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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】容積式流量検出器
(51)【国際特許分類】
   G01F 3/08 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
G01F3/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018144915
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020020679
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】吉越 洋志
(72)【発明者】
【氏名】森 良太
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-124430(JP,A)
【文献】特開2013-036592(JP,A)
【文献】特開2012-181083(JP,A)
【文献】特開2016-180756(JP,A)
【文献】米国特許第04561304(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 3/04-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口から流入する流体の力によって往復運動し、当該往復運動に伴って流入口から流入する流体を流出口に移送して流出する一つ、または複数のピストンを備えた容積式流量検出器であって、
少なくとも一つの前記ピストンの端部に固定された磁石と、
前記磁石と対向する位置に配置された電磁石と、
前記電磁石の駆動を制御して、前記端部に前記磁石が固定されたピストンである磁石付ピストンに、前記電磁石と前記磁石の間の磁力による当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力を、流入口から流入する流体と流出口から流出される流体の圧力の差が無くなるように加える圧力損失補償制御手段とを有することを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項2】
請求項1記載の容積式流量検出器であって、
流入口から流入する流体と流出口から流出される流体の圧力の差を検出する圧力差検出手段を有し、
前記圧力損失補償制御手段は、前記磁石付ピストンの移動方向に向かう力として、前記圧力差検出手段が検出する圧力差を0に近づける、前記圧力差検出手段が検出した圧力差に応じた力が、前記磁石付ピストンに加わるように前記電磁石の駆動を制御することを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項3】
請求項1または2記載の容積式流量検出器であって、
前記圧力損失補償制御手段は、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動しているときと前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動しているときとで、前記電磁石に流す電流の向きを反転することにより、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動しているときと前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動しているときの双方において、前記磁石付ピストンに、前記電磁石と前記磁石の間の磁力による当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力を加えることを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項4】
請求項3記載の容積式流量検出器であって、
クランクシャフトと、
前記クランクシャフトと前記磁石付ピストンを連結するコネクティングロッドと、
前記クランクシャフトの回転角を検出する回転角検出手段とを有し、
前記圧力損失補償制御手段は、回転角検出手段が検出したクランクシャフトの回転角から前記磁石付ピストンの位相を識別し、識別した磁石付ピストンの位相に従って、前記電磁石に流す電流の向きを、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動しているときと前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動しているときの双方において、前記磁石付ピストンに、前記電磁石と前記磁石の間の磁力による当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力が加わるように切り替えることを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項5】
請求項4記載の容積式流量検出器であって、
前記圧力損失補償制御手段は、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動している期間中と、前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動している期間中との少なくとも一方の期間中において、当該期間中に、前記磁石付ピストンに加わる当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力の大きさが変化するように、前記識別した磁石付ピストンの位相に応じて、前記電磁石に流す電流の大きさを変化させることを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の容積式流量検出器であって、
前記磁石付ピストンの往復運動に伴う前記電磁石と前記磁石の間の距離を算定する距離算定手段を有し、
前記圧力損失補償制御手段は、前記磁石付ピストンに加わる当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力が所定の大きさとなるように、前記距離算定手段が算定した距離に応じて、前記電磁石に流す電流の大きさを補正することを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の容積式流量検出器であって、
前記圧力損失補償制御手段は、前記磁石付ピストンに加わる当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力が所定の大きさとなるように、前記磁石付ピストンの往復運動に伴い前記電磁石に生じる誘導起電力に応じて、前記電磁石に流す電流の大きさを補正することを特徴とする容積式流量検出器。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7記載の容積式流量検出器であって、
前記磁石付ピストンが内部空間を往復運動する、上死点側が隔壁で閉じられたシリンダを有し、
前記磁石は前記磁石付ピストンの上死点側の端部に固定されており、
前記電磁石は、前記隔壁の外側の前記磁石と対向する位置に固定されていることを特徴とする容積式流量検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積式流量検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
容積式流量検出器としては、図5に示すピストン式の流体移送装置10を用いた容積式流量検出器が知られている(たとえば、特許文献1)。
図5に示した流体移送装置10は、90°ずつ順次異なる方向に向いた4つのシリンダ11_1-11_4と、それらのシリンダ11_1-11_4内で往復移動する4つのピストン12_1-12_4を備えている。これらの4つのピストン12_1-12_4は、図5a-dに示すように、各シリンダ11_1-11_4内で位相が順次90°ずつずれた往復動作を行なう。
【0003】
4つのシリンダ11_1-11_4の中央には、クランクシャフト13が備えられており、各ピストン12_1-12_4は、各コネクティングロッド14_1-14_4により、クランクシャフト13の回転軸から偏心した位置に連結されている。クランクシャフト13には、コネクティングロッド14_1-14_4を介してピストン12_1-12_4の動きが伝達され、クランクシャフト13はそれらのピストン12_1-12_4の動きにより矢印X方向に回転する。
【0004】
各シリンダ11_1-11_4のクランクシャフト13側の空間は容積式流量検出器の流入口に連絡している。各シリンダ11_1-11_4の、流体移送装置10の外周側の位置には、各流路15_1-15_4のポートP1-P4が接続されている。また、それらの流路15_1-15_4は、隣接するシリンダ11_1-11_4の内周側の位置に接続されており、それら隣接するシリンダ11_1-11_4の流路15_1-15_4の出口に隣接した位置には、容積式流量検出器の流出口につながるポートE1-E4が設けられている。
【0005】
容積式流量検出器の流入口より流体移送装置の各シリンダ11_1-11_4のクランクシャフト13側の空間に流入してきた流体は、ピストン12が外周側の上死点付近にある第1のシリンダ11のピストン12よりも下死点側(内周側)の空間に流入し、第1のシリンダ11の内周側に接続されている第1のシリンダ11と隣接する第2のシリンダの間の流路15を通って、当該流路15の第2のシリンダのポートPから第2のシリンダ11のピストン12よりも上死点側の空間に流入する。
【0006】
そして、当該第2のシリンダ11内に流入した流体は、その後、第2のシリンダ11のピストン12が上死点に向かって移動すると、第2のシリンダのポートPを通って第1のシリンダ11と第2のシリンダの間の流路15に押し戻される。このとき、第1のシリンダ11のピストン12は、第1のシリンダ11のポートEと、第2のシリンダ11との間の流路15の第1のシリンダ11の内周側の開口とを連結する閉塞した空間を、ピストンの中央部に設けられた括れと第1のシリンダ11によって形成する位置にあり、第2のシリンダ11のピストン12によって流路15に押し戻された流体は、この閉塞した空間を通って、第1のシリンダ11の内周側の開口から第1のシリンダ11のポートEに押し出され容積式流量検出器の流出口に流出される。
【0007】
この結果、容積式流量検出器の流入口より流入した流体は、各ピストン12_1-12_4の動きに伴って図5a-dに示す各矢印(矢印Xを除く)の方向に流れ、クランクシャフト13の一回転あたり一定量の流体が出口側に流出する。
したがって、クランクシャフト13の回転数より、流体移送装置を通過した流量を計測することができる。
【0008】
ここで、このような流体移送装置10を用いた容積式流量検出器においては、流体移送装置10の可動機械要素の運動や摩擦にエネルギーが消費されること等に起因して、容積式流量検出器に流入してくる流体の圧力よりも容積式流量検出器から流出する流体の圧力が小さくなる圧力損失が生じる。
【0009】
このような圧力損失を補償する技術として、図5に示した流体移送装置10のクランクシャフト13を、容積式流量検出器に流入してくる流体の圧力と容積式流量検出器から流出する流体の差圧が0になるように、電動モータで駆動する技術が知られている(特許文献2)。
【0010】
この技術に係る容積式流量検出器の構成を図6に示す。
図示するように、この容積式流量検出器は、図5に示した流体移送装置10と、流体移送装置10のクランクシャフト13に連結された外部シャフト21、外部シャフト21の回転数を検出する回転センサ22、外部シャフト21を回転駆動する電動モータ23、差圧検出ユニット24、流路形成ユニット25、制御装置26を備えている。
【0011】
差圧検出ユニット24には、流体が流入する流入口INと、流体を流出する流出口OUTと、流入口INに連結した流路と、流出口OUTに連結した流路とが設けられている。
【0012】
また、差圧検出ユニット24は、流入口INに連結した流路と流出口OUTに連結した流路との間に設けられ、流入口INから流入する流体と流出口OUTから流出する流体の圧力の差である差圧を検出する差圧センサ27を備えている。
【0013】
また、差圧検出ユニット24の流入口INに連結した流路は、流路形成ユニット25内の流路を介して、流体移送装置10の各シリンダ11_1-11_4のクランクシャフト13側の空間(流体移送装置10の流入口)につながっており、差圧検出ユニット24の流出口OUTに連結した流路は、流路形成ユニット25内の流路を介して、流体移送装置10のポートE1-E4(流体移送装置10の流出口)につながっている。
【0014】
そして、制御装置26は、回転センサ22が検出するクランクシャフト13の回転数より、容積式流量検出器を通過した流量を計測する。
また、制御装置26は、差圧センサ27が検出した差圧に応じて、電動モータ23を制御して、差圧センサで検出される差圧が0になるように、電動モータ23から外部シャフト21を介して、流体移送装置10のクランクシャフト13に回転トルクを加える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平6-50785号公報
【文献】特開2012-181083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図6に示した流体移送装置10のクランクシャフト13を電動モータ23で駆動する容積式流量検出器では、比較的高価でかさばる電動モータが必要となる。
また、流体移送装置10のクランクシャフト13を、流体移送装置10の外部まで延伸する必要があるため、流体移送装置10から流体が漏洩しないようにシール機構を設ける必要があるが、流体が高圧力となった場合等には流体の漏洩を完全に防ぐことはできない。
【0017】
クランクシャフト13を電動モータ23で直接駆動する代わりに、流体移送装置10の内部に収めたクランクシャフト13に、電動モータからマグネットカップリングを介して回転トルクを伝達することも考えられる。この場合には、流体の漏洩は防げるが、回転共振による容積式流量検出器の検出精度の低下が生じることがある。
【0018】
本発明は、電動モータを用いずに、容積式流量検出器において生じる差圧を、流体の漏洩が生じない構造において、検出精度を低化させることなく補償することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題解決のために、本発明は、流入口から流入する流体の力によって往復運動し、当該往復運動に伴って流入口から流入する流体を流出口に移送して流出する一つ、または複数のピストンを備えた容積式流量検出器に、少なくとも一つの前記ピストンの端部に固定された磁石と、前記磁石と対向する位置に配置された電磁石と、前記電磁石の駆動を制御して、前記端部に磁石が固定されたピストンである磁石付ピストンに、前記電磁石と前記磁石の間の磁力による当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力を、流入口から流入する流体と流出口から流出される流体の圧力の差が無くなるように加える圧力損失補償制御手段とを備えたものである。
【0020】
このような容積式流量検出器は、当該容積式流量検出器に、流入口から流入する流体と流出口から流出される流体の圧力の差を検出する圧力差検出手段を設け、前記圧力損失補償制御手段において、前記磁石付ピストンの移動方向に向かう力として、前記圧力差検出手段が検出する圧力差を0に近づける、前記圧力差検出手段が検出した圧力差に応じた力が、前記磁石付ピストンに加わるように前記電磁石の駆動を制御するように構成してもよい。
【0021】
また、このような容積式流量検出器は、前記圧力損失補償制御手段において、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動しているときと前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動しているときで、前記電磁石に流す電流の向きを反転することにより、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動しているときと前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動しているときの双方において、前記磁石付ピストンに、前記電磁石と前記磁石の間の磁力による当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力を加えてもよい。
【0022】
また、この場合には、容積式流量検出器を、クランクシャフトと、前記クランクシャフトと前記磁石付ピストンを連結するコンロッドと、前記クランクシャフトの回転角を検出する回転角検出手段とを備えたものとし、前記圧力損失補償制御手段において、回転角検出手段が検出したクランクシャフトの回転角から前記磁石付ピストンの位相を識別し、識別した磁石付ピストンの位相に従って、前記電磁石に流す電流の向きを、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動しているときと前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動しているときの双方で、前記磁石付ピストンに、前記電磁石と前記磁石の間の磁力による当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力が加わるように切り替えてもよい。
【0023】
この場合には、前記圧力損失補償制御手段において、前記磁石付ピストンが上死点に向かって移動している期間中と、前記磁石付ピストンが下死点に向かって移動している期間中との少なくとも一方の期間中において、当該期間中に、前記磁石付ピストンに加わる当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力の大きさが変化するように、前記識別した磁石付ピストンの位相に応じて、前記電磁石に流す電流の大きさを変化させてもよい。
【0024】
以上の容積式流量検出器は、当該容積式流量検出器に、前記磁石付ピストンの往復運動に伴う前記電磁石と前記磁石の間の距離を算定する距離算定手段を設け、前記圧力損失補償制御手段において、前記磁石付ピストンに加わる当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力が所定の大きさとなるように、前記距離算定手段が算定した距離に応じて、前記電磁石に流す電流の大きさを補正するように構成してもよい。
【0025】
以上の容積式流量検出器は、前記圧力損失補償制御手段において、前記磁石付ピストンに加わる当該磁石付ピストンの移動方向に向かう力が所定の大きさとなるように、前記磁石付ピストンの往復運動に伴い前記電磁石に生じる誘導起電力に応じて、前記電磁石に流す電流の大きさを補正するように構成してもよい。
【0026】
以上の容積式流量検出器が、前記磁石付ピストンが内部空間を往復運動する、上死点側が隔壁で閉じられたシリンダを備えたものである場合には、前記磁石を、前記磁石付ピストンの上死点側の端部に固定し、前記電磁石を、前記隔壁の外側の前記磁石と対向する位置に固定してもよい。
【0027】
以上のような容積式流量検出器によれば、比較的高価でかさばる電動モータを用いることなく容積式流量検出器の圧力損失を補償することができる。また、流体が漏洩するリスクを伴うシール機構や、回転トルクを伝達するためのマグネットカップリングを必要としないので、圧力損失の補償のために、流体の漏洩や、回転共振による容積式流量検出器の検出精度の低下を招くこともない。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電動モータを用いずに、容積式流量検出器において生じる圧力損失を、流体の漏洩が生じない構造で、検出精度を低化させることなく補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る流体移送装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る容積式流量検出器の構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る制御装置の差圧補償制御部の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係るゲインテーブルとFテーブルを示す図である。
図5】公知の流体移送装置の構成を示す図である。
図6】公知の容積式流量検出器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1aに、本実施形態に係る容積式流量検出器で用いる流体移送装置の構成を示す。
図1において、図5に示した流体移送装置10と同一の部位には同一の符号を付して示す。本実施形態に係る流体移送装置100は、図5に示した流体移送装置10とほぼ同様の構成を備えており、シリンダ11_1-11_4のクランクシャフト13側の空間から、ポートE1-E4まで流体を移送する機構、動作、流体の経路は、先に説明した図5の流体移送装置10の機構、動作、流体の経路と基本的に同じである。
【0031】
本実施形態に係る流体移送装置100は、以下の点が図5に示した流体移送装置10と異なる。
すなわち、本実施形態に係る流体移送装置100では、図1b1、図1b2に示すように、各ピストン12_1-12_4は、それぞれ、ピストン12_1-12_4の上死点側の端部に固定された永久磁石101を備えている。なお、図1b1はピストン12_1-12_4の上死点側の端部をピストンの軸方向に見た図、図1b2は、ピストン12_1-12_4の軸を通る断面におけるピストンと永久磁石101の配置関係を表している。
【0032】
また、本実施形態に係る流体移送装置100は、各ピストン12_1-12_4のそれぞれに対応する電磁石102を収容した、電磁石ユニット103を備えている。そして、各電磁石102は、対応するピストン12_1-12_4のシリンダ11_1-11_4の上死点側の外壁の外側に、対応するピストン12_1-12_4の永久磁石101と対向する位置に配置されている。
【0033】
そして、各電磁石ユニット103の電磁石102は、対応するピストン12_1-12_4のシリンダ11_1-11_4内の磁力線の向きが、おおよそ、対応するピストン12_1-12_4の軸の向きとなる磁力を発生することができる。
【0034】
以下、便宜上、流体移送装置100の前後左右方向を図1a中に示したように定め、流体移送装置100の上方を図1aの紙面の奥から手前に向かう方向とし、流体移送装置100の下方を図1aの紙面の手前から奥に向かう方向として説明を行う。
【0035】
図1aは、流体移送装置100の構成を模式的に示したものであり、図1c1に斜め上方から見た流体移送装置100の外観を、図1c2に斜め下方から見た流体移送装置100の外観を示す。流体移送装置100の上面はポートE1-E4の開口を除き封止されており、流体移送装置100の下面は全面が封止されている。
【0036】
また、シリンダ11_1-11_4は円筒形状の孔であり、ピストン12_1-12_4は円筒形状の中央部分を括れさせた形状を備えている。そして、各流路15_1-15_4は、おおよそシリンダ11_1-11_4の上下方向中央の位置に設けられており、ポートE1-E4は、流体移送装置100の上面の開口からシリンダ11_1-11_4内まで延びる孔である。
【0037】
次に、流体移送装置100の前後方向に見た構成を模式的に示す図1dのように、クランクシャフト13は、流体移送装置100の内部において軸受111によって上下方向の軸を回転軸として回転可能に軸支されている。
【0038】
また、クランクシャフト13の下端には、図1eに示すように永久磁石で周方向にそって磁極が変化する回転検出用磁石112がクランクシャフト13と共に回転するように固定されている。
【0039】
そして、流体移送装置100の下部には、斜め下方から見た図1fに示すように、回転検出ユニット200が連結される。
回転検出ユニット200は、回転検出用磁石112に対向する位置に配置された、MR素子やホール素子などの磁界検出素子201を搭載した電子回路202が収容されており、電子回路202は、磁界検出素子201によって検出した回転検出用磁石112の回転に伴う磁界の変化から、クランクシャフト13の回転角や角速度や回転速度などを検出する。
【0040】
なお、流体移送装置100の非可動部は、磁力を透過する非磁性体の材料で形成されている。
次に、流体移送装置100と回転検出ユニット200とを用いた容積式流量検出器の構成を図2に示す。
図示するように、容積式流量検出器は、流体移送装置100、回転検出ユニット200、差圧検出ユニット300、流路形成ユニット400、制御装置500を備えている。
差圧検出ユニット300には、流体が流入する流入口INと、流体を流出する流出口OUTが設けられている。また、差圧検出ユニット300は流入口INに連結した流路と、流出口OUTに連結した流路が設けられている。
【0041】
差圧検出ユニット300は、流入口INに連結した流路と流出口OUTに連結した流路との間に設けられ、流入口INから流入する流体と流出口OUTから流出する流体の圧力の差である差圧を検出する差圧センサ301を備えている。
【0042】
差圧検出ユニット300の流入口INに連結した流路は、流路形成ユニット400内の流路を介して、流体移送装置100の各シリンダ11_1-11_4のクランクシャフト13側の空間(流体移送装置100の流入口)につながっており、差圧検出ユニット300の流出口OUTに連結した流路は、流路形成ユニット400内の流路を介して、流体移送装置100のポートE1-E4(流体移送装置100の流出口)につながっている。
【0043】
ただし、流路形成ユニット400は、差圧検出ユニット300と一体のユニットとして備えてもよい。
次に、制御装置500の構成を図3に示す。
図示するように、制御装置500は、流量計測部501と、差圧補償制御部510を備えている。
流量計測部501は、回転検出ユニット200の電子回路202が検出したクランクシャフト13の回転速度RSなどより、容積式流量検出器を通過した流量を計測する。
【0044】
差圧補償制御部510は、差圧センサ301が検出した差圧ΔPと、回転検出ユニット200の電子回路202が検出したクランクシャフト13の回転角θと角速度AVに応じて、差圧センサ301で検出される差圧ΔPが0になるように、各電磁石ユニット103の電磁石102で発生する磁力の大きさと向きを制御する。
【0045】
さて、制御装置500の差圧補償制御部510は、ゲインテーブル511、ゲイン算出部512、ピストン位相算定部513、F算出部514、Fテーブル515、移動ベクトル算定部516、距離補正ゲイン算出部517、起電力補正ゲイン算出部518、乗算部519、電磁石駆動部520を備えている。
【0046】
ここで、ゲインテーブル511は、予め設定された、差圧ΔPの大きさとゲインGの関係を規定するテーブルである。ゲインテーブル511は、差圧ΔPが大きくなるほどゲインGの大きさが大きくなるように、差圧ΔPの大きさとゲインGの関係を規定しており、ゲインテーブル511としては、たとえば図4aのように差圧ΔPの大きさとゲインGの関係を規定するもの等を用いることができる。
【0047】
また、Fテーブル515は、予め設定された、ピストン12_1-12_4の位相φと、ピストン12_1-12_4に加える力Fとの関係を規定するテーブルである。
Fテーブル515は、ピストン12_1-12_4が上死点に向かっているときに、ピストン12_1-12_4を上死点方向に向かわせる力を加え、ピストン12_1-12_4が下死点に向かっているときに、ピストン12_1-12_4を下死点方向に向かわせる力を加える、位相φと力Fとの関係を規定している。
【0048】
すなわち、Fテーブル515は、たとえば、図4bに示すようにピストン12_1-12_4の位相φと力Fとの関係を規定するものを用いることができる。
図4bのFテーブル515では、ピストン12_1-12_4が下死点にあるときの位相φを0、2π、ピストン12_1-12_4が上死点にあるときの位相φをπとし、ピストンを電磁石102に引きつける方向の力(ピストンを上死点方向に向かわせる力)を正、ピストンを電磁石102から遠ざける方向(ピストンを下死点方向に向かわせる力)の力を負として、0からπの間の位相φ(ピストンが下死点から上死点に向かって移動する間の位相)に対しては、大きさの絶対値がF1の下死点から上死点に向かう向きの力が規定されており、πから2πの間の位相φ(ピストンが上死点から下死点に向かって移動する間の位相)に対しては、大きさの絶対値がF1の上死点から下死点に向かう向きの力が規定されている。
【0049】
なお、Fテーブル515としては、図4bに示したFテーブル515の他に、図4cに示すような上死点と下死点付近ではピストン12_1-12_4に力を加えないように、位相φと力Fとの関係を規定するものや、図4dに示すようなサイン波状にピストン12_1-12_4に加える力Fとの関係を規定するものなども用いることができる。
【0050】
次に、ゲイン算出部512は、ゲインテーブル511において、差圧センサ301が検出した差圧ΔPに対して規定されているゲインGを求める。
また、ピストン位相算定部513は、回転検出ユニット200の電子回路202が検出したクランクシャフト13の回転角θから、各ピストン12_1-12_4の位相φを算定する。各ピストン12_1-12_4の位相φはπ/2ずつずれており、各ピストン12_1-12_4の位相φはクランクシャフト13の回転角θから一義的に定まる。
【0051】
F算出部514は、各ピストン12_1-12_4について、Fテーブル515を参照して、ピストン位相算定部513が算定したピストン12_i(ピストン12_iは、ピストン12_1-12_4のうちの任意のピストン)の位相φに対して規定されている力Fを求める。
そして、乗算部519は、各ピストン12_1-12_4について、F算出部514がピストン12_iについて求めた力Fに、ゲイン算出部512が算定したゲインGを乗じた力を算出する。
【0052】
次に、距離補正ゲイン算出部517は、各ピストン12_1-12_4について、ピストン12_iの位相φより求まるピストン12_iの永久磁石101と電磁石102との間の距離の、所定基準距離からのずれを補正するゲインGdを算出する。
【0053】
すなわち、ピストン12_iの永久磁石101とピストン12_iに対応する電磁石102との距離は、ピストン12_iの位相φの変化に従って変化し、ピストン12_iに加わる力の大きさは、電磁石102に流す電流の大きさと向きが同じでも、ピストン12_iの永久磁石101とピストン12_iに対応する電磁石102との距離の変化に伴って変化する。
【0054】
そこで、距離補正ゲイン算出部517は、各ピストン12_1-12_4について、この永久磁石101と電磁石102との距離の基準距離からの変化に伴う力の変化分を相殺できる、電磁石102の電流のゲインGdを算出する。
【0055】
次に、移動ベクトル算定部516は、各ピストン12_1-12_4について、回転検出ユニット200の電子回路202が検出したクランクシャフト13の角速度AVとピストン12_iの位相φより、ピストン12_iの移動ベクトルを算定する。
【0056】
そして、起電力補正ゲイン算出部518は、各ピストン12_1-12_4について、ピストン12_iの位相φとピストンの移動ベクトルより求まる、対応する電磁石102に生じる誘導起電力の変化を補正するためのゲインGvを算出する。
【0057】
すなわち、ピストン12_iの永久磁石101の移動によって、対応する電磁石102に誘導起電力が生じ、この誘導起電力は、ピストン12_iの位相φが示すピストン12_iの永久磁石101と対応する電磁石102との位置関係と、ピストン12_iの移動ベクトルとから求まる電磁石102を通る磁力の変化に従って定まる。そして、電磁石102に流す電流の大きさと向きが同じでも、ピストン12_iに加わる力の大きさは、誘導起電力の変化に伴って変化する。
【0058】
そこで、起電力補正ゲイン算出部518は、各ピストン12_1-12_4について、この誘導起電力に伴う力の変化分を相殺できる、電磁石102の電流のゲインGvを算出する。
【0059】
電磁石駆動部520は、各ピストン12_1-12_4について、ピストン12_iの永久磁石101とピストン12_iに対応する電磁石102の発生する磁力との磁気的相互作用によって、乗算部519がピストン12_iについて算出した力が、ピストン12_iに加わるように、ピストン12_iについて求めたゲインGdとゲインGvを参照して、ピストン12_iに対応する電磁石102で発生する磁力の大きさと向き、すなわち、電磁石102に流す電流の大きさと向きを制御する。
【0060】
なお、電磁石102に流す電流が大きくなるとピストン12_iに加わる力は大きくなり、電流の向きを、電磁石102のピストン側の磁極の極性がピストンの永久磁石101の上死点側の磁極の極性と一致する極性となる向きとすると、電磁石102と永久磁石101は反発してピストン12_iには下死点方向に向かう力が加わり、電流の向きを、電磁石102のピストン側の磁極の極性がピストンの永久磁石101の上死点側の磁極の極性と逆の極性となる向きとすると、電磁石102と永久磁石101は引き合ってピストン12_iには上死点方向に向かう力が加わる。
【0061】
より具体的には、電磁石駆動部520に、予め、各ピストン12_1-12_4について、ピストン12_iの永久磁石101と電磁石102との距離が基準距離にあり電磁石102に誘導起電力が生じていない状態における、電磁石102に流れる電流の大きさと向きと、ピストン12_iに加わる力の大きさとの対応を登録しておく。そして、電磁石駆動部520において、各ピストン12_1-12_4について、乗算部519がピストン12_iについて算出した力に対応する電流の大きさと向きを、登録されている電流の大きさと向きとピストン12_iに加わる力の大きさとの対応に従って算定する。そして、算定した電流の大きさを、算定した電流の大きさにピストン12_iについて求めたゲインGdとゲインGvを乗じた大きさに補正し、ピストン12_iに対応する電磁石102に流す電流を、補正した大きさと算定した向きを有する電流とすることで、乗算部519がピストン12_iについて算出した力がピストン12_iに加わるように制御する。
【0062】
なお、以上の差圧補償制御部510は、実際には、ゲインテーブル511とFテーブル515に代えて、差圧ΔPと、ピストン12_iの位相φと、ピストン12_iの移動ベクトルと、ピストン12_iに対応する電磁石102に流す電流の大きさと向きとの関係を規定した電流テーブルを備え、電流テーブルに従って、ピストン12_iに対応する電磁石102に流す電流の大きさと向きを制御してよい。ただし、電流テーブルは、差圧補償制御部510によって、図3に示した差圧補償制御部510と同様に力をピストン12_iに加えることとなる関係を規定するものとする。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明した。
本実施形態によれば、比較的高価でかさばる電動モータを用いることなく容積式流量検出器による圧力損失を補償することができる。また、流体移送装置100のクランクシャフト13を、流体移送装置100の外部まで延伸させる必要がないため、当該延伸の構造によって流体移送装置100から流体が漏洩することはない。また、本実施形態によれば、クランクシャフト13に電動モータの回転トルクを伝達するためのマグネットカップリングを用いないので、回転共振による容積式流量検出器の検出精度の低下が発生することもない。
【0064】
以上の実施形態では、電磁石102の発生する磁力の制御により、ピストン12_1-12_4が上死点に向かっているときに、ピストン12_1-12_4に上死点方向に向かわせる力を加え、ピストン12_1-12_4が下死点に向かっているときに、ピストン12_1-12_4に下死点方向に向かわせる力を加えるものとしたが、これは、ピストン12_1-12_4が上死点に向かっているときに、ピストン12_1-12_4に上死点方向に向かわせる力を加え、ピストン12_1-12_4が下死点に向かっているときには力を加えないように電磁石102の発生する磁力の制御を行うものとしたり、ピストン12_1-12_4が下死点に向かっているときに、ピストン12_1-12_4に下死点方向に向かわせる力を加え、ピストン12_1-12_4が上死点に向かっているときには力を加えないように電磁石102の発生する磁力の制御を行うものとしてもよい。
【0065】
また、以上の実施形態では、全てのピストン12_1-12_4に対して、永久磁石101と電磁石102のセットを設けたが、これは、4つのピストン12_1-12_4のうちの一部のピストンにのみ永久磁石101と電磁石102のセットを設けるようにしてもよい。
また、実施形態で示したピストン12_1-12_4に固定した永久磁石101と電磁石102とを用いて圧力損失を補償する技術は、流入口から流出口まで流体の移送にピストンを用いる任意の容積式流量検出器に同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…流体移送装置、11_1-11_4…シリンダ、12_1-12_4…ピストン、13…クランクシャフト、14_1-14_4…コネクティングロッド、15_1-15_4…流路、P1-P4…ポート、E1-E4…ポート、21…外部シャフト、22…回転センサ、23…電動モータ、24…差圧検出ユニット、25…流路形成ユニット、26…制御装置、27…差圧センサ、100…流体移送装置、101…永久磁石、102…電磁石、103…電磁石ユニット、111…軸受、112…回転検出用磁石、200…回転検出ユニット、201…磁界検出素子、202…電子回路、300…差圧検出ユニット、301…差圧センサ、400…流路形成ユニット、500…制御装置、501…流量計測部、510…差圧補償制御部、511…ゲインテーブル、512…ゲイン算出部、513…ピストン位相算定部、514…F算出部、515…Fテーブル、516…移動ベクトル算定部、517…距離補正ゲイン算出部、518…起電力補正ゲイン算出部、519…乗算部、520…電磁石駆動部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6