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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】シール部材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20220311BHJP
   F16J 15/3268 20160101ALI20220311BHJP
【FI】
F16J15/18 B
F16J15/3268
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018013967
(22)【出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2019132324
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【弁理士】
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】土屋 幸司
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/008155(WO,A1)
【文献】実開昭59-134781(JP,U)
【文献】実開昭58-084456(JP,U)
【文献】実開昭57-079262(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/32
F16J 15/324-15/3296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の筐体に収容された軸部材と前記筐体の内壁との間の隙間を封止するシール部材において、
環形状を有し、該環形状の周方向に垂直な断面が円形状の第1のOリング部であって前記軸部材と前記筐体の前記内壁とのうち前記軸部材のみに当接する第1のOリング部と、
前記第1のOリング部の環形状よりも半径が大きい環形状を有し、該環形状の周方向に垂直な断面が円形状の第2のOリング部であって前記軸部材と前記筐体の前記内壁とのうち前記筐体の前記内壁のみに当接する第2のOリング部と、
前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各環形状の全周にわたって前記第1のOリング部と前記第2のOリング部とを接続する帯状の接続膜と、を備え、
前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各環形状の周方向に垂直な前記シール部材の断面における前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各断面の円形状の直径は、前記シール部材の前記断面における前記接続膜の膜厚よりも大きいものであり、
前記シール部材の前記断面において、前記第1のOリング部および前記第2のOリング部それぞれの断面の円形状の中心を結ぶ線分は、前記シール部材の前記断面の外部にはみ出すことなく前記接続膜の断面の内部を貫通してこれら2つの中心を結ぶものであり、
前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各環形状の中心軸は同軸であり、
前記線分は、前記中心軸に対して斜め方向に直線的に延びており、前記接続膜は、該接続膜の膜厚を無視すれば円錐台の側面のテーパー形状を有するものであるシール部材。
【請求項2】
前記シール部材の前記断面において、前記第1のOリング部および前記第2のOリング部のそれぞれに接続する前記接続膜の両端部の膜厚は、該両端部の中間に位置する前記接続膜の中央部の膜厚よりも大きい請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記線分は、前記接続膜の前記断面における、前記接続膜の膜厚方向についての中心を通るものである請求項1又は2に記載のシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の筐体に収容された軸部材とその筐体の内壁との間の隙間を封止するシール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を含む筒状の筐体に収容された軸部材とその筐体の内壁との間の隙間を封止するシール部材が従来から知られている。こうしたシール部材は、筐体の内壁と軸部材との双方に接しながら軸部材を取り囲む態様で筐体内に配置されて筐体の内壁と軸部材の間の隙間を2つの空間に分断し、この結果、分断された2つの空間の間を流体が移動するのが抑制される。このようなシール機構は、たとえば、分断された2つの空間内の流体の圧力を異なる圧力値に調整することが要求される圧力制御装置をはじめ、筒状の筐体と軸部材とを構成要素として持つ数多くの装置で利用されている。
【0003】
こうしたシール機構で用いられるシール部材の中には、軸部材と筐体の内壁との間の隙間を封止しつつ、軸部材の軸方向に沿った方向への、筐体の内壁に対する軸部材の相対的な移動が可能なように工夫されたものが存在する。
【0004】
こうしたシール部材の典型として、ダイヤフラム膜が従来からよく知られている(たとえば、特許文献1参照)。ダイヤフラム膜は、軸部材と筐体の内壁との双方にダイヤフラム膜の端部が固定されて軸部材と筐体の内壁との間の隙間を封止する。筐体の内壁に対し軸部材が軸方向に相対的に移動する際には、その軸部材の移動に合わせてダイヤフラム膜が伸長し、この結果、ダイヤフラム膜の存在により軸部材の移動が阻害されることなく隙間の封止状態が維持される。
【0005】
ダイヤフラム膜をシール部材として用いるシール機構では、以上の説明からも明らかなように、封止対象の隙間が、ダイヤフラム膜を収容できるほど十分に広いことが要求される。しかしながら実際には、軸部材と筐体の内壁との間の隙間が狭くてダイヤフラム膜を配置できない(隙間にダイヤフラム膜が嵌りこんでしまい軸部材の移動が阻害される)状況もしばしば存在する。また、ダイヤフラム膜を用いるシール機構では、ダイヤフラム膜の両端部をしっかり挟み込んで固定するための複雑な構造を軸部材や筐体の内壁に設けてダイヤフラム膜両端部を固定する作業が必要であり手間がかかる。特に封止対象の隙間が狭い場合には、この作業は特に面倒なものとなる。
【0006】
このようにダイヤフラム膜を用いたシール機構は少し複雑すぎ、狭い隙間を封止するシール部材としては、ダイヤフラム膜は不向きである。
【0007】
ここで、軸部材と筐体の内壁との間の隙間を封止しつつ、軸方向への軸部材の相対的な移動が可能なように工夫されたシール部材の中には、ダイヤフラム膜とは異なる構造を有し、狭い隙間を封止するのに適したシール部材もいくつか存在する(たとえば特許文献2~3参照)。特許文献2~3のシール部材は、どちらかというと、Oリングを発展させたシール部材に対応しており、軸部材および筐体(より正確には筐体の内壁)のうちの一方の部材に設けられた溝状の凹部にシール部材自身の弾性的な伸長力によって嵌り込むことでその一方の部材上に固定される。そして、他方の部材とは固定はされないものの常に当接状態が保たれており、一方の部材が他方の部材に対して相対的に移動する際には、他方の部材にシール部材が摺動する。この結果、シール部材の存在により一方の部材の移動が阻害されることなく2つの部材の間の隙間の封止状態が維持される。
【0008】
特許文献2~3のシール機構は、一方の部材とは溝状の凹部のような単純な構造物にシール部材が嵌り込むだけでシール部材が固定され、他方の部材とは単にシール部材が摺動するだけであるため、ダイヤフラム膜を用いたシール機構よりもきわめて簡単である。このため、特許文献2~3のシール部材は、狭い隙間を封止するのに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-33822号公報
【文献】特開2010-101341号公報
【文献】特開2015-197179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2のシール部材では、軸部材や筐体の内壁にそれぞれ接する両端部に比べ、残りの中央部分の厚さが薄くなっており、摺動摩擦を受けるとシール部材の中央部分が柔軟に変形することで摺動摩擦の影響が緩和されている(特許文献2の図3参照)。一方、特許文献3のシール部材では、直接に摺動抵抗を受ける端部だけを摺動摩擦に対する耐久性が高い特殊な材料で構成することで摺動摩擦の影響が緩和されている(特許文献3の図1参照)。
【0011】
ここで、筒状の筐体と軸部材とを構成要素として持つ装置の中には、軸部材がその軸方向に(相対的に)移動するのに加え、軸方向に垂直な方向についても軸部材が本来の位置から外れて位置ずれを頻繁に起こすものが多い。たとえば、動作中の装置の振動や運搬中の装置の振動の影響により軸部材が軸方向に垂直な方向に振動することで、こうした軸方向に垂直な方向への軸部材の位置ずれは頻繁に起きる。特許文献2,3のシール部材をこうした装置に適用した場合、軸方向への軸部材の相対的な移動に伴う摺動摩擦の影響は緩和されても、軸方向に垂直な方向への軸部材の頻繁な位置ずれによりシール部材が繰り返し変形しシール部材の耐久性が低下することが懸念される。
【0012】
上記の事情を鑑み、本発明は、軸方向に垂直な方向への軸部材の位置ずれに対する耐久性の向上が図られたシール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のシール部材を提供する。
[1] 筒状の筐体に収容された軸部材と前記筐体の内壁との間の隙間を封止するシール部材において、環形状を有し、該環形状の周方向に垂直な断面が円形状の第1のOリング部と、前記第1のOリング部の環形状よりも半径が大きい環形状を有し、該環形状の周方向に垂直な断面が円形状の第2のOリング部と、前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各環形状の全周にわたって前記第1のOリング部と前記第2のOリング部とを接続する帯状の接続膜と、を備え、前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各環形状の周方向に垂直な前記シール部材の断面における前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各断面の円形状の直径は、前記シール部材の前記断面における前記接続膜の膜厚よりも大きいシール部材。
【0014】
ここで、第1のOリング部および第2のOリング部の各断面が「円形状」とは、各断面の形状が真円あるいは真円に近い楕円であることを指している。後者の「真円に近い楕円」とは、より具体的にいえば、長軸の長さに対する短軸の長さの比率が0.75以上の楕円を指している。いずれの場合においても、上記の「円形状」は、1つの完全な真円、あるいは、1つの完全な、真円に近い楕円を指しており、真円の一部や真円に近い楕円の一部を指すものではない。なお、第1のOリング部および第2のOリング部それぞれの断面の円形状の「直径」とは、「円形状」が真円の場合にはその真円の直径そのものを指し、「円形状」が上述の「真円に近い楕円」の場合には長軸の長さと短軸の長さの和を指している。
【0015】
また、シール部材の断面における接続膜の「膜厚」とは、この断面内で接続膜の膜厚が場所によって変化する場合には、接続膜の任意の場所の膜厚を指す。従って、上記の[1]に記載されている、第1のOリング部および第2のOリング部の各断面の円形状の直径がシール部材の断面における接続膜の膜厚よりも大きい状況とは、上記の2つの直径それぞれが接続膜の膜厚の最大値よりも大きい状況を指している。
【0016】
[2] 前記中間前記シール部材の前記断面において、前記第1のOリング部および前記第2のOリング部のそれぞれに接続する前記接続膜の両端部の膜厚は、該両端部の中間に位置する前記接続膜の中央部の膜厚よりも大きい[1]に記載のシール部材。
【0017】
[3] 前記シール部材の前記断面において、前記第1のOリング部および前記第2のOリング部それぞれの断面の円形状の中心を結ぶ線分は、前記シール部材の前記断面の外部にはみ出すことなく前記接続膜の断面の内部を貫通してこれら2つの中心を結ぶものである[1]又は[2]に記載のシール部材。
【0018】
[4] 前記線分は、前記接続膜の前記断面における、前記接続膜の膜厚方向についての中心を通るものである[3]に記載のシール部材。
【0019】
[5] 前記第1のOリング部および前記第2のOリング部の各環形状の中心軸は同軸である[1]~[4]のいずれかに記載のシール部材。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシール部材では、軸部材の軸方向とは垂直な方向について軸部材の位置ずれが頻繁に生じても、その位置ずれに応じて接続膜の各部が伸縮することで、こうした軸部材の位置ずれにかかわらず隙間の封止状態が維持される。
【0021】
一般に、シール部材に及ぼされる応力は曲率の変化が急激な箇所に集中しやすく、その箇所でシール部材の損傷が発生しやすい。たとえば、特許文献2のパッキン5(シール部材)では、中間可撓部5C(接続膜)と2つのシール部5A,5B(Oリング)との接続箇所付近の形状は、断面で見るとほぼ90°に折れ曲がった形状となっている(たとえば特許文献2の図2の断面図参照)。このため、この折れ曲がりの箇所では曲率の変化が急激であり、この箇所でパッキン5の損傷が発生しやすい。特に、特許文献2のスプール3(軸部材)がスプール3の軸方向に垂直な方向に位置ずれを頻繁に起こすような場合には、上述の損傷によるパッキン5の耐久性の低下は深刻なものとなる。
【0022】
一方、本発明では、断面がそれぞれ円形状の第1のOリング部と第2のOリング部とが、各円形状の直径よりも膜厚が小さい接続膜で接続された構成が備えられている。本発明の2つのOリング部の断面の円形状のように接続膜の接続対象の断面が円弧状に湾曲している状態は、特許文献2のように接続対象の断面が平坦(直線的)となっている状態と比べ、接続箇所付近の形状の曲率の変化が緩やかである。この結果、本発明では、軸部材が軸方向に垂直な方向に頻繁に位置ずれを起こしても接続箇所への応力の集中が避けられるため、こうした位置ずれに対するシール部材の耐久性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のシール部材の一実施形態であるシール部材を隙間封止に用いたシール機構を表す模式的な断面図である。
図2】隙間封止に用いられていない状態での図1のシール部材の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0025】
図1は、本発明のシール部材の一実施形態であるシール部材1を隙間封止に用いたシール機構を表す模式的な断面図であり、図2は、隙間封止に用いられていない状態での図1のシール部材1の模式的な断面図である。
【0026】
シール部材1は、筒状の筐体6に収容された軸部材5と筐体6の内壁7との間の隙間を封止するシール部材である。シール部材1は、第1のOリング部2、接続膜3、および第2のOリング部4を備えている。第1のOリング部2は環形状を有しており、第2のOリング部4は第1のOリング部2の環形状よりも半径が大きい環形状を有している。接続膜3は、第1のOリング部2および第2のOリング部4の各環形状の全周にわたって第1のOリング部2と第2のOリング部4とを接続する帯状の部材である。ここで、図1および図2は、第1のOリング部2および第2のOリング部4それぞれの環形状の周方向に垂直な面内で表された断面図である。
【0027】
軸部材5の表面には、軸部材5の回りを一周する溝状の第1の凹部8が形成されている。また、筐体6の内壁7の表面には、内壁7を一周する溝状の第2の凹部9が形成されている。シール部材1の第1のOリング部2は弾性体材料で構成されており、図1に示すように第1のOリング部2が第1の凹部8内で両矢印W方向にその弾性力で伸長することで、第1のOリング部2は第1の凹部8に嵌り込んでいる。同様に、シール部材1の第2のOリング部4も弾性体材料で構成されており、図1に示すように第2のOリング部4が第2の凹部9内で両矢印Z方向にその弾性力で伸長することで、第2のOリング部4は、第2の凹部9に嵌り込んでいる。
【0028】
また、シール部材1の接続膜3も弾性体材料で構成されており、図1に示す両矢印V方向にその弾性力で伸長することで、第1のOリング部2および第2のOリング部4を、第1の凹部8および第2の凹部9にそれぞれ押し付けている。ここで、図1および図2のシール部材1の断面(図1および図2の左右2つの分かれた断面)では、接続膜3は、斜め方向に延びて第1のOリング部2と第2のOリング部4とを接続している。しかし、本発明は、接続膜3が、図1および図2の水平方向(つまり軸部材5の軸方向に垂直な方向)に延びて第1のOリング部2と第2のOリング部4とを接続しているシール部材であってもよい。
【0029】
シール部材1は、このように筐体6の内壁7と軸部材5との双方に圧接しながら軸部材5を取り囲む態様で筐体6内に配置されており、この結果、筐体6の内壁7と軸部材5との間の隙間は、シール部材1の上側と下側の2つの空間に分断されている。ここで、筐体6内には流体が含まれており、シール部材1により隙間が2つの空間に分断されることで、これら2つの空間の間を流体が移動するのが抑制される。このようなシール機構は、たとえば、各空間内の流体の圧力を異なる圧力値に調整することが要求される圧力制御装置をはじめ、筒状の筐体と軸部材とを構成要素として持つ数多くの装置に適用できる。
【0030】
ここで、図1のシール機構が適用されている装置では、軸部材5は、装置の動作に伴い基準の位置から両矢印Y方向(軸部材5の軸方向)に多少移動する。この移動距離は接続膜3の幅方向のシール部材1の長さ以下の短いものであって、この軸部材5の移動の際には、軸部材5の移動に合わせて接続膜3が伸縮する。この結果、シール部材1の存在により軸部材5の移動が阻害されることなく隙間の封止状態が維持される。
【0031】
一般に、筒状の筐体と軸部材とを構成要素として持つ装置の中には、軸部材がその軸方向に(相対的に)移動するのに加え、軸方向に垂直な方向についても軸部材が本来の位置から外れて位置ずれを頻繁に起こすものが多い。たとえば、動作中の装置の振動や運搬中の装置の振動の影響により軸部材が軸方向に垂直な方向に振動することで、こうした軸方向に垂直な方向への軸部材の位置すれは頻繁に起きる。
【0032】
以下では、図1のシール機構が適用されている装置もこのような装置の1つであるとして、シール部材1の構成や機能についてさらに詳しく説明する。すなわち、図1のシール機構が適用されている装置では、軸部材5は、両矢印Y方向(軸方向)に移動するのに加え、基準の位置から両矢印X方向(軸方向に垂直な方向)への位置ずれを頻繁に起こす。以下では、説明の簡単化のため、軸部材5の両矢印Y方向の移動の頻度は両矢印X方向への軸部材5の位置ずれの頻度に比べ少なく、両矢印X方向への軸部材5の位置ずれの影響が専ら問題になるものとして話を進める。なお、以下では、筐体6は円筒状の部材であり軸部材5は円柱状の部材であって、上述の軸部材5の基準の位置は、筐体6の円筒状の中心であるとして説明を行う。
【0033】
図1のシール部材1では、両矢印X方向(軸方向に垂直な方向)の軸部材5の位置ずれに応じて接続膜3の各部が伸縮することで、こうした位置ずれにかかわらず隙間の封止状態が維持される。たとえば、図1において軸部材5が基準の位置から図の右方向に位置ずれを起こした場合、図の左側の接続膜3が伸長して図の右側の接続膜3が縮小することで隙間の封止状態が維持される。
【0034】
一般に、シール部材に及ぼされる応力は、曲率の変化が急激な箇所に集中しやすく、その箇所でシール部材の損傷が発生しやすい。たとえば、特許文献2のパッキン5(シール部材)では、中間可撓部5C(接続膜)と2つのシール部5A,5B(Oリング)との接続箇所は、断面で見るとほぼ90°に折れ曲がった形状となっている(たとえば特許文献2の図2の断面図参照)。このため、この折れ曲がりの箇所では曲率の変化が急激であり、この箇所でパッキン5の損傷が発生しやすい。特に、特許文献2のスプール3(軸部材)がスプール3の軸方向に垂直な方向に位置ずれを頻繁に起こすような場合には、上述の損傷によるパッキン5の耐久性の低下は深刻なものとなる。
【0035】
一方、本願のシール部材1では、シール部材1が隙間封止に用いられていない状態では、図2に示すように、第1のOリング部2および第2のOリング部4の、各環形状の周方向に垂直な断面は、いずれも円形状である。さらに図2に示すように、第1のOリング部2の断面の円形状の直径(2×R)および第2のOリング部4の断面の円形状の直径(2×R)は、接続膜3の任意の箇所の膜厚よりも大きくなっている。たとえば、上記の2つの円形状の直径(2×Rおよび2×R)は、接続膜3の第1のOリング部2側の第1端部10の膜厚h、接続膜3の第2のOリング部4側の第2端部11の膜厚h、および、これら2つの端部10,11の間の接続膜3中央部の膜厚hのいずれよりも大きくなっている。
【0036】
図2の第1のOリング部2や第2のOリング部4の断面の円形状のように接続膜3の接続対象の断面が円弧状に湾曲している状態は、特許文献2のように接続対象の断面が平坦(直線的)となっている状態と比べ、接続箇所付近の形状の曲率の変化が緩やかである。この結果、シール部材1では、軸部材5が両矢印X方向(軸方向に垂直な方向)に位置ずれを頻繁に起こしたとしても接続箇所への応力の集中が避けられるため、こうした位置ずれに対するシール部材1の耐久性が高い。
【0037】
ここで、シール部材1では、図2に示すように、接続膜3の第1のOリング部2側の第1端部10の膜厚h、および、接続膜3の第2のOリング部4側の第2端部11の膜厚hのそれぞれが、これら2つの端部10,11の間の接続膜3中央部の膜厚hよりも大きくなっていることが好ましい。
【0038】
このような形態では、接続膜3と2つのOリング部2,4それぞれとの接続箇所付近の形状の曲率の変化がさらに緩やかなものとなり、接続箇所への応力の集中がより一層避けられる。この結果、シール部材1の耐久性がさらに向上する。なお、上述した、接続膜3における膜厚の変化は、応力を分散させ耐久性を向上させる観点から、滑らかであることが好ましい。
【0039】
また、シール部材1では、図2に示すように、第1のOリング部2の断面の円形状の中心Oおよび第2のOリング部4の円形状の中心Oを結ぶ線分Bが、シール部材1の断面の外部にはみ出すことなく接続膜3の断面の内部を貫通してこれら2つの中心O,Oを結ぶものであることが好ましい。
【0040】
隙間封止に用いられていない状態のシール部材1においてこのような形態が実現する場合、2つのOリング部2,4を互いに近づける向きに接続膜3を縮めると、2つのOリング部2,4とを互いに遠ざける向きの接続膜3の伸長力が発生する。筐体6の内壁7と軸部材5との間の隙間がきわめて狭いものであっても、この伸長力を利用することで、図1の説明で上述したように2つのOリング部2,4を2つの凹部8,9にそれぞれ押し付けてシール部材1を配置することが簡単にできる。このような効果は、ダイヤフラム膜のように膜部分が長くてたわんでいるシール部材では実現できないものであり、図2に示すシール部材1は、狭い隙間を封止するのに適したシール部材となっている。
【0041】
さらにシール部材1では、図2に示すように、上述の線分Bが接続膜3の断面における、接続膜3の膜厚方向についての中心を通るものであることが好ましい。この場合、図2において上述の線分Bは、接続膜3における、第1端部10における膜厚h/2の地点、第2端部11における膜厚h/2の地点、および、これら2つの端部10,11の間の接続膜3中央部における膜厚h/2の地点、をそれぞれ通ることとなる。
【0042】
このような形態では、接続膜3の伸長力は、2つのOリング部2,4の断面の円形状の中心を結ぶ方向の成分が大部分を占めることとなり、シール部材1にねじれが生じにくく、隙間封止に用いられる際のシール部材1の姿勢が安定化する。
【0043】
また、シール部材1では、図2の中心軸Aで示されているように、第1のOリング部2および第2のOリング部4の各環形状の中心軸は同軸であることが好ましい。
【0044】
一般に、筒状の筐体と軸部材とを構成要素として持つ装置では、上述の図1の説明で述べたように、円筒状の筐体のその円筒状の中心を基準の位置として円柱状の軸部材が配置されることが多い。上述した、2つのOリング部の中心軸が同軸となっているシール部材1の形態はこうした軸部材の配置に適合しており、シール部材1の有用性が高い。
【0045】
また、シール部材1は、単一種類の弾性体材料を用いて一体的に成形されたものであることが好ましい。このような形態では、種類が異なる弾性体材料で構成された複数部分を接合して成形された形態に比べ、軸部材5の振動や位置ずれに対するシール部材1の耐久性が基本的に高い。
【0046】
ただし、軸部材5や筐体6の材質に応じて、第1のOリング部2や第2のOリング部4の弾性体材料の材質を接続膜3の弾性体材料の材質とは異なるものに変えてもよい。たとえば、軸部材5や筐体6のヤング率と同程度のヤング率を持つように第1のOリング部2や第2のOリング部4の弾性体材料を選択してもよい。この場合、一体的に成形された場合と比べるとシール部材1の耐久性は若干落ちる可能性があるが、軸部材5や筐体6に物理的な変形がいくらか生じたときにそうした変形に第1のOリング部2や第2のOリング部4が追従しやすい。この結果、軸部材5や筐体6とのシール部材1の結合状態が強固になる。
【0047】
シール部材1の具体的な弾性体材料としては、ゴムや熱可塑性エラストマー(TPE)等のOリングの材料として従来から知られた弾性体材料を採用できる。ゴムとしては、具体的には、たとえば、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(NBM/HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、パーフロロポリエーテル系ゴム(FO)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、シリコーンゴム(Q)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、ウレタンゴム(U)を挙げることができる。また、熱可塑性エラストマー(TPE)としては、たとえば、スチレン系TPE(SBC、TPS)、オレフィン系TPE(TPO)、ポリ塩化ビニル系TPE(TPVC)、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE、TPC)、ポリアミド系TPE(TPA、TPAE)、ポリブタジエン系TPEを挙げることができる。
【0048】
また、シール部材1の製造方法としては、たとえば一体成形のシール部材1の場合には、弾性体材料をシール部材1の鋳型に流し込んで硬化させた後、所望の形状に整形するといった従来の製造方法が採用できる。
【0049】
また、第1のOリング部2や第2のOリング部4の弾性体材料の材質が接続膜3の弾性体材料の材質とは異なるシール部材1の場合は、たとえば以下の製造方法を採用できる。まず、各Oリング部の鋳型に各Oリング部に対応した弾性体材料を流し込んで硬化させた後、所望の形状に整形することで各Oリング部を独立に作製する。次に、第1のOリング部2や第2のOリング部4を配置した状態の接続膜3の鋳型に、接続膜3に対応した弾性体材料を流し込んで硬化させた後、所望の形状に整形することで、シール部材1が完成する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、筒状の筐体に収容された軸部材とその筐体の内壁との間の隙間を封止するシール部材の耐久性の向上に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1:シール部材、2:第1のOリング部、3:接続膜、4:第2のOリング部、5:軸部材、6:筐体、7:内壁、8:第1の凹部、9:第2の凹部、10:第1端部、11:第2端部。
図1
図2