建物の内部から、前記吸湿性材料を通って、前記建物の内部へ;
(iii)前記建物の外部から、前記吸湿性材料を通って、前記建物の内部へ;
(iv)前記建物の内部から、前記吸湿性材料を通って、前記建物の外部へ;
の通路である工程、
(c)上述の4つの可能な動作の予期される効果を測定するアルゴリズムによって前記建物の外部または前記建物の内部のいずれかにある、空気の供給源および吸い込みを選択し、かつ、
これらの動作のうちの1つが、内部状態を予め定められた快適ゾーンの状態に近づけることが発見された場合、この動作をとる工程、をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記周囲空気または室内の空気と、前記通気領域との間の空気の移動はまた、受動的な熱および湿度の交換を可能にすることによって、ファンの気流により空気流を生じさせることなく生成されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
流出する冷たい空気が、流入する温かい空気を冷却する、または、流出する温かい空気が、流入する冷たい空気を加熱することを可能にする、流出気流と流入気流との間の熱交換をさらに行うことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許は、2015年6月24日に出願された米国の仮特許出願第62/184157号の優先権を主張する。
【0002】
1.本発明の技術分野
本発明は温度および湿度の制御の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
2.本発明の背景技術
家庭内のエネルギー消費の大部分は建物内の快適な状態の維持に費やされる。快適さは温度および湿度レベルの両方の関数である。温度変動は、ある程度、ほとんどの気候に存在し、熱の緩衝材として働き、かつ建物内のピーク(最大および最小)温度を下げる熱質量を使用することにより、安定した温度を維持するために使用することができる。熱質量は、温度変動が強い気候には大抵適していて、顕著に快適さを増加させるために重量のある構築要素(石、土、水)の使用が必要となる。
【0004】
吸収性材料上で、またはその材料内に吸収される空気中の水蒸気は、材料に相当量のエネルギーを移動させる。相対湿度はまた、日ごとおよび季節ごとに変動するが、しかし、エネルギーを収穫するために相対湿度におけるこの変動を利用する商業的解決法は現在提示されていない。本発明は、建物内のピークの温度および湿度を安定させるために、相対湿度変動の利用を扱い、それにより、室内の温度および湿度を制御する、より高価なエネルギー手段(電気、ガス)の必要性を低減する。
【0005】
一方で、ますます増加する地球規模の人口増加の技術的進歩と、他方では地球温暖化(それが人為的であろうとなかろうと)との複合因子の間で、温度と湿度の制御に費やされるエネルギーは、世界的なエネルギー負荷のうちの増大している一部分を表している。したがって、新規で、エネルギー効率が良い温度および湿度制御について差し迫った必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
3.本発明の概要
風力エネルギーおよび太陽エネルギーは至る所に遍在しており、我々はこれらを収穫(harvest)し、これらのエネルギー源を容易に使用できる形式に転換することを研究した。空気の相対湿度における変化はまた、「我々の目の前に到来する」ものであり、かつ、これらから収穫することができる相当量のエネルギーが存在する。本特許は、このエネルギー、すなわち環境に対し意識的な時代かつ再生可能な資源を重視するこの時代にあってさえ大部分は見落とされてきた資源を使用する新規性がある方法に関する。
【0007】
本技術革新は、吸湿性材料に「乾燥」あるいは「湿潤」を貯蔵することにより、空気の乾燥状態および湿潤状態の間の不均衡を使用する。周囲の空気が吸湿性材料より乾燥しているか、または湿っている場合、空気中の湿気と材料中の湿気との間の潜在的なエネルギー差は、材料から空気へ熱を輸送する通路として使用することができ、逆の場合も同様である。このエネルギーを使用することができる単純な方法は、建物の加熱および冷却のためのものである。例えば、吸収材料を多量の保管しておくことで、暑い夏には乾燥させることができ、寒い冬には水を再吸収させることができ、それにより、家庭内の暖房に使用することができる熱を取得することができる。
【0008】
一つの実施は、例えば、建物または家の壁、床および天井の大部分を含む、建造物の体積のかなりの部分を形成する、大量の多孔性の吸湿性材料からなる。
【0009】
吸湿性材料は、気体を透過しない塗料、タールなどの、ほとんど気体が漏れない薄膜または層の中に囲まれている。気流は、送風機、通気口、ポンプ、自然対流などによって、1以上の箇所で大量の吸湿性材料へと、およびそこから提供される。この気流は建物外被の内部から、または周囲の環境のいずれかから生じることがあり、建物または周囲の環境へ排出することもできる。
【0010】
当業者には明白だろうが、建物の吸湿性材料に押し込まれる空気の相対湿度が、吸湿性材料の平衡湿度(これは、材料の現在の湿気含有量と平衡状態にある空気の湿度レベルである)のそれよりも高い時、湿度はこの材料によって吸収されるだろうし、そして結果として加熱され、比較的大量のエネルギー、すなわち、蒸発の潜熱および水と吸収材料との間の結合エネルギーを含む吸着熱を放出する。
【0011】
同様に、システムに導入されている空気の湿度が材料の「平衡湿度」未満である時、空気は吸湿性材料から湿気を吸収するだろうし、その温度は低下するだろう。2つの潜在的な空気の供給源および吸込み(sink)(建物外面内の、および建物外被外の)があるとして、さらに、前述の温度と湿度における変動のほとんど予測可能な毎日のパターンがあるとすると、外部温度中の日内変動およびさらに季節変動の緩和に向けて建物の大きな吸湿性質量を使用し、それにより、建物内に比較的安定した温度および湿度を提供することができる。この効果は、単に建築材料の熱質量によってのみ達成されるのではなく、上述の吸収/脱着による冷却/加熱のはるかに大きな効果を含む。
【0012】
本発明の先述の実施例は、システムおよびその方法とあわせて記載され例証されたが、これは単なる例証であって制限を意図していない。さらに、すべての特定の参照が特定の方法/システムを具体化することができるが、それを必要としないように、最終的に、そのような教示は、特定の実施形態の使用にもかかわらず、全ての表現を意図している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
4.図面の簡単な説明
本発明の実施形態および特徴は、以下の図面とあわせて本明細書中に記載される。
【
図1】
図1は、セラミック業界で使用されるさまざまな原材料の吸収能力を示す。
【
図2】
図2は、建物の屋根の一部として実装される本発明の実施形態を示す。
【
図3】
図3は、壁の煉瓦のセットとして実装される本発明の実施形態を示す。
【
図4】
図4は、床のタイルとして実装される本発明の実施形態を示す。
【
図5】
図5は、壁として組み立てられる本発明の実施形態を示す。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態の、高表面エネルギー貯蔵建築要素の側面図を示す。これは床壁あるいは天井として組み立てることができる。
【
図7】
図7は、床、壁または天井として組み立てることができる、高表面エネルギー貯蔵建築要素の組立体を含む本発明の一実施形態を示す。
【
図8】
図8は、4つの通気口構成について可能な気流パターンを示す。
【
図9】
図9は、「吸収屋根板」として実装される本発明の実施形態を示す。
【
図11】
図11は、冷却サイクルアルゴリズム及びサマーモード再生サイクルアルゴリズムを含む、サマーモードアルゴリズムの例示的な実施形態を示す。
【
図12】
図12は、加熱サイクルアルゴリズムとウィンターモード再生サイクルアルゴリズムとを含むウィンターモードアルゴリズムの実施形態の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
5.好ましい実施形態の簡単な説明
5.1一般的な概念および1つの可能な実施形態
本発明は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から理解されるであろうが、これは説明的なものであって限定するものではない。簡潔にするために、いくつかの周知の特徴、方法、システム、手順、構成要素、回路などについては詳細には説明しない。
【0015】
本発明の最も一般的な記述は、吸湿性材料に水分または「乾燥」を貯蔵することによって、湿度変動のエネルギー源として実施が可能になるということができることである。この貯蔵されたエネルギーを使用する1つの実際的な方法は加熱および冷却のためのものであり、この加熱および冷却可能性の特に適切な使用は、住居の中においてであり、ここにおいて、a.所望の温度変化は比較的小さく、数十度以下であり、かつ、b.建物自体は、本質的に吸湿性である材料で、部分的に、構築することができる。
【0016】
このような用途においては、本発明は加熱および冷却のために大量の吸湿性材料を使用する。この質量は、壁、天井、床、または建物の他の部分を含むか、またはその一部であってもよく、またはその目的に適したコンテナの建物の外側または内側に保管されてもよい。大きな質量を組み込むことが可能になれば、より低コストの材料(例えば、吸湿性の低い材料)を使用でき、システムが経済的になる。
【0017】
多くの吸湿性材料がこれらの目的に適している場合がある。吸湿性を有する、セラミック業界の非常に一般的な原材料のいくつかが
図1に示されている。吸湿性材料はセルローズのように有機的であってもよく、または、様々な塩類のように無機であってもよい。例えば、塩化カルシウムは、50%の相対湿度でその重量の2倍まで吸収することができる非常に一般的な塩である。それは吸収性を増大させるために他の物質と混合して使用することができる。記載されるように、気流通路をシステムに配置することで、吸収性材料への(水蒸気の)熱および物質移動が増加する。吸湿性材料の気体(この場合は一般に空気)に対する透過性は、システムが水蒸気およびエネルギーをどれほど早く放出および吸収することができるかを測定する。浸透性は、吸湿性材料の粒の大きさおよび形に影響を受ける可能性があり、将来の研究により、どの形状が蒸気の輸送に最適であるかが判定されるだろう。
【0018】
いくつかの実施形態では、送風機、通気口、ポンプなどの手段で、または自然対流、風煙突(wind chimney)などの使用によって、1以上の箇所で吸湿性材料の質量の中に空気を押し込み、または、押し出させることができる。この気流の取り入れは建物外被の内部から、または周囲の環境のいずれかから生じることがあり、建物外被または周囲の環境へ排出することができる。
【0019】
建物の吸収性材料に押し込まれる空気の相対湿度が、吸湿性材料の「相当湿度」(すなわち、材料の現在の湿気含有量と平衡している状態での空気の湿度)のそれよりも低い時、空気は吸収性の質量から湿気を吸収するであろうし、温度は低下する。
【0020】
同様に、システムの吸湿性の質量へと導入される空気の湿度がこの質量の「平衡湿度」よりも高い場合、空気からの湿気が材料に吸収され、そして結果として加熱され、蒸発の潜熱および材料の水と結合するエネルギーを含む、吸収熱を放出する。
【0021】
2つの潜在的な空気の供給源および吸込み(sink)(建物外面内の、および建物外被外の)を備え、さらに、前述の温度と湿度における、大規模かつ一般的にいくぶん予測可能な日内変動があるとすると、外部温度および湿度における日内変動および季節変動の緩和に向けて吸湿性質量を使用し、それにより、建物内に比較的安定した温度および湿度を提供することができ、すべてがほぼ完全に受動的なシステムである(エネルギーは空気を移動させ、かつバルブを開閉させるためにのみ加えられる)。この緩和効果は、建築材料の熱質量に起因するだけでなく、上述の加湿/除湿の冷却/加熱効果によっても大きく増幅されることに留意されたい。
【0022】
暖かい空気または冷たい空気の質量を内部に移動させる(対流)ことによって、または、吸湿性質量の外にかつ家屋の内部へと熱を伝導することによって、それらの逆の場合によっても建物の内部に熱を加えたり、建物の内部から熱を取り除いたりすることができることにさらに言及する。したがって、壁は、吸収性材料を湿気含有量の所与の状態で保管するためだけでなく、建物の内部と熱交換するために使用されてもよい。このような目的のために、壁と内部表面との間の熱伝導率はできるだけ高く保たれてもよく、壁と外部表面との間の熱伝導率はできるだけ低く保たれてもよい(例えば、断熱材料を、壁の「吸湿が活発な」部分と建物の外部との間に加えることによって行われる)。熱伝達が可能な非常に広い表面積により、比較的低い温度差は、建物の内部を加熱/冷却するのに十分であり、システムを大いに効率良くする。
【0023】
5.1.2毎日の温度および湿度の使用法例
夏に冷却するために、吸湿性材料の一部または全部を、大量の周囲空気(外気)を材料に吹き付けることによって、一晩中および早朝に湿気を「充填」させてもよい。材料は、湿気の吸収に起因してある程度まで加熱されるが、冷たい夜の空気に起因してある程度冷却される。材料をできるだけ冷たく保つために、非常に大量の空気を材料に吹きつけ、この加熱された空気を周囲に放出することが有利であることが見いだされる場合がある。材料によって放出され得る熱エネルギーの最大量が(夜間に到達する最大相対湿度(以下RH)、大量の質量、およびその物理的特性によって)固定されると、材料を冷却する傾向があり、一方、材料から引き出されうる熱の量は、材料と周囲との間の温度差によってのみ制限され、空気の全体量は、材料を通って押し出される。したがって、大量の空気を材料に吹き付けることによって、材料が、ほぼ「完全充填」であるだけでなく(すなわち、早朝の高い湿度と平衡している状態で高い湿気含有量を有している)、さらにほとんど夜の空気と同じくらい冷たい状態で、夜明けを迎えることができる。これによりその日の暑さのためにシステムが良い位置におかれる。一日の温度が上がりはじめると、周囲または建物内部からの空気が材料を通過する。この空気は、材料と平衡した湿度よりも低い相対湿度を有するだろうから、湿気は空気によって吸収され、結果として冷却される。これに加えて、より冷えた大量の吸湿性材料を通り抜けるより暖かい空気の「直接の」熱効果があり、空気は冷却され、かつ、材料は温まる。吸湿性材料に対する(熱の伝達および脱着からの)正味の効果は冷却である一方で、流入する空気がそれほど熱くない限り、空気に対する影響は、冷却のすべての場合に存在する。冷却された空気は、建物の内部に導かれてもよく、建物から排出されてもよい。後者の場合には、向流交換は理想的には、(例えば)流出する冷えた空気が、流入する暖かい空気を冷却することを可能にする熱交換器によって使用される。熱交換器もシステムの建築要素に組み込まれてもよい。
【0024】
上述されたプロセスは、毎日、毎週または季節毎に繰り返されてもよい。この単純なサイクルは、吸湿性の質量を比較的乾燥した空気(例えば正午頃の空気)と平衡させ、かつ、夜(相対湿度が一般に上昇する時)に湿った周囲空気を質量に吹き付けることにより、同様に加熱するために使用されてもよい。
【0025】
このように周囲空気の日内湿度変動または季節湿度変動を使用することは、冷却が望まれている時に有益に放出するために吸湿性材料中に湿気を貯蔵するため、および、加熱が望まれている時に材料が湿気を吸収することを可能にする、「乾燥」を貯蔵するのと同じシステムで、加熱および冷却のための新規性のある手段である。
【0026】
建築構造物において広く使用される同様の方法は、建築構造物において大規模な熱質量を使用することである。周囲環境がより暑くなる時には、この質量はエネルギーを吸収し、かつ、周囲環境がより冷たくなる場合にはエネルギーを放出して、そうすることにより、建物内部の温度を安定させる。上述される一システムにおける湿度エネルギー貯蔵および熱エネルギー貯蔵の両方の組み合わせは、しかし、次のセクションの量的例で評価しうる大きな利点を有する追加な物理的な機構と結合した結果をもたらす。
【0027】
受動的熱質量に関する現在のシステムの一実施形態の別の利点は、気流が制御されるために、加熱/冷却効果も同様に制御できるということである。効果が「間違った方向」である場合、(つまり、システムに流入する非常に暑い空気を、冷却時に現在の内部の気温より下に冷却することができない時、または、流入する非常に冷たい空気を、加熱時に現在の内部の気温より上に加熱することができない時)、気流は止めることができる。
【0028】
受動的熱質量に関する本システムのさらなる利点は、密閉の要件に関する。熱質量をその初期の温度に近付けておくために、充分に断熱しなければならない。大量の吸湿性材料を元の同等の湿度近くに保つためには、密封して気密性にする必要がある。これは、多くの状況において、断熱性の高い障壁を達成するのに必要とされる効果と比較した時、(例えば、屋根用シーラー、エポキシ、上薬掛け(glazing)、塗料などの手段により)より容易に行うことができる場合がある。
【0029】
上述したように、現在のシステムは、材料の熱質量およびその吸湿特性の自然な結果として、実際に両方の方法(熱質量および吸湿)を使用する。
【0030】
5.1.3量的例
ここで量的例を考慮する。水が蒸発する熱は2257KJ/kgであり、結合エネルギーを加えると、シリカゲルが吸収するエネルギーの合計は2500KJ/kgに達し、または、ベントナイト+CaC12が吸収するエネルギーは3500KJ/kgに達する。
【0031】
比較として、具体的な熱質量の熱容量は、約0.9KJ/Kg*Kである。したがって、10度(ケルビン度と同じ程度)の変化に対して、1キログラムのコンクリートは約10kJを吸収/放出する。しかし、大気の相対湿度における日内変動は、早朝における65%RHから真昼での20%RHまでの平均で容易に変化する可能性があると考慮されたい。この日内変動との平衡状態では、1キログラムのベントナイトは約16(重量)%から6(重量)%までその含水量が変わるであろうが、100gの吸収/脱着水分含有量は、上述のベントナイト/CaC12混合物の350KJに対応し、すなわち、1kgのコンクリートの熱質量により吸収/放出されたエネルギーの約35倍である。
【0032】
これらの数字は単純な生のベントナイト混合物について計算され、かつ、(例えば)25%RHと60%RHとの間の水の最大量を吸収/放出するために設計された、仕立てられた材料は、上述の通り計算された350KJ/kgという数字以上にまでも十分に吸収/放出するだろう。
【0033】
5.2日和見性の(Opportunistic)湿潤および乾燥収穫
吸収脱着機構でエネルギーを貯蔵する可能性には大きな利益が存在する。これまでに公開されたシステムにおいて、システムを充填する(乾燥させる)ためのエネルギー源は、ソーラーコレクター、廃熱、その他から来る。しばしば水は蒸発冷却のために外部的に加えられる。ここで使用される新規性のある手法は、正しい周囲の状態を「探し回る」こと(その日のまたは季節のうちに自然に生じるこれらの状態を待つという意味で)を含んでいる。そうすることによって、システムはエネルギーを貯蔵するだけでなく、この一般的に未使用の再生可能なエネルギー源を収穫する。
【0034】
5.3建物との一体化
5.3.1定義
組立体は、吸収貯蔵器の機能を、壁、床、天井、屋根または外面の壁に沿った大きなベンチのような家具などの、建築要素の通常の機能と組み合わせる。様々な実施形態はすべて、大量の吸湿性材料、気流経路、および吸湿性材料を屋外の空気、室内の空気、またはその両方に接続する少なくとも2つの通気口を備える。
【0035】
構造的構成要素は、上記の「組立体」と同じ機能を有する構造である。
【0036】
気流経路は、以下の:
1.空気が通気口から材料内へと、材料を通過し、かつ材料の外へ流れることを可能にする、材料内の分離した経路、
2.材料とその被包材料との間の空隙によって形成される経路、
3.組立体と別の建築要素などの最も近くにある周囲のものとの間で形成される経路、
図2の場合、この最も近くにある周囲のものは屋根であり、図は屋根板と吸収材料との間の空隙を示している。
4.
図3、4にあるような材料、および、
図5および
図6の組立体、
図7の組立体の配置によって形成される経路、
5.材料の粒子の間の空気通路によって形成される経路、
材料が粒からなる形式である場合、気流通路は顆粒間にある。
様々な形式の内部空気通路はまた、その製造工程において吸収材料に導入されてもよい。
6.上記の可能性の一つまたは組み合わせを使用する経路、
である可能性がある。
図6(
図7の要素の組立体を示している)に見られるように、異なる組立体の間の接続には、異なる部分の間を空気が流れることを可能にするバルブがある。
【0037】
通気領域とは、空気が吸湿性材料と接触して熱および湿気の移動が起こりうる容積を指す。
【0038】
通気口は、電子的に制御されてもよく、一般的に、気流を許容または防止するためのバルブ(例えば、バタフライバルブ、ブラインドベントなど)、および、随意に、空気が流れるように設計された送風機を含む。通気口および送風機の組立体により、大量の吸湿性材料と接触して、空気を本発明の経路を通って流すことができる。そのような通気口がいくつかあってもよく、たとえば、建物の外側に接続された2つの通気口と、内側に接続された2つの通気口がある。温度および湿度、周囲の、内部の、および予期される将来の状態に応じて、これらの4つの通気口により、4つの可能な動作;空気が外側から外側へ、内側から内側へ、外側から内側へ、および、内側から外側へ押し込まれることが可能になる。
図8に示すように、自然対流現象を利用して、特定の流れを導くことができる。たとえば、暖かい空気を上昇させ、冷たい空気を下降させることが可能になる。通気口は、開いたときに受動的に温度と湿度の交換を可能にすることによって、空気を押し込むことなく使用することもできる。例えば、天井の組立体は、暑く乾燥した日の間中、建物の内部に向かって開き、水をその中へと蒸発させて天井付近の空気を冷却することができる。
【0039】
大きな受動的内部通気口:
受動的通気口操作の1つの特定のケースは、
図2に示されているようなものであることができ、内部通気口は拡大されて上記気流経路の大部分が建物の内部容積に露出され、したがって、上記吸湿性材料から上記建物内部への受動的な空気および水蒸気の移動が可能になる。この可能性は、外側の気密シールで被包され、その内側には非常に多孔性の構造を有する「吸収タイル」を示す
図9に見ることができる。タイルの下で気流が活性化される時、空気の交換は、吸収材料から気流へと行われうる。
【0040】
構造的構成要素は、隣接する通気領域内で空気に曝されるある量の吸湿性材料を含む構成要素である。
【0041】
周囲空気とは、具体的に内または外の空気であることが記載されていない限り、一般的に、上記組立体または構造的構成要素の外側の空気をいう。
【0042】
気流制御システムは、これらの通気口を制御するために使用されてもよく、さらに、制御は、温度およびRHの現在の状態および予想される状態、ならびにユーザーの好みに基づく。例えば、ユーザーが自分の快適ゾーンが18~23度の温度かつ25%~65%RHの間にあることを示す場合、アルゴリズムは、上記の4つの可能な動作の予想される効果を測定するために使用することができる(例えば、過去の動作および効果のデータベース、熱および質量移動の方程式を使用する直接計算などに基づく。)これらの動作のうちの1つが、内部状態を快適ゾーンに近づけるために発見された場合、この動作を行うことができる。
【0043】
ユーザーの快適ゾーンを定義する代わりに、平均または推定された快適ゾーンを使用することができる。あるいは、「サマーモード」および「ウィンターモード」が使用されてもよい。例えば、「サマーモード」において、材料から水を脱着させることにより、冷却が好ましいはずであり、一方、ウィンターモードでは、材料に水を吸着させることにより、加熱が好ましいはずであると仮定してもよい。
【0044】
本発明の全てのモードにおいて、吸湿性材料は、概して1日の期間にわたって「再生」されなければならない。材料を使用して空気を湿らせ/冷やすと、その後徐々にその水分含有量が失われ、処理が繰り返された場合には交換する必要がある。これは、一般に、周囲空気のRHが増加する(露が落ちるときに100%に達する)夜間に行うことができる。材料がこの湿気を空気から吸収すると、それは加熱されるが、このように加熱された空気は建物の外に押し出され、さらに気流が長時間にわたって発生する可能性がある。これは、夜の空気それ自体が一般により冷たくなり、かつ、大量の冷たい空気と吸湿性材料との間の熱伝達がその湿気吸収の加熱効果を埋め合わせるために使用され得るので、有用である。冬期または加熱が必要な場合は、すべての影響が反対方向に発生する。材料は徐々に湿気を吸収し、建物の加熱のために空気を加熱するが、翌日または次の加熱期間のために乾燥する必要があるだろう。したがって、RHが低い日の間には、大量の空気を吸湿性材料に通して乾燥させることができ、かつ、夜間には、(例えば)内部の湿った空気を、吸湿性材料を通して除湿し加熱することができる。
【0045】
軽量コンクリートブロックとしての組立体
1つの一般的な建築技法は、建築物の構造を形成するコンクリートまたは他の「骨格」(床/天井および柱)を含み、壁は軽量コンクリートブロックまたは他の非構造要素によって埋められている。これらの軽量コンクリートブロックは、低価格で壁を形成し、かつ重要でない構造の目的に合う。本発明の一実施形態では、新しい「軽量コンクリートブロック」が導入され、壁、床、天井、または他の建造物構成要素の任意の組み合わせに大量の多孔性の吸湿性材料を使用することを可能にする。当業者には理解されるだろうが、床および天井はまた、吸湿性材料のいくらかの部分を含んでいてもよく、または、タイル張り、コーティング、または構造的もしくは非構造的な構成要素として導入される他の方法において、使用されてもよい。唯一の要件は、吸湿性材料を含むために十分な体積の建築構造が作られるということである。
【0046】
被包:
シーラー、エポキシ、上薬掛け、膜、フィルム、塗料などによる被包のための様々な方法がある。必要とされる実施形態に応じて、完全にまたは部分的に気密にすることができる。被包は、被包要素を1つ以上の建築要素に取り付けることによっても達成することができる。いくつかの実施形態では、材料は大部分または完全に気密性外被内に被包されるが、しかし、周囲空気との受動的交換が強制的な空気対流中の交換と比較して十分に小さくてもシステム性能にはほとんど影響を与えないので、これは厳密な要件ではない。
【0047】
部分的に被包された実施形態の例は、
図2および
図9に見ることができる。
【0048】
5.3.2熱および質量移動および貯蔵器効率のための大きな表面積
1.この方法の驚くべき有効性を理解する一つの方法は、多くの加熱装置が大きな温度差を必要とすることを考慮することである。例えば、効果的となるように、周囲に十分な熱を伝達するために、ラジエーターは60度に、または加熱要素は600度に保たれる場合がある。本発明の場合、圧倒的に大きな表面積が設けられているため、例えば、周囲に対する5度程度の温度差は、内部の空気全体をこの上昇または低下した温度にまで急速に加熱または冷却することによって、建物にいる人に快適な温度を提供するのに十分である場合がある。熱伝達に必要とされる低い温度差は、温度差が「最後まで」使用されうるという意味で、エネルギー貯蔵器の「より深い」使用を可能にする。他の方法はより高い温度差を必要とし、そうする際に熱損失があり、同様に温度差が小さい時には効率が損われる。
2.熱伝達および湿気の吸収と脱着が、壁天井や床などの表面に自然に生じる。
システムの応答時間は、特に低温中および湿度の差異においてはシステム効率が不可欠である。空気が材料の内部で流れることを可能にすることによって、利用可能な表面積を大幅に拡大することが可能である(以下の5.3.3、三次元構造において後述する)。
これにより、我々が知っている熱質量の効果、および、吸収と脱着の効果が劇的に増幅される。
【0049】
5.3.3三次元構造
一実施形態では、ブロックなどの構築要素は、吸湿性材料が大きな割合で構成される。高度に多孔性の3D構造と組み合わされた有用な構造強度により、高い表面積および対応する蒸気質量移動と捕捉と熱伝達が可能になる。建築要素は、高強度かつ最適化された密度の3D構造で形成されているが、同時に高表面積で形成される。建築要素の内部構造には、急速な拡散、吸着、および湿気の放出のための三次元空気経路が含まれる。これは、例えば、動脈/静脈系、肺、樹木の根または枝、および相間交換のために大きな表面積を必要とする他の系で見られるような、粗-細(coarse-to-fine)経路のネットワークによって達成される。この配置は、例えば、現在用いられている球のランダムネットワークよりも高い表面積を可能にするだろう。
【0050】
本発明は、周囲の状態によって動力を供給される密閉された熱によって動かされる吸収-放出構築要素を製造することを可能にする、従来の構造技術を使用することができる。
【0051】
5.3.4湿度バランス
本発明の一実施形態では、吸湿性材料は、温度を制御するだけでなく、室内の湿度を制御するためにも使用される。例えば、暑い日には、熱に対する感覚が、高い湿度によって増す。「快適ゾーン」はこれを考慮に入れ、より高い温度が快適に保たれるためにより低い湿度を必要とする。冷却のために、本発明は、吸湿性材料と接触する空気の湿度を増加させる必要があるので、周囲(外部)の空気を吸湿性の質量を通して外側に戻してもよく、壁/床/天井を冷却させることが可能になり、一方では余分な湿気を導入しない。
【0052】
5.3.5異なる実施形態としての組立体
本発明の実施形態の特定のいくつかのケースは次のとおりである:
1.(i)冷却/加熱を提供する壁(
図3および
図5)
(ii)床下式の冷却/加熱を提供する床のタイル(
図4、
図6、
図7)
2.夜には湿気を吸収し、昼には蒸発させ、これによりタイルを低温に維持するタイル。一実施形態では、全開システムが使用される。
3.内部または外部の追加の要素
既に建造されている建物の場合には、または他の理由から、本発明の一実施形態は、壁天井または床に加えられる要素を使用する。これらの要素はまた、協働して作動するか、または他の要素とは別々に、自動で作動することができる。
【0053】
5.3.5.1屋根の下の吸収屋根板および吸収層
家の中への、およびその家からの主な熱伝達は、屋根で生じる。屋根の下の吸収屋根板(
図9)と屋根の下の吸収層(
図2)は、建物の外被を通る熱伝達を大きく改善することができ、それによって加熱および冷却のコストを削減することができる。
【0054】
多くの屋根が、その粘土材料により既にある程度の湿度吸収を有するセラミックの屋根板から作られる。著しい量の湿度を吸湿および脱湿し、それによりそれぞれ加熱および冷却することができる、新規な高い吸収および表面積の屋根板を提案する。一実施形態では、システムは、制御される必要なしに、別記されるような日内の湿度および温度の変化を使用可能であるだろう。
【0055】
5.3.5.2家具
建築要素における吸収材料の一体化は、単なる1つの可能な本発明の実施形態である。
さらに、それを家具などの他の要素に一体化することが可能である。例えば、寸法0.5m×0.6m、長さ3mの、壁の側にある大きなベンチは0.9m3の容積を含む。この体積が、高度な吸収材料で主として構成される場合、それは空気から、およびその空気へと、実際的に100kgの水を吸収し脱着することができるだろう。エネルギーに関しては、これは各サイクルの約100KWhである。一シーズンで数回の完全なサイクルがあると仮定すると、このエネルギー量は部屋の最大限に冷却および加熱する要件には十分であるだろう。
【0056】
この種の要素は、エアコンが一体化されるように、構造への変更なしで一体化されるので、既存の住居において一体化することができる。
【0057】
5.3.6建物の1メートル当たりの量的例
吸着または放出される水1kg当たりの熱放出/吸収量は約1kwh/kg水であり、建築材料の立方メートル当たり数百キログラムの水が、多孔率、表面積、および吸湿性材料の特性に応じて吸収され得る。年間加熱負荷が約20KWh/m^2(例えば、地中海性気候の場合)でありうると考えられる場合、エアコン1年間に相当する貯水は、貯水量約33kg/m^2であり、通常の材料、および、例えば30cmの厚い壁で実際に達成しうる(乾燥剤中に100g/kgの貯水と仮定)。さらに、加熱/冷却のために必要なエネルギーは、より短い時間にわたる変動、例えば、1日でも有効に活用することができるので、一年間にわたり貯めておかなくともよい。
【0058】
5.4 壁組立体の詳細な実施形態
物理的なシステムの可能な実施形態は
図10に示されている:
実施形態の主要部分は、建物の一部(1)、壁部(2)を構成するが、しかし、他の可能な実施形態は、既存の壁に取り外し可能なパネルを使用して構築することができる。壁部(2)は、ペンキ、プラスチックまたは上薬掛けの何らかの形式のなどの、湿度遮断材料で被包される。壁の被包された部分では、多孔性の吸湿性材料(5)が、ほとんどの壁部体積を埋めている。
【0059】
材料は、材料を通る表面積および気流を最大にするだろう幾何学的パターン(ジグザグまたは角など、図示せず)で配置することができる。
【0060】
建物内部(6)に面する壁の部分には、建物内部への、および、内部からの気流を可能にする、2つの通気口で高所の通気口(11)と低所の通気口(13)がある。これらの通気口は2つの対応する切り替え可能なバルブ(10)および(12)によって制御される。
【0061】
建物外部(7)に面する壁の部分にはまた、建物外部への、および、外部からの気流を可能にする、2つの通気口で高所の通気口(3)と低所の通気口(4)がある。上部の通気口は、空気を両方向に、または、外から内へ(通気口(15)から通気口(3)へ)、または、内から外へ(通気口(3)から通気口(15)へ)押し込むことができる、送風システムであるファン(14)に連結される。
【0062】
ファン(14)は通気口の中の通路を最小化するために切ることができる。より切り換え可能なバルブが追加されることができ、すなわち、壁の内部の湿度条件をさらに良好に制御するために、ファン(14)に連結することができるが、これらは基本的な使用例については重要ではない。
【0063】
外部空気の温度および湿度は、温度および湿度のセンサー(20)を使用してモニタリングされる。
【0064】
低所の内部通気口(13)の中の空気の温度および湿度もまた、温度および湿度のセンサー(22)を使用してモニタリングされる。
【0065】
建物の内部の空気の温度および湿度は、建物の内部に置かれ内部空気に接する、温度および湿度のセンサー(23)を使用してモニタリングされる。
【0066】
空気は、切り替え可能なバルブ(10、12、16)の(開/閉)状態とファン(14)の(空気の押し入れ、空気の吸い出し、遮断)状態の様々な組み合わせによって指示されるいくつかの異なる経路における吸湿性質量を通って流れることができる。特定の経路は、センサー(19、20、21、22、23)の読み取り値と、ユーザーによって設定された一般モード(冷却/サマーモードまたは暖房/ウィンターモード)とに基づくスキームを使用して決定されるか、または、現地の天気予報とユーザーの使用パターンを考慮した制御アルゴリズムにより決定される。単純な決定スキームの一例は、(サマー/冷却モードについては)
図11中に、(ウィンター/加熱モードについては)
図12中に、以下の通気経路および定義に基づいて、示されている。
【0067】
パラメーターの定義:
建物内部についての快適な温度範囲:Tc minからTc maxまで。
センサー(23)から与えられる、建物の内部の温度:Tb。
センサー(20)から与えられる、外部(周囲)の温度および湿度:温度についてはTa、相対湿度についてはHm。
センサー(21)から与えられる、通気口(17)上の気温:Tout。
センサー(22)から与えられる、通気口(13)上の気温:Tin。
Tinは、活性気流の数分後、アクティブモード中に測定することができる。
センサー(19)から与えられる、吸湿性材料の温度および相対湿度:温度についてはTa、相対湿度についてはHm。
このセンサー(19)は、吸湿性材料の状態を直接的にチェックすることによってというよりは、吸湿性材料が冷却しているか(Tb>Tin)または加熱しているか(Tb<Tin)を測定するためにTbとTinを比較することによって、一定の構成において省略することができる。
【0068】
可能な気流通路およびシステムモードの定義:
1.アクティブモード:
バルブ(10)および(16)は閉まっている。空気は通気口(15)から入り、起動されたファン(14)を通過し、通気口(4)を通って吸湿性材料に通じ、通気口(13)および開放バルブ(12)から建物内へと出る。
2.受動モード:
バルブ12および16は閉まっている。ファン(14)は、空気を建物に押し込み、吸湿性材料、通気口(3)および(11)、ならびに開放バルブ(10)を通過させない。
3.再生モード:
両方の内部のバルブ(10および12)は閉まっており、かつ、ファン(14)は吸湿性材料へ、かつ開放バルブ(16)の外に、空気を押し込む。
4.貯蔵モード:
バルブはすべて閉まっており、ファンが切られる。
【0069】
Tinがどれほどかを確認するために、システムが数分間アクティブモードでなければならないことに留意されたい。より精巧なシステムが通気口(11、13、15、17)のそれぞれにファンおよびバルブを設けることにより、達成することができる。それは、以下のような他の気流通路を可能にするだろう:
5.内部再生/起動モード:
2つの内部ファンは、高所/低所の内部の開口部から空気を吸い込み、空気を吸湿性材料に押し込み、そして低所/高所の内部の開口部から建物へと戻すために、一斉に働く。
2つの外部ファンは遮断され、かつ、2つの外部バルブが閉じられる。正確な経路(低い方から高い方へ、高い方から低い方へ)は、ファンの負荷を軽減したり、特定の条件下で完全に無効にするために、空気の対流力(熱気の上昇、冷気の沈下)の寄与を利用するよう選択することができる。
6.対流冷却モード:
ファンはすべて切られている。上部の外部バルブおよび下部の内部バルブは開いている。吸湿性材料の中で冷却された空気は、そのより高い密度により、下方へ流れるだろうし、建物を冷やす受動的な空気の動きを作り出す。この受動的な動きもまた、ファンのうちのいくつかを起動することにより支援することができる。
7.対流加熱モード:
ファンはすべて切られている。低所の外部バルブおよび高所の内部バルブは開いている。吸湿性材料の中で加熱された空気は、そのより低い密度により、上方へ流れるだろうし、建物を温める受動的な空気の動きを作り出す。この受動的な動きもまた、ファンのうちのいくつかを起動することにより支援することができる。
【0070】
湿度冷却閾値:
湿度交換を使用して建物を冷却するためには、吸湿性材料は流入空気と比較して「十分」湿っていなければならず、それにより流入空気は吸湿性材料から水を蒸発させ、流入空気および材料それ自体の冷却をもたらす。この場合、「十分」とは、吸湿性材料と平衡する蒸気圧中の空気が、(家の外から、または家の中から)組立体に入る空気よりも湿っている場合である。
【0071】
湿度加熱閾値:
湿度交換を使用して建物を加熱するためには、吸湿性材料は流入空気と比較して「十分」乾燥していなければならず、それにより流入空気は吸湿性材料から水を蒸発させ、流入空気および材料それ自体の加熱をもたらす。この場合、「十分」とは、吸湿性材料と平衡する蒸気圧中の空気が、(家の外から、または家の中から)組立体に入る空気よりも湿っていない場合である。
【0072】
より高度な制御スキームは、下記の1つ以上を組み合わせることにより、ユーザー体験をさらに増強するために計画することができる:
* 気象条件の将来予測。
* ユーザーの通常の行動パターン(業務時間、週末など)。
* ユーザーの特別の要件(家での病気、親族訪問、子どもの誕生)。
* 蓄積された使用データに基づいた、システム挙動に関する予測。