(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20220311BHJP
C01B 32/19 20170101ALI20220311BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20220311BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20220311BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220311BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220311BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20220311BHJP
C02F 1/40 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/19
C01B32/194
B01J20/20 D
B01J20/28 Z
C02F1/28 N
B01D15/00 K
B01D15/00 M
C02F1/40 E
(21)【出願番号】P 2018533602
(86)(22)【出願日】2016-12-09
(86)【国際出願番号】 US2016065929
(87)【国際公開番号】W WO2017116657
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-11-13
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507365(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145155(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0101668(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0031485(KR,A)
【文献】特表2015-529620(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108371(WO,A1)
【文献】Journal of Applied Physics,2014年,Vol. 115, Article number: 233701,pp. 1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B01J 20/00 - 20/34
B01D 15/00 - 15/42
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔および細孔壁から構成される一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体であって、前記細孔壁が、1:200~1:2の炭素材料対グラフェン重量比を有する炭素材料によって化学結合した単層または数層グラフェンシートを含み、前記炭素材料が、グラフェンシート間の間隙を埋めて、相互接続された電子伝導経路を形成する役割を果たし、前記数層グラフェンシートが、X線回折によって測定して0.3354nm~0.40nmの面間隔d
002を有する2~10層の積層グラフェン面を有し、前記単層または数層グラフェンシートが、実質的に0%の非炭素元素を有する純粋なグラフェン材料、または0.001重量%~25重量%の非炭素元素を有する不純グラフェン材料を含み、前記不純グラフェンが、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープされたグラフェン、化学官能化グラフェン、またはそれらの組合せから選択され
、前記3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体が、0.005~1.7g/cm
3
の密度、50~3,200m
2
/gの比表面積、単位比重当たり少なくとも200W/(m・K)の熱伝導率、および/または単位比重当たり2,000S/cm以上の導電率を有する、一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項2】
前記細孔壁が純粋なグラフェンを含み、前記3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体が0.01~1.7g/cm
3の密度または2nm~50nmの平均孔径を有する、請求項1に記載の一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項3】
前記細孔壁が不純グラフェン材料を含み、前記発泡体が0.01重量%~20重量%の範囲内の非炭素元素含有量を含み、前記非炭素元素が、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、またはホウ素から選択される元素を含む、請求項1に記載の一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項4】
前記細孔壁がフッ化グラフェンを含み、前記3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体が0.01重量%~15重量%のフッ素含有量を含む、請求項1に記載の一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項5】
前記細孔壁が酸化グラフェンを含み、前記3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体が0.01重量%~20重量%の酸素含有量を含む、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項6】
前記発泡体が200~3,000m
2/gの比表面積または0.1~1.2g/cm
3の密度を有する、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項7】
100nm~10cmの厚さ、および少なくとも2メートルの長さを有する連続長ロールシートの形態で
ある、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項8】
前記発泡体が1重量%未満の酸素含有量または非炭素
元素含有量を有し、前記細孔壁が、0.35nm未満のグラフェン間隔、単位比重当たり少なくとも250W/(m・K)の熱伝導率、および/または単位比重当たり2,500S/cm以上の導電率を有する、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項9】
前記発泡体が0.01重量%未満の酸素含有量または非炭素
元素含有量を有し、前記細孔壁が、0.34nm未満のグラフェン間隔、単位比重当たり少なくとも300W/(m・K)の熱伝導率、および/または単位比重当たり3,000S/cm以上の導電率を有する積層グラフェン面を含む、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項10】
前記発泡体が0.01重量%以下の酸素含有量または非炭素
元素含有量を有し、前記細孔壁が、0.336nm未満のグラフェン間隔、単位比重当たり少なくとも350W/(m・K)の熱伝導率、および/または単位比重当たり3,500S/cm以上の導電率を有する積層グラフェン面を含む、請求項1に記載の3Dグラフェン発泡体。
【請求項11】
前記発泡体が、0.336nm未満のグラフェン間隔、単位比重当たり400W/(m・K)を超える熱伝導率、および/または単位比重当たり4,000S/cmを超える導電率を有する積層グラフェン面を含む細孔壁を有する、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項12】
前記細孔壁が、0.337nm未満のグラフェン間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を有する積層グラフェン面を含む、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項13】
前記細孔壁が、相互接続されたグラフェン面の3Dネットワークを含む、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項14】
前記発泡体が、2nm~50nmの孔径を有するメソスケールの細孔を含む、請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体。
【請求項15】
油吸収要素として請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む、油除去装置または油分離装置。
【請求項16】
溶媒吸収要素または溶媒分離要素として請求項1に記載の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む、溶媒除去装置または溶媒分離装置。
【請求項17】
水から油を分離する方法であって:
a.請求項1に記載の一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む油吸収要素を提供するステップと;
b.油-水混合物を前記要素と接触させて、前記要素に前記混合物から前記油を吸収させるステップと;
c.前記要素を前記混合物から取り出し、前記要素から前記油を抽出するステップと;
d.前記要素を再利用するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
溶媒-水混合物から、または複数の溶媒の混合物から有機溶媒を分離する方法であって:
a.請求項1に記載の一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む有機溶媒吸収要素または溶媒分離要素を提供するステップと、;
b.前記要素を、有機溶媒-水混合物、または第1の溶媒および少なくとも第2の溶媒を含む複数の溶媒の混合物と接触させるステップと;
c.前記要素に、前記混合物から前記有機溶媒を吸収させる、または前記要素によって、前記少なくとも第2の溶媒から前記第1の溶媒を分離するステップと;
d.前記要素を前記混合物から取り出し、前記要素から有機溶媒または第1の溶媒を抽出するステップと;
e.前記要素を再利用するステップと、
を含む方法。
【請求項19】
熱拡散要素または放熱要素として請求項1に記載の3D一体型グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む、温度管理装置。
【請求項20】
熱交換器、ヒートシンク、ヒートパイプ、高伝導性インサート、ヒートシンクと熱源との間の伝導板、熱拡散部品、放熱部品、熱界面媒体、または熱電気冷却装置もしくはペルチェ冷却装置から選択される装置を含む、請求項
19に記載の温度管理装置。
【請求項21】
黒鉛材料から一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を直接製造する方法であって:
(a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバ中で黒鉛材料の複数の粒子と固体ポリマー担体材料の複数の粒子とを混合して混合物を形成するステップと;
(b)前記黒鉛材料からグラフェンシートを剥離し、前記グラフェンシートを前記固体ポリマー担体材料粒子の表面に移動させて、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を前記衝突チャンバの内部で形成するのに十分な時間の間、ある頻度およびある強度で前記エネルギー衝突装置を運転するステップと;
(c)前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を前記衝突チャンバから回収して、前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を、グラフェン-ポリマー複合構造
として固化させるステップと;
(d)
前記グラフェン-ポリマー複合構
造を熱分解させ、前記ポリマーを細孔と前記グラフェンシートを結合させる炭
素とに熱的に変換させて、一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項22】
前記エネルギー衝突装置の前記衝突チャンバに複数の衝突ボールまたは媒体が加えられる、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(c)が、前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子から前記衝突ボールまたは媒体を分離するために磁石を操作するステップと含む、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
前記固体ポリマー材料粒子が、10nm~10mmの直径または厚さを有するプラスチックまたはゴムのビーズ、ペレット、球、ワイヤ、繊維、フィラメント、ディスク、リボン、またはロッドを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項25】
前記直径または厚さが100nm~1mmである、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記固体ポリマーが、熱可塑性プラスチック、熱硬化性樹脂、ゴム、半貫通ネットワークポリマー、貫通ネットワークポリマー、天然ポリマー、またはそれらの組合せの固体粒子から選択される、請求項
21に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(d)の前に、前記固体ポリマーが溶融、エッチング、または溶媒中への溶解によって部分的に除去される、請求項
21に記載の方法。
【請求項28】
前記黒鉛材料が、天然黒鉛、剛性黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバ、フッ化黒鉛、酸化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、剥離し再圧縮した黒鉛、膨張黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、またはそれらの組合せから選択される、請求項
21に記載の方法。
【請求項29】
前記エネルギー衝突装置が、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、クライオボールミル、マイクロボールミル、タンブラーボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、フリーザーミル、振動ふるい、ビーズミル、ナノビーズミル、超音波ホモジナイザーミル、遠心分離遊星ミキサー、真空ボールミル、または共鳴音響ミキサーである、請求項
21に記載の方法。
【請求項30】
前記黒鉛材料が、前記混合ステップの前に化学処理および酸化処理があらかじめ行われていないインターカレートされず酸化されていない黒鉛材料を含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項31】
前記固体ポリマーが、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択される、高炭素収率ポリマーを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項32】
前記固体ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン(ABS)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリジエン(poly vinylidiene fluoride)(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択される低炭素収率ポリマーを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項33】
熱分解の前記ステップが、前記ポリマーを200℃~2,500℃の温度で炭化させてグラフェン-炭素発泡体を得るステップ、または前記ポリマーを200℃~2,500℃の温度の温度で炭化させてグラフェン-炭素発泡体を得て、次いで前記グラフェン-炭素発泡体を2,500℃~3,200℃で黒鉛化させて黒鉛化グラフェン-炭素発泡体を得るステップを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項34】
前記固化ステップが、前記ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶融混合物を形成するステップと、前記ポリマー溶融混合物から所望の形状を形成するステップと、前記形状をグラフェン-ポリマー複合構造に固化させるステップとを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項35】
前記固化ステップが、前記ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、前記ポリマー溶液混合物から所望の形状を形成するステップと、前記溶媒を除去して、前記形状を前記グラフェン-ポリマー複合構造に固化させるステップとを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項36】
前記固化ステップが、前記グラフェン被覆ポリマー粒子から、ロッド、シート、フィルム、繊維、粉末、インゴット、またはブロックの形態から選択される複合形状を形成するステップを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項37】
前記固化ステップが、前記グラフェン被覆ポリマー粒子を圧密して、マクロ細孔を有する多孔質のグリーンコンパクトにするステップと、次いで、石油ピッチ、コールタールピッチ、芳香族有機材料、モノマー、有機ポリマー、またはそれらの組合せから選択される追加の炭素源材料を前記細孔中に浸透または含浸させるステップとを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項38】
前記有機ポリマーが、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択される高炭素収率ポリマーを含む、請求項
37に記載の方法。
【請求項39】
前記固化ステップが、前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子の材料から圧密体を形成するステップを含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項40】
前記圧密体が、ロッド、シート、フィルム、繊維、粉末、インゴット、またはブロックから選択される形態である、請求項
39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される、それぞれ2015年12月28日に出願された米国特許出願第14/998,356号明細書および米国特許出願第14/998,357号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、炭素/黒鉛発泡体の分野に関し、特に、本明細書において一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体と呼ばれる新しい形態の多孔質黒鉛材料、その製造方法、それを含む製品、およびその製品の操作方法に関する。
【背景技術】
【0003】
炭素は、ダイヤモンド、フラーレン(0Dナノ黒鉛材料)、カーボンナノチューブもしくはカーボンナノファイバ(1Dナノ黒鉛材料)、グラフェン(2Dナノ黒鉛材料)、および黒鉛(3D黒鉛材料)を含む5つの特有の結晶構造を有することが知られている。カーボンナノチューブ(CNT)は、単層または多層で成長した管状構造を意味する。カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバ(CNF)は、数ナノメートルから数百ナノメートル程度の直径を有する。これらの長手方向の中空構造によって、特有の機械的性質、電気的性質、および化学的性質が材料に付与される。CNTまたはCNFは、1次元ナノ炭素または1Dナノ黒鉛材料である。
【0004】
本発明者らの研究グループは、2002年にはグラフェン材料および関連する製造方法の開発の先駆者であった:(1)B.Z.JangおよびW.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)、2002年10月21日に出願;(2)B.Z.Jangら、“Process for Producing Nano-scaled Graphene Plates”、米国特許出願第10/858,814号明細書(06/03/2004);および(3)B.Z.Jang、A.Zhamu、およびJ.Guo、“Process for Producing Nano-scaled Platelets and Nanocomposites”、米国特許出願第11/509,424号明細書(08/25/2006)。
【0005】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子から構成される。多層グラフェンは、2つ以上のグラフェン面から構成されるプレートレットである。個別の単層グラフェンシートおよび多層グラフェンプレートレットは、本明細書では一括してナノグラフェンプレートレット(NGP)またはグラフェン材料と記載される。NGPとしては、純粋なグラフェン(実質的に99%炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン((≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、および化学官能化グラフェンが挙げられる。
【0006】
NGPは、一連の独特の物理的性質、化学的性質、および機械的性質を有することが分かっている。例えば、グラフェンは、あらゆる既存の材料の中で最も高い固有強度および最も高い熱伝導率を示すことが分かった。グラフェンの実際の電子デバイス用途(例えば、トランジスタ中の主要要素としてのSiの代替)は、今後5~10年の間に実現するとは考えられていないが、複合材料中、およびエネルギー貯蔵装置の電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は目前に迫っている。加工可能グラフェンシートを大量に利用できることが、グラフェンの複合物用途、エネルギー用途、および別の用途の開発に成功するために重要である。
【0007】
本発明者らの研究グループは、グラフェンを最初に発見した[B.Z.JangおよびW.C.Huang、“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGPおよびNGPナノ複合物の製造方法は本発明者らによって最近レビューされている[Bor Z.Jang and A Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets(NGPs)and NGP Nanocomposites:A Review,”J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。NGPを製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0008】
単離されたナノグラフェンプレートまたはシート(NGP)の製造に関するレビュー
方法1:酸化グラフェン(GO)の化学的形成および還元
第1の方法(
図1)は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)、または実際には酸化黒鉛(GO)を得るために、インターカラントおよび酸化剤(例えば、それぞれ濃硫酸および硝酸)を用いた天然黒鉛粉末の処理を伴う[William S.Hummers,Jr.,et al.,Preparation of Graphitic Oxide,Journal of the American Chemical Society,1958,p.1339]。インターカレーションまたは酸化の前、黒鉛は約0.335nmのグラフェン面間隔を有する(Ld=1/2 d
002=0.335nm)。インターカレーションおよび酸化処理を行うと、グラフェン間隔は、典型的には0.6nmを超える値まで増加する。これは、この化学的経路中に黒鉛材料に生じる第1の膨張段階である。得られたGICまたはGOは、次いで、熱衝撃曝露、または溶液系の超音波支援グラフェン層剥離方法のいずれかを用いることでさらに膨張する(多くの場合で剥離と呼ばれる)。
【0009】
熱衝撃曝露方法では、典型的には依然として互いに相互接続する黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である剥離またはさらに膨張した黒鉛を形成するために、GICまたはGOを高温(典型的には800~1,050℃)に短時間(典型的には15~60秒)曝露して、GICまたはGOを剥離または膨張させる。この熱衝撃手順によって、一部分離した黒鉛フレークまたはグラフェンシートを製造することができるが、通常は、黒鉛フレークの大部分は相互接続されたままである。典型的には、次いで、剥離した黒鉛または黒鉛ワームに対して、エアミル粉砕、機械的剪断、または水中の超音波処理を用いたフレーク分離処理が行われる。したがって、方法1は、基本的に、第1の膨張(酸化またはインターカレーション)と、さらなる膨張(または「剥離」)と、分離との3つの異なる手順を伴う。
【0010】
溶液系分離方法では、膨張または剥離したGO粉末を水中または水性アルコール溶液中に分散させ、これに対して超音波処理を行う。これらの方法において、超音波処理は、黒鉛のインターカレーションおよび酸化の後(すなわち第1の膨張の後)、ならびに典型的には、得られたGICまたはGOの熱衝撃曝露の後(第2の膨張の後)に使用されることに留意することが重要である。あるいは、面間空間内に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝って、結果としてグラフェン層が分離するように、水中に分散させたGO粉末のイオン交換または長時間の精製手順が行われる。
【0011】
この従来の化学的製造方法に関連した幾つかの大きな問題が存在する:
(1)この方法は、硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムもしくは塩素酸ナトリウムなどの幾つかの望ましくない化学物質を多量に使用する必要がある。
(2)化学処理方法は、典型的には5時間から5日間の長いインターカレーションおよび酸化の時間を必要とする。
(3)強酸によって、「黒鉛中に入り込むこと」によるこの長いインターカレーションまたは酸化プロセス中に、多量の黒鉛が消費される(黒鉛が二酸化炭素に変換され、これがプロセス中に失われる)。強酸および酸化剤中に浸漬した黒鉛材料の20~50重量%が失われることは珍しくない。
(4)熱剥離は、高温(典型的には800~1,200℃)を必要とし、したがって、非常にエネルギーを消費するプロセスである。
(5)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方は、非常に時間のかかる洗浄および精製のステップを必要とする。例えば、洗浄して1グラムのGICを回収するために典型的には2.5kgの水が使用され、適切な処理が必要となる多量の廃水が生じる。
(6)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方では、得られる生成物は、酸素含有量を減少させるためのさらなる化学的還元処理を行う必要があるGOプレートレットである。典型的には、還元後でさえも、GOプレートレットの導電率は、純粋なグラフェンの導電率よりもはるかに低いままである。さらに、この還元手順は、ヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を伴うことが多い。
(7)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり20~150重量部(pph)の溶液の範囲、より典型的には約50~120pphの範囲となりうる。高温剥離中、フレークによって保持される残存インターカレート(intercalate)種は分解して硫黄化合物および窒素化合物の種々の化学種(例えば、NOxおよびSOx)を生成し、これらは望ましくない。流出液は、環境に対して悪影響が生じないようにするために、費用のかかる改善手順が必要となる。
【0012】
上記概略の制限または問題を克服するために本発明が作られた。
【0013】
方法2:純粋なナノグラフェンプレートレットの直接形成
2002年に、本発明者らの研究チームは、ポリマーまたはピッチ前駆体から得られた部分的に炭化または黒鉛化されたポリマー炭素から、単層および多層のグラフェンシートを単離することに成功した[B.Z.JangおよびW.C.Huang、“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。Mackら[“Chemical manufacture of nanostructured materials”米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛にカリウム溶融物をインターカレートさせるステップと、結果としてKがインターカレートされた黒鉛をアルコールと接触させて、NGPを含む乱暴に剥離された黒鉛を生成するステップとを含む方法を開発した。カリウムおよびナトリウムなどの純アルカリ金属は水分に対して非常に敏感であり、爆発の危険が生じるので、この方法は、真空中または非常に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行う必要がある。この方法は、NGPの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0014】
方法3:無機結晶表面上でのナノグラフェンシートのエピタキシャル成長および化学蒸着
基板上の超薄グラフェンシートの小規模製造は、熱分解に基づくエピタキシャル成長およびレーザー脱離イオン化技術によって行うことができる[Walt A.DeHeer,Claire Berger,Phillip N.First,“Patterned thin film graphite devices and method for making same”米国特許第7,327,000B2号明細書(2003年6月12日)]。わずか1層または数層の原子層を有する黒鉛のエピタキシャル膜は、それらの特有の特性およびデバイス基板としての大きな可能性のため、技術的および化学的に重要である。しかし、これらの方法は、複合材料およびエネルギー貯蔵用途の単離されたグラフェンシートの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0015】
薄膜形態(典型的には<2nmの厚さ)のグラフェンの別の製造方法は、触媒化学蒸着方法である。この触媒CVDは、NiまたはCuの表面上で炭化水素ガス(例えばC2H4)を接触分解させて、単層または数層グラフェンを形成することを含む。NiまたはCuは触媒であるので、800~1,000℃の温度における炭化水素ガス分子の分解によって得られる炭素原子は、Cu箔表面上に直接堆積するか、Ni-C固溶体状態からNi箔の表面に析出するかして、単層または数層グラフェン(5層未満)のシートが形成される。NiまたはCu触媒によるCVDプロセスは、5を超えるグラフェン面(典型的には<2nm)の堆積には適しておらず、それを超えると下にあるNiまたはCu層は、もはや触媒作用が全く得られなくなる。CVDグラフェンフィルムは非常に高価である。
【0016】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yangら[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリングから開始する方法を用いて最長12nmの長さのナノグラフェンシートを合成した。この結果得られたヘキサフェニルベンゼン誘導体をさらに誘導体化させ環を縮合させて小さいグラフェンシートを得た。これは、これまでは非常に小さいグラフェンシートが生成されている遅いプロセスである。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0017】
したがって、望ましくない化学物質の量の減少(またはこれらの化学物質全ての除去)、短縮された処理時間、より少ないエネルギー消費、より低いグラフェン酸化度、望ましくない化学種の排液中(例えば、硫酸)または空気中(例えば、SO2およびNO2)への流出の減少または排除が要求されるグラフェン製造方法が緊急に必要とされている。この方法によって、より純粋(より少ない酸化および損傷)で、より高い導電性で、より大きい/より幅広のグラフェンシートが製造可能となるべきである。さらに、これらのグラフェンシートから発泡体構造を容易に製造可能となるべきである。
【0018】
本発明らの最近の研究によって、上記に概略を示すナノグラフェンプレートレットの確立された製造方法には従わないという点で新規である、単離されたナノグラフェンプレートレットのケミカルフリー製造方法が得られた。さらに、この方法は、費用対効果が高く、大幅に少ない環境影響で新規グラフェン材料が得られるという点で有用性が高い。さらに、本明細書に開示されるように、本発明者らは、グラフェンのケミカルフリー製造とグラフェン-炭素ハイブリッド形態の形成とを1つの作業に組み合わせた。
【0019】
本出願の特許請求の範囲を定義する目的で、NGPまたはグラフェン材料は、単層および多層(典型的には10層未満)の純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン(RGO)、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、ドープされた(例えばBまたはNでドープされた)グラフェンのばらばらのシート/プレートレットを含む。純粋なグラフェンは、実質的に0%の酸素を有する。RGOは、典型的には0.001重量%~5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.001重量%~50重量%の酸素を有することができる。純粋なグラフェン以外の全てのグラフェン材料は、0.001重量%~50重量%の非炭素元素(例えばO、H、N、B、F、Cl、Br、Iなど)を有する。本明細書では、これらの材料を不純グラフェン材料と呼ぶ。本発明によるグラフェン-炭素発泡体は、純粋なグラフェンまたは不純グラフェンを含むことができ、本発明による方法によってこの汎用性が可能となる。
【0020】
グラフェン発泡体の製造に関するレビュー
一般的に言えば、発泡体または発泡材料は、細孔(またはセル)および細孔壁(固体材料)から構成される。細孔は、相互接続されてオープンセル発泡体を形成することができる。グラフェン発泡体は、細孔と、グラフェン材料を含む細孔壁とから構成される。グラフェン発泡体の製造の3つの主要な方法が存在する:
【0021】
第1の方法は、典型的には酸化グラフェン(GO)水性懸濁液を高圧オートクレーブ中に密封するステップと、GO懸濁液を高圧(数十または数十気圧)下、典型的には180~300℃の範囲内の温度で長時間(典型的には12~36時間)加熱するステップとを含む、酸化グラフェンヒドロゲルの熱水還元である。この方法の有用な参考文献は、Y.Xu,et al.“Self-Assembled Graphene Hydrogel via a One-Step Hydrothermal Process,” ACS Nano 2010,4,4324-4330である。この方法に関連する幾つかの主要な問題が存在する:(a)高圧が必要なため、工業規模での製造の場合には実用的な方法ではなくなる。一例を挙げると、この方法は連続原理で行うことができない。(b)、不可能ではないとしても、結果として得られる多孔質構造の孔径および多孔率レベルの制御は困難である。(c)結果として得られる還元酸化グラフェン(RGO)材料の形状およびサイズの変更に関する自由度がない(例えばフィルム形状で製造することができない)。(d)この方法は、水中に懸濁された超低濃度(例えば2mg/mL=2g/L=2kg/kL)のGOの使用を伴う。非炭素元素(最大50%)を除去すると、懸濁液1000リットル当たり2kg未満のグラフェン材料(RGO)しか製造することができない。さらに、高温および高圧の条件に耐える必要がある1000リットルの反応器を運転することは事実上不可能である。あきらかに、これは多孔質グラフェン構造の大量生産に適応できる方法ではない。
【0022】
第2の方法は、犠牲テンプレート(例えばNi発泡体)上へのグラフェンのCVD堆積を含む、テンプレート支援触媒CVD方法に基づく。グラフェン材料は、Ni発泡体構造の形状および寸法に適合する。次いで、エッチング剤を用いてNi発泡体をエッチングにより除去すると、実質的にオープンセル発泡体であるグラフェン骨格のモノリスが残る。この方法の有用な参考文献は、Zongping Chen,et al.,“Three-dimensional flexible and conductive interconnected graphene networks grown by chemical vapour deposition,” Nature Materials,10(June 2011)424-428である。このような方法に関連する幾つかの問題が存在する:(a)触媒CVDは、本来非常に遅く、非常に多量のエネルギーを消費し、費用のかかる方法であり;(b)エッチング剤は、典型的には非常に望ましくない化学物質であり、結果として得られるNi含有エッチング溶液は汚染源となる。エッチャント溶液から溶存Ni金属を回収し再利用することは非常に困難で費用がかかる。(c)Ni発泡体がエッチングで除去されるときに、セル壁を損傷することなくグラフェン発泡体の形状および寸法を維持することは困難である。結果として得られるグラフェン発泡体は、典型的には非常に脆く壊れやすい。(d)犠牲金属発泡体内部の特定の場所にはCVD前駆体ガスが到達できない場合があるので、CVD前駆体ガス(例えば炭化水素)の金属発泡体内部への移動が困難な場合があり、不均一な構造が得られる場合がある。
【0023】
グラフェン発泡体の第3の製造方法も、犠牲材料が使用され(例えばコロイドポリスチレン粒子、PS)、これに自己集合方法を用いて酸化グラフェンシートが被覆される。例えば、Choiらは、CMGおよびPS(2.0μmのPS球)の混合水性コロイド懸濁液を減圧濾過することによって自立PS/CMGフィルムの作製と、続いて、PSビーズを除去して3Dマクロ細孔の形成との2段階で、化学修飾グラフェン(CMG)紙を作製した[B.G.Choi,et al.,“3D Macroporous Graphene Frameworks for Supercapacitors with High Energy and Power Densities,”ACS Nano,6(2012)4020-4028]。Choiらは、負に帯電するCMGコロイドおよび正に帯電するPS懸濁液を別々に調製することから開始して、濾過によって、秩序だった自立PS/CMG紙を作製した。CMGコロイドおよびPS懸濁液の混合物を、2つの化合物が同じ表面電荷(CMGの場合は+13±2.4mV、PSの場合は+68±5.6mVのゼータ電位値)を有する制御されたpH(=2)下の溶液中に分散させた。pHが6まで上昇すると、CMG(ゼータ電位=-29±3.7mV)およびPS球(ゼータ電位=+51±2.5mV)は、それらの間の静電相互作用および疎水性のために集合し、続いてこれらは濾過プロセスによって一体化してPS/CMG複合紙となった。この方法も幾つかの欠点を有する:(a)この方法は、酸化グラフェンおよびPS粒子の両方の非常に時間のかかる化学処理を必要とする。(b)トルエンによるPSの除去も、マクロ多孔質構造を弱める原因となる。(c)トルエンは非常に規制された化学物質であり、特別に注意して処理する必要がある。(d)孔径は、典型的には非常に大きく(例えば数μm)、多くの有用な用途には大きすぎる。
【0024】
以上の議論は、グラフェン発泡体を製造するための全ての従来技術の方法またはプロセスが大きな欠陥を有することを明確に示している。したがって、本発明の目的は、高伝導性で、機械的に堅牢なグラフェンベースの発泡体(特に、一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体)を大量に製造するための費用対効果の高い方法を提供することである。この方法は、環境に優しくない化学物質の使用を伴わない。この方法によって、多孔率レベルおよび孔径の自由度の高い設計制御が可能となる。
【0025】
本発明の別の目的は、従来の黒鉛または炭素発泡体と同等以上の熱伝導率、導電率、弾性率、および/または強度を示すグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の製造方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、(a)実質的に全て炭素のみを含み、好ましくはメソスケールの孔径範囲(2~50nm)を有する純粋なグラフェンベースのハイブリッド発泡体と;(b)多岐にわたる用途に使用可能な、少なくとも0.001重量%(典型的には0.01重量%~25重量%、最も典型的には0.1%~20%)の非炭素元素を含む不純グラフェン発泡体(フッ化グラフェン、塩化グラフェン、窒素化グラフェンなど)とを提供することである。
【0027】
本発明の別の目的は、本発明のグラフェン-炭素発泡体を含む製品(例えばデバイス)、およびこれらの製品の操作方法を提供することである。
【発明の概要】
【0028】
本発明は、黒鉛材料の粒子およびポリマーの粒子から一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を直接製造する方法を提供する。この方法は驚くほど単純である。この方法は:
(a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバ中で黒鉛材料の複数の粒子と固体ポリマー担体材料の複数の粒子とを混合して混合物を形成するステップと;
(b)黒鉛材料からグラフェンシートを剥離し、グラフェンシートを固体ポリマー担体材料粒子の表面に移動させて、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を衝突チャンバの内部で形成するのに十分な時間の間、ある頻度およびある強度でこのエネルギー衝突装置を運転するステップと(例えば衝突装置は、運転中に、運動エネルギーをポリマー粒子に付与し、次いでポリマー粒子が黒鉛粒子表面/エッジに衝突して、衝突した黒鉛粒子からグラフェンシートが剥離される。これらの剥離したグラフェンシートは、これらのポリマー粒子の表面に付着する。本明細書ではこれを「直接移動」プロセスと呼び、任意の第3の要素を媒介することなく、グラフェンシートが、黒鉛粒子からポリマー粒子の表面に直接移動することを意味する);
(c)グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を衝突チャンバから回収して、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を、グラフェン-ポリマーハイブリッド構造の所望の形状に固化させるステップと(この固化ステップは、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子を所望の形状に単に充填する圧密ステップと同様に単純であってよい);
(d)グラフェン-ポリマーハイブリッド構造のこの形状を熱分解させ、ポリマーを細孔とグラフェンシートを結合させる炭素もしくは黒鉛とに熱的に変換させて、一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を形成するステップとを含む。
【0029】
特定の別の実施形態では、複数の衝突ボールまたは媒体が、エネルギー衝突装置の衝突チャンバに加えられる。これらの衝突ボールは、衝突装置によって加速して、黒鉛粒子の表面/エッジに衝突して、それらからグラフェンシートを剥離する。これらのグラフェンシートは、これらの衝突ボール表面に一時的に移動する。これらのグラフェンを支持する衝突ボールは、続いてポリマー粒子に衝突して、支持されたグラフェンシートがこれらのポリマー粒子の表面に移動する。この一連の事象を本明細書では「間接移動」と呼ぶ。間接移動プロセスの幾つかの実施形態では、ステップ(c)は、衝突ボールまたは媒体をグラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子から分離するために磁石を操作するステップを含む。
【0030】
固体ポリマー材料粒子は、10nm~10mmの直径または厚さを有するプラスチックまたはゴムのビーズ、ペレット、球、ワイヤ、繊維、フィラメント、ディスク、リボン、またはロッドを含むことができる。好ましくは、直径または厚さは100nm~1mm、より好ましくは200nm~200μmである。固体ポリマーは、熱可塑性プラスチック、熱硬化性樹脂、ゴム、半貫通ネットワークポリマー、貫通ネットワークポリマー、天然ポリマー、またはそれらの組合せの固体粒子から選択することができる。一実施形態では、ステップ(d)の前に、固体ポリマーは、溶融、エッチング、または溶媒中への溶解によって部分的に除去される。
【0031】
特定の実施形態では、黒鉛材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバ、フッ化黒鉛、酸化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、剥離し再圧縮した黒鉛、膨張黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、またはそれらの組合せから選択される。好ましくは、黒鉛材料は、混合ステップ(a)の前に化学処理または酸化処理があらかじめ行われていないインターカレートしておらず酸化していない黒鉛材料を含む。
【0032】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明を実施するために多岐にわたる衝突装置を使用できることを確認した。例えば、エネルギー衝突装置は、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、クライオボールミル、マイクロボールミル、タンブラーボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、フリーザーミル、振動ふるい、ビーズミル、ナノビーズミル、超音波ホモジナイザーミル、遠心分離遊星ミキサー、真空ボールミル、または共鳴音響ミキサーであってよい。
【0033】
結果として得られるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の炭素成分を形成するため、高い炭素収率または炭収率(例えば>30重量%)を有するポリマー粒子を選択することができる。炭素収率は、熱によって、揮発性ガス部分となる代わりに固体炭素相に変換されるポリマー構造の重量パーセント値である。高炭素収率ポリマーは、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0034】
グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体中で、より少ない炭素含有量(より高いグラフェン比率)が望まれる場合、ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン(ABS)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリジエン(poly vinylidiene fluoride)(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択される低炭素収率ポリマーを含むことができる。
【0035】
これらのポリマー(高炭素収率および低炭素収率の両方)は、300~2,500℃の温度に加熱すると、炭素材料に変換され、これはグラフェンシートのエッジ付近で優先的に核を形成することに留意されたい。このような炭素材料は、グラフェンシート間の間隙を埋めて、相互接続された電子伝導経路を形成する役割を果たす。言い換えると、結果として得られるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、炭素が結合したグラフェンシートの一体型3Dネットワークから構成され、これによって中断せずにグラフェンシートまたは領域の間の電子およびフォノン(量子化格子振動)の連続輸送が可能となる。2,500℃よりも高温にさらに加熱すると、炭素相が「ソフトカーボン」である、または黒鉛化可能である場合には、グラフェンが結合する炭素相が黒鉛化しうる。そのような状況では、導電率および熱伝導率の両方がさらに増加する。
【0036】
したがって、特定の実施形態では、熱分解のステップは、200℃~2,500℃の温度でポリマーを炭化させて、炭素が結合したグラフェンシートを得るステップを含む。場合により、炭素が結合したグラフェンシートは、次いで2,500℃~3,200℃の温度で黒鉛化させて、黒鉛が結合したグラフェンシートを得ることができる。
【0037】
ポリマーの熱分解によって、CO2およびH2Oなどの揮発性ガス分子が発生するために、得られるポリマー炭素層中に細孔が形成される傾向にあることに留意されたい。しかし、ポリマーが炭化するときに抑制されなければ、このような細孔は崩壊する傾向も強い。驚くべきことに、本発明者らは、ポリマー粒子を包み込むグラフェンシートは、炭素細孔壁の収縮および崩壊を抑制することができ、一部の炭素種は、グラフェンシート間の間隙への浸透も起こり、そこでこれらの炭素種がグラフェンシートを互いに結合させることを発見した。結果として得られる3D一体型グラフェン発泡体の孔径および細孔容積(多孔率レベル)は、出発ポリマーのサイズおよびポリマーの炭素収率によって決定され、より少ない程度であるが、熱分解温度によって決定される。
【0038】
特定の好ましい実施形態では、固化ステップは、これらのグラフェン被覆ポリマー粒子の材料を所望の形状に圧密するステップを含む。例えば、グラフェン被覆粒子の材料を金型キャビティ中に圧搾し圧縮することによって、圧密グリーン体を容易に形成することができる。ポリマーを急速に加熱し溶融させ、グリーン体をわずかに圧縮すると、熱によってポリマー粒子を互いにわずかに融合させることができ、急速に冷却してこの物体を固化させることができる。この固化させた物体は、次いで熱分解処理(ポリマーの炭化、及び場合により黒鉛化)が行われる。
【0039】
幾つかの別の実施形態では、固化ステップは、ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶融混合物を形成するステップと、ポリマー溶融混合物から所望の形状を形成するステップと、その形状を固化させてグラフェン-ポリマー複合物構造にするステップとを含む。このような形状は、ロッド、フィルム(薄いまたは厚いフィルム、幅の広いまたは狭い、1つのシートまたはロール形態)、繊維(短いフィラメントまたは連続長フィラメント)、板、インゴット、あらゆる規則的な形状、または不揃いの形状であってよい。このグラフェン-ポリマー複合物形状は次いで熱分解が行われる
【0040】
あるいは、固化ステップは、ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、ポリマー溶液混合物から所望の形状を形成するステップと、溶媒を除去してその形状を固化させてグラフェン-ポリマー複合物構造を得るステップとを含むことができる。この複合物構造は、次いで熱分解させて、多孔質構造が形成される。
【0041】
固化ステップは、ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶融混合物を形成するステップと、混合物を押出成形してロッド形態もしくはシート形態にするステップ、混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップとを含むことができる。
【0042】
幾つかの実施形態では、固化ステップは、ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、および溶液混合物を押出成形してロッド形態もしくはシート形態にするステップ、溶液混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、溶液混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または溶液混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップと、溶媒を除去するステップとを含む。
【0043】
特定の一実施形態では、ポリマー溶液混合物を噴霧することで、グラフェン-ポリマー複合物被覆またはフィルムが形成され、次いでその熱分解(炭化、または炭化と黒鉛化)が行われる。
【0044】
好ましくは、固化ステップは、グラフェン被覆ポリマー粒子を圧密して、マクロ細孔を有する多孔質グリーンコンパクトにするステップを含むことができ、次いで、石油ピッチ、コールタールピッチ、芳香族有機材料(例えばナフタレンまたはピッチの別の誘導体)、モノマー、有機ポリマー、またはそれらの組合せから選択されるさらなる炭素源材料を細孔に浸透または含浸させることができる。有機ポリマーは、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択される高炭素収率ポリマーを含むことができる。ハイブリッド発泡体中により多い量の炭素が望まれる場合に、浸透させたグラフェン被覆ポリマー粒子のグリーンコンパクトの熱分解が行われると、これらの化学種はさらなる炭素源となる。
【0045】
本発明は、複数の細孔および細孔壁から構成される一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体であって、細孔壁が、1/200~1/2の炭素材料対グラフェン重量比を有する炭素材料によって化学結合した単層または数層グラフェンシートを含み、数層グラフェンシートが、X線回折によって測定して0.3354nm~0.36nmの面間隔d002を有する2~10層の積層グラフェン面を有し、単層または数層グラフェンシートが、実質的に0%の非炭素元素を有する純粋なグラフェン材料、または0.001重量%~35重量%(好ましくは0.01%~25%)の非炭素元素を有する不純グラフェン材料を含み、不純グラフェンが、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、またはそれらの組合せから選択される、一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体も提供する。下にあるポリマー粒子を取り囲む複数の単層または数層グラフェンは、互いに重なり合ってグラフェンシートのスタックを形成することができる。このスタックは、5nmを超え、幾つかの場合では、10nmを超え、またはさらには100nmを超える厚さを有することができる。
【0046】
その一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、典型的には0.001~1.7g/cm3の密度、および50~3,000m2/gの比表面積を有する。好ましい一実施形態では、細孔壁は、X線回折によって測定して0.3354nm~0.40nmの面間隔d002を有する積層グラフェン面を含む。
【0047】
油回収用途(例えば水からの油の分離)の場合、グラフェン-炭素は、好ましくは1重量%~25重量%(より好ましくは1~15%、最も好ましくは1~10%)の酸素含有量を有する。これは、出発物質が酸化黒鉛である場合、または炭化処理がわずかに酸化性の環境において300~1,500℃(好ましくは1,000℃以下)の温度で行われ、引き続いて黒鉛化が行われない場合に実現可能である。本発明者らは、驚くべきことに、この性質の高多孔質グラフェン-炭素発泡体が、その自重の最大500%の油-水混合物から油を吸収できることを発見した。
【0048】
温度管理用途の場合、グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、好ましくは、炭素が結合したグラフェンシート(炭化後)に対して圧縮応力下で黒鉛化処理を行うことによって製造される。これによって、グラフェンシートまたはグラフェン領域の配向および再組織化(合体、成長など)が促進される。結果としてグラフェン-炭素発泡体のシートまたはフィルムは、単位比重当たり少なくとも200W/mKの熱伝導率、および/または単位比重当たり2,000S/cm以上の導電率を示す。
【0049】
一実施形態では、細孔壁は純粋なグラフェンを含み、3D固体グラフェン-炭素発泡体は、0.001~1.7g/cm3の密度または2nm~50nmの平均孔径を有する。一実施形態では、細孔壁は、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン,およびそれらの組合せからなる群から選択される不純グラフェン材料を含み、固体グラフェン発泡体は、0.01重量%~20重量%の範囲内の非炭素元素含有量を含む。言い換えると、非炭素元素は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、またはホウ素から選択される元素を含むことができる。特定の一実施形態では、細孔壁はフッ化グラフェンを含み、固体グラフェン発泡体は0.01重量%~20重量%のフッ素含有量を含む。別の一実施形態では、細孔壁は酸化グラフェンを含み、上記固体グラフェン発泡体は0.01重量%~20重量%の酸素含有量を含む。一実施形態では、固体グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、200~2,000m2/gの比表面積または0.01~1.5g/cm3の密度を有する。
【0050】
本発明によるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の形状または寸法に対する制限はないことに留意されたい。好ましい一実施形態では、固体グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体から、100nm以上および10cm以下の厚さと、少なくとも1メートルの長さ、好ましくは少なくとも2メートル、さらに好ましくは少なくとも10メートル、最も好ましくは少なくとも100メートルの長さとを有する連続長のロールシート形態(連続発泡体シートのロール)が作製される。このシートロールは、ロールツーロールプロセスによって製造される。シートロール形態に形成される従来技術のグラフェンベースの発泡体は存在しない。純粋または不純なもののいずれかのグラフェン発泡体を連続長で製造するためのロールツーロールプロセスを有することが可能であると従来見出されたり示唆されたりしたことはない。
【0051】
温度管理または導電性ベース用途の場合、グラフェン-炭素発泡体は、好ましくは1重量%未満の酸素含有量または非炭素含有量を有し、細孔壁は、0.35nm未満のグラフェン間隔、単位比重当たり少なくとも250W/mKの熱伝導率、および/または単位比重当たり2,500S/cm以上の導電率を有する積層グラフェン面を有する。
【0052】
さらなる好ましい一実施形態では、グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、0.01重量%未満の酸素含有量または非炭素含有量を有し、上記細孔壁は、0.34nm未満のグラフェン間隔、単位比重当たり少なくとも300W/mKの熱伝導率、および/または単位比重当たり3,000S/cm以上の導電率を有する積層グラフェン面を含む。
【0053】
さらに別の好ましい一実施形態では、グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、0.01重量%以下の酸素含有量または非炭素含有量を有し、上記細孔壁は、0.336nm未満のグラフェン間隔、0.7以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり少なくとも350W/mKの熱伝導率、および/または単位比重当たり3,500S/cm以上の導電率を有する積層グラフェン面を含む。
【0054】
さらに別の好ましい一実施形態では、グラフェン発泡体は、0.336nm未満のグラフェン間隔、0.4以下のモザイクスプレッド値、単位比重当たり400W/mKを超える熱伝導率、および/または単位比重当たり4,000S/cmを超える導電率を有する積層グラフェン面を含む細孔壁を有する。
【0055】
好ましい一実施形態では、細孔壁は、0.337nm未満のグラフェン間隔および1.0未満のモザイクスプレッド値を有する積層グラフェン面を含む。好ましい一実施形態では、グラフェン発泡体は、80%以上(好ましくは90%以上)の黒鉛化度、および/または0.4未満のモザイクスプレッド値を示す。好ましい一実施形態では、細孔壁は、相互接続されたグラフェン面の3Dネットワークを含む。
【0056】
好ましい一実施形態では、固体グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、2nm~50nmの孔径を有するメソスケールの細孔を含む。固体グラフェン発泡体は、ミクロンスケールの細孔(1~500μm)含むように作製することもできる。
【0057】
本発明は、本発明による3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を油吸収要素として含む油除去装置または油分離装置も提供する。その3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を溶媒吸収要素として含む溶媒除去装置または溶媒分離装置も提供される。
【0058】
本発明は、油-水混合物(例えば油が流出した水、またはオイルサンドからの廃水)から油を分離する方法も提供する。この方法は、(a)一体型グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む油吸収要素を提供するステップと、(b)油-水混合物を、上記要素と接触させて、上記要素に混合物から油を吸収させるステップと、(c)上記要素を混合物から取り出して、上記要素から油を抽出するステップとを含む。好ましくは、この方法は、上記要素を再利用するさらなるステップ(d)を含む。
【0059】
さらに、本発明は、溶媒-水混合物から、または複数の溶媒の混合物から有機溶媒を分離する方法を提供する。この方法は、(a)一体型グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む有機溶媒吸収要素を提供するステップと、(b)上記要素を、有機溶媒-水混合物、または第1の溶媒および少なくとも第2の溶媒を含む複数の溶媒の混合物と接触させるステップと、(c)この要素に、混合物から有機溶媒を吸収させる、または少なくとも第2の溶媒から第1の溶媒を吸収させるステップと、(d)上記要素を混合物から取り出し、上記要素から有機溶媒または第1の溶媒を抽出するステップとを含む。好ましくは、この方法は、上記要素を再利用するさらなるステップ(e)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】時間のかかる化学酸化/インターカレーション、洗浄、および高温剥離手順を伴う、最も一般に使用される従来技術の高酸化NGPの製造方法を示すフローチャートである。
【
図2A】一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を製造するための本発明による方法を示すフローチャートである。
【
図2B】熱によって誘導されるポリマーから炭素への変換の概略図であり、これによってグラフェンシートが互いに結合して3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体が形成される。グラフェン被覆ポリマー粒子の圧密構造は高多孔質構造に変換される。
【
図3A】3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の内部構造のSEM画像である。
【
図3B】別の3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の内部構造のSEM画像である。
【
図4A】本発明による方法によって製造された3D一体型グラフェン-炭素発泡体、メソフェーズピッチ由来の黒鉛発泡体、およびNi発泡体テンプレート支援CVDグラフェン発泡体の熱伝導率値対比重である。
【
図4B】3Dグラフェン-炭素発泡体および熱水還元されたGOグラフェン発泡体の熱伝導率値である。
【
図5】最終(最高)熱処理温度の関数としてプロットした3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体および純粋なグラフェン発泡体(発泡剤を加えてキャスティングし、次いで熱処理することによって作製した)の熱伝導率値である。
【
図6】3Dグラフェン-炭素発泡体および熱水還元されたGOグラフェン発泡体の導電率値である。
【
図7】約98%の多孔率レベルを有する発泡体中の酸素含有量の関数としてプロットした一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体1グラム当たりに吸収された油の量である(油-水混合物からの油の分離)。
【
図8】多孔率レベル(同じ酸素含有量の場合)の関数としてプロットした一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体1グラム当たりに吸収された油の量である。
【
図9】フッ素化度の関数としてプロットしたクロロホルム-水混合物から吸収されたクロロホルムの量である。
【
図10】ヒートシンク構造(2つの例)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、黒鉛材料の粒子およびポリマーの粒子から一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を直接製造する方法を提供する。
【0062】
図2(A)に概略的に示されるように、この方法は、黒鉛材料の複数の粒子と、固体ポリマー担体材料の複数の粒子とを混合して混合物を形成することから開始し、この混合物が、エネルギー衝突装置(例えば、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、クライオボールミル、マイクロボールミル、タンブラーボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、フリーザーミル、振動ふるい、ビーズミル、ナノビーズミル、超音波ホモジナイザーミル、遠心分離遊星ミキサー、真空ボールミル、または共鳴音響ミキサー)の衝突チャンバ中に密閉される。運転中、このエネルギー衝突装置は、中に含まれる固体粒子に運動エネルギーを与えて、高強度および高頻度でポリマー粒子を黒鉛粒子上に衝突させることができる。
【0063】
典型的な運転条件では、このような衝突事象によって、黒鉛材料からグラフェンシートが剥離し、それらのグラフェンシートが固体ポリマー担体粒子の表面に移動する。これらのグラフェンシートはポリマー粒子を包み込んで、衝突チャンバ内部でグラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を形成する。本明細書ではこれを「直接移動」プロセスと呼び、任意の第3の要素を媒介することなく、グラフェンシートが黒鉛粒子からポリマー粒子の表面に直接移動することを意味する。
【0064】
あるいは、エネルギー衝突装置の衝突チャンバに複数の衝突ボールまたは媒体を加えることができる。衝突装置によって加速されたこれらの衝突ボールは、黒鉛粒子からグラフェンシートを剥離するのに好都合な角度において高い運動エネルギーで黒鉛粒子の表面/エッジに衝突する。これらのグラフェンシートは、これらの衝突ボールの表面に一時的に移動する。これらのグラフェンを支持する衝突ボールは、続いて、ポリマー粒子と衝突し、支持されたグラフェンシートはこれらのポリマー粒子の表面に移動する。この一連の事象を本明細書では「間接移動」プロセスと呼ぶ。これらの事象は非常に高頻度で発生し、したがって、典型的には1時間未満でほとんどのポリマー粒子がグラフェンシートで覆われる。間接移動プロセスの幾つかの実施形態では、ステップ(c)は、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子から衝突ボールまたは媒体を分離するために磁石を操作するステップを含む。
【0065】
次いでこの方法は、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を衝突チャンバから回収するステップと、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子をグラフェン-ポリマー複合物構造の所望の形状に固化させるステップとを含む。この固化ステップは、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子を所望の形状に単に機械的に充填する圧密ステップのように単純であってよい。あるいは、この固化ステップは、ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマーマトリックスを形成するステップを伴うことができる。このようなグラフェン-ポリマー構造は、あらゆる実際的な形状または寸法(繊維、ロッド、板、円筒、またはあらゆる規則的な形状もしくは不揃いの形状)であってよい。
【0066】
図3(A)および3(B)に示すように、グラフェン-ポリマーコンパクトまたは複合構造は、次いで熱分解させることで、ポリマーが、グラフェンシートに結合する炭素または黒鉛に熱的に変換されて、一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体が形成される。
【0067】
得られたグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の炭素成分を形成するために、高炭素収率または炭収率を有するポリマー粒子(例えば、ポリマーの>30重量%が、揮発性のガスの一部となる代わりに、固体炭素相に変換される)を選択することができる。高炭素収率ポリマーは、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択することができる。熱分解させると、これらのポリマーの粒子は、
図2(B)の下部分に示されるような多孔質となる。
【0068】
より少ない炭素含有量(炭素比率に対してより高いグラフェン比率)およびより低い発泡体密度がグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体に望まれる場合、ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン(ABS)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリジエン(poly vinylidiene fluoride)(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、それらのコポリマー、それらのポリマーブレンド、またはそれらの組合せから選択される低炭素収率ポリマーを含むことができる。熱分解させると、これらのポリマーの粒子は、
図2(B)の中央部分に示されるような多孔質となる。
【0069】
これらのポリマー(高炭素収率および低炭素収率の両方)は、300~2,500℃の温度で加熱すると、炭素材料に変換され、これはグラフェンシートのエッジ付近で優先的に核を形成する。このような炭素材料は、グラフェンシート間の間隙を自然に埋めて、相互接続された電子伝導経路を形成する。実際には、結果として得られるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、炭素が結合したグラフェンシートの一体型3Dネットワークから構成され、これによって中断せずにグラフェンシートまたは領域の間の電子およびフォノン(量子化格子振動)の連続輸送が可能となる。2,500℃よりも高温にさらに加熱すると、炭素相が黒鉛化して、導電率および熱伝導率の両方がさらに増加しうる。黒鉛化時間が1時間を超える場合は、非炭素元素の量も典型的には1重量%未満まで減少する。
【0070】
有機ポリマーは、典型的には顕著な量の非炭素元素を含み、これは熱処理によって減少させたりなくしたりすることが可能なことに留意されたい。したがって、ポリマーの熱分解によって、CO2およびH2Oなどの揮発性ガス分子の形成および発生が起こり、これによって、結果として得られるポリマー炭素相中に細孔が形成される。しかし、ポリマーが炭化するときに抑制されなければ、このような細孔は崩壊する傾向も強い(非炭素元素が放出されるときに、炭素構造が収縮することがある)。本発明者らは、驚くべきことに、ポリマー粒子を包み込むグラフェンシートは、炭素細孔壁の崩壊を抑制できることを発見した。一方、一部の炭素種は、グラフェンシート間の間隙への浸透も起こり、そこでこれらの炭素種がグラフェンシートを互いに結合させる。結果として得られる3D一体型グラフェン発泡体の孔径および細孔容積(多孔率レベル)は、主として、出発ポリマーのサイズおよびポリマーの炭素収率によって決定される。
【0071】
グラフェンシートの供給源としての黒鉛材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバ、フッ化黒鉛、酸化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、剥離し再圧縮した黒鉛、膨張黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、またはそれらの組合せから選択することができる。これに関して、本発明による方法に関連する幾つかのさらなる驚くべき要素がある:
(1)より重くより硬質の衝突ボール(例えば、ボールミル中に一般に使用される二酸化ジルコニウムまたは鋼のボールなど)を使用せずに、ポリマー粒子単独を使用することで、グラフェンシートを天然黒鉛から剥離することができる。剥離されたグラフェンシートは、ポリマー粒子表面に直接移動し、ポリマー粒子をしっかりと包み込む。
(2)衝突ポリマー粒子によって、非晶質炭素のスキン層を有することが知られているメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの人造黒鉛からグラフェンシートを剥離可能なことも驚くべきことである。
(3)より硬質の衝突ボールを使用することで、炭素または黒鉛繊維の内部構造を構成する炭素原子のグラフェン様の面も剥離して、ポリマー粒子表面に移動させることができる。このようなことは、従来技術では教示や示唆がなされていない。
(4)本発明は、従来技術のグラフェンシートの製造方法に関連する実質的に全ての欠点が回避される、非常に単純で、迅速で、規模の変更が可能であり、環境に優しく、費用対効果の高い方法を提供する。グラフェンシートは、直ちにポリマー粒子に移動してポリマー粒子を包み込み、次いでこれらは一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体に容易に変換される。
【0072】
出発黒鉛がある程度(例えば2~15重量%の酸素を含有する)まで意図的に酸化される場合、特定の所望の程度の親水性をグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の細孔壁に付与することができることに留意されたい。あるいは、炭化処理がわずかに酸化性の環境中で行われる場合に、酸素含有官能基を炭素相に結合させることができる。これらの特徴によって、油-水混合物から油を選択的に吸収することにより、水から油を分離することが可能となる。言い換えると、このようなグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体材料によって、水からの油の回収、油が流出した川、湖、または海の清浄化の促進が可能となる。油吸収能力は、典型的には発泡体の自重の50%~500%である。これは、環境保護の目的のために驚くほど有用な材料である。
【0073】
高い導電率または熱伝導率が望まれる場合、黒鉛材料は、衝突チャンバ中に入れる前に化学処理または酸化処理があらかじめ行われていないインターカレートされず酸化されていない黒鉛材料から選択することができる。これとは別に、またはこれに加えて、グラフェン-炭素発泡体は、2,500℃よりも高い温度で黒鉛化処理を行うことができる。結果として得られる材料は、温度管理用途に(例えばフィン付きヒートシンク、熱交換器、またはヒートスプレッダの作製に使用するために、特に有用である)。
【0074】
グラフェン-炭素発泡体は、黒鉛化処理の最中および/または後に圧縮することができることに留意されたい。この作業によって、グラフェンシートの配向および多孔率の調節が可能となる。
【0075】
CuKcv放射線を備えたX線回折計を用いて、X線回折パターンを得た。回折ピークのシフトおよびブロードニングは、ケイ素粉末標準物質を用いて較正した。黒鉛化度gは、Meringの式d002=0.3354g+0.344(1-g)(式中、d002は、黒鉛またはグラフェン結晶のnmの単位での層間隔である)を用いてX線パターンから計算した。この式は、d002が約0.3440nm以下である場合にのみ有効である。0.3440nmを超えるd002を有するグラフェン発泡体壁は、グラフェン間隔を増加させるスペーサーとして機能する酸素またはフッ素を含有する官能基(グラフェン分子面の表面またはエッジ上の-F、-OH、>O、および-COOHなど)の存在を反映している。
【0076】
グラフェンの発泡体壁中の積層し結合したグラフェン面、および従来の黒鉛結晶の秩序度を特徴付けるために使用できる別の構造指標は、(002)または(004)反射のロッキングカーブ(X線回折強度)の半値全幅によって表される「モザイクスプレッド」である。この秩序度によって、黒鉛またはグラフェンの結晶サイズ(または結晶粒度)、結晶粒界および別の欠陥の量、好ましい結晶粒配向の程度が特徴付けられる。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特徴とする。本発明者らのほとんどのグラフェン壁は、この0.2~0.4の範囲内のモザイクスプレッド値を有する(2,500℃以上の熱処理温度(HTT)で製造した場合)。しかし、一部の値は、HTTが1,500~2,500℃の間の場合で0.4~0.7の範囲内であり、HTTが300~1,500℃の間の場合で0.7~1.0の範囲内である。
【0077】
SEM、TEM、制限視野回折、X線回折、AFM、ラマン分光法、およびFTIRの組合せを用いたより詳細な研究によって、本発明のグラフェン発泡体壁は、幾つかの巨大なグラフェン面(長さ/幅が典型的には>>20nm、より典型的には>>100nm、多くの場合>>1μm、多くの場合>>10μm、またはさらには>>100μmである)から構成されることが示される。最終熱処理温度が2,500℃未満の場合、これらの巨大なグラフェン面は、厚さ方向(結晶学的c軸方向)に沿って、多くの場合(従来の黒鉛微結晶のような)ファンデルワールス力だけでなく、共有結合でも、積層して結合する。これらの場合、理論によって限定しようと望むものではないが、RamanおよびFTIR分光法の研究は、sp2(支配的)およびsp3(弱いが存在する)の電池配置の共存を示していると思われるが、黒鉛中では従来のsp2のみである。
【0078】
本発明の一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、複数の細孔および細孔壁から構成され、細孔壁は、1/100~1/2の炭素材料対グラフェン重量比を有する炭素材料によって化学結合した単層または数層グラフェンシートを含み、数層グラフェンシートは、X線回折によって測定して0.3354nm~0.36nmの面間隔d002を有する2~10層の積層グラフェン面を有し、単層または数層グラフェンシートは、実質的に0%の非炭素元素を有する純粋なグラフェン材料、または0.01重量%~25重量%の非炭素元素(より典型的には<15%)を有する不純グラフェン材料を含み、不純グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、またはそれらの組合せから選択される。下にあるポリマー粒子を取り囲む複数の単層または数層グラフェンは、互いに重なり合ってグラフェンシートの積層体を形成することができる。この積層体は、厚さが5nmを超えることができ、幾つかの場合では10nmを超えることができ、さらには100nmを超えることができる。
【0079】
その一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、典型的には、0.001~1.7g/cm3の密度、50~3,000m2/gの比表面積、単位比重当たり少なくとも200W/mKの熱伝導率、および/または2,000S/cm以上の導電率を有する。好ましい一実施形態では、細孔壁は、X線回折によって測定して0.3354nm~0.40nmの面間隔d002を有する積層グラフェン面を含む。
【0080】
本発明のグラフェンシートの多くは、共有結合によってエッジ間で互いに合体して、一体化したグラフェン要素となることができる。これらの合体していないシートまたは合体したより短いシートの自由端の間の間隙は、ポリマーから変換した炭素相によって結合する。これらの独特の化学組成(酸素またはフッ素含有量などを含む)、形態、結晶構造(グラフェン間隔を含む)、および構造的特徴(例えば、配向角、数個の欠陥、化学結合、およびグラフェンシート間に間隙がないこと、ならびにグラフェン面方向に沿って実質的に中断がないこと)のために、本発明のグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、顕著な熱伝導率、導電率、機械的強度、および剛性(弾性率)の独特の組合せを有する。
【0081】
温度管理用途
上記の特徴および特性によって、その一体型3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、多岐にわたる工学および生物医学用途での理想的な要素となる。例えば、温度管理の目的単独の場合、グラフェン-炭素発泡体は以下の用途に使用することができる:
a)圧縮可能で高熱伝導率であるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、熱源とヒートスプレッダとの間、または熱源とヒートシンクとの間に組み込むことができる熱界面材料(TIM)としての使用に理想的である。
b)そのハイブリッド発泡体は、その高熱伝導率のためにそれ自体をヒートスプレッダとして使用することができる。
c)そのハイブリッド発泡体は、その高い熱拡散能力(高熱伝導率)および高い放熱能力(多量の空気対流ミクロまたはナノチャネルが得られる多数の表面細孔)のためにヒートシンクまたは放熱材料として使用することができる。
d)軽量(0.001~1.8g/cm3の間で調節可能な低密度)、単位比重当たりもしくは単位物理的密度当たりの高い熱伝導率、および高い構造的完全性(グラフェンシートは炭素によって結合している)のために、このハイブリッド発泡体は耐久性熱交換器の理想的な材料となる。
【0082】
そのグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体に基づく温度管理装置または放熱装置としては、熱交換器、ヒートシンク(例えばフィン付きヒートシンク)、ヒートパイプ、高伝導性インサート、薄いまたは厚い伝導板(ヒートシンクと熱源との間)、熱界面媒体(または熱界面材料TIM)、熱電冷却板またはペルチェ冷却板などが挙げられる。
【0083】
熱交換器は、1つまたは複数の流体の間で熱を伝達するために使用される装置であり、例えば気体および液体が、別々に異なるチャネル中に流される。複数の流体は、典型的には混合を防止するために固体の壁によって分離される。発泡体が、流体の混合が可能となる全体的にオープンセルの発泡体とならないのであれば、本発明によるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体材料は、このような壁の理想的な材料である。本発明による方法によって、オープンセルおよびクローズドセルの両方の発泡体構造の製造が可能となる。高表面細孔面積によって、2つまたは複数の流体の間での熱の非常に迅速な交換が可能となる
【0084】
熱交換器は、冷却システム、空調装置、ヒーター、発電所、化学プラント、石油化学プラント、石油精製所、天然ガス処理、および下水処理に広く使用される。熱交換器の周知の例は、内燃機関中に見ることができ、この場合、循環するエンジン冷却液はラジエーターコイルを通って流れ、一方、空気はコイルを通り過ぎて流れ、これによって冷却液は冷却され、流入する空気は加熱される。固体の壁(例えばラジエーターコイルを構成するもの)は、CuおよびAlなどの高熱伝導性材料で通常はできている。より高い熱伝導率またはより広い比表面積のいずれかを有する本発明によるグラフェン発泡体は、例えばCuおよびAlの優れた代替品となる。
【0085】
市販されている多くの種類の熱交換器:シェルアンドチューブ式熱交換器、平板熱交換器、プレートアンドシェル式熱交換器、断熱ホイール熱交換器、平板フィン熱交換器、ピロープレート熱交換器、流体熱交換器、廃熱回収装置、ダイナミックスクレープドサーフェス熱交換器、相変化熱交換器、直接接触熱交換器、およびマイクロチャネル熱交換器が存在する。これらの種類の熱交換器のいずれも、本発明による発泡体材料の非常に高い熱伝導率および非常に大きい比表面積を利用することができる。
【0086】
本発明による固体グラフェン発泡体は、ヒートシンク中に使用することもできる。ヒートシンクは、放熱の目的で電子デバイス中に広く使用されている。携帯型マイクロ電子デバイス(ノートブックコンピュータ、タブレット、およびスマートフォンなど)の中の中央処理装置(CPU)および電池は、よく知られた熱源である。典型的には、金属または黒鉛の物体(例えばCu箔または黒鉛箔)を高温表面と接触させると、この物体によって、外部表面または外気への熱の放散が促進される(主として伝導および対流により、より少ない程度で放射による)。ほとんどの場合、熱源の高温表面とヒートスプレッダまたはヒートシンクの熱放散面との間に薄い熱界面材料(TIM)が介在する。
【0087】
ヒートシンクは、通常は、冷却する部品との良好な熱的接触を保証するための1つ以上の平坦面と、空気との表面接触を増加させ、それによって放熱速度を増加させるためのくしまたはフィン状の突出部の配列とを有する高伝導性材料構造からなる。ヒートシンクは、ヒートシンク上の気流速度を増加させるためにファンとともに使用することができる。ヒートシンクは、熱伝達を改善するために複数のフィン(広いまたは突出した表面)を有することができる。空間の量が限定された電子デバイスでは、伝熱密度が最大となるように、フィンの形状/配置を最適化する必要がある。これとは別に、またはこれに加えて、隣接するフィンの間に形成される領域中にキャビティ(反転フィン)を組み込むことができる。これらのキャビティは、種々の発熱体からヒートシンクへの熱の抽出に有効である。
【0088】
典型的には、一体型ヒートシンクは、集熱部材(コアまたはベース)と、集熱部材(ベース)と一体となってフィン付きヒートシンクを形成する少なくとも1つの放熱部材(例えば1つのフィンまたは複数のフィン)とを含む。フィンおよびコアは、フィンをコアに接続するための外部から加えられる接着剤または機械的締結手段を使用せずに、本来接続または一体化されて、一体化した物体となる。集熱ベースは、熱源(例えばLED)と熱的に接触する表面を有し、この熱源から熱を収集し、フィンを介して空気中に熱を散逸させる。
【0089】
説明的な例として、
図10は、2つのヒートシンク300および302の概略図を示している。その第1のものは、集熱部材(またはベース部材)304と、ベース部材304に接続された複数のフィンまたは放熱部材(例えばフィン306)とを含む。ベース部材304は、熱源と熱的に接触することが意図された集熱面314を有することが示されている。放熱部材またはフィン306は、少なくとも1つの放熱面320を有することが示されている。
【0090】
特に有用な一実施形態は、(a)集熱面318を含むベース308と、(b)ベース308によって支持されるまたはベース308と一体となる、複数の間隔を開けて平行に配置される平面状フィン部材(例えば2つの例として310、312)とを含む放射状フィン付きヒートシンクアセンブリを含む一体型放射状ヒートシンク302であり、平面状フィン部材(例えば310)は少なくとも1つの放熱面322を含む。複数の平行の平面状フィン部材は、好ましくは等間隔に配置される。
【0091】
高い弾性および弾力性である本発明によるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、それ自体が良好な熱界面材料であり、非常に有効な熱拡散要素でもある。さらに、この高伝導性発泡体は、エレクトロニクスの冷却のため、および小型チップからヒートシンクへの熱除去の向上のためのインサートとして使用することもできる。高伝導性材料によって示される空間は大きな問題となるため、発熱体中に組み込むことができる高伝導性経路を利用することがより効果的な設計となる。本明細書に開示される弾性で高伝導性の固体グラフェン発泡体は、これらの要求に完全に適合する。
【0092】
高弾性および高熱伝導率のため、本発明による固体グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、冷却性能を改善するために熱源と低温流動流体(または任意の別のヒートシンク)との間の伝熱界面として配置される良好な伝導性厚板となる。このような配置では、熱源は、冷却流体と直接接触して冷却される代わりに、厚いグラフェン発泡体の板の下で冷却される。グラフェン発泡体の厚板は、最適な方法で熱流を伝導させる目的で熱源と冷却流体との間の熱伝達を顕著に改善することができる。追加のポンプ能力および追加の伝熱表面領域は不要である。
【0093】
その固体グラフェン発泡体は、ヒートパイプを構成するための優れた材料でもある。ヒートパイプは、高温および低温の界面の間を非常に小さい温度差で多量の熱を輸送するための2相作動流体または冷媒を使用する伝熱装置である。従来のヒートパイプは、CuまたはAlなどの熱伝導性金属でできた密封中空管と、蒸発器から凝縮器に作動流体を戻すウィックとからなる。このパイプは、作動流体(水、メタノール、またはアンモニア)の飽和液体および蒸気を含み、あらゆる他のガスは排除される。しかし、CuおよびAlの両方は酸化または腐食が起こりやすく、したがって、それらの性能は時間とともに比較的早く低下する。対照的に、本発明の固体グラフェン発泡体は、化学的に不活性であり、これらの酸化または腐食の問題はない。エレクトロニクスの温度管理用のヒートパイプは、固体グラフェン発泡体のエンベロープおよびウィックと、作動流体としての水とを有することができる。ヒートパイプが水の凝固点より低温で動作する必要がある場合はグラフェン/メタノールを使用することができ、間隙を介してエレクトロニクスを冷却する場合はグラフェン/アンモニアヒートパイプを使用することができる。
【0094】
ペルチェ冷却板は、電流を印加することによって2つの異なる導電体の接合点の間に熱流束が生じるペルチェ効果によって動作する。この効果は、電子部品および小型機器の冷却に一般に使用される。実際には、必要な加熱または冷却の量まで効果を増大させるために、このような接合点の多くは直列に配置することができる。伝熱効率を改善するために、その固体グラフェン発泡体を使用することができる。
【0095】
濾過および流体吸収用途
本発明の固体グラフェン発泡体は、微細な細孔(<2nm)または2nm~50nmの孔径を有するメソスケールの細孔を含むように製造することができる。本発明の固体グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、ミクロンスケールの細孔(1~500μm)を含むように製造することもできる。十分に制御された孔径のみに基づいて、本発明のグラフェン-炭素発泡体は、空気または水の濾過のための優れたフィルター材料となりうる。
【0096】
さらに、グラフェン細孔壁の化学的性質および炭素相の化学的性質は、グラフェンシートおよび炭素バインダー相のいずれかまたは両方に異なる量および/または種類の官能基を付与することで独立に制御することができる(例えば発泡体中のO、F、N、Hなどのパーセント値で反映される)。言い換えると、内部構造中の異なる位置における孔径および化学官能基の両方を同時にまたは独立して制御することで、多くの予期せぬ性質、相乗効果、および通常は相互に排他的であると考えられる幾つかの独特の性質の組合せ(例えば、構造のある部分は疎水性で、別の部分は親水性となる;または発泡体構造が疎水性および親油性の両方である)を示すグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の設計および製造において前例のない柔軟性または最高の自由度が得られる。表面または材料は、水がこの材料または表面からはじかれる場合に疎水性と呼ばれ、疎水性の表面または材料の上に水滴を載せると大きな接触角が形成される。表面または材料は、油に対して強い親和性を有し水に対して親和性を有さない場合に親油性と呼ばれる。本発明の方法は、疎水性、親水性、および親油性にわたって厳密に制御することができる。
【0097】
本発明は、油吸収要素または油分離要素として本発明による3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む油除去装置、油分離装置、または油回収装置も提供する。溶媒吸収要素としてその3Dグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む溶媒除去装置または溶媒分離装置も提供する。
【0098】
油吸収要素としての本発明のグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の使用の大きな利点は、その構造的完全性である。グラフェンシートは炭素材料によって化学的に結合するという見解のため、得られる発泡体は油吸収作業を繰り返しても崩壊しない。対照的に、本発明者らは、熱水還元によって、真空支援濾過、または凍結乾燥によって作製されたグラフェンをベースとする油吸収要素は、2または3回の油の吸収後に崩壊することを発見した。これらの別の場合には分離するグラフェンシートを互いに保持するものは(最初に油と接触する前に存在する弱いファンデルワールス力以外には)全く存在しない。これらのグラフェンシートが油によってぬれると、これらはもはや油吸収要素の元の形状に戻ることはできない。
【0099】
本発明の技術の別の大きな利点は、その構造形状を依然として維持しながら(顕著な膨張を引き起こさずに)、その自重の最大400倍までの油を吸収できる油吸収要素の設計および製造の柔軟性である。この量は、発泡体の比細孔体積に依存し、これは、熱処理前の元の担体ポリマー粒子の量と、グラフェンシートの量との間の比によって主に制御することができる。
【0100】
本発明は、油-水混合物(例えば油が流出した水、またはオイルサンドからの廃水)から油を分離/回収する方法も提供する。この方法は、(a)一体型グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む油吸収要素を提供するステップと、(b)油-水混合物を、上記要素と接触させて、上記要素に混合物から油を吸収させるステップと、(c)油吸収要素を混合物から取り出して、上記要素から油を抽出するステップとを含む。好ましくは、この方法は、上記要素を再利用するさらなるステップ(d)を含む。
【0101】
さらに、本発明は、溶媒-水混合物から、または複数の溶媒の混合物から有機溶媒を分離する方法を提供する。この方法は、(a)一体型グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を含む有機溶媒吸収要素を提供するステップと、(b)上記要素を、有機溶媒-水混合物、または第1の溶媒および少なくとも第2の溶媒を含む複数の溶媒の混合物と接触させるステップと、(c)この要素に、混合物から有機溶媒を吸収させる、または少なくとも第2の溶媒から第1の溶媒を吸収させるステップと、(d)上記要素を混合物から取り出し、上記要素から有機溶媒または第1の溶媒を抽出するステップとを含む。好ましくは、この方法は、溶媒吸収要素を再利用するさらなるステップ(e)を含む。
【0102】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の形態に関する幾つかの特定の詳細を説明するために使用されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0103】
実施例1:ポリプロピレン粉末ベースの固体ポリマー担体を介したフレーク黒鉛からのグラフェン-炭素発泡体の製造
実験において、1kgのポリプロピレン(PP)ペレット、50グラムの50メッシュのフレーク黒鉛(平均粒度0.18mm;Asbury Carbons、Asbury NJ)、および250グラムの磁性鋼ボールを高エネルギーボールミル容器中に入れた。ボールミルを300rpmで2時間運転した。容器の蓋を取り外し、磁石でステンレス鋼ボールを除去した。ポリマー担体材料が暗色のグラフェン層で覆われたことが分かった。担体材料を50メッシュのふるいの上に置き、少量の未処理のフレーク黒鉛を除去した。
【0104】
次いで、被覆された担体材料の試料を80℃のテトラクロロエチレン中に24時間浸漬して、PPを溶解させて、グラフェンシートを有機溶媒中に分散させた。溶媒を除去した後、単離したグラフェンシート粉末を回収した(大部分が数層グラフェン)。残りの被覆された担体材料は、次いで金型キャビティ中で圧密してグリーンコンパクトを形成し、次いでこれを密閉したるつぼ中350℃において、次いで600℃において2時間で熱処理して、グラフェン-炭素発泡体を作製した。
【0105】
別の実験において、同じバッチのPPペレットおよびフレーク黒鉛粒子(衝突鋼ボールは使用せず)を同じ高エネルギーボールミル容器中に入れ、ボールミルを同じ条件下で同じ時間運転した。これらの結果を、衝突ボールを用いた運転で得られた結果と比較した。PPを溶解させることでPP粒子から単離された単離グラフェンシートは、ほとんどが単層グラフェンである。このプロセスで製造されたグラフェン-炭素発泡体は、高レベルの多孔率(より低い物理的密度)を有する。
【0106】
本明細書においてポリプロピレン(PP)を一例として使用しているが、グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体を製造するための担体材料はPPに限定されるものではない。ポリマーを粒子形態にできるのであれば、あらゆるポリマー(熱可塑性、熱硬化性、ゴム、ワックス、マスチック、ゴム、有機樹脂など)であってよい。未硬化または部分硬化の熱硬化性樹脂(エポキシドおよびイミドベースのオリゴマーまたはゴムなど)は、室温またはより低温(例えば極低温)で粒子形態にすることが可能なことに留意されたい。したがって、部分的に硬化させた熱硬化性樹脂粒子でさえもポリマー担体として使用できる。
【0107】
実施例2:グラフェン源としての膨張黒鉛(厚さ>100nm)およびポリマー固体担体粒子としてのABSを使用するグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体
実験において、固体担体材料粒子としての100グラムのABSペレットを5グラムの膨張黒鉛とともに16オンスのプラスチック容器中に入れた。この容器を音響混合装置(Resodyn Acoustic mixer)中に入れ、30分間処理した。処理後、担体材料が炭素の薄層で覆われたことが分かった。担体材料の少量の試料をアセトン中に入れ、ABSの溶解を促進するために超音波エネルギーを加えた。適切なフィルターを用いて溶液を濾過し、追加のアセトンで4回洗浄した。洗浄後、濾液を60℃に設定した真空オーブン中で2時間乾燥させた。この試料を光学顕微鏡法で調べると、グラフェンであることが分かった。残りのペレットを押出成形して、グラフェン-ポリマーシート(厚さ1mm)を作製し、次いでこれらを、異なる温度および圧縮条件下で炭化させてグラフェン-炭素発泡体試料を作製した。
【0108】
実施例3:メソカーボンマイクロビーズ(グラフェン源材料としてのMCMB)およびポリアクリロニトリル(PAN)繊維(固体担体粒子として)からのグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の製造
一例では、100グラムのPAN繊維セグメント(担体粒子として長さ2mm)、5グラムのMCMB(China Steel Chemical Co.、Taiwan)、および50グラムのジルコニアビーズを振動ボールミル中に入れ、2時間処理した。処理の終了後、次いで振動ミルを開くと、担体材料がグラフェンシートの暗色の被覆で覆われていることが分かった。明確に異なるサイズおよび色を有するジルコニア粒子を手作業で取り除いた。次いで、得られたグラフェン被覆PAN繊維を圧密して互いに溶融させて、数枚の複合フィルムを作製した。これらのフィルムを250℃で1時間(室内空気中)、350℃で2時間、および1,000℃で2時間(アルゴンガス雰囲気下)熱処理して、グラフェン-炭素発泡体層を得た。炭化させた発泡体層の半分は、次いで2,850℃まで加熱し、この温度を0.5時間維持した。
【0109】
実施例4:フリーザーミル中のポリマー担体としての硬化フェノール樹脂の粒子
実験において、10グラムのフェノール樹脂粒子をSPEXミルの試料ホルダ(SPEX Sample Prep、Metuchen、NJ)中に、黒鉛化ポリイミドから得られる0.25グラムのHOPG粉末および磁性ステンレス鋼インパクターとともに入れた。同じ実験を行ったが、試料ホルダはインパクターボールを含まなかった。これらのプロセスは、完成生成物上での水の凝縮を減少させるために、湿度1%の「乾燥室」中で行った。SPEXミルを10~120分間運転した。運転後、試料ホルダの内容物を分類して、残留HOPG粉末およびインパクターボール(使用した場合)を除去することによって、グラフェン被覆樹脂粒子を回収した。
【0110】
両方の場合(インパクターボールを使用した場合、または使用しなかった場合)で得られたグラフェン被覆樹脂粒子について、デジタル光学顕微鏡法および走査型電子顕微鏡法(SEM)の両方を用いて調べた。樹脂粒子を包み込むグラフェンシートの厚さは、ミルの運転時間とともに増加し、同じ運転時間の場合は、インパクターを使用した運転によって、より厚いグラフェン被覆が得られることを観察した。
【0111】
グラフェン被覆樹脂粒子の材料を圧縮してグリーンコンパクトを形成し、次いでこれに少量の石油ピッチを浸透させた。これとは別に、グラフェン被覆樹脂粒子の別のグリーンコンパクトを同等の条件下で作製したが、ピッチの浸透は試みなかった。これら2つのコンパクトに対して、次いで同一の熱分解処理を行った。
【0112】
実施例5:グラフェン源としての天然黒鉛粒子、固体担体粒子としてのポリエチレン(PE)もしくはナイロン6/6のビーズ、および添加される衝突ボールとしてのセラミックもしくはガラスのビーズ
実験において、0.5kgのPEもしくはナイロンのビーズ(固体担体材料として)、50グラムの天然黒鉛(グラフェンシート源)、および250グラムのジルコニア粉末(衝突ボール)を遊星ボールミルの容器中に入れた。このボールミル300rpmで4時間運転した。容器の蓋を取り外し、ジルコニアビーズ(グラフェン被覆PEビーズとは異なるサイズおよび重量)を振動ふるいによって除去した。ポリマー担体材料粒子が暗色のグラフェン層で覆われたことが分かった。担体材料を50メッシュのふるいの上に置き、少量の未処理のフレーク黒鉛を除去した。別の実験において、ガラスビーズを衝突ボールとして使用し、他のボールミル運転条件は同じままとした。
【0113】
グラフェン被覆PEペレットの材料、およびグラフェン被覆ナイロンビーズの材料を別々に金型キャビティ中で圧密し、PEまたはナイロンの融点よりも高温に短時間加熱し、次いで急冷して2つのグリーンコンパクトを作製した。比較の目的で、被覆されていないPEペレットの材料および被覆されていないナイロンビーズの材料から、2つの対応するコンパクトを作製した。これら4つのコンパクトに対して、次いで熱分解を行った(100℃~650℃のチャンバ中でコンパクトを加熱することによって)。結果は非常に驚くべきものであった。グラフェン被覆ポリマー粒子のコンパクトは、元のコンパクトの寸法(3cm×3cm×0.5cm)と同等の寸法を有するグラフェン-炭素ハイブリッド発泡構造に変換されたことが分かった。これらの構造のSEM検査では、グラフェンシートのエッジ付近に炭素相が存在し、これらの炭素相がグラフェンシートを互いに結合させる機能を果たしていることを示している。
図2(A)に概略的に示されるように、炭素が結合したグラフェンシートは、元のポリマー粒子が占めた空間であった空間中に存在する細孔を有するグラフェン-炭素ハイブリッド細孔壁の骨格を形成する。
【0114】
対照的に、被覆されていないペレットまたはビーズから得た2つのコンパクトは、元のコンパクトの体積の約15%~20%の体積を有する実質的に2つの炭素固体材料となるまで収縮した。これらの非常に収縮した固体材料は、実質的に細孔のない炭素材料であり、これらは発泡材料ではない。
【0115】
実施例6:固体ポリマー担体粒子としてのミクロンサイズのゴム粒子
この実験は、ミクロンサイズのゴム粒子の作製から開始した。周囲条件下で1分間ホモジナイザーを使用することによって、メチルヒドロジメチルシロキサンポリマー(20g)とポリジメチルシロキサンのビニルジメチル末端ポリマー(30g)との混合物を得た。Tween 80(4.6g)を加え、その混合物を20秒間均質化した。白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(15gのメタノール中0.5g)を加え、10秒間混合した。この混合物を350gの蒸留水に加え、15分間均質化することによって安定なラテックスを得た。このラテックスを60℃に15時間加熱した。次いでラテックスに無水硫酸ナトリウム(20g)を加えて脱乳化して、減圧下で濾過することによってシリコーンゴム粒子を得て、蒸留水で洗浄し、減圧下25℃で乾燥させた。得られたゴム粒子の粒度分布は3~11μmであった。
【0116】
一例では、10グラムのゴム粒子、2グラムの天然黒鉛、および5グラムのジルコニアビーズを振動ボールミル中に入れ、2時間処理した。処理の終了後、次いで振動ミルを開くと、ゴム粒子がグラフェンシートの暗色の被覆で覆われたことが分かった。ジルコニア粒子を手作業で取り除いた。得られたグラフェン被覆ゴム粒子を、次いで5重量%の石油ピッチ(バインダーとして)と混合し、互いに機械的に圧密して、数枚の複合シートを形成した。これらの複合シートに対して、次いで、管状炉中で350℃で1時間、650℃で2時間、および1,000℃で1時間の熱処理を行って、グラフェン-炭素発泡体層を得た。
【0117】
実施例7:フッ化グラフェン発泡体の作製
典型的な手順では、密閉したオートクレーブ反応器中で三フッ化塩素の蒸気によってグラフェン-炭素ハイブリッドのシートをフッ素化して、フッ素化グラフェン-炭素ハイブリッドフィルムを得た。異なるフッ素化時間によって、異なるフッ素化度を実現できた。フッ素化グラフェン-炭素発泡体のシートを、次いで別々に、それぞれクロロホルム-水混合物が入った容器中に浸漬した。本発明者らは、これらの発泡体シートが水からクロロホルムを選択的に吸収し、フッ素含有量が7.3重量%に到達するまで、吸収クロロホルム量がフッ素化度とともに増加することを確認した(
図9)。
【0118】
実施例8:酸化グラフェン発泡体および窒素化グラフェン発泡体の作製
実施例3で作製した数個のグラフェン-炭素発泡体を30%H2O2-水溶液中に2~48時間浸漬して、2~25重量%の酸素含有量を有する酸化グラフェン(GO)発泡体を得た。
【0119】
幾つかのGO発泡体試料を異なる比率の尿素と混合し、得られた混合物をマイクロ波反応器(900W)中で0.5~5分間加熱した。生成物を脱イオン水で数回洗浄し、真空乾燥した。得られた生成物は窒素化グラフェン発泡体であった。元素分析によって測定される窒素含有量は3%~17.5重量%であった。
【0120】
グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体の異なる官能化処理を異なる目的で行ったことに留意されたい。例えば、酸化グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体構造は、油-水混合物(すなわち、水上に油がこぼれ、次いで互いに混合される)からの油の吸収剤として特に有効である。この場合、一体型3Dグラフェン(0~15重量%の酸素)-炭素発泡体構造は、疎水性および親油性の両方となる(
図7および
図8)。表面または材料は、水がこの材料または表面からはじかれる場合に疎水性と呼ばれ、疎水性の表面または材料の上に水滴を載せると大きな接触角が形成される。表面または材料は、油に対して強い親和性を有し水に対して親和性を有さない場合に親油性と呼ばれる。
【0121】
O、F、および/またはNの異なる含有量によって、本発明によるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体は、水から異なる有機溶媒を吸収可能となったり、複数の溶媒の混合物から1種類の有機溶媒を分離可能となったりもする。
【0122】
比較例1:Hummerの方法によるグラフェンおよびグラフェン-ポリマー複合物の炭化
酸化黒鉛は、Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]による硫酸、硝酸塩、および過マンガン酸塩を用いた黒鉛フレークの酸化によって調製される。反応終了後、得られた混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。大部分の硫酸イオンを除去するため、得られた酸化黒鉛をHClの5%溶液中で繰り返し洗浄した。次いで、濾液のpHが中性となるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。得られたスラリを噴霧乾燥し、真空オーブン中60℃で24時間保管した。結果として得られる層状酸化黒鉛の層間隔をDebey-ScherrerのX線技術によって測定すると約0.73nm(7.3A)であった。次いでこの材料の試料を、剥離のために、650℃にあらかじめ設定した炉に4分間入れ、1200℃の不活性雰囲気の炉中で4時間加熱して、数層還元酸化グラフェン(RGO)から構成される低密度粉末を形成した。窒素吸着BETによって表面積を測定した。次いでこの粉末を1%~25%の使用量でABS、PE、PP、およびナイロンのペレットとそれぞれ乾式混合し、25mmの二軸スクリュー押出機を用いて配合して、複合シートを形成した。次いでこれらの複合シートを熱分解させた。
【0123】
比較例2:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からの単層酸化グラフェン(GO)シートの作製、次いでGOシートからのグラフェン発泡体層の製造
メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は、China Steel Chemical Co.,Kaohsiung,Taiwanから供給された。この材料は、約2.24g/cm3の密度を有し、メジアン粒度は約16μmである。MCMB(10グラム)に酸溶液(4:1:0.05の比率の硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウム)を48~96時間インターカレートさせた。反応終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。大部分の硫酸イオンを除去するために、インターカレートさせたMCMBをHClの5%溶液中で繰り返し洗浄した。次いで、濾液のpHが4.5以上になるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。次いで、得られたスラリに対して10~100分の超音波処理を行って、GO懸濁液を得た。TEMおよび原子間力顕微鏡による研究では、酸化処理が72時間を超える場合はほとんどのGOシートが単層グラフェンであり、酸化時間が48~72時間の場合は2または3層グラフェンであることが示される。
【0124】
これらのGOシートは、48~96時間の酸化処理時間の場合に約35重量%~47重量%の酸素比率を含む。GOシートを水中に懸濁させた。キャスティングの直前に、化学発泡剤としての重曹(5~20重量%)を懸濁液に加えた。次いで、懸濁液をガラス表面上にキャスティングした。数個の試料をキャスティングし、幾つかは発泡剤を含み、幾つかは発泡剤を含まないものであった。液体の除去後に得られたGOフィルムは、約10~500μmで変動しうる厚さを有する。発泡剤を有するまたは有さない数枚のGOフィルムのシートに対して、次いで、1~5時間で80~500℃の加熱温度を含む熱処理を行うことで、グラフェン発泡体構造を作製した。
【0125】
比較例3:純粋なグラフェン発泡体(0%の酸素)の作製
個別のグラフェン面の伝導率を低下させる作用が得られるGOシート中の高欠陥集団の可能性を認識して、本発明者らは、純粋なグラフェンシート(酸化されず酸素を含まない、ハロゲン化されずハロゲンを含まない、など)を使用することで、より高い熱伝導率を有するグラフェン発泡体を得ることができるかどうかを調べることにした。直接超音波処理法(当技術分野において液相剥離としても知られる)を用いて、純粋なグラフェンシートを作製した。
【0126】
典型的な手順では、約20μm以下のサイズに粉砕した5グラムの黒鉛フレークを1,000mLの脱イオン水(0.1重量%の分散剤を含む。DuPont社製のZonyl(登録商標)FSO)中に分散させて、懸濁液を得た。グラフェンシートの剥離、分離、およびサイズ減少のために、85Wの超音波エネルギーレベル(Branson S450 Ultrasonicator)を15分~2時間の期間にわたって使用した。得られたグラフェンシートは、一度も酸化されておらず、酸素を含まず、比較的欠陥のない純粋なグラフェンである。純粋なグラフェンは、非炭素元素を本質的に含まない。
【0127】
種々の量(グラフェン材料に対して1重量%~30重量%)の化学発泡剤(N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミンまたは4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))を、純粋なグラフェンシートおよび界面活性剤を含む懸濁液に加えた。次いで懸濁液をガラス表面上にキャスティングした。数個の試料をキャスティングし、キャスティング直前に懸濁液に導入した物理発泡剤としてCO2を使用した試料を含んだ。液体の除去後に得られたグラフェンフィルムは、約10~100μmで変動しうる厚さを有する。次いで、これらのグラフェンフィルムに対して、80~1,500℃で1~5時間の熱処理を行って、グラフェン発泡体を作製した。
【0128】
比較例4:Ni発泡体テンプレート上のCVDグラフェン発泡体
公開文献のChen,Z.et al.“Three-dimensional flexible and conductive interconnected graphene networks grown by chemical vapor deposition,”Nat.Mater.10,424-428(2011)に開示される手順を適応させた。ニッケルの相互接続された3D足場を有する多孔質構造のニッケル発泡体を、グラフェン発泡体の成長のためのテンプレートとして選択した。簡潔に述べると、周囲圧力下で1,000℃においてCH4を分解させることによってニッケル発泡体中に炭素を導入し、次いでグラフェンフィルムをニッケル発泡体の表面上に堆積した。ニッケルとグラフェンとの間の熱膨張係数の差のため、グラフェンフィルム上に波形および皺が形成された。グラフェン発泡体を回収(分離)するために、Niフレームをエッチングで除去する必要がある。熱HCl(またはFeCl3)溶液によってニッケル骨格をエッチングで除去する前に、ニッケルのエッチング中にグラフェンネットワークの崩壊を防止するための支持体として、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)の薄層をグラフェンフィルムの表面上に堆積した。熱アセトンによってPMMA層を注意深く除去した後、脆いグラフェン発泡体試料が得られた。PMMA支持層の使用は、グラフェン発泡体の自立フィルムを作製するために重要であり、PMMA支持層を使用しない場合は、単に非常に破壊され変形したグラフェン発泡体試料が得られた。これは、環境に優しくなく適応性のない時間のかかる方法である。
【0129】
比較例5:ピッチベースの炭素発泡体からの従来の黒鉛発泡体
ピッチの粉末、顆粒、またはペレットを、発泡体の所望の最終形状を有するアルミニウム鋳型に入れる。Mitsubishi ARA-24メソフェーズピッチを利用した。試料を1トール未満に排気し、次いで約300℃の温度に加熱する。この時点で、真空を解放して窒素ブランケットとし、次いで1,000psiまでの圧力を加えた。次いで、系の温度を800℃に上昇させた。これは2℃/分の速度で行った。温度を少なくとも15分間保って浸漬を実現し、次いで炉の電力を切って約1.5℃/分の速度で室温まで冷却し、それと共に約2psi/分の速度で圧力を解放した。最終的な発泡体の温度は、630℃および800℃であった。冷却サイクル中、圧力は大気条件まで徐々に解放される。次いで、発泡体を窒素ブランケット下で1050℃まで熱処理(炭化)し、次いで、黒鉛るつぼ内で、アルゴン中で2500℃および2800℃まで別々に熱処理(黒鉛化)した。
【0130】
比較例6:熱水還元した酸化グラフェンからのグラフェン発泡体
比較のため、1段階熱水方法によって、自己組織化グラフェンヒドロゲル(SGH)試料を調製した。典型的な手順では、SGHは、Teflonでライニングされたオートクレーブ中に密閉した2mg/mLの均一な酸化グラフェン(GO)水性分散液を180℃で12時間加熱することによって容易に調製することができる。約2.6%(重量基準)のグラフェンシートおよび97.4%の水を含むSGHは、約5×10-3S/cmの導電率を有する。乾燥および1,500℃における熱処理の後、得られるグラフェン発泡体は約1.5×10-1S/cmの導電率を示し、これは同じ温度で熱処理することによって製造される本発明によるグラフェン発泡体の導電率の2分の1である。
【0131】
実施例9:種々のグラフェン発泡体および従来の黒鉛発泡体の熱的および機械的試験
種々の従来の炭素またはグラフェン発泡体材料から得た試料を、熱伝導率測定用の試験片に機械加工した。メソフェーズピッチ由来の発泡体のバルク熱伝導率は67W/mK~151W/mKの範囲であった。試料の密度は0.31~0.61g/cm3であった。重量を考慮すると、ピッチ由来の発泡体の比熱伝導率は、単位比重当たり(または単位物理的密度当たり)、約67/0.31=216および151/0.61=247.5W/mKである。
【0132】
0.51g/cm3の平均密度を有する試料の圧縮強度を測定すると3.6MPaであり、圧縮弾性率を測定すると74MPaであった。対照的に、同等の物理的密度を有する本発明によるグラフェン-炭素発泡体試料の圧縮強度および圧縮弾性率は、それぞれ6.2MPaおよび113MPaである。
【0133】
図4(A)中に、3Dグラフェン-炭素発泡体、メソフェーズピッチ由来の黒鉛発泡体、およびNi発泡体テンプレート支援CVDグラフェン発泡体の熱伝導率対比重を示している。これらのデータは、以下の予期せぬ結果を明確に示している:
1)本発明による方法によって作製した3D一体型のグラフェン-炭素発泡体は、同じ物理的密度の場合に、メソフェーズピッチ由来の黒鉛発泡体およびNi発泡体テンプレート支援CVDグラフェンの両方と比較すると顕著に高い熱伝導率を示す。
【0134】
2)これは、CVDグラフェンは酸化が行われていない実質的に純粋なグラフェンであり、本発明者らのグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体よりも高い熱伝導率を示したはずであるという見解を考慮すると、非常に驚くべきことである。ハイブリッド発泡体の炭素相は、一般に結晶化度が低く(一部が非晶質炭素である)、したがって、グラフェン単独と比較するとはるかに低い熱伝導率または導電率を有する。しかし、炭素相がグラフェンシートと結合して、本発明による方法により形成される一体型構造を形成すると、結果として得られるハイブリッド形態は、完全に純粋なグラフェン発泡体と比較してある熱伝導率を示す。本発明により作製されたグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体で観察されるこれらの非常に高い熱伝導率値は、本発明者らにとって非常に驚くべきことである。これは、他の場合には単離しているグラフェンシートが、この場合、炭素相によって結合して、電子およびフォノンの連続した輸送のための橋が形成されるという観察によるものと思われる。
【0135】
3)本発明によるハイブリッド発泡体材料の比伝導率値は、単位比重当たり250~500W/mKの値を示すが、他の種類の発泡体材料の値は典型的には単位比重当たり250W/mK未満である。
【0136】
4)
図5中に、一連の3Dグラフェン-炭素発泡体および一連の純粋なグラフェン由来の発泡体の熱伝導率データをまとめており、どちらも最終(最高)熱処理温度にわたってプロットしている。両方の種類の材料で、熱伝導率は最終HTTとともに単調増加する。しかし、本発明による方法によって、純粋なグラフェン発泡体より優れたグラフェン-炭素発泡体の費用対効果が高く環境に優しい製造が可能となる。これは、もう1つの予期せぬ結果である。
【0137】
5)
図4(B)は、本発明によるハイブリッド発泡体および熱水還元されたGOグラフェン発泡体の熱伝導率値を示している。
図6中には、3Dグラフェン-炭素発泡体および熱水還元されたGOグラフェン発泡体の導電率値を示している。これらのデータは、同量の固体材料の場合、本発明によるグラフェン-炭素発泡体は本来ほとんど伝導性であり、電子およびフォノンの輸送経路の顕著な連続性を反映しているという見解をさらに支持している。炭素相が、グラフェンシート間の間隙または中断を埋める。
【0138】
実施例10:種々のグラフェン発泡体および従来の黒鉛発泡体の特性決定
幾つかの一連のグラフェン-炭素発泡体材料の内部構造(結晶構造および配向)について、X線回折を用いて調べた。天然黒鉛のX線回折曲線は、典型的にはおおよそ2θ=26°においてピークを示し、約0.3345nmのグラフェン間隔(d002)に相当する。ハイブリッド発泡体材料のグラフェン壁は、典型的には0.3345nm~0.40nm、より典型的には最大0.34nmのd002間隔を示す。
【0139】
発泡体構造に対して圧縮下で1時間の2,750℃の熱処理温度を使用すると、d002間隔が約0.3354nmまで減少し、黒鉛単結晶の値と同じである。さらに、高強度の第2の回折ピークが2θ=55°に現れ、これは(004)面からのX線回折に相当する。同じ回折曲線上の(002)強度に対する(004)ピーク強度、すなわちI(004)/I(002)比は、結晶完全性の程度およびグラフェン面の好ましい配向の良好な指標となる。2,800℃未満の温度で熱処理されたあらゆる黒鉛材料の場合、(004)ピークは、存在しないか、比較的弱いかのいずれかであり、I(004)/I(002)比<0.1である。3,000~3,250℃で熱処理した(例えば、高配向熱分解黒鉛、HOPG)黒鉛材料のI(004)/I(002)比は0.2~0.5の範囲内である。対照的に、2,750℃の最終HTTで1時間で作製したグラフェン発泡体は、0.78のI(004)/I(002)比および0.21のモザイクスプレッド値を示し、細孔壁は実質的に完全なグラフェン単結晶であり良好な程度の好ましい配向を有する(圧縮力下で作製した場合)ことを示している。
【0140】
「モザイクスプレッド」値は、X線回折強度曲線中の(002)反射の半値全幅から得られる。この秩序度の指数によって、黒鉛またはグラフェンの結晶サイズ(または結晶粒度)、結晶粒界および別の欠陥の量、ならびに好ましい結晶粒配向が特徴付けられる。黒鉛のほぼ完全な単結晶は、0.2~0.4のモザイクスプレッド値を有することを特徴とする。本発明者らのグラフェン発泡体の幾つかは、2,500℃以上の最終熱処理温度を用いて製造した場合、この0.3~0.6の範囲内のモザイクスプレッド値を有する。
【0141】
以下は、より顕著な結果の一部のまとめである:
1)一般に、衝突ボールの添加は、黒鉛粒子からのグラフェンシートの剥離過程の促進に役立つ。しかし、この選択肢は、グラフェン被覆ポリマー粒子が作製された後に、これらの衝突ボールの分離が必要となる。
【0142】
2)衝突ボール(例えばセラミック、ガラス、金属のボールなど)が使用されない場合、より硬質のポリマー粒子(例えばPE、PP、ナイロン、ABS、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレンなど、およびそれらのフィラーで強化されたバージョン)は、より軟質のポリマー粒子(例えばゴム、PVC、ポリビニルアルコール、ラテックスの粒子)よりも黒鉛粒子からグラフェンシートを剥離する能力が高い。
【0143】
3)外部から衝突ボールを加えない場合、同じ1時間の運転時間の場合で、より軟質のポリマー粒子で、0.001重量%~5重量%のグラフェン(ほとんどが単層グラフェンシート)を有するグラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子が得られる傾向にあり、より硬質のポリマーボールで、0.01重量%~30重量%のグラフェン(ほとんどが単層および数層グラフェンシート)を有するグラフェン被覆粒子が得られる傾向にある。
【0144】
4)外部から加えられる衝突ボールを使用する場合、全てのポリマーボールが、0.001重量%~約80重量%のグラフェンシート(ほとんどが数層グラフェン、30重量%を超えるグラフェンシートの場合<10層)を支持することができる。
【0145】
5)本発明によるグラフェン-炭素ハイブリッド発泡体材料は典型的には、従来の先行技術方法によって製造されるそれらの相当物と比較して、顕著に高い構造的完全性(例えば圧縮強度、弾性、および弾力性)および高い熱伝導率および導電率を示す。
【0146】
6)黒鉛発泡体またはグラフェン発泡体の全ての従来技術の製造方法では、わずか約0.2~0.6g/cm3の範囲内の物理的密度を有するマクロ多孔質発泡体が得られることが分かり、孔径は、意図する用途のほとんどでは典型的には大きすぎる(例えば20~300μm)ことに注目することは重要である。対照的に、本発明は、低くて0.001g/cm3、高くて1.7g/cm3となりうる密度を有するグラフェン発泡体を製造する方法を提供する。それらの孔径は、顕微鏡的(<2nm)から、メソスケール(2~50nm)、および最大でマクロスケールまで(例えば1~500μm)まで変動しうる。様々な種類のグラフェン-炭素発泡体の設計におけるこのレベルの自由度および汎用性は、前例がなく、いずれの従来技術の方法でも到達できない。
【0147】
7)本発明による方法は、種々の用途の要求(例えば油で汚染された水からの油の回収、水または別の溶媒からの有機溶媒の分離、放熱など)に応じて、化学組成(例えばF、O、およびNの含有量など)に対する好都合でおよび自由度の高い制御も可能となる。
【0148】
結論として、本発明者らは、完全に新しく、新規で、予期せぬ、明確に異なる種類の高伝導性グラフェン-炭素ハイブリッド発泡体材料、デバイス、および関連する製造方法を首尾良く開発した。この新しい種類の発泡体材料の化学組成(酸素、フッ素、および別の非炭素元素の%)、構造(結晶完全性、結晶粒度、欠陥集団など)、結晶配向、形態、製造方法、および性質は、メソフェーズピッチ由来の黒鉛発泡体、CVDグラフェン由来の発泡体、およびGOの熱水還元から得られるグラフェン発泡体とは根本的に別のものであり明らかに異なる。