(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2018176362
(22)【出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】増田 徹
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-079379(JP,A)
【文献】特開2016-052197(JP,A)
【文献】特開2013-258857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に接続された複数のパワー半導体モジュールと、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々のドレイン・ソース間電圧Vds、ゲート・ソース間電圧Vgs、ソースまたはドレイン電流Isのそれぞれに基づく第1の物理量、第2の物理量、第3の物理量を前記複数のパワー半導体モジュールから取得する検知回路と、
前記第1の物理量、前記第2の物理量、前記第3の物理量に基づいて検知判定信号を生成する判定回路と、
前記検知回路および前記判定回路で構成され、前記検知判定信号を出力する検知判定回路と、
前記検知判定信号に基づいて前記複数のパワー半導体モジュールの制御信号を生成するゲート駆動回路と、を備え、
前記ゲート駆動回路は、抵抗値が可変に制御されるように構成された共通ゲート抵抗を有し、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々は、抵抗値が可変に制御されるように構成された個別ゲート抵抗を有し、
前記検知判定回路は、前記ドレイン・ソース間電圧Vdsと前記ソースまたはドレイン電流Isが共に所定の閾値よりも大きい準短絡期間を抽出すると共に、前記ゲート・ソース間電圧V
gsと前記ソースまたはドレイン電流Isの組み合わせに対応するモジュール素子温度を抽出し、
前記準短絡期間内に、前記モジュール素子温度が所定の範囲内である場合、前記共通ゲート抵抗および前記個別ゲート抵抗の少なくともいずれか一方の抵抗値を変化させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記複数のパワー半導体モジュールがそれぞれ並列に接続された上アームと下アームで構成されるハーフブリッジ回路を有し、
前記上アームと前記下アームの各々は、それぞれ前記検知判定回路、前記ゲート駆動回路を有し、
前記上アームおよび前記下アームの各々のゲート駆動回路は、
第1の共通ゲート抵抗と、
前記第1の共通ゲート抵抗の抵抗値を可変な第1の共通ゲート抵抗値切替回路と、
第2の共通ゲート抵抗と、
前記第2の共通ゲート抵抗の抵抗値を可変な第2の共通ゲート抵抗値切替回路と、を有し、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々は、
個別ゲート抵抗と、
前記個別ゲート抵抗の抵抗値を可変な個別ゲート抵抗値切替回路と、を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記複数のパワー半導体モジュールのうち、少なくとも1つはSiC-MOSFET型パワー半導体素子であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記検知回路は、前記複数のパワー半導体モジュールのドレイン・ソース間電圧Vdsを検知して第1の物理量を生成する第1の検知回路と、
前記複数のパワー半導体モジュールのゲート・ソース間電圧Vgsを検知して第2の物理量を生成する第2の検知回路と、
前記複数のパワー半導体モジュールのソースまたはドレイン電流Isを検知して第3の物理量を生成する第3の検知回路と、を有し、
前記判定回路は、前記第1の物理量、前記第2の物理量、前記第3の物理量に基づいて前記共通ゲート抵抗および前記個別ゲート抵抗の抵抗値を制御する制御信号を生成することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置であって、
前記第1の検知回路の一方の入力端子は、前記パワー半導体モジュールの各々のドレインセンス端子に接続され、他方の入力端子はソースセンス端子に接続され、
前記第2の検知回路の一方の入力端子は、前記パワー半導体モジュールの各々のゲート端子に接続され、他方の入力端子は前記ソースセンス端子に接続され、
前記第3の検知回路の一方の入力端子は、前記パワー半導体モジュールの各々のソース端子に接続され、他方の入力端子は前記ソースセンス端子に接続されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記検知回路は、前記複数のパワー半導体モジュールの直流電圧の差分電圧を電源電圧として動作する差動入力増幅回路と、
所定の検知閾値電圧を出力する検知閾値発生回路と、
前記差動入力増幅回路の出力を所定の利得で信号増幅し、前記検知閾値電圧に基づいて前記差動入力増幅回路の出力電圧の大小を判定するシュミットトリガ型コンパレータと、
前記複数のパワー半導体モジュールの直流電圧の差分電圧に重畳する高周波雑音信号を除去する電圧安定化回路と、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項4に記載の電力変換装置であって、
前記第1の検知回路、前記第2の検知回路、前記第3の検知回路の各々は、それぞれの入力端子間の電位差に対する閾値電圧発生回路を備え、
各検知回路における閾値電圧を互いに独立して設定可能であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電力変換装置であって、
前記第1の検知回路で生成される閾値電圧は、前記電力変換装置の主電圧源の50%の電圧値であり、
前記第3の検知回路で生成される閾値電流は、前記電力変換装置のソース電流の定格電流値の50%の電流に相当する電流値であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項4に記載の電力変換装置であって、
前記判定回路は、前記第1の検知回路の出力をクロックトリガとして動作し、前記第2の検知回路の出力を入力信号として取り込み、第1の内部波形信号を出力するフリップフロップと、
前記第1の検知回路の出力と前記第3の検知回路の出力を入力信号として取り込み、第2の内部波形信号を出力する第1の論理積回路と、
前記第1の内部波形信号および前記第2の内部波形信号を入力信号として取り込み、第3の内部波形信号を出力する第2の論理積回路と、
前記第3の内部波形信号を入力信号として取り込み、前記複数のパワー半導体モジュールの各々の個別ゲート抵抗へ出力するバッファ回路と、
前記第3の内部波形信号を入力信号として取り込み、論理反転させて前記共通ゲート抵抗へ出力する反転バッファと、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電力変換装置であって、
前記判定回路は、前記第1の物理量が変化したタイミングで前記第2の物理量を保持して前記第1の内部波形信号を出力し、
前記第1の物理量と前記第3の物理量の論理積の電圧を発生させて前記第2の内部波形信号を出力し、
前記第1の内部波形信号および前記第2の内部波形信号の論理積の電圧を発生させて第3の内部波形信号を出力し、
前記第2の内部波形信号の電位が高電位論理出力電圧(High電圧)である期間を抽出し、前記複数のパワー半導体モジュールのドレイン・ソース間電圧Vdsとソースまたはドレイン電流Isが各々の閾値を超えた準短絡期間t1を判定し、
前記第1の内部波形信号の電位が高電位論理出力電圧(High電圧)である期間を抽出し、前記複数のパワー半導体モジュールの素子温度が所定の閾値よりも低く、なおかつ、ソースまたはドレイン電流Isの値が所定の閾値より大きい期間t2を判定し、
前記第3の内部波形信号の電位が高電位論理出力電圧(High電圧)である期間を抽出し、前記準短絡期間t1と前記期間t2が重畳した不要振動が発生する期間t3を判定し、
前記期間t3が発生した場合、前記共通ゲート抵抗および前記個別ゲート抵抗の少なくともいずれか一方の抵抗値を変化させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記検知判定回路は、前記複数のパワー半導体モジュールの各々のゲート端子と、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々のソースセンス端子と、
前記ゲート駆動回路と、
接続配線によって生じる寄生インダクタンスと、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々に生じる寄生容量と、
によって構成されるゲート駆動経路の共振ループ回路を成し、
前記共通ゲート抵抗の値を低減することで前記共振ループ回路に生じる振動電流の迂回路を発生させて前記振動電流を低減し、
前記個別ゲート抵抗の値を増加することで前記共振ループ回路に損失を与えて前記振動電流を低減することを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々は、それぞれのソースセンス端子とソース端子の間にシャント抵抗を有し、
前記ソースセンス端子と前記ソース端子の端子間にソースまたはドレイン電流Isに比例した電位差が発生することを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々は、それぞれのソースセンス端子とソース端子の間にシャント抵抗を有し、
前記複数のパワー半導体モジュールの各々のソース電流を前記検知回路と負荷へ分流させ、
分流したソース電流の一部を前記シャント抵抗に流通させて発生した電位差が前記ソースセンス端子と前記ソース端子の端子間に発生することを特徴とする電力変換装置。
【請求項14】
請求項1に記載の電力変換装置であって、
前記複数のパワー半導体モジュールは、前記個別ゲート抵抗を複数備え、
前記複数の個別ゲート抵抗の接続を切り替える切替回路を内蔵することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の構成に係り、特に、電力変換の主回路要素としてSiCパワー半導体モジュールを搭載する電力変換装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換用パワー半導体素子は、モータドライブ用インバータや電力送配電用変換機器などの電力変換装置(以下、「電力変換器」とも言う)の基幹部品として広く使用されている。パワー半導体素子は、1つのチップで、もしくは複数のチップの並列接続の構成で、パワー半導体モジュールに搭載され、電力変換器に組み込まれる。このパワー半導体素子は、その制御信号によってスイッチング動作を行い、電流の流れる方向を制御することで電力変換を行う。
【0003】
電力変換用パワー半導体素子をスイッチング駆動する場合に、チップの各端子には、チップの寄生容量や配線の寄生インダクタなどによって発生する電圧振動や電流振動が発生することがある。これらの振動現象を「不要振動」と呼ぶことにする。特に、チップを複数個並列接続した場合には、チップに印加される電圧や流れる電流の値に依存するが、上記の寄生容量や寄生インダクタによる共振ループと、増幅素子として動作する2つ以上のチップによって不要振動が発生する。
【0004】
不要振動の電圧振幅や電流振幅が、チップの各端子間の電圧定格値や端子を流通する電流定格を超過すると、チップの長期信頼性の低下や破壊が懸念される。従って、不要振動が生じる場合には、チップに許容されるチップ温度範囲において、その電圧振動振幅と電流振動振幅を各端子の定格値以下に抑える必要がある。
【0005】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、複数の半導体素子を複数個並列配置してスイッチング駆動する場合に、素子の入力容量もしくは帰還容量と配線インダクタンスによって共振が発生することが示されており、この共振によって半導体素子に過電流が流れると判定された場合に、半導体素子のゲートを駆動する経路に配置された抵抗器の抵抗値を増加させる回路構成が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、不要振動の発生は、素子に印加される電圧や流れる電流の値に加えて、素子自体の温度にも依存することが示されており、ワイドギャップ半導体素子の損失の温度依存性を低減する駆動回路として、パワー半導体スイッチング素子の温度を検出し、その検出値に基づいてゲート駆動電圧またはゲート駆動抵抗を変化させる回路構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-149632号公報
【文献】特開2007-259576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電力変換装置に組み込まれる複数のパワー半導体素子に生じる不要振動に対して、電圧振動もしくは電流振動の振幅を抑制することで、パワー半導体素子の信頼性劣化や破壊を防止することが課題である。
【0009】
特に、パワー半導体素子のうち、MOSFET型素子であればゲート端子とソース端子間の電圧定格は、他の端子間の電圧定格と比較して小さいことから不要振動によって破壊される可能性が高いため、ゲート・ソース間電圧(VGS)に発生する不要振動の電圧振幅を小さく抑えることが必要である。また、IGBT型素子であれば、ゲート端子とエミッタ端子間電圧(VGE)に発生する不要振動の電圧振幅を小さく抑えることが必要である。
【0010】
≪SiC素子の特徴と問題≫
近年では、電力変換器の性能向上に向けて、電力変換用パワー半導体素子に、低損失性の特長を有するシリコンカーバイド(SiC:Silicon Carbide)素子が用いられている。SiC素子はバンドギャップが広く、絶縁破壊耐圧がシリコン(Si:Silicon)素子の10倍程度高い特長があり、電流経路となるチャネル半導体層の膜厚をSi素子より薄層化ができるため、絶縁破壊電圧を等しく設計した場合に薄いチャネル半導体層となることから非常に小さい導通時のオン抵抗値が得られる。
【0011】
また、スイッチング時には、従来のSi製IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子に比較して、スイッチング損失が小さい利点がある。IGBT素子がスイッチングする場合には、電流遮断時に発生するテイル電流や、Si-IGBT素子と共に用いられるSi製PNダイオードの蓄積電荷によるリカバリ電流が発生し、スイッチング損失を生じる。一方、テイル電流が無く、リカバリ電流を小さく抑えられるSiC-MOSFET型パワー半導体素子では、その電圧波形や電流波形を理想的な波形に近づけることができる。
【0012】
その一方で、パワー半導体素子に寄生的に発生する帰還容量(IGBT型パワー半導体素子であればゲート・コレクタ間容量CGC、SiC-MOSFET型パワー半導体素子であればゲート・ドレイン間容量CGD)は、SiC-MOSFET型パワー半導体素子の帰還容量の方が大幅に大きい特徴がある。パワー半導体素子がスイッチングに要する時間のうち、ドレイン・ソース間電圧VDSもしくはコレクタ・エミッタ間電圧VCEを変化させる時間Tvは、駆動回路から流入出する駆動電流の大きさIgと帰還容量CGDもしくはCGCにより決まる。
【0013】
駆動電流Igが等しい場合には、SiC-MOSFET型パワー半導体素子のTvは、Si-IGBT型パワー半導体素子に比較して長くなってしまう。パワー半導体素子がスイッチングに要する時間Tswは、電圧が変化する時間Tvと電流が変化する時間Tiに分けることができるが、Tvが支配的な場合にスイッチング損失Eswについて考えると、SiC-MOSFET型パワー半導体素子は、Si-IGBT型パワー半導体素子に比較して、スイッチング時の波形は不要な電流の発生を抑えられて理想的な波形を実現できるものの、帰還容量が大きいために電圧変化時間Tvが長くなる特徴がある。
【0014】
従って、SiC-MOSFET型パワー半導体素子を用いて、スイッチング損失Eswが小さい電力変換器を構成するためには、ゲート駆動電流Igを大きく設定して、Tvを短縮する必要がある。Igを増加する手段には、(1)ゲート駆動電圧を増加させる手段、(2)ゲート駆動抵抗を減少させる手段の2つがある。
【0015】
(1)のゲート駆動電圧の増加には、SiC-MOSFET型パワー半導体素子のゲート・ソース間定格電圧の制限が発生しやすいため、実効的ではない。そこで、(2)のゲート駆動抵抗を小さい値に設定してSiC-MOSFET型パワー半導体素子を駆動することが、SiC-MOSFET型パワー半導体素子を用いた電力変換装置を低損失で運用するための重要な技術になる。
【0016】
パワー半導体素子を用いて電力変換装置を構成するためには、上記で述べたスイッチング時の不要振動を抑制し、素子の長期信頼性の確保と破壊の防止が必要である。不要振動は、電力変換装置の回路構成要素に発生する寄生容量と寄生インダクタによる共振ループと、増幅素子として動作する2つ以上のパワー半導体素子によって発生する。不要振動の電圧振幅や電流振幅を低減するためには、この共振ループの共振の鋭さを低減すること、もしくは、増幅素子の増幅度を低減することが必要である。
【0017】
増幅素子の増幅度の低減には、ソース端子もしくはエミッタ端子に直列に、抵抗やインダクタンスを挿入してインピーダンスを高める手法があるが、電力変換器の場合には損失を増加させてしまうために採用できない。そこで、共振ループのうち、電流値の少ないゲート駆動回路に抵抗を挿入すること、すなわち、スイッチング時にゲート駆動抵抗を増大させることで、共振ループの共振の鋭さを低減する方式が効果的である。
【0018】
しかしながら、SiC-MOSFET型パワー半導体素子を電力変換装置に用いて低スイッチング損失の特性を実現するためには、上記のように、スイッチング時にSi-IGBT型パワー半導体素子に比較してゲート駆動抵抗を低減する必要がある。
【0019】
本発明は、SiC-MOSFET型パワー半導体素子を電力変換装置に用いた場合に、低スイッチング損失の実現とスイッチング素子の長期信頼性の確保と破壊防止との2つの課題を同時に克服するためのものである。
【0020】
上記特許文献1に記載の回路構成は、各スイッチング素子のゲートに直列接続した抵抗値が可変な個別抵抗回路を設ける必要があり、スイッチング素子の並列数が多い場合には個別抵抗値を可変させる制御振動の配線が増えて回路規模が大きくなる欠点がある。また、素子の温度情報も参照して前記個別抵抗値を変化させる場合には、前記感温ダイオードとの配線も必要となる。
【0021】
予め決めた電流の閾値によって判定される過電流が発生した場合に個別抵抗回路の抵抗値を変更するイベントトリガ型の回路構成である。不要振動は、その発生によってゲート・ソース間電圧が超過した場合に即時に素子の破壊が発生する可能性があり、不要振動のリスクが高い場合には、その発生を待つこと無く予防する回路構成を採る必要がある。
【0022】
≪先行技術の課題≫
上記の特許文献1および特許文献2から、複数のパワー半導体素子をスイッチングさせる場合に、共振回路によってパワー半導体素子のいずれかに過電流が発生した場合に、過電流を抑制するために、(1)過電流の検知手段を備え、各パワー半導体素子のゲートに接続した個別抵抗の値を可変して過電流を低減すること、(2)パワー半導体素子の素子温度を検知する手段を備え、素子温度に応じて前記個別抵抗の値の制御を変化させることが従来から公知であると言える。
【0023】
しかしながら、複数のパワー半導体素子をスイッチングさせる場合に、素子の長期信頼性を劣化させて破壊の可能性を高めるのは、そのエミッタ電流、もしくはソース電流の値が過大となる場合だけではない。特に、パワー半導体素子のゲート電圧の最大と最小の定格はおよそ数十V程度(例えば、最大+20V、最小-10V)であるため、過大な電圧印加によって劣化しやすい。スイッチング時にゲート・ソース間電圧(以降、MOSFET型パワー半導体素子の端子名称を用いるが、IGBT型パワー半導体素子の端子名に置き換えることは可能である)に、過大な電圧が印加されるケースは複数ある。
【0024】
一例が、スイッチングに発生するコレクタ電位もしくはドレイン電位の大きな電圧変化(例えば数kV)が、パワー半導体素子の帰還容量によって結合したゲート端子に印加されてしまう場合である。次の例は本発明が効果を発揮する不要振動が発生する場合である。スイッチング期間に生じる主電圧(コレクタ電位もしくはドレイン電位)が高く、同時に主電流(エミッタ電流もしくはソース電流)が大きいタイミングでゲート電位に不要振動が発生しやすく、その振動電圧の上限値や下限値が、前記のゲート電圧の定格値を超過して素子が劣化してしまう。
【0025】
そこで、複数のパワー半導体素子をスイッチングする場合に発生する不要振動を抑圧し、上記のゲート・ソース間電圧に発生する電圧振動振幅がゲート電圧定格を超過しない手段が必要である。特に、SiC-MOSFET型パワー半導体素子は、低スイッチング損失を実現するためにSi-IGBT型パワー半導体素子よりゲート駆動抵抗の値を小さく設定する必要性があり、前記の共振ループの共振の鋭さが大きいため不要振動が発生し易いと言える。また、不要振動は、その発生によってゲート・ソース間電圧が定格電圧を超過した場合に即時に素子の破壊が発生する可能性があり、不要振動のリスクが高い場合には、その発生を回避する回路構成を採る必要がある。
【0026】
そこで、本発明の目的は、電力変換の主回路要素としてSiCパワー半導体モジュールを搭載する電力変換装置において、ゲート・ソース間電圧(VGS)の不要振動を抑制可能な信頼性の高い電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は、並列に接続された複数のパワー半導体モジュールと、前記複数のパワー半導体モジュールの各々のドレイン・ソース間電圧Vds、ゲート・ソース間電圧Vgs、ソースまたはドレイン電流Isのそれぞれに基づく第1の物理量、第2の物理量、第3の物理量を前記複数のパワー半導体モジュールから取得する検知回路と、前記第1の物理量、前記第2の物理量、前記第3の物理量に基づいて検知判定信号を生成する判定回路と、前記検知回路および前記判定回路で構成され、前記検知判定信号を出力する検知判定回路と、前記検知判定信号に基づいて前記複数のパワー半導体モジュールの制御信号を生成するゲート駆動回路と、を備え、前記ゲート駆動回路は、抵抗値が可変に制御されるように構成された共通ゲート抵抗を有し、前記複数のパワー半導体モジュールの各々は、抵抗値が可変に制御されるように構成された個別ゲート抵抗を有し、前記検知判定回路は、前記ドレイン・ソース間電圧Vdsと前記ソースまたはドレイン電流Isが共に所定の閾値よりも大きい準短絡期間を抽出すると共に、前記ゲート・ソース間電圧Vgsと前記ソースまたはドレイン電流Isの組み合わせに対応するモジュール素子温度を抽出し、前記準短絡期間内に、前記モジュール素子温度が所定の範囲内である場合、前記共通ゲート抵抗および前記個別ゲート抵抗の少なくともいずれか一方の抵抗値を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電力変換の主回路要素としてSiCパワー半導体モジュールを搭載する電力変換装置において、ゲート・ソース間電圧(VGS)の不要振動を抑制可能な信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0029】
これにより、電力変換装置の誤動作や故障を低減することができる。
【0030】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図2A】
図1に示す電力変換装置のスイッチング時の過渡応答波形を示す図である。(本発明の制御)
【
図2B】
図1に示す電力変換装置のスイッチング時の過渡応答波形を示す図である。(本発明の制御を実施しない場合)
【
図2C】
図1に示す電力変換装置のスイッチング時の過渡応答波形を示す図である。(本発明の制御を実施しない場合)
【
図2D】
図1に示す電力変換装置のスイッチング時の過渡応答波形を示す図である。(本発明の制御を実施しない場合)
【
図3】
図1に示す電力変換装置による不要振動現象の抑制原理を示す図である。
【
図4A】
図1に示す電力変換装置によるゲートプラトー電圧VGPの温度依存性を示す図である。
【
図4B】
図1に示す電力変換装置によるゲートプラトー電圧VGPの温度依存性を示す図である。
【
図4C】
図1に示す電力変換装置によるゲートプラトー電圧VGPの温度依存性を示す図である。
【
図5A】従来の電力変換装置のスイッチング時の過渡応答波形を示す図である。
【
図5B】
図1に示す電力変換装置のスイッチング時の過渡応答波形を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置の検知判定回路の構成を示す図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る電力変換装置の検知回路の構成を示す図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係る電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0033】
本発明の電力変換装置は、並列に接続された複数のパワー半導体モジュールの各々のゲート・ソース間電圧、ドレイン・ソース間電圧、およびソースまたはドレイン電流のそれぞれに基づく第1の物理量、第2の物理量、および第3の物理量を取得し、複数のパワーモジュールの共通ゲート抵抗と個別ゲート抵抗の値を制御する信号を発生する検知判定回路を備える。前記検知判定回路は、前記ドレイン・ソース間電圧とソース電流とが共に所定の閾値よりも大きい準短絡期間を抽出すると共に、前記ゲート・ソース間電圧と前記ソース電流との組み合わせに対応するモジュール素子温度を抽出し、前記準短絡期間内に、前記モジュール素子温度が所定の温度範囲に存在する場合に前記ゲート抵抗の値を変化させる。前記共通ゲート抵抗の抵抗値を減少させる動作および前記個別ゲート抵抗の抵抗値を増加させる動作の少なくとも一方を実行する。
【実施例1】
【0034】
≪全体回路構成の一例≫
図1から
図5Bを参照して、本発明の第1の実施形態に係る電力変換装置について説明する。
図1は本実施例の電力変換装置の1相分の回路構成を示している。
【0035】
図1に示すように、本実施例に係る電力変換装置は、複数のパワー半導体モジュール8a,8b,9a,9bと、複数のパワー半導体モジュールのゲート端子とソースセンス端子を共通ゲート駆動抵抗51,52によって駆動するゲート駆動回路5a,5bと、パワー半導体モジュールのドレイン・ソースセンス間電圧Vdsとゲート・ソースセンス間電圧Vgsとソース電流値Isを検知して、ゲート駆動回路5a,5bを構成する共通ゲート駆動抵抗51,52と複数のパワー半導体モジュール8a,8b,9a,9bに含まれる個別ゲート抵抗の値を増減する制御を行う検知判定回路10a、10bによって構成される。
【0036】
なお、
図1では、電力変換装置の負荷(誘導性負荷6)と電源(主電圧源7)を含めて図示する。
【0037】
検知判定回路10a,10bは、パワー半導体モジュールのドレイン・ソース間電圧Vdsを検知して第1の物理量を生成するVds検知回路1a,1bと、パワー半導体モジュールのゲート・ソース間電圧Vgsを検知して第2の物理量を生成するVgs検知回路2a,2bと、パワー半導体モジュールのソースまたはドレイン電流値Isを反映する電圧もしくは電流を検知して第3の物理量を生成するIs検知回路3a,3bと、第1から第3の物理量を入力とし、ゲート駆動回路5a,5bと複数のパワー半導体モジュール8a,8b,9a,9bの抵抗値を増減する制御信号を生成する判定回路4a,4bによって構成される。
【0038】
なお、複数のパワー半導体モジュール8a,8b,9a,9bの構成は2つの形態があり、何れも本発明の範囲に含まれる。すなわち、
図1では、電力変換装置の上アーム用のパワー半導体モジュール8a,9aと下アーム用のパワー半導体モジュール8b,9bをそれぞれ別筐体の1-in-1モジュールで構成する形態を示しているが、上アーム用のパワー半導体モジュール8a,9aと下アーム用のパワー半導体モジュール8b,9bがそれぞれ同一のモジュール筐体に格納される2-in-1モジュールの形態であっても、以下に述べる本発明の効果に変わりはない。
【0039】
上アームのパワー半導体モジュール8a,9aと下アームのパワー半導体モジュール8b,9bとはハーフブリッジ回路を構成し、電力変換装置の1相分の回路である。
【0040】
上アームのパワー半導体モジュール8a,9aのドレイン端子D1は高電位端子である。上アームのパワー半導体モジュール8a,9aのソース端子S1と下アームのパワー半導体モジュール8b,9bのドレイン端子D2とは中間電位端子D2S1に共通に接続され、誘導性負荷6と接続される。下アームのパワー半導体モジュール8b,9bのソース端子S2は低電位端子である。
【0041】
ゲート駆動回路5(5a,5b)と検知判定回路10(10a,10b)とパワー半導体モジュール8,9(8a,8b,9a,9b)の接続について上アームを例に説明する。例示する2つのパワー半導体モジュール8a,9aのゲート端子は共通に接続され、ゲート駆動回路5(5a)の出力端子nGOa(上アームではaの添字を付記する)に接続される。対となるソースセンス端子もまた共通に接続され、出力端子nSsOaに接続される。
【0042】
パワー半導体モジュール8a,9aのソース主端子D2S1はIs検知回路3aの一方の入力端子に接続され、Is検知回路3aの他方の入力端子にはソースセンス端子nSsOaが接続される。Vgs検知回路2aの一方の入力端子はゲート端子nGOaに接続され、他方の入力端子はソースセンス端子nSsOaに接続される。Vds検知回路1aの一方の入力端子は、パワー半導体モジュール8a,9aのドレインセンス主端子nSi1aに接続され、他方の入力端子はソースセンス端子nSsOaに接続される。
【0043】
Vds検知回路1aとVgs検知回路2aとIs検知回路3aのそれぞれの出力はソースセンス端子nSsOaの電位を基準に判定回路4aへと入力される。なお、Vds検知回路1aとVgs検知回路2aとIs検知回路3aには図示しないが、それぞれの2入力端子間の電位差に対する閾値電圧発生回路を備えており、複数の検知回路1a,2a,3aのそれぞれの出力値の決定に用いられる。なお、各検知回路は閾値電圧を互いに独立して設定可能である。
【0044】
判定回路4aは3つ電圧出力端子nDo1a~nDo3aを備えており、ゲート駆動回路5aの共通ゲート駆動抵抗51に並列配置されたスイッチ54と、ゲート駆動回路5aの共通ゲート駆動抵抗52に並列配置されたスイッチ56と、パワー半導体モジュール8aの個別ゲート抵抗82に並列配置された個別ゲート抵抗可変スイッチ84と、パワー半導体モジュール9aの個別ゲート抵抗92に並列配置された個別ゲート抵抗可変スイッチ94と、に開放もしくは閉鎖の制御信号を出力する。
【0045】
ゲート駆動回路5aでは、正側電位端子nGDHaに接続された共通ゲート駆動抵抗51に対し、スイッチ54と共通ゲート駆動抵抗53で構成した直列回路を並列に接続することで、ゲート駆動回路5aの正側共通ゲート抵抗の値(Rg1ON)の値を可変にする。検知判定回路10(10a)の出力端子nDo1aから出力された制御信号により、スイッチ54が開放状態では共通ゲート駆動抵抗51の値R51がRg1ONとなり、スイッチ54が閉鎖状態では共通ゲート駆動抵抗51の値R51と共通ゲート駆動抵抗53の値R53との並列合成抵抗値R51’がRg1ONになる。
【0046】
負側においても同様に、負側電位端子nGDLaに接続される共通ゲート駆動抵抗52に対し、共通ゲート可変スイッチであるスイッチ56と共通ゲート駆動抵抗55で構成した直列回路を並列に接続することで、ゲート駆動回路5aの負側共通ゲート抵抗の値(Rg1OFF)の値を可変にする。検知判定回路10(10a)の出力端子nDo2aから出力された制御信号により、スイッチ56が開放状態では共通ゲート駆動抵抗52の値R52がRg1OFFとなり、スイッチ56が閉鎖状態では共通ゲート駆動抵抗52の値R52と共通ゲート駆動抵抗55の値R55との並列合成抵抗値R52’がRg1OFFになる。
【0047】
パワー半導体モジュール8aでは、そのゲート端子に接続される個別ゲート抵抗82に対し、個別ゲート抵抗可変スイッチ84と個別ゲート抵抗83で構成した直列回路を並列に接続することで、ゲート個別抵抗の値を可変にする。検知判定回路10aの出力端子nDo3aから出力された制御信号により、個別ゲート抵抗可変スイッチ84が開放状態では個別ゲート抵抗82の値R82がゲート個別抵抗値となり、個別ゲート抵抗可変スイッチ84が閉鎖状態では個別ゲート抵抗82の値R82と個別ゲート抵抗83の値R83との並列合成抵抗値がゲート個別抵抗値になる。パワー半導体モジュール9aにおいても、そのゲート個別抵抗の値は、パワー半導体モジュール8aと同様に制御される。
【0048】
≪タイミングチャートを用いた動作説明≫
図1に示した本実施例の回路構成の動作を、
図2Aから
図2Dに示すタイミングチャートで説明する。先ず、ゲートプラトー電圧の温度依存性について予め説明する。
【0049】
誘導性負荷に対してスイッチングを行う場合、パワー半導体モジュールのゲート電位がミラー効果によって平坦な値をとる場合、これをゲートプラトー電圧VGPと定義する。VGPは以下の式で表される。
【0050】
VGP≒Vth+Is/gm…(式1)
ここで、Vthはパワー半導体モジュールに搭載したスイッチングを行うチップのゲート閾値電圧を、Isはスイッチングの際にソースを流れる電流値であり負荷電流Iloadに等しい。gmはスイッチングを行うチップの相互コンダクタンスを示しており、Vthとgmはそれぞれが温度依存性を有している。現在、パワー半導体モジュールに搭載されるSiC-MOSFETの特性では、式1のうち、温度変化に対してVthの依存性が最も大きく、チップ温度が低温であればVthに対応してVGPの値が高くなり、低温であればVthの値は低下するためVGPの値は低くなる。
【0051】
図2Aから
図2Dは横軸に時間をとり、パワー半導体モジュール8a,8b,9a,9bの各部波形を模式化したものである。以下の説明では、上アーム(端子名の添字がaとなる)を例にとって説明する。
【0052】
図2Aは、上アームのゲート駆動回路5aの出力端子nGOaから出力されたゲート駆動信号によってターンオフ動作に続いてターンオン動作が行われる場合の波形を模式的に示している。
図2Aは本発明の制御が実施される事例である。一方、
図2Bは
図2A同様にターンオフ動作に続いてターンオン動作が行われの波形だが、本発明の制御が実施されない事例を示している。なお、
図2Aから
図2Dの波形は、ゲート駆動信号によって制御される駆動アームを構成する各部の波形を示している。
【0053】
図2Aに示す動作と対応する波形について説明する。上から1段目に、ゲート駆動回路の制御端子SIGの電圧信号VSIGを示す。
図1に示す正側電位端子nGDHaに印加されるゲート駆動制御信号である。OFF状態にゲートを制御する場合にはLow(L)レベル、ON状態にゲートを制御する場合にはHigh(H)レベルとなる。
【0054】
2段目に、信号VSIGに対応して変化するパワー半導体モジュールのゲート・ソースセンス端子間電圧VGSの応答波形を示す。その正側の最大電位VGDHから最小電位VGDLへと過渡的に変化するが、その電圧範囲はパワー半導体モジュールに搭載されるSiC-MOSFETのゲート定格電圧範囲を逸脱しないよう制御される必要がある。VGS波形には、ほぼ平坦な電圧となるプラトー電圧(
図2A中にVGPと示す)が発生し、その時間期間をプラトー期間と呼ぶことにする。このプラトー期間は、パワー半導体モジュールのドレイン・ソース間電圧VDSが変化する期間である。
【0055】
3段目にVDSの応答波形を示す。プラトー期間ではVDSが主電圧Vccと0Vとの間を遷移する。
【0056】
4段目にパワー半導体モジュールのソース電流Isの過渡応答波形を示す。パワー半導体モジュール8a,9aのソース電流の値は、パワー半導体モジュールの内部において、もしくは、モジュールのソース端子において具備されたソース電流検知抵抗(シャント抵抗)85,95の両端子間に現れる電位差に変換され、Is検知回路3aの入力端子間の電位差として入力される。
図2Aに示すように、ターンオフ時ではVDSの電圧変化の後にIsの電流変化が発生し、ターンオン時ではIsの電流変化の後にVDSの電圧変化が発生する。
【0057】
5段目から10段目の波形は、検知判定回路10(10a)の内部波形となる。VGSOUTはVGS検知回路2aの出力電位を、VDSOUTはVDS検知回路1aの出力電位を、ISOUTはIs検知回路3aの出力電位をそれぞれ示している。
【0058】
VGSOUTは、VGS波形が閾値VGPth以上であればHigh信号を、閾値VGPth未満であればLow信号を出力する。
【0059】
VDSOUTは、VDS波形が閾値VDSth以上であればHigh信号を、閾値VGPth未満であればLow信号を出力する。
【0060】
IsOUTは、Is波形の値が閾値Isth以上であればHigh信号を、閾値Isth未満であればLow信号を出力する。
【0061】
内部波形Aは、VDSOUTとIsOUTの論理積を示しており、VDS波形とIs波形がともにそれぞれの判定閾値以上である期間にHigh信号を、判定閾値未満である場合にLow信号を出力する。つまり、内部波形AがHigh信号を出力する期間は、パワー半導体モジュールが準短絡状態にあることを示す。
【0062】
内部波形Bは、VDSOUTの立ち上がりトリガでVGSOUTをラッチした出力である。VDSOUTの立ち上がりタイミング(
図2A中の時間T1)は、波形VGSOUTがプラトー期間の電圧VGS(つまりVGP)を閾値VGPthに対して大小判定した期間に発生する。そのため、内部波形Bは、ターンオフ時のVGPの値の大小を判定した出力信号となる。後述するが、例えばパワー半導体モジュール内部のスイッチング素子の温度が低温であればVGPの値は増加することから、内部波形BがHigh信号であればスイッチング素子の温度は低温であることが判定できる。
【0063】
内部波形Cは、内部波形AとBの論理積である。つまり、ワー半導体モジュールが準短絡状態、かつ、パワー半導体モジュール内部のスイッチング素子の温度が低温であればHigh信号を出力する。すなわち、内部波形CがHigh信号を出力する期間は、複数のパワー半導体モジュールを用いた電力変換器のゲート駆動経路において不要振動が発生する可能性が高い状態である。
【0064】
本発明のゲート駆動抵抗の制御では、内部波形CがHigh信号の場合には、共通ゲート抵抗を変更するスイッチ(共通ゲート可変スイッチ)54,56に閉鎖信号を与える。これにより、ターンオン抵抗がR51から、共通ゲート駆動抵抗51の値R51と共通ゲート駆動抵抗53の値R53との並列合成抵抗値R51’へと低減し、ターンオフ抵抗はR52から、共通ゲート駆動抵抗52の値R52と共通ゲート駆動抵抗55の値R55との並列合成抵抗値R52’へと低減する。
【0065】
但し、ターンオフ時にはゲート駆動ON/OFF切り替えスイッチ58が閉鎖し、ゲート駆動ON/OFF切り替えスイッチ57が開放となるため、スイッチング動作に影響する共通ゲート抵抗はR52とR52’である。また、ターンオン時にはゲート駆動ON/OFF切り替えスイッチ57が閉鎖し、ゲート駆動ON/OFF切り替えスイッチ58が開放となるため、スイッチング動作に影響する共通ゲート抵抗はR51とR51’である。
【0066】
同時に、内部波形CがHigh信号の場合には、パワー半導体モジュールの個別ゲート抵抗を増大させるように制御する。内部波形Cの論理反転値を、パワー半導体モジュール8a,9aのゲート駆動抵抗の個別ゲート抵抗可変スイッチ84と個別ゲート抵抗可変スイッチ94に与え、スイッチを開放し、個別ゲート抵抗値を、個別ゲート抵抗82の値R82と個別ゲート抵抗83の値R83との並列合成抵抗値R82’から、個別ゲート抵抗82の値R82へと増加させ、同様に個別ゲート抵抗92の値R92と個別ゲート抵抗93の値R93との並列合成抵抗値R92’から、個別ゲート抵抗92の値R92へと増加させる。
【0067】
以上説明したように、本発明のゲート抵抗の制御は、パワー半導体モジュールが準短絡状態、かつ、パワー半導体モジュール内部のスイッチング素子の温度が低温である場合に、共通ゲート抵抗を低減し、モジュール個別抵抗を増加することである。上記の場合において、共通ゲート抵抗の低減、または個別ゲート抵抗の増加、のいずれか一方のみを実施する場合であっても本発明の効果が得られる。
【0068】
≪ゲート抵抗値の増減制御の効果≫
ここで、
図3を用いて上記のゲート抵抗の増減の効果を説明する。
図3は、並列接続される2つのパワー半導体モジュール8a,9aについて、ゲート駆動経路の等価回路を簡略化したものである。ゲート駆動回路の等価回路は、例としてターンオン時の回路を記載している。ゲート駆動経路に生ずる不要振動は、2つのパワー半導体モジュール8a,9aのゲート端子とソースセンス端子で構成する共振ループ間で生じる発振現象である。
【0069】
不要振動が発生する条件について述べる。チップ温度が低温である場合は、半導体チップの相互コンダクタンスが大きくなり、ノイズを含めたゲート電圧変化に対するソース電流の変化率が大きくなる。相互コンダクタンスはソース電流の絶対値にも依存し、ソース電流が大きい場合には更にゲート電圧変化に対するドレイン電流とソース電流の変化率が大きくなる。
【0070】
誘導性負荷に対してスイッチングを行う場合には、パワー半導体モジュールのソース電流Isの値は随時変化するため、チップ温度が低温であり、同時にソース電流Isが大きい期間が発生する。この期間において、パワー半導体モジュールのゲート電圧に対するソース電流の変化率が最も高く、ゲート駆動ループにおいて不要振動が発生する可能性が高くなる。
【0071】
図3では発振時のループ電流Iringの経路を示している。共振周波数で振動する電流Iringは共振ループを一巡するように流れる。発振を抑制するためにはこの発振電流の値を低減することが必要である。その手段は2つあり、(1)ループ経路に共振ダンピング抵抗を挿入し発振電流の値を低減すること、(2)ループ経路に並列に電流迂回路を挿入し発振電流の値を低減することである。ここで、ゲート駆動回路5(5a)で構成する電流迂回経路を流れる電流をIgdとする。
【0072】
上記の(1)の実現手段は、パワー半導体モジュールの個別ゲート抵抗を増加させてIringを低減することである。そのために、不要振動が発生する条件において、個別ゲート抵抗可変スイッチ84を開放して個別ゲート抵抗をR82’からR82へと変化させる。同時に、個別ゲート抵抗可変スイッチ94を開放して個別ゲート抵抗をR92’からR92へと変化させる。ここで、R82’<R82、R92’<R92、R82’=R82//R83、R92’=R92//R93、の関係である。
【0073】
この実現手段によって振動電流Iringの振幅を減少させることが可能になり、Iringとパワー半導体モジュールのゲート・ソース間インピーダンスの積で決まる波形VGSの不要振動電圧振幅を小さく抑制することができる。(
図5Aおよび
図5B参照)
上記の(2)の実現手段は、パワー半導体モジュールの共通ゲート抵抗を減少させることである。不要振動の発生リスクが高い条件において、スイッチ(共通ゲート可変スイッチ)54を閉鎖することにより、共通ゲート抵抗をターンオン時のR51やターンオフ時のR52の値からR51’やR52’へ変化させる。ここで、R51’<R51、R52’<R52、R51’=R51//R53、R52’=R52//R56、の関係である。この実現手段によってゲート駆動経路に引き込む振動電流Igdを増加できるため、パワー半導体モジュールを流れる振動電流Iringの振幅を低減できる。その結果、Iringとパワー半導体モジュールのゲート・ソース間インピーダンスの積で決まる波形VGSの不要振動電圧振幅を小さく抑制することができる。
【0074】
すなわち、上記の手段(1)と手段(2)をそれぞれ単独で、もしくは同時に実施することで、不要振動の現象を抑制することができる。
【0075】
つまり、検知判定回路10(10a,10b)は、パワー半導体モジュール8a,9aの各々のゲート端子と、パワー半導体モジュール8a,9aの各々のソースセンス端子と、ゲート駆動回路5(5a,5b)と、それらの接続配線によって生じる寄生インダクタンスと、パワー半導体モジュール8a,9aの各々に生じる寄生容量と、によって構成されるゲート駆動経路の共振ループ回路を成し、共通ゲート抵抗51,52,53,55の値を低減することで共振ループ回路に生じる振動電流の迂回路を発生させて振動電流を低減し、個別ゲート抵抗82,83,92,93の値を増加することで共振ループ回路に損失を与えて振動電流を低減する。
【0076】
図2Bのタイミングチャートでは、パワー半導体モジュールのチップ温度が高温の場合を想定し、波形を模式的に示している。2段目に示す波形VGSはゲートプラトー期間の値VGPが閾値VGPth未満となる場合である。そのため、ターンオフ時のVGPと閾値VGPthを参照して出力するVGSOUTはLow信号を保持する。一方、ソース電流Isの最大値は閾値Isth以上となるため、IsOUTは変化し、High信号とLow信号を出力する。
【0077】
内部波形Aは、VDSOUTとIsOUTの論理積であるから、High信号である期間が電圧VDSと電流Isがともに大きい準短絡状態であることを示している。一方、VGSOUTがLowレベルを保持しているため、内部波形Bは、Low信号となる。ゲート抵抗値の変化を制御する内部波形Cは、内部波形BがLow信号であることに伴い、Low信号である。
【0078】
つまり、
図2Bの場合には、ゲート抵抗(共通ゲート抵抗と個別ゲート抵抗)を変化させない制御である。
【0079】
チップ温度が高温である場合、上記のようにパワー半導体モジュールの相互コンダクタンスが低下して不要振動の発生が抑制されることから、ゲート抵抗を変化させない制御を行う。
【0080】
図2Cのタイミングチャートでは、パワー半導体モジュールのチップ温度は
図2Aと同様に低温であるが、ソース電流Isの値が閾値Isthより小さい場合を想定した波形を模式的に示している。2段目に示す波形VGSのうち、ゲートプラトー期間の値VGPが閾値VGPth以上となる場合である。ターンオフ時のVGPと閾値VGPthを参照して出力するVGSOUTはVDSOUTをトリガにHigh信号を出力する。一方、ソース電流Isの最大値は閾値Isth未満となるため、IsOUTはLow信号を保持する。
【0081】
内部波形Aは、VDSOUTとIsOUTの論理積であるからLow信号となり、電圧VDSと電流Isがともに大きい準短絡状態は発生しないことを示している。一方、VGSOUTがHigh信号を出力するため、内部波形BはHigh信号となる。ゲート抵抗値の変化を制御する内部波形Cは、内部波形AがLow信号であることに伴い、Low信号となる。
【0082】
つまり、
図2Cの場合には、ゲート抵抗(共通ゲート抵抗と個別ゲート抵抗)を変化させない制御である。チップ温度が低温で相互コンダクタンスが増加した場合であっても、ソース電流Isが小さい場合には不要振動の発生が抑制されることから、ゲート抵抗を変化させない制御を行う。
【0083】
図2Dのタイミングチャートでは、パワー半導体モジュールのチップ温度は
図2Bと同様に高温であるが、ソース電流Isの値が閾値Isthより小さい場合を想定した波形を模式的に示している。2段目に示す波形VGSのうち、ゲートプラトー期間の値VGPが閾値VGPth未満となる場合である。ターンオフ時のVGPと閾値VGPthを参照して出力するVGSOUTはVDSOUTをトリガとするがLow信号を保持する。さらに、ソース電流Isの最大値は閾値Isth未満となるため、IsOUTもまたLow信号を保持する。
【0084】
内部波形Aは、VDSOUTとIsOUTの論理積であるからLow信号となり、電圧VDSと電流Isがともに大きい準短絡状態は発生しないことを示している。一方、VGSOUTもLow信号を出力するため、内部波形BもLowとなる。ゲート抵抗値の変化を制御する内部波形Cは、内部波形Aと内部波形BがともにLow信号であることに伴い、Low信号となる。
【0085】
つまり、
図2Dの場合には、ゲート抵抗(共通ゲート抵抗と個別ゲート抵抗)を変化させない制御である。チップ温度が高温で相互コンダクタンスが低く、ソース電流Isが小さい場合には不要振動の発生が抑制されることから、ゲート抵抗を変化させない制御を行う。
【0086】
以上の
図2Aから
図2Dのタイミングチャートの説明により、本発明のゲート抵抗値の制御方法を明らかにした。
【0087】
≪ゲートプラトー電圧VGPの温度依存性と不要振動抑制領域≫
図4Aから
図4Cを参照して、ゲート抵抗値の制御を整理する。検知判定回路10(10a)に入力される電圧波形VDS、電圧波形VGS、ソース電流Isに比例した電圧波形を検知し、パワー半導体モジュール内部のSiC-MOSFETの素子温度と相互コンタクダンスの値を判定し、ゲート駆動経路に発生する不要振動が発生する素子温度が低温で相互コンタクダンスが大という条件(
図2Aで例示)では、共通ゲート抵抗の値を低減させ、パワー半導体モジュールの個別ゲート抵抗の値を増加させる制御を行う。
【0088】
この制御によって、並列接続されたパワー半導体モジュールのゲート・ソース間の過電圧印加を防止できる。
図4Aは、横軸に時間をとり、縦軸にターンオフ時のゲート電圧VGSの波形を示している。VGPの検知タイミング(
図2Aの時刻T1)では、素子が高温時にはVGPは閾値VGSth未満の小さい値となり、素子が低温時にはVGSth以上の大きな値となる。電圧波形VGSの検知は、
図4Bに示すようにターンオン時にも可能である。
【0089】
図4Cは、
図4A,
図4Bで示した素子温度に対するVGPの温度依存性を整理したものである。上記の式(1)より、ソース電流Isが大きい場合にはVGPもまた増大する。上記のように不要振動は、素子温度が低温で、gmが増大することからIsが大きい条件で発生する。従って、
図4Cに塗りつぶし(網掛け)で示す領域にパワー半導体モジュールの素子があることを検知し、ゲート抵抗の値を制御する。
【0090】
≪ゲート抵抗制御による不要振動抑制効果≫
図5Aおよび
図5Bは、本発明の効果を模式的に示したものである。横軸に時間をとり、不要振動が発生する条件において、
図5Aは振動抑制対策を実施しない場合(従来の電力変換装置)を示し、
図5Bは本発明の振動実施対策を実施する場合を示す。
【0091】
図5AのVGS波形では、ゲートプラトー期間に不要振動が発生し、その振幅がゲート電圧定格の最大値VGSmaxと最小値VGSminを超過すると素子の劣化や故障の不具合が発生する。一方、
図5Bでは
図5Aで不要振動が発生した期間に、上記で説明したゲート抵抗の値が変化する制御が行われ、VGS波形では、不要振動を完全に抑制出来ない場合であってもその振幅を低減してゲート電圧定格内でスイッチングさせることが可能である。
【0092】
以上説明したように、本実施例によれば、電力変換の主回路要素としてSiCパワー半導体モジュールを搭載する電力変換装置において、ゲート・ソース間電圧(VGS)の不要振動を抑制可能な信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。これにより、電力変換装置の誤動作や故障を低減することができる。
【0093】
なお、Vds検知回路1aの閾値電圧発生回路で生成される閾値電圧は、主電圧源7の50%の電圧値とし、Is検知回路3aの閾値電圧発生回路で生成される閾値電圧(閾値電流)は、ソース電流Isの定格電流値の50%の電流に相当する電圧値(電流値)とするのが好適である。電圧と電流に対する判定の閾値を、それぞれ定格値の50%に設定することで、不要振動によるパワー半導体素子の信頼性劣化や破壊を確実に抑制することができる。
【実施例2】
【0094】
≪検知判定回路の判定回路の一例≫
図6を参照して、本発明の第2の実施形態に係る電力変換装置について説明する。
図6は本実施形態の部分回路構成を示している。本実施例は実施例1の検知判定回路10(10a,10b)の内部回路構成を具体化した一例であり、実施例1の変形例に相当する。検知判定回路10(10a,10b)の内部回路構成が具体化されている点で実施例1と相違するが、その他の点は実施例1の構成と共通である。
【0095】
検知判定回路10は、Vds検知回路1、Vgs検知回路2、Is検知回路3からなる検知回路と、判定回路4で構成される。判定回路4は、Dフリップフロップ401、論理積(AND)回路402,403、バッファ回路404、反転バッファ405で構成される。判定回路4の動作は、
図2Aで説明した制御を実現するものである。Dフリップフロップ401は、Vds検知回路1出力のVDSOUTをクロックトリガとして動作し、Vgs検知回路2出力のVGSOUTを入力信号として取り込み、内部波形Bとして出力する。
【0096】
論理積(AND)回路402は、Vds検知回路1出力のVDSOUTとIs検知回路3出力のISOUTの論理信号のAND波形を内部波形Aとして出力する。論理積(AND)回路403は、内部波形AおよびBの論理信号のAND波形を生成し、その信号をバッファ回路404を通して出力端子nDo1とnDo2へ出力する。出力端子nDo3は反転バッファ405により論理反転した信号を出力する。
【0097】
≪本実施例の効果≫
本実施例により、スイッチング動作に伴う判定回路の電源雑音が発生した場合でも、ノイズマージンが大きな論理回路によってその機能を実現できるため、電源雑音耐性を向上することができる。
【0098】
また、比較的簡易な論理回路によって判定回路動作を実現できるため、動作遅延が少なく、高価なマイコン回路も必要としないことから、具体回路を低コストに実現できる。
【実施例3】
【0099】
≪検知判定回路の検知回路の一例≫
図7を参照して、本発明の第3の実施形態に係る電力変換装置について説明する。
図7は本実施形態の部分回路構成を示している。本実施例は実施例1の検知判定回路10(10a,10b)の内部回路構成を具体化した一例であり、実施例1または実施例2の変形例に相当する。検知判定回路10(10a,10b)の内部回路構成が具体化されている点で実施例1または実施例2と相違するが、その他の点は実施例1の構成と共通である。
【0100】
検知判定回路10は、Vds検知回路1、Vgs検知回路2、Is検知回路3からなる検知回路を備える。
図1で示した各検知回路1(1a,1b)、2(2a,2b)、3(3a,3b)に共通して用いる具体回路を
図7に示す。
【0101】
検知回路1,2,3は、端子nSUP1と端子nSUP2に印加される直流電圧の差分電圧を電源電圧として動作する。差動入力増幅回路101は、検知回路1,2,3の2入力端子nIn1とnIn2に入力されたアナログ信号の差動電圧を入力とし、所定の利得で信号増幅を行うシュミットトリガ型コンパレータ102は、検知閾値発生回路103が出力する比較電圧を基準に、差動入力増幅回路101の出力電圧の大小を判断し、端子nSUP1の電位と端子nSUP2の電位で決定する2値の高低の電圧信号を端子nOUT発生する。この電圧信号が、
図1および
図2に示した判定回路4(4a,4b)の入力信号となる。
【0102】
検知閾値発生回路103は、予め決めた検知閾値電圧を保持する回路である。電圧安定化回路104は、端子nSUP1と端子nSUP2に印加される直流電圧の差分電圧に重畳する高周波雑音信号を除去し、差動入力増幅回路101の増幅動作において雑音耐性を向上する。
【0103】
シュミットトリガ型コンパレータ102は、その2入力端子の電位差に対して、出力電圧の論理値(上記2値の高低の電圧信号)がヒステリシス特性を有する回路である。このヒステリシス特性によって、入力信号の雑音によってnOUTに発生する出力信号が変動しないようにノイズマージンを設ける機能を有している。
【0104】
≪本実施例の効果≫
本実施例により検知回路の簡易な具体構成を示した。アナログ信号となる検知信号に対し、差動入力増幅回路101による増幅を行った後に、閾値に基づく判定を行う構成を採ることで検知信号に重畳するノイズの影響を軽減できる。
【0105】
また、コンパレータをシュミットトリガ方式とすることで、コンパレータ入力信号とその電源電圧に重畳するノイズの影響を軽減できる。
【0106】
また、簡易なアナログ回路によって検知回路動作を実現できるため、高価なマイコン回路も必要としないことから、具体回路を低コストに実現できる。
【実施例4】
【0107】
≪ソース電流値Is抽出方法の変形例≫
図8を参照して、本発明の第4の実施形態に係る電力変換装置について説明する。
図8は分流トランジスタとシャント抵抗によるソース電流値Is抽出の例を示しており、実施例1(
図1)の変形例に相当する。
【0108】
本実施例では、実施例1(
図1)のパワー半導体素子81,91に替えて電流センス端子付きのパワー半導体素子86,96を設け、さらにソース電流検知抵抗(シャント抵抗)85,95に替えて電流センス端子接続用のソース電流検知抵抗87,97を設ける点において、実施例1(
図1)の電力変換装置と異なる。その他の点は実施例1の構成と共通である。
【0109】
図8に示すように、パワー半導体素子86,96のソース電流を検知回路1,2,3と誘導性負荷6へ分流させ、分流したソース電流の一部をシャント抵抗となるソース電流検知抵抗(電流センス端子接続用)87,97に流通させて発生した電位差をソースセンス端子とソース端子の端子間に発生させる。
【0110】
本実施例においても、実施例1と同様に、ゲート・ソース間電圧(VGS)の不要振動を抑制することが可能である。
【0111】
なお、以上述べた各実施例では、SiC-MOSFET型パワー半導体モジュールについて本発明の効果を述べた。しかし、Si製やGaN製、もしくはGaO製のFET型半導体素子を搭載した複数のモジュールや複数のトランジスタによって電力変換装置を構成する場合においても、ゲートプラトー電圧VGPや素子の相互コンタクタンスの温度依存性が同様であれば、本発明の効果が得られることは言うまでもない。
【0112】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0113】
1,1a,1b,2,2a,2b,3,3a,3b…検知回路
4,4a,4b…判定回路
5,5a,5b…ゲート駆動回路
6…誘導性負荷
7…主電圧源
8,8a,8b,9,9a,9b…パワー半導体モジュール
10,10a,10b…検知判定回路
51,52,53,55…共通ゲート(駆動)抵抗
54,56…スイッチ(共通ゲート可変スイッチ)
57,58…ゲート駆動ON/OFF切り替えスイッチ
60…コンデンサ
81,91…パワー半導体素子
82,83,92,93…個別ゲート抵抗
84,94…個別ゲート抵抗可変スイッチ
85,95…ソース電流検知抵抗(シャント抵抗)
86,96…パワー半導体素子(電流センス端子付き)
87,97…ソース電流検知抵抗(電流センス端子接続用)
101…差動入力増幅回路
102…シュミットトリガ型コンパレータ
103…検知閾値発生回路
104…電圧安定化回路
401…Dフリップフロップ
402,403…論理積(AND)回路
404…バッファ回路
405…反転バッファ