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特許7038676細胞分離のための組成物、装置、及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-10
(45)【発行日】2022-03-18
(54)【発明の名称】細胞分離のための組成物、装置、及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220311BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20220311BHJP
   B01J 20/291 20060101ALI20220311BHJP
   G01N 33/544 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
B01D15/38
B01J20/291
G01N33/544 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018568187
(86)(22)【出願日】2017-03-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 US2017023207
(87)【国際公開番号】W WO2017161371
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】62/310,360
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518329295
【氏名又は名称】キューティー ホールディングス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】QT HOLDINGS CORP
【住所又は居所原語表記】3F Gill Street Woburn, MA 01801 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ケヴラハン, ショーン, エッチ.
(72)【発明者】
【氏名】ボール, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】チン, グォクィ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ, スティーヴン, ビー.
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506671(JP,A)
【文献】特表平11-501928(JP,A)
【文献】特表2010-535341(JP,A)
【文献】国際公開第2012/068243(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/148512(WO,A1)
【文献】特表2011-504410(JP,A)
【文献】Products, [online],2015年02月16日,https://web.archive.org/web/20150216194952/http://www.percell.se/products.htm,Internet, [retrieved on 2021.03.15]
【文献】宮島千尋,アルギン酸類の概要と応用,繊維と工業,2009年,Vol. 65,pp. 444-448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
B01J 20/00-20/34
B01D 15/00-15/42
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞の表面に結合するように構成された結合ユニットにそれぞれ結合した複数のヒドロゲルマイクロビーズを含む組成物であって、前記ヒドロゲルマイクロビーズは、1~1000μmの直径を有し、前記ヒドロゲルマイクロビーズはアルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーとMg 2+ 、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Ba 2+ 、Zn 2+ 、Cu 2+ 及びAl 3+ から選択されるカチオンを含むカチオン性架橋剤とを含み、前記ヒドロゲルマイクロビーズの全ては、前記カチオン性架橋剤の有効性が低下すると液状化する、組成物。
【請求項2】
前記マイクロビーズは1~2の多分散指数を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記結合ユニットは前記マイクロビーズの表面に結合している、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記結合ユニットは、抗体又はその抗原結合断片、ビオチン、又はビオチン結合タンパク質を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、一本鎖Fv分子、二重特異性一本鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fv断片、Fab断片、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)断片である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記結合ユニットは、T細胞受容体(TCR)、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD25、CD33、CD34、CD45RO、CD56、主要組織適合性複合体(MHC)、及びキメラ抗原受容体(CAR)からなる群から選ばれる1種以上の細胞表面分子に結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記カチオンはCa2+である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
入口と出口を備える容器を含む装置であって、
前記容器はヒドロゲルマイクロビーズを含む多孔性基材を収容し、且つ多孔性基材を前記容器内に保持しながら細胞が前記入口から前記出口へ通過可能に構成され、
標的細胞の表面に結合するように構成された結合ユニットが、前記多孔性基材に結合しており、
前記ヒドロゲルマイクロビーズはアルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーとMg 2+ 、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Ba 2+ 、Zn 2+ 、Cu 2+ 及びAl 3+ から選択されるカチオンを含むカチオン性架橋剤とを含み、
前記多孔性基材の全て又は一部は前記カチオン性架橋剤の有効性が低下したときに液状化する、
装置。
【請求項9】
前記出口に動作可能に接続された1つ又は複数の追加の容器をさらに備え、前記1つ又は複数の追加の容器のそれぞれが、同じ又は異なる結合ユニットを含む、請求項に記載の装置。
【請求項10】
1つ以上の三方バルブをさらに備える、請求項に記載の装置。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物と、細胞が通過できるが前記ヒドロゲルマイクロビーズは通過できないストレーナーとを含む、キット。
【請求項12】
前記ストレーナーはメッシュ又はシーブを含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記ストレーナーは1~1000μmのポアサイズを有する、請求項12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、細胞分離、細胞培養、及びバイオプロセスの分野に関する。より具体的には、本発明は、研究又は臨床応用のために細胞の特定のサブポピュレーションを単離又は濃縮するための改良されたプロトコルに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞ベースの治療法は、癌、糖尿病、及び世界中の患者に影響を及ぼす他の多くの疾病のための画期的な治療法を提供し、今後数十年間に医療を変える見込みがある。しかし、この可能性を実現するためには、安全かつ経済的に実行可能な方法で機能性細胞を作製する方法が必要とされる。標的細胞集団の濃縮、及びそれに続く定義された細胞集団由来の所望の細胞の培養は、多くの複雑な生物学的及び生物医学的ワークフローにおいて重要な第一歩である。従って、改善された細胞濃縮プロセスは、基礎的な生物学的研究、組織工学、再生医療、及び診断/治療のヘルスモニタリングの分野において全体的に単純化された実験プロトコルに貢献する。先進的な細胞ベースの治療薬の製造は、表面抗原発現に基づく細胞の精製を必要とする。そのような細胞は、サイズ又は密度などの物理的パラメータのみでは、同じ供給源(例えば、血液又は組織)内の他のものと区別することができない。したがって、このような細胞の精製は、典型的には、表面マーカーのタグ付けを必要とする。
【0003】
現在の臨床検査室及び基礎的な生物学研究応用は、以下を含む、対象の標的細胞の単離及び研究における重大な課題に直面している。(1)非標的細胞の複雑な混合物からの高純度のマルチマーカーベースの細胞分離を達成することの困難性、(2)血液細胞及び骨髄等の極めて異種の集団を有する複雑な自然環境、(3)いくつかの所望の細胞の単離に必要な血液特性及び状態の不正確な分析、(4)幹細胞又は前駆細胞等の場合における、低い開始細胞濃度のための非効率的な大規模な細胞濃縮、(5)多数の生物医学的追跡をサポートするための高い細胞生存率を有する2つ以上の細胞型の効果的な選別。
【0004】
現在、物理的分離技術は、一般的に予備精製及び濃縮に使用されるが、特異性が低く、大規模に処理することが困難である。磁気分離は高価で、遅く、多くの労力を要する。ポジティブセレクション技術を必要とする場合、磁気分離は、精製された細胞に付着した残留磁気ビーズを残し、増殖を妨げ、生存率を低下させ得る。これらの残留ビーズは、最終的に、移植及び生着用途における細胞有効性を低下させる。
【0005】
細胞機能を維持しながら高い細胞純度及び収率をもたらす効果的な細胞分離技術が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、精製された細胞集団に対する機能的影響を最小限にしながら、高純度及び高収率で複数の細胞型を精製することができる効率的なアフィニティークロマトグラフィー細胞選別システムを開発した。本発明は、アフィニティークロマトグラフィーシステムで使用するために固有の生体適合性の溶解性ヒドロゲルを適合させ、残留親和性タグ(例えば、免疫蛍光又は磁気タグ)なしにポジティブセレクションを可能にする。
【0007】
一態様では、本発明は、標的細胞の表面に結合するように構成された結合ユニットに結合した基材(例えば、多孔性基材)、及び細胞は通過できるが基材は通過することができないストレーナー(例えば、容器内のハウジング)を含むキットを提供する。ここで、架橋剤の有効性が低下したときに基材の全部又は一部は液状化する。一実施形態では、キットは、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグライム、又はトリグライム等の基材を架橋するカチオンのキレート化剤をさらに含む。基材は、例えば、1~1000μm(例えば、2~500μm、3~200μm、4~100μm、又は5~20μm)の直径を有するマイクロビーズを含んでいてもよい。一実施形態において、マイクロビーズは、1~2の多分散指数を有する。結合ユニットは、例えば、マイクロビーズの表面に結合する。ストレーナーは、メッシュ又はシーブを含んでいてもよく、1~1000μm(例えば、1~30μm、10~40μm、20~30μm、5~50μm、20~80μm、1~100μm、200~500μm、又は500~1000μm)のポアサイズを有していてもよい。
【0008】
一実施形態では、基材はヒドロゲル等の架橋性ポリマーを含む。他の実施形態では、架橋剤はイオン(例えばカチオン(Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+等で、特にCa2+))である。さらなる実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸(例えば、アルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーの形態の)を含む。ヒドロゲルは、例えば、約0.01~400センチポアズ(cP)(例えば、約80cP)のメジアン粘度を有する。
【0009】
結合ユニットは、抗体又はその抗原結合断片、ビオチン、又はビオチン結合タンパク質を含んでいてもよい。抗体又はその抗原結合断片の例としては、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、一本鎖Fv分子、二重特異性一本鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fv断片、Fab断片、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)断片を含む。一実施形態において、結合ユニットは、T細胞受容体(TCR)、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD25、CD33、CD34、CD45RO、CD56、主要組織適合性複合体(MHC)、及びキメラ抗原受容体(CAR)からなる群から選ばれる1種以上の細胞表面分子に結合する。
【0010】
別の態様では、本発明は、標的細胞の表面に結合するように構成された結合ユニットにそれぞれ結合した複数のヒドロゲルマイクロビーズを含む組成物を提供し、ここで、上記ヒドロゲルマイクロビーズは、約1~1000μmの直径を有し、上記ヒドロゲルマイクロビーズの全ては架橋剤の有効性が低下すると液状化する。ヒドロゲルマイクロビーズは、アルギン酸(例えば、アルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーの形態のもの)含んでいてもよい。ヒドロゲルは、例えば、約0.01~400センチポアズ(cP)(例えば、約80cP)のメジアン粘度を有する。一実施形態において、マイクロビーズは、1~2の多分散指数を有する。結合ユニットは、例えば、マイクロビーズの表面に結合する。一実施形態では、架橋剤はイオン(例えばカチオン(Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+等で、特にCa2+))である。結合ユニットは、抗体又はその抗原結合断片、ビオチン、又はビオチン結合タンパク質を含んでいてもよい。抗体又はその抗原結合断片の例としては、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、一本鎖Fv分子、二重特異性一本鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fv断片、Fab断片、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)断片を含む。一実施形態において、結合ユニットは、T細胞受容体(TCR)、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD25、CD33、CD34、CD45RO、CD56、主要組織適合性複合体(MHC)、及びキメラ抗原受容体(CAR)からなる群から選ばれる1種以上の細胞表面分子に結合する。有効性の低下は、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグライム、又はトリグライム等のキレート化剤の存在によって引き起こされてもよい。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、入口及び出口を有する容器(例えば、カラム又はトラフを含む)を備える装置を提供する。この容器は、多孔性基材を収容し、且つ多孔性基材を容器内に保持しながら細胞が入口から出口へ通過可能に構成されている。ここで、標的細胞の表面に結合するように構成された結合ユニットは多孔性基材に結合しており、且つ多孔質基材の全て又は一部は架橋剤の有効性が低下すると液状化する。一実施形態において、容器は、細胞の通過を可能にするストレーナー(例えば、メッシュ又はシーブを含む)を含む。ストレーナーは、メッシュ又はシーブを含んでいてもよく、1~1000μm(例えば、1~30μm、10~40μm、20~30μm、5~50μm、20~80μm、1~100μm、200~500μm、又は500~1000μm)のポアサイズを有していてもよい。
【0012】
多孔性基材は、充填層内に含まれていてもよい。一実施形態では、多孔性基材は、ヒドロゲル等の架橋性ポリマーを含む。他の実施形態では、架橋剤はイオン(例えばカチオン(Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+等で、特にCa2+))である。さらなる実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸(例えば、アルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーの形態の)を含む。ヒドロゲルは、例えば、約0.01~400センチポアズ(cP)(例えば、約80cP)のメジアン粘度を有する。多孔性基材は、マイクロビーズ(例えば、1~1000μm(例えば、2~500μm、3~200μm、4~100μm、5~20μm)のポアサイズを有する)を含んでいてもよい。一実施形態において、マイクロビーズは、1~2の多分散指数を有する。結合ユニットは、例えば、マイクロビーズの表面に結合する。有効性の低下は、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグライム、又はトリグライム等のキレート化剤の存在によって引き起こされてもよい。
【0013】
結合ユニットは、抗体又はその抗原結合断片、ビオチン、又はビオチン結合タンパク質を含んでいてもよい。抗体又はその抗原結合断片の例としては、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、一本鎖Fv分子、二重特異性一本鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fv断片、Fab断片、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)断片を含む。一実施形態において、結合ユニットは、T細胞受容体(TCR)、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD25、CD33、CD34、CD45RO、CD56、主要組織適合性複合体(MHC)、及びキメラ抗原受容体(CAR)からなる群から選ばれる1種以上の細胞表面分子に結合する。
【0014】
前記装置は、出口に動作可能に接続された1つ以上の追加の容器を含んでいてもよく、ここで、1つ以上の容器は同じ又は異なる結合ユニットを有する多孔性基材をそれぞれ含む。追加の装置は、1つ以上の三方バルブによって接続されていてもよい。
【0015】
関連する態様において、本発明は、標的細胞及び非標的細胞を含む細胞の懸濁液を提供することにより標的細胞を分離する工程、標的細胞と基材が結合可能になるように懸濁液と基材を接触させる工程(ここで、標的細胞の表面に結合するように構成された結合ユニットは基材に結合しており、架橋剤の有効性が低下したときに基材の全部又は一部は液状化する)、及び(例えば、容器内において)基材に結合した標的細胞から非結合細胞を除去し、それによって標的細胞を分離する工程を含む方法を提供する。一実施形態において、懸濁液及び基材は、容器に導入する前に接触させる。あるいは、懸濁液及び基材を容器内で接触させる。この方法は、例えば基材に結合した細胞を放出するために、基材を液状化するために架橋剤の有効性を低下させる工程をさらに含んでいてもよい。
【0016】
一実施形態では、上記方法は、懸濁液から標的細胞を含むサブポピュレーションを生成する。一実施形態では、1つ以上の細胞の標的集団は、単離された細胞集団の少なくとも80%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)の割合を占める。一実施形態では、1つ以上の細胞の標的集団は、細胞の一般集団の50%以下(例えば、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、19%、17%、18%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%、0.00001%、又はそれ以下)の割合を占める。
【0017】
本発明の任意の態様では、標的細胞は、例えば、幹細胞、循環腫瘍細胞、癌幹細胞、又は白血球である。例えば、標的細胞は、T細胞、制御性T細胞、B細胞、NK細胞、又は遺伝子組み換えT細胞(例えば、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞))である。幹細胞は、例えば、未分化又は分化した幹細胞を含む。幹細胞は、間葉系幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞、及び誘導多能性幹細胞からなる群から選択され得る。本発明の任意の態様の一実施形態において、標的細胞は、基材(例えば、多孔性基材又はマイクロビーズ)の結合ユニットが結合する第2の結合ユニットに結合する。
【0018】
本発明は、多孔性基材と、その多孔性基材に結合された結合ユニットとを備えるカラムを含む装置を提供する。結合ユニットは、標的細胞の表面に結合するように構成される。多孔性基材の全部又は一部(例えば、表面層)は、架橋剤の有効性が低下すると液状化する。一実施形態では、カラムは入口及び出口をさらに備え、多孔性基材は入口から出口への細胞の通過を可能にするように構成される。
【0019】
一実施形態では、多孔性基材は、ポリマー(例えば、架橋性ポリマー)を含む。一実施形態では、ポリマーはヒドロゲルを含む。一実施形態において、ヒドロゲルは、アルギン酸、又はアルギン酸-ポリエチレングリコール(PEG)コポリマーの形態のもの)を含む。一実施形態において、ヒドロゲルは、液体の場合、約0.01~約400cPのメジアン粘度を有する。一実施形態では、多孔性基材は複数のマイクロビーズからなる。マイクロビーズは、1~1000μm(例えば、2~500μm、3~200μm、4~100μm、又は5~20μm)の直径及び/又は1~2の多分散指数(例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された)を有し得る。
【0020】
一実施形態では、架橋剤はイオン(例えば、カチオン(例えば、Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+))である。一実施形態では、有効性の低下は、キレート化剤の存在によって引き起こされる。一実施形態では、有効性の低下は、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグライム又はトリグライムの存在によって引き起こされる。
【0021】
一実施形態において、結合ユニットは、多孔性基材(例えば、マイクロビーズの表面)に結合している。一実施形態では、結合ユニットは、抗体又はその抗原結合断片(例えば、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、一本鎖Fv分子、二重特異性一本鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fv断片、Fab断片、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)断片)を含む。
【0022】
一実施形態では、装置は、細胞の一般集団から単離された細胞集団を生成するように構成される。ここで、細胞の単離された集団は、細胞の1つ以上の標的集団が濃縮される。一実施形態では、細胞の一般集団は、幹細胞、癌幹細胞、又は白血球を含み、これらは一般集団から分離することができる。一実施形態では、細胞の1つ以上の標的集団は、1つ以上の細胞表面分子(例えば、T細胞受容体、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD25、CD33、CD34、CD44、CD45RO、CD56、CD69、主要組織適合性複合体(MHC)、又はキメラ抗原受容体)の発現によってそれぞれ特徴付けられる。
【0023】
一実施形態では、細胞の1つ以上の標的集団は、単離された細胞集団の少なくとも80%(例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)の割合を占める。
【0024】
一実施形態では、1つ以上の細胞の標的集団は、細胞の一般集団の50%以下(例えば、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%、0.00001%、又はそれ以下)の割合を占める。
【0025】
一実施形態では、装置は、出口に動作可能に接続された1つ以上の追加のカラムをさらに含み、ここで、1つ以上の追加のカラムは異なる結合ユニットを有する基材をそれぞれ含む。一実施形態では、装置は、(例えば、単離された細胞の集団を(例えば、一般集団の)残りの細胞から分離するための)1つ以上の三方バルブをさらに含む。
【0026】
別の態様では、本発明は、本発明の装置を用いて細胞の標的集団が濃縮された単離細胞集団を生成する方法を提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、細胞の標的集団を含む細胞の懸濁液を提供する工程、結合細胞(標的細胞を含む)の集団と非結合細胞の集団を生成するために、懸濁液を多孔性基材と接触させる工程、非結合細胞の集団をカラムから分離する工程、及び結合細胞の集団を放出させ、細胞の標的集団を単離するために、多孔性基材の全て又は一部を液状化する工程によって、細胞の標的集団を単離するための方法を提供する。
【0028】
一実施形態では、標的細胞は、T細胞、制御性T細胞、B細胞、NK細胞、遺伝子組み換えT細胞、又は幹細胞である。一実施形態において、遺伝子組み換えT細胞は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)である。一実施形態では、幹細胞は未分化幹細胞である。一実施形態では、幹細胞は分化した幹細胞である。一実施形態では、幹細胞は、間葉系幹細胞、造血幹細胞、胚性幹細胞、又は誘導多能性幹細胞である。
【0029】
本発明の任意の態様の一実施形態では、架橋剤の有効性が低下したとき、基材の全てが液状化する。カラムは、本明細書の任意の目的のための容器として使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の装置による標的細胞の単離のための概略ワークフローである。
図2】放出バッファーへの応答時のポリマーマトリックスの分子構造の変化を示す図である。
図3】二重又は三重陽性細胞を濃縮するために連続で接続された、マイクロビーズで充填された3つの容器を示す概略図である。
図4A-4B】オンカラム(図4A)及びオフカラム(図4B)の分離方法を示す概略図である。
図5】異なるタイプ及びサイズのアルギネートマイクロビーズの代表的な明視野顕微鏡画像である。
図6A-6B】アルギネートマイクロビーズを用いて混合集団サンプルから回収されたCD34+Kg1A細胞の単離効率及び結果としての純度及び有効性を示すヒストグラムプロットである。6A:細胞分離の全体を通じて捕捉及び放出されたC34+Kg1A細胞の合計。6B:C34+Kg1A細胞単離の純度及び回収率。
図7A-7C】アルギネートマイクロビーズを用いたPBMCサンプルからのCD4+T細胞の単離効率、細胞純度及び生存率を示す代表的なフローサイトメトリーデータである。7A:フローサイトメトリーによって示されるPBMCサンプル中の初期C4+T細胞集団。7B:本発明によって得られたCD4+T細胞の純度、回収率及び生存率。7C:本発明によって得られたCD4+T細胞の純度、回収率及び生存率。
図8A-8C】アルギネートマイクロビーズを用いたCD3+T細胞リンパ球の集団からのCD4+T細胞の単離効率、細胞純度及び生存率を示す代表的なフローサイトメトリーデータである。8A:フローサイトメトリーによって示される、CD3+T細胞集団中の初期CD8+細胞。8B:フローサイトメトリーで示される、回収されたCD8+T細胞の純度。8C:本発明によって得られたCD8+T細胞の純度、回収率及び生存率。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、所望の表面分子に特異的な結合ユニット(例えば、抗体又はその断片)を介して標的細胞集団に結合する基材を含む組成物、キット、及び装置を提供する。装置を使用する方法を含む方法も、本発明によって提供される。
【0032】
基材
本発明において有用な基材は、架橋剤のポリマーへの有効性を低下させる生体適合性物質への曝露に応答して液状化(例えば、溶解)することができるポリマー(例えば、架橋ポリマー)を含む。基材の一部として有用な架橋ポリマーには、カチオン(例えば、カルシウムカチオン(Ca2+))の存在下で固体であり、そのカチオンの非存在下で液体であるヒドロゲル(例えば、アルギネートヒドロゲル)を含む。本発明の基材の一部として有用な、ヒドロゲルを含む他の架橋ポリマーは、当技術分野で公知である。一実施形態では、基材は多孔性基材である。
【0033】
一実施形態では、基材は、アルギネートヒドロゲルを含む。アルギネートベースの基材は、機械的剛性又は液状化閾値等の様々な特性を高めるための追加の成分を含んでいてもよい。アルギン酸又はアルギネートへの言及は、別段の記載がない限り、塩形態(例えば、アルギン酸ナトリウム)への言及でもある。アルギネートベースの基材は、WO2012/106658に一般的に記載されているように、ポリアルキレンオキシド、(例えば、PEG)にコンジュゲートしたアルギン酸から形成することができる。多官能性PEG(例えば、4アームPEG)へのアルギン酸のコンジュゲーションは、アルギネートのイオン架橋のみによって達成されるものと比較してより大きな機械的強度を与える。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG及びポリプロピレンオキシド)は、当該技術分野において公知である。直鎖状又は分枝状(例えば、4アーム又は8アーム)ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)を使用することができる。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)は、好ましくは10kDa~20kDaの分子量を有する。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)のアルギン酸に対する比は、例えば、重量で1:2である。したがって、機械的特性(例えば、剛性)は、各PEG分子上の官能基の数を増加させることによって調節することができる。PEGは、本発明の複合体へのタンパク質吸着を防止する優れた親水性の性質のために、本発明の一部として有用である。複合体上への血清タンパク質の吸着は、Fc受容体連結により引き起こされるような隣接細胞における異常なシグナル伝達経路をもたらし得る。PEGの親水性特性はまた、イオン性キレート化剤が複合体内部に迅速にアクセスして堅く保持されているカチオンを迅速に隔離することができるように、複合体内部で高い拡散性を維持するように機能する。したがって、ヒドロゲル内への分枝PEG分子の組み込みは、適切な刺激への暴露時にヒドロゲル構造の迅速な溶解を確実にする。あるいは、任意の他の生体適合性親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びそれらのコポリマー)を置換することができる(例えば、米国特許第7214245号参照)。
【0034】
ヒドロゲル構造は、(例えば、容器内に配置するための)基材を生成するように構成された任意の形状に形成することができる。例えば、ヒドロゲルは、当技術分野で公知であり本明細書に記載の方法に従って、ビーズ(例えば、球状ビーズ、例えば、ナノ粒子又はマイクロビーズ)に形成することができる。ビーズ直径は、例えば、1~200μmである。
【0035】
ヒドロゲル粒子(例えば、アルギネートマイクロビーズ)は、それらの間に空間(即ちポア)を有する隣接粒子のマトリックスを形成することができる。粒子は類似のサイズであり得る。あるいは、粒子は、様々なサイズであり得る。一般に、粒子サイズの均質性が大きいほど、粒子サイズに対して、隣接する粒子の表面間の距離が大きくなる(即ち、ポアサイズが大きくなる)。これは、より小さい粒子がより大きな粒子間の空間を充填し、ポア空間を占め、潜在的に細胞通過を妨げる傾向があるためである。(例えば、カラム内の)空間における球状粒子の充填に影響を与えるパラメータは、例えば、それらの環境(例えば、バッファ)内の球体の相対密度、ある球と他の球との間の界面で作用する力(例えば、摩擦力又は静電気力)、及び球体の物理的攪拌が挙げられる。一般に、球体間の引力(例えば、物理的又は化学的付着、静電引力)は、充填を減少させ、容積当たりの球体が少なくなり、より大きなポアを生成する。同様に、それらの周囲の溶液と類似の密度(例えば、1~10%より大きい)を有する球体は、一般的に、よりゆるく充填してより大きなポアを生じる。球体の均質性とポアサイズとの間の正の一般的関係は、いくつかの代替方法によって無効にすることができる。例えば、(例えば、非球状粒子を含むことによって)ヒドロゲル構造の全部又は一部の形状を変化させることにより、より大きなポアを導入することができる。それに加えて又は代えて、細長い繊維、チューブ又はワイヤーのヒドロゲル構造のポリマーを使用することによって、異なるポアの大きさ及び形状を導入することができる。そのような構造(アルギネートベースの構造を含む)を合成するための方法は、当技術分野で公知である。
【0036】
最適なポアサイズは、最初の細胞集団及び/又は標的細胞集団に応じて変化し得る。例えば、低頻度細胞集団の濃縮は、より大きいポアを有する多孔性基材内で、また逆に、表面積対体積比が低い多孔性基材内で、最適に起こり得る。この構成は、大多数の集団(即ち、標的化されていない集団)がポアを自由に流れることを可能にしながら、標的細胞が基材表面に結合するのに十分な結合機会を提供する。逆に、例えば初期細胞集団の大部分のポジティブセレクションを必要とするシナリオにおいて、高い相対的基材密度を用いて結合領域を最大にすることができる。本発明の多孔性基材は、例えば、約5μm~約50μmのポアを有する。
【0037】
さらに、構造及び/又は最適なポアサイジング又はアーキテクチャを提供するために、他の材料を基材に含めることができる。例えば、溶解性又は非溶解性の格子又は足場を、基材を適所に保持するように供給することができる(例えば、ヒドロゲルマトリックス内で基材を支持することによって、又はヒドロゲル構造体(例えば、マイクロビーズ)に外部支持体を提供することによって)。適切な足場構造は、基材(例えば、ヒドロゲル)の液状化の際に細胞を通過可能にするために十分な構成である。例えば、足場は、三次元グリッドとして構成された繊維から作製されてもよい。あるいは、足場は、不規則な形態(例えば、スポンジ状の形態)を有してもよい。このような足場を合成する方法は、3次元細胞培養(例えば、組織工学)等の用途のために当技術分野で公知であり、粒子浸出(例えば、塩浸出)、乳濁液凍結乾燥、エレクトロスピニング、及び3D印刷を含む。格子又は足場に適した材料は、生体適合性(例えば、生体適合性のポリマー)であってもよい。生体適合性ポリマーは、様々な定義されたポアサイズを有する足場の構築のために当技術分野においてよく知られており、ポリ乳酸等の生分解性脂肪族ポリエステル、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(D、L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)、ジオール/ジアシッド脂肪族ポリエステル、ポリエステル-アミド/ポリエステル-ウレタン、ポリ(バレロラクトン)、ポリ(ヒドロキシルブチレート)及びポリ(ヒドロキシルバレラート)、又は、キトサン、キチン、コラーゲン、ゼラチン及びヒアルロン酸からなる群から選択される1つ以上の天然ポリマーを含む。磁気ビーズはまた、ヒドロゲルの不溶性格子として使用することもできる。
【0038】
基材は、ポリカチオン架橋アルギネート-PEGコポリマーヒドロゲルの複数のヒドロゲルマイクロビーズの形態であり得る(図5)。これらのマイクロビーズは、1~1000μm(例えば、2~500μm、3~200μm、4~100μm、又は5~20μm)の直径を有することができる。マイクロビーズは、1~2の間の多分散指数(PDI)を有することができる。マイクロビーズは、結合ユニットで又は結合ユニットに結合することができる部分で官能化された表面を有する。
【0039】
本発明の基材は、例えば、凍結乾燥によって乾燥された形態であってもよく、使用前又は使用中に再水和されてもよい。
【0040】
装置
本発明の装置は、容器と、容器内の多孔性基材とを含む。多孔性基材は、複数の構造物(例えば、容器内に充填された粒子(例えば、マイクロビーズ))、モノリシック(即ち、一体化した)構造物、下にある足場又はコア上のコーティング又は表面層、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。あるいは、多孔性基材を充填層内に収容することができる。本発明の多孔性基材は、例えば、多孔性基材を液状化するのに適した生体適合性溶液の添加によって分解可能である。基材のポア内の標的細胞の表面分子に選択的に結合するように構成された結合ユニットは、多孔性基材に取り付けられる。結合ユニットは、抗体又は抗体の抗原結合断片であり得る。結合ユニットは、細胞表面分子との親和性結合を形成して、容器内の基材のポア内のせん断力(例えば、容器から結合していない細胞を洗浄する際の)に対抗して、標的細胞を固定化することができる。図1は、本発明の装置による標的細胞の単離のための概略的なワークフローを示す。本発明はまた、(例えば、直列又は並列に接続された)複数の容器を含む装置を提供する。
【0041】
本発明の多孔性基材を保持するために使用される容器は、様々なタイプのものであり得る。適切な容器は、適切な容量のカラム又はトラフを含む。容器の最適容量は、単離される標的細胞の数に依存する。小規模の細胞処理の場合、容量は約15mL以下であり得る。他の容積(例えば、大規模処理のための)は、100mL以上とすることができる。
【0042】
装置は、多孔性基材を保持するが細胞は通過させる構成要素を含む。そのような構成要素は、ストレーナー(例えば、メッシュ又はシーブ)であり得る。ストレーナー内の開口部は、一様であってもなくてもよく、標的とされる細胞の大きさ及び多孔性基材の性質に基づいて選択される。例えば、開口部は、1~1000μm(例えば、1~30μm、10~40μm、20~30μm、5~50μm、20~80μm、1~100μm、200~500μm、又は500~1000μm)であり得る。例えば、1μm~100μmの開口部は、小規模又は大規模で、PBMC又は全血等の複雑な環境から直接的に、回収率の向上とともに、単一又は複数の標的細胞を単離又は精製するために使用できる。筋肉、脂肪、皮膚、肺等の粗い組織を物理的に破壊して一次細胞を獲得するために、詰まるのを避けるために通気性が向上した200μm~500μmのより大きいメッシュサイズを使用することができ、これにより、大量の細胞材料をより迅速に分離し、回収率を向上させることができる一方で、粗い組織を、幹細胞、心筋細胞、神経及び骨格組織の応用に理想的なものにできる。
【0043】
本発明の装置は、連続で取り付けられた2つ以上の容器をさらに含むことができる。この構成では、第1の容器の出口は、後続の容器の入口に動作可能に接続され、第1のカラムから1つ以上の後続の容器への細胞の通過を可能にする。各容器は、同じ多孔性基材又は異なる多孔性基材、及び同じ結合ユニット又は異なる結合ユニットを有することができる。(例えば、第1の容器の出口と後続の第2の容器の入口との界面で)容器を分離するものとして、バルブ(例えば、二方バルブ)を使用することができる。バルブは、第1の容器から1つ以上の後続の容器への(又は代わりに、例えば、一連の容器外から捕捉リザーバへの)細胞の流れの方向を決定づけるように構成することができる。
【0044】
バルブ機構は、2連続のT字形の3ポートバルブを含むことができる。第1のバルブは、流体又は細胞が、第2のバルブ又は第3の通路(例えば、フィルターを含む)のいずれかに自由に流れることを可能にする2つの通路を含む。このフィルターは、キレート化剤を添加する際に使用することができ、ここでフィルターは、キレート化剤溶液を第2のバルブに流すこと、及び系外に流してその後の容器がキレート化剤と接触するのを防ぐことを可能にする一方で、標的細胞集団を保持するキレート化剤。第2のバルブは、溶液(例えば、洗浄溶液又はキレート化剤溶液)を装置から出すか(例えば、処分又は回収のために)、又はその後の容器に流すこと(例えば、一連の複数カラムの洗浄又は溶出のために)を可能にするために3つの通路を含む。バルブは、手動又はアクチュエータ(例えば、電気モータ又はソレノイド)によって制御することができる。
【0045】
本発明の任意の装置は、(例えば、養子細胞移植等の臨床用途のために)大量の機能細胞を生成するために当該分野で公知の方法に従ってスケールアップすることができる。
【0046】
キット
本発明はまた、本明細書に記載の基材及びストレーナー(例えば、メッシュ又はシーブ)を含むキットを提供する。ストレーナーのサイズは、上述のように、細胞が通過するが基材は通過しないように、例えば、1~1000μm(例えば、1~30μm、10~40μm、20~30μm、5~50μm、20~80μm、1~100μm、200~500μm、500~1000μm)の開口部を有する。ストレーナーは、基材及び細胞の集団を収容することができる容器内に収容され得る。あるいは、ストレーナーは、そのような容器に追加することができる別個の構成要素であってもよい。
【0047】
基材は、結合ユニットを含むことができ、又は結合ユニットによって官能化されるように設計することができる。基材は、例えば、ポリカチオン架橋アルギネート-PEGコポリマーヒドロゲルの複数のヒドロゲルマイクロビーズである。これらのマイクロビーズは、1~1000μm(例えば、2~500μm、3~200μm、4~100μm、又は5~20μm)の直径を有することができる。マイクロビーズは、1~2の多分散指数(PDI)を有することができる。
【0048】
結合ユニット
本発明は、(例えば、表面官能化によって)結合ユニットで官能化された固体基材を提供する。結合ユニットは、非標的分子よりも標的分子に対してより大きな結合親和性を有する任意の分子である。結合ユニットは、標的細胞上の細胞表面分子(例えば、タンパク質、炭水化物、又はそれらの組み合わせ)との所望の結合相互作用を提供する任意の低又は大分子構造であり得る。
【0049】
結合ユニットは、当技術分野で公知の抗体及び抗原結合断片及びその変異体を含む。本発明の抗体変異体は、モノクローナル抗体、Fab、ヒト化抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又はその抗原結合断片、一価抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、一本鎖Fv分子、二重特異性一本鎖Fv((scFv')2)分子、ドメイン抗体、ダイアボディ、トリアボディ、アフィボディ、ドメイン抗体、SMIP、ナノボディ、Fv断片、Fab断片、F(ab')2分子、又はタンデムscFv(taFv)断片)を含む。ポリクローナル及びモノクローナル抗体の両方を含む抗体は、従来の技術を用いて標的細胞表面分子に対して惹起され得る(Harlow and Lane, eds., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.(1988)参照)。本発明の結合ユニットは、特定のエピトープに対して高い親和性を有する核酸(例えば、アプタマー)であってもよい。
【0050】
結合ユニットはまた、別の細胞、病原体、又は細胞外マトリックス分子上に存在する接着分子又はそのミミックを含み、ここで、接着分子は、標的細胞上の細胞表面分子に対する天然の結合パートナーである。そのような接着分子は、通常、タンパク質又は糖タンパク質であり、本発明の結合ユニットは、天然結合活性を保持するそのような接着タンパク質の断片であり得る。そのような断片は、典型的には、50個以下のアミノ酸、25個未満のアミノ酸、又は10個未満のアミノ酸を含む。
【0051】
さらなる適切な結合ユニットは、細胞外マトリックス、特にマトリックスタンパク質(フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、エラスチン、ヒアルロン酸、フィブリノーゲン、ビトロネクチン、オステオポルチン及びそれらの断片(例えば、RGDドメイン等)に存在する分子であり得る。
【0052】
結合ユニットは、標的細胞に結合した別の結合ユニット(例えば、抗体又はその抗原結合断片)に結合してもよい。例えば、結合ユニットはアビジン又はストレプトアビジンであってもよく、(例えば、ビオチン化抗体を介して)ビオチンで標識された標的細胞に結合してもよい。他のそのような結合ユニットは、標的細胞に結合した抗体に結合するプロテインA、プロテインG、及び抗種抗体(例えば、ヤギ抗ウサギ抗体)を含む。
【0053】
本発明の結合ユニットは、多量体結合ユニットであってもよい。多量体結合ユニットは当該分野で公知であり、低親和性リガンドの結合に有用である。例えば、T細胞受容体(TCR)に対する主要組織適合性複合体(MHC)分子の親和性は、抗体-抗原親和性よりも数桁低いために、MHC多量体(例えば、ダイマー、テトラマー、又はデキストラマー)は抗原特異的能力でTCRに結合させるために広く使用される。2つ以上の結合ユニットを(例えば、アビジン多量体化を通して又はマルチアームPEG鎖によって)近接して連結させることにより、多量体結合ユニットは、高密度かつ高結合力で標的を結合し、その結果解離速度が小さくなる。様々な結合ユニットを多量体化するための他のアプローチは、当技術分野で公知である。
【0054】
結合ユニットは、レクチン、核酸、及び他の受容体リガンド、及びそれらの断片を含む様々な他の分子構造を含んでいてもよいことが理解されるであろう。所望の標的分子が分かれば、必要な親和性又は結合性で標的に結合することができる他の分子を調製又は合成することが可能である(例えば、上記の抗体合成の方法を参照)。
【0055】
本発明の結合ユニットは基材に結合することができる。この結合は、公知の方法による共有結合反応又は非共有結合反応によって生じ得る。例えば、ビオチン化抗体及び他の分子は、アビジン又はその変異体(例えば、ストレプトアビジン又はニュートラアビジン)への結合に関して十分に特徴付けられる。基材は、当該分野で公知の方法に従って、アビジンで官能化することができる。具体的には、アビジン-ビオチン(例えば、ストレプトアビジン-ビオチン)結合系は、様々な結合ユニットを互いに又は基材上に結合させるために使用できる。マレイミド活性化ストレプトアビジンは、アルギネートマイクロビーズ上に存在する還元チオール基を介して結合され得る。アビジン官能化された基材は、(例えば、使用直前にユーザーが選択したビオチン化抗体を加えることによって)ユーザーの所望の標的細胞集団の表現型に従って装置をカスタマイズするためのユーザーのためのモジュラー基盤を提供する。あるいは、基材をビオチンと結合してもよく、ビオチンにアビジン化結合ユニットを後で結合してもよい。
【0056】
アルギネートヒドロゲル等のヒドロゲルは、公知の方法に従って、ビオチン、アビジン(例えば、ストレプトアビジン)と結合するか、又は結合ユニット(例えば、抗体又はその抗原結合断片)と直接的に結合し得る。ヒドロゲルは、ヒドロゲルの表面への結合の制限に起因する結合ユニットの効率を最大にするために結合前に固化させることができる。
【0057】
アルギン酸はまた、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))及び/又は結合ユニットへの結合に便利な基を提供する複数のカルボキシル基を天然に有する。ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)及び結合ユニットは、天然に、カルボキシル基と結合するのに適切な基を有するか、又は有するように修飾され得る。適切な基は、アミノ酸を含む結合ユニットにしばしば見出される、又は結合ユニット及びポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)導入され得る、アミン基を含む。例えば、アミン末端ポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)を使用することができる。他の場合では、リンカーをポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)又は結合ユニット上の適切な基をアルギン酸上のカルボキシル基に結合させるために使用することができる。ヒドロゲルにおいて、単一のポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)は、1つ以上のアルギン酸分子に結合され得る。ポリアルキレンオキシドが2種以上のアルギン酸に結合する場合、組成物中のその架橋の数はゲルを形成するために十分であってもよく、十分でなくてもよい。結合ユニットは、アルギン酸に直接結合するか、又はアルギン酸に結合したポリアルキレンオキシド(例えば、PEG)に結合することができる。
【0058】
追加又は代替として、基材及び結合ユニット上の利用可能な結合官能基間の直接共有結合は、官能基のいずれか又は両方の活性化に依存する従来技術によって達成することができる。結合ユニットと基材との間の共有結合は、結合ユニットに結合することができる一端に反応基を有し、基材に結合することができる他端に第二反応基を有する二官能性化合物を用いて達成することができる。あるいは、結合領域は、結合ユニットと共に合成され得、次いで、結合ユニットは、多孔性基材に直接結合され得る。共有結合に有用な試薬には、例えば、カルボジイミド(例えば、水溶性カルボジイミド)が含まれる。多孔性基材に結合ユニットを結合させるのに有用な他の試薬及び技術は当技術分野で公知であり、例えば、Hermanson (Bioconjugate Techniques, Academic Press, San Diego, 2010)に見ることができる。多数の他の結合化学が当技術分野で知られている。
【0059】
使用方法
本発明は、アフィニティークロマトグラフィーによって、1つ以上の細胞集団を互いに又は一般集団から分離することを特徴とする。細胞の選択は、特異的結合及び非特異的結合の間の捕捉力の差に主に基づいている。特異的結合を有する細胞(即ち、標的細胞)は保持され、非特異的結合を有する細胞又は結合がない細胞は、廃棄、使用又はさらなる分離のために除去され得る。本明細書で使用する「標的細胞」は、本発明の結合ユニットによって標的化され、多孔性基材に結合することを意図した細胞を指す。標的細胞は、基材を液状化することによって回収することができる。非標的細胞は、結合ユニットに結合することを意図しない細胞である。この選択は、ポジティブセレクションプロセス(即ち、多孔性基材上の標的細胞の保持)又はネガティブセレクションプロセス(即ち、多孔性基材を通過する非標的細胞の保持)であり得る。本発明は、表面上に残留親和性タグ(例えば、磁気ビーズ)を有さない標的細胞の濃縮を生成するポジティブセレクションの方法を特徴とする。例えば、所望の細胞表面分子プロファイルの特性が不明確又は未知である場合、又は不所望の細胞集団がその標的可能性を単純化する表面分子を遍在的に発現する場合、ネガティブセレクションプロセスが有利であり得る。一例では、本発明は、細胞の標的集団を含む細胞(例えば、細胞の一般集団)の懸濁液を提供する工程、結合細胞の集団(例えば、標的細胞を含む)及び非結合細胞の集団を生成するために、懸濁液を基材と接触させる工程、及び非結合細胞の集団を除去する工程によって、細胞の標的集団を分離する方法を提供する。この方法はまた、結合細胞の集団を放出して細胞の標的集団を単離するために、基材の全て又は一部を液状化する工程を含むことができる。結合工程の前に、細胞は、いずれの基材にも結合していない結合ユニット(例えば、抗体)と接触させることができ、この結合ユニットは、本明細書に記載の基材に続いて結合する。
【0060】
本発明による濃縮、単離、精製又は分離の標的とすることができる細胞は、1つ以上の表面分子(例えば、タンパク質、炭水化物、又はそれらの組み合わせ)によって同定され得る任意の細胞を含む。標的細胞は、哺乳類細胞(例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、又はヒト細胞)又は非哺乳類細胞であり得る。細胞は、例えば、採血、生検又は剖検の一部として、1つ以上の組織からの混合集団として単離することができる。赤血球又は間質細胞等の組織内の望ましくない細胞は、当該分野で公知の方法に従って(例えば、溶解又は接着分離によって)除去することができる。細胞は(例えば、凍結懸濁液から解凍して)保存物から新たに単離することができる。細胞は、初代細胞又は不死化細胞(即ち、セルライン由来)であり得る。
【0061】
標的細胞の表面分子は、当技術分野において大部分が知られている。表面分子を検出する従来のアッセイ、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫組織化学、免疫蛍光染色、又はフローサイトメトリー等のイムノアッセイによって検出することができる任意の表面分子を標的として使用することができる。標的となり得る具体的な表面分子は、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD16、CD19、CD25、CD33、CD34、CD44、CD45RO、CD56、CD69及び主要組織適合性複合体(MHC)(例えば、MHC-I、MHC-II、ヒト白血球抗原クラスI、ヒト白血球抗原クラスII、又はそれらの任意の遺伝子もしくは偽遺伝子産物)を含む。
【0062】
親和性媒介性セレクション(例えば、ポジティブセレクション、ネガティブセレクション、又は両方による)を可能にする特徴的な表面分子発現を有する細胞型は、例えば、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD4+ナイーブT細胞、CD4+CD25+制御性T細胞(T制御性細胞又はTreg)、CD4+メモリーT細胞、CD8+T細胞、CD19+B細胞、CD56+NK細胞、CD14+CD16-単球、CD14+CD16+単球、パンデンドリティックセル、好酸球、好塩基球、好中球、CD34+造血前駆体、間葉前駆体、及び皮膚及び腸幹細胞を含む。
【0063】
濃縮された細胞(例えば、本発明のポジティブセレクションプロセスから生じる標的細胞又は本発明のネガティブセレクションから生じる非標的細胞)は、単離又は濃縮後にそれらの機能性及び生存性を保持することができる。濃縮された細胞は、80%~100%(例えば、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)生存可能であり得る。濃縮された細胞はまた、増殖能力を保持することができる(例えば、TCRエンゲージメント又は他の刺激において、例えば、コントロール細胞の少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の増殖能)。
【0064】
標的細胞は、任意の適切な方法によって基材と接触させることができる。接触は、結合細胞が非結合細胞から分離されている容器内で起こってもよく、起こらなくてもよい。例えば、細胞及び基材は、結合を可能にするために第1の容器内で接触させることができる。次いで、この混合物は、非結合細胞を通過させる一方で基材(及び結合細胞)を保持するストレーナーを有する第2の容器に移すことができる。他の実施形態では、細胞及び基材(例えば、多孔性基材)は、分離が起こる容器内で接触される。例えば、接触は、容器の入口に細胞の懸濁液を挿入することによって行うことができる(例えば、本明細書で所望される任意の細胞等の一般細胞集団を、例えば、ピペット操作、ポンピング、又は例えば、自動又は手動による細胞の懸濁液の注入によって)。
【0065】
細胞の一般集団は、基材と接触する前に、適切な緩衝液(例えば、血清を含有する緩衝液)中で調製することができる。標的細胞は、例えば、温度、結合ユニットと標的表面分子との間の結合親和性、及び基材上の結合ユニットの密度を含む様々なパラメータに従って、結合ユニットを介して基材への結合を開始できる。このステップは、任意の適切な温度(例えば、4℃、25℃又は37℃)で、1秒から1日以上の日数(例えば、1秒、30秒、1分、5分、10分、15分、20分、25分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、18時間、24時間、又はそれ以上)の持続時間とすることができる。この結合反応のpHは、約7.4又は特異的結合反応を促進する他の任意の生理学的に適切なpHであり得る。接触のために使用される容器は、温度を維持するために、又は蒸発又はコンタミネーションを防ぐために、この反応中にキャップ又はカバーされ得る。
【0066】
結合反応工程では、例えば、非特異的結合を制限するために、タンパク質(例えば、血清タンパク(例えば、アルブミン))等のさらなる薬剤を含めることができる。そのようなタンパク質は、細胞の添加前、細胞の添加後、又は細胞の添加と同時に(例えば、細胞懸濁バッファーの成分として)添加することができる。それらの血清タンパク質は、細胞と同じ種又は異なる種であってもよい。
【0067】
標的細胞の全部又は一部が基材に結合した後、当該技術分野で公知の方法に従って、非結合細胞を標的細胞から除去(例えば、洗浄)することができる。具体的には、適切な緩衝液(例えば、HEPES、ハンクス緩衝生理食塩水、HBSS、MOPS、及びカルシウム添加MES)を使用することができる。任意に、非結合細胞の除去を促進するために、1つ以上の追加の薬剤を洗浄バッファーに含めることができる(例えば、本発明の任意の溶液中に存在する任意の他の血清と同じ又はより高い濃度の血清タンパク質)。溶出された非結合細胞は、上記のように、使用のために収集するか、又は(例えば、マルチパラメトリック濃縮のために)追加の容器に移すことができる。
【0068】
本発明の方法は、当技術分野で公知の方法に従って、容器内で多孔性基材を調製する工程を含んでいてもよい。基材、例えば、多孔性基材は、本明細書に記載の方法に従って合成し、容器内で様々な方法で調製することができる。基材は、容器に事前に充填することができ、又は使用直前に調製することができる。事前に充填された基材は、長期保存のために乾燥(例えば、凍結乾燥)され得る。あるいは、事前に充填された基材を水和状態に保つことができる(例えば、結合ユニットの感受性結合ドメインの変性を避けるため)。事前に充填された基材は、長期保存(例えば、結合ユニットの安定性及び緩衝液条件に依存して、1週間又は数ヶ月以上)のために、例えば、4℃に保つことができる。結合ユニットは、基材を容器に装填する前又は後に基材に結合することができる。例えば、基材は、使用直前に結合ユニットへの結合を可能にする条件で保存することができる。
【0069】
基材(例えば、架橋ヒドロゲル)は、全体的又は部分的に、低~中濃度の生体適合性溶液で液状化することができる。図2は、放出バッファーに応答するポリマーマトリックスの分子構造の変化を示す図である。ヒドロゲルは、カチオン(例えば、Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+、Cu2+、又はAl3+)とアルギン酸との非共有結合架橋によって固形を維持することができる。好ましいカチオンはCa2+である。本発明のヒドロゲルのゲル化は、例えば、EDTA、EGTA、クエン酸ナトリウム、BAPTA、クラウンエーテル、クリプタンド、フェナントロリンスルホネート、ジピリジルスルホネート、ジオキサン、DME、ジグライム又はトリグライム等のキレート化剤との接触によって予定することができる。キレート化剤は、複雑な溶解に適切な濃度で細胞増殖及び増殖経路を妨げないことが周知であるEDTA等の生体不活性分子であり得る。EDTAは、本発明において使用されるカルシウムキレート化剤としてよく特徴付けられる。EDTAは、好ましくは137mM NaCl、2.7mM KCl、25mM Hepes及び0.75mM Na2H2PO4・2H2Oをまた含有する生理学的インサートバッファーの形態で2mMで使用することができる。
【0070】
基材の組成に合う方法で基材を液状化する工程を、容器から標的細胞を除去するために行うことができる。本発明は、アルギネートマトリックスが脱架橋するのに必要な程度に架橋剤を金属イオン封鎖することによってアルギネートヒドロゲル基材(例えば、アルギネートビーズ(例えば、マイクロビーズ))を液状化する方法を含む。アルギン酸基材の全部又は一部を液状化させるために、適切な濃度(例えば、0.01mM~1000mM(例えば、0.1mM、0.5mM、1.0mM、2.0mM、3.0mM、4.0mM、5.0mM、10mM、50mM、100mM、500mM、又は1000mM))のキレート化剤を含む緩衝液を容器に添加できる。一実施形態において、基材及び結合細胞は、液状化前に容器から除去される。
【0071】
2つ以上の分子の発現によって特徴付けられる細胞集団を単離することが時には望ましい。本発明は、そのような細胞(例えば、二重陽性又は三重陽性細胞)を単離する方法を提供する。二重陽性細胞集団の単離は、混合細胞集団を複数セットの基材と接触させることによって行うことができる。例えば、この目標は、混合細胞集団を連続した容器に通すことによって達成することができ、各容器は固有の結合ユニットを含有する。マルチパラメトリック濃縮は、各分離の後に基材が除去され置き換えられる単一の容器においても起こり得ることが理解されるだろう。さらに、同じ種類の基材が用いられる場合(例えば、結合ユニットがストレプトアビジンである場合)において、例えば、細胞を基材とは独立して異なる結合ユニット(例えば、ビオチン化抗体)に接触させる。
【0072】
図3は、直列に接続された3つのマイクロビーズ含有容器(例えば、カラム)を示す概略図である。この構成は、最大3つの表面分子が濃縮された細胞集団を回収するために使用することができる。3つの表面分子の各々は、3つの容器のそれぞれの中の異なる結合ユニットによって標的とされる。第1の容器において、第1のマイクロビーズ基材に結合する結合ユニットは、第1の表面分子を発現する細胞集団に結合できる。非結合細胞は、容器を通って洗浄され、上述のように、容器の出口の三方バルブによって制御される出口ポートを通過することによって、連続した容器から除去され得る。次に、バルブは、上述の方法に従って、標的細胞集団を第2の容器へ誘導することに備えて切り替えられ得る。次に、第1の容器の細胞をマイクロビーズから放出させ、目的の第2の表面分子に対する結合ユニットでコートされたマイクロビーズを含有する第2の容器に溶出することができる。第2の容器のマイクロビーズに結合する細胞は、通常、目的の第1及び第2の表面マーカーの両方を発現する(即ち、二重陽性)。溶出は、細胞の三重陽性集団を回収するために、第3のコンテナ内へ、3回繰り返すことができる。このプロセスの任意の段階で非結合細胞は、様々なサブタイプの細胞を回収するために別の容器を通過することによってさらに濃縮され得る。
【0073】
例えば、CD4及びCD25を発現する制御性T細胞(Tregs)は、第1の基材上の結合ユニットとして抗CD4抗体を使用して、(例えば、血液サンプルの)CD4+細胞を固定化し、CD4-細胞を除去することによって単離され得る。CD4+細胞を放出させるためにヒドロゲルを液状化することができ、これらの細胞は、結合ユニットとしての抗CD25抗体を有する別の基材と接触させるために(例えば、自動的に又は手動で)移すことができる。CD4+CD25-細胞は、この第2の基材の結合ユニットに結合せず、捨てるために洗い流すことができ、又は例えば、ナイーブCD4+細胞(即ちTh0細胞)として使用でき、そしてCD4+CD25+細胞をTregsとしての使用のために後に回収する。
【0074】
上記の方法は同様に、単一の試料から2つ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上の)細胞型を単離することができる。本発明のポジティブセレクションによって単離された細胞は、残存親和性タグがないために生存能力及び機能を保持しているため、検出可能な表面分子の任意の置換を有する細胞集団は、使用のために同様に濃縮又は単離され得る。
【0075】
装置内の2つ以上の結合ユニット(例えば、同じカラム)を使用することによって、複数の細胞型を単一の容器内でターゲットにすることができる。同様に、結合ユニットのわずかな変化は、例えば、同じ表面分子の複数のエピトープに結合することによって、標的細胞結合を向上し得る。ポリクローナル抗体は、例えば、このアプローチによる使用に適している。
【0076】
上述の方法は、同様に、蛍光活性化細胞選別(FACS)又は他の同様のフローサイトメトリー法等の、さらなる細胞選別及びビニング方法のために、特定の細胞集団を事前に選択するために使用され得る。
【0077】
ヒドロゲルの製造
一般に、アルギネート粒子形成は2つの方法に基づいている。複合体形成は、水溶液中でアルギネートナノ凝集体を生じ得るか、又は油滴の界面で、アルギネートナノ粒子を形成し得る。アルギネートの複合体化のために、塩化カルシウムからのカルシウム等の架橋剤を使用することができる。あるいは、アルギネートビーズ(例えば、ナノ粒子又はマイクロビーズ)を製剤化するために、アルギネートインオイル乳化を使用することができる。この技術は、アルギネートエマルジョン液滴の外部又は内部ゲル化と組み合わせて、アルギネートナノ粒子を形成することができる。これらの方法の大部分は、外部ゲル化法に基づいており、アルギネートビーズは、通常、アルギネートナトリウム溶液の塩化カルシウム溶液への滴下押出しによって製造される。アルギネートはまた、キトサン等のカチオン性ポリマーと相互作用し、高分子電解質複合体を形成することができる。したがって、アルギネート粒子は、カチオン性ポリマーを含有する浴中にアルギネート溶液を滴下することによっても得ることができる。典型的には、アルギネート溶液は針を通して押し出してアルギネート液滴を形成し、アルギネート粒子のサイズは最初の押し出された液滴の大きさに依存する。小さな粒子は、より高い機械的強度及びより大きい比表面積を有する。エア霧化は、外部ゲル化と併用されたときにアルギネート粒子の形成に使用され、直径5~200μmのマイクロビーズを生じる。押出/外部ゲル化に代わる改変された乳化又は内部ゲル化法は、当技術分野で公知である。例えば、特殊な設備なしにアルギネートビーズを生成するために、周囲温度で乳化を行うことができる。
【0078】
一実施形態において、ヒドロゲルは、噴霧装置(例えば、噴霧器を含む装置)を使用して製造される。一般に、ポリマー溶液(例えば、アルギネート-PEGの水溶液)を、圧縮ガス(例えば、窒素)と同時に噴霧器に注入して、ポリマー溶液を霧化して、液滴の噴霧を行うことができる。この噴霧は、液滴をビーズに硬化させるように構成された受容液に向けられ得る。ポリマー溶液がアルギネート-PEGを含む場合、受容溶液はカチオン(例えば、ポリカチオン、例えば、Ca2+)を含んでいてもよく、アルギネート-PEG液滴とカチオン受容溶液との接触時に、液滴内のアルギネート分子は、カチオン(例えば、ポリカチオン、例えば、Ca2+)によって架橋され、ヒドロゲルビーズが形成される。受容溶液の一部は、追加の成分を含んでいてもよい。例えば、受容溶液は、例えば、カチオン架橋の間及び/又はその後にビーズをさらに硬化させるために、イソプロピルアルコールを含んでいてもよい。加えて、又はこれに代えて、受容溶液は、必要に応じて、当技術分野で公知の他の安定剤及び/又は界面活性剤を含んでいてもよい。
【0079】
所望のビーズサイズは、本発明の方法の様々なパラメータを調整することによって実現することができる。一般に、ビーズサイズ(及び、例えば、結果として得られるヒドロゲル複合体サイズ)は、霧化噴霧で形成される液滴のサイズに関連する(例えば、ビーズのサイズは、霧化噴霧で形成された小滴のサイズに比例(例えば、正比例する)するか、又はわずかに小さい)。外部変数が存在しない場合、液滴サイズ(及び得られるビーズ又は複合体サイズ)は、(i)噴霧器を通るガス圧力又はガス流量を増加させること、(ii)噴霧器を通って流れる液体の体積パーセントを減少させること、(iii)ポリマー溶液の粘度を低下させること、及び(iv)噴霧角を増加させること、とともに減少する傾向にある。
【0080】
ある場合には、ヒドロゲルビーズは、30~90体積%の体積比の液体で噴霧する噴霧器を使用して形成される。これらの体積分率では、得られるヒドロゲルビーズのサイズは、上記の他の因子に依存するが、平均直径で1~100μmの範囲であり得る。
【0081】
ガス(例えば、窒素)に対する液体(例えば、コポリマー溶液)の容積比は、ガスに対する液体の噴霧器を通る相対流速の関数である。したがって、噴霧器を通る液体に対する気体の流量を増加させることは、より小さい液滴サイズ(及び、例えば、より小さいビーズサイズ)をもたらす傾向がある。ガス流速は、加圧されたリザーバによって制御することができる。多くの場合、ガス源は加圧タンクであり、噴霧器へのガス流の速度は、圧力制御及び/又は調節バルブによって制御される。あるいは、ガスは、ポンプ(例えば、圧力制御ポンプ)等の他の手段によって噴霧器を通って流れることができる。噴霧器内に一定の流れを提供する任意のガスリザーバは、本発明の一部としての使用に適している。
【0082】
同様に、シリンジポンプ(例えば、一定流量に設定されたシリンジポンプ)等の加圧リザーバを用いて液体(例えば、ポリマー溶液)を噴霧器に流すことができる。あるいは、蠕動ポンプ等の液体流(例えば、ポリマー溶液流)を駆動するために、他のポンプ形式を使用することができる。蠕動ポンプ等のシステムは、長時間にわたり大量の液体処理を可能にすることにより、スケーラビリティの利点を提供することができる。但し、噴霧器に一定の流れを提供する任意の液体リザーバは、本発明の一部としての使用に適している。
【0083】
噴霧器は、液体流とガス流を独立して制御できるように構成することができる。そのような噴霧器は、ガス及び液体流が別々の点で噴霧器ノズルを出る外部混合噴霧器を含む。外部混合噴霧器は、例えば、液体流量を一定に保ちながら、ガス流量をそれぞれ減少又は増加させることによって、平均的な霧化された液滴サイズ(及び結果として生じる平均的なビーズサイズ)を増加又は減少させることができる。外部混合噴霧器は、粘性液体をより効果的に噴霧することもできる。
【0084】
あるいは、内部混合噴霧器を使用してもよい。内部混合噴霧器は、ノズル内の液体にガスを導入し、場合によっては、より小さな液滴の生成を可能にする。
【0085】
液体(例えば、ポリマー溶液)のガス(例えば、窒素)に対する容積比のさらなる制御は、例えば、液体加圧時に液体が流れるように、ボールバルブを用いて、液体リザーバ(例えば、シリンジポンプ)を噴霧器に取り付けることによって続けることができ、それにより、霧化プロセスの開始時及び終了時の体積比の変動を防止する。
【0086】
ポリマー溶液は、粘性があってもよい(例えば、水よりも粘度が高い(即ち1センチポアズ(cP)を超える))。粘度は、ポリマー(例えば、アルギネート-PEGコポリマー)の濃度に依存し得る。液体の粘度は、霧化された液滴のサイズ(及び結果として生じるビーズサイズ)と正の相関がある。粘性溶液の噴霧された液滴サイズと、対応する噴霧された水滴との間の関係は以下で評価できる。
【数1】

ここで、Df=種々の溶液の液滴サイズ、Dw=水の液滴サイズ、及びVf=粘性溶液の粘度(cP)である。
【0087】
非ニュートン流体(例えば、非ニュートンコポリマー溶液(例えば、アルギネート-PEGを含有する非ニュートンコポリマー溶液))の場合、粘度はせん断速度によって変化することが理解されるであろう。例えば、アルギネート及び/又はPEGを含有するコポリマー溶液は、剪断速度が増加するにつれてその粘度が低下するように、剪断減粘性挙動を示し得る。ある場合には、コポリマー溶液の見かけの粘度は、噴霧器による剪断力の曝露の際に50%よりも大きく減少する。したがって、ヒドロゲル粒子サイズに関する粘度の影響を評価する際に、噴霧器オリフィス内のコポリマー溶液の見掛け粘度を考慮する必要がある。与えられたせん断速度(例えば、噴霧器内)下での非ニュートン流体の見掛け粘度に影響を与える因子は、当該技術分野において公知であり、既知の方法によって計算及び/又は経験的に試験することができる。
【0088】
噴霧器の噴霧角度は、液滴の大きさに影響を及ぼすさらに別のパラメータである。一般的に、噴霧角度が広いほど、得られる液滴のサイズが小さくなる。
【0089】
ヒドロゲルビーズ合成後、ビーズは、標準的な方法((例えば、140μmのナイロンフィルターを使用した)例えば、滅菌濾過方法)を用いてフィルター処理することができる。別の方法では、例えば、標準的な遠心分離/再懸濁法によって、ビーズ懸濁液を濃縮又は精製することができる。
【0090】
それに加えて又は代えて、ヒドロゲルビーズは、当技術分野で現在知られている方法を用いて合成することができる。例えば、ヒドロゲル複合体は、従来のマイクロエマルジョン法によってマイクロビーズとして調製することができる。様々な用途のためのアルギネートビーズを合成するための方法は、当技術分野において公知である(例えば、Hatch, et al., Langmuir 27 (2011): 4257-4264 and Sosnik, ISRN Pharmaceutics (2014):1-17参照)
【0091】
結合部分コンジュゲーション(例えば、抗体結合)は、マレイミド/チオール及びEDC/NHS結合を含む標準的なコンジュゲーション技術を用いて行うことができる。他の有用なコンジュゲーション方法は、Hermanson et al., (2013) Bioconjugate Techniques: Academic Pressに記載されている。ある場合には、例えば、上記のように、粒子形成の直後に結合部分コンジュゲーションが起こる。あるいは、結合部分とのコンジュゲーションの前に粒子を保存(例えば、凍結懸濁液又は凍結乾燥粉末として)し、結合部分コンジュゲーションを細胞処理の前に行う(例えば、細胞処理の直前に、さらなる精製(例えば、濾過及び/又は遠心分離/再懸濁)を伴うか又は伴わずに)。
【実施例
【0092】
実施例1
標的細胞を分離するための概略的なワークフローを図1に示す。カラムには、標的細胞表面分子に特異的な抗体に結合したヒドロゲル(例えば、アルギネート)マイクロビーズが充填される。この実施例では、マイクロビーズを抗体と結合させる前にカラムに充填する。別の方法としては、抗体結合マイクロビーズを直接カラムに充填することができる。抗体結合マイクロビーズをカラム内で調製した後、混合細胞集団(例えば、末梢血単核細胞(PBMC)、臍帯血、骨髄、混合リンパ球、腫瘍細胞)をカラムに充填する。抗体を標的細胞上の同種細胞表面分子に結合可能にするために、混合細胞集団を4℃又は37℃で一定時間(例えば、5~30分間)カラム中でインキュベートする。結合後、洗浄バッファーをカラムに添加して、非結合細胞をカラムから(例えば、出口ポートを通して)洗浄する。できるだけ多くの非結合細胞を除去するために1回以上の洗浄工程を実施する。次に、ヒドロゲルマイクロビーズを溶解するために液状化バッファーを添加する。液状化バッファーは、カラム内のイオン濃度を変化させることによってヒドロゲルマイクロビーズを溶解するように構成された任意の生体適合性溶液であり得る。具体的には、溶出バッファーは、カルシウムイオンをキレートするために適切な濃度のEDTAを含有する緩衝生理食塩水(例えば、PBS)であり得る。それによってマイクロビーズのアルギネートマトリックスを脱架橋する。
【0093】
実施例2
PBMC及び全血等の複雑な環境からの単一又は複数の標的細胞の分離は、以下の順の工程で説明される。1.細胞を標的特異的抗体で標識する。2.アルギネートヒドロゲルマイクロビーズを抗体標識細胞に結合させる。3.マイクロビーズ及び細胞の複合体を、カラム、ストレーナー又は遠心分離装置等の装置フォーマットに添加し、細胞分離工程(例えば、サンプルローディング、洗浄、及び溶出)を実施する。
【0094】
標的細胞に対する特異的な抗体標識
例えば、100万、500万、又は1000万個のPBMC又は他の細胞集団の開始集団を、標的細胞選択のための特異的抗体とともに室温又は4℃でインキュベートすることができる。
【0095】
抗体-細胞と結合したアルギネートヒドロゲルマイクロビーズ
非結合抗体を除去後、50又は100μLのストレプトアビジン結合アルギネートヒドロゲルマイクロビーズを1x細胞分離バッファー中で抗体標識細胞と混合し、その後混合物を室温で1時間振盪することができる。細胞分離バッファーは、キレート化剤を含有するpH7.4緩衝塩溶液である。この溶液は、25mM HEPES、137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM CaCl2、及び0.5%w/vウシ血清アルブミンを含む。
【0096】
細胞分離プロセス
細胞分離プロセスは、以下のようにカラムベースの装置を介して行うことができる(図4A)。a)1mLの1x細胞分離バッファーを添加して、10~100μmのポアサイズ範囲を有するメッシュを有するカラムを平衡化する。b)ストレプトアビジン結合アルギネートヒドロゲルマイクロビーズ-抗体-細胞複合体をカラムにロードし、流れた非結合細胞を収集する。c)1x細胞分離バッファーを用いてカラムを洗浄し、全てのサンプルを洗浄工程から回収する。さらに、d)1x細胞放出バッファーを添加することにより5分間粒子を溶解し、さらなる用途のために、この溶出工程から全ての結合細胞を収集する。上記細胞放出バッファーは、キレート化剤を含むpH7.4塩溶液である。この溶液は、25mM HEPES、137mM NaCl、2.7mM KCl、2mM EDTA、及び0.5%w/vウシ血清アルブミンを含む。
【0097】
細胞分離プロセスは、以下のようにストレーナーベースの装置を介して行うこともできる(図4B)。a)10~100μmのメッシュポアサイズのストレーナーを50mLの遠心チューブに取り付け、1x細胞分離バッファー1mLを加えてストレーナーを平衡化する。b)ストレプトアビジン結合アルギネートヒドロゲルマイクロビーズ-抗体-細胞複合体をストレーナー上に注ぐ。非結合細胞は、ストレーナーを通って遠心チューブに入り、ビーズ結合標的細胞はストレーナー上に残る。c)1x細胞分離バッファーを添加することによってストレーナーを十分に洗浄し、ビーズに結合した標的細胞をストレーナー上に残す。d)ストレーナーを逆にして新しい50mL遠心チューブに取り付け、ビーズを完全に溶解させるのに十分な1x細胞放出バッファーをストレーナーに加える。ここで、さらなる使用のための、チューブ中の放出された精製標的細胞の準備が整う。
【0098】
分離実験のために使用されるヒドロゲル粒子のために、標的細胞から非標的細胞を分離するためにバリアが必要である。ポジティブセレクションでは、非標的細胞は洗い流され及び/又は落下して廃棄される。続いてキレート化剤及び/又は溶出バッファーの添加で粒子を溶解し、標的細胞が放出され、収集のために多孔性バリアを通過する。多孔性バリアを通って細胞を移動させるために、重力駆動流が用いられるが、他の方法を使用することもできる。他の方法は、例えば、遠心分離、ガス圧、又はフルイディクスを含む。
【0099】
実施例3
カルシウムイオンを用いてアルギン酸ナトリウムを4アームPEGアミンに化学的に架橋させてヒドロゲルマイクロビーズを形成させ、続いてストレプトアビジンで官能化した。以下の成分の量及び比率の両方を変化させることにより、ヒドロゲルの種々の配合物が調製可能であった。この量及び比率の変動は、得られたヒドロゲルマイクロビーズの粘度、粘弾性及び粒子サイズに影響を与えた。ヒドロゲルマイクロビーズは、2つの一次粒子生成方法を使用して、広範囲のサイズのものが製造された。第1の方法は、噴霧装置(本明細書に記載されるような)を使用し、第2の方法は、市販のNisco VAR J30エンカプスレーターシステムを使用する空気力学的に補助されるジェットスプレーを使用した。表1は、本発明の様々な基材の成分を提供する。表2は、本発明の様々な基材の形成のための例示的なパラメータを提供する。100mM CaCl2を含む1Lの70%イソプロピルアルコールの硬化溶液を、表2に要約したプロセスで使用した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
ストレプトアビジンをヒドロゲルマイクロビーズに結合させる前に、PEG4-SPDPの添加により、噴霧されていないヒドロゲル又はヒドロゲルマイクロビーズへのチオール基の付加を最初に行った。100mgのPEG4-SPDPを20mM CaCl2(pH7.4)を含むHEPES緩衝生理食塩水中のヒドロゲル又はヒドロゲル粒子溶液のいずれか30mLに加え、混合物を室温で2時間(又は一晩)振盪して、チオール-ヒドロゲル又はチオール-ヒドロゲルマイクロビーズを生成した。次に、114mgのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP-HCl)を20mLのチオール-ヒドロゲルマイクロビーズ溶液に2時間加えて、還元チオール基を生成させた。スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(Sulfo-SMCC)を用いてストレプトアビジンマレイミド活性化を行った。9.6mgのSulfo-SMCCを、20mLの1xPBS緩衝液中の200mgのストレプトアビジンと混合し、混合物を室温で30分間振盪して、マレイミド活性化ストレプトアビジンを生成した。20mM CaCl2(pH7.4)を含むHEPES緩衝生理食塩水でバッファー交換をした後、約250mgの還元チオール粒子を20mM CaCl2 pH7.4を含む20mL HEPES緩衝食塩水中の200mgマレイミド活性化ストレプトアビジンと混合し、混合物を室温で2時間(又は一晩)振盪して、ストレプトアビジン結合ヒドロゲルマイクロビーズを生成した。最終的なストレプトアビジン結合ヒドロゲルマイクロビーズを、20mM CaCl2及び0.09%(w/v)アジ化ナトリウム(pH7.4)を含むHEPES緩衝生理食塩水中で4℃で保存した。
【0103】
実施例4
この実施例では、標的細胞群を捕捉し、放出した。例えば、CD34+Kg1A細胞を捕捉し、放出した。CD4+T細胞はPBMCから直接捕捉されている。CD4+及びCD8+T細胞は、CD3+T細胞集団から分離されている。この実施例の開始実験条件の要約を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
以前に概説した分離手順に従って、カラムベース及び細胞ストレーナーベースの装置の両方を通して、ストレプトアビジン結合ヒドロゲルマイクロビーズを用いたビオチン化抗ヒトCD34抗体(クローン581)を介したKg1A細胞(急性骨髄性白血病)の捕捉及び放出は、92%の高い細胞取り込み率及び86%の高い細胞回収率の結果をもたらした。これは図6A~6Bのヒストグラムプロットに示されている。これは、本発明のストレプトアビジン結合ヒドロゲル粒子の高い感度及び高い結合効率を有効に実証する。
【0106】
アルギネートヒドロゲルマイクロビーズ及びストレーナーベースの装置を、マイクロビーズに結合したビオチン化抗ヒトCD4抗体(クローンRPA-T4)を用いたCD4+T細胞の単離及び精製に使用した。これにより、最初のPBMCサンプル中の所望のCD4+T細胞の優れた捕捉結果をもたらした。この実験の結果を図7A~7Cに示しており、フローサイトメトリーデータは96.3%の高純度の細胞単離を示している。これらの細胞は、分離後、元のPBMCサンプルよりも高い生存率(99.2%)を有することが判明した。その後のビオチニル化抗CD8抗体(クローンRPA-T8)を用いたCD8+T細胞を単離及び精製することを目的とした実験は、CD3+Tリンパ球の均質な集団から出発して、分離後に98%の高純度及び97%の高い生存率をもたらした。この実験の結果を図8A~8Cに示す。
【0107】
提供された実施例では、本発明の装置を使用して、分離した細胞の純度及び生存率を証明し、細胞分離の効率を評価するためのフローサイトメトリー分析によって示された細胞生存能力及び機能の完全な保持とともに、高純度の細胞分離が達成された。上記で得られた全ての結果は、本発明のヒドロゲルマイクロビーズの高効率及び高選択性を示し、異なるスケールでの細胞分離に対する革新的かつより効果的なアプローチをもたらす。
【0108】
他の実施形態は特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4A-4B】
図5
図6A-6B】
図7A-7C】
図8A-8C】