(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/06 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
F16H25/06 Z
(21)【出願番号】P 2018183657
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】井木 泰介
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転部に入力された回転を、同軸に配された出力回転部に所定の変速比で伝達する動力伝達装置であって、
複数のローラと、前記複数のローラが挿通された複数の第1ポケットを有する第1部材と、前記第1部材の軸方向両側に設けられ、それぞれ前記複数のローラが係合する転動体係合溝を有する一対の第2部材と、前記第1部材と前記一対の第2部材との軸方向間にそれぞれ設けられ、前記複数のローラが挿通された複数の第2ポケットを有する一対の第3部材とを備え、
前記複数の第1ポケットが、前記入力回転部及び前記出力回転部の回転中心から偏心した曲率中心を有する円に沿って形成され、前記転動体係合溝が、前記回転中心上に曲率中心を有するピッチ円に対して交互に交差する波状曲線に沿って形成され、
前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの何れかが前記入力回転部に設けられ、前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの他の何れかが前記出力回転部に設けられた動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1部材を前記入力回転部に設け、前記一対の第3部材を前記出力回転部に設け、前記一対の第2部材を固定部材とした請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記一対の第3部材を一体に回転可能とした請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ローラの外周面と、前記第1部材の第1ポケット、前記一対の第3部材の第2ポケット、及び前記一対の第2部材の転動体係合溝の3要素のうちの少なくとも1要素との接触部に摩擦低減部材を設けた請求項1~3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力回転部に入力された回転を、同軸に配された出力回転部に所定の変速比で伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、
図9に示すように、ボール係合溝111が形成された入力板110及びボール係合溝121が形成された出力板120を軸方向に対向させて配置し、両ボール係合溝111,121に係合させたボール130を介して、入力板110から出力板120に回転トルクを伝達する減速装置が示されている。
【0003】
具体的に、この減速装置は、共通の回転中心X周りに回転自在に設けられた入力板110及び出力板120と、これらの間に介在した複数のボール130と、ハウジング160に固定された保持器140とを備える。入力板110に設けられた第1のボール係合溝111は円形に形成され、出力板120に設けられた第2のボール係合溝121は波形に形成される(
図10参照)。入力板110は、入力軸170の外周に偏心カム180を介して取り付けられ、これにより、円形の第1のボール係合溝111の曲率中心O1は、回転中心Xから偏心量aだけ偏心している。入力軸170が回転すると、入力板110が回転中心X周りに振れ回り半径aで公転し、これに伴って第1のボール係合溝111に係合したボール130が、保持器140に設けられたポケット141内で半径方向に往復動する。このボール130と波形の第2のボール係合溝121との接触力の回転方向の分力により、出力板120が回転する。
【0004】
例えば、入力軸170の回転に伴って、入力板110の中心線O1が
図10に示す位置から矢印方向に公転すると、回転中心Xよりも上方に位置するボール130(A)が波形の第2のボール係合溝121の外径側部分に押しつけられ、回転中心Xよりも下方に位置するボール130(B)が波形の第2のボール係合溝121の内径側部分に押しつけられる。このときのボール130から第2のボール係合溝121に付与される接触力の回転方向の分力F(矢印参照)により、出力板120が回転する。このように、上記の減速装置では、複数のボール130のうち、回転中心Xよりも上側のボール130(A)のみでなく、回転中心Xよりも下側のボール130(B)もトルク伝達に寄与するため、負荷容量の増大や振動軽減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の減速装置では、
図11に示すように、ボール130と各ボール係合溝111,121とがアキシャル方向に対して傾斜した角度で接触するため、入力板110及び出力板120がボール130から受ける接触力F3’,F4’(ボール130に加わる接触力F3,F4の反力)は、ラジアル方向成分F3a’,F4a’及びアキシャル方向成分F3b’,F4b’を有する。このため、入力板110を支持する軸受151,152及び出力板120を支持する軸受153,154には、ラジアル・アキシャル両方向の荷重を受けられるものを使用する必要がある。このような軸受としては、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受が一般的であるが、これらの軸受は、ラジアル方向の許容不可と比べてアキシャル方向の許容不可が小さいため、ラジアル・アキシャル両方向の荷重に耐え得るものを選定しようとすると、軸受サイズが大きくなり、結果として減速装置全体のサイズが大きくなってしまう。
【0007】
以上の事情から、本発明は、転動体を介して軸方向に回転トルクを伝達する動力伝達装置において、装置全体の小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、入力回転部に入力された回転を、同軸に配された出力回転部に所定の変速比で伝達する動力伝達装置であって、複数のローラと、前記複数のローラが挿通された複数の第1ポケットを有する第1部材と、前記第1部材の軸方向両側に設けられ、それぞれ前記複数のローラが係合する転動体係合溝を有する一対の第2部材と、前記第1部材と前記一対の第2部材との軸方向間にそれぞれ設けられ、前記複数のローラが挿通された複数の第2ポケットを有する一対の第3部材とを備え、前記複数の第1ポケットが、前記入力回転部及び前記出力回転部の回転中心から偏心した曲率中心を有する円に沿って形成され、前記転動体係合溝が、前記回転中心上に曲率中心を有するピッチ円に対して交互に交差する波状曲線に沿って形成され、前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの何れかが前記入力回転部に設けられ、前記第1部材、前記一対の第2部材、及び前記一対の第3部材のうちの他の何れかが前記出力回転部に設けられた動力伝達装置を提供する。
【0009】
このように、本発明では、トルクを伝達する転動体として、ボールではなく、筒状の外周面を有するローラ(例えば、円筒ころ)を使用した。この場合、ローラと各部材との間には、アキシャル方向の荷重はほとんど生じないため、ローラから接触力を受ける入力部材及び出力部材を支持する軸受は、ラジアル荷重のみを支持するもので足りる。このように、軸受に加わる荷重がラジアル方向に限定されることで、耐久力を維持しつつ軸受を小型化できると共に、軸受内部におけるトルク損失を低減することができる。
【0010】
しかし、上記のようにトルクを伝達する転動体としてローラを用いる場合、ローラの外周面の軸方向複数箇所に各部材が接触して異なる方向の接触力が加わるため、ローラにモーメントが加わり、ローラが倒れる(中心線が軸方向に対して傾斜する)恐れがある。そこで、本発明では、第1部材を中心として、その軸方向両側に一対の第3部材及び一対の第2部材を軸方向で対称に配置し、各ローラを、第1部材の第1ポケット及び一対の第3部材の第2ポケットに挿通すると共に、各ローラの軸方向両端を一対の第2部材の転動体係合溝に係合させた。これにより、第1ポケット、第2ポケット、及び転動体係合溝からローラに付与される接触力が軸方向対称となるため、ローラに加わるモーメントが相殺され、ローラの倒れを回避してトルクをスムーズに伝達することができる。
【0011】
上記の動力伝達装置は、例えば、第1部材を入力回転部に設け、一対の第3部材を出力回転部に設け、一対の第2部材を固定部材とすることができる。このように、第2部材を固定部材とすることで、ローラと第2の転動体係合溝との間に発生する接触力を固定部材で支持することができるため、この接触力を支持するための大型の軸受が不要となる。また、第3部材を出力回転部に設けることで、ローラと出力回転部の第2ポケットとの間に周方向(回転方向)の接触力のみが生じるため、第3部材を支持する軸受に加わる負荷が軽減されて、軸受サイズを縮小することができると共に、軸受内部におけるトルク損失を低減することができる。
【0012】
この場合、出力回転部に設けられた一対の第3部材を一体に回転可能とすれば、入力回転部に設けられた第1部材からローラを介して軸方向両側に分かれて伝達された動力を、再び合成して出力することができる。また、一対の第3部材を一体化することで、各第3部材に設けられた第2ポケットの相対位置(位相)が固定されるため、これらの第2ポケットにローラを挿通することでローラの倒れを確実に防止できる。
【0013】
上記の動力伝達装置では、ローラの外周面と、第1部材の第1ポケット、一対の第3部材の第2ポケット、及び一対の第2部材の転動体係合溝の3要素のうちの少なくとも1要素との接触部に摩擦低減部材(例えば、ニードル軸受又は滑り軸受)を設けることが好ましい。このように、ローラと各要素とを摩擦低減部材を介して接触させることで、これらを直接接触させる場合と比べて、接触部の摩擦損失が大幅に低減されるため、トルクの伝達効率がさらに高められる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、軸方向に回転トルクを伝達する転動体としてローラを用いることで、入力回転部及び出力回転部を支持する軸受を小型化して装置全体を小型化すると共に、軸受内部におけるトルク損失を低減してトルク伝達効率を高めることができる。また、第1部材の軸方向両側に一対の第2部材及び一対の第3部材を軸方向対称に配置することで、ローラの倒れを防止し、トルクを効率的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る減速装置の断面図である。
【
図6】入力部材、出力部材、固定部材、及びローラを模式的に示す分解斜視図である。
【
図10】
図9の減速装置の出力板及びボールの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る動力伝達装置としての減速装置1は、
図1に示すように、入力回転部2と、出力回転部3と、転動体としてのローラ4と、固定部材5と、これらを収容するハウジング6とを主に備える。図示例では、ハウジング6が、入力側(
図1では左側)に設けられた第1ハウジング部材6aと、出力側(
図1では右側)に設けられた第2ハウジング部材6bとで構成される。両ハウジング部材6a,6bは、ボルト23等の適宜の手段により固定される。入力回転部2と出力回転部3とは同軸に配置され、共通の回転中心Xを有する。固定部材5は、ハウジング6に固定されている。
【0018】
入力回転部2は、入力軸7、偏心カム部8、転がり軸受9および入力部材10を有する。入力軸7は、ハウジング6に対して回転中心X周りに回転自在とされる。本実施形態では、入力軸7が、出力回転部3の内周面との間に装着された複数の転がり軸受11によって、ハウジング6に対して回転自在に支持されている。図示例では、偏心カム部8の軸方向両側に、軸受11がそれぞれ2個ずつ設けられる。入力軸7の外周面と第1ハウジング部材6aの内周面との間には、ハウジング6内に充填されたグリース又は油の漏れだしを防止するためのシール部材21が設けられる。偏心カム部8は入力軸7の外周に設けられ、図示例では入力軸7と一体に設けられている。偏心カム部8の円筒形外周面8aの中心線O1は、回転中心Xに対して偏心量aだけ半径方向に偏心している。入力部材10は略円盤状を成し、入力部材10の中心線は、偏心カム部8の円筒形外周面8aの中心線O1と一致している。偏心カム部8の円筒形外周面8aと入力部材10の内周面との間には、転がり軸受9が装着される。これにより、入力部材10が偏心カム部8に対して相対回転自在とされる。
【0019】
固定部材5は、入力部材10の軸方向両側に設けられる。固定部材5は環状を成し、図示例では両固定部材5が同一材料で同一形状に形成される。各固定部材5は、適宜の手段によりハウジング6に固定される。図示例では、固定部材5のハウジング6に対する周方向移動を規制する規制部材24が設けられる。規制部材24は、各ハウジング部材6a,6bの内周面及び各固定部材5の外周面に設けられたキー溝に装着され、これらと周方向で係合することで、固定部材5のハウジング6に対する周方向移動を規制している。
【0020】
入力部材10と各固定部材5とは、所定の間隔で軸方向に並べて配置される。入力部材10には、入力部材10を軸方向に貫通する複数の第1ポケット13が形成される。各固定部材5の軸方向内側(入力部材10と対向する側)の面には、転動体係合溝16が形成される。すなわち、本実施形態では、第1ポケット13を有する第1部材が入力部材10として入力回転部2に設けられ、転動体係合溝16を有する一対の第2部材が固定部材5とされる。
【0021】
この減速装置1では、トルクを伝達する転動体として、筒状の外周面を有するローラ4が使用される。図示例では、ローラ4として、円筒状の外周面を有する円筒ころが使用される。ローラ4は、入力部材10の第1ポケット13に挿通され、軸方向両端が固定部材5の転動体係合溝16に係合する。ローラ4は、自身の中心線周りに自転しながら転動体係合溝16内を転走する。
【0022】
図2に示すように、入力部材10に設けられた複数の第1ポケット13は、周方向等間隔に配置される。複数の第1ポケット13の軌道中心線L1は、中心線O1を中心とした半径rの円に沿って形成される。第1ポケット13の軌道中心線L1の曲率中心は、偏心カム部8の円筒形外周面8aおよび入力部材10の中心線O1と一致する。すなわち、軌道中心線L1の曲率中心(すなわち中心線O1)は、入力回転部2の回転中心Xに対して偏心量aだけ偏心している。各第1ポケット13の半径方向幅は、ローラ4の外径と略同等(僅かに大きい寸法)とされ、各第1ポケット13の周方向長さは、ローラ4の外径よりも大きくなっている。これにより、各ローラ4が、第1ポケット13内で、周方向(軌道中心線L1に沿う方向)に移動可能な状態で所定の半径方向位置に保持される。図示例では、入力部材10に形成される第1ポケット13が、ローラ4と同じ数だけ設けられている。ただし、第1ポケット13の数はこれに限らず、例えば、ローラ4よりも少ない数とし、1個の第1ポケット13に複数のローラ4を挿通してもよい。尚、第1ポケット13の軌道中心線L1とは、第1ポケット13内でローラ4を移動させたときのローラ4の中心線の軌跡を意味する。
【0023】
図3に示すように、固定部材5に形成された転動体係合溝16の軌道中心線L2は、回転中心X上に曲率中心を有する基準ピッチ円Cに対して一定のピッチで交互に交差する波状曲線で形成される。すなわち、転動体係合溝16は、回転中心Xとの距離Rが基準ピッチ円半径PCRに対して増減変動する波状曲線に沿って形成される。本実施形態では、軌道中心線L2を構成する波状曲線に、回転中心Xとの距離Rが基準ピッチ円半径PCRより大きい山部が10個、回転中心Xとの距離Rが基準ピッチ円半径PCRより小さい谷部が10個設けられる。各固定部材5に形成される転動体係合溝16は、同じ形状を有し、山部及び谷部の位相が一致するように配される。尚、転動体係合溝16の軌道中心線とは、転動体係合溝16に沿ってローラ4を移動させたときのローラ4の中心線の軌跡を意味する。
【0024】
転動体係合溝16は、ローラ4が嵌合する断面形状を有し、図示例では断面矩形を成している(
図1参照)。転動体係合溝16の溝幅は、ローラ4の外径と略同じ(僅かに大径)とされる。転動体係合溝16の底面とローラ4の端面との間には、軸方向隙間が形成される。ローラ4の軸方向端面が何れかの転動体係合溝16の底面に当接することで、ローラ4のそれ以上の軸方向移動が規制される。
【0025】
図1に示すように、出力回転部3は、入力部材10の軸方向一方側(図中左側)に設けられた第1出力部材31と、入力部材10の軸方向他方側(図中右側)に設けられた第2出力部材32と、第1出力部材31と第2出力部材32とを連結する連結部材33とを有する。第1出力部材31は、円筒状の軸部31aと、軸部31aから外径側に延びる円盤部31bとを有する。第2出力部材32は、出力軸として機能する軸部32aと、軸部32aから外径側に延びる円盤部32bとを有する。第2出力部材32の軸部32aは、円筒部32a1と、円筒部32a1の開口部を閉塞する蓋部32a2とを有する。蓋部32a2には、減速された回転を伝達すべき他の部材を連結するための連結部が設けられる。図示例では、第1出力部材31の軸部31a及び円盤部31bが一体成形され、第2出力部材32の軸部32a及び円盤部32bが一体成形される。
【0026】
出力回転部3は、ハウジング6に対して回転中心X周りに回転自在とされる。本実施形態では、第1出力部材31の円盤部31bの外径端と第2出力部材32の円盤部32bの外径端とが連結部材33で連結され、これにより両出力部材31,32が一体に回転可能とされる。出力回転部3は、第1出力部材31の軸部31aの外周面と軸方向一方側の固定部材5の内周面との間に装着された転がり軸受14と、第2出力部材32の軸部32aの外周面と軸方向他方側の固定部材5の内周面との間に装着された転がり軸受15とで、ハウジング6に対して一体に回転自在に支持されている。第2出力部材32の軸部32aの外周面と第2ハウジング部材6bの内周面との間には、ハウジング6内に充填されたグリース又は油の漏れだしを防止するためのシール部材22が設けられる。
【0027】
第1出力部材31の円盤部31b及び第2出力部材32の円盤部32bは、それぞれ入力部材10と固定部材5との軸方向間に設けられる。両出力部材31,32の円盤部31b,32bには、これらを軸方向に貫通する複数の第2ポケット17が形成される。すなわち、本実施形態では、第2ポケット17を有する一対の第3部材が出力部材31,32として出力回転部3に設けられる。第2ポケット17は、
図4に示すように、回転中心Xを中心に径方向に放射状に延びる長穴である。第2ポケット17は、同一円周上に周方向等間隔に形成される。両出力部材31,32に設けられた第2ポケット17は、軸方向と直交する面内で同じ位置(すなわち、同じ半径方向位置及び位相)に設けられる。各出力部材31,32に形成される第2ポケット17の個数(すなわち、ローラ4の個数)は、軌道中心線L2の波状曲線の山部又は谷部の個数(10個)より1個多い11個である。
【0028】
図5に示すように、ローラ4は、各第2ポケット17内で、基準ピッチ円Cに対して半径方向に所定量mの範囲で移動することができる。本実施形態では、各第2ポケット17の周壁に、周方向に対向する一対の平行な平坦面17aが設けられ、この平坦面17aの周方向間隔が、ローラ4の外径と略同等(僅かに大径)とされる。これにより、各ローラ4が、第2ポケット17内で、半径方向移動可能な状態で所定の周方向位置に保持される。
【0029】
図6に示すように、入力回転部2の入力部材10と出力回転部3の両出力部材31,32とは共通の回転中心Xを有し、この回転中心X上に両固定部材5の軸心が配置されている。入力部材10の中心軸O1(すなわち、第1ポケット13の軌道中心線L1の曲率中心)は、回転中心Xに対して偏心量aだけ偏心している。ローラ4は、入力部材10の第1ポケット13、及び、各出力部材31,32の各第2ポケット17に挿通されて軸方向両側に突出した状態となり、この突出部分(軸方向両端)が各固定部材5の転動体係合溝16に係合する(
図1参照)。尚、
図6では、各部材を模式的に示している。
【0030】
本実施形態の減速装置1では、転動体係合溝16の軌道中心線L2の山部の個数が10個(谷部の個数も同様に10個)で、ローラ4の個数が11個であるので、次式により求められる減速比iは1/11となる。
減速比i=(ローラ個数-山部の個数)/ローラの個数
なお、山部の個数はローラの個数±1とされ、減速比iがマイナスの値となる場合は、入力回転部2の回転方向に対して出力回転部3の回転方向が逆であることを意味する。
【0031】
転動体係合溝16の軌道中心線L2の形状は、入力回転部2から出力回転部3に減速された回転運動が同期回転で伝達されるように設定される。具体的に、減速装置1の減速比をiとしたとき、入力軸7の回転角θにおいて、出力回転部3が回転角iθの状態で、第1ポケット13に係合したローラ4が転動体係合溝16に係合してトルクを伝達するように、転動体係合溝16の形状が設定される。詳しくは、入力回転部2及び出力回転部3の回転中心Xと転動体係合溝16の軌道中心線L2との距離Rが下記の式(1)を満たすように、転動体係合溝16の形状が設定される。
R=a・cos(ψ/i)+√{r2-(a・sin(ψ/i))2}・・・(1)
但し、
R:回転中心Xと転動体係合溝16の軌道中心線L2との距離
a:回転中心Xに対する第1ポケット13の軌道中心線L1の中心O1の偏心量
i:減速比
ψ:出力回転部3の回転角
r:第1ポケット13の軌道中心線L1の半径
【0032】
入力部材10、両出力部材31,32、及び両固定部材5のうち、少なくともローラ4と接触する第1ポケット13の周壁、第2ポケット17の周壁、及び転動体係合溝16の側壁は、ローラ4との表面硬度差による摩耗を低減するために、ローラ4の表面と同程度の表面硬度を付与することが好ましい。例えば、第1ポケット13の側壁、第2ポケット17の周壁、及び転動体係合溝16の側壁の表面硬度を、HRC50~60の範囲内とすることが好ましい。具体的には、入力部材10、出力部材31,32、及び固定部材5を、S45CやS50Cなどの機械構造用炭素鋼や、SCM415やSCM420などの機械構造用合金鋼を用いて形成し、これに全体熱処理又は浸炭熱処理を行うことで、上記の表面硬度を得ることができる。あるいは、上記の各部材を、SUJ2などの軸受鋼を用いて形成し、これに全体熱処理又は高周波熱処理を行うことでも、上記の表面硬度を得ることができる。
【0033】
次に、本実施形態の減速装置1の動作を要約して説明する。
図1に示す入力回転部2の入力軸7を回転させると、入力部材10が、回転中心Xを中心に振れ回り半径aで公転運動を行う。その際、入力部材10は、入力軸7に設けられた偏心カム部8に対して回転自在であるので、自転運動をほとんど行わない。これにより、第1ポケット13とローラ4との間の相対的な摩擦量が低減され、回転トルクの伝達効率が高められる。
【0034】
入力部材10が公転運動を行うと、円形の第1ポケット13に係合する各ローラ4が、固定部材5に形成された転動体係合溝16に沿って移動する。詳しくは、入力部材10の中心線O1が
図4に示す位置から矢印方向に公転すると、
図7に示すように、入力部材10に形成された第1ポケット13と係合して、各ローラ4に略上向きの接触力F1が作用する。このローラ4の軸方向両端が、転動体係合溝16と係合することで、転動体係合溝16にローラ4との接触力F2’が作用すると同時に、ローラ4に、転動体係合溝16との接触による接触力F2が作用する。この接触力F2の周方向成分F2aにより、ローラ4が転動体係合溝16に沿って周方向に移動する。このローラ4が、出力回転部3の第2ポケット17と周方向に係合し、これにより生じる接触力F3’が、出力回転部3を入力軸7と同方向に回転させる力として作用する(
図4参照)。
【0035】
出力回転部3を回転させる力(すなわち、ローラ4から各出力部材31,32の第2ポケット17に作用する接触力F3’≒ローラ4が転動体係合溝16から受ける接触力F2の周方向成分F2a)は、ローラ4と波形の転動体係合溝16との接触状態によって変化するため、各々のローラ4の位置によって大きさが異なる(
図4参照)。ローラ4は、入力回転部2及び出力回転部3の回転中心Xを中心として配置されているため、出力回転部3を回転させる力は、回転中心Xを中心に分布される。具体的に、波形の転動体係合溝16のうち、山部の頂部と谷部の頂部との中央付近(回転中心Xを中心としたピッチ円に対する傾斜角度が大きい部位)に接触する図中上下両端のローラ4は、出力回転部3を回転させる力が大きく、波形の転動体係合溝16の山部の頂部又は谷部の頂部付近(回転中心Xを中心としたピッチ円に対する傾斜角度が小さい部位)に接触する図中左右両端のローラ4は、出力回転部3を回転させる力が小さい。
【0036】
上記のように、トルクを伝達する転動体としてローラ4を使用することで、
図8に示すように、ローラ4と各部材(入力部材10、出力部材31,32、及び固定部材5)との間にアキシャル方向の荷重がほとんど発生しない。特に、本実施形態のように転動体として円筒ころを使用すれば、ローラ4と各部材間のアキシャル方向の荷重が0になる。これにより、入力部材10を支持する軸受9,11や、出力部材31,32を支持する軸受14,15に加わる荷重がラジアル方向のみとなるため、ラジアル・アキシャル両方向の荷重が加わる場合と比べて、軸受を小型化することができ、ひいては減速装置1全体を小型化することができる。また、上記の軸受に加わる荷重がラジアル方向に限定されることで、これらの軸受の内部におけるトルク損失が小さくなるため、回転トルクの伝達効率が高められる。
【0037】
また、上記の減速装置1では、入力部材10を中心として、一対の固定部材5及び一対の出力部材31、32を軸方向対称に配置し、各ローラ4を、入力部材10の第1ポケット13及び出力部材31,32の第2ポケット17に挿通すると共に、各ローラ4の軸方向両端を両固定部材5の転動体係合溝16に係合させている。トルク伝達時には、ローラ4の軸方向中央に入力部材10の第1ポケット13との接触力F1が作用し、その軸方向両側に、両出力部材31,32の第2ポケット17との接触力F3(
図7参照)、及び、両固定部材5の転動体係合溝16との接触力F2が作用する。このように、ローラ4に対して各部材との接触力F1,F2,F3が軸方向対称に作用することで、ローラ4に加わるモーメントが相殺されるため、ローラ4の倒れを防止してトルクをスムーズに伝達することができる。特に、本実施形態では、連結部材33により一体化された一対の出力部材31,32の第2ポケット17に各ローラ4を挿通することで、各ローラ4の軸方向2箇所が同じ位相に配された第2ポケット17で常に同じ周方向位置に保持されるため、ローラ4の周方向の倒れを確実に防止できる。
【0038】
上記の減速装置1において、ローラ4と、第1ポケット13、転動体係合溝16、及び第2ポケット17の3要素のうちの少なくとも1要素との接触部に、ニードル軸受や滑り軸受(例えば焼結含油軸受)などの摩擦低減部材を設ければ、これらの接触部における摩擦損失が大幅に低減され、トルクの伝達効率が向上する。特に、ローラ4と、上記の3要素のうちの2要素との接触部に摩擦低減部材を設ければ、残りの1要素との接触が転がり接触となるため、トルクの伝達効率の向上効果が高まる。本実施形態では、
図8に示すように、ローラ4の外周面のうち、第1ポケット13と接触する軸方向領域、及び、各第2ポケット17と接触する軸方向領域に、それぞれ摩擦低減部材30を設けている。尚、摩擦低減部材30を設ける箇所は上記に限定されず、ローラ4と上記3要素の全てとの接触部に摩擦低減部材30を設けてもよい。また、摩擦低減部材が特に必要なければ、ローラ4と上記3要素の全てとを直接接触させてもよい。
【0039】
上記の減速装置1では、ローラ4から転動体係合溝16に作用する接触力F2’が、ハウジング6に固定された固定部材5で支持されるため、この接触力F2’を支持する大型の軸受が不要となる。また、ローラ4が、半径方向に往復動しながら第2ポケット17と回転方向で係合することで、ローラ4から出力回転部3に回転方向の接触力F3’のみが加わる。このように、接触力F3’の方向が回転方向に限定されることで、出力回転部3を支持する軸受14,15を小型化して減速装置1の小型化が図られると共に、軸受内部におけるトルク損失が低減され、減速装置1のトルク伝達効率が高められる。
【0040】
上記のように、トルク伝達時には、各出力部材31,32の円盤部31b,32bのうち、第2ポケット17間に設けられた柱部に、ローラ4との接触による周方向の接触力F3’が加わる(
図7参照)。従って、円盤部31b,32bの第2ポケット17間に設けられた柱部が、ローラ4から受ける接触力F3’により損傷することが懸念される。特に、減速比を大きくするために第2ポケット17の数(すなわちローラ4の数)を多くすると、第2ポケット17間の柱部の周方向幅が細くなるため、ローラ4との接触力F3’により柱部が損傷する懸念が高まる。
【0041】
この点に関し、本実施形態では、
図4に示すように、回転中心Xよりも上側のローラ4だけでなく、回転中心Xよりも下側のローラ4にも第2ポケット17との接触力F3’が作用し、トルク伝達に寄与する。このため、例えば回転中心Xよりも上側のローラ4だけでトルク伝達を行う場合と比べて、各ローラ4から円盤部31b,32bに加わる接触力F3’が分散されるため、円盤部31b,32bの各柱部に加わる荷重が軽減される。特に、本実施形態では、入力部材10の両側に一対の出力部材31,32を設けることで、ローラ4と出力部材31,32との接触点が増えるため、各接触点における荷重をさらに軽減できる。さらに、本実施形態では、上述のように、円盤部31b,32bの材料選択や熱処理により、第2ポケット17の周壁の表面硬度をHRC50以上まで高めている。以上により、各出力部材31,32の第2ポケット17間の柱部の耐久性が高められ、あるいは、柱部の耐久性を維持しながら負荷容量を高めることができる。
【0042】
こうして、入力回転部2の入力軸7に入力された回転が、ローラ4を介して出力回転部3に伝達される。その際、入力回転部2及び出力回転部3の回転中心Xと転動体係合溝16の軌道中心線L2との距離Rが上記の式(1)を満たすように、転動体係合溝16の軌道中心線L2が設計されていることで、出力回転部3は入力軸7に対して減速された回転数で常に同期して回転する。
【0043】
本発明の実施形態は上記に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については説明を省略する。
【0044】
上記の実施形態では、入力部材10を入力軸7に対して回転自在としたが、入力部材10と入力軸7とを一体に回転する構成としてもよい。また、上記の実施形態では、入力軸7と偏心カム部8とを一体形成した構成を例示したが、これに限らず、入力軸7と偏心カム部8とを別体に形成し、入力軸7の外周面に偏心カム部8を固定してもよい。
【0045】
また、上記の実施形態では、第1出力部材31の軸部31a及び円盤部31bや、第2出力部材32の軸部32a及び円盤部32bをそれぞれ一体形成しているが、これらの部材を別体に形成してもよい。また、第1出力部材31と第2出力部材32とを同一材料で同一形状に形成すれば、これらの製作コストを低減できる。
【0046】
また、上記の実施形態では、第1出力部材31と第2出力部材32とを連結部材33により連結した場合を示したが、これに限らず、例えば、両出力部材31,32を一体形成したり、これらを溶接により一体化したりしてもよい。また、両出力部材31,32は、必ずしも連結する必要はなく、これらをそれぞれ独立して回転可能としてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、減速比iの大きさが1/11の減速装置1に本発明を適用した場合を例示したが、これに限らず、本発明は、例えば1/5~1/50の範囲内の任意の大きさの減速比を有する減速装置に好適に適用することができる。この場合は、減速比iに応じて、転動体係合溝の軌道中心線の波状曲線の山部/谷部の数や、固定部材のポケットおよびローラの数を適宜設定すればよい。
【0048】
また、上記の実施形態では、第1ポケット13を有する第1部材を入力部材10、波形の転動体係合溝16を有する第2部材を固定部材5、第2ポケット17を有する第3部材を出力部材31,32とした場合を示したが、これに限らず、使用者の要求仕様や使用環境等によって、第1部材、第2部材、及び第3部材を、入力回転部、固定部材、及び出力回転部のそれぞれに適宜割り当てることで、動力伝達形態を任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 減速装置(動力伝達装置)
2 入力回転部
3 出力回転部
4 ローラ
5 固定部材(第2部材)
6 ハウジング
7 入力軸
8 偏心カム部
10 入力部材(第1部材)
13 第1ポケット
16 転動体係合溝
17 第2ポケット
30 摩擦低減部材
31,32 出力部材(第3部材)
33 連結部材
F1,F1’ ローラと第1の転動体係合溝との接触力
F2,F2’ ローラと第2の転動体係合溝との接触力
F3,F3’ ローラとポケットとの接触力
L1 第1の転動体係合溝の軌道中心線
L2 第2の転動体係合溝の軌道中心線
O1 第1の転動体係合溝の軌道中心線の曲率中心(入力部材の中心線)
X 入力回転部及び出力回転部の回転中心